特許第6891108号(P6891108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6891108認知症の予防及び/又は治療のための医薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6891108
(24)【登録日】2021年5月28日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】認知症の予防及び/又は治療のための医薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20210607BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   A61K31/519
   A61P25/28
【請求項の数】14
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2017-502378(P2017-502378)
(86)(22)【出願日】2016年2月23日
(86)【国際出願番号】JP2016055226
(87)【国際公開番号】WO2016136727
(87)【国際公開日】20160901
【審査請求日】2019年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-34426(P2015-34426)
(32)【優先日】2015年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(73)【特許権者】
【識別番号】321000266
【氏名又は名称】西野 武士
(73)【特許権者】
【識別番号】321000277
【氏名又は名称】岡本 研
(73)【特許権者】
【識別番号】000228590
【氏名又は名称】日本ケミファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】西野 武士
(72)【発明者】
【氏名】加藤 信介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀典
(72)【発明者】
【氏名】岡本 研
【審査官】 金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−510827(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/121153(WO,A1)
【文献】 VON DEUTSCH, Daniel A et al.,Is Xanthine Oxidase a Factor in Alzheimer's Dementia?,FASEB Journal,2004年,Vol.18, No.4-5,p.A933, 617.6
【文献】 HUANG, X. et al.,Effects of oxidative stress-mediated cell death on Aβ production,Society for Neuroscience Abstracts,2001年,Vol.27, No.2,p.1521, 584.13
【文献】 SHIROLE, T. et al.,4-Methylesculetin a dual acting inhibitor of acetylcholinest erase and xanthine oxidase,Clinical Therapeutics,2013年,Vol.35, No.8,p.e100, PP264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/519
A61P 25/28
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I)で表される化合物、該化合物の互変異性体、立体異性体、若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの結晶若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、認知症の予防及び/又は治療のための医薬。
【化1】
(式中、
1は炭素数1〜8のアルキル基、1〜3個のハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基、−OR4又は−CO25を表し、ここで、R4は水素原子、又は置換基としてハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、若しくはシアノ基から選ばれる基若しくは原子を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基(アリール部分の炭素数は6〜10で、アルキル部分の炭素数1〜4)、炭素数2〜9のアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基(アリール部分の炭素数は6〜10)、アラルキルカルボニル基(アリール部分の炭素数は6〜10で、アルキルカルボニル部分の炭素数は2〜5)若しくは炭素数6〜10のアリール基を表し、R5はそれぞれ独立に水素原子又は置換基としてハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、若しくはアミノ基から選ばれる基若しくは原子を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基(アリール部分の炭素数は6〜10で、アルキル部分の炭素数1〜4)、若しくは炭素数6〜10のアリール基を表し、nは0〜2の整数を表し、
2は水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ホルミル基、炭素数1〜8のアルキル基、1〜3個のハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基、又はCO27を表し、ここでR7は上記のR5と同じものを表し、
3は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、CO28、PO3H、PO(OH)(OR9)、S(O)m10、又は置換基としてハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、若しくはアミノ基から選ばれる基若しくは原子を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基若しくはアルキルアミノカルボニル基、(アルキル基の炭素数は1〜8)を表し、ここでR8、R9、及びR10は上記のR5と同じものを表し、mは上記nと同じものを表し、
XはNR11、酸素原子、又は硫黄原子を表し、ここで、R11は水素原子又は置換基としてハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、若しくはアミノ基から選ばれる基若しくは原子を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基を表し、そして、
Y及びZは窒素原子を表し、ここで、R12は上記のR3と同じものを表す。)
【請求項2】
1がOR4である、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
4がハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、若しくはシアノ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基である、請求項2に記載の医薬。
【請求項4】
1がハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、若しくはシアノ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルコキシ基又はフェノキシ基である、請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項5】
2がニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、又はカルボキシル基である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項6】
3が水素原子、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子、又はカルボキシル基である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項7】
Xが酸素原子又は硫黄原子である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項8】
1がハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、若しくはシアノ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルコキシ基又はフェノキシ基であり、R2がニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、又はカルボキシル基であり、R3が水素原子、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子、又はカルボキシル基であり、Xが酸素原子又は硫黄原子である、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項9】
1が炭素数1〜5のアルコキシ基又はフェノキシ基であり、R2がシアノ基であり、R3が水酸基であり、Xが酸素原子又は硫黄原子である、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項10】
認知症が、アルツハイマー型認知症である、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項11】
次の(ア)〜(ウ)及び(カ)〜(ホ)で表される化合物、該化合物の互変異性体、立体異性体、若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの結晶若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、認知症の予防及び/又は治療のための医薬:
(ア)5−(7−ヒドロキシオキサゾロ[5,4−d]ピリミジン−2−イル)−2−メトキシベンゾニトリル
【化2】
(イ)5−(7−ヒドロキシチアゾロ[5,4−d]ピリミジン−2−イル)−2−フェノキシベンゾニトリル
【化3】
(ウ)2−[4−(2−フルオロフェノキシ)−3−ニトロ-フェニル)チアゾロ[5,4−d]ピリミジン−7−オール
【化4】
(カ)2−[4−(4−フルオロフェノキシ)−3−シアノフェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(キ)2−(3−シアノ−4−フェノキシフェニル)チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(ク)2−[3−シアノ−4−(3−ピリジルオキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(ケ)8−[3−シアノ−4−(4−フルオロフェノキシ)フェニル]−9H−プリン;
(コ)2−[3−シアノ−4−(2−フルオロフェノキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(サ)2−[3−シアノ−4−(3−フルオロフェノキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(シ)2−[3−シアノ−4−(4−フルオロフェニルチオ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(ス)2−[3−シアノ−4−(2−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(セ)2−[4−(4−クロロフェニルオキシ)−3−シアノフェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(ソ)2−[3−シアノ−4−(2−フルオロフェニルチオ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(タ)2−(3−シアノ−4−フェニルチオフェニル)チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(チ)2−(4−アリルオキシ−3−シアノフェニル)チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(ツ)2−(3−シアノ−4−モルホリン−4‐イルフェニル)チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(テ)2−[3−シアノ−4−(4−メチル−1−ピペラジニル)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(ト)2−[4−(3−クロロフェニルオキシ)−3−シアノフェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(ナ)2−[3−シアノ−4−(チオモルホリン−4−イル)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(ニ)2−[4−(2−クロロフェニルオキシ)−3−シアノフェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(ヌ)2−[3−シアノ−4−(4−フルオロフェノキシ)フェニル]オキサゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(ネ)2−[3−シアノ−4−(3−フルオロフェニルチオ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(ノ)2−[4−(2−アミノフェノキシ)−3−シアノフェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(ハ)2−[3−シアノ−4−(3−ピリジルオキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン 塩酸塩;
