(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の時定数は前記ドライブ信号の周期の250倍〜1500倍の範囲であり、前記第2の時定数は前記ドライブ信号の周期の100倍〜3000倍の範囲であり、かつ前記第2の時定数は、ドライブ信号周期を調整する際の周波数変化量に対応する検出値の確定時間が100倍〜500倍の範囲であることを特徴とする請求項3に記載の静電コーティング装置用高電圧電源装置。
前記一次巻線の平均電流を検出する平滑回路と、前記ドライブ信号の周波数である駆動周波数を単位周波数で増加、減少する操作手段と、前記駆動周波数の表示手段と、前記一次巻線の電流のピーク値を表示する表示手段と、前記平均電流値を表示する表示手段とを備え、前記操作手段による前記駆動周波数の増減に対して、前記電流ピーク値と前記平均電流値を更新することを特徴とする請求項1に記載の静電コーティング装置用高電圧電源装置。
【背景技術】
【0002】
従来の静電コーティング装置における高電圧電源装置は、高圧トランスとその二次側の電圧増倍回路(例えば倍電圧整流回路)とを含む高電圧モジュールと、高圧トランス一次側に流れる電流をスイッチングするドライブ回路とこれにドライブ信号を供給するコントローラとを含む高電圧制御装置とを備えている。コーティング材料は、液体のペイント材料などが用いられる。
【0003】
コントローラは、ドライブ回路にドライブ信号を供給し、ドライブ回路を介して高圧トランスの一次側に周期的ないし振動的な駆動電圧を発生させる。これにより高圧トランスの二次側に高電圧が発生し、これが電圧増倍回路へ加えられ、電圧増倍回路の出力高電圧が静電電位利用の塗装機器(荷電コーティング材料粒子を散布する噴射機)に供給されるようになっている。
【0004】
高圧トランス一次側の駆動電圧の振幅におよそ比例して、高圧トランスの二次電圧、また、高電圧モジュールの出力電圧が変化する。マイコンなどで構成されたコントローラは、効率及び安全性について所望の範囲内になるように、作動直流電源をDC−DCコンバータなどの可変出力電源で構成して、高圧トランス一次側の内部電圧(直流供給電圧)を制御する。代表的な内部電圧は、約5Vから21Vの範囲である。内部電圧をFETなどのスイッチング素子にてスイッチングして、高圧トランスの一次側に、周期的ないし振動的な駆動電圧を発生させる事が行われている。
【0005】
図5は一般的な静電コーティング装置であって、高電圧モジュールを内蔵した塗装機1の高圧トランス一次側に高電圧制御装置2内の電源からパルス電圧3を供給した場合の電源の電流波形4(高圧トランス一次側の電流波形)を示す。高電圧モジュールは、一般に最も出力の効率が高い中心周波数を持つ共振型高電圧電源である。この中心周波数は一定でなく、負荷条件、温度条件や経年変化により変動する。このため、パルス電圧3が適正周波数であれば、実効電流値小、ピーク電流小となるが、適正周波数を逸脱すると、実効電流値大、ピーク電流大となり、効率が低下する。
【0006】
このため、従来から負荷(塗布機器)に流れる負荷電流のフィードバック信号や、出力高電圧のフィードバック信号を使用して、ドライブ回路に印加するドライブ信号を調整することが行われている。例えば、対象となる負荷に対して高電圧モジュールが効率的に動作するよう、ドライブ信号の周波数、つまり高圧トランス一次側の駆動周波数を手動で調整したり、また、自動的に調整する技術がある。
【0007】
駆動周波数の調整方法の例を列挙すれば、以下の通りである。
・高電圧モジュールの高電圧出力、負荷電流を一定とした条件で、高圧トランス一次側の可変電圧を最少とする(下記特許文献1)。
・高圧トランス二次側の位相を検出する(下記特許文献1)。
・高電圧モジュールの高電圧出力、負荷電流を一定とした条件で、高圧トランス一次側の平均電流を最少とする(参考文献を提示しないが一般的)。
・高電圧モジュールの高電圧出力、負荷電流を一定とした条件で、高電圧出力、負荷電流、内部電圧、高圧トランス一次側の平均電流から効率を最大とする(参考文献を提示しないが一般的)。
