【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1
(a)材料及び方法
キサンチン酸化還元酵素を強力に阻害する作用を有する化合物として5-(7-ヒドロキシチアゾロ [5,4-d]ピリミジン-2-イル)-2-フェノキシ-ベンゾニトリル(特許第4914210号の請求項1に記載された化合物である2-(3-シアノ-4-フェノキシフェニル)-4-ヒドロキシチアゾロ[5.4-d]ピリミジン:以下、化合物Aと呼ぶ)を使用した。
【0064】
化合物Aの濃度調整と投与量・投与方法は次の要領で行った。
基剤として、0.5%メチルセルロースを作製した。化合物A投与薬剤の調整は、微量薬剤の計量誤差と薬効の低下を回避するために、化合物Aを溶剤としての0.5%メチルセルロースに溶解する際に、10倍濃度のstock solutionを一旦作製した。即ち、化合物Aを瑪瑙製の乳鉢にてすりつぶした後、少量の0.5%メチルセルロースを加え、懸濁させた。その後、徐々に少量の0.5%メチルセルロースを加え、完全に懸濁・溶解させた。最終的に10 mLの0.5%メチルセルロースに化合物A 50 mgを懸濁・溶解させ、50 mg 化合物A・0.5%メチルセルロース10 mL(50 mg/10 mL)の10倍濃度のstock solutionを作製した。10倍濃度のstock solution[50 mg化合物A・0.5%メチルセルロース10 mL(50 mg/10 mL)]を1週間毎に作製して冷蔵保存し、投与当日その都度10倍濃度のstock solution を十二分に撹拌しながら10倍希釈し、マウスに投与時にも撹拌した状態で薬剤を胃ゾンデに吸引して、投与濃度にした。
【0065】
以上の方法により、即ち、投与濃度として、最終的に10 mLの0.5%メチルセルロースに5 mg の化合物Aが懸濁・溶解している濃度、即ち、5 mg 化合物A・0.5%メチルセルロース10 mL(5 mg/10 mL)の試験液を作製し、化合物Aをマウス体重1 kg当たり5 mg(5 mg/kg)を1日1回経口的に投与した。
プラセボとしては、溶剤である0.5%メチルセルロースのみをマウス体重1 kg当たり10 mL(10 mL/kg)、すなわち、薬剤投与マウスの溶剤と等容量を1日1回経口投与した。
経口投与の方法は、プラスチックシリンジにて正確に容量を測量し、プラスチックシリンジに直接マウス用胃ゾンデをつなげ、経口・経食道的に確実に投与した。
【0066】
実験動物として、ヒトアルツハイマー病のアミロイドβ(Aβ)前駆体タンパク質の695アミノ酸をコードする遺伝子のスウェーデン変異を有する遺伝子、及びヒトタウタンパク質遺伝子の301番目のプロリンがロイシンに変異した(P301L)の変異遺伝子の両ヒト遺伝子を高発現するTg(APPSWE)2576KhaTg(Prnp-MAPT
*P301L)JNPL3HImc系統のアルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウス(Taconic Farms, Inc., Hudson, NY,米国より購入)。当該アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスはSPF(specific pathogen free: 特定病原体のいない微生物制御状態)下で飼育され、およそ2年間生存可能である。
【0067】
実験期間が長期間に及ぶために、自然定着の微生物を保有するマウスにおける感染症等を排除し、可能な限り、個体差を最小限にさせる目的で、当該アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスを購入後、個別に4週間隔離し、SPFであることを再度確認した。雄性マウス10匹を5匹ずつ2群(化合物A治療投与群(n=5)とコントロール群(n=5)であるメチルセルロース投与群)に分けた。
【0068】
このマウスでは、自然経過として、生後1年齢(365日齢)以上の脳においてヒトアルツハイマー病の病理組織像のhallmarkである老人斑と神経原線維変化の出現が確認されるが、生後2年齢の正常マウスの脳においては、老人斑と神経原線維変化は認められない。この知見とヒトアルツハイマー病の神経病理所見に基づいて、このマウスは生後1年齢においてヒトにおけるアルツハイマー病に相当する疾病を発症していると結論づけた。この結論に基づいて、実際のヒトへの臨床応用をも考慮して、このマウスにおいてアルツハイマー病の病理組織像のhallmarkである老人斑と神経原線維変化が出現する生後1年齢の時点(アルツハイマー病発症後)に投与を開始した。
【0069】
生後1年齢の時点までは経過観察を行い、生後1年齢の時点から、化合物A治療群(n=5)には化合物Aの 5 mg/kgを胃ゾンデを用いて連日経口投与した。0.5%メチルセルロースコントロール群(n=5) には0.5%メチルセルロースのみをマウス体重1 kg当たり10 mL(10 mL/kg) を胃ゾンデを用いて連日経口投与した(
