特許第6890453号(P6890453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6890453
(24)【登録日】2021年5月27日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20210607BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20210607BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   B60T8/17 A
   B60T8/17 B
   B60T13/74 G
   B60T17/18
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-71356(P2017-71356)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-172033(P2018-172033A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2019年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】日立Astemo上田株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛将
(72)【発明者】
【氏名】小比賀 俊博
(72)【発明者】
【氏名】古賀 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】豊田 博充
(72)【発明者】
【氏名】小寺 晴大
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達也
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【審査官】 羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−196295(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/002450(WO,A1)
【文献】 特開2008−095909(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0065816(US,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102014204287(DE,A1)
【文献】 特開2001−138882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
B60T 8/32−8/96
B60T 13/00−17/22
F16D 49/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦パッドをロータ側に押圧するための電動アクチュエータを複数備える前輪用の電動ブレーキと、前記電動アクチュエータを少なくとも1つ備える後輪用の電動ブレーキと、前記電動アクチュエータを駆動するドライバと、相互に接続された複数のコントローラを備える制御装置と、を備える車両用ブレーキシステムにおいて、
前記ドライバは、前記前輪用の各前記電動アクチュエータを駆動する複数の前輪用ドライバと、前記後輪用の前記電動アクチュエータを駆動する後輪用ドライバと、を含み、
前記複数のコントローラは、前記複数の前輪用ドライバを制御する複数の第1のコントローラと、前記後輪用ドライバを制御する第2のコントローラと、を含み、
それぞれの前記第1のコントローラは、前記前輪用の前記電動ブレーキの制動力と、前記後輪用の前記電動ブレーキの制動力とを演算する制動力演算部を含み、
前記第2のコントローラは、前記制動力演算部の制動力演算結果に基づいて前記ドライバを制御するドライバ制御部を含むことを特徴とする、車両用ブレーキシステム。
【請求項2】
請求項1において、
前記複数の第1のコントローラは、マスタコントローラとサブコントローラとを含み、
前記マスタコントローラは、前記前輪用ドライバを制御するドライバ制御部を含み、
前記サブコントローラは、前記前輪用ドライバを制御するドライバ制御部を含むことを特徴とする、車両用ブレーキシステム。