【0008】
従来一般的な高電圧モジュールの高電圧出力、負荷電流を一定とした条件で、トランス一次側の平均電流を最少とする方法では、中心周波数付近で周波数変化に対する検出量の変化が少なく、高精度の回路が必要となったり、10ビット以上のA/Dコンバータを用いて、ソフトウェアの平均処理により読み取り精度を向上させる構成が必要だった。プログラムにより中心周波数を求める際も、変化させる周波数の単位を小さくすると、検出量の変化が小さいため、プログラムにより求めた駆動周波数と中心周波数との誤差が発生したり、高圧トランスや、高電圧モジュールを接続するケーブル長による波形歪の影響を受けることがあった。プログラムにより、最小値を探究するアルゴリズムを用いた場合は、外乱のノイズにより速やかに最適値に収束しないことがあるため、試行回数を多くして最適点決定の時間がかかることがあった。また、高電圧トランスの故障によって、磁束飽和などの異常状態により一次電流が異常値になったとしても、駆動周波数の調整時の周波数範囲が狭い場合には、やはり異常電流が検出量に与える変化が少ないため、故障の状態を見逃すことがあった。
【0009】
また、高圧トランス二次側電圧や電流の位相を検出する方法では、5kV〜20kVとなる二次側高電圧の信号を観測することは困難のため、高圧トランスに検出用の巻線を追加することが行われており、高圧トランスの構造が複雑化する。また、位相検出のためコンパレータや積分回路が必要になるほか、やはり波形歪の影響を受けやすい問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、静電電位利用の塗装機器が効率よく動作するドライブ信号の周波数を精度よく、容易に見いだすことが可能な静電コーティング装置用高電圧電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のある態様は静電コーティング装置用高電圧電源装置である。この静電コーティング装置用高電圧電源装置は、静電的に荷電されるコーティング材料粒子を散布する静電コーティング装置に用いられ、
一次巻線及び二次巻線を有する高圧トランスと、前記二次巻線の誘起電圧を整流する高電圧整流器とを有し、前記高電圧整流器の出力電圧を、静電電位利用の塗装機器に供給する高電圧発生部と、
前記一次巻線に流れる電流をスイッチングするドライブ回路と、
前記一次巻線の電流のピーク値を検出するピーク検出部と、
ドライブ信号を生成して前記ドライブ回路に供給するコントローラとを備え、
前記ピーク検出部のピーク値が最小となるように前記ドライブ信号の周波数を前記コントローラで可変制御することを特徴とする。
前記態様において、前記一次巻線の電流の平均値を検出する回路をさらに備えてもよい。
【0013】
前記態様において、前記ピーク検出部は、前記ピーク値を取得するための第1の時定数と、前記ピーク値を保持するための第2の時定数とを持ち、
前記第1の時定数は前記ピーク検出部に混入するノイズパルス幅の5000倍〜30000倍の範囲であり、
前記第2の時定数は前記ドライブ信号の周期以上であるとよい。
【0014】
前記態様において、前記第1の時定数は前記ドライブ信号の周期の250倍〜1500倍の範囲であり、前記第2の時定数は前記ドライブ信号の周期の100倍〜3000倍の範囲であり、かつ前記第2の時定数は、ドライブ信号周期を調整する際の周波数変化量に対応する検出値の確定時間が100倍〜500倍の範囲であるとよい。
【0015】
前記態様において、前記一次巻線の平均電流を検出する平滑回路と、前記ドライブ信号の周波数である駆動周波数を単位周波数で増加、減少する操作手段と、前記駆動周波数の表示手段と、前記一次巻線の電流のピーク値を表示する表示手段と、前記平均電流値を表示する表示手段とを備え、前記操作手段による前記駆動周波数の増減に対して、前記電流ピーク値と前記平均電流値を更新する構成であるとよい。
