特許第6890117号(P6890117)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6890117多結晶13族元素窒化物からなる自立基板及びそれを用いた発光素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6890117
(24)【登録日】2021年5月26日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】多結晶13族元素窒化物からなる自立基板及びそれを用いた発光素子
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20210607BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20210607BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   C30B29/38 D
   H01L33/32
   H01L21/205
【請求項の数】12
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2018-501575(P2018-501575)
(86)(22)【出願日】2017年2月10日
(86)【国際出願番号】JP2017004896
(87)【国際公開番号】WO2017145803
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2019年10月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-34005(P2016-34005)
(32)【優先日】2016年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】今井 克宏
(72)【発明者】
【氏名】倉岡 義孝
(72)【発明者】
【氏名】市村 幹也
(72)【発明者】
【氏名】平尾 崇行
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−199635(JP,A)
【文献】 特開2009−076858(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/151902(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
H01L 21/205
H01L 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略法線方向で特定結晶方位に配向した複数の単結晶粒子で構成される多結晶13族元素窒化物からなる自立基板であって、
前記自立基板が上面及び底面を有しており、前記多結晶13族元素窒化物が窒化ガリウム結晶または窒化ガリウム系混晶からなり、前記窒化ガリウム系混晶がAlGa1−xNまたはInGa1−xN(xは0.5以下である)で表され、亜鉛を1×1018atoms/cm以上、5×1019atoms/cm以下の濃度で含有し、前記上面の電子線後方散乱回折法(EBSD)の逆極点図マッピングによって測定した各単結晶粒子の結晶方位が特定結晶方位から傾斜しており、前記結晶方位の特定結晶方位に対する平均傾斜角が0.1°以上、1°未満であることを特徴とする、自立基板。
【請求項2】
亜鉛を1×1019atoms/cm以下の濃度で含有することを特徴とする、請求項1記載の自立基板。
【請求項3】
前記上面に露出している前記単結晶粒子の最表面における断面平均径DTが10μm以上であることを特徴とする、請求項1または2記載の自立基板。
【請求項4】
前記底面に露出している前記単結晶粒子の最表面における断面平均径DBに対する、前記上面に露出している前記単結晶粒子の最表面における断面平均径DTの比DT/DBが1.0を超えることを特徴とする、請求項3記載の自立基板。
【請求項5】
前記自立基板を構成する前記単結晶粒子の結晶方位が、基板法線方向と直交する板面方向では無配向である、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の自立基板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の自立基板、および
前記自立基板上に形成され、略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される層を一以上有する発光機能層
を備えた、発光素子。
【請求項7】
略法線方向で特定結晶方位に配向した複数の単結晶粒子で構成される多結晶13族元素窒化物からなる自立基板であって、
前記自立基板が上面及び底面を有しており、前記多結晶13族元素窒化物が窒化ガリウム結晶または窒化ガリウム系混晶からなり、前記窒化ガリウム系混晶がAlGa1−xNまたはInGa1−xN(xは0.5以下である)で表され、カルシウムを1×1016atoms/cm以上、5×1018atoms/cm以下の濃度で含有し、前記上面の電子線後方散乱回折法(EBSD)の逆極点図マッピングによって測定した各単結晶粒子の結晶方位が特定結晶方位から傾斜しており、前記結晶方位の特定結晶方位に対する平均傾斜角が0.1°以上、1°未満であることを特徴とする、自立基板。
【請求項8】
更にゲルマニウムを含有することを特徴とする、請求項7記載の自立基板。
【請求項9】
前記上面に露出している前記単結晶粒子の最表面における断面平均径DTが10μm以上であることを特徴とする、請求項7または8記載の自立基板。
【請求項10】
前記底面に露出している前記単結晶粒子の最表面における断面平均径DBに対する、前記上面に露出している前記単結晶粒子の最表面における断面平均径DTの比DT/DBが1.0を超えることを特徴とする、請求項記載の自立基板。
【請求項11】
前記自立基板を構成する前記単結晶粒子の結晶方位が、基板法線方向と直交する板面方向では無配向である、請求項7〜10のいずれか一項に記載の自立基板。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか一項に記載の自立基板、および
前記自立基板上に形成され、略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される層を一以上有する発光機能層
を備えた、発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶13族元素窒化物からなる自立基板及びそれを用いた発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶基板を用いた発光ダイオード(LED)等の発光素子として、サファイア(α−アルミナ単結晶)上に各種窒化ガリウム(GaN)層を形成したものが知られている。例えば、サファイア基板上に、n型GaN層、InGaN層からなる量子井戸層とGaN層からなる障壁層とが交互積層された多重量子井戸層(MQW)、及びp型GaN層が順に積層形成された構造を有するものが量産化されている。また、このような用途に適した積層基板も提案されている。例えば、特許文献1には、サファイア下地基板と、該基板上に結晶成長せしめて形成された窒化ガリウム結晶層とを含む、窒化ガリウム結晶積層基板が提案されている。
【0003】
もっとも、サファイア基板上にGaN層を形成する場合、GaN層は異種基板であるサファイアとの間で格子定数及び熱膨張率が一致しないため転位を生じやすい。また、サファイアは絶縁性材料であるため、その表面に電極を形成することができず、それ故、素子の表裏に電極を備えた縦型構造の発光素子を構成できない。そこで、窒化ガリウム(GaN)単結晶上に各種GaN層を形成したLEDが注目されている。GaN単結晶基板であれば、GaN層と同種の材質であることから、格子定数及び熱膨張率が整合しやすく、サファイア基板を用いる場合よりも性能向上が期待できる。例えば、特許文献2には、厚みが200μm以上の自立したn型窒化ガリウム単結晶基板が開示されている。
【0004】
しかしながら、単結晶基板は一般的に面積が小さく且つ高価なものである。特に、大面積基板を用いたLED製造の低コスト化が求められてきているが、大面積の単結晶基板を量産することは容易なことではなく、その製造コストはさらに高くなる。そこで、窒化ガリウム等の単結晶基板の代替材料となりうる安価な材料が望まれる。かかる要求を満たす多結晶窒化ガリウム自立基板が提案されている。例えば、特許文献4には、略法線方向で特定結晶方位に配向した複数の窒化ガリウム系単結晶粒子で構成される多結晶窒化ガリウム自立基板が開示されている。また、特許文献3には、略法線方向で特定結晶方位に配向した複数の窒化ガリウム系単結晶粒子で構成される多結晶窒化ガリウム自立基板であって、基板表面の電子線後方散乱回折法(EBSD)の逆極点図マッピングによって測定した各窒化ガリウム系単結晶粒子の結晶方位が特定結晶方位から様々な角度で傾斜して分布し、その平均傾斜角が1〜10°であることが記載されている。
【0005】
特許文献3は、基板を構成する多結晶粒子の傾き角度(チルト角)を1°~10°に制御した配向GaN自立基板および発光素子を提供する。この発明は、基板表面の欠陥密度を低減可能な多結晶窒化ガリウム自立基板を提供し、多結晶窒化ガリウム自立基板を用いて高い発光効率が得られる発光素子を提供する。
【0006】
特許文献5は、高抵抗かつ低欠陥であるZnドープGaN結晶およびその製法を提供する。結晶成長方法としてNaフラックス法を用い、フラックス中にZnを添加してGaN単結晶を結晶成長させる。
【0007】
特許文献6は、窒化ガリウム単結晶の製造方法を提供する。Naと、アルカリまたはアルカリ土類金属からなる混合フラックス中で、ガリウムと窒素を反応させて窒化ガリウム単結晶を製造する。ただし、特許文献5、6は単結晶の育成を目的とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−184144
【特許文献2】特開2010−132556
【特許文献3】WO 2015/151902A1
【特許文献4】特許5770905
【特許文献5】特許5039813
【特許文献6】特許4001170
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
配向GaN結晶のチルト角が1°〜10°であれば、欠陥密度の小さい多結晶窒化ガリウム自立基板の作製が可能であり、発光効率の高い発光素子の作製が可能である。しかし、チルト角が変化したり、バラツキがあると、発光層に取り込まれる元素の濃度も変化するため、発光波長が狙いの波長からずれる問題が発生する。発光波長を厳密に制御するためには、チルト角は小さいほうが望ましく、また揃っていることが望ましい。
【0010】
本発明の課題は、略法線方向で特定結晶方位に配向した複数の窒化ガリウム系単結晶粒子で構成される多結晶13族元素窒化物自立基板において、単結晶粒子の平均チルト角を更に低減できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、略法線方向で特定結晶方位に配向した複数の単結晶粒子で構成される多結晶13族元素窒化物からなる自立基板であって、
