(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリアミド(A)が、半芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとを含有し、質量比(半芳香族ポリアミド/脂肪族ポリアミド)が70/30〜40/60であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
さらに強化材(D)を含有し、その含有量が、ポリアミド(A)とホスフィン酸金属塩(B)の合計100質量部に対して、5〜200質量部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
さらに、金属酸化物、金属水酸化物、炭酸金属塩、ホウ酸金属塩、スズ酸金属塩、脂肪酸金属塩、ハイドロタルサイトおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物(E)を含有し、その含有量が、ポリアミド(A)とホスフィン酸金属塩(B)の合計100質量部に対して、0.01〜8質量部であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド(A)、ホスフィン酸金属塩(B)、およびヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物(C)を含有する。
【0017】
本発明において、ポリアミド(A)としては、重合方法の分類から、ジカルボン酸とジアミンとの重縮合物、環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物などが挙げられ、モノマー成分の分類から、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、脂環族ポリアミド、およびそれらの共重合体が挙げられる。ポリアミド(A)として、これらポリアミドを単独で使用してもよいし、共重合体や2種類以上のポリアミドの混合物を使用してもよい。
脂肪族ポリアミドの具体例として、ポリアミド6、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド1010などが挙げられる。半芳香族ポリアミドの具体例として、ポリアミド4T(T:テレフタル酸)、ポリアミド4I(I:イソフタル酸)、ポリアミド6I、ポリアミド7T、ポリアミド8T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド11T、ポリアミド12T、ポリアミドMXD6(MXD:メタキシリレンジアミン)などが挙げられる。脂環族ポリアミドの具体例として、ポリアミド6C(C:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸)、ポリアミド7C、ポリアミド8C、ポリアミド9C、ポリアミド10C、ポリアミド11C、ポリアミド12Cなどが挙げられる。さらに、共重合体としては、例えばジアミンの炭素数が6の場合、PA66/6、PA6T/6、PA6T/12、PA6T/46、PA6T/66、PA6T/610、PA6T/612、PA6T/6I、PA6T/6I/66、PA6T/M5T(M5:メチルペンタジアミン)、PA6T/TM6T(TM6:2,2,4−または2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン)、PA6T/MMCT(MMC:4,4′−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン))などが挙げられる。
【0018】
ポリアミド(A)は、融点が270℃〜350℃であることが好ましい。ポリアミド(A)は、融点が270℃以上であることにより、耐熱性を有し、最高温度が260℃程度となるリフロー工程に耐えることができる。一方、ポリアミド(A)は、融点が350℃を超えると、アミド結合の分解温度が約350℃であるため、溶融加工時に炭化や分解が進行することがある。耐熱性を有するポリアミド(A)としては、工業的な汎用性が高いことから、ポリアミド46、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、およびそれらの共重合体が好ましい。さらに、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、およびそれらの共重合体は、高耐熱性や低吸水率の観点から、耐リフロー性に特に優れるためさらに好ましく、中でもポリアミド10Tおよびその共重合体が特に好ましい。
【0019】
本発明において、半芳香族ポリアミドは、モノカルボン酸成分を構成成分とすることが好ましい。モノカルボン酸成分の含有量は、半芳香族ポリアミドを構成する全モノマー成分に対して0.3〜4.0モル%であることが好ましく、0.3〜3.0モル%であることがさらに好ましく、0.3〜2.5モル%であることがより好ましく、0.8〜2.5モル%であることが特に好ましい。半芳香族ポリアミドは、上記範囲内でモノカルボン酸成分を含有することにより、重合時の分子量分布を小さくできたり、成形加工時の離型性の向上がみられたり、成形加工時においてガスの発生量を抑制することができたりする。一方、モノカルボン酸成分の含有量が上記範囲を超えると、機械的特性や難燃性が低下することがある。なお、本発明において、モノカルボン酸の含有量は、半芳香族ポリアミド中のモノカルボン酸の残基、すなわち、モノカルボン酸から末端の水酸基が脱離したものが占める割合をいう。
【0020】
半芳香族ポリアミドは、モノカルボン酸成分として、分子量が140以上のモノカルボン酸を含有することが好ましく、分子量が170以上のモノカルボン酸を含有することがさらに好ましい。モノカルボン酸の分子量が140以上であると、離型性が向上し、成形加工時の温度においてガスの発生量を抑制することができ、また成形流動性も向上することができる。
【0021】
モノカルボン酸成分としては、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸が挙げられ、中でも、ポリアミド由来成分の発生ガス量を減少させ、金型汚れを低減させ、離型性を向上することができることから、脂肪族モノカルボン酸が好ましい。
