【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上を考慮して、従来からガラス基板のエッジの残留応力を低減する方法が開発されている。例えば、ガラス基板の残留応力を低減する方法では、昇温後に徐冷を行う。具体的には、最初に、ガラス基板全体をガラス転移点以上の温度まで均一に加熱し、次にそれを一定時間保持し、最後に常温まで徐冷する。一般には、加熱・保持・徐冷の工程に数時間以上の時間を要する。
この方法では、ガラス基板のエッジの残留応力をほぼ完全に除去できるという利点がある。また、炉で複数個のガラス基板を同時処理できるという利点がある。
【0006】
しかし、基板全体をガラス転移点以上に加熱するので、例えば樹脂のような耐熱性の低い材料と一体になったガラス製品には適用できない。
図16には、ガラス基板Gに樹脂材料P1、P2が一体に形成されたガラス製品を示している。
また、1回の残留応力低減処理に数時間以上の時間がかかるため、残留応力が発生した直後に残留応力を低減することはできない。そのため、高い残留応力によって数十分以内に破壊が生じる確率が高いガラス基板に適用するのが困難である。
【0007】
本発明の第一の目的は、樹脂のような耐熱性の低い材料と一体になったガラス基板の残留応力を低減できるようにすることにある。
本発明の第二の目的は、高い残留応力によって通常は数十分以内で破壊が生じるガラス基板に対しても、破壊が生じる前に残留応力を低減できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
【0009】
本発明の一見地に係るガラス基板の残留応力低減方法は、下記のステップを備えている。
◎ガラス基板の残留応力が高い部分の複数箇所各々に短時間で繰り返しレーザ光を照射することで、複数箇所に擬似的に同時にレーザ光を照射する、レーザ光照射ステップ。
この方法では、ガラス基板の残留応力が高い部分が加熱されるので、樹脂のような耐熱性の低い材料と一体になったガラス基板の残留応力を低減できるようになる。ガラス基板全体が加熱されないので、樹脂等に熱の影響が生じにくいからである。
また、この方法では、レーザ光をガラス基板の複数箇所に疑似的に同時に照射することで、複数箇所が同時に1ピコ秒〜100秒間程度加熱される。その結果、加熱域において残留応力が低減されるので、通常は数十分以内で破壊が生じるガラス基板に対しても、破壊が生じる前に残留応力を低減できるようになる。
「残留応力が高い部分が加熱される」とは、ガラス基板には加熱されない部分があることを意味する。
「残留応力を低減する」とは、内部欠陥の経時的な成長が抑制され、外力を加えていないガラス基板が既定の時間内に割れない程度まで残留応力を低減することを意味する。
【0010】
この方法は、ガラス基板においてレーザ光が照射された部分を冷却するステップをさらに備えていてもよい。
この方法では、例えば1回目の複数箇所同時加熱によって加熱域における残留応力を低減した後に、レーザ照射位置をずらして2回目の複数箇所同時加熱を行って残りの領域の残留応力を低減するときに、加熱動作同士の時間間隔を短くできる。その理由は下記の通りである。
本発明者らは実験に基づき、残留応力低減処理においては、高温になる領域を、残留応力発生領域に沿った方向の狭い範囲に抑えることが必要であることを見い出した。このため、例えば1回目の加熱部と2回目の加熱部が隣接する場合には、2回目の加熱は、1回目の加熱部の温度が低下するまで待つ必要がある。一方、上記の方法では、1回目の加熱部が冷却ステップによって冷却された後に2回目の加熱が行われる。その結果、高温になる領域が冷却によって残留応力発生領域に沿った方向に狭く抑えられ、高い残留応力低減効果が得られる。つまり、冷却ステップを備えることで、加熱動作同士の時間間隔が短縮され、残留応力低減処理のタクトタイムを短縮でき、通常は数十分以内で破壊が生じるガラス基板に対しても、破壊が生じる前に残留応力を低減できるようになる。
【0011】
本発明の他の見地に係るガラス基板の残留応力低減装置は、レーザ装置を備えている。レーザ装置は、ガラス基板の残留応力が高い部分の複数箇所各々に短時間で繰り返しレーザ光を照射することで、複数箇所に擬似的に同時にレーザ光を照射する。
