(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記疎水性単量体(E)は、(メタ)アクリロイルオキシ基以外の部分の炭素数は3以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルである請求項1または2に記載の電極バインダー用共重合体。
前記電極バインダー用共重合体の含有率は、前記電極活物質と導電助剤と前記電極バインダー用共重合体とを合計した質量に対して、0.5質量%以上7.0質量%以下である請求項9または10に記載の電極形成用スラリー。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のSBR系バインダーは、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースを併用する必要があり、スラリー作製工程が複雑である。かつこのバインダーにおいても活物質同士、及び活物質と集電体との結着性が足りず、少量のバインダーで電極を生産した場合に、集電体を切断する工程で活物質の一部が剥離する問題があった。
【0010】
特許文献1及び2に開示されているアクリル酸ナトリウム−N−ビニルアセトアミド共重合体は、N−ビニルアセトアミド由来の成分を多く含んでいる。このような重合体を負極活物質及び水と混合して電極用スラリーとした場合、スラリーに凝集物が発生しやすい。
【0011】
特許文献3で開示されている非水系電池電極用バインダーでは、膜厚が大きな、つまり目付量が大きな電極では、クラックが多く発生するという課題があった。
【0012】
そこで、本発明は、電極活物質を含むスラリー中の凝集物の発生を抑制し、集電体上に形成された電極活物質層のクラックの発生を抑制しつつ、電極活物質層の集電体に対する剥離強度が高い電極バインダー用共重合体及び該電極バインダー用共重合体を用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は以下の[1]〜[11]の通りである。
【0014】
[1] 式(1)で表される単量体(A)由来の構造単位(a)と、
(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種である単量体(B)由来の構造単位(b)と、
式(2)で表される単量体(C)由来の構造単位(c)と、
単量体(A)、(B)、(C)のいずれでもなく、エチレン性不飽和結合を1個のみ有し、n−オクタノール/水分配係数LogPが2.0未満である親水性単量体(D)由来の構造単位(d)と、
単量体(A)、(B)、(C)のいずれでもなく、エチレン性不飽和結合を1個のみ有し、n−オクタノール/水分配係数LogPが2.0以上である疎水性単量体(E)由来の構造単位(e)と、
を含む共重合体であって、
該共重合体に含まれる構造単位(b)をアクリル酸ナトリウム由来の構造単位に置き換えて算出した各成分の含有率を換算含有率とすると、
前記単量体(A)由来の構造単位(a)の換算含有率は0.5質量%以上20.0質量%以下であり、前記単量体(C)由来の構造単位(c)の換算含有率は0.3質量%以上18.0質量%以下であり、前記親水性単量体(D)由来の構造単位(d)の換算含有率は0.5質量%以上15.0質量%以下、及び前記疎水性単量体(E)由来の構造単位(e)の換算含有率は2.5質量%以上20.0質量%以下であり、
前記単量体(C)由来の構造単位(c)及び前記親水性単量体(D)由来の構造単位(d)を合わせた換算含有率は2.5質量%以上20.0質量%以下であることを特徴とする電極バインダー用共重合体。
【化1】
(式中、R
1、R
2は各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基である。)
【化2】
(式中、R
3、R
4、R
6は各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基である。R
5は、炭素数1以上5以下のアルキル基であり、R
4よりも炭素数が多い。nは1以上の整数、mは0以上の整数であり、n+m≧20である。)
[2] 前記親水性単量体(D)は、以下の(i)〜(iii)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である[1]に記載の電極バインダー用共重合体。
(i)(メタ)アクリロイルオキシ基以外の部分の炭素原子の数は2以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、
(ii)(メタ)アクリロイルオキシ基以外の部分は極性基を有する炭素原子の数が3以上の炭化水素鎖であり、かつ該炭化水素鎖において、極性基1個当たりの、極性基を形成する炭素原子を除く炭素原子の数は8個以下である(メタ)アクリル酸エステル、及び
(iii)(メタ)アクリロイル基及びアミド結合を有する化合物。
[3] 前記疎水性単量体(E)は、(メタ)アクリロイルオキシ基以外の部分の炭素数は3以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルである[1]または[2]に記載の電極バインダー用共重合体。
[4] 前記式(2)において、n+m≦500である、[1]〜[3]のいずれかに記載の電極バインダー用共重合体。
[5] 前記式(2)において、n+m≧30である、[1]〜[4]のいずれかに記載の電極バインダー用共重合体。
[6] 前記単量体(A)が、N−ビニルホルムアミドまたはN−ビニルアセトアミドである[1]〜[5]のいずれかに記載の電極バインダー用共重合体。
[7] 重量平均分子量が、100万以上1000万以下である[1]〜[6]のいずれかに記載の電極バインダー用共重合体。
[8] 前記単量体(B)由来の構造単位(b)の換算含有率は40.0質量%以上94.5質量%以下である[1]〜[7]のいずれかに記載の電極バインダー用共重合体。
[9] [1]〜[8]のいずれかに記載の電極バインダー用共重合体と、
電極活物質と、
水性媒体と
を含む電極形成用スラリー。
[10] 前記電極活物質が、シリコン及びシリコン化合物の少なくともいずれかを含む[9]に記載の電極形成用スラリー。
[11] 前記電極バインダー用共重合体の含有率は、前記電極活物質と導電助剤と前記電極バインダー用共重合体とを合計した質量に対して、0.5質量%以上7.0質量%以下である[9]または[10]に記載の電極形成用スラリー。
[12] 集電体と、
前記集電体表面に形成された[1]〜[8]のいずれかに記載の電極バインダー用共重合体及び電極活物質を含む電極活物質層と
を有する電極。
[13] 前記電極活物質が、シリコン及びシリコン化合物の少なくともいずれかを含む[12]に記載の電極。
