【文献】
TSAI Jei-cheng et al.,Blended Nafion/SPEEK direct methanol fuel cell membranes for reduced methanol permeability,Journal of Power Sources,NL,ELSEVIER,2009年 4月15日,Vol. 189,p. 958-965
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
SEM−EDXで観測される膜表面の前記画像で、倍率1500倍におけるC/Fピーク強度比の相対標準偏差と、倍率150倍におけるC/Fピーク強度比の相対標準偏差との割合(1500倍の相対標準偏差/150倍の相対標準偏差)が、0.20以上5.0以下である、請求項1に記載の高分子電解質膜。
パーフルオロスルホン酸系樹脂(A)を含む前記溶液、及び酸性基を有する芳香族炭化水素系樹脂(B)を含む前記溶液の、動的光散乱測定における散乱径のピークトップが、10μm以上200μm以下の範囲に存在する、請求項6に記載の高分子電解質膜。
パーフルオロスルホン酸系樹脂(A)を含む溶液、酸性基を有する芳香族炭化水素系樹脂(B)を含む溶液、及び前記相溶化剤(C)を含む溶液を混合する工程を経て製造される、請求項5に記載の高分子電解質膜。
パーフルオロスルホン酸系樹脂(A)を含む前記溶液、酸性基を有する芳香族炭化水素系樹脂(B)を含む前記溶液、及び相溶化剤(C)を含む前記溶液の混合液の、UV測定における波長800nmの透過率が、90%T以上である、請求項8に記載の高分子電解質膜。
パーフルオロスルホン酸系樹脂(A)を含む前記溶液、酸性基を有する芳香族炭化水素系樹脂(B)を含む前記溶液、及び相溶化剤(C)を含む前記溶液の混合液中の前記相溶化剤(C)の固形分濃度が、0.001質量%以上1質量%未満である、請求項8又は9に記載の高分子電解質膜。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の高分子電解質膜、該高分子電解質膜を含む膜電極接合体、該膜電極接合体を含む固体高分子型燃料電池を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0030】
[高分子電解質膜]
本実施形態の高分子電解質膜は、パーフルオロスルホン酸系樹脂(A)(本明細書において、単に「樹脂(A)」と称する場合がある。)を含み、SEM−EDXで観測される膜表面の画像で、フッ素原子が主に検出される相と、炭素原子が主に検出される相とが相分離構造を有し、SEMで観測される膜断面の画像で、平均アスペクト比が1.5以上10以下である。
本実施形態の高分子電解質膜は、さらに酸性基を有する芳香族炭化水素系樹脂(B)(本明細書において、単に「樹脂(B)」と称する場合がある。)、及び/又はパーフルオロスルホン酸系樹脂(A)と酸性基を有する芳香族炭化水素系樹脂(B)との相溶化剤(本明細書において、単に「相溶化剤(C)」と称する場合がある。)を含んでいてもよい。
樹脂(A)、樹脂(B)、相溶化剤(C)は、それぞれ、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0031】
本発明者らは、本実施形態の高分子電解質膜は、樹脂(A)を含み、SEM−EDXで観測される膜表面の画像で、フッ素原子が主に検出される相と、炭素原子が主に検出される相とが相分離構造を有し、SEMで観測される膜断面の画像で、平均アスペクト比が1.5以上10以下にならない高分子電解質膜よりも、例えば芳香族炭化水素系スルホン酸樹脂を混合しても高破断伸度を有し、高物理耐久性を発現するとともに、高破断伸度と高ガスバリア性を両立し、高温低加湿条件でも高化学耐久性を発現することを見出した。
【0032】
−パーフルオロスルホン酸系樹脂(A)−
パーフルオロスルホン酸系樹脂(A)としては、例えば、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)で表される繰り返し単位とを含む重合体等が挙げられる。
−[CX
1X
2−CX
3X
4]− ・・・(1)
(式(1)中、X
1、X
2、X
3、X
4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基であり、X
1、X
2、X
3、X
4のうち少なくとも1つは、フッ素原子又は炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基である。)
−[CF
2−CF(−(O
a−CF
2−(CFX
5)
b)
c−O
d−(CF
2)
e−SO
3R)]− ・・・(2)
(式(2)中、X
5はハロゲン原子又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基であり、Rは、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、若しくはカリウム原子等のアルカリ金属原子、NH
4、NH
3R
1、NH
2R
1R
2、NHR
1R
2R
3、若しくはNR
1R
2R
3R
4(R
1R
2R
3R
4は、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基を示す)等のアミン類である。また、aは0又は1であり、bは0又は1であり、cは0〜8の整数であり、dは0又は1であり、eは0〜8の整数である。ただし、bとeは同時に0でない。)
なお、パーフルオロスルホン酸系樹脂に複数の上記一般式(1)で表される繰り返し単位、及び/又は複数の上記一般式(2)で表される繰り返し単位が含まれる場合、各繰り返し単位は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0033】
上記パーフルオロスルホン酸系樹脂(A)としては、下記一般式(3)〜(7)で表される繰り返し単位の1つ以上を有する化合物が好ましい。
−[CF
2−CX
3X
4]
f−[CF
2−CF(−O−CF
2−CFX
5)
c−O
d−(CF
2)
e−SO
3R)]
g− ・・・(3)
−[CF
2−CF
2]
f−[CF
2−CF(−O−CF
2−CF(CF
3))
c−O−(CF
2)
e−SO
3R)]
g− ・・・(4)
−[CF
2−CF
2]
f−[CF
2−CF−O−(CF
2)
e−SO
3R)]
g− ・・・(5)
−[CF
2−CF
2]
f−[CF
2−CF(−O−CF
2−CFX
5)
c−O
d−(CF
2)
e−SO
3H]
g ・・・(6)
−[CF
2−CF
2]
f−[CF
2−CF−(CF
2)
e−SO
3R)]
g− ・・・(7)
(式(3)〜(7)中、X
3、X
4、X
5、Rは、式(1)(2)と同様である。また、c、d、eは、式(1)(2)と同様であり、0≦f<1、0<g≦1、f+g=1である。ただし、式(5)(7)においてeは0でない。)
【0034】
上記パーフルオロスルホン酸系樹脂(A)は、上記一般式(1)(2)で表される繰り返し単位以外の、他の構成単位をさらに含んでいてもよい。上記他の構成単位としては、例えば、下記一般式(I)、(II)で表される構成単位等が挙げられる。
【化1】
(式(I)中、R
1は、単結合又は炭素数1〜6の2価のパーフルオロ有機基(例えば、炭素数1〜6のパーフルオロアルキレン基等)であり、R
2は、炭素数1〜6の2価のパーフルオロ有機基(例えば、炭素数1〜6のパーフルオロアルキレン基、等)である。)
【化2】
(式(II)中、Rは、−C
6H
4CN、−C
6F
4CN、−C
6H
5、−C
6F
5、又は−OHである。)
【0035】
上記パーフルオロスルホン酸系樹脂(A)としては、プロトンを透過しやすく、抵抗が一層低い高分子電解質膜が得られる観点から、式(4)又は式(5)で表される繰り返し単位を有する樹脂が好ましく、式(5)で表される繰り返し単位のみからなる樹脂がより好ましい。
【0036】
上記パーフルオロスルホン酸系樹脂(A)は、例えば、前駆体ポリマーを合成した後、該前駆体ポリマーをアルカリ加水分解、酸処理等すること等により、調製することができる。
上記前駆体ポリマーとしては、例えば、前記式(2)の−SO
3Rが−SO
2Y(Yはハロゲン原子)であるポリマー等が挙げられる。
【0037】
上記前駆体ポリマーは、例えば、下記のフッ化オレフィン化合物と、下記のスルホン酸系フッ化ビニル化合物とを共重合させること等により調製することができる。
