特許第6890847号(P6890847)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6890847電子式WBGT計の出力方法および電子式WBGT計
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  • 特許6890847-電子式WBGT計の出力方法および電子式WBGT計 図000015
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6890847
(24)【登録日】2021年5月28日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】電子式WBGT計の出力方法および電子式WBGT計
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/17 20060101AFI20210607BHJP
【FI】
   G01W1/17 D
【請求項の数】17
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-181363(P2019-181363)
(22)【出願日】2019年10月1日
(65)【公開番号】特開2021-56156(P2021-56156A)
(43)【公開日】2021年4月8日
【審査請求日】2020年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000161932
【氏名又は名称】京都電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】加納 喜代継
【審査官】 佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】 実開平5−6384(JP,U)
【文献】 特開2010−266318(JP,A)
【文献】 特開2014−102106(JP,A)
【文献】 特開2003−114284(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/124330(WO,A1)
【文献】 米国特許第5436852(US,A)
【文献】 中国実用新案第206725791(CN,U)
【文献】 小野 雅司, 登内 道彦,通常観測気象要素を用いた WBGT(湿球黒球温度)の推定,日本生気象学会雑誌,2014年,Vol. 50, No. 4,p. 147-157,[検索日:2021/04/14], <DOI: https://doi.org/10.11227/seikisho.50.147>でダウンロード可能
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W1/00−1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の特定の温熱環境下での気温、平均輻射温度、風速から、電子式WBGT計の任意径の黒球温度を、それぞれの特定の温熱環境について求めるステップ、
前記複数の特定の温熱環境下での気温、平均輻射温度、風速から、ISO準拠WBGT計の標準径の黒球温度を、それぞれの特定の温熱環境について求めるステップ、
前記複数の特定の温熱環境下での気温、平均輻射温度、風速と相対湿度から、ISO準拠WBGT計の自然湿球温度を、それぞれの特定の温熱環境について求めるステップ、
前記複数の特定の温熱環境下での気温、任意径の黒球温度、相対湿度を入力とし、対応する標準径の黒球温度、自然湿球温度を出力とするデータ群に基づいて当該入力と出力の間の相関関係を決定するステップ、
を備えたことを特徴とする電子式WBGT計の測定値とISO準拠WBGT計の測定値を関連付ける方法。
【請求項2】
前記相関関係が、前記入力と出力のデータ群を教師データとして学習することによって決定される請求項1に記載の電子式WBGT計の測定値とISO準拠WBGT計の測定値を関連付ける方法。
【請求項3】
