(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に関し詳細に説明する。
〔工程(a)〕
本発明の製造方法の工程(a)では、炭化水素系溶媒および有機塩基の存在下、一般式
(1)で表わされる化合物と一般式(2)で表される化合物を反応させた後、有機塩基のハロゲン化塩を分離し、一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液を製造する。
(式中、Rは水素原子、あるいは直鎖、分岐または環状のアルキル基を表し、Zはハロゲン原子を表す)
〔式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立に、水素原子、あるいは直鎖、分岐または環状のアルキル基を表す(但し、R
1およびR
2は同時に水素原子を表すことはない)〕
〔式中、R、R
1およびR
2は前記と同じ意味を表す。〕
【0011】
一般式(1)で表される化合物におけるRは、水素原子、あるいは直鎖、分岐または環状のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子、あるいは炭素数1〜20の直鎖、分岐または環状のアルキル基を表す。
【0012】
一般式(1)で表される化合物における置換基Rの具体例としては、水素原子、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、4−メチル−2−ペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、n−オクチル基、tert−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、2−プロピルペンチル基、n−ノニル基、2,2−ジメチルヘプチル基、2,6−ジメチル−4−ヘプチル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、1−メチルデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、1−ヘキシルヘプチル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−エイコシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などの直鎖、分岐または環状のアルキル基を挙げることができる。
【0013】
一般式(1)で表される化合物におけるZはハロゲン原子を表し、好ましくは、塩素原子または臭素原子を表し、より好ましくは塩素原子を表す。
一般式(2)で表される化合物において、R
1およびR
2はそれぞれ独立に、水素原子、あるいは直鎖、分岐または環状のアルキル基を表す。但し、R
1およびR
2は同時に水素原子を表すことはない。
R
1およびR
2において、直鎖、分岐または環状のアルキル基としては、好ましくは、炭素数1〜20の直鎖、分岐または環状のアルキル基、より好ましくは、炭素数1〜14の直鎖、分岐または環状のアルキル基である。
R
1およびR
2の直鎖、分岐または環状のアルキル基の具体例としては、一般式(1)において置換基Rについて例示した直鎖、分岐または環状のアルキル基を挙げることができる。
【0014】
一般式(2)で表される化合物は、一級アミン化合物、または二級アミン化合物であり、より好ましくは、二級アミン化合物である。
一般式(2)で表される化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、1−プロピルアミン、2−プロピルアミン、n−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、iso−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、sec−ペンチルアミン、neo−ペンチルアミン、3−ペンチルアミン、2−メチル−1−ブチルアミン、シクロペンチルアミン、1−ヘキシルアミン、2−ヘキシルアミン、3−ヘキシルアミン、4−メチル−1−ペンチルアミン、4−メチル−2−ペンチルアミン、2−メチル−3−ペンチルアミン、2−エチル−1−ブチルアミン、2−エチル−2−ブチルアミン、3−エチル−2−ブチルアミン、3−エチル−2−ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、2−メチル−1−ヘキシルアミン、3−メチル−1−ヘキシルアミン、4−メチル−1−ヘキシルアミン、5−メチル−1−ヘキシルアミン、2−エチル−1−ペンチルアミン、3−エチル−1−ペンチルアミン、4−エチル−1−ペンチルアミン、シクロヘプチルアミン、シクロヘキシルメチルアミン、n−オクチルアミン、2−メチル−1−ヘプチルアミン、3−メチル−1−ヘプチルアミン、4−メチル−1−ヘプチルアミン、5−メチル−1−ヘプチルアミン、6−メチル−1−ヘプチルアミン、2−エチル−1−ヘキシルアミン、3−エチル−1−ヘキシルアミン、4−エチル−1−ヘキシルアミン、シクロオクチルアミン、n−ノニルアミン、n−デシルアミン、n−ウンデシルアミン、n−ドデシルアミン、n−トリデシルアミン、n−テトラデシルアミン、n−ヘキサデシルアミンなどの一級アミン化合物、
