特許第6889837号(P6889837)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6889837
(24)【登録日】2021年5月26日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/22 20060101AFI20210607BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   H02P25/22
   H02P27/08
【請求項の数】3
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-195157(P2017-195157)
(22)【出願日】2017年10月5日
(65)【公開番号】特開2019-68699(P2019-68699A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須増 寛
【審査官】 佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−079150(JP,A)
【文献】 特開2017−163696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00−25/03
H02P 25/04
H02P 25/10−27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2系統の多相モータコイルを有する電動モータを制御するモータ制御装置であって、
複数のPWM周期を含む電流制御周期毎に、各系統の各相のPWMカウントを演算するPWMカウント演算手段と、
前記電流制御周期に対する各系統の各相のPWMカウントを、対応する系統および相における当該電流制御周期内の各PWM周期に対するPWMカウントとして設定するPWMカウント設定手段と、
前記電流制御周期内の少なくとも1つのPWM周期において、前記2系統のうちの一方の系統の1つの相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流が、他方の系統の少なくとも1つの相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流によって相殺されるように、当該他方の系統の少なくとも1つの相に対するPWM周期のPWMカウントを変更するコモンモードノイズ低減手段とを含み、
前記コモンモードノイズ低減手段は、各系統の各相における前記電流制御周期内の各PWM周期に対するPWM信号のうち、前記他方の系統の少なくとも1つの相のPWMカウントを、当該相のPWMカウントの当該電流制御周期内での合計値を変更することなく、少なくとも1つのPWM周期において、当該相の出力電圧波形が、前記一方の系統の1つの相の出力電圧波形を反転させた波形となるように変更するPWMカウント変更手段を含んでいる、モータ制御装置。
【請求項2】
前記コモンモードノイズ低減手段は、前記電流制御周期内の各PWM周期において、前記2系統のうちの一方の系統の1つの相である第1相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流が、他方の系統の2つの相である第2相または第3相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流によって相殺されるように、当該第2相および第3相に対するPWM周期のPWMカウントを変更するものであり、
前記コモンモードノイズ低減手段は、
前記電流制御周期内の各PWM周期に対する前記第2相のPWMカウントを、当該第2相のPWMカウントの当該電流制御周期内での合計値を変更することなく、当該電流制御周期内の所定の半数のPWM周期において、当該第2相の出力電圧波形が、前記第1相の出力電圧波形を反転させた波形となるように変更する第1のPWMカウント変更手段と、
前記電流制御周期内の各PWM周期に対する前記第3相のPWMカウントを、当該第3相のPWMカウントの当該電流制御周期内での合計値を変更することなく、前記電流制御周期内の前記所定の半数のPWM周期以外の他の半数のPWM周期において、当該第3相の出力電圧波形が、前記第1相の出力電圧波形を反転させた波形となるように変更する第2のPWMカウント変更手段とを含む、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記電流制御周期内の各PWM周期において、前記2系統のうちの前記他方の系統の前記第2相および前記第3相以外の1つの相である第4相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流が、前記一方の系統の前記第1相以外の2つの相である第5相または第6相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流によって相殺されるように、当該第5相および第6相に対するPWM周期のPWMカウントを変更する、他のコモンモードノイズ低減手段をさらに含み、
前記他のコモンモードノイズ低減手段は、
前記電流制御周期内の各PWM周期に対する前記第5相のPWMカウントを、当該第5相のPWMカウントの当該電流制御周期内での合計値を変更することなく、当該電流制御周期内の所定の半数のPWM周期において、当該第5相の出力電圧波形が、前記第4相の出力電圧波形を反転させた波形となるように変更する第3のPWMカウント変更手段と、
前記電流制御周期内の各PWM周期に対する前記第6相のPWMカウントを、当該第6相のPWMカウントの当該電流制御周期内での合計値を変更することなく、前記電流制御周期内の前記所定の半数のPWM周期以外の他の半数のPWM周期において、当該第6相の出力電圧波形が、前記第4相の出力電圧波形を反転させた波形となるように変更する第4のPWMカウント変更手段とを含む、請求項2に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2系統の多相モータコイルを有する電動モータを制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
三相電動モータをベクトル制御するモータ制御装置においては、電流制御周期毎に、二相電流指令値が演算される。この二相電流指令値と二相電流検出値との偏差に基づいて二相電圧指令値が演算される。この二相電圧指令値が電動モータの回転角を用いて二相・三相変換されることにより、U相、V相およびW相の相電圧指令値(三相電圧指令値)が演算される。そして、このU相、V相およびW相の相電圧指令値にそれぞれ対応するデューティのU相PWM信号、V相PWM信号およびW相PWM信号が生成されて、三相インバータ回路に供給される。
【0003】
この三相インバータ回路を構成する6個のスイッチング素子が、U相PWM信号、V相PWM信号およびW相PWM信号によって制御されることにより、三相電圧指令値に相当する電圧が三相電動モータに印加されることになる。これにより、三相電動モータに流れるモータ電流が二相電流指令値に等しくなるように制御される。このようなモータ制御装置においては、各PWM周期において各相の出力電圧(相電圧)の立上り時点と立下り時点において、三相電動モータとフレームグランドとの間に存在する浮遊容量に電流が流れる。
【0004】
この電流がフレームグランドに流れるため、フレームグランドからノイズが放射されるおそれがある。また、車両に搭載される電動パワーステアリング装置(EPS)に搭載されるモータ制御装置の場合、車両電源(バッテリー)からEPSへの正負電源供給ラインが長いため、フレームグランドを流れたノイズ電流が、正負電源供給ラインとフレームラウンドとの間にできる浮遊容量を通じて、車両電源の近傍で正負電源供給ラインに混入する。そして、ノイズ電流が長い正負電源供給ラインを流れることで、ラインから放射ノイズが発生する。これにより、コモンモードノイズが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−50766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
2系統の三相モータコイルを有する三相電動モータ(2系統モータ)を、2系統の三相モータコイルそれぞれに電力を供給するための2系統の駆動回路を用いて制御するモータ制御装置が知られている。このような2系統モータを制御するモータ制御装置では、2系統の駆動回路毎に、各PWM周期において各相の出力電圧(相電圧)の立上り時点と立下り時点において、三相電動モータとフレームグランドとの間に存在する浮遊容量に電流が流れる。このため、2系統モータを制御する場合には、1系統の三相モータコイルを有する三相電動モータ(1系統モータ)を駆動制御する場合に比べて、コモンモードノイズの発生頻度が高くなる。
【0007】
