(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るダンパプーリの全体構成を示す断面図および平面図である。
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るダンパプーリとオイルシールとを用いた密封構造の概略構成を示すための軸線に沿う断面における部分断面図である。
図3は、第1の実施の形態に係るダンパプーリに取り付けられるフィン構造体の概略構造を示す斜視図および断面図である。本発明の第1の実施の形態に係るトーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造は、例えば、自動車のエンジンに適用されている。
【0018】
以下、説明の便宜上、
図2においては、軸線x方向における矢印a(
図1参照)方向を大気側とし、軸線x方向において矢印b(
図1参照)方向をオイル側とする。より具体的には、大気側とは、エンジンから離れる方向であり、オイル側とは、エンジンに近づく方向である。また、軸線xに垂直な方向(以下、「径方向」ともいう。)において、軸線xから離れる方向(
図1の矢印c方向)を外周側とし、軸線xに近づく方向(
図1の矢印d方向)を内周側とする。
【0019】
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るトーショナルダンパとしてのダンパプーリ10は、
図2に示すように、エンジン(図示せず)のクランクシャフト51の一端にボルト52によって固定されている。
【0020】
ダンパプーリ10は、円盤状部材としてのハブ11と、質量体としてのプーリ12と、ハブ11とプーリ12との間に配設されたダンパ弾性体13とを備える。ハブ11は、軸線xを中心とする環状の部材であり、内周側のボス部14と、外周側のリム部15と、ボス部14とリム部15とを接続する略円盤状の円盤部16とを備える。ハブ11は、例えば、金属材料から鋳造等によって製造されている。
【0021】
ハブ11のボス部14は、貫通穴14aが形成された軸線xを中心とする環状の部分であり、外側(矢印a方向)の部分の外周面から外周側(矢印c方向)に向かって円盤部16が延びている。ボス部14は、円筒状の内側(矢印b方向)の部分において外周側の面となる外周面14bを備えている。ボス部14の外周面14bは、滑らかな面となっており、後述するように、オイルシール20が装着される際のシール面となっている。
【0022】
ハブ11のリム部15は、軸線xを中心とする円筒状の部分であり、ボス部14に対して同心的に当該ボス部14よりも外周側(矢印c方向)に位置している。リム部15の内周側(矢印d方向)の面である内周面15aから円盤部16が内周側(矢印d方向)に向かって延びている。リム部15の外周側の面である外周面15bにはダンパ弾性体13が圧着されている。
【0023】
円盤部16は、ボス部14とリム部15との間を延び、当該ボス部14と当該リム部15とを接続している。円盤部16は、軸線xに対して垂直な方向に延びているが、軸線xに対して傾斜する方向に延びていてもよい。また、円盤部16は、軸線xに沿う断面が湾曲した形状であってもよく、また、真っ直ぐに延びる形状であってもよい。
【0024】
また、円盤部16には、円盤部16をオイル側(矢印b方向)と大気側(矢印a方向)との間を貫通する貫通穴からなる小窓部16aおよび大窓部16bが少なくとも1つ形成されている。
【0025】
この場合、小窓部16aが軸線xに対して同心的に周方向に等角度間隔(この場合、90度間隔)で4個形成されている。大窓部16bは、小窓部16aの間に配置されており、軸線xに対して同心的に周方向に等角度間隔(この場合、90度間隔)で4個形成されている。なお、大窓部16bは、小窓部16aよりも外周側寄りの位置に配置されている。この小窓部16aおよび大窓部16bによって、ハブ11、ひいてはダンパプーリ10の軽量化が図られている。
【0026】
プーリ12は、軸線xを中心とする環状の部材であり、ハブ11の外周側を覆う形状を有している。具体的には、プーリ12の内周側(矢印d方向)の面である内周面12aは、ハブ11のリム部15の外周面15bに対応した形状を有している。プーリ12は、その内周面12aがリム部15の外周面15bに径方向(矢印cd方向)において間隔を空けて対向するように位置している。また、プーリ12の外周側(矢印c方向)の面である外周面12bには、環状のv溝12cが複数形成されており、図示しないタイミングベルトが巻回可能である。