【0015】
例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジ−n−ペンチルアミン、ジイソペンチルアミン、ジ−n−ヘキシルアミン、ジ−n−ヘプチルアミン、ジ−n−オクチルアミン、ジ(2−エチルヘキシル)アミン、ジ−n−ノニルアミン、ジ−n−デシルアミン、ジ−n−ウンデシルアミン、ジ−n−ドデシルアミン、ジ−n−トリデシルアミン、ジ−n−テトラデシルアミン、
N−メチル−N−エチルアミン、N−メチル−N−n−プロピルアミン、N−メチル−N−n−ブチルアミン、N−メチル−N−イソブチルアミン、N−エチル−N−n−ブチルアミン、N−エチル−N−イソブチルアミン、N−エチル−N−n−ペンチルアミン、N−エチル−N−イソペンチルアミン、N−エチル−N−n−ヘキシルアミン、N−メチル−N−n−オクチルアミン、N−n−プロピル−N−n−ペンチルアミン、N−メチル−N−シクロヘキシルアミン、N−エチル−N−シクロヘキシルアミン、N−n−ブチル−N−シクロヘキシルアミン、N,N−ジシクロヘキシルアミンなどの二級アミン化合物を挙げることができる。
【0016】
一般式(3)で表される化合物としては、例えば、以下に例示する化合物を挙げることができる。
【0020】
本発明の製造方法において、工程(a)で用いる炭化水素系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、p−ジエチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、テトラリン、α−メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素系溶媒を挙げることができる。これらの炭化水素系溶媒は1種を単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。炭化水素系溶媒としては、より好ましくは芳香族炭化水素系溶媒であり、さらに好ましくはトルエンである。
炭化水素系溶媒の使用量に関しては、特に制限するものではなく、過多量使用すること自体、製造効率などの低下を招くだけであり、一般に、一般式(1)で表される化合物の質量に対して、0.1〜200倍質量、より好ましくは、0.2〜100倍質量である。
【0021】
工程(a)で用いる有機塩基として、好ましくは、例えば、ピリジン、ピコリン、ルチジン、キノリン、イソキノリンなどの含窒素複素環式芳香族化合物、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどの脂肪族三級アミン化合物であり、より好ましくは、含窒素複素環式芳香族化合物であり、特に好ましくは、ピリジンである。
有機塩基の使用量は、一般に、一般式(1)で表される化合物の−COZ基に対して、好ましくは、0.7〜2当量程度、より好ましくは、1.0〜1.5当量程度である。
【0022】
一般式(1)で表される化合物と、一般式(2)で表される化合物の反応方法に関しては、特に限定するものではないが、例えば、炭化水素系溶媒および有機塩基の存在下、
(ア)一般式(1)で表される化合物に、一般式(2)で表される化合物を連続的、または断続的に供給しつつ反応させる方法、
(イ)一般式(2)で表される化合物に、一般式(1)で表される化合物を連続的、または断続的に供給しつつ反応させる方法、
(ウ)一般式(1)で表される化合物、および一般式(2)で表される化合物を反応装置に、同時に、連続的、または断続的に供給しつつ反応させる方法、などを適用することができる。
勿論、プロセス工学的に可能な他の方法も適用できることは言うまでもない。一般式(1)で表される化合物、および一般式(2)で表される化合物を供給する場合、ニートで供給してもよく、炭化水素系溶媒の溶液として供給してもよい。
【0023】
一般式(2)で表される化合物の使用量に関しては、特に限定するものではないが、一般に、一般式(1)で表される化合物に対して、0.7〜2当量程度、好ましくは、1.0〜1.5当量程度である。
一般式(1)で表される化合物と、一般式(2)で表される化合物の反応は、通常、10〜150℃程度、好ましくは、30〜120℃程度の温度で実施される。
また、一般式(1)で表される化合物と、一般式(2)で表される化合物の反応は、一般に、大気圧下で実施することができるが、所望により、大気圧〜1MPa程度の圧力下で実施することができる。
