(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記走行経路要素群は、前記作業対象領域を短冊状に分割する互いに平行な平行線からなる平行線群であり、前記作業車のUターン走行により、1つの走行経路要素の一端から他の走行経路要素の一端への移行が実行される請求項1に記載の走行経路決定装置。
前記第2経路要素選択部は、前記再演算走行経路要素を抽出して選択順番を再算出する処理を、選択順番の遅い走行経路要素を新たに追加抽出することで、前記所定数をインクリメントしながら繰り返し、最後に追加抽出された走行経路要素が走行中の走行経路要素であれば、前記処理の繰り返しを停止する請求項6に記載の走行経路決定装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔自動走行の概要〕
図1には、本発明による技術を採用した作業車自動走行システムによる作業走行が模式的に示されている。この実施形態では、作業車は、作業走行として、走行しながら農作物を収穫する収穫作業(刈取作業)を行う収穫機1であり、一般に普通型コンバインと呼ばれている機種である。収穫機1によって作業走行される作業地は圃場と呼ばれる。圃場における収穫作業では、収穫機1が畦と呼ばれる圃場の境界線に沿って作業を行いながら周回走行した領域が外周領域SAとして設定される。外周領域SAの内側は作業対象領域CAとして設定される。外周領域SAは、収穫機1が収穫物の排出や燃料補給のための移動用スペース及び方向転換用スペース等として利用される。外周領域SAの確保のため、収穫機1は、最初の作業走行として、圃場の境界線に沿って3〜4周の周回走行を行う。周回走行では、一周毎に収穫機1の作業幅分だけ、圃場が作業されることになるので、外周領域SAは収穫機1の作業幅の3〜4倍程度の幅を有する。このことから、特別に注記しない限り、外周領域SAは既刈地(既作業地)として扱われ、作業対象領域CAは未刈地(未作業地)として扱われる。なお、この実施形態では、作業幅は、刈取り幅にオーバーラップ量を減算した値として取り扱われる。しかしながら、作業幅の概念は、作業車の種類によって異なる。本発明での作業幅は、作業車の種類や作業種類によって規定されるものである。
【0017】
収穫機1は、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)で用いられる人工衛星GSからのGPS信号に基づいて測位データを出力する衛星測位モジュール80を備えており、収穫機1は、測位データから、収穫機1の特定箇所の位置座標である自車位置を算出する機能を有する。収穫機1は、算出された自車位置を目標となる走行経路に合わせるように操縦することで走行収穫作業を自動化する自動走行機能を有している。収穫機1は、走行しながら収穫した収穫物を排出するために、畦際に駐車している運搬車CVの周辺に接近して、駐車する必要がある。運搬車CVの駐車位置が予め決められている場合には、このような接近走行、つまり作業対象領域CAにおける作業走行からの一時的な離脱、及び作業走行への復帰も自動走行で行うことも可能である。この作業対象領域CAからの離脱及び作業対象領域CAへの復帰のための走行経路は、外周領域SAが設定された時点で生成される。なお、運搬車CVの代わりに燃料補給車やその他の作業支援車も駐車可能である。
【0018】
〔作業車自動走行システムの基本的な流れ〕
本発明の作業車自動走行システムに組み込まれた収穫機1が、収穫作業を自動走行で行うためには、走行の目標となる走行経路を生成し、その走行経路を管理する走行経路管理装置が必要となる。この走行経路管理装置の基本的な構成と、この走行経路管理装置を用いた自動走行制御の基本的な流れとを、
図2を用いて説明する。
【0019】
圃場に到着した収穫機1は、圃場の境界線の内側に沿って周回しながら収穫を行う。この作業は周囲刈りと呼ばれ、収穫作業ではよく知られた作業である。その際、コーナ領域では、未刈穀稈が残らないように前進と後進とを繰り返す走行が行われる。本形態では、少なくとも最外周一周は、刈り残しがないように、かつ、畦にぶつからないように、手動走行によって行われる。内周側の残りの数周は、周囲刈り専用の自動走行プログラムによって自動走行しても良く、また、最外周の周囲刈りに引き続いて手動走行によって行っても良い。このような周回走行の走行軌跡内側に残される作業対象領域CAの形状としては、自動走行による作業走行にとって都合が良いように、できるだけ簡単な多角形状、好ましくは四角形状が採用される。
【0020】
さらに、この周回走行の走行軌跡は、自車位置算出部53が衛星測位モジュール80の測位データから算出した自車位置に基づいて得ることができる。さらに、この走行軌跡から圃場の外形データ、特に周回走行の走行軌跡内側に位置する未刈地である作業対象領域CAの外形データが、外形データ生成部43によって生成される。圃場は、領域設定部44により外周領域SAと作業対象領域CAとに分けて管理される。
【0021】
作業対象領域CAに対する作業走行は、自動走行によって実施される。このため、作業対象領域CAを網羅する走行(作業幅で埋め尽くす走行)のための走行経路である走行経路要素群が経路管理部60によって管理される。この走行経路要素群は、多数の走行経路要素の集合体である。経路管理部60は、作業対象領域CAの外形データに基づいて走行経路要素群を算出し、読み出し可能にメモリに格納しておく。
【0022】
この作業車自動走行システムでは、作業対象領域CAでの作業走行の前に、全走行経路を決定すべく、走行経路要素群から走行すべき走行経路要素の順番が選択される。経路要素選択部63は、走行経路要素群から走行経路要素を走行順に選択して全走行経路または部分的な走行経路を作り出す機能を有する。このために、時間をかけずに妥当な結果を出力する基本的な経路選択アルゴリズムと、時間をかけてより精密な結果を出力する本格的な経路選択アルゴリズムとが、経路要素選択部63に導入されている。なお、走行経路の変更が可能な点(ノード)と点(ノード)の間の最小単位(リンク)が走行経路要素である。指定された場所から自動走行が開始されると、経路要素選択部63によって算出された選択順番に基づいて、次に走行すべき次走行経路要素が、順次、自動走行制御部511に送られる。自動走行制御部511は、選択された走行経路要素と自車位置とに基づいて、車体が当該走行経路要素に沿うように自動走行データを生成して、自動走行を実行する。
【0023】
図2では、外形データ生成部43と、領域設定部44と、経路管理部60とによって、収穫機1のための走行経路を生成する走行経路生成装置が構築されている。また、自車位置算出部53、領域設定部44と、経路管理部60と、経路要素選択部63とによって、収穫機1のための走行経路を決定する走行経路決定装置が構築されている。このような走行経路生成装置や走行経路決定装置は、従来の自動走行可能な収穫機1の制御系に組み込むことが可能である。あるいは、走行経路生成装置や走行経路決定装置をコンピュータ端末に構築し、当該コンピュータ端末と収穫機1の制御系とをデータ交換可能に接続して、自動走行を実現することも可能である。
【0024】
〔走行経路要素群の概要〕
走行経路要素群の一例として、
図3には、作業対象領域CAを短冊状に分割する多数の平行分割直線を走行経路要素とする走行経路要素群が示されている。この走行経路要素群は2つのノード(両端点であって、ここで経路変更可能である経路変更可能点と称する)を1本のリンクで連結した直線状の走行経路要素を平行に並べたものである。走行経路要素は、作業幅のオーバーラップ量を調整することにより、等間隔を開けて並ぶように設定される。1つの直線で示される走行経路要素の端点から他の直線で示される走行経路要素の端点への移行には、Uターン走行(例えば180°の方向転換走行)が行われる。このような平行な走行経路要素をUターン走行によって繋ぎながら自動走行することを、以降は、『直線往復走行』と称する。このUターン走行には、ノーマルUターン走行と、スイッチバックターン走行とが含まれる。ノーマルUターン走行は、収穫機1の前進だけで行われ、その走行軌跡はU字状となる。スイッチバックターン走行は、収穫機1の前進と後進とを用いて行われ、その走行軌跡はU字状とはならないが、結果的には、収穫機1はノーマルUターン走行と同じ方向転換走行が得られる。ノーマルUターン走行を行うためには、方向転換走行前の経路変更可能点と方向転換走行後の経路変更可能点との間に2本以上の走行経路要素を挟む距離が必要となる。それより短い距離では、スイッチバックターン走行が用いられる。つまり、スイッチバックターン走行は、ノーマルUターン走行と異なって後進を行うため、収穫機1の旋回半径の影響がなく、移行する走行経路要素の選択肢が多い。しかし、スイッチバックターン走行では前後進の切替えが行われるため、スイッチバックターン走行は、基本的には、ノーマルUターン走行と比べて時間がかかる。
【0025】
走行経路要素群の他の例として、
図4には、作業対象領域CAをメッシュ分割する、縦横方向に延びた多数のメッシュ分割直線からなる走行経路要素群が示されている。メッシュ直線同士の交点(経路変更可能点)及びメッシュ直線の両端点(経路変更可能点)において、経路変更が可能である。つまり、この走行経路要素群は、メッシュ直線の交点及び端点をノードとし、メッシュ直線によって区画された各メッシュの辺がリンクとして機能する経路網を構築し、自由度の高い走行を可能にする。上述した直線往復走行だけでなく、例えば、
図4に示すような外から内に向かう『渦巻き走行』や、『ジグザグ走行』も可能であり、さらに、作業途中において、渦巻き走行から直線往復走行に変更することも可能である。
【0026】
〔走行経路要素を選択する際の考え方〕
図2に示すように、経路要素選択部63は、第1経路要素選択部631と第2経路要素選択部632とを有する。第1経路要素選択部631は、時間をかけずに妥当な結果を出力する基本的な経路選択アルゴリズムをルール化した基本優先ルールに基づいて、全走行経路分の前記走行経路要素の選択順番を算出する。第2経路要素選択部632は、時間をかけてより精密な結果を出力する本格的な経路選択アルゴリズムをルール化したコスト評価ルールに基づいて前記再演算走行経路要素の選択順番を再算出する。なお、経路要素選択部63による選択順番の算出の前に、作業対象領域に対して行われる作業走行の走行パターンが設定される。この走行パターンには、例えば、
図3に示すようなUターン走行を行いながら直線往復走行を実現するように直線往復走行パターンがある。作業走行に先立って、第1経路要素選択部631は、全走行経路分の走行経路要素の選択順番を算出する。作業車は、選択された走行経路要素を目標走行経路として、自動走行することができる。第1経路要素選択部631による選択順番の算出が完了すると、作業車の自動走行が開始されるとともに、第2経路要素選択部632による、走行経路要素の選択順番の再算出が行われる。第2経路要素選択部632における選択順番の再算出の対象となる走行経路要素(再演算走行経路要素)は、第1経路要素選択部631によって選択された走行経路要素の内で未走行の走行経路要素である。第1経路要素選択部631によって算出された選択順番は、第2経路要素選択部632によって再算出された選択順番によって書き換えられる。