(ヒ)2−[3−シアノ−4−(4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(フ)2−[3−シアノ−4−(2−ヒドロキシカルボニルフェノキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン;
(ヘ)2−[3−シアノ−4−(2−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン カリウム塩及び
(ホ)2−[3−シアノ−4−(4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン カリウム塩。
【請求項12】
5−(7−ヒドロキシオキサゾロ[5,4−d]ピリミジン−2−イル)−2−メトキシベンゾニトリル:
【化5】
該化合物の互変異性体、立体異性体、若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの結晶若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、認知症の予防及び/又は治療のための医薬。
【請求項13】
5−(7−ヒドロキシチアゾロ[5,4−d]ピリミジン−2−イル)−2−フェノキシベンゾニトリル:
【化6】
該化合物の互変異性体、立体異性体、若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの結晶若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、認知症の予防及び/又は治療のための医薬。
【請求項14】
2−[4−(2−フルオロフェノキシ)−3−ニトロ-フェニル)チアゾロ[5,4−d]ピリミジン−7−オール:
【化7】
該化合物の互変異性体、立体異性体、若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの結晶若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、認知症の予防及び/又は治療のための医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は認知症の予防及び/又は治療のための医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、社会人口に占める高齢者比率の増加に伴い、高齢者の認知症が社会問題化している。認知症は、大きく、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症に分類され、特に患者が多く、対策の困難なアルツハイマー型認知症が問題となっている。
【0003】
脳における神経原線維変化と老人斑の増加は、アルツハイマー型認知症の原因と考えられている。(Jack CR et al. (2010) Progress of Alzheimer disease. Lancet neurol. 9. 119, 2010)
脳の中でも、大脳辺縁系が記憶に重要な役割を担っており、特に海馬と乳頭体は、記憶を司る重要な器官である。
【0004】
これまでに、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン等のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、及び、NMDA受容体拮抗剤であるメマンチンがアルツハイマー型認知症の症状の改善のために臨床使用されているが、未だ、十分な治療効果は得られていない。
【0005】
これらの他に、アルツハイマー型認知症の臨床治験として、アミロイドワクチンであるAN1792(Elan製薬)、HMG−CoA還元酵素阻害剤であるアトルバスタチン(ファイザー)及びシンバスタチン(メルク)、抗ヒスタミン剤であるディメボン(Dimebon、ファイザー)、NSAIDsであるタレンフルルビル(Tarenflurbil、ミリアッド)、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤であるフェンセリン(Phenserine、Axonyx社)、PPARγアゴニストであるロシグリタゾン(rosiglitazone、グラクソスミスクライン)、アミロイドβ重合阻害剤であるトラミプロセート(Tramiprosate、Neurochem社)、セロトニン1A受容体アゴニストであるザリプロデン(Xaliproden、サノフィ)、βアミロイドのN末端に対する抗体であるバピネオズマブ(Bapineuzumab、ファイザー)、βアミロイドの中央部分をエピトープとするモノクローナル抗体であるソラネズマブ(Solanezumab、イーライリリー)、βアミロイドタンパクの生成に関与するγセクレターゼの阻害剤であるセマガセスタット(Semagacestat、イーライリリー)などの臨床治験が行われてきたが、いずれも有効性や副作用の問題からアルツハイマー型認知症に対する有用性を示すことができなかった。
【0006】
現在、βアミロイドタンパクの生成に関与するβセクレターゼの阻害剤であるAZD3293(アストラゼネカ、イーライリリー)、セロトニン5-HT6受容体拮抗剤であるLuAE58054(ルンドベック、大塚製薬)、βアミロイドのペプチドワクチンであるLuAF20513(ルンドベック、大塚製薬)の開発がすすめられているが、ほとんどのアルツハイマー症治療薬の臨床開発が失敗したことに鑑みると、成功の保証は全くない。
【0007】
一方、アロプリノール(Journal of the American Chemical Society (1956), 78, 784-90.、Journal of the Chemical Society (1958), 2973-81.)、オキシプリノール(Bulletin des Travaux de la Societe de Pharmacie de Bordeaux (1928), 66, 8-12.、Berichte der Deutschen Chemischen Gesellschaft (1911), 44, 2155-8.)、フェブキソスタット(特許第2725886号、特許第2706037号、特許第3202607号)、トピロキソスタット(特許第3600832号、特許第3779725号、特開2005-041802号公報)などのキサンチンオキシダーゼ阻害剤は、一般的には高尿酸血症の治療に役立つと考えられている薬剤である。これらの物質は、いずれも、キサンチンの誘導体を作製する過程で得られた化合物である。
【0008】
キサンチンオキシダーゼ阻害剤と認知症との関係については、特表2007-533751号公報と特開2003-201255号公報があり、他に先行技術は見つかっていない。
【0009】
特表2007-533751号公報では、請求項25において活性酸素生成酵素阻害剤によるアルツハイマー病患者の処置法に言及しており、活性酸素生成酵素阻害剤として、キサンチンオキシダーゼ阻害剤が例示されている。しかしながら、具体的な開示があるのは、nNOS欠損ラット由来の単離した心筋細胞の収縮の指標である筋節長及び心収縮期カルシウムトランジエントに対する、アロプリノール及びニトロ化アロプリノールの効果(特表2007-533751号公報;図1)のみである。しかも、心不全(請求項6)、安定狭心症(請求項8)、虚血性再灌流傷害(請求項10)、鎌状赤血球疾患(請求項12)、心不全、骨格筋力低下および呼吸不全(請求項17)、アテローム性動脈硬化症(請求項20)、パーキンソン病(請求項22)、糖尿病関連下肢痛(請求項27)、ALS(請求項29)、喘息(請求項31)と同列にアルツハイマー病治療用途が記載されているので、活性酸素生成酵素阻害剤の万能な効能の一つとしてアルツハイマー病にも効くと言っているに等しい。特表2007-533751号公報中のアルツハイマー病に関する記載としては、作業例XIに「アルツハイマー病の65歳患者が、300mg/日 ニトロ化アロプリノール(16)を開始する。彼の記憶および認知機能は3ヶ月後安定化する。」と記載されているものの、具体的な投与回数や具体的な認知機能改善指標の記載を伴う記載ではない。しかも、現在形のいわゆる予言的な記載であり、作用メカニズムには言及されていないばかりか、ニトロ化アロプリノールがキサンチンオキシダーゼ阻害活性を有することも確認されていないのであるから、活性酸素生成酵素阻害剤の効能として敷衍することはできない。
【0010】
特開2003-201255号公報においては、ラット初代培養神経細胞とマウス神経芽腫の融合細胞であるF11細胞株にエクダイソン受容体EcRと、その感受性を上げるためのレチノイドX受容体の両方を安定に過剰発現させ、さらに、エクダイソン添加によってγ セクレターゼの触媒サブユニットであるプレセニリン2の家族性アルツハイマー病の原因となる変異体であるプレセニリン2のN141I変異体を発現するプラスミドで形質転換した神経細胞を用意して、エクダイソン添加による神経細胞死を検討している。その結果、(1)キサンチンオキシダーゼ阻害剤である100μMのオキシプリノール及びカスパーゼ阻害剤である100μMのアセチル−L−アスパルチル−L−グルタミル−L−バリル−L−アスパルト−1−アールの同時添加、(2)キサンチンオキシダーゼ阻害剤である100nMの(−)−4−ヒドロキシ−8−(3−メトキシ−4−フェニルスルフィニルフェニル)ピラゾロ[1,5−a]−1,3,5−トリアジン・ナトリウム塩及びカスパーゼ阻害剤である100μMのアセチル−L−アスパルチル−L−グルタミル−L−バリル−L−アスパルト−1−アールの同時添加、(3)キサンチンオキシダーゼ阻害剤である100μMのオキシプリノール及びNADPHオキシダーゼ阻害剤である300μMのアポシニン(APOCYNINE)の同時添加によって神経細胞死が抑制されたことから、キサンチンオキシダーゼ阻害剤と、NADPHオキシダーゼ阻害剤及び/又はカスパーゼ阻害剤とを有効成分として含有することを特徴とするアルツハイマー病予防及び治療剤を提案している。
【0011】
しかしながら、特開2003-201255号公報においては、キサンチンオキシダーゼ阻害剤単独では、神経細胞死の抑制は全く観察されていないので、キサンチンオキシダーゼ阻害剤単独の効果であるとは言えない。また、特開2003-201255号公報の記載は、細胞レベルでの検討結果に過ぎないので、動物個体において、神経細胞の変性や減少を防止ないし改善できるかどうかについては全く不明である。さらに、特開2003-201255号公報の記載からは、脳の認知機能に関与する部位の変性を防止したり、現実の認知機能の低下を防止しうることは確認できないので、キサンチンオキシダーゼ阻害剤が認知症の予防及び/又は治療をし得るかどうかは全く不明である。
【0012】
他に、キサンチンオキシダーゼ阻害剤と認知症との関係について言及した先行技術は知られていない。したがって、キサンチンオキシダーゼ阻害剤が、認知症の認知機能の予防及び/又は治療に単剤で用い得ることを記載する先行技術は知られていない。
【0013】
なお、国際公開WO2003/42185及び国際公開WO2005/121153にはキサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する化合物が開示されており、これらの化合物が高尿酸血症及び痛風の予防又は治療剤として有用であることが教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2007-533751号公報
【特許文献2】特開2003-201255号公報
【特許文献3】国際公開WO2003/42185
【特許文献4】国際公開WO2005/121153
【特許文献5】特許第3600832号
【特許文献6】特許第2725886号
【特許文献7】特許第2706037号
【特許文献8】特許第3202607号
【特許文献9】特許第3779725号
【特許文献10】特開2005-041802号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Jack CR et al. (2010) Progress of Alzheimer disease. Lancet neurol. 9. 119, 2010
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society (1956), 78, 784-90.
【非特許文献3】Journal of the Chemical Society (1958), 2973-81.
【非特許文献4】Bulletin des Travaux de la Societe de Pharmacie de Bordeaux (1928), 66, 8-12.
【非特許文献5】Berichte der Deutschen Chemischen Gesellschaft (1911), 44, 2155-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、認知症の予防及び/又は治療のための医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
アルツハイマー病の病因・病態として、脳内にアミロイドβペプチド(Aβ)を中核的蛋白質とするアミロイド老人斑が過剰に蓄積する病理所見と、微小管結合タンパク質の一つであるタウ蛋白質(tau protein)を中核的蛋白質とする神経原線維が多数出現する病理所見の両者が最も病理学的には重要視されている。この病理学的所見に基づいて、ヒトアルツハイマー病のアミロイドβ(Aβ)前駆体タンパク質の695アミノ酸をコードする遺伝子のスウェーデン変異を有する遺伝子と、ヒトタウタンパク質遺伝子の301番目のプロリンがロイシンに変異した(P301L)の変異遺伝子との両ヒト遺伝子を高発現するダブルトランスジェニックマウスが遺伝子工学的に開発されている。このアルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスは、正常マウスには決して出現しないヒト老人斑とヒト神経原線維変化の出現という病理組織像が認められる。
【0018】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、このアルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスを使用し、一般的には高尿酸血症の治療に役立つと考えられているキサンチンオキシダーゼ阻害剤である下記一般式(I)で表される化合物をアルツハイマー病モデルマウスに生後1年経過後1年間にわたって投与して組織学的な検討を行ったところ、驚くべきことに、この化合物がアルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおいて老人斑と神経原線維変化の両者の出現を有意に抑制することを見出した。この知見を基にして、本発明者らは上記の化合物が認知症の予防及び/又は治療のための医薬の有効成分として有用であることを確認して本発明を完成した。