【0027】
ダンパ弾性体13は、プーリ12とリム部15との間に設けられている。ダンパ弾性体13は、ダンパゴムであり、耐熱性、耐寒性、および疲労強度において優れたゴム状弾性材料から架橋(加硫)成形されている。ダンパ弾性体13は、プーリ12とリム部15との間に圧入されており、プーリ12の内周面12aとリム部15の外周面15bとに嵌着されて固定されている。
【0028】
ダンパプーリ10において、プーリ12とダンパ弾性体13とがダンパ部を形成しており、ダンパ部の捩り方向固有振動数が、クランクシャフト51の捩れ角が最大となる所定の振動数域である、クランクシャフト51の捩り方向固有振動数と一致するように同調されている。つまり、ダンパ部の捩り方向固有振動数がクランクシャフト51の捩り方向固有振動数と一致するように、プーリ12の円周方向の慣性質量と、ダンパ弾性体13の捩り方向剪断ばね定数とが調整されている。
【0029】
上述のように、ダンパプーリ10は、エンジンにおいてクランクシャフト51の一端に取り付けられている。具体的には、クランクシャフト51の一端がハブ11のボス部14の貫通穴14aに挿通され、大気側(矢印a方向)からボルト52がクランクシャフト51に螺合されて、ダンパプーリ10がクランクシャフト51に固定されている。また、クランクシャフト51とボス部14との間には、クランクシャフト51とボス部14とに係合する半月キー等のキーが設けられており、ダンパプーリ10がクランクシャフト51に対して相対回動不能になっている。
【0030】
ダンパプーリ10は、クランクシャフト51に取り付けられた状態において、ボス部14の外周面14bのうちオイル側(矢印b方向)の部分がハウジング53の貫通穴53h内に挿通された状態になっており、ボス部14の外周面14bと、ハウジング53との間に環状の空間が形成されている。この環状の空間にオイルシール20が装着されている。
【0031】
オイルシール20は、軸線xを中心とする環状の金属製の補強環21と、軸線xを中心とする環状の弾性体から成る弾性体部22とを備える。弾性体部22は、補強環21に一体的に取り付けられている。補強環21の金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。弾性体部22の弾性体としては、例えば、各種ゴム材がある。各種ゴム材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。
【0032】
補強環21は、例えば、断面略L字状の形状を呈しており、円盤部21aと、円筒部21bとを備える。円盤部21aは、軸線xに略垂直な方向に広がる中空円盤状の部分である。円筒部21bは、円盤部21aの外周側(矢印c方向)の端部から軸線x方向において内側(矢印b方向)に延びる円筒状の部分である。
【0033】
弾性体部22は、補強環21に取り付けられており、第1の実施の形態においては補強環21を大気側(矢印a方向)および外周側(矢印c方向)から覆うように当該補強環21と一体的に成形されている。弾性体部22は、リップ腰部23と、シールリップ24と、ダストリップ25とを備える。
【0034】
リップ腰部23は、補強環21の円盤部21aにおける内周側(矢印d方向)の端部の近傍に位置する部分である。シールリップ24は、リップ腰部23から内側(矢印b方向)に向かって延びる部分であり、補強環21の円筒部21bに対向して配置されている。ダストリップ25は、リップ腰部23から軸線x方向に向かって延びる部分である。
【0035】
シールリップ24は、内側(矢印b方向)の端部に、その断面形状が内周側(矢印d方向)に向かって凸の楔形状の環状のリップ先端部24aを有している。リップ先端部24aは、後述するように、ハブ11のボス部14の外周面14bと摺動可能に当該外周面14bに密接して接触するように形成されており、ダンパプーリ10との間を密封するように取り付けられている。また、シールリップ24の外周側(矢印c方向)には、当該シールリップ24を径方向(矢印cd方向)において内周側(矢印d方向)に押し付けるガータースプリング26が嵌着されている。
【0036】