【0027】
〔収穫機の概要〕
図5は、この実施の形態での説明に採用されている作業車としての収穫機1の側面図である。この収穫機1は、クローラ式の走行機体11を備えている。走行機体11の前部には、運転部12が設けられている。運転部12の後方には、脱穀装置13及び収穫物を貯留する収穫物タンク14が、左右方向に並設されている。また、走行機体11の前方には、収穫部15が高さ調整可能に設けられている。収穫部15の上方には、穀稈を起こすリール17が高さ調節可能に設けられている。収穫部15と脱穀装置13との間には刈取穀稈を搬送する搬送装置16、収穫物タンク14から収穫物を排出する排出装置18が設けられている。収穫物タンク14の下部に収穫物の重量(収穫物の貯留状態)を検出するロードセンサが装備され、収穫物タンク14の内部や周辺に、収量計や食味
測定装置が装備されている。食味
測定装置からは、品質データとして収穫物の水分値とタンパク値の測定データが出力される。収穫機1には、GNSSモジュールやGPSモジュールなどとして構成される衛星測位モジュール80が設けられている。衛星測位モジュール80の構成要素として、GPS信号やGNSS信号を受信するための衛星用アンテナが走行機体11の上部に取り付けられている。なお、衛星測位モジュール80には、衛星航法を補完するために、ジャイロ加速度センサや磁気方位センサを組み込んだ慣性航法モジュールを含めることができる。
【0028】
図5では、収穫機1の動きを監視する監視者(運転者や管理者も含む)が当該収穫機1に搭乗し、かつ、監視者が操作する通信端末4が収穫機1に持ち込まれている。ただし、通信端末4は収穫機1に取り付けられている構成であってもよい。さらに、監視者及び通信端末4は、収穫機1の機外に存在していてもよい。
【0029】
収穫機1は、自動操舵による自動走行と、手動操舵による手動走行とが可能である。また、自動走行としては、従来のように予め全走行経路を決めて走行する自動走行と、状態情報に基づいてリアルタイムに次の走行経路を決めていく自動走行と、が可能である収穫機1は、自動操舵による自動走行と、手動操舵による手動走行とが可能である。本出願においては、予め全走行経路を決めて走行する前者を慣行走行と称するとともに、リアルタイムに次の走行経路を決めていく後者を自動走行と称して、両者を別物として取り扱う。慣行走行の経路は、例えば、予めいくつかのパターンを登録するか、あるいは、通信端末4等において監視者が任意に設定できるように構成する。
【0030】
〔自動走行の機能制御ブロックについて〕
図6には、この収穫機1に構築されている制御系と、通信端末4の制御系が示されている。この実施形態では、収穫機1のための走行経路を管理する走行経路管理装置は、通信端末4に構築された第1走行経路管理モジュールCM1と、収穫機1の制御ユニット5に構築された第2走行経路管理モジュールCM2とから構成されている。
【0031】
通信端末4は、通信制御部40やタッチパネル41等を備えており、コンピュータシステムの機能や、制御ユニット5によって実現される自動走行に必要な条件を入力するユーザー・インターフェイスとしての機能を有する。通信端末4は、通信制御部40を用いることで、無線回線やインターネットを介して管理コンピュータ100とデータ交換可能であるとともに、無線LANや有線LANあるいはその他の通信方式によって収穫機1の制御ユニット5とデータ交換可能である。管理コンピュータ100は、遠隔地の管理センタKSに設置されたコンピュータシステムであり、クラウドコンピュータとして機能している。管理コンピュータ100は、各農家や農業組合や農業企業体から送られてくる情報を格納して、要求に応じて送り出すことができる。
図6では、そのようなサーバ機能を実現するものとして、作業地情報格納部101と作業計画管理部102とが示されている。通信端末4では、通信制御部40を通じて管理コンピュータ100や収穫機1の制御ユニット5から取得した外部データ、及び、タッチパネル41を通じて入力されたユーザ指示(自動走行に必要な条件)等の入力データに基づいて、データ処理が行われ、その処理結果は、タッチパネル41の表示パネル部に表示されるとともに、通信制御部40を通じて管理コンピュータ100や収穫機1の制御ユニット5に送信可能である。
【0032】
作業地情報格納部101には、圃場周辺の地形図や圃場の属性情報(圃場の出入口、条方向等)などを含む圃場情報が格納されている。管理コンピュータ100の作業計画管理部102では、指定された圃場での作業内容を記述した作業計画書が管理されている。監視者の操作を通じて、あるいは自動的に実行されるプログラムを通じて、圃場情報及び作業計画書は、通信端末4や収穫機1の制御ユニット5にダウンロード可能である。作業計画書には、作業対象となる圃場における作業に関して、各種の情報(作業条件)が含まれている。この情報(作業条件)としては、例えば、以下のものが挙げられる。
(a)走行パターン(直線往復走行、渦巻き走行、ジグザグ走行等)
(b)運搬車CVの支援車の駐車位置や収穫物排出等のための収穫機の駐車位置
(c)作業形態(一台の収穫機1による作業、複数台の収穫機1による作業)
(d)いわゆる中割ライン
(e)収穫対象となる作物種(稲(ジャポニカ米、インディカ米)、麦、大豆、菜種、そば等)に応じた車速や脱穀装置13の回転速度の値等。
特に(e)の情報から、作物種に応じた走行機器パラメータの設定や収穫機器パラメータの設定が自動的に実行されるので、設定ミスが回避される。
【0033】
なお、収穫物を運搬車CVに排出するために収穫機1が駐車する位置が収穫物排出用駐車位置であり、燃料補給車から燃料を補給するために収穫機1が駐車する位置が燃料補給用駐車位置であり、この実施形態では、実質的に同じ位置に設定される。
【0034】
上記の情報(a)−(e)は、ユーザー・インターフェイスとしての通信端末4を通じて監視者が入力する形態であっても良い。通信端末4には、自動走行の開始や停止を指示する入力機能や、上述したように、自動走行と慣行走行とのいずれで作業走行するかの入力機能や、走行変速装置等の車両走行機器群71や収穫部15等の作業装置機器群72(
図6参照)に対するパラメータの値を微調整する入力機能等も構築されている。作業装置機器群72のパラメータのうち、値が微調整できるものとしては、リール17の高さや、収穫部15の高さ等が挙げられる。
【0035】
通信端末4は、人為的な切り替え操作により、自動走行経路や慣行走行経路のアニメーション表示状態、上記パラメータ表示/微調整状態等に切り替え可能である。なお、このアニメーション表示とは、予め全走行経路が決められている慣行走行における走行経路である自動走行経路や慣行走行経路に沿って走行する収穫機1の走行軌跡をアニメーション化して、タッチパネル41の表示パネル部に表示することである。このようなアニメーション表示により、運転者は、走行前に、これから走行する走行経路を直感的に確認することができる。
【0036】
作業地データ入力部42は、管理コンピュータ100からダウンロードされた圃場情報や作業計画書や通信端末4から取得した情報を入力する。圃場情報に含まれている圃場概略図や圃場出入口の位置がタッチパネル41に表示され、外周領域SAの形成のために周回走行を行う運転者が支援される。圃場出入口などのデータが圃場情報に含まれていない場合は、ユーザがタッチパネル41を通じて入力することができる。外形データ生成部43は、制御ユニット5から受け取った収穫機1の周回走行時の走行軌跡データ(自車位置の時系列データ)から、精度のよい圃場の外形状及び外形寸法と作業対象領域CAの外形状及び外形寸法とを算出する。領域設定部44は、収穫機1の周回走行の走行軌跡データから外周領域SAと作業対象領域CAを設定する。設定された外周領域SA及び作業対象領域CAの位置座標、つまり外周領域SA及び作業対象領域CAの外形データは、自動走行のための走行経路の生成に用いられる。この実施形態では、走行経路の生成は、収穫機1の制御ユニット5に構築された第2走行経路管理モジュールCM2で行われるので、設定された外周領域SA及び作業対象領域CAの位置座標は、第2走行経路管理モジュールCM2に送られる。
【0037】
圃場が大きい場合には、中割りと呼ばれる、中央突破の走行経路で圃場を複数の区画に区分けする中割り領域を作り出す作業が行われる。この中割り位置指定も、タッチパネル41の画面に表示された作業地の外形図に対するタッチ操作で行うことができる。もちろん、中割りの位置設定は、自動走行のための走行経路要素群の生成にも影響するので、走行経路要素群の生成時に自動的に行ってもよい。その際、中割り領域の延長線上に運搬車CVなどの作業支援車の支援を受けるための収穫機1の駐車位置が配置されると、全区画からの収穫物排出の走行が効率的に行われる。
【0038】
第2走行経路管理モジュールCM2には、経路管理部60と、経路要素選択部63と、経路設定部64とが備えられている。経路管理部60は、作業対象領域CAを網羅する走行経路を構成する多数の走行経路要素の集合体である走行経路要素群を算出して、読み出し可能に格納する。走行経路要素群を算出する機能部として、この経路管理部60には、メッシュ経路要素算出部601と短冊経路要素算出部602とUターン経路算出部603とが含まれている。経路要素選択部63は、上述した機能を有する、第1経路要素選択部631と第2経路要素選択部632とを備え、次に走行すべき次走行経路要素を順次前記走行経路要素群から選択する。経路設定部64は、選択された次走行経路要素を、自動走行のための目標走行経路として設定する。
【0039】
メッシュ経路要素算出部601は、走行経路要素として、作業対象領域CAをメッシュ分割するメッシュ分割直線からなるメッシュ直線群である走行経路要素群を算出し、そのメッシュ直線同士の交点及び端点の位置座標も算出することができる。この走行経路要素が収穫機1の自動走行時の目標走行経路となるので、収穫機1はメッシュ直線同士の交点及び端点で、一方の走行経路要素から他方の走行経路要素へ経路変更することが可能である。つまり、メッシュ直線同士の交点及び端点が収穫機1の経路変更を許す経路変更可能点として機能する。
【0040】