【0019】
本発明は、以下の発明を包含する。
[A1]次の一般式(A)で表される化合物、該化合物の互変異性体、立体異性体、若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの結晶若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、認知症の予防及び/又は治療のための医薬。
【化1】
(式中、
は炭素数1〜8のアルキル基、1〜3個のハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基、OR、CO、S(O)、又は水素原子を表し、ここで、Rは水素原子、又は置換基としてハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、若しくはシアノ基から選ばれる基若しくは原子を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基(アリール部分の炭素数は6〜10で、アルキル部分の炭素数1〜4)、炭素数2〜9のアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基(アリール部分の炭素数は6〜10)、アラルキルカルボニル基(アリール部分の炭素数は6〜10で、アルキルカルボニル部分の炭素数は2〜5)若しくは炭素数6〜10のアリール基を表し、R及びRは水素原子又は置換基としてハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、若しくはアミノ基から選ばれる基若しくは原子を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基(アリール部分の炭素数は6〜10で、アルキル部分の炭素数1〜4)、若しくは炭素数6〜10のアリール基を表し、nは0〜2の整数を表し、
は水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ホルミル基、炭素数1〜8のアルキル基、1〜3個のハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基、又はCOを表し、ここでRは上記のRと同じものを表し、
Xは炭素原子、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子を表し、
は炭素原子又は窒素原子を表し、
及びZはそれぞれ独立に炭素原子、窒素原子、又はイオウ原子を表し、
及びLは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数4〜9のヘテロアリール基を表すか、あるいはL及びLが互いに結合して、それらが結合する5員環と一緒になって2環式のヘテロアリール環を形成してもよく、さらに該2環式ヘテロアリール環は、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、CO、POH、PO(OH)(OR)、S(O)10、又は置換基としてハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、若しくはアミノ基から選ばれる基若しくは原子を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基若しくはアルキルアミノカルボニル基、(アルキル基の炭素数は1〜8)で置換されていてもよく、ここでR、R、及びR10は上記のRと同じものを表し、mは上記nと同じものを表す。)
【0020】
[A2]Zが窒素原子または炭素原子であり、かつRがOR(Rは置換基としてハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、若しくはシアノ基から選ばれる基若しくは原子を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基である)又は水素原子である、上記[1]に記載の医薬。
[A3]Rが炭素数1〜8のアルキル基又はフェニル基である、上記[A2]に記載の医薬。
[A4]Rがニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、又はカルボキシル基である、上記[A1]〜[A3]のいずれかに記載の医薬。
[A5]Rがシアノ基である、上記[A4]に記載の医薬。
【0021】
[A6]Zが炭素原子であり、Zが炭素原子又は窒素原子である、上記[A1]〜[A5]のいずれかに記載の医薬。
[A7]Lが炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数4〜9のヘテロアリール基であり、L2が水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基である、上記[A1]〜[A6]のいずれかに記載の医薬。
[A8]Lがフェニル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、3−ピリダジニル基、4−ピリダジニル基、2−ピリミジニル基、4−ピリミジニル基、又は5−ピリミジニル基であり、かつL2が水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基であるか、あるいはL及びLが互いに結合して、それらが結合する5員環と一緒になって、チアゾロ[5,4-d]ピリミジン、オキサゾロ[5,4-d]ピリミジン、7H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン、9H-プリン、チアゾロ[4,5-d]ピリダジン、オキサゾロ[4,5-d]ピリダジン、7H-イミダゾ[4,5-d]ピリダジン、チアゾロ[5,4-c]ピリダジン、オキサゾロ[5,4-c]ピリダジン、7H-イミダゾ[4,5-c]ピリダジン、チアゾロ[4,5-d]トリアジン、オキサゾロ[4,5-d]トリアジン、又は7H-イミダゾ[4,5-d]トリアジンから選択される2環式ヘテロアリール環を形成してもよく、さらに該2環式ヘテロアリール環は、水酸基、又は置換基として水酸基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基で置換されていてもよい、上記[A1]〜[A7]のいずれかに記載の医薬。
[A9]Xが硫黄原子又は窒素原子である、上記[A1]〜「A8」のいずれかに記載の医薬。
[A10]Xが窒素原子であり、Zが炭素原子であり、Lが4−ピリジル基であり、Zが窒素原子であり、L2が水素原子である、上記[A1]〜[A9]のいずれかに記載の医薬。
[A11]Xが硫黄原子であり、ZとZが共に炭素原子であり、LとL2が一緒になって、チアゾロ[5,4-d]ピリミジン 、オキサゾロ[5,4-d]ピリミジン 、7H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン、又は9H-プリンから選択される2環式ヘテロアリール環を形成してもよく、さらに該2環式ヘテロアリール環は、水酸基で置換されていてもよい、上記[A1]〜[A10]のいずれかに記載の医薬。
【0022】
[A12]上記[A1]〜[A11]のいずれかに記載の医薬の製造のための、上記[A1]〜[A11]のいずれかに記載の一般式(A)で表される化合物、該化合物の互変異性体、立体異性体、若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの結晶若しくは溶媒和物の使用
[A13]認知症の予防及び/又は治療のための、上記[A1]〜[A11]のいずれかに記載の一般式(A)で表される化合物、該化合物の互変異性体、立体異性体、若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの結晶若しくは溶媒和物の使用。
[A14]ヒトにおける認知症を予防及び/又は治療する方法であって、前記方法が予防及び/又は治療有効量の上記[A1]〜[A11]のいずれかに記載の一般式(A)で表される化合物、該化合物の互変異性体、立体異性体、若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの結晶若しくは溶媒和物をヒトに投与する工程を含む方法。
[A15]大型老人斑もしくは中型老人斑の数又は神経原繊維変化を有する神経細胞の数の増加を抑制するための、及び/又は該数を減少させるための医薬の製造のための、上記[A1]〜[A11]のいずれかに記載の一般式(I)で表される化合物、該化合物の互変異性体、立体異性体、若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの結晶若しくは溶媒和物の使用。
【0023】
[A16]認知症が、アルツハイマー型認知症である、上記[A1]〜[A15]のいずれかに記載の医薬、使用、又は方法。
【0024】
[B1]次の一般式(I)で表される化合物、該化合物の互変異性体、立体異性体、若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの結晶若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、認知症の予防及び/又は治療のための医薬。
【化2】
(式中、
は炭素数1〜8のアルキル基、1〜3個のハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基、−OR、−CO、又は−S(O)を表し、ここで、Rは水素原子、又は置換基としてハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、若しくはシアノ基から選ばれる基若しくは原子を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基(アリール部分の炭素数は6〜10で、アルキル部分の炭素数1〜4)、炭素数2〜9のアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基(アリール部分の炭素数は6〜10)、アラルキルカルボニル基(アリール部分の炭素数は6〜10で、アルキルカルボニル部分の炭素数は2〜5)若しくは炭素数6〜10のアリール基を表し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基としてハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、若しくはアミノ基から選ばれる基若しくは原子を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基(アリール部分の炭素数は6〜10で、アルキル部分の炭素数1〜4)、若しくは炭素数6〜10のアリール基を表し、nは0〜2の整数を表し、
は水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ホルミル基、炭素数1〜8のアルキル基、1〜3個のハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基、又はCOを表し、ここでRは上記のRと同じものを表し、
は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、CO、POH、PO(OH)(OR)、S(O)10、又は置換基としてハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、若しくはアミノ基から選ばれる基若しくは原子を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基若しくはアルキルアミノカルボニル基、(アルキル基の炭素数は1〜8)を表し、ここでR、R、及びR10は上記のRと同じものを表し、mは上記nと同じものを表し、
XはNR11、酸素原子、又は硫黄原子を表し、ここで、R11は水素原子又は置換基としてハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、若しくはアミノ基から選ばれる基若しくは原子を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基を表し、そして、
Y及びZはCR12又は窒素原子を表し、ここで、R12は上記のRと同じものを表す。)
【0025】
[B2]RがORである、上記[B1]に記載の医薬。
[B3]Rがハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、若しくはシアノ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基である、上記[B2]に記載の医薬。
[B4]Rがハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、若しくはシアノ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルコキシ基又はフェノキシ基である、上記[B1]又は[B2]に記載の医薬。
[B5]Rがニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、又はカルボキシル基である、上記[B1]〜[B4]のいずれかに記載の医薬。
[B6]Rが水素原子、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子、又はカルボキシル基である、上記[B1]〜[B5]のいずれかに記載の医薬。
【0026】
[B7]Xが酸素原子又は硫黄原子である、上記[B1]〜[B6]のいずれかに記載の医薬。
[B8]Y及びZが共に窒素原子である、上記[B1]〜[B7]のいずれかに記載の医薬。
[B9]Rがハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、若しくはシアノ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルコキシ基又はフェノキシ基であり、Rがニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、又はカルボキシル基であり、Rが水素原子、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子、又はカルボキシル基であり、Xが酸素原子又は硫黄原子であり、Y及びZが共に窒素原子である、上記[B1]〜[B8]のいずれかに記載の医薬。
