(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の柔軟性ポリアミドフィルムは、炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A1)からなる単位および/または炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B1)からなる単位を含むポリアミドを成形してなるフィルムである。
【0012】
<ポリアミド>
本発明の柔軟性ポリアミドフィルムを構成するポリアミドは、炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A1)からなる単位および/または炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B1)からなる単位を含むことが必要である。本発明のフィルムを構成するポリアミドにおいて、上記(A1)からなる単位および/または(B1)からなる単位は、ソフトセグメントを形成する。
【0013】
本発明において、ポリアミドにおける、(A1)からなる単位の含有量と(B1)からなる単位の含有量の合計は、10〜92質量%であることが必要であり、15〜80質量%であることが好ましく、30〜80質量%であることがより好ましく、柔軟性と耐熱性のバランスの点から、40〜75質量%であることがさらに好ましい。ポリアミドは、上記含有量の合計が10質量%未満であると、柔軟性が低下し、一方、上記含有量の合計が92質量%を超えると、得られるフィルムは、耐熱性が低下したり、延伸時や熱固定時に破断することがある。
【0014】
本発明において、ポリアミドは、柔軟性や伸びの点から、炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A1)からなる単位と炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B1)からなる単位とを同時に含有することが好ましく、質量比((A1)からなる単位/(B1)からなる単位)は、90/10〜10/90であることが好ましく、70/30〜10/90であることがより好ましく、50/50〜10/90であることがさらに好ましい。
なお、炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A1)からなる単位を単独で含有するよりも、炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B1)からなる単位を単独で含有する方が、柔軟性や耐熱性の点から、好ましい。
【0015】
炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A1)は、カルボキシル基以外は全て炭化水素からなるものが好ましく、例えば、ヘキサデカンジカルボン酸(炭素数18)、オクタデカンジカルボン酸(炭素数20)、ダイマー酸(炭素数36)が挙げられる。
中でも、柔軟性が高いポリアミドが得られることから、(A1)は、炭素数が20以上であるものがより好ましく、ダイマー酸であることがさらに好ましい。ダイマー酸は、不飽和結合を有するものであってもよいが、着色しにくいことから、水添してすべての炭素−炭素結合が飽和結合であるものが好ましい。
【0016】
炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B1)は、アミノ基以外は全て炭化水素からなるものが好ましく、例えば、オクタデカンジアミン(炭素数18)、エイコサンジアミン(炭素数20)、ダイマージアミン(炭素数36)が挙げられる。
中でも、含有量が少なくても柔軟性が高いポリアミドが得られることから、(B1)はダイマージアミンであることが好ましい。ダイマージアミンは、ダイマー酸をアンモニアと反応させたのち、脱水し、ニトリル化し、還元することにより製造することができる。ダイマージアミンは、不飽和結合を有するものであってもよいが、着色しにくいことから、水添してすべての結合が飽和結合であるものが好ましい。
【0017】
本発明において、ポリアミドの、炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A1)からなる単位と炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B1)からなる単位以外の単位は、主にハードセグメントを形成する。
ハードセグメントを構成する単位は、特に限定されないが、炭素数12以下のジカルボン酸(A2)からなる単位や、炭素数12以下のジアミン(B2)からなる単位であることが好ましい。