図7に、走行経路要素群の一例であるメッシュ直線群の作業対象領域CAへの配置の概略が示されている。メッシュ経路要素算出部601によって、収穫機1の作業幅をメッシュ間隔として、作業対象領域CAをメッシュ直線で埋め尽くするように走行経路要素群が算出される。作業対象領域CAは、上述したように、圃場の境界から内側に向かって作業幅で3〜4周の周回走行によって形成された外周領域SAの内側の領域であるため、基本的には、作業対象領域CAの外形は、圃場の外形と相似することになる。しかし、メッシュ直線の算出を容易にするため、作業対象領域CAがほぼ多角形、好ましくはほぼ四角形になるように、外周領域SAを作り出す場合もある。
図7では、作業対象領域CAの形状は、第1辺S1と第2辺S2と第3辺S3と第4辺S4とからなる変形四角形である。
【0041】
メッシュ経路要素算出部601は、
図7に示されているように、作業対象領域CAの第1辺S1から収穫機1の作業幅の半分の距離をあけた位置から、第1辺S1に平行であるとともに、収穫機1の作業幅分の間隔をあけて作業対象領域CAの上に並ぶ第1直線群を算出する。同様に、第2辺S2から収穫機1の作業幅の半分の距離をあけた位置から、第2辺S2に平行であるとともに、収穫機1の作業幅分の間隔をあけて作業対象領域CAの上に並ぶ第2直線群、第3辺S3から収穫機1の作業幅の半分の距離をあけた位置から、第3辺S3に平行であるとともに、収穫機1の作業幅分の間隔をあけて作業対象領域CAの上に並ぶ第3直線群、第4辺S4から収穫機1の作業幅の半分の距離をあけた位置から、第4辺S4に平行あるとともに、収穫機1の作業幅分の間隔をあけて作業対象領域CAの上に並ぶ第4直線群を算出する。このように第1辺S1から第4辺S4が、走行経路要素群としての直線群を生成する基準線となっている。直線上の2点の位置座標があればその直線を定義することができるので、走行経路要素である各直線は、各直線の2点の位置座標で規定される直線としてデータ化され、予め定められたデータフォーマットでメモリに格納される。このデータフォーマットには、各走行経路要素を識別するための経路識別子としての経路番号のほか、各走行経路要素の属性値として、経路種、基準となった外形四角形の辺、未走行/既走行などが含まれている。
【0042】
もちろん、四角形以外の多角形の作業対象領域CAにおいても、上述した直線群の算出を適用することができる。すなわち、作業対象領域CAがNを3以上の整数とした際のN角形状とすると、走行経路要素群は、第1直線群から第N直線群までのN個の直線群からなる。各直線群は、このN角形のいずれかの辺に平行に所定間隔(作業幅)で並んだ直線を含むことになる。
【0043】
なお、外周領域SAにも、経路管理部60によって走行経路要素群が設定されており、外周領域SAに設定された走行経路要素は、収穫機1が外周領域SAを走行する際に用いられる。外周領域SAに設定された走行経路要素には、離脱経路、復帰経路、Uターン走行用中間直進経路などの属性値が与えられる。離脱経路は、収穫機1が作業対象領域CAを離脱して外周領域SAに入るために用いられる走行経路要素群を意味する。復帰経路は、収穫機1が外周領域SAから作業対象領域CAでの作業走行に復帰するために用いられる走行経路要素群を意味する。Uターン走行用中間直進経路(以下単に中間直進経路と略称する)は、外周領域SAでのUターン走行に用いられるUターン走行経路の一部を構成する直線状の経路である。即ち、中間直進経路は、Uターン走行の開始側の旋回経路とUターン走行の終了側の旋回経路とを接続する直線部分を構成する直線状の走行経路要素群であって、外周領域SAにおいて作業対象領域CAの各辺に平行に設けられた経路である。また、当初は渦巻き走行を行い、途中で直線往復走行に切り換えて作業走行を行う場合、渦巻き走行によって、未刈地は、全辺において作業対象領域CAよりも小さくなるため、効率良く作業走行を行うには、作業対象領域CA内でUターン走行をする方が、わざわざ外周領域SAにまで移動しなくても良いため、無駄な走行がなく、効率的である。そこで、作業対象領域CAでUターン走行が実行される場合には、中間直進経路は、未刈地の外周ラインの位置に応じて、内周側へ平行移動される。
【0044】
図7では、作業対象領域CAの形状を変形四角形としたので、メッシュ経路要素群の生成の基準となる辺が、4つあったが、作業対象領域CAの形状が長方形または正方形であれば、メッシュ経路要素群の生成の基準となる辺が、2つとなり、メッシュ経路要素群の構造はより簡単となる。
【0045】
この実施形態では、経路管理部60に、オプションの走行経路要素算出部として短冊経路要素算出部602が備えられている。この短冊経路要素算出部602によって算出される走行経路要素群は、
図3に示されているように、作業対象領域CAの外形を構成する辺から選ばれた基準辺、例えば最長辺に平行に延びるとともに、作業幅で作業対象領域CAを網羅する(作業幅で埋め尽くす)平行直線群(本発明に係る「平行線群」に相当)である。短冊経路要素算出部602で算出された走行経路要素群は、作業対象領域CAを短冊状に分割する。さらに、走行経路要素群は、収穫機1がUターン走行するためのUターン走行経路によって順次接続されていく平行直線(本発明に係る「平行線」に相当)の集合体である。つまり、平行直線である1つの走行経路要素の走行が終了すれば、次に選択された走行経路要素への移行ためのUターン走行経路がUターン経路算出部603によって決定される。
【0046】
Uターン経路算出部603は、短冊経路要素算出部602によって算出される走行経路要素群から選択された2つの走行経路要素をUターン走行で接続するためのUターン走行経路を算出する。Uターン経路算出部603は、外周領域SA等が設定されたら、外周領域SAの外形状及び外形寸法と作業対象領域CAの外形状及び外径寸法と収穫機1の旋回半径等に基づいて、外周領域SAのうち、作業対象領域CAの外周の各辺(外辺)に対応する領域毎に、作業対象領域CAの外辺に平行な一つの中間直進経路を算出し、かつ、ノーマルUターン走行及びスイッチバックターン走行が行われるに際して、現在走行している走行経路要素と対応する中間直進経路とを結ぶ開始側の旋回経路と、対応する中間直進経路と移行する走行経路要素とを結ぶ終了側の旋回経路と、を算出する。なお、Uターン走行経路の生成原理については後述する。
【0047】
図6に示すように、第2走行経路管理モジュールCM2を構築している収穫機1の制御ユニット5には、作業走行を行うために、種々の機能が構築されている。制御ユニット5はコンピュータシステムとして構成されており、入出力インタフェースとして、出力処理部7、入力処理部8、通信処理部70が備えられている。出力処理部7は、収穫機1に装備されている車両走行機器群71、作業装置機器群72、報知デバイス73などと接続している。車両走行機器群71には、走行機体11の左右のクローラの速度を調整して操舵を行う操舵機器をはじめ、図示されていないが変速機構やエンジンユニットなど車両走行のために制御される機器が含まれている。作業装置機器群72には、収穫部15、脱穀装置13、排出装置18などを構成する機器が含まれている。報知デバイス73には、ディスプレイやランプやスピーカが含まれている。特に、ディスプレイには、圃場の外形とともに、走行済の走行経路(走行軌跡)やこれから走行すべき走行経路など、種々の報知情報が表示される。ランプやスピーカは、走行注意事項や自動操舵走行での目標走行経路からの外れなど、注意情報や警告情報を搭乗者(運転者や監視者)に報知するために用いられる。
【0048】
通信処理部70は、通信端末4で処理されたデータを受け取るとともに、制御ユニット5で処理されたデータの送信を行う機能を有する。これにより、通信端末4は、制御ユニット5のユーザー・インターフェイスとして機能することができる。通信処理部70は、さらに、管理コンピュータ100との間でのデータ交換を行うためにも用いられるので、種々の通信フォーマットを取り扱う機能を有する。
【0049】
入力処理部8は、衛星測位モジュール80、走行系検出センサ群81、作業系検出センサ群82、自動/手動切替操作具83などと接続している。走行系検出センサ群81には、エンジン回転数や変速状態などの走行状態を検出するセンサが含まれている。作業系検出センサ群82には、収穫部15の高さ位置を検出するセンサや収穫物タンク14の貯留量を検出するセンサなどが含まれている。自動/手動切替操作具83は、自動操舵で走行する自動走行モードと手動操舵で走行する手動走行モードとのいずれかを選択するスイッチである。また、自動走行と慣行走行とを切替えるスイッチが、運転部12に備えられているか、あるいは、通信端末4に構築されている。
【0050】
さらに、制御ユニット5には、走行制御部51、作業制御部52、自車位置算出部53、報知部54が備えられている。自車位置算出部53は、衛星測位モジュール80から出力される測位データに基づいて、自車位置を算出する。この収穫機1が自動走行(自動操舵)と手動走行(手動操舵)の両方で走行可能に構成されているため、車両走行機器群71を制御する走行制御部51には、自動走行制御部511と手動走行制御部512とが含まれている。手動走行制御部512は、運転者による操作に基づいて車両走行機器群71を制御する。自動走行制御部511は、経路設定部64で設定された走行経路と自車位置との間の方位ずれ及び位置ずれを算出し、自動操舵指令を生成し、出力処理部7を介して操舵機器に出力する。作業制御部52は、収穫機1を構成する収穫部15、脱穀装置13、排出装置18などに設けられている動作機器の動きを制御するために、作業装置機器群72に制御信号を与える。報知部54は、ディスプレイなどの報知デバイス73を通じて運転者や監視者に必要な情報を報知するための報知信号(表示データや音声データ)を生成する。
【0051】
自動走行制御部511は、操舵制御だけではなく、車速制御も可能である。車速については、上述したように、例えば、搭乗者が、作業開始前に通信端末4を通じて設定する。設定可能な車速には、収穫走行時の車速、非作業旋回(Uターン走行など)時の車速、収穫物排出時や燃料補給時の作業対象領域CAから離脱して外周領域SAを走行する際の車速などが含まれる。自動走行制御部511は、衛星測位モジュール80によって得られた測位データに基づいて実車速を算出する。出力処理部7は、実車速が設定された車速に合うように、走行への変速操作指令等を車両走行機器群71に送る。
【0052】
〔自動走行の経路について〕
作業車自動走行システムにおける自動走行の例を、短冊経路要素算出部602によって算出された走行経路要素群を用いて直線往復走行する例を挙げて説明する。
【0053】
まず、短冊経路要素算出部602によって算出された走行経路要素群を用いて直線往復走行する例について説明する。
図8には、模式化によって、直線長さを短くした短冊で表された21本の走行経路要素からなる走行経路要素群が示されており、各走行経路要素の上側に経路番号が付与されている。作業走行開始時の収穫機1は、14番の走行経路要素に位置している。収穫機1が位置している走行経路要素と、他の走行経路要素との離間度が符号付き整数で、各経路の下側に付与されている。14番の走行経路要素に位置している収穫機1が、次の走行経路要素に移行するための優先度が、
