(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フィルム原反を架橋する架橋処理槽及びフィルム原反を延伸する延伸処理槽の少なくともいずれか一方に用いられる、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の偏光フィルム製造用の処理槽。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「下限値X〜上限値Y」で表される数値範囲は、下限値X以上上限値Y以下を意味する。前記数値範囲が別個に複数記載されている場合、任意の下限値と任意の上限値を選択し、「任意の下限値〜任意の上限値」を設定できるものとする。
各図は、参考的に表したものであり、各図に表された部材などの寸法、縮尺及び形状は、実際のものとは異なっている場合があることに留意されたい。
【0013】
本発明の偏光フィルム製造用の処理槽は、フィルム原反から偏光フィルムを作製する際に用いられる処理液を収容するための容器である。
フィルム原反から偏光フィルムを製造する方法としては、例えば、フィルム原反を膨潤処理液で膨潤させる工程、膨潤させたフィルム原反を染色処理液で染色する工程、及び、染色したフィルム原反を架橋処理液で架橋する工程を有し、好ましくは、フィルム原反を洗浄処理液で洗浄する工程をさらに有する。また、前記製造方法は、前記架橋工程の後に、フィルム原反を延伸処理液中で延伸する工程、又は、前記膨潤工程、染色工程及び架橋工程から選ばれる少なくとも1つの工程でフィルム原反を延伸する工程、又は、前記膨潤工程、染色工程及び架橋工程から選ばれる少なくとも1つの工程でフィルム原反を延伸し且つ架橋工程の後に、フィルム原反を延伸処理液中で延伸する工程、をさらに有する。
本発明の処理槽は、前記膨潤処理液などの処理液を収容した状態で、偏光フィルムの製造ライン中に設置される。
【0014】
[偏光フィルム製造用の処理槽]
図1は、偏光フィルム製造用の処理槽1の断面図である。
図1を参照して、処理槽1は、金属製の槽本体11と、前記槽本体11の内面を覆う被覆層12と、を有する。本発明においては、前記被覆層12が、伸び率が150%以上の被覆材料から形成されている。
具体的には、槽本体11の形状は、内部に処理液を収容でき且つフィルム原反の搬入及び搬出可能な出入口を有する形状であれば、特に限定されない。図示例では、槽本体11は、底面部111と、底面部111の周囲から立ち上げられた周壁面部112と、を有する上面開口型の凹状に形成されている。上面開口型の槽本体11は、その上面開口部がフィルム原反の出入口となる。なお、フィルム原反の出入口が形成された蓋材(図示せず)が、前記槽本体11の上面開口部に被さっていてもよい。また、フィルム原反の出入口が、槽本体11の周壁面部112の上方部に形成されていてもよい(図示せず)。
【0015】
槽本体11は、その熱膨張係数が10×10
−6/℃〜24×10
−6/℃であることが好ましく、さらに、10×10
−6/℃〜18×10
−6/℃であることがより好ましく、15×10
−6/℃〜18×10
−6/℃であることがさらに好ましい。熱膨張係数が前記範囲の槽本体11に対して、伸び率が150%以上の被覆層12を設けることにより、処理槽1を長期間使用しても、被覆層12の亀裂又は剥離を防止できる。
前記熱膨張係数は、温度の上昇によって生じる物体の長さ・体積の変化を、1℃当たりの変化率で示した値をいう。
槽本体11の熱膨張係数は、被覆層12などを含まない、槽本体11そのものの熱膨張係数である。通常、槽本体11の熱膨張係数は、槽本体11を形成している金属の熱膨張係数に等しい。
また、前記熱膨張係数は、0℃〜100℃における平均値である。前記熱膨張係数は、JIS Z 2285:2003(金属材料の線熱膨張係数の測定方法)に準拠して測定される。
【0016】
槽本体11を形成する金属は、特に限定されないが、前記10×10
−6/℃〜24×10
−6/℃の熱膨張係数を有する金属を用いることが好ましい。例えば、槽本体11を形成する金属としては、ステンレス、鉄、アルミニウム、合金などが挙げられ、好ましくは、ステンレスが用いられる。ステンレス綱は、JIS規格で、SUS304、SUS305、SUS316、SUS410、SUS430などの様々な材質が規定されている。本発明では、これらのステンレス鋼の中から適宜選択して使用できるが、好ましくは、SUS316L又はSUS304が用いられる。なお、SUS304の熱膨張係数は、17.3×10
