(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、熱交換器の耐久性向上の観点から、金属板として耐食性に優れたステンレス鋼板が用いられている。ステンレス鋼板からなるプレート材を積層させて拡散接合させるとき、プレート材に隣接する離型部材としてカーボン材を用いると、ステンレス鋼とカーボンとの反応が生じるため、拡散接合処理を完了した後、プレート材から離型部材を取り外すことが難しくなり、両部材の離型性が低下する。また、ステンレス鋼中にカーボンが浸透する浸炭に起因して、プレート材の耐食性が低下したり、プレート材の表面粗さが大きくなって表面性状が低下するという問題があった。
【0008】
また、拡散接合では、ホットプレス装置等を用いて、被接合材に加圧および加熱を施すことが必要であるため、被接合材のプレートは、高圧および高温下に保持される。また、熱交換器の本体内に流路を形成するプレート材は、流路側に非接合面の部分を有するので、他のプレート材に比べて周囲から拘束される程度が小さい(
図3の(A)を参照)。そのため、例えば
図3の(B)に示すように、拡散接合処理の加熱により、上記の非接合面部分においてプレート材を流路側へ膨張させる熱変形が起きることがあり、その熱膨張の程度によっては、拡散接合処理の完了後に冷却しても、変形部分が復元しないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決するために案出されたものである。ステンレス鋼板からなる被接合材であっても、拡散接合性を維持したまま、被接合材の変形が抑制され、拡散接合処理後の離型性(被接合材と離型部材との剥離性)に優れる拡散接合による熱交換器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、被接合材(プレート材)に直接接触する離型部材の材質や特性に着目した。離型部材の構成材料として、被接合材のステンレス鋼と反応しない材質を選択し、さらには、被接合材と離型部材との組み合わせにおいて、拡散接合後の変形抑制に適した両部材の特性を選択することにより、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1)本発明は、ステンレス鋼からなる複数の被接合材を積層し、加熱及び加圧を行い、前記被接合材を拡散接合させる熱交換器の製造方法であって、前記被接合材の両面側に離型部材を配置するとともに、前記離型部材を介して前記被接合材を挟むように押え治具を配置し、その後、前記押え治具を介して加圧装置により押圧するものであり、前記離型部材は、Siを1.5質量%以上含有する鋼材を含み、前記離型部材の1000℃における高温強度(Fr)と前記被接合材の1000℃における高温強度(Fp)との比(Fr/Fp)が0.9以上である、前記被接合材と前記離型部材との組み合わせを用いて、前記拡散接合を行う、熱交換器の製造方法である。
【0012】
(2)本発明は、前記拡散接合における加熱後の平均冷却速度が1.2℃/min未満である、上記(1)に記載の熱交換器の製造方法である。
【0013】
(3)本発明は、前記押え治具がカーボン材である、上記(1)または(2)に記載の熱交換器の製造方法である。
【0014】
(4)本発明は、前記離型部材の両面には離型剤が塗布される、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱交換器の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記のとおり、成分組成、高温強度および熱膨張係数に関して、上記の構成を備える被接合材と離型部材との組み合わせを使用することにより、ステンレス鋼板からなる被接合材であっても、拡散接合性を維持したまま、被接合材の変形が抑制され、拡散接合処理をした後の離型性に優れる拡散接合による熱交換器の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は、これらの記載により限定されるものではない。