【請求項3】
請求項2において、
前記前輪用ドライバは、前記マスタコントローラの前記ドライバ制御部によって制御可能な第1のドライバと、前記サブコントローラの前記ドライバ制御部によって制御可能な第2のドライバと、を含み、
前記マスタコントローラは、さらに車両の挙動を制御する挙動制御部を含むことを特徴とする、車両用ブレーキシステム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、
前記複数の第1のコントローラ及び前記第2のコントローラのうち少なくともいずれか1つを含む制御装置を複数含むことを特徴とする、車両用ブレーキシステム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、
前記車両用ブレーキシステムは、4輪車用であり、
前記第2のコントローラは、
左側後輪用の前記電動ブレーキの前記後輪用ドライバを制御する左側後輪用のコントローラと、
右側後輪用の前記電動ブレーキの前記後輪用ドライバを制御する右側後輪用のコントローラと、
を含むことを特徴とする、車両用ブレーキシステム。
【請求項6】
請求項2において、
前記マスタコントローラと前記サブコントローラと前記第2のコントローラとは、それぞれ別の制御装置に配置され、
前記マスタコントローラが配置される前記制御装置には、ブレーキペダルのストロークシミュレータ及びストロークセンサが一体に設けられることを特徴とする、車両用ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ブレーキを備えた車両用ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
多数の制御装置と多数のマイクロコンピュータ(以下「マイコン」という)を搭載した電動ブレーキシステムが提案されている(特許文献1)。このシステムでは、中央制御装置と各車輪用の制御装置とを備え、全ての制御装置の主マイコンがセンサ等からの検出信号に基づいて目標加圧力を演算することができる。このシステムでは、目標加圧力を演算可能なマイコンを多数搭載するため、システム全体のコストが高くなる傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−138882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電動ブレーキを備えた車両用ブレーキシステムであって、低コストを実現する車両用ブレーキシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
本適用例に係る車両用ブレーキシステムは、
摩擦パッドをロータ側に押圧するための電動アクチュエータを複数備える前輪用の電動ブレーキと、前記電動アクチュエータを少なくとも1つ備える後輪用の電動ブレーキと、前記電動アクチュエータを駆動するドライバと、相互に接続された複数のコントローラを備える制御装置と、を備える車両用ブレーキシステムにおいて、
前記ドライバは、前記前輪用の各前記電動アクチュエータを駆動する複数の前輪用ドライバと、前記後輪用の前記電動アクチュエータを駆動する後輪用ドライバと、を含み、
前記複数のコントローラは、前記複数の前輪用ドライバを制御する複数の第1のコントローラと、前記後輪用ドライバを制御する第2のコントローラと、を含み、
それぞれの前記第1のコントローラは、前記前輪用の前記電動ブレーキの制動力と、前記後輪用の前記電動ブレーキの制動力とを演算する制動力演算部を含み、
前記第2のコントローラは、前記制動力演算部の制動力演算結果に基づいて前記ドライバを制御するドライバ制御部を含むことを特徴とする。
【0007】
本適用例に係る車両用ブレーキシステムによれば、第2のコントローラは制動力演算部が不要であるため、第2のコントローラに安価なコントローラを採用することができ、車両用ブレーキシステムの低コスト化を図ることができる。
【0008】
[適用例2]
上記適用例に係る車両用ブレーキシステムにおいて、
前記複数の第1のコントローラは、マスタコントローラとサブコントローラとを含み、
前記マスタコントローラは、前記前輪用ドライバを制御するドライバ制御部を含み、
前記サブコントローラは、前記前輪用ドライバを制御するドライバ制御部を含むことができる。
【0009】
