(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なノズルから液滴として噴射し、ノズルに対向して置かれた記録媒体に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとして、水を主溶媒として含有する水性インク、重合性モノマーを主成分として高い含有量で含有する紫外線硬化型インク(UVインク)、ワックスを主成分として高い含有量で含有するホットメルトインク(固体インク)とともに、非水系溶剤を主溶媒として含有する、いわゆる非水系インクが知られている。非水系インクは、主溶媒が揮発性有機溶剤であるソルベントインク(溶剤系インク)と、主溶媒が低揮発性あるいは不揮発性の有機溶剤である油性インク(オイル系インク)に分類できる。ソルベントインクは主に有機溶剤の蒸発によって記録媒体上で乾燥するのに対して、油性インクは記録媒体への浸透が主となって乾燥する。
油性インクは、記録媒体として紙を用いた場合、紙の構成成分であるパルプの繊維間結合に対する影響が小さいために、印刷後の紙のカールやコックリングが発生し難く、また、紙への浸透が速いために見かけ上の乾燥性に優れる。さらに、溶媒が揮発し難いため、ノズルにおける目詰まりが生じにくく、ヘッドクリーニングの頻度を少なくできるため、高速印刷への対応が可能であるという利点を有する。
【0003】
インクジェットプリンターにおいて、インクジェットノズルからの吐出部を備えるノズルプレートは、一般的にポリイミド等の樹脂製品から形成される。通常ノズルプレートは、フッ素コート処理されて撥インク性が付与される。
ノズルプレートに対してインクが濡れやすいと、ノズルプレートにインクが付着しやすくなって、ノズルの吐出部をふさいで、インクの不吐出や吐出不良につながることがある。
インクに顔料とともに顔料分散剤が含まれる場合には、ノズルプレートへインクがより付着しやすくなり特に問題になる。
【0004】
一方、油性インクジェットインクでは、各成分の酸化を防止するために、酸化防止剤が配合されることがある。この酸化防止剤の一つにヒンダードフェノール系酸化防止剤がある。
特許文献1(特開2011−225714
号公報)及び特許文献2(再公表2011/122062
号公報)には、ゲル化剤、樹脂、及び非水系溶媒を含むゲルオイルインクジェットインクにおいて、酸化重合を防止するために、ヒンダードフェノール系化合物等の酸化防止剤を配合してもよいことが開示されている。
【0005】
特許文献3(特開2015−28098
号公報)、特許文献4(特開2007−291253
号公報)及び特許文献5(特開2005−290035
号公報)には、油性インクの各成分の酸化を防止するために酸化防止剤を配合してもよいことが開示され、酸化防止剤の一例として、ジ−n−ブチルヒドロキシトルエン(BHT)やブチルヒドロキシアニソール(BHA)等のヒンダードフェノール系化合物が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を一実施形態を用いて説明する。以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
一実施形態による油性インクジェットインク(以下、単に「インク」と称することがある。)としては、顔料、非水系溶剤、及び下記一般式(1)で表される化合物(以下、単に「化合物(1)」と称することがある。)を含むことを特徴とする。
【0014】
(一般式(1)において、mは1または2であり、R
1及びR
2はそれぞれ独立的に1価の飽和炭化水素基であり、R
3は単結合、または2価の飽和炭化水素基であり、R
4は1価又は2価の飽和炭化水素基である。)
これによれば、インクジェットノズルからのインクの不吐出や吐出不良を防ぐために、ノズルプレートへのインクの付着を防止することができる。また、このインクは、顔料及び非水系溶剤等の各成分を限定することなくノズルプレートへのインクの付着を防止することができ、貯蔵安定性が良好であり、また、高画像濃度の印刷物を提供することができる。
【0015】
インクジェット記録方式において、ノズルプレートは、一般的にポリイミド等の基材にフッ素樹脂等からなる撥インク性の硬化膜が施されており、インクをはじきやすくなっている。ノズルプレートがインクをはじくため、液切れをよくして飛行曲がりを防止することができる。ノズルプレートにインクが付着すると、飛行曲がり、液だれ、不吐出等の原因となる。
ノズルプレートに顔料の表面官能基(スルホ基やカルボキシ基等)が配向することで、ノズルプレートに顔料が吸着し、インクが付着しやすくなる。また、顔料粒子がノズルプレート表面を研磨してノズルプレートの硬化膜が剥がれ落ちる等すると基材が露出して、よりインクが付着するようになる。また、クリーニング処理によってノズルプレートをワイピングブレードで擦ることで硬化膜が剥がれ落ちやすくなり、インクの付着がさらに問題になる。
さらに、インクに顔料分散剤が含まれる場合には、遊離の顔料分散剤の官能基(アミノ基等)がノズルプレートに配向し、顔料分散剤とともに顔料がノズルプレートにより吸着しやすくなり、インクの付着が問題になる。
【0016】
化合物(1)がインクに含まれることで、顔料の表面官能基や遊離の顔料分散剤の官能基が不活性化されて、ノズルプレートへの顔料及び顔料分散剤の吸着を抑制することができる。すなわち、ノズルプレートに対するインクの濡れ性を低下させることができ、ノズルプレートへのインクの付着を防止することができる。
化合物(1)がヒンダードフェノール部位とともにエステル結合(−COO−)を有することで、上記した効果を得ることができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の代表例であるBHTは、ヒンダードフェノール部位を有するが、エステル結合を有さないため、ノズルプレートに対するインクの濡れ性を低下させる効果が得にくい。
