(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
貫通孔を有する平板状の鋼板を積層した積層鋼板からなるロータコアを、圧入または焼き嵌めにより前記貫通孔にシャフトを挿通させることによって前記シャフトに固定する電動モータのロータ製造方法において、
前記ロータコアを形成する前記積層鋼板を第1グループと第2グループとに分割し、
前記第1グループを前記シャフトに固定する際に、前記積層鋼板の内周縁と外周縁とで前記シャフトの軸方向への押し込み量を異ならせることによって、前記内周縁と前記外周縁との前記シャフトの軸方向における相対位置がずれるように前記第1グループを変形させ、
前記第2グループを前記シャフトに固定する際に、前記第2グループを前記シャフトの軸方向において前記第1グループの前記外周縁が前記内周縁よりも突出する側から押し込み、かつ、前記第2グループの内周縁と外周縁とで前記シャフトの軸方向への押し込み量を異ならせることによって前記外周縁が前記内周縁よりも前記第1グループ側に突出するように前記第2グループを変形させ、
前記ロータコアを、対向する前記第1グループの端面と前記第2グループの端面の前記外周縁同士が当接する状態で前記シャフトに固定することを特徴とする電動モータのロータ製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、電動モータのロータの概略構成図である。
【
図3】
図3は、ロータ製造装置の一例を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、別のロータ製造装置の動作を説明する為の第1の図である。
【
図5B】
図5Bは、別のロータ製造装置の動作を説明する為の第2の図である。
【
図5C】
図5Cは、別のロータ製造装置の動作を説明する為の第3の図である。
【
図6A】
図6Aは、さらに別のロータ製造装置の動作を説明する為の第1の図である。
【
図6B】
図6Bは、さらに別のロータ製造装置の動作を説明する為の第2の図である。
【
図6C】
図6Cは、さらに別のロータ製造装置の動作を説明する為の第3の図である。
【
図6D】
図6Dは、さらに別のロータ製造装置の動作を説明する為の第4の図である。
【
図6E】
図6Eは、さらに別のロータ製造装置の動作を説明する為の第5の図である。
【
図6F】
図6Fは、さらに別のロータ製造装置の動作を説明する為の第6の図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の第1の変形例を示す図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態の第2の変形例を示す図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態の第3の変形例を示す図である。
【
図10】
図10は、冷却経路を備える電動モータのロータの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、「軸方向」とはシャフト3の回転軸に沿った方向を意味する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、電動モータのロータ1の一例を示す概略構成図である。電動モータは
図1に示すロータ1と、ステータコア及びコイルからなるステータ(図示せず)を有する。
【0011】
ロータ1は、永久磁石4の保持及び磁路の形成をするロータコア2と、ロータコア2の保持及び動力の伝達をするシャフト3とを有する。
【0012】
ロータコア2は、薄板鋼板を複数枚積層した積層鋼板2A、2Bからなる。積層鋼板2A、2Bは、シャフト3を挿通するための貫通孔5と永久磁石4を挿入するための貫通孔6とを備える。各貫通孔は、積層する前の薄板鋼板にプレス加工等を施すことによって設ける。
【0013】
永久磁石4は、ロータコア2に設けた磁石挿入孔に接着剤または樹脂モールド等により固定される。
【0014】
積層鋼板2A、2Bは、圧入や焼き嵌め等のいわゆる収縮締結によってシャフト3に固定される。
【0015】