この発明の目的は、コモンモードノイズを低減させることができるモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、2系統の多相モータコイル(18A,18B)を有する電動モータ(18)を制御するモータ制御装置(31)であって、複数のPWM周期を含む電流制御周期毎に、各系統の各相のPWMカウントを演算するPWMカウント演算手段(41)と、前記電流制御周期に対する各系統の各相のPWMカウントを、対応する系統および相における当該電流制御周期内の各PWM周期に対するPWMカウントとして設定するPWMカウント設定手段(42)と、前記電流制御周期内の少なくとも1つのPWM周期において、前記2系統のうちの一方の系統の1つの相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流が、他方の系統の少なくとも1つの相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流によって相殺されるように、当該他方の系統の少なくとも1つの相に対するPWM周期のPWMカウントを変更するコモンモードノイズ低減手段(42)とを含み、前記コモンモードノイズ低減手段は、各系統の各相における前記電流制御周期内の各PWM周期に対するPWM信号のうち、前記他方の系統の少なくとも1つの相のPWMカウントを、当該相のPWMカウントの当該電流制御周期内での合計値を変更することなく、少なくとも1つのPWM周期において、当該相の出力電圧波形が、前記一方の系統の1つの相の出力電圧波形を反転させた波形となるように変更するPWMカウント変更手段を含んでいる、モータ制御装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0009】
この構成では、電流制御周期内の少なくとも1つのPWM周期において、2系統のうちの一方の系統の1つの相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流が、他方の系統の少なくとも1つの相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流によって相殺される。これにより、コモンモードノイズを低減させることができる。
請求項2に記載の発明は、前記コモンモードノイズ低減手段は、前記電流制御周期内の各PWM周期において、前記2系統のうちの一方の系統の1つの相である第1相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流が、他方の系統の2つの相である第2相または第3相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流によって相殺されるように、当該第2相および第3相に対するPWM周期のPWMカウントを変更するものであり、前記コモンモードノイズ低減手段は、前記電流制御周期内の各PWM周期に対する前記第2相のPWMカウントを、当該第2相のPWMカウントの当該電流制御周期内での合計値を変更することなく、当該電流制御周期内の所定の半数のPWM周期において、当該第2相の出力電圧波形が、前記第1相の出力電圧波形を反転させた波形となるように変更する第1のPWMカウント変更手段と、前記電流制御周期内の各PWM周期に対する前記第3相のPWMカウントを、当該第3相のPWMカウントの当該電流制御周期内での合計値を変更することなく、前記電流制御周期内の前記所定の半数のPWM周期以外の他の半数のPWM周期において、当該第3相の出力電圧波形が、前記第1相の出力電圧波形を反転させた波形となるように変更する第2のPWMカウント変更手段とを含む、請求項1に記載のモータ制御装置である。
【0010】
この構成では、電流制御周期内の各PWM周期において、2系統のうちの一方の系統の1つの相である第1相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流が、他方の系統の2つの相である第2相または第3相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流によって相殺される。これにより、コモンモードノイズをより低減させることができる。
請求項3に記載の発明は、前記電流制御周期内の各PWM周期において、前記2系統のうちの前記他方の系統の前記第2相および前記第3相以外の1つの相である第4相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流が、前記一方の系統の前記第1相以外の2つの相である第5相または第6相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流によって相殺されるように、当該第5相および第6相に対するPWM周期のPWMカウントを変更する、他のコモンモードノイズ低減手段をさらに含み、前記他のコモンモードノイズ低減手段は、前記電流制御周期内の各PWM周期に対する前記第5相のPWMカウントを、当該第5相のPWMカウントの当該電流制御周期内での合計値を変更することなく、当該電流制御周期内の所定の半数のPWM周期において、当該第5相の出力電圧波形が、前記第4相の出力電圧波形を反転させた波形となるように変更する第3のPWMカウント変更手段と、前記電流制御周期内の各PWM周期に対する前記第6相のPWMカウントを、当該第6相のPWMカウントの当該電流制御周期内での合計値を変更することなく、前記電流制御周期内の前記所定の半数のPWM周期以外の他の半数のPWM周期において、当該第6相の出力電圧波形が、前記第4相の出力電圧波形を反転させた波形となるように変更する第4のPWMカウント変更手段とを含む、請求項2に記載のモータ制御装置である。
【0011】
この構成では、さらに、電流制御周期内の各PWM周期において、2系統のうちの他方の系統の第2相および第3相以外の1つの相である第4相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流が、一方の系統の第1相以外の2つの相である第5相または第6相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流によって相殺される。これにより、コモンモードノイズをより低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
図2図2は、ECUの電気的構成を示すブロック図である。
図3図3は、主として第1のモータ駆動回路および第2のモータ駆動回路の構成を示す電気回路図である。
図4図4は、系統および相別PWMカウント演算部の構成を示すブロック図である。
図5図5Aは、PWM信号の周期Tcと電流制御周期Taとの関係を示す模式図であり、図5Bはキャリア波形を示す波形図であり、図5CはPWM信号の生成方法を説明するための模式図である。
図6図6は、検出操舵トルクTに対するアシスト電流値Iaの設定例を示すグラフである。
図7図7は、コモンモードノイズ低減部によるコモンモードノイズ低減の基本的な考え方を説明するための説明図である。
図8図8は、コモンモードノイズ電流に着目した等価回路を示す回路図である。
図9図9は、コモンモードノイズ低減部の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
図10図10は、主として、ある相のPWM周期単位のPWMカウントと、各系統の当該相の上段FET指令および下段FET指令との関係を示す模式図である。
図11図11Aは、上段FETおよび下段FETの接続点から電動モータ側に向かって電流が流れている状態におけるデットタイム期間中の電流経路を示す図であり、図11Bは、電動モータ側から上段FETおよび下段FETの接続点に向かって電流が流れている状態におけるデットタイム期間中の電流経路を示す図である。
図12図12Aは、ステップS1およびS2によって設定された各系統の各相のPWM周期単位のPWMカウントの一例を示す模式図であり、図12Bは、ステップS3によって設定された各系統の各相のPWM周期単位のPWMカウントの一例を示す模式図である。
図13図13Aは、同系統の2つのカウント変更対象相に適用される2種類のふり幅パターンの一例を示す模式図であり、図13Bは、第1系統のV相、第1系統のW相、第2系統のU相および第2系統のV相のPWM周期毎のふり幅の一例を示す模式図であり、図13Cは、各PWM周期に対する各系統の各相の最終的なPWMカウントの一例を示す模式図であり、図13Dは、図13Cに示される最終的なPWMカウントに対応した各系統の各相の出力電圧に一致するスイッチングタイミングを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、この発明を電動パワーステアリング装置に適用した場合の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
電動パワーステアリング装置(EPS:electric power steering)1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール2と、このステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。ステアリングホイール2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して機械的に連結されている。
【0014】
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された入力軸8と、中間軸7に連結された出力軸9とを含む。入力軸8と出力軸9とは、トーションバー10を介して相対回転可能に連結されている。