前記相関関係が、前記入力と出力のデータ群の間に成立する近似式を決定する請求項1に記載の電子式WBGT計の測定値とISO準拠WBGT計の測定値を関連付ける方法。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれかの方法に基づいて得られた相関関係に基づいて、現実の電子式WBGT計が測定した気温、任意径の黒球温度、相対湿度からISO準拠WBGT計の標準径の黒球温度、自然湿球温度を得るステップ、
を備えたことを特徴とする電子式WBGT計の出力方法。
【請求項5】
前記気温およびISO準拠WBGT計の標準径の黒球温度、自然湿球温度から、WBGT指数を演算するステップを備えた請求項4に記載の電子式WBGT計の出力方法。
【請求項6】
気温計、任意径の黒球温度計、相対湿度計を備えた電子式WBGT計において、
複数の特定の温熱環境下での気温、平均輻射温度、風速から、電子式WBGT計の任意径の黒球温度をそれぞれの特定の温熱環境について得る第1の演算手段と、
前記複数の特定の温熱環境下での気温、平均輻射温度、風速から、ISO準拠WBGT計の標準径の黒球温度をそれぞれの特定の温熱環境について得る第2の演算手段と、
前記複数の特定の温熱環境下での気温、平均輻射温度、風速、相対湿度から、自然湿球温度をそれぞれの特定の温熱環境について得る第3の演算手段と、
前記複数の特定の温熱環境下での気温、任意径の黒球温度、相対湿度を入力とし、対応する標準径の黒球温度、自然湿球温度を出力とするデータ群に基づいて、当該入力と出力の間の相関関係を決定する相関関係決定手段、
を備えたことを特徴とする電子式WBGT計の測定値とISO準拠WBGT計の測定値の関連付け装置。
【請求項7】
相関関係決定手段が、前記入力と出力のデータ群を学習することによって、前記相関関係が決定される請求項6に記載の電子式WBGT計の測定値とISO準拠WBGT計の測定値の関連付け装置。
【請求項8】
相関関係決定手段が、前記入力と出力のデータ群の間に成立する近似式を決定する請求項6に記載の電子式WBGT計の測定値とISO準拠WBGT計の測定値の関連付け装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の関連付け装置で形成された相関関係に基づいて、現実の温熱環境下での気温、任意径の黒球温度、相対湿度から標準径の黒球温度、湿球温度を求める測定演算部材を備えたことを特徴とするWBGT計。
【請求項10】
前記標準径の黒球温度、湿球温度、気温に基づいてWBGT指数を計算するWBGT演算手段を備えた請求項9に記載のWBGT計。
【請求項11】
気温計、任意径の黒球温度計、相対湿度計を備えた電子式WBGT計において、
複数の特定の温熱環境下での気温、平均輻射温度、風速から、それぞれの特定の温熱環境について得られる電子式WBGT計の任意径の黒球温度と、前記気温と、相対湿度のデータ群を電子式WBGT計測のデータ群とし、
前記複数の特定の温熱環境下での気温、平均輻射温度、風速から、それぞれの特定の温熱環境について得られるISO準拠WBGT計の標準径の黒球温度と、前記複数の特定の温熱環境下での気温、平均輻射温度、風速、相対湿度から、それぞれの特定の温熱環境について得られる自然湿球温度のデータ群をISO準拠WBGT計測のデータ群とし、
前記電子式WBGT計測のデータ群とISO準拠WBGT計測のデータ群との間の相関関係を記憶し、現実の温熱環境下での気温と、任意径の黒球温度と、相対湿度を入力し、ISO準拠WBGT計の標準径の黒球温度と自然湿球温度を得る測定演算部材、
を備えたことを特徴とする電子式WBGT計。
【請求項12】
相関関係決定手段が、前記入力と出力のデータ群を学習することによって、前記相関関係が決定される請求項11記載の電子式WBGT計。
【請求項13】
相関関係決定手段が、前記入力と出力のデータ群の間に成立する近似式を決定する請求項11に記載の電子式WBGT計。
【請求項14】
更に、前記測定演算部材の出力する標準径の黒球温度と自然湿球温度と気温に基づいてWBGT指数を演算するWBGT演算手段を
備えた請求項11〜13のいずれかに記載する電子式WBGT計。
【請求項15】
複数の特定の温熱環境下での気温、平均輻射温度、風速から、それぞれの特定の温熱環境について得られる電子式WBGT計の任意径の黒球温度と、前記気温と、相対湿度のデータ群を電子式WBGT計測のデータ群とし、
