特許第6890547号(P6890547)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6890547
(24)【登録日】2021年5月27日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】繊維複合材料を製造する方法および装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/52 20060101AFI20210607BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20210607BHJP
   B29C 70/20 20060101ALI20210607BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20210607BHJP
【FI】
   B29C70/52
   C08J5/04CER
   C08J5/04CEZ
   B29C70/20
   B29K105:08
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-551684(P2017-551684)
(86)(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公表番号】特表2018-511499(P2018-511499A)
(43)【公表日】2018年4月26日
(86)【国際出願番号】EP2016056585
(87)【国際公開番号】WO2016156222
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2019年1月21日
(31)【優先権主張番号】15162335.2
(32)【優先日】2015年4月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マーク ラインハート ベアリーン
(72)【発明者】
【氏名】ウード ゾンダーマン
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−040341(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102010008100(DE,A1)
【文献】 国際公開第2012/002417(WO,A1)
【文献】 米国特許第03235437(US,A)
【文献】 特開2006−070225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C70/00−70/88
B29B11/16、15/08−15/14
C08J5/04−5/10、5/24
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維複合材料を製造する方法であって、下記のステップ、すなわち、
a)1つまたは複数の繊維束を、1つまたは複数の延展装置を介して含浸室内に引き込み、これによって、少なくとも2つの互いに上下に位置していて空間的に分割された延展された繊維ウェブを生ぜしめるステップと、
b)各2つの繊維ウェブの間にそれぞれ配置された、水平に方向付けられた分配ビームを介して、該2つの繊維ウェブの間の領域に溶融物を供給するステップと、
c)個々の前記繊維ウェブを、該繊維ウェブが互いに上下に位置しかつ互いに接触するように、まとめるステップと、
d)まとめられた前記繊維ウェブを、型の端部において引出しノズルを通して引き出し、このとき第1の形状付与を行うステップと、
を有する、繊維複合材料を製造する方法。
【請求項2】
前記ステップa)において、少なくとも2つの繊維束をそれぞれ別個に、延展装置を介して拡げ、かつ別個の開口を通して前記含浸室内に引き込む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ステップa)において、少なくとも2つの繊維束をそれぞれ別個に、延展装置を介して拡げ、かつ1つの共通の開口を通して前記含浸室内に引き込む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ステップa)において、前記繊維束を1つの延展装置を介して拡げ、かつこのときまたは次いで、適宜な装置によって、互いに上下に位置していて空間的に分割されかつ延展された複数の繊維ウェブに、分離する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記複合材料のマトリックスが、熱可塑性の成形材料、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂・熱硬化性樹脂のハイブリッド系、熱可塑性のエラストマまたは架橋されたエラストマである、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記ステップa)において、繊維ウェブを、その平均厚さがフィラメント直径の1〜50倍に相当するような値に延展させる、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記引出しノズルから出た後の得られたストランドを、カレンダ成形する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記引出しノズルから出た後の得られたストランドを、4〜60mmの長さを有する、長繊維強化されたペレットに切断する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記引出しノズルから出た後の得られたストランドは、フォイル、テープ、プレート、円形異形材、方形異形材または複雑な異形材である、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
繊維複合材料を製造する装置であって、下記の構成要素、すなわち、
a)繊維束を延展させることができ、これによって少なくとも2つの互いに上下に位置していて空間的に分割された繊維ウェブが得られるようになっている、1つまたは複数の延展装置と、
b)1つまたは複数の引込み領域と、
c)少なくとも1つの水平に方向付けられた分配ビームであって、分配ノズルを有していて、かつ前記分配ビームが分割された2つの繊維ウェブの間に位置するように、かつ前記分配ビームを用いて前記分配ノズルを介して該2つの繊維ウェブの間の領域に溶融物を供給して、溶融物を塗布することができるように、配置されている、分配ビームと、
d)内部に前記分配ビームが配置されていて、かつ前記繊維ウェブを搬送することができる、溶融物室と、
e)集合領域と、
f)引出しノズルと、
を有する、繊維複合材料を製造する装置。
【請求項11】
当該装置は、それぞれ1つの繊維束を延展させることができる少なくとも2つの延展装置と、前記延展装置と同数の引込み領域とを有している、請求項10記載の装置。
【請求項12】
当該装置は、それぞれ1つの繊維束を延展させることができる少なくとも2つの延展装置と、1つの引込み領域とを有している、請求項10記載の装置。
【請求項13】
延展装置を介して延展された繊維束を、互いに上下に位置している複数のウェブに分離することができるエレメントを有している、請求項10記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、1つまたは複数の繊維束に溶融物を含浸させることができる、繊維複合材料を製造する方法および装置である。特殊な構造によって、比較的大きなテックス数(例えば重いトウ)を有するものを含む、種々様々な繊維材料および繊維型式を加工することができる。特殊性は、極めて広い粘度範囲における強固な個別繊維含浸体に対する対応である。これによって、従来技術の通常の解決策とは異なり、高粘度の系をも加工することができる。
【0002】
溶融物含浸時における繊維束の延展は公知である。例えば欧州特許出願公開第0056703号明細書(EP 0 056 703 A1)に記載された方法では、強化繊維ロービングが、熱可塑性プラスチックの溶融物を通して引っ張られ、この溶融物内に、加熱された延展ロッドとして形成された、ロービングを延展させるための少なくとも1つの加熱された表面が浸漬している。しかしながら実際には常に複数の延展装置が必要である。しかしながら加えなくてはならない引出し力は、延展装置の数、溶融物の粘度および引出し速度と共に強く高まる。これによって生じる高い引出し力およびストランドにおける機械的な摩擦は、強化繊維を損傷し、ひいては複合材料の特性を劣化させるので、この公知の方法を使用することができる範囲は極めて小さい。さらに含浸品質ひいては製品の品質は、溶融物の粘度の上昇および引出し速度の上昇と共に低下するということがある。したがって欧州特許出願公開第0056703号明細書の方法は、30Pasまでの溶融物粘度および(0.3m/min未満の)低い引出し速度においてしか、良好な結果を得ることができない。
【0003】
