(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
金属ガラスはアモルファス金属の一種であり、これまでに、鉄基、チタン基など数百種類に及ぶ合金組成が見出されている。なかでも、鉄基金属ガラス合金は、圧粉成形した場合に優れた磁気特性が得られるので、インダクタ、チョークコイル等の電子部品を製造する磁性材料や、電磁波シールド、例えば電子部品のノイズ抑制シート等の材料など、広い用途への利用が期待されている(特許文献1)。
ノイズ抑制シートは、一般的に、発熱する電子装置の近傍に用いられるため難燃性が要求されているところ、多割合の扁平軟磁性材料粉末を含ませることにより難燃性としたノイズ抑制シートが報告されている(特許文献2)。ナノ結晶軟磁性金属粉末とアクリル系バインダー樹脂とを含ませることにより難燃性としたノイズ抑制シートもまた報告されている(特許文献3)。しかし、これら特許文献で評価している難燃性は、シートの難燃性であって、粉末の難燃性ではない。
【0003】
着火性は、最終製品に特有の問題ではなく、最終製品を形成する前の粉末等の材料の状態でも問題となる。というのは、製造中や製造後の取扱時に材料が着火する危険性をはらむからである。最終製品を形成するまでに材料を保管したり、別の場所で最終製品とするのに運送したりするときにも注意が必要である。
難燃性に優れた粉末として、所定量のAl及び/又はSiと,Crと,Oとを含ませ、D
50を10〜40μm、アスペクト比(D
50/d)を20〜200とした難燃性磁気シールド用偏平状鉄基合金粉末が報告されている(特許文献4)。所定量のAl及び/又はSiと,Crと,Oと,Nとを含ませ、D
50を10〜40μm、アスペクト比(D
50/d)を20〜200とした難燃性磁気シールド用偏平状鉄基合金粉末もまた報告されている(特許文献5)。これら特許文献は、粉末の難燃性を評価しているが、その粉末はアモルファス粉末ではない。
他方、インダクタは、スマートフォン等のモバイル機器や、パワーステアリングやエアバッグ等の自動車の電装システムに用いられている。近年、CPUの高速演算処理を目的とした回路の高周波化が進められてきた。高周波化に伴いインダクタへの大電流化が求められる様になった。通常、大電流化に伴いインダクタは大型化するが、飽和磁化の高い材料を用いることでインダクタを小型化できる。このような事情から、インダクタを構成する磁性材料の磁気特性である飽和磁化が重要となった。
【0004】
飽和磁化の高い材料としてFeを主材料とした金属材料がある。ただし金属材料は高い導電性を持つことから、高周波回路内においてバルク状で用いると渦電流損失が大きくなるためバルク状では使用できない。一般に軟磁性材料の鉄損(インダクタ内の磁性材料によるエネルギー損失の総称)は、下記修正シュタインメッツ式により表すことができる。
軟磁性材料の鉄損=ヒステリシス損失+渦電流損失
渦電流損失は粒径に依存することから、渦電流損失を低減することにより鉄損を低減するには、粒径を小さくすることが効果的である。
一方でアモルファス材料は結晶構造に由来する異方性がないことから、低鉄損の優れた軟磁気特性を示すことが知られている。
モバイル機器や電装システムに搭載するインダクタの小型化をするために、Feを主成分とした鉄基金属ガラス合金粉末であって粒子径の小さなものが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでに、アモルファス組成の鉄基金属ガラス合金粉末がいくつか見出されており、本件出願人も、特開2005−290468号公報及び特開2014−169482号公報等により報告した。しかし、鉄基金属ガラス合金粉末が易着火性であることは知られていない。
したがって、本発明は、鉄基金属ガラス合金粉末の易着火性の問題を解決することを課題とし、難燃性の鉄基金属ガラス合金粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意検討した結果、鉄基金属ガラス合金粉末の組成を調整することにより難燃性とすることに成功した。すなわち、本発明により、以下の鉄基金属ガラス合金粉末を提供する:
〔1〕鉄基金属ガラス合金粉末であって、
前記鉄基金属ガラス合金が、下記組成式:
(Fe
1-s-tCo
sNi
t)
100-x-y{(Si
aB
b)
m(P
cC
d)
n}
xM
y
で表され、
鉄基金属元素群Fe、Co及びNiの組成比率が、19≦x≦22、0≦y≦6.0、0≦s≦0.35、0≦t≦0.35、及び、s+t≦0.35であり、
半金属元素群Si、B、P及びCの組成比率が、
(0.5:1)≦(m:n)≦(6:1)、
(2.5:7.5)≦(a:b)≦(5.5:4.5)、及び
(5.5:4.5)≦(c:d)≦(9.5:0.5)であり、
過冷度改善元素群Mが、Nb及びMoからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、 前記鉄基金属ガラス合金が、さらに、耐食性改質成分として、Cr及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、該耐食性改質成分の含有率が合金成分の全質量を基準として、2.8〜5.5wt%であり、
粒子径が0.5μm以上であって、3μm未満である、
前記鉄基金属ガラス合金粉末。
【0008】
〔2〕鉄基金属ガラス合金粉末であって、
前記鉄基金属ガラス合金が、下記組成式:
(Fe
1-s-tCo
sNi
t)
100-x-y{(Si
aB
b)
m(P
cC
d)
n}
xM
y
で表され、
鉄基金属元素群Fe、Co及びNiの組成比率が、19≦x≦26、0≦y≦6.0、0≦s≦0.35、0≦t≦0.35、及び、s+t≦0.35であり、
半金属元素群Si、B、P及びCの組成比率が、
(0.5:1)≦(m:n)≦(6:1)、
(2.5:7.5)≦(a:b)≦(5.5:4.5)、及び
(5.5:4.5)≦(c:d)≦(9.5:0.5)であり、
過冷度改善元素群Mが、Nb及びMoからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、 前記鉄基金属ガラス合金が、さらに、耐食性改質成分として、Cr及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、該耐食性改質成分の含有率が合金成分の全質量を基準として、2.3〜5.5wt%であり、
粒子径が3μm以上であって、10μm未満である、
前記鉄基金属ガラス合金粉末。
【0009】
〔3〕鉄基金属ガラス合金粉末であって、
前記鉄基金属ガラス合金が、下記組成式:
(Fe
1-s-tCo
sNi
t)
100-x-y{(Si
aB
b)
m(P
cC
d)
n}
xM
y
で表され、
鉄基金属元素群Fe、Co及びNiの組成比率が、19≦x≦26、0≦y≦6.0、0≦s≦0.35、0≦t≦0.35、及び、s+t≦0.35であり、
半金属元素群Si、B、P及びCの組成比率が、
(0.5:1)≦(m:n)≦(6:1)、
(2.5:7.5)≦(a:b)≦(5.5:4.5)、及び
(5.5:4.5)≦(c:d)≦(9.5:0.5)であり、
過冷度改善元素群Mが、Nb及びMoからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、 粒子径が10〜30μmである、
前記鉄基金属ガラス合金粉末。
【0010】
〔4〕鉄基金属ガラス合金粉末であって、
前記鉄基金属ガラス合金が、下記組成式:
(Fe
1-s-tCo
sNi
t)
100-x-y{(Si
aB
b)
m(P
cC
d)
n}
xM
y
で表され、
鉄基金属元素群Fe、Co及びNiの組成比率が、19≦x≦22、0≦y≦6.0、0≦s≦0.35、0≦t≦0.35、及び、s+t≦0.35であり、
半金属元素群Si、B、P及びCの組成比率が、
(0.5:1)≦(m:n)≦(6.1:1)、
(2.5:7.5)≦(a:b)≦(5.6:4.4)、及び
(4.2:5.8)≦(c:d)≦(9.5:0.5)であり、