[14] [12]または[13]に記載の電極を備えるリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電極活物質を含むスラリー中の凝集物の発生を抑制し、集電体上に形成された電極活物質層のクラックの発生を抑制しつつ、電極活物質層の集電体に対する剥離強度が高い電極バインダー用共重合体及び該電極バインダー用共重合体を用いたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態にかかる電池は、充放電において正極と負極との間でイオンの移動を伴う二次電池である。正極は正極活物質を備え、負極は負極活物質を備える。これらの電極活物質はイオンを挿入及び脱離(Intercaration及びDeintercalation)可能な材料である。このような構成を有する二次電池の好ましい例として、リチウムイオン二次電池が挙げられる。
【0017】
「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸とアクリル酸の一方又は両方をいう。「(メタ)アクリル酸単量体」とは、メタクリル酸単量体とアクリル酸単量体の一方又は両方をいう。「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの一方又は両方をいう。
【0018】
<1.電極バインダー用共重合体(P)>
本実施形態にかかる電極バインダー用共重合体(P)(以下、単に「共重合体(P)」あるいは「バインダー用共重合体(P)」とすることもある)は、後述する電極活物質同士、及び電極活物質と集電体とを結着させるために用いられる。本実施形態にかかる共重合体(P)は、後述する式(1)で表す単量体(A)由来の構造単位(a)と、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種である単量体(B)由来の構造単位(b)と、後述する式(2)で表す単量体(C)由来の構造単位(c)と、親水性単量体(D)由来の構造単位(d)と、疎水性単量体(E)由来の構造単位(e)とを含む。また、共重合体(P)は、本発明の目的を達成できる範囲で、構造単位(a)(b)、(c)、(d)、および(e)のいずれにも該当しない他の化合物に由来する構造単位を含んでもよい。
【0019】
共重合体(P)は、共有結合による架橋は実質的にされていないことが好ましい。実質的に架橋されていない構成とするためには、架橋性単量体に由来する構造単位を少なくする、あるいは含まないようにする。架橋性単量体の詳細な説明、及び具体的な含有量については、共重合体(P)の各構造単位の含有率の説明にて後述する。
【0020】
共重合体(P)の重量平均分子量は、100万以上であることが好ましく、150万以上であることがより好ましく、200万以上であることがさらに好ましい。また、共重合体(P)の重量平均分子量は、1000万以下であることが好ましく、750万以下であることがより好ましく、500万以下であることがさらに好ましい。また、ここで、重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて算出されるプルラン換算値である。
【0021】
<1−1.単量体(A)>
単量体(A)は、以下の式(1)で表される化合物である。単量体(A)は、式(1)で表される複数の種類の化合物を含んでいてもよい。
【0023】
式(1)中、R
1、R
2は各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基である。R
1、R
2は各々独立に水素原子または炭素数1以上3以下のアルキル基であることが好ましく、R
1、R
2は各々独立に水素原子またはメチル基であることがより好ましい。
【0024】
R
1、R
2の組み合わせとしてさらに好ましい具体例は、R
1:H、R
2:H(すなわち、単量体(A)はN−ビニルホルムアミド)、またはR
1:H、R
2:CH
3(すなわち、単量体(A)はN−ビニルアセトアミド)である。
【0025】
<1−2.単量体(B)>
単量体(B)は、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種である。pH調整のために、単量体(B)の主成分は、(メタ)アクリル酸塩であることが好ましい。(メタ)アクリル酸塩としては、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸アンモニウムが好ましい。その中でも、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸アンモニウムがより好ましく、アクリル酸ナトリウムが最も好ましい。(メタ)アクリル酸塩は、例えば、(メタ)アクリル酸を水酸化物、及びアンモニア水等で中和して得られるが、中でも入手容易性の点から、水酸化ナトリウムで中和することが好ましい。なお、単量体(B)に含まれる主成分は、単量体(B)に60質量%以上含まれることが好ましく、80質量%以上含まれることがより好ましく、95質量%以上含まれることがさらに好ましい。
【0026】
<1−3.単量体(C)>
単量体(C)は、以下の式(2)で表される化合物である。単量体(C)は、式(2)で表される複数の種類の化合物を含んでいてもよい。
【0028】
式(2)中、R
3、R
4、R
6は各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基である。R
3、R
4、R
6は各々独立に水素原子または炭素数1以上3以下のアルキル基であることが好ましく、R
3、R
4、R
6は各々独立に水素原子またはメチル基であることがより好ましい。R
6はメチル基であることが更に好ましい。R
5は、炭素数1以上5以下のアルキル基であり、R
4よりも炭素数が多い。
【0029】
式(2)中、nは1以上の整数、mは0以上の整数であり、n+m≧20である。共重合体(P)を電極活物質のためのバインダーとして電極を作製した場合、電極の可撓性が向上し、クラックの発生が抑制されるためである。この観点から、n+m≧30であることが好ましく、n+m≧40であることがより好ましい。また、n+m≦500であることが好ましく、n+m≦200であることがより好ましく、n+m≦150であることがさらに好ましい。バインダーの結着力がより高くなるためである。
【0030】
なお、式(2)では、R
4を含む構造単位n個及びR
5を含む構造単位m個が含まれるということを限定しているが、これらの構造単位の配列について限定はしていない。すなわち、m≧1の場合、式(2)では、それぞれの構造単位が全てまたは一部が連続したブロック構造を有していてもよく、2つの構造単位が交互に配列した構造等の周期的な規則性をもって配列した構造でもよく、2つの構造単位がランダムに配列した構造でもよい。式(2)の共重合体の好ましい形態としては、周期的な規則性をもって配列した構造、またはランダムに配列した構造である。式(2)を形成する分子鎖内での各構造単位の分布の偏りを抑制するためである。式(2)の共重合体のより好ましい形態としては、ランダムに配列した構造である。特殊な触媒を用いずにラジカル重合開始剤により重合可能であり、製造コストを低減できるためである。
【0031】
式(2)において、R
3、R
4、R
5、R
6、n、mの組み合わせとして好ましい例としては、以下の表1の例が挙げられる。
【0033】
