【文献】
International Journal of Food Microbiology,2013年,166,p. 117-124
【文献】
Food Biotechnology,2013年,27,p. 222-234
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現在数多く販売されている死菌の乳酸菌などを混入する清涼飲料などの飲料や食品などにおいては、その製造工程中のpHや加熱条件、保存期間中のpHや温度条件において、菌体のDNAが分解されてしまうため、菌種や菌株を同定するのに必要なDNAを十分に得にくいという問題がある。そうすると、品質保証の観点から必要とされる製造した商品(すなわち食品や飲料)に混入している菌種や菌株を同定することが極めて困難である。
したがって、本発明の目的は、飲料や食品中に含まれるラクトバチルス属微生物(死菌を含む)の特定の種またはその特定の種の特定の菌株を検出できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、食品や飲料清涼水などの飲料中に含まれる菌体(死菌を含む)の特定の種や菌株を検出するために、これまで全く着目されてこなかった製品中の菌体の約50−約450bp程度のRNA断片を使用することで、予想外にも菌種や菌株を同定するのに必要なDNA断片配列が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下〔1〕〜〔9〕に関する。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕試料中のラクトバチルス属微生物(乳酸菌)の特定の種またはラクトバチルス属微生物の特定の種の特定の株を検出標的微生物として検出する方法であって、以下の工程:
i)試料からRNAを抽出する工程、
ii)i)で抽出したRNAを鋳型として、cDNAを合成する工程、
iii)ii)で合成したcDNAを鋳型として、前記検出標的微生物に特徴的な約50bp〜約450bpの遺伝子領域を増幅し得る2組以上のプライマー対からなるプライマーセットを用いてPCRを行う工程、及び
iv)前記プライマーセット中の各プライマー対によって増幅された領域の各配列のいずれもが同じプライマー対によって増幅される前記検出標的微生物の配列のそれぞれと同一である場合に、前記試料中に検出標的乳酸菌が存在していたと決定する工程、
を含む、前記方法。
〔2〕試料が飲料である、前記〔1〕記載の方法。
〔3〕試料が加熱殺菌され、25℃で12ヶ月以内の期間保存された、あるいはそれに相当する条件下で保存された飲料である、前記〔1〕記載の方法。
【0007】
〔4〕試料中の乳酸菌ラクトバチルス・ガセリ種(L.gasseri)における菌株を判定する方法であって、
i)試料からRNAを抽出する工程、
ii)工程i)で抽出したRNAを鋳型としてcDNAを合成する工程、
iii)工程ii)で合成したcDNAを鋳型として、
・プライマー対(1)、(3)、(4)及び(6)からなるプライマーセット(A)
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(1):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーCTTATCGTCAGCCATAAGTTCAACTTC(配列番号2);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(4):
フォワードプライマーTGCTGCCTTAGAGTTTGAACCTG(配列番号6)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(6):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーGTACCACATCCATATGAAGCAATC(配列番号10)
・プライマー対(1)、(3)、(4)及び(7)からなるプライマーセット(B)
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(1):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーCTTATCGTCAGCCATAAGTTCAACTTC(配列番号2);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(4):
フォワードプライマーTGCTGCCTTAGAGTTTGAACCTG(配列番号6)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(7):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーCAAGTCTTTCTTGTACCACATCCA(配列番号11)
・プライマー対(1)、(3)、(5)及び(6)からなるプライマーセット(C)
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(1):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーCTTATCGTCAGCCATAAGTTCAACTTC(配列番号2);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(5):
フォワードプライマーCCTGAAACTTCTCAAGCATTAGG(配列番号8)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(6):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーGTACCACATCCATATGAAGCAATC(配列番号10)
・プライマー対(1)、(3)、(5)及び(7)からなるプライマーセット(D)
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(1):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーCTTATCGTCAGCCATAAGTTCAACTTC(配列番号2);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(5):
フォワードプライマーCCTGAAACTTCTCAAGCATTAGG(配列番号8)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(7):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーCAAGTCTTTCTTGTACCACATCCA(配列番号11)
【0008】
・プライマー対(2)、(3)、(4)及び(6)からなるプライマーセット(E)
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(2):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーTGAAGTAAACGTCCAACACGTTCAC(配列番号3);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(4):
フォワードプライマーTGCTGCCTTAGAGTTTGAACCTG(配列番号6)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(6):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーGTACCACATCCATATGAAGCAATC(配列番号10)
・プライマー対(2)、(3)、(4)及び(7)からなるプライマーセット(F)
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(2):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーTGAAGTAAACGTCCAACACGTTCAC(配列番号3);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(4):
フォワードプライマーTGCTGCCTTAGAGTTTGAACCTG(配列番号6)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(7):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーCAAGTCTTTCTTGTACCACATCCA(配列番号11)
・プライマー対(2)、(3)、(5)及び(6)からなるプライマーセット(G)
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(2):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーTGAAGTAAACGTCCAACACGTTCAC(配列番号3);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(5):
