特許第6890799号(P6890799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6890799ポリウレタン複合材料及びポリウレタン複合材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6890799
(24)【登録日】2021年5月28日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】ポリウレタン複合材料及びポリウレタン複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20210607BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20210607BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   C08L75/04
   C08K3/04
   C08G18/08 038
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-182516(P2017-182516)
(22)【出願日】2017年9月22日
(65)【公開番号】特開2019-56087(P2019-56087A)
(43)【公開日】2019年4月11日
【審査請求日】2020年2月26日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、埼玉県産学連携研究開発プロジェクト「ナノカーボン樹脂セルレーション材料の創成と実用化開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】597131509
【氏名又は名称】株式会社ソマールゴム
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】牧瀬 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】植木 宏之
(72)【発明者】
【氏名】野口 徹
(72)【発明者】
【氏名】澤井 聡
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−314407(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/102077(WO,A1)
【文献】 特開2015−134859(JP,A)
【文献】 特開2010−185006(JP,A)
【文献】 特開2003−308734(JP,A)
【文献】 特開2015−071759(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0003329(US,A1)
【文献】 特開2012−135074(JP,A)
【文献】 特開2016−147992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08G18/00− 18/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンと、平均直径が0.4nm〜230nmのカーボンナノチューブと、を含むポリウレタン複合材料であって、
前記カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリウレタン100質量部に対して0.72質量部〜0.97質量部であり、
前記ポリウレタン複合材料は、イオン液体を含まず、
前記ポリウレタン複合材料は、体積抵抗率が1.0×10(Ω・cm)〜8.5×10(Ω・cm)である、ポリウレタン複合材料。
【請求項2】
ポリウレタンと、平均直径が0.4nm〜230nmのカーボンナノチューブと、を含むポリウレタン複合材料であって、
前記カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリウレタン100質量部に対して0.72質量部〜0.97質量部であり、
前記ポリウレタン複合材料は、導電性を有するイオン液体をさらに含み、
前記ポリウレタン100質量部に対する前記カーボンナノチューブ及び前記イオン液体の配合量の合計は、1.27質量部〜2.00質量部であり、
前記ポリウレタン複合材料は、体積抵抗率が1.0×10(Ω・cm)〜6.2×10(Ω・cm)である、ポリウレタン複合材料。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記カーボンナノチューブは、平均直径が5nm〜100nmの多層カーボンナノチューブである、ポリウレタン複合材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、
前記カーボンナノチューブは、平均直径が5nm〜20nmの多層カーボンナノチューブである、ポリウレタン複合材料。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項において、
JIS K 7204に準拠したH−22摩耗輪、荷重10N、1000回転後のテーバー摩耗試験における前記ポリウレタン単体の摩耗量に対する前記ポリウレタン複合材料の摩耗量増加率は、110%未満である、ポリウレタン複合材料。
【請求項6】
請求項2において、
前記イオン液体は、チタン系イオン液体または過塩素酸リチウム系イオン液体である、ポリウレタン複合材料。
【請求項7】
液状のポリオールに対して、平均直径が0.4nm〜230nmのカーボンナノチューブを混合して第1溶液を得る第1混合工程と、
前記第1溶液を流動しながら加圧して圧縮した後、圧力を解放または減圧して元の体積に復元し、カーボンナノチューブが解繊された第2溶液を得る解繊工程と、
前記第2溶液に対して、液状のポリイソシアネートを混合して第3溶液を得る第2混合工程と、
前記第3溶液におけるポリオールとポリイソシアネートとを反応させてポリウレタン複合材料を得る反応工程と、