式(2)においてm=0であることがより好ましい。m=0の単量体(C)の例として、ポリエチレングリコールのモノ(メタ)アクリレートが挙げられ、より具体的には、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、表1の単量体c1、c2)等を挙げることができる。メトキシポリエチレングリコールメタクリレートの一例としては、EVONIK INDUSTRIES製のVISIOMER(登録商標)MPEG2005 MA Wが挙げられる。この製品においてはR
3=CH
3、R
4=H、R
6=CH
3、n=45、m=0である。メトキシポリエチレングリコールメタクリレートの他の例としては、EVONIK INDUSTRIES製のVISIOMER(登録商標)MPEG5005 MA Wが挙げられる。この製品においては、R
3=CH
3、R
4=H、R
6=CH
3、n=113、m=0である。
【0034】
m=0の単量体(C)の別の例として、ポリプロピレングリコールのモノ(メタ)アクリレートが挙げられ、より具体的には、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、表1の単量体c3、c4)等を挙げることができる。
【0035】
<1−4.親水性単量体(D)>
親水性単量体(D)は、エチレン性不飽和結合を1個のみ有し、n−オクタノール/水分配係数LogPが2.0未満の化合物である。また、親水性単量体(D)は、式(1)及び式(2)のいずれの構造も有さず、(メタ)アクリル酸及びその塩のいずれでもない。すなわち、親水性単量体(D)は、上記単量体(A)、(B)、(C)のいずれでもない。親水性単量体(D)は、(メタ)アクリロイル基を有することが好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基を有することがより好ましい。
【0036】
なお、親水性単量体(D)は、以下の説明において、単量体(D)と表すこともある。n−オクタノール/水分配係数LogPは、JIS Z 7260−117に準じて評価した値と規定する。
【0037】
親水性単量体(D)は、(メタ)アクリロイル基を有する場合、以下の(i)〜(iii)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることがより好ましい。
(i)(メタ)アクリロイルオキシ基以外の部分の炭素原子の数は2以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステル。
(ii)(メタ)アクリロイルオキシ基以外の部分は極性基を有する炭素原子の数が3以上の炭化水素鎖であり、かつ該炭化水素鎖において、極性基1個当たりの、極性基を形成する炭素原子を除く炭素原子の数は8個以下である(メタ)アクリル酸エステル。
(iii)(メタ)アクリロイル基及びアミド結合を有する化合物。
【0038】
(i)の条件を満たす単量体(D)は、アクリル酸メチル(LogP=0.80)、アクリル酸エチル(LogP=1.32)、メタクリル酸メチル(LogP=1.38)、及びメタクリル酸エチル(LogP=1.94)である。
【0039】
(ii)の条件を満たす単量体(D)が有する極性基としてはカルボキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0040】
カルボキシ基を有する単量体(D)の具体例としては、例えば、β‐カルボキシエチルアクリレート(LogP=0.31)等が挙げられる。
【0041】
ヒドロキシ基を有する単量体(D)の具体例としては、例えば、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル(LogP=0.01)、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル (LogP=0.43)、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル(LogP=0.36)、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル(LogP=0.78)、4−ヒドロキシブチルアクリレート(LogP=0.59)等が挙げられる。
【0042】
(iii)の条件を満たす単量体(D)の具体例としては、例えば、アクリルアミド(LogP=−0.56)、メタクリルアミド(LogP=−0.14)、N−メチルアクリルアミド(LogP=−0.59)、N−メチルメタクリルアミド(LogP=−0.17)、N−エチルアクリルアミド(LogP=−0.08)、N−エチルメタクリルアミド(LogP=0.34)、N−プロピルアクリルアミド(LogP=0.43)、N−イソプロピルメタクリルアミド(LogP=0.70)、N,N−ジメチルアクリルアミド(LogP=−0.14)、N‐ヒドロキシメチルアクリルアミド(LogP=−1.38)、N−ヒドロキシメチルメタクリルアミド(LogP=−0.96)、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド(LogP=−1.37)、N−ヒドロキシエチルメタクリルアミド(LogP=−0.95)、N−(2−ヒドロキシプロピル)アクリルアミド(LogP=−1.37)、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(LogP=0.95)、ダイアセトンアクリルアミド(LogP=0.04)、N−(ジメチルアミノメチル)アクリルアミド(LogP=−0.47)、N−(ジメチルアミノメチル)メタクリルアミド(LogP=−0.14)、N−(ジメチルアミノエチル)アクリルアミド(LogP=−0.28)、N−(ジメチルアミノメチル)メタクリルアミド(LogP=0.14)、N−(ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド(LogP=−0.24)、N−(ジメチルアミノメチル)メタクリルアミド(LogP=0.18)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(LogP=−2.05)等が挙げられる。
【0043】
(i)〜(iii)以外の単量体(D)としては、イタコン酸(LogP=−0.08)、マレイン酸(LogP=−0.45)、フマル酸(LogP=−0.45)、クロトン酸(LogP=0.66)等が挙げられる。
【0044】
<1−5.疎水性単量体(E)>
疎水性単量体(E)は、エチレン性不飽和結合を1個のみ有し、n−オクタノール/水分配係数LogPが2.0以上の化合物である。また、疎水性単量体(E)は、式(1)及び式(2)のいずれの構造も有さず、(メタ)アクリル酸及びその塩のいずれでもない。すなわち、疎水性単量体(E)は、上記単量体(A)、(B)、(C)のいずれでもない。疎水性単量体(E)は、(メタ)アクリロイル基を有することが好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基を有することがより好ましい。疎水性単量体(E)においてラジカルが生成しやすくなり、重合反応を効率よく進ませることができ、結果として共重合体(P)の製造コストを低減できるためである。なお、疎水性単量体(E)は、以下の説明において、単量体(E)と表すこともある。
