(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6890704
(24)【登録日】2021年5月27日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】工作機械および工作機械の制御システム
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/00 20060101AFI20210607BHJP
B23Q 11/08 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
B23Q11/00 Z
B23Q11/08 Z
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-91785(P2020-91785)
(22)【出願日】2020年5月26日
【審査請求日】2020年12月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】泉 稜介
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 研次郎
【審査官】
亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−031951(JP,U)
【文献】
特開平05−287643(JP,A)
【文献】
特開2017−019003(JP,A)
【文献】
特開2018−010366(JP,A)
【文献】
特表2016−527091(JP,A)
【文献】
特開平07−266183(JP,A)
【文献】
特開2019−025555(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第03513933(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00 − 11/12
E06B 7/14
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを加工する加工空間を囲むとともに外部から前記加工空間を視認するための窓部を有するカバーと、
前記加工空間内に設けられた機械加工部と、
前記機械加工部への指令を入力する前記カバーの外部に設けられた操作盤と、
前記機械加工部を冷却する冷却システムと、を具備し、
前記冷却システムは、
前記加工空間内にクーラントを供給するクーラント供給部と、
前記クーラントの前記窓部への付着を制限するように作動するクーラント防御部と、
前記カバーの周辺における作業者を検知するセンサの検知結果に基づいて前記クーラント防御部の状態を切り替える制御部と、を具備し、
前記制御部は、前記センサが前記作業者を検知したときは、前記クーラント防御部を第1状態とし、前記センサが前記作業者を検知しないときは、前記クーラント防御部を第2状態とし、
前記第1状態は、前記クーラント防御部が作動する状態であり、
前記第2状態は、前記クーラント防御部が作動しない休止状態であるか、前記第1状態よりも低出力で作動する状態であり、
前記第1状態は、複数の出力状態から選択され、
前記制御部は、直近の前記第2状態の継続時間に基づいて、前記複数の出力状態から1つを選択する、工作機械。
【請求項2】
ワークを加工する加工空間を囲むとともに外部から前記加工空間を視認するための窓部を有するカバーと、
前記加工空間内に設けられた機械加工部と、
前記機械加工部への指令を入力する前記カバーの外部に設けられた操作盤と、
前記機械加工部を冷却する冷却システムと、を具備し、
前記冷却システムは、
前記加工空間内にクーラントを供給するクーラント供給部と、
前記クーラントの前記窓部への付着を制限するように作動するクーラント防御部と、
前記カバーの周辺における作業者を検知するセンサの検知結果に基づいて前記クーラント防御部の状態を切り替える制御部と、を具備し、
前記制御部は、前記センサが前記作業者を検知したときは、前記クーラント防御部を第1状態とし、前記センサが前記作業者を検知しないときは、前記クーラント防御部を第2状態とし、
前記第1状態は、前記クーラント防御部が作動する状態であり、
前記第2状態は、前記クーラント防御部が作動しない休止状態であるか、前記第1状態よりも低出力で作動する状態であり、
前記制御部は、前記第1状態の継続時間に基づいて、前記第1状態の出力を低下または上昇させる、工作機械。
【請求項3】
