(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、引張変形やクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の結晶方位を測定して歪み量を推定する場合には、析出硬化型アルミニウム合金部材から試料を採取した後に機械研磨や化学研磨等することにより試料調整して結晶方位測定が行われる。このような場合には、研磨等の試料調整による測定面の状態にばらつきが生じ易く、析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量の推定精度が低下する可能性がある。
【0005】
そこで本発明の目的は、析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量の推定精度をより向上させることが可能な析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定方法及び歪み量推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定方法は、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材を熱分析し、発熱ピークの発熱ピークトップ温度を測定する熱分析工程と、前記引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の発熱ピークトップ温度と、予め求めておいた前記引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知の引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材における引張歪み量及び発熱ピークトップ温度の関係と、を比較して、前記引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の引張歪み量を推定する歪み量推定工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定方法において、前記歪み量推定工程は、前記引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の発熱ピークトップ温度の変化量と、予め求めておいた前記引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知の引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材における引張歪み量及び発熱ピークトップ温度の変化量の関係と、を比較して、前記引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の引張歪み量を推定することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定方法において、前記熱分析工程は、前記発熱ピークトップ温度を示差走査熱量測定で測定することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定方法は、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材を熱分析し、吸熱ピークの吸熱ピークトップ温度を測定する熱分析工程と、前記クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の吸熱ピークトップ温度と、予め求めておいた前記クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知のクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材におけるクリープ歪み量及び吸熱ピークトップ温度の関係と、を比較して、前記クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材のクリープ歪み量を推定する歪み量推定工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定方法において、前記歪み量推定工程は、前記クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の吸熱ピークトップ温度の変化量と、予め求めておいた前記クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知のクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材におけるクリープ歪み量及び吸熱ピークトップ温度の変化量の関係と、を比較して、前記クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材のクリープ歪み量を推定することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定方法において、前記熱分析工程は、前記吸熱ピークトップ温度を示差走査熱量測定で測定することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定装置は、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材を熱分析し、発熱ピークの発熱ピークトップ温度を測定する熱分析手段と、前記引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の発熱ピークトップ温度と、予め求めておいた前記引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知の引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材における引張歪み量及び発熱ピークトップ温度の関係と、を比較して、前記引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の引張歪み量を推定する歪み量推定手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定装置は、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材を熱分析し、吸熱ピークの吸熱ピークトップ温度を測定する熱分析手段と、前記クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の吸熱ピークトップ温度と、予め求めておいた前記クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知のクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材におけるクリープ歪み量及び吸熱ピークトップ温度の関係と、を比較して、前記クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材のクリープ歪み量を推定する歪み量推定手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記構成によれば、熱分析により析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量を推定するので、析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量の推定精度をより向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定方法を示すフローチャートである。析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定方法は、熱分析工程(S10)と、歪み量推定工程(S12)と、を備えている。