を含み、
前記第1混合工程における前記カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリオール100質量部に対して1.2質量部〜1.6質量部であり、
前記ポリウレタン複合材料は、イオン液体を含まず、
前記ポリウレタン複合材料は、体積抵抗率が1.0×10(Ω・cm)〜8.5×10(Ω・cm)である、ポリウレタン複合材料の製造方法。
【請求項8】
液状のポリオールに対して、平均直径が0.4nm〜230nmのカーボンナノチューブを混合して第1溶液を得る第1混合工程と、
前記第1溶液を流動しながら加圧して圧縮した後、圧力を解放または減圧して元の体積に復元し、カーボンナノチューブが解繊された第2溶液を得る解繊工程と、
前記第2溶液に対して、液状のポリイソシアネートを混合して第3溶液を得る第2混合工程と、
前記第3溶液におけるポリオールとポリイソシアネートとを反応させてポリウレタン複合材料を得る反応工程と、
を含み、
前記第1混合工程における前記カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリオール100質量部に対して1.2質量部〜1.6質量部であり、
前記第2混合工程は、前記第2溶液に対して、導電性を有するイオン液体を混合する工程を含み、
ポリウレタン100質量部に対する前記カーボンナノチューブ及び前記イオン液体の配合量の合計は、1.27質量部〜2.00質量部であり、
前記ポリウレタン複合材料は、体積抵抗率が1.0×10(Ω・cm)〜6.2×10(Ω・cm)である、ポリウレタン複合材料の製造方法。
【請求項9】
請求項又はにおいて、
前記解繊工程は、ロール間隔が0.001mm〜0.01mmの複数本のロールで行う、ポリウレタン複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項8において、
前記イオン液体は、チタン系イオン液体または過塩素酸リチウム系イオン液体である、ポリウレタン複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性に優れたポリウレタン複合材料及びポリウレタン複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、電気的性質が注目されている。カーボンナノチューブを含有する導電性ポリウレタン組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、ポリウレタンに導電性を付加するためには、カーボンナノチューブの配合量を多くする必要があるが、カーボンナノチューブを増やすとポリウレタンの物理的強度の低下を招くことになる。導電性が要求されるポリウレタンの用途においては、例えば耐摩耗性が要求されることがあるが、耐摩耗性を維持しつつカーボンナノチューブで導電性を得ることは一般に困難である。
【0004】
一方、カーボンナノチューブとゴムとの複合化技術は、本願発明者等によって提案されている(例えば、特許文献2,3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012−520356号公報
【特許文献2】特開2005−97525号公報
【特許文献3】特開2016−147992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、カーボンナノチューブを配合して導電性を付与しつつ優れた物理的特性を有するポリウレタン複合材料及びポリウレタン複合材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0008】
[適用例1]
本適用例に係るポリウレタン複合材料は、
ポリウレタンと、平均直径が0.4nm〜230nmのカーボンナノチューブと、を含むポリウレタン複合材料であって、
前記カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリウレタン100質量部に対して0.7
質量部〜0.97質量部であり、
前記ポリウレタン複合材料は、イオン液体を含まず、
前記ポリウレタン複合材料は、体積抵抗率が1.0×10(Ω・cm)〜8.5×10(Ω・cm)であることを特徴とする。
[適用例2]
本適用例に係るポリウレタン複合材料は、
ポリウレタンと、平均直径が0.4nm〜230nmのカーボンナノチューブと、を含むポリウレタン複合材料であって、
前記カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリウレタン100質量部に対して0.72質量部〜0.97質量部であり、
前記ポリウレタン複合材料は、導電性を有するイオン液体をさらに含み、
前記ポリウレタン100質量部に対する前記カーボンナノチューブ及び前記イオン液体の配合量の合計は、1.27質量部〜2.00質量部であり、
前記ポリウレタン複合材料は、体積抵抗率が1.0×10(Ω・cm)〜6.2×10(Ω・cm)であることを特徴とする。
【0009】
[適用例
本適用例に係るポリウレタン複合材料において、
前記カーボンナノチューブは、平均直径が5nm〜100nmの多層カーボンナノチューブであることができる。
【0010】
[適用例
本適用例に係るポリウレタン複合材料において、
前記カーボンナノチューブは、平均直径が5nm〜20nmの多層カーボンナノチューブであることができる。
【0011】
【0012】
【0013】
[適用例
本適用例に係るポリウレタン複合材料において、
JIS K 7204に準拠したH−22摩耗輪、荷重10N、1000回転後のテーバー摩耗試験における前記ポリウレタン単体の摩耗量に対する前記ポリウレタン複合材料の摩耗量増加率は、110%未満であることができる。
[適用例6]
本適用例に係るポリウレタン複合材料において、
前記イオン液体は、チタン系イオン液体または過塩素酸リチウム系イオン液体であることができる。
【0014】
[適用例