図1)。
【0070】
生後700日以前の化合物A治療群と0.5%メチルセルロースコントロール群のそれぞれにおいて1匹ずつのマウスが突然死したため、生後700日以上生存した化合物A治療群の4匹と0.5%メチルセルロースコントロール群の4匹の合計8匹を実験動物として採用した。
【0071】
生後730-745日齢の時点で、化合物A治療群のマウス4匹とコントロール群のマウス4匹の合計8匹の各個体の臓器組織のサンプリング方法を以下のごとく実施した。
8匹のマウスに個体体重1 g当たり1 mLのペントバルビタールナトリウム(商品名ネンブタール、大日本住友製薬)を腹腔内注射して全身麻酔を施行した。完全に麻酔下にあることを確認した後、麻酔下にある各個体を二酸化炭素処理により安楽死させ、開腹及び開胸を行った。右心室からの採血後、左心室の大動脈経由により、生理的食塩水にて全身臓器の血液を除去した。その後直ちに、大脳の右前頭葉の一部分、脊髄の一部分、心臓の左右両心室の一部分、右肺の一部分、肝臓の一部分、左右腎臓の一部分、左精巣の各新鮮臓器を採取し、ドライアイスにて瞬間凍結させた。その後、各新鮮臓器と血清を-80℃の超低温フリーザーに保存した。各新鮮臓器の瞬間凍結操作と同時並行操作として、各新鮮臓器として採取した部分を除く残存臓器部分と他の全ての臓器を4 %パラホルムアルデヒド・0.1 Mカコジル酸緩衝液(pH 7.3)にて直ちに浸潤固定した。
【0072】
大脳・小脳・脳幹・脊髄などの全臓器をパラフィンに包埋してミクロトームで薄切した。臓器組織の処理は、臓器組織の固定、脱水、脱エタノール、パラフィン浸透、パラフィン包埋、及びパラフィン切片作製の下記6ステップの操作にて実施した。
【0073】
1)臓器組織の固定は、各組織を4 %パラホルムアルデヒド・0.1 Mカコジル酸緩衝液(pH 7.3)にて浸潤固定した。
2)臓器組織の脱水は、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline: PBS)で3回洗浄した。その後、水道水の流水にて一晩洗浄後、70%エタノールにて12時間室温、80%エタノールにて12時間室温、90%エタノールにて12時間室温、99.5%エタノールにて12時間室温、もう一度99.5%エタノールにて12時間室温、100%エタノールにて12時間室温、無水エタノールにて12時間室温にて浸透させ、臓器組織の水分をエタノールに完全に置換した。
【0074】
3)脱水用のエタノールを除去するために、クロロホルムにて置換した。クロロホルム置換は、クロロホルム槽内にて室温で2時間3回浸透させた。
4)臓器組織のパラフィン浸透工程は、臓器組織をクロロホルム槽から60℃パラフィン槽に移すことにより実施した。
5)60℃パラフィン槽内にて、2時間4回浸透させることにより、完全にクロロホルムを抜き、臓器組織にパラフィン浸透を完全に実施した。その後、包埋用パラフィンにて、臓器組織をパラフィン内に包埋した。
6)パラフィン切片の作製は、パラフィン包埋された臓器組織のパラフィンブロックを、ミクロトームにて6 μm厚で薄切した。
【0075】
マウスの大脳の神経病理組織像、特に、老人斑と神経原線維変化の神経病理組織像の正当性を評価する目的で、臨床神経病理学的確定診断がなされているアルツハイマー病の4例の剖検症例の大脳パラフィンブロックを使用した。
【0076】
マウスの大脳を底面から観察して乳頭体を確認した。炭素鋼両刃(FA-10、フェザー安全剃刀株式会社、大阪)の中央にて、両刃を切断し、両刃を二つの片刃とした。このようにして作製した炭素鋼片刃を使用して、アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの大脳の乳頭体中央部に、最初の冠状断の割面を作製した。
【0077】
この乳頭体冠状割面から約2 mm厚の大脳冠状割面を吻側方向と尾側方向の両方向に連続して切り出した。脳幹小脳の部位では、橋の左右の三叉神経を含み、且つ脳幹長軸に直角になる割面平面にて最初の割面を作製した。大脳と同様に約2 mm厚の脳幹小脳割面を吻側方向と尾側方向の両方向に連続して切り出した。
【0078】
組織化学的染色と免疫組織化学的染色は以下の方法により行った。
1)パラフィン切片の組織化学及び免疫組織化学的染色に先立ち、以下の脱パラフィン・親水操作を行った。脱パラフィン操作として、パラフィン切片をキシレン槽内に 5分間 4回入れ、次に親水操作として、脱パラフィン切片を100% エタノール槽内に 5分間 2回、95% エタノール槽内に 5分間1回、90% エタノール槽内に5分間1回、80% エタノール槽内に 5分間1回入れた。その後、水道水の流水にて洗浄を5分間行った。
【0079】