低いマトリックス粘度は、比較的高い含浸作用を可能にする。粘度が高ければ高いほど、含浸作用は低下する。このような効果を和らげる可能性は、極めて低いプロセス速度による解決策において得られるか、または極めて多くの変向点を使用することによって得られるが、このような多くの変向点は、繊維損傷を高める原因となり、かつ同様にプロセスを遅延させることになる。幾つかの技術的な解決策は、マトリックス塗布のためにノズルを組み込まれた丸い変向ユニットを使用しており、このような変向ユニットを介して、延展された繊維ロービングが個々に又はウェブウエアとして引き出される。湿潤および含浸は、この場合1つのステップにおいて行われる。これによって極めて単純なプロセスまたは極めて低いマトリックス粘度のためには、十分な含浸作用を得ることができる。ローラ配置形式に応じて、ウェブ速度は制限されている。それというのは、さもないと繊維損傷が極めて強く増大するかまたは含浸作用が極めて弱くなってしまうからである。このような方法は、幾つかの特許出願の対象であり、このような特許出願としては、例えば米国特許第4059068号明細書(US 4 059 068)、米国特許第5798068号明細書(US 5 798 068)、国際公開第2009/074490号(WO 2009/074490)、米国特許第2005/0221085号明細書(US 2005/0221085)および欧州特許出願公開第0397506号明細書(EP 0 397 506 A2)が挙げられる。これとは択一的に、塗布は剛性の変向点を介して行うこともできる(欧州特許出願公開第0415517号明細書(EP 0 415 517 A1))。
【0004】
したがって本発明の課題は、上に述べた問題を解決すること、および特に、溶融物の短い滞在時間において高い含浸率を簡単に得ることができ、しかも繊維の損傷を回避し、それにもかかわらず高い引出し速度を得ることができる方法を提供することである。この方法は、特に、繊維型式における広い帯域幅においても比較的高いマトリックス粘度においても、極めて良好な含浸品質が得られることが望ましい。極めて良好な含浸品質というのは、極めて精確に分配された個別フィラメント繊維が存在し、これらの個別フィラメント繊維が理想的にはそれぞれ個々に完全にマトリックスによって取り囲まれており、かつ含浸されていないフィラメント束またはフィラメント域がほとんど存在しないことを意味する。さらにまた、製品内にはほとんど空気含有が存在しない。含浸品質は、検鏡試片または走査型電子顕微鏡写真を用いて基準通りに判定される。
【0005】
この課題は、湿潤技術と別の含浸との特殊な組合せを実現する、複合材料を製造する方法によって解決される。この方法は、下記のステップ、すなわち、
a)1つまたは複数の繊維束を、1つまたは複数の延展装置を介して含浸室内に引き込み、これによって、少なくとも2つの互いに上下に位置していて空間的に分割された延展された繊維ウェブを生ぜしめるステップと、
b)2つの繊維ウェブの間にそれぞれ配置された、水平に方向付けられた分配ビームを介して、溶融物を供給するステップと、
c)個々の繊維ウェブを、該繊維ウェブが互いに上下に位置しかつ互いに接触するように、まとめるステップと、
d)まとめられた繊維ウェブを、型の端部において引出しノズルを通して引き出し、このとき第1の形状付与を行うステップと、
を有する。
【0006】
製品は次いで、カレンダ成形されかつ冷却されることができる。
【0007】
「繊維束」というのは、多数の個別フィラメントから成る束であると理解すべきである。通常、数千の個別フィラメントが使用される。繊維束は、1つのロービングまたは複数のロービングから成っていてよく、好ましくは、繊維束は1つから最大1000までのロービングから成っており、かつ特に好ましくは、1つから最大800までのロービングから成っている。これらのロービングは、本発明に係る方法では、個々にボビンから繰り出されるかまたは引き出され、かつ延展装置の前または延展装置の始端部においてまとめられ、これによってただ1つの繊維束が形成される。「ロービング」というのは、この場合一般的に、個別フィラメントの束を意味しており、この束は、ただ1つの繊維型式から成っていても、または複数の異なる繊維型式から成っていてもよい。基本的には、十分な長さを有するすべての繊維が適しており、無機繊維、ポリマ繊維および天然繊維を使用することができる。適した繊維の例としては、金属繊維、ガラス繊維(例えばEガラス、Aガラス、Cガラス、Dガラス、ARガラス、Rガラス、S1ガラス、S2ガラスなど)、炭素繊維、金属被覆された炭素繊維、ホウ素繊維、セラミック繊維(例えばAlまたはSiO製)、玄武岩繊維、炭化ケイ素繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維(例えばポリブチレンテレフタレート製)、液晶ポリエステル繊維、ポリアクリルニトリル繊維、ならびにポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン製の繊維、ビスコース法を用いて紡糸されて通常ビスコース繊維と呼ばれるセルロース繊維、麻繊維、亜麻繊維、ジュート繊維およびこれに類したものがある。繊維の横断面は、例えば円形、方形、卵形、楕円形または繭形であってよい。円形とは異なる横断面を有する繊維(例えばフラットガラス繊維)によって、製品における比較的高い繊維充填率を、ひいては比較的高い硬度を得ることができる。
