特許第6889877号(P6889877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6889877アンカー固定用クリップ、及び、アンカーの固定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6889877
(24)【登録日】2021年5月26日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】アンカー固定用クリップ、及び、アンカーの固定方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20210607BHJP
   E04C 5/18 20060101ALI20210607BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   E04G23/02 D
   E04C5/18
   E04G21/12 105Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-46556(P2017-46556)
(22)【出願日】2017年3月10日
(65)【公開番号】特開2018-150700(P2018-150700A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2019年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】510111227
【氏名又は名称】工建テック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107375
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 明広
(72)【発明者】
【氏名】上田 拓己
(72)【発明者】
【氏名】米田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 和範
【審査官】 山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−211180(JP,A)
【文献】 実開昭56−021097(JP,U)
【文献】 実開平02−112800(JP,U)
【文献】 実開平1−136600(JP,U)
【文献】 特開2017−25504(JP,A)
【文献】 特開昭58−20850(JP,A)
【文献】 実開平2−112800(JP,U)
【文献】 特開平5−163797(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2015−0130074(KR,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0247498(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04C 5/18
E04G 21/12
E02D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔を置いて対向するように構成され、先端側が拡開するように構成された一対の脚部と、所定間隔を置いて対向するように構成され、アンカーの外周面を挟持する一対の挟持部と、この一対の挟持部を弾性的に連結する連結部とを有し、
二つの挟持部は、外側方向へ膨らむように成形された中央の膨出部と、その両側に、内側方向へ括れるように成形された連結部側のネック部、及び、脚部側のネック部とをそれぞれ有し、
連結部は、挟持部の延長方向へ突出するように構成され、
挟持部の間にアンカーの外周面を適正に挟持させてアンカーに取り付けた場合において、脚部が、アンカーの軸線に対して傾斜した方向へ突出し、かつ、アンカーの軸線を基準として連結部よりも外側へ突出するように構成されていることを特徴とするアンカー固定用クリップ。
【請求項2】
請求項1に記載のアンカー固定用クリップを用いて、アンカーを削孔内に固定する方法であって、
脚部の先端が削孔の直径よりも大きく拡開するサイズの二つのアンカー固定用クリップを、アンカーの軸線を中心として反対向きに、かつ、脚部の先端側が一方側へ向かって傾斜するような向きでアンカーに取り付けて、
脚部が、開口部から削孔の外側へ向かって傾斜する向きで削孔内に挿入することを特徴とする、アンカーの固定方法。