本適用例に係るポリウレタン複合材料の製造方法は、
液状のポリオールに対して、平均直径が0.4nm〜230nmのカーボンナノチューブを混合して第1溶液を得る第1混合工程と、
前記第1溶液を流動しながら加圧して圧縮した後、圧力を解放または減圧して元の体積に復元し、カーボンナノチューブが解繊された第2溶液を得る解繊工程と、
前記第2溶液に対して、液状のポリイソシアネートを混合して第3溶液を得る第2混合工程と、
前記第3溶液におけるポリオールとポリイソシアネートとを反応させてポリウレタン複合材料を得る反応工程と、
を含み、
前記第1混合工程における前記カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリオール100質量部に対して1.2質量部〜1.6質量部であり、
前記ポリウレタン複合材料は、イオン液体を含まず、
前記ポリウレタン複合材料は、体積抵抗率が1.0×10(Ω・cm)〜8.5×10(Ω・cm)であることを特徴とする。
【0015】
[適用例
本適用例に係るポリウレタン複合材料の製造方法
液状のポリオールに対して、平均直径が0.4nm〜230nmのカーボンナノチューブを混合して第1溶液を得る第1混合工程と、
前記第1溶液を流動しながら加圧して圧縮した後、圧力を解放または減圧して元の体積に復元し、カーボンナノチューブが解繊された第2溶液を得る解繊工程と、
前記第2溶液に対して、液状のポリイソシアネートを混合して第3溶液を得る第2混合工程と、
前記第3溶液におけるポリオールとポリイソシアネートとを反応させてポリウレタン複合材料を得る反応工程と、
を含み、
前記第1混合工程における前記カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリオール100質量部に対して1.2質量部〜1.6質量部であり、
前記第2混合工程は、前記第2溶液に対して、導電性を有するイオン液体を混合する工程を含み、
ポリウレタン100質量部に対する前記カーボンナノチューブ及び前記イオン液体の配合量の合計は、1.27質量部〜2.00質量部であり、
前記ポリウレタン複合材料は、体積抵抗率が1.0×10(Ω・cm)〜6.2×10(Ω・cm)であることを特徴とする
【0016】
[適用例
本適用例に係るポリウレタン複合材料の製造方法において、
前記解繊工程は、ロール間隔が0.001mm〜0.01mmの複数本のロールで行うことができる。
[適用例10]
本適用例に係るポリウレタン複合材料の製造方法において、
前記イオン液体は、チタン系イオン液体または過塩素酸リチウム系イオン液体である、ポリウレタン複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、カーボンナノチューブを配合して導電性を付与しつつ優れた物理的特性を有するポリウレタン複合材料及びポリウレタン複合材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施の形態に係るポリウレタン複合材料の製造方法の解繊工程を模式的に示す図である。
図2】一実施の形態に係るポリウレタン複合材料の製造方法の解繊工程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するもので
はない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0020】
A.ポリウレタン複合材料
本実施形態に係るポリウレタン複合材料は、ポリウレタンと、平均直径が0.4nm〜230nmのカーボンナノチューブと、を含み、前記カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリウレタン100質量部に対して0.72質量部〜0.97質量部であり、前記ポリウレタン複合材料は、体積抵抗率が1.0×10(Ω・cm)〜8.5×10(Ω・cm)であることを特徴とする。
【0021】
ポリウレタン複合材料は、導電性を有するイオン液体をさらに含んでもよい。また、ポリウレタン複合材料は、カーボンナノチューブ及びイオン液体以外にポリウレタンに一般に用いられている公知の添加剤等を含んでもよい。
【0022】
A−1.ポリウレタン
ポリウレタン(ウレタン樹脂、ウレタンゴムともいう)は、ウレタン結合を含む高分子化合物である。ウレタン結合は、イソシアネート基とヒドロキシル基との反応により生成される。ポリウレタンは、直鎖状のもの及び分岐状のものを含む。
【0023】
ウレタン結合を形成するためのイソシアネート基は、2個以上のイソシアネート基を含む化合物(ポリイソシアネートという)から供給される。また、ウレタン結合を形成するためのヒドロキシル基は、2個以上のヒドロキシル基を含む化合物(ポリオールという)から供給される。ポリウレタンは、工業的にはポリイソシアネートとポリオールとの重付加反応によって得られる。
【0024】
また、ポリウレタンは、ウレタン結合以外の結合を含んでいてもよく、例えば、イソシアネート基とアミノ基との反応により生じるウレア結合(尿素結合)、ウレア結合とイソシアネート基との反応により生じるビュレット結合、ウレタン結合とイソシアネート基との反応により生じるアルファネート結合、及び、イソシアネート基の三量化によるイソシアヌレート結合などが挙げられる。
【0025】
A−2.カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブは、平均直径(繊維径)が0.4nm〜230nmである。さらに、カーボンナノチューブは、平均直径(繊維径)が5nm〜100nmの多層カーボンナノチューブであることができ、平均直径(繊維径)が5nm〜20nmの多層カーボンナノチューブであることができる。カーボンナノチューブの平均直径が小さい方が、カーボンナノチューブの濃度が同じであれば、単位体積当たりのカーボンナノチューブの本数が多くなり、かつ、カーボンナノチューブによって形成されるセル構造も微細になるため、ポリウレタン複合材料の物理的特定をより向上させることができるが、加工性が低下する傾向がある。カーボンナノチューブの平均直径は、電子顕微鏡による観察によって計測することができる。なお、本発明の詳細な説明においてカーボンナノチューブの平均直径及び平均長さは、電子顕微鏡による例えば5,000倍の撮像(カーボンナノチューブのサイズによって適宜倍率は変更できる)から200箇所以上の直径及び長さを計測し、その算術平均値として計算して得ることができる。