【0008】
繊維束は、延展され、かつ遅くても溶融物塗布時に互いに上下に位置している少なくとも2つのウェブが生じるように案内される。ウェブ分離は、型内において行われても、または既に型の前において行われてもよい。
【0009】
好適な実施形態では、少なくとも2つの繊維束をそれぞれ別個に、延展装置を介して拡げ、かつ別個の開口を通して含浸室内に引き込む。このようにすると、空間的に分割された2つの繊維ウェブを直に得ることができる。
【0010】
好ましくは、このとき繊維束、延展装置および引込み開口は互いに上下に配置されており、これによって繊維ウェブを変向させる必要がない。特殊な場合にはしかしながら繊維ウェブ、延展装置および引込み開口は、異なった形態で配置されていてもよく、このような場合には繊維ウェブは、適切な位置に変向される。
【0011】
別の好適な実施形態では、少なくとも2つの繊維束をそれぞれ別個に、延展装置を介して拡げ、かつ1つの共通の開口を通して含浸室内に引き込む。含浸室内への進入時に、個々の繊維ウェブは再び互いに分割される。予め分離されたウェブの分割は、開放された型内における手による挿通によって行うことができる。このことから、簡単に開放することができる少なくとも2部分から成る型が好適である。
【0012】
別の実施形態では、繊維束を1つの延展装置を介して拡げ、かつこのときまたは次いで、適宜な装置によって、互いに上下に位置していて空間的に分割されかつ延展された複数の繊維ウェブに、分離する。しかしながら、分離された繊維ウェブはこのとき変向されねばならない。次いで繊維ウェブは、含浸室内に引き込まれる。この実施形態の変化形態では、2つまたはそれ以上の繊維束がそれぞれ別個に、延展装置を介して拡げられ、このときまたは次いで、適宜な装置によってそれぞれ、互いに上下に位置していて空間的に分割されかつ延展された複数の繊維ウェブに分離され、これらのウェブは変向され、次いで含浸室内に引き込まれる。
【0013】
本発明の枠内において、これ他の種々様々の実施形態の任意の組合せも可能である。
【0014】
方法ステップa)における延展は、最終製品の幾何学形状に関連している。最終製品がテープである場合には、繊維束は比較的大きな係数だけ延展される。これに対して最終製品が比較的厚く、例えば方形または正方形の横断面を有している場合には、繊維束は、最終製品の幅に関して、比較的小さな係数だけ延展されることができ、これによって合理的な一般的な上限値を設定することはできない。最終製品の幾何学形状に応じて、延展は、それぞれ繊維束の本来の幅に関連して、好ましくは最大で係数30だけ、特に好ましくは最大で係数20だけ、特に好ましくは最大で係数14だけ、かつ極めて特に好ましくは最大で係数8だけ行うことができる。特に比較的厚い最終製品では、2つよりも多くの互いに上下に位置しているウェブをまとめることが好適であると言える。
【0015】
このとき繊維束は、その平均厚さがフィラメント直径の1〜50倍に、好ましくはフィラメント直径の1〜40倍に、特に好ましくはフィラメント直径の1.5〜35倍に、かつ極めて特に好ましくはフィラメント直径の1.8〜30倍に相当するように大きく延展される。平均化は、このとき繊維ウェブの幅にわたって行われる。円形ではない横断面を有する繊維では、フィラメント直径として最も短い横断面軸線が選択される。繊維横断面に関しては、繊維メーカのデータに従うことができる。異なる繊維の混合時には、フィラメント直径として、個別フィラメントの数に関連した算術平均が選択される。メーカのデータが利用できない場合、または異なった幾何学形状を有する同じ形式の繊維、例えば天然繊維では、平均のフィラメント直径は、走査型電子顕微鏡写真(REM写真)、測定、および個別フィラメントの数に関する算術平均の計算によって確定される。
【0016】
当業者にとっては、1つまたは複数の繊維束を延展するための適宜な延展装置が公知である。例えばそのために少なくとも1つの変向ロッドが使用される。実地においては、複数の、例えば2つ、3つまたは4つの変向ロッドが相前後して配置されている。
【0017】