前記複数の特定の温熱環境下での気温、平均輻射温度、風速から、それぞれの特定の温熱環境について得られるISO準拠WBGT計の標準径の黒球温度と、前記複数の特定の温熱環境下での気温、平均輻射温度、風速、相対湿度から、それぞれの特定の温熱環境について得られる自然湿球温度のデータ群をISO準拠WBGT計測のデータ群とし、
前記電子式WBGT計測のデータ群とISO準拠WBGT計測のデータ群との間の相関関係を記憶し、現実の温熱環境下での気温と、任意径の黒球温度と、相対湿度を入力し、
ISO準拠WBGT計の標準径の黒球温度と自然湿球温度を得ることを特徴とする測定演算部材
【請求項16】
前記相関関係が、前記電子式WBGT計測のデータ群とISO準拠WBGT計測のデータ群を学習することによって決定される請求項15記載の測定演算部材。
【請求項17】
前記相関関係が、前記電子式WBGT計測のデータ群とISO準拠WBGT計測のデータ群の間に成立する近似式を得ることによって決定する請求項15に記載の測定演算部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子式WBGT計の出力方法および電子式WBGT計に関し、特に、風速と平均輻射温度の影響を反映したWBGT指数を得る電子式WBGT計の出力方法および電子式WBGT計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
温熱環境を評価する指数としてWBGT指数があり、この値が所定値以上であると熱中症の危険性が高いとするものである。WBGT指数を算出するについては、ISOに準拠するWBGT計より得られる気温ta(乾球温度)、自然湿球温度tw、標準径(150mm)の黒球温度tgが用いられ、日射の影響のあるなしによって下記のように2様の計算式によって求められる。
【0003】
日射の影響のある場合:WBGT=0.7×tw+0.2×tg+0.1×ta・・・(10)
日射の影響のない場合:WBGT=0.7×tw+0.3×tg ・・・(11)
ISO準拠のWBGT計は、上記の計算ができるように、自然湿球温度計、標準径の黒球を備えた黒球温度計、乾球温度計(気温計)が備えられ、各温度が測定できるようになっている。
【0004】
ところで、ISO準拠のWBGT計は、上記のように150mmの標準径黒球を使用し、自然湿球温度計を備えるとことから、高価となり、また自然湿球温度計は水分補給の必要性から取り扱い難いことから、温熱環境(特に暑熱環境)での運動や作業をするについて、簡単にWBGT指数が測定できる電子式WBGT計が開発されている。
【0005】
電子式WBGT計では、前記ISO準拠のWBGT計に使われる湿球温度計に代えて例えば特開2011−192247に開示するように電子式の相対湿度センサーを使用し、相対湿度と気温から自然湿球温度を計算するようにしている。また150mmの標準径黒球では携帯性に欠けることから、例えば3556192号特許に開示するように、直径の小さい任意径の黒球から得られる温度を、標準径黒球の温度に換算するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3556192号公報
【特許文献2】特開2011-192247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記自然湿球温度については、WBGT計のISO規格制定当初(1982年)から現在に至るまでその内容に変遷がある。すなわち、電子式WBGT計開発当初(1980年代)は、一般に自然湿球温度の言葉の意味は「自然対流下での湿球温度」程度に理解されていた。ここで自然対流下とは無風もしくは微風の状態を指している。
【0008】
1989年のISO7243では当該湿球温度を「自然通風下での湿球温度」とし、上記無風もしくは微風下と同様に強制対流下での風の影響を考慮している。
【0009】
2017年に上記ISO7243は更に改定され、自然湿球温度を「自然環境にさらされた湿球温度」と定義した。ここで「自然環境にさらされた」とは風速と輻射の影響をも考慮することを意味する。
【0010】
前記した電子式WBGT計は風速計を持たないので、WBGT指数を算出しようとすると、上記いずれの世代においても仮定された風速値の下での自然湿球温度を求める必要があった。また、上記したように標準径(150mm)より小さい任意径の黒球を使用しているので当該任意径の黒球温度を標準径の黒球温度に変換する必要がある。この変換に際しても以下に説明するように風速情報を必要とし、従来はこの場合も仮定された風速値の下での演算式を使用している。