【0018】
本実施形態は、ステンレス鋼からなる複数の被接合材を積層し、加熱及び加圧を行い、前記被接合材を拡散接合させる熱交換器の製造方法に関する。前記被接合材の両面に離型部材を配置するとともに、前記離型部材を介して前記被接合材を挟むように押え治具を配置した後、前記押え治具を介して加圧装置で押圧することにより、被接合材であるプレート材を拡散接合させて熱交換器を製造するものである。
【0019】
(被接合材)
図1に拡散接合の処理に供される被接合材に関する概要を示す。拡散接合を行う装置としては、所定の雰囲気内で加圧及び加熱を行うことができるホットプレス装置等が用いられる。拡散接合される被接合材(プレート材)は、複数枚のプレート材を重ねて積層された積層体として用意され、加圧加熱装置内に装填される。そして、当該積層体の両面に接するように離型部材が配置される。
図1は、4枚のプレート材1を重ねたプレート積層体2を用いた例である。加圧加熱装置内では、プレート積層体2の外側に配置した2枚の離型部材3のそれぞれと接するように押え治具4が配置される。当該押え治具4は、加圧装置の加圧軸5に連結されている。加圧機構(図示なし)を作動すると、加圧軸5を通じて押え治具4がプレート積層体2を挟み込むように押圧し、プレート材1に対して所定の圧力が加わり、加圧状態が所定時間保持される。真空または不活性雰囲気を保持する加圧加熱装置内では、被接合材の上記プレート積層体2に所定条件で加圧と加熱が施されて、プレート材1は拡散接合される。なお、プレート材は、4枚に限られない。複数個のプレート積層体を用いて、各プレート積層体の間に離型部材を挿入した組立体を接合してもよい。また、
図1に示したプレート材1は、内側の2枚に流路(図示しない)を設けているため、外側の2枚よりも厚みが大きくなっている。流路の組み合わせについても
図1に示した構造に限られない。
【0020】
加圧装置は、サーボ、バネ、錘等の加圧機構を備えたものであればよい。拡散接合後に被接合材と離型部材とを容易に取り外すことができるように、拡散接合する前に離型部材の表面に離型剤を塗布してもよい。
【0021】
複数のプレート材が積層されてなる熱交換器は、プレート材によって形成された細い流路を流体が通過し、各プレート材を介して高温側流体と低温側流体との間で熱交換が行なわれる。そのため、プレート材には高温域における機械的強度(高温強度)と耐食性が良好であることが要求される。その観点から、本実施形態は、耐熱性と耐久性に優れるステンレス鋼をプレート材に使用している。また、熱交換性能を高める上で薄板形状とすることが望ましい。
【0022】
(離型部材)
本実施形態は、Siを1.5質量%以上含有する鋼材で構成された離型部材を使用することが好ましい。離型部材は、拡散接合時の被接合材と接して高温高圧下に置かれているから、高温での破損や腐食が少ないこと、被接合材と反応しないこと等が求められる。本実施形態に係る離型部材は、被接合材との反応を抑制する観点から、Si含有量の多い鋼材を用いて構成することが好ましい。
【0023】
(Si含有量)
本実施形態に係る離型部材は、Siを1.5質量%以上含有する鋼材を含むものである。Siは、易酸化元素であり、離型部材の表面に強固な酸化膜を形成する。このSi酸化膜を介して離型部材の母材と被接合材とが接触するので、離型部材と被接合材との界面における反応が阻害される。このSi酸化膜の形成により、両方の部材間での接着や界面反応が抑制されるので、拡散接合処理が終了した後に、被接合材から離型部材を小さな引き離し力で容易に取り除くことができる。また、離型部材の含有成分が被接合材の内部に浸透することも上記のSi酸化膜によって阻害されるため、被接合材のステンレス鋼が有する良好な耐熱性や耐食性を維持されるとともに、平滑な表面性状が維持される。このような観点から、離型部材は、Siを1.5質量%以上含有する鋼材を含むことが好ましい。
【0024】