フォワードプライマーCCTGAAACTTCTCAAGCATTAGG(配列番号8)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(6):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーGTACCACATCCATATGAAGCAATC(配列番号10)
・プライマー対(2)、(3)、(5)及び(7)からなるプライマーセット(H)
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(2):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーTGAAGTAAACGTCCAACACGTTCAC(配列番号3);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(5):
フォワードプライマーCCTGAAACTTCTCAAGCATTAGG(配列番号8)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(7):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーCAAGTCTTTCTTGTACCACATCCA(配列番号11)
からなる群から選択される少なくとも1つのプライマーセットを用いてPCRを行う工程、および、
iv):前記プライマー対(1)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)と配列番号13の配列とが同一である、又は、前記プライマー対(2)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)と配列番号23の配列とが同一であり、かつ、前記プライマー対(3)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)と配列番号33の配列とが同一であり、かつ、前記プライマー対(4)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)と配列番号43の配列とが同一である、又は、前記プライマー対(5)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)と配列番号53の配列とが同一であり、かつ、前記プライマー対(6)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)と配列番号63の配列とが同一である、又は、前記プライマー対(7)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)と配列番号73の配列とが同一である場合、ラクトバチルス・ガセリ種(L.gasseri)における菌株を判定する工程含む、前記方法。
【0009】
〔5〕試料中の乳酸菌ラクトバチルス・ガセリ(L.gasseri)CP2305株を検出する方法であって、
i)試料からRNAを抽出する工程、
ii)工程i)で抽出したRNAを鋳型としてcDNAを合成する工程、
iii)工程ii)で合成したcDNAを鋳型として、
・プライマー対(8)及び(9)からなるプライマーセット(Z):
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(8):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーCACCATCAAGCATCATTTGAACAC(配列番号12);
並びに
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(9):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5)
を用いてPCRを行う工程、および、
iv)前記プライマー対(8)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)が配列番号83の配列と同一であり、かつ、前記プライマー対(9)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)が配列番号93の配列と同一である場合に、前記試料中にL.gasseri CP2305株が存在していたと決定する工程、
を含む、前記方法。
〔6〕工程iii)において、プライマー対(8)を用いるPCRとプライマー対(9)を用いるPCRが別個の容器内で行われる、前記〔5〕記載の方法。
〔7〕工程iv)において、プライマー対(8)によって増幅される領域(プライマー配列を除く)の配列の下流にプライマー対(9)によって増幅される領域の配列(プライマー配列を除く)を結合した融合配列と配列番号103の配列との同一性が決定される、前記〔5〕記載の方法。
【0010】
〔8〕下記プライマー対(8)及び(9)からなるプライマーセット(Z)を含む、L.gasseri CP2305株検出用キット:
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(8):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーCACCATCAAGCATCATTTGAACAC(配列番号12);
並びに
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(9):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5)。
〔9〕下記プライマー対(8)及び(9)からなるプライマーセット(Z):
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(8):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーCACCATCAAGCATCATTTGAACAC(配列番号12);
並びに
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(9):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5)。
【0011】
本発明のプライマー対(1)〜(9)をまとめると、以下の表1のとおりである。
【表1】
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によると、飲料中に含まれるラクトバチルス属微生物(死菌を含む)の特定の種またはその特定の種の特定の菌株を検出できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、殺菌処理、長期保存等の過程を経た試料であっても、試料中に残存するRNAを鋳型として比較的短い領域を増幅対象としてRT−PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)を行うことにより、Lactobacillus属の特定の種、あるいはLactobacillus属の特定の種の特定の株を特異的に検出することができることを見いだした。
特に、本発明者らは、殺菌処理および/または数ヶ月以上の長期保存等の過程を経た試料であっても、試料中に残存するRNAに対して比較的短い領域を増幅対象としてRT−PCRを行うことにより、L.gasseri種またはL.gasseri CP2305株を特異的に検出することができることを見いだした。長期保存とは例えば1ヶ月以上、または3ヶ月以上、好ましくは3ヶ月〜6ヶ月、さらに好ましくは3ヶ月〜12ヶ月またはこれと同等の条件下での保存をいい、特に試料が飲料や食品の場合、製造から消費期限までの期間、製造から賞味期限までの期間、またはこれらを超える期間の保存も「長期保存」に含まれる。そして、試料を25℃の保存環境下またはそれに相当する環境下においた場合であれば、例えば9ヶ月以内、少なくとも6ヶ月以内であれば問題なく、試料中のL.gasseri種またはL.gasseri CP2305株を特異的に検出することができる。なお、保存温度は通常、4〜35℃の条件で行われる。ただし、当該試料が例えば55℃という過酷な温度条件下で保存された場合であっても3〜5日間程度であれば、プライマーセットの種類によっては試料中のL.gasseri種またはL.gasseri CP2305株を特異的に検出しうることがある。
したがって、本発明によれば、RT−PCRを用いてLactobacillus属の特定の菌種または菌株を特異的に検出することができる。特に本発明によれば、RT−PCRを用いてL.gasseriあるいはL.gasseri CP2305株を特異的に検出することができる。
【0015】
本発明によってL.gasseri、特にL.gasseri CP2305株を特異的に検出することができる試料には、乳酸菌(乳酸菌(Lactobacillus属の微生物))入りの食品、飲料、飼料等、特に乳酸菌の死菌入りの食品、飲料、飼料等が含まれる。本発明における飲料には、発酵乳、発酵乳(殺菌)、乳製品乳酸菌飲料、乳製品乳酸菌飲料(殺菌)、乳酸菌飲料及び清涼飲料水が含まれる。
本明細書において「特異的に検出」するとは、他のLactobacillus属種またはL.gasseriの他の菌株とL.gasseri種またはL.gasseri CP2305株とを区別して、弁別的にL.gasseriまたはL.gasseriの特定の株を検出することを言う。たとえば、「L.gasseri CP2305株を特異的に検出」するとは、L.gasseriの他の菌株とL.gasseri CP2305株とを区別して弁別的に試料中のL.gasseri CP2305株を検出することを言う。また、「L.gasseriを特異的に検出」するとは、他のLactobacillus属種とL.gasseriとを区別して弁別的に試料中のL.gasseriを検出することを言う。