図8において、走行経路要素の下部に整数値で示されている。値が小さいほど優先度が高く、優先的に選択される。この優先度は、経路要素選択部63の第1経路要素選択部631で採用されている基本優先ルールに基づいており、移行元の走行経路要素から移行先となる走行経路要素への優先順位を示している。この収穫機1は、走行完了した走行経路要素から次の走行経路要素移行する際に、
図9で示すように、少なくとも2つの走行経路要素を挟んで次の走行経路要素に移行するノーマルUターン走行と、2つ以下の走行経路要素を挟んで、つまり隣接する走行経路要素へ移行することができるスイッチバックターン走行とが可能である。ノーマルUターン走行は、移行元の走行経路要素の端点から外周領域SAに入ると、約180°の方向転換を行い、移行先の走行経路要素の端点に入る。なお、移行元の走行経路要素と移行先の走行経路要素との間隔が大きい場合は、約90°の旋回の間に相応な直進が入ることになる。つまり、ノーマルUターン走行は、前進走行のみで実行される。これに対して、スイッチバックターン走行は、移行元の走行経路要素の端点から外周領域SAに入ると、一旦約90°旋回した後、約90°旋回でスムーズに移行先の走行経路要素に入れる位置まで後進してから、移行先の走行経路要素の端点に向かう。これにより、操舵制御は複雑になるが、互いの間隔が短い走行経路要素への移行も可能である。
【0054】
次に走行すべき走行経路要素の選択は、経路要素選択部63の第1経路要素選択部631及び第2経路要素選択部632によって行われる。第1経路要素選択部631に採用されている基本優先ルールでは、基本的な選択の優先度として、順番元になる走行経路要素から所定距離だけ離れている適正離間走行経路要素を最高優先度とし、この適正離間走行経路要素に比べて順番元になる走行経路要素から離れるほど、優先度は低くなるように設定される。例えば、次の走行経路要素への移行に関しては、走行距離の短いノーマルUターン走行が走行時間も短く、効率が良い。したがって、2本あけた左右両隣りの走行経路要素の優先度が最も高く設定される(優先度=「1」)。それより収穫機1から離れるほど、ノーマルUターン走行の走行時間が長くなるので、優先度が低くなる(優先度=「2」,「3」,・・・)。つまり、優先度の数値は優先順位を示している。ただし、ノーマルUターン走行の走行時間が長くなり、スイッチバックターン走行より効率が悪くなる8本あけた隣りの走行経路要素への移行の優先度は、スイッチバックターン走行より低くなる。スイッチバックターン走行では、隣の走行経路要素へ移行する優先度より、1本あけた走行経路要素へ移行する優先度の方が高くなっている。これは隣の走行経路要素へのスイッチバックターン走行は、急旋回が必要となり、圃場を荒らす可能性が高いからである。なお、次の走行経路要素への移行は、左右いずれの方向も可能であるが、従来の作業の慣習にしたがって、左側の走行経路要素への移行が右側の走行経路要素への移行に優先するというルールが採用される。したがって、
図8の例では、経路番号:14に位置する収穫機1は、次に走行する走行経路要素として、経路番号:17の走行経路要素を選択する。このような優先度の設定が、収穫機1が新しい走行経路要素に入るごとに行われる。
【0055】
既に選択された走行経路要素、実際に即して言い換えると、作業が完了している走行経路要素は、原則的に選択禁止とされる。したがって、
図10で示すように、例えば、優先度が「1」である経路番号:11や経路番号:17が既作業地(既刈地)であれば、経路番号:14に位置する収穫機1は、次に走行する走行経路要素として、優先度が「2」である経路番号:18の走行経路要素を選択する。
【0056】
〔自動走行経路の適正化について〕
次に、経路要素選択部63の第1経路要素選択部631及び第2経路要素選択部632による走行経路要素の選択順番を決定する具体的な処理工程の一例を説明する。
これから説明する例でも、説明を簡単にするため、
図8で示されたような走行経路要素群から順次、次に走行すべき次走行経路要素が選択されることで、直線往復走行する収穫機1の走行経路が決定されることにする。したがって、
図10は、第1経路要素選択部631による走行経路要素選択順番算出過程の途中の状態が示されていることになる。
図10及び
図11では、
図8で示された走行経路要素群と同様に、短冊状の走行経路要素が21本示されており、各経路の上側に経路番号が付与されている。
図11では、走行経路要素の中央に、優先度ではなく、これまでに選択した順番が付与されている。また、選択された走行経路要素、つまり仮想的には既作業となった走行経路要素は黒く塗られている。このように、移行先の走行経路要素が決定するごとに、当該走行経路要素を収穫機1の現在位置として、
図8に示すような優先度が設定され、その優先度に基づいて、次に移行する走行経路要素が決定される。これを繰り返すことで、全走行経路が作り出される。
【0057】
第1経路要素選択部631によって走行経路要素の選択順番が算出され、算出された選択順番に基づく走行経路要素が経路設定部64によって設定されると、作業走行が開始可能となる。なお、第1経路要素選択部631は、収穫機1が位置している走行経路要素と、他の走行経路要素との離間度(間隔、距離)によって選択優先度が決まる、演算負荷の軽い基本優先ルールを採用している。したがって、第1経路要素選択部631によって算定された選択順番は、必ずしも適正な選択順番とは限らない。このため、第1経路要素選択部631による走行経路要素の選択順番が算出されると、より適切な選択順番の算出が可能な第2経路要素選択部632による走行経路要素の選択順番の算出が開始される。この第2経路要素選択部632は、上述したように、より高い作業効率が得られるようにコスト評価を行いながら走行経路要素を選択するコスト評価ルールを採用している。この第2経路要素選択部632では、第1経路要素選択部631による走行経路要素の選択順番の最後から抽出された所定数(3つ以上)の走行経路要素が演算対象となる。
【0058】
次に、第1経路要素選択部631によって全走行経路要素の選択順番が算出され、全走行経路が作り出された後の作業走行過程と、第2経路要素選択部632による走行経路要素の選択順番によって、未作業の走行経路要素の選択順番を書き換える修正過程を、
図11と
図12を用いて説明する。
【0059】
<ステップ#01>
上述したように、周回走行による作業によって外周領域SAが作り出されると、領域設定部44によって、圃場が、外周領域SAと作業対象領域CAとに区分けされ、さらに作業対象領域CAには、短冊経路要素算出部602によって算出される走行経路要素群が設定される。作業走行開始点は、収穫機1の現在位置、または、監視者が通信端末4を通じて入力した位置が採用される。ここでは、経路番号:16の一端が作業走行開始点として選択されている。
【0060】
<ステップ#02>
自動走行の開始が指令されると、走行作業開始点である経路番号:16の走行経路要素の端点からこの走行経路要素に沿った作業走行が実行される。
【0061】
<ステップ#03>
第1経路要素選択部631によって算定され、経路設定部64によって設定された全走行経路に基づいて、経路番号:13の走行経路要素が選択され、その走行経路要素に沿った作業走行が実行される。
【0062】
<ステップ#04>
同様に、以降の作業走行は、経路設定部64に設定された全走行経路に基づいて順次進められる。
【0063】
<ステップ#05>
この段階で、第2経路要素選択部632による走行経路要素の選択順番の算出が終了したとする。第2経路要素選択部632は、第1経路要素選択部631によって算定された選択順番の最後となる走行経路要素から遡って3つ分の走行経路要素を抽出し、それらの走行経路要素間での最適な走行順を算定し始め、実走行が経路番号:10(仮の全走行経路における選択順番3番目)まで進んだときに、ラスト3つ目の走行経路要素から残りの走行経路要素2つを走行するのに最適な選択順番が算出されている。
図11のステップ#05で示されている例では、元の選択順番が、『経路番号:19→経路番号:9→経路番号:12(走行時間/移動量:13)』であるのに対して、再算出された選択順番が、『経路番号:19→経路番号:12→経路番号:9(走行時間/移動量:10)』であり、これらが比較され、再算出された選択順番の方が、走行時間(移動量)が小さいと判定される。つまり、再算出された選択順番が最適な経路選択であることになる。
【0064】
<ステップ#06>
ステップ#05で再算出された選択順番によって、対応する走行経路要素の選択順番が置き換えられる。この間に、収穫機1は、仮の全走行経路における選択順番4番目である経路番号:7に移動している。しかし、実走行している収穫機1が、置き換えられていない元の選択順番に則って、置き換えられた選択順番19番目の経路番号:19に到達するには、まだまだ時間的な余裕がある。そこで、即ち、選択順番の再算出は、抽出する所定数を、仮の全走行経路の最終走行経路要素側から1つずつ増やしながら、実走行している走行経路要素が、再算出のために抽出される走行経路要素に含まれるまで繰り返される。これにより、より多くの走行経路要素が適正選択順番となる。ただし、再算出された選択順番が、仮の全走行経路の選択順番と同じである場合もあり、この場合は、上記の置き換えはスキップされる。なお、この実施形態は、上記アルゴリズムを説明するための例示に過ぎず、例えば、仮の全走行経路における選択順番は、
図8から
図10に基づいて説明した基本ルール通りになっていない箇所がある。
【0065】
次に、
図12を用いて、上述のステップ#05と#06で行われた選択順番の変更アルゴリズムを詳しく説明する。
【0066】
図12では、9本の走行経路要素が、C1・・・C9で示されている。最初の状態であるA状態は、上述した基本優先ルールを用いる第1経路要素選択部631によって算出されていく選択順番である。出発走行経路要素はC2であり、そこからの選択順番、つまり走行する順番は、C2−C4−C6−C8−C5−C7−C9−C1−C3と算出されていくとする。作業走行が開始され、走行経路要素が順次選択され、収穫機1が走行すると同時に、選択順番の変更アルゴリズムに基づいて、第2経路要素選択部632が、選択順番を部分的に再算出する。
【0067】
ここでの変更アルゴリズムでは、まず第1経路要素選択部631によって算出される選択順番の最下位から3つの走行経路要素、C9−C1−C3が抽出される。この3つの走行経路要素を走行する際のコストをコスト評価ルールに基づいて算出する。コスト評価ルールで採用されるコストとして、燃料消費や走行時間などが挙げられるが、より計算が容易である、走行経路要素間を移行(Uターン走行)する移行距離が好ましい。この算出されたコストから、よりコストが低い選択順番がみつかれば、当該選択順番によって、抽出している3つの走行経路要素の選択順番が変更される。したがって、新たな選択順番は、C9−C3−C1となる(演算1)。