自立基板が上面及び底面を有しており、多結晶13族元素窒化物が窒化ガリウム結晶または窒化ガリウム系混晶からなり、窒化ガリウム系混晶がAlGa1−xNまたはInGa1−xN(xは0.5以下である)で表され、亜鉛を1×1018atoms/cm以上、5×1019atoms/cm以下の濃度で含有し、上面の電子線後方散乱回折法(EBSD)の逆極点図マッピングによって測定した各単結晶粒子の結晶方位が特定結晶方位から傾斜しており、結晶方位の特定結晶方位に対する平均傾斜角が0.1°以上、1°未満であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、略法線方向で特定結晶方位に配向した複数の単結晶粒子で構成される多結晶13族元素窒化物からなる自立基板であって、
自立基板が上面及び底面を有しており、多結晶13族元素窒化物が窒化ガリウム結晶または窒化ガリウム系混晶からなり、前記窒化ガリウム系混晶がAlGa1−xNまたはInGa1−xN(xは0.5以下である)で表され、カルシウムを1×1016atoms/cm以上、5×1018atoms/cm以下の濃度で含有し、上面の電子線後方散乱回折法(EBSD)の逆極点図マッピングによって測定した各単結晶粒子の結晶方位が特定結晶方位から傾斜しており、結晶方位の特定結晶方位に対する平均傾斜角が0.1°以上、1°未満であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記自立基板、および
自立基板上に形成され、略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される層を一以上有する発光機能層
を備えた、発光素子に係るものである。
【発明の効果】
【0014】
例えばフラックス法で13族元素窒化物を液相エピタキシャル成長させるのに際して、フラックス中に種々の元素を添加し、成長した多結晶13族元素窒化物から作製した基板表面のチルト角を評価した。この結果、亜鉛を結晶中に特定量添加した場合には、結晶粒子サイズが、成長開始側の下面に比べて成長終了側の上面において大きくなり、また平均チルト角が低減することがわかった。亜鉛の添加量が前記特定範囲をはずれた場合には、特に平均チルト角の低減効果がなく、また結晶の成長に問題が生じた。
また、カルシウムを結晶中に特定量添加した場合にも、結晶粒子サイズが、成長開始側の下面に比べて成長終了側の上面において大きくなり、また平均チルト角が低減することがわかった。カルシウムの添加量が前記特定範囲をはずれた場合には、特に平均チルト角の低減効果がなく、また結晶の成長に問題が生じた。
一方、リチウム、ゲルマニウム等を多結晶13族元素窒化物に添加した場合は、表面のチルト角は低減しなかった。
【0015】
このように、配向多結晶13族元素窒化物において、亜鉛の添加量、カルシウムの添加量を特定範囲とすることによるチルト角低減効果は、これまで知られていない。
【0016】
この結果、多結晶13族元素窒化物からなる自立基板を作製したときの上面側の平均チルト角が小さくなるため、これを下地基板として半導体デバイス(LEDやパワーデバイスなど)を形成したときに、その特性バラツキが抑制され、性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】参考例での多結晶13族元素窒化物の育成状態を示す模式図である。
図2】本発明例での多結晶13族元素窒化物の育成状態を示す模式図である。
図3】本発明の自立基板を用いて作製された縦型発光素子の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(多結晶13族元素窒化物からなる自立基板)
本発明の13族元素窒化物基板は自立基板の形態を有しうる。本発明において「自立基板」とは、取り扱う際に自重で変形又は破損せず、固形物として取り扱うことのできる基板を意味する。本発明の自立基板は発光素子等の各種半導体デバイスの基板として使用可能であるが、それ以外にも、電極(p型電極又はn型電極でありうる)、p型層、n型層等の基材以外の部材又は層として使用可能なものである。なお、以下の説明においては、主たる用途の一つである発光素子を例に本発明の利点を記述することがあるが、同様ないし類似の利点は技術的整合性を損なわない範囲内で他の半導体デバイスにも当てはまる。
【0019】
本発明の自立基板は、略法線方向で特定結晶方位に配向した複数の13族元素窒化物の単結晶粒子で構成される。
好ましくは、自立基板は、上面及び底面を有し、上面の電子線後方散乱回折法(EBSD)の逆極点図マッピングによって測定した各窒化ガリウム系単結晶粒子の結晶方位が特定結晶方位(例えばc軸、a軸等の方位)から様々な角度で傾斜して分布し、その 傾斜角の平均値(平均傾斜角)は0.1°以上1°未満であり、好ましくは0.1°以上0.9°以下であり、より好ましくは0.4°以上0.8°以下である。
なお、ここで説明した傾斜角をチルト角と呼び、平均傾斜角を平均チルト角と呼ぶことがある。
【0020】
好ましくは、自立基板の上面に露出している単結晶粒子の最表面における断面平均径DTが10μm以上である。なお、EBSDは、結晶性材料に電子線を照射すると、試料上面で生じる電子線後方散乱回折により菊池線回折図形、すなわちEBSDパターンが観測され、試料の結晶系や結晶方位に関する情報を得る公知の手法であり、走査電子顕微鏡(SEM)と組み合わせて、電子線を走査しながらEBSDパターンを測定及び解析することで、微小領域の結晶系や結晶方位の分布に関する情報が得られるものである。そして、構成粒子が略法線方向で特定結晶方位に配向した自立基板において、構成粒子の配向方位を0.1°以上、1°未満の平均傾斜角で傾斜させ、かつ、上面に露出している単結晶粒子の最表面における断面平均径DTを10μm以上とすることにより、それを用いて発光素子や太陽電池等のデバイスを作製した場合に、特に高い発光効率や高い変換効率等の優れた特性を得ることができる。この理由は定かではないが、光取り出し効率が高まる効果等が推定される。そして、そのような自立基板上に形成する発光機能層も配向方位が傾斜した構造となるため、光取り出し効率が高まるものと推定される。また、上記のような自立基板を用いてパワーデバイス等の半導体デバイスを作製した場合にも十分な特性を得ることができる。
【0021】
自立基板を構成する複数の単結晶粒子は、略法線方向で特定結晶方位に配向してなる。特定結晶方位は、窒化ガリウムの有しうるいかなる結晶方位(例えばc面、a面等)であってもよい。例えば、複数の窒化ガリウム系単結晶粒子が略法線方向でc面に配向している場合、基板上面の各構成粒子はc軸を略法線方向に向けて(すなわちc面を基板上面に露出させて)配置されることとなる。そして、自立基板を構成する複数の単結晶粒子は略法線方向で特定結晶方位に配向しつつも、個々の構成粒子は様々な角度で若干傾斜してなる。つまり、基板上面は全体として略法線方向に所定の特定結晶方位への配向を呈するが、各窒化ガリウム系単結晶粒子の結晶方位は特定結晶方位から様々な角度で傾斜して分布してなる。この特有の配向状態は、前述のとおり、基板上面(板面)のEBSDの逆極点図マッピング(例えば特許文献3の図2を参照)によって評価することができる。すなわち、基板上面のEBSDの逆極点図マッピングによって測定した各窒化ガリウム系単結晶粒子の結晶方位が特定結晶方位から様々な角度で傾斜して分布してなる。
【0022】
自立基板は、略法線方向に単結晶構造を有するのが好ましい。この場合、自立基板は、略法線方向に単結晶構造を有する複数の窒化ガリウム系単結晶粒子で構成される板からなるということができる。すなわち、自立基板は、水平面方向に二次元的に連結されてなる複数の半導体単結晶粒子で構成されており、それ故、略法線方向には単結晶構造を有しうる。したがって、自立基板は、全体としては単結晶ではないものの、局所的なドメイン単位では単結晶構造を有する。このような構成とすることで、発光機能や太陽電池等のデバイスを作製した場合に十分な特性を得ることができる。この理由は定かではないが、多結晶窒化ガリウム基板の透光性や光の取り出し効率による効果と考えられる。また、p型ないしn型ドーパントの導入により導電性を持たせた窒化ガリウムを基板とすることで、縦型構造の発光素子を実現することができ、それにより輝度を高めることができる。その上、面発光照明等に用いられる大面積な面発光素子も低コストで実現可能となる。特に、本態様の自立基板を用いて縦型LED構造を作製する場合、自立基板を構成する複数の単結晶粒子が略法線方向に単結晶構造を有するため、電流パス中に高抵抗な粒界が存在しなくなり、その結果、好ましい発光効率が見込まれる。この点、法線方向にも粒界が存在する配向多結晶基板の場合には、縦型構造としても電流パス上に高抵抗な粒界が存在するため、発光効率が低くなるおそれがある。これらの観点から、本態様の自立基板は縦型LED構造にも好ましく用いることができる。また、電流パス中に粒界が存在しないことから、このような発光デバイスだけでなく、パワーデバイスや太陽電池等にも適用できる。
【0023】
好ましくは、自立基板を構成する複数の単結晶粒子は、略法線方向に概ね揃った結晶方位を有する。「略法線方向に概ね揃った結晶方位」とは、必ずしも法線方向に完全に揃った結晶方位とは限らず、自立基板を用いた発光素子等のデバイスが所望のデバイス特性を確保できるかぎり、法線ないしそれに類する方向にある程度揃った結晶方位であってよいことを意味する。製法由来の表現をすれば、窒化ガリウム系単結晶粒子は、自立基板の製造の際時に下地基材として使用した配向多結晶焼結体の結晶方位に概ね倣って成長した構造を有するともいえる。「配向多結晶焼結体の結晶方位に概ね倣って成長した構造」とは、配向多結晶焼結体の結晶方位の影響を受けた結晶成長によりもたらされた構造を意味し、必ずしも配向多結晶焼結体の結晶方位に完全に倣って成長した構造であるとは限らず、自立基板を用いた発光素子等のデバイスが所望のデバイス特性を確保できるかぎり、配向多結晶焼結体の結晶方位にある程度倣って成長した構造であってよい。すなわち、この構造は配向多結晶焼結体と異なる結晶方位に成長する構造も含む。その意味で、「結晶方位に概ね倣って成長した構造」との表現は「結晶方位に概ね由来して成長した構造」と言い換えることもでき、この言い換え及び上記意味は本明細書中の同種の表現に同様に当てはまる。したがって、そのような結晶成長はエピタキシャル成長によるものが好ましいが、これに限定されず、それに類する様々な結晶成長の形態であってもよい。いずれにしても、このように成長することで、自立基板は略法線方向に関しては結晶方位が概ね揃った構造とすることができる。
【0024】
なお、自立基板の基板上面(板面)と直交する断面の電子線後方散乱回折法(EBSD)の逆極点図マッピングを測定した場合においても、自立基板を構成する単結晶粒子の結晶方位は略法線方向で特定結晶方位に配向していることが確認できる。しかし、基板法線方向と直交する板面方向では無配向である。即ち、単結晶粒子は略法線方向にのみ結晶方位が配向した構造であり、略法線方向を軸とした単結晶粒子のツイスト(結晶軸の回転)分布はランダムである。このような構造とすることで、自立基板を用いて発光機能や太陽電池等のデバイスを作製した場合に十分な特性を得ることができる。この理由は定かではないが、光の取り出し効率による効果と考えられる。
【0025】