複合材料のマトリックスは、熱可塑性の成形材料、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂・熱硬化性樹脂のハイブリッド系、熱可塑性のエラストマまたは架橋されたエラストマであってよい。熱可塑性の成形材料は、主成分またはただ1つの成分としての熱可塑性樹脂から成っている。別の成分は例えば、安定剤、加工助剤、顔料、防火剤、ブレンドコンポーネントとしての他の熱可塑性樹脂、衝撃改質剤またはこれに類したものであってよい。適宜な熱可塑性樹脂は、例えばポリオレフィン(ポリエチレンまたはポリプロピレンのような)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリーレートまたは液晶ポリエステルのような)、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド(PA46、PA6、PA66、PA610、PA612、PA1010、PA11、PA12のような)、部分芳香族のポリアミド(PPA)または透明のポリアミド(例えば直鎖状のまたは分枝鎖状の、脂肪族、脂環式または芳香族のジカルボン酸およびジアミンを基礎とする)、ポリアリーレンエーテルケトン(ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンまたはポリエーテルエーテルケトンケトンのような)、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチロール、スチロール、スチロール・アクリルニトリル・コポリマ(SAN)、スチロール・アクリルニトリル・ブタジエン・コポリマ(ABS)、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリイミド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンオキシドまたはフルオロポリマ(PVDFまたはETFEのような)である。熱可塑性樹脂は、通常溶融物として塗布される。この溶融物は、次いで再び除去される溶剤を含んでいてよい。しかしながらまた、その代わりにモノマを溶融物として塗布することも可能であり、このモノマは次いで現場で重合され、例えばポリアミドマトリックスを、陰イオンのラクタム重合によって生ぜしめることができる。別の変化形態では、比較的小さな分子重量を有するポリマが、カップリング剤と一緒に溶融物として塗布され、次いで含浸工程中および特にその後で連鎖の延長が実施される。
【0018】
適宜な熱硬化性樹脂は、例えば不飽和のポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、フェノール樹脂、架橋されたポリアクリレート、ポリウレタン、メラミン樹脂、ビニルエステル樹脂またはビスマレイミド樹脂である。方法ステップb)において塗布される溶融物は、この場合樹脂・硬化剤混合物またはその他の適宜な前駆物質、例えばプレポリマである。
【0019】
適宜な熱可塑性のエラストマは、例えばTPE-O(オレフィンを基礎とする熱可塑性エラストマ、例えばPP/EPDM)、TPE-V(オレフィンを基礎とする架橋された熱可塑性エラストマ、特にPP/架橋されたEPDM)、TPE-U(ポリウレタンを基礎とする熱可塑性エラストマ)、TPE-E(熱可塑性のポリエステルエラストマ)、TPE-S(スチロールブロックコポリマ、例えばSBS、SEBS、SEPS、SEEPSまたはMBS)ならびにTPE-A(ポリアミドエラストマ)である。
【0020】
適宜な架橋されたエラストマは、従来技術に相応して加硫剤、および場合によっては加硫助剤、充填剤、オイルおよびその他の添加剤を含有するゴムコンパウンドから得られる。例えばこのようなエラストマは、EPDM、スチロール/ブタジエン・ゴム、ブチルゴム、シリコンゴム、エポキシゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴムおよびこれに類したものである。
【0021】
本発明の枠内において「溶融物」という概念は、例えば、繊維束に塗布され次いでマトリックスを生ぜしめる、上に述べた流動性のすべての物質に対して使用される。
【0022】
方法ステップa)において、極めて小さな高さ構造を有する複数の繊維ウェブが生ぜしめられる。単位面積当たり重量の明瞭な低減が目的である。正確な単位面積当たり重量およびウェブの数は、後に望まれる製品構造および使用されるマトリックス材料もしくは溶融物の粘度に関連する。好ましくは、ウェブ幅は、後の製品幅に相当しているか、または湿潤工程をさらに簡単化するために、比較的高い延展が行われてもよい。複数の繊維ウェブは、一緒に1つの共通の引込み部を介してまたは別個に、含浸室内に走入する。
【0023】
