(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ラクトニトリルは、前記のとおり、カルボン酸、アミノ酸、ヒドロキシエステルなどの原料として有用であり、具体的には、乳酸等を製造するための原料として有用であり、該乳酸等は、飲食品用材料等に用いられている。
【0005】
この飲食品用材料等には、極めて高い純度が求められており、その原料であるラクトニトリル含有液にも極めて高い純度が求められている。
高純度のラクトニトリル含有液を得る方法としては、通常、アセトアルデヒドとシアン化剤との反応で得られたラクトニトリル含有液を精製する方法が挙げられる。
【0006】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、高純度のラクトニトリル含有液を得ようとすると、従来の方法では、収率が下がってしまい、高収率と高純度とを同時に達成することができなかった。
【0007】
本発明の一実施形態は、高収率で高純度のラクトニトリル含有液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記製造方法等によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成例は以下の通りである。
【0009】
[1] シアン化剤と、
常圧における沸点が25℃以上である成分の含有量が300質量ppm以下である精製アセトアルデヒドと、
を反応させる工程を含む、ラクトニトリル含有液の製造方法。
[2] シアン化剤と、
留出成分の温度がちょうど25℃に達するまで加熱蒸留(常圧下)した際の蒸留残分が蒸留に供給した量に対して300質量ppm以下である精製アセトアルデヒドと、
を反応させる工程を含む、ラクトニトリル含有液の製造方法。
【0010】
[3] 下記工程1および2を含む、[1]または[2]に記載の製造方法。
工程1:原料アセトアルデヒドを蒸留して、前記精製アセトアルデヒドを得る工程
工程2:工程1で得られた精製アセトアルデヒドをシアン化剤と反応させてラクトニトリル含有液を得る工程
[4] 前記工程2が、前記工程1で得られた精製アセトアルデヒドを鉄製部材と接触させることなくシアン化剤と反応させる工程である、[3]に記載の製造方法。
【0011】
[5] 前記シアン化剤と精製アセトアルデヒドとを反応させて得られた反応液を蒸留し、ラクトニトリルに対する低沸点成分を分離して除去する精製工程を含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記精製工程における蒸留温度が20〜60℃である、[5]に記載の製造方法。
【0012】
[7] 前記原料アセトアルデヒドが、常圧における沸点が25℃以上である成分を400質量ppm以上含有する、[3]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
[8] 前記ラクトニトリル含有液中における、ラクトニトリルに対する下記特定不純物Bの含有量が200質量ppm以下である、[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
特定不純物Bの含有量:先ず試料として原料アセトアルデヒド水溶液を用い、溶離液として0.4質量%過塩素酸水溶液を用い、カラム温度40℃、溶離液流速1.0mL/分の条件で、検出器としてUV(紫外:200nm)を用いた高速液体クロマトグラフィーによりクロマトグラムを得、得られたクロマトグラムにおける、アセトアルデヒドのピーク後からクロトンアルデヒドのピークまでの間に検出されるブロードピーク(クロトンアルデヒドのピークを含む)の保持時間(特定不純物B保持時間)の範囲を決定する。次に、試料としてラクトニトリル含有液を用い、前記と同様の方法で分析を行い、先に決定した保持時間の範囲内に検出されるブロードピークの面積を求め、得られた面積を酢酸との感度差で補正することで得られる酢酸換算量が前記特定不純物Bの含有量である。
【0014】
[9] ラクトニトリルに対する下記特定不純物Bの含有量が200質量ppm以下である、ラクトニトリル含有液。