したがって、上記態様による自立基板は、法線方向に見た場合に単結晶と観察され、水平面方向の切断面で見た場合に粒界が観察される柱状構造の単結晶粒子の集合体であると捉えることも可能である。ここで、「柱状構造」とは、典型的な縦長の柱形状のみを意味するのではなく、横長の形状、台形の形状、及び台形を逆さにしたような形状等、種々の形状を包含する意味として定義される。もっとも、上述のとおり、自立基板は法線ないしそれに類する方向にある程度揃った結晶方位を有する構造であればよく、必ずしも厳密な意味で柱状構造である必要はない。柱状構造となる原因は、前述のとおり、自立基板の製造に用いられる配向多結晶焼結体の結晶方位の影響を受けて単結晶粒子が成長するためと考えられる。このため、柱状構造ともいえる単結晶粒子の断面の平均粒径(以下、断面平均径という)は成膜条件だけでなく、配向多結晶焼結体の板面の平均粒径にも依存するものと考えられる。自立基板を発光素子の発光機能層の一部として用いる場合、粒界があることにより断面方向の光の透過率が悪く、光が散乱ないし反射する。このため、法線方向に光を取り出す構造の発光素子の場合、粒界からの散乱光により輝度が高まる効果も期待される。
【0026】
上述したとおり、本発明の自立基板を用いて縦型LED構造とする場合、発光機能層が形成されることになる自立基板上面と、電極が形成されることになる自立基板底面とは粒界を介さずに連通していることが好ましい。すなわち、自立基板の上面に露出している単結晶粒子が、自立基板の底面に粒界を介さずに連通してなるのが好ましい。粒界が存在すると通電時に抵抗をもたらすため、発光効率を低下させる要因となる。
【0027】
ところで、自立基板の上面に露出している単結晶粒子の最表面における断面平均径DTは、自立基板の底面に露出している単結晶粒子の最表面における断面平均径DBと異なることが好ましい。こうすることで自立基板及びその構成粒子の結晶性が向上する。例えば、気相や液相を介したエピタキシャル成長を用いて13族元素窒化物結晶を成長させる場合、成膜条件にもよるが、法線方向だけでなく、水平方向にも成長が生じる。このとき、成長の起点となる粒子やその上に作製した種結晶の品質にばらつきがあると、個々の単結晶の成長速度が異なり、高速成長する粒子が成長速度の遅い粒子を覆うようにして成長する場合がある。このような成長挙動をとる場合、基板底面側よりも、基板上面側の粒子の方が大粒径化しやすくなる。この場合、成長が遅い結晶は成長が途中で停止しており、ある一断面で観察すると法線方向にも粒界が観測されうる。しかし、基板上面に露出した粒子は基板底面と粒界を介さずに連通しており、電流を流す上での抵抗相はない。換言すれば、窒化ガリウム結晶を成膜後、基板上面側(製造時に下地基板である配向多結晶焼結体と接していた側と反対側)に露出した粒子は、粒界を介さずに底面に連通している粒子が支配的になるため、縦型構造のLEDの発光効率を高める観点では基板上面側に発光機能層を作製することが好ましい。一方、基板底面側(製造時に下地基板である配向多結晶焼結体と接していた側)は基板上面側と連通していない粒子も混在するため、基板底面側に発光機能層を作製すると発光効率が低下するおそれがある。また、上述のとおり、このような成長挙動の場合は成長に伴って大粒径化するため、自立基板の表底面は窒化ガリウム結晶の粒径が大きい方が基板上面側、小さい方が基板底面側とも言い換えることができる。すなわち、自立基板において、縦型構造のLEDの発光効率を高める観点では、13族元素窒化物結晶の粒径が大きい側(基板上面側)に発光機能層を作製することが好ましい。なお、下地基板にc面等に配向した配向多結晶アルミナ焼結体を用いる場合、基板上面側(製造時に下地基板である配向多結晶アルミナ焼結体と接していた側と反対側)が13族元素面となり、基板底面側(製造時に下地基板である配向多結晶アルミナ焼結体と接していた側)が窒素面となる。すなわち、自立基板の13族元素面は、粒界を介さずに底面に連通している粒子が支配的となる。このため、縦型構造のLEDの発光効率を高める観点では、13族元素面側(基板上面側)に発光機能層を作製することが好ましい。
【0028】
したがって、基板上面側の粒子が基板底面側の粒子より大粒径化するような成長挙動をとる場合、すなわち基板上面に露出している単結晶粒子の断面平均径が、基板底面に露出している単結晶粒子の断面平均径よりも大きいと、発光効率が高まるため好ましい(このことは、基板上面に露出している単結晶粒子の個数が、基板底面に露出している単結晶粒子の個数よりも少ないことが好ましいと言い換えることもできる)。具体的には、自立基板の底面に露出している単結晶粒子の最表面における断面平均径(以下、基板底面の断面平均径DBという)に対する、自立基板の上面に露出している単結晶粒子の最表面における断面平均径(以下、基板上面の断面平均径DTという)の比DT/DBが1.0よりも大きいのが好ましく、1.1以上であることが好ましく、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上、特に好ましくは3.0以上、最も好ましくは5.0以上である。ただし、上記比DT/DBが高すぎると逆に発光効率が低下する場合があるため、20以下が好ましく、10以下がさらに好ましい。発光効率が変化する原因は定かではないが、上記比DT/DBが高いと大粒径化によって発光に寄与しない粒界面積が減少すること、あるいは大粒径化することで結晶欠陥が低減するためと考えられる。結晶欠陥が減少する原因も定かではないが、欠陥を含む粒子は成長が遅く、欠陥が少ない粒子は高速成長するためではないかとも考えられる。一方、上記比DT/DBが高すぎると、基板上面及び基板底面間で連通する粒子(すなわち基板上面側に露出した粒子)は基板底面側付近では断面径が小さくなる。この結果、十分な電流パスが得られず発光効率が低下する原因となり得るとも考えられるが、その詳細は定かではない。
【0029】
もっとも、自立基板を構成する柱状構造同士の界面は結晶性が低下するため、発光素子の発光機能層として用いる場合、発光効率が低下し、発光波長が変動し、発光波長がブロードになる可能性がある。このため、柱状構造の断面平均径は大きいほうが良い。具体的には、自立基板の上面に露出している単結晶粒子の最表面における断面平均径DTは10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは50μm以上、特に好ましくは70μm以上、最も好ましくは100μm以上である。自立基板の最表面(上面)における単結晶粒子の断面平均径の上限は特に限定されないが、1000μm以下が現実的であり、より現実的には500μm以下であり、さらに現実的には200μm以下である。また、このような断面平均径の単結晶粒子を作製するには、自立基板の製造に用いられる、配向多結晶焼結体を構成する粒子の板面における焼結粒径を10μm以上とするのが望ましく、より望ましくは10μm〜1000μm、さらに望ましくは10μm〜800μm、特に望ましくは14μm〜500μmである。あるいは、自立基板の最表面(上面)における単結晶粒子の断面平均径を自立基板の底面の断面平均径よりも大きくすることを念頭に置く場合には、配向多結晶焼結体を構成する粒子の板面における焼結粒径を10μm〜100μmとするのが望ましく、より望ましくは14μm〜70μmである。
【0030】
本発明においては、自立基板を構成する13族元素窒化物が、亜鉛を1×1018atoms/cm以上、5×1019atoms/cm以下の濃度で含有している。また、自立基板を構成する13族元素窒化物が、カルシウムを1×1016atoms/cm以上、5×1018atoms/cm以下の濃度で含有している。これによって、各単結晶の上面における平均チルト角が著しく低減可能であることが判明した。このメカニズムについての詳細は解明されていないが、現時点で考えられる仮説について、図1図2の模式図を参照しつつ説明する。
【0031】
すなわち、図1に示すように、下地である配向多結晶基板1においては、各結晶粒子5A、5Bの各結晶方位3A、3Bは少しずつ異なっており、チルト角にはバラツキがある。しかし、よく配向した多結晶であれば、各結晶粒子のチルト角のバラツキは比較的小さくなるが、それでもチルト角の相対的に小さい粒子5Aと相対的に大きい粒子5Bとがある。そして、チルト角の相対的に小さい粒子5Aとチルト角の相対的に大きい粒子5Bとの両方が配向多結晶基板1の成膜面1aに現れる。1bは底面である。
【0032】
ここで、多結晶13族元素窒化物を配向多結晶基板1上にエピタキシャル成長させると、各単結晶粒子6A、6Bが成長していき、最終的に多結晶13族元素窒化物2が成膜される。ここで、単結晶粒子6Aの結晶方位4Aは、チルト角の相対的に小さい粒子5Aの結晶方位3Aにならうので、単結晶粒子6Aのチルト角は相対的に小さくなる。同時に、単結晶粒子6Bの結晶方位4Bは、チルト角の相対的に大きい粒子5Bの結晶方位にならうので、単結晶粒子6Bのチルト角は相対的に大きくなる。そして、単結晶粒子6A、6Bはともに配向窒化ガリウム系多結晶2の上面2aに露出するので、上面2aにおける平均チルト角は、単結晶粒子6Aのチルト角と粒子6Bのチルト角および各面積を反映する。なお、2bは底面である。
【0033】
ここで、チルト角の相対的に小さい単結晶粒子6Aは、チルト角の相対的に大きい単結晶粒子6Bに比べて成長速度が若干早く、成長が進行するのにつれて、単結晶粒子6Aのほうが粒子6Bよりも径が大きくなる傾向がある。この結果、配向窒化ガリウム系多結晶2の上面2aにおいては、底面2bに比べて、平均チルト角は小さくなる傾向がある。
【0034】
これに対して、多結晶13族元素窒化物に亜鉛とカルシウムとの一方または双方を添加すると、図2に模式的に示すように、チルト角の相対的に小さい単結晶粒子6Cの成長が促進され、単結晶粒子6Cの径が大きくなる。これに対して、チルト角の相対的に大きい単結晶粒子6Dの成長は促進されないので、徐々に径が小さくなり、成膜途中で単結晶粒子が終端する傾向がある。この結果、得られた多結晶13族元素窒化物7の上面7aには、チルト角の相対的に小さい単結晶粒子6Cが現れ、チルト角の相対的に大きい単結晶粒子6Dは現れないか、あるいは少ししか現れない傾向がある。この結果、多結晶13族元素窒化物7の上面7aにおいては、底面7bに比べて、平均チルト角は著しく低減される。
【0035】
本発明においては、多結晶13族元素窒化物に、亜鉛とカルシウムとの少なくとも一方を含有させる。atoms/cm以上、
ここで、多結晶13族元素窒化物に亜鉛を含有させる場合には、本発明の効果の観点からは、亜鉛の含有量は、1×1018atoms/cm以上とする。また、結晶成長の阻害を防止しかつ平均チルト角低減という観点からは、亜鉛の含有量は、5×1019atoms/cm以下とするが、1×1019atoms/cm以下が特に好ましい。
【0036】
また、多結晶13族元素窒化物にカルシウムを含有させる場合には、本発明の効果の観点からは、カルシウムの含有量は、1×1016atoms/cm以上とする。また、融液組成物中の自然核発生抑制および平均チルト角の低減の観点からは、カルシウムの含有量は、5×1018atoms/cm以下とする
なお、13族元素窒化物結晶中に亜鉛とカルシウムとの両方を含有させることもできる。
【0037】