また、化合物(1)がヒンダードフェノール部位を1個又は2個有することで、上記した効果を得ることができる。ヒンダードフェノール部位を3個以上有する化合物では、ノズルプレートに対するインクの濡れ性を低下させる効果が得にくい。
このように、本発明では、化合物(1)がヒンダードフェノール部位とともにエステル結合を有し、ヒンダードフェノール部位が1個又は2個であるという特定の構造を有することで、ノズルプレートに対するインクの濡れ性を低下させることができる。
【0017】
インクには、一般式(1)で表される化合物(化合物(1))を配合することができる。
一般式(1)において、mは1または2である。
m=1の場合、ヒンダードフェノールエステル部位が1個となり、R
4が1価の飽和炭化水素基である。m=2の場合、ヒンダードフェノールエステル部位が2個となり、R
4が2価の飽和炭化水素基であり、R
4を介して2個のヒンダードフェノールエステル部位が結合する。ノズルプレートに対するインクの濡れ性を低減する観点からm=1がより好ましい。
【0018】
R
1及びR
2はそれぞれ独立的に1価の飽和炭化水素基であり、直鎖または分岐鎖
であってもよく、互いに同一であっても異なってもよい。
R
1及びR
2の炭素数はそれぞれ独立的に1以上であってよく、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上である。一方、R
1及びR
2の炭素数はそれぞれ独立的に20以下であることが好ましく、より好ましくは10以下であり、さらに好ましくは6以下である。
R
1及びR
2の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基(C10)、エイコシル基(C20)等のアルキル基を挙げることができる。
【0019】
R
1及びR
2の一方又は両方は、
分岐を有する1価の飽和炭化水素基であることが好ましく、例えばイソプロピル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基であることが好ましく、より好ましくはtert−ブチル基である。一層好ましくはR
1及びR
2の両方がtert−ブチル基である。化合物(1)がtert−ブチル基のような嵩高い構造を有することで、立体障害が大きくなり、顔料の表面官能基や遊離の顔料分散剤の官能基がより不活性化されて、ノズルプレートへの顔料及び顔料分散剤の吸着をさらに防止することができる。
【0020】
R
3は単結合、または2価の飽和炭化水素基であり、2価の飽和炭化水素基は直鎖または分岐鎖
であってもよい。
R
3の炭素数は1以上であることが好ましく、より好ましくは2以上である。一方、R
3の炭素数は20以下であることが好ましく、より好ましくは10以下であり、さらに好ましくは6以下である。
R
3の具体例としては、単結合、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、sec−ブチレン基、イソブチレン基、tert−ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基(C10)、エイコシレン基(C20)等のアルキレン基を挙げることができる。好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基である。
【0021】
R
4は1価または2価の飽和炭化水素基であり、直鎖または分岐鎖
であってもよい。
m=1の場合R
4は1価の飽和炭化水素基であり、m=2の場合R
4は2価の飽和炭化水素基である。
R
4で示される1価または2価の飽和炭化水素基の炭素数は、1以上であることが好ましく、より好ましくは6以上であり、10以上であってもよい。一方、R
4で示される1価または2価の飽和炭化水素基の炭素数は25以下であることが好ましく、より好ましくは20以下である。
【0022】
R
4で示される1価の飽和炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基(C10)、ウンデシル基(C11)、ドデシル基(C12)、トリデシル基(C13)、テトラデシル基(C14)、ペンタデシル基(C15)、ヘキサデシル基(C16)、ヘプタデシル基(C17)、オクタデシル基(C18)、ノナデシル基(C19)、エイコシル基(C20)、ペンタエイコシル基(C25)等のアルキル基を挙げることができる。
R
4で示される2価の飽和炭化水素基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、sec−ブチレン基、イソブチレン基、tert−ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基(C10)、ウンデシレン基(C11)、ドデシレン基(C12)、トリデシレン基(C13)、テトラデシレン基(C14)、ペンタデシレン基(C15)、ヘキサデシレン基(C16)、ヘプタデシレン基(C17)、オクタデシレン基(C18)、ノナデシレン基(C19)、エイコシレン基(C20)、ペンタエイコシレン基(C25)等のアルキレン基を挙げることができる。
これらのうちR
4は、直鎖の炭素数6以上の1価又は2価の飽和炭化水素基であることが好ましい。
【0023】
一例としては、一般式(1)において、mが1であり、R
3が2価の飽和炭化水素基であり、R
4が1価の飽和炭化水素基である化合物を用いることが好ましい。
他の例としては、一般式(1)において、mが1であり、R
1及びR
2がtert−ブチル基であり、R
3が2価の飽和炭化水素基であり、R
4が炭素数6以上の1価の飽和炭化水素基である化合物を用いることが好ましい。