【0022】
分子量が140以上の脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプリル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸が挙げられる。中でも、汎用性が高いことから、ステアリン酸が好ましい。
分子量が140以上の脂環族モノカルボン酸としては、例えば、4−エチルシクロヘキサンカルボン酸、4−へキシルシクロヘキサンカルボン酸、4−ラウリルシクロヘキサンカルボン酸が挙げられる。
分子量が140以上の芳香族モノカルボン酸としては、例えば、4−エチル安息香酸、4−へキシル安息香酸、4−ラウリル安息香酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0023】
モノカルボン酸成分は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。また、分子量が140以上のモノカルボン酸と分子量が140未満のモノカルボン酸を併用してもよい。なお、本発明において、モノカルボン酸の分子量は、原料のモノカルボン酸の分子量を指す。
【0024】
本発明において、ポリアミド(A)は、半芳香族ポリアミドを含有することが好ましく、半芳香族ポリアミドは、上記のように、芳香族ジカルボン酸成分、脂肪族ジアミン成分および分子量が140以上のモノカルボン酸成分から構成され、モノカルボン酸成分の含有量が、半芳香族ポリアミドを構成する全モノマー成分に対して、0.3〜4.0モル%であることが好ましい。
【0025】
また、本発明において、ポリアミド(A)は、半芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとを含有することが好ましく、半芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドの質量比(半芳香族ポリアミド/脂肪族ポリアミド)は、70/30〜40/60であることが好ましい。ポリアミド(A)は、半芳香族ポリアミドとともに、上記割合で脂肪族ポリアミドを含有すると、半芳香族ポリアミドに由来する耐熱性を有しながら、脂肪族ポリアミドに由来する高流動性をも有する、バランスのとれた樹脂組成物を設計することが可能となる。さらには、樹脂組成物は、高流動性を有するため、溶融加工温度を下げることができ、また樹脂のせん断発熱を抑制できるので、金属腐食性をさらに抑制することができる。
半芳香族ポリアミドとともに含有する脂肪族ポリアミドは、融点が200〜300℃であることが好ましく、前述の脂肪族ポリアミドの中でも、流動性の観点から、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46が好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66がより好ましい。
【0026】
本発明において、ポリアミド(A)は、JIS K7210に従い、(融点+15℃)、1.2kgfの荷重で測定した場合のメルトフローレート(MFR)が1〜200g/10分であることが好ましく、10〜150g/10分であることがより好ましく、20〜100g/10分であることがさらに好ましい。MFRは、成形流動性の指標とすることができ、MFRの値が高いほど流動性が高いことを示す。ポリアミド(A)のMFRが200g/10分を超えると、得られる樹脂組成物の機械的特性が低下する場合があり、ポリアミド(A)のMFRが1g/10分未満であると、流動性が著しく低く、溶融加工できない場合がある。なお、ポリアミド(A)が、融点の異なる複数のポリアミドを含有する場合は、最も高い融点を有するポリアミドの融点+15℃において、ポリアミド(A)のMFRを測定する。
【0027】
ポリアミド(A)は、従来から知られている加熱重合法や溶液重合法の方法を用いて製造することができる。中でも、工業的に有利である点から、加熱重合法が好ましく用いられる。
【0028】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ホスフィン酸金属塩(B)を含有する。
本発明において、ポリアミド(A)とホスフィン酸金属塩(B)との質量比(ポリアミド(A)/ホスフィン酸金属塩(B))は、60/40〜95/5であることが必要であり、70/30〜92/8であることが好ましい。ホスフィン酸金属塩(B)の割合が、5質量%未満であると、樹脂組成物に、必要とする難燃性を付与することが困難となる。一方、ホスフィン酸金属塩(B)の割合が、40質量%を超えると、樹脂組成物は、難燃性に優れる反面、金属腐食性が大きくなるとともに、溶融混練が困難となることがあり、また得られる成形体は機械的特性が不十分となることがある。
【0029】
本発明のホスフィン酸金属塩(B)としては、下記一般式(I)で表されるホスフィン酸金属塩、および一般式(II)で表されるジホスフィン酸金属塩が挙げられる。
【0031】
式中、R
1、R
2、R
4およびR
5は、それぞれ独立して、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜16のアルキル基またはフェニル基であることが必要で、炭素数1〜8のアルキル基またはフェニル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−オクチル基、フェニル基であることがより好ましく、エチル基であることがさらに好ましい。R
1とR
2およびR
4とR
5は互いに環を形成してもよい。
R