【0038】
上記フッ化オレフィン化合物としては、例えば、下記一般式(9)で表される化合物等が挙げられる。
CX
1X
2=CX
3X
4 ・・・(9)
(式(9)中、X
1、X
2、X
3、X
4は、式(1)と同様である。)
【0039】
上記フッ化オレフィン化合物としては、具体的には、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、モノクロロトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、パーフルオロブチルエチレン(C
4F
9CH=CH
2)、パーフルオロヘキシルエチレン(C
6F
13CH=CH
2)、パーフルオロオクチルエチレン(C
8F
17CH=CH
2)等が挙げられる。中でも、テトラフルオロエチレンが好ましい。
上記フッ化オレフィン化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
上記スルホン酸系フッ化ビニル化合物としては、例えば、下記一般式(10)で表される化合物等が挙げられる。
CF
2=CF(−(O
a−CF
2−(CFX
5)
b)
c−O
d−(CF
2)
e−SO
2Y) ・・・(10)
(式(10)中、X
5は、式(2)と同様であり、Yはハロゲン原子である。また、a、b、c、d、eは、式(2)と同様である。ただし、bとeは同時に0でない。)
【0041】
上記スルホン酸系フッ化ビニル化合物としては、具体的には、CF
2=CF−O−(CF
2)
q−SO
2F、CF
2=CF−O−CF
2−CF(CF
3)−O−(CF
2)
q−SO
2F、CF
2=CF−(CF
2)
q−SO
2F、CF
2=CF−(OCF
2CF(CF
3))
q−(CF
2)
q-1−SO
2Fで表される化合物等が挙げられる。
上記化合物中、qは1〜8の整数である。
【0042】
上記前駆体ポリマーは、公知の共重合法により調製することができ、例えば、共重合法としては、以下の方法等を挙げることができる。
(i)含フッ素炭化水素等の重合溶媒を用い、この重合溶媒に充填溶解した状態でスルホン酸系フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィン化合物のガスとを反応させて重合を行う方法(溶液重合)。ここで、上記含フッ素炭化水素としては、例えば、トリクロロトリフルオロエタン、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフロロペンタン等、「フロン」と総称される化合物からなる群より選ばれるものが好適に用いられる。
(ii)含フッ素炭化水素等の溶媒を用いず、スルホン酸系フッ化ビニル化合物そのものを重合溶剤として用いてスルホン酸系フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィン化合物のガスとを反応させて重合を行う方法(塊状重合)。
(iii)界面活性剤の水溶液を重合溶媒として用い、この重合溶媒に充填溶解した状態でスルホン酸系フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィン化合物のガスとを反応させて重合を行う方法(乳化重合)。
(iv)界面活性剤及びアルコール等の助乳化剤の水溶液を用い、この水溶液に充填乳化した状態でスルホン酸系フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィン化合物のガスとを反応させて重合を行う方法(ミニエマルジョン重合、マイクロエマルジョン重合)。
(v)懸濁安定剤の水溶液を用い、この水溶液に充填懸濁した状態でスルホン酸系フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィン化合物のガスとを反応させて重合を行う方法(懸濁重合)。
【0043】
上記前駆体ポリマーのメルトマスフローレート(MFR)は、0.01g/10分以上が好ましく、0.1g/10分以上がより好ましく、0.3g/10分以上が更に好ましく、1g/10分以上が特に好ましい。MFRの上限としては、100g/10分以下が好ましく、50g/10分以下がより好ましく、10g/10分以下が更に好ましく、5g/10以下が特に好ましい。MFRを0.01g/10分以上100g/10分以下の範囲に調整することにより、成膜等の成型加工を良好に行うことができる傾向にある。
なお、前駆体ポリマーのMFRは、JIS K 7210に準拠して測定される。具体的には、オリフィスの内径2.09mm、長さ8mmの装置を用いて温度270℃、荷重2.16kgで測定した含フッ素イオン交換樹脂前駆体のメルトフローレートを前駆体ポリマーのMFR(g/10分)とする。
【0044】
上記前駆体ポリマーは、例えば、塩基性反応液体中に浸漬して、10℃以上90℃以下、10秒以上100時間以下の加水分解処理をし、温水等で十分に水洗された後、酸処理してもよい。塩基性反応液体としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物の水溶液が好ましい。
この酸処理によって前駆体ポリマーがプロトン化されて、パーフルオロスルホン酸系樹脂が得られる。
【0045】
−酸性基を有する芳香族炭化水素系樹脂(B)−
酸性基を有する炭化水素系樹脂(B)としては、主鎖に酸性基を有する炭化水素に由来する繰り返し単位を有する樹脂が挙げられ、中でも、高分子電解質膜の耐久性が一層向上する観点から、酸性基を有するポリフェニレンエーテル(PPE)、酸性基を有するポリエーテルケトン(PEK)、酸性基を有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、酸性基を有するポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、酸性基を有するポリベンゾイミダゾール(PBI)、酸性基を有するポリフェニレンスルフィド(PPSd)、酸性基を有するポリエーテルスルホン(PES)、酸性基を有するポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、酸性基を有するポリフェニルスルホン(PPSn)等が好ましい。
【0046】
酸性基を有する芳香族系炭化水素樹脂(B)における酸性基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等が挙げられる。中でも、プロトン伝導性の一層高い高分子電解質膜が得られる観点から、スルホン酸基が好ましい。
なお、本明細書において、芳香族系とは、単素環式の環状不飽和化合物だけでなく、複素環式の環状不飽和化合物も含む。
【0047】
上記酸性基を有するポリフェニレンエーテルとしては、主鎖に芳香環をなし、該芳香環に結合したアシル基にスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等の酸性基を有する樹脂が挙げられ、具体的には、下記一般式(11)及び下記一般式(12)で示される構成成分を含む重合体が挙げられる。
【化3】
(式(11)中、R
1〜R
3は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、フッ素化アルキル基、アリル基、アリール基、シアノ基からなる群より選ばれる少なくとも一つであり;Xは、二価の電子求引基であり;Ar
1は、酸性基以外の基で置換されていてよいアリール基である。)
【化4】
(式(12)中、R
4〜R
6は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、フッ素化アルキル基、アリル基、アリール基、シアノ基からなる群より選ばれる少なくとも一つであり;Xは、二価の電子求引基であり;Ar
2は、スルホン酸基、カルボン酸基、及びリン酸基からなる群から選択される少なくとも1つの酸性基で置換されているアリール基である。)
【0048】
上記酸性基を有するポリフェニレンエーテルにおいて、式(11)及び式(12)においては、下記の態様が好ましい。
R
1〜R
6におけるアルキル基及びフッ化アルキル基の炭素数としては、1〜12個が好ましく、より好ましくは1〜4個である。
R
1〜R
6のアリル基としては、2−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、2−ヘキセルニル基が好ましい。