【0068】
さらに、最下位から4番目の走行経路要素C7が、選択順番の変更対象として追加抽出され、4つの走行経路要素、C7−C9−C3−C1の選択順番をコスト評価ルールに基づいて評価する。図示された例では、選択順番、C7−C9−C3−C1は、C7−C1−C3−C9に変更される(演算2)。このような演算が、選択順番の変更対象として新しい走行経路要素を追加抽出しながら、順次行われる(演算3)。このコスト評価ルールに基づく繰り返し演算は、追加抽出された走行経路要素が実際に走行されるという状態になったときに停止される。
図12の例では、B状態において、走行経路要素C8が走行中となっており、演算4において、走行経路要素C8が最新の追加抽出走行経路要素として抽出されている。したがって、この時点で、演算4は停止され、経路設定部64が、演算3の演算結果である選択順番C5−C1−C3−C7−C9を、走行経路要素C8に続く選択順番とする変更を行う。結果的に、収穫機1が走行する走行経路要素順番は、基本優先ルールに基づいて算出される当初の選択順番、C2−C4−C6−C8−C5−C7−C9−C1−C3から、コストを考慮して、C2−C4−C6−C8−C5−C1−C3−C7−C9に変更されたことになる。
【0069】
このように、演算負荷の軽い第1経路要素選択部631によって算出された選択順番を、演算負荷は重いがより作業効率のよい経路選択が可能な第2経路要素選択部632によって算出された選択順番で修正することで、できる限り適正な走行経路での作業走行が実現する。第2経路要素選択部
632の演算中に、既に、作業車は、走行作業を行っているので、
第2経路要素選択部
632の演算時間が、作業走行を遅延させることはない。
【0070】
図13には、メッシュ経路要素算出部601によって算出された走行経路要素を用いて渦巻き走行する例が示されている。
図13で示された圃場の外周領域SAと作業対象領域CAは
図7のものと同一であり、作業対象領域CAに設定された走行経路要素群も同じである。ここでは説明のために、第1辺S1を基準線とする走行経路要素をL11、L12・・・で示し、第2辺S2を基準線とする走行経路要素をL21、L22・・・で示し、第3辺S3を基準線とする走行経路要素をL31、L32・・・で示し、第4辺S4を基準線とする走行経路要素をL41、L42・・・で示している。
【0071】
図13の太線は、収穫機1の外側から内側に向かって渦巻き状に走行する走行経路を示している。作業対象領域CAの外側の走行経路要素L11が最初の走行経路として選択される。走行経路要素L11と走行経路要素L21との交点でほぼ90°の経路変更が行われ、収穫機1は走行経路要素L21を走行する。さらに、走行経路要素L21と走行経路要素L31との交点でほぼ110°の経路変更が行われ、収穫機1は走行経路要素L31を走行する。走行経路要素L31と走行経路要素L41との交点でほぼ70°の経路変更が行われ、収穫機1は走行経路要素L41を走行する。次に、走行経路要素L11の内側の走行経路要素L12と走行経路要素L41との交点で走行経路要素L12に移行する。このような走行経路要素の選択を繰り返すことで、収穫機1は、圃場の作業対象領域CAを外から内への渦巻き状に作業走行する。このように。渦巻き走行パターンが設定されている場合、未走行の属性を有するとともに作業対象領域CAの最外周に位置する走行経路要素同士の交点で経路変更が行われ、収穫機1は方向転換する。
【0072】
図14には、
図13で示された同じ走行経路要素群を利用したUターン走行の走行例が示されている。まず、作業対象領域CAの外側の走行経路要素L11が最初の走行経路として選択される。収穫機1は、走行経路要素L11の終端(端点)を超えて、外周領域SAに入り、第2辺S2に沿うように90°ターンを行い、さらに、走行経路要素L11と平行に延びる走行経路要素L14の始端(端点)に進入するように再び90°ターンを行う。結果的には、180°のノーマルUターン走行を経て、走行経路要素L11から、2本分の走行経路要素をあけて走行経路要素L14に移行する。さらに、走行経路要素L14を走行して、外周領域SAに入ると、180°のノーマルUターン走行を経て、走行経路要素L14と平行に延びる走行経路要素L17に移行する。このようにして、収穫機1は、走行経路要素L17から走行経路要素L110に、さらに走行経路要素L110から走行経路要素L16に移行して、最終的に、圃場の作業対象領域CA全体の作業走行を完了する。以上の説明から明らかなように、
図8と
図9と
図10とを用いて説明された、短冊経路要素算出部602による走行経路要素群を用いた直線往復走行の例は、このメッシュ経路要素算出部601によって算出された走行経路要素を用いた直線往復走行にも適用可能である。
【0073】
このように、直線往復走行は、作業対象領域CAを短冊状に分割する走行経路要素群であっても、作業対象領域CAをメッシュ状に分割する走行経路要素群であっても実現可能である。言い換えると、作業対象領域CAをメッシュ状に分割する走行経路要素群であれば、直線往復走行にも渦巻き走行にもジグザグ走行にも用いることができ、また、作業途中で走行パターンを渦巻き走行から直線往復走行に変更することも可能である。さらに、
図14に示された走行経路要素群を用いた直線往復走行においても、第1経路要素選択部631及び第2経路要素選択部632を用いた走行経路要素の選択順番技術を適用することができる。
【0074】
〔Uターン走行経路の生成原理〕
図15を用いて、Uターン経路算出部603がUターン走行経路を生成する基本原理を説明する。
図15では、LS0で示された旋回元の走行経路要素からLS1で示された旋回先の走行経路要素に移行するUターン走行経路が示されている。通常の走行では、LS0が作業対象領域CAにおける走行経路要素であれば、LS1が外周領域SAでの走行経路要素(=中間直進経路)となり、逆に、LS1が作業対象領域CAにおける走行経路要素であれば、LS0が外周領域SAでの走行経路要素(=中間直進経路)となるのが一般的である。走行経路要素LS0とLS1の直線式(または直線上の2点)がメモリに記録されており、これらの直線式からその交点(
図15ではPXで示されている)及び交差角(
図15ではθで示されている)が算出される。次に、走行経路要素LS0及び走行経路要素LS1に接するとともに、収穫機1の最小旋回半径と等しい半径(
図15ではrで示されている)の接円が算出される。この接円と走行経路要素LS0及びLS1との接点(
図15ではPS0,PS1で示されている)を結ぶ円弧(接円の一部)が、旋回経路となる。そこで、走行経路要素LS0とLS1との交点PXと、円との接点までの距離Yを、
Y=r/(tan(θ/2))
で求める。最小旋回半径が収穫機1の仕様により実質的に決まっているため、rは規定値である。なお、rは、最小旋回半径と同一の値でなくても良く、無理のない旋回半径を予め通信端末4等によって設定し、その旋回半径となるような旋回操作をプログラミングしてあれば良い。走行制御的には、収穫機1は、旋回元の走行経路要素LS0を走行中に、交点までの距離がYである位置座標(PS0)に到達すると、旋回走行を開始し、次いで、旋回走行中に収穫機1の方位と旋回先の走行経路要素LS1の方位との差が許容値に収まれば旋回走行を終了する。その際、収穫機1の旋回半径は正確に半径rに一致しなくてもよい。旋回先の走行経路要素LS1との距離及び方位差に基づいて操舵制御されることで、収穫機1は旋回先の走行経路要素LS1に移行することができる。
【0075】
図16、
図17、
図18に、具体的な3つのUターン走行が示されている。
図16では、旋回元の走行経路要素LS0及び旋回先の走行経路要素LS1が作業対象領域CAの外辺から傾斜状態に延びているが、鉛直に延びていても同様である。ここでは、外周領域SAにおけるUターン走行経路は、走行経路要素LS0及び走行経路要素LS1の外周領域SAへの延長線、外周領域SAの走行経路要素の一部(線分)である中間直進経路と、2つの円弧状の旋回経路とからなる。このUターン走行経路も、
図15を用いて説明された基本原理に準じて、生成することができる。中間直進経路と旋回元の走行経路要素LS0との交差角θ1及び交点PX1、この中間直進経路と旋回先の走行経路要素LS1との交差角θ2及び交点PX2が算出される。さらには、旋回元の走行経路要素LS0と中間直進経路とに接する半径r(=収穫機1の旋回半径)の接円の接点PS10,PS11の位置座標、及び、中間直進経路と旋回先の走行経路要素LS1とに接する半径rの接円の接点PS20,PS21の位置座標が算出される。これらの接点PS10,PS20にて、収穫機1は旋回を開始することなる。同様に、
図17で示された、三角形状の突起を形成した作業対象領域CAに対して、その三角形状の突起を迂回するようなUターン走行経路も同様に生成することができる。走行経路要素LS0及びLS1と、外周領域SAの走行経路要素の一部(線分)である2つの中間直進経路との交点が求められる。それぞれの交点の算出には、
図15を用いて説明された基本原理が適用される。
【0076】
図18には、スイッチバックターン走行による旋回走行が示されており、旋回元の走行経路要素LS0から旋回先の走行経路要素LS1に移行する。このスイッチバックターン走行においては、外周領域SAの走行経路要素の一部(線分)である作業対象領域CAの外辺に平行な中間直進経路と走行経路要素LS0とに接する半径rの接円と、当該中間直進経路と走行経路要素LS1とに接する半径rの接円とが算出される。
図15を用いて説明された基本原理に準じて、この2つの接円と中間直進経路との接点の位置座標、旋回元の走行経路要素LS0と接円との接点の位置座標、旋回先の走行経路要素LS1と接円との接点の位置座標が算定される。これにより、スイッチバックターン走行におけるUターン走行経路が生成される。なお、スイッチバックターン走行では、中間直進経路は収穫機1によって後進走行される。
【0077】
〔渦巻き走行における方向転換走行について〕
図19には、上述した渦巻き走行において、走行経路要素の経路変更可能点である交点での経路変更に用いられる方向転換走行の一例が示されている。以降、この方向転換走行をαターン走行と称する。このαターン走行における走行経路(αターン走行経路)は、いわゆる切り返し走行経路の一種であり、走行元の走行経路要素(
図19ではLS0で示されている)と旋回先の走行経路要素(
