特許第6889764号(P6889764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6889764
(24)【登録日】2021年5月25日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】フィルタ装置
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/208 20060101AFI20210607BHJP
   H01P 3/12 20060101ALI20210607BHJP
   H01P 11/00 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   H01P1/208 Z
   H01P3/12 100
   H01P11/00 200
   H01P11/00 300
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-180059(P2019-180059)
(22)【出願日】2019年9月30日
(65)【公開番号】特開2021-57801(P2021-57801A)
(43)【公開日】2021年4月8日
【審査請求日】2020年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄大
【審査官】 岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−242303(JP,A)
【文献】 特開2018−191170(JP,A)
【文献】 米国特許第5821836(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0336632(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/208
H01P 3/12
H01P 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁気的に結合され、且つ、複数の層内に配置されている複数の共振器を備えている共振器結合型のフィルタ装置であって、
上記複数の層の層数に対応した数の支持基板であって、1又は複数の凹部が形成された支持基板を更に備え、
上記複数の共振器の各々は、上記1又は複数の凹部の何れかに埋設されると共に該凹部に固定されている、
ことを特徴とするフィルタ装置。
【請求項2】
上記複数の共振器は、
誘電体材料製のブロックと、
上記ブロックの一対の主面に形成された、導体材料製の一対の広壁と、
上記ブロックの側面に形成された、導体材料製の狭壁、又は、上記ブロックの内部に柵状に設けられた複数の導体ポストからなる狭壁と、を備えている、
ことを特徴とする請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項3】
上記複数の共振器のうち上記複数の層の積層方向に沿って隣接している共振器同士は、各々の上記一対の広壁のうち隣接している広壁に設けられた開口の対を介して、電磁気的に結合している、
ことを特徴とする請求項2に記載のフィルタ装置。
【請求項4】
上記複数の導体ポストを第1の導体ポスト群として、
上記積層方向に沿って隣接している支持基板同士の少なくとも1つの間に介在する層間基板であって、誘電体材料製の中間層を含む層間基板を更に備え、
層間基板のうち、平面視において、上記共振器同士の各々に設けられた上記開口の対を取り囲むように、上記層間基板の内部に柵状に設けられた複数の導体ポストからなる第2の導体ポスト群が設けられている、
ことを特徴とする請求項3に記載のフィルタ装置。
【請求項5】
少なくとも1つの上記層間基板の一対の主面には、導体材料製の一対の層状部材が形成されており、該層間基板に隣接する上記支持基板の一対の主面のうち、該層間基板に隣接する側の主面には、導体材料製の層状部材が形成されており、
隣接している支持基板及び層間基板は、導電性接合部材を用いて接合されている、
ことを特徴とする請求項4に記載のフィルタ装置。
【請求項6】
上記積層方向に沿って隣接している支持基板同士の少なくとも1つの間に介在する、層間基板を更に備え、
上記複数の共振器のうち、上記層間基板と隣接する少なくとも1つの共振器の上記一対の広壁のうち、該層間基板と隣接する広壁には、外部からの電気的な制御信号に応じて該共振器の静電容量を変化させるバラクタダイオード又はスイッチが配置されており、
上記層間基板には、上記制御信号をバラクタダイオード又はスイッチに供給する制御信号線が形成されている、
ことを特徴とする請求項3に記載のフィルタ装置。
【請求項7】
電磁気的に結合され、且つ、複数の層内に配置されている複数の共振器を備えている共振器結合型のフィルタ装置の製造方法であって、
上記複数の層の層数に対応した数の支持基板の各々に、1又は複数の凹部を形成する凹部形成工程と、
上記凹部形成工程により、各支持基板に形成された上記1又は複数の凹部の何れかに、上記複数の共振器の各々を埋設すると共に固定する固定工程と、
上記各支持基板を積層することによって異なる層内に配置されている共振器同士を電磁気的に結合する積層工程と、を含んでいる、
ことを特徴とするフィルタ装置の製造方法。
【請求項8】
上記固定工程よりも前に実施する共振器形成工程であって、
誘電体材料製の母基板の内部に、且つ、平面視において上記複数の共振器の各共振領域を取り囲むように、複数の貫通孔を柵状に設ける貫通孔形成工程と、
上記母基板の一対の主面及び上記複数の貫通孔の内壁に導体材料製の層状部材を形成することによって狭壁及び一対の広壁を形成する導体壁形成工程と、
上記母基板から上記複数の共振器の各々を切り出す切り出し工程と、を含む共振器形成工程を更に含んでいる、
ことを特徴とする請求項7に記載のフィルタ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振器結合型のフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
準ミリ波帯(例えば28GHz帯)及びミリ波帯(例えば60GHz帯)に含まれる高周波に対してフィルタリング処理を施す場合、複数の共振器を電磁気的に結合することによって構成された共振器結合型のフィルタ装置が広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、複数の共振器を電磁気的に結合することにより構成された共振器結合型のフィルタ装置が図示されている。これらのフィルタ装置において、各共振器の共振領域は、誘電体材料により構成されている。特許文献1において、複数の共振器は、単一の層内に直線的(一次元的)に、又は、複数の層内に立体的(3次元的)に配置されている。
【0004】