炭素数12以下のジカルボン酸(A2)としては、例えば、セバシン酸(炭素数10)、アゼライン酸(炭素数9)、アジピン酸(炭素数6)、テレフタル酸(炭素数8)、イソフタル酸(炭素数8)、オルトフタル酸(炭素数8)が挙げられる。中でも、柔軟性が向上することから、炭素数8以上のジカルボン酸を含むことが好ましい。
また、炭素数12以下のジアミン(B2)としては、ドデカンジアミン(炭素数12)、ウンデカンジアミン(炭素数11)、デカンジアミン(炭素数10)、ノナンジアミン(炭素数9)、オクタンジアミン(炭素数8)、ヘキサンジアミン(炭素数6)、ブタンジアミン(炭素数4)が挙げられる。中でも、柔軟性が向上することから、炭素数5以上のジアミンを含むことが好ましく、炭素数8以上のジアミンを含むことがより好ましい。
【0018】
本発明において、ハードセグメントは、高結晶性のポリアミドを構成する単位からなることが好ましい。高結晶性のポリアミドは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンからなる半結晶性ポリアミドであることが好ましく、例えば、ポリアミド4T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド12Tが挙げられ、中でも、耐熱性と結晶性のバランスがよいことから、ポリアミド10Tが好ましい。したがって、ハードセグメントを構成する(A2)は、テレフタル酸であることが好ましく、(B2)は、ブタンジアミン、ノナンジアミン、デカンジアミン、ドデカンジアミンであることが好ましく、1,10−デカンジアミンであることがより好ましい。
ハードセグメントを構成する単位が、高結晶性のポリアミドを構成する単位であることにより、得られるポリアミドは、耐熱性が向上し、ハードセグメントとソフトセグメントの相分離構造の形成が促進され、柔軟性が向上する。
炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A1)からなる単位および/または炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B1)からなる単位からなるソフトセグメントは、ポリエーテルやポリエステルからなるソフトセグメントと比較すると、セグメント長が短くなる傾向がある。ソフトセグメントは、セグメント長が短くなると、ハードセグメントとの相分離構造を形成することが難しくなることがある。しかしながら、ハードセグメントを構成する単位を、高結晶性のポリアミドを構成する単位にすることにより、ソフトセグメント長が短くても、相分離構造を形成することができる。
【0019】
本発明において、ポリアミドは、重合時に分解しやすいポリエーテルやポリエステルからなるセグメントを含有しないことが好ましい。ポリエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリコールが挙げられ、ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリエチレンセバケートが挙げられる。ポリエーテルやポリエステルからなるセグメントを含有するポリアミドは、重合温度が高いと、分解することがある。
【0020】
本発明において、ポリアミドは、重合度調整や、製品の分解抑制や、着色抑制等のため、末端封鎖剤を含有してもよい。末端封鎖剤としては、例えば、酢酸、ラウリル酸、安息香酸、ステアリン酸等のモノカルボン酸、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、ステアリルアミン等のモノアミンが挙げられる。末端封鎖剤は単独で用いてよいし、併用してもよい。末端封鎖剤の含有量は、特に限定されないが、通常、ジカルボン酸とジアミンの総モル量に対して0〜10モル%である。
【0021】
<ポリアミドフィルム>
本発明の柔軟性ポリアミドフィルムは、上記ポリアミドを成形してなるものである。
【0022】
本発明の柔軟性ポリアミドフィルムは、耐熱性に優れるものであり、耐熱性の指標となる融点は、240℃以上であることが必要であり、250℃以上であることが好ましく、270℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましい。
【0023】
また、本発明の柔軟性ポリアミドフィルムは、柔軟性に優れるものであり、柔軟性の指標となる弾性率は、2500MPa以下であることが好ましく、2000MPa以下であることがより好ましく、1500MPa以下であることがさらに好ましい。
【0024】