特定不純物Bの含有量:先ず試料として原料アセトアルデヒド水溶液を用い、溶離液として0.4質量%過塩素酸水溶液を用い、カラム温度40℃、溶離液流速1.0mL/分の条件で、検出器としてUV(紫外:200nm)を用いた高速液体クロマトグラフィーによりクロマトグラムを得、得られたクロマトグラムにおける、アセトアルデヒドのピーク後からクロトンアルデヒドのピークまでの間に検出されるブロードピーク(クロトンアルデヒドのピークを含む)の保持時間(特定不純物B保持時間)の範囲を決定する。次に、試料としてラクトニトリル含有液を用い、前記と同様の方法で分析を行い、先に決定した保持時間の範囲内に検出されるブロードピークの面積を求め、得られた面積を酢酸との感度差で補正することで得られる酢酸換算量が前記特定不純物Bの含有量である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、高収率で高純度のラクトニトリル含有液を容易に、複雑な工程を経ることなく、高生産効率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
≪ラクトニトリル含有液の製造方法≫
本発明の一実施形態に係るラクトニトリル含有液の製造方法(以下「本方法」ともいう。)は、シアン化剤と、
常圧における沸点が25℃以上である成分(以下「特定不純物A」ともいう。)の含有量が300質量ppm以下である精製アセトアルデヒド、または、
留出成分の温度がちょうど25℃に達するまで常圧下で加熱蒸留した際の蒸留残分が蒸留に供給した量に対して300質量ppm以下である精製アセトアルデヒドと、
を反応させる工程を含む。
本方法によれば、高収率で高純度のラクトニトリル含有液を得ることができる。
【0018】
アセトアルデヒドとシアン化剤との反応で得られたラクトニトリル含有液中には、様々な不純物が存在している。本発明者が該不純物を測定したところ、これらの不純物の多くは、反応原料であるアセトアルデヒドに含まれている前記特定不純物Aであることが分かった。
【0019】
通常、蒸留により不純物を除去するには、目的物の沸点以下でなるべく高い温度で蒸留することが、蒸留残分である目的物の純度向上に効果的である。しかしながら、ラクトニトリルの場合、蒸留温度を高温にすると、生成物であるラクトニトリルの分解が生じることが分かった。すなわち、アセトアルデヒドとシアン化剤とを反応させて得られるラクトニトリルには、前記特定不純物Aが残存しているため、高純度のラクトニトリル含有液を得ることができず、該特定不純物Aを低減しようと高温で蒸留すれば、ラクトニトリルの分解に基づく、不純物が増え、収率も低下することが分かった。
【0020】
本方法は、工程数の低減、製造コストの低減、製造装置の簡略化等の点から従来行われてこなかった、原料アセトアルデヒドの精製をあえて行うことにより、ラクトニトリルの高収率化と高純度化という従来は同時に達成することのできなかった2つの目的を同時に達成することができる新たな方法である。
【0021】
<精製アセトアルデヒド>
精製アセトアルデヒドは、前記特定不純物Aの含有量が300質量ppm以下であり、好ましくは250質量ppm以下、より好ましくは200質量ppm以下である。
また、精製アセトアルデヒドは、留出成分の温度がちょうど25℃に達するまで常圧下で加熱蒸留した際の蒸留残分が蒸留に供給した量に対して300質量ppm以下、好ましくは250質量ppm以下、より好ましくは200質量ppm以下となるアセトアルデヒドである。なお、該蒸留残分は、前記特定不純物Aに相当する。
【0022】
該特定不純物Aの含有量は、具体的には、後述の方法で測定するが、該方法で測定した時の検出限界以下であってもよい。
なお、精製アセトアルデヒドにおける前記特定不純物Aの含有量は、少なければ少ないほどよいため、その範囲の下限は特に制限されないが、強いて数値を挙げるとすれば、例えば、0.1質量ppmである。
【0023】
得られた反応液中に前記特定不純物Aが存在すると、該特定不純物Aを除去するためには、高温での蒸留が必要となり、この蒸留温度において、ラクトニトリルの分解が生じてしまう。本方法では、特定不純物Aの含有量が前記範囲にある精製アセトアルデヒドを用いることで、高温での蒸留を行わなくても高純度のラクトニトリル含有液を得ることができるため、ラクトニトリルの高収率化と高純度化とを同時に達成することができる。