−6/℃で、SUS316Lの熱膨張係数は、16.0×10
−6/℃である。
槽本体11の肉厚は、処理液を収容できる機械的強度を有する程度であれば特に限定されないが、余りに肉厚が大きいと材料費が高騰する。かかる観点から、槽本体11の肉厚は、例えば、0.5mm〜10mmであり、好ましくは、2mm〜6mmであり、より好ましくは、2.5mm〜5mmである。
【0017】
被覆層12は、槽本体11の内面に処理液が接触しないようにするため、槽本体11の内面に設けられた被膜である。
図示例では、被覆層12は、槽本体11の底面部111の内面から周壁面部112の内面に亘って隙間無く連続的に設けられている。
なお、図示例では、被覆層12は、槽本体11の内面全体に隙間無く設けられているが、槽本体11の内面のうち一部分に被覆層12が設けられていない箇所があってもよい。前述のように、被覆層12は処理液が槽本体11に接触しないようにするために設けられるので、槽本体11の内面のうち処理液が明らかに接触しない箇所には、被覆層12が設けられていなくてもよい。処理液が明らかに接触しない箇所としては、槽本体11の内面のうち周壁面部112の上端部などが挙げられる。
【0018】
前記被覆層12は、伸び率が150%以上の被覆材料から形成されている。好ましくは、前記被覆層12は、伸び率が350%以上の被覆材料から形成され、より好ましくは伸び率が375%以上の被覆材料から形成される。前記被覆層12の形成材料の伸び率の上限値は、特にないが、例えば、前記被覆材料の伸び率は500%以下であり、好ましくは450%以下である。
ここで、伸び率は、引張る前の長さと引張り試験により破断時の長さを測定し、伸び率(%)=(破断時の長さ−引張る前の長さ)/引張る前の長さ、で求められる。
被覆材料の伸び率の具体的な測定方法は、標準状態下(23℃、1気圧、50%RH)で、ASTM−D412に準拠した引張り試験によって測定できる。
【0019】
また、前記被覆層12の形成材料は、処理液によって浸食され難い材料が用いられる。以下、処理液に浸食され難い性質を、耐食性という。特に、前記被覆材料は、ヨウ化カリウムやヨウ化ナトリウムなどのヨウ素化合物及びホウ素化合物のうち少なくとも一方を含む処理液に対する耐食性を有することが好ましく、ヨウ化カリウム及びホウ酸のうち少なくとも一方を含む処理液に対する耐食性を有することがより好ましい。
前記被覆材料は、伸び率が150%以上で且つ耐食性を有することを条件として、特に限定されない。具体的には、前記被覆材料としては、ポリウレア樹脂、ゴム、エラストマーなどが挙げられ、特に、ポリウレア樹脂を含む材料が好ましい。
【0020】
ポリウレア樹脂は、イソシアネート基とアミノ基との化学反応によって形成されるウレア結合を有する樹脂である。ポリウレア樹脂としては、例えば、ポリイソシアネートとポリアミンを反応させて得られるポリマーなどが挙げられる。
槽本体11の内面に被覆層12を形成する方法は、特に限定されず、被覆材料に応じて適宜適切な方法を採用できる。例えば、被覆材料としてポリウレア樹脂を用いる場合、塗工機を用いてポリウレア樹脂を槽本体11に吹き付けることによって、被覆層12を形成できる。また、塗工機に限らず、ポリウレア樹脂を槽本体11に手塗りによって塗工してもよい。2液タイプのポリウレア樹脂にあっては、2液(イソシアネートとアミン)を反応させながら塗工する。ポリウレア樹脂は、前述のように吹き付け又は手塗りによって塗工できる。このため、万一、被覆層に割れや剥がれが発生したとしても、処理槽を交換することなく、その割れなどが生じた箇所に、ポリウレア樹脂を部分的に塗工又は重ね塗りすることができるので、処理槽を容易に補修できる。
【0021】
被覆層12の厚みは、特に限定されないが、余りに小さいと槽本体11の変形に追従して被覆層12が伸びることによって被覆層12の厚みが部分的に小さくなり過ぎるおそれがある。かかる観点から、被覆層12の厚みは、1mm以上であることが好ましく、1.5mm以上がより好ましく、2mm以上がさらに好ましい。また、被覆層12の厚みの上限値は、特にないが、費用対効果を考慮すると、10mm以下であり、好ましくは4mm以下である。
以下、この[偏光フィルム製造用の処理槽]の欄で説明した処理槽1を「特定処理槽1」という場合がある。
【0022】
[偏光フィルムの製造装置]