トーションバー10の近傍には、トルクセンサ11が配置されている。トルクセンサ11は、入力軸8および出力軸9の相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に与えられた操舵トルクTを検出する。この実施形態では、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTは、たとえば、右方向への操舵のためのトルクが正の値として検出され、左方向への操舵のためのトルクが負の値として検出され、その絶対値が大きいほど操舵トルクの大きさが大きくなるものとする。
【0015】
転舵機構4は、ピニオン軸13と、転舵軸としてのラック軸14とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示略)を介して転舵輪3が連結されている。ピニオン軸13は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸13は、ステアリングホイール2の操舵に連動して回転するようになっている。ピニオン軸13の先端(図1では下端)には、ピニオン16が連結されている。
【0016】
ラック軸14は、自動車の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の中間部には、ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。このピニオン16およびラック17によって、ピニオン軸13の回転がラック軸14の軸方向移動に変換される。ラック軸14を軸方向に移動させることによって、転舵輪3を転舵することができる。
【0017】
ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。そして、ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
操舵補助機構5は、操舵補助用の電動モータ18と、電動モータ18の出力トルクを転舵機構4に伝達するための減速機構19とを含む。電動モータ18は、第1系統の三相モータコイル18A(図2図3参照)と第2系統の三相モータコイル18B(図2図3参照)とを有する三相ブラシレスモータ(2系統モータ)である。第1系統の三相モータコイル18Aは、後述する第1系統の駆動回路32A(図2図3参照)によって駆動され、第2系統の三相モータコイル18Bは第2系統の駆動回路32B(図2図3参照)によって駆動される。
【0018】
電動モータ18には、電動モータ18のロータの回転角を検出するための、例えばレゾルバからなる回転角センサ23が配置されている。減速機構19は、ウォーム軸20と、このウォーム軸20と噛み合うウォームホイール21とを含むウォームギヤ機構からなる。
ウォーム軸20は、電動モータ18によって回転駆動される。また、ウォームホイール21は、ステアリングシャフト6とは一体的に回転可能に連結されている。ウォームホイール21は、ウォーム軸20によって回転駆動される。
【0019】
電動モータ18によってウォーム軸20が回転駆動されると、ウォームホイール21が回転駆動され、ステアリングシャフト6が回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ18によってウォーム軸20を回転駆動することによって、電動モータ18による操舵補助が可能となっている。
【0020】
車両には、車速Vを検出するための車速センサ24が設けられている。トルクセンサ11によって検出される操舵トルクT、車速センサ24によって検出される車速V、回転角センサ23の出力信号等は、ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)12に入力される。ECU12は、これらの入力信号に基づいて、電動モータ18を制御する。
【0021】
図2は、ECU12の全体的な電気的構成を示すブロック図である。
以下において、第1系統の三相モータコイル18Aを第1のモータコイル18Aといい、第2系統の三相モータコイル18Aを第2のモータコイル18Bということにする。第1のモータコイル18Aは、U相、V相およびW相のステータコイル18AU,18AV,18AW(図3参照)を有している。第2のモータコイル18Bは、U相、V相およびW相のステータコイル18BU,18BV,18BW(図3参照)を有している。第1のモータコイル18Aと第2のモータコイル18Bとの間の位相差は、0度、120度または240度であることが好ましい。
【0022】
ECU12は、マイクロコンピュータ31と、マイクロコンピュータ31によって制御され、電動モータ18の第1のモータコイル18Aに電力を供給する第1の駆動回路32Aと、マイクロコンピュータ31によって制御され、電動モータ18の第2のモータコイル18Bに電力を供給する第2の駆動回路32Bとを含んでいる。
図3は、主として第1のモータ駆動回路32Aおよび第2のモータ駆動回路32Bの構成を示す電気回路図である。
【0023】
第1のモータ駆動回路32Aは、三相インバータ回路である。第1のモータ駆動回路32Aは、電源(バッテリー)100に直列に接続された第1の平滑コンデンサ101Aと、複数のスイッチング素子111A〜116Aと、複数のダイオード121A〜126Aとを含む。第1の平滑コンデンサ101Aは、電源100の両端子間に接続されている。この実施形態では、各スイッチング素子111A〜116Aは、nチャネル型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)から構成されている。以下において、スイッチング素子111A〜116AをFET111A〜116Aという場合がある。
【0024】
複数のFET111A〜116Aは、U相用の上段FET111Aと、それに直列に接続されたU相用の下段FET112Aと、V相用の上段FET113Aと、それに直列に接続されたV相用の下段FET114Aと、W相用の上段FET115Aと、それに直列に接続されたW相用の下段FET116Aとを含む。各スイッチング素子111A〜116Aには、それぞれダイオード121A〜126Aが逆並列接続されている。
【0025】
上段FET111A,113A,115Aのドレインは、第1の平滑コンデンサ101Aの正極側端子に接続されている。上段FET111A,113A,115Aのソースは、それぞれ下段FET112A,114A,116Aのドレインに接続されている。下段FET112A,114A,116Aのソースは、第1の平滑コンデンサ101Aの負極側端子に接続されている。
【0026】
U相の上段FET111Aと下段FET112Aの接続点は、第1のモータコイル18AのU相ステータコイル18AUに接続されている。V相の上段FET113Aと下段FET114Aの接続点は、第1のモータコイル18AのV相ステータコイル18AVに接続されている。W相の上段FET115Aと下段FET116Aの接続点は、第1のモータコイル18AのW相ステータコイル18AWに接続されている。各FET111A〜116Aは、後述する第1のPWM出力部43A(図2参照)から出力されるPWM信号に基づいて制御される。
【0027】
第2のモータ駆動回路32Bは、三相インバータ回路である。第2のモータ駆動回路32Bは、電源(バッテリー)100に直列に接続された第2の平滑コンデンサ101Bと、複数のスイッチング素子111B〜116Bと、複数のダイオード121B〜126Bとを含む。第2の平滑コンデンサ101Bは、電源100の両端子間に接続されている。この実施形態では、各スイッチング素子111B〜116Bは、nチャネル型のMOSFETから構成されている。以下において、スイッチング素子111B〜116BをFET111B〜116Bという場合がある。
【0028】
複数のFET111B〜116Bは、U相用の上段FET111Bと、それに直列に接続されたU相用の下段FET112Bと、V相用の上段FET113Bと、それに直列に接続されたV相用の下段FET114Bと、W相用の上段FET115Bと、それに直列に接続されたW相用の下段FET116Bとを含む。各スイッチング素子111B〜116Bには、それぞれダイオード121B〜126Bが逆並列接続されている。
【0029】
上段FET111B,113B,115Bのドレインは、第2の平滑コンデンサ101Bの正極側端子に接続されている。上段FET111B,113B,115Bのソースは、それぞれ下段FET112B,114B,116Bのドレインに接続されている。下段FET112B,114B,116Bのソースは、第2の平滑コンデンサ101Bの負極側端子に接続されている。
【0030】
U相の上段FET111Bと下段FET112Bの接続点は、第2のモータコイル18BのU相ステータコイル18BUに接続されている。V相の上段FET113Bと下段FET114Bの接続点は、第2のモータコイル18BのV相ステータコイル18BVに接続されている。W相の上段FET115Bと下段FET116Bの接続点は、第2のモータコイル18BのW相ステータコイル18BWに接続されている。各FET111B〜116Bは、後述する第2のPWM出力部43B(図2参照)から出力されるPWM信号に基づいて制御される。
【0031】
図3において、電源100は車両に搭載されている。電源100の負(−)極は、車両の金属性のフレーム(シャシー)130に電気的に接続されている。このため、フレーム130は、電源100の負極と同電位である。電動モータ18が搭載された電動パワーステアリング装置1はフレーム130にボルトなどで取り付けられる。ECUの+電源ライン、−電源ラインはそれぞれ長いラインを通じて電源100の正負極に接続される。このため、第1、第2のモータコイル18A、18Bとフレーム130との間には、それぞれ浮遊容量C1,C2が存在することになる。また、電源100と電動パワーステアリング装置1とを接続する正負のラインとフレームグランドとの間には浮遊容量C3,C4が存在する。