湿潤工程は、それぞれの繊維ウェブの間において行われ、そこで分配体横断面が溶融物部分をもたらす。後に望まれる製品特性および使用される出発材料に関連して、1つまたは複数の溶融物分配体を配置することができ、これらの溶融物分配体は、好ましくは互いに上下に取り付けられている。押出し機から、または可塑化ユニットに後置された溶融物ポンプから溶融物が供給される分配ビームは、ポリマをウェブ横断面にわたって均一に調量する。均一な調量は、塗布ノズルの内側横断面を介して行われる。分配ノズルの幾何学形状は、溶融物の均一な塗布のために役立ち、このとき好ましくは繊維ウェブの全幅にわたって、1つのノズル開口または互いに並んで取り付けられた複数のノズル開口が設けられている。ここにはU字形分配体、マニホルド形分配体(Quellflussverteilergeometrie)、または所望の調量および溶融フィルム均一な塗布を可能にする類似の形状が取り付けられていてよい。このような分配ノズルは当業者にとって公知である。適宜なマニホルド形分配体は、例えば国際公開第2012/149129号(WO 2012/149129)に詳しく記載されている。分配ビームは、例えば円形、卵形、楕円形、方形または丸く面取りされた方形の横断面を有することができる。
【0024】
本発明の枠内において追加的に別の溶融物を、1つまたは2つの塗布ノズルによって塗布することができ、このとき1つの塗布ノズルが最上位の繊維ウェブの上に配置されているか、1つの塗布ノズルが最下位の繊維ウェブの下に配置されているか、またはそれぞれ1つの塗布ノズルが最上位の繊維ウェブの上および最下位の繊維ウェブの下に配置されている。
【0025】
後続の含浸ステップにおいて、異なったウェブはまとめられ、1つのノズルを通して引き出される。溶融物塗布箇所とノズルとの間における室領域は、促進のために幾分の溶融物過剰があってよい。この領域において、繊維ウェブはまとめられ、塗布された溶融物は、まだ含浸されていない繊維中間室内に進入する。この工程は、ノズル領域における集合によって生ぜしめることができる局部的な差圧によって促進される。集合は、室領域においても室幾何学形状によって、または横断面先細化部材として形成された挿入されたインサートによって促進することができる。この場合繊維は既に前段階において、溶融物によって予備強化され、ノズルは次いで残りの強化を引き受ける。最終製品がフォイルである場合には、横断面先細化部材はむしろ不要であり、最終製品が異形材である場合には、横断面はそれとは異なり、延展された繊維ウェブから異形材形状に減じられる。
【0026】
引出しノズルは第1の形状付与を引き受け、ウェブウエアのさらなる含浸を行う。引出しノズルは、通常、一体に組み込まれた引出し装置を有していない。ストランドは、通常のようにむしろ、ノズルの直後に取り付けられた引出し装置によって、またはカレンダローラによって引き出される。例えばローラまたはロールとして形成されたこのような引出し装置およびカレンダは、従来技術である。これによってさらなる形状付与を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】互いに上下に位置している2つの繊維ウェブへの分割が行われる、設備の1実施形態を示す図である。
図2】互いに上下に位置している3つの繊維ウェブへの分割が行われる、設備の別の実施形態を示す図である。
図3】互いに上下に位置している4つの繊維ウェブへの分割が行われる、設備のさらに別の実施形態を示す図である。
図4】個々の繊維ウェブの引出し装置の変化形態を示す図である。
図5】種々異なる分配体横断面を有する分配ビームの種々異なる実施形態を示す図である。
図6】溶融物塗布を変化させるために、分配ビームをどのように位置決めできるかを示す図である。
図7】引出しノズルの前における繊維ウェブの集合の様子を側方から見て示す図である。
【0028】
図1には、単純な実施形態が示されている。予め確定された数の個別フィラメント層を備えた延展もしくは開繊(aufspreizen)された繊維束は、引込み幾何学形状61を通って含浸室62内に進入する。含浸室内において、繊維束は分配ビーム70の前で分割され、そのフィラメント層数を半分にする。分配ビーム70による後続の溶融物塗布は、両方の部分ストランドの間において行われる。このとき実施形態に応じて、塗布は、真ん中で、上側の繊維ウェブまたは下側の繊維ウェブに対して行うことができる(図6の71参照)。真ん中における塗布によって、溶融物が(半分にされたフィラメント層数を通って)繊維を完全に通過するのに要する距離が、まず半分になる。次いで両方の層は、再び1つの層にまとめられる。ここに図示した単純な実施形態では、これは支援なしに行われる。しかしながらまた型は、追加的な幾何学形状構成を有することができ、このような構成は、この集合を既に室部分63(第1の集合領域)において支援する。そのための単純な1つの例は、層をまとめるガイドロッドまたは型狭窄部である(ここには図示せず)。