R
1〜R
6の(すなわち主鎖側の)アリール基としては、フェニル基やベンジル基が好ましい。
Xの二価の電子求引基としては、−C(O)−(カルボニル基(ケト基))、−S(O)−(スルホキシド)、−S(O)
2−(スルホニル基)が挙げられ、−C(O)−(カルボニル基(ケト基))が好ましい。
Ar
2の(すなわち側鎖側の)アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ベンジル基が好ましい。Ar
2における酸性基で置換されているアリール基としては、スルホン化ベンゾイル基、スルホン化ナフトイル基等が好ましい。
【0049】
上記酸性基を有するポリフェニレンエーテルでは、Ar
1は、酸性基以外の基で置換され得るものである。また、Ar
2の芳香環骨格の置換基のうち少なくとも一つは、スルホン酸基であることが好ましい。ここで、スルホン酸基の芳香環骨格における結合位置は、特に限定されない。また、スルホン酸基の結合位置の数は、一つに限定されることなく、二つや三つとしてもよい。
【0050】
上記酸性基を有するポリフェニレンエーテルでは、ポリフェニレンエーテルの主鎖以外の芳香環上に、選択的にスルホン酸基を導入することにより、スルホン酸基の脱離を抑制することができる。その結果、熱的に安定な酸性基を有するポリフェニレンエーテルが得られる。
【0051】
上記酸性基を有するポリフェニレンエーテルでは、下記の理由により、前述の一般式(11)及び一般式(12)で示される構成成分に対する、一般式(11)で示される構成成分の割合が60〜95モル%であり、一般式(12)で示される構成成分の割合が5〜40モル%であることが好ましい。なお、一般式(11)及び一般式(12)で示される構成成分に対する、一般式(12)で示される構成成分の割合を、スルホン化率とも称する。
スルホン化率が上記範囲であれば、酸性基を有するポリフェニレンエーテルを固体高分子電解質膜として用いた際に、高いプロトン伝導性が得られ、また、高い膜強度を維持することができる。
そして、スルホン化率は、樹脂を固体高分子電解質膜として備えた燃料電池の発電効率を高める観点から、5モル%以上であることが好ましく、15モル%以上であることがさらに好ましく、25モル%以上であることが特に好ましく、また、固体高分子電解質膜の膨潤を低減させる観点から、40モル%以下であることが好ましく、35%以下であることがさらに好ましい。
なお、樹脂のスルホン化率は、特に断りのない限り、樹脂を室温(例えば、30℃)で24時間乾燥させた後における値を指す。
【0052】
上記酸性基を有するポリフェニレンエーテルのイオン交換容量としては、所望のプロトン伝導性が発現できる限り特に制限されないが、スルホン化率の理由と同様の理由から、0.5〜3.5meq/g(ミリ当量/g)であることが好ましく、1.2〜2.5meq/gであることがより好ましい。
なお、イオン交換容量は、後述に記載の方法により求めることができる。
なお、樹脂のスルホン化量が多過ぎる場合、樹脂の耐水性が低下し、水中での溶解・分解が生じてしまうことがあり、プロトン伝導膜として好ましくない。
イオン交換容量は、スルホン化剤の量や反応溶液中における濃度、スルホン化剤による反応の反応時間や反応温度により、調整することができ、例えば、イオン交換容量を高める場合、スルホン化剤を多くし、かつスルホン化剤との反応時間を長くすればよい。
【0053】
上記酸性基を有するポリフェニレンエーテルの構造は、例えば、赤外線吸収スペクトルにより、1010〜1080cm
-1付近、1100〜1230cm
-1付近のスルホン酸基の吸収ピークの有無で、確認することができる。
また、上記構造は、例えば、
1H−NMRにより、確認することもできる。
【0054】
上記酸性基を有するポリフェニレンエーテルの製造方法は、特に限定されないが、例えば、ベースとなるポリフェニレンエーテルに二価の電子求引基及びアリール基を導入して、変性ポリフェニレンエーテルを合成し、その後、変性ポリフェニレンエーテルにスルホン酸基を導入して、上記酸性基を有するポリフェニレンエーテルを合成する方法が挙げられる。
【0055】
上記変性ポリフェニレンエーテルを合成する方法は、特に限定されないが、例えば、フリーデルクラフツアシル化反応を用いて、ポリフェニレンエーテルの芳香環骨格にアシル基、特に、芳香族炭化水素基を有するアシル基を導入する方法が挙げられる。
フリーデルクラフツアシル化反応では、より具体的には、塩化アルミニウム、塩化スズ等のルイス酸(金属ハロゲン化物)の存在下で、ポリフェニレンエーテルと酸ハロゲン化物等とを反応させる。
反応溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、塩化メチレン等が使用される。
反応条件としては、Li,Q.;Liu,L.;Liang,S.;Li,Q.;Jin,B.;Bai,R.;Polym.Chem.,2014,5,2425−2432.に記載の条件を採用することができる。
【0056】
上記ベースとなるポリフェニレンエーテルとしては、特に限定されないが、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)とポリ(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル)とのブロック共重合体やこれらの混合物、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとのランダム共重合体が好ましい。
【0057】
上記酸ハロゲン化物としては、特に限定されないが、下記一般式(13)で示される化合物が挙げられる。
【化5】
(式(13)中、Yは、フッ素原子以外のハロゲン原子であり;R
7〜R
11は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、フッ素化アルキル基、アリル基、アリール基、シアノ基であり、ここで、R
7〜R
11の少なくとも一つは、水素原子である。)
【0058】
また、酸ハロゲン化物としては、上記一般式(13)において、カルボニル基と結合している側鎖芳香族炭化水素基を、フェニル基に代えて、ナフチル基、アントラセニル基等の多環式芳香族炭化水素基とした、化合物も挙げられる。
さらに、上記一般式(13)において、カルボニル基と結合している基を、フェニル基に代えて、カルボニル基と側鎖芳香族炭化水素基との間にアルキル基を挟む形式で両者を連結することを可能にするアリール基(例えば、ベンジル基等)とした、化合物も挙げられる。
【0059】
フリーデルクラフツアシル化反応によるアシル化率は、100モル%であることが特に好ましいが、90〜100モル%であればより好ましく、85〜100モル%であれば好ましい。
なお、アシル化率は、
1H−NMRにより、確認することができる。
【0060】
ポリフェニレンエーテルの極限粘度としては、スルホン酸基を導入したときの溶媒からの単離性、及び耐熱性を高める観点から、0.25dL/g以上であることが好ましく、0.30dL/g以上であることがさらに好ましく、また、スルホン酸基導入時の溶液粘度が高くなり過ぎることを防ぎ、撹拌・送液等のハンドリング性を高める観点から、1.45dL/g以下であることが好ましく、0.70dL/g以下であることがさらに好ましい。
なお、極限粘度は、下記のようにして求められる。すなわち、変性ポリフェニレンエーテル0.5gをクロロホルムに溶解し、100mL以上(濃度0.5g/dL以下)となる異なる濃度の2種以上の溶液を得る。そして、30℃においてウベローデ型の粘度計を用いて、異なる濃度の溶液毎の比粘度を測定し、比粘度と濃度との関係から、濃度が0であるときの粘度を導出し、この粘度を極限粘度とする。
【0061】
上記変性ポリフェニレンエーテルに全体的に又は部分的に酸性基を導入する方法としては、変性ポリフェニレンエーテルを、無溶媒で又は溶媒存在下で、発煙硫酸、硫酸、クロルスルホン酸等のスルホン化剤等の酸性化剤と反応させる方法が挙げられる。
【0062】
スルホン酸基を導入する場合、上記スルホン化剤によりスルホン酸基を導入する方法以外に、スルホン化金属塩、スルホエステル基、スルホニルクロリド基等を導入し、その後、イオン交換、脱エステル化、加水分解等を行うことで、スルホン酸基を導入する方法を採用してもよい。
【0063】
溶剤としては、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素等を使用してよい。