本発明の偏光フィルムの製造装置は、処理液を収容した処理槽にフィルム原反を浸漬する所定の処理を行い、前記フィルム原反から偏光フィルムを得る工程を実施する装置である。つまり、製造装置によって所定の処理を行った後のフィルム原反が、偏光フィルムである。
本発明の偏光フィルムの製造装置は、フィルム原反を処理する処理液を収容する1つ又は2つ以上の処理槽と、前記処理槽に収容された処理液と、フィルム原反を搬送して前記処理槽内の処理液に浸漬する搬送装置と、を有する。
製造装置の処理槽のうち少なくとも1つの処理槽として、上記特定処理槽1が用いられる。
【0023】
図2は、偏光フィルムの製造装置2を示す参考図である。図中の矢印は、フィルム原反3の進行方向(搬送方向)を示す。
製造装置2は、処理対象のフィルム原反3が巻かれた前ロール部28と、偏光フィルムを巻き取る後ロール部29と、を有する。この製造装置2は、いわゆるロールツーロール方式で偏光フィルムを製造するものである。
前記前ロール部28と後ロール部29の間には、各種の処理槽が配置されている。処理槽としては、膨潤処理液を収容する膨潤処理槽、染色処理液を収容する染色処理槽、架橋処理液を収容する架橋処理槽、延伸処理液を収容する延伸処理槽、洗浄処理液を収容する洗浄処理槽などが挙げられる。
図示例の製造装置2は、前ロール部28から後ロール部29に向かって順に、膨潤処理槽1A、染色処理槽1B、架橋処理槽1C、延伸処理槽1D及び洗浄処理槽1Eを有する。
【0024】
特定処理槽1は、前記膨潤処理槽1A、染色処理槽1B、架橋処理槽1C、延伸処理槽1D及び洗浄処理槽1Eの中から選ばれる少なくとも1つに用いられ、好ましくは、2つ以上に用いられる。なお、製造装置2に含まれる全ての処理槽に、特定処理槽1が用いられていてもよい。
特定処理槽1は、ヨウ素化合物及びホウ素化合物の少なくとも一方を含む処理液を収容する処理槽に少なくとも用いられることが好ましい。ヨウ化カリウムなどのヨウ素化合物及びホウ酸などのホウ素化合物は、金属製の槽本体11を浸食し易く、従って、特定処理槽1を用いることにより、このような処理液を収容した場合でも槽本体11の浸食を効果的に防止できる。
ヨウ化カリウム(ヨウ素化合物)及びホウ酸(ホウ素化合物)の少なくとも一方を含む処理液を収容する処理槽としては、後述するように、膨潤処理槽1A、染色処理槽1B、架橋処理槽1C、延伸処理槽1D、及び調整処理槽などが挙げられる。
処理液の成分の観点から、特定処理槽1は、少なくとも延伸処理槽1Dに用いられていることが好ましく、さらに、少なくとも架橋処理槽1C及び延伸処理槽1Dに用いられていることがより好ましい。例えば、処理液の成分の観点から、特定処理槽1は、膨潤処理槽1A、染色処理槽1B、架橋処理槽1C、延伸処理槽1D及び調整処理槽にそれぞれ用いられていてもよい。
【0025】
また、特定処理槽1は、処理液の温度が40℃以上(好ましくは60℃以上)の処理液を収容する処理槽に少なくとも用いられることが好ましい。処理液の温度が比較的高い場合、金属製の槽本体11が熱膨張して被覆層12に亀裂が生じる又は被覆層12の部分剥離が生じるおそれがあるが、特定処理槽1は、被覆層12が槽本体11の熱膨張に追従するので、このような処理液を収容した場合でも被覆層12の亀裂又は剥離を効果的に防止できる。
偏光フィルムを製造する際に、液温を40℃以上にする処理液としては、後述するように、染色処理液、架橋処理液、及び延伸処理液などが挙げられる。
処理液の温度の観点から、特定処理槽1は、少なくとも延伸処理槽1Dに用いられていることが好ましく、さらに、少なくとも架橋処理槽1C及び延伸処理槽1Dに用いられていることがより好ましい。例えば、処理液の温度の観点から、特定処理槽1は、染色処理槽1B、架橋処理槽1C及び延伸処理槽1Dにそれぞれ用いられていてもよい。
図示例では、前記架橋処理槽1C及び延伸処理槽1Dが、いずれも特定処理槽1から構成され、前記膨潤処理槽1A、染色処理槽1B及び洗浄処理槽1Eが、いずれも特定処理槽以外の処理槽から構成されている。もっとも、これはあくまで例示であり、特定処理槽1は、適宜な箇所に使用できる。
【0026】
また、前ロール部28から前記処理槽を通過して後ロール部29にフィルム原反3を搬送するために、前記前ロール部28と後ロール部29の間に、フィルム原反3の搬送装置が設けられている。
搬送装置は、複数のニップローラ24と、複数のガイドローラ25と、フィルム原反3を搬送するため、前記ニップローラ24及びガイドローラ25から選ばれる少なくとも1つのローラを駆動させる駆動装置(モーターなど。図示せず)と、を有する。
