(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6890664
(24)【登録日】2021年5月27日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】HIV感染を治療するキメラ抗原受容体の組換え遺伝子構築およびその応用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20210607BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20210607BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20210607BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20210607BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20210607BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20210607BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20210607BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20210607BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20210607BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20210607BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20210607BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20210607BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20210607BHJP
C07K 17/14 20060101ALN20210607BHJP
A61K 39/21 20060101ALN20210607BHJP
【FI】
C12N15/13ZNA
C07K16/10
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N5/0783
A61K39/395 S
A61K38/17
A61K35/17 Z
A61K48/00
A61P43/00 105
A61P31/18
!C07K17/14
!A61K39/21
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-538366(P2019-538366)
(86)(22)【出願日】2017年8月28日
(65)【公表番号】特表2020-513782(P2020-513782A)
(43)【公表日】2020年5月21日
(86)【国際出願番号】CN2017099261
(87)【国際公開番号】WO2019000620
(87)【国際公開日】20190103
【審査請求日】2019年7月10日
(31)【優先権主張番号】201710507860.8
(32)【優先日】2017年6月28日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519252206
【氏名又は名称】武漢波睿達生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】張 同存
(72)【発明者】
【氏名】顧 潮江
(72)【発明者】
【氏名】廖 興華
【審査官】
西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】
特表2017−501702(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第106279432(CN,A)
【文献】
国際公開第2016/154003(WO,A1)
【文献】
特開2007−082560(JP,A)
【文献】
Jinghe Huang,Identification of a CD4-Binding-Site Antibody to HIV that Evolved Near-Pan Neutralization Breadth,Immunity,2016年11月15日,vol.45
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