この装置では、ガラス基板の残留応力が高い部分が加熱されるので、樹脂のような耐熱性の低い材料と一体になったガラス基板の残留応力を低減できるようになる。ガラス基板全体が加熱されないので、樹脂等に熱の影響が生じにくいからである。
また、この装置では、レーザ光をガラス基板の複数箇所に疑似的に同時に照射することで、複数箇所が同時に1ピコ秒〜100秒間程度加熱される。その結果、加熱域において残留応力が低減されるので、通常は数十分以内で破壊が生じるガラス基板に対しても、破壊が生じる前に残留応力を低減できるようになる。
【0012】
この装置は、前記ガラス基板においてレーザ光が照射された部分を冷却する冷却装置をさらに備えていてもよい。
この装置では、例えば1回目の複数箇所同時加熱によって加熱域における残留応力を低減した後に、レーザ照射位置をずらして2回目の複数箇所同時加熱を行って残りの領域の残留応力を低減するときに、加熱動作同士の時間間隔を短くできる。その理由は下記の通りである。
本発明者らは実験に基づき、残留応力低減処理においては、高温になる領域を、残留応力発生領域に沿った方向の狭い範囲に抑えることが必要であることを見い出した。このため、例えば1回目の加熱部と2回目の加熱部が隣接する場合には、2回目の加熱は、1回目の加熱部の温度が低下するまで待つ必要がある。一方、上記の装置では、1回目の加熱部が冷却装置によって冷却された後に2回目の加熱が行われる。その結果、高温になる領域が冷却によって残留応力発生領域に沿った方向に狭く抑えられ、高い残留応力低減効果が得られる。つまり、冷却装置を備えることで、加熱動作同士の時間間隔が短縮され、残留応力低減処理のタクトタイムを短縮でき、通常は数十分以内で破壊が生じるガラス基板に対しても、破壊が生じる前に残留応力を低減できるようになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、樹脂のような耐熱性の低い材料と一体になったガラス基板の残留応力を低減できるようになる。ガラス基板全体が加熱されないので、樹脂等に熱の影響が生じにくいからである。さらに、本発明によれば、高い残留応力によって通常は数十分以内で破壊が生じるガラス基板に対しても、破壊が生じる前に残留応力を低減できるようになる。ガラス基板の複数箇所を1ピコ秒〜100秒間程度同時に加熱し、この加熱を1回又は加熱位置をずらしながら複数回行うことで、加熱域において残留応力が低減されるからである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.第1実施形態
(1)レーザ照射装置
図1に、本発明の一実施形態によるレーザ照射装置1の全体構成を示す。
図1は、本発明の第1実施形態のレーザ照射装置の模式図である。
レーザ照射装置1は、ガラス基板Gの残留応力が高い部分を加熱することで残留応力を低減する機能を有している。
【0016】
ガラス基板Gは、ガラスのみからなるものと、ガラスに樹脂等の他の部材が組み合わせられたものを含む。ガラスの種類の代表的な例としては、ディスプレイやインパネ等に使われるソーダガラス、無アルカリガラスが挙げられるが、種類はこれらに限定されない。ガラスの厚さは、具体的には、3mm以下であり、例えば、0.004〜3mmの範囲、好ましくは0.2〜0.4mmの範囲である。
【0017】
レーザ照射装置1は、レーザ装置3を備えている。レーザ装置3は、ガラス基板Gにレーザ光を照射するためのレーザ発振器15と、レーザ制御部17とを有している。レーザ制御部17はレーザ発振器15の駆動及びレーザパワーを制御できる。
【0018】
レーザ装置3は、レーザ光を後述する機械駆動系側に伝送する伝送光学系5を有している。伝送光学系5は、例えば、集光レンズ19、複数のミラー(図示せず)、プリズム(図示せず)等を有する。伝送光学系5は、さらに、ガルバノスキャナ43を有している。ガルバノスキャナ43は、レーザパルスの繰り返しに同期させて、レーザビームを2次元方向に振ることができる。
レーザ照射装置1は、ガルバノスキャナ43を駆動する駆動機構11を有している。レーザ照射装置1は、さらに、集光レンズ19の位置を光軸方向に移動させることによって、レーザ光のスポットの大きさを変更する駆動機構(図示せず)を有している。
