(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
繊維複合シートの成形方法であって、複数枚のフラットヤーン織布の織布間に、熱可塑性樹脂層を介挿、接着してなるフラットヤーンラミネートシートからなる繊維複合シートを、雌雄嵌合の成形金型を用いて、両面真空成形により成形する際に、上型の雌型を下降させ真空吸引を行い(当該真空吸引は、下型表面より行われる真空吸引の間も行う)、上型に繊維複合シートを接触ないし密着させた後、雄型を上昇させて繊維複合シートを雄雌両型で挟持して型合わせし、上型の真空吸引の開始から0.5〜1.0秒後に下型の雄型から真空吸引を行い、軟化した繊維複合シートを所望の形状に成形することを特徴とする成形方法。
最外層が、ポリオレフィン系材料、ポリスチレン系材料、アクリル系材料、ポリエステル系材料、セルロース系材料、ポリアミド系材料、シクロオレフィン系材料、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアセタールまたはフッ素系材料で形成されている、請求項2〜5のいずれかに記載の成形方法。
【背景技術】
【0002】
樹脂と強化繊維を複合化した繊維強化樹脂(FRP)の成形方法として、樹脂と強化繊維(短繊維)の複合シートを、オートクレーブ成形、真空成形、RTM成形、プレス成形等により航空機部品や自動車部品等を製造する方法、または、樹脂と強化繊維(長繊維)を、テープワインディング法により複合化し、釣り竿やゴルフシャフト等を製造する方法等が知られている。これらの成形方法は主に熱硬化性樹脂をマトリックスとするFRPの成形に用いられている。
【0003】
また、熱可塑性樹脂と強化繊維を複合化したFRPの成形方法としては、プレス成形、真空成形、オートクレーブ成形、フィラメントワインディング成形、プルトルージョン成形等が知られている。しかし、FRPシートを用いてカバン類、ケース類、カバー類など、直角に近い角の曲面を有する製品を成形する場合は、賦形する際に、FRPシートに張力を付与する手段が固定されていることから、成形品の湾曲部分の表面にシワができ易い。シワを回避するためにFRPシートを薄くすると、曲面が破れるあるいは薄肉化する等の現象により、所望の形状に賦形できないと言った問題点が発生する。
【0004】
繊維複合シートとして、フラットヤーン織布と熱可塑性樹脂シートとのフラットヤーンラミネートシートを用い、成形品に意匠性を付与すると共に、成形品を軽量化する検討も行われている。しかし、このような繊維複合シートを用いてカバン類やケース類を深絞り成形する場合は、成形によるフラットヤーン織布の糸条の蛇行を抑制し、糸条の捩れをできる限り少なくして意匠性が損なわれないようにする必要がある。したがって、フラットヤーンラミネートシートを繊維複合シートとして使用する場合は、強化繊維として短繊維や長繊維を使用した従来のFRP成形では見られなかった課題がある。
【0005】
深絞り成形において、成形品のシワを抑制する手段としては、例えば、立体形状を有するFRP成形品を雌雄型でプレスする際に、熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維シートプリプレグを、シートの中心部から外縁部に向かって張力を加えながら賦形する方法(特許文献1参照)、あるいは、炭素繊維複合シートと熱可塑性樹脂シートの積層体を、熱可塑性樹脂のMI(メルトインデックス)が3.5以上となるまで加熱し、加熱された積層体を圧縮し、加熱深絞り加工する方法(特許文献2参照)等が報告されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜2の方法は、フラットヤーンラミネートシートを成形用材料とするカバン類、ケース類、カバー類等、ほぼ直角に近い角部の曲面を有する成形品の成形に適用した場合には、曲面が極端に薄くなることで所望の強度を確保できなくなる、あるいは、フラットヤーン織布の配列が乱れて意匠性が損なわれる、と言った問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のフラットヤーンラミネートシートを用いた成形方法について詳細に説明する。