【0011】
従って、仮定された風速と実際の風速の差が黒球温度や自然湿球温度の誤差となって現れることになる。更に、上記2017年のISO7243は、輻射の影響を自然湿球温度に反映させることが盛り込まれているが、この点を実現した電子式WBGT計は今のところ実現されていない。
【0012】
改正されたISOに準拠するために風速計を電子式WBGT計に備えさせることが考えられるが、コストデメリットがあることはもちろん、風速計は特殊な校正設備を必要とし壊れやすいと言った問題がある。
【0013】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、風速と、輻射の要素を反映したWBGT指数を得ることができる電子式WBGT計を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記課題を解決するために以下の手段を採用している。
【0015】
まず、第1の演算手段で、複数の特定の温熱環境下の気温、平均輻射温度、風速から、電子式WBGT計の任意径の黒球温度をそれぞれの特定の温熱環境について得る。
【0016】
次いで、第2の演算手段で前記複数の特定の温熱環境下の気温、平均輻射温度、風速から、ISO準拠WBGT計の標準径の黒球温度をそれぞれの特定の温熱環境について得る。
【0017】
更に、第3の演算手段で前記複数の特定の温熱環境下の気温、平均輻射温度、風速、相対湿度から、自然湿球温度をそれぞれの特定の温熱環境について得る。
【0018】
相関関係決定手段は、前記複数の特定の温熱環境下での気温、任意径の黒球温度、相対湿度を入力とし、対応する標準径の黒球温度、自然湿球温度を出力とするデータ群に基づいて、当該入力と出力の間の相関関係を決定する。
【0019】
前記、相関関係決定手段は前記入力と出力のデータ群を学習することによって、相関関係を決定することができる。また、前記入力と出力のデータ群の間の相関関係を表す式を決定する。
【0020】
以上のようにして決定された相関関係は、現実の温熱環境下に置かれ、以下に説明するように、電子式WBGT計の任意径の黒球温度、相対湿度、気温からISO準拠WBGT計の標準の黒球温度、自然湿球温度を算出する測定演算部材に記憶されて、本発明の電子式WBGT計に搭載される。従って、相関関係決定手段で相関関係を決定するまでの手段の組み合わせは、関連付け装置(あるいは手順)として、電子式WBGT計とは別個の装置として捉えることができる。
【0021】
上記の発明は電子式WBGT計を用いてISO準拠のWBGT計の出力を得る手順の発明としても捉えることもできる。
【発明の効果】
【0022】
上記のようにして風速計を持たない電子式WBGT計から、風速および平均輻射温度を反映させた標準径黒球温度、および、自然湿球温度を得ることができ、前記式(10)、(11)に基づいて得られるWBGT指数にも、当然風速および平均輻射温度を反映させることができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の概要を示す概念図である。
図2】本発明のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<原理>
図1は、本願発明の基本概念を示す図である。特定の温熱環境(気温ta、平均輻射温度tr、風速v、相対湿度rh)1の下での電子式WBGT計2の示す任意径の黒球温度tg?は下記式(2)で求めることができる。また、前記と同じ特定の温熱環境1の下におけるISO準拠のWBGT計3の示す標準径の黒球温度tgSTDは下記式(3)で求めることができる。更に、前記と同じ特定の温熱環境1の下におけるISO準拠のWBGT計3の示す自然湿球温度twは下記式(4)(5)で求めることができる。従って、電子式WBGT計2の出力(気温ta、任意径の黒球温度tg?、相対湿度rh)と、ISO準拠のWBGT計3の出力(気温ta、標準径の黒球温度tgSTD、自然湿球温度tw)は1:1で対応させることができ、相互の相関関係を求めることによって、電子式WBGT計2の出力から、ISO準拠のWBGT計3の出力を求めることができる。