また、本発明の柔軟性ポリアミドフィルムは、吸水性が低く、吸水による寸法変化や機械物性変化が小さいものであり、吸水率は2.5%以下であることが好ましく、2.0%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
また、本発明の柔軟性ポリアミドフィルムは、誘電正接や誘電率が低く誘電特性に優れており、さらに絶縁特性にも優れている。
【0026】
<ポリアミドの製造>
本発明において、ポリアミドを製造する方法は、特に限定されず、通常のポリアミドの重合方法により製造することができ、例えば、撹拌機を備えた圧力容器や連続重合設備を用いて、原料モノマーを加熱しながら縮合水を系外に除去して重合する方法が挙げられる。
【0027】
ポリアミドの製造においては、必要に応じて、触媒を用いてもよい。触媒としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩が挙げられる。触媒の含有量は、特に限定されないが、通常、ジカルボン酸とジアミンの総モル量に対して2モル%以下である。
また、ポリアミドの製造において、必要に応じて、有機溶媒や水を加えてもよい。
【0028】
ポリアミドの製造において、重合は、密閉系でおこなってもよいし、常圧でおこなってもよい。密閉系でおこなう場合、モノマーの揮発や縮合水の発生等で圧力が上昇することがあるので、適宜圧力を制御することが好ましい。一方、用いるモノマーの沸点が高く、加圧しなくてもモノマーが系外に流出しない場合、常圧で重合することができる。例えば、原料モノマーが、ダイマー酸、ダイマージアミン、テレフタル酸、デカンジアミンの組み合わせである場合、常圧で重合することができる。
【0029】
ポリアミドの製造においては、酸化劣化を防ぐため、窒素雰囲気下または真空下で重合をおこなうことが好ましい。
【0030】
重合温度は、特に限定されないが、通常、150〜300℃である。得られるポリアミドの分解や劣化反応を抑制するため、300℃を超えない温度でおこなうことが好ましく、ポリアミドの融点以下の温度でおこなうことが好ましい。ポリアミドの融点以下の温度で重合すると、ハードセグメント成分は析出したままであるが、ソフトセグメント成分は溶融状態にあるので、反応物全体としては流動性がある。このため、既存のポリアミドの溶融重合の設備とプロセスで重合をおこなうことができる。なお、この場合、ハードセグメントの重合は固相重合のような形で進行する。融点以下の温度で重合をおこなう方法は、重合温度が高くなり分解しやすい、280℃以上の高融点のポリアミドの重合において、特に効果的である。
【0031】
重合したポリアミドは、ストランド状に押出しペレットとしてもよいし、ホットカット、アンダーウォーターカットしてペレットとしてもよい。
【0032】
ポリアミドの製造方法においては、さらに、高分子量化するために、固相重合をおこなってもよい。固相重合は、重合時の粘度が高粘度で操業が困難になる場合等に、特に効果的である。固相重合は、不活性ガス流通下または減圧下で、樹脂の融点未満の温度で30分以上加熱することによりおこなうことが好ましく、1時間以上加熱することによりおこなうことがより好ましい。
【0033】
<ポリアミドフィルムの製造>
本発明の柔軟性ポリアミドフィルムは、ポリアミドを、240〜340℃で3〜15分間溶融した後、Tダイを通じてシート状に押出し、この押し出された物を、−10〜80℃に温度調節されたドラム上に密着させて冷却することにより製造することができる。本発明のポリアミドフィルムは、得られた未延伸フィルムを、未延伸の状態で用いることもできるが、通常、延伸してから用いることが多い。延伸は、一軸方向または二軸方向の延伸であることが好ましく、二軸延伸であることがより好ましい。延伸により、フィルム中のポリアミドが配向結晶化していることが好ましい。延伸方法としては、同時延伸法や逐次延伸法が挙げられる。
【0034】
同時二軸延伸法の一例としては、未延伸フィルムを同時二軸延伸し、続いて熱固定処理を施す方法が挙げられる。延伸は、30〜150℃で、幅方向(以下、「TD」と略称することがある。)、長手方向(以下、「MD」と略称することがある。)ともに1.5〜5倍の倍率でおこなうことが好ましい。熱固定処理は、TDのリラックスを数%として、150〜300℃で数秒間おこなうことが好ましい。同時二軸する前に、フィルムに1〜1.2倍程度の予備縦延伸を施しておいてもよい。
【0035】
逐次二軸延伸法の一例としては、未延伸フィルムにロール加熱、赤外線加熱等の加熱処理を施したうえで、縦方向に延伸し、続いて連続的に、横延伸、熱固定処理を施す方法が挙げられる。縦延伸は、30〜150℃で、1.5〜5倍の倍率でおこなうことが好ましい。横延伸は、縦延伸の場合と同じく、30〜150℃でおこなうことが好ましい。横延伸の倍率は、2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましい。熱固定処理は、TDのリラックスを数%として150〜300℃で数秒間おこなうことが好ましい。