【0016】
本発明の方法において、1組以上のプライマー対を用いて、試料中に含まれ得る生物体由来のRNAを鋳型としてRT−PCRを行い、増幅された配列の配列を決定する。1組のプライマー対では十分な特異性が得られない場合は、同じ遺伝子の他の領域または別の遺伝子を増幅するプライマー対を更に組み合わせて2組以上のプライマー対(各組の各プライマー対は、それぞれフォワードプライマーおよびリバースプライマーからなる)を含むプライマーセットとすることができる。本発明においては十分な特異性を得るために2組以上のプライマー対を組み合わせてプライマーセットとしてPCRを行うのが好ましく、さらに好ましくは3組以上、特に好ましくは4組以上のプライマー対を組み合わせてプライマーセットとしてPCRを行なう。プライマーセットを構成する各プライマー対は、このプライマー対によって増幅される配列が検出標的の菌種(例えばLactobacillus属の特定の種)または特定の菌株(たとえば、特定のLactobacillus属の特定の種の特定の株)と他の菌種または菌株の少なくとも1つと異なるように選ばれる。各プライマー対は公知のデータベースから対象となる菌種または菌株の遺伝子配列を入手し、他の菌種または菌株の同じ遺伝子の配列を入手し、これらをアラインメントすることによって目的の菌種または菌株に特徴的な配列、好ましくは可能な限り特異性の高い配列を同定することによって設計することができる。プライマー設計のために、与えられた配列に対してプライマー配列の候補を出力するコンピュータープログラムも利用することができる。各プライマー対が増幅する領域の長さは、一般に約50bp〜約450bpが好ましく、約80bp〜約450bpがより好ましく、約100bp〜約450bpが好ましく、約100bp〜約350bpがより好ましく、特に約100〜約250bp程度が好ましい。増幅する領域の長さを450bpよりも長く設定した場合には、飲料中にその長さのRNAが残存していない恐れがあり、所望の量に増幅できない可能性がある。
【0017】
各プライマーセットに含まれるプライマー対の配列および数を上述のように選択することによって、特定の種(例えばLactobacillus属の特定の種)、または特定の種の特定の株(例えばLactobacillus属の特定の種の特定の株)を試料中で同定することができる。
PCRによって増幅された配列を、同じプライマーセットによって増幅される検出標的の菌種または菌株(たとえばL.gasseri CP2305株)のそれぞれの遺伝子領域の配列と比較する。2以上のプライマー対によって試料から増幅された2以上の遺伝子領域の配列が同じプライマー対によって増幅される検出標的菌種または菌株の遺伝子領域の配列とそれぞれと一致することは、目的の標的菌種または菌株を同定することの指標となる。2以上のプライマー対を含むセットを用いて増幅された2以上の遺伝子領域の(2以上の)配列の少なくとも1つが同じプライマー対によって増幅される検出標的菌種または菌株の遺伝子領域の配列と一致しない場合は、その検出標的菌種または菌株が試料中に存在したとは認められない。
【0018】
具体的には、下記のプライマーセットのいずれかをPCRに使用してL.gasseri種であるか、及びその中の菌株を特異的に検出することができる。
【0019】
<プライマーセット(A)>
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(1):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーCTTATCGTCAGCCATAAGTTCAACTTC(配列番号2);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(4):
フォワードプライマーTGCTGCCTTAGAGTTTGAACCTG(配列番号6)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(6):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーGTACCACATCCATATGAAGCAATC(配列番号10)
【0020】
<プライマーセット(B)>
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(1):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーCTTATCGTCAGCCATAAGTTCAACTTC(配列番号2);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(4):
フォワードプライマーTGCTGCCTTAGAGTTTGAACCTG(配列番号6)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(7):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーCAAGTCTTTCTTGTACCACATCCA(配列番号11)
【0021】
<プライマーセット(C)>
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(1):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーCTTATCGTCAGCCATAAGTTCAACTTC(配列番号2);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(5):
フォワードプライマーCCTGAAACTTCTCAAGCATTAGG(配列番号8)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(6):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーGTACCACATCCATATGAAGCAATC(配列番号10)
【0022】
<プライマーセット(D)>
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(1):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーCTTATCGTCAGCCATAAGTTCAACTTC(配列番号2);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(5):
フォワードプライマーCCTGAAACTTCTCAAGCATTAGG(配列番号8)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(7):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーCAAGTCTTTCTTGTACCACATCCA(配列番号11)
【0023】
<プライマーセット(E)>
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(2):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーTGAAGTAAACGTCCAACACGTTCAC(配列番号3);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(4):
フォワードプライマーTGCTGCCTTAGAGTTTGAACCTG(配列番号6)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(6):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーGTACCACATCCATATGAAGCAATC(配列番号10)
【0024】
<プライマーセット(F)>
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(2):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーTGAAGTAAACGTCCAACACGTTCAC(配列番号3);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(4):
フォワードプライマーTGCTGCCTTAGAGTTTGAACCTG(配列番号6)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(7):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーCAAGTCTTTCTTGTACCACATCCA(配列番号11)
【0025】
<プライマーセット(G)>
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(2):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーTGAAGTAAACGTCCAACACGTTCAC(配列番号3);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(5):