含浸室の後方部分における強化領域(Konsolidierungsbereich)64は、室幾何学形状からノズル横断面(図7も参照)による後の形状付与への移行を導入する。引出しノズル65において、形状付与が行われる。狭くされた横断面によって、いまやマトリックス材料が繊維ベッドによって押圧される。直前に存在するテーパ部(ノズルのそれぞれの最終輪郭に関連)は、若干の溶融物過剰時に局部的な圧力上昇を生ぜしめ、これは含浸作用をいまや各方向において促進する。繊維は、上から、下からおよび真ん中からマトリックス材料によって完全に含浸され、かつ強化される。さらに個別フィラメントの絶え間のない相対運動が、束の集合、圧力形成および形状付与によって行われ、これによって完全な強化が可能になる。引き出された異形材は、最終的な形状付与のためにさらにカレンダ80を用いてカレンダ成形することができる。このようにして形成されたストランドは、次いで冷却されて巻成されるか、または所定長さに切断される。あるいは択一的に、ストランドを直ちに、例えばコア周りへの巻成、および次いで行われる冷却によって(熱可塑性マトリックスの場合)、または次いで行われる硬化によって(熱硬化性マトリックスの場合)、さらに加工を施されてよい。
【0029】
図2に示した実施形態では、繊維束は3つの繊維ウェブに分割される。各2つの繊維ウェブの間において、1つの分配ビーム70によって溶融物が塗布される。他の点においては、図1に示した実施形態についての記載が該当する。
【0030】
図3に示した別の実施形態では、繊維束は、4つの繊維ウェブに分割される。各2つの繊維ウェブの間において、1つの分配ビーム70によって溶融物が塗布される。他の点においては、図1に示した実施形態についての記載が該当する。
【0031】
図4には、延展された、つまり広げられた繊維ウェブが一緒に引き込まれてこのとき互いに接触している、図1図3とは異なり、延展された繊維ウェブを別個に引き込むことができることが示されている。
【0032】
図5には、開口が溶融物の粘度に合わせられている、分配ビーム72,73,74の種々異なった実施形態が示されている。
【0033】
図6には、実施形態に応じて、溶融物塗布が、分配ビーム71によって真ん中で、上側の繊維ウェブまたは下側の繊維ウェブに対してどのように行うことができるかが示される。ここでは分配ビーム71は、同時に変向体としてかつ繊維ガイドとして使用される。溶融物が分配ビーム71の前における空間内に調量供給される場合、分配ビームは局部的な圧力形成によって含浸作用を促進する。
【0034】
図7には、引出しノズルの前における繊維ウェブの集合形態が示されている。特に長さL1および移行半径R1,R2によって調整可能な、先細率の、ノズル高さに対するキャビティ高さの先細比(H1:H2)の構成に応じて、ここにおいて正確な圧力プロファイルを調節することができる。これは、製品の強化工程にとって重要である。それというのは、圧力ピーク(急激な先細時に生ぜしめられる)のない、ゆっくりとした調整可能な圧力形成が、望まれるからである。L2は、引出しノズルの長さである。
【0035】
本発明に係る方法では、好ましくは10mPa・s〜400Pa・sまでの、かつ特に好ましくは300Pa・sまでの粘度を有する溶融物が塗布される。熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂・熱硬化性樹脂のハイブリッド系の硬化後に生じるプレポリマもしくは樹脂硬化剤系では、このとき粘度は10mPa・sまでのまたはさらに低い低粘度範囲にある。熱可塑性の成形材料、熱可塑性エラストマまたはエラストマコンパウンド製の溶融物では、粘度は通常、少なくとも1Pa・sである。粘度というのは、本発明では、ASTM D4400による機械式のスペクトロメータにおいて測定された、方法に適した温度における静的・剪断粘度のことを意味する。
【0036】
溶融物の塗布時には、通常、特に高粘度の溶融物では、溶融物過剰なしに、または僅かな溶融物過剰だけを伴って作業が行われる。溶融物過剰を伴う作業時には、溶融物過剰はノズルに通じる領域において形成され、溶融物浴を形成する。ここでは、過剰の溶融物をそのために設けられた開口を通して流出させることができる措置が施されねばならない。繊維と溶融物との比は、製品における繊維の容積配分が、約10〜85%、好ましくは15〜80%、かつ特に好ましくは20〜75%の値であるように調節される。
【0037】