【0024】
前記特定不純物Aの含有量は、具体的には、以下に記載の方法で測定する。
攪拌機、蒸留塔および留出器を備えたガラス製フラスコに、アセトアルデヒドを供給し、常圧で単蒸留を行う。留出液の温度を確認しながら、フラスコの加熱を行い、留出液の温度がちょうど25℃に達した時に加熱を停止し、単蒸留を終了する。単蒸留後、フラスコに残った残分を秤量し、供給したアセトアルデヒドの質量に対する質量ppmを求める。
【0025】
前記精製アセトアルデヒドを得る方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を採用することができるが、簡便な方法で容易に精製アセトアルデヒドを得ることができる等の点から、原料アセトアルデヒドを蒸留した低沸点成分として精製アセトアルデヒドを得る方法が好ましい。
【0026】
前記原料アセトアルデヒドとしては特に制限されず、精製することで、前記精製アセトアルデヒドを得ることができる化合物であればよく、工業用、研究用等で入手できる化合物でよい。
【0027】
前記原料アセトアルデヒドには、通常、不純物が含まれる。
前記原料アセトアルデヒドとしては、本方法を採用した場合の効果がより顕著に発揮される等の点から、前記特定不純物Aを400質量ppm以上含有するアセトアルデヒドであることが好ましく、600質量ppm以上含有するアセトアルデヒドであることがより好ましい。
【0028】
前記特定不純物Aは、原料アセトアルデヒド中に含まれる常圧(0.101MPaA)における沸点が25℃以上である成分であるが、具体的には、アセトアルデヒド由来のダイマー、トリマー、テトラマー等のオリゴマーなどが挙げられる。
【0029】
前記原料アセトアルデヒドの蒸留方法としては、原料アセトアルデヒドに含まれる前記特定不純物Aの除去が可能であれば特に制限されず、工業的に実施できる方法であればよい。具体的な方法としては、単蒸留、精密蒸留、薄膜蒸留等が挙げられ、回分式、半回分式、連続式のいずれの方法でも行うことが可能であるが、半回分式または連続式が好ましい。
【0030】
前記原料アセトアルデヒドを蒸留する際の条件も、原料アセトアルデヒドに含まれる前記特定不純物Aの除去が可能であれば特に制限されないが、蒸留温度は、好ましくは20〜60℃、より好ましくは30〜50℃であり、蒸留時間は、好ましくは1〜300分、より好ましくは5〜150分である。
また、蒸留圧力は、前記蒸留温度となるような圧力であれば特に制限されないが、好ましくは50〜300kPaA、より好ましくは100〜250kPaAである。
【0031】
前記蒸留は、通常、蒸留装置で行われる。この際には、該装置の底部に原料アセトアルデヒドに含まれる前記特定不純物Aが溜まる傾向にある。
前記蒸留の際には、蒸留条件をより容易に制御することができ、原料アセトアルデヒドに含まれる前記特定不純物Aの量を前記範囲まで低減することが容易になる等の点から、蒸留装置の底部から液を抜き出す工程を含むことが好ましい。
【0032】
アセトアルデヒドは、前記特定不純物Aが生じやすく、特に、鉄製部材と接触すると、該特定不純物Aの生成が促進されることが分かった。
このため、より高収率で高純度のラクトニトリル含有液を容易に得ることができ、原料アセトアルデヒドを精製することによる効果をより効率よく発揮させる等の点から、前記原料アセトアルデヒドを精製する工程で得られた精製アセトアルデヒドは、鉄製部材と接触させることなくシアン化剤と反応させることが好ましい。
前記鉄製部材とは、鉄、鉄鋼製の部材(パイプ、装置等)のことをいい、SUSなどの鉄合金製の部材は含まない。
【0033】
また、より高収率で高純度のラクトニトリル含有液を容易に得ることができ、原料アセトアルデヒドを精製することによる効果をより効率よく発揮させる等の点から、前記原料アセトアルデヒドを精製する工程で得られた精製アセトアルデヒドは、そのまま反応系へ供給されることが好ましく、前記原料アセトアルデヒドを精製する工程後、好ましくは24時間以内、より好ましくは12時間以内に反応に用いることが望ましい。
【0034】
<シアン化剤>