ところで、一般的には積層鋼板2A、2Bを一体とした状態でシャフト3を圧入等する。その際に、積層鋼板2A、2Bには軸方向への変形が生じ易い。このため、積層鋼板2A、2Bの内周縁を設計通りの軸方向位置に固定しても、外周縁は内周縁に対して軸方向にずれる。その結果、ロータ1を電動モータに組み込んだときにロータ1とステータとの軸方向の相対位置にずれが生じて、モータ出力の低下を招くおそれがある。また、積層鋼板2A、2Bの変形量及び変形方向は製造する電動モータ毎に異なるので、ロータコア2の軸方向寸法のばらつきを考慮すると電動モータの軸方向寸法の増大を招く。
【0016】
そこで本実施形態では、ロータコア2の軸方向への変形量を抑制するために、以下に説明する方法でロータ1を製造する。
【0017】
図2Aは、本実施形態にかかる製造方法で製造したロータ1をシャフト3の軸方向から見た図、
図2Bは
図2AのII−II線に沿った断面図である。なお、
図2A、
図2Bは、ロータコア2が第1グループとしての積層鋼板2A及び第2グループとしての積層鋼板2Bからなる場合について示している。また、
図2A、
図2Bでは永久磁石4を省略している。
【0018】
図2Bにおける破線は、積層鋼板2Aと積層鋼板2Bとの分割界面である。
【0019】
積層鋼板2A、2Bは、いずれも平板状の鋼板を積層したものなので、シャフト3に固定する前の断面形状は長方形である。しかし、本実施形態では
図2Bに示す通り、積層鋼板2A、2Bを外周縁が内周縁よりもシャフト3の軸方向において分割界面方向に突出するように変形させ、外周縁同士が分割界面で当接する状態でシャフト3に固定されている。
【0020】
図3は、積層鋼板2A、2Bをシャフト3に固定するための装置の一例を示す図である。
【0021】
装置100は、押し型12と、押し型12を進退動作させる駆動源としてのモータ10と、モータ10と押し型12とを連結するロッド11と、を備える。モータ10、ロッド11及び押し型12を1セットとした場合、装置100は積層鋼板2Aの内周縁側を押圧するセットと、積層鋼板2Aの外周縁側を押圧するセットと、積層鋼板2Bの内周縁側を押圧するセットと、積層鋼板2Bの外周縁側を押圧するセットと、を備える。
【0023】
図4A〜
図4Cは、積層鋼板2A、2Bとシャフト3を装置100にセットした状態から、積層鋼板2A、2Bがシャフト3に固定されるまでを示す図である。なお、
図4A〜
図4Cでは、モータ10及びロッド11を省略している。
【0024】
図4Aに示す通り、積層鋼板2Aと積層鋼板2Bを、シャフト3を挟んで対向するように配置する。このとき、積層鋼板2A、2Bの貫通孔5とシャフト3とが同軸上に並ぶように配置する。
【0025】
上記の通り配置したら、
図4Bに示す通り、全ての押し型12を作動させて、積層鋼板2A、2Bをそれぞれシャフト3の両端から圧入する。このとき、内周縁側の押し型12と外周縁側の押し型12は同じ速度で移動する。
【0026】
そして、
図4Cに示す通り、積層鋼板2A、2Bの内周縁が分割界面から所定量離れた位置に達したら、内周縁側を押圧する押し型12は停止させ、外周縁側を押圧する押し型12は、積層鋼板2A、2Bの外周縁同士が当接するまで作動させる。
【0027】
すなわち、積層鋼板2Aを第1グループ、積層鋼板2Bを第2グループとしたとき、第1グループは、外周縁側が内周縁側よりも押し型12による押し込み量が多く、シャフト3の軸方向において外周縁が内周縁に対して分割界面側に突出するように変形する。一方の第2グループは、第1グループと対向する側、つまり第1グループの外周縁が内周縁よりも突出する側からシャフト3に圧入される。第2グループも第1グループと同様に外周縁側が内周縁側よりも押し型12による押し込み量が多く、その結果、第2グループの外周縁側は内周縁側に対して第1グループ側に突出するよう変形する。そして、第1グループと第2グループは、対向する第1グループの端面と第2グループの端面の外周縁同士が当接する状態でシャフト3に固定される。
【0028】
これにより、
図2Bに示した形状のロータコア2が形成される。
【0029】
なお、
図2Bや