複数の共振器を複数の層内に立体的に配置した場合、複数の共振器を単一の層内に直線的に配置した場合と比較して、その全長を短くすることができる。これらのフィルタ装置は、各共振器を構成する広壁を平面視した場合に、長方形状である。上述したフィルタ装置の全長とは、平面視した場合に得られる上記長方形状の長辺に対応する長さである。
【0005】
また、特許文献1に記載された各フィルタ装置においては、フィルタ装置の内部を透過することに伴い生じる誘電損失を低減するために、各共振器の共振領域を構成する誘電体材料として、誘電損失が小さな誘電体材料を採用することが好ましい。誘電損失が小さな誘電体材料の例としては、石英ガラス、水晶、及び液晶ポリマー樹脂が挙げられる。
【0006】
これらの誘電体材料は、誘電損失が大きな誘電体材料(例えばポリイミド樹脂)などと比較して高価である。また、石英ガラスなどの低損失材料は銅や他の基板材料と熱膨張係数が異なることも多い。したがって、フィルタ装置のコストを低減、実装信頼性を向上するためには、各共振器を構成する誘電体材料のサイズをできるだけ小さくすることが好ましい。すなわち、誘電体材料の小片を用いて各共振器を構成することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019−36806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、誘電体材料の小片により構成された各共振器は、サイズが大きな誘電体材料と比べて、取り扱いが難しい。ここでいう各共振器の取り扱いとは、各共振器をピンセットやマニピュレータや真空チャックなどの器具を用いて保持したり、これらの器具を用いて実装基板上の所定の位置に各共振器を載置したりする操作を意味する。
【0009】
その結果として、特許文献1に記載された各フィルタ装置においては、フィルタ装置を製造する場合に、実装基板上に各共振器を積層しつつ実装する工程の難易度が高まり、且つ、該工程の実施時により多くの配慮を必要とする。
【0010】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、各共振器が複数層内に配置されている共振器結合型のフィルタ装置であって、製造時における各共振器の取り扱いが従来よりも容易なフィルタ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係るフィルタ装置は、電磁気的に結合され、且つ、複数の層内に配置されている複数の共振器を備えている共振器結合型のフィルタ装置であって、上記複数の層の層数に対応した数の支持基板であって、1又は複数の凹部が形成された支持基板を更に備え、上記複数の共振器の各々は、上記1又は複数の凹部の何れかに埋設されると共に該凹部に固定されている。
【0012】
上記の構成によれば、上記複数の共振器が複数の層内に配置されており、且つ、上記複数の共振器の各々が、少なくとも、複数の支持基板のいずれかに固定されている。したがって、本フィルタ装置の製造工程においては、特許文献1に記載のフィルタ装置の製造工程と比較して、上記複数の共振器の各々を、容易に取り扱うことができる。すなわち、本フィルタ装置は、各共振器が複数層内に配置されている共振器結合型のフィルタ装置であって、製造時における各共振器の取り扱いが従来よりも容易なフィルタ装置である。なお、複数の共振器が電磁気的に結合されてなるフィルタ装置は、バンドパスフィルタとして機能する。
【0013】
本発明の第2の態様に係るフィルタ装置は、上述した第1の態様において、上記複数の共振器は、誘電体材料製のブロックと、上記ブロックの一対の主面に形成された、導体材料製の一対の広壁と、上記ブロックの側面に形成された、導体材料製の狭壁、又は、上記ブロックの内部に柵状に設けられた複数の導体ポストからなる狭壁と、を備えている、という構成を採用している。
【0014】
上記の構成によれば、共振領域が誘電体材料により構成されている複数の共振器を容易に製造することができる。特に、上記狭壁が複数の導体ポストからなる場合、上記ブロックの側面を導体材料により覆う必要がない。したがって、上記狭壁が複数の導体ポストからなる場合、上記複数の共振器を更に容易に製造することができる。
【0015】
本発明の第3の態様に係るフィルタ装置は、上述した第2の態様において、上記複数の共振器のうち上記複数の層の積層方向に沿って隣接している共振器同士は、各々の上記一対の広壁のうち隣接している広壁に設けられた開口の対を介して、電磁気的に結合している、という構成を採用している。
【0016】
上記の構成によれば、上記積層方向に沿って隣接している共振器同士を、容易且つ確実に、電磁気的に結合させることができる。
【0017】
本発明の第4の態様に係るフィルタ装置は、上述した第3の態様において、上記複数の導体ポストを第1の導体ポスト群として、上記積層方向に沿って隣接している支持基板同士の少なくとも1つの間に介在する層間基板であって、誘電体材料製の中間層を含む層間基板を更に備え、層間基板のうち、平面視において、上記共振器同士の各々に設けられた上記開口の対を取り囲むように、上記層間基板の内部に柵状に設けられた複数の導体ポストからなる第2の導体ポスト群が設けられている、という構成を採用している。
【0018】
上記の構成によれば、上記支持基板同士の間に上記層間基板が介在することによって、上記複数の共振器の各々を、対応する各凹部に固定する工程が容易になる。したがって、本フィルタ装置は、上記層間基板を備えていないフィルタ装置よりも容易に製造することができる。
【0019】
本発明の第5の態様に係るフィルタ装置は、上述した第4の態様において、少なくとも1つの上記層間基板の一対の主面には、導体材料製の一対の層状部材が形成されており、該層間基板に隣接する上記支持基板の一対の主面のうち、該層間基板に隣接する側の主面には、導体材料製の層状部材が形成されており、隣接している支持基板及び層間基板は、導電性接合部材を用いて接合されている、という構成を採用している。
【0020】
上記の構成によれば、上記支持基板の一対の主面、及び/又は、1又は複数の上記層間基板の一対の主面に形成された層状部材同士を、確実に短絡するとともに固定することができる。
【0021】
本発明の第6の態様に係るフィルタ装置は、上述した第3の態様の何れかにおいて、上記積層方向に沿って隣接している支持基板同士の少なくとも1つの間に介在する、層間基板を更に備え、上記複数の共振器のうち、上記層間基板と隣接する少なくとも1つの共振器の上記一対の広壁のうち、該層間基板と隣接する広壁には、外部からの電気的な制御信号に応じて該共振器の静電容量を変化させるバラクタダイオード又はスイッチが配置されており、上記層間基板には、上記制御信号をバラクタダイオード又はスイッチに供給する制御信号線が形成されている、という構成を採用している。
【0022】