過冷度改善元素群Mが、Nb及びMoからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、 前記鉄基金属ガラス合金が、さらに、耐食性改質成分として、Cr及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、該耐食性改質成分の含有率が合金成分の全質量を基準として、2.8〜5.5wt%であり、
粒子径が0.5μm以上であって、3μm未満である、
前記鉄基金属ガラス合金粉末。
【0011】
〔5〕鉄基金属ガラス合金粉末であって、
前記鉄基金属ガラス合金が、下記組成式:
(Fe
1-s-tCo
sNi
t)
100-x-y{(Si
aB
b)
m(P
cC
d)
n}
xM
y
で表され、
鉄基金属元素群Fe、Co及びNiの組成比率が、19≦x≦26、0≦y≦6.0、0≦s≦0.35、0≦t≦0.35、及び、s+t≦0.35であり、
半金属元素群Si、B、P及びCの組成比率が、
(0.5:1)≦(m:n)≦(6.1:1)、
(2.5:7.5)≦(a:b)≦(5.6:4.4)、及び
(4.2:5.8)≦(c:d)≦(9.5:0.5)であり、
過冷度改善元素群Mが、Nb及びMoからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、 前記鉄基金属ガラス合金が、さらに、耐食性改質成分として、Cr及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、該耐食性改質成分の含有率が合金成分の全質量を基準として、2.3〜5.5wt%であり、
粒子径が3μm以上であって、10μm未満である、
前記鉄基金属ガラス合金粉末。
【0012】
〔6〕鉄基金属ガラス合金粉末であって、
前記鉄基金属ガラス合金が、下記組成式:
(Fe
1-s-tCo
sNi
t)
100-x-y{(Si
aB
b)
m(P
cC
d)
n}
xM
y
で表され、
鉄基金属元素群Fe、Co及びNiの組成比率が、19≦x≦26、0≦y≦6.0、0≦s≦0.35、0≦t≦0.35、及び、s+t≦0.35であり、
半金属元素群Si、B、P及びCの組成比率が、
(0.5:1)≦(m:n)≦(6.1:1)、
(2.5:7.5)≦(a:b)≦(5.6:4.4)、及び
(4.2:5.8)≦(c:d)≦(9.5:0.5)であり、
過冷度改善元素群Mが、Nb及びMoからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、 粒子径が10〜30μmである、
前記鉄基金属ガラス合金粉末。
【0013】
〔7〕前記鉄基金属ガラス合金が、さらに、耐食性改質成分として、Cr及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種を、合金成分の全質量を基準として、0wt%を超え、5.5wt%以下の割合で含有する〔3〕又は〔6〕記載の鉄基金属ガラス合金粉末。
〔8〕耐食性改質成分がCrである〔1〕,〔2〕,〔4〕,〔5〕又は〔7〕記載の鉄基金属ガラス合金粉末。
〔9〕〔1〕〜〔8〕のいずれか1項記載の鉄基金属ガラス合金粉末を用いて作成された成形品。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、難燃性の鉄基金属ガラス合金粉末を提供することができる。製造中や製造後の取扱時に材料が着火するリスクをなくすことで、最終製品を形成するまでの保管や、運送方法を簡易にできるため、安全にかつ低価格の材料使用が可能となる。
また本発明の鉄基金属ガラス合金粉末は、高い磁気特性を維持している。このため各種電子部品の圧粉成形用材料や電子回路基板等に磁性膜を形成するための塗料用材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「鉄基金属元素群」を構成する元素は、Fe、Co、Niである。
本明細書において、「半金属元素群」を構成する元素は、Si、B、P、Cである。
本明細書において、「過冷度改善元素群」を構成する元素は、Nb、Moである。