幾つかのガイドローラ25は、各処理槽内に配置されている。フィルム原反3は、ニップローラ24及びガイドローラ25により、各処理槽内を通過して処理液に浸漬されつつ前ロール部28から後ロール部29に搬送される。
【0027】
<フィルム原反>
処理前のフィルム原反3は、前ロール部28に巻き付けられている。
前記フィルム原反3は、長尺帯状である。長尺帯状は、長手方向の長さが短手方向(長手方向と直交する方向)の長さよりも十分に大きい長方形状をいう。長尺帯状のフィルム原反3の長手方向の長さは、例えば、10m以上であり、好ましくは50m以上である。
フィルム原反3は、特に限定されないが、二色性物質による染色性に優れていることから、好ましくは、親水性ポリマーフィルム(例えば、ポリビニルアルコール系フィルムなど)を含むフィルムが用いられ、より好ましくは、親水性ポリマーフィルムが用いられる。前記親水性ポリマーフィルムを含むフィルムとしては、親水性ポリマーフィルムと非親水性ポリマーフィルムが積層されたフィルムが挙げられる。この場合、非親水性ポリマーフィルムの表面及び/又は裏面に前記親水性ポリマーフィルムが積層されていることが好ましい。この場合、非親水性ポリマーフィルムの表面及び/又は裏面に積層される親水性ポリマーフィルムは、厚み数μm程度の薄い膜状であってもよい。
【0028】
前記親水性ポリマーフィルムとしては、特に限定されず、従来公知のフィルムが使用できる。具体的には、親水性ポリマーフィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系フィルム、これらの部分ケン化フィルムなどが挙げられる。また、これらの他にも、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物などのポリエン配向フィルム、延伸配向されたポリビニレン系フィルムなども使用できる。これらの中でも、特に二色性物質による染色性に優れることから、PVA系ポリマーフィルムが好ましい。
前記PVA系ポリマーフィルムの原料ポリマーとしては、例えば、酢酸ビニルを重合した後にケン化したポリマー、酢酸ビニルに対して少量の不飽和カルボン酸や不飽和スルホン酸等の共重合可能なモノマーを共重合したポリマー、などが挙げられる。前記PVA系ポリマーの重合度は、特に限定されないが、水に対する溶解度の点等から、500〜10000が好ましく、より好ましくは、1000〜6000である。また、前記PVA系ポリマーのケン化度は、75モル%以上が好ましく、より好ましくは、98モル%〜100モル%である。
処理前のフィルム原反3の厚みは、特に限定されないが、例えば、15μm〜110μmである。なお、処理前の厚みが38μm〜110μm又は50μm〜100μmなどのフィルム原反3を用いてもよい。
【0029】
<膨潤処理槽>
膨潤処理槽1Aは、膨潤処理液41が収容された処理槽である。膨潤処理槽1Aは、フィルム原反3を膨潤させる。
なお、図示例では、膨潤処理槽1Aは1つだけ設置されているが、フィルム原反3の進行方向に2つ以上の膨潤処理槽1Aを並設してもよい(図示せず)。
膨潤処理槽1Aに入れられた膨潤処理液41は、処理前のフィルム原反3を膨潤させるための処理液である。
前記膨潤処理液41としては、例えば、水を使用することができる。更に、水に、グリセリンやヨウ化カリウムなどのヨウ素化合物を適量加えた水を膨潤処理液としてもよい。グリセリンを添加する場合、その濃度は5重量%以下が好ましく、ヨウ化カリウムなどのヨウ素化合物を添加する場合、その濃度は10重量%以下が好ましい。
【0030】
<染色処理槽>
染色処理槽1Bは、染色処理液42が収容された処理槽である。染色処理槽1Bは、フィルム原反3を染色する。
なお、図示例では、染色処理槽1Bは1つだけ設置されているが、フィルム原反3の進行方向に2つ以上の染色処理槽1Bを並設してもよい(図示せず)。
染色処理液42は、フィルム原反3を染色するための処理液である。
前記染色処理液42としては、有効成分として二色性物質を含む溶液が挙げられる。二色性物質としては、ヨウ素、有機染料などが挙げられる。