3は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、アリールアルキレン基、または、アルキルアリーレン基であることが必要である。直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1〜10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、イソプロピリデン基、n−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−オクチレン基、n−ドデシレン基が挙げられる。炭素数6〜10のアリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基が挙げられる。アルキルアリーレン基としては、例えば、メチルフェニレン基、エチルフェニレン基、tert−ブチルフェニレン基、メチルナフチレン基、エチルナフチレン基、tert−ブチルナフチレン基が挙げられる。アリールアルキレン基としては、例えば、フェニルメチレン基、フェニルエチレン基、フェニルプロピレン基、フェニルブチレン基が挙げられる。
Mは、金属イオンを表す。金属イオンとしては、例えば、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオンが挙げられ、アルミニウムイオン、亜鉛イオンが好ましく、アルミニウムイオンがより好ましい。
m、nは、金属イオンの価数を表す。mは、2または3である。aは、金属イオンの個数を表し、bは、ジホスフィン酸イオンの個数を表し、n、a、bは、「2×b=n×a」の関係式を満たす整数である。
【0032】
ホスフィン酸金属塩やジホスフィン酸金属塩は、それぞれ、対応するホスフィン酸やジホスフィン酸と、炭酸金属塩、金属水酸化物または金属酸化物を用いて水溶液中で製造され、通常、モノマーとして存在するが、反応条件に依存して、縮合度が1〜3のポリマー性ホスフィン酸塩の形として存在する場合もある。
【0033】
上記一般式(I)で表されるホスフィン酸塩の具体例としては、例えば、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル−n−プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛が挙げられる。中でも、難燃性、電気特性のバランスに優れることから、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましく、ジエチルホスフィン酸アルミニウムがより好ましい。
【0034】
また、ジホスフィン酸塩の製造に用いるジホスフィン酸としては、例えば、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)が挙げられる。
【0035】
上記一般式(II)で表されるジホスフィン酸塩の具体例としては、例えば、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)亜鉛が挙げられる。中でも、難燃性、電気特性のバランスに優れることから、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛が好ましい。
【0036】
ホスフィン酸金属塩(B)の具体的な商品としては、例えば、クラリアント社製「Exolit OP1230」、「Exolit OP1240」、「Exolit OP1312」、「Exolit OP1314」、「Exolit OP1400」が挙げられる。
【0037】
本発明に用いるヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物(C)は、パーオキシラジカルを捕捉する効果を有するヒンダートフェノール構造と、金属イオンをキレートするヒドラジン構造の両方を有している。具体的には、下記式(III)で表される化合物が挙げられる。
【0039】
ホスフィン酸金属塩(B)とヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物(C)を組み合わせることにより、ポリアミドの難燃性を飛躍的に向上させることができる。そのため、ホスフィン酸金属塩(B)の配合量を低減することができ、ホスフィン酸金属塩を含有するポリアミド樹脂組成物の課題である金属腐食性を抑制することができる。
【0040】
ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物(C)の具体的な商品としては、例えば、アデカ社製「CDA−10」、ビーエーエスエフ社製「IRGANOX MD 1024」などが挙げられる。
【0041】
ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物(C)の含有量は、ポリアミド(A)とホスフィン酸金属塩(B)の合計100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが必要であり、0.05〜3質量部であることが好ましく、0.1〜2質量部であることがより好ましい。ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物(C)の含有量が0.01質量部未満であると、難燃効率の向上効果が得られず、一方、含有量が5質量部を超えると、難燃効率が飽和し、それ以上の向上効果が見込めないばかりでなく、得られる成形体は、機械的強度が不十分となる場合がある。
【0042】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、難燃性が飛躍的に高められたものである。それだけでなく、難燃効率が高いため、十分な難燃性を確保しながらもホスフィン酸金属塩(B)の配合量を低減することができる。したがって、ホスフィン酸金属塩(B)を含有するポリアミド樹脂組成物の課題であった金属腐食性を大幅に改善することができる。すなわち、溶融押出加工時の押出機のスクリューやダイス、また溶融成形加工時の成形機のスクリューや金型等の金属部品の腐食や摩耗を小さくすることができる。ホスフィン酸金属塩(B)を含有するポリアミド樹脂組成物における上記金属腐食性は、高温での溶融加工において特に顕著であり、融点の高い耐熱ポリアミドにおいて特に問題であったため、耐熱ポリアミドを含有する樹脂組成物において、特に優れた効果を発揮することができる。