反応時間は反応温度、反応圧力などの諸条件に依存するが、一般に1〜30時間程度、好ましくは、2〜15時間程度で実施される。
【0024】
炭化水素系溶媒および有機塩基の存在下、一般式(1)で表される化合物と、一般式(2)で表される化合物の反応により製造される反応混合物には、目的とする一般式(3)で表される化合物と共に、副生する有機塩基のハロゲン化塩が含まれている。尚、有機塩基のハロゲン化塩とは、使用した有機塩基と、一般式(1)で表される化合物のカルボニルハライド由来の塩のことである。例えば、有機塩基としてピリジンを使用し、一般式(1)で表される化合物のカルボニルハライドとして塩化カルボニル化合物を使用すると、副生する有機塩基のハロゲン化塩は、ピリジンの塩化水素塩(ピリジン塩酸塩)である。
【0025】
本発明の製造方法においては、工程(a)において副生する有機塩基のハロゲン化塩は、工程(b)、工程(c)、工程(d)を経て、分離除去されるが、有機塩基のハロゲン化塩の分離除去効果を高める目的で、副生する有機塩基のハロゲン化塩を、予め、分離除去した後に、一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液を工程(b)に供することは好ましいことである。
有機塩基のハロゲン化塩を分離除去する方法としては、公知の方法(例えば、濾過操作)により実施することができる。また、濾過操作の際には、濾過助剤(例えば、セライト)を併用することができる。有機塩基のハロゲン化塩を分離除去することにより、次の工程(b)の操作性が向上する効果が得られる。
【0026】
尚、工程(a)で用いる一般式(1)で表される化合物は、一般式(4)で表される化合物とハロゲン化剤を作用させて製造される化合物であり、より好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド存在下、一般式(4)で表される化合物とハロゲン化剤を作用させて製造される化合物である。
〔式中、Rは一般式(1)と同じ意味を表す〕
【0027】
N,N−ジメチルホルムアミド存在下、一般式(4)で表される化合物とハロゲン化剤を作用させ、一般式(1)で表される化合物を製造する際には、さらに炭化水素系溶媒の存在下で実施することが好ましい。係る炭化水素系溶媒としては、好ましくは、工程(a)で例示した炭化水素系溶媒を挙げることができる。また、用いる炭化水素系溶媒の量としては、好ましくは、工程(a)で記載した使用量を挙げることができる。N,N−ジメチルホルムアミドの使用量は、一般に、触媒量でよく、一般式(4)で表される化合物に対して、0.001〜15モル%、好ましくは、0.01〜10モル%である。
また、ハロゲン化剤としては、一般式(4)で表される化合物のカルボキシル基を、カルボニルハライド基に変換することができる化合物であればよく、例えば、塩化チオニル、ホスゲン、オギザリルクロライド、五塩化リン、三塩化リン、オキシ塩化リン、三臭化リンなどを挙げることができる。ハロゲン化剤としては、より好ましくは、塩化チオニル、ホスゲンである。
ハロゲン化剤の使用量は、一般に、一般式(4)で表される化合物中のカルボキシル基に対して、好ましくは、0.7〜2当量程度、より好ましくは、1.0〜1.5当量程度である。
一般式(4)で表される化合物とハロゲン化剤を作用させ、一般式(1)で表される化合物を製造する際の温度としては、一般に、10〜150℃程度、好ましくは、30〜120℃程度である。
反応後、一般式(1)で表される化合物を含む反応混合物〔例えば、一般式(1)で表される化合物を含む炭化水素系溶媒溶液〕から、所望により、過剰のハロゲン化剤を公知の方法(例えば、蒸留操作)により除去することができる。このようにして製造される一般式(1)で表される化合物を含む炭化水素系溶媒溶液を、工程(a)に使用することは好ましい。
【0028】
〔工程(b)〕
工程(b)では、工程(a)で製造される一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液と酸を接触させる。係る酸としては、例えば、塩化水素、臭化水素、硫酸、リン酸などのプロトン酸を挙げることができる。これらの酸は、1種を単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。酸は、ニート(液体、気体状態)で使用することができるが、より好ましくは、水溶液の状態で使用する。
酸を水溶液の状態で使用する場合、酸の濃度に関しては、特に限定するものではないが、一般に、0.1〜30質量%程度、好ましくは、0.5〜10質量%程度に調製する。
酸の使用量に関しては、特に制限されるものではないが、一般式(3)で表わされる化合物に対して、一般に、0.1〜5倍モル程度、好ましくは、0.2〜3倍モル程度である。
