(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用したエンジン制御装置の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態のエンジン制御装置により制御されるエンジンの構成を示す図である。
エンジン1は、例えば乗用車等の自動車に走行用動力源として搭載される4ストローク水平対向4気筒の直噴(筒内噴射)ガソリンエンジンである。
エンジン1の出力は、後述する動力伝達機構を介して、車両の駆動輪に伝達される。
【0013】
エンジン1は、出力軸である図示しないクランクシャフトの前端部側(変速機と反対側・縦置き搭載時における前側)から、順次配列された第1気筒10、第2気筒20、第3気筒30、第4気筒40を有する。
エンジン1は、例えば、クランクシャフトが車両の前後方向にほぼ沿って縦置き配置される。
第1気筒10、第3気筒30は、車幅方向右側に配置された右バンク、第2気筒20、第4気筒40は、車幅方向左側に配置された左バンクに設けられている。
【0014】
第1気筒10と第2気筒20、第3気筒30と第4気筒40は、各気筒のクランクピンのオフセット量だけずらした状態で、実質的にクランクシャフトを挟んで対向して配置されている。
エンジン1における点火順序(爆発順序)は、第1気筒10、第3気筒30、第2気筒20、第4気筒40の順に設定され、クランク角において180°毎に実質的に等間隔で点火(爆発)するようになっている。
【0015】
第1気筒10、第2気筒20、第3気筒30、第4気筒40は、それぞれシリンダ、ピストン、燃焼室、吸排気ポート、吸排気バルブ、動弁駆動機構などの他、インジェクタ11,21,31,41、点火栓12,22,32,42等を有する。
インジェクタ11,21,31,41は、各気筒の燃焼室内に、直接霧化されたガソリンを噴射する噴射装置である。
インジェクタ11,21,31,41の燃料噴射量及び燃料噴射時期は、エンジン1の運転状態に応じてエンジン制御ユニット100によって制御されている。
インジェクタ11,21,31,41は、図示しない燃料ポンプによって加圧された燃料が導入され蓄圧されるとともに、エンジン制御ユニット100から与えられる噴射信号に応じて開弁し、燃料を噴射する。
【0016】
点火栓12,22,32,42は、各気筒内で形成された混合気に、電気的なスパークによって着火させるものである。
点火栓12,22,32,42の点火時期は、エンジン制御ユニット100によって制御されている。
【0017】
また、エンジン1は、吸気装置50、排気装置60、さらに図示しないバルブタイミング可変装置、冷却装置、潤滑装置、EGR装置等を有する。
吸気装置50は、各気筒に燃焼用空気を導入するものである。
吸気装置50は、外気(大気)を燃焼用空気として導入する図示しないインテークダクト、ダスト等の異物を濾過する図示しないエアクリーナ、さらにスロットルバルブ51、インテークマニホールド52、吸気圧センサ53等を有する。
【0018】
スロットルバルブ51は、エンジン1の出力調整のため空気流量を制御するものである。
スロットルバルブ51は、電動アクチュエータによって開閉されるバタフライバルブ(スロットルバルブ)を有する電動スロットルであり、ドライバのアクセル操作に応じて設定される要求トルクに応じてエンジン制御ユニット100によって開度を制御される。
インテークマニホールド52は、スロットルバルブ51を通過した空気を、各気筒の吸気ポートに導入する分岐管である。
吸気圧センサ53は、インテークマニホールド52内の圧力(吸気管負圧)を検出する圧力センサである。
吸気圧センサ53の出力は、逐次エンジン制御ユニット100に伝達される。
【0019】
排気装置60は、各気筒10,20,30,40の燃焼室から、排気ポートを経由して排出される排ガス(既燃ガス)を排出するものである。
排気装置60は、エキゾーストマニホールド61、エキゾーストパイプ62、触媒コンバータ63、サイレンサ64、空燃比センサ65、リアO
2センサ66等を有して構成されている。
【0020】
エキゾーストマニホールド61は、各気筒10,20,30,40の排気ポートから出た排ガスを集合させる集合管である。
エキゾーストパイプ62は、エキゾーストマニホールド61において集合した排ガスを外部へ排出する管路である。
【0021】
触媒コンバータ63は、エキゾーストパイプ62の中間部に設けられた排ガス後処理装置である。
触媒コンバータ63は、例えばアルミナ等の担体に白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属を担持させた三元触媒である。