【0026】
カーボンナノチューブは、その表面を活性化する処理をしてもよい。
【0027】
ポリウレタン複合材料におけるカーボンナノチューブの配合量は、ポリウレタン100質量部に対して0.72質量部〜0.97質量部である。さらに、ポリウレタン複合材料におけるカーボンナノチューブの配合量は、ポリウレタン100質量部に対して0.72
質量部〜0.85質量部であることができる。カーボンナノチューブの配合量が0.45質量部以上であればカーボンナノチューブを解繊することで所望の導電性の向上が得られる。カーボンナノチューブの配合量が1.00質量部以下であれば加工(後述する「第2混合工程」等)することができる。また、カーボンナノチューブの配合量が1.00質量部以下であれば、物理的強度の低下、特に耐摩耗特性の低下を防止できる。ここで、ポリウレタン複合材料におけるポリウレタンの配合量とは、ポリウレタンの生成に用いられる成分(ポリオール、ポリイソシアネート、ブタンジオール等)を合計した配合量である。
【0028】
カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラファイトの1枚面(グラフェンシート)を巻いて筒状にした形状を有する単層カーボンナノチューブ(SWNT:シングルウォールカーボンナノチューブ)、多層カーボンナノチューブ(MWNT:マルチウォールカーボンナノチューブ)であることができる。多層カーボンナノチューブには、2層カーボンナノチューブ(DWNT:ダブルウォールカーボンナノチューブ)を含む。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブ、気相成長炭素繊維といった名称で称されることもある。
【0029】
カーボンナノチューブは、気相成長法によって得ることができる。気相成長法は、触媒気相合成法(Catalytic Chemical Vapor Deposition:CCVD)とも呼ばれ、炭化水素等のガスを金属系触媒の存在下で気相熱分解させて未処理のカーボンナノチューブを製造する方法である。より詳細に気相成長法を説明すると、例えば、ベンゼン、トルエン等の有機化合物を原料とし、フェロセン、ニッケルセン等の有機遷移金属化合物を金属系触媒として用い、これらをキャリアーガスとともに高温例えば400℃〜1000℃の反応温度に設定された反応炉に導入し、浮遊状態あるいは反応炉壁にカーボンナノチューブを生成させる浮遊流動反応法(Floating Reaction Method)や、あらかじめアルミナ、酸化マグネシウム等のセラミックス上に担持された金属含有粒子を炭素含有化合物と高温で接触させてカーボンナノチューブを基板上に生成させる触媒担持反応法(sub strate Reaction Method)等を用いることができる。
【0030】
カーボンナノチューブは、ポリウレタン複合材料の中で解繊された状態で全体に分散して存在することができる。解繊された状態とは、カーボンナノチューブの凝集塊(最大直径が60μm以上の塊)が無い状態である。
【0031】
A−3.イオン液体
イオン液体は、100℃以下の融点を有し、イオンのみからなる化合物である。特に、室温付近で液体状態であるイオンのみからなる化合物であることがポリウレタン複合材料にとっては好ましい。
【0032】
イオン液体は、導電性を有するイオン液体である。イオン液体のアニオン及びカチオンに制限はないが、非金属系のカチオンであることが好ましい。イオン液体としては、例えば、有機窒素系イオン液体、チタン系イオン液体、過塩素酸リチウム系イオン液体等が挙げられる。
【0033】
ポリウレタン複合材料におけるポリウレタン100質量部に対するカーボンナノチューブ及びイオン液体の配合量の合計は、1.27質量部〜2.00質量部であることができる。イオン液体は、カーボンナノチューブの導電性効果を安定化するものであるため、必ずしも配合しなくてもよいが、少量で当該安定化の効果を得ることができる。イオン液体の配合量は、ポリウレタン100質量部に対して0質量部〜1.00質量部であることができ、さらに0.30質量部〜1.21質量部であることができる。
【0034】
A−4.体積抵抗率
ポリウレタン複合材料は、体積抵抗率が1.0×10(Ω・cm)〜8.5×10(Ω・cm)である。また、イオン液体を含むポリウレタン複合材料は、体積抵抗率が1.0×10(Ω・cm)〜6.2×10(Ω・cm)である。ポリウレタン複合材料によれば、少量のカーボンナノチューブを配合して導電性を付与することができる。そのため、ポリウレタン複合材料は、帯電防止用途に採用することができる。
【0035】
体積抵抗率(Ω・cm)は、電気抵抗(Ω)を単位体積(1cm×1cm×1cm)当たりで示した値である。ポリウレタン複合材料は、体積抵抗率が1.0×10(Ω・cm)以下であるので、JIS K 7194に準拠して、定電流印加方式により測定する。
【0036】
ポリウレタン複合材料における導電性の向上は、解繊されたカーボンナノチューブがポリウレタン複合材料中に分散することにより、カーボンナノチューブ同士の接触による導電だけでなくカーボンナノチューブ同士が近接する部分でのトンネル効果による電子の移動が起こることによるものと推測される。ミラブルゴムのような半固体状のポリマーを用いた場合に比べて、液状のポリオールを母材として用いて製造するポリウレタン複合材料におけるカーボンナノチューブ同士の最近接間距離は平均して小さくなるため、トンネル効果の発生確率が向上するものと推測される。また、導電性を有するイオン液体を添加することにより、近接するカーボンナノチューブ間のトンネル効果の発生確率の向上にイオン液体が寄与すると推測され、イオン液体を添加しないポリウレタン複合材料よりもイオン液体を添加したポリウレタン複合材料の方が安定的な導電性を確保することが可能である。ここで安定的な導電性とは、同じ成分が同量配合されたポリウレタン複合材料の複数のサンプルを作成した場合に、いずれのサンプルの体積抵抗率もほぼ同程度の値を示し、サンプル間における導電性の変動が小さいということである。
