特許第6891113号(P6891113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6891113
(24)【登録日】2021年5月28日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】アルギニンを高含有する錠剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20210607BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20210607BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20210607BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20210607BHJP
   A61P 5/06 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   A61K31/198
   A61K9/20
   A61P9/00
   A61P3/00
   A61P5/06
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-528691(P2017-528691)
(86)(22)【出願日】2016年7月12日
(86)【国際出願番号】JP2016070601
(87)【国際公開番号】WO2017010487
(87)【国際公開日】20170119
【審査請求日】2019年6月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-139813(P2015-139813)
(32)【優先日】2015年7月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】308032666
【氏名又は名称】協和発酵バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 卓也
(72)【発明者】
【氏名】中野 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤森 賀之
【審査官】 参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−254580(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/008632(WO,A1)
【文献】 特開2010−270111(JP,A)
【文献】 特表2005−530769(JP,A)
【文献】 特表2001−518083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/198
A61K 9/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フリー体のアルギニンを、錠剤の全量に対して85質量%以上含有し、
前記フリー体のアルギニンが、球状で流動性に富む粉体に含まれている、錠剤。
【請求項2】
アルギニンが、L−アルギニンである、請求項1に記載の錠剤。
【請求項3】
フリー体のアルギニンの水混合液を噴霧乾燥法によって乾燥する工程、及び得られた乾燥物を圧縮成形する工程を含み、
前記アルギニンの含有量が錠剤の全量に対して85質量%以上である、フリー体のアルギニンを含有する錠剤の製造方法。
【請求項4】
アルギニンが、L−アルギニンである、請求項3に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性に優れた、フリー体のアルギニンを高含有する錠剤、及び該錠剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギニンは、成長ホルモン分泌促進、血流改善等、基礎代謝を上昇させる効果を有していることから、サプリメント等として市販されている。市販されているアルギニン製剤としては、カプセル剤や粒剤が知られているが、効果の期待できる量をカプセル剤や粒剤で摂取するには以下の通り、問題点を有している。
すなわち、カプセル剤では圧縮工程を経ていないので、大きいカプセルを多量に摂取しなければならない点、粒剤ではアルギニンの味、臭いが気になる点、また包装資材にコストがかかる点等が問題となる。
従って、アルギニンを摂取する形態としては錠剤が好ましい。
【0003】