また、離型部材の表面にSi酸化膜が形成されても、外的負荷や熱的膨張収縮等による離型部材の形状変化が過大であると、当該酸化膜の部分的破壊が生じる可能性がある。そのときは、被接合材と離型部材とは、当該酸化膜を介さないで密着する箇所が生じるため、両部材の離型性が低下する恐れがある。その観点からも安定で強固な酸化膜を形成できるように、一定以上のSi量を含有する鋼材を離型部材に適用することが望ましい。
【0025】
高温環境における機械的強度や耐食性を考慮すると、本実施形態に係る離型部材の構成材料は、耐熱性、耐久性、成形性等に優れるオーステナイト系ステンレス鋼材が好適であり、具体的には、次の組成を有する鋼材を使用できる。
【0026】
(1)C:0.1質量%以下、Si:1.5〜5.0質量%、Mn:2.5質量%以下、P:0.06質量%以下、S:0.02質量%以下、Ni:8.0〜15.0質量%、Cr:13.0〜23.0質量%、N:0.2質量%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼材。
【0027】
(2)さらに、上記(1)の組成に、Mo:3.0質量%以下、Cu:4.0質量%以下、Nb:0.8質量%以下、Ti:0.5質量%以下、V:1.0質量%以下、B:0.02質量%以下から選択される1種以上を含むステンレス鋼材。
【0028】
(3)さらに、上記(1)または(2)の組成に、Al:0.2質量%以下、REM:0.2質量%以下、Y:0.2質量%以下、Ca:0.1質量%以下、Mg:0.1質量%以下から選択される1種以上を含むステンレス鋼材。
【0029】
上記のステンレス鋼材の含有成分について説明する。
【0030】
Cは、固溶強化により鋼の強度、硬さを向上させる。他方、C含有量が多くなると、鋼の加工性、靱性を低下させるため、C含有量は、0.1質量%以下が好ましい。
【0031】
Siは、上述したとおり、離型部材表面において強固な酸化膜を形成させるために配合され、1.5質量%以上含有することが好ましい。形成されたSi酸化膜により、離型部材と被接合材との界面における反応が阻害されるので、拡散接合後に被接合材から離型部材を小さな引き離し力で容易に取り除くことができる。また、Si酸化膜により、離型部材の含有成分が被接合材の内部に浸透することが阻害されるので、被接合材が有する良好な耐熱性や耐食性が維持されるとともに、平滑な表面性状が維持される。Si含有量が1.5質量%未満であると、酸化膜形成による上記の効果を十分に得られない。なお、5.0質量%を超えて添加しても、上記の効果がほぼ飽和する一方で、硬化により適度な加工性が得られなくなるので、5.0質量%以下で含有すればよい。
【0032】
Mnは、高温酸化特性を向上させる元素である。過多に含有されると、加工硬化して加工性を低下させるため、Mn含有量は、2.5質量%以下が好ましい。
【0033】
Crは、不働態被膜を形成して耐食性を付与する元素であり、耐食性の向上をもたらす。13.0質量%未満では、その効果が十分でない。23.0質量%を超えると、加工性が低下する。そのため、Cr含有量は、13.0〜23.0質量%が好ましい。
【0034】
Niは、オーステナイト相を安定化して耐食性を維持するに必須の元素であり、加工性にも効果的である。8.0質量%未満では、これらの効果が十分でなく、また、15.0質量%を超えると、その効果が飽和しコスト高となることから、Ni含有量は、8.0〜15.0質量%が好ましい。
【0035】
PおよびSは、不可避的不純物として混入する。その含有量は、低いほど望ましく、加工性や材料特性に悪影響を与えない範囲で、P含有量が0.06質量%以下、S含有量が、0.02質量%以下がそれぞれ好ましい。
【0036】
Nは、オーステナイト安定元素として有効であり、さらにCr、Niとともに、ステンレス鋼の高温強度、耐食性を向上させる。一方で、過剰に添加すると、製造性を低下させることから、N含有量は、0.2質量%以下が好ましい。
【0037】
