(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の土木工事用不織布には、つぎのいくつかの問題点を内包している。
<1>土木工事用不織布は全体が白色であるため、耐候性と耐摩耗性に問題があることに加えて、施工時に光が反射して眩しく敷設作業を阻害し易い。
<2>土木工事用不織布は全体を引き延ばしながら現場に敷設しているが、不織布の実際の伸び量を把握することができない。
そのため、伸び量にバラツキを生じ、不織布を均一の伸び率で引き延ばしながら敷設することが技術的に難しい。
<3>敷設面に大きな起伏があると、起伏に馴染ませるために不織布がさらに引き伸ばされる。
既述したように不織布の敷設時の実際の伸び具合を把握できないにもかかわらず、さらに起伏箇所で不織布が伸ばされるので不織布が伸長限界を超えて破れ易くなる。
不織布が破れると、破損個所の補修に多くの時間と手数がかかる。
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは少なくともつぎのひとつの土木工事用不織布およびその製造方法を提供することにある。
<1>簡易な手法により不織布の伸び具合を把握できること。
<2>不織布の伸び適正に管理しながら敷設できること。
<3>不織布を防砂シートに用いた場合、防砂機能の保証期間を延長できること。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ニードルパンチ方式で製造された高伸度の土木工事用不織布であって、不織布の繊維原料が着色しない白色繊維と、前記白色繊維と同一繊維を特定色彩の顔料で着色した着色繊維との混合物からなり、不織布本体が白色繊維と着色繊維の混合色を有し、かつ不織布本体の外表面に斑模様を形成している。
さらに本発明は、ニードルパンチ方式で製造する高伸度の土木工事用不織布の製造方法であって、不織布の繊維原料に着色しない白色繊維と、前記白色繊維と同一繊維を特定色彩の顔料で着色した着色繊維とを使用し、前記白色繊維および着色繊維を混練した後にニードルパンチで交絡させて不織布本体を製造し、前記不織布本体が白色繊維と着色繊維の混合色を有し、かつウェブの外表面に斑模様を形成した。
本発明の他の形態において、前記着色繊維の色彩は黒色系である。
本発明の他の形態において、前記着色繊維の顔料はカーボンブラックである。
本発明の他の形態において、前記着色繊維の混合量は重量比で10〜90%の範囲である。
本発明の他の形態において、前記白色繊維および着色繊維はポリエステル系繊維である。
本発明の他の形態において、不織布の伸び率は150%以上である。
本発明の他の形態において、不織布は防砂シートである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は少なくともつぎの一つの効果を奏する。
<1>白色繊維に適量の着色繊維を混入した原料を使用することで、斑模様を有する混合所の不織布を製造することができる。
<2>不織布全体に色彩が付与してあるので、不織布の伸び量に差があるとその差が色彩の濃淡となって表れる。
そのため、不織布の色彩の濃淡によって、不織布の大まかな伸び具合を目視により把握することができる。
<3>不織布の該表面が斑模様を呈することから、特定した複数の斑点間の距離を伸長前と伸長後に実測することで、不織布の伸び率を正確に把握することができる。
<4>不織布の伸びを把握できるので、不織布の伸び適正に管理しながら敷設することができる。
<5>不織布の伸長限界を把握できるので、破損した場合に補修対応を簡単に行える。
<6>着色繊維の顔料にカーボンブラックを用いた場合には、不織布の耐候性および耐摩耗性を高めることができる。
そのため、不織布を防砂シートに用いた場合には、光の反射を抑えて施工性を改善できるだけでなく、紫外線劣化と摩耗劣化を回避して砂防シートの防砂機能を長期間に亘って保証することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