しかしながら、アルギニンを含有する錠剤については、フリー体のアルギニンを錠剤全量に対して一定量以上含有させると、加湿条件下において錠剤に亀裂や崩壊が発生することが知られており、かかる亀裂や崩壊を避けるべく、アルギニンを含有する粉体を湿式造粒して、2.7質量%以上の水分を含む造粒物とした後に打錠する技術が報告されている(特許文献1)。
一方、アルギニンのグルタミン酸塩として錠剤に含有させることにより、加湿条件下における亀裂や崩壊の発生が抑制されることから、たとえば協和発酵バイオ株式会社は、アルギニン・グルタミン酸塩を含有する錠剤を販売している。
しかし、アルギニン・グルタミン酸塩を含有する錠剤では、アルギニンとグルタミン酸をほぼ同じ比率で含むため、錠剤中のアルギニン含有量が制限される。すなわち、効果の期待できる量のアルギニンを摂取するためには、多量の錠剤を摂取する必要があった。
【0004】
また、アルギニン等の吸水性アミノ酸を含有する顆粒を、エタノール可溶性かつ水難溶性被覆剤で被覆する技術が報告されている(特許文献2)。さらに、水に不安定な薬物等を含有する造粒物を被覆し、固形製剤とする技術や、芯顆粒を糖衣液で被覆する技術も報告されている(特許文献3、4)。しかしながら、被覆を施すと、好ましくない味・香りのマスキングや保存安定性に優れるというメリットがある一方で、製造時間が長くなる、製造コストが増加するという問題点があった。
【0005】
かかる状況の下、簡便に製造することができ、保存安定性に優れた、フリー体のアルギニンを高含有する錠剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−254580号公報
【特許文献2】特開2005−298373号公報
【特許文献3】特開2007−001873号公報
【特許文献4】特開2007−197378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、簡便に製造することができ、保存安定性に優れた、フリー体のアルギニンを高含有する錠剤、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは、噴霧乾燥法により乾燥したフリー体のアルギニンを圧縮成形することにより、フリー体のアルギニンを高含有する錠剤を得ることができ、しかも該錠剤では、保存時の吸湿による亀裂や崩壊が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[4]に関する。
[1]フリー体のアルギニンを、錠剤の全量に対して5質量%以上含有する、錠剤。
[2]アルギニンが、L−アルギニンである、上記[1]に記載の錠剤。
[3]フリー体のアルギニンの水混合液を噴霧乾燥法によって乾燥する工程、及び得られた乾燥物を圧縮成形する工程を含む、フリー体のアルギニンを含有する錠剤の製造方法。
[4]アルギニンが、L−アルギニンである、上記[3]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、フリー体のアルギニンを、錠剤の全量に対して5質量%以上含有し、かつ吸湿による亀裂や崩壊が抑制され、保存安定性に優れた錠剤を提供することができる。
また、本発明の錠剤は、従来の被覆製剤のような被覆工程を必要としないので、簡便に製造することができる。
さらに、本発明の錠剤は、フリー体のアルギニンを高含有するため、錠剤の小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で製造した錠剤を40℃、相対湿度75%にて24時間保存した後の、錠剤上面の状態を示す図である。
図2】実施例1で製造した錠剤を40℃、相対湿度75%にて24時間保存した後の、錠剤側面の状態を示す図である。
図3】実施例2で製造した錠剤を40℃、相対湿度75%にて24時間保存した後の、錠剤上面の状態を示す図である。
図4】実施例2で製造した錠剤を40℃、相対湿度75%にて24時間保存した後の、錠剤側面の状態を示す図である。
図5】比較例1で製造した錠剤を40℃、相対湿度75%にて1時間保存した後の、錠剤上面の状態を示す図である。
図6】比較例1で製造した錠剤を40℃、相対湿度75%にて1時間保存した後の、錠剤側面の状態を示す図である。
図7】比較例2で製造した錠剤を40℃、相対湿度75%にて2時間保存した後の、錠剤上面の状態を示す図である。
図8】比較例2で製造した錠剤を40℃、相対湿度75%にて2時間保存した後の、錠剤側面の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明の錠剤)
本発明は、フリー体のアルギニンを、錠剤の全量に対して5質量%以上含有する錠剤(以下、本発明の錠剤という。)である。
【0013】