図19ではLS1で示されている)の交点から、前進での旋回経路を経て、後進での旋回経路で旋回先の走行経路要素に接する経路である。αターン走行経路は、αターン走行経路は基準化されているので、走行元の走行経路要素と旋回先の走行経路要素との交差角に応じて生成されたαターン走行経路が予め登録されている。したがって、経路管理部60は、算出された交差角に基づいて適正なαターン走行経路を読み出し、経路設定部64に与える。この構成に代えて、交差角毎の自動制御プログラムを自動走行制御部511に登録しておき、経路管理部60によって算出された交差角に基づいて、自動走行制御部511が適正な自動制御プログラム読み出すような構成を採用してもよい。
【0078】
〔経路選択の例外ルール〕
経路要素選択部63は、上述したような第1経路要素選択部631及び第2経路要素選択部632による走行経路要素の選択機能以外に、緊急避難的な走行経路要素を選択する機能も有する。これは、第1経路要素選択部631または第2経路要素選択部632によって算出された走行経路要素の選択順番に基づく走行を一時的に停止し、別な走行経路要素を選択して例外的な走行を行う例外処理である。このような例外処理は、作業状態評価部55から出力される状態情報に基づいて決定される。以下に、例外処理における経路選択ルールA1からA11を例示する。
【0079】
(A1)監視者(搭乗者)による操作により、自動走行から手動走行への移行が要求された場合、手動走行の準備が完了後、経路要素選択部63による走行経路要素の選択が停止される。そのような操作には、自動/手動切替操作具83の操作、制動操作具の操作(特に急停車操作)、操舵操作具(ステアリングレバーなど)による所定操舵角以上の操作、などが含まれる。さらに、走行系検出センサ群81に、自動走行時に搭乗することが要求される監視者の不在を検出するセンサ、例えば、座席に設けられた着座検出センサやシートベルトの着装検出センサ、が含まれている場合、このセンサからの信号に基づいて、自動走行制御を停止させることができる。つまり、監視者の不在が検知されると、自動走行制御の停止、あるいは収穫機1の走行自体が、停止される。また、操舵操作具による所定操舵角より小さな微小な操舵角の操作は、自動走行制御を停止させることなしに、走行方向の微調整だけを行うような構成を採用してもよい。
【0080】
(A2)自動走行制御部511は、圃場の外形ライン位置と測位データに基づく自車位置との関係(距離)を監視しており、外周領域SAにおける旋回時に、畦と機体との接触を回避するように自動走行を制御する。具体的には、自動走行を停止して収穫機1を停車させたり、ターン走行の形態を変更(ノーマルUターン走行からスイッチバックターン走行やαターン走行に変更)したり、その領域を通過しない走行経路設定を行ったりする。また、『旋回エリアが狭くなっています。御注意下さい。』等といった報知を行うように構成してあっても良い。
【0081】
(A3)収穫物タンク14の収穫物の貯留量が満杯または満杯近くになって、収穫物排出が必要な場合、作業状態評価部55から経路要素選択部63へ、状態情報の1つとして、排出要求(作業対象領域CAでの作業走行からの離脱要求の一種)が出される。この場合、畦際の運搬車CVへの排出作業を行うための駐車位置と自車位置とに基づいて、作業対象領域CAでの作業走行から離脱し、外周領域SAを走行して該駐車位置に向かう、適正な走行経路要素(例えば、最短経路となる走行経路要素)が、外周領域SAに設定された走行経路要素群のうち離脱経路の属性値が与えられたものと、作業対象領域CAに設定された走行経路要素群とから選択される。
【0082】
(A4)燃料残量センサからの信号等によって算出される燃料タンクの残量値に基づいて、燃料切れの切迫が評価された場合、燃料補給要求(離脱要求の一種)が出される。この場合も、(A3)と同様に、予め設定されている燃料補給位置である駐車位置と自車位置とに基づいて、燃料補給位置への適正な走行経路要素(例えば、最短経路となる走行経路要素)が選択される。
【0083】
(A5)作業対象領域CAでの作業走行から離脱して、外周領域SAに入った場合、再び作業対象領域CAに復帰する必要がある。この作業対象領域CAへの復帰の始点となる走行経路要素として、離脱点に最も近い走行経路要素、あるいは、外周領域SAでの現在位置から最も近い走行経路要素が、外周領域SAに設定された走行経路要素群のうち復帰経路の属性値が与えられたものと、作業対象領域CAに設定された走行経路要素群とから選択される。
【0084】
(A6)収穫物排出や燃料補給のため、作業対象領域CAでの作業走行から離脱して、再び作業対象領域CAに戻る走行経路を決定する際、作業対象領域CAにおける既作業(既走行)となって走行禁止の属性が付与された走行経路要素を、走行可能な走行経路要素として復活させる。既作業の走行経路要素を選択することで所定以上の時間短縮が可能な場合には、当該走行経路要素が選択される。さらに、作業対象領域CAから離脱する際の作業対象領域CAにおける走行には後進を用いることも可能である。
【0085】
(A7)収穫物排出や燃料補給のため、作業対象領域CAでの作業走行から離脱するタイミングは、それぞれの余裕度と駐車位置までの走行時間または走行距離とから決定される。余裕度は、ここでは、収穫物排出であれば、収穫物タンク14における現状の貯留量から満杯になるまでに予測される走行時間または走行距離である。燃料補給であれば、燃料タンクにおける現状の残量から完全に燃料切れになるまでに予測される走行時間または走行距離である。例えば、自動走行中に排出用の駐車位置の近くを通過する際に、余裕度や排出作業に要する時間等に基づいて、駐車位置を通り過ぎて、満杯になってから離脱して駐車位置に戻ってくる場合と、駐車位置の近くを通るついでに排出も行う場合とで、いずれが、最終的に効率的な走行であるか(総作業時間が短いとか総走行距離が短いとか)を判定する。あまりにも少ない量のときに排出作業を行うと、全体として排出回数が増えてしまい、効率的ではないし、ほぼ満杯なのであれば、ついでに排出してしまう方が効率的である。
【0086】
(A8)
図20には、作業対象領域CAから離脱後に再開される作業走行で選択される走行経路要素が、離脱前の作業走行の続きではないケースが示されている。このケースでは、
図3、
図14で示されたような直線往復走行パターンが予め設定されている。
図20では、駐車位置は符号PPで示されており、かつ、比較例として、作業対象領域CAを180°のUターン走行を伴う直線往復走行で順調に作業走行しきった場合の走行経路が点線で示されている。実際の走行軌跡は太実線で示されている。作業走行の進行に伴って、順次、直線状の走行経路要素とUターン走行経路とが選択される(ステップ#01)。
【0087】
作業走行の途中で(ステップ#02)、離脱要求が発生すると、作業対象領域CAから外周領域SAに進む走行経路が算出される。この地点では、現在走行中の走行経路要素に沿ってそのまま直進して外周領域SAに出る経路と、現在走行中の走行経路要素から90°旋回し、既刈地(=既走行の属性を持つ走行経路要素の集合部分)を通過して駐車位置が存在する外周領域SAに出る経路とが考えられる。ここでは、より走行距離が短い後者の経路が選択される(ステップ#03)。この後者の離脱走行では、90°旋回後の作業対象領域CAでの離脱走行経路要素として、外周領域SAに設定されている走行経路要素を離脱点まで平行移動させたものが用いられる。但し、時間的な余裕を持って離脱要求がなされるのであれば、前者の経路が選択される。この前者の離脱走行では、作業対象領域CAでの離脱走行中において、収穫作業が続行されるので、作業効率の点で利点がある。
【0088】
収穫機1は、作業対象領域CAでの作業走行を離脱して、作業対象領域CA及び外周領域SAを離脱走行して駐車位置に到着すると、作業支援車から支援を受ける。この例では、運搬車CVに収穫物タンク14に貯留された収穫物が排出される。
【0089】
収穫物の排出が完了すると、作業走行に復帰するため、離脱要求が発生した地点に戻る必要がある。
図20の例では、離脱要求が発生した時に走行していた走行経路要素に未作業部分が残されているので、当該走行経路要素に戻る。このため、収穫機1は、駐車位置から外周領域SAの走行経路要素を選択して、左回りに走行し、目的とする走行経路要素の端点に達すると、そこで90°旋回して当該走行経路要素に入り、作業走行を行う。離脱要求が発生した地点を過ぎれば、収穫機1は非作業で走行し、Uターン走行経路を経て、次の走行経路要素を作業走行する(ステップ#04)。以後は、収穫機1は、直線往復走行を続行し、この作業対象領域CAでの作業走行を完了する(ステップ#05)。
【0090】
(A9)入力されている作業地データに圃場内の走行障害物の位置が含まれている場合、あるいは収穫機1に障害物位置検出装置が装備されている場合、障害物の位置と自車位置とに基づいて、障害物回避走行のための走行経路要素が選択される。この障害物回避目的の選択ルールとして、障害物にできるだけ近接した迂回経路をとる走行経路要素を選択するルールや、一旦外周領域SAに出てから作業対象領域CAに入る際に障害物の存在しない直線経路を取ることができる走行経路要素を選択するルールがある。
【0091】
(A10)
図4、
図13で示されるような渦巻き走行パターンが設定されている場合に、選択対象となる走行経路要素の長さが短くなると、渦巻き走行パターンから直線往復走行パターンに自動的に切り替えられる。面積が狭くなった場合は、前後進を行うαターン走行を含む渦巻き走行は非効率的になりがちだからである。
【0092】
(A11)慣行走行で走行している場合において、未作業地、つまり作業対象領域CAにおける走行経路要素群における未作業(未走行)の走行経路要素の数が所定値以下になった場合、慣行走行から自動走行に自動的に切り替えられる。また、収穫機1が、メッシュ直線群で網羅された作業対象領域CAを外から内への渦巻き走行で作業している場合、残された未作業地の面積が少なくなって、未作業走行経路要素の数が所定値以下になった場合、渦巻き走行から直線往復走行に切り替えられる。この場合では、上述したように、無駄な走行を避けるために、中間直進経路の属性を持つ走行経路要素が、外周領域SAから作業対象領域CAの未作業地付近まで平行移動される。
【0093】
上述したような例外処理が終了すれば、再び、第1経路要素選択部631または第2経路要素選択部632によって算出された走行経路要素の選択順番に基づく走行に復帰してもよい。あるいは、復帰が困難な場合、その時点で、再度、第1経路要素選択部631及び第2経路要素選択部632によって走行経路要素の選択順番を算出し、当該選択順番に基づく走行を再開してもよい。
【0094】
〔協調走行制御〕
上述した実施形態では、圃場の作業走行は1台の収穫機1で行われていた。もちろん、本発明は、複数台の作業車の使用にも適用可能である。ここでは、理解のしやすさのために、2台の収穫機1によって作業走行(自動走行)する形態を説明する。