フォワードプライマーCCTGAAACTTCTCAAGCATTAGG(配列番号8)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(6):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーGTACCACATCCATATGAAGCAATC(配列番号10)
【0026】
<プライマーセット(H)>
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(2):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーTGAAGTAAACGTCCAACACGTTCAC(配列番号3);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(3):
フォワードプライマーCGGGGTYGTTTTATCGGTTCG(配列番号4)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(5):
フォワードプライマーCCTGAAACTTCTCAAGCATTAGG(配列番号8)および
リバースプライマーTTCTCCGCGTTTTCGTTGACA(配列番号7);
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(7):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーCAAGTCTTTCTTGTACCACATCCA(配列番号11)
【0027】
<プライマーセット(Z)>
fusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(8):
フォワードプライマーGGCTTTAAAGCGTCGTAACGAATT(配列番号1)および
リバースプライマーCACCATCAAGCATCATTTGAACAC(配列番号12);
並びに
lepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(9):
フォワードプライマーGCGCTGAAAATCCAACTG(配列番号9)および
リバースプライマーAAGTTTCAGGTTCAAACTCTAAGGC(配列番号5)
【0028】
<(i)プライマーセット(A)〜(H)>
プライマー対(1)によって増幅されるL.gasseri CP2305株のfusA遺伝子領域の配列は配列番号13に示され、プライマー対(2)によって増幅されるL.gasseri CP2305株のfusA遺伝子領域の配列は配列番号23に示され、プライマー対(3)によって増幅されるL.gasseri CP2305株のlepA遺伝子領域の配列は配列番号33に示され、プライマー対(4)によって増幅されるL.gasseri CP2305株のlepA遺伝子領域の配列は配列番号43に示され、プライマー対(5)によって増幅されるL.gasseri CP2305株のlepA遺伝子領域の配列は配列番号53に示され、プライマー対(6)によって増幅されるL.gasseri CP2305株のlepA遺伝子領域の配列は配列番号63に示され、プライマー対(7)によって増幅されるL.gasseri CP2305株のlepA遺伝子領域の配列は配列番号73に示される(いずれもプライマー配列を含まない)。
また、後述する方法でプライマー対(1)又は(2)によって増幅されるfusA遺伝子配列、及び、プライマー対(3)と、プライマー対(4)及び(5)のいずれか1つと、プライマー対(6)及び(7)のいずれか1つとによって増幅されるlepA遺伝子配列上の3か所の遺伝子配列部分の組み合わせでBLAST解析することが好ましい。fusA遺伝子配列に関しては、配列同一性が高かった上位8個までの菌種はL.gasseriであり、その配列同一性は98−100%である。またそれ以外にL.acidophilus、L.johnsoniiなどが上位に確認できるが、その配列同一性は90−95%程度である。lepA遺伝子配列に関しては、配列同一性が高かった上位10個までの菌種はL.gasseriであり、その配列同一性は93−100%である。またそれ以外にL.johnsonii、L.amylovorusなどが上位に確認できたが、その配列同一性は高くても90%程度である。
以上から、プライマー対(1)又は(2)によって増幅されるfusA遺伝子配列、及び、プライマー対(3)と、プライマー対(4)及び(5)のいずれか1つと、プライマー対(6)及び(7)のいずれか1つとによって増幅されるlepA遺伝子配列の組み合わせでBLAST解析した場合において、GeneBankに登録されたL.gasseriの9種類のいずれの菌株の配列とも上記いずれかのプライマーセットで得られたPCR産物の配列は、95〜100%の配列同一性を有するが、L.gasseri種以外のラクトバチルス属微生物の配列とは90%程度の配列同一性しか有さない。
【0029】
各プライマー対によって増幅される領域を
図1に模式化した。なお、
図1は、簡単な模式化であり、実際のプライマーの長さと厳密に対応するものではない。L.gasseri CP2305株を特異的に検出するためには、プライマー対(1)と(3)と(4)と(6)とからなるプライマーセットを使用することが特に好ましい。
【0030】
たとえば、試料に対してプライマーセット(A)を用いてRT−PCRを行い、プライマー対(1)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)が配列番号13の配列と同一であり、かつ、プライマー対(3)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)が配列番号33の配列と同一であり、プライマー対(4)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)が配列番号43と同一であり、プライマー対(6)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)が配列番号63と同一である場合に、前記試料中の乳酸菌がL.gasseri CP2305株であると決定することができる。また、例えばプライマー対(1)によって増幅される領域(プライマー配列を除く)の配列の下流にプライマー対(3)によって増幅される領域の配列(プライマー配列を除く)を結合し、さらにその下流にプライマー対(4)によって増幅される領域の配列(プライマー配列を除く)とプライマー対(6)によって増幅される領域の配列(プライマー配列を除く)とを結合させた融合配列を用いて同一性を決定してもよい。
【0031】
プライマーセット(B)〜(H)を用いた場合にも、上記プライマーセット(A)を用いる場合と同様に操作することで、前記試料中の乳酸菌がL.gasseri CP2305株であると決定することができる。
【0032】
ここで、非特許文献1に記載の既存のプライマー配列によって解析された既存のデータベース登録配列は、当該プライマー配列分から20〜100塩基程度が削除されてデータベースに登録されているため、必要に応じて、L.gasseri CP2305菌株におけるPCR産物の配列データの長さを調整し、比較することが必要となる。例えば、GeneBankに登録の下記表2のAccession No.配列をダウンロードし、L.gasseriの各菌株において上記プライマーセットで増幅されうる領域の遺伝子配列の長さを合わせて、
図7に示すように、本発明に使用されるプライマー対(1)〜(5)で増幅される領域の遺伝子配列の長さを調整し得る。
【0033】
また、例えば、GeneBankに登録の下記表2のAccession No.配列をダウンロードし、L.gasseriの各菌株において上記プライマーセット(A)〜(H)のいずれかで増幅されうる領域の遺伝子配列の長さを合わせて、長さを合わせたそれぞれの菌株ごとのfusA遺伝子配列の後ろにlepA遺伝子配列を繋げ、それぞれの菌株ごとに一つの遺伝子配列に加工して比較用配列データを作成し、MEGA等の配列解析ソフトを使用して系統樹解析を行い、系統樹を作成することが可能である(
図2参照)。L.gasseriの各種菌株については、fusA遺伝子配列およびlepA遺伝子配列は、以下のアクセッション番号から取得できる。本系統樹解析により、L.gasseriの各種菌株のいずれかであるか同定することが可能であるが示される。
【0035】
L.gasseriの各菌株において上記プライマーセットで増幅されうる領域の遺伝子配列は、以下の表3のように対応する。なお、これらの配列は、上述のように、既存のプライマー配列によって解析されたCP2305株以外のL.gasseriの各菌株の既存のデータベース登録配列は、当該プライマー配列分から20〜100塩基程度が削除されている。
【0037】
<(ii)プライマーセット(Z)>
試料に対して、プライマーセット(Z)を用いてRT−PCRを行ない、含まれる菌体がL.gasseri種であるか、及びその中の菌株がL.gasseri CP2305であるかを特異的に検出することができる。
【0038】