本発明の成形方法は、複数枚のフラットヤーン織布の織布間に熱可塑性樹脂層を介挿、接着してなるフラットヤーンラミネートシートからなる複合シートを、雌雄嵌合の成形金型を用いて両面真空成形により成形することを特徴とする。なお、本明細書において、フラットヤーンとは、長手方向に延伸が施されたテープ状の糸をいう。
【0014】
図1は、本発明のフラットヤーンラミネートシートを成形した成形品の一例を示す図であり、特にシワが発生し易いほぼ直角に近い角の曲面(以下、「曲面」と略称する)とシール部を示す図である。
図2は、本発明の成形方法に使用される成形金型の一例を示す模式図、
図3は、本発明の成形方法の成形工程を示す概略図である。
【0015】
本発明の成形方法においては、繊維複合シートとして、複数枚のフラットヤーン織布の繊維間に熱可塑性樹脂層を介挿、接着してなるフラットヤーンラミネートシートを使用する。フラットヤーンを用いて織成してなるフラットヤーン織布は、経方向及び緯方向に対する引張特性に優れているだけでなく、外観的にも美しく意匠性に優れている利点がある。また、耐衝撃性にも優れているため、カバン類、ケース類、カバー類等の表面に意匠性が要求される用途向けの材料として好適である。
【0016】
本発明のフラットヤーンは、加工性を考慮すると有機ポリマーからなるものが好適である。フラットヤーンの糸幅は、意匠性の付与、成形容易性の観点より、1〜5mmの範囲にあることが好ましく、2〜5mmの範囲にあることがより好ましい。フラットヤーンの糸条は、特に成形品の表面平滑性に優れている点で好適と言える。
【0017】
フラットヤーンを構成するポリマーとしては、軽量かつ耐衝撃性に優れ、加工し易く、かつフラットヤーン織布の織布間に形成される熱可塑性樹脂層との溶融接着性が良好である点より、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンの混用樹脂から選ばれる少なくとも1種のポリオレフィン系ポリマーが好ましい。ポリエチレンとしては、公知の高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン等を用いることができる。
それらの中でも、比較的融点が高く、硬さが得られやすく、クリープ性に優れ、延伸糸条にした時に高強度が得られ易い点より、ポリプロピレン(ホモポリプロピレン)がより好ましい。ポリプロピレンとしては、公知のポリプロピレン、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン等を用いることができるが、その中でも高強度が得られ易いことからアイソタクチックポリプロピレンが好ましい。結晶融点は延伸状態等によっても異なるが160〜170℃にあるものが一般的である。
【0018】
フラットヤーンは、上記のポリオレフィン系ポリマーの延伸糸条で形成されていることが好ましい。熱特性(特に融点)が近似する2種以上のポリオレフィン系ポリマーの組合せであっても良い。フラットヤーンは、公知の方法で製造されたポリオレフィン系ポリマー糸条もしくは複合糸条を延伸した後、熱処理を施した糸条、または、ポリオレフィン系ポリマー製フィルムを細断した後、縦一軸延伸し、その後熱処理を施したスリットヤーンの糸条等が挙げられる。また、フラットヤーンとして、ポリプロピレン系ポリマーを芯糸とし、該ポリプロピレン系ポリマーより融点の低いポリプロピレン系ポリマーやポリエチレン系ポリマーを鞘糸とした複合糸条等を用いて形成された延伸糸条を用いることもできる。
【0019】
フラットヤーンの繊度は、用途に応じて適宜決定すれば良く、特に限定されるものではないが、500〜3,000dtexの間で選択されることが好ましく、800〜2,000dtexの間で選択されることがより好ましい。
【0020】
フラットヤーン織布は、成形品の強度及び耐衝撃性を向上させるという観点より、複数枚用いる。フラットヤーン織布の好ましい積層枚数は、用途によって異なるため限定されるものではないが、2〜10枚が好ましく、より好ましくは3〜10枚、特に好ましくは3〜6枚である。1枚では成形品に強度を付与することが困難となる。10枚を超える場合はフラットヤーンラミネートシートが硬くなるため成形が困難になることがある。フラットヤーンラミネートシートでは、フラットヤーン織布を複数枚用いるため、成形時のエアー混入を防止する観点より、予めフラットヤーン織布同士が熱可塑性樹脂層を介して接着され積層一体化されていることが好ましい。