好ましくは、前記染色処理液42として、ヨウ素を溶媒に溶解させた溶液を使用できる。前記溶媒としては、水が一般的に使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒が更に添加されてもよい。染色処理液中のヨウ素の濃度としては、特に限定されないが、0.01重量%〜10重量%であることが好ましく、0.02重量%〜7重量%の範囲がより好ましく、0.025重量%〜5重量%であることがさらに好ましい。
さらに、染色効率をより一層向上させるために、染色処理液にヨウ素化合物を添加することが好ましい。ヨウ素化合物は、分子内にヨウ素とヨウ素以外の元素を含む化合物である。前記ヨウ素化合物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンなどが挙げられる。ヨウ素化合物を添加する場合、その濃度は0.01重量%〜10重量%であることが好ましく、0.1重量%〜5重量%であることがより好ましい。ヨウ素化合物の中でも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましい。
前記染色処理液42がヨウ素とヨウ素化合物を含む場合、ヨウ素が染色処理液の主成分(主成分は、含有量(重量基準)が多い成分をいう)でもよく、或いは、ヨウ素化合物が染色処理液の主成分でもよい。通常、ヨウ素化合物の方がヨウ素よりも多く含まれている染色処理液が使用される。
【0031】
<架橋処理槽>
架橋処理槽1Cは、架橋処理液43が収容された処理槽である。架橋処理槽1Cは、染色されたフィルム原反3を架橋する。
なお、図示例では、架橋処理槽1Cは1つだけ設置されているが、フィルム原反3の進行方向に2つ以上の架橋処理槽1Cを並設してもよい(図示せず)。
架橋処理液43は、前記二色性物質を吸着させたフィルム原反3を架橋するための処理液である。
前記架橋処理液43としては、有効成分としてホウ素化合物を含む溶液を使用できる。例えば、架橋処理液43としては、ホウ素化合物を溶媒に溶解させた溶液が使用できる。前記溶媒としては、水が一般的に使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒が更に添加されてもよい。ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ砂などが挙げられる。中でも、ホウ酸を用いることが好ましい。架橋処理液中のホウ素化合物の濃度としては、特に限定されないが、1重量%〜10重量%であることが好ましく、2重量%〜7重量%がより好ましく、2重量%〜6重量%であることがさらに好ましい。また、必要に応じて、前記架橋処理液に、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどを添加してもよい。
さらに、均一な光学特性を有する偏光フィルムが得られることから、前記架橋処理液にヨウ素化合物を添加することが好ましい。このヨウ素化合物としては、特に限定されず、上記染色処理液で例示したようなものが挙げられる。中でも、ヨウ化カリウムが好ましい。ヨウ素化合物の濃度は、特に限定されないが、0.05重量%〜15重量%であることが好ましく、0.5重量%〜8重量%であることがより好ましい。ヨウ素化合物を添加する場合、ホウ素化合物(好ましくはホウ酸)とヨウ素化合物(好ましくはヨウ化カリウム)の割合としては、重量比で、1:0.1〜1:6の範囲であることが好ましく、1:0.5〜1:3.5であることがより好ましく、1:1〜1:2.5であることがさらに好ましい。
前記架橋処理液43がホウ素化合物とヨウ素化合物を含む場合、ホウ素化合物が溶液の主成分でもよく、或いは、ヨウ素化合物が溶液の主成分でもよい。
【0032】
<延伸処理槽>
延伸処理槽1Dは、延伸処理液44が収容された処理槽である。延伸処理槽1Dは、フィルム原反3を延伸する。
なお、図示例では、延伸処理槽1Dは1つだけ設置されているが、フィルム原反3の進行方向に2つ以上の延伸処理槽1Dを並設してもよい(図示せず)。
延伸処理液44は、特に限定されないが、例えば、有効成分としてホウ素化合物を含む溶液を使用できる。延伸処理液44としては、例えば、ホウ素化合物、及び必要に応じて、各種金属塩、亜鉛化合物などを溶媒に溶解させた溶液が使用できる。前記溶媒としては、水が一般的に使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒が更に添加されてもよい。ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ砂などが挙げられ、中でも、ホウ酸を用いることが好ましい。延伸処理液中のホウ素化合物の濃度としては、特に限定されないが、1重量%〜10重量%であることが好ましく、2重量%〜7重量%がより好ましい。
