(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6889575
(24)【登録日】2021年5月25日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】酸化セリウムナノ粒子、その製造方法、分散体および樹脂複合体
(51)【国際特許分類】
C01F 17/235 20200101AFI20210607BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20210607BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
C01F17/235
C08L101/00
C08K9/04
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-42448(P2017-42448)
(22)【出願日】2017年3月7日
(65)【公開番号】特開2018-145057(P2018-145057A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219912
【氏名又は名称】東京インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】戸田 明宏
【審査官】
神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−236110(JP,A)
【文献】
特表2010−502559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 17/235
C08K 9/04
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基不含有カルボン酸の金属塩および水酸基含有カルボン酸の金属塩をアンモニア水に溶解する工程と、
その得られた溶液に硝酸二アンモニウムセリウムの水溶液を添加する工程と、
その得られた混合物を水熱反応に供する工程と、
を含むことを特徴とする酸化セリウムナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記水酸基不含有カルボン酸が脂肪族モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸であることを特徴とする請求項1記載の酸化セリウムナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記水酸基不含有カルボン酸の炭素数が3以上22以下であることを特徴とする請求項1または2記載の酸化セリウムナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記水酸基含有カルボン酸が水酸基含有脂肪族モノカルボン酸であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の酸化セリウムナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記水酸基含有カルボン酸の炭素数が6以上22以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の酸化セリウムナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかの製造方法で得られた酸化セリウムナノ粒子を、有機溶媒、モノマーおよび重合性オリゴマーから選ばれた少なくとも一つを含有する分散媒中に分散させることを特徴とする酸化セリウムナノ粒子分散体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかの製造方法で得られた酸化セリウムナノ粒子を、モノマーおよび重合性オリゴマーから選ばれた少なくとも一つを含有する分散媒中に分散させる工程と、
得られた分散体を重合させる工程と、
を含むことを特徴とする酸化セリウムナノ粒子分散樹脂複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化セリウムナノ粒子、その製造方法、酸化セリウムナノ粒子の分散体および樹脂複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属酸化物のナノ粒子は、光学材料、電子部品材料、磁気記録材料、触媒材料、紫外線や近赤外吸収材料など様々な材料の高機能化や高性能化に寄与するものとして非常に注目されている。
【0003】