上記の構成によれば、上記複数の共振器の各々の共振周波数を、外部から制御することができる。したがって、外部からの制御に応じて、フィルタ装置の通過帯域を変化させることができる。
【0023】
また、上記の課題を解決するために、本発明の第7の態様に係るフィルタ装置の製造方法は、電磁気的に結合され、且つ、複数の層内に配置されている複数の共振器を備えている共振器結合型のフィルタ装置の製造方法であって、上記複数の層の層数に対応した数の支持基板の各々に、1又は複数の凹部を形成する凹部形成工程と、上記凹部形成工程により、各支持基板に形成された上記1又は複数の凹部の何れかに、上記複数の共振器の各々を埋設すると共に固定する固定工程と、上記各支持基板を積層することによって異なる層内に配置されている共振器同士を電磁気的に結合する積層工程と、を含んでいる。
【0024】
上記の構成によれば、本製造法は、上述した第1の態様に係るフィルタ装置と同様の効果を奏する。
【0025】
本発明の第8の態様に係るフィルタ装置の製造方法は、上述した第7の態様において、上記固定工程よりも前に実施する共振器形成工程であって、誘電体材料製の母基板の内部に、且つ、平面視において上記複数の共振器の各共振領域を取り囲むように、複数の貫通孔を柵状に設ける貫通孔形成工程と、上記母基板の一対の主面及び上記複数の貫通孔の内壁に導体材料製の層状部材を形成することによって狭壁及び一対の広壁を形成する導体壁形成工程と、上記母基板から上記複数の共振器の各々を切り出す切り出し工程と、を含む共振器形成工程を更に含んでいる、という構成を採用している。
【0026】
上記の構成によれば、複数の貫通孔の内壁に形成された導体材料製の層状部材は、導体ポストとして機能する。したがって、母基板の内部に、予め、複数の導体ポストが柵状に設けられているため、母基板から誘電体材料の小片を切り出した後に、各共振器の共振領域を取り囲む狭壁を改めて設ける必要がない。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一態様によれば、各共振器が複数層内に配置されている共振器結合型のフィルタ装置であって、製造時における各共振器の取り扱いが従来よりも容易なフィルタ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1の実施形態に係るフィルタ装置の分解斜視図である。
図2図1に示したフィルタ装置の断面図である。
図3図1及び図2に示したフィルタ装置の第1の変形例の断面図である。
図4図1及び図2に示したフィルタ装置の第2の変形例の断面図である。
図5図1及び図2に示したフィルタ装置の第3の変形例の断面図である。
図6】(a)は、本発明の第2の実施形態に係るフィルタ装置の製造方法のフローチャートである。(b)は、(a)に示したデリバリファイバの製造方法に含まれる共振器形成工程のフローチャートである。
図7図6の(a)に示したフィルタ装置の製造方法の変形例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係るフィルタ装置10について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、フィルタ装置10の分解斜視図である。図2は、フィルタ装置10の断面図であって、図1に示した直線A−A’を含み、且つ、後述する支持基板14,15の主面に直交する断面における断面図である。
【0030】
後述するように、フィルタ装置10は、複数の共振器を備えている。したがって、フィルタ装置10は、予め定められた動作帯域に含まれる高周波を透過させ、動作帯域以外の帯域に含まれる高周波を遮断するバンドパスフィルタとして機能する。フィルタ装置10の動作帯域は、適宜定めることができる。動作帯域の一例としては、準ミリ波帯(例えば28GHz帯)及びミリ波帯(例えば60GHz帯)が挙げられるが、これに限定されない。
【0031】
<フィルタ装置10の構成>
フィルタ装置10は、図1及び図2に示すように、3つの共振器11,12,13と、支持基板14,15と、を備えている。
【0032】
(共振器11,12,13)
共振器11,12,13の各々は、それぞれ、共振領域が一対の広壁と、狭壁として機能するポスト壁と、により取り囲まれている。以下においては、まず、共振器11を例にして共振器の構成について説明し、その後、共振器12,13について簡単に説明する。
【0033】
共振器11は、ブロック111と、広壁112,113と、ポスト壁114とを備えている。なお、図1においては、後述する開口115,116を見やすくするために、ポスト壁114などの一部の図示を省略している。この点については、共振器12及び共振器13も同様である。
【0034】
ブロック111は、誘電体材料製の直方体状の塊である。ブロック111を構成する誘電体材料は、限定されないが、誘電損失が小さな誘電体材料を採用することが好ましい。誘電損失が小さな誘電体材料の例としては、石英ガラス、水晶、及び液晶ポリマー樹脂が挙げられる。本実施形態においては、ブロック111を構成する誘電体材料として石英ガラスを用いる。
【0035】
広壁112,113は、ブロック111の一対の主面に形成された一対の広壁である。広壁112,113は、導体材料製の板状部材である。広壁112,113の厚さは、適宜定めることができる。広壁112,113を構成する導体材料は、限定されないが、導電率が高い導電体であることが好ましい。導電率が高い導電体の例としては、銅及びアルミニウムが挙げられる。本実施形態においては、広壁112,113を構成する導体材料として銅を用いる。
【0036】
ポスト壁114は、ブロック111の内部に柵状に設けられたn本の導体ポスト114iにより構成されている。なお、nは、任意の正の整数であり、共振領域を平面視した場合、サイズなどに応じて適宜定めることができる。また、iは、1≦i≦nの整数である。また、隣接する導体ポスト114iと導体ポスト114i+1との間隔は、フィルタ装置10の動作帯域に含まれる高周波に対して、ポスト壁114が仮想的な導体壁として機能する範囲内において適宜定めることができる。
【0037】
共振器11において、広壁113には開口115が形成されており、且つ、共振器13と隣接する広壁112には開口116が形成されている。開口115,116の各々は、それぞれ、共振器11の外部と、ブロック111の共振領域とを電磁気的に結合させる結合窓として機能する。本実施形態において、開口115,116の各々は、広壁112,113を平面視した場合に一致する領域に形成されている。しかし、開口115,116の各々を形成する位置は、広壁112,113を平面視した場合に、ポスト壁114により取り囲まれている領域内であれば限定されず、適宜定めることができる。
【0038】
共振器12は、共振器11と同一に構成されている。すなわち、共振器12のブロック121、広壁122,123、ポスト壁124、及び開口125,126の各々は、それぞれ、共振器11のブロック111、広壁112,113、ポスト壁114、及び開口115,116と同一に構成されている。したがって、本実施形態では、共振器12に関する説明を省略する。