これらの化合物は、ノズルプレートに対するインクの濡れ性をより低下させて、ノズルプレートへのインクの付着を効果的に防止することができる。
【0024】
化合物(1)の好ましい一例としては下記一般式(2)で表される化合物である。
【化3】
【0025】
化合物(1)のさらに好ましい一例としては下記一般式(3)で表される化合物である。
【化4】
【0026】
一般式(2)及び一般式(3)において、R
1、R
2、R
3及びR
4は上記した通りである。
【0027】
化合物(1)としては、例えば、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオン酸(「IRGANOX1076」、ケミプロ化成株式会社製「KEMIMOX76」、株式会社ADEKA製「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−50F」);
3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸 オクチル(「IRGANOX1135」);
1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート](「IRGANOX259」);
ヘキサデシル 3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート(ケミプロ化成株式会社製「KEMISORB114」、サンケミカル株式会社製「サイアソーブUV−2908」)
等を挙げることができる。かぎかっこ内は、商品名であり、IRGANOXシリーズはBASF社より入手可能である。
【0028】
化合物(1)は、種類や使用環境によって異なるが、インク全体に対し0.01質量%以上含まれることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上であり、さらに好ましくは0.1質量%以上である。これによって、ノズルプレートに対するインクの濡れ性を低下させて、ノズルプレートへのインクの付着を防ぐことができる。
特に制限されないが、インクジェット吐出性能の観点から、化合物(1)は、インク全体に対し10質量%以下含まれることが好ましく、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0029】
インクに含まれる顔料としては、例えば、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料、無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料、ジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0030】
顔料の平均粒子径は、吐出安定性と保存安定性の観点から、300nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以下である。
【0031】
顔料は、インク全体に対し、0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜15質量%であり、一層好ましくは2〜10質量%である。これによって、インクの呈色を適正にするとともに、インクの貯蔵安定性を維持することができる。
【0032】
インクには、顔料の分散安定性を高めるために、顔料分散剤を配合することができる。
顔料分散剤としては、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、ビニルピロリドンと長鎖アルケンとの共重合体、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリエステルポリアミン等が挙げられる。なかでも、高分子分散剤を使用するのが好ましい。
【0033】
顔料分散剤の市販品例としては、例えば、アイ・エス・ピー・ジャパン株式会社製「アンタロンV216(ビニルピロリドン・ヘキサデセン共重合体)」(商品名)、日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース13940(ポリエステルアミン系)、16000、17000、18000(脂肪酸アミン系)、11200、24000、28000」(いずれも商品名)、EfkaCHEMICALS社製「エフカ400、401、402、403、450、451、453(変性ポリアクリレート)、46、47、48、49、4010、4055(変性ポリウレタン)」(いずれも商品名)、楠本化成株式会社製「ディスパロンKS−860、KS−873N4(高分子ポリエステルのアミン塩)」(いずれも商品名)、第一工業製薬株式会社製「ディスコール202、206、OA−202、OA−600(多鎖型高分子非イオン系)」(いずれも商品名)、ビックケミー・ジャパン社製「DISPERBYK2155、9077」、クローダジャパン株式会社製「HypermerKD2、KD3、KD11、KD12」等が挙げられる。
顔料分散剤の含有量は、顔料を十分にインク中に分散可能な量であれば足り、適宜設定できる。例えば、質量比で、顔料1に対し顔料分散剤を0.1〜5で配合することができる。また、インク全体に対し顔料分散剤を0.1〜10質量%で配合することができる。
【0034】
顔料分散剤の中でも、カーボンブラックにはアミン系顔料分散剤が適する。これは、カーボンブラックの表面官能基に対してアミン系顔料分散剤の親和性が高いからである。一方で、アミン系顔料分散剤はアミノ基を有するため、ノズルプレートに吸着しやすい性質がある。一実施形態では、化合物(1)がインクに配合されることで、余剰の顔料分散剤のアミノ基を不活性化することができる。これによって、貯蔵安定性及び印刷物の画像濃度の改善とともに、ノズルプレートへのインクの付着を防止することができる。