【0036】
ポリアミドフィルムを延伸する方法としては、例えば、フラット式逐次二軸延伸法、フラット式同時二軸延伸法、チューブラ法を挙げることができる。中でも、フィルムの厚み精度を向上させ、フィルムのMDの物性を均一とすることができる観点から、フラット式同時二軸延伸法を採用することが好ましい。フラット式同時二軸延伸法を採用するための延伸装置としては、例えば、スクリュー式テンター、パンタグラフ式テンター、リニアモーター駆動クリップ式テンターが挙げられる。
【0037】
延伸後の熱処理方法としては、例えば、熱風を吹き付ける方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波を照射する方法等の公知の方法が挙げられる。中でも、均一に精度良く加熱できることから、熱風を吹き付ける方法が好ましい。
【0038】
得られた柔軟性ポリアミドフィルムは、枚葉とされてもよいし、巻き取りロールに巻き取られることによりフィルムロールの形態とされてもよい。各種用途への利用に際しての生産性の観点から、フィルムロールの形態とすることが好ましい。フィルムロールとされた場合は、所望の巾にスリットされていてもよい。
【0039】
なお、ポリアミドフィルムの製造装置においては、シリンダー、バレルの溶融部、計量部、単管、フィルター、Tダイ等の表面にポリアミドが滞留するのを防ぐため、それらの表面は、粗さを小さくする処理が施されていることが好ましい。表面の粗さを小さくする方法としては、例えば、極性の低い物質で改質する方法が挙げられ、また、それらの表面に窒化珪素やダイヤモンドライクカーボンを蒸着させる方法が挙げられる。
【0040】
<添加剤>
本発明の柔軟性ポリアミドフィルムは、製膜時の熱安定性を高め、フィルムの強度や伸度の劣化を防ぎ、使用時の酸化や分解等に起因するフィルムの劣化を防止するために、熱安定剤を含有することが好ましい。熱安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系熱安定剤、ヒンダードアミン系熱安定剤、リン系熱安定剤、イオウ系熱安定剤、二官能型熱安定剤が挙げられる。
【0041】
ヒンダードフェノール系熱安定剤としては、例えば、Irganox1010(登録商標)(BASFジャパン社製、ペンタエリスリトール テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])、Irganox1076(登録商標)(BASFジャパン社製、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、Cyanox1790(登録商標)(ソルベイ社製、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸)、Irganox1098(登録商標)(BASFジャパン社製、N,N′−(ヘキサン−1,6−ジイル)ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、SumilizerGA−80(登録商標)(住友化学社製、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン)が挙げられる。
【0042】
ヒンダードアミン系熱安定剤としては、例えば、Nylostab S−EED(登録商標)(クラリアントジャパン社製、N、N′−ビス−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル−1,3−ベンゼンジカルボキシアミド)が挙げられる。
【0043】
リン系熱安定剤としては、例えば、Irgafos168(登録商標)(BASFジャパン社製、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト)、Irgafos12(登録商標)(BASFジャパン社製、6,6′,6″−[ニトリロトリス(エチレンオキシ)]トリス(2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン))、Irgafos38(登録商標)(BASFジャパン社製、ビス(2,4−ジ−tert−ブチル)−6−メチルフェニル)エチルホスフィット)、ADKSTAB329K(登録商標)(ADEKA社製、トリス(モノ−ジノニルフェニル)ホスフィット)、ADKSTAB