[B10]Rが炭素数1〜5のアルコキシ基又はフェノキシ基であり、Rがシアノ基であり、Rが水酸基であり、Xが酸素原子又は硫黄原子であり、Y及びZが共に窒素原子である、上記[B1]〜[B9]のいずれかに記載の医薬。
【0027】
[B11]下記(ア)〜(ホ)のいずれかの医薬。
(ア)5-(7-ヒドロキシオキサゾロ[5,4-d]ピリミジン-2-イル)-2-メトキシ-ベンゾニトリル
【化3】
(イ)5-(7-ヒドロキシチアゾロ[5,4-d]ピリミジン-2-イル)-2-フェノキシ-ベンゾニトリル
【化4】
(ウ)2-[4-(2-フルオロフェノキシ)-3-ニトロ-フェニル]チアゾロ [5,4-d]ピリミジン-7-オール
【化5】
(カ)2−[4−(4−フルオロフェノキシ)−3−シアノフェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(キ)2−(3−シアノ−4−フェノキシフェニル)チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(ク)2−[3−シアノ−4−(3−ピリジルオキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(ケ)8−[3−シアノ−4−(4−フルオロフェノキシ)フェニル]−9H−プリン
(コ)2−[3−シアノ−4−(2−フルオロフェノキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(サ)2−[3−シアノ−4−(3−フルオロフェノキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(シ)2−[3−シアノ−4−(4−フルオロフェニルチオ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(ス)2−[3−シアノ−4−(2−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(セ)2−[4−(4−クロロフェニルオキシ)−3−シアノフェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(ソ)2−[3−シアノ−4−(2−フルオロフェニルチオ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(タ)2−(3−シアノ−4−フェニルチオフェニル)チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(チ)2−(4−アリルオキシ−3−シアノフェニル)チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(ツ)2−(3−シアノ−4−モルホリン−4‐イルフェニル)チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(テ)2−[3−シアノ−4−(4−メチル−1−ピペラジニル)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(ト)2−[4−(3−クロロフェニルオキシ)−3−シアノフェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(ナ)2−[3−シアノ−4−(チオモルホリン−4−イル)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(ニ)2−[4−(2−クロロフェニルオキシ)−3−シアノフェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(ヌ)2−[3−シアノ−4−(4−フルオロフェノキシ)フェニル]オキサゾロ[5,4−d]ピリミジン
(ネ)2−[3−シアノ−4−(3−フルオロフェニルチオ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(ノ)2−[4−(2−アミノフェノキシ)−3−シアノフェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(ハ)2−[3−シアノ−4−(3−ピリジルオキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン 塩酸塩
(ヒ)2−[3−シアノ−4−(4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(フ)2−[3−シアノ−4−(2−ヒドロキシカルボニルフェノキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン
(ヘ)2−[3−シアノ−4−(2−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン カリウム塩
(ホ)2−[3−シアノ−4−(4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]チアゾロ[5,4−d]ピリミジン カリウム塩
【0028】
[B12]上記[B1]〜[B11]のいずれかに記載の医薬の製造のための、上記[B1]〜[B10]のいずれかに記載の一般式(I)で表される化合物、該化合物の互変異性体、立体異性体、若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの結晶若しくは溶媒和物の使用。
[B13]認知症の予防及び/又は治療のための、上記[B1]〜[B11]のいずれかに記載の一般式(I)で表される化合物、該化合物の互変異性体、立体異性体、若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの結晶若しくは溶媒和物の使用。
[B14]ヒトにおける認知症を予防及び/又は治療する方法であって、前記方法が予防及び/又は治療有効量の上記[B1]〜[B11]のいずれかに記載の一般式(I)で表される化合物、該化合物の互変異性体、立体異性体、若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの結晶若しくは溶媒和物をヒトに投与する工程を含む方法。
[B15]大型老人斑もしくは中型老人斑の数又は神経原繊維変化を有する神経細胞の数の増加を抑制するための、及び/又は該数を減少させるための医薬の製造のための、上記[B1]〜[B11]のいずれかに記載の一般式(I)で表される化合物、該化合物の互変異性体、立体異性体、若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの結晶若しくは溶媒和物の使用。
【0029】
[B16]認知症が、アルツハイマー型認知症である、上記[B1]〜[B15]のいずれかに記載の医薬、使用、又は方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明の医薬は、老人斑と神経原線維変化の両者の出現を顕著に抑制することができるので、アルツハイマー型認知症の予防及び/又は治療のための医薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】アルツハイマー(Alzheimer)病モデルマウスへの薬剤投与プロトコールを示す模式図である。アルツハイマー病が発症し、且つアルツハイマー病との臨床的確定診断をもって治療薬の投与を開始する実際のヒトにおける臨床治験方法を考慮して、アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの投与方法をデザインした。即ち、生後1年齢の時点までは経過観察を行い、アルツハイマー病を病理組織学的に発症した生後1年齢の時点から、化合物A治療群には化合物Aの 5 mg/kgを胃ゾンデを用いて連日経口投与した。0.5%メチルセルロースコントロール群 には0.5%メチルセルロースのみをマウス体重1kg当たり10mL(10mL/kg) を胃ゾンデを用いて連日経口投与した。約1年間投与した生後730-745日齢の時点でマウスを安楽死させて臓器組織のサンプリング(Sampling)を行った。
図2】アルツハイマー(Alzheimer)病の中枢神経系の病理組織像を示した図である。左図はヒトアルツハイマー病、右図はアルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの病態を示す。ヒトアルツハイマー病の神経病理組織学的hallmarkである老人斑(Senile Plaque) と神経原線維(Neurofibrillary Tangle)変化を惹起され、神経病理学的には全く同一構造物である老人斑と神経原線維変化を有する神経細胞がアルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおいても認められる(右図)。老人斑(Senile Plaque)は、抗アミロイドβ-プロテイン(1-40)マウスモノクローナル抗体(クローンNo.BA27)と抗アミロイドβ-プロテイン(1-42)マウスモノクローナル抗体(クローンNo.BC05)にて検出した。神経原線維変化は、抗リン酸化タウ蛋白(phosphorylated tau protein; PHF-tau) マウスモノクローナル抗体(クローン:AT8) にて検出した。
図3】薬剤治療効果の評価方法のスキームを示した図である。アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの大脳割面において、老人斑(Senile Plaque)の個数に関しては、HE染色に加えて、Aβ40とAβ42のアミロイドβ蛋白質の免疫組織化学的染色をもって評価した。神経原線維(Neurofibrillary Tangle)変化を惹起した神経細胞の個数に関しては、AT8(リン酸化タウ蛋白質)の免疫組織化学的染色をもって評価した。
図4】老人斑(Senile Plaque)の大きさの評価方法を示した図である。ヒトアルツハイマー病においては、老人斑(Senile Plaque)はアルツハイマー病の進行とともに多数出現し、各老人斑はアルツハイマー病の進行とともに成長するので、老人斑数と老人斑の大きさ(老人斑の成長度合い)との二つの要素を考慮して検索した。老人斑の大きさについての評価方法は、老人斑の直径が100 μm以上を大型老人斑(大型SP)、直径が50μm以下を小型老人斑(小型SP)、老人斑の直径が50μmと100 μmの中間であった老人斑を中型老人斑(中型SP)とに分類したうえで、それぞれの数を計測した。
図5】0.5%メチルセルロース(Placebo)投与コントロール群の海馬におけるHE染色、Aβ40免疫染色、Aβ42免疫染色の結果を示した図である。矢印で老人斑の位置を示している。多数の大型化した老人斑が確認できる。
図6】化合物A治療群の海馬におけるHE染色、Aβ40免疫染色、Aβ42免疫染色の結果を示した図である。矢印で老人斑の位置を示している。0.5%メチルセルロース(Placebo)投与コントロール群に比べて、化合物A治療群では、大きな老人斑が明らかに少ない。
図7】化合物A投与群とコントロール(Control)群における老人斑(Senile Plaque)の大きさに基づいた老人斑数を示した図である。老人斑の大きさは、老人斑の直径が100 μm以上を大型老人斑(大SP)、直径が50μm以下を小型老人斑(小SP)、老人斑の直径が50μmと100 μmの中間であった老人斑を中型老人斑(中SP)として分類した。図中において、「化合物A大SP」は化合物Aを投与した群の大型老人斑の数を、「Control大SP」はプラセボを投与した群の大型老人斑の数を、「化合物A中SP」は化合物Aを投与した群の中型老人斑の数を、「Control中SP」はプラセボを投与した群の中型老人斑の数を、「化合物A小SP」は化合物Aを投与した群の小型老人斑の数を、「Control小SP」はプラセボを投与した群の小型老人斑の数を、夫々表す。化合物A投与群において特に大型・中型の各老人斑の形成が有意に抑制されており(*p<0.05)、化合物A投与によって老人斑の成長(=大型化)が有意に抑制されていることが分かる。
図8】対照群の扁桃核と視床下部における神経原線維変化のコア蛋白質であるリン酸化タウ蛋白質を同定するAT8免疫染色の結果を示した図である。左:扁桃核と視床下部の弱拡大像。右:扁桃核と視床下部のそれぞれの部位の強拡大像。AT8免疫染色強陽性神経原線維変化を有する神経細胞が扁桃核と視床下部に多数認められる。
図9】化合物A投与群の扁桃核と視床下部におけるAT8免疫染色の結果を示した図である。左:扁桃核と視床下部の弱拡大像。右:扁桃核と視床下部のそれぞれの部位の強拡大像。AT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞が扁桃核と視床下部に認められるが、対照群に比べて、化合物A投与群のAT8免疫染色陽性細胞の数は少ない。
図10】化合物A投与群とコントロール群(Control群)におけるAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞数(Tangle数)の比較を示した図である。化合物A投与群のAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞数(Tangle数)は、コントロール群の36%であった。化合物A治療群において、AT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の数が有意に減少しており (*p <0.05)。化合物A投与によってアルツハイマー病の神経病理学的組織所見の顕著な特徴(hallmark)の1つである神経原線維変化が有意に抑制されることが示された。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本明細書において、アルキル基又はアルキル部分を含む置換基(アラルキル基など)のアルキル部分は、直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組合せのいずれであってもよい。
【0033】