【0035】
非水系溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤のいずれも使用できる。なお、一実施形態において、非水系溶剤には、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合しない非水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0036】
非極性有機溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の石油系炭化水素溶剤を好ましく挙げることができる。
脂肪族炭化水素溶剤及び脂環式炭化水素溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系等の非水系溶剤を挙げることができる。市販品としては、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、カクタスノルマルパラフィンN−10、カクタスノルマルパラフィンN−11、カクタスノルマルパラフィンN−12、カクタスノルマルパラフィンN−13、カクタスノルマルパラフィンN−14、カクタスノルマルパラフィンN−15H、カクタスノルマルパラフィンYHNP、カクタスノルマルパラフィンSHNP、アイソゾール300、アイソゾール400、テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号、ナフテゾール160、ナフテゾール200、ナフテゾール220(いずれもJXTGエネルギー株式会社製);アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(いずれもJXTGエネルギー株式会社製);モレスコホワイトP−40、モレスコホワイトP−60、モレスコホワイトP−70、モレスコホワイトP−80、モレスコホワイトP−100、モレスコホワイトP−120、モレスコホワイトP−150、モレスコホワイトP−200、モレスコホワイトP−260、モレスコホワイトP−350P(いずれも株式会社MORESCO製)等を好ましく挙げることができる。
芳香族炭化水素溶剤としては、グレードアルケンL、グレードアルケン200P(いずれもJXTGエネルギー株式会社製)、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200、ソルベッソ200ND(いずれもJXTGエネルギー株式会社製)等を好ましく挙げることができる。
石油系炭化水素溶剤の蒸留初留点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが一層好ましい。蒸留初留点はJIS K0066「化学製品の蒸留試験方法」に従って測定することができる。
【0037】
極性有機溶剤としては、脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等を好ましく挙げることができる。
例えば、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソブチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソオクチル、イソステアリン酸イソプロピル、ピバリン酸2−オクチルデシル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル等の1分子中の炭素数が13以上、好ましくは16〜30の脂肪酸エステル系溶剤;
イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、1−オクタデカノール、オレイルアルコール、イソエイコシルアルコール、デシルテトラデカノール等の1分子中の炭素数が6以上、好ましくは12〜20の高級アルコール系溶剤;
ラウリン酸、イソミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、α−リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の1分子中の炭素数が12以上、好ましくは14〜20の高級脂肪酸系溶剤等が挙げられる。
脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等の極性有機溶剤の沸点は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。なお、沸点が250℃以上の非水系溶剤には、沸点を示さない非水系溶剤も含まれる。
【0038】
これらの非水系溶剤は、単独で使用してもよく、単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、化合物(1)の溶解性を損なわず、使用する非水系溶剤と単一相を形成できる範囲で他の有機溶剤を含ませてもよい。
【0039】
上記各成分に加えて、油性インクには、本発明の効果を損なわない限り、各種添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、ノズルの目詰まり防止剤、酸化防止剤、導電率調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤等を適宜添加することができる。これらの種類は、特に限定されることはなく、当該分野で使用されているものを用いることができる。
【0040】
油性インクジェットインクとしての粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5〜30mPa・sであることが好ましく、5〜15mPa・sであることがより好ましい。