2)組織化学的染色としてヘマトキシリン・エオシン(hematoxylin and eosin: HE)染色を行った。HE染色操作後の切片は、脱水・透徹・封入の各工程を実施した。まず脱水工程を以下の手順で行った。50% エタノール1分間1回、70% エタノール1分間1回、80% エタノール1分間1回、90% エタノール1分間1回、95% エタノール1分間1回、100% エタノール5分間1回、及び無水エタノール5分間1回。透徹工程は、キシレン 5分 4回浸透させた。封入工程は、封入剤(New M・X;松浪硝子工業株式会社、大阪)をカバーグラスに少量たらし、空気を入れないように組織切片を覆った。
【0080】
3) 免疫組織化学染色に関して、老人斑のコア蛋白質であるアミロイドβプロテインの検出と神経原線維変化のコア蛋白質であるリン酸化タウ蛋白の検出は以下の方法により実施した。
(1)アミロイドβプロテイン検出方法:
アミロイドβプロテイン免疫組織化学染色キット(Code No.299-56701、和光純薬工業株式会社、大阪)を使用した。パラフィン切片におけるAβ40の検出には、キット内の抗アミロイドβプロテイン(1-40)マウスモノクローナル抗体(クローンNo.BA27)を使用した。Aβ42の検出には、キット内の抗アミロイドβ-プロテイン(1-42)マウスモノクローナル抗体(クローンNo.BC05)を使用した。最終的には、発色剤として、3,3’-diaminobenzidine tetrahydrochloride (DAB; Dako, Glostrup, Denmark)を使用して可視化した。
【0081】
(2)リン酸化タウ蛋白の検出方法:
以下の一次抗体とABC(avidin-biotin-immunoperoxidase complex)法との組み合わせによって施行した。
一次抗体としては、抗リン酸化タウ蛋白(phosphorylated tau protein; PHF-tau) マウスモノクローナル抗体(クローン:AT8、Innogenetics: 現在社名 富士レビオ(Fujirebio)株式会社、東京)を使用した。ABCキットは、Vectastain ABC Kit (Vector Laboratories, Burlingame, CA、米国)を使用した。
最終的には、DABを発色剤として可視化した。封入工程は、HE染色と同様に封入剤にて組織切片を封入した。
【0082】
HE染色・Aβ40免疫染色・Aβ42免疫染色・AT8免疫染色の各染色標本を、封入剤乾燥後、画像イメージ解析ソフト (FLVFS-LS Ver. 1.12: オリンパス、東京) 搭載の 3CCD デジタルカメラシステム(FX380: オリンパス)装備の光学顕微鏡(BX41: オリンパス) にて検鏡し、当該装置にて写真撮影と共に画像解析を実施した。
【0083】
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの病態が神経病理学的にヒトアルツハイマー病と同一であることを証明するために、予備実験として、雄性マウス10匹を使用した。免疫組織化学的解析により、アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおいてはヒトアルツハイマー病の神経病理診断学的hallmarkであるAβ40とAβ42とがコア蛋白質であるアミロイド老人斑とリン酸化タウ蛋白質がコア蛋白質である神経原線維が700日齢以上のマウスにおいて多数出現していたが、Age-matchさせた正常マウスにおいては出現は認められなかった。アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの老人斑に関しては、ルーチン染色であるHE染色のみで、ヒトアルツハイマー病の老人斑と同様にその構造を容易に同定することが可能であった。アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおいて出現する老人斑と神経原線維変化は、ヒトアルツハイマー病の神経病理組織学的hallmarkである老人斑や神経原線維変化と神経病理学的には、同一構造物であった(
図2)。
【0084】
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおける、免疫染色で同定されたAβ40及びAβ42がコア蛋白質であるアミロイド老人斑及びHE染色で同定された老人斑の好発部位は、海馬(Ammon角)、海馬台、大脳皮質(特に、entorhinal cortex(嗅内皮質))であった。リン酸化タウ蛋白質がコア蛋白質である神経原線維変化の好発部位は、視床下部、扁桃核であった。この神経病理学的解析予備実験に基づいて、薬剤治療効果の評価方法として、アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの大脳割面と脳幹・小脳割面において、ヒトアルツハイマー病の神経病理組織学的hallmarkである老人斑と神経原線維変化の好発部位の割面を中心に、組織化学的及び免疫組織化学的に定量的に解析した(
図3)。
【0085】
薬剤のアルツハイマー病に対する治療効果判定は、マウスにおける、ヒトアルツハイマー病の神経病理組織学的hallmarkである老人斑の出現数と神経原線維変化を有する神経細胞数の抑制を以下の方法に従って定量的に解析して判定した。