本明細書において、合金の成分元素の「含有率」は、前記組成式に対して添加元素(耐食性改質成分、耐食性改質副成分)を含有ませた鉄基ガラス合金粉末の全質量を基準とする成分元素の含有率(wt%)を示す。また、前記組成式における組成比率は特に断りのない限り原子%(at%)又は原子比を示す。
本明細書において、用語「粒子径」は、特に断りのない限り平均粒子径(メディアン径、D
50)を指す。
【0017】
前記組成式(基本組成)において、各組成比率を調整することにより、従来品より粒子径が小さくても難燃性である鉄基金属ガラス合金が得られる。本発明は、組成比率と粒径とにより分類される第一から第三の態様を含む。なお、本明細書において、特に断りのない限り、「本発明」は全態様を指す。
第一態様は、19≦x≦22、耐食性改質成分が、合金成分の全質量を基準として2.8〜5.5wt%であり、粒子径が0.5μm以上、3μm未満であることを主たる特徴とする鉄基金属ガラス合金粉末に関する。
第二態様は、19≦x≦26、耐食性改質成分が、合金成分の全質量を基準として2.3〜5.5wt%であり、粒子径が3μm以上、10μm未満であることを主たる特徴とする鉄基金属ガラス合金粉末に関する。
第三態様は、19≦x≦26、耐食性改質成分が、合金成分の全質量を基準として0〜5.5wt%であり、粒子径が10〜30μmであることを主たる特徴とする鉄基金属ガラス合金粉末に関する。
先ず、全態様に共通する事項を、次に、各態様に個別の事項を、以下に説明する。
【0018】
1.全態様に関する組成比率
1-1.鉄基金属元素群の組成比率(s、t、s+t)
前記基本組成において、鉄基金属元素群の組成比率は、0≦s≦0.35、0≦t≦0.35、かつ、s+t≦0.35である。
s及びtはゼロでも良い。つまり、Fe以外の鉄基金属元素であるCoやNiを含まなくてもよい。CoやNiは高価であるが、これらを含まなくても、優れた磁気特性と耐食性とを備え、さらに、40K以上の過冷度を得ることができるため、より安価に鉄基金属ガラス合金粉末を得ることができる。
s+t>0.35では、CoやNiの含有量が増加し材料コストが増加するばかりでなく、過冷度が実測できないほど小さくなる。その結果、アモルファス組成を形成する条件である40K以上の過冷度を得ることができない。
【0019】
1-2.半金属元素群の組成比率(a、b、m、c、d、n)
半金属元素群を構成する各元素の組成比率(a、b、m、c、d、n)の範囲は、前記総和の組成比率(x)の範囲内において、
(0.5:1)≦(m:n)≦(6.1:1)、
(2.5:7.5)≦(a:b)≦(5.6:4.4)、及び
(4.2:5.8)≦(c:d)≦(9.5:0.5)
とする。好ましくは、
(0.5:1)≦(m:n)≦(6:1)、
(2.5:7.5)≦(a:b)≦(5.5:4.5)、及び
(5.5:4.5)≦(c:d)≦(9.5:0.5)
とする。
半金属元素群の組成比率が上記の範囲外の場合、△Tx≧40Kの過冷度が得難い。
【0020】
半金属元素群の組成比率は、
(1.5:1)≦(m:n)≦(5.5:1)、
(3.5:6.5)≦(a:b)≦(6.5:3.5)、及び
(6.0:4.0)≦(c:d)≦(8.5:1.5)とするのが好ましい。
より好ましくは、
(2.5:1)≦(m:n)≦(3.5:1)、
(4.3:5.7)≦(a:b)≦(5.2:4.8)、及び
(6.5:3.5)≦(c:d)≦(7.0:3.0)である。
半金属元素群の比率をこのような範囲に設定することにより、鉄基金属ガラス合金粉末の磁気特性及び耐食性を更に向上させることができる。
【0021】
1-3.過冷度改善元素群の組成比率(y)
過冷度改善元素群の組成比率は、0≦y≦6.0、好ましくは0.05≦y≦2.4、より好ましくは0.15≦y≦1.3である。過冷度改善元素群の組成比率をこのような範囲に設定することにより、磁気特性を向上させることができる。ただし、Nb又はMoは高価なレアメタルであるので、Nb又はMoの組成比率は、所要の磁気特性が得られる範囲内において、可及的に低いほうが望ましい。過冷度改善元素群の組成比率が過多であると、過冷度の改善効果が飽和値に達するとともに、相対的に磁気特性が低下する傾向がある。