本適用例に係る車両用ブレーキシステムによれば、前輪用の電動ブレーキの冗長化を達成することができる。また、本適用例に係る車両用ブレーキシステムによれば、マスタコントローラとサブコントローラとを用いることにより制御のバリエーションを増やすことができる。
【0010】
[適用例3]
上記適用例に係る車両用ブレーキシステムにおいて、
前記前輪用ドライバは、前記マスタコントローラの前記ドライバ制御部によって制御可能な第1のドライバと、前記サブコントローラの前記ドライバ制御部によって制御可能な第2のドライバと、を含み、
前記マスタコントローラは、さらに車両の挙動を制御する挙動制御部を含むことができる。
【0011】
本適用例に係る車両用ブレーキシステムによれば、サブコントローラの第2のドライバとは別にマスタコントローラの第1のドライバを設けることで前輪用の電動ブレーキの冗長化を図ることができる。また、本適用例に係る車両用ブレーキシステムによれば、前輪用の電動ブレーキに対して緻密な制動制御を実行でき、制御性の向上を図ることができる。
【0012】
[適用例4]
上記適用例に係る車両用ブレーキシステムにおいて、
前記複数の第1のコントローラ及び前記第2のコントローラのうち少なくともいずれか1つを含む制御装置を複数含むことができる。
【0013】
本適用例に係る車両用ブレーキシステムによれば、複数の制御装置に分けてコントローラを配置することで、1つの制御装置あたりの発熱量を抑えることができる。また、本適用例に係る車両用ブレーキシステムによれば、複数の制御装置に分けてコントローラを配置することで、車両への搭載性を向上することができる。
【0014】
[適用例5]
上記適用例に係る車両用ブレーキシステムにおいて、
前記車両用ブレーキシステムは、4輪車用であり、
前記第2のコントローラは、
左側後輪用の前記電動ブレーキの前記後輪用ドライバを制御する左側後輪用のコントローラと、
右側後輪用の前記電動ブレーキの前記後輪用ドライバを制御する右側後輪用のコントローラと、
を含むことができる。
【0015】
本適用例に係る車両用ブレーキシステムによれば、後輪の左右それぞれにコントローラを設けることで、後輪用の電動ブレーキの冗長化を図ることができる。
【0016】
[適用例6]
上記適用例に係る車両用ブレーキシステムにおいて、
前記マスタコントローラと前記サブコントローラと前記第2のコントローラとは、それぞれ別の制御装置に配置され、
前記マスタコントローラが配置される前記制御装置には、ブレーキペダルのストロークシミュレータ及びストロークセンサが一体に設けられることができる。
【0017】
本適用例に係る車両用ブレーキシステムによれば、マスタコントローラが配置される制御装置にストロークシミュレータ及びストロークセンサが一体的に設けられることで、車両用ブレーキシステムの省スペース化を図るとともに、車両への搭載性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る車両用ブレーキシステムを示す全体構成図である。
図2】本実施形態に係る車両用ブレーキシステムのマスタコントローラ、第1、第2サブコントローラ及び第1、第2スレーブコントローラを示すブロック図である。
図3】変形例1に係る車両用ブレーキシステムを示す全体構成図である。
図4】変形例1に係る車両用ブレーキシステムのマスタコントローラ、第1、第2サブコントローラ及び第3スレーブコントローラを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。この説明に用いる図面は説明の便宜上のものである。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0020】
本実施形態に係る車両用ブレーキシステムは、摩擦パッドをロータ側に押圧するための電動アクチュエータを複数備える前輪用の電動ブレーキと、前記電動アクチュエータを少なくとも1つ備える後輪用の電動ブレーキと、前記電動アクチュエータを駆動するドライバと、相互に接続された複数のコントローラを備える制御装置と、を備える車両用ブレーキシステムにおいて、前記ドライバは、前記前輪用の各前記電動アクチュエータを駆動する複数の前輪用ドライバと、前記後輪用の前記電動アクチュエータを駆動する後輪用ドライバと、を含み、前記複数のコントローラは、前記複数の前輪用ドライバを制御する複数の第1のコントローラと、前記後輪用ドライバを制御する第2のコントローラと、を含み、それぞれの前記第1のコントローラは、前記前輪用の前記電動ブレーキの制動力と、前記後輪用の前記電動ブレーキの制動力とを演算する制動力演算部を含み、前記第2のコントローラは、前記制動力演算部の制動力演算結果に基づいて前記ドライバを制御するドライバ制御部を含むことを特徴とする。