【請求項3】
アンカーに取り付けた一方のアンカー固定用クリップの脚部と、他方のアンカー固定用クリップの連結部とを、一方のアンカー固定用クリップの脚部側のネック部、及び、他方のアンカー固定用クリップの連結部側のネック部の位置において結束材で括りつけて結束することを特徴とする、請求項に記載のアンカーの固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカー(コンクリート躯体に対する各種要素の固定を目的として、或いは、躯体自体の補強を目的として、躯体内に埋設される金属製棒状部材)を、躯体内に形成した削孔内で固定するために用いられるクリップ、及び、このクリップを用いて削孔内にアンカーを固定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物においては、躯体の床部、壁部、或いは、天井部等に削孔を形成し、これらの削孔内にアンカー(せん断補強鉄筋)を挿入してグラウト等で埋め戻すことにより、躯体のせん断強度を増加させる工事(せん断補強工事)が実施されている。
【0003】
図5は、躯体の天井部に対して実施されているせん断補強工事の一般的な施工例(施工手順)を示す図である。まず、図5(1)に示すように、躯体21の天井面22から上方(躯体21の内部)へ向かって、コアビット等を用いて切削を行い、上向きの削孔23を形成する。そして、この削孔23に対して目粗し(めあらし)処理を行い、削孔23の内壁を粗面とする。次に、削孔23内にグラウト注入ホースのノズル(図示せず)を挿入し、図5(2)に示すように、孔底23a(削孔23の最奥部)から開口部23b側へ順次グラウト24を注入していく。
【0004】
続いて、注入したグラウト24が硬化する前に、図5(3)に示すように、開口部23bから削孔23内へせん断補強鉄筋11を上向きに挿入する。せん断補強鉄筋11の上端が孔底23aまで到達したら、グラウト24が硬化するまでの間にせん断補強鉄筋11が落下しないように、開口部23b側から楔(落下防止手段)(図示せず)を打ち込んで仮固定する。そして、グラウト24の硬化後、楔を取り外して、図5(4)に示すように、開口部23bをモルタル25(又はグラウト)で塞ぎ、表面を仕上げる。
【0005】
このように、躯体の天井部に対してせん断補強工事を行う場合、削孔23内に挿入したせん断補強鉄筋11が落下しないように、開口部23bに楔などの落下防止手段を配置したり、取り外すという煩雑な作業が必要とされており、より簡単に、より円滑に施工できるような方法が望まれている。
【0006】
そこで、特開2016−183501公報に開示されているように、針部材とリング部材とからなるアンカー固定手段をせん断補強鉄筋に予め装着しておき、これらを削孔内に挿入するという方法が提案されている。この方法によれば、アンカー固定手段を装着したせん断補強鉄筋を挿入するだけで、せん断補強鉄筋を削孔内において好適に保持させることができ、その結果、削孔の開口部への落下防止手段の配置作業及び除去作業がいずれも不要となり、工期を短縮し、コストを削減できる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016−183501公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されているアンカー固定手段は、せん断補強鉄筋への装着を施工現場で行うことが非常に難しく、現実的には、工場で予めせん断補強鉄筋に装着し、その後施工現場まで搬送することになるため、様々な問題が派生することになる。
【0009】
具体的には、このアンカー固定手段においては、針部材をせん断補強鉄筋の外周に装着するための手段として、閉鎖環状の要素(リング部材)が採用されているため、これをせん断補強鉄筋に装着するためには、まず、ナットが装着されていない状態のせん断補強鉄筋の上端をリング部材の内側に挿通し、その後、せん断補強鉄筋の上端にナットを取り付けて、締め付ける必要がある。そして、このナットの締め付けに際してはトルク管理が必要となるため、装着作業を施工現場で行うことは現実的ではない。
【0010】