反応温度は、特に制限はないが、通常、−20〜180℃、好ましくは0〜100℃である。
反応時間は、通常、0.5〜48時間、好ましくは1〜10時間である。
【0064】
また、スルホン酸基を導入する方法として、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)をクロロホルムに溶解し、この溶液にクロロスルホン酸を滴下して、室温で反応させることによって、スルホン酸基含有ポリフェニレンエーテルを得ることができる。スルホン酸基含有ポリフェニレンエーテルは、スルホン化反応の進行と共に、クロロホルム不溶となり、不定形の固体として析出し、ろ過により回収され得る。
【0065】
上記酸性基を有するポリフェニレンエーテルでは、電子豊富なポリフェニレンエーテルの主鎖の芳香環骨格に対してよりも、芳香環骨格に電子求引基を介して結合した側鎖の芳香環骨格に対してスルホン酸基が導入される。このため、高温条件下(例えば、170℃)であっても熱によるスルホン酸基の脱離が生じにくいという効果が得られる。そして、上記効果により、高温条件下においた後における上記酸性基を有するポリフェニレンエーテルのイオン交換容量は、高温条件下においた後における従来のスルホン酸基含有ポリフェニレンエーテルのイオン交換容量と比較して、大きくなる。
【0066】
上記酸性基を有するポリフェニレンエーテルは、一般式(11)及び一般式(12)で示される構成成分以外に、他の構成成分を含んでいてよく、一般式(11)及び一般式(12)で示される構成成分及び当該他の構成成分100モル%に対する、他の構成成分の割合は、0モル%であることが特に好ましいが、0〜10モル%であればより好ましく、0〜20モル%であれば好ましい。
【0067】
上記酸性基を有するポリエーテルケトンとしては、例えば、下記一般式で表される構造を有するスルホン化ポリエーテルケトン等が挙げられ、下記一般式で表される構造のみからなるスルホン化ポリエーテルケトンが好ましい。
【化6】
(上記式中、nは2以上の整数を表す。)
【0068】
上記酸性基を有するポリエーテルエーテルケトンとしては、例えば、下記一般式で表される構造を有するスルホン化ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられ、下記一般式で表される構造のみからなるスルホン化ポリエーテルエーテルケトンが好ましい。
【化7】
(上記式中、nは2以上の整数を表す。)
【0069】
上記酸性基を有するポリエーテルエーテルケトンケトンとしては、例えば、下記一般式で表される構造を有するスルホン化ポリエーテルエーテルケトンケトン等が挙げられ、下記一般式で表される構造のみからなるスルホン化ポリエーテルエーテルケトンケトンが好ましい。
【化8】
(上記式中、nは2以上の整数を表す。)
【0070】
上記酸性基を有するポリベンゾイミダゾールとしては、例えば、下記一般式で表される構造を有するスルホン化ポリベンゾイミダゾール等が挙げられ、下記一般式で表される構造のみからなるスルホン化ポリベンゾイミダゾールが好ましい。
【化9】
(上記式中、nは2以上の整数を表す。)
【0071】
上記酸性基を有するポリフェニレンスルフィドとしては、例えば、下記一般式で表される構造を有するスルホン化ポリフェニレンスルフィド等が挙げられ、下記一般式で表される構造のみからなるスルホン化ポリフェニレンスルフィドが好ましい。
【化10】
(上記式中、nは2以上の整数を表す。)
【0072】
上記酸性基を有するポリエーテルスルホンとしては、例えば、下記一般式で表される構造を有するスルホン化ポリエーテルスルホン等が挙げられ、下記一般式で表される構造のみからなるスルホン化ポリエーテルスルホンが好ましい。
【化11】
(上記式中、nは2以上の整数を表す。)
【0073】
上記酸性基を有するポリエーテルエーテルスルホンとしては、例えば、下記一般式で表される構造を有するスルホン化ポリエーテルエーテルスルホン等が挙げられ、下記一般式で表される構造のみからなるスルホン化ポリエーテルエーテルスルホンが好ましい。
【化12】
(上記式中、nは2以上の整数を表す。)
【0074】
上記酸性基を有するポリフェニルスルホンとしては、例えば、下記一般式で表される構造を有するスルホン化ポリフェニルスルホン等が挙げられ、下記一般式で表される構造のみからなるスルホン化ポリフェニルスルホンが好ましい。
【化13】
(上記式中、nは2以上の整数を表す。)
【0075】
本実施形態における高分子電解質膜は、破断伸度とガスバリア性の観点から、樹脂(A)と樹脂(B)との質量割合(樹脂(A)の質量/樹脂(B)の質量)が90/10〜50/50であることが好ましく、85/15〜60/40であることがより好ましく、80/20〜70/30であることがさらに好ましい。
【0076】
−相溶化剤(C)−
本実施形態において、樹脂(A)と樹脂(B)とを混合しやすくなる観点から、高分子電解質膜に、樹脂(A)と樹脂(B)とを相溶化させる相溶化剤(C)を含むことが好ましい。
上記相溶化の手段は、相溶化剤(C)を添加する方法以外にも、樹脂(A)に炭化水素系セグメントを付加する方法、樹脂(B)にフッ素系セグメントを付加する方法等でもよく、樹脂(A)と樹脂(B)とを相溶化できる方法であればいずれでもよい。
なお、本明細書において、樹脂(A)に炭化水素系セグメントを付加した重合体、樹脂(B)にフッ素系セグメントを付加した重合体は、相溶化剤(C)ではなく、それぞれ、樹脂(A)、樹脂(B)に対応するものとする。
【0077】
上記相溶化剤(C)としては、フッ素系セグメントと炭化水素系セグメントを一つの鎖内に併せ持つモノマー、オリゴマー、又はポリマー(例えばポリフッ化ビニリデン等)、あるいはセリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、タングステン、銅、ニッケル、鉄等の多価の金属原子を含む化合物(例えば、酸化物、水酸化物など)が挙げられる。
【0078】
上記樹脂(A)に炭化水素系セグメントを付加する方法としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系樹脂(A)のC−F結合の一部をC−H結合に変換する、あるいはパーフルオロスルホン酸系樹脂(A)の側鎖に炭化水素系セグメントを導入する等が挙げられる。これら以外にも、樹脂(A)に炭化水素系セグメントを付加できる方法であればどのような方法でも良い。
【0079】
上記樹脂(B)にフッ素系セグメントを付加する方法としては、例えば、樹脂(B)のC−H結合の一部をC−F結合に変換する、あるいは樹脂(B)の側鎖にフッ素系セグメントを導入する等が挙げられる。例えば、上記一般式(13)のR
7〜R
11の少なくとも1箇所(好ましくは、R
7〜R
11の全箇所)をフッ素原子としたもの、パーフルオロアルコキシアルカン等を用いて変性させた変性樹脂(例えば、変性ポリフェニレンエーテル等)が挙げられる。これら以外にも好ましい方法であればどのような方法でも良い。
【0080】
本実施形態の高分子電解質膜(100質量部)中の樹脂(C)の含有量としては、0.01〜10.0質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5.0質量部である。
【0081】
−他の成分(D)−
本実施形態の高分子電解質膜は、樹脂(A)、樹脂(B)、相溶化剤(C)以外にも、窒素含有脂肪族塩基性重合体、窒素含有芳香族塩基性重合体等の重合体等の他の成分(D)を含むことができる。
【0082】
上記窒素含有脂肪族塩基性重合体の例としては、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0083】
上記窒素含有芳香族塩基性重合体の例としては、ポリアニリン;ポリベンゾイミダゾール、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリビニルピリジン、ポリイミダゾール、ポリピロリジン、ポリビニルイミダゾール、ポリピロール等の複素環式化合物;等が挙げられる。中でも、重合体中に発生するラジカルを捕捉する働きを備え、耐久性に一層優れた高分子電解質膜が得られるという観点から、ポリベンゾイミダゾールが好ましい。
【0084】
ポリベンゾイミダゾールとしては、一般式(14)又は一般式(15)で表される化合物、一般式(16)で表されるポリ2,5−ベンゾイミダゾール等が挙げられる。
【化14】