PEP36(登録商標)(ADEKA社製、ビス(2,6−ジ―tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト)、Hostanox P−EPQ(登録商標)(クラリアント社製、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニルジホスホナイト)、GSY−P101(登録商標)(堺化学工業社製、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンジホスホナイト)、SumilizerGP(登録商標)(住友化学社製、6−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]−ジオキサホスフェピン)が挙げられる。
【0044】
イオウ系熱安定剤としては、例えば、DSTP「ヨシトミ」(登録商標)(三菱ケミカル社製、ジステアリルチオジプロピオネート)、Seenox 412S(登録商標)(シプロ化成社製、ペンタエリスリトール テトラキス−(3−ドデシルチオプロピオネート))が挙げられる。
【0045】
二官能型熱安定剤としては、例えば、SumilizerGM(登録商標)、(住友化学社製、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート)、SumilizerGS(登録商標)(住友化学社製、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート)が挙げられる。
【0046】
フィルム強度の劣化を防止する観点からは、ヒンダードフェノール系熱安定剤が好ましい。ヒンダードフェノール系熱安定剤の熱分解温度は、320℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましい。熱分解温度が320℃以上のヒンダードフェノール系熱安定剤としては、SumilizerGA−80が挙げられる。また、ヒンダードフェノール系熱安定剤は、アミド結合を有していれば、フィルム強度の劣化を防止することができる。アミド結合を有しているヒンダードフェノール系熱安定剤としては、例えば、Irganox1098が挙げられる。また、ヒンダードフェノール系熱安定剤に二官能型熱安定剤を併用することにより、フィルム強度の劣化をさらに低減することができる。
【0047】
これらの熱安定剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、ヒンダードフェノール系熱安定剤とリン系熱安定剤を併用すれば、フィルムの製膜時における原料濾過用フィルターの昇圧を防止することができるとともに、フィルム強度の劣化を防止することができる。また、ヒンダードフェノール系熱安定剤とリン系熱安定剤と二官能型熱安定剤を併用すれば、フィルムの製膜時における原料濾過用フィルターの昇圧を防止することができるとともに、フィルム強度の劣化をさらに低減することができる。
【0048】
ヒンダードフェノール系熱安定剤とリン系熱安定剤の組み合わせとしては、SumilizerGA−80またはIrganox1098と、Hostanox P−EPQまたはGSY−P101との組み合わせが好ましい。ヒンダードフェノール系熱安定剤とリン系熱安定剤と二官能型熱安定剤の組み合わせとしては、SumilizerGA−80またはIrganox1098と、HostanoxP−EPQまたはGSY−P101と、SumilizerGSの組み合わせが好ましく、SumilizerGA−80と、GSY−P101と、SumilizerGSとの組み合わせがより好ましい。
【0049】
本発明の柔軟性ポリアミドフィルムにおける上記熱安定剤の含有量は、ポリアミド100質量部に対して、0.01〜2質量部であることが好ましく、0.05〜1質量部であることがより好ましい。熱安定剤の含有量が0.01〜2質量部であることにより、熱分解をより効率的に抑制することができる。なお、熱安定剤を2種以上併用する場合は、各々の熱安定剤の個別の含有量、および熱安定剤の合計の含有量のいずれもが、上記の範囲に入っていることが好ましい。
【0050】
本発明の柔軟性ポリアミドフィルムは、滑り性を良好にするため、滑剤粒子を含有してもよい。滑剤粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム等の無機粒子や、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子等の有機系微粒子が挙げられる。
【0051】