触媒コンバータ63は、エンジン1の空燃比がストイキ近傍となる所定の活性領域において、排ガス中のHC、CO、NO
Xを低減する機能を有する。
【0022】
サイレンサ64は、エキゾーストパイプ62における触媒コンバータ63の下流側(出口側)に設けられ、音響エネルギを低減させる消音器である。
【0023】
空燃比センサ65は、触媒コンバータ63の入口近傍に設けられ、エンジン1における空燃比に応じて異なった出力電圧を発生するものである。
エンジン制御ユニット100は、空燃比センサ65の出力に応じて、エンジン1における空燃比が三元触媒の活性範囲内となるように燃料噴射量を設定する空燃比フィードバック制御を行う。
【0024】
リアO
2センサ66は、触媒コンバータ63の出口近傍に設けられ、排ガス中のO
2濃度に応じて異なった出力電圧を発生するものである。
リアO
2センサ66の出力はエンジン制御ユニット100に伝達される。
【0025】
エンジン1は、さらに、クランク角センサ70、水温センサ80等を有する。
クランク角センサ70は、エンジン1の出力軸である図示しないクランクシャフトの角度位置(クランク角・CA)を検出する磁気式の角度センサである。
クランク角センサ70は、センサプレート71、ポジションセンサ72等を有して構成されている。
【0026】
センサプレート71は、クランクシャフトの後端部に固定された円盤状の部材であって、外周縁部には所定の角度間隔で複数のベーン(歯)が放射状に突き出して形成されたスプロケット状の形状となっている。
ポジションセンサ72は、センサプレート71の外周縁部に対向して配置された磁気ピックアップであり、マグネット、コア、コイル、ターミナル等を有する。
ポジションセンサ72は、直前をセンサプレート71のベーンが通過した際に、所定のパルス信号を出力するようになっている。
エンジン制御ユニット100は、クランク角センサ70の出力に基づいて、エンジン1の回転数(クランクシャフト回転速度)を演算可能となっている。
【0027】
水温センサ80は、シリンダヘッド及びシリンダに形成された冷却水流路であるウォータージャケット内を流れる冷却水(クーラント)の温度を検出するものである。
クランク角センサ70、水温センサ80の出力は、エンジン制御ユニット100に伝達される。
【0028】
エンジン制御ユニット(ECU)100は、エンジン1及びその補器類を統括的に制御するものである。
また、エンジン制御ユニット100は、エンジン1の停止時にモータジェネレータ制御ユニット220と協調制御を行う機能を備えている。この点に関しては、後に詳しく説明する。
エンジン制御ユニット100は、例えば、CPU等の情報処理装置、RAMやROM等の記憶装置、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等を有して構成されている。
エンジン制御ユニット100は、例えば、ドライバのアクセル操作等に基づいて設定される要求トルクに応じて、実際のトルクが要求トルクと実質的に一致するよう図示しないスロットルバルブの開度、燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期、バルブタイミング等を制御する。
【0029】
エンジン1の出力は、以下説明する動力伝達機構を介して各車輪に伝達される。
図2は、
図1のエンジンを有する車両のパワートレーンの構成を示す図である。
図2に示すように、車両は、トルクコンバータ110、エンジンクラッチ120、前後進切替部130、バリエータ140、出力クラッチ150、フロントディファレンシャル160、リアディファレンシャル170、トランスファクラッチ180、モータジェネレータ190、トランスミッション制御ユニット210、モータジェネレータ制御ユニット220等を備えたエンジン電気ハイブリッドAWD車両である。
【0030】
トルクコンバータ110は、エンジン1の出力をエンジンクラッチ120に伝達する流体継手である。
トルクコンバータ110は、車両が停止状態からエンジントルクを伝達可能な発進デバイスとしての機能を有する。
また、トルクコンバータ110は、トランスミッション制御ユニット210によって制御され、入力側(インペラ側)と出力側(タービン側)とを直結する図示しないロックアップクラッチを備えている。
【0031】
エンジンクラッチ120は、トルクコンバータ110と前後進切替部130との間に設けられ、これらの間の動力伝達経路を接続又は切断するものである。
