特許第6889570号(P6889570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東日本環境アクセスの特許一覧 ▶ ジェイアール東日本コンサルタンツ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6889570-嘔吐物処理剤 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6889570
(24)【登録日】2021年5月25日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】嘔吐物処理剤
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/04 20120101AFI20210607BHJP
   C08L 97/02 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   D04H1/04
   C08L97/02
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-32509(P2017-32509)
(22)【出願日】2017年2月23日
(65)【公開番号】特開2018-135621(P2018-135621A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2020年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】597108305
【氏名又は名称】株式会社JR東日本環境アクセス
(73)【特許権者】
【識別番号】592145268
【氏名又は名称】JR東日本コンサルタンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中尾 清孝
(72)【発明者】
【氏名】志摩 修治
(72)【発明者】
【氏名】槇 浩幸
【審査官】 櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−355660(JP,A)
【文献】 特開平06−154794(JP,A)
【文献】 特開2004−027428(JP,A)
【文献】 特開2006−000782(JP,A)
【文献】 特開2002−363852(JP,A)
【文献】 特開2016−028816(JP,A)
【文献】 特開2008−156791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性を有する有機短繊維の交絡体であって、縦横比が2を超える柱状の粒子形状に造粒された長粒子の第一粒子群と、縦横比が1以上1.25以下の粒子形状に造粒された短粒子の第二粒子群と、が混合されており、吸水性ポリマーを実質的に含有していないことを特徴とする嘔吐物処理剤。
【請求項2】
前記長粒子および前記短粒子の直径が5mm以下である請求項1に記載の嘔吐物処理剤。
【請求項3】
前記有機短繊維が紙繊維であり、多数の紙繊維の先端が粒子表面より立毛している請求項1または2に記載の嘔吐物処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嘔吐物を固形化して容易に除去するための嘔吐物処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
体調不良や泥酔などを原因として胃の内容物を経口的に吐き出す嘔吐が行われた場合、感染防止や不潔、臭いの除去などのため嘔吐物を早期に清掃することが求められる。従来の嘔吐物処理法としては、嘔吐物に多量のおが屑を撒いて水分を吸収させたうえで、おが屑とともに嘔吐物を箒で清掃することが一般的であった。
【0003】
しかしながら、おが屑は風で飛散しやすいため取り扱い性が悪く、またおが屑は吸水性が低いため嘔吐物は十分に固形化されずに清掃の作業性が悪く、更にタイルやアスファルトなどの床面の目地に侵入した嘔吐物を除去することは困難であった。このため、箒で清掃した後に水で洗浄しなければ目地から嘔吐物を除去することができず、嘔吐物の処理に多くの時間を要していた。
【0004】
そこで、これまで幾つかの嘔吐物処理剤の発明が提案されている。特許文献1には、高吸水性高分子粉末と高吸油性高分子粉末の混合物からなる、嘔吐物の液分を吸収し固化する組成物が記載されている。高吸水性高分子粉末としては、ポリアクリル酸塩系重合体やイソプロピルアクリルアミド共重合体などが例示されている。かかる組成物によれば、嘔吐物上に散布することで液状や泥状の嘔吐物から液体分を吸収して固化させることができるとされている。