【0016】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、静電的に荷電されるコーティング材料粒子を散布する静電コーティング装置に用いられる高電圧電源装置において、高圧トランス一次側の電流ピーク値をピーク検出部で検出して高圧トランス一次側の駆動周波数(ドライブ信号の周波数)を可変制御することによって、従来の平均電流や効率を用いた制御方法より高い精度で駆動周波数を制御して、高電圧発生部の動作を最適化する事が可能となる。また、高圧トランスの駆動周波数を調整する際に、高圧トランスの故障による電流の波形異常をより高い感度で検出することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0020】
図1乃至
図4で本発明に係る静電コーティング装置用高電圧電源装置の実施の形態を説明する。
図1に示す静電コーティング装置用高電圧電源装置は、高電圧を発生して噴射機(ガン)10に供給する高電圧発生部としての高電圧モジュール20と、高電圧モジュール20の出力を制御するとともに効率を最適化するための高電圧制御部30と、両者を接続するケーブルとを有する。噴射機10は静電電位利用の塗装機器であって、荷電コーティング材料粒子を対象物に散布するものであり、高電圧モジュール20は通常、噴射機10のケーシング内に収納されているため、ケーブルで高電圧制御部30と電気的に接続される。
【0021】
高電圧モジュール20は一次巻線21a及び二次巻線21bを有する高圧トランス21と、二次巻線21bの誘起電圧を整流し増倍する電圧増倍回路22とを有し、電圧増倍回路22の高電圧出力が噴射機10に供給される。電圧増倍回路22は例えば倍電圧整流回路等である。
【0022】
高電圧制御部30は作動直流電源としての可変制御安定化電源40と、可変制御安定化電源40から高圧トランス21の一次巻線21aに流れる電流をスイッチングするドライブ回路50と、一次巻線21aの電流を検出する電流検出部60と、電流検出部60の電流値に比例した電圧値を平滑して一次巻線21aの平均電流値を検出する平滑回路65と、電流検出部60の電流値に比例した電圧値から一次巻線21aの電流のピーク値を検出するピーク検出部70と、マイクロコントローラ(略称:マイコン)80と、表示操作部85とを有する。可変制御安定化電源40は例えばスイッチング・レギュレータ等であり、マイコン80からの電圧設定信号81を受けて約5V〜21Vの範囲で出力電圧を可変できる。ドライブ回路50はマイコン80からのドライブ信号82を受けて高圧トランス21の一次巻線21aに流れる電流をスイッチングする。ドライブ信号82の周波数で一次巻線21aの電流がスイッチングされるから、ドライブ信号の周波数とスイッチング周波数(駆動周波数)は一致する。マイコン80のA/D変換入力端子にはピーク検出部70からの一次巻線21aの電流のピーク値に比例した電圧値が加えられ、また、別のA/D変換入力端子には平滑回路65からの一次巻線21aの平均電流値に比例した電圧値が加えられる。
【0023】
図2はドライブ回路50、電流検出部60及びピーク検出部70の構成を具体的に示す。ドライブ回路50はマイコン80からのドライブ信号82を受けるFET駆動回路51、FET駆動回路51の出力信号でスイッチングされるFET52、及びFET52のドレイン−ソース間に接続されるスナバ回路53を有する。電流検出部60は電流検出抵抗R1を有し、可変制御安定化電源40からの直流電圧供給を受ける高圧トランス21の一次巻線21aに対し、FET52及び電流検出抵抗R1の直列接続が直列に挿入されて、グラウンド(GND)に接続されている。これにより、電流検出抵抗R1の両端に一次巻線21aの電流値に比例した電圧値が得られる。
【0024】