(式(14)中、Rは、
【化15】
、アルキレン基、又はフルオロアルキレン基の二価の基であり、R
1は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、フェニル基、又はピリジル基である。また、xは、10以上1.0×10
7以下の整数である。)
【0085】
【化16】
(式(15)中、R、R
1としては、式(14)におけるR、R
1と同様の基が挙げられ、lは、10以上1.0×10
7以下の整数である。)
【0086】
【化17】
(式(16)中、R
1としては式(14)におけるR
1と同様の基が挙げられ、mは、10以上1.0×10
7以下の整数である。)
【0087】
中でも、下記式(17)で表されるポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンゾイミダゾール]が特に好ましい。
【化18】
(式(17)中、nは、10以上1.0×10
7以下の整数である。)
【0088】
他の成分(D)としての上記重合体は、公知文献に記載された重合方法により製造することができる(例えば、実験化学講座28高分子合成第4版、日本化学会編、丸善(株)を参照)。
【0089】
他の成分(D)としての上記重合体の重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは10000〜1000000であり、より好ましくは20000〜100000であり、さらに好ましくは50000〜100000である。
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定できる。
【0090】
他の成分(D)としての上記重合体の固有粘度としては、好ましくは0.1〜10.0dL/g、より好ましくは0.3〜5.0dL/g、さらに好ましくは0.5〜1.0dL/gである。
固有粘度は、上記重合体をジメチルアセトアミドに溶解して得られる重合体溶液の粘度ηP(mPa・s)とジメチルアセトアミドの粘度ηS(mPa・s)、及び該ポリマー溶液の濃度Cp(g/dL)から、下記式を用いて求めることができる。ここでいう粘度とは、例えば25℃にて円錐平板型の回転式粘度計(E型粘度計)を用いて測定される値である。
固有粘度=ln(ηP/ηS)/Cp
(式中、lnは自然対数を表す。)
【0091】
さらに、本実施形態の高分子電解質膜は、チオエーテル基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物等の他の成分(D)を含むことができる。
【0092】
上記チオエーテル基を有する化合物としては、例えば、−(R−S)
n−(式中、Sはイオウ原子、Rは炭化水素基、nは1以上の整数)の構造を有する化合物等が挙げられ、具体的には、ジメチルチオエーテル、ジエチルチオエーテル、ジプロピルチオエーテル、メチルエチルチオエーテル、メチルブチルチオエーテル等のジアルキルチオエーテル;テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロピラン等の環状チオエーテル;メチルフェニルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、ジフェニルスルフィド、ジベンジルスルフィド等の芳香族チオエーテル等が挙げられる。
チオエーテル基を有する化合物は、単量体であってもよいし、ポリフェニレンスルフィド(酸性基を有さないポリフェニレンスルフィド)のような重合体であってもよい。中でも、耐久性の観点から、nが10以上の整数である重合体(オリゴマー、ポリマー)であることが好ましく、nが1,000以上の整数である重合体であることがより好ましい。
【0093】
上記チオエーテル基を有する化合物としては、化学的安定性の観点から、ポリフェニレンスルフィド(酸性基を有さないポリフェニレンスルフィド)が好ましい。ポリフェニレンスルフィドは、パラフェニレンスルフィド骨格を70モル%以上有することが好ましく、90モル%以上有することがより好ましい。
【0094】
上記他の成分(D)としてのポリフェニレンスルフィドの製造方法としては、例えば、ハロゲン置換芳香族化合物(p−ジクロルベンゼン等)を硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法;極性溶媒中でハロゲン置換芳香族化合物を硫化ナトリウム又は硫化水素ナトリウムと水酸化ナトリウムの存在下で重合させる方法;極性溶媒中でハロゲン置換芳香族化合物を硫化水素と水酸化ナトリウム又はナトリウムアミノアルカノエートとの存在下で重合させる方法;p−クロルチオフェノールの自己縮合;等が挙げられる。中でも、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンとを反応させる方法が好ましい。
上記他の成分(D)としてのポリフェニレンスルフィドの製造方法は、具体的には、米国特許第2513188号明細書、特公昭44−27671号公報、特公昭45−3368号公報、特公昭52−12240号公報、特開昭61−225217号公報、米国特許第3274165号明細書、英国特許第1160660号明細書、特公昭46−27255号公報、ベルギー特許第29437号明細書、特開平5−222196号公報等に記載された製造方法や、これら文献内で例示された先行技術の製造方法等が挙げられる。
【0095】
上記他の成分(D)としてのポリフェニレンスルフィドの、塩化メチレンによるオリゴマー抽出量としては、0.001〜0.9質量%が好ましく、より好ましくは0.001〜0.8質量%、さらに好ましくは0.001〜0.7質量%である。
ここで、塩化メチレンによるオリゴマー抽出量が上記範囲にあるということは、ポリフェニレンスルフィド中におけるオリゴマー(約10〜30量体)の量が少ないことを意味する。上記オリゴマー抽出量を上記範囲に設定すると、製膜時にブリードアウトが発生し難くなるので好ましい。
上記塩化メチレンによるオリゴマー抽出量の測定は以下の方法により行うことができる。すなわち、ポリフェニレンスルフィド粉末5gを塩化メチレン80mLに加え、4時間ソクスレー抽出を実施した後、室温まで冷却し、抽出後の塩化メチレン溶液を秤量瓶に移す。さらに、上記の抽出に使用した容器を、塩化メチレン合計60mLを用いて、3回に分けて洗浄し、該洗浄液を上記秤量瓶中に回収する。次に、約80℃に加熱して、該秤量瓶中の塩化メチレンを蒸発させて除去し、残渣を秤量し、この残渣量よりポリフェニレンスルフィド中に存在するオリゴマー量の割合を求めることができる。
【0096】
上記他の成分(D)としてのポリフェニレンスルフィド中の−SX基(Sはイオウ原子、Xはアルカリ金属又は水素原子である)の含有量としては、10〜10,000μmol/gが好ましく、より好ましくは15〜10,000μmol/g、さらに好ましくは20μmol/g〜10,000μmol/gである。
−SX基濃度が上記範囲にあるということは、反応活性点が多いことを意味する。−SX基濃度が上記範囲を満たすポリフェニレンスルフィドを用いることで、高分子電解質との混和性が向上することにより分散性が向上し、高温低加湿条件下でより高い耐久性を得ることができる。
上記−SX基の定量は以下の方法により行うことができる。すなわち、ポリフェニレンスルフィド粉末を予め120℃で4時間乾燥した後、この乾燥ポリフェニレンスルフィド粉末20gをN−メチル−2−ピロリドン150gに加えて粉末凝集塊がなくなるように室温で30分間激しく撹拌混合しスラリー状態にする。かかるスラリーを濾過した後、毎回約80℃の温水1Lを用いて7回洗浄を繰り返す。得た濾過ケーキを純水200g中に再度スラリー化した後、1Nの塩酸を加えて該スラリーのpHを4.5に調整する。次に、25℃で30分間撹拌して、濾過した後、約80℃の温水1Lを用いて6回洗浄を繰り返す。得られた濾過ケーキを純水200g中に再度スラリー化し、次いで、1Nの水酸化ナトリウムにより滴定し、消費した水酸化ナトリウム量よりポリフェニレンスルフィド中に存在する−SX基の量を求める。
【0097】
上記他の成分(D)としてのポリフェニレンスルフィドの320℃における溶融粘度(フローテスターを用いて、300℃、荷重196N、L/D(L:オリフィス長、D:オリフィス内径)=10/1で6分間保持した値)としては、成形加工性の観点から、1〜10,000ポイズが好ましく、より好ましくは100〜10,000ポイズである。
【0098】