A61K 35/17
A61K 38/17
A61K 39/00−39/44
A61K 48/00
A61P 31/18
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIV感染を治療するキメラ抗原受容体N6−CARであって、
N末端からC末端へシグナルペプチド、一本鎖抗体scFv、CD8 hinge、白血球抗原分化群分子膜貫通領域CD28−TMおよびその細胞内ドメイン(ICD)、4−1BB、および白血球抗原分化群3のζ鎖CD3を順次連結することで得られるものであり、得られたキメラ抗原受容体のアミノ酸配列がSEQ ID NO.4に示され、
前記一本鎖抗体scFvが、HIVウイルス感染細胞表面のgp120を認識可能であり、HIVウイルス感染細胞表面のgp120に対する抗体の軽鎖、重鎖可変領域を直列することで得られるものであり、CAR分子全体の細胞外結合ドメインとして、そのアミノ酸配列がSEQ ID NO.2に示されることを特徴とするHIV感染を治療するキメラ抗原受容体N6−CAR。
【請求項2】
請求項1に記載のキメラ抗原受容体をコードする遺伝子であって、
その塩基配列がSEQ ID NO.3に示されることを特徴とする請求項1に記載のキメラ抗原受容体をコードする遺伝子。
【請求項3】
塩基配列がSEQ ID NO.4に示されるキメラ抗原受容体のコード遺伝子を含有しかつ発現し得る発現ベクターであって、
前記ベクターは、PTK881ベクターを骨格とし、CMVプロモーターをEF−1αプロモーターに置き換えた後に改造されたPTK−EF1α−N6ベクターであり、その塩基配列がSEQ ID NO.5に示されることを特徴とする塩基配列がSEQ ID NO.4に示されるキメラ抗原受容体のコード遺伝子を含有しかつ発現し得る発現ベクター。
【請求項4】
遺伝子修飾されたCD8+Tリンパ球であって、
請求項3に記載のPTK−EF1α−N6発現ベクターを293T細胞にトランスフェクションして得られたレンチウイルスベクター形質導入CD8+Tリンパ球であり、これにより得られたキメラ抗原受容体を発現し得る遺伝子操作したT−リンパ球であることを特徴とする遺伝子修飾されたCD8+Tリンパ球。
【請求項5】
請求項4に記載の遺伝子修飾されたCD8+Tリンパ球の調製方法であって、
(1)末梢血からPBMCを分離した後に磁気ビーズを用いてポジティブセレクションによりCD8+T細胞が得られ、そしてanti−CD3/28磁気ビーズ(細胞と磁気ビーズとの比は1:3)により12時間刺激し、次いでN6−CAR分子を組み換えたレンチウイルスを加えて4時間感染させた後に補液し(MOI=5)、ウイルス感染後3日目から細胞を計数し、細胞状態および増殖状況に応じて培地を流加し、細胞濃度を0.6×106/mlに調整し、そしてIL−2(100U/mL)を補充し、輸注した細胞数を満たすまで細胞をさらに増幅させる調製方法。
【請求項6】
N6−CARで遺伝子修飾されたCD8+Tリンパ球の使用であって、
前記N6−CARで遺伝子修飾されたCD8+Tリンパ球が抗HIV感染の生細胞薬の調製に応用されることを特徴とする請求項1に記載のN6−CARで遺伝子修飾されたCD8+Tリンパ球の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染性疾患の免疫療法の技術分野に関し、より詳しくは、HIV感染を治療するキメラ抗原受容体の組換え遺伝子構築およびその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
エイズは、ヒト免疫不全ウイルス1型(Human Immunodeficiency Virus 1、HIV−1)感染によって生じ、人類の生命を重大に脅かす伝染性疾患であり、世界保健機関の最新の統計によると、発見以来2014年末まで3900万人以上が死亡してしまい、いまだに世界中に3700万人のHIV感染者がいる。中国のHIV感染者の数は年々増加しており、患者の総数が既に100万人を超えた。現時点で有効なワクチンはなく、既存の薬で完治させることはできない。
【0003】
高活性抗レトロウイルス療法(HAART)は、歴史的に見てHIV/AIDS治療の転換点となり、HIV/AIDSの発症率および死亡率を大幅に減少させ、患者の寿命を大幅に延ばし、さらにHIV感染を減少させる。しかしながら、1)患者が生涯にわたって薬を服用しなければならないことに起因する高価な支出、2)重篤な毒性および副作用、3)耐性株の出現、4)さらに重要なことに、薬剤が複製中のウイルスのみに対して有効であるが、感染の初期段階でHIVによって確立された潜伏性ウイルス「リザーバー」(reservoir)には無効であるという主な要因で、cARTがウイルスを完全に排除できないことといった多くの課題もある。抗レトロウイルス治療が中断されると、ウイルスリザーバー内の組み込み前ウイルスが再活性化され、ほとんど全ての患者体内のウイルス血症は急速に再発する。