【0029】
工程(b)を水の存在下で実施することは好ましい。
使用する水に関しては、特に限定するものではないが、例えば、水道水、蒸留水またはイオン交換水などが使用できる。また、所望により、脱酸素された水、または窒素ガスなどの不活性ガスで飽和された水を使用することもできる。
水の使用量に関しては特に制限するものではないが、炭化水素系溶媒に対し、一般に、0.1〜10倍質量、好ましくは、0.2〜5倍質量である。尚、水の使用量は、酸を水溶液の状態で使用する場合には、この酸の水溶液の調製に用いる水量をも包含するものである。
【0030】
一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液と酸の接触方法は、特に限定するものではないが、例えば、好ましくは、
(ア)一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液と、酸および水とを一括装入し、混合する方法、
(イ)一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液と、酸および水からなる酸性水溶液とを並流で、混合する方法、
(ウ)一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液と、酸および水からなる酸性水溶液とを向流で、混合する方法、などを適用することができる。
さらには、これらの方法を組み合わせた方法を適用することができる。勿論、プロセス工学的に可能な他の変形方法も適用できることは言うまでもない。
尚、好ましくは、水の存在下、一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液と酸の接触は、所望の効果を得るために、例えば、回分式で実施する場合、その接触操作を複数回実施することもできる。
【0031】
水の存在下、一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液と酸を接触させた後、一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液と水相は分離される。尚、分離方法に関しては、特に限定するものではなく、公知の方法(例えば、分液操作)により実施することができる。炭化水素系溶媒溶液と酸を接触させた後、水相と分離された炭化水素系溶媒溶液は、さらに、水と接触処理することができる。
工程(b)は、通常、0〜100℃程度、好ましくは、20〜90℃程度の温度で実施される。
工程(b)を水の存在下で実施した場合は、一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液との分離後、その水相は工程(b)に再利用することができる。
【0032】
〔工程(c)〕
工程(c)では、水溶性塩基および水溶性分散剤の存在下、工程(b)で製造された一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液と水を接触させて、炭化水素系溶媒を留去する。
係る水溶性塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属塩基、例えば、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩基などの無機塩基、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなどの有機塩基などを挙げることができる。尚、これら水溶性塩基は1種を単独で使用してもよく、または複数併用してもよい。より好ましい水溶性塩基は、無機塩基であり、さらに好ましくは、アルカリ金属塩基である。
水溶性塩基は、ニート(固体、液体または気体状態)で使用してもよく、または水溶液の状態で使用してもよい。水溶液の状態で使用する場合、水溶性塩基の濃度に関しては、特に限定するものではなく、一般に、0.01〜10質量%程度の水溶液として使用することが好ましい。
水溶性塩基の使用量は、特に限定するものではないが、一般式(3)で表される化合物に対して、一般に、0.1〜5倍モル、より好ましくは、0.2〜3倍モルである。
【0033】
水溶性分散剤としては、その種類については特に限定するものではないが、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が挙げられる。
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテートなどのアルキルアミン化合物、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライドなどの第四級アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどが挙げられる。