アルギニン(5−グアニジノ−2−アミノペンタン酸)は、塩基性を示すアミノ酸であるが、本発明の錠剤ではフリー体、すなわち塩を形成していない遊離の形態のものを用いる。
本発明の錠剤において、アルギニンとしては、ゼラチンや脱脂大豆などの酸加水分解物から抽出分離する方法、オルニチンを原料とする化学合成法、Brevibacterium flavumの2−チアゾールアラニン耐性+グアニン要求株等を用いた発酵法等、自体公知の製造方法により製造されたものを制限なく用いることができるが、発酵法により製造されたものが好ましく用いられる。
また、フリー体のアルギニンとして、上記公知の製造方法に従って製造して用いてもよいが、たとえば、協和発酵バイオ株式会社等より提供されている市販の製品を用いてもよい。
さらに、アルギニンとしては、D−体、L−体及びDL−体のいずれをも用いることができるが、L−体が好ましく用いられる。
【0014】
本発明の錠剤において、フリー体のアルギニンの水混合液は、噴霧乾燥法により乾燥して、錠剤に含有される。
噴霧乾燥法は、薬物等の溶液又は懸濁液を熱風とともに細い孔径のノズルから噴霧し、チャンバー内で微小な液滴として、短時間で乾燥させる方法であり、球状で流動性に富む粉体粒子を得ることができる。本発明では、製剤化において通常実施される条件で噴霧乾燥を行うことができる。
【0015】
上記の噴霧乾燥法に供する、フリー体のアルギニンの水混合液とは、フリー体のアルギニンを水に添加し、均質に混合して得られるフリー体のアルギニンの水溶液、又は添加したフリー体のアルギニンの一部が水に溶解し、残部が水に懸濁されて存在する水懸濁液である。かかる水混合液中におけるアルギニンの添加濃度は、通常10(w/v)%〜80(w/v)%である。
【0016】
フリー体のアルギニンの水混合液の噴霧乾燥は、たとえば開放型スプレードライヤーを用いて行われる。開放型スプレードライヤーとしては、各社により医薬品、食品用として製作され提供されている各種機器を用いることができ、製造スケール、すなわち噴霧乾燥処理するフリー体のアルギニンの水混合液量等により適宜選択して用いることができる。開放型スプレードライヤーとしては、たとえばL−8i型スプレードライヤー、OC−16型スプレードライヤー、OC−20型スプレードライヤー(いずれも大川原化工機株式会社製)が挙げられる。
【0017】
噴霧乾燥法によりフリー体のアルギニンの水混合液を乾燥するに際し、スプレードライヤーにおける入熱温度及び排熱温度の調整や、使用するアトマイザーの選択等により、得られる粉体粒子の物性を制御することができる。
入熱温度としては、80℃〜200℃が好ましく、100℃〜180℃がより好ましい。また、排熱温度としては、40℃〜85℃が好ましく、50℃〜70℃がより好ましい。
【0018】
スプレードライヤーにおけるアトマイザーには、気流のエネルギーにより微粒化を行うタイプのものと、遠心力により微粒化を行うタイプのものがある。
気流のエネルギーにより微粒化を行うタイプには、エアーブラストアトマイザー等のガスブラストアトマイザー、エアーアシストアトマイザー等のガスアシストアトマイザー及び気体混入アトマイザー等があり、その気液接触方式としては、プレフィルミング型、プレーンジェット型、クロスフロー型等があり、その気液混合方式としては、外部混合型、内部混合型、Yジェット型等がある。代表的なものとしては、プレフィルミングエアーブラストアトマイザー、プレーンジェットエアーブラストアトマイザー、外部混合エアーアシストアトマイザー、内部混合エアーアシストアトマイザー、Yジェットアトマイザー等が挙げられる。
遠心力により微粒化を行うタイプには、回転カップアトマイザー、回転円板アトマイザー、ホイールアトマイザー等があり、M型ディスクアトマイザー、ロータリーディスクアトマイザー等の回転円板アトマイザーが好ましく用いられ、その回転数としては、25,000rpm〜40,000rpmが好ましい。
【0019】
フリー体のアルギニンの水混合液を噴霧乾燥法により乾燥することにより、球形度の向上したアルギニン粉体が得られる。
また、噴霧乾燥法により乾燥して得られるアルギニン粉体について、加熱乾燥式水分計法又はカールフィッシャー法により測定される水分含有量は、5.5質量%以下、好ましくは4.5質量%以下、より好ましくは4質量%以下である。
【0020】
本発明の錠剤は、噴霧乾燥法により乾燥して得られたフリー体のアルギニンの上記粉体を含有する。本発明の錠剤においては、水分を含まないフリー体のアルギニン量に換算して、錠剤の全量に対して、5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは33質量%以上、さらにより好ましくは37質量%以上、より一層好ましくは47質量%以上、さらにより一層好ましくは56質量%以上、さらになお好ましくは66質量%以上、よりなお一層好ましくは75質量%以上、特に好ましくは85質量%以上、最も好ましくは87質量%以上含有する。