これらの金属酸化物の中で酸化セリウムは、ガラス基板、アルミナ基板等の研磨材、紫外線吸収剤、酸化触媒等として有用で、そのナノ粒子についても種々検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、粒子成長調整剤の存在下でセリウム水酸化物ゲルの分散液を調製する工程を含む酸化セリウムゾルの製造方法が提案されているが、その実施例によると得られた酸化セリウムナノ粒子は、実施例1で平均粒子径22nm 、結晶子径18.5nm、実施例2では平均粒子径50nm、結晶子径33nmと、ナノ粒子としては比較的大きな粒径のものしか得られていないうえ、そのゾルは水中におけるもので有機溶媒、モノマー等における分散性については一切記載がない。 なお、特許文献1では、粒子成長調整剤としてカルボン酸またはカルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸塩が用いられ、具体的には、蟻酸、酢酸、蓚酸、アクリル酸(不飽和カルボン酸)、グルコン酸等のモノカルボン酸およびモノカルボン酸塩、リンゴ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、などの多価カルボン酸および多価カルボン酸塩等、α−乳酸、β−乳酸、γ−ヒドロキシ吉草酸、グリセリン酸、酒石酸、クエン酸、トロパ酸、ベンジル酸のヒドロキシカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸塩が例示されている。
【0005】
そこで、特許文献2には、有機溶媒にも分散する酸化セリウムナノ粒子の製造方法として、セリウム−界面活性剤錯化合物を生成する工程を含む製造方法が提案され、その界面活性剤として「オレイン酸、カプリル酸、デカン酸、ステアリン酸、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)、トリフェニルホスフィン(TPP)、トリオクチルホスフィン(TOP)、及びオレイルアミン、オクチルアミン、ヘキサデシルアミン、トリアルキルアミンのようなアルキルアミン(RNH2)(式中、Rは3乃至18個の炭素からなるアルキル基)の群から選択されるいずれか一つまたはそれらの混合物」が挙げられている。 しかしながら、実施例によるとこの方法で得られた酸化セリウムナノ粒子をトルエン、ヘキサンおよびオクタンなどの有機溶媒に分散させたと記載されているのみで、これら以外の極性の高い溶媒やモノマー中での分散性については記載がない。
【0006】
また、特許文献3には、「約20℃以下の初期温度で、第一セリウムイオン源、水酸化物イオン源、ナノ粒子安定剤の少なくとも1つ、及び酸化剤を含む水性反応混合物を提供する工程」を含む二酸化セリウムナノ粒子の製造方法が提案され、ナノ粒子安定剤として、アルコキシ置換カルボン酸、またはα−ヒドロキシカルボン酸、α−ケトカルボン酸、ポリカルボン酸及びその混合物からなる群から選択されるもの、またはエチレンジアミン四酢酸、グルコン酸、乳酸、酒石酸、ピルビン酸、クエン酸、及びその混合物からなる群から選択されるもの、が挙げられている。 しかしながら、その用途が主としてディーゼル燃料添加剤であるため、ディーゼル燃料を含む非極性溶媒には分散すると考えられるが、極性の高い溶媒等への分散性については記載がない。
【0007】
さらに、非特許文献1には、アンモニア水中でのセリウム−オレイン酸コンプレックスのhydrolytic condensationによる酸化セリウムナノ粒子の製造方法が提案され、得られた酸化セリウムナノ粒子は、surface oleate ligand(表面配位したオレイン酸残基)の疎水性により非極性溶媒に分散するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−182604号公報
【特許文献2】特開2009−511403号公報
【特許文献3】特表2010−502559号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Crystal Growth & Design 2008, Vol.8, No.10, 3725−3730
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上の従来技術では、これらの酸化セリウムナノ粒子は、水または非極性溶媒には分散するがエステル系、アルコール系といった極性溶媒に分散するとはされていないことから、トルエン等の非極性溶媒から、酢酸エチル、2−プロパノール等の極性溶媒まで幅広く分散する酸化セリウムナノ粒子が求められている。
【0011】
従って、本発明は、極性から非極性まで幅広い範囲の溶媒、モノマー等への分散性に優れた酸化セリウムナノ粒子、その製造方法、その分散体および樹脂複合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討した結果、水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸で表面処理した酸化セリウムナノ粒子が、極性から非極性まで幅広い範囲の溶媒、モノマー等に優れた分散性を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)水酸基不含有カルボン酸