【0019】
レーザ照射装置1は、ガラス基板Gが載置される加工テーブル7を有している。加工テーブル7は、テーブル駆動部13によって移動される。
テーブル駆動部13は、加工テーブル7をヘッド(図示せず)に対して水平方向に移動させる移動装置(図示せず)を有している。移動装置は、ガイドレール、モータ等を有する公知の機構である。
【0020】
レーザ照射装置1は、制御部9を備えている。制御部9は、プロセッサ(例えば、CPU)と、記憶装置(例えば、ROM、RAM、HDD、SSDなど)と、各種インターフェース(例えば、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、通信インターフェースなど)を有するコンピュータシステムである。制御部9は、記憶部(記憶装置の記憶領域の一部又は全部に対応)に保存されたプログラムを実行することで、各種制御動作を行う。
制御部9は、単一のプロセッサで構成されていてもよいが、各制御のために独立した複数のプロセッサから構成されていてもよい。
【0021】
制御部9は、レーザ制御部17を制御できる。制御部9は、駆動機構11を制御できる。制御部9は、テーブル駆動部13を制御できる。制御部9は、集光レンズ19の位置を制御できる。
制御部9には、図示しないが、ガラス基板Gの大きさ、形状及び位置を検出するセンサ、各装置の状態を検出するためのセンサ及びスイッチ、並びに情報入力装置が接続されている。
【0022】
図1には、ガラス基板Gの表側又は裏側から噴射エアで基板を冷却する基板冷却装置35が示されている。基板冷却装置35は、制御部9によって動作を制御される。なお、冷却のための冷却媒体は特に限定されない。
基板冷却装置は、ガラスが置かれるテーブルを水冷テーブルにすることで実現されてもよい。
レーザ照射装置1に基板冷却機構が搭載されてもよい。
【0023】
(2)溶融面取り動作
ガラス基板Gに残留応力が生じる加工の例として、
図2〜
図4を用いて、ガラス基板Gの端面を溶融面取りする動作を説明する。
図2は、レーザスポットの移動を示すガラス基板の模式図である。
図3は、溶融面取りされたガラス基板の断面写真である。
図4は、溶融面取りされたガラス基板の端面から中央側に向かってのリタデーションの変化を示すグラフである。
【0024】
図2に示すように、ガラス基板Gに対して、レーザ光を、ガラス基板Gの端面近傍部分21に照射し、さらにレーザスポットSをガラス基板Gの端面20に沿って走査する。このとき、レーザスポットSが、ガラス基板Gの端面20から基板内側(中央側)に向かって例えば、10μm〜150μm離れた位置にくるようにセットする。
【0025】
以上のようなレーザスポットSの照射及び走査によって、ガラス基板Gの端面近傍部分21が加熱される。特に、中赤外光のレーザ光を照射することによって、レーザ光はガラス基板Gの内部まで透過しながら吸収される。したがって、ガラス基板Gの端面20は、レーザ光の照射面である表面側のみではなく、ガラス基板Gの内部及び裏面側の全体にわたって比較的均一に加熱される。このため、ガラス基板Gの端面20は基板厚みの中央部が外側に膨らむように溶融し、その結果、
図3に示すように、端面20が面取りされる。
【0026】
以上の結果、
図4に示すように、ガラス基板Gの端面近傍部分(例えば、端面20から200μmの領域)では、リタデーション(nm)が高くなる。リタデーションは、物体を透過した光に生じる位相差であり、物体内にはたらく応力に比例する値である。外力を加えていない物体のリタデーションが高いということは、残留応力が高くなっていることを意味する。
【0027】
(3)残留応力低減処理
図5〜
図8を用いて、レーザ光を1パルスずつスキャンする方式で複数箇所同時加熱を行う方法を説明する。
図5は、レーザ照射装置の具体的な模式的平面図である。
図6は、レーザ照射装置の具体的な模式的正面図である。
図7は、ガルバノスキャナ43を用いた、3点のレーザスポットの形成を示す模式図である。
図8は、時間に対するレーザパルスと光線角度の変化を示すグラフである。
【0028】
図5及び
