(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
先ず、本発明に係る無機多孔質焼結体について説明する。
本発明に係る無機多孔質焼結体は、平均直径が0.1〜2.0mmで短径/長径の平均値で表される真円度が0.75〜1.00である中空状無機焼結物を内部に複数含有するとともに、
四つの構成部に分割したときに、下記式
(各構成部の嵩密度の最大値または最低値/四つの構成部の嵩密度の平均値)×100
で表される嵩密度のばらつきが95〜105%である
ことを特徴とするものである。
【0018】
本発明に係る無機多孔質焼結体は、平均直径が0.1〜2.0mmで短径/長径の平均値で表される真円度が0.75〜1.00である中空状無機焼結物(空孔)を有している。
【0019】
上記中空状無機焼結物(空孔)の直径は、0.1〜2.0mmであり、0.2〜1mmであることが好ましく、0.3〜0.7mmであることがより好ましい。
【0020】
上記中空状無機焼結物の平均直径が0.1mm未満である場合には、多孔体形状を作製し難くなり、また、上記中空状無機焼結物(空孔)の直径が2.0mm超である場合には、上記中空状無機焼結物(空孔)に割れや亀裂が生じ易くなって所望の強度を発揮し難くなる。
なお、本出願書類において、上記中空状無機焼結物(空孔)の直径とは、本発明に係る無機多孔質焼結体の断面を光学顕微鏡で観察したときの空孔の長径を意味し、上記中空状無機焼結物(空孔)の平均直径は、本発明に係る無機多孔質焼結体の断面を光学顕微鏡で観察したとき50個の空孔の長径の算術平均値を意味する。
【0021】
上記「中空状無機焼結物の短径/中空状無機焼結物の長径」の平均値で表される真円度は、0.75〜1.00であり、0.8〜1.00であるものが好ましく、0.9〜1.00であるものがより好ましい。
なお、本出願書類において、「中空状無機焼結物(空孔)の短径/中空状無機焼結物(空孔)の長径」の平均値で表される真円度は、本発明に係る無機多孔質焼結体の断面を光学顕微鏡で観察したときの50個の中空状無機焼結物(空孔)の短径/長径の算術平均値を意味する。
【0022】
本発明に係る無機多孔質焼結体は、内部に存在する中空状無機焼結物(空孔)の直径および真円度が上記範囲内にあるものであることにより、その形状やサイズが略同等の球形状に統一され、このために焼結体内部における空孔のバラツキを抑制し、無機多孔質焼結体全体に亘ってその強度や熱伝導率を均一化しつつこれ等を所望範囲に容易に制御することができる。
【0023】
また、上記中空状無機焼結物の外皮部分を構成する無機焼結物の平均厚みは、10〜2,000μmであることが好ましく、30〜1,600μmであることがより好ましく、50〜1,400μmであることがさらに好ましい。
【0024】
上記中空状無機焼結物の外皮部分を構成する無機焼結物の平均厚みが上記範囲内にあることにより、中空状無機焼結物間の距離を所望範囲に容易に制御することができる。
なお、本出願書類において、上記中空状無機焼結物(空孔)の外皮部分を構成する無機焼結物の平均厚みは、本発明に係る無機多孔質焼結体の断面を光学顕微鏡で観察したときの50箇所の厚みの平均値を意味する。
【0025】
「中空状無機焼結物の外皮部分を構成する無機焼結物の平均厚み/中空状無機焼結物の平均直径」で表される比は、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましい。上記中空状無機焼結物(空孔)の外皮部分に相当する無機焼結物の平均厚み/中空状無機焼結物(空孔)の平均直径で表される比の上限は特に制限されないが、通常、1.0以下が適当であり、0.8以下がより適当であり、0.7以下がさらに適当である。
【0026】
本発明に係る無機多孔質焼結体は、「中空状無機焼結物の外皮部分を構成する無機焼結物の平均厚み/中空状無機焼結物の平均直径」で表される比が0.1以上であることにより、中空状無機焼結物の外皮部分の割れや亀裂を抑制しつつ、優れた強度を容易に発揮することができる。
【0027】
本発明に係る無機多孔質焼結体は、四つの構成部に分割したときに、下記式
(各構成部の嵩密度の最大値または最低値/四つの構成部の嵩密度の平均値)×100
で表される嵩密度のばらつきが95〜105%であるものであり、97〜103%であるものが好ましく、98〜102%であるものがより好ましい。
【0028】
本出願書類において、上記嵩密度のばらつきは、
図1に示すように、本発明に係る無機多孔質焼結体1の深さ方向(無機多孔質焼結体1の製造時における上下方向)各長さが略均等になるように構成部a〜構成部dの四つの構成部に分割し、各構成部の嵩密度をアルキメデス法により求めるとともに四つの構成部の嵩密度の算術平均値を求めることにより算出することができる。