本発明の柔軟性ポリアミドフィルムは、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、上記熱安定剤や滑剤粒子に加えて、各種添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、顔料・染料等の着色剤、着色防止剤、上記熱安定剤とは異なる酸化防止剤、耐候性改良剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、強化剤、改質剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、防曇剤、各種ポリマーが挙げられる。顔料としては、酸化チタン等が挙げられる。耐候性改良剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。難燃剤としては、臭素系難燃剤やリン系難燃剤等が挙げられる。強化剤としては、タルク等が挙げられる。なお、上記各種の添加剤は、フィルムを製造する際の任意の段階で添加すればよい。
【0052】
<フィルムの加工>
本発明の柔軟性ポリアミドフィルムには、必要に応じて、その表面の接着性を向上させるための処理を施すことができる。接着性を向上させる方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、酸処理、火炎処理が挙げられる。
【0053】
本発明の柔軟性ポリアミドフィルムの表面には、易接着性、帯電防止性、離型性、ガスバリア性等の機能を付与するため、各種のコーティング剤が塗布されていてもよい。
【0054】
本発明の柔軟性ポリアミドフィルムには、金属またはその酸化物等の無機物、他種ポリマー、紙、織布、不織布、木材等が積層されていてもよい。
【0055】
<フィルムの用途>
本発明の柔軟性ポリアミドフィルムは、耐熱性や柔軟性に優れている。このため、本発明の延伸された柔軟性ポリアミドフィルムは、医薬品の包装材料;レトルト食品等の食品の包装材料;半導体パッケージ等の電子部品の包装材料;モーター、トランス、ケーブル等のための電気絶縁材料;コンデンサ用途等のための誘電体材料;カセットテープ、デジタルデータストレージ向けデータ保存用磁気テープ、ビデオテープ等の磁気テープ用材料;太陽電池基板、液晶板、導電性フィルム、表示機器等のための保護板;LED実装基板、フレキシブルプリント配線板、フレキシブルフラットケーブル等の電子基板材料;フレキシブルプリント配線用カバーレイフィルム、耐熱マスキング用テープ、工業用工程テープ等の耐熱粘着テープ;耐熱バーコードラベル;耐熱リフレクター;各種離型フィルム;耐熱粘着ベースフィルム;写真フィルム;成形用材料;農業用材料;医療用材料;土木、建築用材料;濾過膜等、家庭用、産業資材;繊維材料用のフィルムとして、好適に用いることができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
A.評価方法
ポリアミドおよびポリアミドフィルムの物性は、以下の方法によって測定した。
【0057】
(1)組成
得られたポリアミドおよびポリアミドフィルムについて、高分解能核磁気共鳴装置(日本電子社製ECA−500NMR)を用いて、
1H−NMR分析することにより、それぞれの共重合成分のピーク強度から、樹脂組成を求めた(分解能:500MHz、溶媒:重水素化トリフルオロ酢酸と重水素化クロロホルムとの容量比が4/5の混合溶媒、温度:23℃)。
【0058】
(2)融点
得られたポリアミドフィルムから数mg切り出し、示差走査熱量計DSC−7型(パーキンエルマー社製)用いて、昇温速度20℃/分で350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温し、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温測定した際の吸熱ピークのトップを融点とした。
【0059】
(3)延伸フィルムの引張破断強度、引張破断伸度、および引張弾性率
JIS K 7127に従って、温度20℃、湿度65%の環境下で測定した。試料の大きさは10mm×150mm、チャック間の初期距離は100mm、引張速度は500mm/分とした。
【0060】
(4)吸水率
得られたポリアミドフィルムを23℃純水中で2日間吸水処理した後に表面の水分をふき取り、吸水処理前後の重量変化を測定することで吸水率を求めた。
【0061】
B.原料
原料は、以下のものを用いた。
・ダイマー酸:クローダ社製 プリポール1009
・ダイマージアミン:クローダ社製 プリアミン1075
・熱安定剤:住友化学社製 Sumilizer GA−80
【0062】
製造例
・ポリアミドP1