【0034】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム石鹸などの脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどの高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、さらに、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ナフタレンスルホン酸フォルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセロール脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0035】
両イオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルベタイン、ステアリルベタインなどのアルキルベタインなどが挙げられる。
【0036】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリエチレングリコール、ソルビタンモノラウレートなどのソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリルモノステアレートなどのグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0037】
これらの水溶性分散剤は1種を単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。
水溶性分散剤としては、好ましくは、陰イオン性界面活性剤、または非イオン性界面活性剤であり、より好ましくは、非イオン性界面活性剤であり、さらに好ましくは、ポリビニルアルコールである。ポリビニルアルコールには、各種の分子量、各種の鹸化度のものがあるが、ポリビニルアルコールとしては、その種類は特に限定するものではない。
水溶性分散剤の使用量は、一般式(3)で表される化合物に対して、0.01〜15質量%、好ましくは、0.05〜10質量%である。
【0038】
水の使用量は、一般に、炭化水素系溶媒に対し、一般に、0.1〜10倍質量、好ましくは0.2〜5倍質量である。尚、水の使用量は、水溶性塩基を水溶液の状態で使用する場合には、この水溶性塩基の水溶液の調製に用いる水量をも包含するものである。
【0039】
工程(c)において、一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液と水の接触方法は、特に限定するものではないが、例えば、好ましくは、
(ア) 一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液を、水溶性塩基および水溶性分散剤を含む水相に、連続的に、または断続的に供給しながら、炭化水素系溶媒を留去する方法、
(イ)一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液と、水溶性塩基および水溶性分散剤を含む水相を並流で混合しながら、炭化水素系溶媒を留去する方法、
(ウ)一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液と、水溶性塩基および水溶性分散剤を含む水相を向流で混合しながら、炭化水素系溶媒を留去する方法、などを適用することができる。さらには、これらの方法を組み合わせた方法を適用することができる。勿論、プロセス工学的に可能な他の変形方法も適用できることは言うまでもない。
【0040】
また、炭化水素系溶媒を留去する際に、炭化水素系溶媒と共に、水が留去される場合には、その水を逐次、水溶性塩基および水溶性分散剤を含む反応装置に戻すこともできる。
工程(c)は、通常、10〜150℃程度、好ましくは、30〜120℃程度の反応温度で実施される。また、工程(c)は、通常、大気圧下で実施することができるが、所望により減圧下で実施することができる。工程(c)の反応時間は、反応温度、反応圧力などの諸条件に依存するが、一般に、1〜40時間程度、好ましくは、2〜20時間程度で実施される。
【0041】
〔工程(d)〕
前記の工程(c)において、一般式(3)で表される化合物の炭化水素系溶媒溶液から、炭化水素系溶媒は留去され、一般式(3)で表される化合物は、水溶性塩基および水溶性分散剤を含む水相に分散された状態にある。分離された一般式(3)で表される化合物は、好ましくは、さらに水洗浄される。さらに一般式(3)で表される化合物は、所望により、有機溶媒(例えば、メタノール)で洗浄することもできる。