ワークを加工する加工空間を囲むとともに外部から前記加工空間を視認するための窓部を有するカバーと、
前記加工空間内に設けられた機械加工部と、
前記機械加工部への指令を入力する前記カバーの外部に設けられた操作盤と、
前記機械加工部を冷却する冷却システムと、を具備し、
前記冷却システムは、
前記加工空間内にクーラントを供給するクーラント供給部と、
前記クーラントの前記窓部への付着を制限するように作動するクーラント防御部と、
前記カバーの周辺における作業者を検知するセンサの検知結果に基づいて前記クーラント防御部の状態を切り替える制御部と、を具備し、
前記制御部は、第1モードと第2モードとの間で切り替え可能であり、
前記第1モードでは、前記制御部が、前記センサの検知結果に基づいて前記クーラント防御部の状態を切り替え、
前記第2モードでは、前記クーラント防御部の状態をマニュアルで切り替え可能である、工作機械。
【請求項4】
前記制御部は、前記センサが前記作業者を検知したときは、前記クーラント防御部を第1状態とし、前記センサが前記作業者を検知しないときは、前記クーラント防御部を第2状態とし、
前記第1状態は、前記クーラント防御部が作動する状態であり、
前記第2状態は、前記クーラント防御部が作動しない休止状態であるか、前記第1状態よりも低出力で作動する状態である、請求項3に記載の工作機械。
【請求項5】
前記第1状態は、複数の出力状態から選択され、
前記制御部は、直近の前記第2状態の継続時間に基づいて、前記複数の出力状態から1つを選択する、請求項2または4に記載の工作機械。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1状態の継続時間に基づいて、前記第1状態の出力を低下または上昇させる、請求項1または4に記載の工作機械。
【請求項7】
前記制御部は、第1モードと第2モードとの間で切り替え可能であり、
前記第1モードでは、前記制御部が、前記センサの検知結果に基づいて前記クーラント防御部の状態を切り替え、
前記第2モードでは、前記クーラント防御部の状態をマニュアルで切り替え可能である、請求項1または2工作機械。
【請求項8】
前記センサは、前記作業者の対象動作により前記作業者を検知する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の工作機械。
【請求項9】
前記対象動作が、前記作業者の前記操作盤または前記窓部の周辺での動作である、請求項8に記載の工作機械。
【請求項10】
前記対象動作が、前記作業者による前記窓部を介した前記加工空間の視認動作である、請求項8に記載の工作機械。
【請求項11】
前記センサは、前記作業者の前記窓部への接近を前記視認動作として検知する、請求項10に記載の工作機械。
【請求項12】
前記センサは、前記加工空間内に設置された第1撮像装置により前記作業者の前記窓部への接近を検知する、請求項11に記載の工作機械。
【請求項13】
複数の請求項1、2または3に記載の工作機械と、
前記複数の前記工作機械を監視する第2撮像装置と、を具備し、
前記センサは、前記第2撮像装置により前記作業者を検知する、工作機械の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械および工作機械の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
切削工具によりワークを加工する際には多量の摩擦熱が生じる。一般に、工作機械は、クーラント(切削液)を使用して切削工具を冷却する機能を備える。また、工作機械の機械加工部は、ワークを加工する際に生じる切削屑を周囲に発散させないようにカバーで囲われている。カバーには、作業者が加工作業の進捗状況を目視できるように窓部が設けられている。一方、クーラントおよび切削屑は、窓部に飛び散り、作業者の窓部を介した視界を妨げる。
【0003】