【0005】
特許文献2には、高吸水性高分子粉末とケイ酸マグネシウム粉末とからなる、嘔吐物の液分を吸収し固化する組成物が記載されている。高吸水性高分子粉末としては、特許文献1と同種の材料が例示されている。
【0006】
特許文献3には、亜塩素酸塩を第一成分とし、ケイ酸塩を含む酸化剤および炭酸塩の混合物を第二成分とし、高吸水性ポリマーを第三成分とする嘔吐物処理剤が記載されている。高吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸ナトリウム共重合体やポリスルホン酸塩系ポリマーなどが例示されている。
【0007】
特許文献1から3の処理剤は、嘔吐物の水分を高吸水性高分子(ポリマー)で吸収して流動性を除去するものである。嘔吐物に処理剤を撒いて嘔吐物を固形化することで、箒による嘔吐物の除去が容易になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−79197号公報
【特許文献2】特開2014−226664号公報
【特許文献3】特開2015−205234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、嘔吐物処理にあたっては、嘔吐物の塊部分のみを単に除去すればよいというものではない。例えば鉄道駅のプラットホームで嘔吐物が吐瀉された場合、タイルやアスファルトなどの床面の目地に侵入した嘔吐物も除去しなければ通行者に不快感を与える。また、高吸水性高分子の粉末は水分を吸収すると透明なゲル状になり、処理剤から剥がれ落ちて床面にこびり付く。このため、嘔吐物が除去されても、この吸水したゲルがプラットホームに残っていると、べとついたり通行者が足を滑らせたりする虞がある。
【0010】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、タイルやアスファルトなどの床面に嘔吐物が吐瀉された場合であっても綺麗にかつ迅速に嘔吐物を除去することが可能な嘔吐物処理剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の嘔吐物処理剤は、吸水性を有する有機短繊維の交絡体であって、縦横比が2を超える柱状の粒子形状に造粒された長粒子の第一粒子群と、縦横比が1以上1.25以下の粒子形状に造粒された短粒子の第二粒子群と、が混合されており、吸水性ポリマーを実質的に含有していないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の嘔吐物処理剤は吸水性ポリマーを含有していないため、嘔吐物の水分を吸収したとしてもゲルが発生することがない。そして本発明は粒子形状が柱状であるため転がりにくく、地上駅のプラットホームなど風が吹く床面に散布した場合でも飛散することが抑制されている。更に本発明の嘔吐物処理剤は有機短繊維の交絡体で構成されており、有機短繊維自体が吸水性を有することに加えて交絡体が有する毛管力によって粒子内部に水分を迅速に取り込むため、吸水性ポリマーを含有せずとも高い吸水性を有している。このため、床面の目地に詰まった嘔吐物からでも水分を粒子内部に良好に吸収することができ、更に隣接する粒子間で水分が受け渡されるため、嘔吐物の表面に直接に接していない粒子においても吸水力が発揮される。そして本発明の嘔吐物処理剤は吸水性ポリマーを含有していないため、水分を吸収された嘔吐物が嘔吐物処理剤に吸着されやすく剥がれ落ちにくいため、嘔吐物を嘔吐物処理剤とともに箒などで良好に清掃除去することができる。
【0013】
以上より本発明の嘔吐物処理剤によれば、タイルやアスファルトなどの床面に嘔吐物が吐瀉された場合であっても処理後の床面に残る跡を軽減して床面を綺麗に清掃することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)および(b)は本発明の実施形態にかかる嘔吐物処理剤を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1(a)は実施形態にかかる嘔吐物処理剤(処理剤)10を示す模式図である。図1(b)は他の処理剤10の外形形状を示す模式図である。図1(a)においては紙繊維12を図示するが、図1(b)においてはこれを図示省略している。
【0016】
はじめに本実施形態の概要を説明する。
本実施形態の処理剤10は有機短繊維の交絡体であり、柱状の粒子形状に造粒されている。そして処理剤10は吸水性ポリマーを実質的に含有していないことを特徴とする。処理剤10が吸水性ポリマーを実質的に含有していないとは、自重の数十倍以上の水を保水して膨潤する樹脂材料が、処理剤10にまったく含有されていないか、または処理剤10において有機短繊維に添加される添加剤(後述する結合剤、着色剤および消臭剤)の添加量よりも有意に少ないことをいう。