本発明の製造方法において、各工程は大気雰囲気下で実施することが可能であるが、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム)存在下で実施することが好ましい。
【0042】
尚、各工程を実施するに際して、使用する反応装置の種類、形態に関しては特に限定するものではないが、一般には、槽型、管型、塔型の反応装置を用いることができる。
また、各工程は、回分式(バッチ式)で実施することができ、さらには、連続式で実施することもできる。
各工程で使用する反応装置は、様々な撹拌装置を備えることができる。係る撹拌装置としては、例えば、パドル型撹拌機、プロペラ型撹拌機、タービン型撹拌機、ホモジナイザー、ホモミキサー、ラインミキサー、ラインホモミキサーなどの高速撹拌機、さらには、スタティックミキサー、コロイドミル、オリフィスミキサー、フロージェットミキサーなどを挙げることができる。
各工程の反応経過は、例えば、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなどの分析手段によりモニターできるので、所望の反応率の段階で、次の操作を実施することができる。
また、各工程の生成物の構造は、元素分析、MS分析、IR分析、
1H−NMR、
13C−NMRなどの各種分析方法により同定することができる。
【0043】
本発明の方法により製造される一般式(3)で表わされるキノフタロン化合物は、所望により、例えば、各種クロマトグラフィー法、再結晶などの公知の方法により、さらに精製することができる。
このように製造される一般式(3)で表される化合物は、種々の機能材料用途(例えば、液晶材料用色素、インクジェット記録用色素、昇華転写記録用色素、フィルタ用色素)へ利用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)例示化合物番号4の製造例
工程(a)
式(1−4)の化合物(129g)を含むトルエン(1500g)溶液に、ピリジン(36g)およびN−エチル−N−n−ヘキシルアミン(54g)を滴下して、75℃で5時間撹拌した。
その後、トルエン溶液から副生析出したピリジン塩化水素塩を75℃で濾別して、例示化合物番号4のトルエン溶液を得た。
【0045】
工程(b)
例示化合物番号4のトルエン溶液を、2質量%の塩酸水溶液(800g)に加え、75℃で30分間撹拌した。その後、静置して水層を分離除去した。分離したトルエン溶液に、さらに水(800g)を加え、75℃で30分間撹拌した後、静置して水層を分離除去し、トルエン溶液を得た。
【0046】
工程(c)
水酸化カリウム(20g)と水(2300g)を混合し、60℃に昇温して、ポリビニルアルコール4.8g(PVA−217、(株)クラレ製)を加え、95℃まで昇温した。この水溶性塩基および水溶性分散剤を含む水溶液に、該水溶液の温度を95℃に維持しながら、工程(b)で調製したトルエン溶液を10時間で滴下しながら、トルエンと水を共沸留去させた。尚、系外にトルエンと共に留去してきた水は、逐次分液し反応系内に戻した。トルエンを完全に留去し、例示化合物番号4が固体として析出している水分散液を得た。
【0047】
工程(d)
工程(c)で製造した水分散液から析出している固体を濾過、分離した。さらに固体を水洗浄し、乾燥後、例示化合物番号4化合物を薄橙色固体として155g得た。収率は95.0%であり、高速液体クロマトグラフィーによる純度(面積比)は99.8%であった。
尚、工程(a)で使用した式(1−4)の化合物のトルエン溶液は、次のように調製した。
すなわち、式(4−4)で表される化合物(97g)のトルエン(1500g)溶液に、
N,N−ジメチルホルムアミド(1.5g)および塩化チオニル(50g)を加え、70℃で8時間撹拌した。その後、窒素ガスを反応系内に吹き込みながら、過剰の塩化チオニルを留去し、式(1−4)の化合物のトルエン溶液を調製した。
【0048】
(比較例1)例示化合物番号4の比較製造例
実施例1の工程(c)において、水酸化カリウムを使用しなかった以外は、実施例1に記載の各工程の操作に従い、例示化合物番号4化合物を155g得た。尚、製造した例示化合物番号4の化合物は、褐色を帯びた橙色固体であった。収率は95.0%であり、高速液体クロマトグラフィーによる純度(面積比)は96.2%であった。尚、工程(a)で使用した式(1−4)の化合物のトルエン溶液は、実施例1に記載した方法により調製したものである。
【0049】
(実施例2)例示化合物番号11の製造例
工程(a)
式(1−11)の化合物(145g)を含むトルエン(1200g)溶液に、ピリジン(34g)およびジ−n−ブチルアミン(52g)を滴下して、75℃で4時間撹拌した。
その後、トルエン溶液から副生析出したピリジン塩化水素塩を75℃で濾別して、例示化合物番号11のトルエン溶液を得た。
【0050】
工程(b)