ピーク検出部70は、電圧アンプA1,A2、ダイオードD1,抵抗R2,R3,R4,R5,R6、及びコンデンサC1,C2,C3を有する。電流検出抵抗R1と電圧アンプA1の入力側との間に挿入された抵抗R2,R3(それぞれ10Ω)とコンデンサC1(0.01μF)は、カットオフ周波数796kHzのローパスフィルタであり、高周波ノイズ除去用(FETパッケージの寄生インダクタなどに起因するノイズ除去用)及び静電ノイズ保護用である。このカットオフ周波数を低くすると、ピーク波形が鈍り、ピーク検出部70の特性に影響があるため、駆動周波数に対して、十分大きな値とする。このローパスフィルタのカットオフ周波数796kHzは例示であり、およそ1MHzの周波数を低減するためドライブ信号の周期の1/30〜1/100の範囲の時定数を持てばよい。
【0025】
整流機能を持つダイオードD1はショットキーダイオードなどの容量成分及び逆回復時間の小さいものを用いる。電流検出抵抗R1の両端の電圧から高周波ノイズが除去された電圧は電圧アンプA1で増幅され、ダイオードD1を介して抵抗R4(2kΩ),抵抗R5(1.5kΩ)及びコンデンサC2,C3(それぞれ0.1μF)からなるピーク値保持用時定数回路に加えられる。ピーク値保持用時定数回路の出力電圧は電圧アンプA2(例えば増幅度1のバッファ)を介してマイコン80のA/D変換入力端子に供給される。コンデンサC2,C3は電圧保持の目的で使用され、この充電の速度は、ダイオードD1による整流作用と抵抗R4,R5により決定される。ピーク検出部70出力の出力電圧は、入力波形が繰り返されるうち、ピーク電流に比例した検出値に収束する。例えば方形波の入力波形に対して、三角波の入力波形では、三角波の末端に近づくにつれて充電時間が短くなるため、検出レベルまたは飽和値に近づく時間が長くなる。
図2の回路構成では、ドライブ信号の周波数(つまり駆動周波数)が中心周波数23kHzに対して、調整される下限の周波数20kHzを想定して、ディューティ―比がおよそ25%の三角波に対して、20msec〜30msec、400〜600波形によりピークの検出値となるように、決定している(ピーク値を取得するための第1の時定数を定めている)。
【0026】
図1に示す静電コーティング装置用高電圧電源装置は、工場内に設置されており、高電圧モジュール20と高電圧制御部30を接続するケーブルからノイズが誘導され、パルス状のノイズがピーク検出部70に混入することがある。例えば、パルスの幅が1μsec、電流のノイズが30Aなどである。このパルス幅は、中心周波数23kHzを想定してドライブ周期の約1/43.5であり、また、ピーク検出部70は前述のように400〜600波形により検出値に到達するよう調整しているため、ピーク電流の最小値を0.5Aとすると、
30A÷0.5A÷43.5÷400=0.0034
となり、このノイズがピーク検出部70に与える影響は、最少のピーク値を基準にしても1%以下とすることができる。このとき、ピーク検出部70が検出値に到達する時間20msecは、ノイズのパルス幅1μsecの20000倍の関係にある。ピーク電流の最小値及びノイズのパルス幅の変動幅を考慮すると、ピーク値を取得するための第1の時定数は、ピーク検出部70に混入するノイズパルス幅の5000倍〜30000倍の範囲であることが好ましいと言える。また、ドライブ信号の周期の250倍〜1500倍の範囲がいっそう好ましい。
【0027】
一方、ピーク検出部70におけるピーク値の保持特性は、その出力電圧のリプルを考慮して決定する。コンデンサC2,C3の電荷は、抵抗R6により放電されるから、ピーク値を保持するための第2の時定数はコンデンサC2,C3及び抵抗R6から定まる。出力電圧のリプルを1%以内とするには、コンデンサC2とC3の和と抵抗R6による第2の時定数を、ドライブ信号の周期の100倍以上とする。なお、抵抗R6以外にも、ダイオードD1の漏れ電流及び、接続先であるマイコン80のA/Dコンバータの入力バイアス電流により放電される。この大きさは周囲温度を考慮して1〜5μA程度であり、コンデンサC2及びC3に0.1μF程度のコンデンサを用いた場合は、抵抗R6を接続せず、コンデンサ容量と上記デバイスの漏れ電流を考慮して決定しても良い。例えば、最低電流ピークに相当するコンデンサC1,C2の電圧を0.05Vとすると、漏れ電流による放電時間は