【0037】
A−5.テーバー摩耗試験
テーバー摩耗試験は、JIS K 7204に準拠したH−22摩耗輪、荷重10N、1000回転後の試験片の摩耗量を測定する。テーバー摩耗試験におけるポリウレタン単体の摩耗量に対するポリウレタン複合材料の摩耗量増加率は、110%未満であることができる。さらに、ポリウレタン複合材料は、同試験における摩耗量増加率が、ポリウレタン単体の摩耗量に対し40%〜109%であることができ、さらに50%〜100%であることができる。ここで、ポリウレタン単体の試験片は、ポリウレタン複合材料に用いられたポリウレタン成分と同じ配合で、同じ成形条件で得られたものである。ポリウレタン単体の試験片には導電性物質(カーボンナノチューブ等)は含まれない。ポリウレタン複合材料によれば、カーボンナノチューブを配合して導電性を付与しつつ優れた物理的特性の低下が少ない。
【0038】
A−6.引張試験
ポリウレタン複合材料は、JIS K7127に基づいて引張試験を行ったときの引張強さ(TS(MPa))がポリウレタン単体と同等以上であり、切断時伸び(Eb(%))がポリウレタン単体のより大きく、例えばポリウレタン単体の切断時伸びの値に対して110%〜150%であることができる。ポリウレタン複合材料は、カーボンナノチューブの補強効果を得ることができ、かつ、切断時伸びを向上させることができる。
【0039】
B.ポリウレタン複合材料の製造方法
本実施形態に係るポリウレタン複合材料の製造方法は、液状のポリオールに対して、平均直径が0.4nm〜230nmのカーボンナノチューブを混合して第1溶液を得る第1混合工程と、前記第1溶液を流動しながら加圧して圧縮した後、圧力を解放または減圧し
て元の体積に復元し、カーボンナノチューブが解繊された第2溶液を得る解繊工程と、前記第2溶液に対して、液状のポリイソシアネートを混合して第3溶液を得る第2混合工程と、前記第3溶液におけるポリオールとポリイソシアネートとを反応させてポリウレタン複合材料を得る反応工程と、を含み、前記第1混合工程における前記カーボンナノチューブの配合量は、前記ポリオール100質量部に対して1.2質量部〜1.6質量部であり、前記ポリウレタン複合材料は、体積抵抗率が1.0×10(Ω・cm)〜8.5×10(Ω・cm)であることを特徴とする。
【0040】
B−1.第1混合工程
第1混合工程は、液状のポリオールに対して、前記A−2で説明したカーボンナノチューブを混合して第1溶液を得る工程である。
【0041】
カーボンナノチューブの配合量は、ポリウレタン複合材料におけるポリウレタン100質量部に対して0.45質量部〜1.00質量部となるように調整して、ポリオールに混合する。第1混合工程におけるカーボンナノチューブの配合量は、ポリオール100質量部に対して0.8質量部〜1.8質量部である。さらに、カーボンナノチューブの配合量は、ポリオール100質量部に対して0.8質量部〜1.6質量部であることができ、特に1.0質量部〜1.4質量部であることができる。ポリウレタン複合材料におけるポリウレタンの成分は、ポリイソシアネート、ポリオール、及びその他のポリウレタンの原料(架橋剤等)からなる。カーボンナノチューブが1.8以下であれば第2混合工程で加工が容易となる傾向がある。
【0042】
第1混合工程において、ポリオールは液状である。ポリオールが室温で液体でない場合には、ポリオールの融点以上の温度で第1混合工程を行う。ポリオールが液体であることで、少量のカーボンナノチューブであっても導電性が向上すると推測される。
【0043】
第1混合工程は、ポリオールに予定した配合量のカーボンナノファイバーを投入し終わるまでの工程であり、好ましくは、作業者が目視してカーボンナノファイバーがポリオールの全体に混合されたことを認識するまでの工程であることができる。より具体的には、容器内に入れた所定量の液状のポリオールとカーボンナノファイバーとを手作業で撹拌し、あるいは公知の攪拌機で撹拌することができる。
【0044】
第1混合工程で得られた第1溶液は、液体(ポリオール)中にカーボンナノファイバーが粒子状に単独で分布した状態である。カーボンナノファイバーの液体に対する濡れ性によっては、液体がカーボンナノファイバーの凝集塊の中心まで含浸できずに凝集塊が空気を含んでいる状態である。カーボンナノファイバーは、液体の分子運動性を十分に拘束することができず、カーボンナノファイバーの凝集塊と液体とが分離しやすい状態にあり、複合材としては非常に不安定な構造である。混合工程後、第1溶液に対して次の解繊工程を実施する。
【0045】
B−1−1.ポリオール
ポリオールは、二官能以上のヒドロキシル基を有する化合物であれば特に限定されない。ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0046】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレントリオール、ポリプロピレンテトラオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレントリオール、これらの共重合体などのポリアルキレングリコール、これらに側鎖を導入したり分岐構造を導入したりした誘導体、変成体、さらにはこれらの混合物などが挙げられる。