【0004】
伝播および繁殖におけるエイズウイルスの高変異性が原因で過去において有効なエイズ治療薬が無効になり、そのため、複数の抗ウイルス薬を組み合わせて高活性抗レトロウイルス療法を行う「カクテル療法」が後で開発されたが、カクテル療法にも限界がある。現在エイズ研究に関する国際的なフロンティアおよびホットスポットを踏まえて、研究者らは一般に、感染の極初期の段階でHIVが体内に隠されたウイルス「リザーバー」、すなわち静止期メモリーCD4+Tリンパ球(Resting memory CD4+T)を確立することが、HIVが治癒に至らない主な要因となると考えている。
【0005】
エイズの治癒における主要な課題の1つは、体の免疫系によって自ら認識および排除(shock and kill)されるように潜伏性のHIVをどのように再活性化できるかということである。同時に、研究から、cART治療を受けている感染者体内でさえ、不可逆的な免疫損傷、特に細胞傷害性T細胞(CTL)の数減少および機能的欠陥があることを見出した。これは、抗レトロウイルス療法によって再構築された免疫系がこれらの活性化された細胞を効果的に排除できず、体のHIV特異的免疫応答を共同で増強することによってHIVリザーバーに対する排除効果を増強する必要があることを示唆している。したがって、HIV潜伏性ウイルス「リザーバー」の形成および活性化戦略、ならびに体の免疫機能の再構築に対する探究は、全て、HIVを治癒する時代への非常に重要な研究方向である。
【0006】
近年、キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor、CAR)腫瘍免疫療法技術に基づき、腫瘍細胞を殺すための新しい方法を生み出した。その高い親和性およびMHC(Major histocompatibility complex)非依存性などの優勢を持つ、特に2つのCD28および4−1BB、CD3ζのカップリングによって形成される第3世代CARがT細胞の殺腫瘍能力を増強し、そして体内での生存期間を延ばすことができるため、これにより白血病やリンパ腫などの腫瘍免疫療法において有望な結果をもたらしている。実際には、早くも1994年には、Robertsらは、感染細胞表面のgp120と結合するための一本鎖抗体としてCD4配列を選択し、CAR−T細胞によるHIV感染の治療を試みたが、感染細胞を部分的に殺す機能があり、長年の努力の末に失敗に終わった。その要因としては以下が挙げられる。1.レトロウイルスベクターによる形質導入効率が比較的低く、十分な輸注可能CAR−T細胞を得るために行われている過剰な体外増幅は輸注後の細胞死およびCAR分子の喪失を招く。2.CAR分子設計それ自体に欠陥が存在し、CD4ドメインは、CD4分子のHIV感染細胞またはウイルス感染細胞での発現ダウンレギュレートにより、形質導入されたCTLsがCAR−T細胞の殺傷を免れることを引き起こす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来技術の欠点を解消するために、本発明は、HIVウイルス感染細胞表面のgp120を認識できる新規な一本鎖抗体scFvおよび当該一本鎖抗体からなるN6−CAR分子と称されるキメラ抗原受容体(CAR)を提供する。
【0008】
本発明の他の目的は、上記のN6−CARを発現し得る発現ベクター、およびN6−CARベクターで遺伝子修飾されたCD8
+Tリンパ球を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、N6−CAR分子で修飾されたCD8
+Tリンパ球の抗HIV感染薬調製における用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の技術的解決手段によって実現される。
【0011】
本発明は、HIVウイルス感染細胞表面のgp120を認識可能であり、HIVウイルス感染細胞表面のgp120に対する抗体の軽鎖、重鎖可変領域を直列することで得られるものであり、CAR分子全体の細胞外結合ドメインとして、そのアミノ酸配列がSEQ ID NO.2に示される一本鎖抗体scFvを提供する。
【0012】
本発明は、上記の一本鎖抗体scFvをコードするコード遺伝子をも提供し、該遺伝子の塩基配列がSEQ ID NO.1に示される。
【0013】