加熱機構、撹拌機構を備えた反応容器に、ダイマー酸4.7質量部、ダイマージアミン4.5質量部、テレフタル酸44.5質量部、1,10−デカンジアミン46.2質量部、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.1質量部を投入した。
その後、撹拌しながら260℃まで加熱し、縮合水を系外に除去しながら、窒素気流下、常圧、260℃で、5時間重合をおこなった。重合中、系は懸濁状態であった。
重合終了後、払い出し、これを切断し、ポリアミドP1を得た。
【0063】
・ポリアミドP2〜P8
反応容器に投入するモノマーを表1のように変更する以外は、ポリアミドP1と同様の操作をおこなって、ポリアミドP2〜P8を得た。
【0064】
・ポリアミドP9
オートクレーブに、1,4−ブタンジアミン24.8質量部、ダイマージアミン17.6質量部、ダイマー酸18質量部を投入することによって、塩を生成した。
次いで、アジピン酸39.6質量部を添加した。この混合物を、37℃、0bargから、35分で11bargおよび204℃まで加熱した。次いで、混合物を205℃で42分間維持し、圧力は13.6bargまで上昇した。次いで、反応混合物を雰囲気不活性化容器中に放出し、ポリアミドを固体粉末として得た。こうして得られたプレポリマーを、続いて1〜20mmの間の大きさの粒子に破砕し、続いて24時間にわたり230℃にてN
2/H
2O(1800/700g/時間)の流れの中で後縮合させ、ポリアミドP9を得た。
【0065】
・ポリアミドP10
加熱機構を備えた粉末撹拌装置に、テレフタル酸49.0質量部、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.1質量部を投入した。170℃加熱下、撹拌しながら、1,10−デカンジアミン50.9質量部を3時間かけて少量ずつ加え、塩を得た。その後、攪拌しながら前記塩を250℃まで加熱し、縮合水を系外に除去しながら、窒素気流下、常圧、250℃で7時間重合をおこなった。重合終了後、払い出し、ポリアミドP10を得た。
【0066】
・ポリアミドP11
加熱機構、撹拌機構を備えた反応容器に、ダイマー酸51.3質量部、ダイマージアミン48.6質量部、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.1質量部を投入した。
その後、撹拌しながら、260℃まで加熱し、縮合水を系外に除去しながら、窒素気流下、常圧、260℃で、5時間重合をおこなった。重合中、系は均一な溶融状態であった。重合終了後、払い出し、これを切断し、ポリアミドP11を得た。
【0067】
・ポリアミドP12
両末端の水酸基に代えてアミノ基を有する数平均分子量1000のポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG1000)51.0質量部、テレフタル酸28.3質量部、1,10−デカンジアミン20.6質量部、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.1質量部を、加熱機構、撹拌機構を備えた反応容器に入れ、撹拌しながら250℃まで加熱し、発生する水蒸気を放出しながら、窒素気流下、常圧、250℃で、5時間重合をおこなった。重合中、系は懸濁溶液の状態であった。
重合終了後、払い出し、これを切断したが、ポリアミドP12は脆く、実用には適さないものであった。
【0068】
得られたポリアミドの仕込組成を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例1(同時二軸延伸フィルム)
ポリアミドP1 100質量部とSumilizerGA−80 0.4質量部とをドライブレンドし、シリンダー温度が330℃、スクリュー径が26mmである二軸押出機に投入し、溶融混練して、ストランド状に押出した後、冷却、切断して、ペレットを得た。
得られたペレットを、シリンダー温度が330℃、スクリュー径が50mmである単軸押出機に投入して溶融し、溶融ポリマーを、金属繊維焼結フィルター(日本精線社製、「NF−13」、公称濾過径:60μm)を用いて濾過した後、330℃のTダイよりフィルム状に押出し、10℃の冷却ロール上に静電印加法により密着させて冷却し、実質的に無配向の未延伸ポリアミドフィルムを得た。
得られた未延伸フィルムのポリアミド成分の樹脂組成を求めたところ、用いたポリアミドの樹脂組成と同一であった。
【0071】
得られた未延伸ポリアミドフィルムの両端をクリップで把持しながら、フラット式同時二軸延伸機にて、二軸延伸をおこなった。延伸条件は、予熱部の温度が80℃、延伸部の温度が80℃、MDの延伸歪み速度が2400%/分、TDの延伸歪み速度が2400%/分、MDの延伸倍率が2.3倍、TDの延伸倍率が2.3倍であった。延伸後連続して、二軸延伸機の同じテンター内で250℃にて熱固定をおこない、フィルムの幅方向に6%のリラックス処理を施し、二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。