Mo、Cuは、高温強度、耐食性の向上に寄与する元素である。Mo含有量、Cu含有量は、いずれも0.02質量%以上が好ましい。一方で、Moを過多に含有させると、フェライト相を形成して加工性を低下させる可能性があるので、Mo含有量は、3.0質量%以下が好ましい。Cuを過多に含有させると、熱間加工性を低下させる要因となるので、Cu含有量は、4.0質量%以下が好ましい。
【0038】
Nb、Ti、Vは、高温強度の向上に有効である。Nb含有量は、0.01質量%以上が好ましく、Ti含有量は、0.01質量%以上が好ましく、V含有量は、0.01質量%以上が好ましい。一方で、各元素を過多に含有させると、加工性を低下させるので、Nb含有量は、0.8質量%以下が好ましく、Ti含有量は、0.5質量%以下が好ましく、V含有量は、1.0質量%以下が好ましい。
【0039】
Bは、熱間加工性を改善する元素である。B含有量は、0.0002質量%以上が好ましい。一方で、過多に添加すると、ホウ化物が析出し、加工性を低下させるので、B含有量は、0.02質量%以下が好ましい。
【0040】
Mo、Cu、Nb、Ti、VおよびBから選択される1種以上を添加してもよい。
【0041】
Al、REM(希土類元素)、Y、Ca、Mgは、耐高温酸化性の向上に有効であり、これらの元素から選択される1種以上を添加してもよい。Al含有量は、0.001質量%以上が好ましく、REM含有量は、0.001質量%以上が好ましく、Y含有量は、0.0002質量%以上が好ましく、Ca含有量は、0.0002質量%以上が好ましく、Mg含有量は、0.0002質量%以上が好ましい。しかし、各元素を過剰に含有させると、加工性を低下させるので、Al含有量は、0.2質量%以下が好ましく、REM含有量は、0.2質量%以下が好ましく、Y含有量は、0.2質量%以下が好ましく、Ca含有量は、0.1質量%以下が好ましく、Mg含有量は、0.1質量%以下が好ましい。
【0042】
離型部材の形状は、被接合材の形状に応じて適宜選択される。プレート式熱交換器のプレート材は、一般に板状であるから、それに接して配置される離型部材は、離型板として使用される。板厚は、2〜10mmが好ましく、3〜8mmがより好ましい。
【0043】
(高温強度比)
さらに、本実施形態は、離型部材の1000℃における高温強度(Fr)と被接合材の1000℃における高温強度(Fp)との比(Fr/Fp)が0.9以上である、被接合材と離型部材との組み合わせを用いて拡散接合を行うことが好ましい。
【0044】
離型部材は、拡散接合時に被接合材と押し治具との間に挟まれて高圧高温下に曝されているので、離型部材の高温強度が低いと、変形を生じることがある。離型部材が変形すると、それが接する被接合材に対する加圧の均一性が損なわれて、接合部の不良を招く可能性がある。そこで、本実施形態は、拡散接合時の標準的な処理温度として用いられる1000℃での高温強度に基づいて、離型部材の高温特性を検討した。
【0045】
具体的には、離型部材の1000℃における高温強度(Fr)と被接合材の1000℃における高温強度(Fp)との比(Fr/Fp)に基づいて評価した。離型部材は、1000℃における高温強度比(Fr/Fp)が0.9以上である鋼材を用いると好ましい。離型部材の高温強度が被接合材の高温強度に比して0.9未満であると、離型部材は、押え治具による加圧に対して過度な変形が起きる可能性がある。離型部材の変形により、被接合材に対する加圧状態が不均一となり、被接合材の変形を招く恐れがある。そのため、変形を抑制する観点から、当該高温強度比が0.9以上である離型部材と被接合材との組み合わせを用いることが好ましく、1.0以上がより好ましい。
【0046】
(熱膨張係数比)
被接合材と離型部材は、30℃〜1000℃における離型部材の熱膨張係数(Tr)と被接合材の熱膨張係数(Tp)との比(Tr/Tp)が0.90〜1.60である組み合わせを用いることが好ましい。被接合材と離型部材は、いずれも加熱時に熱膨張すると弾性変形が生じる。双方の部材に熱膨張差が存在すると、双方が互いの変形を拘束し合うことで歪みが蓄積されて、歪み量の程度によっては塑性変形に至る可能性がある。