前記シアン化剤としては、アセトアルデヒドにシアノ基を導入できる材料であれば特に制限されないが、好ましくはM(CN)
n(Mは、水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、銅または亜鉛であり、nはMの価数である。)で表される化合物が挙げられる。これらの中でも、反応後の液中に残存しても容易に除去することができ、反応液のpH制御をより容易にすることや塩の副生を抑制することができるなどの点から、シアン化水素が好ましい。
前記シアン化剤としては、2種以上を用いてもよいが、通常は1種である。
【0035】
前記シアン化剤としては特に制限されず、工業用、研究用等で入手できる化合物でよい。具体的には、シアン化水素の場合、アンモ酸化反応等で副生するシアン化水素を使用することも可能であるし、メタン等を原料に製造することも可能である。また、シアン化ナトリウムを硫酸などの強酸と反応させて製造することも可能である。工業的には、(メタ)アクリロニトリルの製造の際に副生するシアン化水素を使用することが好ましい。
【0036】
前記シアン化剤は、蒸留、吸着等によって、予め精製した精製シアン化剤であってもよい。
【0037】
<精製アセトアルデヒドとシアン化剤との反応>
本方法では、精製アセトアルデヒドとシアン化剤とを反応させることを特徴とする。この反応では、ラクトニトリルが得られる。
なお、シアン化剤がシアン化水素の場合は、以下の反応式となる。
CH
3CHO+HCN→CH
3CH(OH)(CN)
この反応の際に精製アセトアルデヒドを用いることで、高収率で高純度のラクトニトリル含有液を容易に、多段階での精製などの複雑な工程を経ることなく、また、高温での精製を経ることなく、高生産効率で得ることができる。
【0038】
前記反応は、1種または2種以上の触媒の存在下で行うことが好ましい。
前記触媒としては、アミン化合物、4級アンモニウム塩、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物および金属アルコキサイドなどの塩基性化合物が挙げられる。
該触媒は、効率よく反応が進行する等の点から、反応液のpHが下記範囲となるような量で使用することが好ましい。
【0039】
前記反応は、1種または2種以上の溶媒を用いて行うことが好ましい。
該溶媒としては、前記反応に対し不活性な溶媒を使用することができ、従来公知の有機溶媒を用いてもよいが、水を用いることが好ましい。
該溶媒は、効率よく反応が進行し、所望濃度のラクトニトリル含有液を容易に得ることができる等の点から、反応液中の溶媒量が、好ましくは5〜95質量%となる量で使用することが好ましい。
【0040】
なお、前記精製アセトアルデヒドやシアン化剤が、使用時の温度において固体である場合、反応に対して不活性な溶媒、好ましくは水に該精製アセトアルデヒドやシアン化剤を溶解または懸濁させて使用することが好ましい。
【0041】
前記反応における精製アセトアルデヒドとシアン化剤とのモル比(精製アセトアルデヒドのモル/シアン化剤のモル)は、特に制限されないが、好ましくは0.50〜2.0、より好ましくは0.67〜1.5である。
前記範囲で原料を用いると、効率よく反応が行われ、かつ、過剰に生じ得る未反応成分の回収工程を行わなくても済むため好ましい。
【0042】
また、原料の転化率の観点からは、精製アセトアルデヒドと(シアン化剤が有する)シアノ基とのモル比が、1に近いほど好ましく、具体的には0.95〜1.05が好ましい。但し、精製アセトアルデヒドとシアノ基とのモル比が、1に近いほど、意図せぬ僅かな供給量の変化で、反応器に供給される精製アセトアルデヒドと、シアン化剤とのどちらが過剰になるかが、変化してしまう。精製アセトアルデヒドが過剰の場合には、精製アセトアルデヒドの回収が必要になり、シアン化剤が過剰の場合には、シアン化剤の回収が必要になり、精製アセトアルデヒドとシアノ基とのモル比が、1に近い場合には、どちらが過剰になるかが安定しないため、両方を回収することが可能な設備が必要となる。このため、予め片方の原料をわずかに過剰に供給することが特に好ましい。具体的には、精製アセトアルデヒドとシアノ基とのモル比(精製アセトアルデヒドのモル/シアノ基のモル)が、1.001〜1.100、または、シアノ基と精製アセトアルデヒドとのモル比(シアノ基のモル/精製アセトアルデヒドのモル)が、1.001〜1.100となる量で精製アセトアルデヒドとシアン化剤とを用いることが好ましいが、回収容易性や安全性等の点から、特に前者が好ましい。