【0021】
フラットヤーン織布は、公知の方法で織成された平織、綾織、朱子織、絡み織、変化組織等を用いることができる。形状安定性、美的外観に優れている点より、平織、綾織、朱子織が好ましく、平織、綾織がより好ましい。糸同士の拘束が強すぎると、フラットヤーンラミネートシートを成形金型に沿わせることが難しくなる観点より、綾織が特に好ましい。フラットヤーン織布は、連続繊維で織成されており耐衝撃性が期待できる上に、編物に比べて厚みの均一性に優れている。フラットヤーン織布の織密度は、タテ糸及びヨコ糸糸条の糸幅や繊度、織組織により決定するのがよいが、タテヨコ共に5〜20本/25.4mmが好ましい。5本/25.4mm以上であれば、織布として見た目が悪くなることがなく、20本/25.4mm以下であれば糸同士の拘束が強くなりすぎず、フラットヤーンラミネートシートを成形金型に沿わせることができる。より好ましくは5〜12本/25.4mmである。
さらに、目的に応じて、フラットヤーン織布と不織布や繊維シート等とを積層して用いることもでき、フラットヤーンを構成するポリマーの種類が異なる2種以上のフラットヤーン織布を組合せて用いることもできる。
【0022】
本発明のフラットヤーンラミネートシートにおいて、熱可塑性樹脂層を形成する熱可塑性樹脂は、融点が前記のフラットヤーンの融点より低い樹脂が好ましく、成形性を考慮すると、フラットヤーンの融点より10℃以上低い樹脂がより好ましい。かかる熱可塑性樹脂としては、フラットヤーンを構成するポリマーと同様、軽量かつ耐衝撃性に優れ、融点が低く加工し易く、フラットヤーンとの溶融接着性が良好である点より、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂から選ばれる少なくとも1種のポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリエチレン系樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂が挙げられ、ポリプロピレン系樹脂としては、公知の低融点ポリプロピレン系樹脂が挙げられる。中でも、低融点ポリプロピレン系樹脂は、フラットヤーンを構成するポリプロピレンとの良好な溶融接着性が得られる点で、好ましい。このような低融点ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンと、エチレン、ブテン−1等のその他のモノマーとの共重合体や、立体規則性を制御したポリプロピレン系樹脂(例えば、低立体規則性ポリプロピレン)等が挙げられる。これらの樹脂の中でも、接着性が良好で、好適な融点が選択しやすい観点から、エチレン−プロピレン共重合体樹脂を用いることが好ましい。エチレン−プロピレン共重合体樹脂の融点は125〜150℃の範囲で選択できる。
【0023】
本発明のフラットヤーンラミネートシートにおける熱可塑性樹脂層は、複数枚のフラットヤーン織布の織布間に形成されているが、成形金型を用いる両面真空成形を利用する観点では、フラットヤーン織布の両面に形成されていることが好ましい。
フラットヤーンラミネートシートおける熱可塑性樹脂の割合は、30〜85質量%が好ましく、より好ましくは55〜80質量%の範囲である。熱可塑性樹脂の割合が30質量%未満の場合は、成形時にフラットヤーン糸条のズレが発生し、意匠性を付与することが難しくなる場合があり、一方、85質量%を超える場合は、フラットヤーンの割合が減少することにより、強度を付与することが難しくなる場合がある。
【0024】