【0039】
共振器13は、共振器11と同様に構成されている。すなわち、共振器13のブロック131、広壁132,133、ポスト壁134、開口135,136の各々は、それぞれ、共振器11のブロック111、広壁112,113、ポスト壁114、及び開口115,116に対応する。ただし、共振器13は、共振器11と比較して、開口136の形成されている位置が異なる。共振器13においては、開口135,136が、何れも、広壁133に形成されている。
【0040】
なお、後述するように、共振器11と共振器13とは、開口116及び開口135を介して電磁気的に結合され、共振器12と共振器13とは、開口126及び開口136を介して電磁気的に結合される。ただし、開口116及び開口135の各々の形状は、限定されず、それぞれが異なっていてもよい。しかし、開口116及び開口135における反射損失を低減するためには、開口116及び開口135の各々の形状が同一であることが好ましい。同様に、開口126及び開口136の各々形状は、限定されないが、同一(換言すれば合同)であることが好ましい。本実施形態においては、開口116、開口135、開口126、及び開口136の形状は、同一である。
【0041】
フィルタ装置10において、共振器11,12,13は、2つの層L1,L2の層内に配置されている。具体的には、下層である層L1の層内に共振器11,12が配置されており、上層である層L2の層内に共振器13が配置されている。換言すれば、共振器13は、共振器11,12の上方に積み上げられている。
【0042】
なお、本実施形態のフィルタ装置10では、最初段の共振器11と、最後段の共振器12との間に1つの共振器13を介在させる構成を採用している。しかし、共振器11と共振器12との間に介在させる共振器の数は、限定されるものではなく、2つであってもよいし、3つ以上であってもよい。共振器11と共振器12との間に複数の共振器を介在させる場合、これらの複数の共振器は、層L2内に全て配置されていてもよいし、層L1以外の複数の層内に配置されていてもよい。すなわち、本発明の一実施形態において、複数の共振器が配置されている層の層数は、2層に限定されず、適宜設定することができる。
【0043】
また、同一層(例えば層L2)内に複数の共振器を配置し、隣接する共振器同士を電磁気的に結合する場合、隣接する共振器同士を隔てるポスト壁を共通とし、該ポスト壁を構成する導体ポストの一部を省略することによって、その構成を実現することができる。
【0044】
また、本実施形態では、ブロック111の内部に柵状に設けられた複数の導体ポスト114iからなるポスト壁114を共振器11の狭壁として用いている。しかし、共振器11の狭壁は、ポスト壁114に限定されず、ブロック111の側面に形成した導体材料製の層状部材を狭壁として用いてもよい。
【0045】
(支持基板14,15)
支持基板14,15は、上述した層L1,L2の層数(本実施形態では2層)に対応した数の板状部材(本実施形態では2枚)である。以下においては、まず、支持基板14を例にして支持基板の構成について説明し、その後、支持基板15について簡単に説明する。
【0046】
支持基板14は、板状部材141と、層状部材142,143と、を備えている。板状部材141は、誘電体材料製である。板状部材141を構成する誘電体材料は、限定されないが、共振器11,12,13を構成するブロックと比較して、安価な誘電体材料であることが好ましい。後述するように支持基板14は、共振器11,12を支持する基板であり、高周波の伝送にはあまり関与しない。したがって、支持基板14の構成材料を選択する場合には、誘電損失の小ささよりも価格の安さを重視することが好ましい。安価な誘電体材料の例としては、ポリイミド樹脂及びガラスエポキシ樹脂が挙げられる。本実施形態においては、板状部材141を構成する誘電体材料としてポリイミド樹脂を用いる。
【0047】
また、層状部材142,143は、板状部材141の一対の主面に形成された、導体材料製の一対の層状部材である。層状部材142,143は、共振器11の広壁112,113と同様に構成されている。本実施形態においては、層状部材142,143を構成する導体材料として銅を用いる。
【0048】
以上のように、支持基板14は、層状部材143、板状部材141、及び層状部材142がこの順番で積層された積層基板である。なお、支持基板14の厚さは、限定されないが、共振器11の厚さと同程度であることが好ましい。本実施形態において、支持基板14の厚さは、共振器11の厚さと同一である。また、支持基板14の形状及び大きさは、限定されるものでなく、取り扱いが容易になるように適宜定めればよい。本実施形態の支持基板14は、平面視した場合に長方形状である。
【0049】
そのうえで、支持基板14には、2つの凹部14a,14bが互いに隣接して形成されている。凹部14aは、共振器11を埋設するための凹部である。本実施形態において、凹部14aは、共振器11を包含する形状及びサイズを有する。本実施形態において、凹部14aは、層状部材142から層状部材143まで貫通する貫通孔であり、平面視において長方形状の貫通孔である。また、凹部14bは、共振器12を埋設するための凹部であり、形成されている位置を除いて、凹部14aと同一に構成されている。
【0050】
なお、本実施形態において、支持基板14には、凹部14a,14bが形成されているが、凹部14a,14bをまとめて1つの凹部として形成することもできる。すなわち、図1及び図2示されている凹部14aと凹部14bとを隔てる隔壁は、省略することもできる。
【0051】
支持基板15は、形成されている凹部の数及び凹部が形成されている位置を除いて、支持基板14と同様に構成されている。すなわち、支持基板15が備えている板状部材151及び層状部材152,153の各々は、それぞれ、支持基板14が備えている板状部材141及び層状部材142,143に対応する。
【0052】
そのうえで、支持基板15には、1つの凹部15aが形成されている。凹部15aは、共振器13を埋設するための凹部である。本実施形態において、凹部15aは、共振器13を包含する形状及びサイズを有する。また、凹部15aは、平面視において、凹部14a及び凹部14bの両領域にまたがって形成されている。
【0053】
より具体的には、凹部14a,14b及び凹部15aの各々は、平面視において、共振器11の開口116と、共振器13の開口135とが一致し、共振器12の開口126と、共振器13の開口136とが一致するように、それぞれの位置が定められている。
【0054】
(各共振器の支持基板への埋設及び支持基板同士の接合)