【0025】
ISO7726 Annex Bには、例えば強制対流下では、黒球温度から平均輻射温度を下記式(1)で求めることができるとしている。
【0026】
【数1】
前記式(1)でいうDは標準径黒球の直径を、またtgは前記標準径黒球(以下ではtgSTD)についての温度を意味する。また、この式は、任意の黒球径dにも適用することができ、熱平衡式として書き直すと、以下の式(2)のようになり、また標準径の黒球についての熱平衡式は、式(3)となる。
【0027】
【数2】
【0028】
【数3】
ここで式(2)に特定の温熱環境下での気温ta、平均輻射温度tr(Tr=tr+273)、風速v、黒球の径d及び黒球の放射率ε(例えばε=0.90)を入力すると、任意径の黒球温度tg?を求めることができる。すなわち特定の温熱環境における気温ta、平均輻射温度tr(Tr)、風速vから任意径の黒球温度tg?(Tg?=tg?+273)が得られることになる。
【0029】
また、式(3)に特定の温熱環境下での気温ta、平均輻射温度tr(Tr)、風速v、黒球の径D(=0.15)及び標準径黒球の放射率(ε=0.95)を入力すると、標準径の黒球温度tgSTD(Tg=tgSTD+273)を求めることができる。すなわち上記特定の温熱環境における気温ta、平均輻射温度tr(Tr)、風速vから標準径の黒球温度tgSTD(TgSTD)が得られることになる。
【0030】
さらに、自然湿球温度の熱平衡式は下記式(4)(ISO7243 Annex D)となる。
【0031】
【数4】
ここで、ある温度(t)の下での飽和蒸気圧Pa(t)はTetensの式より下記式(5)のようになる。
【0032】
【数5】
ここで上記特定の温熱環境における気温ta(Ta)、平均輻射温度tr(Tr)、風速v、気温taにおける飽和蒸気圧Pa(ta)、相対湿度rhを入力すると、ISO準拠WBGT計の自然湿球温度tw(Tw)が得られることになる。
【0033】
上記によって同一の特定の温熱環境下での、風速と平均輻射温度を反映した、電子式WBGT計の任意径の黒球温度tg?(Tg?)と1:1で対応する、ISO準拠WBGT計に対応した標準径の黒球温度tgSTD(TgSTD)および自然湿球温度tw(Tw)が得られたことになる。このようにして得られた値を基に前記式(10)、(11)を計算することによって、電子式WBGT計の出力に基づいて、風速、平均輻射温度が反映したWBGT指数を得ることができる。
【0034】
<データの作成と学習>
図2は本発明のブロック図を示すものである。
【0035】
上記に従って、複数の温熱環境のそれぞれについて、気温ta、相対湿度rhとともに電子式WBGT計の任意径の黒球温度tg?(Tg?)と1:1で対応する、ISO準拠WBGT計に対応した気温ta、標準径の黒球温度tgSTD(TgSTD)および自然湿球温度tw(Tw)を求めておくと、以下のようにニューラルネットワーク(相関関係決定手段14)の学習に利用することができる。
【0036】
まず、第1の演算手段11で、個々の温熱環境下での気温ta、風速v、黒球の放射率ε、任意の黒球径d、平均輻射温度Trを式(2)に入力することによって、径dの黒球温度tg?を得ておく。
【0037】
ついで、第2の演算手段12で、個々の温熱環境下での気温ta、風速v、放射率ε(=0.95)、標準の黒球径D(=0.15)、平均輻射温度Trを式(3)に入力することによって、標準径の黒球温度tgSTDを得ておく。
【0038】
ここで、式(2)、式(3)はtg?あるいはtgSTDの4次式となるので、ニュートン法を用いて数値的に求めることができる。
【0039】
さらに、第3の演算手段13で、個々の温熱環境下での気温ta(Ta)、平均輻射温度Tr、風速v、相対湿度rh、気温taにおける飽和蒸気圧Pa(ta)を式(4)に入力することによって、自然湿球温度Tw(tw)とそれに対応する飽和蒸気圧Pa(tw)、を求める。
【0040】
ここで式(4)、式(5)において、はさみうち法を用いて、2つの未知数Tw、Pa(tw)を数値的に同時に求めることができる。あるいは、式(5)を式(4)に代入して、ニュートン法を用いても自然湿球温度Tw(tw)を求めることができる。
【0041】