さらに、フィルムに吸着させたヨウ素の溶出を抑制する観点から、前記延伸処理液には、ホウ素化合物に加えてヨウ素化合物が含まれていることが好ましい。このヨウ素化合物としては、特に限定されず、上記染色処理液で例示したようなものが挙げられる。中でも、ヨウ化カリウムが好ましい。延伸処理液中のヨウ素化合物の濃度は、特に限定されないが、0.05重量%〜15重量%であることが好ましく、0.5重量%〜8重量%がより好ましい。
前記延伸処理液44がホウ素化合物とヨウ素化合物を含む場合、ホウ素化合物が溶液の主成分でもよく、或いは、ヨウ素化合物が溶液の主成分でもよい。通常、ヨウ素化合物の方がホウ素化合物よりも多く含まれている延伸処理液が使用される。
例えば、延伸処理液44として、約5重量%のヨウ化カリウム及び約4重量%のホウ酸を含有する溶液を使用できる。
【0033】
<洗浄処理槽>
洗浄処理槽1Eは、洗浄処理液45が収容された処理槽である。洗浄処理槽1Eは、延伸後のフィルム原反3を洗浄する。
なお、図示例では、洗浄処理槽1Eは1つだけ設置されているが、フィルム原反3の進行方向に2つ以上の洗浄処理槽1Eを並設してもよい(図示せず)。
洗浄処理液45は、フィルム原反3に付着した染色処理液や架橋処理液などの処理液を洗浄するための処理液である。
前記洗浄処理液としては、代表的には、イオン交換水、蒸留水、純水などの水が用いられる。
【0034】
<その他>
前記洗浄処理槽1Eと後ロール部29の間に、乾燥装置21が設けられている。乾燥装置21は、フィルム原反3を乾燥するために設けられている。
なお、図示例では、製造装置2は、膨潤処理槽1A、染色処理槽1B、架橋処理槽1C、延伸処理槽1D及び洗浄処理槽1Eを有するが、このうちの1つ又は2つの処理槽を有していなくてもよい。例えば、製造装置2は、処理槽として、膨潤処理槽1A、染色処理槽1B、架橋処理槽1C、及び洗浄処理槽1Eを有するものでもよく、或いは、処理槽として、膨潤処理槽1A、染色処理槽1B及び架橋処理槽1Cを有するものでもよい。
また、製造装置2は、さらに、調整処理槽(図示せず)を有していてもよい。
調整処理槽は、調整処理液が収容された処理槽である。この調整処理槽は、
図2に不図示であるが、前記架橋処理槽1Cと延伸処理槽1Dの間、又は、延伸処理槽1Dと洗浄処理槽1Eの間に設けられる。
前記調整処理液は、フィルムの色相調整などのための溶液であり、有効成分としてヨウ素化合物を含む溶液を使用できる。例えば、調整処理液としては、ヨウ素化合物を溶媒に溶解させた溶液が使用できる。調整処理液中のヨウ素化合物の濃度は、特に限定されないが、0.5重量%〜20重量%が好ましく、1重量%〜15重量%がより好ましい。
【0035】
<偏光フィルムの製造方法>
図2を参照して、処理前のフィルム原反3を前ロール部28から繰り出し、搬送装置にて前記フィルム原反3を膨潤処理槽1Aに搬送する。
膨潤処理槽1A内のガイドローラ25でフィルム原反3を搬送しながら、前記フィルム原反3を膨潤処理液41に浸漬することによって、フィルム原反3が膨潤する。
前記膨潤処理液41の温度は、特に限定されないが、例えば、20℃〜45℃であり、好ましくは25℃〜40℃である。フィルム原反3を膨潤処理液41に浸漬する時間は、特に限定されないが、例えば、5秒〜300秒であり、好ましくは8秒〜240秒である。
【0036】
前記膨潤工程後のフィルム原反3を膨潤処理槽1Aから引き出し、前記フィルム原反3を染色処理槽1Bに搬送する。
染色処理槽1B内のガイドローラ25でフィルム原反3を搬送しながら、前記フィルム原反3を染色処理液42に浸漬することによって、フィルム原反3が二色性物質によって染色される。
前記染色処理液42の温度は、特に限定されないが、例えば、20℃〜50℃であり、好ましくは25℃〜40℃である。フィルム原反3を染色処理液42に浸漬する時間は、特に限定されないが、例えば、5秒〜300秒であり、好ましくは8秒〜240秒である。
【0037】
前記染色工程後のフィルム原反3を染色処理槽1Bから引き出し、前記フィルム原反3を架橋処理槽1Cに搬送する。
架橋処理槽1Cのガイドローラ25でフィルム原反3を搬送しながら、前記フィルム原反3を架橋処理液43に浸漬することによって、フィルム原反3の二色性物質が架橋される。