図2119には、マスタ収穫機1mとして機能する第1作業車と、スレーブ収穫機1sとして機能する第2作業車とが協調して、1つの圃場を作業走行する様子が示されている。マスタ収穫機1mには、監視者が乗り込んでおり、監視者は、マスタ収穫機1mに持ち込まれた通信端末4を操作する。便宜的に、マスタ及びスレーブという用語を使用したが、これらに主従関係はなく、マスタ収穫機1m及びスレーブ収穫機1sは、上述した走行経路設定ルーチン(走行経路要素の選択ルール)に基づいてそれぞれ独自にルート設定して自動走行を行う。ただし、マスタ収穫機1mとスレーブ収穫機1sとの間はそれぞれの通信処理部70を介してデータ通信可能であり、各種情報の交換を行う。通信端末4は、マスタ収穫機1mに監視者の指令や走行経路に関するデータなどを与えるだけでなく、通信端末4とマスタ収穫機1mとを介して、スレーブ収穫機1sにも監視者の指令や走行経路に関するデータを与えることができる。
【0095】
協調走行においては、マスタ収穫機1mとスレーブ収穫機1sとに備えられた、第1経路要素選択部631に、最初に選択順番の算出対象となる走行経路要素を割り振っておくことで、マスタ収穫機1mとスレーブ収穫機1sとが同じ走行経路要素を走行する不都合を避けることができる。また、第1経路要素選択部631及び第2経路要素選択部632を収穫機1側ではなく、通信端末4側に構築し、通信端末4でマスタ収穫機1mとスレーブ収穫機1sとが走行すべき走行経路要素の選択順を算出し、マスタ収穫機1mとスレーブ収穫機1sとに送信するような構成を採用することも可能である。この場合には、第1経路要素選択部631及び第2経路要素選択部632は、マスタ収穫機1mとスレーブ収穫機1sとが同じ走行経路要素を選択しないことのみならず、マスタ収穫機1mとスレーブ収穫機1sとが隣接して走行しないように、走行時間も考慮して、選択順番を算出するアルゴリズムを採用する必要がある。
【0096】
複数台の収穫機1による直線往復走行においても、上述したような、緊急避難的な走行経路要素を選択して、例外的な走行を行う例外処理の実行も可能である。協調走行における例外処理の例を、
図22及び
図23を用いて説明する。
なお、
図22及び
図23では、互いに平行な直線からなる平行直線群は、L01、L02、・・・L10で示されており、L01−L04が既作業の走行経路要素であり、L05−L10が未作業の走行経路要素である。
図22では、マスタ収穫機1mが駐車位置に向かうために外周領域SAを走行し、スレーブ収穫機1sが作業対象領域CAの下端で、詳しくは走行経路要素L04の下端で一時停止している。スレーブ収穫機1sが走行経路要素L04からUターン走行で走行経路要素L07に移行するために外周領域SAに進入すると、マスタ収穫機1mと衝突するので、スレーブ収穫機1sが、衝突回避行動として一時停車しているのである。そして、駐車位置にマスタ収穫機1mが駐車した場合、走行経路要素L05、L06、L07を用いた作業対象領域CAへの進入や作業対象領域CAからの離脱は不可能となるので、走行経路要素L05、L06、L07は一時的に走行禁止(選択禁止)となる。マスタ収穫機1mが排出作業を終え、駐車位置から移動すると、スレーブ収穫機1sの経路要素選択部63が、マスタ収穫機1mの走行経路を加味して、走行経路要素L05−L10から、次に移行すべき走行経路要素を選択し、スレーブ収穫機1sは自動走行を再開する。
【0097】
また、駐車位置にてマスタ収穫機1mが排出作業を行っている間にも、スレーブ収穫機1sが作業を続けることも可能である。その例を
図23に示してある。このケースでは、スレーブ収穫機1sの経路要素選択部63は、通常であれば、走行経路要素優先度が「1」である3レーン先の走行経路要素L07を、移行先の走行経路要素として選択するが、走行経路要素L07は、
図22の例と同様に走行禁止となっている。そこで、次に優先度が高い走行経路要素L08が選択される。走行経路要素L04から走行経路要素L08への移動経路としては、既走行となった現在の走行経路要素L04を後進する経路(
図23で実線で示されている)や、走行経路要素L04の下端から右回りで前進して外周領域SAに出る経路(
図23で点線で示されている)等の複数の経路が算出され、最も効率の良い経路、例えば最短となる経路(この形態では実線の経路)が選択される。
【0098】
1つの圃場が相当広い場合は、1つの圃場を中割りによって複数の区画に区分けし、各区画に1台の収穫機1を投入する。
図24は、作業対象領域CAの中央に帯状の中割り領域CCを形成して、作業対象領域CAを2つの区画CA1とCA2とに区分けする中割り過程の途中を示す説明図であり、
図25は、中割り過程の終了後を示す説明図である。この実施形態では、マスタ収穫機1mが中割り領域CCを形成する。マスタ収穫機1mが中割りを行っている間、スレーブ収穫機1sは、区画CA2で、例えば直線往復走行パターンで作業走行を行う。この作業走行に先立って、区画CA2のための走行経路要素群が生成される。その際、区画CA2の中割り領域CC側の作業幅一本分に対応する走行経路要素は、中割り過程が終了するまで、選択禁止とし、マスタ収穫機1mとスレーブ収穫機1sとの接触を回避する。
【0099】
中割り過程が終了すると、マスタ収穫機1mは区画CA1のために算出された走行経路要素群を用いて、単独作業走行のように走行制御され、スレーブ収穫機1sは区画CA2のために算出された走行経路要素群を用いて、単独作業走行のように走行制御される。このような単独作業走行として、マスタ収穫機1m及びスレーブ収穫機1sがそれぞれの区画CA1で直線往復走行する場合には、各区画CA1に対して上述した第1経路要素選択部631及び第2経路要素選択部632を用いた作業走行が可能である。
【0100】
圃場の規模がさらに大きい場合には、
図26に示すように、圃場が格子状に中割りされる。この中割りは、マスタ収穫機1mとスレーブ収穫機1sとで行うことができる。格子状の中割りで形成された区画にマスタ収穫機1mによる作業とスレーブ収穫機1sによる作業とが振り分けられ、それぞれの区画において、単独の収穫機1による作業走行が実施される。但し、マスタ収穫機1mとスレーブ収穫機1sとの距離が所定値以上に離れないという条件で、走行経路要素が選択される。これは、スレーブ収穫機1sがマスタ収穫機1mから離れ過ぎると、マスタ収穫機1mに搭乗している監視者によるスレーブ収穫機1sの作業走行の監視や、互いの状態情報の交信が困難になるためである。
図26のような形態の場合は、担当する区画での作業が終了した収穫機1は、他の収穫機1の作業のサポートをするために、他の収穫機1の担当区画に向かうように自動走行しても良いし、自車の担当である次の区画に向かうように自動走行しても良い。この場合でも、マスタ収穫機1m及びスレーブ収穫機1sがそれぞれの区画で直線往復走行する場合には、各区画に対して上述した第1経路要素選択部631及び第2経路要素選択部632を用いた作業走行が可能である。
【0101】
〔協調自動走行時における作業装置機器群等のパラメータの微調整について〕
マスタ収穫機1mとスレーブ収穫機1sとが協調して作業走行する場合、通常マスタ収穫機1mには、監視者が搭乗しているので、マスタ収穫機1mについては、必要に応じて、通信端末4を通じて、自動走行制御における車両走行機器群71や作業装置機器群72に対するパラメータの値を微調整できる。マスタ収穫機1mの車両走行機器群71や作業装置機器群72に対するパラメータの値を、スレーブ収穫機1sにおいても実現するため、
図27に示すように、マスタ収穫機1mからスレーブ収穫機1sのパラメータを調整できる構成を採用することができる。ただし、通信端末4は、スレーブ収穫機1sにも備えられていても何ら問題はない。なぜならば、スレーブ収穫機1sも、単独自動走行をする場合も、マスタ収穫機1mとして使用される場合もあるからである。
【0102】
図27に示された通信端末4には、パラメータ取得部45と、パラメータ調整指令生成部46とが構築されている。パラメータ取得部45は、マスタ収穫機1mとスレーブ収穫機1sとで設定されている機器パラメータを取得する。これにより、通信端末4のタッチパネル41の表示パネル部にマスタ収穫機1m及びスレーブ収穫機1sの機器パラメータの設定値を表示させることができる。マスタ収穫機1mに搭乗している監視者は、タッチパネル41を通じて、マスタ収穫機1m及びスレーブ収穫機1sの機器パラメータを調整するための機器パラメータ調整量を入力する。パラメータ調整指令生成部46は、入力された機器パラメータ調整量に基づいて、対応する機器パラメータを調整するパラメータ調整指令を生成して、マスタ収穫機1m及びスレーブ収穫機1sに送信する。このような通信のための通信インタフェースとして、マスタ収穫機1m及びスレーブ収穫機1sの制御ユニット5には通信処理部70が備えられており、通信端末4には通信制御部40が備えられている。マスタ収穫機1mの機器パラメータの調整に関しては、監視者がマスタ収穫機1mに装備されている各種操作具を用いて、直接行ってもよい。機器パラメータは、走行機器パラメータと作業機器パラメータとに分けられ、走行機器パラメータには、車速とエンジン回転数とが含まれ、作業機器パラメータには収穫部15の高さやリール17の高さが含まれている。
【0104】
(1)上述した実施形態では、第1作業車であるマスタ収穫機1mと第2作業車であるスレーブ収穫機1sとの作業幅が同じであると見なして、走行経路要素の設定及び選択について説明した。ここでは、マスタ収穫機1mの作業幅とスレーブ収穫機1sとの作業幅とが異なる場合に、どのように走行経路要素の設定及び選択がなされるかについて、2つの例を挙げて説明する。マスタ収穫機1mの作業幅を第1作業幅とし、スレーブ収穫機1sの作業幅を第2作業幅として説明する。理解しやすいように、具体的に、第1作業幅を「6」とし、第2作業幅を「4」としている。
【0105】
(1−1)
図28には、直線往復走行パターンが設定されている場合の例が示されている。このケースでは、経路管理部60は、第1作業幅と第2作業幅の最大公約数または近似最大公約数である基準幅で、作業対象領域CAを網羅する多数の走行経路要素の集合体である走行経路要素群を算出する。第1作業幅が「6」、第2作業幅が「4」であるから、基準幅は「2」となる。
図28では、走行経路要素を識別するため、01から20までの数を、経路番号として各走行経路要素に付してある。
【0106】
経路番号17の走行経路要素からマスタ収穫機1mが出発し、経路番号12の走行経路要素からスレーブ収穫機1sが出発するものとする。経路要素選択部63は、
図6に示すように、マスタ収穫機1mの走行経路要素を選択する機能を有する第1経路要素選択部631と、スレーブ収穫機1sの走行経路要素を選択する機能を有する第2経路要素選択部632とに分けられている。経路要素選択部63がマスタ収穫機1mの制御ユニット5に構築されている場合、第2経路要素選択部632によって選択された次走行経路要素は、マスタ収穫機1mの通信処理部70とスレーブ収穫機1sの通信処理部70とを介してスレーブ収穫機1sの経路設定部64に与えられる。なお、作業幅の中心または収穫機1の中心と走行経路要素とは必ずしも一致しなくてもよく、偏差があれば、その偏差を考慮した自動走行制御が行われる。