の金属塩および水酸基含有カルボン酸
の金属塩をアンモニア水に溶解する工程と、
その得られた溶液に硝酸二アンモニウムセリウムの水溶液を添加する工程と、
その得られた混合物を水熱反応に供する工程と、
を含むことを特徴とする酸化セリウムナノ粒子
の製造方法、
(2)前記水酸基不含有カルボン酸が脂肪族モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸であることを特徴とする(1)記載の酸化セリウムナノ粒子
の製造方法、
(3)前記水酸基不含有カルボン酸の炭素数が3以上22以下であることを特徴とする(1)または(2)記載の酸化セリウムナノ粒子
の製造方法、
(4)前記水酸基含有カルボン酸が水酸基含有脂肪族モノカルボン酸であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の酸化セリウムナノ粒子
の製造方法、
(5)前記水酸基含有カルボン酸の炭素数が6以上22以下であることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の酸化セリウムナノ粒子
の製造方法、
(6)(1)から(5)のいずれか
の製造方法で得られた酸化セリウムナノ粒子を、有機溶媒、モノマーおよび重合性オリゴマーから選ばれた少なくとも一つを含有する分散媒中に分散
させることを特徴とする酸化セリウムナノ粒子分散体
の製造方法、
(7)(1)から(5)のいずれか
の製造方法で得られた酸化セリウムナノ粒子を、
モノマーおよび重合性オリゴマーから選ばれた少なくとも一つを含有する分散媒中に分散させる工程と、
得られた分散体を重合させる工程と、
を含むことを特徴とする
酸化セリウムナノ粒子分散樹脂複合体
の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の酸化セリウムナノ粒子は、分散剤を用いなくても、非極性溶媒から極性溶媒にまで広範囲の有機溶媒、モノマーおよび重合性オリゴマー、更には樹脂への分散性に優れる。 従って、この酸化セリウムナノ粒子をモノマーや重合性オリゴマーに分散させて重合させたり、樹脂中に直接分散させることによって、紫外線吸収力を有し、かつ高屈折率で透明な材料を得ることができる。 また、環境汚染物質を減少させたり、燃焼性を改良するといった燃料添加剤にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の酸化セリウムナノ粒子の透過型電子顕微鏡による観察結果である。
【
図2】本発明の酸化セリウムナノ粒子トルエン分散液の紫外−可視光吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。 なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0017】
本発明の酸化セリウムナノ粒子は、水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸で表面処理されていることを特徴とする。
【0018】
本発明で用いる水酸基不含有カルボン酸としては、水酸基を含有しない脂肪族および芳香族のモノカルボン酸が挙げられ、脂肪族であれば、飽和、不飽和を問わず、枝分かれまたはフェニル基等の芳香族置換基を有してもよい炭素数が3から22のモノカルボン酸であり、有機溶媒、モノマー等への分散性を考慮するとその炭素数は6から22が好ましい。 より具体的には、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、オクチル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ネオデカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘネイコサン酸、ドコサン酸等の飽和モノカルボン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、魚油を鹸化分解して得られる脂肪酸等の不飽和脂肪酸およびそれらの幾何異性体、並びに、3−フェニルプロピオン酸、桂皮酸等が例示される。 また、水酸基不含有芳香族モノカルボン酸は、芳香環にカルボン酸残基が直接結合しているモノカルボン酸で、安息香酸、トルイル酸等が例示される。
【0019】
本発明で用いる水酸基含有カルボン酸としては、飽和、不飽和を問わず、枝分かれまたはフェニル基等の芳香族置換基を有してもよい炭素数が6から22の水酸基含有脂肪族モノカルボン酸が好ましく、具体的には、メバロン酸、パントイン酸、2−ヒドロキシデカン酸、3−ヒドロキシヘキサン酸、2−ヒドロキシステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸等が例示される。