【0043】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、さらに、強化材(D)を含有することが好ましい。強化材(D)としては、タルク、ガラスフレーク、マイカ、グラファイト、金属箔などの板状強化材、カーボンブラック、炭化ケイ素、シリカ、石英粉末、溶融シリカ、ガラス類(ガラスビーズ、ガラス粉、ミルドガラスファイバー)、ケイ酸塩(ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、カオリン、クレー、ケイ藻土等)、硫酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウム等)などの球状強化材や、下記に示す繊維状強化材が挙げられる。機械的特性の向上効果が高いことから、繊維状強化材を含有することが好ましい。
繊維状強化材としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アスベスト繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、全芳香族ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維、高強度ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維を挙げられる。中でも、機械的特性の向上効果の高く、ポリアミド(A)との溶融混練時の加熱温度に耐え得る耐熱性を有し、入手しやすいことから、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維が好ましい。繊維状強化材は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0044】
ガラス繊維、炭素繊維は、シランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。シランカップリング剤は、集束剤に分散されていてもよい。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルシラン系、アクリルシラン系、エポキシシラン系、アミノシラン系が挙げられ、中でも、ポリアミド(A)とガラス繊維または炭素繊維との密着効果が高いことから、アミノシラン系カップリング剤が好ましい。
【0045】
繊維状強化材の繊維長、繊維径は、特に限定されないが、繊維長は0.1〜7mmであることが好ましく、0.5〜6mmであることがさらに好ましい。繊維状強化材の繊維長が0.1〜7mmであることにより、成形性に悪影響を及ぼすことなく、樹脂組成物を補強することができる。また、繊維径は3〜20μmであることが好ましく、5〜13μmであることがさらに好ましい。繊維径が3〜20μmであることにより、溶融混練時に折損させることなく、樹脂組成物を補強することができる。
繊維状強化材の断面形状としては、円形、長方形、楕円、それ以外の異形断面等が挙げられ、中でも円形が好ましい。
【0046】
強化材(D)を用いる場合、ポリアミド(A)とホスフィン酸金属塩(B)の合計100質量部に対し、強化材(D)の含有量は、5〜200質量部であることが好ましく、10〜180質量部であることがより好ましく、20〜150質量部であることがさらに好ましく、30〜130質量部であることが特に好ましい。強化材(D)の含有量が5質量部未満であると、機械的特性の向上効果が小さい場合がある。一方、含有量が200質量部を超えると、機械的特性の向上効果が飽和しそれ以上の向上効果が見込めないばかりでなく、溶融混練時の作業性が低下し、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得ることが困難になる場合がある。
【0047】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、さらに、金属化合物(E)を含有することが好ましい。本発明のポリアミド樹脂組成物は、上記のように、ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物(C)を含有することにより、ホスフィン酸金属塩(B)の含有量を低減し、溶融加工時の金属腐食性を抑制することができるが、金属化合物(E)を含有することにより、金属腐食性をさらに抑制することができる。
【0048】
金属化合物(E)の含有量は、ポリアミド(A)とホスフィン酸金属塩(B)の合計100質量部に対して、0.01〜8質量部であることが好ましく、0.05〜3質量部であることが好ましく、0.1〜2質量部であることがより好ましい。金属化合物(E)の含有量が0.01質量部未満であると、金属腐食性を抑制する効果が得られない。一方、金属化合物(E)の含有量が8質量部を超えると、金属腐食性を抑制する効果が飽和し、それ以上の抑制効果が見込めないばかりでなく、得られる成形体の機械的強度が不十分となる場合がある。
【0049】
本発明において、金属化合物(E)は、金属酸化物、金属水酸化物、炭酸金属塩、ホウ酸金属塩、スズ酸金属塩、脂肪酸金属塩、ハイドロタルサイトおよびその誘導体からなる群から選択される1種または2種以上の混合物である。
金属化合物(E)に含まれる金属は、特に限定されないが、例えばカルシウム、亜鉛、鉄、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素などが挙げられる。
金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム、酸化ケイ素(シリカ)等が挙げられる。
金属水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ水和物(ベーマイト)等が挙げられる。
炭酸金属塩としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
ホウ酸金属塩としては、例えば、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸アルミニウム等が挙げられる。
スズ酸金属塩としては、例えば、スズ酸亜鉛が挙げられる。