最小値:(0.1μF×2×0.05V)÷5μA=2msec、
最大値:(0.1μF×2×0.05V)÷1μA=10msec
となり、最低周波数20kHzに対して、100〜500波形の範囲となる。
上記は最低電流ピークについて説明したが、このピーク値は高電圧電源装置の負荷、つまり静電コーティング装置と被塗装体の形状や被塗装体までの距離などにより変化し、通常最も良い塗装品質が得られる負荷状態での電流ピークに相当するコンデンサC1,C2の電圧を0.3Vとすると、同様の計算により最低周波数20kHzに対して600〜3000波形の範囲となる。
また、最適な周波数をマイコン80のプログラムにより決定する際、例えば、0.1Hzの変化による最大のコンデンサC1、C2の電圧変化を0.1Vとすると、この周波数変化により、電圧が確定するまでに、0.1μF×2×0.1V)÷1μA=20msec以上の時間が必要となる。プログラムは、この時間以上の周期である0.05秒〜0.1秒以上などの時間経過の後に、ピーク検出部70の電圧を観測する。
【0028】
上記を考慮して、前記第2の時定数はドライブ信号の周期の100倍〜3000倍の範囲であることが好ましく、さらに、第2の時定数は、ドライブ信号周期を調整する際の周波数変化量に対応する検出値の確定時間がドライブ信号の周期の100倍〜500倍の範囲であることが望ましい。
【0029】
実際の回路では、構成部品による制約を受ける。ダイオードD1の容量成分と、保持特性を実現するコンデンサC2,C3の比率により、出力にリプルが発生するためである。整流機能を持つダイオードは、ショットキータイプなど容量成分及び逆回復時間が小さいものを用いる。一般にフィルタを抵抗、コンデンサで構成した場合、コンデンサ容量は上記のダイオードのコンデンサ容量も考慮して、10,000pF以上とし、10,000pF〜470,000pFの範囲が適している。
【0030】
さらに、高電圧制御部30は表示・操作部85を備え、駆動周波数を表示する駆動周波数表示部851、平均電流値を表示する平均電流値表示部852、ピーク電流値を表示するピーク電流値表示部853を有する。平均電流値表示部852の平均電流値は、電流検出部60の出力を平滑回路65にも接続し、マイコン80のA/D変換入力端子から取得した値である。また、ピーク電流値表示部853のピーク電流値はピーク検出部70の出力をマイコン80のA/D変換入力端子から取得した値である。駆動周波数は表示・操作部85の周波数調整用ボタン854により、現在値から例えば0.1Hz増加させ、また、周波数調整用ボタン855により0.1Hz減少させることができる。この表示・操作部85は、高電圧制御部30に取り付けられた7セグLEDやスイッチで構成したり、また、高電圧制御部30に接続したPCのソフトウェアで等価な機能を実現しても良い。
【0031】
以上の実施の形態の動作説明を行う。高電圧制御部30の可変制御安定化電源40は、マイコン80からの電圧設定信号81の電圧設定指示に従い、内部電圧を発生する。内部電圧出力は、5m〜30mのケーブルを介して、高電圧モジュール20内の高電圧トランス21の一次巻線21aの一端に供給される。高電圧トランス21の一次巻線21aの他端は、ケーブルを介して高電圧制御部30に戻り、ドライブ回路50により駆動周波数でスイッチングされる。このスイッチング周波数は、マイコン80からのドライブ信号82により、
図2のFET52により行われる。
【0032】
駆動周波数の範囲は、高電圧モジュール20の内部回路構成により異なるが、例えば中心周波数23kHz、調整範囲が21kHz〜25kHz、運転に適した周波数範囲が22.5kHz〜23.5kHzである。高電圧制御部30は、多様な高電圧モジュール20に対応できるよう、10kHz〜50kHzの範囲で調整可能な仕様としても良い。
【0033】