図1及び図2に示すように、共振器11,12の各々は、凹部14a,14b,15aのうちの凹部14a,14bに、それぞれ、埋設されると共に、凹部14a,14bに固定されている。共振器11を凹部14aの内壁に固定するために用いる固定手段は、限定されないが、本実施形態では、樹脂材料により構成された接着剤を用いている。接着剤144は、共振器11を凹部14aに固定し、接着剤145は、共振器12を凹部14bに固定し、接着剤154は、共振器13を凹部15aに固定している。接着剤144,145,154は、市販されている接着剤のなかから所望の特性に応じて適宜選択すればよい。
【0055】
なお、本実施形態において、共振器11,12の各々は、開口116と、開口126とが互いに近接する向きで、それぞれ、凹部14a,14bに埋設されている。このように共振器11,12を埋設することによって、共振器11と共振器12との間に介在する共振器13の大きさを、共振器11,12と同様の大きさに保つことができる。一方、共振器11と共振器12との間に2つの共振器を介在させる場合には、開口116と、開口126とが互いに離間する向きで、共振器11,12の各々を凹部14a,14bに埋設してもよい。
【0056】
そのうえで、支持基板14と支持基板15とは、支持基板14及び支持基板15の主面の法線方向に沿って積層されている(図2参照)。以下において、上記法線方向を積層方向とも呼ぶ。したがって、支持基板14と支持基板15とは、積層方向に沿って隣接している。
【0057】
なお、支持基板14と支持基板15とは、層状部材142と、層状部材153との間にできるだけ隙間が生じないように導電性接合部材を用いて接合されていることが好ましい。なお、図1及び図2においては、導電性接合部材の図示を省略している。導電性接合部材の例としては、半田及び導電性ペーストが挙げられる。本実施形態では、導電性接合部材として半田を用いている。
【0058】
また、支持基板14と支持基板15とを導電性接合部材ではなく、樹脂製の接着剤などに代表される非導電性接合部材を用いて接合する場合には、支持基板14が備えている層状部材142,143、及び、支持基板15が備えている層状部材152,153のうち少なくとも何れかを省略してもよい。
【0059】
(共振器同士の結合)
このように構成されたフィルタ装置10において、層L1及び層L2の積層方向(支持基板14及び支持基板15の主面の法線方向)に沿って隣接している共振器11,13同士は、開口の対である開口116及び開口135を介して電磁気的に結合している。同様に、層L1及び層L2の積層方向に沿って隣接している共振器12,13同士は、開口の対である開口126及び開口136を介して電磁気的に結合している。したがって、フィルタ装置10は、3段の共振器結合型のフィルタ(具体的にはバンドパスフィルタ)として機能する。
【0060】
なお、共振器11に設けられた開口115及び共振器12に設けられた開口125の各々は、それぞれ、フィルタ装置10の入出力ポートとして機能する。開口115,125の各々には、別の導波路を電磁気的に結合させることができる。なお、別の導波路の態様は、限定されないが、その例としてはポスト壁導波路が挙げられる。
【0061】
また、共振器11と上述した別の導波路とを電磁気的に結合させるための構成は、開口115に限定されず、適宜選択することができる。開口125についても同様である。
【0062】
(フィルタ装置10の効果)
フィルタ装置10は、電磁気的に結合され、且つ、複数の層(層L1,L2)内に配置されている複数の共振器11,12,13を備えている共振器結合型のフィルタ装置である。フィルタ装置10は、層L1,L2の層数(本実施形態では2層)に対応した数(すなわち2枚)の支持基板14,15であって、1又は複数の凹部(凹部14a,14b及び凹部15a)がそれぞれに形成された支持基板14,15を更に備えている。
【0063】
共振器11,12,13の各々は、凹部14a,14b,15aに埋設されると共に凹部14a,14b,15aに固定されている。
【0064】
上記の構成によれば、共振器11,12,13が複数の層(層L1,L2)内に配置されており、且つ、共振器11,12,13の各々が、複数の支持基板14,15のいずれかに固定されている。したがって、フィルタ装置10の製造工程(図6の(a)を参照して後述する製造方法M10)においては、特許文献1に記載のフィルタ装置の製造工程と比較して、共振器11,12,13の各々を、容易に取り扱うことができる。すなわち、フィルタ装置10は、共振器11,12,13が複数層(層L1,L2)内に配置されている共振器結合型のフィルタ装置であって、製造時における共振器11,12,13の取り扱いが従来よりも容易なフィルタ装置である。
【0065】
フィルタ装置10において、共振器11,12,13は、誘電体材料製のブロック111,121,131と、ブロック111,121,131の一対の主面に形成された、導体材料製の一対の広壁112,113,122,123,132,133と、ブロック111,121,131の内部に柵状に設けられた複数の導体ポスト114i,124j,134kからなる狭壁(ポスト壁114,124,134)と、を備えている。また、狭壁は、ポスト壁114,124,134の代わりに、ブロック111,121,131の側面に形成された、導体材料製の層状部材であってもよい。
【0066】
上記の構成によれば、共振領域が誘電体材料により構成されている共振器11,12,13を容易に製造することができる。特に、狭壁がポスト壁114,124,134からなる場合、ブロック111,121,131の側面を導体材料により覆う必要がない。したがって、狭壁がポスト壁114,124,134からなる場合、共振器11,12,13を更に容易に製造することができる。
【0067】
フィルタ装置10において、共振器11,12,13のうち層L1,L2の積層方向に沿って隣接している共振器同士(例えば共振器11及び共振器13)は、各々の上記一対の広壁(例えば広壁112,113及び広壁122,123)のうち一方の広壁(例えば広壁112及び広壁133)に設けられた開口の対(例えば開口116,135)を介して、電磁気的に結合している。
【0068】
上記の構成によれば、積層方向に沿って隣接している共振器同士(例えば共振器11及び共振器13)を、容易且つ確実に、電磁気的に結合させることができる。
【0069】
<第1の変形例>
図1及び図2に示したフィルタ装置10においては、3個の共振器11,12,13を2層の層L1,L2内に配置していた。しかし、フィルタ装置10においては、共振器の数及び共振器を配置する層の層数は、適宜定めることができる。
【0070】
フィルタ装置10の第1の変形例であるフィルタ装置10Aは、図3に示すように、5個の共振器11A,12A,11B,12B,13を備え、これらの共振器11A,12A,11B,12B,13が3層の層L1,L2,L3に配置されている。
【0071】