次いで、ニューラルネットワーク(相関関係決定手段14)は、上記のようにして得られたそれぞれの温熱環境下での任意径の黒球温度tg?と気温ta、相対湿度rhを入力とし、標準径の黒球温度tgSTDと自然湿球温度twを出力とする教師データを学習する。
【0042】
以上のように、上記入力と出力の相関関係を見出すまでの複数の手段(第1の演算手段11、第2の演算手段12、第3の演算手段13、相関関係決定手段14)(手順)の構成は、関連付け装置として以下の電子式WBGT計とは別個に捉えることができる。すなわち、関連付け装置では上記のようにして決定された相関関係を測定演算部材15に記憶させ、当該測定演算部材15が電子式WBGTに搭載されて以下のようにISO準拠のWBGT指数の算出に用いられる。
【0043】
<電子式WBGT計>
上記のように学習した学習済ニューラルネットワークを測定演算部材15として電子式WBGT計に搭載しておくと、当該測定演算部材15では、現実の温熱環境における気温ta0、任意径の黒球温度tg?0、相対湿度rh0を入力すると、気温taはもとより標準径の黒球温度tgSTD、自然湿球温度twを得ることになり、しかも、標準径の黒球温度tgSTD、自然湿球温度twには、風速、平均輻射温度が反映されていることになる。
【0044】
尚、測定演算部材15はニューラルネットワークの機能をも備え、自身に入力される新たなデータに基づいて学習し、更に精度を高くすることはもちろんである。
【0045】
このようにして得られた気温ta、標準径の黒球温度tgSTD、自然湿球温度twをWBGT演算手段16に入力すると、風速計を備えない電子式WBGT計であっても、風速と平均輻射温度を反映したWBGT指数を得られることになる。
【0046】
<検証>
まず以下の要領で、温熱環境下の訓練データを生成する。
【0047】
【表1】
上記の各項目のデータ数を掛け合わせると、総データ数は64,449個となり、そのうちの50,000個を教師データとし、14,449個をテストデータとする。
【0048】
上記50,000個を教師データとして学習させた学習済のニューラルネットワーク(測定演算部材15)に対して上記14,449個のテストデータで推論を行った推定誤差の結果を以下の表2に示す。
【0049】
【表2】

上記から、WBGT指数は任意の風速下で99%の確率で±0.7℃の誤差範囲で推論できると言える
【0050】
ここで、上記14,449個のデータについて、任意径の黒球温度tg?から風速を仮定した黒球の熱平衡式を用いて標準径の黒球温度を算出し、気温taと相対湿度rhを用いてアンゴーの式を基にした自然湿球温度twを算出する従来の方法を用いた推論結果を示すと以下の表3のようになる。
【0051】
【表3】
本願の方法に比べて、誤差分布はΔWBGTの標準偏差値の比較で約4.5倍の広がりを持つことが理解できる。
【0052】
<実施例>
上記に基づいて、黒球径が50mmである電子式WBGT計の示す気温ta、黒球温度tg50、相対湿度rhを入力として、標準径の黒球温度tgSTD、自然湿球温度tw、WBGT指数を推論し、対応する正解値と比較すると、表4のごとくになり、本発明による電子式WBGT計で、十分に実用に耐えるWBGT指数が得られることが理解できる。
【0053】
【表4】
<カーブフィッティング>
上記のようにして複数の特定の温熱環境下での第1の演算手段11で算出された任意径の黒球温度tg?、第2の演算手段12で算出された標準径の黒球温度tgSTD、第3の演算手段13で算出された自然湿球温度twは、気温taや相対湿度rhとともに、カーブフィッティングの近似式を決めるデータとして用いることができる。
【0054】
すなわち、前記気温taと任意径の黒球温度tg?と、標準径の黒球温度tgSTDとの間には以下の式(6)の近似式を得る。そこで、相関関係決定手段14は上記のようにして得た気温ta、任意径の黒球温度tg、標準径の黒球温度tgSTDのデータ群から各項の係数を決定することができる。尚、ここではta、tg?の2次式としているが、求める精度に応じて次数を増やすことあるいは減らすことは自在である。また、各項の係数を算出する方法は従来から公知であるのでここでは説明を省略する。
【0055】
【数6】
ここで、任意径を50mm(tg50)とし、前記50,000個のデータを用いて各係数を決定すると以下のようになる。
【0056】