【0045】
単量体(E)は、(メタ)アクリロイルオキシ基以外の部分の炭素数は3以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0046】
単量体(E)の具体例としては、例えばメタクリル酸n−プロピル(LogP=2.23)、メタクリル酸イソプロピル(LogP=2.07)、アクリル酸n−ブチル(LogP=2.32)、メタクリル酸n−ブチル(LogP=2.74)、アクリル酸tert−ブチル(LogP=2.06)、メタクリル酸tert−ブチル(LogP=2.48)、アクリル酸イソブチル(LogP=2.16)、メタクリル酸イソブチル(LogP=2.58)、アクリル酸−2−エチルヘキシル(LogP=4.20)、メタクリル酸−2−エチルヘキシル(LogP=4.62)、アクリル酸ステアリル(LogP=9.45)、メタクリル酸ステアリル(LogP=9.87)、アクリル酸シクロヘキシル(LogP=2.76)、メタクリル酸シクロヘキシル(LogP=3.18)、(メタ)アクリル酸イソノニル、アクリル酸イソボロニル(LogP=4.03)、メタクリル酸イソボロニル(LogP=4.45)等が挙げられる。
【0047】
<1−6.共重合体(P)における構造単位の含有率>
以下、共重合体(P)における各構造単位の含有率について説明する。ここで、共重合体(P)における各構造単位の含有率は、共重合体(P)に含まれる構造単位(b)をアクリル酸ナトリウム由来の構造単位に置き換えて算出した値である。以下、このように算出された含有率を換算含有率とする。例えば、構造単位(a)〜(e)の質量をMa〜Meとし、構造単位(b)をアクリル酸ナトリウム由来の構造単位に置き換えた質量をMb1とすると、共重合体(P)が構造単位(a)〜(e)からなる場合、構造単位(a)の換算含有率は、100×Ma/(Ma+Mb1+Mc+Md+Me)[質量%]となる。また、この場合の構造単位(b)の換算含有率は、100×Mb1/(Ma+Mb1+Mc+Md+Me)[質量%]となる。
【0048】
構造単位(a)の換算含有率は、0.5質量%以上であり、1.0質量%以上であることが好ましく、3.0質量%以上であることがより好ましい。後述する電極形成用スラリー作製時の電極活物質や導電助剤の分散性に優れ、塗工性良好な電極形成用スラリーを作製することができるためである。構造単位(a)の換算含有率は、20.0質量%以下であり、15.0質量%以下であることが好ましく、12.5質量%以下であることがより好ましい。後述する電極のクラックの発生が抑制され、電極の生産性が向上するためである。
【0049】
構造単位(b)の換算含有率((メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸塩との合計量)は、40.0質量%以上であることが好ましく、60.0質量%以上であることがより好ましく、70.0質量%以上であることがさらに好ましい。集電体に対する剥離強度の高い電極活物質層を得ることができるためである。構造単位(b)の換算含有率((メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸塩との合計量)は、94.5質量%以下であることが好ましく、93.0質量%以下であることがより好ましく、90.0質量%以下であることがさらに好ましい。後述する電極形成用スラリー作製時の電極活物質、導電助剤等の固形分の分散性がより向上するためである。
【0050】
構造単位(c)の換算含有率は、0.3質量%以上であり、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。後述する電極のクラックの発生が抑制され、電極の生産性が向上するためである。構造単位(c)の換算含有率は、18.0質量%以下であり、15.0質量%以下であることが好ましく、11.0質量%以下であることがより好ましい。重合中のゲル化を防ぐことができるためである。式(2)において、n+m≧40である場合、構造単位(c)の換算含有率は、0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。式(2)においてn+mが大きい単量体(C)由来の構造単位(c)を含むことで、少量の単量体(C)で後述する電極のクラックを抑制することができるためである。
【0051】
構造単位(d)の換算含有率は、0.5質量%以上であり、0.9質量%以上であることが好ましく、3.0質量%以上であることがより好ましい。構造単位(d)の換算含有率は、15.0質量%以下であり、10.0質量%以下であることが好ましく、7.0質量%以下であることがより好ましい。重合中の析出物発生を抑制することができるためである。
【0052】
構造単位(e)の換算含有率は、2.5質量%以上であり、3.0質量%以上であることが好ましく、4.0質量%以上であることがより好ましい。共重合体(P)がバインダーとして電極中で十分な結着力を得ることができ、後述する電極の剥離強度が向上するためである。構造単位(e)の換算含有率は、20.0質量%以下であり、16.0質量%以下であることが好ましく、12.0質量%以下であることがより好ましい。高分子量の共重合体(P)を得ることができるためであり、重合中の析出物発生を抑制することができるためである。
【0053】
構造単位(c)と構造単位(d)とを合わせた換算含有率は、2.5質量%以上であり、2.8質量%以上であることがより好ましく、5.0質量%以上であることがさらに好ましい。共重合体(P)の水溶性を向上させるためである。構造単位(c)と構造単位(d)とを合わせた換算含有率は、20.0質量%以下であり、17.0質量%以下であることがより好ましく、13.0質量%以下であることがさらに好ましい。2.5質量%以上であれば、後述する電極の剥離強度が良好なものとなり、20.0質量%以下であれば、重合中の析出物発生を抑制することができる。
【0054】
架橋性単量体に由来する構造単位は、後述する電極形成用スラリーにおいて用いられる量の共重合体(P)が、後述する水性媒体に溶解する範囲で含んでもよい。ただし、架橋性単量体に由来する構造単位は、共重合体(P)に含まれないことが好ましい。ここで、「架橋性単量体に由来する構造単位」とは、共重合体(P)として架橋部分を構成している構造単位である。このような構造単位として、例えば、重合性のエチレン性不飽和結合を分子内に複数有する単量体に由来する構造単位、官能基を反応させることで架橋構造を形成している一対の単量体由来の構造単位等が挙げられる。なお、ここで挙げた後者の例においては、その構造単位が、触媒等によって反応する官能基を有しているとしても、共重合体(P)において、実際に架橋されていなければ、その構造単位は「架橋性単量体に由来する構造単位」とはならない。例えば、水酸基とカルボキシ基とによるエステル化反応は、濃硫酸等の触媒を添加する必要があり、このような触媒を添加しない限りでは、水酸基を有する単量体及びカルボキシ基を有する単量体は、本発明においては架橋性単量体ではない。
【0055】