【0029】
本発明に係る無機多孔質焼結体は、形状やサイズが略同等の球形状に統一され中空状無機焼結物(空孔)が全体に亘って均一に分散した、嵩密度のばらつきが抑制されたものであることから、その強度や熱伝導率を無機多孔質焼結体全体に亘って均一化しつつ中空状無機焼結物の含有量を制御することによりその強度や熱伝導率を容易に制御することができる。
【0030】
本発明に係る中空状無機焼結物の構成材料は、セラミックスまたは金属であることが好ましい。
上記セラミックスとしては、SiC、Si
3N
4、Al
2O
3、SiO
2、ムライト、AlN、粘度等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
また、上記金属としては、鉄、アルミニウム、チタン、銅等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0031】
本発明に係る無機多孔質焼結体は、各種焼結方法で焼結されたものであってよく、例えば、反応焼結法、常圧焼結法、雰囲気加圧焼結法等により作製されたものを挙げることができる。
本発明に係る無機多孔質焼結体の好適な製造方法としては、後述する本発明に係る無機多孔質焼結体の製造方法を挙げることができる。
【0032】
本発明に係る無機多孔質焼結体は、上記中空状無機焼結物間に空隙を有するものであってもよいし、上記中空状無機焼結物間の空隙にさらに無機焼結物を含有するものであってもよい。
上記中空状無機焼結物間の空隙にさらに含まれる無機焼結物としては、上記中空状無機焼結物の構成材料と同様の構成材料からなるものを挙げることができる。
本発明に係る無機多孔質焼結体が、上記中空状無機焼結物間の空隙にさらに無機焼結物を含有するものであることにより、所望の強度を容易に発揮することができる。
【0033】
本発明に係る無機多孔質焼結体は、曲げ強度が、40MPa以上であるものが好ましく、80MPa以上であるものがより好ましく、100〜120MPaであるものがさらに好ましい。
【0034】
本出願書類において、無機多孔質焼結体の曲げ強度は、3点曲げ試験により測定した値を意味する。
【0035】
本発明に係る無機多孔質焼結体は、その形状やサイズが略同等の球形状に統一され空孔が無機多孔質焼結体全体に亘って均一に分散したものであることから、局所的な強度の低下を抑制しつつ無機多孔質焼結体の強度を所望範囲に容易に制御することができる。
【0036】
本発明に係る無機多孔質焼結体は、熱伝導率が、130W/(m・K)以下であるものが好ましく、100W/(m・K)以下であるものがより好ましく、90W/(m・K)以下であるものがさらに好ましい。
本出願書類において、無機多孔質焼結体の熱伝導率は、定常法(温度傾斜法)により測定した値を意味する。
【0037】
本発明に係る無機多孔質焼結体は、その形状やサイズが略同等の球形状に統一され空孔が無機多孔質焼結体全体に亘って均一に分散したものであることから、無機多孔質焼結体の熱伝導率を所望範囲に容易に制御することができる。
【0038】
本発明によれば、十分な強度を有するとともに、空孔のサイズや空孔量のばらつきが抑制され熱伝導率が抑制された無機多孔質焼結体および係る無機多孔質焼結体を簡便に製造する方法を提供することができる。
【0039】
次に、本発明に係る無機多孔質焼結体の製造方法について説明する。
本発明に係る無機多孔質焼結体の製法1は、本発明の無機多孔質焼結体を製造する方法であって、平均直径が0.1〜2.0mmで短径/長径の平均値で表される真円度が0.75〜1.00である有機物質製球状物上に無機粉末コーティング層を有するコート顆粒に対し、前記有機物質製球状物を除去する脱脂工程を施した後、焼成処理して焼結体を形成する焼成工程を施すことを特徴とするものである。
また、本発明に係る無機多孔質焼結体の製法2は、本発明の無機多孔質焼結体を製造する方法であって、平均直径が0.1〜2.0mmで短径/長径の平均値で表される真円度が0.75〜1.00である有機物質製球状物上に無機粉末コーティング層を有するコート顆粒に対し、所望の形状に成形し、前記有機物質製球状物を除去する脱脂工程を施した後、前記脱脂工程によって生じた中空状無機焼結物間の空隙に無機物質の溶融物を含浸させる含浸工程を施すことを特徴とするものである。