【0032】
図2に戻り、第1の駆動回路32Aと第1のモータコイル18Aとを接続するための電力供給線には、2つの電流センサ33,34が設けられている。これらの電流センサ33,34は、第1の駆動回路32Aと第1のモータコイル18Aとを接続するための3本の電力供給線のうち、2本の電力供給線に流れる相電流を検出できるように設けられている。
【0033】
同様に、第2の駆動回路32Bと第2のモータコイル18Bとを接続するための電力供給線には、2つの電流センサ35,36が設けられている。これらの電流センサ35,36は、第2の駆動回路32Bと第2のモータコイル18Bとを接続するための3本の電力供給線のうち、2本の電力供給線に流れる相電流を検出できるように設けられている。
マイクロコンピュータ31は、CPUおよびメモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリなど。)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、系統および相別PWMカウント演算部41と、コモンモードノイズ低減部42と、第1のPWM出力部43Aと、第2のPWM出力部43Bとを含む。
【0034】
図4は、系統および相別PWMカウント演算部41の構成を示すブロック図である。
系統および相別PWMカウント演算部41は、各系統の各相の電流制御周期毎のPWMカウントを演算するものである。系統および相別PWMカウント演算部41は、アシスト電流値設定部51と、電流指令値設定部52と、指令値分配部53と、第1系統用演算部70Aと、第2系統用演算部70Bと、回転角演算部59と、回転速度演算部60と、回転角推定部61とを含む。
【0035】
第1系統用演算部70Aは、第1の電流偏差演算部54Aと、第1のPI(比例積分)制御部55Aと、第1の二相・三相変換部56Aと、第1のPWMデューティ演算部(PWM Duty演算部)57Aと、第1の三相・二相変換部58Aとを含む。第2系統用演算部70Bは、第2の電流偏差演算部54Bと、第2のPI(比例積分)制御部55Bと、第2の二相・三相変換部56Bと、第2のPWMデューティ演算部(PWM Duty演算部)57Bと、第2の三相・二相変換部58Bとを含む。
【0036】
図5Aに示すように、PWM信号の周期(以下、「PWM周期」という。)Tcは、電流制御周期Taよりも小さい。ここで、電流制御周期Taとは、モータ電流の制御ループの演算周期のことである。つまり、図4において、第1系統用演算部70Aと、第2系統用演算部70Bにそれぞれ含まれる各ブロックの演算周期である。この電流制御周期Taはプログラムの規模やマイクロコンピュータ31の演算能力などを考慮して決まる。この実施形態では、今回の電流制御周期Ta内の最初のタイミングでPWMデューティ演算部57A,57BによりPWMデューティが更新され、更新されたPWMデューティCu1、Cv1、Cw1、Cu2、Cv2、Cw2が出力される。この実施形態では、TcはTaの1/10である。言い換えれば、電流制御周期Ta内に10周期分のPWM周期Tcが含まれる。10周期分のPWM周期Tcの最初の周期を1番目の周期といい、それ以降の周期を2,3,…,9,10番目の周期という場合がある。また、PWM周期の周期番号をi(i=1,2,…,9,10)で表す場合がある。なお、PWM信号の周波数(=1/Tc)は、キャリア周波数と呼ばれる。
【0037】
本実施形態でのPWM波形生成方法を説明する。マイクロコンピュータ31内で、図示しないクロック発生器で生成されるPWMクロック周波数のクロックをカウンタ(図示略)でアップカウントおよびダウンカウントする。このカウンタのカウント値を、時間を横軸にとり、カウント値を縦軸にとって図示すると、図5Bに示すようになる。ここで、カウント値は符号なし整数と解釈する。また、カウント値をキャリアカウントと呼ぶ場合がある。この実施形態では、図5Bの波形がキャリア波形である。キャリア波形は三角波である。三角波の1周期はTcに等しい。キャリア波形の最大値、つまりカウント値の最大値により、PWM信号の周波数(キャリア周波数)が決定される。本実施形態では、PWMクロック周波数が100[MHz]であり、PWM信号の周波数(以下、「PWM周波数」という。)が100[kHz]と設定しているので、カウント値の最大値は、100,000,000÷100,000÷2=500となる。アップダウンカウントするため、100,000,000/100,000を、2で割っている。
【0038】
図5Cに示すように、PWM出力部43A,43B(図2参照)は、与えられるPWMカウントとカウンタのカウント値とを比較し、駆動回路32A,32B(図2参照)に対して、High or Low信号を出力する。PWM出力部43A,43Bは、例えば、カウンタのカウント値≧PWMカウントが成立している間はHigh信号を、それ以外はLow信号を出力する。このHigh、Low信号がPWM信号となる。PWM出力部43A,43Bの動作の詳細については後述する。
【0039】
図4に戻り、回転角演算部59は、回転角センサ23の出力信号に基づいて、電動モータ18のロータの回転角θ(電気角)を電流制御周期Ta毎に演算する。回転角演算部59によって演算されるロータ回転角θは、第1および第2の三相・二相変換部58A,58B、回転速度演算部60および回転角推定部61に与えられる。この実施形態では、ロータ回転角θが取得(検出)されるタイミングは、電流制御周期Taの中央時点であるものとする。
【0040】
回転速度演算部60は、回転角演算部59によって演算されるロータ回転角θを時間微分することにより、電動モータ18のロータの回転速度(角速度)ωを演算する。回転速度演算部60によって演算される回転速度ωは、回転角推定部61に与えられる。
回転角推定部61は、前回の電流制御周期Taで取得された前回の電流制御周期Taの中央時点でのロータ回転角θ(m−1)を用いて、次式(1)に基づいて、次回の電流制御周期Taの中央時点でのロータ回転角θ(m+1)を推定する。
【0041】
θ(m+1)=θ(m−1)+ω・2Ta …(1)
回転角推定部61によって推定された次回の電流制御周期Taでのロータ回転角θ(m+1)は、第1および第2の二相・三相変換部56A,56Bに与えられる。
アシスト電流値設定部51は、トルクセンサ11によって検出される検出操舵トルクTと、車速センサ24によって検出される車速Vとに基づいて、アシスト電流値Iaを電流制御周期Ta毎に設定する。検出操舵トルクTに対するアシスト電流値Iaの設定例は、図6に示されている。検出操舵トルクTは、例えば右方向への操舵のためのトルクが正の値にとられ、左方向への操舵のためのトルクが負の値にとられている。また、アシスト電流値Iaは、電動モータ18から右方向操舵のための操舵補助力を発生させるべきときには正の値とされ、電動モータ18から左方向操舵のための操舵補助力を発生させるべきときには負の値とされる。アシスト電流値Iaは、検出操舵トルクTの正の値に対しては正をとり、検出操舵トルクTの負の値に対しては負をとる。
【0042】
検出操舵トルクTが−T1〜T1(たとえば、T1=0.4N・m)の範囲(トルク不感帯)の微小な値のときには、アシスト電流値Iaは零とされる。そして、検出操舵トルクTが−T1〜T1の範囲外の値である場合には、アシスト電流値Iaは、検出操舵トルクTの絶対値が大きくなるほど、その絶対値が大きくなるように設定される。また、アシスト電流値Iaは、車速センサ24によって検出される車速Vが大きいほど、その絶対値が小さくなるように設定されるようになっている。これにより、低速走行時には操舵補助力が大きくされ、高速走行時には操舵補助力が小さくされる。
【0043】
電流指令値設定部52は、アシスト電流値設定部51によって設定されたアシスト電流値Iaに基づいて、dq座標系の座標軸に流すべき電流値を電流指令値として設定する。具体的には、電流指令値設定部52は、d軸電流指令値Iおよびq軸電流指令値I(以下、これらを総称するときには「二相電流指令値Idq」という。)を設定する。さらに具体的には、電流指令値設定部52は、q軸電流指令値Iをアシスト電流値設定部51によって設定されたアシスト電流値Iaとする一方で、d軸電流指令値Iを零とする。電流指令値設定部52によって設定された二相電流指令値Idqは、指令値分配部53に与えられる。
【0044】
指令値分配部53は、二相電流指令値Idqを、第1系統用演算部70Aおよび第2系統用演算部70Bに分配する。この実施形態では、指令値分配部53は、二相電流指令値Idqを、第1系統用演算部70Aおよび第2系統用演算部70Bに、1/2ずつ分配する。つまり、この実施形態では、二相電流指令値Idqの第1系統用演算部70Aへの分配率および二相電流指令値Idqの第2系統用演算部70Bへの分配率は、共に50%となる。第1系統用演算部70Aに分配される二相電流指令値を、第1の二相電流指令値I1dqということにする。第1の二相電流指令値I1dqは、第1のd軸電流指令値I1dおよび第1のq軸電流指令値I1qとからなる。第2系統用演算部70Bに分配される二相電流指令値を、第2の二相電流指令値I2dqということにする。第2の二相電流指令値I2dqは、第2のd軸電流指令値I2dおよび第2のq軸電流指令値I2qとからなる。
【0045】