ダストリップ25は、リップ腰部23から延びる部位であり、大気側(矢印a方向)かつ内周側(矢印d方向)へ斜めに延出している。ダストリップ25により、使用状態におけるリップ先端部24a方向への異物の侵入が防止されている。
【0037】
また、弾性体部22は、外側カバー27と、ガスケット部28とを備える。外側カバー27は、補強環21の円盤部21aを大気側(矢印a方向)から覆い、ガスケット部28は、補強環21の円筒部21bを外周側(矢印c方向)から覆っている。
【0038】
また、オイルシール20は、外側(矢印a方向)に向かって延びるサイドリップ29を備える。サイドリップ29は、大気側(矢印a方向)へ延びており、具体的には、軸線xと平行に、または、軸線xに対して大気側(矢印a方向)および外周側(矢印c方向)へ斜めに延びた部位である。
【0039】
上述のように、オイルシール20は、ハウジング53の貫通穴53hと、ダンパプーリ10のボス部14の外周面14bとの間に形成される空間を密封している。具体的には、オイルシール20は、ハウジング53の貫通穴53hに圧入されて取り付けられ、弾性体部22のガスケット部28が圧縮されて当該ハウジング53の内周側(矢印d方向)の面である内周面54aに液密に当接している。
【0040】
これにより、オイルシール20とハウジング53の貫通穴53hとの間が密閉されている。また、シールリップ24のリップ先端部24aが、ハブ11のボス部14の外周面14bに液密に当接し、オイルシール20とダンパプーリ10との間が密閉されている。このように、第1の実施の形態における密封構造1では、トーショナルダンパとしてのダンパプーリ10と、オイルシール20とを備えている。
【0041】
更に、密封構造1では、ハウジング53とダンパプーリ10との間に気流発生構造体としてのフィン構造体60が配置され、当該フィン構造体60がダンパプーリ10のハブ11のボス部14と一体化した状態で当該ハブ11に取り付けられている。
【0042】
図1におけるZ−Z線の断面矢視図である
図3に示すように、このフィン構造体60は、中央に貫通孔61hが形成された薄板円盤状の本体部61と、当該本体部61の外周面から外周側へ放射状に延びる複数(この場合、6個)の羽根部62とを備えている。なお、フィン構造体60は、樹脂やゴム状弾性部材または金属からなり、射出成形または削り出しにより形成される。ゴム状弾性部材としては、例えば、二トリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。
【0043】
このフィン構造体60の本体部61は、プーリ12のオイル側の側端面12dとハウジング53の大気側面53aとの間の隙間よりも狭い軸線x方向の幅wを有している。また、本体部61は、ハブ11のボス部14における外径と同一または僅かに小径の内径φ1を有する貫通孔61hの内周面61nを持ち、取り付け時には、ボス部14の外周面14bに対してしまり嵌めにより一体に固定される。
【0044】
また、本体部61は、ハブ11のプーリ12に当接される側の面である大気側面61aと、ハウジング53と対向する側の面であるハウジング側面61bとを有している。本体部61は、ボス部14の外周面14bに対して一体に固定される際、大気側面61aがプーリ12のオイル側の側端面12dに当接された状態で取り付けられる。
【0045】
本体部61のハウジング側面61bには、貫通孔61hの近傍において軸線xを中心とした環状の凹部61dが形成されている。この凹部61dは、具体的には、軸線x方向においてハウジング側面61bに向かうに連れて次第に拡径した筒状の傾斜面61dsと、軸線x方向とは垂直な径方向(矢印cd方向)において内周面61nまで垂直な方向に延びる環状の側端面61dvとによって画成されている。この傾斜面61dsは、軸線x方向においてハウジング53(矢印b方向)に向かうに連れて外周側(矢印c方向)へ広がる環状の面であり、この場合、略円錐面状のテーパ面である。
【0046】
羽根部62は、本体部61の外周面61gから平面視において外周側へ放射状に延びる気流発生用の羽根であり、フィン構造体60がハブ11に装着された状態において、当該ハブ11におけるプーリ12の外周側の端部にまで到達する長さを有している。また、羽根部62は、本体部61の外周面61gから外周側へ向かって延びた後に先端が平面視反時計回り方向の回転方向に向かって僅かに戻るように沿った湾曲形状を有している。
【0047】