【0017】
析出硬化型アルミニウム合金部材は、例えば、船舶用過給機、発電機、車両用過給機に用いられるコンプレッサインペラ等の展伸部材や鋳造部材である。このような析出硬化型アルミニウム合金部材は、例えば、過給機等の装置の運転中に、約100℃から約200℃で熱曝露されており、引張変形やクリープ変形する場合がある。
【0018】
析出硬化型アルミニウム合金部材は、JIS規格等の析出硬化型アルミニウム合金で形成されているとよい。析出硬化型アルミニウム合金は、溶体化処理した後に時効処理することにより、析出物を析出させて強化させたアルミニウム合金である。析出硬化型アルミニウム合金部材は、例えば、Al−Cu系合金、Al−Cu−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金、Al−Zn−Mg系合金、Al−Zn−Mg−Cu系合金等(2000系、6000系、7000系、AC1B、AC4A、AC4C、AC4CH等)で形成されている。
【0019】
熱分析工程(S10)は、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材を熱分析し、発熱ピークの発熱ピークトップ温度を測定する工程である。
図2は、析出硬化型アルミニウム合金部材の熱分析曲線を示すモデル図である。
図2のグラフでは、横軸に温度を取り、縦軸に熱量を取り、温度に対する熱量の変化を実線で模式的に示している。発熱ピークトップ温度T1は、発熱ピークの中で最も熱量が大きい時の温度のことである。
【0020】
後述する実施例で示すように、発熱反応を示す発熱ピークの発熱ピークトップ温度と、引張変形による引張歪み量とは、相関関係があることを明らかにした。より詳細には、発熱ピークの発熱ピークトップ温度は、引張歪み量が大きくなるほど、低温側にシフトする傾向が得られた。この理由は、引張変形のような歪み速度が大きい塑性変形等の場合には、転位は、強化析出相(GPゾーン、GPBゾーン等)をカッティングすることにより通過して結晶粒内に存在していると考えられる。なお、一般的な引張変形時の歪み速度は、例えば、1×10
−4S
−1から1×10
−2S
−1である。このような変形メカニズムを示す場合、結晶粒内に存在している転位は、不均一核生成サイト等の核生成サイトとなって安定相(S相等)の析出を促進すると考えられる。一方、引張変形していない場合や、引張歪み量が小さい場合には、結晶粒内には殆ど転位が存在しないことから、核生成サイトが少なくなり、安定相(S相等)が析出し難くなる。このように、引張歪み量が大きくなるほど、結晶粒内に存在する転位の量が多くなり、転位の存在により安定相(S相等)が析出し易くなって安定相(S相等)の析出反応が促進されるため、発熱ピークトップ温度が低温側にシフトすると考えられる。例えば、析出硬化型アルミニウム合金部材がAl−Cu−Mg系合金で形成されている場合には、引張歪み量が大きくなるほど、結晶粒内に存在する転位の量が多くなり、転位により安定相であるS相(Al
2CuMg)の析出反応が促進されると考えられる。
【0021】
また、後述する実施例で示すように、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の発熱ピークトップ温度から引張歪み量を推定することにより、引張歪み量が1%以下の微小な引張変形の場合でも、引張歪み量を精度よく推定できることを明らかにした。このように、引張歪み量が大きい場合だけでなく、引張歪み量が1%以下の微小な引張変形の場合でも、引張歪み量を精度よく推定することができるので、析出硬化型アルミニウム合金部材の引張損傷形態を特定することが可能となる。
【0022】
析出硬化型アルミニウム合金部材の熱分析は、示差走査熱量測定(DSC)で発熱ピークトップ温度を測定するとよい。示差走査熱量測定によれば、発熱ピークトップ温度を容易に測定することが可能となる。示差走査熱量測定には、一般的な示差走査熱量計等を用いることができる。
【0023】
歪み量推定工程(S12)は、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の発熱ピークトップ温度と、予め求めておいた引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知の引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材における引張歪み量及び発熱ピークトップ温度の関係と、を比較して、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の引張歪み量を推定する工程である。また、歪み量推定工程(S12)は、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の発熱ピークトップ温度の変化量と、予め求めておいた引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知の引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材における引張歪み量及び発熱ピークトップ温度の変化量の関係と、を比較して、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の引張歪み量を推定するとよい。
【0024】
予め引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知の引張変形を受けた析出硬化型アルミニウム合金部材の発熱ピークトップ温度を熱分析により求めて、例えば、引張歪み量及び発熱ピークトップ温度の変化量の関係を示すマスター曲線等を作成する。
図3は、引張歪み量の推定方法を示すモデル図である。