【0021】
1.車両用ブレーキシステム
図1及び図2を用いて本実施形態に係る車両用ブレーキシステム1について詳細に説明する。図1は本実施形態に係る車両用ブレーキシステム1を示す全体構成図であり、図2は本実施形態に係る車両用ブレーキシステム1のマスタコントローラ30、第1、第2サブコントローラ40,41及び第1、第2スレーブコントローラ50,51を示すブロック図である。
【0022】
図1に示すように、車両用ブレーキシステム1は、図示しない摩擦パッドをロータ側に押圧するための電動アクチュエータであるモータ80〜85を少なくとも1つ備える電動ブレーキ16a〜16dと、モータ80〜85を駆動するドライバ60〜65と、相互に接続された複数のコントローラを備える制御装置11〜15と、を備える。
【0023】
図示しないロータは、4輪車である車両VBの各車輪Wa〜Wdに設けられて車輪Wa〜Wdと一体に回転する。なお、車両VBは4輪車に限られない。また、1つの電動ブレーキに対して複数のモータを備えていてもよいし、1つの車輪に複数の電動ブレーキを備えていてもよい。
【0024】
複数のコントローラは、車輪Wa,Wb(前輪)用の電動ブレーキ16a,16bのドライバ60〜63を制御する第1のコントローラ(30,40,41)と、車輪Wc,Wd(後輪)用の電動ブレーキ16c、16dのドライバ64,65を制御する第2のコン
トローラ(50,51)と、を含む。
【0025】
図1及び図2に示すように、第1のコントローラ(30,40,41)は、車輪Wa,Wb(前輪)用の電動ブレーキ16a,16bの制動力と、車輪Wc,Wd(後輪)用の電動ブレーキ16c,16dの制動力とを演算する制動力演算部302,402,412を含む。第2のコントローラ(50,51)は、制動力演算部302,402,412の制動力演算結果に基づいてドライバ64,65を制御するドライバ制御部500,510を含む。第2のコントローラ(50,51)は制動力演算部302,402,412が不要であるため、第2のコントローラ(50,51)に安価なコントローラを採用することができ、車両用ブレーキシステム1の低コスト化を図ることができる。なお、第1のコントローラ(30,40,41)及び第2のコントローラ(50,51)については、下記「1−3.制御装置」で詳細に説明する。
【0026】
1−1.電動ブレーキ
前輪左側(FL)の車輪Waに設けられる電動ブレーキ16aは、ブレーキキャリパ5aと、ブレーキキャリパ5aに減速機4aを介して固定されたモータ80,81と、モータ80,81によって図示しない摩擦パッドに加えられる荷重を検出する荷重センサ6aと、を備える。モータ80は、自身のステータに対する回転軸の相対位置を検出する回転角センサ90を備える。モータ81は、モータ80と同軸であるため回転角センサは不要である。荷重センサ6aの検出信号は、第1サブコントローラ40に入力され、回転角センサ90の検出信号は、ドライバ60,61に入力される。
【0027】
前輪右側(FR)の車輪Wbに設けられる電動ブレーキ16bは、ブレーキキャリパ5bと、ブレーキキャリパ5bに減速機4bを介して固定されたモータ82,83と、モータ82,83によって図示しない摩擦パッドに加えられる荷重を検出する荷重センサ6bと、を備える。モータ82は、自身のステータに対する回転軸の相対位置を検出する回転角センサ92を備える。モータ83は、モータ82と同軸であるため回転角センサは不要である。荷重センサ6bの検出信号は、第2サブコントローラ41に入力され、回転角センサ92の検出信号は、ドライバ62,63に入力される。
【0028】
後輪左側(RL)の車輪Wcに設けられる電動ブレーキ16cは、ブレーキキャリパ5cと、ブレーキキャリパ5cに減速機4cを介して固定されたモータ84と、モータ84によって図示しない摩擦パッドに加えられる荷重を検出する荷重センサ6cと、を備える。モータ84は、自身のステータに対する回転軸の相対位置を検出する回転角センサ94を備える。荷重センサ6cの検出信号は、第1スレーブコントローラ50に入力され、回転角センサ94の検出信号は、ドライバ64に入力される。