また、羽根部62は、軸線xとは垂直な遠心方向(径方向)でかつ軸線xに沿う面(図示せず)と平行に形成されたブレード面62aを有し、フィン構造体60の本体部61がクランクシャフト51と共に回転したとき、当該ブレード面62aにより外周側(矢印
c方向)へ向かう気流を発生させる。なお、羽根部62は、この場合6個であるが、これに限らず、発生させたい気流の流速、流量、または風圧に応じた任意の個数であってもよい。
【0048】
このように密封構造1では、ハブ11と一体に固定されたフィン構造体60が当該ハブ11とハウジング53との間に配置されることになる。このとき、フィン構造体60の本体部61は、大気側面61aがプーリ12のオイル側の側端面12dに当接されているが、ハウジング側面61bについてはハウジング53と当接されることなく、当該ハウジング側面61bとハウジング53との間に一定の隙間が存在することになる。
【0049】
この密封構造1では、フィン構造体60の本体部61に形成された凹部61dの傾斜面61dsおよび側端面61dvと、ボス部14の外周面14bとの間に軸線xを中心とした環状のポケットP1を画成する。ポケットP1は、フィン構造体60の本体部61のハウジング側面61bから環凹状に凹んだ軸線xを中心とする凹部である。すなわち、ポケットP1は、ボス部14の外周面14bを環状に取り囲んだ凹空間である。
【0050】
ポケットP1を形成している傾斜面61dsの軸線xに対する角度である拡径角度αは、軸線x(軸線xと平行な直線)と傾斜面61dsとの間の角度である。この拡径角度αは、0°よりも大きい角度であり、好ましくは、4°以上18°以下であり、より好ましくは、5°以上16°以下であり、さらに好ましくは、7°以上15°以下である。
【0051】
ハウジング53とハブ11のボス部14との間にはオイルシール20が装着されており、当該オイルシール20のサイドリップ29が当該ハウジング53の大気側面53aから大気側(矢印a方向)へ突出している。
【0052】
この場合、サイドリップ29の先端部が本体部61の凹部61dの傾斜面61dsと径方向(矢印cd方向)において空間的に重なる位置に配置される。すなわち、サイドリップ29の先端部は、フィン構造体60の本体部61におけるハウジング側面61bよりも僅かに大気側(矢印a方向)に位置し、軸線x方向において、ポケットP1の内部空間に進入しており、ポケットP1と軸線xと垂直な方向においてオーバーラップしている。
【0053】
ここで、サイドリップ29の先端部とポケットP1の傾斜面61dsとが接触することはなく、いわゆるラビリンスシールを形成している。ただし、これに限るものではなく、ラビリンスシールを形成することができれば、サイドリップ29の先端部がポケットP1の内部空間に進入しておらず、ポケットP1と軸線xと垂直な方向において非オーバーラップ状態にあってもよい。
【0054】
以上の構成において、密封構造1では、ハブ11が反時計回り方向へ回転した場合、フィン構造体60における複数の羽根部62が軸線xを中心とした回転方向に対して正対する垂直なブレード面62aを有している。
【0055】
このため、密封構造1では、軸線x方向とは垂直な遠心方向(cd方向)において内周側(矢印d方向)から外周側(矢印c方向)へ向かってダイレクトに流れる空気の気流V(
図2参照)を発生させることが可能となり、従来に比して流速、流量および風圧を増大させることができる。
【0056】
この気流Vは、複数の羽根部62において同時に発生するので、ハブ11のボス部14の外周面14bの何れの部分においても、内周側(矢印d方向)から外周側(矢印c方向)へ向かう空気の気流Vがボス部14の全周にわたって生じることになる。
【0057】
また、羽根部62の先端がプーリ12の外周側(矢印c方向)の端部にまで到達していることにより、当該羽根部62により生じる空気の気流Vによって所謂エアーカーテンのように作用するので、ハブ11とハウジング53との間にダスト等の異物が侵入することを未然に防止することができる。
【0058】
これにより、ハウジング53とハブ11との間からオイルシール20に向かって侵入しようとする異物を空気の気流Vによるエアーカーテンの作用により予め侵入させずに済むため、オイルシール20のサイドリップ29とポケットP1との間に形成されたラビリンスシールへダストが侵入することを予め防止し、低トルク状態を維持したまま耐ダスト性を向上することができる。