なお、Nb又はMoのいずれか一方の組成比率と両方の合計の組成比率とを同一とするのは、両元素は、化学的特性が類似するとともに原子半径・原子量が近似しているためである。
【0022】
2.各態様に関する組成比率と粒径
2-1.第一の態様
2-1-1.半金属元素群の組成比率(x)
第一の態様における半金属元素群の総和の組成比率(x)は、19≦x≦22である。
難燃性と過冷度と磁気特性との観点からは、21≦x≦22の範囲が好ましい。
なお、xの下限は、△Tx≧40Kの過冷度を得、アモルファス単相を得る観点から設定した。xの上限は、第一に難燃性の観点から、第二にFe量の減少に伴う磁気特性低下の阻止と材料コストの抑制を考慮して設定した。
【0023】
2-1-2.耐食性改質成分
第一の態様における耐食性改質成分の含有率は、合金成分の全質量を基準として、2.8〜5.5wt%、好ましくは2.8〜4.0wt%である。鉄基金属ガラス合金粉末中に含まれるCr、Zrによって、鉄基金属ガラス合金粉末の表面に酸化皮膜が形成されるので、耐食性が向上する。耐食性改質成分としては、経済的な理由からCrが好ましい。
【0024】
本発明の第一の態様の鉄基金属ガラス合金粉末は、耐食性改質成分として、さらにAlを含んでも良い。Alも鉄基金属ガラス合金粉末の表面に酸化皮膜を形成するが、Cr及び/又はZrによって形成された酸化皮膜の硬度を高くする効果がある。酸化皮膜の硬度が高くなると、耐食性がより向上する。また、後述のアトマイズ法によって鉄基金属ガラス合金粉末を製造する際に、Alは粉末の球状化に寄与する。
【0025】
Alを含む場合、本発明の第一の態様の鉄基金属ガラス合金粉末の全質量を基準として、Alの含有率が0.01〜0.75wt%であり、かつ、Alを含む耐食性改質成分の含有率が1.0〜5.0wt%であるのが好ましい。さらには、Alの含有率が0.03〜0.50wt%で、かつ、Alを含む耐食性改質成分の含有率が1.5〜1.9wt%とするのが望ましい。後者の組成とした場合は、耐食性ばかりでなく、磁気特性がさらに向上する。
【0026】
本発明の第一の態様の鉄基金属ガラス合金粉末は、耐食性改質副成分として、さらにV、Ti、Ta、Cu及びMnからなる群から選ばれる少なくとも一種を含んでもよい。これにより、前記耐食性改質成分の含有量を低くしながら優れた磁気特性が得られる。耐食性改質副成分の合計含有率は、本発明の第一の態様の鉄基金属ガラス合金粉末の全質量を基準として、0.03〜0.70wt%、さらには0.05〜0.50wt%、よりさらには0.10〜0.30wt%とするのが望ましい。Alと同様、前記耐食性改質副成分も、鉄基金属ガラス合金粉末の表面に酸化皮膜を形成して耐食性を向上させることができる。さらに、前記耐食性改質成分との相乗効果によって、鉄基金属ガラス合金粉末の比抵抗を向上させることができる。
【0027】
2-1-3.粒子径
本発明の第一の態様の鉄基金属ガラス合金粉末の粒子径は、0.5μm以上であって、3μm未満である。一般的に、粒径が小さいほど、鉄損中の渦電流損失を下げられ、優れた磁気特性を有する点で有利であるが、比表面積が大きくなるため反応性が高くなり、材料の信頼性が低下してしまう点で不利である。しかし、本発明の第一の態様の組成の鉄基金属ガラス合金粉末であれば、このような欠点を除くことができる。また、一般的に、粒子径が小さいと鉄基金属ガラス合金粉末は腐蝕しやすくなるが、本発明の第一の態様の鉄基金属ガラス合金粉末は、0.5μm以上であって、3μm未満のような小さな粒子径であっても耐食性が良好である。
【0028】
2-2.第二の態様
2-2-1.半金属元素群の組成比率(x)
第二の態様における半金属元素群の総和の組成比率(x)は、19≦x≦26である。難燃性と過冷度と磁気特性との観点からは、21≦x≦26の範囲が好ましい。
なお、xの下限は、△Tx≧40Kの過冷度を得、アモルファス単相を得る観点から設定した。xの上限は、第一に難燃性の観点から、第二にFe量の減少に伴う磁気特性低下の阻止と材料コストの抑制を考慮して設定した。
【0029】
2-2-2.耐食性改質成分