上記他の成分(D)としてのポリフェニレンスルフィドは、ベンゼン環に酸性官能基を導入し、導入した酸性官能基を金属塩又はアミン塩に置換したものであってもよい。金属塩としてはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩が好ましい。
【0099】
上記他の成分(D)としての上記エポキシ基を有する化合物としては、例えば、エポキシ基を含有する低分子化合物、エポキシ基を有する不飽和モノマーの単独重合体又は共重合体、及びエポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、高分子化合物の方が高温での取り扱いが容易なことから、エポキシ基を有する不飽和モノマーの単独重合体又は共重合体及びエポキシ樹脂が好ましい。
【0100】
上記エポキシ基を含有する低分子化合物としては、200℃で固体か液体であるものが好ましい。具体的には、1,2−エポキシ−3−フェノキシプロパン、N−(2,3−エポキシプロピル)フタルイミド、3,4−エポキシテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキサイド、グリシジル4−ノニルフェニルエーテル、グリシジルトシレート、グリシジルトリチルエーテル等が挙げられる。
【0101】
エポキシ基を有する不飽和モノマーの単独重合体又は共重合体を構成するエポキシ基を有する不飽和モノマーとしては、エポキシ基を有する不飽和モノマーであれば別に制限されず、例えば、グリシジルメタアクリレート、グリシジルアクリレート、ビニルグリシジルエーテル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、グリシジルイタコネート等が挙げられる。これらの中でもグリシジルメタアクリレートが好ましい。
【0102】
エポキシ基を有する不飽和モノマーの共重合体の場合、上記エポキシ基を有する不飽和モノマーと共重合する他の不飽和モノマーとしては、スチレン等のビニル芳香族化合物、アクリロニトリル等のシアン化ビニルモノマー、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル等が好ましい。これら共重合可能な不飽和モノマーを共重合して得られる共重合体の例として、例えば、スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−アクリロニトリル共重合体等が挙げられる。
中でも、エポキシ基を有する不飽和モノマーとスチレンモノマーとを含む共重合体は、分散性向上の観点から、スチレンモノマーを少なくとも65質量%以上含むことが好ましい。また、エポキシ基を有する不飽和モノマーを0.3〜20質量%含むことが好ましく、1〜15質量%含むことがより好ましくは、3〜10質量%含むことがさらに好ましい。
【0103】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ヒンダトイン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらから選ばれる1種又は2種以上を混合して用いることもできる。中でも、ポリフェニレンエーテル樹脂との相溶性の観点から、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂及びビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましく、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0104】
−高分子電解質膜の物性−
本実施形態の高分子電解質膜は、SEM−EDX及びSEMで観測される画像において特定のモルフォロジーを有している。
【0105】
本実施形態の高分子電解質膜は、SEMで観測される膜断面の画像(本明細書において、「断面SEM」と称する場合がある。)において、平均アスペクト比が1.5以上10以下である相を有する。上記平均アスペクト比は、2以上8以下が好ましく、2.5以上6以下がより好ましい。上記平均アスペクト比が上記範囲内にあることで、高ガスバリア性と高破断伸度を両立でき、物理耐久性が向上する。
上記平均アスペクト比は、相分離構造における島を構成する相の平均アスペクト比であってよく、炭素原子が主に検出される島の平均アスペクト比であってもよい。中でも、樹脂(B)を含む島、樹脂(B)のみからなる島等の炭素原子が主に検出される、島を構成する相の平均アスペクト比であることが好ましい。
ここで、膜断面とは、高分子電解質膜の表面に対して直角方向の断面(厚み方向の断面)を意味している。高分子電解質膜をエポキシ接着剤等で包埋した後に、ミクロトームなどを用いて切削することで高分子電解質膜の膜断面を得、これをSEM観察することで、膜断面のモルフォロジーを観察することができる。断面SEMは、実施例でも示しているとおり、試料を白金又はオスミウム等により蒸着(又は染色)を行うことにより観測することもできる。蒸着(又は染色)により少なくとも2相のモルフォロジーを観測することができ、分散相の径(長径、短径)を求めることによりアスペクト比を得ることができる。アスペクト比は、高分子電解質膜の厚み方向の径を短径、厚み方向に直交する方向の径を長径とすることが好ましい。詳細には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
平均アスペクト比を1.5以上10以下とするには、例えば、上述のとおり、パーフルオロスルホン酸系樹脂(A)として、フッ素を含むモノマーとフッ素を含まないモノマーの共重合体を用いる、あるいはフッ素を含まない他の成分(例えば後述の酸性基を有する芳香族炭化水素系樹脂(B)等)を配合する等の手段が挙げられる。
なお、本実施形態の高分子電解質膜において、平均アスペクト比が上記範囲である相は、少なくとも1つの膜断面で観測されればよいが、2つ以上の膜断面で観測された方が膜の均一性及びそれが破断伸度と物理耐久性に一層優れる観点から好ましい。
【0106】
本実施形態の高分子電解質膜は、SEM−EDXで観測される膜表面の画像においては、フッ素原子が主に検出される相と、炭素原子が主に検出される相とが相分離構造を有している。上記相分離構造を有する膜表面は、一方の膜表面であってもよいし、両方の膜表面であってもよいが、破断伸度と物理耐久性に一層優れる観点から、両方の膜表面で上記相分離構造を有していることが好ましい。本明細書において、SEM−EDXで観測される膜表面とは、樹脂(A)を含む、相分離構造を有する層の表面をいうものとする。
EDX(エネルギー分散型X線分光法)装置を付帯するSEMを用い、SEM画像の元素マッピングを行うことにより、フッ素原子が主に検出される相と炭素原子が主に検出される相を観察することができる。
一般に、パーフルオロスルホン酸系樹脂はフッ素原子が主に検出される相を形成する。パーフルオロスルホン酸系樹脂として、フッ素原子を含まないコモノマー(エチレン、プロピレン等のαオレフィン、等)を共重合させたり、炭化水素系樹脂(後述の(B)成分など)を配合したりすること等により、パーフルオロスルホン酸系樹脂は、主に炭素原子が主に検出される相を形成することもできる。炭化水素系樹脂を配合する場合は、芳香族系と脂肪族系のどちらでも良いが、ガスバリア性の観点から、芳香族系の炭化水素系樹脂が好ましい。また酸化グラフェンや酸化カーボンナノチューブのような高分子体であってもよい。さらに芳香族系の中でも、ガスバリア性とプロトン伝導性を両立する観点から、酸性基を有する芳香族炭化水素系樹脂(B)が、好ましい。
なお、フッ素原子が主に検出される相とは、後述の実施例に記載の条件で行うSEM−EDXで検出される元素としてフッ素原子が最も多い領域をいい、SEM−EDXで検出されるフッ素原子量が10質量%以上である領域としてもよい。
また、炭素原子が主に検出される相とは、後述の実施例に記載の条件で行うSEM−EDXで検出される元素として炭素原子が最も多い領域をいい、SEM−EDXで検出される炭素原子量が10質量%以上である領域としてもよい。
また、「相分離構造を有する」とは、フッ素原子が主に検出される相と、炭素原子が主に検出される相とが少なくとも1個ずつ観察されることをいう。
【0107】
上記相分離構造は、フッ素原子が主に検出される相、及び炭素原子が主に検出される相以外の、他の原子が主に検出される相を含んでいてもよい。中でも、上記相分離構造は、フッ素原子が主に検出される相、及び炭素原子が主に検出される相のみから構成されることが好ましい。