本発明に係る無機多孔質焼結体の製法2は、中空状無機焼結物間の空隙にさらに無機焼結物を有する無機多孔質焼結体を製造する方法に関するものであって、脱脂処理工程後に焼成工程を施すことに代えて脱脂工程後に含浸工程を施すことを必須とするものである点において本発明に係る無機多孔質焼結体の製法1と相違するものの、その他の点においては本発明に係る無機多孔質焼結体の製法1の内容と共通することから、以下、本発明に係る無機多孔質焼結体の製法1および本発明に係る無機多孔質焼結体の製法2に共通する内容について説明した上で、各製法において特有の工程について説明するものとする。
【0040】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製造方法において、コート顆粒を構成する有機物質製球状物は、平均直径が0.1〜2.0mmで短径/長径の平均値で表される真円度が0.75〜1.00であるものである。
【0041】
上記有機物質製球状物の平均直径は、0.1〜2.0mmであり、0.2〜1mmであることが好ましく、0.3〜0.7mmであることがより好ましい。
【0042】
有機物質製球状物の平均直径が0.1mm未満である場合には、通常使用される無機粉末の粒径の差が小さくなって中空状無機焼結物(空孔)を形成し難くなる。
また、有機物質製球状物の平均直径が2.0mm超である場合には、脱脂時または焼結時に中空状無機焼結物(空孔)に割れや亀裂を生じ易くなる。
【0043】
上記「有機物質製球状物の短径/有機物質製球状物の長径」の平均値で表される真円度は、0.75〜1.00であり、0.9〜1.00であるものが好ましく、0.95〜1.00であるものがより好ましい。
【0044】
本出願書類において、上記有機物質製球状物の平均直径は、標準篩で篩分したときの呼び寸法の中心値を意味する。
また、本出願書類において、「有機物質製球状物の短径/有機物質製球状物の長径」の平均値で表される真円度は、50個の有機物質製球状物を光学顕微鏡で観察したときの有機物質製球状物の短径/長径の算術平均値を意味する。
【0045】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製造方法においては、有機物質製球状物の平均直径や、短径/長径の平均値で表される真円度が上記範囲内にあることにより、その形状やサイズが略同等の球形状に統一され、このために得られる焼結体内部における空孔のバラツキを抑制し、その強度や熱伝導率を無機多孔質焼結体全体に亘って均一化しつつ所望範囲に容易に制御することができる。
【0046】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製造方法において、有機物質製球状物を構成する有機物質としては、後述する無機粉末が焼結する温度未満の温度で消失するものであれば特に制限されないが、高分子製のものが好ましい。
有機物質製球状物として、具体的には、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネイト、ポリスチレン等から選ばれる一種以上の高分子からなるものを挙げることができる。
また、有機物質製球状物は、中実状のものであってもよいし、中空状のものであってもよい。
【0047】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製造方法において使用されるコート顆粒は、有機物質製球状物の表面に無機粉末コーティング層を有するものである。
無機粉末コーティング層を構成する無機粉末としては、製造対象となる無機多孔質焼結体の構成材料に応じて適宜決定すればよく、セラミックスまたは金属であることが好ましい。
上記セラミックスとしては、SiC、Si
3N
4、Al
2O
3、SiO
2、ムライト、AlN、粘土等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
また、上記金属としては、鉄、アルミニウム、チタン、銅等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0048】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製造方法において、無機粉末コーティング層を構成する無機粉末は、平均粒径が、0.2〜100μmであるものが好ましく、0.2〜80μmであるものがより好ましく、0.2〜50μmであるものがさらに好ましい。
【0049】
なお、本出願書類において、無機粉末コーティング層を構成する無機粉末の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された、体積積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径(平均粒径D50)を意味する。