フラットヤーンラミネートシートは、その最外層(すなわち、成形品の外側表面)に、透明樹脂層が積層、接着され一体的に形成されていることが好ましい。前記の最外層を形成する材料としては、具体的には、例えば、ポリオレフィン系材料(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリスチレン系材料(例えば、ABS等)、アクリル系材料(例えば、ポリメチルメタクリレート等)、ポリエステル系材料(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、セルロース系材料(例えば、トリアセチルセルロース等)、ポリアミド系材料(例えば、6−ナイロン、6,6−ナイロン等)、シクロオレフィン系材料(例えば、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー等)、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアセタール、フッ素系材料等が挙げられる。これらの材料は、1種単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。また、これらの材料を未延伸で使用してもよく、延伸後に使用しても良い。なお、最外層は、後述する接着性樹脂層を形成する接着性樹脂よりも高融点の材料で形成されていることが好ましい。
【0025】
また最外層を形成する材料表面には、後述する接着性樹脂層との接着性を向上させる観点や、成形時の熱によるシワ、ゆがみ、変形等を防止する観点から、表面処理(例えば、コロナ処理、グロー処理、大気圧プラズマ処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、EB処理等)を施してもよく、アンカー層や易接着層を設けても良い。
【0026】
最外層の厚みは、100μm以下が好ましく、成形品の曲面にシワが生じることを抑制する観点より、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは40μm以下、特に好ましくは30μm以下である。100μmを超えると深絞り成形が困難になる場合がある。
【0027】
また、最外層の内側には、意匠性を付与するため、アルミ箔、炭素繊維織物、炭素繊維フィルム等を、1層あるいは2層以上、単独もしくは組合せて積層することもできる。
【0028】
最外層の形成方法は、特に限定されるものではなく、フラットヤーンラミネートシートと最外層を形成する樹脂シートとを、接着性樹脂を介在させて積層したものを両面真空成形に供し、成形時に熱融着させることで一体的に形成させる方法でも良い。成形品の外観向上や成形品へのエアー混入防止の点より、真空成形に供する前に、接着性樹脂層を介して最外層を形成したフラットヤーンラミネートシートを用いることが望ましい。
【0029】
接着性樹脂層を形成する接着性樹脂は、極性を重視して熱可塑性樹脂層に用いた原材料とは異なる樹脂を用いることが好ましい。押出ラミネート法によって最外層を形成させる場合、オレフィンに極性基を有するモノマーを共重合あるいはポリオレフィンに極性を付与した、極性ポリオレフィンが好適に用いられる。極性ポリオレフィンとしては、例えば、「アドマー」、「タフマー」Mシリーズ(三井化学社製)、「バイネル」、「フサボンド」(デュポン社製)、「オレヴァック」(アルケマ社製)、「プレクサー」(イクイスター社製)、「モディックAP」(三菱化学社製)といった市販の極性基変性ポリオレフィンの他、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレンメタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレンメチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)等が挙げられる。カバン類等の製品の耐熱劣化、最外層の剥離や剥がれ防止の観点より、接着性樹脂は、融点が90℃以上であることが好ましい。
【0030】
両面真空成形時に最外層を接着、積層させる場合には、後述する両面真空成形を、フラットヤーンラミネートシートが軟化し、最外層が溶融しない条件下で実施することにより、接着性樹脂層を介して、最外層がフラットヤーンラミネートシートに接着、積層一体化されるため、最外層が有する綺麗な外観が保持された成形品を製造することができる。特にカバン類やケース類等の外観を重視する成形品に加工する場合に好ましく使用される。
【0031】
また、フラットヤーンラミネートシートは、カバン類やケース類等の成形品を得る場合には、その最内層側(即ち、成形品の内側)に、公知の内装布をラミネートすることもできる。
【0032】