図4Cでは、本実施形態を理解し易くするために積層鋼板2Aの内周縁と積層鋼板2Bの内周縁との間隔を広くとっているが、実際にはこれよりも大幅に狭い間隔とする。
【0030】
上記の製造方法によれば、積層鋼板2A、2Bがそれぞれ一定方向に変形するので、変形量のばらつきを低減できる。さらに、積層鋼板2A、2Bの変形方向は互いに反発する方向であり、かつ互いの外周縁同士が当接するので、互いの反発力によってロータコア2のシャフト3の軸方向への変形が抑制される。その結果、ロータ1とステータとの相対位置のずれに起因するモータ出力の低下を抑制できる。
【0031】
なお、装置100は
図3に示したものに限られるわけではない。例えば、
図3の装置100における押し型12に代えて、
図5A〜
図5Cに示すように、テーパー状の押し型12を用いてもよい。この場合でも、積層鋼板2A、2Bの内周縁と外周縁との押し込み量を異ならせて、
図2Bに示した形状のロータコア2を形成することが可能である。
【0032】
また、積層鋼板2Aと積層鋼板2Bとをシャフト3の両側から押し込む場合に限られるわけではない。例えば、
図6A〜
図6Fに示す通り、積層鋼板2Aと積層鋼板2Bとをシャフト3に対して同じ側から押し込んでもよい。具体的には、まず積層鋼板2Aをシャフト3の一端側から押し込む(
図6A、
図6B)。このとき、積層鋼板2Aの外周縁が分割界面に到達したら、外周縁側の押し型12は作動を停止し、内周縁側の押し型12は外周縁が分割界面から所定量離れるまで作動を継続する(
図6C)。外周縁側の押し型12の作動が停止したら、積層鋼板2Bをセットして、押し込みを開始する(
図6D、
図6E)。積層鋼板2Bを押し込む際には、内周縁側の押し型12は内周縁が分割界面よりも所定量手前に達したら作動を停止し、外周縁側の押し型12は外周縁が分割界面に達するまで、つまり積層鋼板2Bの外周縁が積層鋼板2Aの外周縁と当接するまで作動する(
図6F)。
【0033】
以上により本実施形態では、第1グループとしての積層鋼板2Aをシャフト3に固定する際に、積層鋼板2Aの内周縁と外周縁とでシャフト3の軸方向への押し込み量を異ならせることによって、内周縁と外周縁との軸方向における相対位置がずれるように第1グループを変形させる。また、第2グループとしての積層鋼板2Bをシャフト3に固定する際に、軸方向において第1グループの外周縁が内周縁よりも突出する側から押し込み、かつ、内周縁と外周縁とで軸方向への押し込み量を異ならせることで、外周縁が内周縁よりも第1グループ側に突出するよう第2グループを変形させる。そして、対向する第1グループの端面と第2グループの端面の外周縁同士が当接する状態でロータコア2をシャフト3に固定する。これにより、第1グループと第2グループとが分割界面を挟んで軸方向に互いに反発する方向に変形した状態でシャフト3に固定されるので、互いの反活力でロータコア2の軸方向の変形を抑制できる。その結果、ロータ1の軸方向寸法の増大や、ロータコア2とステータとの軸方向における相対位置のずれに起因するモータ出力の低下を抑制できる。
【0034】
また、本実施形態では、
図6A〜
図6Fに示す工程を1セットとして、このセットを複数回繰り返してもよい。これによっても、上述したロータ1の軸方向寸法の増大や、ロータコア2とステータとの軸方向における相対位置のずれに起因するモータ出力の低下を抑制できる。
【0035】
なお、本実施形態では、ロータコア2を2分割して、第1グループを積層鋼板2A、第2グループを積層鋼板2Bとする場合について説明したが、分割数は2より多くても構わない。例えば、
図7に示すように、ロータコア2を4つの積層鋼板2A〜2Dに分割し、積層鋼板2A、2Bを第1グループ、積層鋼板2C、2Dを第2グループとしてもよい。また、
図8に示すように、ロータコア2を3つの積層鋼板2A〜2Cに分割し、積層鋼板2A、2Bを第1グループ、積層鋼板2Cを第2グループとしてもよい。すなわち、ロータコア2の分割数をnとした場合に、分割数が偶数のときは各グループにn/2個の積層鋼板を分配し、分割数が奇数のときは一方のグループには(n−1)/2個、他方のグループには{(n−1)/2}+1個の積層鋼板を分配する。
【0036】