そこで、特許文献1は、工作機械の窓と、前記工作機械の窓から切削液の液滴を除去する装置とを備えるシステムであって、前記装置が、前記窓に取り付けられた1つ又は複数のトランスデューサであり、それぞれが前記窓において超音波を生成するように動作可能である、1つ又は複数のトランスデューサと、前記1つ又は複数のトランスデューサに超音波駆動信号を提供する発生器とを備え、前記システムの動作中に、切削液の液滴が前記窓から超音波で除去される、システムを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2016−527091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、工作機械の窓から切削液の液滴を除去する装置を備えるシステムでは、窓から切削液の液滴を除去する装置が常時作動しており、装置の作動のためにエネルギーが消費されている。しかし、工作機械を使用したワークの加工作業の自動化が進むにつれて、作業者が窓部を介して加工作業の進捗状況を目視する頻度は減少する。そのため、上記装置が常時作動する場合、必要以上のエネルギーが浪費されることとなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、ワークを加工する加工空間を囲むとともに外部から前記加工空間を視認するための窓部を有するカバーと、前記加工空間内に設けられた機械加工部と、前記機械加工部への指令を入力する前記カバーの外部に設けられた操作盤と、前記機械加工部を冷却する冷却システムと、を具備し、前記冷却システムは、前記加工空間内にクーラントを供給するクーラント供給部と、前記クーラントの前記窓部への付着を制限するように作動するクーラント防御部と、前記カバーの周辺における作業者を検知するセンサの検知結果に基づいて前記クーラント防御部の状態を切り替える制御部と、を具備する、工作機械に関する。
【0007】
本開示の別の側面は、複数の上記工作機械と、前記複数の前記工作機械を監視する撮像装置と、を具備し、前記センサは、前記撮像装置により前記作業者を検知する、工作機械の制御システムに関する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、エネルギーの浪費を抑制できる工作機械およびその制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る工作機械の一例の構造を示す斜視図である。
【
図2】同工作機械の加工空間内の構成の模式的な斜視図である。
【
図3】同工作機械の冷却システムの構成を示すブロック図である。
【
図4】クーラント防御部の一例を示す構成図である。
【
図5】複数の工作機械の制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図6】クーラント防御部の制御の一例を示すフロー図である。
【
図7】クーラント防御部の制御の別の例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る工作機械は、カバー、機械加工部、操作盤、冷却システムなどを具備する。なお、工作機械とは、例えば、旋盤、立形もしくは横形のマシニングセンタ、固定工具を用いた旋削機能と回転工具を用いたミーリング機能とを有する複合加工機、X軸、Y軸、Z軸に加え、2つ以上の旋回軸により制御される5軸加工機、金属付加加工が可能なAdditive Manufacturing(AM)機などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0011】
カバーは、ワークを加工する加工空間を囲むとともに外部から加工空間を視認するための窓部を有する。カバーは、スプラッシュガードとも呼ばれ、加工空間でワークを加工する際に生じる切削屑およびクーラントが加工空間内に留まるように規制する役割を果たす。カバーは、通常、加工空間を囲む側壁と天井壁とを有する。カバーは自身に対して相対的に移動するドアを備えてもよい。ドアは、例えば、カバーに形成された開口に沿ってスライド移動することにより開口を開放状態と閉鎖状態に切り替える。開放状態では作業者の加工空間へのアクセスが可能であり、閉鎖状態でワークの加工が行われる。窓部は、カバーのドアに設けられていてもよい。
【0012】
機械加工部は、加工空間内に設けられた工作機械の要部である。機械加工部は、例えば、ワークを固定するワークテーブルと、コラムに装着された主軸と、主軸に固定された切削ツール(バイト)と、ワークテーブルとを備える。もしくは、機械加工部は、ワークを固定する主軸台と、ワークを加工する切削ツールを固定する刃物台とを備えてもよい。
【0013】
操作盤は、機械加工部への指令を入力するための装置であり、カバーの外部に設けられている。操作盤には、CPUボード、主記憶装置、補助記憶装置などが内蔵されている。操作盤は、例えば、便宜上カバーの開口もしくはドアの近傍に設けられる。機械加工部を含む工作機械の全般的な制御を行い得るように構成されていてもよい。
【0014】