本明細書において、L及びLがそれぞれ示すアルキル基、Rが示すアルキル基、Rが示す1〜3個のハロゲン原子で置換されたアルキル基、Rが示すアルキル基、Rが示すアルキルカルボニル基のアルキル部分、R又はRが示すアルキル基、Rが示すアルキル基、Rが示す1〜3個のハロゲン原子で置換されたアルキル基、Rが示すアルキル基、Rが示すアルキルアミノカルボニル基のアルキル部分、及びR11が示すアルキル基としては炭素数1〜8のアルキル基を用いることができる。炭素数1〜8のアルキル基又はアルキル部分としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、1−メチルブチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基などのほか、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルのシクロアルキル基、あるいはシクロプロピルメチル基、シクロプロピルブチル基などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0034】
本明細書において、L及びLがそれぞれ示すアルケニル基としては、炭素数2〜8のアルケニル基を用いることができる。アルケニル基は1個又は2個以上の二重結合を含んでいてもよく、幾何異性が生じる場合には任意の異性体であってもよい。アルケニル基として、例えば、ビニル基、プロパ−1−エン−1−イル基、アリル基、イソプロペニル基、ブタ−1−エン−1−イル基、ブタ−2−エン−1−イル基、ブタ−3−エン−1−イル基、2−メチルプロパ−2−エン−1−イル基、1−メチルプロパ−2−エン-1-イル基、ペンタ−1−エン−1−イル基、ペンタ−2−エン−1−イル基、ペンタ−3−エン−1−イル基、ペンタ−4−エン−1−イル基、3−メチルブタ−2−エン−1−イル基、3−メチルブタ−3−エン−1−イル基、ヘキサ−1−エン−1−イル基、ヘキサ−2−エン−1−イル基、ヘキサ−3−エン−1−イル基、ヘキサ−4−エン−1−イル基、ヘキサ−5−エン−1−イル基、2−シクロプロペン−1−イル基、2−シクロブテン−1−イル基、2−シクロペンテン−1−イル基、3−シクロペンテン−1−イル基、2−シクロヘキセン−1−イル基、3−シクロヘキセン−1−イル、1−シクロブテン-1-イル基、又は1−シクロペンテン−1−イル基などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0035】
本明細書において、L及びLがそれぞれ示すアルコキシ基としては、炭素数1〜8のアルコキシ基を用いることができる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、2−メチルブトキシ基、1−メチルブトキシ基、ネオペンチルオキシ基、1,2−ジメチルプロポキシ基、1−エチルプロポキシ基、n−ヘキシルオキシ基、4−メチルペンチルオキシ基、3−メチルペンチルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、1−メチルペンチルオキシ基、3,3−ジメチルブトキシ基、2,2−ジメチルブトキシ基、1,1−ジメチルブトキシ基、1,2−ジメチルブトキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、2,3−ジメチルブトキシ基、2−エチルブトキシ基、1−エチルブトキシ基、1−エチル−1−メチルプロポキシ基、n−ヘプチルオキシ基、又はn−オクチルオキシなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0036】
本明細書において、Rが示すアラルキル基のアルキル部分、Rが示すアラルキルカルボニ基のアルキル部分、R又はRが示すアラルキル基のアルキル部分としては炭素数1〜4のアルキル基を用いることができる。炭素数1〜4のアルキル基又はアルキル部分としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0037】
本明細書において、「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を用いることができる。ハロゲン原子を2個以上有する場合には、2種以上のハロゲン原子の組み合わせであってもよい。
【0038】
又はRが示す1〜3個のハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、ジブロモメチル基、トリブロモメチル基、ヨードメチル基、ジヨードメチル基、トリヨードメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0039】
本明細書において、Rが示すアルキル基のように、ある官能基について特定の置換基を有していてもよいという場合には、その官能基は無置換であるか、あるいは化学的に可能な位置に1個又は2個以上の特定の置換基を有することを意味する。官能基に存在する置換基の個数及び置換位置は特に限定されず、2個以上の置換基が存在する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0040】
本明細書において、アラルキル基、又はアラルキル部分を含むアラルキルカルボニル基のアラルキル部分は1個又は2個以上のアリール基が置換した炭素数1〜4のアルキル基を意味するが、好ましくは1個のアリール基により置換された炭素数1〜4のアルキル基である。
【0041】
本明細書において、アリール基、又はアリール部分を含むアラルキル基、アリールカルボニル基、若しくはアラルキルカルボニル基を構成するアリール部分としては、炭素数6〜10の単環式又は2環式の芳香族炭化水素基を用いることができる。アリール基又はアリール部分としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、アセナフチレニル基などが挙げられる。
【0042】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基、アントラセニルメチル基、フェナントレニルメチル基、アセナフチレニルメチル基、ジフェニルメチル基、1−フェネチル基、2−フェネチル基、1−(1−ナフチル)エチル基、1−(2−ナフチル)エチル基、2−(1−ナフチル)エチル基、2−(2−ナフチル)エチル基、3−フェニルプロピル基、3−(1−ナフチル)プロピル基、3−(2−ナフチル)プロピル基、4−フェニルブチル基、4−(1−ナフチル)ブチル基、又は4−(2−ナフチル)ブチル基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0043】
本明細書において、アリール基又はアリール部分は置換基を有していてもよい。アリール基が置換基を有する場合、置換基として、例えば、ハロゲン原子、オキソ基、チオキソ基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、チオシアナト基、イソシアナト基、イソチオシアナト基、ヒドロキシ基、スルファニル基、カルボキシ基、スルファニルカルボニル基、オキサロ基、メソオキサロ基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、カルバモイル基、チオカルバモイル基、スルホ基、スルファモイル基、スルフィノ基、スルフィナモイル基、スルフェノ基、スルフェナモイル基、ホスホノ基、ヒドロキシホスホニル基、炭化水素基、ヘテロ環基、炭化水素-オキシ基、ヘテロ環-オキシ基、炭化水素-スルファニル基、ヘテロ環-スルファニル基、アシル基、アミノ基、ヒドラジノ基、ヒドラゾノ基、ジアゼニル基、ウレイド基、チオウレイド基、グアニジノ基、カルバモイミドイル基(アミジノ基)、アジド基、イミノ基、ヒドロキシアミノ基、ヒドロキシイミノ基、アミノオキシ基、ジアゾ基、セミカルバジノ基、セミカルバゾノ基、アロファニル基、ヒダントイル基、ホスファノ基、ホスホロソ基、ホスホ基、ボリル基、シリル基、スタニル基、セラニル基、オキシド基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0044】
本明細書において、L及びLがそれぞれ示す炭素数4〜9のヘテロアリール基としては、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子等からなる群から選択されたヘテロ原子を環構成原子として少なくとも1個含む単環式又は縮合多環式のヘテロアリール基を用いることができる。2個以上の環構成ヘテロ原子を含む場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0045】
単環式ヘテロアリール基としては、例えば、2−フリル基、3−フリル基、2−チエニル基、3−チエニル基、1−ピロリル基、2−ピロリル基、3−ピロリル基、2−オキサゾリル基、4−オキサゾリル基、5−オキサゾリル基、3−イソオキサゾリル基、4−イソオキサゾリル基、5−イソオキサゾリル基、2−チアゾリル基、4−チアゾリル基、5−チアゾリル基、3−イソチアゾリル基、4−イソチアゾリル基、5−イソチアゾリル基、1−イミダゾリル基、2−イミダゾリル基、4−イミダゾリル基、5−イミダゾリル基、1−ピラゾリル基、3−ピラゾリル基、4−ピラゾリル基、5−ピラゾリル基、(1,2,3−オキサジアゾール)−4−イル基、(1,2,3−オキサジアゾール)−5−イル基、(1,2,4−オキサジアゾール)−3−イル基、(1,2,4−オキサジアゾール)−5−イル基、(1,2,5−オキサジアゾール)−3−イル基、(1,2,5−オキサジアゾール)−4−イル基、(1,3,4−オキサジアゾール)−2−イル基、(1,3,4−オキサジアゾール)−5−イル基、フラザニル基、(1,2,3−チアジアゾール)−4−イル基、(1,2,3−チアジアゾール)−5−イル基、(1,2,4−チアジアゾール)−3−イル基、(1,2,4−チアジアゾール)−5−イル基、(1,2,5−チアジアゾール)−3−イル基、(1,2,5−チアジアゾール)−4−イル基、(1,3,4−チアジアゾリル)−2−イル基、(1,3,4−チアジアゾリル)−5−イル基、(1H−1,2,3−トリアゾール)−1−イル基、(1H−1,2,3−トリアゾール)−4−イル基、(1H−1,2,3−トリアゾール)−5−イル基、(2H−1,2,3−トリアゾール)−2−イル基、(2H−1,2,3−トリアゾール)−4−イル基、(1H−1,2,4−トリアゾール)−1−イル基、(1H−1,2,4−トリアゾール)−3−イル基、(1H−1,2,4−トリアゾール)−5−イル基、(4H−1,2,4−トリアゾール)−3−イル基、(4H−1,2,4−トリアゾール)−4−イル基、(1H−テトラゾール)−1−イル基、(1H−テトラゾール)−5−イル基、(2H−テトラゾール)−2−イル基、(2H−テトラゾール)−5−イル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、3−ピリダジニル基、4−ピリダジニル基、2−ピリミジニル基、4−ピリミジニル基、5−ピリミジニル基、2−ピラジニル基、(1,2,3−トリアジン)−4−イル基、(1,2,3−トリアジン)−5−イル基、(1,2,4−トリアジン)−3−イル基、(1,2,4−トリアジン)−5−イル基、(1,2,4−トリアジン)−6−イル基、(1,3,5−トリアジン)−2−イル基、1−アゼピニル基、1−アゼピニル基、2−アゼピニル基、3−アゼピニル基、4−アゼピニル基、(1,4−オキサゼピン)−2−イル基、(1,4−オキサゼピン)−3−イル基、(1,4−オキサゼピン)−5−イル基、(1,4−オキサゼピン)−6−イル基、(1,4−オキサゼピン)−7−イル基、(1,4−チアゼピン)−2−イル基、(1,4−チアゼピン)−3−イル基、(1,4−チアゼピン)−5−イル基、(1,4−チアゼピン)−6−イル基、又は(1,4−チアゼピン)−7−イル基などの5ないし7員の単環式ヘテロアリール基を挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0046】
縮合多環式ヘテロアリール基としては、例えば、2−ベンゾフラニル基、3−ベンゾフラニル基、4−ベンゾフラニル基、5−ベンゾフラニル基、6−ベンゾフラニル基、7−ベンゾフラニル基、1−イソベンゾフラニル基、4−イソベンゾフラニル基、5−イソベンゾフラニル基、2−ベンゾ〔b〕チエニル基、3−ベンゾ〔b〕チエニル基、4−ベンゾ〔b〕チエニル基、5−ベンゾ〔b〕チエニル基、6−ベンゾ〔b〕チエニル基、7−ベンゾ〔b〕チエニル基、1−ベンゾ〔c〕チエニル基、4−ベンゾ〔c〕チエニル基、5−ベンゾ〔c〕チエニル基、1−インドリル基、1−インドリル基、2−インドリル基、3−インドリル基、4−インドリル基、5−インドリル基、6−インドリル基、7−インドリル基、(2H−イソインドール)−1−イル基、(2H−イソインドール)−2−イル基、(2H−イソインドール)−4−イル基、(2H−イソインドール)−5−イル基、(1H−インダゾール)−1−イル基、(1H−インダゾール)−3−イル基、(1H−インダゾール)−4−イル基、(1H−インダゾール)−5−イル基、(1H−インダゾール)−6−イル基、(1H−インダゾール)−7−イル基、(2H−インダゾール)−1−イル基、(2H−インダゾール)−2−イル基、(2H−インダゾール)−4−イル基、(2H−インダゾール)−5−イル基、2−ベンゾオキサゾリル基、2−ベンゾオキサゾリル基、4−ベンゾオキサゾリル基、5−ベンゾオキサゾリル基、6−ベンゾオキサゾリル基、7−ベンゾオキサゾリル基、(1,2−ベンゾイソオキサゾール)−3−イル基、(1,2−ベンゾイソオキサゾール)−4−イル基、(1,2−ベンゾイソオキサゾール)−5−イル基、(1,2−ベンゾイソオキサゾール)−6−イル基、(1,2−ベンゾイソオキサゾール)−7−イル基、(2,1−ベンゾイソオキサゾール)−3−イル基、(2,1−ベンゾイソオキサゾール)−4−イル基、(2,1−ベンゾイソオキサゾール)−5−イル基、(2,1−ベンゾイソオキサゾール)−6−イル基、(2,1−ベンゾイソオキサゾール)−7−イル基、2−ベンゾチアゾリル基、4−ベンゾチアゾリル基、5−ベンゾチアゾリル基、6−ベンゾチアゾリル基、7−ベンゾチアゾリル基、(1,2−ベンゾイソチアゾール)−3−イル基、(1,2−ベンゾイソチアゾール)−4−イル基、(1,2−ベンゾイソチアゾール)−5−イル基、(1,2−ベンゾイソチアゾール)−6−イル基、(1,2−ベンゾイソチアゾール)−7−イル基、(2,1−ベンゾイソチアゾール)−3−イル基、(2,1−ベンゾイソチアゾール)−4−イル基、(2,1−ベンゾイソチアゾール)−5−イル基、(2,1−ベンゾイソチアゾール)−6−イル基、(2,1−ベンゾイソチアゾール)−7−イル基、(1,2,3−ベンゾオキサジアゾール)−4−イル基、(1,2,3−ベンゾオキサジアゾール)−5−イル基、(1,2,3−ベンゾオキサジアゾール)−6−イル基、(1,2,3−ベンゾオキサジアゾール)−7−イル基、(2,1,3−ベンゾオキサジアゾール)−4−イル基、(2,1,3−ベンゾオキサジアゾール)−5−イル基、(1,2,3−ベンゾチアジアゾール)−4−イル基、(1,2,3−ベンゾチアジアゾール)−5−イル基、(1,2,3−ベンゾチアジアゾール)−6−イル基、(1,2,3−ベンゾチアジアゾール)−7−イル基、(2,1,3−ベンゾチアジアゾール)−4−イル基、(2,1,3−ベンゾチアジアゾール)−5−イル基、(1H−ベンゾトリアゾール)−1−イル基、(1H−ベンゾトリアゾール)−4−イル基、(1H−ベンゾトリアゾール)−5−イル基、(1H−ベンゾトリアゾール)−6−イル基、(1H−ベンゾトリアゾール)−7−イル基、(2H−ベンゾトリアゾール)−2−イル基、(2H−ベンゾトリアゾール)−4−イル基、(2H−ベンゾトリアゾール)−5−イル基、2−キノリル基、3−キノリル基、4−キノリル基、5−キノリル基、6−キノリル基、7−キノリル基、8−キノリル基、1−イソキノリル基、3−イソキノリル基、4−イソキノリル基、5−イソキノリル基、6−イソキノリル基、7−イソキノリル基、8−イソキノリル基、3−シンノリニル基、4−シンノリニル基、5−シンノリニル基、6−シンノリニル基、7−シンノリニル基、8−シンノリニル基、2−キナゾリニル基、4−キナゾリニル基、5−キナゾリニル基、6−キナゾリニル基、7−キナゾリニル基、8−キナゾリニル基、2−キノキサリニル基、5−キノキサリニル基、6−キノキサリニル基、1−フタラジニル基、5−フタラジニル基、6−フタラジニル基、2−ナフチリジニル基、3−ナフチリジニル基、4−ナフチリジニル基、2−プリニル基、6−プリニル基、7−プリニル基、8−プリニル基、2−プテリジニル基、4−プテリジニル基、6−プテリジニル基、7−プテリジニル基、1−カルバゾリル基、2−カルバゾリル基、3−カルバゾリル基、4−カルバゾリル基、9−カルバゾリル基、2−(α―カルボリニル)基、3−(α―カルボリニル)基、4−(α―カルボリニル)基、5−(α―カルボリニル)基、6−(α―カルボリニル)基、7−(α―カルボリニル)基、8−(α―カルボリニル)基、9−(α―カルボリニル)基、1−(β―カルボニリル)基、3−(β―カルボニリル)基、4−(β―カルボニリル)基、5−(β―カルボニリル)基、6−(β―カルボニリル)基、7−(β―カルボニリル)基、8−(β―カルボニリル)基、9−(β―カルボニリル)基、1−(γ―カルボリニル)基、2−(γ―カルボリニル)基、4−(γ―カルボリニル)基、5−(γ―カルボリニル)基、6−(γ―カルボリニル)基、7−(γ―カルボリニル)基、8−(γ―カルボリニル)基、9−(γ―カルボリニル)基、1−アクリジニル基、2−アクリジニル基、3−アクリジニル基、4−アクリジニル基、9−アクリジニル基、1−フェノキサジニル基、2−フェノキサジニル基、3−フェノキサジニル基、4−フェノキサジニル基、10−フェノキサジニル基、1−フェノチアジニル基、2−フェノチアジニル基、3−フェノチアジニル基、4−フェノチアジニル基、10−フェノチアジニル基、1−フェナジニル基、2−フェナジニル基、1−フェナントリジニル基、2−フェナントリジニル基、3−フェナントリジニル基、4−フェナントリジニル基、6−フェナントリジニル基、7−フェナントリジニル基、8−フェナントリジニル基、9−フェナントリジニル基、10−フェナントリジニル基、2−フェナントロリニル基、3−フェナントロリニル基、4−フェナントロリニル基、5−フェナントロリニル基、6−フェナントロリニル基、7−フェナントロリニル基、8−フェナントロリニル基、9−フェナントロリニル基、10−フェナントロリニル基、1−チアントレニル基、2−チアントレニル基、1−インドリジニル基、2−インドリジニル基、3−インドリジニル基、5−インドリジニル基、6−インドリジニル基、7−インドリジニル基、8−インドリジニル基、1−フェノキサチイニル基、2−フェノキサチイニル基、3−フェノキサチイニル基、4−フェノキサチイニル基、チエノ〔2,3−b〕フリル基、ピロロ〔1,2−b〕ピリダジニル基、ピラゾロ〔1,5−a〕ピリジル基、イミダゾ〔11,2−a〕ピリジル基、イミダゾ〔1,5−a〕ピリジル基、イミダゾ〔1,2−b〕ピリダジニル基、イミダゾ〔1,2−a〕ピリミジニル基、1,2,4−トリアゾロ〔4,3−a〕ピリジル基、又は1,2,4−トリアゾロ〔4,3−a〕ピリダジニル基などの8ないし14員の縮合多環式ヘテロアリール基を挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0047】
上記の一般式(A)において、Zが炭素原子である場合にはRはORであることが好ましく、この場合に、Rがハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、若しくはシアノ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基であるか、又はRが炭素数6〜10のアリール基であることがより好ましい。また、Rがハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、若しくはシアノ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルコキシ基であるか、又はRがフェノキシ基である場合がさらに好ましい。LとLとが互いに結合して2環式のヘテロアリール環を形成する場合には、Rがメトキシ基又はフェノキシ基であることが好ましい。LとLとが互いに結合しない場合には、Rが炭素数1〜5のアルコキシ基であることが好ましく、Rがイソブトキシ基であることが特に好ましい。
【0048】
上記の一般式(A)において、Rがハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、又はCOであることが好ましく、Rがハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、又はカルボキシル基であることがより好ましい。Rがシアノ基であることが特に好ましい。
【0049】
上記の一般式(A)において、Zが炭素原子であることが好ましく、この場合において、Lが炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数4〜9のヘテロアリール基であることが好ましく、Lがメチル基又は4−ピリジル基であることがより好ましい。
【0050】
また、上記の一般式(A)において、Xが硫黄原子又は窒素原子であることが好ましい。Xが硫黄原子である場合には、Zが炭素原子であり、かつLがカルボキシル基であることが好ましく、Xが窒素原子である場合には、Zが−NH−であることが好ましい。
【0051】
さらに、上記の一般式(A)において、Z及びZが炭素原子である場合には、LとLとが互いに結合して、それらが結合する5員環とともに2環式のヘテロアリール環を形成することが好ましい。LとLとが互いに結合して形成される環(それらが結合する5員環を除く)は6員環であることが好ましく、1個又は2個のヘテロ原子を含むことがより好ましい。さらに好ましいのは2個の窒素原子を含む場合であり、特に好ましいのは上記の一般式(I)における2環式のヘテロアリール環が形成される場合である。
【0052】
上記の一般式(I)において、RはORであることが好ましく、この場合に、Rがハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、若しくはシアノ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基であるか、又はRが炭素数6〜10のアリール基であることがより好ましい。また、Rがハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、若しくはシアノ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルコキシ基であるか、又はRがフェノキシ基である場合がさらに好ましい。
【0053】
上記の一般式(I)において、Rがハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、又はCOであることが好ましく、Rがハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、又はカルボキシル基であることがより好ましい。Rがシアノ基であることが特に好ましい。
【0054】
上記の一般式(I)において、Rが水素原子、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子、又はCOであることが好ましく、Rが水素原子、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子、又はカルボキシル基であることがより好ましい。
【0055】
上記の一般式(I)において、Xが酸素原子又は硫黄原子であることが好ましい。また、上記の一般式において、Y及びZが共に窒素原子であることが好ましい。
【0056】
上記の一般式(I)において、Rがハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、若しくはシアノ基からなる群から選択される置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルコキシ基又はフェノキシ基であり、Rがニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、又はカルボキシル基であり、Rが水素原子、アミノ基、水酸基、ハロゲン原子、又はカルボキシル基であり、Xが酸素原子又は硫黄原子であり、かつY及びZが共に窒素原子である場合が特に好ましく、Rが炭素数1〜5のアルコキシ基又はフェノキシ基であり、Rがシアノ基であり、Rが水酸基であり、Xが酸素原子又は硫黄原子であり、かつY及びZが共に窒素原子である場合が最も好ましい。
【0057】
本発明の医薬の有効成分としては、一般式(A)又は一般式(I)で表される遊離形態の化合物のほか、塩の形態の物質を用いてもよい。塩の種類は特に限定されず、生理学的に許容可能な塩であれば任意の塩を用いることができる。塩としては、例えば、ナトリウム、カリウムなどとのアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウムなどとのアルカリ土類金属塩;メチルアミン、エチルアミン、ジエタノールアミンなどとの有機アミン塩など、あるいは塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、p-トルエンスルホン酸塩やマレイン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0058】
本発明の医薬の有効成分としては、一般式(A)又は一般式(I)で表される化合物又はその塩の任意の溶媒和物を用いてもよい。溶媒和物を形成する溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、水(すなわち水和物)、エタノール、酢酸エチル、アセトンなどを例示することができる。一般式(A)又は一般式(I)で表される化合物は、置換基の種類に応じて光学異性体、ジアステレオ異性体、又は互変異性体などの異性体として存在する場合があるが、純粋な形態の任意の異性体のほか、任意の異性体の混合物を本発明の医薬の有効成分として使用することができる。さらに、本発明の医薬の有効成分としては、任意の性状の結晶物質、アモルファス状の物質、又は結晶物質とアモルファス物質との任意の混合物などを使用することもできる。
【0059】
一般式(A)又は一般式(I)で表される化合物の入手方法は特に限定されないが、例えば、国際公開WO2003/42185、国際公開WO2005/121153、国際公開WO2007/4688、特許第3600832号、特許第3779725号、特開2005-41802号公報、特許第2725886号、特許第2706037号、及び特許第3202607号などに開示された方法に従って、容易に入手可能な原料化合物から合成することができる。上記の特許公報の開示の全てを参照により本明細書の開示として含める。
【0060】
本発明の医薬は、認知症の予防及び/又は治療のための医薬として使用することができる。本発明において、認知症の予防及び/又は治療とは、既に発症した認知症の進行を防止することも含む。本発明の医薬の適用対象となる認知症としては、例えば、アルツハイマー型認知症を挙げることができる。
また、本発明の医薬は、老人性認知症、軽度認知障害、軽度認識障害、加齢性記憶障害(AAMI)、老年性認知症、AIDS認知症、ピック病、ダウン症候群関連の認知症、脳血管性認知症、加齢による記憶障害、学習障害、海馬変性症、認知機能障害、微小梗塞痴呆症からなる群から選択する認知症に適用することもできる。もっとも、本発明の医薬の提供対象はこれらに限定されることはなく、熟練した医師により認知症の疑いあり又は認知症発症の可能性ありと診断される初期の患者もしくは発症前の患者に対しても適用することができる。
【0061】
本発明の医薬は、一般的には当業界で汎用の製剤用添加物を1種又は2種以上用いて医薬組成物の形態で提供される。例えば、カプセル剤、錠剤、シロップ剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、又は溶液剤などの経口投与用の医薬組成物、静脈内投与用の注射剤若しくは点滴剤、筋肉内投与用若しくは皮下投与用の注射剤、吸入剤、又は経皮吸収製剤などの形態で提供されるが、これらの形態に限定されることはない。本発明の医薬は、製剤用添加物を医薬組成物の形態に応じて適宜選択し、当業者に周知の方法で調製することができる。
【0062】
本発明の医薬の投与方法及び投与時期は特に制限されず、予防又は治療の目的や認知症の重篤度などに応じて適宜選択することができる。また、本発明の医薬の投与量は、例えば患者の年齢、体重、体質、及び症状のほか、他の成分を有効成分とする医薬の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1
(a)材料及び方法
キサンチン酸化還元酵素を強力に阻害する作用を有する化合物として5-(7-ヒドロキシチアゾロ [5,4-d]ピリミジン-2-イル)-2-フェノキシ-ベンゾニトリル(特許第4914210号の請求項1に記載された化合物である2-(3-シアノ-4-フェノキシフェニル)-4-ヒドロキシチアゾロ[5.4-d]ピリミジン:以下、化合物Aと呼ぶ)を使用した。
【0064】
化合物Aの濃度調整と投与量・投与方法は次の要領で行った。