また、本発明は、HIV感染を治療するキメラ抗原受容体を提供し、該キメラ抗原受容体は、N末端からC末端へシグナルペプチド、本発明に係る一本鎖抗体scFv、CD8 hinge、白血球抗原分化群分子膜貫通領域CD28−TMおよび細胞内ドメインICD、4−1BB、および白血球抗原分化群3のζ鎖CD3を順次スプライシングすることで得られるものであり、得られたキメラ抗原受容体のアミノ酸配列がSEQ ID NO.4に示される。
【0014】
本発明は、上記のキメラ抗原受容体N6−CARをコードするコード遺伝子を同時に提供し、該遺伝子の塩基配列がSEQ ID NO.3に示される。
【0015】
本発明は、塩基配列がSEQ ID NO.4に示されるキメラ抗原受容体N6−CARのコード遺伝子を含有しかつ発現し得る発現ベクターを提供し、前記ベクターは、PTK881ベクターを骨格とし、CMVプロモーターをEF1αプロモーターに置き換えた後に改造されたPTK−EF1α−N6ベクターであり、その塩基配列がSEQ ID NO.5に示される。
【0016】
本発明は、遺伝子修飾されたCD8
+Tリンパ球を提供し、PTK−EF1α−N6発現ベクターを293T細胞にトランスフェクションして得られたレンチウイルスベクター形質導入CD8
+Tリンパ球であり、これにより得られたキメラ抗原受容体を発現し得る遺伝子操作したT−リンパ球である。N6−CARで改造されたCD8+細胞のgp120細胞株の発現に対する殺傷効果はより顕著である。
【0017】
さらに、前記遺伝子修飾されたCD8
+Tリンパ球は、(1)末梢血からPBMCを分離した後に磁気ビーズを用いてポジティブセレクションによりCD8
+T細胞が得られ、そしてanti−CD3/28磁気ビーズ(細胞と磁気ビーズとの比は1:3)により12時間刺激し、次いでN6−CAR分子を組み換えたレンチウイルスを加えて4時間感染させた後に補液し(MOI=5)、ウイルス感染後3日目から細胞を計数し、細胞状態および増殖状況に応じて培地を流加し、細胞濃度を0.6×10
6/mlに調整し、そしてIL−2(100U/mL)を補充し、輸注した細胞数を満たすまで細胞をさらに増幅させるという方法により調製される。
【0018】
本発明は、上記のN6−CARで遺伝子修飾されたCD8
+Tリンパ球の用途を同時に提供し、前記N6−CARで遺伝子修飾されたCD8
+Tリンパ球が抗HIV感染の生細胞薬の調製に応用される。
【発明の効果】
【0019】
(1)本発明では、初期設計の欠点を解消し、ウイルスタンパク質Gp120に高度に特異的に結合できる広域中和抗体をscFvとして使用し、98%のHIV−1のウイルス株に結合して該CAR−T細胞の広域スペクトルを拡大させることができる。(2)本発明では、SIN(Self−inactivating)構造を有するPTKプラスミドを用いてレンチウイルスベクターを生産し、安全性を高めると同時に、二重刺激分子を含むようにCAR分子細胞内を改造してN6−CAR−T細胞の増幅および生存特性を増強し、臨床的有効性および安全性を高める。(3)本発明におけるキメラ抗原受容体を発現し得る遺伝子改変CD8
+Tリンパ球は、体外実験でも体内実験でもHIVウイルスを阻害および殺傷するのに有意な活性を示し、抗HIV感染薬を調製するための活性成分として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明により構築された抗HIV感染のキメラ抗原受容体の概略構造図である。
【
図2】
図2は、本発明により構築されたPTK−EF1α−N6レンチウイルスベクターの概略構造図である。
【
図3】
図3は、本発明において形質導入されたCD8
+Tリンパ球におけるN6−CARの発現レベル(A)およびその刺激後の機能的増殖能(B)検出である。
【
図4】
図4は、本発明においてN6−CARで形質導入されたCD8
+Tリンパ球が体外でHIV感染細胞活性を死滅させる検出である。
【
図5】
図5は、共培養条件下では、本発明においてN6−CARで形質導入されたCD8
+Tリンパ球がウイルス活性を阻害する検出である。
【
図6A】
図6Aは、本発明においてN6−CARで形質導入されたCD8
+Tリンパ球がヒト化マウス体内のHIV感染細胞活性を死滅させる検出である。
【
図6B】
図6Bは、本発明においてN6−CARで形質導入されたCD8
+Tリンパ球がヒト化マウス体内のHIV感染細胞活性を死滅させる検出である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実例を挙げて本発明のいくつかの実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。本発明に開示されている内容を材料、方法および反応条件から同時に改良し、これらの改良は、全て本発明の精神および範囲内に含まれる。
【0022】
実施例1