なお、錠剤の製剤安定性等を考慮すると、本発明の錠剤における、水を含まないフリー体のアルギニン量に換算した含有量の上限値は、錠剤の全量に対して、99質量%以下、好ましくは98質量%以下、より好ましくは96質量%以下である。
【0021】
本発明の錠剤はまた、賦形剤、結合剤、崩壊剤、流動化剤、滑沢剤、保存剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤、酸味剤等の製剤化に際し通常用いられる添加剤を含有することができる。これらの添加剤は、必要に応じて、本発明の特徴を損なわない範囲で、錠剤の製造における通常の用法に準じて、本発明の錠剤に含有される。
【0022】
本発明の錠剤に含有され得る賦形剤としては、たとえば、乳糖、白糖、D−マンニトール、D−ソルビトール、トウモロコシデンプン、デキストリン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、結晶セルロース等が挙げられる。
【0023】
本発明の錠剤に含有され得る結合剤としては、たとえば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、白糖、デキストリン、デンプン、アルファー化デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム等が挙げられる。
【0024】
本発明の錠剤に含有され得る崩壊剤としては、たとえば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0025】
本発明の錠剤に含有され得る流動化剤としては、たとえば、リン酸三カルシウム、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0026】
本発明の錠剤に含有され得る滑沢剤としては、たとえば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、タルク等が挙げられる。
【0027】
本発明の錠剤に含有され得る保存剤としては、たとえば、パラオキシ安息香酸メチル、デヒドロ酢酸ナトリウム、D−ソルビトール等が挙げられる。
【0028】
本発明の錠剤に含有され得る抗酸化剤としては、たとえば、亜硫酸ナトリウム、酢酸トコフェロール、天然ビタミンE等が挙げられる。
【0029】
本発明の錠剤に含有され得る着色剤としては、たとえば、食用色素(例:食用赤色2号もしくは3号、食用黄色4号もしくは5号等)、β−カロテン等が挙げられる。
【0030】
本発明の錠剤に含有され得る矯味剤としては、たとえば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム等が挙げられる。
【0031】
本発明の錠剤に含有され得る酸味剤としては、たとえば、クエン酸、リンゴ酸、リン酸、フマル酸等が挙げられる。
【0032】
本発明の錠剤においては、後述するように、被覆処理を施さない場合でも保存安定性に優れた錠剤を得ることができるが、味・香りのマスキングや、腸溶性等の機能を付すために、各種コーティング材により、被覆処理を施してもよい。たとえば、白糖等により被覆して糖衣錠とし、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、酢酸フタル酸セルロース、メタクリル酸コポリマー(オイドラギットL100、オイドラギットS100等、エボニック社製)等で被覆して腸溶錠とし、アミノアルキルメタクリレートコポリマー(オイドラギットRL100、オイドラギットRS100等、エボニック社製)、エチルセルロース等で被覆して徐放錠とすることができる。
【0033】
本発明の錠剤は、噴霧乾燥法により乾燥して得られるフリー体のアルギニンの上記粉体をそのまま、又は該粉体に、必要により賦形剤、結合剤、崩壊剤等の上記した一般的な製剤用の添加剤を加えて混合して均質とし、直接圧縮成形して製造することができる。
【0034】
(本発明の錠剤の製造方法)
本発明はまた、本発明の錠剤の製造方法を提供する。本発明の錠剤の製造方法は、フリー体のアルギニンの水混合液を噴霧乾燥法によって乾燥する工程、及び得られた乾燥物を圧縮成形する工程を含む、フリー体のアルギニンを含有する錠剤の製造方法(以下、本発明の製造方法という。)である。
アルギニンとしては、D−体、L−体及びDL−体のいずれをも用いることができるが、L−体が好ましく用いられる。
噴霧乾燥法によって、フリー体のアルギニンの水溶液を乾燥させる方法は、上記した通りである。