【0047】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート、ポリエチレンプロピレンアジペート、ポリエチレンブチレンアジペート、ポリブチレンヘキサメチレンアジペート、ポリジエチレンアジペート、ポリ(ポリテトラメチレン)アジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンアゼレート、ポリブチレンセバケート、ポリエチレンテレフタレート等の縮合ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリカーボネートジオール、これらに側鎖を導入したり分岐構造を導入したりした誘導体、変成体、さらにはこれらの混合物などが挙げられる。
【0048】
B−2.解繊工程
解繊工程は、第1混合工程で得られた第1溶液を流動しながら加圧して圧縮した後、圧力を解放または減圧して元の体積に復元し、第2溶液を得る工程である。解繊工程は、複数回繰り返し行われる。解繊工程は、ロール間隔が0.001mm〜0.01mmの複数本のロールで行うことができる。図1及び図2を用いて解繊工程について説明する。図1及び図2は、解繊工程を模式的に示す図である。
【0049】
図1は、3本ロール1の側面図である。3本のロール10,20,30は、所定の回転速度V1,V2,V3で回転する。第1混合工程で得られた第1溶液は、図の左側のロール10の上から供給され、矢印A1の方向にロール10の回転と共に移動して、ロール10とロール20との間のニップに入り込む。ロール10とロール20との間のニップを通った溶液は、矢印A2,A3の方向にロール20の回転と共に移動して、続いてロール20とロール30との間のニップに入り込む。そして、ロール20とロール30との間のニップを通った溶液は、矢印A4の方向にロール30の回転と共に移動して、ロール30から取り出され、矢印B1で示すように、再びロール10に供給される。この操作を複数回繰り返す。
【0050】
図1及び図2に示すように、3本ロール1は、ロール10,20の幅方向(回転軸に沿った方向)の所定間隔を隔てた位置に仕切板50,52を有する。ロール間のニップは狭いため、第1溶液は少しずつニップを通過するため、ニップに入れない第1溶液がロールの幅方向に広がろうとする。仕切板50,52は、ニップに入れない第1溶液が所定幅以上に広がらないようにするものである。
【0051】
解繊工程は、各ロール10,20,30のロール間隔(ニップ)が0.001mm〜0.01mmの3本ロールで行うことができる。ここでは3本ロールを用いているが、ロールの数は特に限定されるものでは無く、複数本のロール、例えば、2本ロールを用いてもよく、その場合には、同様のロール間隔で混練することができる。
【0052】
解繊工程は、ロールの回転比が1.2〜3.0であることができる。ロールの回転比が大きければ、第1溶液に剪断力が大きくなり、カーボンナノファイバー同士を引き離す力として作用するからである。ここでいうロールの回転比は、隣り合うロールの回転比である。すなわち、ロール10の表面速度をV1、ロール20の表面速度をV2、ロール30の表面速度をV3とすると、ロール10,20の表面速度比(V2/V1)はV1=1としたときにV2=1.2〜3.0の範囲で選択することができ、ロール20,30の表面速度比(V3/V2)はV2=1としたときにV3=1.2〜3.0の範囲で選択することができる。
【0053】
ロール10に供給された第1溶液は、ロール10とロール20との間の非常に狭いニップに入り込み、ロールの回転比によって流動しながら加圧される。第1溶液は、仕切板50,52によってロール10の幅方向への移動は制限されているので、所定体積が順次ニ
ップに供給されることになり、ニップで圧縮されて体積が減少する。その後、第1溶液は、ニップを抜けてロール20の矢印A2に沿って移動すると、圧力が解放または減圧して元の体積に復元する。そして、この体積の復元に伴って、カーボンナノファイバーは大きく流動し、凝集したカーボンナノファイバーがほぐれる。
【0054】
また、第1溶液は、次のロール20とロール30との間の非常に狭いニップで同様の加圧、圧縮、解放、復元を行うことで、凝集したカーボンナノファイバーはさらにほぐれる。
【0055】
さらに、このロール10からロール30への一連の工程を複数回繰り返し行うことにより、第1溶液中のカーボンナノファイバーの解繊は進み、第2溶液を得ることができる。解繊工程は、例えば、3分〜10分間行うことができる。解繊工程は、例えば、一連の工程を1回としたとき、10回〜30回行うことができる。
【0056】
解繊工程は、第1溶液のポリオールの融点に合わせて混練温度(第1溶液の温度)を設定することができる。第1溶液のポリオールの融点が室温以下の場合には、解繊工程の混練温度を0℃〜60℃の範囲で行うことができ、さらに、混練温度を15℃〜50℃の範囲で行うことができる。第1溶液のポリオールの融点が室温より高い場合には、解繊工程の混練温度は、当該融点以上であって当該融点より30℃高い温度以下で行うことができる。解繊工程は、液体の有する体積弾性率を利用して行うものであるため、第1溶液が液体である範囲で、なるべく低温で行う方が好ましい。体積弾性率は、ヤング率と比例関係にあり、圧縮率の逆数である。ヤング率は温度の上昇とともに減少し、圧縮率は温度上昇に伴い増加する為、体積弾性率も温度の上昇に伴い減少するからである。したがって、第1溶液の温度は、60℃以下、好ましくは50℃以下とすることが好ましい。第1溶液の温度は、生産性の観点から、0℃以上、好ましくは15℃以上であることが好ましい。ロールの温度が低いと、例えば、ロールにおける結露の問題が発生するからである。
【0057】
解繊工程は、3本ロールなどのロールによる混練に限らず、第1溶液の体積を圧縮した後に復元することができる混練方法であれば、他の方法を採用することができる。例えば、第1溶液を加圧して流動させながら圧縮し、キャビテーションや乱流を発生させた後、急激に減圧する分散装置、例えばホモジナイザーを用いることが出来る。
【0058】