例示化合物番号11のトルエン溶液を、2質量%の塩酸水溶液(1050g)に加え、75℃で、30分間撹拌した。その後、静置して水層を分離除去した。分離したトルエン溶液に、さらに水(1040g)を加え、75℃で30分間撹拌した後、静置して水層を分離除去し、トルエン溶液を得た。
【0051】
工程(c)
水酸化ナトリウム(20g)と水(2360g)を混合し、60℃に昇温して、ポリビニルアルコール6.1g(PVA−217、(株)クラレ製)を加え、95℃まで昇温した。この水溶性塩基および水溶性分散剤を含む水溶液に、該水溶液の温度を95℃に維持しながら、工程(b)で調製したトルエン溶液を8時間で滴下しながら、トルエンと水を共沸留去させた。尚、系外にトルエンと共に留去してきた水は、逐次分液し反応系内に戻した。トルエンを完全に留去し、例示化合物番号11が固体として析出している水分散液を得た。
【0052】
工程(d)
工程(c)で製造した水分散液から析出している固体を濾過、分離した。さらに固体を水洗浄し、乾燥後、例示化合物番号11化合物を薄橙色固体として170g得た。収率は94.9%であり、高速液体クロマトグラフィーによる純度(面積比)は99.8%であった。
尚、工程(a)で使用した式(1−11)の化合物のトルエン溶液は次のように調製した。すなわち、式(4−11)で表される化合物(138g)のトルエン(1200g)溶液に、
N,N−ジメチルホルムアミド(1.5g)および塩化チオニル(50g)を加え、70℃で8時間撹拌した。その後、窒素ガスを反応系内に吹き込みながら、過剰の塩化チオニルを留去し、式(1−11)の化合物のトルエン溶液を調製した。
【0053】
(実施例3)例示化合物番号11の製造例
実施例2の工程(c)において、水酸化ナトリウムの代わりに、炭酸水素ナトリウム(15g)を使用した以外は、実施例2に記載の各工程の操作に従い、例示化合物番号11化合物を薄橙色固体として172g得た。収率は96.0%であり、高速液体クロマトグラフィーによる純度(面積比)は99.8%であった。
尚、工程(a)で使用した式(1−11)の化合物のトルエン溶液は、実施例2に記載した方法により調製したものである。
【0054】
(比較例2)例示化合物番号11の比較製造例
実施例2の工程(c)において、水酸化ナトリウムを使用しなかった以外は、実施例2に記載の各工程の操作に従い、例示化合物番号11化合物を170g得た。尚、製造した例示化合物番号11の化合物は、褐色を帯びた橙色固体であった。収率は94.9%であり、高速液体クロマトグラフィーによる純度(面積比)は97.2%であった。尚、工程(a)で使用した式(1−11)の化合物のトルエン溶液は、実施例2に記載した方法により調製したものである。
【0055】
(微粒子の調製)
(実施例4)
実施例1で製造した例示化合物番号4の化合物(5g)、分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸(1g)に、水(250g)を加えた。この液に、さらに0.1mmφのジルコニアビーズ(200g)を加え、遊星型ボールミルにて200rpmで5時間分散処理を行い、微細粒子からなる水分散液を調製した。その後、この水分散液からジルコニアビーズを濾過、分離した。水分散液中の例示化合物番号4の化合物の粒径を、ナノトラックUPA粒度分析計(UPA−EX150、日機装社製)を用い測定したところ、体積平均粒径は0.1μmであった。
【0056】
(実施例5)
実施例4において、実施例1で製造した例示化合物番号4の化合物の代わりに、実施例2で製造した例示化合物番号11の化合物(5g)を使用した以外は、実施例4に記載の操作に従い、例示化合物番号11の水分散液を調製し、その後、この水分散液からジルコニアビーズを濾過、分離した。水分散液中の化合物の粒径を前記同様に測定したところ体積平均粒径は0.1μmであった。
【0057】
(比較例3)
実施例4において、実施例1で製造した例示化合物番号4の化合物の代わりに、比較例1で製造した例示化合物番号4の化合物(5g)を使用した以外は、実施例4に記載の操作に従い、例示化合物番号4の水分散液を調製し、その後、この水分散液からジルコニアビーズを濾過、分離した。水分散液中の化合物の粒径を前記同様に測定したところ体積平均粒径は0.5μmであった。
【0058】
(比較例4)
実施例4において、実施例1で製造した例示化合物番号4の化合物の代わりに、比較例2で製造した例示化合物番号11の化合物(5g)を使用した以外は、実施例4に記載の操作に従い、例示化合物番号11の水分散液を調製し、その後、この水分散液からジルコニアビーズを濾過、分離した。水分散液中の化合物の粒径を前記同様に測定したところ体積平均粒径は0.6μmであった。
【0059】
実施例4、5と比較例3、4より、本発明の方法により製造されるキノフタロン化合物は、従来の方法により製造されるキノフタロン化合物に比べ、短時間で容易に微粒化されることが判明した。