【0017】
次に、本実施形態の処理剤10について詳細に説明する。
処理剤10は柱状、より具体的には略円柱状の粒子形状をなしている。このほか角丸の四角柱状でもよい。処理剤10は直線的な粒子形状でもよく、僅かに屈曲したものでもよい。処理剤10が粉体状ではなく粒子形状であることで、風によって処理剤10が飛散することが抑制される。
【0018】
処理剤10の粒子形状の直径Dは2mm以上が好ましく、5mm以下が好ましい。また、処理剤10の粒子形状の長さ寸法Lは5mm以上が好ましく、15mm以下が好ましい。すなわち多数の粒子で構成される処理剤10の少なくとも一部の粒子の直径Dおよび長さ寸法Lが上記範囲であることが好ましく、また粒子の過半数が上記の直径Dおよび長さ寸法Lであることが好ましい。処理剤10の直径Dが過小であると風により処理剤10が飛散しやすくなり、一方で直径Dが過大であると嘔吐物を固形化するのに要する処理剤10の消費量が過大となる。
図1(a)および図1(b)に示すように、処理剤10の粒子を挟む対向平面間隔の最大値が当該粒子の長さ寸法Lである。そして処理剤10の直径Dとは、粒子の長さ寸法Lの延在方向(図1(a)および図1(b)における左右方向)に対する直交方向の寸法である。処理剤10の1個の粒子について長さ方向の中間部分の数箇所において直径Dを測定してその平均を求め、更に多数個の粒子に対して同様に直径Dの平均を求めたうえで平均値を算出し、この平均値を処理剤10の直径Dとするとよい。
【0019】
処理剤10の粒子形状の縦横比は2を超えることが好ましく、すなわち処理剤10は比較的長い粒子であることが好ましい。処理剤10の縦横比とは、粒子の長さ寸法Lを直径Dで除した値である。処理剤10の縦横比は、上記のように2を超えることが好ましく、3を超えることがより好ましい。
【0020】
処理剤10が略円形や略立方体ではなく、縦横比が2を超える柱状であることで、嘔吐物に散布する際に、そして散布された後に風が吹いても、処理剤10が転がって飛散することが好適に抑制される。このため、従来のおが屑や粉体状の嘔吐物処理剤と比べて撒きやすく取り扱い性に優れる。
【0021】
処理剤10は、多数の粒子の集合物として袋詰めにして提供される。処理剤10は、上記のように縦横比が2を超える長粒子と、縦横比が1.25以下の短粒子とが混合されていてもよい。そして処理剤10を構成する多数の粒子の全数が、長粒子の第一粒子群と短粒子の第二粒子群とのいずれかに区分可能な混合物であってもよい。長粒子の第一粒子群の縦横比の平均値は2を超え、短粒子の第二粒子群の縦横比の平均値は1以上1.25以下である。長粒子の第一粒子群は転動性が低いため嘔吐物に対して留まって水分を吸水し、短粒子の第二粒子群は転動性が高いため嘔吐物に対して処理剤10を撒布するだけで嘔吐物の全体に広がりやすい。このため、処理剤10が長粒子と短粒子の混合物であることで、嘔吐物の隅々まで迅速に水分を除去して固形化することができる。
【0022】
図1(b)に示すように、処理剤10は表面に複数個の突起部14を有していてもよく、更に凹溝部16を有していてもよい。突起部14や凹溝部16を有する形状に処理剤10を成形することで処理剤10の転動性が更に抑制され、また粒子個々の表面積が増大して吸水速度が向上する。突起部14や凹溝部16は、例えば後述する押出成形機のリップ形状の選択により形成することができる。
【0023】
処理剤10は有機短繊維の交絡体で構成されている。有機短繊維は天然物由来のものが好ましい。短繊維であるとは、処理剤10を構成する有機繊維の略全本数の長さが、処理剤10の長さ寸法Lと同程度またはそれ以下であることを意味する。有機短繊維としては、木材パルプ廃材を破砕したパルプ繊維のほか、古紙や紙オムツなどの紙製品を破砕した紙繊維を用いることができる。特に本実施形態の処理剤10を構成する有機短繊維は紙繊維であり、そして多数の紙繊維12の先端が処理剤10の粒子表面より立毛している(図1(a)参照)。上述したように処理剤10は吸水性ポリマーを実質的に含有していないことにより、処理剤10の表面は吸水性ポリマーや後述する結合剤によってコーティングされず、紙繊維12の先端が良好に立毛する。そしてこのように紙繊維12の先端が立毛していることで処理剤10の表面積が拡大するとともに、床面の目地に入り込んだ嘔吐剤に対しても紙繊維12が良好に接触して水分を吸い上げることができる。
【0024】