【0035】
フリー体のアルギニンの水混合液を噴霧乾燥法によって乾燥して得られる乾燥物は、上記したように、球形度の高いフリー体のアルギニン粉体として得られる。
本発明の製造方法においては、かかるフリー体のアルギニンの乾燥物に、必要に応じて上記した賦形剤、結合剤、崩壊剤等のような一般的な製剤用添加剤を加え、均質に混合した後、直接圧縮成形して、錠剤とすることができる。
本発明の製造方法においては、圧縮成形を行う前に、撹拌造粒法、流動層造粒法、又は練合造粒法等により造粒する工程を含むこともできるが、かかる造粒工程を含まずとも、保存安定性に優れた錠剤を製造することができる。
また、本発明の製造方法においては、フリー体のアルギニン又はその噴霧乾燥法による乾燥物を、各種コーティング材により被覆処理する工程を含まずに、保存安定性に優れた錠剤を製造することができる。
ここで、「フリー体のアルギニン又はその噴霧乾燥法による乾燥物を被覆処理する工程を含まない」とは、フリー体のアルギニン、もしくは噴霧乾燥法により乾燥して得られるフリー体のアルギニン粉体、又はそれらの造粒物について、圧縮成形を行う前にそれらの被覆処理を行わないことをいう。
【0036】
上記したフリー体のアルギニンの水混合液の噴霧乾燥法による乾燥物と、賦形剤等の一般的な添加剤との混合は、製剤化において通常行われる方法により行うことができ、たとえば、水平円筒型混合機、V型混合機、二重円錐型混合機、揺動回転型混合機、単軸リボン型混合機、複軸パドル型混合機、回転働型混合機、円錐スクリュー型混合機等の各種混合機、混合攪拌機等を用いて行うことができる。
【0037】
上記したフリー体のアルギニンの水混合液の噴霧乾燥法による乾燥物、又は該乾燥物と賦形剤等の一般的な添加剤との混合物の圧縮成形は、製剤化において通常行われる方法により行うことができ、たとえば、竪型成形機、ロータリー式成形機等を用いて行うことができる。
圧縮成形圧(打錠圧力)は、500kgf〜3,000kgfとするのが好ましく、600kgf〜2,800kgfとするのがより好ましい。
【0038】
本発明の製造方法により得られる錠剤について、錠剤破壊強度測定器により測定される錠剤硬度は、通常4kgf〜20kgfである。
【0039】
本発明の製造方法により得られる錠剤は、フリー体のアルギニンを高含有しながら、製剤強度及び保存安定性に優れ、吸湿による亀裂や崩壊が抑制され、耐衝撃性にも優れる。
また、フリー体のアルギニンを高含有するため、錠剤の小型化を図ることができ、また、有効量のアルギニンを摂取するために必要な錠剤の服用数を減らすことができるので、服薬コンプライアンスにおいて有利である。
【0040】
本発明の錠剤は、ヒトをはじめ、サル、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、モルモット等の哺乳動物に好適に経口投与することができ、先天性尿素サイクル異常症の治療の他、成長ホルモン分泌促進、血流改善、基礎代謝の上昇を目的として投与することができる。また、血流改善、基礎代謝上昇等の効果を期待して、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の保健機能食品、健康補助食品、サプリメント等としても摂取させることができる。
本発明の錠剤の投与量は、動物種、性別、年齢、疾患又は症状の程度等により異なり、適宜増減して調整することができるが、体重60kgのヒト(成人)の場合、フリー体のアルギニン量にして、通常200mg/日〜10,000mg/日で、好ましくは400mg/日〜6,000mg/日であり、かかる量を1回で摂取させてもよく、数回に分けて摂取させてもよい。
【0041】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
以下の参考例、実施例及び比較例においては、L−アルギニンとして、製品名「L-アルギニン協和」(協和発酵バイオ株式会社製)を、結晶セルロースとして、製品名「セオラス UF−F702」(旭化成ケミカルズ株式会社製)を、リン酸三カルシウムとして、製品名「リン酸三カルシウム」(太平化学産業株式会社製)を、ヒドロキシプロピルセルロースとして、製品名「セルニーSSL SFP」(日本曹達株式会社製)を、グリセリン脂肪酸エステルとして、製品名「ポエムTR−FB」(理研ビタミン株式会社製)を用いた。
【0042】
[参考例1]
L−アルギニン600gを水5Lに添加、混合して、アトマイザー回転数=35,000rpm、入熱温度=180 ℃及び排熱温度=70℃の条件に設定したスプレードライヤー[L−8i型スプレードライヤー(大川原化工機株式会社製)]で、噴霧乾燥して粉体を得た。前記粉体の水分含有量を加熱乾燥式水分計[加熱乾燥式水分計MX−50(株式会社エー・アンド・デイ製)]で測定したところ1.96質量%、一般財団法人日本食品分析センターにてカールフィッシャー法で測定したところ2.3質量%であった。以下、本粉体を「SDアルギニン−A」と表記する。