前記架橋処理液43の温度は、特に限定されないが、例えば、25℃以上であり、好ましくは30℃〜85℃であり、より好ましくは40℃〜70℃である。フィルム原反3を架橋処理液43に浸漬する時間は、特に限定されないが、例えば、5秒〜800秒であり、好ましくは6秒〜500秒である。
【0038】
前記架橋工程後のフィルム原反3を架橋処理槽1Cから引き出し、前記フィルム原反3を延伸処理槽1Dに搬送する。
延伸処理槽1Dの延伸処理液44中において、ガイドローラ25でフィルム原反3を搬送しながら延伸する。延伸処理液44の温度は、特に限定されないが、例えば、40℃〜90℃であり、好ましくは60℃〜90℃又は60℃〜85℃である。延伸倍率は目的に応じて適宜に設定できるが、総延伸倍率は、例えば、2倍〜7倍であり、好ましくは4.5倍〜6.8倍である。前記総延伸倍率は、フィルム原反3の最終的な延伸倍率を意味する。フィルム原反3は、膨潤処理槽1A、染色処理槽1B及び架橋処理槽1Cから選ばれる少なくとも1つの槽中でも延伸処理が施されていてもよく、或いは、延伸処理槽1Dのみで延伸処理が施されていてもよい。前記総延伸倍率は、延伸処理槽1Dのみで延伸されている場合にはその倍率を意味し、膨潤処理槽1Aなどでも延伸されている場合にはそれらの延伸倍率の合計を意味する。
【0039】
前記延伸工程後のフィルム原反3は、必要に応じて、調整処理槽に搬送され、調整処理液に浸漬される。調整処理液の温度は、特に限定されないが、例えば、15℃〜40℃である。フィルム原反3を調整処理液に浸漬する時間は、特に限定されないが、例えば、2秒〜20秒である。
【0040】
前記延伸工程後又は調整工程後のフィルム原反3を、洗浄処理槽1Eに搬送し、洗浄処理液45に浸漬することによって、フィルム原反3が洗浄される。
前記洗浄処理液45の温度は、例えば、5℃〜50℃であり、好ましくは10℃〜45℃である。洗浄時間は、例えば、1秒〜300秒であり、好ましくは3秒〜240秒である。
前記洗浄工程後のフィルム原反3を、必要に応じて、乾燥装置21にて乾燥することによって、偏光フィルム5が得られる。製造された偏光フィルム5は、後ロール部29に巻き取られる。
【0041】
本発明の偏光フィルム製造用の処理槽1は、伸び率が150%以上の被覆層12が金属製の槽本体11の内面に設けられているので、槽本体11が処理液によって浸食されることを防止できる。詳しくは、槽本体11の内面には耐食性の被覆層12が設けられているので、処理液が槽本体11に接触せず、槽本体11の浸食を防止できる。また、処理槽1を長期間使用していると、金属製の槽本体11が変形し、特に比較的高温(例えば、40℃以上)の処理液を処理槽に収容すると、槽本体11を構成する金属が熱膨張して変形し易くなる。この点、本発明においては、熱膨張係数が10×10
−6/℃〜24×10
−6/℃の被覆層12によって槽本体11の内面が被覆されているので、槽本体11が熱膨張に追従して被覆層12が柔軟に伸びるようになる。このため、槽本体11の変形に起因して、被覆層12に亀裂又は剥離が生じ難くなり、槽本体11が処理液によって浸食されることを防止できる。
従来では、偏光フィルム製造用の処理槽に亀裂又は剥離が生じた場合には、経年劣化が原因であると考えて、処理槽の補修又は交換を行っていた。この点、本発明者らは、従来の被覆層に亀裂又は剥離が生じる原因を探求し、それが、金属製の槽本体の熱膨張とその膨張に対する被覆層の追従性にあることを見い出した。そして、槽本体の膨張(変形)に対して追従し易い被覆材料と槽本体を組合わせることにより、被覆層の亀裂などの発生を効果的に抑制できる処理槽を本発明者らは提供するものである。
【0042】
[偏光フィルムの用途など]
本発明の偏光フィルムは、例えば、サングラスなどのレンズ、調光窓、液晶ディスプレイなどの画像表示装置などに使用できる。
本発明の偏光フィルムは、その一方面又は両面に保護フィルムを積層することにより、偏光板として使用することもできる。偏光板として使用する場合、さらに、位相差フィルムを積層してもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を説明し、本発明を更に詳述する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0044】
[槽本体の形成材料]
・ステンレス板
縦×横×厚み=100mm×50mm×5mmのSUS304製ステンレス板。このSUS304は、JIS規格品で、その線膨張係数は17.3×10