第二の態様における耐食性改質成分の含有率は、合金成分の全質量を基準として、2.3〜5.5wt%、好ましくは2.3〜4.0wt%である。鉄基金属ガラス合金粉末中に含まれるCr、Zrによって、鉄基金属ガラス合金粉末の表面に酸化皮膜が形成されるので、耐食性が向上する。耐食性改質成分としては、経済的な理由からCrが好ましい。
【0030】
さらなる耐食性改質成分(Al)及び耐食性改質副成分(V、Ti、Ta、Cu及びMnからなる群から選ばれる少なくとも一種)についての説明は、第一の態様についての記載を援用する。
【0031】
2-2-3.粒子径
本発明の第二の態様の鉄基金属ガラス合金粉末の粒子径は、3μm以上であって、10μm未満である。一般的に、粒径が小さいほど、鉄損中の渦電流損失を下げられ、優れた磁気特性を有する点で有利であるが、比表面積が大きくなるため反応性が高くなり、材料の信頼性が低下してしまう点で不利である。しかし、本発明の第二の態様の組成の鉄基金属ガラス合金粉末であれば、このような欠点を除くことができる。また、一般的に、粒子径が小さいと鉄基金属ガラス合金粉末は腐蝕しやすくなるが、本発明の第二の態様の鉄基金属ガラス合金粉末は、3μm以上であって、10μm未満のような小さな粒子径であっても耐食性が良好である。
【0032】
2-3.第三の態様
2-3-1.半金属元素群の組成比率(x)
第三の態様における半金属元素群の総和の組成比率(x)は、19≦x≦26である。難燃性と過冷度と磁気特性との観点からは、21≦x≦26の範囲が好ましい。
なお、xの下限は、△Tx≧40Kの過冷度を得、アモルファス単相を得る観点から設定した。xの上限は、第一に難燃性の観点から、第二にFe量の減少に伴う磁気特性低下の阻止と材料コストの抑制を考慮して設定した。
【0033】
2-3-2.耐食性改質成分
第三の態様における耐食性改質成分の含有率は、合金成分の全質量を基準として、0〜5.5wt%、好ましくは3.0〜4.0wt%である。鉄基金属ガラス合金粉末中に含まれるCr、Zrによって、鉄基金属ガラス合金粉末の表面に酸化皮膜が形成されるので、耐食性が向上する。耐食性改質成分としては、経済的な理由からCrが好ましい。
【0034】
さらなる耐食性改質成分(Al)及び耐食性改質副成分(V、Ti、Ta、Cu及びMnからなる群から選ばれる少なくとも一種)についての説明は、第一の態様についての記載を援用する。
【0035】
2-3-3.粒子径
本発明の第三の態様の鉄基金属ガラス合金粉末の粒子径は、10〜30μmである。一般的に、粒径が小さいほど、鉄損中の渦電流損失を下げられ、優れた磁気特性を有する点で有利であるが、比表面積が大きくなるため反応性が高くなり、材料の信頼性が低下してしまう点で不利である。しかし、本発明の第三の態様の組成の鉄基金属ガラス合金粉末であれば、このような欠点を除くことができる。また、一般的に、粒子径が小さいと鉄基金属ガラス合金粉末は腐蝕しやすくなるが、本発明の第三の態様の鉄基金属ガラス合金粉末は、10〜30μmのような小さな粒子径であっても耐食性が良好である。
【0036】
3.製造方法
本発明の鉄基金属ガラス合金粉末は、水アトマイズ法により製造することができる。水アトマイズ法は、鉄基金属ガラス合金粉末を大気中で製造可能とした方式であり、且つ設備費および製造コストを低価格にして製造できる。
【0037】
水アトマイズ法のアトマイズ装置は、
図1に示すように、円筒形状に立設した側板に溶湯オリフィス5を下方へ向けて穿設した底板を一体に形成した溶解坩堝1と、該溶解坩堝1の前記側板の外周全面に螺旋状に配置した誘導加熱コイル2と、前記溶解坩堝1を開閉する溶解坩堝1内に装入された溶湯ストッパー3と、前記溶湯オリフィス5の下方に配置されるアトマイズノズル6とを備える。
【0038】