<1>土木工事用不織布の概要
図1を参照して本発明に係る土木工事用不織布10(以下「不織布10」という)について説明すると、不織布10は、優れた弾力性,伸長性,および強度を併せ持っており、例えば防砂シート等の埋立護岸の吸出し防止工,洗掘対策工、連接ブロック工,石積み工等の吸出し防止工、各種フィルター工、または遮水シート工の保護材等の土木工事における洗掘対策、吸出し防止用資材として使用する。
不織布10の高い弾性力と伸長性を有していて、各種の敷設面の凹凸等に追従させて敷設できる。
【0012】
<2>不織布の物性
不織布10の物性(目付、伸び率、引張強度、引裂強度)はつぎのとおりである。
【0013】
1)目付(質量)
不織布10の目付量は特に制限はないが、土木工事用途で使用する場合は200〜2000g/m
2であり、実用的には1350g/m
2以上が望ましい。
【0014】
2)伸び率
不織布10の伸び率は、たて150×よこ150%以上を有していればよく、たて200×よこ200%以上が望ましい。
不織布10を高伸度にする手段は、公知の各種方法を適用できる。
【0015】
3)引張強度
不織布10の引張強度は、たて900×よこ900N/5cm以上である。
【0016】
4)引裂強度
不織布10の引裂強度は、たて500×よこ500N以上である。
【0017】
<3>繊維原料
不織布10の繊維原料は、白色繊維11と着色繊維12とからなる。
白色繊維11および着色繊維12は同一の繊維素材からなる。
白色繊維11は公知の繊維である。
不織布10を着色繊維12のみで製造すると、不織布全体が単一色となって斑模様が生じない。
本発明では不織布10に斑模様を形成するために、白色繊維11と着色繊維12の組合せを採用した。
【0018】
<3.1>繊維素材
不織布10を構成する繊維原料(白色繊維11および着色繊維12)は、ポリエステル系繊維,ポリアミド系繊維,ポリビニルアルコール系繊維,ポリアクリロニトリル系繊維,ポリスチレン系繊維,ポリ塩化ビニル系繊維,アセテート系繊維,ポリエチレン系繊維,ポリプロピレン系繊維等を適用できる。
実用上は、ポリエステルを主体とし、その他にポリプロピレン、アクリル、ナイロン等の繊維が好適である。
繊維の形態は、短繊維(ステープル)と長繊維(フィラメント)を使用できるが、実用上は短繊維が好適である。
【0019】
<3.2>繊維の物性
白色繊維11および着色繊維12の物性(繊度、繊維強度、伸び率)はつぎのとおりである。
1)繊度(dtex)
白色繊維11および着色繊維12の繊度は3〜20dtexであればよい。
【0020】
2)繊維強度(cN/dtex)
白色繊維11および着色繊維12の繊度強度は、1.5cN/dtex以上であればよい。
3)伸び率(%)
不織布10の伸度要因を繊維素材の伸び率に求める場合、白色繊維11および着色繊維12の繊維素材の伸び率は150%以上または200%以上であればよい。
【0021】
<3.3>着色繊維
着色繊維12は特定色の顔料の1種または複数種を含む。
実用的には1種の顔料で十分である。
本例では、顔料として紫外線吸収機能を有するカーボンブラックを採用した形態について説明するが、顔料はカーボンブラック以外の任意の色彩を採用することができる。
顔料にカーボンブラックを用いると、不織布10の耐候性、耐久性および耐摩耗性の向上効果を期待できる。
着色繊維12の着色範囲は、全長に亘って均一に着色してもよい、部分的に着色してもよい。
【0022】
<3.4>着色方法の例示
着色繊維12の着色方法としては、例えば繊維原料に適量のカーボンブラックを投入して混錬することで着色することができる。
着色繊維12の着色方法は混練に限定されず、公知の着色手段が適用可能である。
【0023】
<3.5>着色繊維の混合量(混合比率)
不織布10の全体繊維量に対する着色繊維12の混合量は、適宜選択が可能である。
本発明では着色繊維12の混合量を10〜90%の範囲とし、実用上は20〜80%の範囲が望ましく、機能的には50%の混合量が最もよい。
【0024】