【0020】
前記水酸基不含有カルボン酸、特に、脂肪族カルボン酸または芳香族カルボン酸は、酸化セリウムナノ粒子表面に疎水性を与え、その有機溶媒等中での分散安定性に寄与する。 また、前記水酸基含有カルボン酸の水酸基は、分散媒がカルボニル基または水酸基を有する有機溶媒、モノマーまたは重合性オリゴマーである場合に、そのカルボニル基または水酸基との水素結合により分散体の安定性に寄与するものと考えられる。
【0021】
本発明の酸化セリウムナノ粒子は、前記水酸基不含有カルボン酸の金属塩および前記水酸基含有カルボン酸の金属塩をアンモニア水に溶解し、これに硝酸二アンモニウムセリウムの水溶液を添加した後、得られた混合物を水熱反応に供することによって製造される。
【0022】
この水熱反応は、密閉容器中で120〜240℃、好ましくは150〜200℃で行われる。 120℃未満では反応が遅いため(反応時間が24時間を超える場合がある)実際的ではなく、200℃を超えると装置が大掛かりなものとなる。
【0023】
水熱反応後、定法により精製して本発明の酸化セリウムナノ粒子を得ることができる。 例えば、反応液の上澄み液除去、濾過と溶媒洗浄、または溶媒中での超音波洗浄と遠心分離により精製し、乾燥することによって、黄色粉末として本発明の酸化セリウムナノ粒子を得ることができる。
【0024】
このようにして得られた酸化セリウムナノ粒子は、粒子径が数nm〜数10nmの単分散したものとなるが、その平均粒子径は1〜20nmが好ましく、分散体の透明性を考慮すると1〜10nmがより好ましい。
なお、本発明において、平均粒子径は、粉末X 線回折データから結晶子サイズをScherrer式により求め、その値と同等であるとした。
図1には、後記実施例4の透過電子顕微鏡での観察結果を示しているが、全ての粒子が10nm以下で凝集も見られない。 実際、実施例4において透過電子顕微鏡の観察から無作為に100個の粒子を選び、その長径と短径の二軸平均値から求めた値の平均値と前述の結晶子サイズとを比較すると、前者では4.5nm、後者では3.9nmと、ほぼ同等の数値が得られている。
【0025】
また、水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸による表面処理量は、得られた酸化セリウムナノ粒子に対して5質量%以上30質量%以下である。 5質量%未満では有機溶媒、モノマー等への分散性が不十分で、30質量%を超えると屈折率低下が著しくなるため好ましくない。 ここで、水酸基不含有カルボン酸および水酸基含有カルボン酸による表面処理量は、窒素雰囲気下40℃/分の速度で900℃まで昇温したときの質量減少率とした。
【0026】
本発明の酸化セリウムナノ粒子は、その表面が適度に疎水化され、凝集しにくいため、有機溶媒、モノマー、樹脂等への分散性に優れている。 従って、例えば超音波ホモジナイザーを用いることにより有機溶媒中に容易に均一分散させることができるばかりでなく、モノマーや重合性オリゴマーに分散させてから重合させたり、樹脂に分散させたりすることによって酸化セリウムナノ粒子が樹脂中に微分散した樹脂複合体を得ることができる。 なお、本発明の酸化セリウムナノ粒子分散体および樹脂複合体には、その目的に応じて酸化防止剤、離型剤、重合開始剤、染顔料、分散剤等を含有してもよい。
【0027】
前記の有機溶媒としては、例えば、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、オクタノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類が好適に用いられ、これらの溶媒のうち1 種または2 種以上を用いることができる。
【0028】
前記のモノマーおよび重合性オリゴマーとしては、ラジカル重合性、縮重合性、開環重合性等のいずれであっても使用できる。 例えば、ラジカル重合性のモノマーとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル系モノマー、グリシジル基、イソシアネート基、ビニルエーテル基等の反応性官能基を持つ(メタ)アクリル系モノマー、スチレン等のビニル系モノマー等、縮重合性のモノマーとしてはポリアミドやポリエステルを形成するモノマー、ポリイソシアネートとポリオールおよびポリチオールとの組み合わせ等、開環重合性のモノマーとしてはエポキシ系モノマー等が好適に使用できる。 また、重合性オリゴマーとしては、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、アクリレート系オリゴマー等が好適に使用できる。
【0029】