より具体的に説明すると、試料に対してRT−PCRを行い、プライマーセット(Z)を用いてRT−PCRを行い、プライマー対(8)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)が配列番号83の配列と同一であり、かつ、プライマー対(9)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)が配列番号93の配列と同一である場合に、前記試料中の乳酸菌がL.gasseri CP2305株であると決定することができる。
プライマー対(8)を用いるPCRとプライマー対(9)を用いるPCRが別個の容器内で行われることが好ましい。
【0039】
増幅された領域の配列についてのBLAST解析の結果、プライマー対(8)によって得られたfusA遺伝子配列と相同性が高かった上位9個までの菌種はL.gasseriであり、その相同性は98−99%である。またそれ以外にL.johnsonii、L.helveticus、L.acidophilusなどが確認できるが、その相同性は92−94%程度である。以上のことから解析配列はL.gasseriのfusA遺伝子であるとの判別が可能である。
また、増幅された領域の配列についてのBLAST解析の結果、プライマー対(9)によって得られたlepA遺伝子配列と相同性が高かった上位10個までの菌種はL.gasseriであり、その相同性は95−99%であった。また、11位以降の菌種はL.johnsonii、L.helveticus、L.amylovorusなどのその他の菌種であり、最も相同性が高くても91%程度である。以上のことから解析配列によりL.gasseriのlepA遺伝子での判別が可能である。
【0040】
本発明の別の態様において、各プライマーセット中の1組のプライマー対によって増幅された領域の配列の下流に同じプライマーセット中の他の組のプライマー対によって増幅された領域の配列を結合して融合遺伝子配列をin silicoで作成し、この配列を検出標的菌種または菌株について同じプライマー対を用いて同様に作成した融合遺伝子配列と比較することができる。融合遺伝子配列を作成する場合、プライマー配列は共通しているので、プライマー配列を除くことが好ましい。
たとえば、L.gasseri CP2305株を検出標的菌株として上記プライマー対(8)を使用して増幅された配列において他の配列と比較するために長さを調整した配列番号113(GATGACGGCATTATGGACAAGTACCTTGGCGGTGAAGAAATTTCTAATGATGAATTAAAAGCAGCTATCCGTAAAGCTACTTTGAACTTGGAAATCTTCCCAGTTTATGCTGGTTCAGCATTTAAGAACAAGG)で示されるfusA配列の下流に上記プライマー対(9)を使用して増幅された配列において他の配列と比較するために長さを調整した配列番号114(AGAAACCACTTCCTGGTTACCGCCAAATTCCACCAATGGTTTACTCTGGTATGTATCCAGTTGATAATCAAAAATATGATGATTTAAAAGAAACACTGCAAAAATTGCAGTTAAATGATGCT)で示されるlepA配列(いずれもプライマー配列を含まない)をin silicoで結合して作成した融合遺伝子配列は以下の通りである。
L.gasseri_CP2305(配列番号103)
GATGACGGCATTATGGACAAGTACCTTGGCGGTGAAGAAATTTCTAATGATGAATTAAAAGCAGCTATCCGTAAAGCTACTTTGAACTTGGAAATCTTCCCAGTTTATGCTGGTTCAGCATTTAAGAACAAGGAGAAACCACTTCCTGGTTACCGCCAAATTCCACCAATGGTTTACTCTGGTATGTATCCAGTTGATAATCAAAAATATGATGATTTAAAAGAAACACTGCAAAAATTGCAGTTAAATGATGCT
【0041】
また、GeneBankに登録のL.gasseriの各菌株9種類を検出標的菌株として上記プライマーセット(Z)を使用して増幅された、上記配列番号113に対応するfusA配列の下流に、上記配列番号114に対応するlepA配列をin silicoで結合して作成した融合遺伝子配列は以下のとおりである。
L.gasseri_strain_LMG_11413(配列番号104)
GATGACGGCATTATGGACAAGTACCTTGGCGGTGAAGAAATTTCTAATGATGAATTAAAAGCAGCTATCCGTAAAGCTACTTTGAACTTGGAATTCTTCCCAGTTTATGCTGGTTCAGCATTTAAGAACAAGGAGAAACCACTTCCTGGTTACCGCCAAATTCCACCAATGGTTTACTCTGGTATGTATCCAGTTGATAATCAAAAATATGATGATTTAAAAGAAGCACTGCAAAAATTGCAGTTAAATGATGCT
L.gasseri_strain_ATCC_19992(配列番号105)
GATGACGGCATTATGGACAAGTACCTTGGCGGTGAAGAAATTTCTAATGATGAATTAAAAGCAGCTATCCGTAAAGCTACTTTGAACTTGGAATTCTTCCCAGTTTATGCTGGTTCAGCATTTAAGAACAAGGAGAAACCACTTCCCGGTTACCGCCAAATTCCACCAATGGTTTACTCTGGTATGTATCCAGTTGATAATCAAAAATATGATGATTTAAAAGAAGCACTGCAAAAATTGCAGTTAAATGATGCT
L.gasseri_strain_ATCC_4963(配列番号106)
GATGACGGCATTATGGACAAGTACCTTGGCGGTGAAGAAATTTCTAATGATGAATTAAAAGCAGCTATCCGTAAAGCTACTTTGAACTTGGAATTCTTCCCAGTTTATGCTGGTTCAGCATTTAAGAACAAGGAGAAACCACTTCCCGGTTACCGCCAAATTCCACCAATGGTTTACTCTGGTATGTATCCAGTTGATAATCAAAAATATGATGATTTAAAAGAAGCACTGCAAAAATTGCAGTTAAATGATGCT
L.gasseri_strain_ATCC_9857(配列番号107)
GATGACGGCATTATGGACAAGTACCTTGGCGGTGAAGAAATTTCTAATGATGAATTAAAAGCAGCTATCCGTAAAGCTACTTTGAACTTGGAATTCTTCCCAGTTTATGCTGGTTCAGCATTTAAGAACAAGGAGAAACCACTTCCCGGTTATCGCCAAATTCCACCAATGGTTTACTCTGGTATGTATCCAGTTGATAATCAAAAATATGATGATTTAAAAGAAGCACTGCAAAAATTGCAGTTAAATGATGCT
【0042】
L.gasseri_strain_ATCC_4962(配列番号108)
GATGACGGCATTATGGACAAGTACCTTGGCGGTGAAGAAATTTCTAATGATGAATTAAAAGCAGCTATCCGTAAAGCTACTTTGAACTTGGAATTCTTCCCAGTTTATGCTGGTTCAGTATTTAAGAACAAGGAGAAACCACTTCCCGGTTATCGCCAAATTCCACCAATGGTTTACTCTGGTATGTATCCAGTTGATAATCAAAAATATGATGATTTAAAAGAAGCACTGCAAAAATTGCAGTTAAATGATGCT
L.gasseri_strain_ATCC_29601(配列番号109)
GATGACGGCATTATGGACAAGTACCTTGGTGGTGAAGAAATCTCTAATGATGAATTAAAAGCAGCTATCCGTAAAGCTACTTTGAACTTGGAATTCTTCCCAGTTTATGCTGGTTCAGCATTTAAGAACAAGGAGAAACCACTTCCCGGTTATCGCCAAATTCCACCAATGGTTTACTCTGGTATGTATCCAGTTGATAATCAAAAATATGATGATTTAAAAGAAGCACTGCAAAAATTGCAGTTAAATGATGCT
L.gasseri_strain_LMG_18176(配列番号110)
GATGACGGCATTATGGACAAGTACCTTGGTGGTGAAGAAATTTCTAATGATGAATTAAAAGCAGCTATCCGTAAAGCTACTTTGAACTTGGAATTCTTCCCAGTTTATGCTGGTTCAGCATTTAAGAACAAGGAAAAACCACTTCCTGGTTATCGTCAAATTCCACCAATGGTTTATTCCGGTATGTATCCAGTTGATAATCAAAAATATGATGATTTAAAAGAAGCACTGCAAAAATTACAGTTAAATGATGCG
L.gasseri_strain_LMG_10771(配列番号111)
GATGACGGTATTATGGACAAGTACCTTGGTGGTGAAGAAATTTCTAATGATGAATTAAAAGCAGCTATTCGTAAAGCTACTTTGAATTTGGAATTCTTCCCAGTTTATGCTGGTTCAGCATTTAAGAACAAGGAAAAACCACTTCCTGGTTATCGTCAAATTCCACCAATGGTTTATTCCGGTATGTATCCAGTTGATAATCAAAAATATGATGATTTAAAAGAAGCACTGCAAAAATTACAGTTAAATGATGCG