また、ロータコア2を2以上に分割し、
図6A〜
図6Fの工程で固定される2つの積層鋼板を1セットとして、当該工程を繰り返し実行してもよい。例えば分割数が4の場合には、
図9に示すように、積層鋼板2Aと積層鋼板2Bとからなるセットと、積層鋼板2Cと積層鋼板2Dとからなるセットとが、シャフト3の軸方向に並ぶこととなる。この場合も、各セットで上述した軸方向への変形を抑制する効果が得られるので、ロータコア2全体としても軸方向への変形が抑制される。
【0037】
(第2実施形態)
図10は、電動モータのロータ1の他の例を示す概略構成図である。このロータ1は、ロータコア2の軸方向の両端に配置される一対のエンドプレート21と、ロータコア2及びエンドプレート21を軸方向の両側から挟みこんで固定する一対のリテーナ20とを備える。さらに、ロータ1はモータ回転時の永久磁石4の発熱による減磁を抑制するための冷却経路を備える。
【0038】
冷却経路は、シャフト内通路22と、一方のエンドプレート21に設けられた第1エンドプレート内通路23と、積層鋼板内通路24と、他方のエンドプレート21に設けられた第2エンドプレート内通路25と、で構成される。シャフト内通路22はシャフト3の一方の端面と側面とに開口部を有する。第1エンドプレート内通路23は、一方のエンドプレート21のロータコア2と対向する面に設けられた溝状の通路であり、シャフト内通路22及び後述する積層鋼板内通路24と連通する。積層鋼板内通路24は、各積層鋼板2A〜2Dをシャフト3に固定した状態でロータコア2の一端から他端まで貫通する。第2エンドプレート内通路25は、他方のエンドプレート21を貫通し、かつ積層鋼板内通路24と連通する。
【0039】
冷却剤はシャフト内通路22の端面側の開口部から供給され、シャフト内通路22、第1エンドプレート内通路23、積層鋼板内通路24を通過して、第2エンドプレート内通路25から外部に排出される。
【0040】
上記のような構成において、各積層鋼板2A〜2Dの間に隙間があると、冷却剤が冷却経路から漏れてしまい、十分な冷却効果が得られなくなる。そこで本実施形態では、以下に説明する方法でロータ1を製造する。
【0041】
まず、第1実施形態で説明した
図4A〜
図4Cの工程を実施する。その後、
図11に示す通り内周縁側の押し型12を分割界面の方向に所定量だけ作動させる。
図4Cの状態で既に積層鋼板2A、2Bは外周縁同士が当接しているので、内周縁側の押し型12をさらに分割界面方向に作動させることによって、積層鋼板2Aと積層鋼板2Bがより内周縁側まで接触して密着性が向上する。なお、ここでいう所定量は、内周縁同士が当接しない範囲内の大きさであればよい。内周縁同士が当接しなければ、第1グループと第2グループとが互いに反発する方向に変形するので、第1実施形態で説明した効果が得られるからである。
【0042】
そして、
図12に示す通り、ロータコア2の軸方向両側からエンドプレート21、リテーナ20を取り付ける。なお、リテーナ20に代えてナットを用いてもよい。
【0043】
なお、
図11、
図12では永久磁石4、シャフト内通路22、第1エンドプレート内通路23、及び第2エンドプレート内通路25を省略している。
【0044】
上記の通り積層鋼板2Aと積層鋼板2Bとの密着性をより高めることにより、積層鋼板2Aの積層鋼板内通路24と積層鋼板2Bの積層鋼板内通路24との間における冷却剤の漏れを抑制できる。
【0045】
以上の通り本実施形態では、第1実施形態と同様の効果に加え、さらに次の効果が得られる。
【0046】
本実施形態では、外周縁同士が当接した後、第1グループ及び第2グループの内周縁を互いに近づくように所定量だけ押し込む。これにより、第1グループと第2グループとの密着度をより高めることができ、冷却通路からの冷却剤の漏れを抑制できる。
【0047】
また本実施形態では、シャフト3の、当接する第1グループ及び第2グループの両側に、リテーナ20またはナット等の止め部材を装着する。これにより、第1グループと第2グループとの間隔が広がることを防止できる。
【0048】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。