冷却システムは、ワークおよび切削ツールを冷却するシステムであり、加工空間内にクーラントを供給するクーラント供給部と、クーラントの窓部への付着を制限するように作動するクーラント防御部と、カバーの周辺における作業者を検知するセンサ(以下、作業者センサと称する。)の検知結果に基づいてクーラント防御部の状態を切り替える制御部(以下、視界制御部と称する。)を具備する。作業者センサは、工作機械に内蔵されていてもよく、工作機械の外部に配置されていてもよい。
【0015】
クーラント防御部と、作業者センサと、視界制御部とが協働することで、作業者による窓部を介した加工空間の視認を常時クリアなものとすることができ、かつエネルギーの浪費を抑制することができるようになる。例えば、工場の無人化が促進され、作業者が窓部を介して加工作業の進捗状況を目視する頻度が減少する場合でも、クーラント防御部が必要最小限で作動することができるようになり、必要以上のエネルギーが浪費されることがなくなる。
【0016】
例えば、クーラント供給部は、ワークおよび切削ツールに向けて大量の液状のクーラントを噴射するためのノズルを有する。ワークおよび切削ツールに噴射されたクーラントは、所定の回収部により回収され、切削屑と分離された後、再利用される。他の例として、主軸内部を通ってツール先端からクーラントが噴射される形態、加工空間内の切削屑を洗い流すために天井からクーラントが噴射される形態などが挙げられる。
【0017】
クーラント防御部は、クーラントの窓部への付着を制限するように作動するものであれば、特に限定されない。例えば、窓部に向けてエアを噴射するエアスプレー装置、遠心力により窓部に付着するクーラントを振り落とすロータリウインド(旋回窓)などが挙げられる。これらのクーラント防御部は、いずれも作動に電力等のエネルギーを消費するため、効率的に作動と休止を繰り返すことが望まれる。しかし、従来は常時作動を継続することしかできず、多くのエネルギーを浪費していた。
【0018】
作業者センサは、カバーの周辺における作業者を検知できるものであればよく、その構成は特に限定されない。例えば、作業者センサがカバーの周辺において作業者の存在を検知したときにのみ、視界制御部が選択的にクーラント防御部を作動させることで、エネルギーの浪費を抑制することができる。例えば、赤外線センサ、光学センサ、画像認識カメラなどによって作業者の存在を非接触で検知してもよいが、これらに限定されない。例えば、複数の工作機械を管理する上位システムの画像認識カメラを利用してもよい。
【0019】
視界制御部は、例えば、操作盤に内蔵されたCPUボード、主記憶装置、補助記憶装置などを利用して構成してもよく、複数の工作機械を管理する上位管理部の制御部を利用してもよい。
【0020】
次に、冷却システムが具備する視界制御部の制御内容の概要について説明する。
視界制御部は、例えば、作業者センサが作業者を検知しないときは、クーラント防御部を第2状態とし、作業者センサが作業者を検知したときは、クーラント防御部を第1状態とする指令を出す。第1状態は、クーラント防御部が作動する状態であり、第2状態は、クーラント防御部が作動しない休止状態であるか、第1状態よりも低出力で作動する状態である。作業者センサが作業者を検知しないときは、作業者が窓部を介して加工空間を視認する可能性がないため、クーラント防御部は休止状態でよい。また、クーラント防御部を第1状態よりも低出力で作動させる場合、窓部が過度に汚れることがなく、第1状態になったタイミングで速やかに窓部をクリーンにすることができる。第2状態における低出力での作動は、必ずしも、その作動中に窓部を介した視認が可能な程度にまで窓部をクリーンにする必要はない。ここで「出力」とは仕事率(W)を意味する。すなわち、第2状態でのクーラント防御部の仕事率は、第1状態での仕事率よりも十分に小さい。
【0021】
第1状態は、複数の出力状態から選択されてもよい。例えば、視界制御部は、直近の第2状態の継続時間に基づいて、複数の出力状態から1つを選択してもよい。例えば、直近の第2状態の継続時間が長いときは、より高出力の状態でクーラント防御部を作動させることで、第2状態の期間中に窓部に付着したクーラントと切削屑を早々に除去して視界を早期にクリーンにすることができる。一方、直近の第2状態の継続時間が短いときは、第2状態の期間中に窓部に付着するクーラントと切削屑の量が少ないため、より低出力の状態でクーラント防御部を作動させればよい。これによりエネルギーの浪費を効果的に抑制できるようになる。選択可能な出力状態は、2つであってもよく、3つ以上であってもよい。例えば、通常出力状態と、それよりも高出力状態の2つから選択されてもよく、更に複数の出力状態の異なる高出力状態から任意の1つを選択可能であってもよい。