図6に示すように、レーザ照射装置1は、レーザ発振器15、ビームエキスパンダ49、集光レンズ19、ガルバノスキャナ43を有している。そして、レーザ照射装置1は、ガルバノスキャナ43を用いて、レーザ光の1パルスずつ照射位置を制御し、レーザ光を複数箇所に疑似的に同時に照射し、複数箇所が同時に加熱される状態を作る。
図7及び
図8を用いて、レーザ光を1パルスずつスキャンする方式で複数箇所同時加熱を行う方法を説明する。
【0029】
ガルバノスキャナ43は、レーザ光を1パルスずつスキャンする方式で複数箇所同時加熱を行う。具体的には、駆動機構11がガルバノスキャナ43を所定角度になるように断続的に駆動する。
図7の例では、ガルバノスキャナ43によってレーザビームの光線角度を1°変えることで、試料面においてレーザスポットの位置が10mm移動する。
図8のように500Hzで発振するレーザパルスに同期させて光線角度を変えた場合、レーザ光は周期12ミリ秒で20mmの領域を1往復し、3点のレーザスポットのそれぞれは、1周期(12ミリ秒)のうちの2ミリ秒間だけレーザ光が照射される。また、3点のレーザスポット同士の間の領域には、レーザ光が照射されない。この場合、レーザ光がスキャンされる周期が十分に早いため、この動作を所定の時間(例えば1秒間)繰り返して続ければ、3点が所定時間だけ同時に加熱されたことになる。
この方法では、比較的簡単な構造によって、レーザ光を複数箇所に疑似的に同時に照射し、複数箇所を同時に加熱できる。
なお、
図7及び
図8では、繰り返し周波数500Hzで発振するレーザパルスを1パルスずつスキャンする例を説明したが、繰り返し周波数及びスキャン方法は、これに限定されない。レーザパルスの繰り返し周波数が極端に低い場合、レーザパルスが照射される周期が長くなり、レーザパルスが複数箇所に疑似的に同時に照射されていると見なせなくなる。このため、レーザパルスの繰り返し周波数は10Hz以上が好ましい。レーザパルスの繰り返し周波数が高い場合、レーザパルスが照射される周期が短くなり、1パルスずつ照射位置を制御することが困難になる。この場合、複数(例えば2〜10000)パルスを1箇所に照射した後に、ガルバノスキャナ43によってレーザ照射位置を変えるというような動作を行えば、
図7及び
図8で説明した方法と同等の加熱が可能である。このため、レーザパルスの繰り返し周波数の上限は設定されない。
【0030】
図9〜
図12を用いて、複数箇所同時加熱方式による残留応力低減処理を、端面が溶融面取りされたガラス基板を例に挙げてさらに説明する。
図9〜
図12は、レーザスポットの照射状態を示すガラス基板の模式図である。加工テーブル7上のガラス基板Gに対して、端面近傍部分21の内の複数箇所にレーザ光を疑似的に同時に照射する。ここでの端面近傍部分21は、溶融面取りによって残留応力が生じた残留応力発生領域Z(斜線領域)に対応している。
図9では、離散した2個のレーザスポットS1が端面近傍部分21に擬似的に同時に照射されている。
図10では、
図9の動作を所定時間だけ続けた結果、2つのレーザ照射域のそれぞれがガラス転移点以上の温度で所定時間だけ加熱されたことによって、加熱域において残留応力が低減した状況が示されている。
【0031】
図11では、離散した2個のレーザスポットS2が端面近傍部分21に擬似的に同時に照射されている。このときに、2個のレーザスポットS2は先の2個のレーザスポットS1とは異なる位置に、つまりずらして照射されている。また、2個のレーザスポットS2は、残った残留応力発生領域Zに対応している。
図12では、
図11の動作を所定時間だけ続けた結果、2つのレーザ照射域のそれぞれがガラス転移点以上の温度で所定時間だけ加熱されたことによって、加熱域において残留応力が低減した状況が示されている。
【0032】
以上に述べたように、残留応力発生領域Z上の複数箇所にレーザスポットが疑似的に同時に照射されてガラス転移点以上の温度で所定の時間だけ加熱されると、その領域において残留応力が低減される。加熱位置をずらしながら繰り返しこの動作を行えば、ガラス基板Gの端面近傍部分21(つまり、残留応力発生領域Z)がガラス転移点以上まで加熱され、その結果、残留応力発生領域Z全体において残留応力が低減する。