自立基板を構成する多結晶13族元素窒化物は、亜鉛およびカルシウム以外に、更に、n型ドーパント又はp型ドーパントでドープされていてもよく、この場合、多結晶13族元素窒化物を、p型電極、n型電極、p型層、n型層等の基材以外の部材又は層として使用することができる。p型ドーパントの好ましい例としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、及びカドミウム(Cd)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。n型ドーパントの好ましい例としては、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)及び酸素(O)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0038】
自立基板を構成する単結晶粒子は、バンドギャップの制御のため混晶化されていてもよい。好ましくは、自立基板を構成する多結晶13族元素窒化物は、AlN及びInNからなる群から選択される1種以上の結晶と混晶化された窒化ガリウムからなるものであってもよく、p型ドーパント又はn型ドーパントがドープされていてもよい。例えば、窒化ガリウムとAlNの混晶であるAlxGa1−xNにMgをドーピングすることでp型基板、AlxGa1−xNにSiをドーピングすることでn型基板として使用することができる。自立基板を発光素子の発光機能層として用いる場合、窒化ガリウムをAlNと混晶化することでバンドギャップが広がり、発光波長を高エネルギー側にシフトさせることができる。また、窒化ガリウムをInNとの混晶(InxGa1−xN)としてもよく、これによりバンドギャップが狭まり、発光波長を低エネルギー側にシフトさせることができる。
【0039】
なお、自立基板を構成する13族元素窒化物は、窒化ガリウム結晶または窒化ガリウム系混晶である。窒化ガリウム系混晶は、上述のように、AlxGa1−xN、InxGa1−xNで表されるが、この場合にxは0.5以下であ、0.2以下であることが更に好ましい。
【0040】
自立基板は、直径50.8mm(2インチ)以上の大きさを有するのが好ましく、より好ましくは直径100mm(4インチ)以上であり、さらに好ましくは直径200mm(8インチ)以上である。多結晶窒化ガリウム自立基板は大きければ大きいほど作製可能な素子の個数が増えるため、製造コストの観点で好ましく、面発光素子用との観点でも素子面積の自由度が増え面発光照明等への用途が広がる点で好ましく、その面積ないし大きさに上限は規定されるべきではない。なお、自立基板は上面視で円形状あるいは実質的に円形状であることが好ましいが、これに限定されない。円形状あるいは実質的に円形状ではない場合、面積として、2026mm以上であることが好ましく、より好ましくは7850mm以上であり、さらに好ましくは31400mm以上である。もっとも、大面積を要しない用途については、上記範囲よりも小さい面積、例えば直径50.8mm(2インチ)以下、面積換算で2026mm以下としてもよい。
【0041】
自立基板の厚さは基板に自立性を付与できる必要があり、20μm以上が好ましく、より好ましくは100μm以上であり、さらに好ましくは300μm以上である。自立基板の厚さに上限は規定されるべきではないが、製造コストの観点では3000μm以下が現実的である。
【0042】
自立基板の上面に露出している単結晶粒子の最表面における断面平均径DTに対する、自立基板の厚さTの比として規定されるアスペクト比T/DTが0.7以上であるのが好ましく、より好ましくは1.0以上であり、さらに好ましくは3.0以上である。このアスペクト比がLEDとする場合に発光効率を高める観点から好ましい。発光効率が高まる原因として、高アスペクト比粒子の方が窒化ガリウム中の欠陥密度が低いこと、及び光の取り出し効率が高まること等が考えられるが、その詳細は定かではない。
【0043】
これまでに述べたとおり、発光効率を高める観点では、(1)発光機能層は自立基板上面側(製造時に下地基板である配向多結晶焼結体に接していた側と反対側)に作製する方が良く、(2)自立基板底面の断面平均径DBに対する基板上面の断面平均径DTの比DT/DBが適度な値をとるのが良く、(3)自立基板を構成する粒子の基板最表面における断面平均径が大きい方が良く、(4)自立基板を構成する粒子のアスペクト比T/DTは大きい方が良い。上記(3)及び(4)の観点では断面平均径が大きく且つアスペクト比が大きい方が良く、言い換えると基板上面側の断面平均径が大きく且つ厚い多結晶13族元素窒化物が好ましい。また、自立化の観点では自立基板の厚さは20μm以上が好ましく、より好ましくは100μm以上であり、さらに好ましくは300μm以上である。しかし、前述したとおり、多結晶13族元素窒化物の厚みが厚くなるとコスト的な観点では好ましくなく、自立する限り薄い方が好ましい。すなわち、自立基板の厚みとしては3000μm以下が現実的であり、600μm以下が好ましく、300μm以下が好ましい。したがって、自立化させ且つ発光効率を高める観点とコスト的な観点を両立する厚みとしては50〜500μm程度が好ましく、300〜500μm程度が更に好ましい。
【0044】
(製造方法)
本発明の自立基板の製造方法は特に限定されないが、以下に好ましい3つの手法を例示する。いずれの手法も、下地基板としての配向多結晶焼結体上に多結晶13族元素窒化物層を作製する点においては共通する。
【0045】
第一の好ましい手法は、平均傾斜角が小さい配向多結晶焼結体上に多結晶13族元素窒化物層を育成する手法である。すなわち、この配向多結晶焼結体は、その上面の電子線後方散乱回折法(EBSD)の逆極点図マッピングによって測定した各単結晶粒子の結晶方位が特定結晶方位から様々な角度で傾斜して分布しており、その平均傾斜角が小さいものである。13族元素窒化物結晶の育成方法は特に限定されず、ナトリウムフラックス法等の液相法、HVPE法(ハイドライド気相成長法)等の気相法等を好ましく用いることができる。13族元素窒化物単結晶粒子は、配向多結晶焼結体の結晶方位に概ね倣うように成長する。このため、下地となる配向多結晶焼結体の上面を構成する粒子の傾斜角を0.1°以上、10°以下(更には0.1°以上、1°未満)とすることで、得られる多結晶13族元素窒化物の平均傾斜角を制御することができる。したがって、自立基板を作製するための下地基板として、配向多結晶焼結体を用意する。配向多結晶焼結体の組成は特に限定されないが、配向多結晶アルミナ焼結体、配向多結晶酸化亜鉛焼結体、及び配向多結晶窒化アルミナ焼結体から選ばれる1種であるのが好ましく、配向多結晶アルミナ焼結体が特に好ましい。
【0046】
第二の好ましい手法は、多結晶13族元素窒化物層をNaフラックス法で育成するにあたり、フラックス中に不純物を添加する手法である。こうすることで多結晶13族元素窒化物層の平均傾斜角を例えば0.1°以上、1°未満の範囲に制御することができる。すなわち、Naフラックス法で育成する場合も、13族元素窒化物結晶は下地となる配向多結晶焼結体の傾斜角に概ね倣うように成長する。ただし、Naフラックス中に不純物を添加することで、下地基板の傾斜角を低減するように窒化ガリウム結晶を育成することができる。例えば、Naフラックスに0.1モル%程度のCaを添加して多結晶13族元素窒化物結晶を育成した場合、結晶表面の傾斜角は、下地基板上面の傾斜角より10%から50%低減する。フラックス法で13族元素窒化物結晶を成長する際の傾斜角の変化量は添加元素の種類や濃度によって変化するので、適切な傾斜角を持つ下地基板と組み合わせることにより、平均傾斜角が0.1°以上、1°未満の結晶の実現が可能である。
【0047】
第三の好ましい手法は、下地基板上に気相法により種結晶層、又はバッファ層及び種結晶層を形成し、その後多結晶13族元素窒化物層を育成する手法であり、種結晶層又はバッファ層の形成時に、傾斜角が小さい下地基板粒子にのみ選択的に種結晶層又はバッファ層を形成することを特徴とする。例えば、アルミナ基板上に形成する種結晶層とすべく、13族元素窒化物層(厚さ1〜10μm)を傾斜角が小さいアルミナ粒子上にのみ形成し、その後、フラックス法やHVPE法等により13族元素窒化物結晶を選択的に成長させて厚膜の多結晶13族元素窒化物層とする。こうすることで多結晶13族元素窒化物層の平均傾斜角を低減することができる。種結晶層となる窒化ガリウム層はMOCVD法により形成することが望ましい。特に、配向アルミナ基板上に種結晶層となる窒化ガリウム層を形成するには、傾斜角の小さいアルミナ粒子に対してのみバッファ層を形成し、バッファ層上に1000〜1150℃での高温成長により窒化ガリウム層を種結晶層として形成するのが好ましい。なお、バッファ層の無いアルミナ上には高温成長窒化ガリウム層はほとんど成長できない。好ましいバッファ層としては、(i)InGaN層を用いる場合と、(ii)低温成長窒化ガリウム層を形成する場合とがある。上記(i)は、傾斜角に応じて異なるIn組成でInGaN層が形成されるという特性を利用するものであり、傾斜角の大きい粒子上にはInが取り込まれず成長レートの低い窒化ガリウムが形成され、傾斜角の小さい粒子上には成長レートの高いInGaNが形成される。そして、高温成長窒化ガリウム層形成のため昇温すると、成長レートの低い窒化ガリウム層はほとんど昇華し、InGaN層上にのみ高温成長窒化ガリウム層(種結晶層)が形成される。一方、上記(ii)は傾斜角が大きい粒子上の低温窒化ガリウム層が昇華しやすいとの知見に基づくものであり、これを利用して傾斜角の小さい粒子上にのみ高温窒化ガリウム層(種結晶層)が形成される。いずれにしても、上記2種類のうち少なくとも1種類のバッファ層を用いて高温窒化ガリウム層を成長させて種結晶層とし、その種結晶層上にフラックス法やHVPE法などで多結晶窒化ガリウム層を厚膜成長させ、基板形状に加工することで、平均傾斜角の小さい配向窒化ガリウム基板を作製することができる。上記(i)の場合(バッファ層としてInGaNを用いる場合)、In組成は10モル%〜20モル%となるように設定することが望ましい。この場合、バッファ層は650℃〜850℃の温度で窒素雰囲気にて形成するのが好ましい。一方、上記(ii)の場合(バッファ層として低温成長窒化ガリウムを用いる場合)、バッファ層の厚さは1nm〜15nmとなるように設定することが望ましい。この点、通常サファイア基板上に窒化ガリウム結晶を形成する際はバッファ層の厚さが20nm〜50nm程度であるのに対し、上記(ii)では傾斜角の大きい粒子上の低温成長窒化ガリウム一部を昇華させるため、バッファ層の厚さを薄くかつ精密に制御する必要がある。この場合、バッファ層は500℃〜550℃の温度で水素雰囲気にて形成するのが好ましい。
【0048】
上記3つの手法のいずれにおいても、多結晶13族元素窒化物層が形成された配向多結晶焼結体から配向多結晶焼結体を除去して、多結晶13族元素窒化物からなる自立基板を得ることができる。配向多結晶焼結体を除去する方法は、特に限定されないが、研削加工、ケミカルエッチング、配向焼結体側からのレーザー照射による界面加熱(レーザーリフトオフ)、昇温時の熱膨張差を利用した自発剥離等が挙げられる。
【0049】
(配向多結晶焼結体の製造方法)
本発明の自立基板の製造に下地基材として用いる配向多結晶焼結体は、いかなる製造方法によって製造されたものであってもよく、特に限定されない。例えば特許文献3(WO2015/151902A1)に記載される方法に基づいて作製されたものであってもよい。
【0050】
もっとも、本発明の好ましい態様による配向多結晶焼結体の製造方法は、以下に具体的に説明するように、(a)微細原料粉末層と、板状原料粒子の板面が前記微細原料粉末層の表面に沿うように配列された板状原料粉末層とが、交互に積層された積層体を作製する工程と、(b)上記積層体を焼成する工程とを含むものである。
【0051】
工程(a)で用いる微細原料粉末層は、微細原料粒子の集合体の層である。微細原料粉末は、平均粒径が板状原料粉末よりも小さい粉末である。微細原料粉末層は、微細原料粉末そのものを成形した層であってもよいし微細原料粉末に添加剤を加えたものを成形した層であってもよい。添加剤としては、例えば焼結助剤やグラファイト、バインダー、可塑剤、分散剤、分散媒などが挙げられる。成形方法は特に限定するものではないが、例えば、テープ成形、押出成形、鋳込み成形、射出成形、一軸プレス成形等が挙げられる。微細原料粉末層の厚みは、5〜100μmであることが好ましく、20〜60μmであることがより好ましい。
【0052】
工程(a)で用いる板状原料粉末層は、板状原料粒子の集合体の層である。板状原料粉末は、アスペクト比が3以上のものが好ましい。アスペクト比は、平均粒径/平均厚さである。ここで、平均粒径は、粒子板面の長軸長の平均値であり、平均厚さは、粒子の短軸長の平均値である。これらの値は、走査型電子顕微鏡(SEM)で板状原料粉末中の任意の粒子100個を観察して決定する。板状原料粉末の平均粒径は、配向焼結体の高配向化の観点からは大きい方が好ましく、1.5μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましく、15μm以上が特に好ましい。但し、緻密化の観点からは小さい方が好ましく、30μm以下が好ましい。こうしたことから、高配向と緻密化を両立するには平均粒径が1.5μm〜30μmであることが好ましい。板状原料粉末層は、板状原料粉末そのものの層であってもよいし板状原料粉末に添加剤を加えたものの層であってもよい。添加剤としては、例えば焼結助剤やグラファイト、バインダー、可塑剤、分散剤、分散媒などが挙げられる。板状原料粉末層は、板状原料粉末を構成する板状原料粒子の板面が微細原料粉末層の表面に沿うように配列されている。板状原料粉末は、単一粒子になっていることが好ましい。単一粒子になっていない場合には、配向度や傾斜角を悪化させることがある。粒子を単一にするには、分級処理、解砕処理及び水簸処理の少なくとも1つの処理を採用すればよいが、すべての処理を採用するのが好ましい。分級処理や解砕処理は、凝集等がある際に採用するのが好ましい。分級処理としては、気流分級等が挙げられる。解砕処理としては、ポット解砕、湿式微粒化方式等が挙げられる。水簸処理は、微粒粉が混入している際に採用するのが好ましい。
【0053】
工程(a)で作製される積層体は、微細原料粉末層と板状原料粉末層とが交互に積層されたものである。積層体を作製する際、微細原料粉末の成形体の片面を板状原料粉末層で全面的に又は部分的に被覆した片面加工体を作製し、該片面加工体を利用して積層体を作製してもよい。あるいは、微細原料粉末の成形体の両面を板状原料粉末層で全面的に又は部分的に被覆した両面加工体を作製し、該両面加工体と未加工の成形体とを利用して積層体を作製してもよい。
【0054】
片面加工体又は両面加工体は、微細原料粉末の成形体の片面又は両面に該成形体よりも厚みの薄い板状原料粉末の成形体を積層することにより作製してもよい。この場合、板状原料粉末の成形体は、板状原料粒子の板面がその成形体の表面に沿うようにテープ成形や印刷などによってせん断力を与えて成形したものを用いてもよい。あるいは、片面加工体又は両面加工体は、微細原料粉末の成形体の片面又は両面に板状原料粉末の分散液を印刷、スプレーコート、スピンコート又はディップコートすることにより作製してもよい。スプレーコート、スピンコート、ディップコートでは、強制的にせん断力を与えずとも、板状原料粒子の板面がその成形体の表面に沿うように配列する。成形体の表面に配列した板状原料粒子は、数個の板状原料粒子が重なっていてもよいが、他の板状原料粒子と重なっていないことが好ましい。
【0055】
片面加工体を利用する場合、微細原料粉末層と板状原料粉末層とが交互に積層されるように片面加工体を積み重ねていけばよい。両面加工体を利用する場合、両面加工体と未加工の微細原料粉末の成形体とを交互に積層すればよい。なお、片面加工体と両面加工体の両方を利用して積層体を作製してもよいし、片面加工体と両面加工体と未加工の成形体とを利用して積層体を作製してもよい。
【0056】
工程(b)では、積層体を焼成する。この場合、焼成方法は特に限定されないが、加圧焼成や水素焼成が好ましい。加圧焼成としては、例えばホットプレス焼成やHIP焼成などが挙げられる。なお、加圧焼成前に常圧予備焼成を行ってもよい。HIP焼成を行うときにはカプセル法を用いることもできる。ホットプレス焼成の場合の圧力は、50kgf/cm以上が好ましく、200kgf/cm以上がより好ましい。HIP焼成の場合の圧力は、1000kgf/cm以上が好ましく、2000kgf/cm以上がより好ましい。焼成雰囲気は特に限定はないが、大気、窒素、Ar等の不活性ガス、真空雰囲気下のいずれかが好ましく、窒素、Ar雰囲気下が特に好ましく、窒素雰囲気が最も好ましい。積層体は、微細原料粒子の集合体の層である微細原料粉末層と、板状原料粒子の板面が微細原料粉末層の表面に沿って配列された板状原料粉末層とが、交互に積層されたものである。積層体を焼成すると、板状原料粒子が種結晶(テンプレート)となり、微細原料粒子がマトリックスとなって、テンプレートがマトリックスを取り込みながらホモエピタキシャル成長する。そのため、得られる焼結体は配向度が高く、かつ、傾斜角が小さい配向焼結体となる。配向度と傾斜角は、板状原料粉末が微細原料粉末層の表面を覆う被覆率に依存する。この被覆率が1〜60%(好ましくは1〜20%、さらに好ましくは3〜20%)のときに配向度が高く、傾斜角が小さくなる。また、配向度と傾斜角は、微細原料粉末層の厚みに依存する。微細原料粉末層の厚みが10〜100μm(より好ましくは10μm〜100μm、更に好ましくは20〜60μm)のときに配向度が高く、傾斜角は小さくなる。ここで、配向度は、X線回折プロファイルを用いてロットゲーリング法により求めたc面配向度を指し、傾斜角は、XRC半値幅(XRC・FWHM)を用いる。
【0057】
配向多結晶焼結体の組成は特に限定されないが、配向多結晶アルミナ焼結体、配向多結晶酸化亜鉛焼結体、及び配向多結晶窒化アルミニウム焼結体から選択される1種であるのが好ましい。したがって、微細原料粉末及び板状原料粉末の主成分としては、例えば、アルミナ、ZnO、AlNなどが挙げられるが、このうちアルミナが好ましい。主成分がアルミナの場合、焼成温度(最高到達温度)は1850〜2050℃が好ましく、1900〜2000℃がより好まい。なお、「主成分」とは、粉末全体に占める質量割合が50%(好ましくは60%、より好ましくは70%、更に好ましくは80%)以上の成分のことをいう。
【0058】
本態様の製造方法によって得られる配向焼結体は、c面配向度が高く、傾斜角が小さいものである。例えば、X線回折プロファイルを用いてロットゲーリング法により求めたc面配向度が80%以上(好ましくは90%以上、より好ましくは96%以上)のものを得ることが可能となる。また、傾斜角についていえば、X線ロッキングカーブ法を用いて測定したXRC・FWHMは5°以下(好ましくは2.5°以下、より好ましくは1.5°以下、さらに好ましくは1.0°以下)のものを得ることが可能となる。
【0059】
(発光素子及びその製造方法)
上述した本発明による自立基板を用いて高品質の発光素子を作製することができる。前述のとおり、本発明による自立基板を用いて発光素子を構成することにより、高い発光効率を得ることができる。本発明の自立基板を用いた発光素子の構造やその作製方法は特に限定されるものではない。典型的には、発光素子は、自立基板に発光機能層を設けることにより作製され、この発光機能層の形成は、自立基板の結晶方位に概ね倣った結晶方位を有するように、略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される層を一つ以上形成することに行われるのが好ましい。もっとも、多結晶自立基板を電極(p型電極又はn型電極でありうる)、p型層、n型層等の基材以外の部材又は層として利用して発光素子を作製してもよい。素子サイズに特に規定はなく、5mm×5mm以下の小素子としてもよいし、10cm×10cm以上の面発光素子としてもよい。
【0060】
図3に、本発明の一態様による発光素子の層構成を模式的に示す。図3に示される発光素子10は、自立基板12と、この基板上に形成される発光機能層14とを備えてなる。発光機能層14は、略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される層を一以上有してなる。この発光機能層14は、電極等を適宜設けて電圧を印加することによりLED等の発光素子の原理に基づき発光をもたらすものである。特に、本発明の多結晶窒化ガリウム自立基板12を用いることで、単結晶基板を用いた場合と同等の発光効率を有する発光素子を得ることも期待でき、大幅な低コスト化が実現できる。また、p型ないしn型ドーパントの導入により導電性を持たせた13族元素窒化物を自立基板とすることで、縦型構造の発光素子を実現することができ、それにより輝度を高めることができる。その上、大面積な面発光素子も低コストで実現可能となる。
【0061】
発光機能層14が基板12上に形成される。発光機能層14は、基板12上の全面又は一部に設けられてもよいし、後述するバッファ層が基板12上に形成される場合にはバッファ層上の全面又は一部に設けられてもよい。発光機能層14は、略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される層を一以上有してなり、電極及び/又は蛍光体を適宜設けて電圧を印加することによりLEDに代表される発光素子の原理に基づき発光をもたらす公知の様々な層構成を採りうる。したがって、発光機能層14は青色、赤色等の可視光を放出するものであってもよいし、可視光を伴わずに又は可視光と共に紫外光を発光するものであってもよい。発光機能層14は、p−n接合を利用した発光素子の少なくとも一部を構成するのが好ましく、このp−n接合は、図3に示されるように、p型層14aとn型層14cの間に活性層14bを含んでいてもよい。このとき、活性層としてp型層及び/又はn型層よりもバンドギャップが小さい層を用いたダブルへテロ接合又はシングルへテロ接合(以下、ヘテロ接合と総称する)としてもよい。また、p型層−活性層−n型層の一形態として、活性層の厚みを薄くした量子井戸構造を採りうる。量子井戸を得るためには活性層のバンドギャップがp型層及びn型層よりも小さくしたダブルへテロ接合が採用されるべきことは言うまでもない。また、これらの量子井戸構造を多数積層した多重量子井戸構造(MQW)としてもよい。これらの構造をとることで、p−n接合と比べて発光効率を高めることができる。このように、発光機能層14は、発光機能を有するp−n接合及び/又はへテロ接合及び/又は量子井戸接合を備えたものであるのが好ましい。
【0062】
したがって、発光機能層14を構成する一以上の層は、n型ドーパントがドープされているn型層、p型ドーパントがドープされているp型層、及び活性層からなる群から選択される少なくとも一以上を含むものであることができる。n型層、p型層及び(存在する場合には)活性層は、主成分が同じ材料で構成されてもよいし、互いに主成分が異なる材料で構成されてもよい。