【0043】
前記反応の反応温度は、これら原料が反応すれば特に制限されないが、該反応が効率よく行われ、生成したラクトニトリルの分解が起こり難いなどの点から、具体的には、好ましくは0〜40℃、より好ましくは10〜30℃である。
【0044】
また、前記反応は、好ましくはpH3〜7、より好ましくはpH4〜6の条件で行うことが好ましい。
前記pH範囲で反応を行うと、ラクトニトリルの生成速度が速く、高い生産性でラクトニトリル含有液を得ることができ、さらに、生成したラクトニトリルの分解が起こり難い。
【0045】
前記反応は、回分式、半回分式、連続式のいずれの方法でも行うことができるが、半回分式または連続式が好ましく、連続式がより好ましい。
【0046】
<ラクトニトリル含有液>
本発明の一実施形態におけるラクトニトリル含有液は、通常、ラクトニトリルと溶媒との混合物であり、好ましくは、ラクトニトリルを5〜95質量%含有し、好ましい溶媒は水である。
また、ラクトニトリルに対する下記特定不純物Bの含有量が、好ましくは200質量ppm以下であり、より好ましくは150質量ppm以下である。該特定不純物Bの含有量は、下記方法で測定されるが、該方法で測定した時の検出限界以下であってもよい。
なお、前記特定不純物Bの含有量は、少なければ少ないほどよいため、その下限は特に制限されないが、強いて数値を挙げるとすれば、例えば、0.1質量ppmである。
ラクトニトリルに対する前記特定不純物Bの量が前記範囲にあるとは、高収率で高純度のラクトニトリル含有液が得られたことを意味する。
【0047】
前記特定不純物Bの含有量は、以下の方法で測定される。
先ず試料として原料アセトアルデヒド水溶液を用い、溶離液として0.4質量%過塩素酸水溶液を用い、カラム温度40℃、溶離液流速1.0mL/分の条件で、検出器としてUV(紫外:200nm)を用いた高速液体クロマトグラフィーによりクロマトグラムを得、得られたクロマトグラムにおける、アセトアルデヒドのピーク後からクロトンアルデヒドのピークまでの間に検出されるブロードピーク(クロトンアルデヒドのピークを含む)の保持時間(特定不純物B保持時間)の範囲を決定する。次に、試料としてラクトニトリル含有液を用い、前記と同様の方法で分析を行い、先に決定した保持時間の範囲内に検出されるブロードピークの面積を求め、得られた面積を酢酸との感度差で補正することで得られる酢酸換算量が前記特定不純物Bの含有量である。
【0048】
本発明者が種々検討したところ、前記特定不純物Bの含有量は、前記特定不純物Aの含有量にも対応することが分かり、前記特定不純物Bの含有量を測定する際の試料を変更することで、各試料中の特定不純物Aの含有量を評価できることを確認した。
【0049】
前記ラクトニトリル含有液には、ラクトニトリルの分解を抑制し、ラクトニトリルを安定化できる等の点から、硫酸、塩酸、リン酸等の酸を配合することが好ましい。該酸は、2種以上を用いてもよい。
該酸は、ラクトニトリルを安定化することができる等の点から、得られるラクトニトリル含有液のpHが0〜5.0となるように用いることが好ましい。
【0050】
前記ラクトニトリル含有液中のラクトニトリルの濃度は、所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは5〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%である。
【0051】
前記ラクトニトリル含有液は、アセトアルデヒドとシアン化剤、特に、前記精製アセトアルデヒドとシアン化剤との反応で得られた反応液を、蒸留、吸着等により精製することで得られた液であることが好ましく、該反応液を蒸留し、ラクトニトリルに対する低沸点成分を分離して除去する精製工程を含む方法で得られた液であることがより好ましい。
前記反応液を精製することで、反応液中の不純物をより低減することができる。
【0052】