【0050】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製造方法において、無機粉末コーティング層の平均厚みは、10〜2,000μmであることが好ましく、30〜1,600μmであることがより好ましく、50〜1,400μmであることがさらに好ましい。
本発明に係る無機多孔質焼結体の製造方法において、無機粉末コーティング層の平均厚みが上記範囲内にあることにより、割れや亀裂の発生を抑制しつつ所望サイズの球状空孔を有する無機多孔質焼結体を容易に作製することができる。
【0051】
なお、本出願書類において、上記無機粉末コーティング層の平均厚みは、コーティング前の有機物質製球状物とコーティング後のコート顆粒を標準篩で篩分したときの呼び寸法の中心値の差を2分した値を意味する。
【0052】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製造方法において、上記コート顆粒は、無機粉末コーティング層の平均厚み/有機物質製球状物の平均直径で表される比が0.1以上であるものが好ましく、0.2以上であるものがより好ましく、0.3以上であるものがさらに好ましい。
無機粉末コーティング層の平均厚み/有機物質製球状物の平均直径で表される比が0.1未満である場合には、後述する脱脂時または焼結時に割れや亀裂を生じ易くなる。
上記コート顆粒において、無機粉末コーティング層の平均厚み/有機物質製球状物の平均直径で表される比の上限は特に制限されないが、通常、1.0以下が適当であり、0.8以下がより適当であり、0.7以下がさらに適当である。
【0053】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製造方法において、コート顆粒は、成形・脱脂工程前に予め分級処理されたものであってもよく、この場合、得られる無機多孔質焼結体において、球状空孔のサイズのばらつきをより低減することができ、中空状無機焼結物(空孔)の存在量や分布が均一化された無機多孔質焼結体を容易に作製することができる。
上記分級処理は、篩分け法等、公知の方法を採用することができる。
【0054】
コート顆粒は、粒径が、120〜6,000μmであるものが好ましく、160〜5,200μmであるものがより好ましく、200〜4,800μmであるものがさらに好ましい。
【0055】
コート顆粒の作製方法としては、有機物質製球状物が粘性を有するものであれば、有機物質製球状物上に所望量の無機粉末を振り掛けて作製することができ、有機物質製球状物が粘性を有さないものであれば、有機物質製球状物上に適宜有機バインダーを混合した所望量の無機粉末のスラリーを噴霧して作製したり、有機物質製球状物上に有機接着剤を塗布した上で所望量の無機粉末を振り掛けて作製することができる。
【0056】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製造方法において、コート顆粒を構成する無機粉末コーティング層の平均厚み/有機物質製球状物の平均直径で表される比や、コート顆粒の平均粒径が上記範囲内にあることにより、所望サイズの球状空孔を所望割合で有する無機多孔質焼結体を容易に作製することができる。
【0057】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製造方法においては、上記コート顆粒に対し有機物質製球状物を除去する脱脂工程を施す。
【0058】
脱脂工程は、通常、コート顆粒を不活性雰囲気下で加熱処理することにより実施することができるが、SiCなど非酸化性無機粉末をポリスチレンなど300℃未満で熱分解する有機物質製球状物にコーティングした場合は、大気中でも脱脂することができる。
【0059】
脱脂工程を不活性雰囲気下で施す場合、不活性雰囲気としては、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気等の希ガス雰囲気等を挙げることができる。
【0060】
脱脂工程における加熱温度は、有機物質製球状物が消失する温度以上であって無機粉末が焼結する温度未満の温度であれば特に制限されず、通常、200〜700℃が適当であり、250〜650℃がより適当であり、280〜600℃がさらに適当である。
また、脱脂工程における加熱時間は、有機物質製球状物が消失する時間以上の時間であれば特に制限されず、30〜7200分間が適当であり、120〜3600分間がより適当であり、300〜1440分間がさらに適当である。
【0061】