脂肪酸金属塩としては、例えば、モンタン酸、ベヘン酸またはステアリン酸の、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、亜鉛塩またはアルミニウム塩等が挙げられる。
【0050】
金属化合物(E)は、上記化合物の1種類でもよいが、2種以上の混合物でもよく、金属化合物(E)が、炭酸金属塩と脂肪酸金属塩とを含有し、質量比(炭酸金属塩/脂肪酸金属塩)が90/10〜30/70であると、樹脂組成物は、難燃性が低下することなく、金属腐食性が抑制される。
【0051】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、難燃助剤をさらに含有してもよい。難燃助剤としては、例えば、窒素系難燃剤、窒素−リン系難燃剤、無機系難燃剤が挙げられる。
【0052】
窒素系難燃剤としては、メラミン系化合物、シアヌル酸またはイソシアヌル酸とメラミン化合物との塩等が挙げられる。メラミン系化合物の具体例として、メラミンをはじめ、メラミン誘導体、メラミンと類似の構造を有する化合物、メラミンの縮合物等であり、具体的には、メラミン、アンメリド、アンメリン、ホルモグアナミン、グアニルメラミン、シアノメラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、サクシノグアナミン、メラム、メレム、メトン、メロン等のトリアジン骨格を有する化合物、およびこれらの硫酸塩、メラミン樹脂等を挙げることができる。シアヌル酸またはイソシアヌル酸とメラミン化合物との塩とは、シアヌル酸類またはイソシアヌル酸類とメラミン系化合物との等モル反応物である。
【0053】
窒素−リン系難燃剤としては、例えば、メラミンまたはその縮合生成物とリン化合物とから形成される付加物(メラミン付加物)、ホスファゼン化合物を挙げることができる。
前記メラミン付加物を構成するリン化合物としては、リン酸、オルトリン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、ポリリン酸等が挙げられる。メラミン付加物の具体例として、メラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、ジメラミンピロホスフェート、メラミンポリホスフェート、メレムポリホスフェート、メラムポリホスフェートが挙げられ、中でも、メラミンポリホスフェートが好ましい。リンの数は、2以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。
ホスファゼン化合物の具体的な商品としては、例えば、伏見製薬所社製「ラビトルFP−100」、「ラビトルFP−110」、大塚化学社製「SPS−100」、「SPB−100」などが挙げられる。
【0054】
無機系難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物、ホウ酸亜鉛、リン酸亜鉛等の亜鉛塩、アルミン酸カルシウムなどが挙げられる。これら無機系難燃剤は、上記金属化合物(E)と重複するものも多いが、難燃性の向上、金属腐食性の低減、どちらの目的で配合しても構わない。
【0055】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、リン系酸化防止剤を含有することにより、さらに安定性、成形性に優れたものとすることができる。
【0056】
リン系酸化防止剤は、無機化合物でも有機化合物いずれでもよい。リン系酸化防止剤としては、例えば、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マンガン等の無機リン酸塩、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(「アデカスタブPEP−36」)、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(「アデカスタブPEP−24G」)、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト(「アデカスタブPEP−8」)、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(「アデカスタブPEP−4C」)、1,1′−ビフェニル−4,4′−ジイルビス[亜ホスホン酸ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)]、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4′−ビフェニレン−ジ−ホスホナイト(「ホスタノックスP−EPQ」)、テトラ(トリデシル)−4,4′−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等の有機リン化合物が挙げられる。リン系酸化防止剤は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0057】
リン系酸化防止剤は、ホスフィン酸金属塩(B)と均一に混ざりやすく、分解を防ぐため、難燃性を向上させることができる。また、リン系酸化防止剤は、ポリアミド(A)の分解や分子量低下を防ぎ、溶融加工時の操業性、成形性、機械的特性を向上させることができる。
【0058】
リン系酸化防止剤の含有量は、ポリアミド(A)とホスフィン酸金属塩(B)の合計100質量部に対し、0.1〜3質量部であることが好ましく、0.1〜1質量部であることがさらに好ましい。リン系酸化防止剤の含有量を0.1〜3質量部とすることにより、押出加工時の安定性、成形性、機械的特性を低下させることなく、成形時の金型からの離型性を向上させ、金型ガスベント口の詰まりを抑制し、連続射出成形性を向上させることができる。
【0059】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じてその他の安定剤、着色剤、帯電防止剤、炭化抑制剤等の添加剤をさらに加えてもよい。着色剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック等の顔料、ニグロシン等の染料が挙げられる。安定剤としては、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、光安定剤、銅化合物からなる熱安定剤、アルコール類からなる熱安定剤等が挙げられる。炭化抑制剤は、耐トラッキング性を向上させる添加剤であり、金属水酸化物、ホウ酸金属塩等の無機物や、上記の熱安定剤等が挙げられる。