エンジンクラッチ120は、例えば、車両がモータジェネレータ190の出力のみによって走行するEV走行モード時等において、トランスミッション制御ユニット210からの指令に応じて切断される。
【0032】
前後進切替部130は、エンジンクラッチ120とバリエータ140との間に設けられ、トルクコンバータ110とバリエータ140とを直結する前進モードと、トルクコンバータ110の回転出力を逆転させてバリエータ140に伝達する後退モードとを、トランスミッション制御ユニット210からの指令に応じて切り換えるものである。
前後進切替部130は、例えば、プラネタリギヤセット等を有して構成されている。
【0033】
バリエータ140は、前後進切替部130から伝達されるエンジン1の回転出力、及び、モータジェネレータ190の回転出力を、無段階に変速する変速機構部である。
バリエータ140は、例えば、プライマリプーリ141、セカンダリプーリ142、チェーン143等を有するチェーン式無段変速機(CVT)である。
プライマリプーリ141は、車両の駆動時におけるバリエータ140の入力側(回生発電時においては出力側)に設けられ、エンジン1及びモータジェネレータ190の回転出力が入力される。
セカンダリプーリ142は、車両の駆動時におけるバリエータ140の出力側(回生発電時においては入力側)に設けられている。
セカンダリプーリ142は、プライマリプーリ141と隣接しかつプライマリプーリ141の回転軸と平行な回転軸回りに回動可能となっている。
チェーン143は、環状に形成されてプライマリプーリ141及びセカンダリプーリ142に巻き掛けられ、これらの間で動力伝達を行うものである。
プライマリプーリ141及びセカンダリプーリ142は、それぞれチェーン143を挟持する一対のシーブを有するとともに、トランスミッション制御ユニット210による変速制御に応じて各シーブ間の間隔を変更することによって、有効径を無段階に変更可能となっている。
【0034】
出力クラッチ150は、バリエータ140のセカンダリプーリ142と、フロントディファレンシャル160及びトランスファクラッチ180との間に設けられ、これらの間の動力伝達経路を接続又は切断するものである。
出力クラッチ150は、車両の走行時には通常接続状態とされるとともに、例えば車両の停車中にエンジン1の出力によってモータジェネレータ190を駆動してバッテリの充電を行う場合等に切断される。
【0035】
フロントディファレンシャル160は、出力クラッチ150から伝達される駆動力を、左右の前輪に伝達するものである。
フロントディファレンシャル160は、最終減速装置、及び、左右前輪の回転速度差を吸収する差動機構を備えている。
出力クラッチ150とフロントディファレンシャル160との間は、実質的に直結されている。
【0036】
リアディファレンシャル170は、出力クラッチ150から伝達される駆動力を、左右の後輪に伝達するものである。
リアディファレンシャル170は、最終減速装置、及び、左右後輪の回転速度差を吸収する差動機構を備えている。
【0037】
トランスファクラッチ180は、出力クラッチ150からリアディファレンシャル170へ駆動力を伝達する後輪駆動力伝達機構の途中に設けられ、これらの間の動力伝達経路を接続又は切断するものである。
トランスファクラッチ180は、例えば、接続時の締結力(伝達トルク容量)を無段階に変更可能な油圧式あるいは電磁式の湿式多板クラッチである。
トランスファクラッチ180の締結力は、トランスミッション制御ユニット210によって制御されている。
トランスファクラッチ180は、締結力を変更することによって、前後輪の駆動トルク配分を調節可能となっている。
また、トランスファクラッチ180は、車両の旋回時や、ブレーキのアンチロック制御、車両挙動制御などの実行時に、前後輪の回転速度差を許容する必要がある場合には、締結力を低下(開放)させスリップさせることによって回転速度差を吸収する。
【0038】
モータジェネレータ190は、車両の駆動力を発生するとともに、減速時に車輪側から伝達されるトルクによって回生発電を行い、エネルギ回生を行う回転電機である。
モータジェネレータ190は、バリエータ140のプライマリプーリ141と同心に設けられている。
プライマリプーリ141は、モータジェネレータ190の図示しないロータと回転軸を介して接続されている。
モータジェネレータ190として、例えば、永久磁石式同期電動機が用いられる。
モータジェネレータ190は、モータジェネレータ制御ユニット220によって駆動時の出力トルクや回生発電時の回生エネルギ量(入力トルク)を制御されている。
【0039】