上記コート顆粒に対し有機物質製球状物を除去する脱脂工程を施し、有機物質製球状物をガス化して除去することにより、本発明に係る無機多孔質焼結体の製法1においては引き続く焼成工程において、また本発明に係る無機多孔質焼結体の製法2においては引き続く含浸工程において、ひび割れの発生等を抑制ししつつ簡便に無機多孔質焼結体を作製することができる。
【0062】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製法1においては、脱脂工程を施した後、焼成処理して焼結体を形成する焼成工程を施す。
焼成工程を不活性雰囲気下で施す場合、不活性雰囲気としては、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気等の希ガス雰囲気等を挙げることができる。
【0063】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製法1において、焼成工程における加熱温度は、無機粉末コーティング層由来の無機粉末が焼結する温度であれば特に制限されず、通常、1900〜2200℃が適当であり、1950〜2150℃がより適当であり、2000〜2100℃がさらに適当である。
また、焼成工程における加熱時間は、上記無機粉末コーティング層由来の無機粉末が焼結する時間以上の時間であれば特に制限されず、例えば、60〜180分間が適当であり、90〜120分間がより適当である。
【0064】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製法1においては、上記のとおり焼成工程において加熱、焼成して焼結処理するいわゆる常圧焼結処理を施すことにより、所望サイズの球状空孔を所望割合で有する無機多孔質焼結体を容易に作製することができる。
【0065】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製法2においては、上記脱脂工程を施した後、当該脱脂工程によって生じた中空状無機焼結物間の空隙に無機物質の溶融物を含浸させる含浸工程を施す。
【0066】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製法2において、球状空孔間の空隙に含浸させる無機物質としては、セラミックスおよび金属から選ばれる一種以上が好ましく、具体的には、上述した無機粉末コーティング層を構成する無機粉末の構成物質と同様のものや、それ等の構成元素等を挙げることができる。
【0067】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製法2において、含浸工程において含浸させる溶融物の温度は、無機粉末コーティング層由来の無機粉末や、含浸させる無機物質が溶融する温度であれば特に制限されず、例えば、SiCとCのコーティング層にSiを含浸する場合、通常、1,420〜2,200℃が適当であり、1,500〜2,100℃がより適当であり、1,550〜2,050℃がさらに適当である。
また、含浸工程における含浸処理時間は、上記無機粉末コーティング層由来の無機粉末や、含浸させる無機物質が脱脂工程によって生じた中空状無機焼結物間の空隙に充填可能な時間以上の時間であれば特に制限されず、例えば、SiCとCのコーティング層にSiを含浸する場合、10〜600分間が適当であり、30〜180分間がより適当である。
【0068】
本発明に係る無機多孔質焼結体の製法2においては、上記含浸工程において高温の無機物質の溶融物を含浸させて焼結処理することにより、所望サイズの球状空孔を所望割合で有する無機多孔質焼結体を容易に作製することができる。
【0069】
本発明によれば、十分な強度を有するとともに、空孔のサイズや空孔量のばらつきが抑制され熱伝導率が抑制された無機多孔質焼結体を簡便に製造する方法を提供することができる。
【0070】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
図2に示す平均直径0.33mm[呼び径355μmを通り、300μmを通らないもの]で、短径/長径の平均値で表される真円度が0.95である中実状のポリスチレン球体に対し、SiC粉末80質量%、カーボン粉末15質量%およびシリコン粉末5質量%を含む混合粉末を、糖衣コーティング装置(フロイント産業(株)製CFグラニュレーター)を用いてコーティングすることにより、上記ポリスチレン球体上に無機粉末コーティング層を形成し、次いで篩分けすることにより、直径0.5〜0.6mmのコート顆粒を作製した。得られたコート顆粒を
図3に示す。