【0060】
本発明の樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されないが、ポリアミド(A)、ホスフィン酸金属塩(B)、ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物(C)および必要に応じて添加される強化材(D)や金属化合物(E)やその他添加剤などを配合して、溶融混練する方法が好ましい。溶融混練法としては、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸押出機、二軸押出機等を用いる方法が挙げられる。溶融混練温度は、ポリアミド(A)が溶融し、ポリアミド(A)が分解しない領域から選ばれる。溶融混練温度は、高すぎると、ポリアミド(A)が分解するだけでなく、ホスフィン酸金属塩(B)も分解するおそれがあることから、ポリアミド(A)の融点をTmとすると、(Tm−20℃)〜(Tm+50℃)であることが好ましい。
【0061】
本発明のポリアミド樹脂組成物を様々な形状に加工する方法としては、溶融混合物をストランド状に押出しペレット形状にする方法や、溶融混合物をホットカット、アンダーウォーターカットしてペレット形状にする方法や、シート状に押出しカッティングする方法、ブロック状に押出し粉砕してパウダー形状にする方法が挙げられる。
【0062】
本発明のポリアミド樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、焼結成形法が挙げられ、機械的特性、成形性の向上効果が大きいことから、射出成形法が好ましい。
射出成形機としては、特に限定されず、例えば、スクリューインライン式射出成形機またはプランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、ポリアミド(A)の融点(Tm)以上で加熱溶融することが好ましく、(Tm+50℃)未満とすることがより好ましい。
なお、ポリアミド樹脂組成物の加熱溶融時には、十分に乾燥されたポリアミド樹脂組成物ペレットを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、射出成形機のシリンダー内で樹脂が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。射出成形に用いるポリアミド樹脂組成物ペレットの水分率は、ポリアミド樹脂組成物100質量部に対して、0.3質量部未満であることが好ましく、0.1質量部未満であることがより好ましい。
【0063】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、難燃性に優れ、また金属腐食性を抑制して成形することができ、自動車部品、電気電子部品、雑貨、土木建築用品等広範な用途の成形体として使用できる。
自動車部品としては、例えば、サーモスタットカバー、インバータのIGBTモジュール部材、インシュレーター部材、エキゾーストフィニッシャー、パワーデバイス筐体、ECU筐体、ECUコネクタ、モーターやコイルの絶縁材、ケーブルの被覆材が挙げられる。電気電子部品としては、例えば、コネクタ、LEDリフレクタ、スイッチ、センサー、ソケット、コンデンサー、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、ブレーカー、電磁開閉器、ホルダー、プラグ、携帯用パソコンやワープロ等の電気機器の筐体部品、抵抗器、IC、LEDのハウジングが挙げられる。中でも、本発明のポリアミド樹脂組成物は、特に難燃性に優れていることから、電気電子部品に好適に用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0065】
1.測定方法
ポリアミドおよびポリアミド樹脂組成物の物性測定は以下の方法により実施した。なお、2種のポリアミド(A−1)と(A−5)を含有する実施例30の樹脂組成物の測定においては、融点として、融点の高いポリアミド(A−1)の融点を適用した。
【0066】
(1)融点
示差走査熱量計DSC−7型(パーキンエルマー社製)を用い、昇温速度20℃/分で350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温し、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温測定した際の吸熱ピークのトップを融点(Tm)とした。
【0067】
(2)メルトフローレート(MFR)
JIS K7210に従い、(融点+15℃)、1.2kgfの荷重で測定した。
MFRは、成形流動性の指標とすることができ、MFRの値が高いほど流動性が高いことを示す。
【0068】
(3)機械的特性
ポリアミド樹脂組成物を、射出成形機S2000i−100B型(ファナック社製)を用いて、シリンダー温度(融点+15℃)、金型温度(融点−185℃)の条件で射出成形し、試験片(ダンベル片)を作製した。
得られた試験片を用いて、ISO178に準拠して曲げ強度や曲げ弾性率を測定した。
曲げ強度や曲げ弾性率は、数値が大きいほど機械的特性が優れていることを示す。
【0069】
(4)難燃性
ポリアミド樹脂組成物を、射出成形機CND15(ニイガタマシンテクノ社製)を用いて、シリンダー温度(融点+15℃)、金型温度(融点−185℃)の条件で射出成形し、5インチ(127mm)×1/2インチ(12.7mm)×1/32インチ(0.79mm)の試験片を作製した。
得られた試験片を用いて、表1に示すUL94(米国Under Writers Laboratories Inc.で定められた規格)の基準に従って難燃性を評価した。いずれの基準にも満たない場合は、「not V−2」とした。