トランスミッション制御ユニット210は、トルクコンバータ110のロックアップクラッチ、エンジンクラッチ120、前後進切替部130、バリエータ140、出力クラッチ150、トランスファクラッチ180等を統括的に制御するものである。
モータジェネレータ制御ユニット220は、モータジェネレータ190の出力トルクや回生エネルギ量等を制御するものである。
これらの各ユニットは、それぞれCPU等の情報処理手段、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有して構成されている。
また、エンジン制御ユニット100、トランスミッション制御ユニット210、モータジェネレータ制御ユニット220は、例えば車載LANシステムの一種であるCAN通信システム等を介して、相互に通信し、必用な情報の伝達が可能となっている。
【0040】
以上説明したパワートレーンにおいて、エンジン制御ユニット100は、例えばエンジン1の動力を利用した走行モードから、モータジェネレータ190の動力のみによって走行するEV走行モードに切り替える場合等に、エンジン1の運転を自動的に停止する。
エンジン制御ユニット100は、エンジン1の運転を停止する際に、モータジェネレータ制御ユニット220と協働し、モータジェネレータ190によってクランクシャフトに負荷トルク(バックトルク)を周期的に付加し、車体振動を抑制する負荷トルク制御を実行する。モータジェネレータ制御ユニット220は、本発明にいう負荷トルク制御手段として機能する。
この点について、以下詳細に説明する。
【0041】
図3は、第1実施形態のエンジン制御装置におけるエンジン停止時のエンジンフリクションとモータトルクの推移の一例を示すグラフである。
縦軸はエンジンのクランクシャフトを回転させる際のフリクション、及び、モータジェネレータからクランクシャフトに付加されるバックトルク(逆転方向のトルク)を示し、横軸はクランクシャフトの角度位置(クランク角)を示している。
上図に示すように、エンジンのフリクションは周期的に変動し、いずれかの気筒における圧縮上死点近傍において極大となる。
【0042】
第1実施形態の場合には、エンジン1は等間隔爆発の水平対向4気筒であることから、クランク角にして180°ごとにフリクションは極大となる。
これに対し、下図に示すように、モータトルクは周期的に変動し、例えばクランク角にして180°周期の三角波状に付加される。
このような制御により、効果的に振動を抑制するためには、モータトルクを付加するタイミングは、エンジンフリクションの増減と極力正確に同期させる必要がある。
【0043】
通常は、クランク角センサ70が検出するクランク角に基づいてフリクションの増減を予測し、モータトルクを付加するタイミングを制御すればよいが、クランクシャフトの回転速度がアイドル回転から降下する過程で、エンジン1と車体との共振が発生すると、クランク角センサ70のセンサプレート71が激しく振動してクランク角を正常に検出できない場合がある。
図4は、クランク角センサの出力値(電圧)及びデジタル変換値の推移の一例を示すグラフである。
縦軸はクランク角センサ70のポジションセンサ72の出力電圧及びこれを二値化したデジタル変換値を示し、横軸は実際のクランク角を示している。
【0044】
クランク角センサ70が正常な状態(センサプレート71の振動が比較的小さい状態)においては、ポジションセンサ72は、センサプレート71の外周縁部に形成された凹凸に対応したパルス状の信号を出力する。
このパルス信号を二値化してカウントすることによって、クランク角を検出することができる。
しかし、
図4における領域Aにおいては、センサプレート71に比較的大きい振動が発生し、出力波形がギザギザ状となってデジタル変換値が正常に得られなくなっている。
このような状態になると、クランク角を正常に検出することが困難となり、オーバーシュートによりクランクシャフトに対して過剰なバックトルクを付加してエンジン1を逆回転させてしまう等の問題が懸念される。
【0045】
上述した問題に対応するため、第1実施形態においては、以下説明する制御を行っている。
図5は、第1実施形態のエンジン制御装置におけるエンジン停止時の負荷トルク制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0046】
<ステップS01:エンジン停止フラグ判断>
エンジン制御ユニット100は、エンジン停止動作が開始したことを示すエンジン停止フラグがオンであるか(セットされたか)否かを判別する。
エンジン停止フラグは、例えば、車両がエンジン1を運転する走行モードから、エンジン1を停止してモータジェネレータ190のみによって走行するEVモードへ移行する際などにオンされる。