【0059】
また、密封構造1では、複数の羽根部62によって空気の気流Vを発生させることにより、ハウジング53とハブ11との間に熱が籠もることを未然に防止することができる。これにより、ダンパ弾性体13のゴム熱硬化が進行することを阻止し、シール特性および耐久性を悪化させずに済む。
【0060】
さらに、密封構造1では、フィン構造体60がハブ11に対して着脱自在な取付構造を有しているため、当初の段階でフィン構造体60を有していない場合であっても、後からフィン構造体60を取り付けることができるので、車両が過酷なダスト環境に置かれる場合であっても後から耐ダスト性を向上させることができる。
【0061】
このフィン構造体60は、オイルシール20のサイドリップ29とラビリンスシールを形成するためのポケットP1の一部を画成する凹部61dが予め設けられていることにより、ハブ11自体に予めポケットP1を成形または加工により形成しておく必要がなく、汎用性が格段に向上する。
【0062】
このように密封構造1では、ポケットP1とサイドリップ29の先端部とによってラビリンスシールを形成しているため、ダンパプーリ10とハウジング53との間に加えて、ハブ11の円盤部16の小窓部16aを介して大気側(矢印a方向)から泥水や砂、ダスト等の異物が侵入してきても、サイドリップ29とポケットP1とにより形成されるラビリンスシールによって、異物が更にシールリップ24側へ侵入することを抑制することができる。
【0063】
これにより、上述のようにダンパプーリ10から侵入する異物にオイルシール20のシールリップ24が曝されることを抑制することができる。このため、オイルシール20のリップ先端部24aが異物を噛み込んで損傷又は劣化し、オイルシール20のシール性能が低下してオイルが漏洩してしまうことを抑制することができる。なお、ダンパプーリ10から侵入する異物とは、ダンパプーリ10とハウジング53との間を介して外部から侵入する異物、およびハブ11の円盤部16の大窓部16bおよび小窓部16aを介して外部から侵入する異物を含む。
【0064】
さらに、ラビリンスシールを形成しているポケットP1の傾斜面61dsが、上述のように、大気側(矢印a方向)に向かうに連れて拡径角度αにより拡径する形状を有しているため、ラビリンスシールにおいて、異物が更にシールリップ24側に侵入することを一段と効果的に抑制することができる。
【0065】
さらに、密封構造1では、フィン構造体60において小窓部16aおよび大窓部16bよりも外周側に到達する長さの羽根部62を有しているため、当該小窓部16aおよび大窓部16bを介して外部から容易に空気を取り込むことができる。これにより、小窓部16aおよび大窓部16bが形成されていない場合に比べて、気流Vxの流速を速く、流量を多く、かつ、風圧を強くすることができる。これにより、小窓部16aおよび大窓部16bが形成されていない場合よりも、シール特性および耐久性を向上させることができる。
【0066】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本発明の第2の実施の形態においては、第1の実施の形態に係る密封構造1と基本的な構成は共通し、第1の実施の形態におけるフィン構造体60に代えて第2の実施の形態におけるフィン構造体80を用いている点だけが異なるため、当該フィン構造体80についてのみ説明する。
【0067】
図4(A)および(B)に示すように、フィン構造体80は、第1の実施の形態と同様に、ハウジング53とダンパプーリ10との間に配置され、ダンパプーリ10のハブ11のボス部14と一体に当該ハブ11に取り付けられる。
【0068】
このフィン構造体80は、中央に貫通孔81hが形成された薄板円盤状の本体部81と、当該本体部81の外周面81gから外周側へ向かって放射状に延びる複数(この場合、4個)の羽根部82とを備えている。なお、フィン構造体80においても、フィン構造体60と同様に、樹脂やゴム状弾性部材または金属からなり、射出成形または削り出しにより形成される。
【0069】
このフィン構造体80の本体部81は、プーリ12のオイル側の側端面12dとハウジング53の大気側面53aとの間の隙間よりも狭い軸線x方向の幅wを有している。また、本体部81は、ハブ11のボス部14における外径と同一または僅かに小径の内径φ1を有する貫通孔81hの内周面81nを持ち、取り付け時には、ボス部14の外周面14bに対してしまり嵌めにより一体に固定される。