【0063】
発光機能層14を構成する各層の材質は、自立基板の結晶方位に概ね倣って成長し且つ発光機能を有するものであれば特に限定されないが、窒化ガリウム(GaN)系材料、酸化亜鉛(ZnO)系材料及び窒化アルミニウム(AlN)系材料から選択される少なくとも1種以上を主成分とする材料で構成されるのが好ましく、p型ないしn型に制御するためのドーパントを適宜含むものであってよい。特に好ましい材料は、自立基板と同種の材料である、窒化ガリウム(GaN)系材料である。また、発光機能層14を構成する材料は、そのバンドギャップを制御するため、例えばGaNにAlN、InN等を固溶させた混晶としてもよい。また、直前の段落で述べたとおり、発光機能層14は複数種の材料系からなるヘテロ接合としてもよい。例えば、p型層に窒化ガリウム(GaN)系材料、n型層に酸化亜鉛(ZnO)系材料を用いてもよい。また、p型層に酸化亜鉛(ZnO)系材料、活性層とn型層に窒化ガリウム(GaN)系材料を用いてもよく、材料の組み合わせに特に限定はない。
【0064】
発光機能層14を構成する各層は、略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される。すなわち、各層は、水平面方向に二次元的に連結されてなる複数の半導体単結晶粒子で構成されており、それ故、略法線方向には単結晶構造を有することになる。したがって、発光機能層14の各層は、層全体としては単結晶ではないものの、局所的なドメイン単位では単結晶構造を有するため、発光機能を確保するのに十分な高い結晶性を有することができる。好ましくは、発光機能層14の各層を構成する半導体単結晶粒子は、基板12である自立基板の結晶方位に概ね倣って成長した構造を有する。「多結晶13族元素窒化物からなる自立基板の結晶方位に概ね倣って成長した構造」とは、多結晶13族元素窒化物自立基板の結晶方位の影響を受けた結晶成長によりもたらされた構造を意味し、必ずしも自立基板の結晶方位に完全に倣って成長した構造であるとは限らず、所望の発光機能を確保できるかぎり、自立基板の結晶方位にある程度倣って成長した構造であってよい。すなわち、この構造は配向多結晶焼結体と異なる結晶方位に成長する構造も含む。その意味で、「結晶方位に概ね倣って成長した構造」との表現は「結晶方位に概ね由来して成長した構造」と言い換えることもできる。したがって、そのような結晶成長はエピタキシャル成長によるものが好ましいが、これに限定されず、それに類する様々な結晶成長の形態であってもよい。特にn型層、活性層、p型層等を構成する各層が自立基板と同じ結晶方位に成長する場合は、自立基板から発光機能層の各層間でも略法線方向に関しては結晶方位が概ね揃った構造となり、良好な発光特性を得ることができる。すなわち、発光機能層14も自立基板12の結晶方位に概ね倣って成長する場合は、基板の垂直方向では方位が概ね一定になる。このため、法線方向は単結晶と同等の状態であり、n型ドーパントを添加した自立基板を用いた場合、自立基板をカソードとした縦型構造の発光素子とすることができ、p型ドーパントを添加した多結晶窒化ガリウム自立基板を用いた場合、自立基板をアノードとした縦型構造の発光素子とすることができる。
【0065】
少なくとも発光機能層14を構成するn型層、活性層、p型層等の各層が同じ結晶方位に成長する場合は、発光機能層14の各層は、法線方向に見た場合に単結晶と観察され、水平面方向の切断面で見た場合に粒界が観察される柱状構造の半導体単結晶粒子の集合体であると捉えることも可能である。ここで、「柱状構造」とは、典型的な縦長の柱形状のみを意味するのではなく、横長の形状、台形の形状、及び台形を逆さにしたような形状等、種々の形状を包含する意味として定義される。もっとも、上述のとおり、各層は自立基板の結晶方位にある程度倣って成長した構造であればよく、必ずしも厳密な意味で柱状構造である必要はない。柱状構造となる原因は、前述のとおり、自立基板12の結晶方位の影響を受けて半導体単結晶粒子が成長するためと考えられる。このため、柱状構造ともいえる半導体単結晶粒子の断面の平均粒径(以下、断面平均径という)は成膜条件だけでなく、自立基板の板面の平均粒径にも依存するものと考えられる。発光機能層を構成する柱状構造の界面は発光効率や発光波長に影響を与えるが、粒界があることにより断面方向の光の透過率が悪く、光が散乱ないし反射する。このため、法線方向に光を取り出す構造の場合、粒界からの散乱光により輝度が高まる効果も期待される。
【0066】
もっとも、発光機能層14を構成する柱状構造同士の界面は結晶性が低下するため、発光効率が低下し、発光波長が変動し、発光波長がブロードになる可能性がある。このため、柱状構造の断面平均径は大きいほうが良い。好ましくは、発光機能層14の最表面における半導体単結晶粒子の断面平均径は10μm以上であり、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上、特に好ましくは50μm以上、最も好ましくは70μm以上である。この断面平均径の上限は特に限定されないが、1000μm以下が現実的であり、より現実的には500μm以下であり、さらに現実的には200μm以下である。また、このような断面平均径の半導体単結晶粒子を作製するには、自立基板を構成する単結晶粒子の基板の最表面における断面平均径を10μm〜1000μmとするのが望ましく、より望ましくは10μm以上である。
【0067】
発光機能層14の一部又は全てに窒化ガリウム(GaN)系以外の材料が用いられる場合には、自立基板12と発光機能層14の間に反応を抑制するためのバッファ層を設けてもよい。このようなバッファ層の主成分は特に限定されないが、酸化亜鉛(ZnO)系材料及び窒化アルミニウム(AlN)系材料から選択される少なくとも1種以上を主成分とする材料で構成されるのが好ましく、p型ないしn型に制御するためのドーパントを適宜含むものであってよい。
【0068】
発光機能層14を構成する各層が13族元素窒化物で構成されるのが好ましい。例えば、自立基板12上にn型窒化ガリウム層及びp型窒化ガリウム層を順に成長させてもよく、p型窒化ガリウム層とn型窒化ガリウム層の積層順序は逆であってもよい。p型窒化ガリウム層に使用されるp型ドーパントの好ましい例としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、亜鉛(Zn)及びカドミウム(Cd)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。また、n型窒化ガリウム層に使用されるn型ドーパントの好ましい例としては、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)及び酸素(O)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。また、p型窒化ガリウム層及び/又はn型窒化ガリウム層は、AlN及びInNからなる群から選択される1種以上の結晶と混晶化された窒化ガリウムからなるものであってもよく、p型層及び/又はn型層はこの混晶化された窒化ガリウムにp型ドーパント又はn型ドーパントがドープされていてもよい。例えば、窒化ガリウムとAlNの混晶であるAlxGa1−xNにMgをドーピングすることでp型層、AlxGa1−xNにSiをドーピングすることでとしてn型層として使用することができる。窒化ガリウムをAlNと混晶化することでバンドギャップが広がり、発光波長を高エネルギー側にシフトさせることができる。また、窒化ガリウムをInNとの混晶としてもよく、これによりバンドギャップが狭まり、発光波長を低エネルギー側にシフトさせることができる。p型窒化ガリウム層とn型窒化ガリウム層との間に、両層のいずれよりもバンドギャップが小さいGaN、又はAlN及びInNからなる群から選択される1種以上とGaNとの混晶からなる活性層を少なくとも有してもよい。活性層はp型層及びn型層とダブルへテロ接合された構造であり、この活性層を薄くした構成はp−n接合の一態様である量子井戸構造の発光素子に相当し、発光効率をより一層高めることができる。また、活性層は両層のいずれか一方よりもバンドギャップが小さくGaN、又はAlN及びInNからなる群から選択される1種以上とGaNとの混晶からなるものとしてもよい。このようなシングルヘテロ接合にても発光効率をより一層高めることができる。窒化ガリウム系バッファ層は、ノンドープのGaN、又はn型若しくはp型ドーピングされたGaNからなるものであってもよいし、格子定数が近いAlN、InN、或いはGaNとAlN及びInNからなる群から選択される1種以上の結晶と混晶化されたものであってもよい。
【0069】
もっとも、発光機能層14は窒化ガリウム(GaN)系材料、酸化亜鉛(ZnO)系材料、窒化アルミニウム(AlN)系材料から選ばれる複数の材料系で構成してもよい。例えば多結晶窒化ガリウム自立基板12上にp型窒化ガリウム層、n型酸化亜鉛層を成長させてもよく、p型窒化ガリウム層とn型酸化亜鉛層の積層順序は逆であってもよい。多結晶窒化ガリウム自立基板12を発光機能層14の一部として用いる場合は、n型又はp型の酸化亜鉛層を形成してもよい。p型酸化亜鉛層に使用されるp型ドーパントの好ましい例としては、窒素(N)、リン(P)、砒素(As)、カーボン(C)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、銀(Ag)及び銅(Cu)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。また、n型酸化亜鉛層に使用されるn型ドーパントの好ましい例としては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、硼素(B)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)及びシリコン(Si)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0070】
発光機能層14及びバッファ層の成膜方法は、多結晶窒化ガリウム自立基板の結晶方位に概ね倣って成長する方法であれば特に限定されないが、MOCVD、MBE、HVPE、スパッタリング等の気相法、Naフラックス法、アモノサーマル法、水熱法、ゾルゲル法等の液相法、粉末の固相成長を利用した粉末法、及びこれらの組み合わせが好ましく例示される。例えばMOCVD法を用いて窒化ガリウム系材料からなる発光機能層14を作製する場合においては、少なくともガリウム(Ga)を含む有機金属ガス(例えばトリメチルガリウム)と窒素(N)を少なくとも含むガス(例えばアンモニア)を原料として基板上にフローさせ、水素、窒素又はその両方を含む雰囲気等において300〜1200℃程度の温度範囲で成長させてもよい。この場合、バンドギャップ制御のためインジウム(In)、アルミニウム(Al)、n型及びp型ドーパントとしてシリコン(Si)及びマグネシウム(Mg)を含む有機金属ガス(例えばトリメチルインジウム、トリメチルアルミニウム、モノシラン、ジシラン、ビス−シクロペンタジエニルマグネシウム)を適宜導入して成膜を行ってもよい。
【0071】