【0022】
視界制御部は、第1状態の継続時間に基づいて、第1状態の出力を低下または上昇させるようにクーラント防御部を制御してもよい。例えば、第2状態から第1状態に切り替えた直後の初期段階では、高出力状態で窓部に付着したクーラントと切削屑を除去し、その後、通常出力状態に切り替えてもよい。この場合、例えば作業者が視認動作を行うと、早々に良好な視界がスムーズに確保される。
【0023】
一方、第1状態の継続時間が所定時間よりも長い場合には、視界制御部は、クーラント防御部の出力状態を自動的に、より高出力な状態に切り替える。これにより、作業者は、自身の操作を要することなく、よりクリーンな視界を自動的に確保できるようになる。
【0024】
視界制御部は、第1モードと第2モードとの間で切り替え可能であってもよい。ここで、第1モードは、視界制御部が、センサの検知結果に基づいてクーラント防御部の状態を切り替えるモードである。また、第2モードは、クーラント防御部の状態をマニュアルで切り替え可能なモードである。これにより、状況に応じた柔軟な工作機械の操作が可能になる。
【0025】
作業者センサは、作業者の対象動作により作業者を検知するものであってもよい。対象動作は、例えば、作業者の操作盤または窓部の周辺での動作であってもよい。
【0026】
作業者の操作盤の周辺での動作とは、典型的には、作業者による操作盤の操作である。この場合、作業者センサは操作盤の操作信号を検知してもよいし、作業者が操作盤に接触したときに、例えば感圧センサなどによって作業者の対象動作(操作盤の操作)を検知してもよい。
【0027】
作業者の窓部の周辺での動作とは、作業者による窓部を介した加工空間の視認動作であってもよい。このような視認動作の際、作業者は、顔を窓部に相当に接近させる必要がある。よって、作業者センサは、作業者の窓部への接近を視認動作として検知すればよい。このような検知は、カバー外の窓部近傍に設けた赤外線センサなどでも行い得るが、加工空間内に設置された撮像装置(以下、第1撮像装置と称する。)により作業者の窓部への接近を検知してもよい。
【0028】
第1撮像装置は、ワークの加工状態のモニタリング、切削屑の堆積状態のモニタリング、加工後のワークの寸法測定、異常状態の検知などの目的で、例えば加工空間内に一台以上設けられることがある。第1撮像装置を利用することで、冷却システム専用の作業者センサを準備する必要がなくなる。また、加工空間内に設置された第1撮像装置は、カバー外の作業者の動作の多くには敏感に反応せず、作業者が顔を窓部に相当に接近させたときに視認動作を検知するため、クーラント防御部の誤作動が抑制される。すなわち、コスト増加を抑制しながら作業者による窓部を介した加工空間の視認動作を高精度で検知することができる。
【0029】
次に、本発明は、工作機械の制御システムを包含する。複数の工作機械を具備する工場内には、通常、複数の工作機械を管理する上位管理部が備わっている。上位管理部は、例えば、工場内で行われる作業スケジュールの作成、実行等を指揮するものであり、通常は複数の工作機械の稼働状況等を監視する少なくとも1つの撮像装置(以下、第2撮像装置と称する。)を具備する。第2撮像装置は、作業者センサを兼ねることができる。例えば、第2撮像装置は、作業者の対象動作を画像によって検知し、検知結果を視界制御部に伝達する。視界制御部は、上位管理部が備えてもよく、各工作機械が備えてもよい。各工作機械が視界制御部を備える場合は、上位管理部から各視界制御部に必要な指令が伝達される。
【0030】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る工作機械およびその制御システムの実施形態を説明する。各実施形態の説明において、方向を表す用語(例えば「X軸、Y軸、Z軸」等)を適宜用いるが、これらの用語は説明のためのものであって本発明を限定するものではない。また、各図面において、工作機械の各構成部品の形状または寸法は必ずしも同一の縮尺比で表したものではない。また、各図面において同一の構成部品には同一の符号を用いて示す。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る工作機械100の全体的構成を示す概略的な斜視図であり、
図2は、工作機械100の加工空間S内の模式的な斜視図である。