【0086】
老人斑に関しては、老人斑数と老人斑の大きさ(老人斑の成長度合い)との二つの要素を考慮して検索した。即ち、老人斑の直径が100 μm以上を大型老人斑、直径が50 μm以下を小型老人斑、老人斑の直径が50 μmと100 μmの中間であった老人斑を中型老人斑とに分類したうえで、それぞれの数を計測した(
図4)。数の計測に際しては、double blindにて実施した。即ち、神経病理学的定量的解析では、標本に単なる個体識別番号しか記載せず、標本における細胞数を測定する際に、それがプラセボ又は化合物Aのいずれの投与群のものであったかを知ることができない状況にて実施した。
【0087】
神経原線維変化に関しては、神経原線維(Neurofibrillary Tangle)変化を有している神経細胞の個数のみをもって評価した。数の計測に際しては、老人斑数と同様にdouble blindにて実施した。
【0088】
老人斑の出現数と神経原線維変化を伴う神経細胞数の定量的数値は、平均値±標準偏差で表示した。当該研究に関しての統計解析はマッキントッシュソフトウエアのStatview(Ver.5.0, SAS Institute Inc., カリフォルニア、米国)を用いて実施した。有意差検定にはMann‐WhitneyのU検定を用い、危険率P<0.05を持って統計的有意差があると判定した。
【0089】
(b)結果
1.老人斑
1)老人斑の神経病理学的形態的特徴
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの大脳における海馬を含む乳頭体冠状断割面の病理組織標本を
図5及び
図6に示す。
700日齢までと700日齢を超した正常マウスには出現しない老人斑が、アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの海馬において、HE染色で容易に同定できた。アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスに出現する老人斑は、神経病理学的形態的特徴として、中心部がHE染色で濃く染色されるcoreと表現される部位が有り、その周辺がHE染色で淡く染色されるhalloを有する構造物からなるタイプの老人斑と、HE染色で淡く染色されるhaloのみからなる老人斑の二種類の老人斑が存在していた。ヒトアルツハイマー病で出現する老人斑とHE染色上は同一であった。HE染色上、アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスに出現する老人斑のうち、前者の老人斑は、ヒトアルツハイマー病で出現する老人斑のclassical type senile plaquesに相当し、後者の老人斑は、ヒトアルツハイマー病で出現する老人斑のdiffuse type senile plaquesに相当するものであった。
【0090】
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスに出現するHE染色で同定できた老人斑は、抗アミロイドβプロテイン_Aβ40抗体(クローンNo.BA27)と抗アミロイドβプロテイン_Aβ42抗体(クローンNo.BC05)のいずれか、あるいは両方の抗体で同定できた。0.5%メチルセルロース投与コントロール群に出現した老人斑(
図5)と、化合物A治療群に出現した老人斑(
図6)とは、神経病理学的形態的及び染色学的には同一であった。また、両群のアルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスに出現したAβ40・Aβ42免疫染色陽性老人斑は、ヒトアルツハイマー病で出現するAβ40・Aβ42免疫染色陽性老人斑と神経病理学的形態的及び染色学的に同一であった。
【0091】
2)老人斑数の定量的解析結果
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおける老人斑の神経病理組織学的特徴が、ヒトアルツハイマー病の老人斑の神経病理組織学的特徴と同一であり、且つコントロール群と化合物A治療群の両者における老人斑の神経病理組織学的特徴が同一であったことから、老人斑に関しては、老人斑数とその直径の大きさ(成長度合い)の定量的解析結果をもって、化合物Aによるヒトアルツハイマー病抑制の有効性を評価した。
【0092】
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおける老人斑の好発部位を考慮して、HE染色・Aβ40免疫染色・Aβ42免疫染色の三連続染色に基づいて、乳頭体の冠状断割面(海馬・海馬台を含む)とentorhinal cortex(嗅内皮質)の大脳冠状断割面(海馬・海馬台・entorhinal cortex(嗅内皮質)を含む大脳皮質)において出現している老人斑を計測した。
【0093】
以下に、個別のデータを記載する。