なお、フィルタ装置10Aにおいて、層L1を構成する支持基板14A及び共振器11A,12Aと、層L3を構成する支持基板14B及び共振器11B,12Bとは、何れも、図1及び図2に示したフィルタ装置10の支持基板14及び共振器11,12と同一である。また、フィルタ装置10Aにおいて、層L2を構成する支持基板15及び共振器13は、図1及び図2に示したフィルタ装置10の支持基板15及び共振器13と同一である。
【0072】
<第2の変形例>
図1及び図2に示したフィルタ装置10においては、支持基板14の層状部材142と、支持基板15の層状部材153とを、半田を用いて接合していた。しかし、フィルタ装置10の一変形例においては、支持基板14と支持基板15との間に介在する層間基板を更に備えていてもよい。
【0073】
フィルタ装置10の第2の変形例であるフィルタ装置10Bは、図4に示すように、積層方向に沿って隣接している支持基板14と支持基板15との間に介在する層間基板16を更に備えている。
【0074】
層間基板16は、板状部材161と、一対の層状部材162,163と、ポスト壁164,165と、を備えている。
【0075】
板状部材161は、誘電体材料製である。板状部材161を構成する誘電体材料は、適宜選択することができる。例えば、誘電損失をコストよりも重視する場合、石英ガラスなどの誘電損失が小さな誘電体材料を板状部材161に用いればよく、コストを誘電損失よりも重視する場合、ポリイミドなど安価な誘電体材料を板状部材161に用いればよい。
【0076】
層状部材162,163は、板状部材161の一対の主面に形成された一対の層状部材であって、導体材料製の一対の層状部材である。層状部材162,163は、層状部材142,143,152,153と同様に構成されている。
【0077】
以上のように構成された層間基板16は、板状部材161が中間層を形成し、層状部材162,163が表面層を形成する積層基板である。
【0078】
ポスト壁164,165は、共振器11のポスト壁114などと同様に、板状部材161の内部に柵状に設けられた複数の導体ポストにより構成されている。ポスト壁114,124,134は、第1の導体ポスト群の一例であり、ポスト壁164,165は、第2の導体ポスト群の一例である。
【0079】
ポスト壁164は、層間基板16のうち、平面視において、開口の対である開口116,135を取り囲む領域に配置されており、一種の狭壁として機能する。同様に、ポスト壁165は、層間基板16のうち、平面視において、開口の対である開口126,136を取り囲む領域に配置されており、一種の狭壁として機能する。
【0080】
支持基板14の層状部材142と、層間基板16の層状部材163とは、フィルタ装置10の場合と同様に、半田を用いて接合されている。同様に、支持基板15の層状部材153と、層間基板16の層状部材162とは、半田を用いて接合されている。
【0081】
上記の構成によれば、支持基板14,15同士の間に層間基板16が介在することによって、共振器11,12,13の各々を、それぞれ、対応する凹部14a,14b,15に固定する工程が容易になる。したがって、フィルタ装置10Bは、層間基板16を備えていないフィルタ装置(例えばフィルタ装置10,10A)よりも容易に製造することができる。
【0082】
また、フィルタ装置10Bにおいて、支持基板14,15の一対の主面には導体材料製の一対の層状部材である層状部材142,143,152,153が形成されており、層間基板16の一対の主面には、導体材料製の一対の層状部材162,163が形成されている。
【0083】
積層方向に沿って隣接している支持基板(例えば支持基板14)と、層間基板(例えば層間基板16)とは、半田を用いて接合されている。
【0084】
上記の構成によれば、支持基板(例えば支持基板14)の一対の主面、及び、1又は複数の上記層間基板(例えば層間基板16)の一対の主面に形成された層状部材同士(例えば層状部材142と層状部材163と)を、確実に短絡するとともに固定することができる。
【0085】
<第3の変形例>
図1及び図2に示したフィルタ装置10の第3の変形例であり、図4に示したフィルタ装置10Bの変形例でもあるフィルタ装置10Cは、外部からの電気的な制御信号に応じて共振器11C,12C,13Cの静電容量を変化させる可変機構を備えている。本変形例では、その可変機構について、図5を参照して説明する。図5は、フィルタ装置10Cの断面図である。
【0086】
なお、フィルタ装置10Cは、フィルタ装置10Bの構成をベースにし、共振器11,12,13を共振器11C,12C,13Cに置換し、層間基板16を層間基板16Cに置換することによって得られる。したがって、本変形例では、共振器11C,12C,13C及び層間基板16Cの可変機構に関する部分について主に説明する。また、共振器11C,12C,13Cの各々が備えている可変機構は、同様に構成されている。したがって、本変形例では、共振器11Cを例にして可変機構について説明する。
【0087】
共振器11Cは、図5に示すように、共振器11の構成に加えて、導体ポスト117と、パッド118と、バラクタダイオード119と、を備えている。
【0088】
導体ポスト117は、ポスト壁114を構成する各導体ポスト114iと同様に構成された導体ポストである。しかし、各導体ポスト114iとは配置されている場所が異なり、平面視において、共振器11Cの共振領域の中央に配置されている。
【0089】
また、層状部材142のうち、平面視において導体ポスト117を取り囲む領域には、円環状に導体材料が除去されたアンチパッドが形成されている。その結果、層状部材142のうち、平面視において導体ポスト117を取り囲む領域には、導体材料製であり、且つ、円形状であるパッド118が形成されている。
【0090】
パッド118と層状部材142との間には、図5に示すように、バラクタダイオード119が実装されている。共振器11Cにおいては、パッド118に印加する電圧を、外部から供給する電気的な制御信号を用いて制御することによって、バラクタダイオード119に印加する逆電圧を制御することができる。結果として、共振器11Cは、制御信号を用いて、その共振周波数を変化させることができる。
【0091】
なお、共振器11Cの共振周波数を変化させるための可変機構は、上述した構成に限定されるものではない。例えば、非特許文献Kamran Entesari, el al., "Tunable SIW Structures", IEEE microwave magazine, PP34-54, June, 2015の図1の(a)〜(f)に示されている可変機構を本変形例に適用することもできる。すなわち、可変機構は、上述したバラクタダイオードの代わりにスイッチを用いてもよい。
【0092】
また、層間基板16Cは、層間基板16が備えている板状部材161を、板状部材161Cに置換することによって得られる。板状部材161Cは、図5に示すように、層状部材1611と、板状部材1612,1613とにより構成されている。