エンジン停止フラグがオンである場合はステップS02に進み、その他の場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0047】
<ステップS02:エンジン共振点通過領域判断>
エンジン制御ユニット100は、現在のクランクシャフトの回転速度(回転数)が、エンジン1の共振点を通過する所定の範囲内であるか否かを判別する。
この範囲は、エンジン1と車体との共振によってクランク角センサ70の検出精度が低下することが懸念される範囲であって、エンジン支持系や車体の固有振動数に依存するが、一例として、300乃至500rpmに設定される。
現在のクランクシャフト回転速度が所定の範囲内である場合はステップS04に進み、その他の場合はステップS03に進む。
【0048】
<ステップS03:クランク角センサに基づく制御>
エンジン制御ユニット100は、クランク角センサ70が検出したクランク角に基づいて予測されるエンジン1のフリクションに応じて、モータジェネレータ制御ユニット220に負荷トルク(バックトルク)を指示する。
モータジェネレータ制御ユニット220は、エンジン制御ユニット100からの指示に応じてモータジェネレータ190に負荷トルクを発生させる。
このとき、トランスミッション制御ユニット210は、エンジンクラッチ120を締結しかつ出力クラッチ150を開放された状態とする。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0049】
<ステップS04:吸気圧センサ出力取得>
エンジン制御ユニット100は、吸気圧センサ53の出力を逐次取得してその履歴を保持する。
その後、ステップS05に進む。
【0050】
<ステップS05:吸気圧センサに基づく制御>
エンジン制御ユニット100は、クランク角センサに基づく制御からの切り替え時におけるクランク角センサ70の検出値(クランク角センサ出力が異常となる直前のデータ)から、次に吸気圧センサ53が吸気行程(吸気間負圧の増大)を検出した気筒をエンジン1の点火順序を参照して推定する。
エンジン制御ユニット100は、いずれかの気筒が吸気行程にあるときの吸気圧の低下に基づいて、エンジン1のクランク角を推定し、推定されたクランク角から予測されるフリクションに応じて、モータジェネレータ制御ユニット220に負荷トルクを指示する。
モータジェネレータ制御ユニット220は、エンジン制御ユニット100からの指示に応じてモータジェネレータ190に負荷トルクを発生させる。
このとき、トランスミッション制御ユニット210は、エンジンクラッチ120を締結しかつ出力クラッチ150を開放された状態とする。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0051】
図6は、吸気圧センサの出力波形の一例を示すグラフである。
図6において、縦軸は吸気圧センサ53の出力電圧(上方ほど負圧大)、横軸はクランク角を示している。
インテークマニホールド52内の吸気管負圧は、いずれかの気筒が吸気行程にあるときに周期的に増大する。
負圧が極大となるタイミングは特定のクランク角とほぼ一致することから、吸気圧センサ53の出力値を利用して、クランク角(ピストンの位置)を推定することが可能である。
クランク角が推定できれば、エンジン1のフリクションが変化するタイミングを推定することが可能となる。
特に、エンジン停止動作中のように、スロットルバルブ51が実質的に全閉であるときは、各気筒の吸気負圧が大きく、またクランクシャフト回転数もアイドル回転以下の低回転であることから、吸気圧センサ53の出力を利用したクランク角のセンシングは比較的容易であり、クランク角センサ70の正常時よりは劣るものの、モータジェネレータ190の負荷トルク制御には十分な精度を有する。
【0052】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)エンジン1の振動の影響を比較的受けにくい吸気圧センサ53の出力に基づいてクランク角を推定し、推定されたクランク角に基づいてモータジェネレータ190が発生するバックトルクの周期的変動を制御することによって、エンジン1と車体との共振によりクランク角センサ70でクランク角を直接検出できない場合であっても、オーバーシュートによるエンジン1の逆回転を防止し、エンジン停止時の振動を効果的に抑制することができる。