A=−0.00813305888、B=−0.567951826、C=−0.0137013277、D=1.59857015、E=0.0214477372、Q=−0.487003283。
【0057】
また、気温ta、任意径の黒球温度tg?、相対湿度rhより以下の式(7)で、自然湿球温度twを求めることができる。
【0058】
【数7】
そこで、相関関係決定手段14は上記のようにして得た気温ta、任意径の黒球温度tg?、相対湿度rh、自然湿球温度twのデータ群から、各項の係数を決定することができる。
【0059】
ここで、任意径を50mm(tg50)とすると、前記50,000個のデータを用いて各係数を決定すると以下のようになる。また、ここではta、tg、rhについて3次の係数まで求めるようにしているが、状況に応じて次数を増加することあるいは減らすことができる。
【0060】
A=−5.01528377×10-5、 B=0.0108706541、
C=−0.157896135、 D=0.000109347496、
E=−0.0104562755、 F=0.889654587、
G=1.60312065×10-6、 H=‐0.00068305723、
I=0.105621516、 J=2.35596747×10-6
K=−0.00210613502、 L=0.00658788765、
M=−0.00561414292、 Q=‐7.47427592
このようにして、各式の各項の係数が決定すると、当該各係数の決定した式(6)、式(7)を測定演算部材15に記憶させておくと、現実の温熱環境下での気温ta0、相対湿度rh0、任意径の黒球温度tg?0から、標準径の黒球温度tgSTD、自然湿球温度twと気温taが得られ、WBGT演算手段16で、ISO準拠のWBGT指数の出力が得られることになる。
【0061】
<検証>
上記の2つの式を用いて上記14,449個のテストデータで推論を行い、標準径の黒球温度tgSTD、自然湿球温度twの、前記正解データとの差を表5に示した。
【0062】
【表5】

<実施例>
このようにして得られた近似式で、実際の黒球径50mmの電子式WBGT計の示す気温ta、黒球温度tg50、相対湿度rhを入力して得られる標準径の黒球温度tgSTD、自然湿球温度twおよびWBGT指数と、ISO準拠WBGT計の示す黒球温度tgSTD、自然湿球温度tw、WBGT指数を示すと、表6に示すようになり、電子式WBGT計を用いても十分に実用に耐える値が得られることが理解できる。
【0063】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したように、本願発明は風速計と湿球を持たない電子式WBGT計において、風速と、平均輻射温度を反映した標準径の黒球温度、自然湿球温度を更にWBGT指数を求めることができ、コスト面、装置容量面からみて極めて有効である。
【0065】
尚、上記した第1〜第3の演算手段、相関関係決定手段、測定演算部材、WBGT演算手段は電子回路あるいはコンピュータと共動するプログラムによって実現することができる。また、電子式WBGT計は通常測定演算部材を装填した状態で流通するが、単独での取引の対象ともなり、それを購入した電子式WBGT計のユーザは当該測定演算部材を電子式WBGT計に装填することになる。
【符号の説明】
【0066】
1 温熱環境
2 電子式WBGT計
3 ISO準拠WBGT計
11 第1の演算手段
12 第2の演算手段
13 第3の演算手段
14 相関関係決定手段
15 測定演算部材
16 WBGT演算手段
ta : 気温[℃](ta0 : 現実の気温)
Ta : ta + 273 気温の絶対温度
v : 風速[m/s]
tg : 黒球(グローブ)温度[℃]
Tg : 黒球の絶対温度(tg + 273)
tgSTD : 直径150mmの黒球温度
tg? : 任意の直径の黒球温度(tg?0 :現実の任意の直径の黒球温度)
tr : 平均輻射温度[℃]
Tr : 平均輻射温度の絶対温度(tr + 273)
tw : 自然湿球温度
Tw : 自然湿球温度の絶対温度(tw + 273)
Pa(t) : 温度tでの飽和蒸気圧
rh : 相対湿度(rh0 : 現実の相対湿度)
d ; 黒球の直径(任意径)
D : 標準黒球の直径(標準径=0.15m)
ε : 放射率
図1
図2