【0047】
とくに、熱交換器において熱媒体流路(中空部)を形成する被接合材は、片面側で離型部材と接触していても、反対面側では非接合面となり得る部分を有している。被接合材の接合面が重なり合う箇所では周囲から拘束された状態にあるのに対し、上記のような中空部は、周囲から拘束されていないので、熱膨張による弾性変形が生じる(
図3の(B)を参照)。この弾性変形の程度が過大であると、塑性変形に至って形状の復元が困難となる可能性がある。
【0048】
高温強度比が小さい離型部材を使用する場合は、離型部材の変形抵抗性がプレート材に比べて低いので、被接合材および離型部材における双方の熱膨張係数が同程度であることが好ましい。本実施形態では、この熱的特性に関して、離型部材の熱膨張係数(Tr)と被接合材の熱膨張係数(Tp)との比(Tr/Tp)に基づいて評価できる。高温強度比の小さい離型部材を使用する場合は、当該熱膨張係数比(Tp/Tr)は、1.0を中心として±5%の範囲、すなわち、0.95〜1.05であるとよい。
【0049】
(平均冷却速度)
拡散接合における加熱後の平均冷却速度は、1.2℃/min未満であることが好ましい。被接合材と離型部材は、拡散接合時には熱膨張する一方で、拡散接合後の冷却過程において熱収縮して元の形状に復元される。被接合材と離型部材との間に熱膨張差が存在すると、冷却時の収縮変化を双方部材が拘束し合うため、歪みが蓄積される。この収縮変化が過度の大きさになると、塑性変形を招く可能性がある。そこで、本実施形態は、拡散接合が終了した後の平均冷却速度に着目した。1.2℃/min未満の平均冷却速度で処理すると、冷却後に残存する変形量を抑制することができる。それ以上の冷却速度であると、熱収縮変化が大きくなり、冷却後に残存する変形量が大きくなり好ましくない。上記の平均冷却速度は、拡散接合時の保持温度から400℃程度までの温度範囲で制御すればよい。
【0050】
(押え治具)
押え治具は、加圧装置の加圧機構に連結されて、被接合材に対して押圧力を伝える部材である。拡散接合時の温度において耐熱性があって破損しないことが求められるので、押え治具にはカーボン材を用いることが好ましい。
【0051】
(離型剤)
本発明は、離型部材の両面には離型剤を塗布することが好ましい。例えば、六方晶窒化ホウ素粉末(h−BN)等のボロンナイト(窒化ホウ素)系スプレーを使用できる。離型剤の塗布厚みは、離型剤粉末の平均粒度(例えば約3μm程度)の3倍以上(約10μm程度)であればよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、適宜変更して実施できる。
【0053】
(試験材の作製)
表1に示す成分組成を有する残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼材No.1〜鋼材No.9を、30kgの真空溶解で溶製し、得られた鋼塊を厚み30mmの板に鍛造した。次いで、1200℃の熱間圧延を行い、厚み6mmの熱延板とした後、1100℃で60秒の均熱焼鈍を施して熱延焼鈍板を得た。当該熱延焼鈍板を厚み3.0mmまで冷間圧延を行った後、1100℃で均熱30秒の最終焼鈍を施し、最終仕上板厚を3mmとし、表面仕上げ処理を2B仕上または2D仕上で行い、冷延焼鈍板を得た。また、プレートに使用した鋼材5および6については、さらに、冷間圧延、焼鈍を施し、最終仕上板厚を0.4mmおよび1.0mmとし、表面仕上げ処理を2Bまたは2D仕上げで行い、冷延焼鈍材を得た。当該冷延焼鈍板から、210mm×160mmの寸法で板を切り出して試験材を作製した。これらの試験材を被接合材または離型部材に係る試験に供した。
【0054】
鋼材No.1〜鋼材No.5は、オーステナイト系ステンレス鋼である。鋼材No.6〜鋼材No.9は、フェライト系ステンレス鋼である。