従って、固定手段の装着作業は予め工場で行い、装着済みのせん断補強鉄筋を施工現場まで搬送することになるが、この場合、せん断補強鉄筋のみを搬送する場合と比べて、嵩(荷姿)が大きくなってしまい、搬送コストが増加してしまうという問題がある。また、搬送に際して、装着済みのせん断補強鉄筋を無造作に大量に梱包すると、外側へ向かって放射状に突出しているべき針部材が、搬送中に内側へ曲がってしまい、本来の機能(削孔の内壁に引っ掛かって落下を防止するという機能)が損なわれてしまう可能性がある。このため、装着済みのせん断補強鉄筋を搬送する場合には、一本ずつ十分に養生したうえで梱包する必要が生じ、搬送コストが更に増大してしまうという問題がある。
【0011】
本発明は、このような従来技術における問題を解決しようとするものであって、アンカーへの装着作業を施工現場で簡単に実施することができ、また、搬送コストを増大させることなく、工期短縮及び施工コストの削減を実現できるアンカー固定用クリップ、及び、アンカーの固定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るアンカー固定用クリップは、脚部と、アンカーの外周面を挟持する一対の挟持部と、この一対の挟持部を弾性的に連結する連結部とを有し、挟持部の間にアンカーの外周面を適正に挟持させてアンカーに取り付けた場合において、脚部が、アンカーの軸線に対して傾斜した方向へ突出し、かつ、アンカーの軸線を基準として連結部よりも外側へ(アンカーの軸線からより離れた位置まで)突出するように構成されていることを特徴としている。
【0013】
尚、一対の挟持部は、所定間隔を置いて対向するように構成され、少なくとも一方が、外側方向へ膨らむように成形された膨出部を有していることが好ましく、また、二つの脚部が所定間隔を置いて対向するように構成され、先端側が拡開するように構成されていることが好ましい。
【0014】
本発明に係るアンカーの固定方法は、脚部の先端が削孔の直径よりも大きく拡開するサイズの二つのアンカー固定用クリップを、アンカーの軸線を中心として反対向きに、かつ、脚部の先端側が一方側へ向かって傾斜するような向きでアンカーに取り付けて、脚部が、開口部から削孔の外側へ向かって傾斜する向きで削孔内へ挿入することを特徴としている。尚、この場合、アンカーに取り付けた一方のアンカー固定用クリップの脚部と、他方のアンカー固定用クリップの連結部とを結束材で括りつけて結束することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るアンカー固定用クリップは、非常に簡素な構成であり、鋳造や溶接等を行うことなく、金属製線材を折り曲げ加工するだけで、極めて簡単に、かつ、低コストで製造することができ、躯体の天井面から上方へ向かって形成した削孔内へアンカーを上向きに挿入して固定する場合をはじめとして、アンカーを削孔内において固定しようとする際に好適に用いることができる。
【0016】
本発明に係るアンカーの固定方法によれば、楔等の落下防止手段を開口部側に配置したり、除去する必要がなく、更に、仕上工程(削孔の開口部を塞いで表面を仕上げる工程)を、削孔内のグラウトの硬化を待たずに実施することができ、その結果、工期を短縮し、施工コストを削減し、また、搬送コストの増大という問題を好適に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の第一実施形態に係るアンカー固定用クリップ1の外観構成を示す図であって、図1(1)は、アンカー固定用クリップ1の平面図、図1(2)は、その側面図である。
図2図2は、本発明の第二実施形態に係るアンカーの固定方法の説明図であって、図2(1)は、アンカー固定用クリップ1,1’を取り付けたせん断補強鉄筋11の上部の正面図、図2(2)は、その側面図、図2(3)は、図2(2)に示すX−X線によるせん断補強鉄筋11の水平断面図である。
図3図3は、本発明の第二実施形態に係るアンカーの固定方法の説明図である。
図4図4は、本発明の第三実施形態に係るアンカー固定用クリップ1の平面図である。
図5図5は、躯体の天井部に対して実施されている従来のせん断補強工事の一般的な施工例(施工手順)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、「アンカー固定用クリップ」として実施できるほか、このクリップを用いて「アンカーを固定する方法」としても実施することができる。以下、添付図面に沿って、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