図3では、横軸に引張歪み量を取り、縦軸に発熱ピークトップ温度の変化量を取り、引張歪み量と、発熱ピークトップ温度の変化量との関係を実線で示している。例えば、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材における発熱ピークトップ温度の変化量がΔT1の場合には、引張歪み量がε1と推定される。なお、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材における発熱ピークトップ温度の変化量は、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の発熱ピークトップ温度と、引張変形していない析出硬化型アルミニウム合金部材の発熱ピークトップ温度との差から求めるとよい。引張変形していない析出硬化型アルミニウム合金部材には、受入れまま材を用いるとよい。
【0025】
また、異なる温度で引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の場合でも、同じマスター曲線から引張歪み量を推定することができる。例えば、異なる温度で引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の発熱ピークトップ温度の変化量がΔT1で同じである場合には、
図3のグラフから、異なる温度で引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の引張歪み量がε1と推定される。
【0026】
次に、析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定装置について説明する。
図4は、析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定装置10の構成を示すブロック図である。析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定装置10は、熱分析手段12と、制御手段14と、出力手段16と、を備えている。
【0027】
熱分析手段12は、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材を熱分析し、発熱ピークの発熱ピークトップ温度を測定する機能を有している。熱分析手段12は、示差走査熱量計等で構成することが可能である。
【0028】
制御手段14は、歪み量推定手段18と、記憶手段20と、を有している。制御手段14は、例えば、一般的なコンピュータシステム等により構成することが可能である。歪み量推定手段18は、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の発熱ピークトップ温度と、予め求めておいた引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知の引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材における引張歪み量及び発熱ピークトップ温度の関係と、を比較して、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の引張歪み量を推定する機能を有している。記憶手段20は、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の発熱ピークトップ温度や、予め求めておいた引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知の引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材における引張歪み量及び発熱ピークトップ温度の関係を示すマスター曲線等のデータを記憶する機能を有している。
【0029】
出力手段16は、推定された析出硬化型アルミニウム合金部材の引張歪み量等を出力する機能を有している。出力手段16は、ディスプレイやプリンタ等で構成することが可能である。
【0030】
以上、上記構成によれば、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材を熱分析し、発熱ピークトップ温度から引張歪み量を推定することにより、機械研磨等の試料調整が不要になるので、引張歪み量を精度よく推定することができる。また、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材から直接情報を得て引張歪み量を推定しているので、引張歪み量の推定精度が向上する。更に、上記構成によれば、発熱ピークトップ温度から引張歪み量を推定することにより、引張歪み量が1%以下の微小な引張変形の場合でも、引張歪み量を精度よく推定することができる。
【0031】
[第二実施形態]
本発明の第二実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図5は、析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定方法を示すフローチャートである。析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定方法は、熱分析工程(S20)と、歪み量推定工程(S22)と、を備えている。第二実施形態の析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定方法は、第一実施形態に対して、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材のクリープ歪み量を推定する点が相違している。
【0032】
熱分析工程(S20)は、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材を熱分析し、吸熱ピークの吸熱ピークトップ温度を測定する工程である。
図6は、析出硬化型アルミニウム合金部材の熱分析曲線を示すモデル図である。
図6のグラフでは、横軸に温度を取り、縦軸に熱量を取り、温度に対する熱量の変化を実線で模式的に示している。吸熱ピークトップ温度T2は、吸熱ピークの中で最も熱量が小さい時の温度のことである。
【0033】
後述する実施例で示すように、吸熱反応を示す吸熱ピークの吸熱ピークトップ温度と、クリープ変形のクリープ歪み量とは、相関関係があることを明らかにした。より詳細には、吸熱ピークトップ温度は、クリープ歪み量の増加に伴って低温側にシフトする傾向があることがわかった。この理由は、クリープ変形のように歪み速度が小さい塑性変形等の場合には、転位は、強化析出相(GPゾーン、GPBゾーン等)に堆積して強化析出相上に存在すると考えられる。なお、一般的なクリープ変形時の歪み速度は、例えば、1×10
−5S