図3は、冷却システム2の概略的構成を示すブロック図であり、
図4は、クーラント防御部の一例を示す構成図である。
【0032】
工作機械100は、
図1に示すように、工場等のフロアに直接的に据え置かれる。工作機械100は、ワークWを加工する加工空間Sを囲むとともに外部から加工空間Sを視認するための窓部101Wを有するカバー101と、カバー101で囲われた加工空間Sに配置されたベッド102と、ベッド102からZ方向(
図1の上方向)に延びるコラム103と、コラム103からX方向(
図1の左方向)に延びるサドル104と、サドル104に固定された主軸頭105と、主軸頭105に着脱自在に取り付けられた切削ツール21と、被加工物であるワークWを固定して支持するテーブル106とを備える。ベッド102、コラム103、サドル104、主軸頭105、切削ツール21、テーブル106は、機械加工部1を構成する。
【0033】
工作機械100は、切削ツール21の代わりに穿孔ツール(ドリル)、研磨ツール(砥石)等の任意の適当な加工ツールを取り付けることにより、テーブル106に載置されたワークWの穿孔加工、研磨加工等を行うことができる。工作機械100は、例えば、X軸、Y軸、Z軸、回転軸および傾斜軸を制御して、ワークWをワンチャッキングで多面加工することができる5軸複合加工機械であってもよい。
【0034】
また、工作機械100は、加工空間S内にクーラントを供給するクーラント供給部30(
図2参照)と、機械加工部1への指令を入力するカバー101の外部に設けられた操作盤107と、クーラントの窓部101Wへの付着を制限するように作動するクーラント防御部108と、作業者を検知する作業者センサを兼ねるCCDカメラ等の第1撮像装置40と、第1撮像装置40の検知結果に基づいてクーラント防御部108の状態を切り替える視界制御部109とを具備する。クーラント防御部108は、カバー101の窓部101Wに設けられた旋回窓の態様を有し、旋回窓自身がクーラント防御部108として機能する。第1撮像装置40は、加工時のワークW、切削ツール21およびこれらの背景をモニタする役割も有する。ここでは、視界制御部109は、操作盤107に内蔵されたCPUボード、主記憶装置、補助記憶装置などを利用して構成されている。
【0035】
クーラント供給部30、窓部101Wに設けられたクーラント防御部(旋回窓)108、作業者センサを兼ねる第1撮像装置40、操作盤107に内蔵された視界制御部109は、冷却システム2を構成する。ワークWおよび切削ツール21に噴射されたクーラントは、クーラント回収部110により回収され、切削屑と分離された後、再利用される。
【0036】
図1および
図2では、ワークWは、テーブル106に固定されており、Z軸を中心とした円形の凸部Tを有する。加工空間S内には、切削ツール21を回転駆動する駆動部20と、加工時のワークWを照明するLED等の複数の照明部50とが設けられている。切削ツール21は、駆動ロッド22を介して主軸頭105に取り付けられ、Z軸に平行な中心軸周りに回転するように構成されている。回転する切削ツール21がワークWの凸部Tの垂直面(Z軸方向に沿った側面)に当接することにより、ワークWの凸部Tが任意の半径を有するように切削加工される。なお、工作機械100による加工手法は、本発明を限定するものではない。同様に、ワークWの加工は、上述の単純な形状に限定されるものではなく、本発明は、例えば5軸複合加工機械で実現されるさまざまな形状および加工に対して適用可能である。
【0037】
工作機械100の加工時、主軸頭105内に配置されたモータ(駆動部20)を用いて切削ツール21をZ軸周りに回転させながら、ワークWの凸部Tに当接させるとともに、大量のクーラントをクーラント供給部30のノズル31からワークWおよび切削ツール21に向けて噴射し、これらを冷却する。ノズル31から噴射されたクーラントは、ワークWおよび切削ツール21に衝突して飛散し、液滴を形成する。また、ワークの加工の際に生じる飛散物には、クーラントの液滴の他、加工時にワークから生じる切削屑が大量に含まれる。これらの飛散物は加工空間を視認するための窓部101Wに常時付着する。
【0038】
第1撮像部40は、作業者が窓部101Wに設けられた旋回窓を介した加工空間の視認動作(すなわち作業者の窓部への接近)を検知する作業者センサを兼ねている。検知結果は、視界制御部109に送信され、その結果に基づいて視界制御部109がクーラント防御部108(旋回窓)の状態を選択し、必要に応じて切り替える。
【0039】