本発明で用いるフラットヤーンラミネートシートは、公知の押出ラミネート成形法、溶融ラミネート成形法、ドライラミネート成形法等により、複数枚のフラットヤーン織布の織布間に熱可塑性樹脂層を介挿、接着したものであれば良く、ラミネート成形法は特に限定されないが、深絞り成形が可能となる点より、押出ラミネート成形法により製造されたものが好ましい。押出ラミネート成形法では、公知のアンカーコート剤(AC剤)を使用することもできる。押出ラミネート成形法によれば、フラットヤーン織布の表面をわずかに溶融させて接着することができるため、熱可塑性樹脂をフラットヤーン織布間に過剰に侵入させることなくラミネートできる。そのため、成形時にフラットヤーン織布の隙間に熱可塑性樹脂が移動することが可能となり、曲面に沿わせて成形することが容易になる。
【0033】
また、フラットヤーンラミネートシートには、本発明の目的を損なわない程度の、難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、着色剤、核剤等の添加剤が配合されていても良い。また、用途がカバン類、ケース類、カバー類等であることを考慮すると、着色剤は、最外層に近い側の熱可塑性樹脂および/またはフラットヤーン織布に配合されていることが望ましい。
【0034】
フラットヤーンラミネートシートの厚みは、成形品の用途によって異なるため、特に限定されないが、約1.0mm〜4.0mmであることが好ましい。厚みが約1.0mm以上あれば、成形品に剛性を付与することができ、厚みが約4.0mm以下であれば、成形性が悪化することがない。
【0035】
本発明の成形方法では、上記のフラットヤーンラミネートシートを、雌雄嵌合の成形金型を用いて両面真空成形により成形する。これにより、フラットヤーンラミネートシートを用いた深絞り成形が可能になる。本明細書において、深絞り成形とは、成形品の開口部面積に対する成形品の内面積の比(深絞り比)、即ち、成形品の
内面積を成形品の
開口部面積で除した値が1.5以上となる成形をいう。
【0036】
成形金型としては、凸部を有する雄型を下型に配置し、雄型と対向するように凹部を有する雌型を上型に配置した、雄雌嵌合のマッチモールド用金型が好ましい。即ち、成形品の下方に下型が配置され、成形品の上方に上型が配置される。成形金型には、金型の温度を一定に保つようヒーターが設けられているものを使用でき、ヒーターとしては、カートリッジタイプ、ニクロム線を直接埋設したもの、あるいはその他既知の加熱手段を設けたものを使用することができる。
【0037】
成形金型には、雄型および雌雄の表面と側面に、真空孔が複数個設けられている。
図2は一例を示す図である。真空孔の数は限定されないが、雄型および雌型ともに、少なくとも成形品の角部に対応する箇所(
図2のa)に真空孔が設置されていることが好ましい。また、真空孔は、表裏面部および側壁部の双方に設けることが好ましい。真空孔の配置については、雄型、雌型を型合わせした時の向かい合う位置に配置しても良いし、異なる位置に配置しても良い。
【0038】
真空孔の孔径としては、0.5〜1.0mm程度であることが好ましい。0.5mm以上であれば、真空吸引が十分に行われずに成形性が低下するおそれがなく、目詰まりの心配もない。また、1.0mm以下であれば、真空吸引後の成形品に真空孔の跡が残ることを防止でき、外観不良が発生する心配がない。
【0039】
成形工程では、フラットヤーンラミネートシートを、該フラットヤーンラミネートシートの最外層が上型側になるように加熱金型の間に導入し、雄雌嵌合の成形金型の両面より真空吸引して成形する。この際、上型の雌型を下降させ真空吸引を行い、上型にフラットヤーンラミネートシートを接触ないし密着させた後、雄型を上昇させてフラットヤーンラミネートシートを雄雌両型で挟持して型合わせし、直ちに下型の雄型から真空吸引を行い、軟化したフラットヤーンラミネートシートを所望の形状に成形することが好ましい。次いで、成形金型の離型を行って成形品を製造する。冷却金型は使用しても良いし、使用しなくても良い。
【0040】