【0041】
インクは、顔料、非水系溶剤、化合物(1)を含む各成分を顔料分散剤等の任意成分とともに混合することで作製することができる。好ましくは、各成分を一括ないし分割して混合及び撹拌してインクを作製することができる。具体的には、ビーズミル等の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことにより、インクを得ることができる。
【0042】
インクジェットインクを用いた印刷方法としては、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよい。インクジェット記録装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから一実施形態によるインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を記録媒体に付着させるようにすることが好ましい。
【0043】
一実施形態において、記録媒体は、特に限定されるものではなく、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙、布、無機質シート、フィルム、OHPシート等、これらを基材として裏面に粘着層を設けた粘着シート等を用いることができる。これらの中でも、インクの浸透性の観点から、普通紙、コート紙等の印刷用紙を好ましく用いることができる。
【0044】
ここで、普通紙とは、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。普通紙は、数μm〜数十μmの太さの紙繊維が数十から数百μmの空隙を形成しているため、インクが浸透しやすい紙となっている。
【0045】
また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0047】
<インク作製>
表1及び表2に、実施例及び比較例のインク処方及び評価結果を示す。
各表に示す処方にしたがって各成分を混合し、続いて、この混合物をビーズミルにて約20分間で分散してインクを得た。
比較例1では、化合物(1)を用いなかった。比較例2〜6では、比較化合物を用いた。
【0048】
各表に示す成分は、以下の通りである。
カーボンブラック:三菱化学株式会社製「MA8」。
フタロシアニンブルー:大日精化工業株式会社製「クロモファイン4927」。
ソルスパース13940:ポリエステルアミン系顔料分散剤、日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース13940」。
エフカ450:変性ポリアクリレート系顔料分散剤、エフカケミカル社製「エフカ450」。
オレイン酸ブチル:脂肪酸エステル系溶剤、純正科学株式会社製。
エクソールD−130:石油系炭化水素溶剤、JXTGエネルギー株式会社製。
【0049】
表3に化合物(1)及び比較化合物の詳細を示す。表4に化合物(1)及び比較化合物の化学構造を示す。
【0050】
<評価方法>
上記得られた各インクを用いて、ノズルプレートに対するインクの濡れ性の評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
各インクを密閉容器に入れて、これにインクジェットヘッド用のノズルプレート(ポリイミド製)を浸し、密閉して50℃環境下で4週間保存した。その後、インクからノズルプレートをゆっくり引きだし、ノズルプレート表面へのインクの付着状態を観察し、以下の基準で評価した。
S:インクが液滴状となって弾かれる。
A:インクが弾かれない箇所が少しある。
B:インクが弾かれる箇所と、弾かれない箇所が同じぐらいある。
C:インクが濡れたままで、弾かれる箇所がない。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
各表に示す通り、各実施例のインクでは、ノズルプレートに対するインクの濡れ性の評価結果が良かった。また、各実施例のインクは、インクジェット吐出に適する粘性であり、また、印刷物の画像濃度も良好であった。
【0056】
実施例1〜4では、m=1、R
3の炭素数が2である化合物(1)を用いており、ノズルプレートに対してインクの濡れ性がより低下した。
実施例5では、m=2、2つのBHT構造がヘキシレン基を介して結合している化合物(1)を用いており、十分に効果が得られた。
実施例6では、m=1、R
3が単結合である化合物(1)を用いており、十分に効果が得られた。
実施
例7〜10の結果から、色材、分散剤、溶剤の種類によらず、化合物(1)を用いることで、効果を十分に確認することができた。
【0057】
比較例1では、化合物(1)を用いておらず、ノズルプレートに対するインクの濡れ性の評価結果が悪かった。
比較例2では、m=4であり、4つのBHT構造を有する比較化合物を用いており、結果が悪かった。比較例2の比較化合物は、非常に嵩高く、非水系溶剤に溶解しにくかった。
比較例3では、一般式(1)においてR
3−COO−R
4(エステル結合)の代わりにR
3−CONH−R
4(ペプチド結合)になる比較化合物を用いており、結果が悪かった。比較例3の比較化合物は、顔料と分散剤の結合(顔料は表面がCOOHなど酸性、分散剤がNH
3などの塩基性が多い)との親和性が低いため、撥インク性が悪いと考えられる。
比較例4では、比較化合物としてエステル化されていないBHTを用いており、結果が悪かった。比較例4の比較化合物は、非水系溶剤に溶解するものの、顔料及び分散剤との親和性が低いため、顔料及び分散剤の官能基を不活性化することができずに、ノズルプレートにインクが付着しやすくなったと考えられる。
比較例5及び6では、tert−ブチル基及びヒドロキシ基が導入されるベンゼン環を有するが、エステル結合を有さない比較化合物を用いており、結果が悪かった。