また、発光機能層14及びバッファ層に窒化ガリウム系以外の材料を用いる場合は、自立基板上に種結晶層を成膜してもよい。種結晶層の成膜方法や材質に限定は無いが、結晶方位に概ね倣った結晶成長を促すものであればよい。例えば、酸化亜鉛系材料を発光機能層14の一部又は全てに用いる場合、MOCVD法、MBE法、HVPE法、スパッタリング法等の気相成長法を用いて極薄い酸化亜鉛の種結晶を作製してもよい。
【0072】
発光機能層14の上に電極層16及び/又は蛍光体層をさらに備えていてもよい。上述のとおり、導電性を有する多結晶窒化ガリウム自立基板12を用いた発光素子は縦型構造を採ることができるため、図1に示されるように自立基板12の底面にも電極層18を設けることができるが、自立基板12を電極そのものとして使用してもよく、その場合には自立基板12にはn型ドーパントを添加されているのが好ましい。電極層16,18は公知の電極材料で構成すればよいが、発光機能層14上の電極層16は、ITO等の透明導電膜、又は格子構造等の開口率が高い金属電極とすれば、発光機能層14で発生した光の取り出し効率を上げられる点で好ましい。
【0073】
発光機能層14が紫外光を放出可能なものである場合には、紫外光を可視光に変換するための蛍光体層を電極層の外側に設けてもよい。蛍光体層は紫外線を可視光に変換可能な公知の蛍光成分を含む層であればよく特に限定されない。例えば、紫外光により励起されて青色光を発光する蛍光成分と、紫外光により励起されて青〜緑蛍光を発光する蛍光成分と、紫外光により励起されて赤色光を発光する蛍光成分とを混在させて、混合色として白色光を得るような構成とするのが好ましい。そのような蛍光成分の好ましい組み合わせとしては、(Ca,Sr)(POCl:Eu、BaMgAl10O17:Eu、及びMn、YS:Euが挙げられ、これらの成分をシリコーン樹脂等の樹脂中に分散させて蛍光体層を形成するのが好ましい。このような蛍光成分は上記例示物質に限定されるものではなく、他の紫外光励起蛍光体、例えばイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)やシリケート系蛍光体、酸窒化物系蛍光体等の組み合わせでもよい。
【0074】
一方、発光機能層14が青色光を放出可能なものである場合には、青色光を黄色光に変換するための蛍光体層を電極層の外側に設けてもよい。蛍光体層は青色光を黄色光に変換可能な公知の蛍光成分を含む層であればよく特に限定されない。例えばYAG等の黄色発光する蛍光体との組み合わせたものとしてもよい。このようにすることで、蛍光体層を透過した青色発光と蛍光体からの黄色発光は補色関係にあるため、擬似的な白色光源とすることができる。なお、蛍光体層は、青色を黄色に変換する蛍光成分と、紫外光を可視光に変換するための蛍光成分との両方を備えることで、紫外光の可視光への変換と青色光の黄色光への変換との両方を行う構成としてもよい。
【0075】
(用途)
本発明の自立基板は、上述した発光素子のみならず、各種電子デバイス、パワーデバイス、受光素子、太陽電池用ウェハー等の種々の用途に好ましく利用することができる。
【実施例】
【0076】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
(参考例1:Geドープ窒化ガリウム自立基板)
(1) c面配向アルミナ焼結体の作製
(1a) 積層体の作製
微細アルミナ粉末(TM−DAR(平均粒径0.1μm)、大明化学製)100質量部に対し、酸化マグネシウム(500A、宇部マテリアルズ製)0.0125質量部(125質量ppm)と、バインダーとしてポリビニルブチラール(品番BM−2、積水化学工業製)7.8質量部と、可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)フタレート(黒金化成製)3.9質量部と、分散剤としてトリオレイン酸ソルビタン(レオドールSP−O30、花王製)2質量部と、分散媒として2−エチルヘキサノールとを加えて混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。このようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によってPETフィルムの上に乾燥後の厚みが40μmとなるようにシート状に成形し、微細アルミナ粉末層とした。
【0077】
次に、市販の板状アルミナ粉末(キンセイマテック製、グレードYFA10030)を気流分級機(日清エンジニアリング製TC−15N)にて分級点を3μmに設定して分級した。こうして粗大粒子が除去された板状アルミナ粉末をポット解砕機にて直径0.3mmの玉石で20時間解砕し、最後に水簸にて微粒粉末を除去した。得られた板状アルミナ粉末100質量部に対し、分散媒としてイソプロピルアルコール500質量部を加えた。得られた分散液(板状アルミナスラリー)を超音波分散機で5分間分散させた後、スプレーガン(タミヤ製スプレーワークーHG エアーブラシワイド)にて、噴霧圧0.2MPa、噴射距離20cmにて上記微細アルミナ粉末層の片面に、噴霧し、片面加工体を得た。このとき、微細アルミナ粉末層の表面を板状アルミナ粉末が被覆する被覆率は1%であった。
【0078】
なお、片面加工体の被覆率は、以下のようにして算出した。すなわち、微細アルミナ粉末層表面を光学顕微鏡で観察し、この観察写真を画像処理にて、板状アルミナ粉末の部分とそれ以外に切り分け、観察写真における微細アルミナ粉末層表面の面積に対する板状アルミナ粉末の面積の割合を、被覆率とした。
【0079】
得られた片面加工体を口径60mmの円形に切断した後、PETフィルムから剥がし、噴霧した加工面が重ならないように65層積層し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、パッケージに入れて内部を真空にすることで真空パックとした。この真空パックを85℃の温水中で100kgf/cmの圧力にて静水圧プレスを行い、積層体を得た。
【0080】
(1b)積層体の焼成
得られた積層体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体を黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中、焼成温度(最高到達温度)1975℃で4時間、面圧200kgf/cmの条件で焼成し、アルミナ焼結体を得た。なお、焼成温度から降温する際に1200℃までプレス圧を維持し、1200℃未満の温度域ではプレス圧をゼロに開放した。
【0081】
(1c)配向アルミナ基板の作製
このようにして得た焼結体をセラミックスの定盤に固定し、砥石を用いて#2000まで研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、板面を平滑化し、口径60mm、厚さ0.5mmの配向アルミナ焼結体を配向アルミナ基板として得た。砥粒のサイズを3μmから0.5μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。加工後の算術平均粗さRaは4nmであった。
【0082】
(2)Geドープ多結晶窒化ガリウム自立基板の作製
(2a)種結晶層の成膜
次に、加工した配向アルミナ基板の上に、MOCVD法を用いて種結晶層を形成した。具体的には、バッファ層としてサセプタ(susceptor)温度530℃、水素雰囲気中にて低温GaN層を30nm堆積させた後に、窒素・水素雰囲気にてサセプタ温度1050℃まで昇温し厚さ3μmのGaN膜を積層させて種結晶基板を得た。
【0083】
(2b)Naフラックス法によるGeドープGaN層の成膜
上記工程で作製した種結晶基板を、内径80mm、高さ45mmの円筒平底のアルミナ坩堝の底部分に設置し、次いで融液組成物をグローブボックス内で坩堝内に充填した。融液組成物の組成は以下のとおりである。
・金属Ga:60g
・金属Na:60g
・四塩化ゲルマニウム:1.85g
【0084】
このアルミナ坩堝を耐熱金属製の容器に入れて密閉した後、結晶育成炉の回転が可能な台上に設置した。窒素雰囲気中で870℃、3.5MPaまで昇温加圧後、100時間保持しつつ溶液を回転することで、撹拌しながら窒化ガリウム結晶を成長させた。結晶成長終了後、3時間かけて室温まで徐冷し、結晶育成炉から育成容器を取り出した。エタノールを用いて、坩堝内に残った融液組成物を除去し、窒化ガリウム結晶が成長した試料を回収した。得られた試料は、60mmの種結晶基板の全面上にGeドープ窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約1.4mmであった。クラックは確認されなかった。
【0085】
こうして得られた試料の配向アルミナ基板部を砥石による研削加工により除去して、Geドープ窒化ガリウムの単体を得た。このGeドープ窒化ガリウム結晶の板面を研磨して板面を平坦にした。更に、ラップ加工とCMPを用いて板面を平滑化し、厚さ約500μmのGeドープ多結晶窒化ガリウム自立基板を得た。多結晶窒化ガリウム自立基板表面の加工後の算術平均粗さRaは0.2nmであった。
【0086】
(多結晶窒化ガリウム自立基板の断面平均径の評価)
多結晶窒化ガリウム自立基板の最表面におけるGaN単結晶粒子の断面平均径を測定するため、自立基板の上面を走査電子顕微鏡にて画像を撮影した。視野範囲は、得られる画像の対角線に直線を引いた場合に、10個から30個の柱状組織と交わるような直線が引けるような視野範囲とした。得られた画像の対角線に2本の直線を任意に引き、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値を、多結晶窒化ガリウム自立基板の最表面におけるGaN単結晶粒子の断面平均径とした。
【0087】
上記のような方法を用いて多結晶窒化ガリウム自立基板の上面と底面におけるGaN単結晶粒子の断面平均径を測定した結果、上面の断面平均径は約140μm、底面の断面平均径は約66μmであった。このように断面平均径は上面の方が底面よりも大きく、基板底面の断面平均径DBに対する基板上面の断面平均径DTの比DT/DBは約2.1となった。また、上面の断面平均径DTに対するGaN結晶の厚みTの比として算出されるGaN単結晶粒子のアスペクト比T/DTは約3.6であった。
なお、本例では上面の走査顕微鏡像で明瞭に界面を判別できたが、サーマルエッチングやケミカルエッチングによって界面を際立たせる処理を施した後に上記の評価を行ってもよい。また、後述するEBSD測定の結晶粒マッピング像を用いて上記の評価を行ってもよい。
【0088】
(窒化ガリウム結晶の断面EBSD測定)
電子線後方散乱回折装置(EBSD)(TSLソリューションズ製、OIM)を取り付けたSEM(日本電子製、JSM−7000F)にて多結晶窒化ガリウム自立基板の板面の逆極点図方位マッピングを500μm×500μmの視野で実施した。このEBSD測定の諸条件は以下のとおりとした。
<EBSD測定条件>
・加速電圧:15kV
・照射電流:2×10−8A
・ワークディスタンス:15mm
・ステップ幅:2μm
・測定プログラム:OIM Data Collection
【0089】
得られた逆極点図方位マッピングから、最表面構成粒子のc軸方向からの傾斜角の頻度、及び平均傾斜角を計算した。なお、傾斜角の頻度、及び平均傾斜角は、逆極点図方位マッピングを解析ソフトOIM Analysisを用いてGrain Dilation法による像のクリーンアップを実施した後に算出した。クリーンアップの条件は下記のとおりである。
<EBSD解析時のクリーンアップ条件>