次に、第1系統用演算部70Aについて説明する。第1の三相・二相変換部58Aは、まず、電流センサ33,34によって検出される2相分の相電流から、第1系統のU相電流I1U、V相電流I1VおよびW相電流I1W(以下、これらを総称するときは、「三相検出電流I1UVW」という。)を演算する。そして、第1の三相・二相変換部58Aは、第1系統のUVW座標系の三相検出電流I1UVWを、第1系統のdq座標系の二相検出電流I1dqに座標変換する。第1系統の二相検出電流I1dqは、第1のd軸検出電流I1dおよび第1のq軸検出電流I1qからなる。この座標変換には、回転角演算部59によって演算されるロータ回転角θが用いられる。
【0046】
第1の電流偏差演算部54Aは、第1のd軸電流指令値I1dに対する第1のd軸検出電流I1dの偏差および第1のq軸電流指令値I1qに対する第1のq軸検出電流I1qの偏差を演算する。これらの偏差は、第1のPI制御部55Aに与えられる。
第1のPI制御部55Aは、第1の電流偏差演算部54Aによって演算された電流偏差に対するPI演算を行なうことにより、第1のモータコイル18Aに印加すべき第1の二相電圧指令値V1dq(第1のd軸電圧指令値V1dおよび第1のq軸電圧指令値V1q)を生成する。第1の二相電圧指令値V1dqは、第1の二相・三相変換部56Aに与えられる。
【0047】
第1の二相・三相変換部56Aは、今回の電流制御周期Taにおいて第1のPI制御部55Aによって演算された第1の二相電圧指令値V1dqに対して、今回の電流制御周期Taにおいて回転角推定部61によって演算された次回の電流制御周期Taに対する回転角推定値θ(m+1)を用いて二相・三相変換を行うことにより、次回の電流制御周期Taに対する第1の三相電圧指令値V1UVWを演算する。第1の三相電圧指令値V1UVWは、第1のU相電圧指令値V1U、第1のV相電圧指令値V1Vおよび第1のW相電圧指令値V1Wからなる。これにより、次回の電流制御周期Taに対する第1の三相電圧指令値V1UVWが得られる。
【0048】
第1の二相・三相変換部56Aによって得られた次回の電流制御周期Taに対する第1の三相電圧指令値V1UVWは、第1のPWMデューティ演算部57Aに与えられる。
第1のPWMデューティ演算部57Aは、次回の電流制御周期Taに対する第1の三相電圧指令値V1UVWに基づいて、次回の電流制御周期Taに対する第1のU相PWMカウント(PWMデューティ)Cu、第1のV相PWMカウントCvおよび第1のW相PWMカウントCwを生成して、コモンモードノイズ低減部42(図2参照)に与える。
【0049】
たとえば、第1のU相のPWMカウントCuは、次のようにして求められる。すなわち、第1のPWMデューティ演算部57Aは、第1の二相・三相変換部56Aによって得られたある電流制御周期Taに対する第1のU相電圧指令値V1Uと、PWMカウントの最大値(この例では500)とを用いて、次式(2)に基づいて、当該電流制御周期Taに対する第1のU相PWMカウントCuを演算する。
【0050】
Cu=V1U×(PWMカウントの最大値/Vb)
=V1U×(500/Vb) …(2)
前記式(2)においてVbは、第1の駆動回路32Aの電源電圧(電源100の出力電圧)である。
前記式(2)の右辺の第1のU相電圧指令値V1Uの代わりに第1のV相電圧指令値V1Vを用いると、第1のV相PWMカウントCvを演算することができ、第1のU相電圧指令値V1Uの代わりに第1のW相電圧指令値V1Wを用いるとW相のPWMカウントCwを演算できる。
【0051】
次に、第2系統用演算部70Bについて説明する。第2の三相・二相変換部58Bは、まず、電流センサ35,36によって検出される2相分の相電流から、第2系統のU相電流I2U、V相電流I2VおよびW相電流I2W(以下、これらを総称するときは、「三相検出電流I2UVW」という。)を演算する。そして、第2の三相・二相変換部58Bは、第2系統のUVW座標系の三相検出電流I2UVWを、第2系統のdq座標系の二相検出電流I2dqに座標変換する。第2系統の二相検出電流I2dqは、第2のd軸検出電流I2dおよび第2のq軸検出電流I2qからなる。この座標変換には、回転角演算部59によって演算されるロータ回転角θが用いられる。
【0052】
第2の電流偏差演算部54Bは、第2のd軸電流指令値I2dに対する第2のd軸検出電流I2dの偏差および第2のq軸電流指令値I2qに対する第2のq軸検出電流I2qの偏差を演算する。これらの偏差は、第2のPI制御部55Bに与えられる。
第2のPI制御部55Bは、第2の電流偏差演算部54Bによって演算された電流偏差に対するPI演算を行なうことにより、第2のモータコイル18Bに印加すべき第2の二相電圧指令値V2dq(第2のd軸電圧指令値V2dおよび第2のq軸電圧指令値V2q)を生成する。第2の二相電圧指令値V2dqは、第2の二相・三相変換部56Bに与えられる。
【0053】
第2の二相・三相変換部56Bは、今回の電流制御周期Taにおいて第2のPI制御部55Bによって演算された第2の二相電圧指令値V2dqに対して、今回の電流制御周期Taにおいて回転角推定部61によって演算された次回の電流制御周期Taに対する回転角推定値θ(m+1)を用いて二相・三相変換を行うことにより、次回の電流制御周期Taに対する第2の三相電圧指令値V2UVWを演算する。第2の三相電圧指令値V2UVWは、第2のU相電圧指令値V2U、第2のV相電圧指令値V2Vおよび第2のW相電圧指令値V2Wからなる。これにより、次回の電流制御周期Taに対する第2の三相電圧指令値V2UVWが得られる。
【0054】
第2の二相・三相変換部56Bによって得られた次回の電流制御周期Taに対する第2の三相電圧指令値V2UVWは、第2のPWMデューティ演算部57Bに与えられる。
第2のPWMデューティ演算部57Bは、次回の電流制御周期Taに対する第2の三相電圧指令値V2UVWに基づいて、次回の電流制御周期Taに対する第2のU相PWMカウント(PWMデューティ)Cu、第2のV相PWMカウントCvおよび第2のW相PWMカウントCwを生成して、コモンモードノイズ低減部42(図2参照)に与える。
【0055】
たとえば、第2のU相のPWMカウントCuは、次のようにして求められる。すなわち、第2のPWMデューティ演算部57Bは、第2の二相・三相変換部56Bによって得られたある電流制御周期Taに対する第2のU相電圧指令値V2Uと、PWMカウントの最大値(この例では500)とを用いて、次式(3)に基づいて、当該電流制御周期Taに対する第2のU相のPWMカウントCuを演算する。
【0056】
Cu=PWMカウントの最大値−{V2U×(PWMカウントの最大値/Vb)}
=PWMカウントの最大値−{V2U×(500/Vb)} …(3)
前記式(3)においてVbは、第2の駆動回路32Bの電源電圧(電源100の出力電圧)である。
前記式(3)の右辺の第2のU相電圧指令値V2Uの代わりに第2のV相電圧指令値V2Vを用いると、第2のV相PWMカウントCvを演算することができ、第2のU相電圧指令値V2Uの代わりに第2のW相電圧指令値V2Wを用いると第2のW相PWMカウントCwを演算できる。
【0057】
コモンモードノイズ低減部42は、第1の駆動回路32A内のスイッチング素子のオンオフによって生じるノイズ電流の一部を、第2の駆動回路32B内のスイッチング素子のオンオフによって生じるノイズ電流の一部によって相殺することにより、コモンモードノイズを低減するために設けられたものである。コモンモードノイズ低減部42は、第1および第2のPWMデューティ演算部57A,57Bから与えられる次回の電流制御周期Taに対する第1および第2のU相のPWMカウントCu,Cu、V相のPWMカウントCv,CvおよびW相のPWMカウントCw,Cwに対して、コモンモードノイズを低減するための処理(ノイズ低減処理)を行う。これにより、次回の電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第1のU相のPWMカウント、V相のPWMカウントおよびW相のPWMカウントと、次回の電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第2のU相のPWMカウント、V相のPWMカウントおよびW相のPWMカウントとが得られる。コモンモードノイズ低減部42の動作の詳細については、後述する。
【0058】
コモンモードノイズ低減部42によるノイズ低減処理後の、次回の電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第1のU相のPWMカウント、V相のPWMカウントおよびW相のPWMカウントは、第1のPWM出力部43Aに与えられる。一方、コモンモードノイズ低減部42によるノイズ低減処理後の、次回の電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第2のU相のPWMカウント、V相のPWMカウントおよびW相のPWMカウントは、第2のPWM出力部43Bに与えられる。
【0059】