図4では、クーラント防御部108は、環状枠体1011と、環状枠体1011内で回転する枠内窓部1012と、枠内窓部1012の中心に配置され、枠内窓部1012を回転させる中央駆動部(モータ)1013と、環状枠体1011と枠内窓部1012との隙間にエアを吹き込むエアノズル1014とを具備する。中央駆動部1013は、環状枠体1011に連結された架橋部1015で支持され、枠内窓部1012を環状枠体1011の中心に固定する役割も有する。旋回窓は、枠内窓部1012を高速回転させることで、枠内窓部1012自身へのクーラントの付着を遠心力により制限する。視界制御部109がクーラント防御部108の状態を切り替えることで、クーラント防御部108を駆動させるためのエネルギーを節約しつつ、作業者の視認が必要なタイミングではクーラント防御部108が高速回転しているため作業者はクリーンな視界を常時確保することができる。
【0040】
次に、複数の工作機械を制御する制御システムについて説明する。
図5は、複数の工作機械の制御システム3の概略構成を示すブロック図である。制御システム3は、複数の工作機械A〜C(100A、100B、100C(以下、A、B、CをまとめてNと表記する。))と、複数の工作機械100Nを管理する上位管理部200とを有する。上位管理部200は、複数の工作機械100Nの状態を監視する第2撮像装置240を具備する。この場合、第2撮像装置240は、作業者センサを兼ねることができ、第2撮像装置240が作業者の対象動作を検知する。上位管理部200は、複数の工作機械100Nの視界制御部A〜C(109N)を具備し、複数の工作機械100Nの冷却システム2Nの一部を構成している。視界制御部109Nは、検知結果に基づいて対象となる工作機械のクーラント防御部A〜C(108N)を制御する。制御の内容は、工作機械が具備する冷却システム2と同様である。なお、制御システム3が具備する工作機械の数は特に限定されないし、第2撮像装置240の数も1つに限らず、複数であってもよい。
【0041】
次に、冷却システム2が具備する視界制御部109の制御内容の具体例について説明する。
図6は、クーラント防御部108の制御の一例(第1態様)を示すフロー図である。ここでは、視界制御部109が第1モードと第2モードとの間で切り替え可能である場合について例示的に説明する。第1モードでは、視界制御部109が、作業者センサ(第1撮像装置40または第2撮像装置240)の検知結果に基づいて自動的にクーラント防御部108の状態を第1状態と第2状態との間で切り替える。一方、第2モードでは、作業者がクーラント防御部108の状態をマニュアルで切り替え可能であり、視界制御部109は自動的に作動しない。第1状態は、クーラント防御部108が作動する状態であり、第2状態は、クーラント防御部108が作動しない休止状態であるか、第1状態よりも十分に低出力で作動するアイドリング状態である。
【0042】
まず、視界制御部109は、自身が第1モードの状態であるか否かを判断する(ST01)。第1モードでない場合(N)、視界制御部109は第2モードであるため、その時点で制御は終了する。一方、第1モードである場合(Y)、視界制御部109は、作業者センサが作業者の視認動作を検知したか否かを判断する(ST02)。作業者の視認動作を検知していない場合(N)、視界制御部109は第2状態を選択し、クーラント防御部108を休止させるか、アイドリング状態に維持する(ST03)。一方、作業者の視認動作を検知している場合(Y)、視界制御部109は、その時点において、クーラント防御部108が第1状態であるか否かを判断する(ST04)。既にクーラント防御部108が第1状態で作動している場合(Y)、ST02に戻り、同様の制御が繰り返される。一方、クーラント防御部108が第1状態でない場合(N)、クーラント防御部108は、その時点で第2状態であるため、クーラント防御部108を第1状態に切り替えて作動させる(ST05)。その後はST02に戻り、同様の制御が繰り返される。
【0043】
図7は、クーラント防御部108の制御の別の例(第2態様)を示すフロー図である。ここでは、第1状態の継続時間t1が所定時間T1より短いか否かにより、また、直近の第2状態の継続時間t2が所定時間T2より短いか否かにより、第1状態の出力を第1出力(通常出力)とするか、第1出力よりも十分に高い第2出力(高出力)とするかが選択される場合について説明する。
【0044】