また、本実施形態の処理剤10は不透明であり、また個々の粒子が柱状で所定の投影面積を有していることから、嘔吐物の表面に処理剤10を撒布することで直ちに嘔吐物を掩蔽することができる。そして掩蔽された嘔吐物から水分が処理剤10に吸収されるに伴って処理剤10の粒子が膨潤して拡大するため、嘔吐物は掩蔽されたまま硬化して処理剤10に吸着される。この状態のまま処理剤10とともに嘔吐物を箒で清掃すれば嘔吐物が外部から目視されることなく除去されることとなる。
【0025】
本実施形態の処理剤10は、原料となる紙繊維に水および結合剤を添加して混練し、これを加圧状態で押出成型機のリップから棒状(柱状)に押出成形しながら所定長さの粒子形状に破断し、そして乾燥させることにより作成される。原料となる紙繊維は、各種の紙製品を洗浄および粉砕し、更に脱色処理等の後処理工程を施して得ることができる。
【0026】
結合剤としては、コーンスターチなどの澱粉のほか、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの増粘剤を用いることができる。結合剤は紙繊維同士を結着させて造粒するためのバインダーとなる。水は紙繊維に対して3〜15質量%の比率で添加するとよい。結合剤も同様に、紙繊維の質量に対して3〜15質量%の比率で添加するとよい。
【0027】
処理剤10の任意成分として、着色剤や消臭剤を添加してもよい。消臭剤としては炭、茶殻、コーヒーの豆殻、ヒノキ等の木材などに例示される天然物多孔質材料を粉末にしたものを用いることができる。処理剤10は、吸水性を向上するため、撥水性の材料を実質的に含まないことが好ましい。
【0028】
本実施形態の処理剤10によれば、これを嘔吐物の上に撒布すると、紙繊維が嘔吐物の水分を吸収する。処理剤10を構成する紙繊維は水分を吸収し、処理剤10の粒子は膨潤して拡大する。このため処理剤10は嘔吐物の全体を覆い隠し、臭いの飛散も抑制する。そして処理剤10が嘔吐物の水分を吸収することで、嘔吐物の固形成分は処理剤10の表面に吸着される。また処理剤10に突起部14や凹溝部16があると、嘔吐物の固形成分と処理剤10とが良好に絡まる。そして本実施形態の処理剤10によれば、嘔吐物が固形化したところで箒などにより処理剤10とともに嘔吐物を清掃除去することができる。嘔吐物は固形化しているため、ちりとりにも嘔吐物が付着しにくく、後処理が容易である。
【0029】
一方、嘔吐物処理剤としておが屑を用いた場合、吸水性が低いため嘔吐物の固形化は不十分である。このため、半固形状態の嘔吐物をおが屑とともに箒で清掃する必要があり床面の目地部分の嘔吐物を除去することが困難であるほか、処理後に床面に嘔吐物の痕が残りやすい。
【0030】
嘔吐物処理剤(処理剤10)の上記の効果を、48名のモニター試験者による実際の嘔吐物処理の試験により実証した。具体的には、おが屑を処理剤とした場合と対比する形で、本実施形態の嘔吐物処理剤のメリットとデメリットを対比した。下記にて、評価観点ごとに(本実施形態の嘔吐物処理剤の方が優れていたと回答した人数、おが屑の方が優れていたと回答した人数)を列挙する。
持ち運びやすい(23,6)
重さが軽い(24,10)
嘔吐物をまとめやすい(28,15)
目地部分の嘔吐物も除去しやすい(31,8)
処理後の痕が残りにくい(29,12)
以上の結果より、本実施形態の処理剤10は多数の観点でおが屑に対して勝っており、特に目地部分の嘔吐物の除去性能において大きな優位性を持っていることが分かった。また、上述した特許文献1から3のように吸水性ポリマーを含有する処理剤と比較した場合、本実施形態の嘔吐物処理剤では吸水したポリマーがゲル状になって床面に付着することも無いことから、床面の水洗浄も不要であり、嘔吐物をより迅速に除去可能であるといえる。
【0031】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)有機短繊維の交絡体であって、柱状の粒子形状に造粒されており、吸水性ポリマーを実質的に含有していないことを特徴とする嘔吐物処理剤。
(2)前記粒子形状の直径が5mm以下であり、かつ縦横比が2を超える上記(1)に記載の嘔吐物処理剤。
(3)前記有機短繊維が紙繊維であり、多数の紙繊維の先端が粒子表面より立毛している上記(1)または(2)に記載の嘔吐物処理剤。
(4)複数個の突起部を有する上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の嘔吐物処理剤。
(5)凹溝部を有する上記(1)から(4)のいずれか一項に記載の嘔吐物処理剤。
(6)縦横比が2を超える長粒子と、縦横比が1.25以下の短粒子とが混合されている上記(2)に記載の嘔吐物処理剤。
【符号の説明】
【0032】
10 処理剤
12 紙繊維
14 突起部
16 凹溝部
D 直径
L 長さ寸法
図1