<1−7.電極バインダー用共重合体(P)の製造方法>
共重合体(P)の合成は、水性媒体中におけるラジカル重合で行うことが好ましい。重合法としては、例えば、重合に使用する単量体を全て一括して仕込んで重合する方法、重合に使用する単量体を連続供給しながら重合する方法等が適用できる。共重合体(P)の合成に用いる全単量体中の各単量体の含有率は、共重合体(P)中のその単量体に対応する構造単位の含有率であると見なす。例えば、共重合体(P)の合成に用いる全単量体中の単量体(A)の含有率は、合成しようとする共重合体(P)中の構造単位(a)の含有率である。各構造単位の換算含有率は、重合に用いた単量体(B)と等モルのアクリル酸ナトリウムに置き換えて算出する。ラジカル重合は、30〜90℃の温度で行うことが好ましい。なお、共重合体(P)の重合方法の具体的な例は、後述の実施例において詳しく説明する。
【0056】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アゾ化合物等が挙げられるが、これらに限られない。アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩が挙げられる。重合を水中で行う場合は、水溶性の重合開始剤を用いることが好ましい。また、必要に応じて、重合の際にラジカル重合開始剤と、還元剤とを併用して、レドックス重合してもよい。還元剤としては、重亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0057】
水性媒体として水を用いることが好ましいが、得られるバインダー用共重合体の重合安定性を損なわない限り、水に親水性の溶媒を添加したものを水性媒体として用いてもよい。水に添加する親水性の溶媒としては、メタノール、エタノール及びN−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0058】
<1−8.電極バインダー組成物(Q)>
本実施形態の電極バインダー組成物(Q)(以下、単に「バインダー組成物(Q)」とすることもある)は、電極バインダー用共重合体(P)と、水性媒体とを含む。電極バインダー組成物(Q)の固形分は、電極バインダーである。すなわち、本実施形態の電極バインダーは、電極バインダー用共重合体(P)を含む。本実施形態の電極バインダーは、電極バインダー用共重合体(P)であることが好ましい。
【0059】
<2.電極形成用スラリー>
本実施形態の電極形成用スラリー(以下、単に「スラリー」とすることもある)では、バインダー用共重合体(P)と、電極活物質とが、水性媒体に溶解または分散している。バインダー用共重合体(P)は、水性媒体中に溶解していることが好ましい(バインダー用共重合体(P)と水性媒体とを含む組成物は、バインダー組成物(Q)である)。スラリーの乾燥後に、バインダー用共重合体(P)が、電極活物質の粒子表面で層を形成することができるためである。本実施形態のスラリーは、必要に応じて導電助剤、増粘剤等を含んでもよいが、スラリー作製工程を簡単化するためには、増粘剤を含まないほうが好ましい。スラリーを調製するための方法は、各材料が均一に溶解、分散すれば特に制限は無い。スラリーを調製する方法としては、特に限定されないが、例えば、攪拌式、回転式、または振とう式などの混合装置を使用して必要な成分を混合する方法が挙げられる。
【0060】
スラリー中の不揮発分は好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上である。少ないスラリーの量でより多くの電極活物質層を形成させるためである。スラリー中の不揮発分は好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下である。スラリーの調整が容易であるためである。不揮発分は、直径5cmのアルミ皿にスラリーを1g秤量し、大気圧、乾燥器内で空気を循環させながら130℃で1時間乾燥させ後に残った成分の、乾燥前のスラリーの質量(1g)に対する質量割合(%)である。不揮発分は、水性媒体の量により調整できる。
【0061】
<2−1.バインダー用共重合体(P)の含有率>
スラリーに含まれるバインダー用共重合体(P)の含有率は、電極活物質(後述する)と導電助剤(後述する)とバインダー用共重合体(P)とを合計した質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることがさらに好ましい。バインダー用共重合体(P)により、電極活物質間、及び電極活物質と集電体と間の結着性を確保することができるためである。スラリーに含まれるバインダー用共重合体(P)の含有率は、電極活物質と導電助剤とバインダー用共重合体(P)とを合計した質量に対して、7.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以下であることがさらに好ましい。スラリーから形成される電極活物質層の充放電容量を大きくすることができ、電池としたときの内部抵抗も低くすることができるためである。
【0062】
<2−2.電極活物質>
リチウムイオン二次電池の負極活物質の例として、導電性ポリマー、炭素材料、チタン酸リチウム、シリコン、シリコン化合物等が挙げられる。導電性ポリマーとして、ポリアセチレン、ポリピロール等が挙げられる。炭素材料としては、石油コークス、ピッチコークス、石炭コークス等のコークス;有機化合物の炭化物、カーボンファイバー、アセチレンブラック等のカーボンブラック;人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛などが挙げられる。シリコン化合物としては、SiO
x(0.1≦x≦2.0)等が挙げられる。また、電極活物質としては、Siと黒鉛とを含む複合材料(Si/黒鉛)等を用いてもよい。これら活物質の中でも、体積当たりのエネルギー密度が大きい点から、炭素材料、チタン酸リチウム、シリコン、シリコン化合物を用いることが好ましい。また、コークス、有機化合物の炭化物、黒鉛等の炭素材料、SiO
x(0.1≦x≦2.0)、Si、Si/黒鉛等のシリコン含有材料であると、バインダー用共重合体(P)による結着性を向上させる効果が顕著である。例えば、人造黒鉛の具体例としては、SCMG(登録商標)−XRs(昭和電工(株)製)が挙げられる。なお、負極活物質として、ここで挙げた材料を2種類以上複合化してもよい。
【0063】
また、導電助剤として、カーボンブラック、気相法炭素繊維などをスラリーに添加してもよい。気相法炭素繊維の具体例としては、VGCF(登録商標)−H(昭和電工(株))が挙げられる。
【0064】
リチウムイオン二次電池の正極活物質の例として、コバルト酸リチウム(LiCoO
2);ニッケルを含むリチウム複合酸化物;スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4);オリビン型燐酸鉄リチウム;TiS
2、MnO
2、MoO
3、V
2O