化合物A(1): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑21、中型老人斑33、小型老人斑、113。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑16、中型老人斑78、小型老人斑、96。
化合物A(2): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑12、中型老人斑12、小型老人斑、38。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑10、中型老人斑24、小型老人斑、78。
化合物A(3): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑12、中型老人斑25、小型老人斑、106。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑11、中型老人斑31、小型老人斑、110。
化合物A(4): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑5、中型老人斑30、小型老人斑、130。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑2、中型老人斑14、小型老人斑、164。
コントロール(1): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑8、中型老人斑27、小型老人斑、42。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑13、中型老人斑36、小型老人斑、76。
コントロール(2): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑29、中型老人斑37、小型老人斑、108。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑21、中型老人斑45、小型老人斑、102。
コントロール(3): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑40、中型老人斑66、小型老人斑、139。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑42、中型老人斑65、小型老人斑、124。
コントロール(4): 乳頭体冠状断割面: 大型老人斑35、中型老人斑46、小型老人斑、63。Entorhinal cortex冠状断割面: 大型老人斑27、中型老人斑32、小型老人斑、52。
【0094】
化合物A治療群の大脳1冠状断割面あたりの大型老人斑の数は、11.1 ± 5.9、コントロール群は26.9 ±12.3、中型老人斑の数は、30.9 ± 20.5、コントロール群は44.3 ±14.5、小型老人斑の数は、104.4 ± 36.8、コントロール群は88.3 ± 35.2であった。
【0095】
統計学的に解析した結果、大型老人斑の数と中型老人斑の数の比較では、化合物A治療群はコントロール群と比較して有意に老人斑の数は減少していた(p = 0.013 , p = 0.036, Mann‐WhitneyのU検定)。小型老人斑の数には有意差は認められなかった(p = 0.400, Mann‐WhitneyのU検定)(
図7)。
【0096】
2. 神経原線維変化
1)神経原線維変化の神経病理学的形態的特徴
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの大脳における扁桃核及び視床下部を含む大脳冠状断割面の病理組織標本を
図8及び
図9に示す。
700日齢までと700日齢を超した正常マウスには出現しない神経原線維変化が、アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスの視床下部と扁桃核において、神経原線維変化のコア蛋白質であるリン酸化タウ蛋白質を同定するAT8免疫染色にて容易に同定できた。0.5%メチルセルロース投与コントロール(対照)群のマウスに出現したAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞(
図8)と、化合物A投与治療群のマウスに出現したAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞(
図9)とは、神経病理学的形態的及び染色学的には同一であった。また、両群のマウスに出現したAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞は、ヒトアルツハイマー病で出現するAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞と神経病理学的形態的及び染色学的に同一であった。
【0097】