まず、本発明の第一実施形態として、「アンカー固定用クリップ」について説明する。図1は、本発明に係るアンカー固定用クリップ1の外観構成を示す図であり、図示されているようにこのクリップ1は、基本形状が「U」字状の金属製線材(直径1.6mm程度の鉄線材、鋼線材等)によって構成され、二つの脚部2,2と、連結部3と、二つの(一対の)挟持部4,4とを有している。
【0020】
二つの挟持部4,4は、所定間隔を置いて対向するように構成され、本実施形態においてはいずれも、外側方向へ膨らむように成形された中央の膨出部4aと、その両側(図1(1)において上方及び下方)に、内側方向へ括れるように成形されたネック部(連結部3側のネック部4b、及び、脚部2側のネック部4c)とによって構成されている。尚、図1に示すように、左右の膨出部4a,4aの間隔は、左右のネック部4b,4bの間隔、及び、左右のネック部4c,4cの間隔よりも大きくなっている。
【0021】
二つの脚部2,2も、所定間隔を置いて対向するように構成され、図1(1)に示すように、先端側がそれぞれ外側へ向かって「ハ」の字状に拡開するように構成されている。また、図1(2)に示すように、挟持部4,4を水平に保持した際に、先端側がそれぞれ下方へ向かって傾斜するように構成されており、このため、挟持部4,4の間にアンカーの外周面を適正に挟持させてアンカーに取り付けた場合において、脚部2,2が、アンカーの軸線に対して傾斜した方向へ突出するようになっている。
【0022】
連結部3は、図示されているように挟持部4,4を弾性的に連結するものであり、本実施形態においては「コ」の字状に成形されているが、「C」字状に湾曲した形状としてもよい。
【0023】
本実施形態に係るアンカー固定用クリップ1は、上述したように非常に簡素な構成であり、原料となる金属製線材を折り曲げ加工するだけで(鋳造や溶接等を行うことなく)、極めて簡単に、かつ、低コストで製造することができる。そして後述するように、躯体の天井面から上方へ向かって形成した削孔内へアンカー(せん断補強鉄筋等)を上向きに挿入して固定する場合をはじめとして、アンカーを削孔内において固定しようとする際に、好適に用いることができる。
【0024】
次に、本発明の第二実施形態として、「アンカーの固定方法」(既設のコンクリート構造物の天井部を対象とするせん断補強工事への適用例)について説明する。図2は、本発明に係る「アンカーの固定方法」の説明図であり、図2(1)(2)に示すように、まず二つのクリップ1,1’を、アンカー(本実施形態においては“せん断補強鉄筋11”)の上部に対し、反対向き(せん断補強鉄筋11の軸線を中心として180°異なる向き)に、かつ、脚部2,2’の先端側が下方へ向かって傾斜するような向きで(せん断補強鉄筋11の軸線に対して傾斜した方向へ突出する向きで)取り付ける。
【0025】
より具体的には、クリップ1の挟持部4,4の間、及び、クリップ1’の挟持部4’,4’の間に、せん断補強鉄筋11の上部が挟み込まれた状態とする。また、クリップ1の挟持部4,4と、クリップ1’の挟持部4’,4’とが上下に重なった状態とし、更に、二つのクリップ1,1’のうち、上方側となるクリップ1が、せん断補強鉄筋11のいずれかのリブ11aの下方側に引っ掛かった状態とする(図2(1)(2)参照)。
【0026】
そうすると、図2(3)に示すように、せん断補強鉄筋11を中心として、その外側方向へクリップ1,1’の脚部2,2’が放射状に突出し、かつ、せん断補強鉄筋11の軸線を基準として連結部3よりも外側へ(せん断補強鉄筋11の軸線からより離れた位置まで)突出した状態となる。尚、クリップ1の二つの挟持部4,4(及び、クリップ1’の二つの挟持部4’,4’)は、上述の通り、所定間隔を置いて対向するように構成されるとともに、中央の膨出部4aとその両側の二つのネック部4b,4cとによって構成されているため、四つの接点によってせん断補強鉄筋11の外周面を安定的に挟持することができる。
【0027】
クリップ1,1’をせん断補強鉄筋11に取り付けたら、図2(3)に示すように、クリップ1の脚部2,2と、クリップ1’の連結部3’とを結束材12(針金等)で括りつけて結束し、その反対側においても同様に、クリップ1の連結部3と、クリップ1’の脚部2’,2’とを結束材12で括りつけて結束し、せん断補強鉄筋11からクリップ1,1’が容易には脱落しない状態とする。
【0028】
次に、図3(1)に示すように、クリップ1,1’を装着したせん断補強鉄筋11を、躯体21の天井面22から上方へ向かって形成された削孔23の中に、開口部23bから上向きに挿入する。尚、せん断補強鉄筋11の挿入に際しては、削孔23の内壁に対し予め目粗し処理を施しておき、また、削孔23の内部には予めグラウト24を注入しておく。