【0029】
後輪右側(RR)の車輪Wdに設けられる電動ブレーキ16dは、ブレーキキャリパ5dと、ブレーキキャリパ5dに減速機4dを介して固定されたモータ85と、モータ85によって図示しない摩擦パッドに加えられる荷重を検出する荷重センサ6dと、を備える。モータ85は、自身のステータに対する回転軸の相対位置を検出する回転角センサ95を備える。荷重センサ6dの検出信号は、第2スレーブコントローラ51に入力され、回転角センサ95の検出信号は、ドライバ65に入力される。
【0030】
ブレーキキャリパ5a〜5dは、略C字型に形成されて図示しないロータを跨いで反対側へ延びる爪部が一体的に設けられている。
【0031】
減速機4a〜4dは、ブレーキキャリパ5a〜5dに固定されて、モータ80〜85の回転によって発生したトルクをブレーキキャリパ5a〜5dに内蔵された図示しない直動機構に伝える。
【0032】
直動機構は、電動ブレーキにおいて公知の機構を採用することができる。直動機構は、モータ80〜85の回転を減速機4a〜4dを介して摩擦パッドの直線運動に変換する。直動機構は、摩擦パッドをロータに押し付けて車輪Wa〜Wdの回転を抑制する。
【0033】
モータ80〜85は、公知の電動モータを採用することができ、例えばブラシレスDCモータである。モータ80〜85の駆動により、減速機4a〜4d及び直動機構を介して摩擦パッドを移動させる。電動アクチュエータとしてモータを採用した例について説明するが、これに限らず、他の公知のアクチュエータを採用してもよい。
【0034】
1−2.入力装置
車両用ブレーキシステム1は、制御装置10と、入力装置であるブレーキペダル2と、ブレーキペダル2に接続されたストロークシミュレータ3と、を含む。ブレーキペダル2は、運転者のブレーキペダル2の操作量を検出する第2ストロークセンサ21及び第3ストロークセンサ22を備える。ストロークシミュレータ3は、ブレーキペダル2の操作量を検出する第1ストロークセンサ20を備える。
【0035】
制御装置10には、ストロークシミュレータ3及び第1〜第3ストロークセンサ20〜22が一体に設けられる。制御装置10は、後述するマスタコントローラ30が配置される制御装置11に対し一体に固定される。したがって、ストロークシミュレータ3及び第1〜第3ストロークセンサ20〜22が制御装置11に制御装置10を介して一体に設けられる。マスタコントローラ30が配置される制御装置11にストロークシミュレータ3及び第1〜第3ストロークセンサ20〜22が一体的に設けられることで、車両用ブレーキシステム1の省スペース化を図るとともに、車両VBへの搭載性を向上することができる。
【0036】
各ストロークセンサ20〜22は、ブレーキペダル2の操作量の一種である踏込ストローク及び/または踏力に対応した電気的な検出信号を互いに独立して発生させる。第1ストロークセンサ20は後述するマスタコントローラ30へ検出信号を送信し、第2ストロークセンサ21は後述する第1サブコントローラ40へ検出信号を送信し、第3ストロークセンサ22は後述する第2サブコントローラ41へ検出信号を送信する。
【0037】
車両VBは、車両用ブレーキシステム1への入力装置として、車両用ブレーキシステム1以外のシステムに設けられた複数の制御装置(以下「他の制御装置1000」という)を備える。他の制御装置1000は、CAN(Controller Area Network)によって制御装置11のマスタコントローラ30及び制御装置12の第1サブコントローラ40に接続され、相互にブレーキ操作に関する情報を通信する。
【0038】
1−3.制御装置
車両用ブレーキシステム1は、複数(例えば5つ)の制御装置11〜15を含む。5つの制御装置によって別々の制御を行うことで車両用ブレーキシステム1の冗長化を達成することができる。制御装置11〜15は、それぞれ独立して車両VBの所定位置に配置される。制御装置11〜15は、電子制御ユニット(ECU)である。制御装置11〜15のそれぞれは、合成樹脂製の筐体に収容される。なお、制御装置を5つ用いた例について説明するが、車両VBにおける配置及び冗長性を考慮して制御装置の数を変更してもよい。
【0039】
5つの制御装置11〜15の間はCANによって接続され、通信が行われる。CANの通信においては、一方向および双方向の情報の送信が行われる。なお、ECU間の通信は、CANに限定されない。
【0040】