基剤として、0.5%メチルセルロースを作製した。化合物A投与薬剤の調整は、微量薬剤の計量誤差と薬効の低下を回避するために、化合物Aを溶剤としての0.5%メチルセルロースに溶解する際に、10倍濃度のstock solutionを一旦作製した。即ち、化合物Aを瑪瑙製の乳鉢にてすりつぶした後、少量の0.5%メチルセルロースを加え、懸濁させた。その後、徐々に少量の0.5%メチルセルロースを加え、完全に懸濁・溶解させた。最終的に10 mLの0.5%メチルセルロースに化合物A 50 mgを懸濁・溶解させ、50 mg 化合物A・0.5%メチルセルロース10 mL(50 mg/10 mL)の10倍濃度のstock solutionを作製した。10倍濃度のstock solution[50 mg化合物A・0.5%メチルセルロース10 mL(50 mg/10 mL)]を1週間毎に作製して冷蔵保存し、投与当日その都度10倍濃度のstock solution を十二分に撹拌しながら10倍希釈し、マウスに投与時にも撹拌した状態で薬剤を胃ゾンデに吸引して、投与濃度にした。
【0065】
以上の方法により、即ち、投与濃度として、最終的に10 mLの0.5%メチルセルロースに5 mg の化合物Aが懸濁・溶解している濃度、即ち、5 mg 化合物A・0.5%メチルセルロース10 mL(5 mg/10 mL)の試験液を作製し、化合物Aをマウス体重1 kg当たり5 mg(5 mg/kg)を1日1回経口的に投与した。
プラセボとしては、溶剤である0.5%メチルセルロースのみをマウス体重1 kg当たり10 mL(10 mL/kg)、すなわち、薬剤投与マウスの溶剤と等容量を1日1回経口投与した。
経口投与の方法は、プラスチックシリンジにて正確に容量を測量し、プラスチックシリンジに直接マウス用胃ゾンデをつなげ、経口・経食道的に確実に投与した。
【0066】
実験動物として、ヒトアルツハイマー病のアミロイドβ(Aβ)前駆体タンパク質の695アミノ酸をコードする遺伝子のスウェーデン変異を有する遺伝子、及びヒトタウタンパク質遺伝子の301番目のプロリンがロイシンに変異した(P301L)の変異遺伝子の両ヒト遺伝子を高発現するTg(APPSWE)2576KhaTg(Prnp-MAPTP301L)JNPL3HImc系統のアルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウス(Taconic Farms, Inc., Hudson, NY,米国より購入)。当該アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスはSPF(specific pathogen free: 特定病原体のいない微生物制御状態)下で飼育され、およそ2年間生存可能である。
【0067】
実験期間が長期間に及ぶために、自然定着の微生物を保有するマウスにおける感染症等を排除し、可能な限り、個体差を最小限にさせる目的で、当該アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスを購入後、個別に4週間隔離し、SPFであることを再度確認した。雄性マウス10匹を5匹ずつ2群(化合物A治療投与群(n=5)とコントロール群(n=5)であるメチルセルロース投与群)に分けた。
【0068】
このマウスでは、自然経過として、生後1年齢(365日齢)以上の脳においてヒトアルツハイマー病の病理組織像のhallmarkである老人斑と神経原線維変化の出現が確認されるが、生後2年齢の正常マウスの脳においては、老人斑と神経原線維変化は認められない。この知見とヒトアルツハイマー病の神経病理所見に基づいて、このマウスは生後1年齢においてヒトにおけるアルツハイマー病に相当する疾病を発症していると結論づけた。この結論に基づいて、実際のヒトへの臨床応用をも考慮して、このマウスにおいてアルツハイマー病の病理組織像のhallmarkである老人斑と神経原線維変化が出現する生後1年齢の時点(アルツハイマー病発症後)に投与を開始した。
【0069】
生後1年齢の時点までは経過観察を行い、生後1年齢の時点から、化合物A治療群(n=5)には化合物Aの 5 mg/kgを胃ゾンデを用いて連日経口投与した。0.5%メチルセルロースコントロール群(n=5) には0.5%メチルセルロースのみをマウス体重1 kg当たり10 mL(10 mL/kg) を胃ゾンデを用いて連日経口投与した(図1)。
【0070】
生後700日以前の化合物A治療群と0.5%メチルセルロースコントロール群のそれぞれにおいて1匹ずつのマウスが突然死したため、生後700日以上生存した化合物A治療群の4匹と0.5%メチルセルロースコントロール群の4匹の合計8匹を実験動物として採用した。
【0071】
生後730-745日齢の時点で、化合物A治療群のマウス4匹とコントロール群のマウス4匹の合計8匹の各個体の臓器組織のサンプリング方法を以下のごとく実施した。
8匹のマウスに個体体重1 g当たり1 mLのペントバルビタールナトリウム(商品名ネンブタール、大日本住友製薬)を腹腔内注射して全身麻酔を施行した。完全に麻酔下にあることを確認した後、麻酔下にある各個体を二酸化炭素処理により安楽死させ、開腹及び開胸を行った。右心室からの採血後、左心室の大動脈経由により、生理的食塩水にて全身臓器の血液を除去した。その後直ちに、大脳の右前頭葉の一部分、脊髄の一部分、心臓の左右両心室の一部分、右肺の一部分、肝臓の一部分、左右腎臓の一部分、左精巣の各新鮮臓器を採取し、ドライアイスにて瞬間凍結させた。その後、各新鮮臓器と血清を-80℃の超低温フリーザーに保存した。各新鮮臓器の瞬間凍結操作と同時並行操作として、各新鮮臓器として採取した部分を除く残存臓器部分と他の全ての臓器を4 %パラホルムアルデヒド・0.1 Mカコジル酸緩衝液(pH 7.3)にて直ちに浸潤固定した。
【0072】
大脳・小脳・脳幹・脊髄などの全臓器をパラフィンに包埋してミクロトームで薄切した。臓器組織の処理は、臓器組織の固定、脱水、脱エタノール、パラフィン浸透、パラフィン包埋、及びパラフィン切片作製の下記6ステップの操作にて実施した。
【0073】
1)臓器組織の固定は、各組織を4 %パラホルムアルデヒド・0.1 Mカコジル酸緩衝液(pH 7.3)にて浸潤固定した。
2)臓器組織の脱水は、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline: PBS)で3回洗浄した。その後、水道水の流水にて一晩洗浄後、70%エタノールにて12時間室温、80%エタノールにて12時間室温、90%エタノールにて12時間室温、99.5%エタノールにて12時間室温、もう一度99.5%エタノールにて12時間室温、100%エタノールにて12時間室温、無水エタノールにて12時間室温にて浸透させ、臓器組織の水分をエタノールに完全に置換した。
【0074】
3)脱水用のエタノールを除去するために、クロロホルムにて置換した。クロロホルム置換は、クロロホルム槽内にて室温で2時間3回浸透させた。
4)臓器組織のパラフィン浸透工程は、臓器組織をクロロホルム槽から60℃パラフィン槽に移すことにより実施した。
5)60℃パラフィン槽内にて、2時間4回浸透させることにより、完全にクロロホルムを抜き、臓器組織にパラフィン浸透を完全に実施した。その後、包埋用パラフィンにて、臓器組織をパラフィン内に包埋した。
6)パラフィン切片の作製は、パラフィン包埋された臓器組織のパラフィンブロックを、ミクロトームにて6 μm厚で薄切した。
【0075】
マウスの大脳の神経病理組織像、特に、老人斑と神経原線維変化の神経病理組織像の正当性を評価する目的で、臨床神経病理学的確定診断がなされているアルツハイマー病の4例の剖検症例の大脳パラフィンブロックを使用した。
【0076】
マウスの大脳を底面から観察して乳頭体を確認した。炭素鋼両刃(FA-10、フェザー安全剃刀株式会社、大阪)の中央にて、両刃を切断し、両刃を二つの片刃とした。このようにして作製した炭素鋼片刃を使用して、アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの大脳の乳頭体中央部に、最初の冠状断の割面を作製した。
【0077】
この乳頭体冠状割面から約2 mm厚の大脳冠状割面を吻側方向と尾側方向の両方向に連続して切り出した。脳幹小脳の部位では、橋の左右の三叉神経を含み、且つ脳幹長軸に直角になる割面平面にて最初の割面を作製した。大脳と同様に約2 mm厚の脳幹小脳割面を吻側方向と尾側方向の両方向に連続して切り出した。
【0078】
組織化学的染色と免疫組織化学的染色は以下の方法により行った。
1)パラフィン切片の組織化学及び免疫組織化学的染色に先立ち、以下の脱パラフィン・親水操作を行った。脱パラフィン操作として、パラフィン切片をキシレン槽内に 5分間 4回入れ、次に親水操作として、脱パラフィン切片を100% エタノール槽内に 5分間 2回、95% エタノール槽内に 5分間1回、90% エタノール槽内に5分間1回、80% エタノール槽内に 5分間1回入れた。その後、水道水の流水にて洗浄を5分間行った。
【0079】
2)組織化学的染色としてヘマトキシリン・エオシン(hematoxylin and eosin: HE)染色を行った。HE染色操作後の切片は、脱水・透徹・封入の各工程を実施した。まず脱水工程を以下の手順で行った。50% エタノール1分間1回、70% エタノール1分間1回、80% エタノール1分間1回、90% エタノール1分間1回、95% エタノール1分間1回、100% エタノール5分間1回、及び無水エタノール5分間1回。透徹工程は、キシレン 5分 4回浸透させた。封入工程は、封入剤(New M・X;松浪硝子工業株式会社、大阪)をカバーグラスに少量たらし、空気を入れないように組織切片を覆った。
【0080】
3) 免疫組織化学染色に関して、老人斑のコア蛋白質であるアミロイドβプロテインの検出と神経原線維変化のコア蛋白質であるリン酸化タウ蛋白の検出は以下の方法により実施した。
(1)アミロイドβプロテイン検出方法:
アミロイドβプロテイン免疫組織化学染色キット(Code No.299-56701、和光純薬工業株式会社、大阪)を使用した。パラフィン切片におけるAβ40の検出には、キット内の抗アミロイドβプロテイン(1-40)マウスモノクローナル抗体(クローンNo.BA27)を使用した。Aβ42の検出には、キット内の抗アミロイドβ-プロテイン(1-42)マウスモノクローナル抗体(クローンNo.BC05)を使用した。最終的には、発色剤として、3,3’-diaminobenzidine tetrahydrochloride (DAB; Dako, Glostrup, Denmark)を使用して可視化した。
【0081】
(2)リン酸化タウ蛋白の検出方法:
以下の一次抗体とABC(avidin-biotin-immunoperoxidase complex)法との組み合わせによって施行した。
一次抗体としては、抗リン酸化タウ蛋白(phosphorylated tau protein; PHF-tau) マウスモノクローナル抗体(クローン:AT8、Innogenetics: 現在社名 富士レビオ(Fujirebio)株式会社、東京)を使用した。ABCキットは、Vectastain ABC Kit (Vector Laboratories, Burlingame, CA、米国)を使用した。
最終的には、DABを発色剤として可視化した。封入工程は、HE染色と同様に封入剤にて組織切片を封入した。
【0082】
HE染色・Aβ40免疫染色・Aβ42免疫染色・AT8免疫染色の各染色標本を、封入剤乾燥後、画像イメージ解析ソフト (FLVFS-LS Ver. 1.12: オリンパス、東京) 搭載の 3CCD デジタルカメラシステム(FX380: オリンパス)装備の光学顕微鏡(BX41: オリンパス) にて検鏡し、当該装置にて写真撮影と共に画像解析を実施した。
【0083】
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの病態が神経病理学的にヒトアルツハイマー病と同一であることを証明するために、予備実験として、雄性マウス10匹を使用した。免疫組織化学的解析により、アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおいてはヒトアルツハイマー病の神経病理診断学的hallmarkであるAβ40とAβ42とがコア蛋白質であるアミロイド老人斑とリン酸化タウ蛋白質がコア蛋白質である神経原線維が700日齢以上のマウスにおいて多数出現していたが、Age-matchさせた正常マウスにおいては出現は認められなかった。アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの老人斑に関しては、ルーチン染色であるHE染色のみで、ヒトアルツハイマー病の老人斑と同様にその構造を容易に同定することが可能であった。アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおいて出現する老人斑と神経原線維変化は、ヒトアルツハイマー病の神経病理組織学的hallmarkである老人斑や神経原線維変化と神経病理学的には、同一構造物であった(図2)。
【0084】
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおける、免疫染色で同定されたAβ40及びAβ42がコア蛋白質であるアミロイド老人斑及びHE染色で同定された老人斑の好発部位は、海馬(Ammon角)、海馬台、大脳皮質(特に、entorhinal cortex(嗅内皮質))であった。リン酸化タウ蛋白質がコア蛋白質である神経原線維変化の好発部位は、視床下部、扁桃核であった。この神経病理学的解析予備実験に基づいて、薬剤治療効果の評価方法として、アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの大脳割面と脳幹・小脳割面において、ヒトアルツハイマー病の神経病理組織学的hallmarkである老人斑と神経原線維変化の好発部位の割面を中心に、組織化学的及び免疫組織化学的に定量的に解析した(図3)。
【0085】
薬剤のアルツハイマー病に対する治療効果判定は、マウスにおける、ヒトアルツハイマー病の神経病理組織学的hallmarkである老人斑の出現数と神経原線維変化を有する神経細胞数の抑制を以下の方法に従って定量的に解析して判定した。
【0086】
老人斑に関しては、老人斑数と老人斑の大きさ(老人斑の成長度合い)との二つの要素を考慮して検索した。即ち、老人斑の直径が100 μm以上を大型老人斑、直径が50 μm以下を小型老人斑、老人斑の直径が50 μmと100 μmの中間であった老人斑を中型老人斑とに分類したうえで、それぞれの数を計測した(図4)。数の計測に際しては、double blindにて実施した。即ち、神経病理学的定量的解析では、標本に単なる個体識別番号しか記載せず、標本における細胞数を測定する際に、それがプラセボ又は化合物Aのいずれの投与群のものであったかを知ることができない状況にて実施した。