着色繊維12の混合量が20%より小さいと、不織布10の全体色が薄くなって斑が形成され難くなり、さらに光が反射し易く、さらに耐候性に問題が生じる。
着色繊維12の混合量が50%を超えると、不織布10の全体色が濃くなって肉眼で斑を識別することが難しくなる。
【0025】
着色繊維12の混合量を上記の範囲にすることで、耐候性の確保と、肉眼で認識可能な斑を形成することと、光の反射の抑制といった複数の要素を同時に満足できる。
【0026】
[不織布の製造方法]
本発明の不織布10は例えばニードルパンチ方式で製造できる。
図2を参照して不織布10の製造方法について説明する。
【0027】
<1>繊維原料の供給と紡出
供給ホッパ20内に白色繊維11および着色繊維12を連続して投入する。
供給ホッパ20はその内部に空気流が生じていて、供給ホッパ20に投入した白色繊維11および着色繊維12を開繊および撹拌する。
【0028】
<2>カード機による繊維原料のウェブの形成
カード機21において、ドラムの針で繊維原料の一定量を一定方向に送り出してシート状のウェブ22を形成する。
【0029】
<3>ニードルパンチ加工
所要数のウェブ22を積層した積層シートに対してニードルパンチ23を高速昇降させる。
ニードルパンチ23が具備する複数の針24を積層シートにまとめて突き刺すことで複数層のウェブ22を構成する白色繊維11および着色繊維12が交絡して一枚ものの不織布10を得る。
【0030】
不織布10は不織布全体が白色ではなく、白色繊維11および着色繊維12が混合することで不織布全体が灰色系(グレー)の色彩を帯びると共に、着色繊維12がところどころに密集して斑模様となる。
【0031】
完成した不織布10はロール状に巻き取って回収する。
図3にニードルパンチ方式で製造した不織布10の平面図を示す。
【0032】
[不織布の特性]
既述した不織布10の特性について説明する。
【0033】
<1>不織布の伸び量の目視確認
本発明では不織布10の全体に色彩が付与してあるので、不織布10の伸び量に差があると、その差は色彩の濃淡となって表れる。
具体的には、伸び量の多い部位の色彩は、伸び量の少ない他の部位と比べて薄くなる。
このように、不織布10の色彩の濃淡によって、不織布10の大まかな伸び具合を目視により把握することができる。
【0034】
このようにして得た不織布10の伸びの情報は、施工時において活用できる。
不織布10を敷設面の不陸に沿わせて敷設する際に、不織布10が伸びた部分の色が薄く見えるため、敷設後において不陸部分が分りやすくなる。
そのため、作業者が不織布10の上を歩くときのつまずき等の歩行障害を回避できる。
【0035】
色彩変化に基づく不織布10の伸び情報は、進行中の不織布10の敷設作業に反映させて、不織布10の張力調整に活用することができる。
【0036】
<2>不織布の伸び率の計測
本発明の不織布10は、以下の簡単な作業で以て実際の伸び率を把握することができる。
【0037】
図4を参照して説明すると、同図(A)は伸長前の不織布10の表面を示し、同図(B)は同部位の伸長後の不織布10の表面を示している。
【0038】
不織布10は斑模様を呈することから、不織布10の表面にはスポット的に多数の斑点が形成されている。
そこで、例えば2つの斑点ア、イを選択し、伸長前の斑点ア、イの距離L
1と、伸長後の斑点ア、イの距離L
2を実測することで、不織布10の伸び率(L
1:L
2)を正確に把握することができる。
【0039】
計測点の数は2つに限定されず、2つ以上であればよい。
4つ以上の斑点を見つけて、不織布10の縦横方向へ向けた伸び率を計測することも可能である。
【0040】
複数の斑点の変位を実測した不織布10の伸び情報は、進行中の不織布10の敷設作業に反映させて、不織布10の張力調整に活用できることの他に、伸び率の限界に近い場合は、別途の補修用不織布を敷設する等の対策工に活用することができる。
【0041】
さらに、複数の斑点の変位を実測した不織布10の伸び情報は、以下のことに活用できる。