5つの制御装置11〜15は、互いに独立した3つのバッテリ100,101,102と電気的に接続される。バッテリ100,101,102は、5つの制御装置11〜15が備える電子部品に電力を供給する。車両用ブレーキシステム1のバッテリ100,101,102は、車両VBの所定の位置に配置される。
【0041】
上述した通り、第1のコントローラ(30,40,41)は、車輪Wa,Wb(前輪)用の電動ブレーキ16a,16bのドライバ60〜63を制御するコントローラであり、第2のコントローラ(50,51)は、車輪Wc,Wd(後輪)用の電動ブレーキ16c、16dのドライバ64,65を制御するコントローラである。第1のコントローラは、マスタコントローラ30とサブコントローラを含む。図1の車両用ブレーキシステム1では、サブコントローラは、第1サブコントローラ40及び第2サブコントローラ41である。
【0042】
図1及び図2に示すように、マスタコントローラ30は、車輪Wa,Wb(前輪)用の電動ブレーキ16a,16bのドライバ61,63を制御するドライバ制御部301を含む。第1サブコントローラ40は、車輪Wa(左側前輪)用の電動ブレーキ16aのドライバ60を制御するドライバ制御部400を含む。第2サブコントローラ41は、車輪Wb(右側前輪)用の電動ブレーキ16bのドライバ62を制御するドライバ制御部410を含む。マスタコントローラ30とサブコントローラ(第1サブコントローラ40及び/または第2サブコントローラ41)により、車輪Wa,Wb(前輪)用の電動ブレーキ16a,16bの冗長化を達成することができる。また、マスタコントローラ30とサブコントローラ(第1サブコントローラ40及び/または第2サブコントローラ41)とを用いることにより制御のバリエーションを増やすことができる。
【0043】
車輪Wa,Wb(前輪)用の電動ブレーキ16a,16bのドライバ60〜63は、マスタコントローラ30のドライバ制御部301によって制御可能な第1のドライバとしてのドライバ61,63と、第1サブコントローラ40のドライバ制御部400によって制御可能な第2のドライバとしてのドライバ60と、第2サブコントローラ41のドライバ制御部410によって制御可能な第2のドライバとしてのドライバ62と、を含む。マスタコントローラ30は、さらに車両VBの挙動を制御する挙動制御部303を含む。第1、第2サブコントローラ40,41のドライバ60,62とは別にマスタコントローラ30のドライバ61,63を設けることで車輪Wa,Wb(前輪)用の電動ブレーキ16a,16bの冗長化を図ることができる。また、第1のドライバ(61,63)と第2のドライバ(60,62)とによって、車輪Wa,Wb(前輪)用の電動ブレーキ16a,16bに対して緻密な制動制御を実行でき、制御性の向上を図ることができる。
【0044】
第1のコントローラ(30,40,41)及び第2のコントローラ(50,51)のうち少なくともいずれか1つを含む制御装置(11〜15)を複数(5つ)含むことができる。複数の制御装置(11〜15)に分けてコントローラを配置することで、1つの制御装置あたりの発熱量を抑えることができる。すなわち、マイクロコンピュータの発熱による電子機器への影響を低減することができる。また、複数の制御装置(11〜15)に分けてコントローラを配置することで、車両VBへの搭載性を向上することができる。制御装置11〜15が小型化できれば、車両VBへの搭載が容易になるからである。
【0045】
マスタコントローラ30とサブコントローラ(第1、第2サブコントローラ40,41)と第2のコントローラ(50,51)とは、それぞれ別の制御装置(11〜15)に配置される。
【0046】
車両用ブレーキシステム1は、4輪車用である。第2のコントローラ(50,51)は
、車輪Wc(左側後輪)用の電動ブレーキ16cのドライバ64を制御する車輪Wc(左側後輪)用のコントローラ(50)と、車輪Wd(右側後輪)用の電動ブレーキ16dのドライバ65を制御する車輪Wd(右側後輪)用のコントローラ(51)と、を含む。車輪Wc,Wd(後輪)の左右それぞれにコントローラ(50,51)を設けることで、車輪Wc,Wd(後輪)用の電動ブレーキ16c,16dの冗長化を図ることができる。
【0047】
車輪Wc(左側後輪)用のコントローラは第1スレーブコントローラ50であり、車輪Wd(右側後輪)用のコントローラは第2スレーブコントローラ51である。