本発明は、HIV感染を治療するキメラ抗原受容体(CAR)組換え遺伝子およびその構築方法を提供し、具体的なスプライシング方法は、シグナルペプチド、HIVウイルス感染細胞表面のgp120を認識可能な一本鎖抗体scFv、CD8 hinge、白血球抗原分化群分子膜貫通領域CD28−TM+ICD、4−1BB、およびCD3(白血球抗原分化群分子3)のζ鎖を順次スプライシングすることで、最後にHIVを治療できる完全なキメラ抗原受容体(CAR)分子が得られ、そのアミノ酸配列がSEQ ID NO.4に示され、その構造を
図1に示し、該キメラ抗原受容体(CAR)をコードする遺伝子の塩基配列がSEQ ID NO.3に示される。
【0023】
HIV感染を治療するキメラ抗原受容体由来の一本鎖抗体scFvのアミノ酸配列がSEQ ID NO.2に示され、該一本鎖抗体scFvは、HIVウイルス感染細胞表面のgp120に対する抗体の軽鎖、重鎖可変領域を直列することで得られるものであり、そのコード遺伝子の塩基配列がSEQ ID NO.1に示される。
【0024】
SEQ ID NO.4に示されるキメラ抗原受容体(CAR)分子を例として本発明のCAR分子の構造設計について詳細に紹介する。CAR分子の窒素末端配列はHIVウイルス感染細胞表面のgp120を特異的に認識できるCAR由来のscFv配列であり、CAR分子の炭素末端配列は第3世代CARの構造をもとに、CD8 hinge、CD28TM+ICD、4−1BBおよびCD3ζ細胞内ドメインを直列することで構成され、CD28分子の膜貫通ドメインによってscFvおよび細胞内シグナル分子が連結されている。かかる構造により、各セグメントは、以下の機能を果たすことができる。シグナルペプチドはCARを細胞外に分泌でき、CD28TM+ICDは本発明のCARを細胞膜にアンカー結合させ、scFvはHIVウイルス感染細胞表面のgp120を特異的に認識し、CD3ζは細胞内シグナル活性化配列であり、scFvが抗原に結合した後にCD3ζがシグナルを活性化し、リンパ球に殺傷活性を発揮させる。
【0025】
実施例2:CAR分子の組換えによるPTK−EF−1α−N6プラスミド発現ベクターの構築
SEQ ID NO.4に示される配列でCARを合成し、全長CARのコード遺伝子をシームレス組換えクローニング技術に基づいて目的発現ベクターに挿入する(
図2参照)。数回の実験を重ねた結果、好ましいプラスミドベクターとして、PTK881ベクターを骨格とし、CMVプロモーターをEF1αプロモーターに置き換えた後に改造されたPTK−EF1α−N6ベクター(その塩基配列がSEQ ID NO.5に示される)であり、最終的にCAR遺伝子が挿入されCARを発現し得る組換えプラスミドPTK−EF1α−N6ベクターが得られ、その塩基配列がSEQ ID NO.6に示される。
【0026】
ウイルスを次の手順でパッケージングする。
1)DMEM培養液16mlの入った2本の遠心チューブのうち、一方のチューブにPEI960μgを加え、他方のチューブにプレミックスPTK881ベクタープラスミド320μgを加え、ボルテックスで振とうし、そして室温で10分間平衡化する。
2)10mlピペットを用いてPEIを混合した培地を膨らませ、プラスミドを混合した培地を一滴ずつPEIに加え、そして室温で30分間インキュベートする。
3)T175フラスコにウシ胎児血清3mlを加え、PEIと混合したPTK−EF1α−N6ベクタープラスミドをその中に加え、次に多層細胞培養フラスコ内の培地をT175フラスコに注ぎ、上下左右逆さまにプラスミドと均一に混合し、最後にT175フラスコ内の培地を多層細胞培養フラスコに逆さまに注ぐ。37℃の5%CO
2インキュベーターにて3日間培養し、上清を回収する。回収した上清を4000rpm(3000g)で30min遠心分離して293T細胞破片を除去する。
4)レンチウイルス液上清を0.22μmのメンブランフィルターで濾過し、250ml遠心分離ボトルに分注し、4℃、30000gで2.5時間遠心分離し、遠心分離した後に遠心分離ボトルをバイオセーフティキャビネットに注意深く移し、真空ポンプで上清を取り除き、沈殿物を残し、T細胞培地を500μl/遠心分離ボトルで加え、沈殿物をガンで吹き飛ばして均一に混合すれば、N6−CAR分子を含有するレンチウイルスベクターが得られ、直ちに使用するかまたは分注した後に−80℃で保存する。
【0027】
実施例3:キメラ抗原受容体を発現し得るCD8
+T細胞(CAR−T細胞)の調製
ステップ1:患者のPBMC細胞の分離
(1)ヒト末梢血試料60〜80mlを採取し、採取しながら揺れて末梢血を抗凝固剤と十分に混合させる。