【0107】
(2−1)
図28に示されているように、第1経路要素選択部631は、第1作業幅または第2作業幅の整数倍の領域(未走行でも既走行でも可)、あるいは、第1作業幅の整数倍と第2作業幅の整数倍との合計の領域(未走行でも既走行でも可)を残すように、未走行となっている走行経路要素群から、次の走行経路要素を選択する。選択された次走行経路要素は、マスタ収穫機1mの経路設定部64に与えられる。同様に、第2経路要素選択部632は、第1作業幅または第2作業幅の整数倍の領域(未走行でも既走行でも可)、あるいは、第1作業幅の整数倍と第2作業幅の整数倍との合計の領域(未走行でも既走行でも可)を残すように、未走行となっている走行経路要素群から、次の走行経路要素を選択する。
【0108】
つまり、第1経路要素選択部631または第2経路要素選択部632によって与えられた次走行経路要素に沿ってマスタ収穫機1mまたはスレーブ収穫機1sが自動走行した後には、作業対象領域CAには、第1作業幅または第2作業幅の整数倍の幅を有する未走行の領域が残され続けることとなる。しかし、最終的には、第2作業幅未満の狭い幅を有する未作業領域が残る可能性があるが、そのような最後に残った未作業領域は、マスタ収穫機1mまたはスレーブ収穫機1sのいずれかで作業走行される。
【0109】
(2−2)
図29には、渦巻き走行パターンが設定されている場合の例が示されている。このケースでは、作業対象領域CAに、縦横の間隔が第1作業幅である縦直線群と横直線群とで走行経路要素群が設定される。横直線群に属する走行経路要素には、その経路番号として、X1からX9の記号が与えられており、縦直線群に属する走行経路要素には、その経路番号として、Y1からY9の記号が与えられている。
【0110】
図29は、マスタ収穫機1mとスレーブ収穫機1sとが外から内にかけて左回りの二重渦巻き線を描くような渦巻き走行パターンが設定されている。経路番号Y1の走行経路要素からマスタ収穫機1mが出発し、経路番号X1の走行経路要素からスレーブ収穫機1sが出発するものとする。経路要素選択部63は、このケースでも、第1経路要素選択部631と第2経路要素選択部632とに分けられている。
【0111】
図29に示すように、マスタ収穫機1mは、まず、第1経路要素選択部631によって最初に選択された経路番号Y1の走行経路要素を走行する。しかしながら、
図29で示された走行経路要素群は、当初第1作業幅を間隔として算出されているので、第1作業幅より狭い第2作業幅を有するスレーブ収穫機1sのために、第2経路要素選択部632によって最初に選択された経路番号X1の走行経路要素は、第1作業幅と第2作業幅の違いを埋めるために、その位置座標が修正される。つまり、第1作業幅と第2作業幅との差(以降、この差を幅差と称する)の0.5倍分だけ、経路番号X1の走行経路要素は外側寄りに修正される(
図29、#01)。同様に、スレーブ収穫機1sの走行にともなって選択された次走行経路要素である経路番号Y2、X8、Y8も修正される(
図29、#02と#03と#04)。マスタ収穫機1mは、当初通りの経路番号Y1から経路番号X9、Y9の走行経路要素を走行する(
図29、#03と#04)が、その次に選択される経路番号X2の走行経路要素は、その外側をスレーブ収穫機1sが走行しているので幅差だけ位置修正が行われる(
図29、#04)。スレーブ収穫機1sのために、経路番号X3の走行経路要素を選択された際には、経路番号X3の外側に位置する経路番号X1の走行経路要素をスレーブ収穫機1sが既に走行しているので、幅差の1.5倍分だけ、位置修正が行われる(
図29、#05)。このようにして、あとは、順次、選択された走行経路要素の外側にスレーブ収穫機1sが走行した走行経路要素が存在する数に応じて第1作業幅と第2作業幅との差を相殺すべく、選択された走行経路要素の位置修正が行われる(
図29、#06)。走行経路要素の位置修正は、ここでは、経路管理部60によって行われるが、第1経路要素選択部631と第2経路要素選択部632とが行うことも可能である。
【0112】
図28と
図29とを用いた走行例では、第1経路要素選択部631と第2経路要素選択部632とが、マスタ収穫機1mの制御ユニット5に構築されていると仮定している。しかしながら、第2経路要素選択部632がスレーブ収穫機1sに構築されることも可能である。その際は、スレーブ収穫機1sが走行経路要素群を示すデータを受け取り、第1経路要素選択部631と第2経路要素選択部632とが、それぞれが選択した走行経路要素を交換しながら、自己の次走行経路要素を選択し、必要な位置座標修正を行うとよい。また、経路管理部60、第1経路要素選択部631、第2経路要素選択部632を全て、通信端末4に構築し、通信端末4から、選択された走行経路要素を経路設定部64に送る構成も可能である。
【0113】
(3)上述の実施形態において
図6に基づいて説明した制御機能ブロックはあくまでも一例に過ぎず、各機能部をさらに分割することや複数の機能部を統合することも可能である。また、機能部は、上部制御装置としての制御ユニット5と通信端末4と管理コンピュータ100とに振り分けられたが、この機能部の振り分けも一例であり、各機能部は、任意の上部制御装置に振り分けることも可能である。上部制御装置同士でデータ交換可能につながっていれば、別な上部制御装置に振り分けること可能である。例えば、
図6で示された制御機能ブロック図では、作業地データ入力部42、外形データ生成部43、領域設定部44が、第1走行経路管理モジュールCM1として、通信端末4に構築されている。さらに、経路管理部60、経路要素選択部63、経路設定部64が、第2走行経路管理モジュールCM2として、収穫機1の制御ユニット5に構築されている。これに代えて、経路管理部60が第1走行経路管理モジュールCM1に含まれてもよい。また、外形データ生成部43や領域設定部44が、第2走行経路管理モジュールCM2に含まれてもよい。第1走行経路管理モジュールCM1の全てを制御ユニット5に構築してもよいし、第2走行経路管理モジュールCM2の全てを通信端末4に構築してもよい。走行経路管理に関するできるだけ多くの制御機能部を持ち出し可能な通信端末4に構築した方が、メンテナンス等の自由度が高くなり、好都合である。この機能部の振り分けは、通信端末4及び制御ユニット5のデータ処理能力や、通信端末4と制御ユニット5との間の通信速度によって制限される。
【0114】
(4)本発明で算定され、設定される走行経路は、自動走行の目標走行経路として用いられるが、手動走行の目標走行経路として用いることも可能である。つまり、本発明は、自動走行のみならず手動走行にも適用可能であり、もちろん、自動走行と手動走行とを混在させた運用も可能である。
【0115】
(5)上述の実施形態では、管理センタKSから送られてくる圃場情報に、そもそも圃場周辺の地形図が含まれており、圃場の境界に沿った周回走行によって、圃場の外形状及び外形寸法の精度を向上させる例を示した。しかし、圃場情報には圃場周辺の地形図、少なくとも圃場の地形図が含まれておらず、周回走行によって初めて、圃場の外形状及び外形寸法が算定されるように構成してあっても良い。また、管理センタKSから送られてくる圃場情報や作業計画書の内容や、通信端末4を通じて入力される項目は、上述した形態のものに限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0116】
(6)上述の実施形態では、
図6に示されているように、メッシュ経路要素算出部601とは別に、短冊経路要素算出部602が備えられ、短冊経路要素算出部602によって、作業対象領域CAを網羅する平行直線群である走行経路要素群が算出される例を示した。しかし、短冊経路要素算出部602を備えずに、メッシュ経路要素算出部601によって算出されたメッシュ状の直線群である走行経路要素を用いて、直線往復走行を実現しても良い。
【0117】
(7)上述の実施形態では、協調走行制御が行われている際に、監視者の目視結果に基づいて、スレーブ収穫機1sの車両走行機器群71や作業装置機器群72のパラメータを変更する例を示した。しかし、マスタ収穫機1mやスレーブ収穫機1sに搭載されたカメラによって撮影された映像(動画や一定間隔で撮影される静止画)がマスタ収穫機1mに搭載されたモニタ等に映し出されるように構成し、監視者がこの映像を見て、スレーブ収穫機1sの作業状況を判断し、車両走行機器群71や作業装置機器群72のパラメータを変更しても良い。あるいは、マスタ収穫機1mのパラメータが変更されるのに連動して、スレーブ収穫機1sのパラメータが変更されるように構成しても良い。
【0118】
(8)上述の実施形態では、協調して作業走行する複数の収穫機1は、同じ走行パターンで自動走行するように構成した例を示したが、異なる走行パターンで自動走行するように構成することも可能である。
【0119】
(9)上述の実施形態では、2台の収穫機1によって協調自動走行を行う例を示したが、3台以上の収穫機1による協調自動走行も、同様の作業車自動走行システム及び走行経路管理装置によって実現可能である。
【0120】
(10)
図3では、走行経路要素群の一例として、作業対象領域CAを短冊状に分割する多数の平行直線を走行経路要素とする走行経路要素群が示されている。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、
図30に示す走行経路要素群は、湾曲した平行線を走行経路要素としている。このように、本発明に係る「平行線」は湾曲していても良い。また、本発明に係る「平行線群」には、湾曲した平行線が含まれていても良い。
【0121】
(11)
図4では、走行経路要素群の一例として、作業対象領域CAをメッシュ分割する、縦横方向に延びた多数のメッシュ分割直線からなる走行経路要素群が示されている。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、
図31に示す走行経路要素群では、紙面における横方向のメッシュ分割線は直線であり、紙面における縦方向のメッシュ分割線は湾曲している。また、
図32に示す走行経路要素群では、紙面における横方向のメッシュ分割線及び縦方向のメッシュ分割線は、いずれも湾曲している。このように、メッシュ分割線は湾曲していても良い。また、メッシュ分割線群には、湾曲したメッシュ分割線が含まれていても良い。
【0122】
(12)上述の実施形態では、直線状の走行経路要素に沿った走行と、Uターン走行と、を繰り返すことにより、直線往復走行が行われる。しかしながら、本発明はこれに限定されず、
図30から
図32に示すような湾曲した走行経路要素に沿った走行と、Uターン走行と、を繰り返すことにより、往復走行が行われるように構成されていても良い。