【0048】
制御装置11はマスタコントローラ30を備え、制御装置12は、第1サブコントローラ40を備え、制御装置13は第2サブコントローラ41を備え、制御装置14は第1スレーブコントローラ50を備え、制御装置15は第2スレーブコントローラ51を備える。
【0049】
マスタコントローラ30、第1、第2サブコントローラ40,41及び第1、第2スレーブコントローラ50,51はそれぞれ、マイクロコンピュータである。各コントローラについて以下詳細に説明する。
【0050】
マスタコントローラ30は、ドライバ61,63を制御するドライバ制御部301と、電動ブレーキ16a〜16dの制動力を演算する制動力演算部302と、車両VBの挙動を制御する挙動制御部303と、を含む。マスタコントローラ30は、挙動制御部303(挙動制御部303については後述する)を設けるために高い性能が必要となり、第1、第2サブコントローラ40,41及び第1、第2スレーブコントローラ50,51に比べて比較的高価なコントローラとなる。
【0051】
第1サブコントローラ40は、ドライバ60を制御するドライバ制御部400と、電動ブレーキ16a〜16dの制動力を演算する制動力演算部402と、を含む。第2サブコントローラ41は、ドライバ62を制御するドライバ制御部410と、電動ブレーキ16a〜16dの制動力を演算する制動力演算部412と、を含む。第1、第2サブコントローラ40,41は、挙動制御部を備えない分、マスタコントローラ30より安価なマイクロコンピュータを採用できるため、低コスト化に貢献する。
【0052】
第1スレーブコントローラ50は、制動力演算部を有しておらず、マスタコントローラ30及び第1、第2サブコントローラ40,41の少なくとも1つのコントローラの制動力演算結果に基づいてドライバ64を制御するドライバ制御部500を含む。第2スレーブコントローラ51は、制動力演算部を有しておらず、マスタコントローラ30及び第1、第2サブコントローラ40,41の少なくとも1つのコントローラの制動力演算結果に基づいてドライバ65を制御するドライバ制御部510を含む。第1スレーブコントローラ50及び第2スレーブコントローラ51は、制動力演算部を有していないため、第1、第2サブコントローラ40,41に比べて比較的安価なマイクロコンピュータを採用することができる。
【0053】
ドライバ60〜65は、モータ80〜85の駆動を制御する。具体的には、ドライバ60はモータ80の駆動を制御し、ドライバ61はモータ81の駆動を制御し、ドライバ62はモータ82の駆動を制御し、ドライバ63はモータ83の駆動を制御し、ドライバ64はモータ84の駆動を制御し、ドライバ65はモータ85の駆動を制御する。ドライバ60〜65は、モータ80〜85を例えば正弦波駆動方式によって制御する。また、ドライバ60〜65は、正弦波駆動方式に限らず、例えば矩形波の電流で制御してもよい。
【0054】
ドライバ60〜65は、ドライバ制御部301,400,410,500,510の指
令に応じた電力をモータ80〜85に供給する電源回路及びインバータを備える。
【0055】
制動力演算部302,402,412は、ブレーキペダル2の操作量に応じた各ストロークセンサ20〜22の検出信号に基づいて制動力(要求値)を算出する。また、制動力演算部302,402,412は、他の制御装置1000からの信号に基づいて制動力(要求値)を算出することができる。
【0056】
ドライバ制御部301,400,410,500,510は、制動力演算部302,402,412が算出した制動力(要求値)と、荷重センサ6a〜6dの検出信号とに基づいてドライバ60〜65を制御する。ドライバ60〜65は、ドライバ制御部301,400,410,500,510からの指令に従ってモータ80〜85に駆動用の正弦波電流を供給する。モータ80〜85に供給された電流は、電流センサ70〜75によって検出される。
【0057】
挙動制御部303は、車両VBの挙動を制御するための信号をドライバ制御部301,400,410,500に出力する。通常のブレーキペダル2の操作に応じた単純な制動以外の挙動であり、例えば、車輪のロックを防ぐ制御であるABS(Antilock Brake System)、車輪Wa〜Wdの空転を抑制する制御であるTCS(Traction Control System)、車両VBの横滑りを抑制する制御である挙動安定化制御である。
【0058】