−1以下である。このような変形メカニズムの場合には、堆積した転位により、強化析出相(GPゾーン、GPBゾーン等)の溶解を促進すると考えられる。これにより、クリープ歪み量が大きくなるほど、強化析出相上に堆積する転位の量が多くなり、強化析出相(GPゾーン、GPBゾーン等)の溶解が促進されるので、吸熱ピークトップ温度が低温側にシフトすると考えられる。一方、クリープ変形していない場合や、クリープ歪み量が小さい場合には、強化析出相上に堆積する転位が少ないため、強化析出相(GPゾーン、GPBゾーン等)の溶解を促進することが難しくなる。これにより、吸熱ピークトップ温度は、より高温側になると考えられる。例えば、析出硬化型アルミニウム合金部材がAl−Cu−Mg系合金で形成されている場合には、クリープ歪み量が大きくなるほど、強化析出相であるGPBゾーンに堆積する転位の量が多くなり、GPBゾーンの溶解反応が促進されると考えられる。
【0034】
また、後述する実施例で示すように、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の吸熱ピークトップ温度からクリープ歪み量を推定することにより、クリープ歪み量が1%以下の微小なクリープ変形の場合でも、クリープ歪み量を精度よく推定できることが明らかとなった。このように、クリープ歪み量が大きい場合だけでなく、クリープ歪み量が1%以下の微小なクリープ変形の場合でも、クリープ歪み量を精度よく推定することができるので、析出硬化型アルミニウム合金部材のクリープ損傷形態を特定することが可能となる。
【0035】
析出硬化型アルミニウム合金部材の熱分析は、示差走査熱量測定(DSC)で吸熱ピークトップ温度を測定するとよい。示差走査熱量測定によれば、吸熱ピークトップ温度を容易に測定することが可能となる。示差走査熱量測定には、一般的な示差走査熱量計等を用いることができる。
【0036】
歪み量推定工程(S22)は、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の吸熱ピークトップ温度と、予め求めておいたクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知のクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材におけるクリープ歪み量及び吸熱ピークトップ温度の関係と、を比較して、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材のクリープ歪み量を推定する工程である。また、歪み量推定工程(S22)は、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の吸熱ピークトップ温度の変化量と、予め求めておいたクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知のクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材におけるクリープ歪み量及び吸熱ピークトップ温度の変化量の関係と、を比較して、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材のクリープ歪み量を推定するとよい。
【0037】
予めクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知のクリープ変形を受けた析出硬化型アルミニウム合金部材の吸熱ピークトップ温度を熱分析により求めて、例えば、クリープ歪み量及び吸熱ピークトップ温度の変化量の関係を示すマスター曲線等を作成する。
図7は、クリープ歪み量の推定方法を示すモデル図である。
図7では、横軸にクリープ歪み量を取り、縦軸に吸熱ピークトップ温度の変化量を取り、クリープ歪み量と、吸熱ピークトップ温度の変化量との関係を実線で示している。例えば、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材における吸熱ピークトップ温度の変化量がΔT2の場合には、クリープ歪み量がε2と推定される。なお、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材における吸熱ピークトップ温度の変化量は、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の吸熱ピークトップ温度と、クリープ変形していない析出硬化型アルミニウム合金部材の吸熱ピークトップ温度との差から求めるとよい。クリープ変形していない析出硬化型アルミニウム合金部材には、受入れまま材を用いるとよい。
【0038】
また、異なる温度でクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の場合でも、同じマスター曲線からクリープ歪み量を推定することができる。例えば、異なる温度でクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の吸熱ピークトップ温度の変化量がΔT2で同じである場合には、
図7のグラフから、異なる温度でクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材のクリープ歪み量がε2と推定される。
【0039】
次に、析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定装置について説明する。
図8は、析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定装置30の構成を示すブロック図である。析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定装置30は、熱分析手段32と、制御手段34と、出力手段36と、を備えている。
【0040】
熱分析手段32は、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材を熱分析し、吸熱ピークの吸熱ピークトップ温度を測定する機能を有している。熱分析手段32は、示差走査熱量計等で構成することが可能である。
【0041】
制御手段34は、歪み量推定手段38と、記憶手段40と、を有している。制御手段34は、例えば、一般的なコンピュータシステム等により構成することが可能である。歪み量推定手段38は、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の吸熱ピークトップ温度と、予め求めておいたクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知のクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材におけるクリープ歪み量及び吸熱ピークトップ温度の関係と、を比較して、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材のクリープ歪み量を推定する機能を有している。記憶手段40は、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の吸熱ピークトップ温度や、予め求めておいたクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材と同一組成で既知のクリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材におけるクリープ歪み量及び吸熱ピークトップ温度の関係を示すマスター曲線等のデータを記憶する機能を有している。