5等のカルコゲン化合物が挙げられる。正極活物質は、これらの化合物のいずれかを単独で含んでもよく、あるいは複数種を含んでもよい。また、その他のアルカリ金属の酸化物も使用することができる。ニッケルを含むリチウム複合酸化物として、Ni−Co−Mn系のリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Al系のリチウム複合酸化物、Ni−Co−Al系のリチウム複合酸化物などが挙げられる。正極活物質の具体例として、LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2、LiNi
3/5Mn
1/5Co
1/5などが挙げられる。
【0065】
<2−3.水性媒体>
スラリーの水性媒体は、水、水以外の水性媒体、またはこれらの混合物である。スラリーの水性媒体は、バインダー用共重合体(P)の重合に用いる水性媒体を用いることができる。バインダー用共重合体(P)の重合に用いる水性媒体をそのまま用いてもよく、重合に用いた水性媒体に加えてさらに水性媒体を添加してもよく、重合のための水性媒体を新たな水性媒体に置き換えてもよい。
【0066】
<3.電極>
本実施形態の電極は、集電体と、集電体の表面に形成された電極活物質層とを有する。電極の形状としては、例えば、積層体や捲回体が挙げられるが、特に限定されない。集電体は、厚さ0.001〜0.5mmのシート状の金属であることが好ましく、金属としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等が挙げられるが、特に限定されない。
【0067】
電極活物質層は、電極活物質とバインダー用共重合体(P)とを含む。例えば、上記スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させて電極活物質層を形成した後、適当な大きさに切断することにより電極を製造できる。
【0068】
スラリーを集電体上に塗布する方法としては、例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法およびスクイーズ法等が挙げられる。これらの中でも、ドクターブレード法、ナイフ法、またはエクストルージョン法が好ましく、ドクターブレードを用いて塗布することがより好ましい。スラリーの粘性等の諸物性及び乾燥性に対して好適であり、良好な表面状態の塗布膜を得られるためである。
【0069】
スラリーは、集電体の片面にのみ塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。スラリーを集電体の両面に塗布する場合は、片面ずつ塗布してもよく、両面同時に塗布してもよい。また、スラリーは、集電体の表面に連続して塗布してもよいし、間欠的に塗布してもよい。スラリーの塗布量、塗布範囲は、電池の大きさなどに応じて、適宜決定できる。乾燥後の電極活物質層の目付量は、4〜20mg/cm
2であることが好ましく、6〜16mg/cm
2であることがより好ましい。
【0070】
塗布されたスラリーの乾燥方法は、特に限定されないが、例えば、熱風、真空、(遠)赤外線、電子線、マイクロ波および低温風を単独あるいは組み合わせて用いることができる。乾燥温度は、40℃以上180℃以下であることが好ましく、乾燥時間は、1分以上30分以下であることが好ましい。
【0071】
電極活物質層が形成された集電体は、電極として適当な大きさや形状にするために切断してもよい。電極活物質層の形成された集電体の切断方法は特に限定されないが、例えば、スリット、レーザー、ワイヤーカット、カッター、トムソン等を用いることができる。
【0072】
電極活物質層が形成された集電体を切断する前または後に、必要に応じてそれをプレスしてもよい。それによって電極活物質を電極により強固に結着させ、さらに電極を薄くすることによる非水系電池のコンパクト化が可能になる。プレスの方法としては、一般的な方法を用いることができ、特に金型プレス法やロールプレス法を用いることが好ましい。プレス圧は、特に限定されないが、プレスによる電極活物質へのリチウムイオン等のドープ/脱ドープに影響を及ぼさない範囲である0.5〜5t/cm
2とすることが好ましい。
【0073】
<4.電池>
本実施形態にかかる電池の好ましい一例として、リチウムイオン二次電池について説明するが、電池の構成はここで説明したものに限られない。ここで説明する例にかかるリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解液と、必要に応じてセパレータ等の部品と、が外装体に収容されたものであり、正極と負極のうちの一方または両方に上記の方法により作製された電極を用いる。
【0074】
<4−1.電解液>
電解液としては、イオン伝導性を有する非水系の液体を使用する。電解液としては、電解質を有機溶媒に溶解させた溶液、イオン液体等が挙げられるが、製造コストが低く、内部抵抗の低い電池が得られるため、前者が好ましい。
【0075】
電解質としては、アルカリ金属塩を用いることができ、電極活物質の種類等に応じ適宜選択できる。電解質としては、例えば、LiClO
4、LiBF
6、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiB
10Cl
10、LiAlCl
4、LiCl、LiBr、LiB(C
2H
5)
4、CF
3SO
3Li、CH
3SO
3Li、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、脂肪族カルボン酸リチウム等が挙げられる。また、電解質として、その他のアルカリ金属塩を用いることもできる。
【0076】
電解質を溶解する有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)等の炭酸エステル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルなどのカルボン酸エステルが挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0077】
<4−2.外装体>
外装体としては、金属やアルミラミネート材などを適宜使用できる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型等、いずれの形状であってもよい。
【実施例】
【0078】
以下にバインダー用共重合体(P)(バインダー)、負極用スラリー、電極、電池についての実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0079】
<1.バインダー用共重合体(P)の合成>
実施例1〜4及び比較例1〜14で用いた単量体の構成を表2に示した。単量体の構成以外は実施例1〜4及び比較例1〜14における共重合体(P)の製造方法は同様である。単量体及び試薬の詳細は以下の通りである。単量体が溶液として用いられる場合、表中の単量体の使用量は、溶媒を含まないその単量体自体の量を示す。
【0080】
単量体(A−1):N−ビニルアセトアミド(NVA)(昭和電工(株)製)
単量体(B−1):アクリル酸ナトリウム(AaNa)(28.5質量%水溶液)
単量体(C−1):メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(EVONIK INDUSTRIES製;VISIOMER(登録商標)MPEG2005 MA W)(式(2)中のR