得られたコート顆粒は、無機粉末コーティング層の平均厚み/上記ポリスチレン球体の平均直径で表される比が0.33であるものであった。
得られたコート顆粒を一軸成形した後、大気雰囲気下、280℃で360分間加熱処理することにより脱脂処理を施した。
次いで、上記脱脂工程によって生じた球状空孔間の空隙に、アルゴン雰囲気下で溶融シリコンを含浸し、コート顆粒表面のコーティング層を構成する無機粉末と反応焼結させることにより、直径50mm、高さ120mmの円柱形状を有するSiC多孔質焼結体を得た。得られたSiC多孔質焼結体の切断面の顕微鏡写真を
図4に示す。
得られたSiC多孔質焼結体は、短径/長径の平均値で表される真円度が0.92である球状の空孔(
図4に示す円形状の部位)を有し、
図1に示すように四つの構成部に分割したときに、(各構成部の嵩密度の最大値または最低値/四つの構成部の嵩密度の平均値)×100で表される嵩密度のばらつきが99.1〜100.9%で、曲げ強さが91MPa、熱伝導率が87W/(m・K)であるものであった。
【0072】
(実施例2)
平均直径0.33mmで、短径/長径の平均値で表される真円度が0.95である中実状のポリスチレン球体に代えて、平均直径0.39mm[呼び径425μmを通り、355μmを通らないもの]で、短径/長径の平均値で表される真円度が0.96である中実状のポリスチレン球体を用い、直径0.71〜0.85mmのコート顆粒(無機粉末コーティング層の平均厚み/上記ポリスチレン球体の平均直径で表される比が0.50であるもの)を作製し、係るコート顆粒を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、直径50mm、高さ120mmの円柱形状を有するSiC多孔質焼結体を得た。得られたSiC多孔質焼結体の切断面の顕微鏡写真を
図5に示す。
得られたSiC多孔質焼結体は、短径/長径の平均値で表される真円度が0.93である球状の空孔(
図5に示す円形状の部位)を有し、
図1に示すように四つの構成部に分割したときに、(各構成部の嵩密度の最大値または最低値/四つの構成部の嵩密度の平均値)×100で表される嵩密度のばらつきが98.8〜100.5%で、曲げ強さが90MPa、熱伝導率が88W/(m・K)であるものであった。
【0073】
(実施例3)
平均直径0.33mmで、短径/長径の平均値で表される真円度が0.95 である中実状のポリスチレン球体に代えて、平均直径0.60mm[呼び径710μmを通り、500μmを通らないもの]で、短径/長径の平均値で表される真円度が0.96である中実状のポリスチレン球体を用い、直径0.85〜1000mmのコート顆粒(無機粉末コーティング層の平均厚み/上記ポリスチレン球体の平均直径で表される比が0.27であるもの)を作製し、係るコート顆粒を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、直径50mm、高さ120mmの円柱形状を有するSiC多孔質焼結体を得た。得られたSiC多孔質焼結体の切断面の顕微鏡写真を
図6に示す。
得られたSiC多孔質焼結体は、短径/長径の平均値で表される真円度が0.94である球状の空孔(
図6に示す円形状の部位)を有し、
図1に示すように四つの構成部に分割したときに、(各構成部の嵩密度の最大値または最低値/四つの構成部の嵩密度の平均値)×100で表される嵩密度のばらつきが98.2〜101.2 %で、曲げ強さが50MPa、熱伝導率が85W/(m・K)であるものであった。
【0074】
(実施例4)
平均直径0.33mmで、短径/長径の平均値で表される真円度が0.95である中実状のポリスチレン球体に代えて、平均直径0.72mm[呼び径850μmを通り、600μmを通らないもの]で、短径/長径の平均値で表される真円度が0.97である中実状のポリスチレン球体を用い、直径1.7〜2.0mmのコート顆粒(無機粉末コーティング層の平均厚み/上記ポリスチレン球体の平均直径で表される比が0.78であるもの)を作製し、係るコート顆粒を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、直径50mm、高さ120mmの円柱形状を有するSiC多孔質焼結体を得た。得られたSiC多孔質焼結体の切断面の顕微鏡写真を
図7に示す。
得られたSiC多孔質焼結体は、短径/長径の平均値で表される真円度が0.94である球状の空孔(
図7に示す円形状の部位)を有し、
図1に示すように四つの構成部に分割したときに、(各構成部の嵩密度の最大値または最低値/四つの構成部の嵩密度の平均値)×100で表される嵩密度のばらつきが99.0〜102.0 %で、曲げ強さが82MPa、熱伝導率が87W/(m・K)であるものであった。