(2)末梢血を50ml遠心チューブに移し、DPBS緩衝液を用いて1:1で末梢血を希釈し、均一に混合する。希釈した血液試料を室温でヒトリンパ球分離液の入った15ml遠心チューブにゆっくり加える。方法は次のとおりである。10mlピペットで血液試料を吸引し、分離液の液面より上方0.5cmの位置まで伸び、血液試料が自然に滑り落ちて分離液の表面に広げられ、次いで液面を破壊しないように注意しながら血液試料を軽く加える。
(3)平衡化して30min遠心分離し、ゆっくりと加速させたり減速させたりする。
(4)遠心分離終了後、遠心チューブ内で、下から赤血球層、顆粒細胞層、Ficoll層、単核細胞層および血漿層の順に明らかに層が分離する。血漿層を白膜層から約5mmの位置まで吸引して捨てる。赤血球層以上の全ての液体を遠心チューブに慎重に吸引し、PBSで希釈し、細胞懸濁液との体積比を1:3より大きくし、均一に混合する。
(5)(1600r/min)で5min遠心分離し、細胞をPBSで再懸濁して均一に混合し、少量の細胞を取って計数する。
(6)300g(1200r/min)で5min遠心分離し、上清を無菌検出に送る。
【0028】
ステップ2:CD8
+T細胞の選別
(1)ステップ1のPBMC細胞を、30mlの生理食塩水で再懸濁した後にサンプリングし計数し(サンプリング終了後、50mlまで補加して均一に混合し、500g、10min、18℃、急速に加速させたり減速させたりして遠心分離し、上清を除去する)、計数した後に10
7/80μLでbufferを加えて均一に混合し(上清が完全に除去されない場合、bufferを加えないことが好ましい)、10
7/20μLでCD8 Microbeadsを加えて再懸濁し、4〜8℃で15minインキュベートする。
(2)インキュベート終了後、10
7個当たり1〜2mlでbufferを加えて細胞を洗浄し、500g、10minで遠心分離する。
(3)500μLのbufferで10
8個もある細胞を再懸濁する(細胞数が多い場合、bufferの使用量も多くなる)。
(4)ミルテニー専用LSカラムを磁気スタンドに置き、3mlのbufferでLSカラムをすすいだ後、細胞再懸濁液をLSカラムに加え、流れ終わらせる。3mlのbufferでLSカラムを3回洗浄し、毎回流れ終わらせる必要がある。LSカラムを磁気スタンドから取り外し、5mlのbufferをLSカラムに加え、ピストンで標識された細胞を洗い流す(標識された細胞がいずれも洗い流されることを確保するために2回すすぐ)。
(5)CD8
+T細胞を洗い流した後、生理食塩水で30mlに再懸濁し、サンプリングし計数し、500g、10min、18℃で遠心分離し、細胞沈殿物が得られると、培養に用いることができる。
【0029】
ステップ3:CD8
+T細胞の活性化
(1)ステップ2のCD8
+T細胞を計数し、2×10
6/mlの密度で培養フラスコに加え、均一に混合してCO
2インキュベーターに入れて2時間培養する。
(2)培養フラスコを取り出し、軽く揺れ、底部に沈殿した懸濁細胞を浮遊させ、ピペットで培地を吸引して遠心チューブに移し、少量の培地で培養フラスコを洗浄して懸濁細胞を全て収集し、均一に混合して計数する。
(3)細胞計数に応じて細胞濃度を調整し、1.2×10
6/mlの濃度で培養フラスコに接種し(100〜120ml in a T150、50〜60ml in a T75、15〜29ml in a T25)、CD3/CD28磁気ビーズを加え、細胞と磁気ビーズとの比は1:3で(加える前に磁気ビーズを培地で3回洗浄し、保存液を除去する)、IL−2(100U/mL)を加え、均一に混合してCO
2インキュベーターに入れて培養し、細胞を収集する。
【0030】
ステップ4:CD8
+T細胞をN6−CAR分子で形質導入することによるCAR−T細胞の調製
磁気ビーズを12時間加えた後、ステップ3での生長状態が良好なCD8
+T細胞懸濁液を、遠心チューブに適量入れて300gで5分間遠心分離する。上清を捨て、1×10
6/ml細胞の割合でキメラ抗原受容体(CAR)ウイルスベクターを加え、また最終濃度が4μg/mlのPolybreneを加え、均一に混合する。細胞懸濁液を37℃で少量インキュベートする。4時間インキュベートした後にT細胞完全培地を適量流加して培養する。細胞培養3日目に、細胞を計数しかつ細胞状態および増殖状況に応じて培地を流加し、細胞濃度を0.6×10
6/mlに調整し、そしてIL−2(100U/mL)を補充する。細胞培養5日目に、細胞を均一に混合して遠心チューブに移し、磁気ビーズを磁気スタンドから取り外し、細胞を計数しかつ培地を流加し、かつIL−2(100U/mL)を補充し、細胞密度を0.6×10
6/mLに調整して培養を続ける。scFvの発現をフローサイトメトリーで検出すると同時に、一部のCD8