【0055】
【表1】
【0056】
(高温強度の測定)
得られた試験材を用いて、JIS G 0567に準拠し、1000℃の温度において歪速度:0.3%/minの高温引張試験を行い、0.2%耐力を測定した。本明細書では、この測定値を1000℃における高温強度とした。その測定結果を表1に示す(単位:MPa)。そして、測定された数値に基づき、離型部材の高温強度(Fr)と被接合材の高温強度(Fp)との比(Fr/Fp)を算出した。その結果を表2に示す。
【0057】
(熱膨張係数の測定)
得られた試験材を用いて、JIS Z 2285に準拠し、示差膨張分析装置(株式会社リガク製、赤外線加熱式熱膨張測定装置(TMA)、標準試料:石英)により昇温速度1℃/秒で30℃〜1000℃に加熱した。その際の試験片の膨張量を測定し、30℃〜1000℃での熱膨張係数(α30−1000℃)として算出した。その測定結果を表1に示す(単位:×10
−6/℃)。
【0058】
(接合試験)
被接合材(プレート材)の試験材4枚と離型部材(離型板)の試験材1枚とを組み合わせた試験組立体を作製した。表2に示すように、本試験においては、プレート材として鋼材No.5からなる4枚の試験材を使用した。流路になる開口を有する2枚のプレート材(厚み1.0mm/枚)の試験材を使用し、離型部材には鋼材No.1〜No.5からなる厚み3.0mmの試験材を重ねて、その2枚のプレート材を挟むように、上記の開口を有しない伝熱板としての2枚のプレート材(厚み0.4mm/枚)を配置した。押え治具にはカーボン製治具を用いた。離型剤として六方晶窒化ホウ素粉末(株式会社YKイノアス製ボロンスプレー)を離型部材の両面に塗布した。ホットプレス装置により、上記の試験組立体に対して以下の加圧条件および加熱条件で拡散接合処理を施した。
【0059】
・雰囲気: 初期真空度を1×10
−2Pa以下
・接合温度: 1080℃
・昇温時間: 常温から接合温度まで約2時間
・均熱(接合)時間: 3時間
・平均冷却速度: 1080℃から400℃までを、3.2℃/min(Aパターン)、または1.1℃/min(Bパターン)
・加圧力: 面圧2MPa
【0060】
図2に、上記拡散接合処理に適用された加熱および冷却のパターンを示す。
図2のAパターン、Bパターンは、平均冷却速度を変更した上記の2パターンを示している。常温まで冷却した後、試験組立体をホットプレス装置から取り出し、変形抑制および離型性に関して以下の評価試験を行った。
【0061】
(変形抑制に関する評価)
変形抑制に関しては、拡散接合されたプレート材の変形量に基づいて評価した。当該変形量を測定する手法を説明する。
図3は、試験組立体の断面を示した模式図である。
図3の(A)は、拡散接合前の状態であり、4枚のプレート材11a〜11dと2枚の離型板13とを組み合わせた試験組立体14を、カーボン製の押え治具15で挟んだ状態で加圧される形態を示している。
図3の(B)は、拡散接合後の試験組立体14の状態を示している。拡散接合後の試験組立体14における空洞部16側に面したプレート材11a,11dは、空洞部側以外を離型板3、他のプレート材11b,11cで拘束されているので、加熱時に膨張すると空洞部側に屈曲するように変形する。冷却時の収縮変化によっても形状が復元しなければ、屈曲形状として残存する。離型板3に接したプレート材11a,11dの面を基準にして変形した最も高い箇所の高さ17を測定し、そのうち最大の数値を求めた。本明細書では、この数値をプレート材の変形量という。この変形量に基づいて、拡散接合後の変形状態を評価した。上記の高さ17は、コムズ製の高速3次元形状システムを用いて測定した。変形抑制の観点から、変形量が30μm未満であるときを良好(◎)、30μm〜50μmであるときを適正(○)、50μm超であるときを不適(×)と評価した。
【0062】
(離型性に関する評価)
試験組立体を用いて、接合後の離型性に関して評価するため、プレート材と離型板との剥離試験を行った。その概要を
図4に示す。引張装置(図示なし)と、ワイヤー26の先に吸盤25が取り付けられた治具を2つ用意した。拡散接合後の試験組立体24における2つの離型板23の表面に当該治具の吸盤25を取り付けた。一方の治具のワイヤー26に所定重量の錘27を連結した後、引張装置によって他方の治具のワイヤー26を引き上げた。試験組立体24の両面を錘27の重量で引っ張ることにより、プレート材21と離型板23とが剥離するか否かを目視で観察し、剥離の有無について確認した。錘27の重量を変化させて同様の手順で試験を繰り返した。評価基準に関しては、拡散接合後のプレート材と離型板とを小さい力で外せるのが望ましいことから、5kg以下の錘重量でプレート材と離型板とが剥離した場合は、離型性が良好(○)であり、20kg以下の錘重量でプレート材と離型板とが剥離した場合は、離型性がやや不足(△)であり、20kg超えの錘重量でプレート材と離型板とが剥離しない場合は、離型性が不良(×)であると判定した。
【0063】
(試験結果)
本試験では、鋼材No.5のオーステナイト系ステンレス鋼からなるプレート材、および鋼材No.6のフェライト系ステンレス鋼からなるプレート材に対して、それぞれ鋼材No.1〜No.9の各ステンレス鋼からなる離型板を組み合わせた18種の試験組立体を用いて、高温強度、熱膨張係数、変形抑制、離型性に関する試験を行った。その試験結果を表2に示す。変形抑制と離型性については、2種の加熱冷却パターンに対して、それぞれ3個の試験組立体を用いて試験を行った。変形抑制については、3個の変形量の平均値で評価した。離型性については、3個の結果の平均で評価した。
【0064】
【表2】
【0065】
本発明例1〜6は、離型板がそれぞれ鋼材No.1〜No.3で構成された試験組立体で拡散接合された例である。拡散接合後の変形量は、いずれも良好(◎)または適正(○)であって50μm以下の範囲にあり、変形が抑制された拡散接合品が得られた。本発明に相当する被接合材と離型板との組合せを用いると、拡散接合処理時の加熱と冷却による熱的膨張収縮が適度に進行するため、変形が抑制されたものと推測される。
【0066】
また、本発明例1〜6の離型性に関しては、プレート材と離型板とが小さい引張力で引き剥がされた。本発明に相当する被接合材と離型板との組合せを用いると、拡散接合後の被接合材から容易に離型板を取り外すことができた。離型板の表面に形成されたSi酸化膜により、被接合材と離型板との界面反応が阻害され、両部材の接着が抑制されて離型性が向上したものと推測される。
【0067】
さらに、拡散接合後の平均冷却速度が、3.2℃/min(Aパターン)、1.1℃/min(Bパターン)で行った結果を本発明例1〜6でみると、平均冷却速度の小さいBパターンで冷却された試験組立体は、Aパターンによる試験組立体に比べて変形抑制が向上していた。冷却速度が小さいと、熱収縮変化の程度が緩和されるため、歪み蓄積が少なくなり、変形が抑制されたものと推測される。
【0068】
それに対し、比較例1〜12は、鋼材No.4〜No.9から構成される離型板を使用したものである。比較例1〜12は、離型板の鋼材のSi含有量が1.5質量%未満であり、本発明の範囲外である。いずれも離型性は、やや不足(△)または不適(×)であり、拡散接合後の取り外しが困難であった。
【0069】
さらに、比較例3〜6、10、12は、高温強度比が0.9未満であるため、拡散接合後の変形が大きく、拡散接合後の変形抑制に関して不適(×)であった。
【0070】
上記の試験結果によると、Siを1.5質量%以上含有する鋼材を含む離型部材を用いると共に、離型部材の1000℃における高温強度(Fr)と被接合材の1000℃における高温強度(Fp)との比(Fr/Fp)が0.9以上である、被接合材と離型部材との組み合わせを用いて拡散接合することにより、ステンレス鋼板からなる被接合材であっても、拡散接合性を維持したまま、被接合材の変形が抑制され、拡散接合処理後の離型性にも優れる熱交換器の製造方法を提供できる。