L.gasseri_ATCC_33323(配列番号112)
GATGACGGTATTATGGACAAGTACCTTGGTGGTGAAGAAATTTCTAATGATGAATTAAAAGCAGCTATTCGTAAAGCTACTTTGAATTTGGAATTCTTCCCAGTTTATGCTGGTTCAGCATTTAAGAACAAGGAAAAACCACTTCCTGGTTATCGTCAAATTCCACCAATGGTTTATTCCGGTATGTATCCAGTTGATAATCAAAAATATGATGATTTAAAAGAAGCACTGCAAAAATTACAGTTAAATGATGCG
【0043】
得られた配列番号103〜112の遺伝子配列に関して、例えばNeighbor Joining MethodでMEGA6等配列解析ソフトを使用して系統樹解析を行い、作成した系統樹を
図3に示す。
図3に示す系統樹からも分かるように、CP2305株は上記GeneBank登録のすべての菌株とは配列が異なり、CP2305株であることを明確に確認できる。当該菌株であることが確認できる。
【0044】
上記プライマー対(8)及び(9)からなるプライマーセット(Z)によると、試料に含まれる菌体がL.gasseri CP2305株であるか否か明確に検出することができるため、当該プライマーセットからなるキットも本発明に含まれる。プライマー対(8)及び(9)で増幅される領域は100〜200bpと大変小さく、試料中に多く残存している可能性が高いRNA部分をターゲットとしているため、高い確率でRT−PCRを成功させることができる。また、L.gasseriの菌株間の比較において、CP2305株に特異的な領域をターゲットとしているため、明確にL.gasseri CP2305株が試料に含まれているか否かを判別することができる。
【0045】
本発明によって特異的に検出することができるL.gasseri CP2305株は2007年9月11日に特許生物寄託センター(IPOD)(旧住所:〒305−8566 茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6)(IPODはNITE−IPODとして2013年4月1日に下記に移転:〒292−0818千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 120号室)に国際寄託され、受託番号FERM BP−11331が付与されている。
【0046】
本発明の方法において、RT−PCRは当業者によく知られた方法に従って行うことができる。すなわち、試料から常法にしたがってRNAを抽出し、常法に従ってオリゴdTプライマーなどを用いてRNAを鋳型としてcDNAを合成し、上記プライマーセットのいずれかを用いて常法にしたがってPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を行うことができる。PCRの条件はプライマーのTm値、増幅される領域の長さ、配列等から導かれる標準的な条件を利用することができる。プライマーセットに含まれる2組のプライマー対(各プライマー対はフォワードプライマーおよびリバースプライマーからなる)によるPCRは同一の容器中で行うこともできるが、増幅産物を個別にシーケンシングする必要があるのでプライマー対ごとにそれぞれ別個の容器でPCRを行うのが好ましい。得られた増幅産物を電気泳動にかけ、予想される長さの断片が増幅されていることを確認し、そのDNA断片をゲルから常法に従って抽出し、当分野でよく知られた方法によってシーケンシングする。
RNAの抽出、cDNA合成、PCR、ゲルからのDNA断片の抽出、シーケンシング等を行うための種々の方法、試薬、キットおよびこれらの操作に必要な装置等も当業者にはよく知られており、商業的に容易に入手することもできる。
【0047】
得られた増幅産物の配列とL.gasseri種またはL.gasseri CP2305株由来の配列(たとえばfusAおよびlepA配列)との比較は目視で行うこともできるが配列比較のための各種アルゴリズムやプログラムは商業的に入手可能であり、BLASTNなどのツールもNCBI、EMBLおよびDDBJセンターから提供されており広く公衆に利用可能である。このようなアルゴリズムやプログラムを利用する場合、上述の融合遺伝子配列を比較すれば1回の解析で配列同一性を決定することができるので有利であろう。
またL.gasseri種またはL.gasseri CP2305株が他の乳酸菌種またはL.gasseri種の他の株と異なることをより理解しやすくするため、作成した融合遺伝子配列を用いて系統樹を作成することができる。系統樹作成のためのアルゴリズムや具体的なプログラムは当業者にはよく知られており、商業的あるいは公共的に利用可能である。たとえば、MEGAなどのフリーソフトウエアや、NCBI、EMBLおよびDDBJセンターから提供されているアラインメントおよび系統樹作成用のClustalWなどが利用可能である。
【0048】
試料中の乳酸菌が殺菌処理等により本質的に死滅していると考えられる場合、特に殺菌処理および/または長期保存(例えば、4℃〜35℃にて、1ヶ月以上または3ヶ月以上、好ましくは3ヶ月〜6ヶ月、特に好ましくは3ヶ月〜12ヶ月、またはこれらと同等な条件下における保存)により試料中の乳酸菌が死滅し、かつ乳酸菌由来の核酸が相当程度損傷(分解等)していると考えられる場合においても、本発明によればL.gasseri種またはL.gasseri CP2305株を特異的に検出することができる。本発明は試料が飲料や食品の場合、一般に製造から消費期限までの期間、製造から賞味期限までの期間、またはこれらを超える期間保存されていた場合でもL.gasseri種またはL.gasseri CP2305株を特異的に検出することができる。
【0049】
本発明によってL.gasseri CP2305株と区別され得る他の乳酸菌およびL.gasseri種の他の株には、たとえば以下の乳酸菌が含まれるが、これらに限定されない:
L.acidophilus(ATCC314、ATCC4356、ATCC9224、ATCC53544、ATCC4357);
L.amylovorus(ATCC33620、ATCC33621、LMG18188、ATCC33622、ATCC53671、LMG18192、LMG18179、LMG18190、ATCC33198、LMG18180、LMG18186);
L.crispatus(ATCC53545、ATCC55221、JCM5810、LMG11415、LMG17753、ATCC33820、LMG11440、LMG18187、LMG12003、LMG12005、LMG18189);
L.gallinarum(LMG14751、LMG18181、ATCC53673、LMG14752、LMG14753、LMG14754、LMG14755、ATCC33199);
L.gasseri(ATCC4963、ATCC19992、LMG11413、ATCC29601、ATCC9857、ATCC4962、ATCC33323、LMG10771、LMG18176);
L.johnsonii(LMG18175、LMG18184、LMG18193、NCC533、ATCC332、ATCC33200、LMG18204、LMG18195)。
【0050】
以下に公知のプライマー対を用いて種々の試料中のL.gasseri CP2305株の検出を試みたが失敗に終わった結果を参考性1及び2として、簡単に示す。
(参考例1)
(i)L.gasseri CP2305株の生菌体、(ii)L.gasseri CP2305株を加熱殺菌し、乾燥させた菌体(死菌)、及び、(iii)L.gasseri CP2305株を飲料製品中に混合し加熱殺菌したのちに集菌した菌体(死菌)の3種類のサンプルから、それぞれ公知の方法でDNAを抽出した。得られたDNAをテンプレートとして、上記非特許文献1(Applied and Environmental Microbiology,p.7220−7228 December 2013 Volume 79 Number 23)に記載の試験方法に従い、6つのハウスキーピング遺伝子(fusA、gyrA、gyrB、lepA、pyrG、recA)の一部(約500bp〜1000bp)を非特許文献1に記載のプライマー対を用いてPCRにより増幅した。結果としては、上記(i)及び(ii)のサンプルからは目的の増幅産物が確認されたが、(iii)のサンプルからは配列解析可能な増幅産物が確認されず、菌株の解析を行うことができなかった。
【0051】
(参考例2)
(ii)L.gasseri CP2305株を加熱殺菌し、乾燥させた菌体(死菌)、及び、(iii)L.gasseri CP2305株を飲料製品中に混合し加熱殺菌したのちに集菌した菌体(死菌)の2種類のサンプルから公知の方法で抽出した、RNAをテンプレートにして、参考例1で使用したのと同じプライマー対を用いて、RT−PCRにより6つのハウスキーピング遺伝子(fusA、gyrA、gyrB、lepA、pyrG、recA)の一部(約500bp〜1000bp)の増幅を行った。結果としては、上記(ii)のサンプルからは目的の増幅産物を得ることができたが、(iii)のサンプルからは、目的の増幅産物を得ることができないか、又は非特異的な増幅産物が多く生成され、塩基配列解析に十分な純度の増幅産物を得ることができなかった。
【0052】
参考例1及び2で使用したプライマーは以下のとおりであった。
【0053】