本発明の酸化セリウムナノ粒子を、モノマーまたは重合性オリゴマーに分散させてから重合させたり、樹脂中に分散させることによって樹脂複合体を得ることができる。 本発明の酸化セリウムナノ粒子は、その紫外線吸収能を生かした高屈折率で透明性を要求される用途等に好適に用いられる。
ここで、本発明の酸化セリウムナノ粒子を分散させる樹脂としては、熱可塑性樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリウレタン、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリカーボネートなどから選ばれた1種または2種以上が好ましく用いられる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 なお、実施例および比較例中で、部は質量部、% は質量%を意味する。
【0031】
本発明において酸化セリウムナノ粒子の結晶構造は、X線回折装置(PANalytical社製、X’Pert PRO MRD)を用い、測定条件を、X線管電圧45kV、X線管電電流40mA、走査範囲2θは10.0−65.0°で測定し、その平均粒子径は、2θが28.6付近の(111) 面の解析強度からその半価幅βを求め、下記数式1のScherrer式において、Scherrer定数Kを0.9、X線管球の波長λを1.54056として結晶子サイズDを求め、その値とした。
【0032】
(数1)
D=K ・λ/(β・cosθ)
【0033】
また、有機溶媒またはモノマー中での分散性は、合成した酸化セリウム粒子に50%濃度になるように種々の有機溶媒またはモノマーを添加し、超音波洗浄器(ヴェルヴォクリーア社製3周波超音波洗浄器 VS−100III)による数分の処理後、目視により、透明なものを○、半透明なものを△、白濁または沈降するものを×として評価した。
【0034】
(実施例1)
オクタン酸ナトリウム1.8g(10mmol)、リシノール酸ナトリウム0.45g(1.4mmol)および25%アンモニア水溶液10mLを純水30gに添加、撹拌し透明な溶液を調製した。 この溶液に、硝酸二アンモニウムセリウム3.84g(7mmol)を純水30gに溶解させた溶液を加え、 撹拌し、淡黄懸濁液を得た。 この懸濁液をオートクレーブで150℃、15時間の水熱処理後、上澄み液を除去し、得られた沈殿物を、ろ過、水洗、乾燥して1.40gの表面処理された酸化セリウムナノ粒子を黄色粉末として得た。 酸化セリウムナノ粒子の表面処理量は、PerkinElmer社製の熱質量測定装置Pylis1TGAにより、窒素雰囲気下40℃/分の速度で900℃まで昇温した質量減少率から25.38%であった。
【0035】
(実施例2)
オクタン酸ナトリウム5.4g(32mmol)、リシノール酸ナトリウム1.35g(4.2mmol)および25%アンモニア水溶液30mLを純水20gに添加、撹拌し透明な溶液を調製した。 この溶液に、硝酸二アンモニウムセリウム11.52g(21mmol)を純水10gに溶解させた溶液を加え、撹拌し、淡黄懸濁液を得た。 この懸濁液をオートクレーブで150℃、15時間の水熱処理後、上澄み液を除去し、得られた沈殿物を、ろ過、洗浄、乾燥して4.68gの表面処理された酸化セリウムナノ粒子を黄色粉末として得た。 酸化セリウムナノ粒子の表面処理量は、実施例1と同様に測定し24.61%であった。
【0036】
(実施例3)
オクタン酸3.76g(26mmol)、リシノール酸1.01g(3.3mmol)、25%アンモニア水溶液24mLおよび6M水酸化ナトリウム水溶液6mLを純水16gに添加、撹拌し透明な溶液を調製した。 この溶液に、硝酸二アンモニウムセリウム9.22g(17mmol)を純水8gに溶解させた溶液を加え、撹拌し、淡黄懸濁液を得た。 この懸濁液をオートクレーブで150℃、15時間の水熱処理後、上澄み液を除去し、得られた沈殿物を、ろ過、水洗、乾燥して3.8gの表面処理された酸化セリウムナノ粒子を黄色粉末として得た。 酸化セリウムナノ粒子の表面処理量は、実施例1と同様に測定し26.42%であった。
【0037】
(実施例4)
オクタン酸3.12g(22mmol)、リシノール酸0.84g(2.8mmol)、25%アンモニア水溶液20mLおよび6M水酸化ナトリウム水溶液5mLを純水15gに添加、撹拌し透明な溶液を調製した。 この溶液に、硝酸二アンモニウムセリウム7.68g(17mmol)を純水20gに溶解させた溶液を加え、撹拌し、淡黄懸濁液を得た。 この懸濁液をオートクレーブで180℃、15時間の水熱処理後、上澄み液を除去し、得られた沈殿物を、ろ過、水洗、乾燥して3.0gの黄色粉末を得た。 酸化セリウムナノ粒子の表面処理量は、実施例1と同様に測定し23.46%であった。 ここで得られた粉末について、電解放出型分析透過電子顕微鏡(トプコンテクノハウスEM002BF)による測定結果を
図1として載せたが、全ての粒子が10nm以下であることが分かる。
【0038】
(実施例5)