【0075】
(実施例5)
平均直径0.55mm[呼び径600μmを通り、500μmを通らないもの]で、短径/長径の平均値で表される真円度が0.97である中実状のポリスチレン球体に対し、固形分換算で、平均直径0.8μmのSiC粉末96.7質量%、焼結助剤であるホウ素粉末0.3質量%および炭素粉末3質量%を含む混合スラリーを、糖衣コーティング装置(フロイント産業(株)製CFグラニュレーター)を用いてコーティングすることにより、上記ポリスチレン球体上に無機粉末コーティング層を形成し、次いで篩分けすることにより、直径0.85〜1.0mmのコート顆粒を作製した。
得られたコート顆粒は、無機粉末コーティング層の平均厚み/上記ポリスチレン球体の平均直径で表される比が0.34であるものであった。
得られたコート顆粒を一軸成形した後、大気雰囲気下、280℃で600分間加熱処理することにより脱脂処理を施した。
次いで、Ar雰囲気下において、2200℃で120分間焼成して焼結処理を施すことにより、直径50mm、高さ120mmの円柱形状を有するSiC多孔質焼結体を得た。得られたSiC多孔質焼結体の切断面の顕微鏡写真を
図8に示す。
得られたSiC多孔質焼結体は、短径/長径の平均値で表される真円度が0.85である球状の空孔(
図8に示す円形状の部位)を有し、
図1に示すように四つの構成部に分割したときに、(各構成部の嵩密度の最大値または最低値/四つの構成部の嵩密度の平均値)×100で表される嵩密度のばらつきが97.6〜102.0%、曲げ強さが82MPa、熱伝導率が90W/(m・K)であるものであった。
【0076】
(比較例1)
SiC粉末80質量%、カーボン粉末15質量%およびシリコン粉末5質量%を含む混合粉末を、一軸成形した後、アルゴン雰囲気下で溶融シリコンを含浸し、反応焼結させることにより、直径50mm、高さ120mmの円柱形状を有するSiC焼結体を得た。得られたSiC焼結体は、
図1に示すように四つの構成部に分割したときに、(各構成部の嵩密度の最大値または最低値/四つの構成部の嵩密度の平均値)×100で表される嵩密度のばらつきが99.5〜100.5%で、曲げ強さが125MPa、熱伝導率が133W/(m・K)であるものであった。
【0077】
(実施例6)
実施例1において、脱脂工程によって生じた球状空孔間の空隙に、アルゴン雰囲気下で溶融シリコンを含浸し、コート顆粒表面のコーティング層を構成する無機粉末と反応焼結させることにより、直径50mm、高さ120mmの円柱形状を有するSiC多孔質焼結体を作製することに代えて、直径20mm、内径11mm、長さ300mmの円管形状を有するSiC多孔質焼結体を2本作製した以外は、実施例1と同様の方法でSiC多孔質焼結体を作製した。
得られたSiC多孔質焼結体2本をSiC発熱部(長さ300mm)の両端に各々溶接して、SiC発熱体Aとした。
SiC発熱体Aを電源に繋ぎ、SiC発熱部中央の表面温度が1000℃になるように電力を印加した。電力印加10分後、SiC発熱体Aの端面の温度を測定して、放散熱量を、有限要素法を用いた解析ソフトにより算出したところ、端面温度264℃、放散熱量152Wであった。結果を表1に示す。
【0078】
(比較例2)
比較例1において、混合粉末の一軸成形物にアルゴン雰囲気下で溶融シリコンを含浸し、反応焼結させることにより、直径50mm、高さ120mmの円柱形状を有するSiC焼結体を作製することに代えて、直径20mm、内径11mm、長さ300mmの円管形状を有するSiC焼結体を2本作製した以外は、比較例1と同様の方法でSiC焼結体を作製した。
得られたSiC焼結体2本をSiC発熱部(長さ300mm)の両端に各々溶接して、SiC発熱体Bとした。
実施例6と同様にして、SiC発熱体Bを電源に繋ぎ、SiC発熱部中央の表面温度が1000℃になるように電力を印加した。電力印加10分後、SiC発熱体Bの端面の温度を測定して、放散熱量を計算したところ、端面温度296℃、放散熱量169Wであった。結果を表1に示す。
【0080】
実施例1〜実施例6によれば、十分な強度を有するとともに、空孔のサイズや空孔量のばらつきが抑制され熱伝導率が抑制された無機多孔質焼結体を、簡便に製造できることが分かる。
また、表1より、実施例6で得られたSiC発熱体Aは、比較例2で得られたSiC発熱体Bに比較して、端部が本発明に係る無機多孔質焼結体により構成されていることから、熱伝導率を低減することができ、このために比較例1で得られたSiC発熱体Bに対し約10%放散熱量が低く省エネルギー化を図り得ることが分かる。