【0093】
層状部材1611は、導体材料製である。また、板状部材1612,1613は、層状部材1611の一対の主面に形成された一対の板状部材であって、誘電体材料製である。板状部材161Cは、板状部材1613と、層状部材1611と、板状部材1612と、をこの順番で積層することによって得られる。
【0094】
なお、層間基板16Cのうち、平面視において、開口116,135を包含する領域には、貫通孔166が形成されており、開口126,136を包含する領域には、貫通孔167が形成されている。したがって、板状部材161Cの内部に層状部材1611が設けられている場合であっても、共振器11Cと共振器13Cとを電磁気的に結合させることができ、共振器12Cと共振器13Cとを電磁気的に結合させることができる。
【0095】
図5には図示されていないものの、層状部材1611には、バラクタダイオード119に上述した制御信号を供給するための制御信号線が形成されている。本実施形態において、制御信号線は、層状部材1611をパターニングすることによって形成されている。制御信号線は、自身を挟み込むように残された層状部材1611とともにコプレナー線路を構成する。なお、制御信号線は、上述した構成に限定されず、板状部材161Cに設けられた信号線であればよい。
【0096】
また、本変形例では、板状部材161Cを構成する導体材料製の層状部材が一層であるため、(1)共振器11Cのバラクタダイオード119、及び、共振器12Cのバラクタダイオード129の各々を制御するための制御信号線と、(2)共振器13Cのバラクタダイオード139を制御するための制御信号線とが、何れも層状部材1611と同じ層内に形成されている。しかし、板状部材161Cを構成する導体材料製の層状部材が複数層ある場合、上述した、(1)の制御信号線と、(2)の制御信号線とを、異なる層状部材の層内に形成してもよい。
【0097】
また、この場合、(1)の制御信号線を形成する層と、(2)の制御信号線を形成する層と間に、更なる導体材料製の層状部材を形成してもよい。この構成によれば、(1)の制御信号線と、(2)の制御信号線との間に生じ得るクロストークを低減することができる。
【0098】
(フィルタ装置10Cの効果)
以上のように、フィルタ装置10Cは、積層方向に沿って隣接している支持基板同士(支持基板14と支持基板15)の間に介在する、層間基板(16C)を更に備え、共振器11C,12C,13Cの各々の上記一対の広壁のうち、少なくとも一方の広壁(層状部材142及び層状部材153)には、外部からの電気的な制御信号に応じて該共振器の静電容量を変化させるバラクタダイオード119,129,139が配置されている。
【0099】
層間基板(16C)には、制御信号をバラクタダイオード119,129,139に供給する制御信号線が形成されている。
【0100】
上記の構成によれば、共振器11C,12C,13Cの各々の共振周波数を、外部から制御することができる。したがって、外部からの制御に応じて、フィルタ装置の通過帯域を変化させることができる。
【0101】
また、上記の構成によれば、共振器11C,12C,13Cの形状及びサイズを同一に構成した場合であっても、外部からの制御に応じて、共振器11C,12C,13Cの各々の共振周波数を異ならせることができる。したがって、共振器11C,12C,13Cの各々の共振周波数を、設計変更等を伴うことなく容易に最適化することができる。
【0102】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係るフィルタ装置の製造方法M10について、図6を参照して説明する。なお、以下において、フィルタ装置の製造方法M10のことを単に製造方法M10とも称する。図6の(a)は、製造方法M10フローチャートである。図6の(b)は、製造方法M10に含まれる共振器形成工程S1のフローチャートである。
【0103】
製造方法M10は、図1及び図2に示したフィルタ装置10を好適に製造することができる。製造方法M10は、図6の(a)に示すように、共振器形成工程S12と、凹部形成工程S14と、固定工程S16と、積層工程S18と、を含んでいる。
【0104】
共振器形成工程S12は、図6の(b)に示すように、貫通孔形成工程S121と、導体壁形成工程S122と、開口形成工程S123と、切り出し工程S124と、を含んでいる。
【0105】
貫通孔形成工程S121は、誘電体材料製(本実施形態では石英ガラス製)の母基板の内部に、且つ、平面視において複数の共振器11,12,13の各共振領域を取り囲むように、複数の貫通孔を形成する工程である。貫通孔形成工程S121において、これらの複数の貫通孔の各々は、それぞれ、複数の導体ポスト114i,124j,134kに対応する位置に形成される。すなわち、複数の貫通孔は、母基板の内部に柵状に形成される。
【0106】
導体壁形成工程S122は、貫通孔形成工程S121において複数の貫通孔が形成された母基板の一対の主面及び複数の貫通孔の内壁に導体材料製の層状部材を形成することによって、各共振器11,12,13の共振領域を取り囲む導体壁を形成する工程である。具体的には、導体壁形成工程S122は、複数の貫通孔の内壁に導体材料製の層状部材を形成することによって、狭壁として機能するポスト壁114,124,134を形成するとともに、母基板の一対の主面に導体材料製の一対の層状部材を形成することによって一対の広壁を形成する工程である。ここで形成された一対の広壁は、後述する切り出し工程S124において各共振器11,12,13が切り出されることによって、上述した広壁112,113,122,123,132,133となる。なお、本実施形態において、ポスト壁114,124,134及び一対の広壁を1つの工程でまとめて形成している。しかし、ポスト壁114,124,134及び一対の広壁の各々は、別個の工程に分けて形成することもできる。
【0107】
なお、共振器11,12,13は、ポスト壁導波路の一態様でもあるため、導体壁形成工程S122としては、既存のポスト壁導波路を製造するための技術を適宜利用することができる。
【0108】
開口形成工程S123は、導体壁形成工程S122において形成された一対の広壁のうち、各共振器11,12,13の開口115,116,125,126,135,136に対応する位置に開口を形成する工程である。一対の広壁に開口115,116,125,126,135,136に対応する開口を形成する手法は、限定されるものではなく、適宜選択することができる。
【0109】
切り出し工程S124は、母基板から複数の共振器11,12,13の各々を切り出す工程である。母基板から各共振器11,12,13を切り出す方法は、限定されないが、例えばダイシングソーを好適に用いることができる。
【0110】