【0087】
神経原線維変化に関しては、神経原線維(Neurofibrillary Tangle)変化を有している神経細胞の個数のみをもって評価した。数の計測に際しては、老人斑数と同様にdouble blindにて実施した。
【0088】
老人斑の出現数と神経原線維変化を伴う神経細胞数の定量的数値は、平均値±標準偏差で表示した。当該研究に関しての統計解析はマッキントッシュソフトウエアのStatview(Ver.5.0, SAS Institute Inc., カリフォルニア、米国)を用いて実施した。有意差検定にはMann‐WhitneyのU検定を用い、危険率P<0.05を持って統計的有意差があると判定した。
【0089】
(b)結果
1.老人斑
1)老人斑の神経病理学的形態的特徴
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの大脳における海馬を含む乳頭体冠状断割面の病理組織標本を図5及び図6に示す。
700日齢までと700日齢を超した正常マウスには出現しない老人斑が、アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの海馬において、HE染色で容易に同定できた。アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスに出現する老人斑は、神経病理学的形態的特徴として、中心部がHE染色で濃く染色されるcoreと表現される部位が有り、その周辺がHE染色で淡く染色されるhalloを有する構造物からなるタイプの老人斑と、HE染色で淡く染色されるhaloのみからなる老人斑の二種類の老人斑が存在していた。ヒトアルツハイマー病で出現する老人斑とHE染色上は同一であった。HE染色上、アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスに出現する老人斑のうち、前者の老人斑は、ヒトアルツハイマー病で出現する老人斑のclassical type senile plaquesに相当し、後者の老人斑は、ヒトアルツハイマー病で出現する老人斑のdiffuse type senile plaquesに相当するものであった。
【0090】
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスに出現するHE染色で同定できた老人斑は、抗アミロイドβプロテイン_Aβ40抗体(クローンNo.BA27)と抗アミロイドβプロテイン_Aβ42抗体(クローンNo.BC05)のいずれか、あるいは両方の抗体で同定できた。0.5%メチルセルロース投与コントロール群に出現した老人斑(図5)と、化合物A治療群に出現した老人斑(図6)とは、神経病理学的形態的及び染色学的には同一であった。また、両群のアルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスに出現したAβ40・Aβ42免疫染色陽性老人斑は、ヒトアルツハイマー病で出現するAβ40・Aβ42免疫染色陽性老人斑と神経病理学的形態的及び染色学的に同一であった。
【0091】
2)老人斑数の定量的解析結果
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおける老人斑の神経病理組織学的特徴が、ヒトアルツハイマー病の老人斑の神経病理組織学的特徴と同一であり、且つコントロール群と化合物A治療群の両者における老人斑の神経病理組織学的特徴が同一であったことから、老人斑に関しては、老人斑数とその直径の大きさ(成長度合い)の定量的解析結果をもって、化合物Aによるヒトアルツハイマー病抑制の有効性を評価した。
【0092】
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおける老人斑の好発部位を考慮して、HE染色・Aβ40免疫染色・Aβ42免疫染色の三連続染色に基づいて、乳頭体の冠状断割面(海馬・海馬台を含む)とentorhinal cortex(嗅内皮質)の大脳冠状断割面(海馬・海馬台・entorhinal cortex(嗅内皮質)を含む大脳皮質)において出現している老人斑を計測した。
【0093】
以下に、個別のデータを記載する。
化合物A(1): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑21、中型老人斑33、小型老人斑、113。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑16、中型老人斑78、小型老人斑、96。
化合物A(2): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑12、中型老人斑12、小型老人斑、38。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑10、中型老人斑24、小型老人斑、78。
化合物A(3): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑12、中型老人斑25、小型老人斑、106。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑11、中型老人斑31、小型老人斑、110。
化合物A(4): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑5、中型老人斑30、小型老人斑、130。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑2、中型老人斑14、小型老人斑、164。
コントロール(1): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑8、中型老人斑27、小型老人斑、42。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑13、中型老人斑36、小型老人斑、76。
コントロール(2): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑29、中型老人斑37、小型老人斑、108。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑21、中型老人斑45、小型老人斑、102。
コントロール(3): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑40、中型老人斑66、小型老人斑、139。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑42、中型老人斑65、小型老人斑、124。
コントロール(4): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑35、中型老人斑46、小型老人斑、63。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑27、中型老人斑32、小型老人斑、52。
【0094】
化合物A治療群の大脳1冠状断割面あたりの大型老人斑の数は、11.1 ± 5.9、コントロール群は26.9 ±12.3、中型老人斑の数は、30.9 ± 20.5、コントロール群は44.3 ±14.5、小型老人斑の数は、104.4 ± 36.8、コントロール群は88.3 ± 35.2であった。
【0095】
統計学的に解析した結果、大型老人斑の数と中型老人斑の数の比較では、化合物A治療群はコントロール群と比較して有意に老人斑の数は減少していた(p = 0.013 , p = 0.036, Mann‐WhitneyのU検定)。小型老人斑の数には有意差は認められなかった(p = 0.400, Mann‐WhitneyのU検定)(図7)。
【0096】
2. 神経原線維変化
1)神経原線維変化の神経病理学的形態的特徴
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの大脳における扁桃核及び視床下部を含む大脳冠状断割面の病理組織標本を図8及び図9に示す。
700日齢までと700日齢を超した正常マウスには出現しない神経原線維変化が、アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの視床下部と扁桃核において、神経原線維変化のコア蛋白質であるリン酸化タウ蛋白質を同定するAT8免疫染色にて容易に同定できた。0.5%メチルセルロース投与コントロール(対照)群のマウスに出現したAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞(図8)と、化合物A投与治療群のマウスに出現したAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞(図9)とは、神経病理学的形態的及び染色学的には同一であった。また、両群のマウスに出現したAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞は、ヒトアルツハイマー病で出現するAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞と神経病理学的形態的及び染色学的に同一であった。
【0097】
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおけるAT8免疫染色陽性神経原線維変化は、ルーチン染色のHE染色では同定困難であった。一方、ヒトアルツハイマー病で出現するAT8免疫染色陽性神経原線維変化は、ヒトアルツハイマー病に精通した神経病理学者においては、HE染色のみで、AT8免疫染色陽性神経原線維変化を有した神経細胞の一部は同定可能の構造物である。この経験的事実に基づけば、HE染色上は、アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおけるAT8免疫染色陽性神経原線維変化と、ヒトアルツハイマー病で出現するAT8免疫染色陽性神経原線維変化とは当該所見の点で同一でない点が認められた。しかしながら、ヒトアルツハイマー病で出現するAT8免疫染色陽性神経原線維変化もアルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおけるAT8免疫染色陽性神経原線維変化も共に、神経原線維変化の検出感度は、AT8免疫染色の方が、HE染色よりも遙かに高いという事実に基づき、神経原線維変化を有する神経細胞に関しては、AT8免疫染色陽性神経原線維変化をもって評価した。
【0098】
2)AT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞数の定量的解析
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおけるAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の神経病理組織学的特徴は、ヒトアルツハイマー病のAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の神経病理組織学的特徴と同一であり、且つコントロール群と化合物A治療群の両者におけるAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の神経病理組織学的特徴が同一であった。この結果に基づいて、AT8免疫染色陽性神経原線維変化に関しては、AT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の定量的解析結果をもって、化合物Aによるヒトアルツハイマー病抑制の有効性を評価した。
【0099】
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおけるAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の好発部位を考慮して、視床下部を含む大脳冠状断割面と扁桃核の最大径が出現する大脳冠状断割面において出現しているAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞を計測した。
以下に、個別のデータを記載する。
化合物A(1): 視床下部冠状断割面: 149。扁桃核最大径冠状断割面: 103。
化合物A(2): 視床下部冠状断割面: 119。扁桃核最大径冠状断割面: 175。
化合物A(3): 視床下部冠状断割面: 26。扁桃核最大径冠状断割面: 13。
化合物A(4): 視床下部冠状断割面: 13。扁桃核最大径冠状断割面: 18。
コントロール(1): 視床下部冠状断割面: 259。扁桃核最大径冠状断割面: 237。
コントロール(2): 視床下部冠状断割面: 204。扁桃核最大径冠状断割面: 153。
コントロール(3): 視床下部冠状断割面: 283。扁桃核最大径冠状断割面: 198。
コントロール(4): 視床下部冠状断割面: 180。扁桃核最大径冠状断割面: 165。
【0100】
化合物A治療群の大脳1冠状断割面あたりのAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の数は、77.0 ± 67.1であり、0.5%メチルセルロース投与コントロール群の大脳1冠状断割面あたりのAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の数は、209.9 ± 46.0であった。
統計学的に解析した結果、化合物A治療群はコントロール群に比べて、有意にAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の数が減少していた(p= 0.016, Mann‐WhitneyのU検定)(図10)。
【0101】
以上のとおり、キサンチン酸化還元酵素の選択的な阻害剤である化合物Aはアルツハイマー病の原因遺伝子に基づくモデルマウスに対してその病理学的所見から、疾病の進行を著しく抑制することが示された。すなわち、キサンチン酸化還元酵素の選択的な阻害剤である化合物Aは、経口投与によって、アルツハイマー病モデルマウスの大型老人斑と中型老人斑の数を優位に抑制することがわかった。また、化合物Aは、経口投与によって、アルツハイマー病モデルマウスにおける神経原線維変化、すなわち、リン酸化されたtauタンパクの神経細胞内への蓄積を大幅に抑制することがわかった。
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図10