前記反応液の精製を蒸留操作にて行う場合は、ラクトニトリルに対する低沸点成分である不純物を留去する。その時の蒸留温度としては特に制限されないが、ラクトニトリルは高温下で分解するため、高収率で高純度のラクトニトリル含有液を容易に得ることができる等の点から、好ましくは20〜60℃、より好ましくは30〜50℃である。
前記温度で反応液を精製することで、反応液中のラクトニトリルに対する低沸点成分を低減することができ、高収率で高純度のラクトニトリル含有液を容易に、高生産効率で得ることができる。本方法によれば、前記温度で反応液を精製しても高純度のラクトニトリル含有液を容易に得ることができる。
【0053】
工程数の低減、製造コストの低減、製造装置の簡略化等の点から従来行われてこなかった、原料アセトアルデヒドの精製をあえて行う本方法は、反応液を精製する工程の経済性、効率性を向上させる方法であるともいえる。
【0054】
また、前記反応液を蒸留する際の、蒸留圧力は、好ましくは0.1〜400kPaA、より好ましくは1〜200kPaAであり、蒸留時間は、特に制限されないが、好ましくは1〜300分、より好ましくは5〜150分である。
【実施例】
【0055】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0056】
前記特定不純物Bの含有量およびラクトニトリルの含有量は、以下の方法で求めた。
【0057】
・「ラクトニトリル含有液中の特定不純物Bの含有量の測定方法」
先ず試料として原料アセトアルデヒド水溶液を用い、以下の条件でクロマトグラムを得、得られたクロマトグラムにおける、アセトアルデヒドのピーク後からクロトンアルデヒドのピークまでの間に検出されるブロードピーク(クロトンアルデヒドのピークを含む)の保持時間(特定不純物B保持時間)の範囲を決定した。
次に、試料としてラクトニトリル含有液を用い、先と同様の方法で分析を行い、先に決定した保持時間の範囲内に検出されるブロードピークの面積を求め、得られた面積を酢酸との感度差で補正することで酢酸換算量を求めた。該酢酸換算量が前記特定不純物Bの含有量である。
【0058】
より具体的には、ブロードピークの面積は、以下のようにピーク処理した。
原料アセトアルデヒド水溶液の測定で得られたクロマトグラフにおいて、アセトアルデヒドのピーク後の曲線に垂直分割処理を行い、クロトンアルデヒドのピークまでをテーリング処理することで、この間に検出される特定不純物Bのブロードピークの保持時間の範囲を求めた(
図1)。
なお、
図1における「X」がアセトアルデヒドのピークであり、「Y」が特定不純物Bのピークであり、「Z」がクロトンアルデヒドのピークである。
図2の符号「X」〜「Z」も同様のピークを示す。
次に、ラクトニトリル含有液を測定し、先に求めた保持時間の範囲のブロードピークを、先と同じように、垂直分割処理と、テーリング処理することで、該ブロードピークの面積を求めた。
更に、特定不純物Bは標品が入手できないため、酢酸を標品とし、かつ、酢酸との感度差を前記ブロードピークの面積に反映させて、酢酸換算量として特定不純物Bの含有量を定量した。なお、酢酸を測定する際には、以下の条件において、検出器をRI(示差屈折率)検出器に変更して測定を行った。
【0059】
特定不純物BのUV検出器での感度は酢酸よりも高く、実際よりも多めに定量されるため、予め、RI検出器で検出される酢酸とUV検出器で検出される特定不純物Bとの感度差を求めておき、前記UV検出器で得られた特定不純物Bの面積をRI(示差屈折率)検出器での酢酸換算量に補正して、前記特定不純物Bの含有量を酢酸換算値として算出した。
【0060】
<条件>
装置:高速液体クロマトグラフィー装置(日本分光(株)製、LC−2000plus series)
カラム:昭和電工(株)製カラムRSpak KC−GとRSpak KC−8111×2本を接続したもの
検出器:UV(紫外:200nm)
溶離液:0.4質量%過塩素酸水溶液
カラム温度:40℃
溶離液流速:1.0mL/分
【0061】
・「ラクトニトリル含有量の測定方法」
試料溶液20μLを用い、以下の条件でラクトニトリルのピークの面積を求め、得られた面積から、予め同様に測定したラクトニトリルの検量線を用い、ラクトニトリルの含有量を求めた。