凹部形成工程S14は、支持基板14に凹部14a,14bを形成し、且つ、支持基板15に凹部15aを形成する工程である。凹部形成工程S14において、支持基板14,15に凹部14a,14b,15aを形成する手法は、限定されるものではなく、適宜選択することができる。
【0111】
固定工程S16は、支持基板14に形成された凹部14a,14bの各々に、それぞれ、共振器11,12の各々を埋設すると共に固定し、且つ、支持基板15に形成された凹部15aに共振器13を埋設すると共に固定する工程である。本実施形態では、接着剤144,145,154の各々を用いて、共振器11,12,13の各々をそれぞれ凹部14a,14b,15aに固定する。
【0112】
積層工程S18は、支持基板14,15を積層することによって、層L1内に配置されている共振器11,12の各々と、層L2内に配置されている共振器13とを、電磁気的に結合する工程である。すなわち、異なる層内に配置されている共振器同士を電磁気的に結合する工程である。本実施形態の積層工程S18では、導電性接合部材の一例である半田を用いて支持基板14と支持基板15とを接合する。
【0113】
以上のように構成された製造方法M10は、図1及び図2に示したフィルタ装置10と同様の効果を奏する。
【0114】
また、誘電体材料の小片を用いた共振器の構成としては、以下の2つの構成が考えられる。第1の構成は、共振器11,12,13のように誘電体材料の小片を用い、その小片の一対の主面に一対の広壁を形成し、且つ、誘電体材料の小片の内部にポスト壁114,124,134を形成した構成である。第2の構成は、特許文献1に記載されているように誘電体材料の小片を用い、その小片の全ての表面(すなわち、一対の主面及び側面)を覆うように導体材料製の層状部材を形成した構成である。
【0115】
第2の構成を採用した場合、母基板から小片を切り出したうえで、小さいために取り扱いが難しい小片の表面に導体材料製の層状部材を形成することが求められる。一方、第1の構成を採用した場合、切り出し工程S124により母基板から各共振器11,12,13を切り出した段階で各共振器11,12,13が完成している。そのため、取り扱いが難しい小片に対して更なる加工を施す必要がない。以上のように、フィルタ装置10がポスト壁114,124,134を峡壁として用いた共振器11,12,13を備えていることによって、換言すれば、製造方法M10が共振器形成工程S12を含むことによって、第2の構成と比較して、容易に共振器11,12,13を形成することができる。
【0116】
<製造方法の変形例>
図6に示した製造方法M10の変形例である製造方法M10Aについて、図7を参照して説明する。図7は、製造方法M10Aのフローチャートである。
【0117】
製造方法M10Aは、図5に示したフィルタ装置10Cを好適に製造することができる。製造方法M10Aは、図7に示すように、共振器形成工程S12と、層間基板形成工程S13と、凹部形成工程S14と、固定工程S16と、実装工程S17と、積層工程S18と、を含んでいる。
【0118】
製造方法M10Aが含んでいる凹部形成工程S14、固定工程S16、及び積層工程S18は、製造方法M10の凹部形成工程S14、固定工程S16、及び積層工程S18と同様である。したがって、本実施形態では、共振器形成工程S12、層間基板形成工程S13、及び実装工程S17について説明する。
【0119】
製造方法M10Aの共振器形成工程S12は、製造方法M10の共振器形成工程S12と比較して、上述した共振周波数の可変機構の一部を構成する導体ポスト117,127,137及びパッド118,128,138を、形成する点が異なる。
【0120】
共振器11Cを例にして説明すれば、導体ポスト117は、形成されている位置が導体ポスト114iと異なるものの、物理的な構成は、導体ポスト114iと同一である。したがって、導体ポスト117は、上述した導体壁形成工程S122において各導体ポスト114iと同じプロセスを用いて、容易に形成することができる。
【0121】
パッド118は、層状部材142の一部に円環状のアンチパッドを形成することによって形成することができる。したがって、層状部材142の一部に開口116,126を形成するときに、同じプロセスを用いてアンチパッドを形成することによって、パッド118を形成することができる。
【0122】
層間基板形成工程S13においては、層状部材1611と、板状部材1612と、層状部材162とがこの順番で積層された積層基板(以下において両面板と称する)と、層状部材163と、板状部材1613とがこの順番で積層された積層基板(以下において片面板と称する)とを用いる。
【0123】
まず、両面板において、この層状部材1611をパターニングすることによって、第3の変形例において記載した制御信号線を形成する。また、平面視した場合に、バラクタダイオード139に対応する領域と、開口116,135に対応する領域と、開口126,136に対応する領域とに、両面板を貫通する貫通孔を形成する。
【0124】
次に、片面板において、平面視した場合に、バラクタダイオード119,129に対応する領域と、開口116,135に対応する領域と、開口126,136に対応する領域とに、片面板を貫通する貫通孔を形成する。
【0125】
そのうえで、両面板の層状部材1611と、片面板の板状部材1613とが対向した状態で、両面板と片面板とを接合する。以上の工程により、層間基板が形成される。
【0126】
実装工程S17は、バラクタダイオード119を、支持基板14の凹部14aに固定された共振器11Cに実装し、バラクタダイオード129を、支持基板14の凹部14bに固定された共振器12Cに実装し、バラクタダイオード139を、支持基板15の凹部15aに固定された共振器13Cに実装する工程である。具体的には、半田を用いて、バラクタダイオード119の両端に設けられた電極の各々を、それぞれ、パッド118及び広壁112に接合し、バラクタダイオード129の両端に設けられた電極の各々を、それぞれ、パッド128及び広壁122に接合し、バラクタダイオード139の両端に設けられた電極の各々を、それぞれ、パッド138及び広壁133に接合する。
【0127】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0128】
10,10A,10B,10C フィルタ装置
L1,L2 層
11,12,13,11C,12C,12C 共振器
114,124,134 ポスト壁(第1の導体ポスト群)
114i,124j,134k 導体ポスト
115,116,125,126,135,136 開口
119,129,139 バラクタダイオード
14,15,14A,14B 支持基板
14a,14b,15a 凹部
16,16C 層間基板
164,165 ポスト壁(第2の導体ポスト群)
166,167 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7