本実施の形態では、高電圧モジュール20の効率を良好に保つために、高電圧トランス21の一次側の電流を検出して電圧に変換する電流検出部60と、電流検出部60からの電圧出力信号を入力して信号のピーク電圧を検出するピーク検出部70を用いている。
図3のように、実施の形態の場合(電流ピーク値を用いた場合)の駆動周波数−検出値カーブ71を従来の、電流平均値又は効率値による駆動周波数−検出値カーブ72と対比したとき、71のカーブは中心周波数f
0(高電圧モジュール20内の電源の共振周波数)に対してより狭い、感度のよい特性となる。このため、電流ピーク値に比例した検出値が最小とする制御を行うことで、比較的高い精度で中心周波数f
0に駆動周波数を合わせることができる。また、駆動周波数の最適値を求める際の周波数変更範囲も狭くて良い(自動調整の場合、調整時間を短くできる)。
【0034】
さらに、
図4を用いて電流ピーク値で駆動周波数を制御する場合の有効性について述べる。
図4は、中心周波数f
0での高圧トランス21の一次側電流、及び駆動周波数が中心周波数f
0からずれたときの一次側電流の一例を示している。
図4(a)は駆動周波数が中心周波数f
0の100%(周波数一致)のとき、同図(b)は101%(周波数が高い)のとき、同図(c)は99%(周波数が低い)のとき、同図(d)は109%のとき、同図(e)は91%のときである。なお、静電コーティング装置用高電圧電源装置の高電圧トランスでは、一次側と二次側の巻き数比が大幅に異なるため、特に二次側巻線の線間容量により、このような共振型の波形になることが一般的に知られている。
【0035】
例えば、
図4(a)では、ピーク電流3A、平均電流1.2Aである。
図4(b),(c)においては、ピーク電流は3.24Aと8%の増加に対して、共振型の電流波形であることから、平均電流はg部分が凸でh部分が凹となることから、殆ど変化が無いことは明確である。実測からの例として99%の周波数において、ピーク検出部70の出力電圧は約+8%、平均値は約+2%、効率値は+3〜4%の変化率であり、共振型の高電圧モジュール20を含む電源装置では、ピーク値の検出が有効である。
【0036】
また、
図4(d),(e)は、中心周波数から大幅に駆動周波数が乖離した場合である。
図4(e)の特に駆動周波数が大幅に低い場合は、ピーク電流が9Aとなり、デューティー比25%〜30%の三角波に近い形状となる。この形状のため、平均値は期待より大きくならず、1.5Aとなる。
図4(e)での実効値は2.7Armsであり、
図4(a)の中心周波数f
0での電流波形に比較して、整合されていない電力が高電圧制御部30や高電圧モジュール21で熱となっており、長時間の運転により回路部品が劣化する可能性がある。本実施の形態の電流ピーク値を検出する構成では、
図4(a)の中心周波数での電流値に対して、9A/3A =3倍となるのに対し、従来の電流平均値では
図4(a)の中心周波数での電流値に対して、1.5A/1.2A =1.25倍であり、ピーク値検出の場合には、ほぼ電流の実効値に相当したオーダーの増加となるために、トランス一次側電流波形のような、正弦波と異なる形状の波形においても、顕著に駆動周波数の不一致を判別することが可能である。
【0037】
本発明の実施の形態によれば、駆動周波数の調整時に高圧トランス21の一次電流が異常となった場合についても、検出が容易となる。
図6は、高圧トランス21に異常が発生した場合の駆動波形である。例えば、高圧トランス21が過熱した場合など、一次側電流により高圧トランス21の磁気飽和が発生して、電流が増加する場合がある。磁気飽和現象では、電流値が一定値以上となったときに、トランスのインダクタンスが減少して大電流が流れる。この高圧トランス21の異常による電流変化は、周期毎に発生するため、電流ピークの増加として検出可能である。
【0038】
図7は、高圧トランス一次側の駆動周波数が中心周波数であるとき、及び中心周波数から逸脱した場合の高圧トランス一次側の電流波形図であり、