上型(雌型)表面より行われる真空吸引は、雌型が下降を開始してフラットヤーンラミネートシートと接触する前に開始することが好ましく、当該真空吸引は、下型(雄型)表面より行われる真空吸引の間も行われることが好ましい。また、下型(雄型)表面より行われる真空吸引は、金型が型合わせされた直後に開始することが好ましい。このように、雌雄金型の真空吸引は、時間差を設けることにより、側壁の肉厚分布が雌雄両金型からの真空吸引のタイミングに影響されるため、雌雄同時に真空吸引を開始する場合に比べて、側壁部の肉厚がコントロールし易くなり、シワが発生するのを防止できる。具体的には、雄型の真空吸引開始時間と雌型の真空吸引開始時間との時間差は、0.5〜1.0秒が好ましい。
【0041】
加熱金型の間に導入されたフラットヤーンラミネートシートは、加熱金型の熱で熱可塑性樹脂層を形成する熱可塑性樹脂を中心に軟化し、真空吸引することで、金型に密着しながらフラットヤーン織布に熱可塑性樹脂が浸透していく。これにより、熱可塑性樹脂の浸透班が少なくなるため、織布の形態の乱れが防止できる。特に、ポリオレフィン系ポリマー糸条からなるフラットヤーン織布を使用したフラットヤーンラミネートシートの場合には、上型(雌型)から真空吸引を行うことにより、フラットヤーンラミネートシートと上型とが密着し易いので、糸条が軟化することによって生じるフラットヤーン織布の形態の乱れを防止することができる。
【0042】
成形金型の温度は、フラットヤーンラミネートシートを構成するフラットヤーン織布の種類及び樹脂の種類によって異なるため、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂の軟化温度以上であることが好ましい。
【0043】
真空成形時の真空条件(真空度)は、特に規定されないが、雌雄金型ともに0.05MPa〜0.09MPa(0.5atm〜0.9atm)程度まで減圧することが好ましい。真空度が前記の範囲であれば、雌型に接触したフラットヤーンラミネートシートの吸引力が不足することにより、フラットヤーンラミネートシートと金型との接触不良により成形品の形状が不安定になるおそれがなく、また、吸引力が強すぎることでフラットヤーンラミネートシートが湾曲し、外観不良が発生することがない。さらに、フラットヤーンラミネートシートの厚みのコントロールが容易であるため、均一厚の成形品を得ることができる。
【0044】
本発明の成形方法によれば、軽量かつシワの無い外観に優れた成形品、例えば、スーツケース、アタッシュケース等のカバン類;カメラケース、楽器ケース等のケース類;各種カバー類;ドアトリム、トランクサイドを形成するトリム材、フロアマットやトランクマット等のマット材、自動車用天井材等の自動車部品;壁材、天井材等の建築部材;家電製品の筐体等の深絞り成形品を製造することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
なお、材料の融点は、JIS K 7121に準じ、示差走査熱量測定(DSC)により測定した時の最大ピーク(Tm)値である。
【0046】
(実施例1)
押出ラミネート法により製造された、フラットヤーン織布間に熱可塑性樹脂層が介挿、接着され、さらに最外層が積層、接着されたフラットヤーンラミネートシートを用いた。フラットヤーンラミネートシート(1)の層構成は
図4に示す通りである。
フラットヤーンラミネートシートは、熱可塑性樹脂の割
合が65質量%、厚さが1.8mm。
【0047】
[各層を構成する材料の性状]
・フラットヤーン織布(2);
融点160℃のポリプロピレンスリットヤーンの延伸糸条からなるフラットヤーン(糸幅:3mm、繊度1,500dtex)の綾織物(目付重量110g/m
2)・・・3枚
・着色フラットヤーン織布(3);
融点160℃のポリプロピレンスリットヤーンの延伸糸条からなるベージュ色に着色したフラットヤーン(糸幅:3mm、繊度1,500dtex)の綾織物(目付重量110g/m
2)・・・1枚
・熱可塑性樹脂層(4);
融点146℃のエチレン−プロピレンランダム共重合体樹脂
・着色熱可塑性樹脂層(5);
着色した融点146℃のエチレン−プロピレンランダム共重合体樹脂
・接着性樹脂層(6);市販の極性ポリオレフィン
・最外層(7);厚さ50μmのA−PET
【0048】
成形金型としては、上型が雌型で下型が雄型である成形金型を使用し、
図3に示す位置に、直径0.5〜1.0mmの真空孔を設けたものを使用した。真空成形は、両面真空成形法にて実施し、上型(雌型)及び下型(雄型)の温度300〜350℃、真空度0.085MPa、50〜90秒で成形した。