【0043】
[参考例2]
L−アルギニン600gを水5Lに添加、混合して、アトマイザー回転数=35,000rpm、入熱温度=130 ℃及び排熱温度=60℃の条件に設定したスプレードライヤー[L−8i型スプレードライヤー(大川原化工機株式会社製)]で、噴霧乾燥して粉体を得た。前記粉体の水分含有量を加熱乾燥式水分計[加熱乾燥式水分計MX−50(株式会社エー・アンド・デイ製)]で測定したところ1.81質量%であった。以下、本粉体を「SDアルギニン−B」と表記する。
【0044】
[参考例3]
L−アルギニン600gを水5Lに添加、混合して、アトマイザー回転数=35,000rpm、入熱温度=100 ℃及び排熱温度=50℃の条件に設定したスプレードライヤー[L−8i型スプレードライヤー(大川原化工機株式会社製)]で、噴霧乾燥して粉体を得た。前記粉体の含水量を加熱乾燥式水分計[加熱乾燥式水分計MX−50(株式会社エー・アンド・デイ製)]で測定したところ3.80質量%、一般財団法人日本食品分析センターにてカールフィッシャー法で測定したところ3.91質量%であった。以下、本粉体を「SDアルギニン−C」と表記する。
【実施例1】
【0045】
SDアルギニン−A 80g、結晶セルロース16g、リン酸三カルシウム1g、グリセリン脂肪酸エステル3gを混合し、単発式圧縮成形機[竪型成形機6B−2M(株式会社菊水製作所製)]を用いて、圧縮成形圧=1,500kgfにて圧縮成形し、直径=9mm、300mg/錠の錠剤を得た。任意に10個の錠剤を選んで、錠剤破壊強度測定器[錠剤破壊強度測定器TH−203CP(富山産業株式会社製)]により錠剤硬度を測定したところ、錠剤硬度の平均値は10kgfであった。
【実施例2】
【0046】
SDアルギニン−A 96g、リン酸三カルシウム1g、グリセリン脂肪酸エステル3gを混合し、単発式圧縮成形機[竪型成形機6B−2M(株式会社菊水製作所製)]を用いて、圧縮成形圧=2,200kgfにて圧縮成形し、直径=9mm、300mg/錠の錠剤を得た。任意に10個の錠剤を選んで、錠剤破壊強度測定器[錠剤破壊強度測定器TH−203CP(富山産業株式会社製)]により錠剤硬度を測定したところ、錠剤硬度の平均値は10kgfであった。
【実施例3】
【0047】
SDアルギニン−A 93g、ヒドロキシプロピルセルロース3g、リン酸三カルシウム1g、グリセリン脂肪酸エステル3gを混合し、単発式圧縮成形機[竪型成形機6B−2M(株式会社菊水製作所製)]を用いて、圧縮成形圧=1,600kgfにて圧縮成形して、直径=9mm、300mg/錠の錠剤を得た。任意に10個の錠剤を選んで、錠剤破壊強度測定器[錠剤破壊強度測定器TH−203CP(富山産業株式会社製)]により錠剤硬度を測定したところ、錠剤硬度の平均値は10kgfであった。
【実施例4】
【0048】
SDアルギニン−A 35g、結晶セルロース61g、リン酸三カルシウム1g、グリセリン脂肪酸エステル3gを混合し、単発式圧縮成形機[竪型成形機6B−2M(株式会社菊水製作所製)]を用いて、圧縮成形圧=650kgfにて圧縮成形し、直径=9mm、300mg/錠の錠剤を得た。任意に10個の錠剤を選んで、錠剤破壊強度測定器[錠剤破壊強度測定器TH−203CP(富山産業株式会社製)]により錠剤硬度を測定したところ、錠剤硬度の平均値は10kgfであった。
【実施例5】
【0049】
SDアルギニン−B 96g、リン酸三カルシウム1g、グリセリン脂肪酸エステル3gを混合し、単発式圧縮成形機[竪型成形機6B−2M(株式会社菊水製作所製)]を用いて、圧縮成形圧=2,500kgfにて圧縮成形し、直径=9mm、300mg/錠の錠剤を得た。任意に10個の錠剤を選んで、錠剤破壊強度測定器[錠剤破壊強度測定器TH−203CP(富山産業株式会社製)]により錠剤硬度を測定したところ、錠剤硬度の平均値は10kgfであった。
【実施例6】
【0050】
SDアルギニン−C 96g、リン酸三カルシウム1g、グリセリン脂肪酸エステル3gを混合し、単発式圧縮成形機[竪型成形機6B−2M(株式会社菊水製作所製)]を用いて、圧縮成形圧=2,700kgfにて圧縮成形し、直径=9mm、300mg/錠の錠剤を得た。任意に10個の錠剤を選んで、錠剤破壊強度測定器[錠剤破壊強度測定器TH−203CP(富山産業株式会社製)]により錠剤硬度を測定したところ、錠剤硬度の平均値は10kgfであった。
【0051】
[比較例1]