総残炎時間が短い方が、難燃性が優れていることを示す。
【0070】
【表1】
【0071】
(5)金型汚れ
射出成形機α−100iA(ファナック社製)を用いて、シリンダー温度(融点+25℃)、金型温度(融点−185℃)の条件下、1サイクル25秒で、浅いコップ形状(肉厚1.5mm、外径40mm、深さ30mm)の成形体を500ショット連続成形した。成形終了後に、深さ4μm、幅1mmのガスベントを目視で確認し、以下の基準で金型汚れを評価した。◎および○を合格とした。
◎:詰まりがまったく見られないもの
○:詰まりが一部見られるもの
×:完全に詰まっているもの
【0072】
(6)離型性
上記(5)で連続成形したときの401〜500ショット目の成形体の突き出しピンの痕の有無を目視観察し、ピンの痕がない成形体の個数をカウントして、離型性を評価した。
ピンの痕がない成形体の個数は90個以上であることが好ましく、95個以上であることがより好ましい。
【0073】
(7)金属腐食性
図1のように、二軸混練押出機(EX)(池貝社製PCM30)に、ダイス(D)を取り付け、通常押出機の鋼材として使用する金属プレート(MP)(材質SUS630、20×10mm、厚さ5mm、質量7.8g)を、溶融樹脂の流路(R)の上下に取り付け、1mmの隙間を設け、溶融樹脂が幅10mm、長さ20mmにわたって接するようにした。その隙間に、押出機バレル設定温度(融点+15℃)、吐出7kg/hの条件で、計25kgのポリアミド樹脂組成物を押出した。押出後、金属プレート(MP)を取り外し、500℃の炉の中に10時間放置し、付着した樹脂を取り除いた後に質量を測定し、押出前後の質量変化により金属腐食性を測定した。質量変化が小さいほど、金属腐食性が小さいことを示す。
【0074】
2.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
【0075】
(1)ポリアミド(A)
・ポリアミド(A−1)
ジカルボン酸成分として粉末状のテレフタル酸(TPA)4.70kgと、モノカルボン酸成分としてステアリン酸(STA)0.32kgと、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物9.3gとを、リボンブレンダー式の反応装置に入れ、窒素密閉下、回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、ジアミン成分として100℃に加温した1,10−デカンジアミン(DDA)4.98kgを、2.5時間かけて連続的(連続液注方式)に添加し反応物を得た。なお、原料モノマーのモル比は、TPA:DDA:STA=48.5:49.6:1.9(原料モノマーの官能基の当量比率は、TPA:DDA:STA=49.0:50.0:1.0)であった。
続いて、得られた反応生成物を、同じ反応装置で、窒素気流下、250℃、回転数30rpmで8時間加熱して重合し、ポリアミドの粉末を作製した。
その後、得られたポリアミドの粉末を、二軸混練機を用いてストランド状とし、ストランドを水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド(A−1)ペレットを得た。
【0076】
・ポリアミド(A−2)〜(A−4)
樹脂組成を表2に示すように変更した以外は、ポリアミド(A−1)と同様にして、ポリアミド(A−2)〜(A−4)を得た。
【0077】
・ポリアミド(A−5):ポリアミド66(ユニチカ社製 A125J)
・ポリアミド(A−6):ポリアミド46(DSM社製 TW300)
【0078】
上記ポリアミド(A−1)〜(A−6)の樹脂組成と特性値を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
(2)ホスフィン酸金属塩(B)
・B−1:ジエチルホスフィン酸アルミニウム(クラリアント社製 Exolit OP1230)
【0081】
(3)ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物(C)
・C−1:N,N′−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン(アデカ社製 CDA−10)
【0082】
(4)強化材
・D−1:ガラス繊維(旭ファイバーグラス社製 03JAFT692)、平均繊維径10μm、平均繊維長3mm
・D−2:タルク(日本タルク社製 ミクロエースK−1)、平均粒子径8μm
【0083】
(5)金属化合物
・E−1:酸化カルシウム(関東化学社製 鹿一級)
・E−2:ハイドロタルサイト(協和化学工業社製 DHT−4A−2)
・E−3:スズ酸亜鉛(日本軽金属社製 Flamtard S)
・E−4:炭酸カルシウム(白石工業社製ホワイトンP−30)
・E−5:ステアリン酸バリウム(日東化成工業社製 Ba−St P)
【0084】
(6)リン系酸化防止剤
・F−1:テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4′−ビフェニレン−ジ−ホスホナイト(クラリアント社製 ホスタノックスP−EPQ)
【0085】
(7)トリアゾール系化合物
・G−1:2−ヒドロキシ−N−1H−1,2,4−トリアゾール−3−イル−ベンズアミド(アデカ社製 CDA−1)
【0086】
実施例1
ポリアミド(A−1)75質量部、ホスフィン酸金属塩(B−1)25質量部、ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物(C−1)1質量部、金属化合物(E−1)1質量部、リン系酸化防止剤(F−1)0.3質量部をドライブレンドし、ロスインウェイト式連続定量供給装置CE−W−1型(クボタ社製)を用いて計量し、スクリュー径26mm、L/D50の同方向二軸押出機TEM26SS型(東芝機械社製)の主供給口に供給して、溶融混練を行った。途中、サイドフィーダーより強化材(D−1)45質量部を供給し、さらに混練を行った。ダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、(融点−5〜+15℃)、スクリュー回転数250rpm、吐出量25kg/hとした。