(2)エンジン1の共振点付近の回転数領域においてのみ吸気圧センサ53の出力に基づいて推定されるクランク角に基づいて負荷トルク制御を行い、その他の領域ではクランク角センサ70によって検出されたクランク角に基づいて負荷トルク制御を行うことによって、検出不良が生じない限りは吸気圧からの推定値に対して検出精度が高いと考えられるクランク角センサ70の検出値を用いて制御の精度を向上することができる。
【0053】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用したエンジン制御装置の第2実施形態について説明する。
第2実施形態において、上述した第1実施形態と実質的に共通する箇所については説明を省略し、主に相違点について説明する。
第2実施形態においては、エンジン停止時にクランクシャフトの回転速度(回転数)に応じて、クランク角センサ70により検出されるクランク角と、吸気圧センサ53の出力から推定されるクランク角とに、所定の重み付けを行って演算したクランク角に基づいて負荷トルク制御を行っている。
【0054】
図7は、本発明を適用したエンジン制御装置の第2実施形態におけるクランクシャフト回転数に応じた制御領域分けを示す図である。
第2実施形態においては、クランクシャフト回転数の低下による領域1〜4の推移に応じて、負荷トルク制御の内容を順次変更している。
【0055】
領域1(例えば、800〜500rpm)は、エンジン1の共振域に入っていない領域である。
領域1においては、第1実施形態のステップS03と同様に、クランク角センサ70が検出するクランク角に基づいて負荷トルク制御を行う。
【0056】
領域2(例えば、500〜300rpm)は、エンジンの共振点を通過する領域である。
この領域では、クランク角センサ70のセンサプレート71がエンジン1の振動の影響を受け、クランク角の検出が困難となることが懸念される。
この領域では、第1実施形態のステップS05と同様に、吸気圧センサ53の出力に基づいて推定されるクランク角に基づいて負荷トルク制御を行う。
【0057】
領域3(例えば、300〜150rpm)は、エンジン1の共振点を通過する領域から脱する過渡領域である。
この領域では、クランク角センサ70が検出するクランク角と、吸気圧センサ53の出力に基づいて推定されるクランク角とを併用して、負荷トルク制御に用いるクランク角を演算する。
例えば、以下のように回転領域により各クランク角の重み(重視度合)を変更する。
(1)300〜250rpm クランク角センサ:吸気圧センサ=3:7
(2)250〜200rpm クランク角センサ:吸気圧センサ=5:5
(3)200〜150rpm クランク角センサ:吸気圧センサ=7:3
例えば、重みが3:7である場合、クランク角センサ70が検出するクランク角と、吸気圧センサ53の出力に基づいて推定されるクランク角との間を、7:3に内分する点に相当する値を制御に用いるクランク角とする。
【0058】
領域4(例えば、150〜0rpm)は、エンジン1の共振域に入っていないエンジン停止直前の領域である。
領域1においては、第1実施形態のステップS03と同様に、クランク角センサ70が検出するクランク角に基づいて負荷トルク制御を行う。
【0059】
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と実質的に同様の効果に加え、クランクシャフトの回転速度に応じてクランク角センサ70により検出されるクランク角と、吸気圧センサ53の出力から推定されるクランク角との重みを変化させることによって、より正確にクランク角を推定することが可能となり、制御の精度をさらに向上することができる。
【0060】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)エンジン及びエンジン制御装置の構成は上述した実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
例えば、エンジンのシリンダレイアウト、気筒数、点火順序、点火間隔や、パワートレーンのレイアウト等は適宜変更することができる。
(2)実施形態においては、トランスミッション内に設けられたモータジェネレータによってクランクシャフトに負荷トルクを与えているが、これに代えてクランクシャフトに任意の負荷トルクを与えることが可能なインテグレーテッド・スタータ・ジェネレータ(IGS)を利用してクランクシャフトに負荷トルクを与えてもよい。
(3)第1実施形態におけるクランク角センサの検出値に基づく制御と吸気圧センサの出力からの推定値に基づく制御とを切り替えるクランクシャフト回転速度(回転数)や、第2実施形態における重み付けを変更する回転速度、各領域における重み等は一例であり、適宜変更することが可能である。