【0070】
また、本体部81は、ハブ11のプーリ12に当接される側の面である大気側面81aと、ハウジング53と対向する側の面であるハウジング側面81bとを有している。本体部81は、ボス部14の外周面14bに対して一体に固定される際、
大気側面81bがプーリ12のオイル側の側端面12dに当接された状態で取り付けられる。
【0071】
本体部81のハウジング側面81bには、貫通孔81hの近傍において軸線xを中心とした環状の凹部81dが形成されている。この凹部81dは、第1の実施の形態におけるフィン構造体60の凹部61dと同じ構成を有し、軸線x方向においてハウジング側面81bに向かうに連れて次第に拡径した筒状の傾斜面81dsと、軸線x方向において内周面81nまで垂直な方向に延びる環状の側端面81dvとによって画成されている。すなわち、傾斜面81dsは、軸線x方向においてハウジング53(矢印b方向)に向かうに連れて外周側(矢印c方向)へ広がる略円錐面状のテーパ面である。
【0072】
羽根部82は、本体部81の外周面81gから平面視において外周側(矢印c方向)へ放射状かつ湾曲状に延びる羽根であり、ハブ11にフィン構造体80が取り付けられた状態において、当該ハブ11のリム部15に設けられた貫通孔の大窓部16bと対向する位置にまで到達する長さを有している。すなわち、羽根部82は、ハブ11におけるプーリ12の外周側の端部にまで到達する長さを有している。
【0073】
また、羽根部82は、本体部81の外周面81gから平面視時計回り方向に向かって、外周側(矢印c方向)へ弧状の滑らかな曲線を描きながら延びるような渦巻き形状を有している。
【0074】
また、羽根部82は、軸線xとは垂直な遠心方向(径方向)でかつ軸線xに沿う面(図示せず)と平行に形成されたブレード面82aを有し、フィン構造体80の本体部81がクランクシャフト51と共に反時計回り方向へ回転したとき、当該ブレード面82aにより外周側へ向かう空気の気流を発生させる。なお、羽根部82は、この場合4個であるが、これに限らず、発生させたい空気の気流の流速、流量、または風圧に応じた任意の個数であってもよい。
【0075】
このような構成のフィン構造体80を用いた密封構造によれば、第1の実施の形態と同様に、軸線x方向とは垂直な径方向(cd方向)において内周側(矢印d方向)から外周側(矢印c方向)へ向かってダイレクトに流れる空気の気流V(
図2)を発生させることが可能となり、従来に比して流速、流量および風圧を増大させることができる。
【0076】
なお、第2の実施の形態においても、密封構造およびフィン構造体80により得られる作用効果は同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0077】
<第3の実施の形態>
続いて、本発明の第3の実施の形態について説明する。本発明の第3の実施の形態においては、第1の実施の形態に係る密封構造1と基本的な構成は共通し、第1の実施の形態におけるフィン構造体60に代えて第3の実施の形態におけるフィン構造体100を用いている点だけが異なるため、当該フィン構造体100についてのみ説明する。
【0078】
図3との対応部分に同一符号を付した
図5(A)および(B)に示すように、フィン構造体100は、第1の実施の形態と同様に、ハウジング53とダンパプーリ10との間に配置され、ダンパプーリ10のハブ11のボス部14と一体に当該ハブ11に取り付けられる。
【0079】
このフィン構造体100は、中央に貫通孔61hが形成された薄板円盤状の本体部61と、当該本体部61の外周面61gから外周側(矢印c方向)へ放射状に延びる複数(この場合、6個)の羽根部102とを備えている。なお、フィン構造体100においても、フィン構造体60と同様に、樹脂やゴム状弾性部材または金属からなり、射出成形または削り出しにより形成される。
【0080】
このフィン構造体100は、第1の実施の形態におけるフィン構造体60の本体部61を有しており、大気側面61aと、ハウジング側面61bと、凹部61dを備えている。フィン構造体100においては、本体部61の外周面61gから平面視において外周側(矢印c方向)へ放射状に延びる複数の羽根部102を備えている。
【0081】