【0087】
実施例2〜32、比較例
ポリアミド樹脂組成物の組成を表3〜4に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作をおこなってポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。なお、比較例1C等の比較例nCで表示される樹脂組成物ペレットは、ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物(C)を含有しない以外は、実施例nの樹脂組成物のペレットと同じ組成である。
【0088】
得られたポリアミド樹脂組成物ペレットを用い、各種評価試験を行った。その結果を表3〜4に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
実施例の樹脂組成物は、本発明の要件を満足し、ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物(C)を含有するため、ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物(C)を含有しない比較例の樹脂組成物に比較して、難燃性が向上し、また高温での金属腐食性が抑制されていた。
実施例1、12〜15において、樹脂組成物は、ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物の含有量を増加することにより、難燃性の向上がみられた。後述するように、比較例3の樹脂組成物は、ホスフィン酸金属塩を45質量部含有することにより、難燃性に優れるが、金属腐食性が著しく高いものであった。比較例3で得られた難燃性と同程度の難燃性は、ホスフィン酸金属塩の含有量を25〜40質量部に低減させても、ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物を含有することによって得られ(実施例11や15)、ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物を含有する実施例においては、ホスフィン酸金属塩の含有量を低減することができ、金属腐食性を抑制することが可能となった。
実施例1〜6の対比から、用いるポリアミドのモノカルボン酸成分として、分子量が140以上のモノカルボン酸を含有した実施例1、2、4の樹脂組成物の方が、金型汚れが少なく、離型性が優れていた。実施例1と実施例3の対比から、モノカルボン酸成分として、脂肪族モノカルボン酸を用いた実施例1の樹脂組成物の方が、芳香族モノカルボン酸を用いた実施例3よりも、離型性が優れていた。実施例1と実施例2の対比から、脂肪族ジアミン成分として、1,9−ノナンジアミンを用いた実施例2の樹脂組成物よりも、1,10−デカンジアミンを用いた実施例1の樹脂組成物の方が、機械的特性が優れていた。
融点が285℃であるが、吸水率が高い脂肪族ポリアミド(A−6)を含有する実施例6の樹脂組成物は、耐リフロー性試験において試験片に1〜2個のブリスター(水ぶくれ)の発生がみられた。しかし、テレフタル酸成分を含有して吸水率が低い半芳香族ポリアミドを含有する他のすべての実施例の樹脂組成物は、耐リフロー性に優れ、試験片の外観に変化はみられなかった。なお、耐リフロー性試験は、難燃性評価用の試験片を、85℃×85%RHにて168時間吸湿処理を行った後、赤外線加熱式のリフロー炉中にて、150℃で1分間加熱し、100℃/分の速度で265℃まで昇温し、10秒間保持して行った。
【0092】
実施例1と21の対比から、強化材としてガラス繊維を用いた実施例1の樹脂組成物の方が、板状のタルクを用いた実施例21の樹脂組成物よりも、機械的特性が優れていた。
実施例1、22〜30の対比において、樹脂組成物は、金属化合物を含有することにより、金属腐食性の抑制がみられた。金属化合物が炭酸金属塩と脂肪酸金属塩とを含む実施例29、30の樹脂組成物は、1種の金属化合物を含有する実施例1、27、28の樹脂組成物に比較して、難燃性低下の抑制が可能となった。
実施例30の樹脂組成物は、ポリアミドが半芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとを含有するため、ポリアミドが半芳香族ポリアミドのみである実施例29の樹脂組成物に比較して、流動性が向上し、樹脂のせん断発熱が抑制され、金属腐食性のさらなる抑制が可能となり、また、脂肪族ポリアミドを含有するにもかかわらず、耐リフロー性を有していた。
実施例1と31の対比において、樹脂組成物は、リン系酸化防止剤を含有することにより、機械的特性や離型性の向上がみられた。
実施例7、26の樹脂組成物は難燃性がV−2、実施例8の樹脂組成物は難燃性がV−1であり、他の実施例の樹脂組成物に比べて難燃性が劣るものの、金属腐食性が大きく抑えられたものであった。
【0093】
比較例1、2の樹脂組成物は、ホスフィン酸金属塩を含有しないか、その含有量が少なかったため、難燃性が劣るものであった。
比較例3の樹脂組成物は、ホスフィン酸金属塩の含有量が多いため、難燃性に優れるものとなったが、金属腐食性が著しく高くなった。比較例4〜6において、樹脂組成物は、ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物を含有させると、難燃性はさらに向上したが、金属腐食性は抑制されなかった。比較例7において、樹脂組成物は、ホスフィン酸金属塩の含有量をさらに増加すると、溶融混練時のストランドの引き取りを行うことができず、樹脂組成物ペレットを採取することができなかった。
比較例8の樹脂組成物は、ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン化合物の含有量が多かったため、実施例1、12〜15と比較して機械的特性が低く、また難燃性の向上効果も飽和していた。
比較例9の樹脂組成物は、ヒンダードフェノール構造を有するヒドラジン系化合物の代わりに、環内にヒドラジン構造を有するが、ヒンダードフェノール構造を有していないトリアゾール系化合物を使用したため、実施例1の樹脂組成物と比較して、難燃性の向上効果がみられなかった。