・Grain tolerance Angle:5°
・Minimum Grain Size:2ピクセル
【0090】
窒化ガリウムを構成する各単結晶粒子は、概ねc面が法線方向に配向していた。また、最表面を構成する粒子の平均傾斜角は0.9°でガウス分布に近似した分布状態であった。
【0091】
(窒化ガリウム結晶の亜鉛濃度、カルシウム濃度の測定)
窒化ガリウム自立基板に含まれるCaおよびZnの濃度測定はSIMS(二次イオン質量分析法)によって行った。具体的には、CAMECA社製IMS−7f装置を使用し、一次イオン種としてOまたはCsを用い、加速電圧5kV〜15kVにて、20×20μmあるいはφ30μmの領域における表面から深さ3μmまでのSIMS測定を行って、窒化ガリウム結晶中に含まれるCaおよびZnの濃度を測定した。
【0092】
(実施例1:Ca添加したGeドープ窒化ガリウム自立基板)
(1)Geドープ多結晶窒化ガリウム自立基板の作製
(1a)種結晶層の成膜
参考例1と同様の方法で、配向Al基板を作製し、MOCVD法を用いて種結晶層を形成した。
【0093】
(1b)Naフラックス法によるGeドープGaN層の成膜
Caを0.1g添加した以外は比較例1と同様の方法でGeドープGaN層を成膜した。得られた試料は、60mmの種結晶基板の全面上にGeドープ窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約1.2mmであった。クラックは確認されなかった。
【0094】
こうして得られた試料の配向アルミナ基板部を砥石による研削加工により除去して、Geドープ窒化ガリウムの単体を得た。このGeドープ窒化ガリウム結晶の板面を研磨して板面を平坦にした。更に、ラップ加工とCMPを用いて板面を平滑化し、厚さ約500μmのGeドープ多結晶窒化ガリウム自立基板を得た。多結晶窒化ガリウム自立基板上面の加工後の算術平均粗さRaは0.2nmであった。
【0095】
参考例1と同じ方法を用いて多結晶窒化ガリウム自立基板の上面と底面におけるGaN単結晶粒子の断面平均径を測定した結果、上面の断面平均径は約160μm、底面の断面平均径は約66μmであった。このように断面平均径は上面の方が底面よりも大きく、基板底面の断面平均径DBに対する基板上面の断面平均径DTの比DT/DBは約2.4となった。また、上面の断面平均径DTに対するGaN結晶の厚みTの比として算出されるGaN単結晶粒子のアスペクト比T/DTは約3.1であった。
【0096】
また、参考例1と同じ方法を用いて板面のEBSD測定を実施した結果、窒化ガリウム結晶を構成する各粒子は概ねc面が法線方向に配向していたが、最表面を構成する粒子の平均傾斜角は0.7°であった。
【0097】
(実施例2:Znドープ窒化ガリウム自立基板)
(1)Znドープ多結晶窒化ガリウム自立基板の作製
(1a)種結晶層の成膜
参考例1と同様の方法で配向Al基板を作製し、MOCVD法を用いて種結晶層を形成した。
【0098】
(1b)Naフラックス法によるZnドープGaN層の成膜
四塩化ゲルマニウムの代わりに金属Znを0.5g添加した以外は比較例1と同様の方法でZnドープGaN層を成膜した。得られた試料は、60mmの種結晶基板の全面上にZnドープ窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約1.0mmであった。クラックは確認されなかった。
【0099】
こうして得られた試料の配向アルミナ基板部を砥石による研削加工により除去して、Znドープ窒化ガリウムの単体を得た。このZnドープ窒化ガリウム結晶の板面を研磨して板面を平坦にした。更に、ラップ加工とCMPを用いて板面を平滑化し、厚さ約500μmのZnドープ多結晶窒化ガリウム自立基板を得た。多結晶窒化ガリウム自立基板上面の加工後の算術平均粗さRaは0.2nmであった。
【0100】
参考例1と同じ方法を用いて多結晶窒化ガリウム自立基板の上面と底面におけるGaN単結晶粒子の断面平均径を測定した結果、上面の断面平均径は約200μm、底面の断面平均径は約70μmであった。このように断面平均径は上面の方が底面よりも大きく、基板底面の断面平均径DBに対する基板上面の断面平均径DTの比DT/DBは約2.9となった。また、上面の断面平均径DTに対するGaN結晶の厚みTの比として算出されるGaN単結晶粒子のアスペクト比T/DTは約2.5であった。
【0101】
窒化ガリウムを構成する各単結晶粒子は概ねc面が法線方向に配向していた。また、最表面を構成する粒子の平均傾斜角は0.6°でガウス分布に近似した分布状態であった。
【0102】
(参考例2:Li添加したGeドープ窒化ガリウム自立基板)
(1)Geドープ多結晶窒化ガリウム自立基板の作製
(1a)種結晶層の成膜
参考例1と同様の方法で配向Al基板を作製し、MOCVD法を用いて種結晶層を形成した。
【0103】
(1b)Li添加Naフラックス法によるGeドープGaN層の成膜
金属Liを0.1g添加した以外は比較例1と同様の方法でGeドープGaN層を成膜した。得られた試料は、60mmの種結晶基板の全面上にGeドープ窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約0.8mmであった。クラックは確認されなかった。
【0104】
こうして得られた試料の配向アルミナ基板部を砥石による研削加工により除去して、Geドープ窒化ガリウムの単体を得た。このGeドープ窒化ガリウム結晶の板面を研磨して板面を平坦にした。更に、ラップ加工とCMPを用いて板面を平滑化し、厚さ約500μmのGeドープ多結晶窒化ガリウム自立基板を得た。多結晶窒化ガリウム自立基板上面の加工後の算術平均粗さRaは0.2nmであった。
【0105】
参考例1と同じ方法を用いて多結晶窒化ガリウム自立基板の上面と底面におけるGaN単結晶粒子の断面平均径を測定した結果、上面の断面平均径は約70μm、底面の断面平均径は約60μmであった。このように断面平均径は上面の方が底面よりも大きく、基板底面の断面平均径DBに対する基板上面の断面平均径DTの比DT/DBは約1.2となった。また、上面の断面平均径DTに対するGaN結晶の厚みTの比として算出されるGaN単結晶粒子のアスペクト比T/DTは約7.1であった。
【0106】
窒化ガリウム結晶を構成する各粒子は概ねc面が法線方向に配向していた。また、最表面を構成する粒子の平均傾斜角は1.3°であった。
【0107】
(参考例3:添加元素無しで育成した窒化ガリウム自立基板)
(1)アンドープ多結晶窒化ガリウム自立基板の作製
(1a)種結晶層の成膜
比較例1と同様の方法で配向Al基板を作製し、MOCVD法を用いて種結晶層を形成した。
【0108】
(1b)Naフラックス法によるGaN層の成膜
金属Gaと金属Na以外の添加元素を用いず、比較例1と同様の方法でアンドープGaN層を成膜した。得られた試料は、60mmの種結晶基板の全面上に窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約1.6mmであった。クラックは確認されなかった。
【0109】
こうして得られた試料の配向アルミナ基板部を砥石による研削加工により除去して、窒化ガリウムの単体を得た。このアンドープ窒化ガリウム結晶の板面を研磨して板面を平坦にした。更に、ラップ加工とCMPを用いて板面を平滑化し、厚さ約500μmのアンドープ多結晶窒化ガリウム自立基板を得た。多結晶窒化ガリウム自立基板上面の加工後の算術平均粗さRaは0.2nmであった。
【0110】
参考例1と同じ方法を用いて多結晶窒化ガリウム自立基板の上面と底面におけるGaN単結晶粒子の断面平均径を測定した結果、上面の断面平均径は約130μm、底面の断面平均径は約65μmであった。このように断面平均径は上面の方が底面よりも大きく、基板底面の断面平均径DBに対する基板上面の断面平均径DTの比DT/DBは約2.0となった。また、上面の断面平均径DTに対するGaN結晶の厚みTの比として算出されるGaN単結晶粒子のアスペクト比T/DTは約3.8であった。
【0111】
窒化ガリウム結晶を構成する各粒子は概ねc面が法線方向に配向していた。また、最表面を構成する粒子の平均傾斜角は1.0°であった。
【0112】
(実施例3:Ca添加したアンドープ窒化ガリウム自立基板)
(1)アンドープ多結晶窒化ガリウム自立基板の作製
(1a)種結晶層の成膜
参考例1と同様の方法で配向Al基板を作製し、MOCVD法を用いて種結晶層を形成した。
【0113】
(1b)Naフラックス法によるGaN層の成膜
金属Caを0.1g添加した以外は比較例3と同様の方法でアンドープGaN層を成膜した。得られた試料は、60mmの種結晶基板の全面上に窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約1.3mmであった。クラックは確認されなかった。
【0114】
こうして得られた試料の配向アルミナ基板部を砥石による研削加工により除去して、窒化ガリウムの単体を得た。このアンドープ窒化ガリウム結晶の板面を研磨して板面を平坦にした。更に、ラップ加工とCMPを用いて板面を平滑化し、厚さ約500μmのアンドープ多結晶窒化ガリウム自立基板を得た。多結晶窒化ガリウム自立基板上面の加工後の算術平均粗さRaは0.2nmであった。
【0115】
参考例1と同じ方法を用いて多結晶窒化ガリウム自立基板の上面と底面におけるGaN単結晶粒子の断面平均径を測定した結果、上面の断面平均径は約150μm、底面の断面平均径は約65μmであった。このように断面平均径は上面の方が底面よりも大きく、基板底面の断面平均径DBに対する基板上面の断面平均径DTの比DT/DBは約2.3となった。また、上面の断面平均径DTに対するGaN結晶の厚みTの比として算出されるGaN単結晶粒子のアスペクト比T/DTは約3.3であった。
【0116】
窒化ガリウム結晶を構成する各粒子は概ねc面が法線方向に配向していた。また、最表面を構成する粒子の平均傾斜角は0.7°であった。
【0117】
上述の各例について、融液中のCa濃度、Zn濃度、結晶中のCa濃度、Zn濃度、Ra、クラックの有無、DT、DB、DT/DB、T/DT、平均チルト角を表1にまとめて示す。
【0118】
【表1】

【0119】
(実施例3〜6および参考例4、5)
実施例3において、融液へのカルシウム添加量を、表2に示すように変更した。この結果、得られた結晶中のカルシウム濃度を、表2に示すように変化させた。得られた自立基板について、融液中のCa濃度、結晶中のCa濃度、Ra、クラックの有無、DT、DB、DT/DB、T/DT、平均チルト角を表2にまとめて示す。
【0120】
【表2】

【0121】
表2からわかるように、自立基板を構成する結晶中にカルシウムを本発明で規定する濃度で含有させることによって、平均チルト角度が低減され、また結晶の育成阻害も生じない。
【0122】
(実施例2、7〜9、および参考例6、7)
実施例2において、融液への亜鉛添加量を、表3に示すように変更した。この結果、得られた結晶中の亜鉛濃度を、表3に示すように変化させた。得られた自立基板について、融液中のZn濃度、結晶中のZn濃度、Ra、クラックの有無、DT、DB、DT/DB、T/DT、平均チルト角を表3にまとめて示す。
【0123】
【表3】
【0124】
表3からわかるように、自立基板を構成する結晶中に亜鉛を本発明で規定する濃度で含有させることによって、平均チルト角度が低減され、また結晶の育成阻害も生じない。
図1
図2
図3