【0062】
<条件>
装置:高速液体クロマトグラフィー装置(日本分光(株)製、LC−2000plus series)
カラム:昭和電工(株)製カラムRSpak KC−GとRSpak KC−8111×2本を接続したもの
検出器:RI(示差屈折率)検出器
溶離液:0.4質量%過塩素酸水溶液
カラム温度:40℃
溶離液流速:1.0mL/分
【0063】
[実施例1]
蒸留塔に前記特定不純物Aの含有量が600質量ppmである原料アセトアルデヒドを連続的に供給し、圧力を50kPaG、温度を40℃として連続的に蒸留を行ったところ、前記特定不純物Aの含有量が160質量ppmである精製アセトアルデヒドを得た。
なお、原料アセトアルデヒドおよび精製アセトアルデヒド中の前記特定不純物Aの含有量は、前述の方法で測定した。
【0064】
さらに、試料として前記原料アセトアルデヒドまたは精製アセトアルデヒドを用いて測定した原料アセトアルデヒドまたは精製アセトアルデヒド中の特定不純物Bの量は、それぞれ、580質量ppmおよび140質量ppmであった。なお、この測定で得られたクロマトグラムをそれぞれ
図1および
図2に示す。
以上の結果から、前記特定不純物Bには、前記特定不純物Aが多く含まれることがわかった。また、該特定不純物AおよびBは、種々の検討により、アセトアルデヒド由来のダイマー、トリマー、テトラマー等のオリゴマーであると考えられる。
【0065】
攪拌機および冷却器を備えたCSTR型の反応器(連続槽型反応器)に、攪拌下で、得られた精製アセトアルデヒドを鉄製部材と接触させることなくそのまま連続的に供給し、次いで、シアン化水素および水を、アセトアルデヒド/シアン化水素のモル比が1.05になるように連続的に供給し、反応温度を15〜20℃に、pHを5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で5〜6に調整しながら、滞留時間が3時間になるように、反応液(ラクトニトリル水溶液)を連続で抜き出しながら反応を行った。
【0066】
得られたラクトニトリル水溶液を用い、前述の方法でラクトニトリルおよび特定不純物Bの含有量を測定したところ、該特定不純物Bの含有量は、ラクトニトリルに対して110質量ppmであった。
【0067】
さらに、得られたラクトニトリル水溶液を、10質量%硫酸水溶液にてpH1.0に調整し、pH調整したラクトニトリル水溶液を蒸留塔に供給し、圧力7.5kPaAの減圧下、温度40℃にて低沸成分を除去することで精製し、ラクトニトリル含有液を得た。
【0068】
得られたラクトニトリル含有液を用い、前述の方法でラクトニトリルおよび特定不純物Bの含有量を測定したところ、該特定不純物Bの含有量は、ラクトニトリルに対して90質量ppmであった。すなわち、純度の高いラクトニトリル含有液が得られた。
また、ラクトニトリルの含有量は精製前後で変化せず、前記精製では、ラクトニトリルが分解しないことが分かった。
【0069】
[比較例1]
原料アセトアルデヒドを蒸留しないで、そのまま反応に使用した以外は実施例1と同様に反応を行った。
抜き出した反応液を用い、前述の方法で、ラクトニトリルおよび特定不純物Bの含有量を求めたところ、得られた反応液中の前記特定不純物Bの含有量は、ラクトニトリルに対し490質量ppmであった。
【0070】
さらに得られた反応液を、10質量%硫酸水溶液にてpH1.0に調整し、pH調整した液を蒸留塔に供給し、圧力7.5kPaAの減圧下、温度40℃にて低沸成分を除去することで精製した。
【0071】
その結果、精製前後でラクトニトリルが分解することはなかったが、精製後の液中の、前記特定不純物Bの含有量は、ラクトニトリルに対して450質量ppmであり、精製後の液の純度は低かった。
【0072】
[比較例2]
比較例1において、蒸留圧力を0.5kPaAに、蒸留温度を70℃に変更した以外は、比較例1と同様にして比較例1で得られた反応液を精製した。
【0073】
その結果、精製後のラクトニトリルの含有量が精製前に比べ減少し、ラクトニトリルの分解が進行し、収率が低下するとともに、黄色に着色した。
また、精製後の液中の前記特定不純物Bの含有量は、ラクトニトリルに対して970質量ppmであり、精製後の液の純度は低かった。