この方法では、ガラス基板Gの残留応力が高い領域が加熱される(つまり、ガラス基板G全体が加熱されない)ので、樹脂のような耐熱性の低い材料と一体になったガラス基板Gの残留応力を低減できるようになる。樹脂等に熱の影響が生じにくいからである。
【0033】
(4)残留応力低減処理におけるレーザスポットの形状
本発明者らは、実験に基づき、残留応力低減処理において好ましいレーザスポットの形状を下記の通り考察した。
図13、
図14及び
図15は、レーザスポットSの形状のバリエーションを示す模式的平面図である。
なお、下記に述べる実験は、複数箇所同時加熱の実験ではなく、好ましいレーザスポット形状を調べるための1点加熱の実験である。
【0034】
図13は、円形のレーザスポットS100と、端面20に直交する方向に長い楕円形のレーザスポットS101が示されている。
図14には、端面20に沿って長い楕円形のレーザスポットS102、S103が示されている。
図15には、端面20全体を覆う、端面20に沿って長い形のレーザスポットS104が示されている。レーザスポットS100、S101、S102、S103を用いた場合は、レーザ出力及び加熱のための所定時間を調整すれば、加熱領域における残留応力が低減された。ただし、残留応力低減効果は、S100≒S101>S102>S103の順に高かった。レーザスポットS104を用いた場合、レーザ出力及び加熱のための所定時間を調整しても、残留応力が低減されなかった。
以上に示した実験結果を鑑み、本発明者らは、残留応力低減処理においては、加熱域の形状が残留応力発生領域Zに沿って長くなる場合には残留応力低減の効果が低くなり、加熱域の形状が残留応力発生領域Zに沿って狭く抑えられる場合には残留応力低減の効果が高くなることを見い出し、本発明に至った。
【0035】
レーザスポットSは、円形の場合、例えば、直径4μm〜20mmであることが好ましい。レーザスポットSの直径が大きいほど、加熱1回当たりの処理面積が広くなり、所定の面積の残留応力を低減するのに要する時間が短縮される。
図13及び
図14に示したように、レーザスポットSは楕円形であってもよい。ただし、レーザスポットSの残留応力発生領域Zに沿った方向の幅がレーザスポットSの残留応力発生領域Zに交差する方向の幅に対して長いほど、残留応力低減効果が低下する。レーザスポットSの残留応力発生領域Zに沿った方向の幅は、レーザスポットSの残留応力発生領域Zに交差する方向の幅の10倍以下であることが好ましい。
【0036】
(5)複数箇所同時加熱の各種条件
複数箇所同時加熱における加熱領域間の間隔は、加熱領域1点の幅の0.5倍以上であることが好ましい。加熱領域間の間隔が狭すぎる場合、複数の加熱域がつながり、残留応力発生領域Zに沿って長い1つのレーザスポットを照射することと等しくなる。つまり、前述した「加熱域の形状が残留応力発生領域Zに沿って長くなる場合」に対応し、残留応力低減効果が低くなる。
複数箇所同時加熱において、レーザスポットの数は、特に限定されない。
この実施形態では、レーザスポットSは、最終的には端面近傍部分21全体に照射されて、端面近傍部分21全体の残留応力を下げる。しかし、端面近傍部分21のうちの一部の領域だけにおいて残留応力を下げる場合には、レーザスポットSは、端面近傍部分21のうちの特定領域だけに照射されてもよいし、端面近傍部分21全体の半分程度の領域だけに照射されてもよい。
【0037】
加熱のための所定時間は、加熱中の加熱域の温度に依存する。つまり、高い出力で加熱する程、加熱域の温度が高くなり、短時間で残留応力が低減される。高い出力で加熱するほど、加熱のための所定時間が短くてよく、タクトタイムは短い。
加熱のための所定時間は、例えば、1ピコ秒〜100秒程度が好ましい。最小の所定時間は、ガラスの構造緩和に要する時間(緩和時間)の最小値として知られる1ピコ秒である。加熱域の温度が低い場合ほど緩和時間が長くなり、加熱域の温度がガラス転移点程度である場合には、加熱のための所定時間を緩和時間である100秒程度とするのが好ましい。
加熱のための所定時間を極端に短くするには、ガラス基板Gを短い時間で高温まで加熱する必要があり、必要な出力が大幅に増えるため、実用上は、タクトタイム短縮のメリットと出力上昇によるコスト増の兼ね合いで加熱条件が決められる。