【0042】
出力手段36は、推定された析出硬化型アルミニウム合金部材のクリープ歪み量等を出力する機能を有している。出力手段36は、ディスプレイやプリンタ等で構成されている。
【0043】
以上、上記構成によれば、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材を熱分析し、吸熱ピークトップ温度からクリープ歪み量を推定することにより、機械研磨等の試料調整が不要になるので、クリープ歪み量を精度よく推定することができる。また、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材から直接情報を得てクリープ歪み量を推定しているので、クリープ歪み量の推定精度が向上する。更に、上記構成によれば、吸熱ピークトップ温度からクリープ歪み量を推定することにより、クリープ歪み量が1%以下の微小なクリープ変形の場合でも、クリープ歪み量を精度よく推定することができる。
【実施例】
【0044】
[実施例1]
析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定試験を行った。まず、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の引張歪み量を推定するためのマスター曲線の作成について説明する。マスター曲線を作成するための引張供試体には、Al−Cu−Mg系合金である2618合金(調質状態T6:溶体化処理後の人工時効処理)を使用した。引張試験については、各引張供試体に大気室温環境下で所定の引張荷重を負荷し、所定の引張歪み量が得られた時点で中止した。引張試験は、JIS Z2241に準拠して行った。引張歪み量は、0.05%、0.27%、0.47%とした。また、引張歪み量が0%(引張変形なし)の引張供試体(受入れまま材)についても用意した。各引張供試体について、示差走査熱量測定を行って発熱ピークから発熱ピークトップ温度を求めた。
【0045】
次に、引張歪み量と、発熱ピークトップ温度との関係を示すマスター曲線を作成した。
図9は、引張歪み量と、発熱ピークトップ温度の変化量との関係を示すマスター曲線を示すグラフである。
図9のグラフでは、横軸に引張歪み量を取り、縦軸に発熱ピークトップ温度の変化量を取り、各引張供試体のデータを黒三角形で示している。また、発熱ピークトップ温度の変化量は、各引張変形した引張供試体の発熱ピークトップ温度と、引張歪み量が0%(引張変形なし)の引張供試体(受入れまま材)の発熱ピークトップ温度との差から求めた。
図9のグラフから、引張歪み量と、発熱ピークトップ温度の変化量との間には、相関関係が認められた。より詳細には、引張歪み量が大きくなるほど、発熱ピークトップ温度の変化量の負側の絶対値が大きくなり、発熱ピークトップ温度が低温側にシフトすることが明らかとなった。
【0046】
次に、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の引張歪み量を推定する方法について説明する。まず、引張変形前後の析出硬化型アルミニウム合金部材から試料等を採取し、示差走査熱量測定等の熱分析をして各々の発熱ピークトップ温度を求める。引張変形後の発熱ピークトップ温度と、引張変形前の発熱ピークトップ温度との差を算出する。予め求めておいた引張歪み量と発熱ピークトップ温度の変化量との関係として、
図9に示すマスター曲線を用いることにより、引張変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の引張歪み量を推定する。例えば、発熱ピークトップ温度の変化量ΔTが−3℃である場合には、引張歪み量が0.33%と推定される。このように引張歪み量が1%以下の微小な引張変形の場合でも、引張歪み量を精度良く推定することができる。
【0047】
[実施例2]
次に、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材の歪み量推定試験を行った。まず、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材のクリープ歪み量を推定するためのマスター曲線の作成について説明する。マスター曲線作成用のクリープ供試体には、Al−Cu−Mg系合金である2618合金(調質状態T6:溶体化処理後の人工時効処理)を用いた。クリープ試験については、クリープ供試体に所定温度で所定のクリープ荷重を負荷し、所定のクリープ歪み量が得られた時点で中止した。各クリープ供試体のクリープ歪み量は、0.10%、0.44%とした。また、クリープ歪み量が0%(クリープ変形なし)のクリープ供試体(受入れまま材)についても用意した。各クリープ供試体について、示差走査熱量測定を行って吸熱ピークから吸熱ピークトップ温度を求めた。
【0048】
次に、クリープ歪み量と、吸熱ピークトップ温度との関係を示すマスター曲線を作成した。
図10は、クリープ歪み量と、吸熱ピークトップ温度の変化量との関係を示すマスター曲線のグラフである。
図10のグラフでは、横軸にクリープ歪み量を取り、縦軸に吸熱ピークトップ温度の変化量を取り、各クリープ供試体のデータを黒菱形で示している。また、吸熱ピークトップ温度の変化量は、各クリープ変形したクリープ供試体の吸熱ピークトップ温度と、クリープ歪み量が0%(クリープ変形なし)のクリープ供試体(受入れまま材)の吸熱ピークトップ温度との差から求めた。
図10のグラフから、クリープ歪み量と、吸熱ピークトップ温度の変化量との間には、相関関係が認められた。より詳細には、クリープ歪み量が大きくなるほど、吸熱ピークトップ温度の変化量の負側の絶対値が大きくなり、吸熱ピークトップ温度が低温側にシフトすることが明らかとなった。
【0049】
次に、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材のクリープ歪み量を推定する方法について説明する。まず、クリープ変形前後の析出硬化型アルミニウム合金部材から試料等を採取し、示差走査熱量測定等の熱分析をして各々の吸熱ピークトップ温度を求める。クリープ変形後の吸熱ピークトップ温度と、クリープ変形前の吸熱ピークトップ温度との差を算出する。予め求めておいたクリープ歪み量と吸熱ピークトップ温度の変化量との関係として、
図10に示すマスター曲線を用いることにより、クリープ変形した析出硬化型アルミニウム合金部材のクリープ歪み量を推定する。例えば、吸熱ピークトップ温度の変化量ΔTが−4℃である場合には、クリープ歪み量が0.24%と推定される。このようにクリープ歪み量が1%以下の微小なクリープ変形の場合でも、クリープ歪み量を精度良く推定することができる。