第1のPWM出力部43Aは、コモンモードノイズ低減部42から与えられる電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第1のU相のPWMカウント、V相のPWMカウントおよびW相のPWMカウントを、複数の電流制御周期分にわたって記憶している。第1のPWM出力部43Aは、前回の電流制御周期Taにおいてコモンモードノイズ低減部42から与えられた今回の電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第1のU相のPWMカウント、V相のPWMカウントおよびW相のPWMカウントに基づいて、今回の電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第1のU相PWM信号、V相PWM信号およびW相PWM信号を生成して、第1の駆動回路32Aに供給する。具体的には、第1のPWM出力部43Aは、今回の電流制御周期Ta内のPWM周期Tc毎に、当該電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第1のU相のPWMカウント、V相のPWMカウントおよびW相のPWMカウントにそれぞれ対応するデューティのU相PWM信号、V相PWM信号およびW相PWM信号を生成して、第1の駆動回路32Aに供給する。
【0060】
第1の駆動回路32Aを構成する6つのFET111A〜116Aが第1のPWM出力部43Aから与えられるPWM信号によって制御されることにより、PWM周期Tc毎の第1の三相電圧指令値V1UVWに相当する電圧が第1のモータコイル18Aの各相のステータコイル18AU,18AV,18AWに印加されることになる。
第1の電流偏差演算部54Aおよび第1のPI制御部55Aは、電流フィードバック制御手段を構成している。この電流フィードバック制御手段の働きによって第1のモータコイル18Aに流れるモータ電流が、指令値分配部53によって第1系統用演算部70Aに分配された第1の二相電流指令値I1dqに近づくように制御される。
【0061】
第2のPWM出力部43Bは、コモンモードノイズ低減部42から与えられる電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第2のU相のPWMカウント、V相のPWMカウントおよびW相のPWMカウントを、複数の電流制御周期分にわたって記憶している。第2のPWM出力部43Bは、前回の電流制御周期Taにおいてコモンモードノイズ低減部42から与えられた今回の電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第2のU相のPWMカウント、V相のPWMカウントおよびW相のPWMカウントに基づいて、今回の電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第2のU相PWM信号、V相PWM信号およびW相PWM信号を生成して、第2の駆動回路32Bに供給する。具体的には、第2のPWM出力部43Bは、今回の電流制御周期Ta内のPWM周期Tc毎に、当該電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第2のU相のPWMカウント、V相のPWMカウントおよびW相のPWMカウントにそれぞれ対応するデューティのU相PWM信号、V相PWM信号およびW相PWM信号を生成して、第2の駆動回路32Bに供給する。
【0062】
第2の駆動回路32Bを構成する6つのFET111B〜116Bが第2のPWM出力部43Bから与えられるPWM信号によって制御されることにより、PWM周期Tc毎の第2の三相電圧指令値V2UVWに相当する電圧が第2のモータコイル18Bの各相のステータコイル18BU,18BV,18BWに印加されることになる。
第2の電流偏差演算部54Bおよび第2のPI制御部55Bは、電流フィードバック制御手段を構成している。この電流フィードバック制御手段の働きによって第2のモータコイル18Bに流れるモータ電流が、指令値分配部53によって第2系統用演算部70Bに分配された第2の二相電流指令値I2dqに近づくように制御される。
【0063】
以下、コモンモードノイズ低減部42について詳しく説明する。まず、図7を参照して、コモンモードノイズ低減部42によるコモンモードノイズ低減の基本的な考え方について説明する。
第1系統のある相の出力電圧(以下、第1の相電圧という)の波形が図7(a)である場合には、第1の相電圧に起因して、第1のモータコイル18Aとフレームグランドとの間に存在する浮遊容量C1(図3参照)に流れる電流は、図7(c)に示すようになる。つまり、第1の相電圧の立下り時点t1で−方向の電流が浮遊容量C1に流れ、第1の相電圧の立上り時点t2で+方向の電流が浮遊容量C1に流れる。
【0064】
そこで、第2系統のある相の出力電圧(以下、第2の相電圧という)の波形を、図7(b)に示すように、図7(a)の第1の相電圧の波形を反転させた波形にすると、第2の相電圧に起因して、第2のモータコイル18Bとフレームグランドとの間に存在する浮遊容量C2(図3参照)に流れる電流は、図7(d)に示すようになる。つまり、第2の相電圧の立上り時点t1で+方向の電流が浮遊容量C2に流れ、第2の相電圧の立下り時点t2で−方向の電流が浮遊容量C2に流れる。したがって、時点t1および時点t2のそれぞれの時点において、第1の相電圧に起因して浮遊容量C1に流れる電流と第2の相電圧に起因して浮遊容量C2に流れる電流とが相殺される。このため、図7(e)に示すように、正負の電源ラインとフレームグランドとの間に存在する浮遊容量C3、C4(図3参照)に流れる電流は低下する。
【0065】
図8は、コモンモードノイズ電流に着目した等価回路である。第1の相電圧、第2の相電圧はノイズ発生源とみなすことができる。電源100はコモンモードノイズ電流のような交流的には正負電極間がショートされているとみなすことができる。図8において、第1の相電圧により実線矢印のようにコモンモードノイズ電流が流れる。第2の相電圧により一点鎖線の矢印のようにコモンモードノイズ電流が流れる。したがって、浮遊容量C3、C4に流れる各コモンモードノイズ電流は向きが互いに逆なので、打ち消し合い、結果としてトータルのコモンモードノイズ電流は低下する。
【0066】
コモンモードノイズ低減部42は、電流制御周期内の少なくとも1つのPWM周期において、2系統のうちの一方の系統の1つの相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流が、他方の系統の少なくとも1つの相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流によって相殺されるように、当該他方の系統の少なくとも1つの相に対するPWM周期のPWMカウントを変更する。
【0067】
この実施形態では、コモンモードノイズ低減部42は、電流制御周期内の各PWM周期において、2系統のうちの一方の系統の1つの相の出力電圧に起因して浮遊容量に流れる電流が、他方の系統の2つの相の出力電圧のいずれかに起因して浮遊容量に流れる電流によって相殺されるように、当該他方の系統の2つの相に対するPWM周期のPWMカウントを変更する。
【0068】
図9は、コモンモードノイズ低減部の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
コモンモードノイズ低減部42(図2参照)は、まず、第1のPWMデューティ演算部57A(図4参照)から与えられる次回の電流制御周期Taに対する第1のU相、V相およびW相のPWMカウントCu、CvおよびCwを、次回の電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第1のU相、V相およびW相のPWMカウントCu、CvおよびCwとして設定する(ステップS1)。
【0069】
同様に、コモンモードノイズ低減部42は、第2のPWMデューティ演算部57Bから与えられる次回の電流制御周期Taに対する第2のU相、V相およびW相のPWMカウントCu、CvおよびCwを、次回の電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第2のU相、V相およびW相のPWMカウントCu、CvおよびCwとして設定する(ステップS2)。
【0070】
図12Aは、ステップS1で設定された、電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcにおける第1のU相、V相およびW相のPWMカウントCu、CvおよびCwと、ステップS2で設定された、電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcにおける第2のU相、V相およびW相のPWMカウントCu、CvおよびCwの一例を示す模式図である。
次に、コモンモードノイズ低減部42は、各系統の相毎に、デットタイムを考慮したスイッチングタイミングを設定する(ステップS3)。
【0071】
図10は、主として、ある相のPWM周期単位の最終的なPWMカウントと、各系統の当該相の上段FET指令および下段FET指令との関係を示す模式図である。言い換えれば、第1のPWM出力部43Aおよび第2のPWM出力部43B(図2参照)のある相に対する動作の一例を説明するための模式図である。
この実施形態では、前述したように、キャリア波形は三角波であり、PWMカウントの出力可能カウントは0〜500に設定されている。また、この実施形態では、デットタイムに相当するカウント値を10とする。
【0072】
第1系統の上段FET指令および下段FET指令について説明する。この実施形態では、キャリアカウントがPWMカウントよりも大きいときに、第1系統の上段FET指令がオフ指令となるように、第1系統の上段FETのスイッチングタイミングが設定されている。つまり、キャリアカウントのアップカウント中にキャリアカウントがPWMカウントと等しくなると(時点t2)、図10(a)に示すように、上段FET指令は、オン指令からオフ指令に変化する。そして、キャリアカウントのダウンカウント中にキャリアカウントがPWMカウントと等しくなると(時点t5)、上段FET指令は、オフ指令からオン指令に変化する。