3=CH
3、R
4=H、R
6=CH
3、n=45、m=0、m+n=45)の50.0質量%水溶液
親水性単量体(D−1):メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(LogP=0.43)
親水性単量体(D−2):メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(共栄社化学株式会社製、ライトエステル130MA、式(2)中のR
3=CH
3、R
4=H、R
6=CH
3、n=9、m=0、m+n=9)(LogP<2)
親水性単量体(D−3):アクリル酸エチル(LogP=1.32)
疎水性単量体(E−1):アクリル酸−n−ブチル(LogP=2.32)
重合開始剤:2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩(和光純薬工業社製;V−50)及び過硫酸アンモニウム(和光純薬工業社製)
【0081】
冷却管、温度計、攪拌機、滴下ロートが組みつけられたセパラブルフラスコに、表2に示される組成の単量体100質量部と、V−50を0.2質量部と、過硫酸アンモニウムを0.05質量部と、水693質量部とを30℃で仕込んだ。これを、80℃に昇温し、4時間重合を行った。その後、不揮発分10.0質量%となるように水を加えて(単量体(B−1)に含まれる水を考慮して水の添加量を調節する)、バインダー組成物Q1〜Q4、及びCQ1〜CQ14を調製した。以下の説明において、「バインダー用共重合体P1〜P4、及びCP1〜CP14の各々」を「共重合体(P)」、及び「バインダー組成物Q1〜Q4、及びCQ1〜CQ14の各々」を「バインダー組成物(Q)」とすることもある。
【0082】
<2.バインダー組成物についての測定>
共重合体(P)及びバインダー組成物(Q)について以下の測定を行った。測定結果は表2に示したとおりである。
【0083】
<2−1.不揮発分>
直径5cmのアルミ皿にバインダー組成物(Q)を1g秤量し、大気圧、乾燥器内で空気を循環させながら130℃で1時間乾燥させた。乾燥後の残分の質量を秤量し、乾燥前のサンプルの質量に対する割合(質量%)を算出した。
【0084】
<2−2.重量平均分子量>
共重合体(P)の重量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定した。
【0085】
GPC装置: GPC−101(昭和電工(株)製))
溶媒:0.1M NaNO
3水溶液
サンプルカラム:Shodex Column Ohpak SB−806 HQ(8.0mmI.D. × 300mm) ×2
リファレンスカラム:Shodex Column Ohpak SB−800 RL(8.0mmI.D. x 300mm) ×2
カラム温度:40℃
サンプル濃度:0.1質量%
検出器:RI−71S(株式会社島津製作所製)
ポンプ:DU−H2000(株式会社島津製作所製)
圧力:1.3MPa
流量:1ml/min
分子量スタンダード:プルラン(P−5、P−10、P−20、P−50、P−100、P−200、P−400、P−800、P−1300、P−2500(昭和電工(株)製))
【0086】
<2−3.粘度>
バインダー組成物(Q)の粘度を、ブルックフィールド型粘度計(東機産業製)により、液温23℃、回転数10rpm、No.5、No.6及びNo.7のうちいずれかのローターを用いて測定した。なお、ローターは、それぞれのサンプルの粘度に応じて選択する。
【0087】
<2−4.pH>
バインダー組成物(Q)のpHを、液温23℃の状態でpHメーター(東亜ディーケーケー製)を用いて計測した。
【0088】
<3.電池、及び電池作製のための各構成の評価>
<3−1.電池の作製>
(負極用スラリーの調整)
黒鉛としてSCMG(登録商標)−XRs(昭和電工(株)製)を76.8質量部と、一酸化ケイ素(SiO)(Sigma−Aldrich製)を19.2質量部と、VGCF(登録商標)−H(昭和電工(株))を1質量部と、バインダー組成物(Q)を30質量部(共重合体(P)を3質量部、水を27質量部含む)と、及び水を20質量部と、を混合した。混合は、攪拌式混合装置(自転公転撹拌ミキサー)を用いて2000回転/分で4分間混錬することにより行われた。得られた混合物に、さらに水を53質量部加え、上記混合装置で、さらに2000回転/分で4分間混合し、負極用スラリーを調製した。
【0089】
(負極の作製)
調製した負極用スラリーを、厚さ10μmの銅箔(集電体)の片面に、乾燥後の目付量が8mg/cm
2となるようにドクターブレードを用いて塗布した。負極用スラリーが塗布された銅箔を、60℃で10分乾燥後、さらに100℃で5分乾燥して負極活物質層が形成された負極シートを作製した。この負極シートを、金型プレスを用いてプレス圧10kN/cm
2でプレスした。プレスされた負極シートを22mm×22mmに切り出し、導電タブを取り付けて負極を作製した。
【0090】
(正極の作製)
LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2を90質量部、アセチレンブラックを5質量部、及びポリフッ化ビニリデン5質量部を混合し、その後、N−メチルピロリドン100質量部を混合して正極用スラリーを調製した(固形分中のLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2の割合は0.90)。
【0091】
調製した正極用スラリーを、ドクターブレード法により厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)の片面に、乾燥後の目付量が22.5mg/cm
2(22.5×10
−3g/cm
2)となるようにドクターブレードを用いて塗布した。正極用スラリーが塗布されたアルミニウム箔を、120℃で5分乾燥後、ロールプレスによりプレスして、厚さ100μmの正極活物質層が形成された正極シートを作製した。得られた正極シートを20mm×20mm(2.0cm×2.0cm)に切り出し、導電タブを取り付けて正極を作製した。
【0092】
作製した正極の理論容量は、正極用スラリーの乾燥後の目付量(22.5×10
−3g/cm
2)×正極用スラリーの塗布面積(2.0cm×2.0cm)×LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2の正極活物質としての容量(160mAh/g)×固形分中のLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2の割合(0.90)で求められ、算出される値は、13mAhである。
【0093】
(電解液の調製)
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とフルオロエチレンカーボネート(FEC)とを体積比(混合前)30:60:10で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1.0mol/L、ビニレンカーボネート(VC)を1.0質量%の濃度になるように溶解して、電解液を調製した。