図3が正常動作であるのに対して、異常な電流が発生した場合を示す。ある一定の周波数から、駆動波形の一部で電流が異常に増加するため、正常時の増減曲線71,72に対して、不連続な部分が発生する。パルス電流を検出しているため、平均電流による不連続部分73に対して、パルス電流による不連続部分74は検出値変化の傾きが顕著となる。
【0039】
表示・操作部85のボタン854により、駆動周波数の現在値から例えば0.1Hz増加させ、また、ボタン855により0.1Hz減少させることでき、駆動周波数の調整が可能である。中心周波数f
0付近からピーク電流値表示部853のピーク電流値を最少とするよう、ボタン854とボタン855を押して最適な周波数を決定する。このとき、もし異常電流が発生すると、ボタン操作により、ピーク電流値に大きな変化が現れるため、操作者が異常に気付くことができる。
【0040】
例えば、ある周波数点から、ボタン855を押して駆動周波数を0.1Hz減少させたとき、ピーク電流値が3Aから3.1A、平均電流値が1.2Aから1.21Aに変化する。続いてボタン855を押して駆動周波数を0.1Hz減少させたとき、ピーク電流値、平均電流値は、それぞれ3.24A、1.22Aのように増加する。引き続きボタン855を押したとき、波形の一部で磁束飽和現象が発生して、異常電流が発生したとすると、前述のピーク電流検出感度の割合から、ピーク電流値が3.24Aから4.0A(前周波数の値の23%増加)に対して、平均電流値は1.22Aから1.3A(中心周波数の6%増加)程度となる。このように、手動の操作に対して、不連続な変化があったことが体感上容易に確認できる。表示部852,853の平均電流値やピーク電流値を数値でなく、バーグラフなどのインジケータの形状で表示を行うことで、より判別が容易となる。平均電流値は負荷状態の目安として表示する。これは、駆動周波数が中心周波数f
0付近では、高電圧モジュール20の出力電流にほぼ比例して平均電流が増加するためである。ピーク電流値の増加に対して、負荷状態による電流変化が関係していないか判別することができる。
【0041】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0042】
(1) 静電的に荷電されるコーティング材料粒子を散布する静電コーティング装置に用いられる共振型の特性を持つ高電圧電源装置において、高圧トランス21の一次巻線21aの電流ピーク値に比例したピーク検出部70の出力電圧が最小となるように高圧トランス一次側の駆動周波数を可変制御することによって、従来の平均電流や効率を用いた制御方法より高い精度で駆動周波数を制御して最適化する事が可能となる。
【0043】
(2) 中心周波数からの周波数偏差に対する検出感度が優れているため、高精度の検出回路を必要とせず、また、ソフトウェアにより駆動周波数を自動調整する場合でも、比較的中心周波数からの偏差が少ない初期状態からも、短期間で最適値に到達することができる。この結果、高電圧モジュール20の効率を最適化するだけでなく、高圧トランス21の電流の実効値を下げることで高電圧モジュール20の寿命を長くすることができる。
【0044】
(3) 静電コーティング装置の接続ケーブル部から混入するノイズに対して影響が少なく、電流ピークが最小値となるよう、誤検出せずに駆動周波数の調整を行うことができる。
【0045】
(4) 高電圧制御部の操作中に、平均電流では分かりにくい、高圧トランス21などの素子破損や劣化などの異常を適切に表示できる。
【0046】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0047】
上記実施の形態では、高圧トランス一次側をスイッチングするドライブ回路が1個の回路構成を例示しているが、高電圧トランスの一次巻線にセンタータップを設けて、互いに90°位相の異なる2相方式として、ドライブ回路2個とした場合も、本発明を適用できる。
【0048】
図2のドライブ回路、電流検出部及びピーク検出部の回路構成は一例であり、適宜変更することが可能であり、ドライブ回路中のスイッチング素子はFETに限定されないことは明らかである。