+Tリンパ球をgoat anti−human Fab antibody抗体により刺激して連続継代することにより、anti−gp120でCARが形質導入されたCD8
+Tリンパ球の自己増幅能を確定し、結果を
図3に示す。
【0031】
結果から、Anti−gp120でCARウイルスが形質導入された細胞培養5日目後に、40%のCD8
+T細胞がCAR分子を発現し、抗体goat anti−human Fab antibodyがCD8
+T細胞発現CAR分子に特異的に結合すると、細胞増殖を効果的かつ用量依存的に活性化でき、継代数が増加するにつれて、CAR分子陽性細胞種群の割合も徐々に増加することが明らかになる。
【0032】
実施例4:CAR−T細胞が体外でHIV感染細胞活性を死滅させる検出
N6−CARの機能をさらに検出するために、N6−CAR−T細胞をHIV−1に感染した2つの細胞株H9−NL4−3およびH9−NDKとそれぞれ混合して培養し、U底タイプの96ウェルプレートで細胞殺傷実験を行う。まずCalcein−AMでHIV感染細胞株H9および陰性対照細胞を標識し、100μl(標的細胞含有数10
4)を96ウェルプレートに取り、勾配希釈されたCAR−T細胞100μlを対応する96ウェルプレートに加え、有効標的比は5:1から10:1の範囲であるように確保し、最終容量が1ウェルあたり200μlである。室温、200gで30分間遠心分離し、37℃で2〜3時間インキュベートする。遠心分離して上清を取って蛍光を測定し、溶解の割合を計算することでHIV感染細胞に対するN6−CAR−T細胞の細胞傷害性を判断し、実験結果を
図4に示す。
【0033】
結果から、5:1から10:1の有効標的比区間範囲内で、N6−CAR−T細胞が用量依存的に2つの毒株HIV感染標的細胞株を有意に死滅させるが、対照標的細胞に有意な殺傷効果がなく、N6−CAR−T細胞の標的細胞に対する殺傷作用がHIV−gp120特異的であることを示していることが明らかになる。
【0034】
実施例5:共培養条件下ではCAR−T細胞が体外でウイルス複製活性を阻害する検出
野生型HIV−1感染の初世代CD4+T細胞の排除におけるN6−CAR−T細胞の有効性をさらに実証するために、野生型HIV−1NL4−3−EGFPおよびNDK−EGEPの2つの毒株を用いてそれぞれ健康なヒトの血液試料から分離したCD4+Tリンパ球に感染し、感染3時間後に血液を交換する。感染後8日目に、該細胞をN6−CARで改造された同源CD8
+Tリンパ球と1:4の割合で混合し、24ウェルプレートで細胞殺傷実験を行う。標的細胞数が10
6/ウェルであり、RMPI1640完全培地容量が500μl/ウェルである。48時間後、フローサイトメトリーによりEGFP+CD4+Tリンパ球の割合を検出し、N6−CAR−T細胞の殺傷効果を検証し、実験結果を
図5に示す。
【0035】
結果から、CAR分子で改造されていないCD8
+T細胞群を参照とし、N6−CAR−T細胞群が99.5%のHIV−1感染細胞を排除でき、殺傷効果が顕著であり、そしてN6−CAR−T細胞の特異性および効率性を十分に示すことが明らかになる。
【0036】
実施例6:CAR−Tリンパ球が体内でHIVウイルス感染細胞活性を死滅させる検出
Anti−gp120 CAR−Tリンパ球が体内でHIV感染細胞を排除できるか否かをさらに実証するために、蛍光遺伝子付きのNL4−3−EGFPウイルス(1x10
6pg p24/mouse)をヒト化マウスBLT体内に静脈内注射し、マウスに感染すると同時に、健康なボランティアからPBMCを分離し、次いでCD8
+T細胞を分離し、N6−CARレンチウイルスで形質導入し、10日間体外増幅した後に、計数し、そして500μlのPBSで再懸濁し、1×10
7CD8
+T/kgの用量で静脈内輸注する。2週間後、脾臓をマウス体内から収集し、包埋剤に入れて凍結切片を作製する。20枚を超える厚さ10μmの凍結切片を作製し、蛍光共焦点顕微鏡下で写真を撮影し、写真をVelocity5.0ソフトウェアで定量化し分析する(
図6A)。同時に、収集した脾臓細胞の一部から単細胞懸濁液を調製し、5×10
6個の細胞にDNAzolを加えてゲノムDNAを抽出し、Nested−QPCRによってプロウイルスのコピー数を定量化して体内の全HIV感染細胞数を推定する(
図6B)。
【0037】
結果から、CAR−T細胞療法を受けなかった対照群と比較して、ウイルスタンパク質発現レベルおよびウイルスゲノムレベルのそれぞれが97.1%を有意に減少したことを示し、CAR−T細胞が体内でHIV感染細胞を効果的に溶解および排除できることが実証され、CAR−T細胞のヒト臨床実験のために理論的基礎を提供することが明らかになる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]