得られた延伸フィルムのポリアミド成分の樹脂組成を求めたところ、用いたポリアミドの樹脂組成や未延伸フィルムのポリアミド成分の樹脂組成と同一であった。
【0072】
実施例2、4〜7、9〜
10、12〜13、参考例1〜2、比較例1(同時二軸延伸フィルム)
用いるポリアミドの種類と製造条件を表2、3に示すように変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。
【0073】
実施例3(未延伸フィルム)
ポリアミドP3を用い、実施例1と同様の操作をおこなって、実質的に無配向の未延伸ポリアミドフィルムを得て、これを柔軟性ポリアミドフィルムとして評価した。
得られた未延伸フィルムのポリアミド成分の樹脂組成を求めたところ、用いたポリアミドの樹脂組成と同一であった。
【0074】
実施例8(逐次二軸延伸フィルム)
実施例3で得られた未延伸ポリアミドフィルムを、フラット式逐次軸延伸機によって二軸延伸をおこなった。
まず、未延伸フィルムをロール加熱や赤外線加熱等によって80℃に加熱し、MDに延伸歪み速度2400%/分で3.0倍延伸して、縦延伸フィルムを得た。
続いて連続的に、フィルムの幅方向の両端を横延伸機のクリップに把持させ、横延伸をおこなった。TD延伸の予熱部の温度は85℃、延伸部の温度は85℃、延伸歪み速度は2400%/分、TDの延伸倍率が3.0倍であった。そして、横延伸機の同じテンター内で、250℃で熱固定をおこない、フィルムの幅方向に6%のリラックス処理を施し、二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。
【0075】
比較例2(未延伸フィルム)
用いるポリアミドの種類と製造条件を表3に示すように変更する以外は、実施例3と同様の操作をおこなって、実質的に無配向の未延伸のポリアミドフィルムを得た。
【0076】
比較例3(同時二軸延伸フィルム)
比較例2で得られた未延伸フィルムを用いて、実施例1と同様の操作をおこなって、二軸延伸ポリアミドフィルムを得ようとしたが、熱固定時に破断して二軸延伸ポリアミドフィルムフィルムを得ることができなかった。
【0077】
表2、3に、使用したポリアミドの組成、フィルムの製造条件、および得られたポリアミドフィルムの特性を示す。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
実施例1〜
10、12〜13のポリアミドフィルムは、ポリアミドにおける炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A1)からなる単位の含有量と炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B1)からなる単位の含有量の合計が10〜92質量%であったため、いずれも、柔軟性に優れ、また融点が240℃以上であり、耐熱性に優れるものであった。
実施例1〜
10、12〜13と
参考例2を対比することにより、炭素数12以下のジアミン(B2)として炭素数が5以上のジアミンを用いたポリアミドのフィルムの方が、吸水率が低いことがわかる。
【0081】
比較例1のポリアミドフィルムは、(A1)からなる単位も(B1)からなる単位も含有せず、ソフトセグメントを有していないポリアミドを用いたため、柔軟性に劣るものであった。
比較例2におけるポリアミドは、炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A1)からなる単位の含有量と炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B1)からなる単位の含有量の合計が92質量%を超えていたため、融点が確認できず、二軸延伸後のフィルムは、熱固定時に破断し、耐熱性に劣るものであった。
炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A1)からなる単位および/または炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B1)からなる単位を含むポリアミドを成形してなるフィルムであって、ポリアミドにおける、(A1)からなる単位の含有量と(B1)からなる単位の含有量の合計が10〜92質量%であり、フィルムの融点が240℃以上であることを特徴とする柔軟性ポリアミドフィルム。