【0029】
クリップ1,1’は、上述の通り脚部2,2’が外側方向へ放射状に突出した状態となっており、また、脚部2,2’の先端が削孔23の直径よりも大きく拡開するサイズのクリップ1,1’が用いられているため、せん断補強鉄筋11を開口部23bから削孔23内へ挿入しようとすると、図3(1)に示すように開口部23bに対して脚部2,2’が干渉することになるが、脚部2,2’は、先端側がそれぞれ下方へ向かって傾斜しているため(即ち、脚部2,2’が、開口部23bから削孔23の外側へ向かって傾斜する向きで挿入されているため)、その状態からせん断補強鉄筋11を更に上向きに押し込むと、脚部2,2’は開口部23bによって窄められることになり、問題なく挿入することができる。
【0030】
クリップ1,1’の全体が削孔23内へ進入した時点から、せん断補強鉄筋11を更に上方へ押し込むと、図3(2)に示すように、せん断補強鉄筋11の上端が削孔23の孔底23a(削孔23の最奥部)に到達するまでの間、削孔23によって窄められた状態の脚部2,2’は、復元力によって外側へ突っ張った状態で、削孔23の内壁(目粗し処理によって、溝等の多数の凹凸が形成されている)を引っ掻くようにして削孔23内を進入していくことになる。
【0031】
但し、せん断補強鉄筋11に逆向き(下向き)の力を加えた場合には、脚部2,2’の先端が削孔23の内壁の凹凸に引っ掛かって動かなくなり、従って、削孔23内に一旦挿入されたせん断補強鉄筋11は、重力によって下向きの力が作用した場合でも、削孔23内から落下しない状態となる。
【0032】
従来のせん断補強工事(図5参照)においては、グラウト24が硬化するまでの間にせん断補強鉄筋11が削孔23内から落下しないように、開口部23b側から楔を打ち込んで仮固定し、グラウト24の硬化後に楔を除去し、その後、最終工程である仕上工程(開口部23bをモルタル25(又はグラウト)で塞ぎ、表面を仕上げる工程)を行っていたが、本実施形態に係る固定方法によれば、楔等の落下防止手段を開口部23b側に配置したり、除去する必要がなく、更に、仕上工程を、グラウト24が硬化する前に(つまり、グラウト24の硬化を待たずに)実施することができ、このため、工期を短縮し、施工コストを削減することができる。
【0033】
また、クリップ1,1’を装着したせん断補強鉄筋11を削孔23内に挿入すると、放射状に突出する脚部2,2’が、削孔23の内壁に対して突っ張った状態となるため、せん断補強鉄筋11を削孔23内の中心位置に保持することができる。更に、クリップ1,1’は、施工現場において簡単に装着することができるため、搬送コストの増大という問題を好適に回避することができる。
【0034】
尚、図2及び図3においては、説明の便宜上、クリップ1,1’は、せん断補強鉄筋11の上脚部に近い位置に取り付けられているが、上脚部から、せん断補強鉄筋11の直径(呼び径)の5倍に相当する寸法(±20%)を置いた位置に取り付けることが好ましい。
【0035】
また、本実施形態においては、本発明に係るアンカーの固定方法の一つの具体例として、既設のコンクリート構造物の天井部を対象とするせん断補強工事への適用例(天井面から上方へ向かって形成した削孔内へせん断補強鉄筋等を上向きに挿入して固定する場合)について説明したが、本発明に係る方法は、躯体の床面から下方へ向かって形成した削孔内や、躯体の壁面から横向きに形成した削孔内にせん断補強鉄筋、或いは、その他のアンカーを挿入して固定する場合にも、好適に利用することができる。
【0036】
また、本実施形態においては、上述の通り四つの接点によってせん断補強鉄筋11の外周面を安定的に挟持できるクリップ1,1’を用いているが、図4に示すように、二つの挟持部4,4のうち、一方の挟持部4のみに膨出部4aが形成され、三つの接点によってせん断補強鉄筋11を挟持するようなクリップ1(本発明の第三実施形態)を採用することもできる。
【符号の説明】
【0037】
1,1’:アンカー固定用クリップ、
2,2’:脚部、
3,3’:連結部、
4,4’:挟持部、
4a:膨出部、
4b,4c:ネック部、
11:せん断補強鉄筋、
11a:リブ、
12:結束材、
21:躯体、
22:天井面、
23:削孔、
23a:孔底、
23b:開口部、
24:グラウト、
25:モルタル、
図1
図2
図3
図4
図5