【0094】
(電池の組み立て)
ポリオレフィン多孔性フィルムからなるセパレータを介して、正極と負極との活物質が互いに対向するように配して、アルミラミネート外装体(電池パック)の中に収納した。この外装体の中に電解液を注入し、真空ヒートシーラーでパッキングし、ラミネート型電池を得た。
【0095】
【表2】
【0096】
<3−2.電池作製のための各構成の評価>
各実施例及び比較例の負極用スラリー外観、電極性能、電池性能を評価した。評価方法は以下の通りで、評価結果は表2に示した通りである。
【0097】
(負極用スラリー外観)
上記の電池作製にあたって調整した負極用スラリーを目視して外観を確認し、凝集物のサイズをマイクロメーターで測定した。スラリー10g中に最長寸法1mm以上の凝集物ある場合を×、ない場合を○とした。
【0098】
(負極外観)
負極シートの表面を目視して外観を確認し、5cm×20cmの長方形の範囲におけるクラックの数を数えた。
【0099】
(負極活物質層の剥離強度)
23℃において、負極シート上に形成された負極活物質層と、SUS板とを両面テープ(NITTOTAPE(登録商標) No5、日東電工(株)製)を用いて貼り合わせた。剥離幅25mm、剥離速度100mm/minで180°剥離して得られた値を剥離強度とした。
【0100】
<3−3.電池性能の評価>
(初期効率)
電池の初期効率の測定を、25℃の条件下、以下の手順で行った。まず、4.2Vになるまで0.2Cの電流で充電し(CC充電)、次に、電流0.05Cになるまで4.2Vの電圧で充電した(CV充電)。30分放置後、電圧2.75Vになるまで0.2Cの電流で放電(CC放電)した。CC充電、CV充電、及びCC放電の一連の操作を1サイクルとして、5サイクル繰り返した。nサイクル目のCC充電及びCV充電における電流の時間積分値の和をnサイクル目の充電容量(mAh)、nサイクル目のCC放電における電流の時間積分値をnサイクル目の放電容量(mAh)とする。4サイクル目及び5サイクル目の放電容量の平均値を初期放電容量とし、以下の計算式[1]で初期効率を算出した。正極理論容量は、正極の作製の説明において求めた値である。
【0101】
初期効率(%)={初期放電容量/13mAh(正極理論容量)}×100 [1]
【0102】
(放電容量維持率)
電池の充放電サイクル試験は、25℃の条件下、以下の手順で行った。まず、電圧4.2Vになるまで1Cの電流で充電し(CC充電)、次に、電流0.05Cになるまで4.2Vの電圧で充電した(CV充電)。30分放置後、電圧2.75Vになるまで1Cの電流で放電した(CC放電)。CC充電、CV充電、及びCC放電の一連の操作を1サイクルとする。nサイクル目のCC充電及びCV充電における電流の時間積分値の和をnサイクル目の充電容量(mAh)、nサイクル目のCC放電における電流の時間積分値をnサイクル目の放電容量(mAh)とする。電池のnサイクル目の放電容量維持率は、1サイクル目の放電容量に対するnサイクル目の放電容量の割合(%)である。本実施例及び比較例では、100サイクル目の放電容量維持率を評価した。
【0103】
<4.評価結果>
表2からわかるように、実施例1〜4で作製された電極バインダー用共重合体P1〜P4は、電極活物質を含むスラリー中の凝集物の発生を抑制し、集電体上に形成された電極活物質層のクラックの発生を抑制しつつ、電極活物質層の集電体に対する剥離強度を向上できていることがわかる。また、電極バインダー用共重合体P1〜P4を用いて作製された電池では、初期効率及び放電容量維持率の値は十分である。
【0104】
一方、単量体(C)(D)(E)を使用しない比較例1では、作製した電極にクラックが見られた。単量体(D)(E)を使用しない比較例2、単量体(E)を使用しない比較例3及び比較例14では、作製した電極にクラックは見られないが、剥離強度が低下した。単量体(A)を使用しない比較例4では、スラリーに凝集物が見られた。また、電極を平坦に塗工することが出来ず、電池としての性能評価は不可能であった。単量体(A)を過剰に使用した比較例5では、スラリーに凝集物が見られ、塗工により得られた電極表面にも凝集物が見られた。電極表面上にクラックもみられた。
【0105】
単量体(D)を使用しない比較例6、単量体(D)を過剰に使用した比較例7では、バインダー組成物CQ6、CQ7それぞれで不溶物が見られた。また、スラリー、電極表面において凝集物が見られた。単量体(C)を過剰に使用した比較例8では、バインダー組成物CQ8はゲル状の沈殿物が生成し、スラリーを作製することができなかった。単量体(C)を使用しない比較例9では、バインダー組成物CQ9にて不溶物がみられた。また、電極表面上にクラックがみられた。
【0106】
単量体(E)を過剰に使用した比較例10では、バインダー組成物CQ10の分子量が60万となった。また、スラリー、電極表面において凝集物が見られた。単量体(E)の使用量が少ない比較例11では、剥離強度が低く、単量体(E)導入の十分な効果が得られなかった。
【0107】
単量体(C)(D)の使用合計量が少ない比較例12では、不溶物が見られた。また、スラリー、電極表面において凝集物が見られ、さらに電極表面上にクラックもみられた。
【0108】
単量体(C)を使用せず、式(2)中のn数が小さな単量体(D)を使用した比較例13では、作製した電極にクラックが見られた。
【0109】
以上の評価結果から、実施例のバインダーと負極活物質とを含むスラリーを集電体に塗布、乾燥して得られる負極活物質層は、外観上問題なく、剥離強度も十分であり、電池としたときの充放電サイクル特性も十分に高くできる。
【0110】
したがって、本実施例にかかるバインダー用共重合体を非水系電池負極用のバインダーとして用いることにより、非水系電池負極における負極活物質同士、及び負極活物質と集電体との間で十分な結着性を確保しつつ、電池として良好な充放電サイクル特性となることが分かった。
【0111】
また、これらバインダーは非水系電池正極用のバインダーとしても用いることができ、正極活物質同士、及び正極活物質と集電体との間で十分な結着性を確保しつつ、充放電サイクル特性が良好な電池を作製できる。
電極活物質を含むスラリー中の凝集物の発生を抑制し、集電体上に形成された電極活物質層のクラックの発生を抑制しつつ、電極活物質層の集電体に対する剥離強度が高い電極用バインダー用共重合体及び該電極バインダー用共重合体を用いたリチウムイオン二次電池電極用スラリーを提供すること。電極バインダー用共重合体は、式(1)で表される単量体(A)由来の構造単位と、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種である単量体(B)由来の構造単位と、式(2)で表される単量体(C)由来の構造単位と、エチレン性不飽和結合を1個のみ有し、n−オクタノール/水分配係数LogPが2.0未満である親水性単量体(D)由来の構造単位と、エチレン性不飽和結合を1個のみ有し、n−オクタノール/水分配係数LogPが2.0以上である疎水性単量体(E)由来の構造単位とを含む。