マスタコントローラ30及び第1、第2サブコントローラ40,41は、他のコントローラの制動力演算結果を比較して制動力を決定する判定部304,404,414を含む。マスタコントローラ30及び第1、第2サブコントローラ40,41が判定部304,404,414を有することにより、制動力演算結果に応じてコントローラ(30,40,41)を使い分けることにより、車両用ブレーキシステム1の冗長化を実現できる。
【0059】
判定部304,404,414は、他のコントローラの制動力演算結果を比較して制動力を決定する。他のコントローラとは、判定部304にとっては第1サブコントローラ40及び第2サブコントローラ41であり、判定部404にとってはマスタコントローラ30及び第2サブコントローラ41であり、判定部414にとってはマスタコントローラ30及び第1サブコントローラ40である。例えば、判定部304,404,414は、マスタコントローラ30の制動力演算部302における演算結果と、第1サブコントローラ40の制動力演算部402における演算結果と、第2サブコントローラ41の制動力演算部412における演算結果とを比較し、多数決によっていずれの演算結果を制動力として採用するかを判定する。例えば、制動力演算部402の演算結果だけが他の演算結果と異なれば、制動力演算部302及び制動力演算部412の演算結果に基づいてマスタコントローラ30がドライバ61及びドライバ63を制御する。すなわち、判定部304,404,414により、車両用ブレーキシステム1を冗長化させている。
【0060】
2.変形例1
図3及び図4を用いて変形例1に係る車両用ブレーキシステム1aについて説明する。図3は変形例1に係る車両用ブレーキシステム1aを示す全体構成図であり、図4は変形例1に係る車両用ブレーキシステム1aのマスタコントローラ30、第1、第2サブコントローラ40、41及び第3スレーブコントローラ52を示すブロック図である。以下の説明において、図1及び図2の車両用ブレーキシステム1と同じ構成については図3及び図4でも同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0061】
図3及び図4に示すように、車両用ブレーキシステム1aは、4つの制御装置11〜13,16を含む。
【0062】
変形例1に係る車両用ブレーキシステム1aでは、図1及び図2における車輪Wc,Wd(後輪)の制動を実行する第2のコントローラとして、第1、第2スレーブコントローラ50,51の代わりに第3スレーブコントローラ52が配置され、2つの制御装置14,15の代わりに1つの制御装置16を備える。制御装置16は、第3スレーブコントローラ52、ドライバ64,65及び電流センサ74,75を備える。第3スレーブコントローラ52は、ドライバ64,65を制御するドライバ制御部520を備える。
【0063】
第2のコントローラを1つの第3スレーブコントローラ52としたことで、車両用ブレーキシステム1a全体を簡素化して低コスト化を実現できる。また、第3スレーブコントローラ52は、制動力演算部を有していないため、第1、第2サブコントローラ40,41に比べて比較的安価なマイクロコンピュータを採用することができる。
【0064】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0065】
1,1a…車両用ブレーキシステム、2…ブレーキペダル、3…ストロークシミュレータ、4a〜4d…減速機、5a〜5d…ブレーキキャリパ、6a〜6d…荷重センサ、10〜16…制御装置、16a〜16d…電動ブレーキ、20…第1ストロークセンサ、21…第2ストロークセンサ、22…第3ストロークセンサ、30…マスタコントローラ、301…ドライバ制御部、302…制動力演算部、303…挙動制御部、304…判定部、40…第1サブコントローラ、400…ドライバ制御部、402…制動力演算部、404…判定部、41…第2サブコントローラ、410…ドライバ制御部、412…制動力演算部、414…判定部、50…第1スレーブコントローラ、500…ドライバ制御部、51…第2スレーブコントローラ、510…ドライバ制御部、52…第3スレーブコントローラ、520…ドライバ制御部、60〜65…ドライバ、70〜75…電流センサ、80〜85…モータ、90,92,94,95…回転角センサ、100〜102…バッテリ、1000…他の制御装置、VB…車両、Wa〜Wd…車輪
図1
図2
図3
図4