【0049】
両面真空成形に際しては、上記のフラットヤーンラミネートシートを600mm×800mmの大きさに裁断したものを、A−PET層が上側となるように、成形金型の下型(雄型)の上に載置し、上記の温度及び圧力条件にて、上型(雌型)の真空吸引を開始した後、下型(雄型)の真空吸引を開始し、フラットヤーンラミネートシートを均一に吸引するようにしながら、深絞り成形を行い、開口部が600mm×800mmで高さが100mmの深絞り成形品を製造した。上型と下型の真空吸引を開始する時間差は約0.5秒とした。
【0050】
その結果、肉厚が均一で、表面に光沢があり、織布の織目が規則正しく配列している深絞り成形品(深絞り比:1.8)が得られ、成形品の曲面およびシール部にもシワが見られなかった。
図5は、成形品の表面写真図である。
【0051】
(実施例2)
実施例1において、A−PET層の代わりに、厚さ30μmのポリカーボネート樹脂フィルムを用いて最外層(7)を形成し、最外層(7)の反対面に熱可塑性樹脂層(4)を形成していないフラットヤーンラミネートシートを用いた以外は、実施例1と同様の成形条件にて、深絞り成形品を得た。
その結果、肉厚が均一で、表面に光沢があり、織布の織目が規則正しく配列している深絞り成形品が得られ、成形品の曲面およびシール部にもシワが見られなかった。
【0052】
(実施例3)
実施例1において、上型と下型の真空吸引を開始する時間差を0秒とした以外は、実施例1と同様の成形条件にて、深絞り成形品を得た。その結果、実施例1の深絞り成形品に比べ、成形品の曲面及びシール部に若干のシワや糸条のヨレがあるが、成形品としては適切なものであった。
【0053】
(比較例1)
実施例1において、雌型の真空吸引を行わず、雄型のみ真空吸引した以外は、実施例1と同様の成形条件にて、深絞り成形品を得た。その結果、直角に近い曲面のシール部から曲面にかけて多数のシワがあり、成形品として不適なものであった。
【0054】
(比較例2)
実施例1で用いたフラットヤーンラミネートシートを、ストレート真空法による真空成形機にて、上側のセラミックヒータの温度:120℃、下側のセラミックヒータ温度:100℃で、真空度:0.8〜0.9atm、プレス圧:5〜7kg/cm
2で、10秒間熱成形した後、室温空気にて冷却して深絞り成形品を得た。得られた成形品は、直角に近い曲面の肉厚が極端に薄いものであった。
【0055】
(比較例3)
実施例1で使用したフラットヤーンラミネートシートを、プラグアシスト法による真空成形機にて、上側のセラミックヒータの温度:120℃、下側のセラミックヒータ温度:100℃で、真空度:0.8〜0.9atm、プレス圧:5〜7kg/cm
2で、10秒間熱成形した後、室温空気にて冷却して深絞り成形品を得た。得られた成形品は、直角に近い曲面の肉厚が極端に薄いものであった。
【0056】
(深絞り成形品の評価方法)
成形品の外観の状態を4段階で評価した。
◎:成形品にシワがなく、糸条のヨレもない。
○:成形品に若干のシワや糸条のヨレがあるが、成形品として問題ない。
△:成形品に多数のシワがあるため、成形品として問題がある。
×:成形品の肉厚が不均一であるため、成形品として問題がある。
【0057】
実施例および比較例で製造した深絞り成形品について、成形条件及び性状をまとめて表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、両面真空成形法により、シワのない良好な外観を有する成形品が得られること、また時間差を設けた両面真空成形法により、成形品の外観がより向上することが分かる。
【0060】
(実施例4)
実施例1及び実施例2で製造した深絞り成形品をカットし、スーツケースのシェルを作製した。得られたシェルの内側に、ドライラミネート法により内装布を貼り合せたものをスーツケースの本体シェルと蓋体シェルとして用い、さらにサッシ、キャスターを取付けてスーツケースを作製した。その結果、軽量性、外観性、意匠性に優れるスーツケースが得られた。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形及び変更が可能であることは言うまでもない。