羽根部102は、第1の実施の形態におけるフィン構造体60の羽根部62と基本形状は同じ羽根であるが、その長さが短く、外周面61gから先端部までの長さが半分以下である。フィン構造体100がハブ11に取り付けられた場合、羽根部102は円盤部16の大窓部16bおよび小窓部16aと対向するように配置されるが、リム部15、ダンパ弾性体13およびプーリ12と対向する位置まで先端が到達することはない。
【0082】
このような構成のフィン構造体100を用いた密封構造によれば、第1の実施の形態と同様に、軸線x方向とは垂直な径方向(cd方向)において内周側(矢印d方向)から外周側(矢印c方向)へ向かってダイレクトに流れる空気の気流Vを発生させることが可能となり、従来に比して流速、流量および風圧を増大させることができる。
【0083】
なお、第3の実施の形態においても、密封構造およびフィン構造体100により得られる作用効果は同じであるため、ここでは説明を省略する。但し、フィン構造体100の羽根部102は、フィン構造体60の羽根部62に比べて長さが短いため、第1の実施の形態よりも流速、流量および風圧が大きくなることはない。
【0084】
<第4の実施の形態>
続いて、本発明の第4の実施の形態について説明する。本発明の第4の実施の形態においても、第1の実施の形態に係る密封構造1と基本的な構成は共通し、第2の実施の形態におけるフィン構造体80に代えて第4の実施の形態におけるフィン構造体120を用いている点だけが異なるため、当該フィン構造体120についてのみ説明する。
【0085】
図4との対応部分に同一符号を付した
図6(A)および(B)に示すように、フィン構造体120は、第1の実施の形態と同様に、ハウジング53とダンパプーリ10との間に配置され、ダンパプーリ10のハブ11のボス部14と一体に当該ハブ11に取り付けられる。
【0086】
このフィン構造体120は、中央に貫通孔81hが形成された薄板円盤状の本体部81と、当該本体部81の外周面から外周側へ放射状に延びる複数(この場合、6個)の羽根部122とを備えている。なお、フィン構造体120においても、フィン構造体80と同様に、樹脂やゴム状弾性部材または金属からなり、射出成形または削り出しにより形成される。
【0087】
このフィン構造体120は、第2の実施の形態におけるフィン構造体80の本体部81を有しており、大気側面81aと、ハウジング側面81bと、凹部81dを備えている。フィン構造体120においては、本体部81の外周面81gから平面視において外周側(矢印c方向)へ放射状に延びる複数の羽根部122を備えている。
【0088】
羽根部122は、第2の実施の形態におけるフィン構造体80の羽根部82と基本形状は同じ羽根であるが、その長さが短く、外周面81gから先端部までの長さが半分以下である。フィン構造体120がハブ11に取り付けられた場合、羽根部122は円盤部16の大窓部16bおよび小窓部16aと対向するように配置されるが、リム部15、ダンパ弾性体13およびプーリ12と対向する位置まで先端が到達することはない。
【0089】
このような構成のフィン構造体120を用いた密封構造によれば、第2の実施の形態と同様に、軸線x方向とは垂直な径方向(cd方向)において内周側(矢印d方向)から外周側(矢印c方向)へ向かってダイレクトに流れる空気の気流Vを発生させることが可能となり、従来に比して流速、流量および風圧を増大させることができる。
【0090】
なお、第4の実施の形態においても、密封構造およびフィン構造体120により得られる作用効果は同じであるため、ここでは説明を省略する。但し、フィン構造体120の羽根部122は、フィン構造体80の羽根部82に比べて長さが短いため、第2の実施の形態よりも流速、流量および風圧が大きくなることはない。
【0091】
<第1乃至第4の実施の形態における風速実験>
図2に示したように、密封構造1では、フィン構造体60の外周側(矢印c方向)であって当該フィン構造体60と対向する任意の位置に風速計70を備え、この風速計70によりフィン構造体60により生じる空気の気流Vの流速を計測する。風速計70としては、超音波式風速計や熱線式風速計等を用いることができる。
【0092】
第1の実施の形態におけるフィン構造体60による回転数(rpm)に応じた気流Vの風速、第2の実施の形態におけるフィン構造体80による回転数(rpm)に応じた気流Vの風速、第3の実施の形態におけるフィン構造体100による回転数(rpm)に応じた気流Vの風速、および、第4の実施の形態におけるフィン構造体120による回転数(rpm)に応じた気流Vの風速について風速(m/s)を計測した結果を