−6/℃である。
【0045】
[被覆材料]
・ポリウレア樹脂(1)
商品名「Nukote ST」(製造元:NUKOTE社製造、販売元:金森藤平商事株式会社)。伸び率は、400%。
・ポリウレア樹脂(2)
商品名「Nukote HT」(製造元:NUKOTE社製造、販売元:金森藤平商事株式会社)。伸び率は、375%。
・ポリウレア樹脂(3)
商品名「Nukote CG」(製造元:NUKOTE社製造、販売元:金森藤平商事株式会社)。伸び率は、175%。
・ポリウレア樹脂(4)
商品名「Nukote XT−Plus」(製造元:NUKOTE社製造、販売元:金森藤平商事株式会社)。伸び率は、50%。
なお、ポリウレア樹脂(1)乃至(3)は、イソシアネートを主成分とするA剤とアミン化合物を主成分とするB剤の2液硬化型である。
【0046】
・ブチルゴム
商品名「ブチルゴム」(製造元:明和ゴム工業株式会社)。伸び率は、360%。
・塩化ビニル樹脂
商品名「塩化ビニル」(製造元:信越化学工業株式会社)。伸び率は、60%。
・FRP(繊維強化樹脂)
商品名「ネオポール 8411LH」(製造元:日本ユピカ株式会社)。伸び率は、2%。
・セラミック・金属複合ポリマー
商品名「Nukote ケミシールド」(製造元:NUKOTE社製造、販売元:金森藤平商事株式会社)。伸び率は、5%。
なお、ポリウレア樹脂(1)乃至(4)の伸び率は、ASTM−D412に準拠した引張り試験によって測定したものである。ブチルゴムの伸び率は、JIS K6251:2017に準拠した引張り試験によって測定したものである。塩化ビニル樹脂の伸び率は、ASTM−D638に準拠した引張り試験によって測定したものである。FRP(繊維強化樹脂)の伸び率は、JIS K7161−1:2014に準拠した引張り試験によって測定したものである。セラミック・金属複合ポリマーの伸び率は、ASTM−D638に準拠した引張り試験によって測定したものである。
【0047】
[実施例1]
上記ステンレス板の表面全体を被覆するように、ポリウレア樹脂(1)を塗工し、それを硬化させた。このようにして、ポリウレア樹脂(1)からなる厚み3mmの被覆層にてステンレス板の表面全体が被覆されたサンプル片を作製した。
【0048】
[実施例2]
ポリウレア樹脂(1)に代えて、ポリウレア樹脂(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のサンプル片を作製した。
【0049】
[実施例3]
ポリウレア樹脂(1)に代えて、ポリウレア樹脂(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のサンプル片を作製した。
【0050】
[実施例4]
ポリウレア樹脂(1)に代えて、ブチルゴムを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4のサンプル片を作製した。
【0051】
[比較例1乃至4]
ポリウレア樹脂(1)に代えて、表1に示す被覆材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1乃至4のサンプル片をそれぞれ作製した。
【0052】
【表1】
【0053】
[耐久性試験]
実施例1乃至4及び比較例1乃至4の各サンプル片を、液温を70℃に保ったホウ酸及びヨウ化カリウムを含む水溶液(ホウ酸濃度約7重量%、ヨウ化カリウム濃度約8%)に1ヶ月間浸漬した。
1ヶ月浸漬後の各サンプル片を溶液から取り出し、目視にて、被覆層の状態を観察した。その結果を表1に示す。
表1の試験結果中、「AAA」は、被覆層に亀裂・剥離が生じておらず、且つ、被覆層が浸食されていなかったことを表し、「AA」は、被覆層に亀裂・剥離が生じていなかったが、被覆層の表面が僅かに浸食されていたことを表し、「B」は、被覆層の少なくとも1箇所に亀裂又は剥離が生じていたことを表す。
伸び率が175%以上の被覆材料で形成されている実施例1乃至4の被覆層は、亀裂や剥離が生じず、伸び率が60%以下の被覆材料で形成されている比較例1乃至4の被覆層は、亀裂や剥離が生じた。このことから、伸び率が約150%以上の被覆材料を用いることにより、亀裂や剥離が生じ難い被覆層を形成できると言える。また、実施例1及び2と実施例3及び4の比較から、伸び率が350%以上のポリウレア樹脂を用いることにより、長期間、亀裂や被覆が生じ難く且つ処理液で浸食され難い被覆層を形成できることが判る。