前記溶解坩堝1内に、本発明の鉄基金属ガラス合金粉末に相当する溶融原材料4(基本組成と、耐食性改質成分と、必要に応じて耐食性改質副成分)を、鉄基金属ガラス合金粉末が所定の組成になるように割合を調整して装入する。次いで、該溶融原材料4を前記誘導加熱コイル2によって融点以上に加熱することで、溶融して溶湯にする。次いで、前記溶湯ストッパー3で前記溶湯オリフィス5を開いて、前記溶湯(溶融原材料4)を溶湯オリフィス5より落下させる。アトマイズノズル6は、前記溶湯オリフィス5の下方に水膜を形成するように水を噴射している。溶湯オリフィス5より落下した溶湯は該水膜に衝突して破砕されると共に急冷されて凝固する。凝固して粉末となった溶湯は、前記アトマイズノズルの下方に配置された水槽(図示せず)中の水8に落下し、さらに冷却される。この粉末を回収し、乾燥工程および分級工程を経て、目的とする組成および粒度の鉄基金属ガラス合金粉末が得られる。
【0039】
本発明の鉄基金属ガラス合金粉末は、従来の鉄基金属ガラス合金に比べて、より遅い冷却速度で鉄基金属ガラス合金粉末を製造した場合であっても、結晶化することがない。すなわち、冷却速度が遅い汎用の大量生産設備であっても、結晶相を含まないアモルファス単相の鉄基金属ガラス合金粉末を容易に製造することが可能となる。これは、結晶開始温度Txとガラス転移温度Tgの差で表される過冷度△Txが大きく、アモルファス形成能が向上したためである。
【0040】
以上の工程を経て得られた鉄基金属ガラス合金粉末は真球度が高いので、例えば鉄基金属ガラス合金粉末を成形型に充填して成形して磁芯を得る等、鉄基金属ガラス合金粉末より電子部品等の製品を形成した際に、該鉄基金属ガラス合金粉末の充填密度を高くすることができるから、優れた磁気特性を備えた電子部品等の製品を製造することができる。
本発明において、鉄基金属ガラス合金粉末の粒子径は、水アトマイズ法の製造条件を変更することにより制御することもできるし、篩等を用いて分級することにより所望の粒径の粉末を得ることもできる。
【実施例】
【0041】
基本組成および耐食性改質成分を、耐食性改質成分が下記表に示す含有率となるように調整し、得られた材料混合物を高周波誘導炉にて溶融し、下記条件の水アトマイズ法により、目的の組成を有する粉末を得た。
【0042】
<水アトマイズ条件>
・水圧:100MPa
・水量:100L/min
・水温:20℃
・オリフィス径:φ4mm
・溶湯原材料温度:1,500℃
【0043】
得られた鉄基金属ガラス合金粉末を、気流分級装置(日清エンジニアリング製:ターボグラシファイア)を用いて、D
50=2±0.3μmに分級した。粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装製:Microtrac MT3300EX II(湿式))により測定した。半金属元素及び過冷度改善元素の含有率は、ICP発光分析装置(日立ハイテクサイエンス製:SPS3500DD)により測定した。
【0044】
<難燃性の評価>
得られた第一から第三の態様の鉄基金属ガラス合金粉末を、消防法に定められる危険物第2類試験方法の小ガス炎着火試験により着火性を調べた。具体的には、評価粉体を幅30mm×高15mmの半球状に広げる。火炎長さを70mmにした簡易着火器具(携帯用簡易ガスライター)を用い、30度の接触角度で、10秒間試料に炎を接触させる。燃焼が継続しない場合にはこの操作を10回繰り返し行う。1度でも着火し、かつ炎を離した後も有炎燃焼、または無煙燃焼を続けた試料のうち、3秒以内で着火した場合には易着火性(第1種可燃性固体)、3秒を超え10秒以内で着火した場合には着火性(第2種可燃性固体)と判断されるが、本評価では10秒以内に着火した場合は危険物となるため着火性と判断した。10秒を超えて着火したか、または燃焼を継続しなかった場合は着火性なしと判断した。着火の有無を下記の評価区分に基づいて評価した。結果を下記表に併記する。
<評価区分>
○:不着火
×:着火
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
表4は、第二の実施態様の鉄基金属ガラス合金粉末の組成であり、粒径は3μm以上であって10μm未満である。これらの粉末については、粒径が小さいもので不着火であれば粒径が大きいものでも不着火であることが表1〜表3の結果から予想できるため、難燃性試験は行わなかった。
【表4】
【0049】
なお、「例」欄の数字の右肩に付した記号「*」は、比較例であることを示す。また、y欄の数字の右肩に付した記号「*」は、MがMoであることを示す。