図7に示す。なお、軸線xからハブ11のプーリ12の外周面までの距離は75mmであり、軸線xから風速計70までの距離は150mmとして風速(m/s)を計測した。
【0093】
この場合、第1の実施の形態におけるフィン構造体60による空気の気流Vの風速が一番速く、第2、第3、第4の実施の形態におけるフィン構造体80、100、120の順番で続くことが判明した。
【0094】
<他の実施の形態>
以上、本発明の第1乃至第4の実施の形態について説明したが、本発明は第1乃至第4の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念および請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題および効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、第1乃至第4の実施の形態における、各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【0095】
例えば、本発明に係る環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造は、上述のトーショナルダンパであるダンパプーリ10とそのオイルシール20との間に適用された、トーショナルダンパとオイルシールとを用いた密封構造に限られるものではなく、軸部材又は回転する機能部材と、これらに用いられる密封装置との間に適用されるものであってもよい。例えば、本発明に係る環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造は、エンジンの後端や、車輪を保持するためのハブベアリングや、ディファレンシャル装置等に適用することができる。
【0096】
本発明に係る環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造をエンジンの後端に適用する場合、クランクシャフトの後端においてケースとクランクシャフトの間の隙間を密封するために用いられるオイルシールが密封装置となり、フライホイールが機能部材となる。
【0097】
また、本発明に係る環状のポケットと密封装置とを用いた密封構造をディファレンシャル装置に適用する場合、ハウジングと出力軸との間の隙間を密封するために用いられるシールが密封装置となり、出力軸が軸部材となる。
【0098】
また、上述のようなラビリンスシールを形成するポケットP1およびサイドリップ29をそれぞれ有しているものであれば、ダンパプーリ10、オイルシール20の形態は他の形態であってもよい。
【0099】
更に、第1乃至第4の実施の形態におけるダンパプーリ10は、円盤部16を内側(矢印b方向)と外側(矢印a方向)との間で貫通する貫通穴である小窓部16aおよび大窓部16bが形成されているものとしたが、本発明はこれに限るものではなく、小窓部16aまたは大窓部16bの何れか一方だけが形成されているものや、双方ともに形成されていないものに対しても本発明は適用可能である。
【0100】
また、第1乃至第4の実施の形態に係るフィン構造体60、80、100、120において、羽根部62、82、102、122は、軸線xとは垂直な遠心方向(径方向)でかつ軸線xに沿う面(図示せず)と平行で、軸線xを中心とした回転方向に対して全体が正対する垂直なブレード面62a、82a、102a、122aを有しているようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、羽根部62、82、102、122の少なくとも一部だけが、軸線xとは垂直な遠心方向(径方向)でかつ軸線xに沿う面(図示せず)と平行で、軸線xを中心とした回転方向に対して全体が正対する垂直なブレード面を有しているようにしてもよい。
【0101】
また、第1乃至第4の実施の形態に係るダンパプーリ10とオイルシール20とを用いた密封構造1は、自動車のエンジンに適用されるものとしたが、本発明に係る密封構造1の適用対象はこれに限られるものではなく、他の車両や汎用機械、産業機械等の回転軸等、本発明の奏する効果を利用し得るすべての構成に対して、本発明は適用可能である。