【0108】
本実施形態の高分子電解質膜において、上記相分離構造は海島構造であることが好ましく、ガスバリア性の観点から、島の相が、炭素原子が主に検出される相であることがより好ましく、樹脂(B)を含む相、樹脂(B)のみからなる相等の炭素原子が主に検出される相であることがさらに好ましく、樹脂(B)からなる相であることが特に好ましい。さらに上記島の相が、緻密に、かつ微分散していることが好ましい。
【0109】
本実施形態の高分子電解質膜は、少なくとも一方の膜表面の、SEM−EDXで観測される画像で、倍率1500倍の画像におけるC/Fピーク強度比(炭素原子のピーク強度/フッ素原子のピーク強度)の相対標準偏差と、倍率150倍の画像におけるC/Fピーク強度比の相対標準偏差との割合(1500倍の相対標準偏差/150倍の相対標準偏差)は、0.20以上5.0以下が好ましく、0.50以上2.0以下がより好ましく、0.80以上1.2以下がさらに好ましい。相対標準偏差の比が上記範囲内にあることで、前記相分離構造における炭素原子が主に検出される相が均一に微分散され、一層高いガスバリア性と一層高い破断伸度を両立できる。
相対標準偏差の割合は、後述の実施例に記載された方法により行うことができる。
上記相対標準偏差の割合は、一方の膜表面で上記範囲を満たすことが好ましく、両方の膜表面で上記範囲を満たすことがより好ましい。
【0110】
本実施形態の高分子電解質膜は、SEM−EDXで観測される膜表面の画像で、倍率1500倍の画像におけるC/Fピーク強度比の平均値が0.50以上20以下であり、80℃30%RHでの水素透過係数が5.0×10
-9cc・cm/cm
2・s・cmHg以下が好ましく、より好ましくはC/Fピーク強度比の平均値が1.0以上10以下で、かつ水素透過係数が3.0×10
-9cc・cm/cm
2・s・cmHg以下であり、さらに好ましくはC/Fピーク強度比の平均値が2.0以上5.0以下で、かつ水素透過係数が1.0×10
-9cc・cm/cm
2・s・cmHg以下である。C/Fピーク強度比の平均値と水素透過係数とが上記範囲内にあると、ガスバリア性と破断伸度のバランスをさらに向上させることができる。
なお、水素透過係数の測定は、後述の実施例に記載された方法により行うことができる。
尚、SEM−EDXで観測する箇所は、5mm角の高分子電解質膜測定試料片の任意の四隅4点と中央1点の計5点である。観測する場所の数を多くすることで相対標準偏差の数値の信頼性を高めることができる。
上記倍率1500倍の画像におけるC/Fピーク強度比の平均値は、一方の膜表面で上記範囲を満たすことが好ましく、両方の膜表面で上記範囲を満たすことがより好ましい。
【0111】
−高分子電解質膜の形成方法−
本実施形態の高分子電解質膜は、原料として樹脂(A)を含む溶液を用い、これを後述の方法で膜化することが好ましい。尚、ここで言う樹脂(A)を含む溶液は、樹脂(A)が溶媒に溶解している液又は微分散している液である。
また、本実施形態の高分子電解質膜が樹脂(A)及び樹脂(B)の両方を含む場合には、膜中で樹脂(A)と樹脂(B)とを均一に微分散させるために、樹脂(A)を含む溶液と樹脂(B)を含む溶液とを混合する工程を経て製造されることが好ましい。
ここで、樹脂(A)を含む溶液とは、樹脂成分として樹脂(A)のみを含む溶液であることが好ましい。また、樹脂(B)を含む溶液とは、樹脂成分として樹脂(B)のみを含む溶液であることが好ましい。
【0112】
樹脂(A)を含む溶液及び樹脂(B)を含む溶液は、共に、動的光散乱測定において、散乱径のピークトップが10〜200μmの範囲に存在することが好ましい。こうすることで、樹脂(A)を含む溶液と樹脂(B)を含む溶液の混合液中で、樹脂(A)の集合体と樹脂(B)の集合体との間隔が一定となり、膜中で樹脂(A)と樹脂(B)とを均一に微分散でき、ガスバリア性と破断伸度を両立できる。樹脂(A)を含む溶液の散乱径のピークトップは、樹脂(B)を含む溶液の散乱径のピークトップと同じであってもよいし異なっていてもよい。
なお、動的光散乱測定は、後述の実施例に記載された方法により行うことができる。
【0113】
さらに、本実施形態の高分子電解質膜が、樹脂(A)、樹脂(B)及び相溶化剤(C)を含む場合には、上記に加えて相溶化剤を含む溶液を用い、樹脂(A)を含む溶液、樹脂(B)を含む溶液、及び相溶化剤(C)を含む溶液を混合する工程を経ることが好ましい。また、混合の順番については、まず樹脂(A)を含む溶液と樹脂(B)を含む溶液とを混合した後に、相溶化剤(C)を含む溶液を混合することが好ましい。こうすることで、樹脂(A)の集合体と樹脂(B)の集合体の一定間隔にできた空間に相溶化剤(C)が入り込みやすくなり、膜中で樹脂(A)と樹脂(B)とを一層均一に微分散でき、ガスバリア性と破断伸度を一層高いレベルで両立できる。尚、相溶化剤(C)を含む溶液は、均一に溶解している溶液でも分散しているだけの分散液でもどちらでも良い。
なお、相溶化剤(C)を含む溶液は、樹脂(A)と樹脂(B)との相溶化剤として、相溶化剤(C)のみを含む溶液であることが好ましい。
【0114】
樹脂(A)を含む溶液、樹脂(B)を含む溶液、及び相溶化剤(C)を含む溶液の混合液は、UV測定における波長800nmの透過率が90%T以上であることが好ましい。前記透過率は、95%T以上がより好ましく、98%T以上がさらに好ましい。透過率が上記範囲であると、溶液の微分散化を判断することができ、膜の相分離構造における島の相のサイズを小さくした微分散膜とできる。尚、UV測定の装置及びその他の測定条件は、実施例の記載に従う。UV測定は、後述の実施例に記載された方法により行なうことができる。
【0115】
樹脂(A)を含む溶液、樹脂(B)を含む溶液、及び相溶化剤(C)を含む溶液の混合液の重量(100質量%)に対する、相溶化剤の固形分濃度は、0.001質量%以上1質量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.005質量%以上0.5質量%未満、さらに好ましくは0.01質量%以上0.1質量%未満である。
【0116】
本実施形態の高分子電解質膜を形成する方法としては、例えば、樹脂(A)を含む溶液、樹脂(B)を含む溶液、及び/又は相溶化剤(C)を含む溶液を混合し、必要に応じてプロトン性溶媒を含む液状媒体をさらに混合して、キャスト液を調製し、該キャスト液を支持体上にキャストして、支持体上に液状塗膜を形成し、液状塗膜から液状媒体を除去して高分子電解質膜を形成する方法等が挙げられる。なお、上記キャスト液には、樹脂(A)を含む溶液、樹脂(B)を含む溶液、及び/又は相溶化剤(C)を含む溶液を調製する際に添加したプロトン性溶媒を含むことが好ましい。
【0117】
上記キャスト液は、例えば、乳濁液(液体中に液体粒子がコロイド粒子あるいはそれより粗大な粒子として分散して乳状をなすもの)、懸濁液(液体中に固体粒子がコロイド粒子あるいは顕微鏡で見える程度の粒子として分散したもの)、コロイド状液体(巨大分子が分散した状態)、ミセル状液体(多数の小分子が分子間力で会合して出来た親液コロイド分散系)、又はこれらの複合系であってもよい。
【0118】
上記キャスト液は、プロトン性溶媒を含む液状媒体を含有することが好ましい。プロトン性溶媒を含む液状媒体を含有するキャスト液を用いることにより、樹脂(A)と樹脂(B)とがより均一に微分散した高分子電解質膜を形成できる。
【0119】
上記プロトン性溶媒としては、プロトンを出すことができる官能基を有する溶媒が挙げられ、その例として、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等)、フェノール類等が挙げられる。中でも、水が好ましい。
【0120】
上記プロトン性溶媒の添加量としては、キャスト液中の液状媒体(100質量%)に対して、0.5〜99.5質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜90質量%であり、さらに好ましくは10〜60質量%である。
上記プロトン性溶媒は1種もしくは2種以上を混合して用いてもよい。特に、水とアルコールの混合溶媒を用いることが好ましく、水/エタノール=3/1〜1/3(体積割合)、水/イソプロパノール=3/1〜1/3(体積割合)の混合溶媒を用いることがより好ましい。
【0121】