溶融物として、樹脂・硬化剤系、モノマまたはプレポリマが塗布される場合、硬化反応は、ノズル領域およびその下流側において起きる。このときノズル領域は、比較的長く形成されていてよい。量的にぴったりの溶融物塗布で作業が行われるか、またはノズルはスクレーパとして働き、硬化はその後において初めて行われる。硬化がノズル領域の下流側において初めて行われ得るように、温度プロファイルを選択する必要がある。硬化を完全なものにするために、製品はノズルからの引出し後に、場合によっては、例えば炉内において熱による後処理が実施される。
【0038】
引出し速度は、必要に応じて調節可能である。引出し速度は、好ましくは0.1〜30m/min、かつ特に好ましくは0.5〜25m/minである。
【0039】
本発明に係る方法では、得られるストランドは、それぞれ所望の幾何学形状を有することができる。得られるストランドは、例えばフォイル、テープ、プレート、円形異形材、方形異形材または複雑な異形材であってよい。
【0040】
この方法の変化形態では、熱可塑性マトリックスを含有する得られたストランドは、4〜60mm、好ましくは5〜50mm、特に好ましくは6〜40mm、特に好ましくは5〜30mm、かつ極めて特に好ましくは6〜25mmの長さを有する、長繊維強化されたペレット(Staebchengranulat)に切断される。次いでこのペレットから成形部材を、射出成形法、押出し成形法、プレス成形法またはその他の通常の形状付与法を用いて製造することができ、このとき丁寧な加工方法による成形部材の特に良好な特性が得られる。これに関連して、丁寧なというのは特に、過剰の繊維破断およびこれに基づく繊維長さの大幅な減少が十分に回避されることを意味する。このことは射出成形時には、好ましくは、大きな直径および小さな(tief)圧縮比を有するウォームと、大規模に寸法設定されたノズル通路およびスプルー通路とが使用されることを意味する。補足的に、ペレットが、高いシリンダ温度を用いて迅速に溶融され(接触加熱)、かつ繊維が過度の剪断応力によってあまり強く粉砕されないように配慮されることが望ましい。このような処置を考慮すると、短繊維強化された成形材料から製造された同等の成形部材よりも長い繊維長さを平均的に有する成形部材が得られる。これによって特性、特に引張りEモジュールにおける特性、裂断強度および切欠き靱性の大幅な改善が得られる。
【0041】
本発明の対象は、繊維複合材料を製造する装置であって、以下に記載の構成要素、すなわち、
a)繊維束を延展させることができ、これによって互いに上下に位置していて空間的に分割された少なくとも2つの繊維ウェブが得られる、1つまたは複数の延展装置と、
b)1つまたは複数の引込み領域と、
c)少なくとも1つの水平に方向付けられた分配ビームであって、分配ノズルを有していて、かつ分配ビームが2つの繊維ウェブの間に位置するように、かつ分配ビームを用いて分配ノズルを介して溶融物を塗布することができるように、配置されている、分配ビームと、
d)内部に分配ビームが配置されていて、かつ繊維ウェブを搬送することができる、溶融物室と、
e)場合によっては、横断面先細部と、
f)集合領域と、
g)引出しノズルと、
を有する、繊維複合材料を製造する装置でもある。
【0042】
好適な実施形態では、装置は、各1つの繊維束を延展することができる少なくとも2つの延展装置と、同様に多くの引込み領域とを有している。
【0043】
別の好適な実施形態では、装置は、各1つの繊維束を延展することができる少なくとも2つの延展装置と、1つの、かつ特にただ1つの引込み領域とを有している。
【0044】
別の実施形態では、装置は、1つの延展装置を介して延展された繊維束を、互いに上下に位置している複数のウェブに分割するエレメントを有している。
【0045】
本発明の枠内において、これら種々異なる実施形態の任意の組合せも可能である。
【0046】
この装置の詳細は、当該装置が本発明に係る方法を実施するために働くことに基づいて、上に述べた方法の記載から明らかである。
【0047】
溶融物粘度およびフィラメント層数に関連して、方法は、種々様々な運転形式で実施することができる。これによって、高粘度の系をもマトリックス材料として処理することが可能である。従来の解決策との明らかな相違は、本発明によれば、強く延展された状態における所望の湿潤、および次いで行われる、長手方向および横方向における相対運動による個別繊維への含浸である。これによって極めて良好な含浸品質が、高い引出し速度においても、極めて広い粘度範囲にわたって得られる。
【符号の説明】
【0048】
61 引込み領域
62 含浸室
63 第1の集合領域
64 強化領域
65 引出しノズル
70 分配ビーム
71 旋回可能な分配ビーム
72 分配ビームの幾何学形状の変化形態
73 分配ビームの幾何学形状の変化形態
74 分配ビームの幾何学形状の変化形態
80 カレンダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7