【0073】
図10(b)に示すように、時点t2からデットタイムTdが経過すると(時点t3)、下段FET指令はオフ指令からオン指令に変化する。そして、時点t5に対してデットタイムTdだけ早い時点(時点t4)において、下段FET指令はオン指令からオフ指令に変化する。
第2系統の上段FET指令および下段FET指令について説明する。この実施形態では、キャリアカウントがPWMカウントよりも大きいときに、第2系統の上段FET指令がオン指令となるように、第2系統の上段FETのスイッチングタイミングが設定されている。つまり、キャリアカウントのアップカウント中にキャリアカウントがPWMカウントと等しくなると(時点t2)、図10(e)に示すように、上段FET指令は、オフ指令からオン指令に変化する。そして、キャリアカウントのダウンカウント中にキャリアカウントがPWMカウントと等しくなると(時点t5)、上段FET指令は、オン指令からオフ指令に変化する。
【0074】
図10(f)に示すように、時点t2に対してデットタイムTdだけ早い時点(時点t1)において、下段FET指令はオン指令からオフ指令に変化する。時点t5からデットタイムTdが経過すると(時点t6)、下段FET指令はオフ指令からオン指令に変化する。
デットタイム期間中のある相の出力電圧(相電圧)について、図11Aおよび図11Bを参照して説明する。ここでは、第1系統のU相を例にとって説明するが、第1系統の他の2つの相や、第2系統の各相においても同様である。
【0075】
図11Aに示すように、上段FET111Aおよび下段FET112Aの接続点から電動モータ18側に向かって電流が流れている状態では、デットタイム期間中においては、下段FET112Aに逆並列接続されたダイオード122Aを通じて電流が流れることになる。したがって、デットタイム期間中においては、出力電圧(相電圧)VuはLベルとなる。このため、相電圧VuのLレベルの期間は、上段FET111Aのオフ期間と同じになる。
【0076】
一方、図11Bに示すように、電動モータ18側から上段FET111Aおよび下段FET112Aの接続点に向かって電流が流れている状態では、デットタイム期間中においては、上段FET111Aに逆並列接続されたダイオード121Aを通じて電流が流れることになる。したがって、デットタイム期間中においては、出力電圧(相電圧)VuはHレベルとなる。このため、相電圧VuのLレベルの期間は上段FET111Aのオフ期間よりも短くなる。言い換えれば、相電圧VuのHレベルの期間は上段FET111Aのオン期間よりも長くなる。
【0077】
第1系統において、PWMカウントがPWMカウント最大値の1/2以上(250以上)である場合には、PWMカウントがPWMカウント最大値の1/2未満である場合に比べて、上段FETのオン時間が長くなる。そこで、この実施形態では説明の便宜上、PWMカウントが250以上である場合には、上段FETおよび下段FETの接続点から電動モータ18側に向かって電流が流れている状態(図11Aに示される状態)であると考えることにする。このため、デットタイム期間中においては、出力電圧(相電圧)はLベルとなると考えられる。したがって、この場合には、相電圧は、図10(c)に示すように変化すると考えられるので、相電圧のレベル変化タイミングと上段FETのスイッチングタイミングとは一致する。
【0078】
一方、第1系統において、PWMカウントがPWMカウント最大値の1/2未満(250未満)である場合には、PWMカウントがPWMカウント最大値の1/2以上である場合に比べて、上段FETのオン時間が短くなる。そこで、この実施形態では説明の便宜上、PWMカウントが250未満である場合には、電動モータ18側から上段FETおよび下段FETの接続点に向かって電流が流れている状態(図11Bに示される状態)であると考えることにする。このため、デットタイム期間中においては、出力電圧(相電圧)はHレベルとなると考えられる。したがって、この場合には、相電圧は、図10(d)に示すように変化すると考えられるので、相電圧のレベル変化タイミングと上段FETのスイッチングタイミングとは一致しなくなる。上段FETのスイッチングタイミングが相電圧のレベル変化タイミングと一致する仮想のPWMカウント(デットタイムを考慮したスイッチングタイミング)は、実際のPWMカウントにデットタイムに相当するカウント値(この実施形態では“10”)を加算した値となる。
【0079】
第2系統において、PWMカウントがPWMカウント最大値の1/2以上(250以上)である場合には、PWMカウントがPWMカウント最大値の1/2以上である場合に比べて、上段FETのオン時間が短くなる。そこで、この実施形態では説明の便宜上、PWMカウントが250以上である場合には、電動モータ18側から上段FETおよび下段FETの接続点に向かって電流が流れている状態(図11Bに示される状態)であると考えることにする。このため、デットタイム期間中においては、出力電圧(相電圧)はHベルとなると考えられる。したがって、この場合には、相子電圧は、図10(g)に示すように変化すると考えられるので、相電圧のレベル変化タイミングと上段FETのスイッチングタイミングとは一致しなくなる。上段FETのスイッチングタイミングが相電圧のレベル変化タイミングと一致する仮想のPWMカウント(デットタイムを考慮したスイッチングタイミング)は、実際のPWMカウントにデットタイムに相当するカウント値(この実施形態では“10”)を減算した値となる。
【0080】
一方、第2系統において、PWMカウントがPWMカウント最大値の1/2未満(250未満)である場合には、PWMカウントがPWMカウント最大値の1/2以上である場合に比べて、上段FETのオン時間が長くなる。そこで、この実施形態では説明の便宜上、PWMカウントが250未満である場合には、上段FETおよび下段FETの接続点から電動モータ18側に向かって電流が流れている状態(図11Aに示される状態)であると考えることにする。このため、デットタイム期間中においては、出力電圧(相電圧)はLベルとなると考えられる。したがって、この場合には、相電圧は、図10(h)に示すように変化すると考えられるので、相電圧のレベル変化タイミングと上段FETのスイッチングタイミングとは一致する。
【0081】
この実施形態では、説明の便宜上、第1系統および第2系統において、相電流の方向をPWMカウントがPWMカウント最大値の1/2以上であるか否かに基づいて推定しているが、相電流を検出し、この検出値に基づいて相電流の方向を推定してもよい。
ステップS3では、コモンモードノイズ低減部42は、ステップS1およびS2で設定された各系統の各相のPWM周期TcのPWMカウント毎に、当該相の出力電圧(相電圧)のレベル変化タイミングに一致するPWMカウント(デットタイムを考慮したスイッチングタイミング)を演算する。
【0082】
具体的には、コモンモードノイズ低減部42は、次回の電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第1のU相、V相およびW相のPWMカウントCu、CvおよびCwのうち、250以上のPWMカウントについては、その値をそのまま、当該相の出力電圧(相電圧)のレベル変化タイミングに一致するPWMカウントとして設定する。
前記第1のU相、V相およびW相のPWMカウントCu、CvおよびCwのうち、250未満のPWMカウントについては、コモンモードノイズ低減部42は、その値にデットタイムに相当するカウント値(この実施形態では“10”)を加算した値を、当該相の出力電圧(相電圧)のレベル変化タイミングに一致するPWMカウントとして設定する。
【0083】
コモンモードノイズ低減部42は、次回の電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する第2のU相、V相およびW相のPWMカウントCu、CvおよびCwのうち、250以上のPWMカウントについては、その値からデットタイムに相当するカウント値(この実施形態では“10”)を減算した値を、当該相の出力電圧(相電圧)のレベル変化タイミングに一致するPWMカウントとして設定する。
【0084】
前記第2のU相、V相およびW相のPWMカウントCu、CvおよびCwのうち、250未満のPWMカウントについては、コモンモードノイズ低減部42は、その値をそのまま、当該相の出力電圧(相電圧)のレベル変化タイミングに一致するPWMカウントとして設定する。
ステップS1およびS2によって設定された各系統の各相のPWM周期単位のPWMカウントが図12Aである場合、ステップS3によって設定される各系統の各相のPWM周期単位のPWMカウントを図12Bに示す。図12A図12Bとを比較すると、第1系統のV相のPWMカウントCvが200から210に変化し、第1系統のW相のPWMカウントCwが100から110に変化していることがわかる。また、第2系統のU相のPWMカウントCuが350から340に変化し、第2系統のV相のPWMカウントCvが300から290に変化していることがわかる。
【0085】
次に、コモンモードノイズ低減部42は、ステップS3の処理によって設定された各系統の各相のPWM周期単位のPWMカウントに基づいて、第1系統と第2系統との間でノイズ電流を相殺すべき相の組合せを決定する(ステップS4)。