L−アルギニン96g、結晶セルロース19.2gを流動層造粒機[流動造粒コーティング装置FL−MINI型(フロイント産業株式会社製)]に投入し、流動混合させながら水12gを噴霧した。その後、乾燥して得られた造粒物96gに、リン酸三カルシウム1g、グリセリン脂肪酸エステル3gを混合し、単発式圧縮成形機[竪型成形機6B−2M(株式会社菊水製作所製)]を用いて、圧縮成形圧=1,500kgfにて圧縮成形し、直径=9mm、300mg/錠の錠剤を得た。任意に10個の錠剤を選んで、錠剤破壊強度測定器[錠剤破壊強度測定器TH−203CP(富山産業株式会社製)]により錠剤硬度を測定したところ、錠剤硬度の平均値は10kgfであった。
【0052】
[比較例2]
L−アルギニン42g、結晶セルロース73.2gを流動層造粒機[流動造粒コーティング装置FL−MINI型(フロイント産業株式会社製)]に投入し、流動混合させながら水12gを噴霧した。その後、乾燥して得られた造粒物96gに、リン酸三カルシウム1g、グリセリン脂肪酸エステル3gを混合し、単発式圧縮成形機[竪型成形機6B−2M(株式会社菊水製作所製)]を用いて、圧縮成形圧=550kgfにて圧縮成形し、直径=9mm、300mg/錠の錠剤を得た。任意に10個の錠剤を選んで、錠剤破壊強度測定器[錠剤破壊強度測定器TH−203CP(富山産業株式会社製)]により錠剤硬度を測定したところ、錠剤硬度の平均値は10kgfであった。
【0053】
[試験例]
実施例1〜6及び比較例1、2で得られた各錠剤を、気温=40℃、相対湿度=75%に設定した恒温槽[大型低温恒温恒湿機(株式会社東洋製作所製)]にて曝露条件下で24時間保存した。
試験結果は、下記の評価基準に従い、0〜3の評価点にて表し、実施例及び比較例の各錠剤における各成分の含有率(質量%)、打錠圧力(圧縮成形圧)ならびに錠剤硬度とともに表1に記載した。
<評価基準>
0:錠剤として問題がない
1:錠剤側面にほんの少しのひびが入っているが、表面がきれいで、1mの高さから落下させる程度の衝撃でも割れず、錠剤として問題がない
2:錠剤に亀裂が発生し、軽度の衝撃(20cmの高さから落下させる)で容易に崩壊する
3:錠剤が崩壊している
【0054】
【表1】
【0055】
また、実施例1、2及び比較例1、2で製造した各錠剤について、上記試験を行った後の錠剤上面及び側面の状態を図1〜8に示した。
【0056】
表1に示されるように、実施例1で製造された錠剤は、40℃、相対湿度=75%にて曝露条件下で保存した場合、12時間までの評価は0点であり、24時間後に1点と評価された。
図1、2は、実施例1で製造した錠剤を、40℃、相対湿度=75%にて24時間保存した後の錠剤上面及び側面を撮影した写真であるが、錠剤上面にはひび割れは認められず、側面においてわずかにひび割れが認められる程度である。
【0057】
表1に示されるように、実施例2で製造された錠剤は、40℃、相対湿度=75%にて曝露条件下で24時間保存した後の評価は0点であった。
図3、4は、実施例2で製造した錠剤を、40℃、相対湿度=75%にて24時間保存した後の錠剤の上面及び側面を撮影した写真であるが、錠剤の表面はきれいで、上面及び側面のいずれにおいても微小なひび割れすら認められない。
【0058】
また、表1に示されるように、実施例3〜6で製造した錠剤は、40℃、相対湿度=75%にて曝露条件下で24時間保存した後の評価は、いずれも0点であり、吸湿によるひび割れの発生は観察されず、高い保存安定性が認められた。
【0059】
一方、L−アルギニンを結晶セルロースとともに湿式造粒した後、リン酸三カルシウム及びグリセリン脂肪酸エステルを添加、混合し、圧縮成形して製造した錠剤(比較例1、2)は、40℃、相対湿度=75%にて曝露条件下で保存した場合、表1に示される通り、1時間〜3時間で崩壊した。比較例1、2で製造した錠剤を、40℃、相対湿度=75%にて1時間及び2時間、それぞれ保存した後の錠剤上面及び側面の写真を、それぞれ図5〜8に示す。
L−アルギニン含有量が35質量%である比較例2の錠剤では、2時間保存後に錠剤の上面及び側面に亀裂が認められ(図7、8)、L−アルギニン含有量が80質量%である比較例1の錠剤では、1時間後に錠剤の崩壊が認められた(図5、6)。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上、詳述したように、本発明により、フリー体のアルギニンを、錠剤の全量に対して5質量%以上含有しながら、吸湿による亀裂や崩壊が抑制されて保存安定性に優れ、かつ簡便に製造することのできる錠剤を提供することができる。
【0061】
本出願は、日本で出願された特願2015−139813を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8