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおけるAT8免疫染色陽性神経原線維変化は、ルーチン染色のHE染色では同定困難であった。一方、ヒトアルツハイマー病で出現するAT8免疫染色陽性神経原線維変化は、ヒトアルツハイマー病に精通した神経病理学者においては、HE染色のみで、AT8免疫染色陽性神経原線維変化を有した神経細胞の一部は同定可能の構造物である。この経験的事実に基づけば、HE染色上は、アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおけるAT8免疫染色陽性神経原線維変化と、ヒトアルツハイマー病で出現するAT8免疫染色陽性神経原線維変化とは当該所見の点で同一でない点が認められた。しかしながら、ヒトアルツハイマー病で出現するAT8免疫染色陽性神経原線維変化もアルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおけるAT8免疫染色陽性神経原線維変化も共に、神経原線維変化の検出感度は、AT8免疫染色の方が、HE染色よりも遙かに高いという事実に基づき、神経原線維変化を有する神経細胞に関しては、AT8免疫染色陽性神経原線維変化をもって評価した。
【0098】
2)AT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞数の定量的解析
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおけるAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の神経病理組織学的特徴は、ヒトアルツハイマー病のAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の神経病理組織学的特徴と同一であり、且つコントロール群と化合物A治療群の両者におけるAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の神経病理組織学的特徴が同一であった。この結果に基づいて、AT8免疫染色陽性神経原線維変化に関しては、AT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の定量的解析結果をもって、化合物Aによるヒトアルツハイマー病抑制の有効性を評価した。
【0099】
アルツハイマー病モデルダブルトランスジェニックマウスにおけるAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の好発部位を考慮して、視床下部を含む大脳冠状断割面と扁桃核の最大径が出現する大脳冠状断割面において出現しているAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞を計測した。
以下に、個別のデータを記載する。
化合物A(1): 視床下部冠状断割面: 149。扁桃核最大径冠状断割面: 103。
化合物A(2): 視床下部冠状断割面: 119。扁桃核最大径冠状断割面: 175。
化合物A(3): 視床下部冠状断割面: 26。扁桃核最大径冠状断割面: 13。
化合物A(4): 視床下部冠状断割面: 13。扁桃核最大径冠状断割面: 18。
コントロール(1): 視床下部冠状断割面: 259。扁桃核最大径冠状断割面: 237。
コントロール(2): 視床下部冠状断割面: 204。扁桃核最大径冠状断割面: 153。
コントロール(3): 視床下部冠状断割面: 283。扁桃核最大径冠状断割面: 198。
コントロール(4): 視床下部冠状断割面: 180。扁桃核最大径冠状断割面: 165。
【0100】
化合物A治療群の大脳1冠状断割面あたりのAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の数は、77.0 ± 67.1であり、0.5%メチルセルロース投与コントロール群の大脳1冠状断割面あたりのAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の数は、209.9 ± 46.0であった。
統計学的に解析した結果、化合物A治療群はコントロール群に比べて、有意にAT8免疫染色陽性神経原線維変化を有する神経細胞の数が減少していた(p= 0.016, Mann‐WhitneyのU検定)(
図10)。
【0101】
以上のとおり、キサンチン酸化還元酵素の選択的な阻害剤である化合物Aはアルツハイマー病の原因遺伝子に基づくモデルマウスに対してその病理学的所見から、疾病の進行を著しく抑制することが示された。すなわち、キサンチン酸化還元酵素の選択的な阻害剤である化合物Aは、経口投与によって、アルツハイマー病モデルマウスの大型老人斑と中型老人斑の数を優位に抑制することがわかった。また、化合物Aは、経口投与によって、アルツハイマー病モデルマウスにおける神経原線維変化、すなわち、リン酸化されたtauタンパクの神経細胞内への蓄積を大幅に抑制することがわかった。