具体的には、コモンモードノイズ低減部42は、まず、各系統の各相のうち、ステップS3の処理によって設定されたPWMカウントのうち、PWMカウント最大値(この実施形態では“500”)または最小値(この実施形態では“0”)に最も近いPWMカウントを有する相を、第1の基準相として設定する。図12Bの例では、各系統の各相のPWMカウントのうち、第2系統のW相のPWMカウントCw(Cw=50)が500または0に最も近いので、第2系統のW相が第1の基準相として設定される。
【0086】
次に、コモンモードノイズ低減部42は、第1の基準相(この例では第2系統のW相)とは系統が異なる他の系統(この例では第1系統)の各相のうち、第1の基準相のPWMカウント(この例ではCw)にPWMカウントが近い2つの相を、第1の基準相のノイズ電流を相殺するためにPWMカウントが変更されるカウント変更対象相として割り当てる。図12Bの例では、第1の基準相である第2系統のW相に対して、第1系統のV相およびW相が第1の基準相のノイズ電流を相殺するためのカウント変更対象相として割り当てられる。
【0087】
また、コモンモードノイズ低減部42は、第1の基準相に対して割り当てられたカウント変更対象相が属する系統(この例では第1系統)の残りの1つの相(この例ではU相)を第2の基準相として設定する。そして、コモンモードノイズ低減部42は、第2の基準相(この例では第1系統のU相)とは系統が異なる他の系統(この例では第2系統)の各相のうちの2つの相を、第2の基準相のノイズ電流を相殺するためにPWMカウントが変更されるカウント変更対象相として割り当てる。例えば、コモンモードノイズ低減部42は、第2系統のうち第1の基準相以外の2つの相(この例ではU相およびV相)を、第2の基準相のノイズ電流を相殺するためのカウント変更対象相として割り当てる。
【0088】
次に、コモンモードノイズ低減部42は、各カウント変更対象相に対して、ノイズ電流を相殺するためのふり幅を設定する(ステップS5)。
あるカウント変更対象相に関して、電流制御周期Ta内のPWMカウント値の合計値が変更されないようにPWMカウント値を変更するには、当該カウント変更対象相のPWMカウント値に対して、例えば、図13Aに示されるA相用のふり幅パターンに応じたふり幅または図13Aに示されるB相用のふり幅パターンに応じたふり幅を加算すればよい。図13A内のxは、ふり幅の絶対値を規定するためのふり幅規定値である。
【0089】
A相用のふり幅パターンは、同じ系統内の2つのカウント変更対象相のうちの一方の相に適用され、B相用のふり幅パターンは他方の相に適用される。この例では、第1系統のV相に対してA相用のふり幅パターンが適用され、第1系統のW相に対してB相用のふり幅パターンが適用されるものとする。また、第2系統のU相に対してA相用のふり幅パターンが適用され、第2系統のV相に対してB相用のふり幅パターンが適用されるものとする。
【0090】
コモンモードノイズ低減部42は、ステップS3の処理によって設定された各系統の各相のPWM周期単位のPWMカウントに基づいて、第1系統のV相、第1系統のW相、第2系統のU相および第2系統のV相それぞれに対するふり幅規定値xを次のようにして演算する。コモンモードノイズ低減部42は、第1系統のV相のPWMカウントと、ノイズ電流を相殺すべき第2系統のW相のPWMカウントとの差の絶対値を、第1系統のV相に対するふり幅規定値xとして演算する。この例では、第1系統のV相に対するふり幅規定値xは、160(=210−50)となる。
【0091】
コモンモードノイズ低減部42は、第1系統のW相のPWMカウントと、ノイズ電流を相殺すべき第2系統のW相のPWMカウントとの差の絶対値を、第1系統のW相に対するふり幅規定値xとして演算する。この例では、第1系統のW相に対するふり幅規定値xは、60(=110−50)となる。
コモンモードノイズ低減部42は、第2統のU相のPWMカウントと、ノイズ電流を相殺すべき第1系統のU相のPWMカウントとの差の絶対値を、第2系統のU相に対するふり幅規定値xとして演算する。この例では、第2系統のU相に対するふり幅規定値xは、60(=400−340)となる。
【0092】
コモンモードノイズ低減部42は、第2統のV相のPWMカウントと、ノイズ電流を相殺すべき第1系統のU相のPWMカウントとの差の絶対値を、第2系統のV相に対するふり幅規定値xとして演算する。この例では、第2系統のV相に対するふり幅規定値xは、110(=400−290)となる。
コモンモードノイズ低減部42は、このようにして演算された各カウント変更対象相に対するふり幅規定値xと当該相に適用されるふり幅パターンとに基づいて、各カウント変更対象相に対する各PWM周期Tcのふり幅を設定する。
【0093】
図12Bに示される各系統の各相のPWM周期単位のPWMカウントに基づいて設定された、第1系統のV相、第1系統のW相、第2系統のU相および第2系統のV相の各PWM周期Tcのふり幅を、図13Bに示す。
次に、コモンモードノイズ低減部42は、カウント変更対象相のPWMカウントを変更するためのPWMカウント変更処理を行う(ステップS6)。具体的には、コモンモードノイズ低減部42は、ステップS5で設定された各カウント変更対象相に対するふり幅にしたがって、ステップS1およびS2によって設定された次回の電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対するカウント変更対象相のPWMカウントを変更する。
【0094】
より具体的には、コモンモードノイズ低減部42は、ステップS1およびS2によって設定された各PWM周期Tcに対するカウント変更対象相のPWMカウントに、ステップS5で設定された対応するカウント変更対象相のふり幅を加算することによって、各PWM周期Tcに対するカウント変更対象相のPWMカウントを変更する。
次に、コモンモードノイズ低減部42は、ステップS6のPWMカウント変更処理後の各PWM周期に対する第1のU相、V相およびW相のPWMカウントCu、CvおよびCwを、次回の電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する最終的な第1のU相、V相およびW相のPWMカウントCu、CvおよびCwとして、第1のPWM出力部43Aに与える(ステップS7)。
【0095】
また、コモンモードノイズ低減部42は、ステップS5のPWMカウント変更処理後の各PWM周期に対する第2のU相、V相およびW相のPWMカウントCu、CvおよびCwを、次回の電流制御周期Ta内の各PWM周期Tcに対する最終的な第2のU相、V相およびW相のPWMカウントCu、CvおよびCwとして、第2のPWM出力部43Bに与える(ステップS8)。そして、コモンモードノイズ低減部42は、今回の電流制御周期Taでの処理を終了する。
【0096】
ステップS1およびS2によって設定された各系統の各相のPWM周期単位のPWMカウントが図12Aに示されるような値であり、カウント変更対象相のふり幅が図13Bに示すような値である場合、各系統の各相のPWM周期単位の最終的なPWMカウントは、図13Cに示されるようになる。
また、図13Cに示される最終的なPWMカウントに応じた各相の出力電圧に一致するスイッチングタイミング(デットタイムを考慮したスイッチングタイミング)は、図13Dに示すようになる。なお、図13Dにおけるカウント変更対象相に対するPWM周期単位のPWMカウントは、ステップS3によって設定されたカウント変更対象相のPWM周期単位のPWMカウントに、ステップS4で演算された対応するカウント変更対象相のふり幅を加算することによって得ることができる。
【0097】
図13Dに示すように、各PWM周期Tcにおける第2系統のW相のPWMカウントは、第1系統のV相またはW相のいずれかのPWMカウントと一致している。このため、第2系統のW相の出力電圧(相電圧)に起因して第2のモータコイル18B側の浮遊容量C2(図3参照)に流れるノイズ電流が、第1系統のV相またはW相のいずれかの出力電圧(相電圧)に起因して第1のモータコイル18A側の浮遊容量C1に流れるノイズ電流によって相殺される。これにより、コモンモードノイズが低減される。
【0098】
同様に、図13Dに示すように、各PWM周期Tcにおける第1系統のU相のPWMカウントは、第2系統のU相またはV相のいずれかのPWMカウントと一致している。このため、第1系統のU相の出力電圧(相電圧)に起因して第1のモータコイル18A側の浮遊容量C1を通じてC3,C4に流れるノイズ電流が、第2系統のU相またはV相のいずれかの出力電圧(相電圧)に起因して第2のモータコイル18B側の浮遊容量C2を通じてC3,C4に流れるノイズ電流によって相殺される。これにより、コモンモードノイズが低減される。
【0099】
前記実施形態では、この発明を電動パワーステアリング装置のモータ制御装置に適用した場合について説明したが、この発明は、電動パワーステアリング装置以外に用いられるモータ制御装置にも適用することができる。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0100】
1…電動パワーステアリング装置、12…ECU、18…電動モータ、18A,18B…三相モータコイル、31…マイクロコンピュータ、32A,32B…駆動回路、57A,57B…PWMデューティ演算部、42…コモンモードノイズ低減部、43A,43B…PWM出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13