この方法では、ガラス基板の複数箇所を1ピコ秒〜100秒間程度同時に加熱し、この加熱を1回又は加熱位置をずらしながら複数回行うことで、加熱域において残留応力が低減されるため、高い残留応力によって通常は数十分以内で破壊が生じるガラス基板に対しても、破壊が生じる前に残留応力を低減できるようになる。
【0038】
レーザ出力は、ガラス転移点以上まで加熱できる値である必要がある。これは、レーザスポットのサイズ、レーザ波長、ガラスの種類や板厚によって適宜設定される。なお、ガラス基板Gの加熱部の温度がガラス転移点程度である場合、加熱部の変形はほとんど確認されない。加熱部の温度がより高い場合には、加熱部が溶融し、形状が変化する。レーザ出力が高いほど、加熱部の粘度が低下し、短い時間で大きく変形する。本発明によれば、レーザ出力が高く、ガラス基板Gの形状が変形する場合であっても、残留応力が低減される。ただし、ガラス基板Gの許容できる変形量に制約がある製品に本発明を適用する場合には、ガラス基板Gの粘度が低下して変形量が許容値を超えることがないよう、レーザ出力に上限が設定されるべきである。
厚さ200μmの無アルカリガラスを対象として複数箇所同時加熱による残留応力低減処理の条件例を説明する。
CO
2レーザ(波長10.6μm)を用い、直径4mmのレーザスポットを複数箇所に疑似的に同時に照射する場合、レーザスポット1点当たり、平均出力3Wで20秒間加熱されればよい。又は、平均出力4Wで4秒間加熱されてもよい。又は、平均出力6Wで2秒間加熱されてもよい。
【0039】
レーザの種類(波長)は特に限定されない。
ガラス基板Gへの入熱方向は特に限定されない。ガラス基板Gの表面から入熱されてもよいし、裏面から入熱されてもよいし、端面20から入熱されてもよい。
【0040】
(6)複数箇所同時加熱のレーザ光ずらし照射の時間短縮
図9〜
図12に示したように、複数箇所同時加熱を、加熱位置をずらしながら逐次行う場合、タクトタイムを短くするには、加熱動作同士の時間間隔を短くする必要がある。しかし、例えば複数箇所の2回目の加熱領域のいずれかが複数箇所の1回目の加熱領域のいずれかと隣接する領域になる場合は、その2回目の加熱は、1回目の加熱部の温度が低下するまで待つ必要がある。その理由は、例えば2回目の加熱領域が、1回目の加熱領域と合わせて、前述した「加熱域の形状が残留応力発生領域Zに沿って長くなる場合」に対応するからである。
【0041】
加熱動作同士の時間間隔を短くする第1の方式として、前記の場合に2回目の加熱領域が1回目の加熱領域から離れた位置になるように加熱位置を工夫することで、時間間隔を短くできる。
加熱動作同士の時間間隔を短くするための第2の方式として、基板の冷却方式がある。この方式では、
図1に示すように、ガラス基板Gの表側または裏側から噴射エアで基板を冷却する基板冷却装置35を用いる。この場合、1回目の加熱領域を空冷などで冷やした後に2回目の加熱を行うことになる。これにより、例えば、2回目の加熱領域が1回目の加熱領域と隣接する領域になる場合でも、時間間隔を短くできる。
【0042】
上記のように時間間隔を短くできる理由は、レーザ光が照射されて加熱された部分が冷却された後に次のレーザ光が照射されるので、先に加熱された部分の近傍に次のレーザ光を照射したとしても、高温になる領域が冷却によって残留応力発生領域Zに沿った方向に広がらないからである。つまり、この場合は、前述した「加熱域の形状が残留応力発生領域Zに沿って狭く抑えられる場合」に対応するからである。
冷却は常に行われていてもよいし、レーザ光照射の後に行われてもよい。
冷却装置の構成、冷却手段、配置位置は特に限定されない。
【0043】
2.他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
レーザパルスのスキャン方式は、ガルバノスキャナに限定されない。レーザ光の照射位置を変化させる方式であれば何でもよく、例えばポリゴンミラーでもよい。
本発明は、溶融面取りが行われない場合も適用される。
本発明は、残留応力発生領域がガラス基板Gの端面近傍部分でない場合、例えば中央部分の場合にも適用される。
本発明は、冷却装置が設けられていない装置にも適用される。