敷設面に不陸部があった場合、不織布10を伸長させて敷設面に対して不織布10を隙間なく敷設することが理想であるが、不織布10の斑点の間隔を確認することで、不陸部に対する不織布10の伸長具合をリアルタイムで確認することができる。
【0042】
<3>耐候性および耐摩耗性に基づく防砂機能
着色繊維12がカーボンブラックを含むことで不織布10は、白色繊維単体のみで製造した従来の不織布と比較して、耐候性と耐摩耗性に優れる。
【0043】
実際の現場では2,3か月程度、不織布が日光に晒される場合がある。
白色繊維単体のみで製造した従来の不織布は、紫外線に対する特別な対策が取られていなので、2,3カ月の間でも屋外に晒されると紫外線劣化が進行する。
白色繊維単体のみで製造した従来の不織布の耐候性を高める手段として、酸化チタンを混錬することが知られている。
しかしながら、酸化チタンの混錬量に比例して光が反射し易くなって、施工時の眩しさの問題が残るだけでなく、耐摩耗性についても顕著な問題となりやすい。
【0044】
本発明に係る不織布10は、光の反射を抑えて施工性を改善できるだけでなく、砂防シートとして使用した場合に、紫外線劣化と摩耗劣化を回避して砂防シートの防砂機能を長期間に亘って保証することができる。
【0045】
<4>浸水位置の把握
本発明に係る不織布10は色彩がグレーとなるため、不織布10を海洋工事の防砂シート(吸出防止材)として用いた場合に、水分を含んだ箇所と含まない箇所を色の変化で把握できる。
水を含んだ箇所の色は、水を含まないドライの部位と比べて濃いグレー色となって表れる。
したがって、不織布10の色彩の濃淡によって、土砂が吸出され易い部位を把握して、その対策に活用することができる。
【実施例】
【0046】
<1>不織布の共通物性
以下の物性を満たす着色繊維である黒色繊維および白色繊維の混合比率を変えて、不織布をニードルパンチ1回製法により製作した。全て目付量は1,450g/m
2である。
[表1]
【0047】
<2>繊維の混合比率
白色繊維と黒色繊維の混合比率は以下のとおりである。
[表2]
【0048】
<3>繊維の混合比率
白色繊維と黒色繊維の混合比率は以下のとおりである。
[表3]
【0049】
<4>不織布の色彩
実施例1,2および比較例1,2における不織布の色彩と斑模様の発生状況は以下のとおりである。
[表4]
【0050】
<5>光の反射性
実施例1,2および比較例1,2の不織布について光の反射性能について体感試験を行った。その結果は以下のとおりである。
[表5]
【0051】
<6>耐候性
黒色繊維の顔料にカーボンブラックを使用した不織布は、白色繊維単体のみで製造した従来の不織布と比較して、耐候性に優れる。
実際の現場では2,3か月程度、不織布が日光に晒される場合がある。
白色繊維単体のみで製造した従来の不織布は、紫外線に対する特別な対策が取られていなので、2,3カ月の間でも屋外に晒されると紫外線劣化が進行する。
白色繊維単体のみで製造した従来の不織布の耐候性を高める手段として、酸化チタンを混錬することが知られている。
しかしながら、酸化チタンの混錬量に比例して光が反射し易くなって、施工時の眩しさの問題が残るだけでなく、次記する耐摩耗性についても顕著な問題となりやすい。
<7>耐摩耗性
カーボンブラックを添加することで、不織布10の耐候性を改善できるだけでなく、耐摩耗性が向上する。
先の「<6>耐候性」で説明したように不織布10の耐候性および耐摩耗性のを向上させた不織布となることで、現場設置後の劣化を抑えることが可能となる。
【0052】
<8>評価
以上のように、本発明に係る不織布10は、光の反射を抑えて施工性を改善できるだけでなく、砂防シートとして使用した場合は、紫外線劣化と摩耗劣化を回避して砂防シートの防砂機能を長期間に亘って保証することができる。
【解決手段】ニードルパンチ方式で製造された高伸度不織布10であって、繊維原料が着色しない白色繊維11と、前記白色繊維10と同一繊維を特定色彩の顔料で着色した着色繊維12との混合物からなり、不織布本体が白色繊維11と着色繊維12の混合色を有し、かつ不織布10の外表面に斑模様を形成している。