したがって、L.gasseri CP2305株に対する特異的検出能力を試験するまでもなく、非特許文献1(Applied and Environmental Microbiology,p.7220−7228 December 2013 Volume 79 Number 23)に記載された方法およびプライマーは加熱殺菌された乳酸菌(死菌)入り飲料ではそもそもPCRによる増幅産物を得ることすらできず、本発明の目的には利用できないことが明らかになった。
本発明をより理解しやすくすることを目的として本発明の具体的態様を記載する。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらより何ら限定されるものではなく、また、本発明の範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えてもよい。
以下の実施例及び比較例では、以下の実験手順によってシークエンスサンプルを得た。
【0055】
<実験手順>
1.集菌とサンプルの洗浄
試料としてのサンプル飲料が入ったペットボトルを開栓前に上下に数回反転させてよく混合し、沈殿物がペットボトルの下部に残っていないことを確認した。次に、ペットボトルを開栓し、サンプル飲料液10mLを15mL容滅菌ディスポプラスティックチューブに採取し、6000rpm(4830×g)にて10分間遠心分離した。遠心分離したサンプル飲料の上澄みを廃棄したのち、10mLの滅菌水をチューブに入れて再懸濁させた。再懸濁液を6000rpm(4830×g)にて10分間遠心分離し、上澄みを廃棄した。沈殿物における下側には必要な菌体、上側には乳タンパク等の夾雑物があるため、滅菌水5mLを添加して菌のペレットを崩さないように上部の乳タンパク等の夾雑物のみを軽く懸濁して上澄みを廃棄し、この洗浄作業を2回繰り返した。菌の沈殿を滅菌水1mLに再懸濁し、滅菌済の1.5mLチューブに採取した。そして、菌の沈殿物の再懸濁液を14,000rpm(19,000×g)にて2分間遠心分離し、滅菌水1mLを添加してペレット上部を洗浄してRNA抽出用のサンプルとした。
【0056】
2.RNA抽出
上記1で得られたRNA抽出用のサンプルを350μlのLysis Buffer(LBP)に懸濁しよく溶解した。そして、キットのDNA除去用カラムを用いてDNAを除去した。Nucleospin RNA plusキットのマニュアルに従い、RNA抽出を行い、RNA溶液を得た。
【0057】
3.RT−PCRによる目的遺伝子領域の増幅
上記2で調製したRNA溶液から、PrimeScript
TM One Step RT−PCR Kit Ver.2を使用して目的遺伝子領域を増幅した。
各実施例で使用する各プライマーセットに含まれるそれぞれのプライマーの10pmol/μlの溶液を調整した。各プライマーは必要な配列をユーロフィンジェノミクス社のPCReadyプライマーにて合成依頼(50pmol/l)したものを使用し、DNase及びRNaseフリーの滅菌水にて、5倍に希釈した。
【0058】
PrimeScript
TM One Step RT−PCR Kit Ver.2を用いて、下記反応組成通りに溶液を調製し、PCR用の200μl容チューブに下記組成を入れてよく混合した。当該キットのプロトコルではPCR反応液組成は総量50μlとするように指定されていたが、反応液中のTemplate濃度を上げるために総量25μlとし、Template RNAの量を4μlとした。プライマー及びTemplate RNA(上記2にて調製したRNA溶液)以外はキットに付属したものを使用した。
【0059】
PrimeScript 1 step Enzyme Mix 1μl
2× 1 step Buffer 12.5μl
Forwaord Primer(10 μM) 1μl
Reverse Primer(10 μM) 1μl
Template RNA (2にて調整のRNA溶液) 4μl
RNase Free dH2O Balance
総量25μl
上記組成で増幅産物が確認されない場合は、Template RNAの量を8μlに増量し、再度RT−PCRを実施した。
【0060】
サーマルサイクラーC1000Touch Thermal Cyclerにセットして、以下のように動かした。
STEP1:50℃、30分、
STEP2:95℃、2分、
STEP3:95℃、30秒、
STEP4:55℃、30秒、
STEP5:72℃、30秒
の条件でSTEP3−5を計40サイクルとして、RT−PCR反応を実施した。得られたサンプルについて、定法に従いアガロースゲルにて電気泳動を実施し、目的のバンドを確認した。
【0061】
4−1.目的バンドのみがきれいに増幅されている場合
(1)反応液5μlを新品の200μl容PCRチューブ採取し、ExoSAP−IT
TM PCR Product Cleanup Reagentを2μl添加してマイクロピペッターでよく混合した。
(2)サーマルサイクラーで50℃15分→85℃15分のインキュベーションを行い、PCR産物を精製した。
【0062】
4−2.目的バンド以外に100bp前後のPrimer dimerやその他の増幅産物が確認される場合
電気泳動後にNucleospin Gel and PCR Clean upを用いて精製した。
(1)定法に従いアガロースゲルにて電気泳動を実施し、目的のバンドを確認後、アガロースゲルから目的バンドの部分を切り出し、滅菌済み1.5mlチューブに採取した。
(2)NTI溶液200μlを添加し、50℃で5−10分程度インキュベートする。インキュベート中2−3分おきにVortexにてよく混合しゲルを完全に溶解させた。
(3)Necleospin Gel and PCR Clean−up Columnを付属の2mlのコレクションチューブにセットし(2)で溶解したサンプル液全量をカラムの上に供し、11,000×gで30秒間遠心を行った。ろ液を廃棄し、再度コレクションチューブにセットした。
(4)700mlのNT3溶液をカラムに供し11,000×gで30秒間遠心を行った。ろ液を廃棄し、再度コレクションチューブにセットする。この工程をもう1回繰り返した。
(5)11,000×gで1分間遠心を行い、カラムに残ったNT#溶液を除去した。
(6)新しい滅菌済みの1.5mlチューブにカラムをセットし、NE溶液を15μl添加し、室温で1分間静置した。
(7)11,000×gで1分間遠心を行い、カラムを廃棄し、シーケンス用の精製PCR産物とした。
【0063】
5.シーケンスサンプルの調製
Bigdye Terminator v1.1 Cycle Sequensing Kit、精製したPCR産物、並びに、各菌株用のプライマーセットのプライマー対のフォワード及びリバースプライマー両方を用いてシーケンス反応を実施した。
(1)上記3にてPCRに使用したプライマー対のフォワード及びリバースプライマー10pmol/μl溶液を、8μlを滅菌済み1.5mlチューブに採取し、92μlの滅菌水を用いて希釈し、0.8pmol/μlの溶液とした。
(2)Bigdye Terminator v1.1 Cycle Sequensing Kit付属の溶液と4−1又は4−2で得られたPCR産物、プライマー溶液、滅菌水を用いて、下記の通りの組成のシーケンス反応用の液を200μl容PCRチューブに調製した。一つのPCR産物あたりフォワード解析用とリバース解析用の2サンプルを用意した。
【0064】
フォワード解析サンプル
精製PCR産物 2μl
Negative Control Water(滅菌水) 8μl
5×Sequencing Buffer 2μl
Sequencing RR−100 4μl
Forwardプライマー(0.8pmol/μl) 4μl
20μl
【0065】
リバース解析サンプル
精製PCR産物 2μl
Negative Control Water(滅菌水) 8μl
5×Sequencing Buffer 2μl
Sequencing RR−100 4μl
Reverseプライマー(0.8pmol/μl) 4μl
20μl
(3)サーマルサイクラーにセットして、
96℃、10秒、
50℃、5秒、
60℃、4分の条件で計25サイクル反応を実施した。
【0066】
6.シーケンスサンプルの精製
(1)サンプル数の分の新しい滅菌済みの1.5mLチューブ、及びBigdye XTerminator Purification Kitを用意した。
(2)SAM溶液90μlとXterminator溶液20μlをチューブに採取し、上記シーケンス反応産物20μlを添加した。
(3)チューブシェーカーにセットし、攪拌スピードを最大値にセットし30分間攪拌した。
(4)750×gにて2分間遠心を行い、上澄み20μlをサンプルとして、HiDi Formamidを20μlと混合しDNAシーケンサに供し、配列の解析を行った。
【0067】
7.配列の解析と配列同一性及び菌種判別
(1)得られたそれぞれの配列フォワード、リバースの配列をMEGA(フリーソフトウエア)の配列解析ソフトを用いて、コンセンサスシーケンスを得た。
(2)得られた配列をNCBIホームページのBLASTN(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PROGRAM=blastn&PAGE_TYPE=BlastSearch&LINK_LOC=blasthome)にて既存のDNAデータと配列同一性の確認を行った。
(3)データベースにNucleotide Collection(nr/nt)を選択し、検索対象の制限を設定せずに配列同一性を確認した。
【0068】