解繊工程において得られた剪断力により、液体に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバーがロール1に繰り返し通されることによって徐々に相互に分離し、解繊され、第1溶液中に分散され、カーボンナノファイバーの分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れたポリウレタン複合材料を得ることができる。したがって、本製造方法によって得られたポリウレタン複合材料は、カーボンナノファイバーの凝集塊が原因の問題が起こらないため、多種多様の用途に適用することができる。
【0059】
解繊工程で得られた第2溶液は、液体又はペースト状であることが好ましい。第2混合工程におけるポリイソシアネートとの混合を容易にするためである。第2溶液は、室温において、自重を以って流動することが無くとも、例えば温度の上昇又は混合時に加わる外力により粘度の低下を得られる場合その後の混合工程を実施することができる。第2溶液が液体又はペースト状であるためには、カーボンナノチューブの配合量が多くなると流動しない状態となるため、第1溶液のポリオール100質量部に対してカーボンナノチューブが1.8質量部を超えない範囲で調整することができる。第2容液を液体又はペースト状とするためには、前記A−2及び前記B−1で説明したカーボンナノチューブの配合量となるように調整することができる。
【0060】
B−3.第2混合工程
第2混合工程は、第2溶液に対して、液状のポリイソシアネートを混合して第3溶液を得る工程である。第2混合工程は、ポリイソシアネート以外のポリウレタンを生成するための成分を配合してもよい。第2混合工程は、第2溶液に対して、イオン液体を混合する工程を含むことができる。
【0061】
第2混合工程は、第2溶液、ポリイソシアネート、及びイオン液体を液体の状態で混合することができる。したがって、ポリオール、ポリイソシアネート及びイオン液体のいずれかが室温で固体の場合には、その融点以上の温度まで加熱して混合することができる。
【0062】
第2混合工程は、例えば、2本ロール、3本ロール、自公転式ミキサ(プラネタリミキサ)などを用いて行うことができる。
【0063】
B−3−1.ポリイソシアネート
ポリイソシアネートは、二官能以上のイソシアネート基含有化合物であれば特に限定されない。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートが挙げられる。
【0064】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、エチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート等が挙げられる。
【0065】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,4−フェニレンジイソシアネート(PPDI)、2,4−トルエンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トルエンジイソシアネート(2,6−TDI)、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’−MDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、o−トリレンジイソシアネート(TODI)、粗製TDI、ポリフェニルメタンポリイソシアネート(粗製MDI)等が挙げられる。
【0066】
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’−ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,4−ジイソシアネート、1,4−ビス(2−イソシアネートエチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0067】
これらのポリイソシアネートは、複数種を混合して用いてもよい。
【0068】
B−3−2.イオン液体
イオン液体は、前記A−3で説明した導電性を有するイオン液体を用いることができる。イオン液体の配合量については、前記A−3で説明した通りである。
【0069】
B−3−3.その他の原料
第2混合工程は、前記B−1−1で説明したポリオール及び前記B−3−1で説明したポリイソシアネート以外にポリウレタンを生成するために用いられるその他の原料を混合してもよい。その他の原料としては、例えば、架橋剤、触媒、可塑剤等が挙げられる。架橋剤としては、短鎖アルコール類、短鎖アミン類が用いられ、例えば、エチレングリコール、1,4ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MOCA)等が挙げられる。触媒としては、トリエチレンジアミン(TEDA)、ジラウリン
酸ジブチルスズ(DBTDL)等が挙げられる。
【0070】
B−4.反応工程
反応工程は、前記B−3で得られた第3溶液におけるポリオールとポリイソシアネートとを反応させてポリウレタン複合材料を得る工程である。反応工程は、第2混合工程の中で開始してもよい。反応工程は、第3溶液を金型内に注入する工程を含むことができる。
【0071】
反応工程によって得られたポリウレタン複合材料は、カーボンナノチューブを配合して導電性を付与しつつ優れた物理的特性を有する。反応工程によって得られたポリウレタン複合材料は、前記Aにおいて説明したポリウレタン複合材料であることができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
(1)サンプルの作製