第2態様の視界制御部109による制御において、ST01からST04までは第1態様と同様である。ST04において、クーラント防御部108が第1状態であると判断されたとき(Y)、視界制御部109は、第1状態の継続時間t1が所定時間T1以上か(すなわちt1≧T1が成立するか)否かが判断される(ST05)。t1≧T1が成立しない(t1<T1が成立する)場合(N)、作業者による視認動作が短時間でスムーズに行われていると推定されるため、視界制御部109は、クーラント防御部108を通常出力で作動させる(ST06)。その後、ST02に戻り、同様の制御が繰り返される。
【0045】
一方、t1≧T1が成立する場合(Y)、作業者による視認動作が比較的長期間にわたって継続していることから、窓部を介した視界が依然として不良であるか、作業者による精密な作業状況の確認が必要な状況であると想定される。この場合、視界制御部109は、クーラント防御部108を高出力で作動させる(ST07)。その後、フローはST02に戻り、同様の制御が繰り返される。
【0046】
ST04において、クーラント防御部108が第1状態でないと判断されたとき(N)、視界制御部109は第2状態にある。この場合、直近の第2状態の継続時間t2が所定時間T2より短いか(すなわちt2<T2が成立するか)否かが判断される(ST08)。t2<T2が成立する場合(Y)、窓部の汚染の程度は小さいと推定されるため、視界制御部109は、クーラント防御部108を通常出力で作動させる(ST06)。その後、フローはST02に戻り、同様の制御が繰り返される。一方、t2≧T2の場合(N)、窓部の汚染の程度は大きいと推定されるため、視界制御部109は、クーラント防御部108を高出力で作動させる(ST07)。その後、フローはST02に戻り、ST04まで同様の制御が繰り返される。次に、ST05では、高出力での作動時間t3が所定時間T3より短いか(すなわち0<t3<T3が成立するか)否かが判断される。0<t3<T3が成立する場合(Y)、引き続きクーラント防御部108を高出力で作動させる(ST07)。一方、t3≧T3が成立する場合(N)、視界制御部109は、クーラント防御部108を通常出力で作動させる(ST06)。その後、ST02に戻り、同様の制御が繰り返される。
【0047】
以上のように、ST05では、t1≧T1が成立するかが判断されるとともに、0<t3<T3が成立するかも並行して判断され、t1≧T1および0<t3<T3のいずれかが満たされればクーラント防御部108が高出力で作動する。すなわち、0<t3<T3が成立する場合には、t1<T1であっても、クーラント防御部108は高出力で作動する。また、t1≧T1が成立する場合には、t3≧T3であっても、クーラント防御部108は高出力で作動する。なお、t2<T2が成立するときはt3=0となる。
【0048】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、冷却システムを具備する工作機械およびその制御システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…機械加工部、2…冷却システム、3…制御システム、20…駆動部、21…切削ツール、22…駆動ロッド、30…クーラント供給部、31…ノズル、40(240)…撮像装置、50…照明部、100…工作機械、101…カバー、101W…窓部、1011…環状枠体、1012…枠内窓部、1013…中央駆動部(モーター)、1014…エアノズル、1015…架橋部、102…ベッド、103…コラム、104…サドル、105…主軸頭、106…テーブル、107…操作盤、108…クーラント防御部(旋回窓)、109…視界制御部、110…クーラント回収部、W…ワーク(被加工物)、S…加工空間
【要約】 (修正有)
【課題】エネルギーの浪費を抑制できる工作機械およびその制御システムを提供する。
【解決手段】ワークWを加工する加工空間Sを囲むとともに外部から前記加工空間Sを視認するための窓部101Wを有するカバー101と、前記加工空間S内に設けられた機械加工部と、前記機械加工部への指令を入力する前記カバー101の外部に設けられた操作盤107と、前記機械加工部を冷却する冷却システムと、を具備し、前記冷却システムは、前記加工空間内にクーラントを供給するクーラント供給部と、前記クーラントの前記窓部101Wへの付着を制限するように作動するクーラント防御部108と、前記カバー101の周辺における作業者を検知するセンサの検知結果に基づいて前記クーラント防御部108の状態を切り替える視界制御部109と、を具備する、工作機械。
【選択図】
図1