8.配列の解析と配列同一性及び系統樹解析による菌株判別
(1)GeneBankに登録の上記表2に示されるAccession No.配列をダウンロードし、解析した遺伝子とそれぞれの遺伝子の配列比較し、今回解析した遺伝子の配列と長さを合わせるために前後の余分な部分を削除した。
(2)長さをそろえた遺伝子の配列を用いて、それぞれの菌株のfusA遺伝子配列の後ろにlepA遺伝子配列を繋げ、それぞれの菌株ごとに一つの遺伝子配列に加工した。
(3)加工して作成した遺伝子配列に関して、MEGA等の配列解析ソフトを使用して系統樹解析を行い、系統樹を作成した。系統樹解析の結果CP2305株は上記GeneBank登録のすべての菌株とは配列が異なることが判明した。
図2及び
図3の系統樹は上述したとおりである。
【0069】
[実施例1]
試料であるサンプル飲料として、25℃で6カ月間保存したペットボトル入りカラダカルピス(登録商標)を使用した。この試料に対し、プライマー対(1)〜(7)のそれぞれについて、別個の容器においてPCRを行い、得られた7種類のPCR産物に対して、定法に従いアガロースゲルにて電気泳動を実施した。その結果を
図4及び
図5に示す。
図4中レーン1〜3が、それぞれプライマー対(1)〜(3)によるPCR産物を示す。また、
図5中レーン8、6、4及び2が、それぞれサンプル飲料のRNAを利用してプライマー対(4)〜(7)を用いて得られたPCR産物を示す。なお、
図5中レーン7、5、3及び1は、培養したCP2305菌体のRNAを利用してプライマー対(4)〜(7)を用いて得られたPCR産物を示す(ポジティブコントロール)。
【0070】
[実施例2]
実施例1で得られた各PCR産物を用いてシークエンスサンプルを作製し、塩基配列のシークエンス解析及びBLAST解析を行った。
<fusA遺伝子配列について>
実施例1のサンプルのプライマー対(1)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)と配列番号13の配列とが同一であり、前記プライマー対(2)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)と配列番号23の配列とが同一であることを確認した。
<lepA遺伝子配列について>
実施例1のサンプルの前記プライマー対(3)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)と配列番号33の配列とが同一であり、前記プライマー対(4)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)と配列番号34の配列とが同一であることを確認した。また、実施例1のサンプルの前記プライマー対(5)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)と配列番号53の配列とが同一であり、前記プライマー対(6)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)と配列番号64の配列とが同一であり、実施例1のサンプルの前記プライマー対(7)によって増幅された領域の配列(プライマー配列を除く)と配列番号73の配列とが同一であることを確認した。
実施例1のサンプルの含まれる当該の配列を持つ菌種はL.gasseriである可能性が極めて高いことが明らかになった。
【0071】
[実施例3]
<系統樹の作成>
L.gasseri CP2305株についてプライマー対(1)によるPCR産物の塩基配列、プライマー対(3)によるPCR産物の塩基配列、プライマー対(4)によるPCR産物の塩基配列、プライマー対(6)によるPCR産物の塩基配列をつなぎ合わせて、in silicoで接続して融合遺伝子配列を作成した。また同様に、GeneBankに登録の表2のAccession No.配列をダウンロードし、L.gasseriの各菌株において上記プライマーセットで増幅されうる領域の遺伝子配列の長さを合わせて、それぞれの菌株ごとのfusA遺伝子配列の後ろにlepA遺伝子配列をin silicoで接続して融合遺伝子配列を作成した。それぞれの菌株ごとに一つの遺伝子配列に加工して比較用配列データを作成し、MEGA6配列解析ソフトを使用して系統樹解析を行い、系統樹を作成した。結果を
図2に示す。
図2からも分かるように本試験で解析した実施例1のサンプルから得られたDNA配列はL.gasseri CP2305株のDNA由来の配列と100%一致し、L.gasseri種の他の株を含む10株とは配列が異なることが分かり、サンプルに含まれる菌株はL.gasseri CP2305株であることが明らかになった。
【0072】
[実施例4]
試料であるサンプル飲料として、以下の4種類を準備し、それぞれのサンプルについてfusA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(8)及びlepA遺伝子配列の一部を増幅するためのプライマー対(9)のそれぞれについて、別個の容器においてPCRを行った。
サンプル(ア):ペットボトル入りのL.gasseri CP2305株含有飲料/製造直後
サンプル(イ):ペットボトル入りのL.gasseri CP2305株含有飲料/25℃で9ヶ月間(賞味期限)保存後
サンプル(ウ):ペットボトル入りのL.gasseri CP2305株含有飲料/25℃で9ヶ月間(賞味期限)保存後
サンプル(エ):培養したCP2305菌末から得られたRNA(ポジティブコントロール)
【0073】
上記4種類のサンプル(ア)〜(エ)から得られた各2種のPCR産物に対して、定法に従いアガロースゲルにて電気泳動を実施した。その結果を
図6に示す。
図6中レーン1がサンプル(ア)のプライマー対(8)によるPCR産物を示し、レーン2がサンプル(イ)のプライマー対(8)によるPCR産物を示し、レーン3がサンプル(ウ)のプライマー対(8)によるPCR産物を示し、レーン4がサンプル(エ)のプライマー対(8)によるPCR産物を示し、レーン5がサンプル(ア)のプライマー対(9)によるPCR産物を示し、レーン6がサンプル(イ)のプライマー対(9)によるPCR産物を示し、レーン7がサンプル(ウ)のプライマー対(9)によるPCR産物を示し、レーン8がサンプル(エ)のプライマー対(9)によるPCR産物を示す。増幅される鎖長はfusA遺伝子配列増幅用のプライマー対(8)で157bpであり、lepA遺伝子配列増幅用のプライマー対(9)で165bpであった。
この結果から、プライマー対(8)及び(9)によって得られるDNA配列は、比較的短いため、25℃で長期間保存した後のサンプルであっても、PCR産物が得られることが分かった。
【0074】
[実施例5]
実施例4で得られた各PCR産物を用いてシークエンスサンプルを作製し、塩基配列のシークエンス解析及びBLAST解析を行った。
<fusA遺伝子配列について(
図6のレーン1〜4)について>
サンプル(ア)〜(エ)のそれぞれのプライマー対(8)を用いて得られたPCR産物のシークエンス解析結果は全て同じであった。そして、得られたシークエンス解析に基づくBLAST解析の結果、配列同一性が高かった上位9個までの菌種はL.gasseriであり、その相同性は98−99%であった。またそれ以外にL.johnsonii、L.helveticus、L.acidophilusなどが確認できたが、その相同性は92−94%程度であった。以上のことから解析配列はL.gasseriのfusA遺伝子であると予測された。
<lepA遺伝子配列について(
図6のレーン5〜8)について>
サンプル(ア)〜(エ)のそれぞれのプライマー対(9)を用いて得られたPCR産物のシークエンス解析結果は全て同じであった。そして、得られたシークエンス解析に基づくBLAST解析の結果、配列同一性が高かった上位10個までの菌種はL.gasseriであり、その相同性は95−99%であった。また11位以降の菌種はL.johnsonii、L.helveticus、L.amylovorusなどのその他の菌種であり、最も相同性が高くても91%程度であった。以上のことから解析配列はL.gasseriのlepA遺伝子であると考えられた。
以上の結果から、サンプル(ア)〜(エ)に含まれる当該の配列を持つ菌種はL.gasseriである可能性が極めて高いことが明らかになった。
【0075】
[実施例6]
<系統樹の作成>
L.gasseri CP2305株について実施例4で使用したプライマー対(8)を用いて増幅したfusA遺伝子配列の下流にプライマー対(9)を用いて増幅したlepA遺伝子配列をin silicoで接続して融合遺伝子配列(配列番号103)を作成した。また、同様に、GenBankに登録されているL.gasseri株を含む10株のそれぞれについても同様に、プライマー対(8)を用いて増幅したfusA遺伝子配列の下流にプライマー対(9)を用いて増幅したlepA遺伝子配列をin silicoで接続して融合遺伝子配列(配列番号104〜112)を作成した。作成した融合遺伝子配列群を用いて、MEGA6によりNeiberhood−joining法にて系統樹を作成した。結果を
図3に示す。
図3からも分かるように本試験で解析したすべてのサンプル(ア)〜(エ)から得られたDNA配列はL.gasseri CP2305株のDNA由来の配列と100%一致し、L.gasseri種の他の株を含む10株とは配列が異なることが分かり、サンプル(ア)〜(エ)に含まれる菌株はL.gasseri CP2305株であることが明らかになった。