第1混合工程:容器内でポリオールに、カーボンナノチューブ(MWCNT)を投入し、手作業で撹拌して第1溶液を得た(ポリオールに架橋剤の1,4−ブタンジオールを予め混合してもよい)。カーボンナノチューブは、各サンプルにおけるポリオール100質量部(phr)に対して、表1〜表6に示した質量部(phr)となるように配合量を決定した。表1〜表6の「ポリウレタン100phrに対するMWCNTの配合量」は、ポリウレタン成分(ポリオール、ポリイソシアネート、1,4−ブタンジオール)100質量部に対するカーボンナノチューブの配合量である。また、表4及び表5における「ポリウレタン100phrに対するMWCNT及びイオン液体の配合量」は、ポリウレタン成分100質量部に対するカーボンナノチューブ及び導電性を有するイオン液体の合計配合量である。また、表3及び表6における「ポリウレタン100phrに対する導電性成分の配合量」は、ポリウレタン成分100質量部に対する導電性成分であるケッチェンブラック及びイオン液体の合計配合量である。比較例1はポリウレタン単体であり、比較例2〜4,6〜8では、カーボンナノチューブの代わりに一般に導電性物質として用いられるケッチェンブラックを混合した。
【0074】
解繊工程:ロール直径が50mmの3本ロール(ロール温度23〜40℃)に、各サンプルの第1溶液を投入して、3〜10分間混練し、第2溶液を得た(3本ロールについては図1,2参照)。ロール間隔は、0.001mm〜0.01mm未満であった。ロール速度比は、図1におけるV1=1としたときに、V2=1.8、V3=3.3であった。
【0075】
第2混合工程:解繊工程と同じ3本ロールに、各サンプルの第2溶液を投入し、イソシアネート、1,4−ブタンジオール及び導電性を有するイオン液体(イオン液体−1,2)を投入し、混合して第3溶液を得た。実施例1〜6及び参考例1〜5の第1溶液は、流動性を示し、第2混合工程での混合が可能であった。
【0076】
反応工程:第3溶液を流動性が低下する前に金型に注入し、硬化反応させ、実施例1〜6及び参考例1〜5及び比較例1〜8のポリウレタン複合材料サンプルを得た。
【0077】
下記表1〜表6に示す配合剤は、
ポリオール:保土ヶ谷化学工業社製、ポリエーテルポリオールPTGL1000、分子量1000、
多層カーボンナノチューブ(MWCNT):平均直径10nm、
ケッチェンブラック:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製、KB600JD、
イオン液体−1:田岡化学工業社製US600(有機窒素系イオン液体)、
イオン液体−2:日本カーリット社製PEL20A(過塩素酸リチウム系イオン液体)、
であった(平均直径は、走査型電子顕微鏡の撮像を用いて200か所以上の測定値を算術平均した値である。
【0078】
第2混合工程において、全ての実施例、参考例及び比較例は、ポリウレタン成分として、表1〜表6の配合の他に、ポリオール100質量部に対してポリイソシアネート(三井化学社製コスモネートPH、融点37℃)を55.6質量部と1,4−ブタンジオール(BASF出光社製1,4−ブタンジオール、粘度65mPa・s(25℃))を10質量部とが配合された。
【0079】
(2)引張試験
実施例、参考例及び比較例のサンプル(JIS7号のダンベル形状に打ち抜いた試験片)について、島津製作所社製オートグラフAG−Xの引張試験機を用いて、23±2℃、標準線間距離10mm、引張速度50mm/minでJIS K7127に準拠して引張試験を行い引張強さ(TS(MPa))及び破断伸び(Eb(%))を測定した。測定結果を表1〜表6に示した。
【0080】
引張試験の破断面を電子顕微鏡観察した。実施例1〜6及び参考例1〜5のサンプルの破断面にはカーボンナノチューブの凝集塊は発見されなかった。
【0081】
(3)テーバー摩耗試験
実施例、参考例及び比較例のサンプルについて、JIS K7204に準拠してテーバー摩耗試験を実施した。当該試験は、テーバー社製テーバー摩耗試験機を使用し、H−22摩耗輪、荷重10N、1000回転後において摩耗量(mg)を測定した。測定結果を表1〜表6に示した。比較例1のポリウレタン単体の摩耗量は、40mgであった。比較例1のポリウレタン単体の摩耗量(40mg)に対する各サンプルのポリウレタン複合材料の摩耗量増加率((各サンプルの摩耗量−40mg)/40mg×100)を計算し、表1〜表6に「摩耗量増加率(%)」として示した。
【0082】
(4)体積抵抗率の測定
実施例、参考例及び比較例のサンプル(50mm×50mm×2mm)について、体積抵抗率を測定した。比較例1〜4、6〜8については、1.0×10(Ω・cm)より高いので、「体積抵抗率−1」として、三菱ケミカルアナリテック社製高抵抗抵抗率測定器MCP−HT450(測定電圧10V)を用いて、JIS K6911に準拠して、定電圧印加・漏洩電流測定方式により、測定した。また、実施例1〜6及び参考例1〜5及び比較例5については、1.0×10(Ω・cm)より低いので、「体積抵抗率−2」として、三菱ケミカルアナリテック社製低抵抗率測定器MCP−T610(測定電圧90V)を用いて、JIS K 7194に準拠して、定電流印加方式により測定した。測定結果を表1〜表6に示した。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
【表5】
【0088】
【表6】
【0089】
表1〜表6の結果によれば、実施例1〜6及び参考例1〜5のポリウレタン複合材料サンプルは、比較例1のサンプルに比べて、引張強さが同等程度以上で、切断時伸びが大きく向上し、物理的特性に優れていた。特に、ケッチェンブラックを大量に配合して導電性を向上させた比較例4のサンプルに比べて、実施例1〜6及び参考例1〜5のサンプルは、引張強さが大きかった。
【0090】
実施例1〜6及び参考例1〜5のサンプルは、比較例4のサンプルに比べて、テーバー摩耗の摩耗量が少なかった。また、実施例1〜6及び参考例1〜5のサンプルの摩耗量は、比較例4の摩耗量に比べて少なく、摩耗量増加率は100%以下であった。
【0091】
実施例1〜6及び参考例1〜5のポリウレタン複合材料サンプルの体積抵抗率も、最大で6.8×10(Ω・cm)であり、少量のカーボンナノチューブの配合によって効率的に導電性を向上させることができた。
【符号の説明】
【0092】
1…3本ロール、10,20,30…ロール、50,52…仕切板、V1,V2,V3…回転速度、A1〜A4,B1…矢印
図1
図2