オクタン酸3.12g(22mmol)、12−ヒドロキシステアリン酸0.85g(2.8mmol)、25%アンモニア水溶液20mLおよび6M水酸化ナトリウム水溶液5mLを純水15gに添加、撹拌し透明な溶液を調製した。 この溶液に、硝酸二アンモニウムセリウム7.68g(17mmol)を純水20gに溶解させた溶液を加え、撹拌し、淡黄懸濁液を得た。この懸濁液をオートクレーブで180℃、15時間の水熱処理後、上澄み液を除去し、得られた沈殿物を、ろ過、水洗、乾燥して2.98gの表面処理された酸化セリウムナノ粒子を黄色粉末として得た。 酸化セリウムナノ粒子の表面処理量は、実施例1と同様に測定し21.77%であった。
【0039】
(比較例1)
オレイン酸ナトリウム2.13g(7mmol)および25%アンモニア水溶液10mLを純水30gに添加、撹拌し透明な溶液を調製した。 この溶液に、硝酸二アンモニウムセリウム3.84g(7mmol)を純水30gに溶解させた溶液を加え、撹拌し、淡黄懸濁液を得た。 この懸濁液をオートクレーブで150℃、6時間の水熱処理後、上澄み液を除去し、得られた沈殿物を、ろ過、洗浄、乾燥して1.39gの表面処理された酸化セリウムナノ粒子を黄色粉末として得た。 酸化セリウムナノ粒子の表面処理量は、実施例1と同様に測定し38.38%であった。
【0040】
(比較例2)
オクタン酸ナトリウム1.20g(7.2mmol)および25%アンモニア水溶液10mLを純水30gに添加、撹拌し透明な溶液を調製した。 この溶液に、硝酸二アンモニウムセリウム33.84g(7mmol)を純水30gに溶解させた溶液を加え、撹拌し、淡黄懸濁液を得た。 この懸濁液をオートクレーブで150℃、15時間の水熱処理後、上澄み液を除去し、得られた沈殿物を、ろ過、洗浄、乾燥して1.17gの表面処理された酸化セリウムナノ粒子を黄色粉末として得た。 酸化セリウムナノ粒子の表面処理量は、実施例1と同様に測定し15.34%であった。
【0041】
(比較例3)
オクタン酸ナトリウム2.0g(12mmol)および25%アンモニア水溶液10mLを純水30gに添加、撹拌し透明な溶液を調製した。 この溶液に、硝酸二アンモニウムセリウム3.84g(7mmol)を純水30gに溶解させた溶液を加え、撹拌し、淡黄懸濁液を得た。 この懸濁液をオートクレーブで150℃、15時間の水熱処理後、上澄み液を除去し、得られた沈殿物を、ろ過、水洗、乾燥して1.19gの表面処理された酸化セリウムナノ粒子を黄色粉末として得た。 酸化セリウムナノ粒子の表面処理量は、実施例1と同様に測定し15.23%であった。
【0042】
(比較例4)
リシノール酸4.20g(14mmol)、25%アンモニア水溶液20mLおよび6M水酸化ナトリウム水溶液5mLを純水15gに添加、撹拌し、透明な溶液を調製した。 この溶液に硝酸二アンモニウムセリウム7.68g(14mmol)を純水30gに溶解させた溶液を加え、撹拌し、淡黄懸濁液を得た。 この懸濁液をオートクレーブで180℃、15時間の水熱処理後、上澄み液を除去し、得られた沈殿物を、ろ過、水洗、乾燥して2.75gの表面処理された酸化セリウムナノ粒子を黄色粉末として得た。 酸化セリウムナノ粒子の表面処理量は、実施例1と同様に測定し15.23%であった。
【0043】
実施例1〜5および比較例1〜4で得られた酸化セリウム粒子について、酸化セリウム粒子50%における有機溶媒またはモノマー中での分散液の分散性および透明性、ならびにシェラー式から算出される結晶子径および熱質量測定から概算される酸化セリウムへの表面処理剤の被覆量を表1に記載した。
【0044】
【表1】
【0045】
(製造例1)
2−アクリロイルオキシエチルサクシネート(屈折率=1.463)1部およびエトキシ化o−フェニルフェノールアクリレート(屈折率=1.577)2部のトルエン混合溶液に、乾燥後の表面処理酸化セリウムナノ粒子含量が45%となるように実施例4の表面処理酸化セリウムナノ粒子を加え、光重合開始剤の存在下に、膜厚1μmとなるようにガラス基板上にスピンコートし、紫外線照射により光重合させることで硬化膜を得た。 膜厚モニター(大塚電子社製:FE−300UV)を用いた589nmにおける硬化膜の屈折率は1.640であった。
また、紫外−可視分光光度計により300−800nmでの透過率を測定したところ、ガラスおよびアクリレートのみ(比較製造例1)の硬化膜と比較して、紫外線をより遮蔽することが確認できた(
図2参照)。
さらに、硬化膜について透過値およびヘイズ値を測定したところ、透過値は89.0、ヘイズ値は0.07となり、透明性が確認できた。
【0046】
(比較製造例1)
製造例1で表面処理酸化セリウムナノ粒子を除いた場合、硬化膜の膜厚1μmの屈折率は1.562、透過値は90.0、ヘイズ値は0.08であった。
【0047】
なお、比較例1で製造した酸化セリウムではモノマーに相溶・分散しないため評価できるような樹脂組成物が得られなかった。