上記キャスト液中の液状媒体は、更に非プロトン性溶媒を含むことが好ましい。ここで、非プロトン性溶媒とは上記プロトン性溶媒以外の溶媒であり、その例として、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。中でも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドが好ましい。
上記非プロトン性溶媒は、1種もしくは2種以上を混合して用いてもよい。
上記非プロトン性溶媒の添加量は、キャスト液中の液状媒体(100質量%)に対して、99.5〜0.5質量%であることが好ましく、より好ましくは99〜10質量%、さらに好ましくは90〜40質量%である。
【0122】
キャスト液中の液状媒体の含有量は、キャスト液(100質量%)に対して、20.000〜99.989質量%が好ましく、40.000〜99.895質量%がより好ましく、75.000〜98.990質量%がさらに好ましい。
【0123】
キャスト液中の樹脂(A)の含有量は、キャスト液(100質量%)に対して、0.10〜30.00質量%が好ましく、より好ましくは0.15〜20.00質量%、さらに好ましくは0.15〜10.00質量%である。
【0124】
キャスト液中の樹脂(B)の含有量は、キャスト液(100質量%)に対して、0.10〜30.00質量%が好ましく、より好ましくは0.15〜20.00質量%、さらに好ましくは0.15〜10.00質量%である。
【0125】
更に、相溶化剤を含む場合には、上記キャスト液中の樹脂(A)及び樹脂(B)の合計量と相溶化剤(C)との質量比(樹脂(A)及び樹脂(B)の合計質量:相溶化剤(C)の質量)は、特に限定されないが、99.99:0.01〜90.0:10.0であることが好ましく、より好ましくは99.9:0.1〜95.0:5.0である。
このようなキャスト液を用いることで、液状媒体の除去が容易となり、かつ、樹脂(A)と樹脂(B)とがより均一に微分散した高分子電解質膜の形成が可能となり、一層良好なガスアリア性と破断伸度を示し、それが一層高い化学耐久性につながる。
【0126】
キャスト液は、例えば、相溶化剤(C)をジメチルアセトアミド等の非プロトン性溶媒に溶解した樹脂溶液(以下、「前段階溶液L」、と称する)と、樹脂(A)及び樹脂(B)をジメチルアセトアミド等の非プロトン性溶媒に溶解した樹脂溶液(以下、「前段階溶液M」、と称する)を添加して撹拌し、そこに、さらに樹脂(A)をプロトン性溶媒に溶解した樹脂溶液(以下、「前段階溶液N」、と称する)を添加して撹拌することで得ることができる。
【0127】
前段階溶液Lの調製方法としては、相溶化剤(C)と非プロトン性溶媒をオートクレーブに入れ、40〜300℃で10分〜100時間の加熱処理する方法等が挙げられる。
前段階溶液Lにおける相溶化剤(C)の含有率は、前段階溶液L(100質量%)に対して、好ましくは0.001質量%以上1質量%未満、より好ましくは0.005質量%以上0.5質量%未満、さらに好ましくは0.01質量%以上0.1質量%未満である。相溶化剤(C)の含有率を上記範囲とすることで、微分散した相溶化剤が樹脂(A)と樹脂(B)の一定間隔にできた空間に入り込みやすくなり、膜中で樹脂(A)と樹脂(B)をより均一に微分散でき、ガスバリア性と破断伸度を一層高いレベルで両立できる。
【0128】
前段階溶液Mの調製方法としては、樹脂(A)及び樹脂(B)と非プロトン性溶媒をオートクレーブに入れ、40〜300℃で10分〜100時間の加熱処理する方法、もしくは前段階溶液Nの溶媒置換(プロトン性溶媒を揮発させた後、非プロトン性溶媒を添加する)を行う方法等が挙げられる。
前段階溶液Mにおける樹脂(A)及び樹脂(B)の含有率は、前段階溶液M(100質量%)に対して、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.1〜30質量%、さらに好ましくは1〜10質量%である。
【0129】
前段階溶液Nの調製方法としては、樹脂(A)とプロトン性溶媒とをオートクレーブに入れ、40〜300℃で10分〜100時間の加熱処理する方法等が挙げられる。なお、ここでいう溶液には、樹脂(A)がミセル状に分散した状態も含む。
前段階溶液Nにおける樹脂(A)の含有率は、前段階溶液N(100質量%)に対して、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.1〜30質量%、さらに好ましくは1〜10質量%である。
【0130】
以上のように製造した前段階溶液Lと前段階溶液Mとを公知の攪拌方法により混合し、更に樹脂(A)の濃度を調整する場合には前段階溶液Nを添加し撹拌して混合する。また、所望により濃縮を行ってもよい。こうして、キャスト液が得られる。
【0131】
次にキャスト液を支持体上にキャストして、支持体上に液状塗膜を形成し、そして、液状塗膜から液状媒体を除去することにより、高分子電解質膜を得ることができる。
キャストの方法としては、グラビアロールコータ、ナチュラルロールコータ、リバースロールコータ、ナイフコータ、ディップコータ等の方法や、スプレー法、スピンコート法、等の公知の塗工方法を用いることができる。
【0132】
キャストに用いる支持体としては、ガラス板、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリイミドフィルム等のプラスチックフィルム、金属箔、アルミナ、Si等の基板等が好適に使用できる。このような支持体は、膜電極接合体を形成する際には、所望により、高分子電解質膜から除去される。また、特公平5−75835号公報に記載のPTFE膜を延伸処理した多孔質膜にキャスト液を含浸させてから液状媒体を除去することにより、補強体(該多孔質膜)を含んだ高分子電解質膜を製造することもできる。また、キャスト液にPTFE等からなるフィブリル化繊維を添加してキャストしてから液状媒体を除去することにより、特開昭53−149881号公報と特公昭63−61337号公報に示されるような、フィブリル化繊維で補強された高分子電解質膜を製造することもできる。
【0133】
このようにして得られた高分子電解質膜は、所望により、40〜300℃、好ましくは80〜200℃で加熱処理(アニーリング)に付してもよい(加熱処理により、液状媒体を完全に除去でき、また、高分子電解質膜中の成分の構造が安定化する。)。更に、本来のイオン交換容量を充分に発揮させるために、所望により、塩酸や硝酸等で酸処理を行ってもよい(高分子電解質膜のイオン交換基の一部が塩で置換されている場合、この酸処理によりイオン交換基に戻すことができる。)。また、横1軸テンターや同時2軸テンターを使用することによって延伸配向を付与することもできる。
【0134】
高分子電解質膜中の上記樹脂(A)の含有量としては、プロトン伝導性が一層高い高分子電解質膜が得られる観点から、高分子電解質膜100質量%に対して、10〜95質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましい。
【0135】
高分子電解質膜中の上記樹脂(B)の含有量としては、耐久性に一層優れる高分子電解質膜が得られる観点から、高分子電解質膜100質量%に対して、5〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましい。
【0136】
高分子電解質膜中の、上記樹脂(A)100質量部に対する上記樹脂(B)の質量割合としては、ガスバリア性、耐久性に一層優れ、セル電圧が一層高い高分子電解質膜が得られる観点から、5〜900質量部であることが好ましく、25〜400質量部であることがより好ましい。
【0137】
高分子電解質膜中の上記相溶化剤(C)の含有量としては、樹脂(A)と樹脂(B)とを一層相溶させやすくなり、耐久性に一層優れた高分子電解質膜が得られるという観点から、高分子電解質膜100質量%に対して、0.01〜10.0質量%であることが好ましく、0.10〜5.0質量%であることがより好ましい。
【0138】
上記樹脂(A)、及び上記樹脂(B)は、ガスバリア性、耐久性、セル電圧の観点から、高分子電解質膜中に均一に分散していることが好ましい。
【0139】
本実施形態の高分子電解質膜は、複数の層を有する積層体であってもよく、樹脂(A)を含む層のみからなる高分子電解質膜であることが好ましい。また、本実施形態の高分子電解質膜は、樹脂(A)及び樹脂(B)を含む層と、樹脂(A)を含む層とを有することが好ましく、樹脂(A)及び樹脂(B)を含む層と樹脂(A)を含む層のみからなる2層の積層体であることがより好ましい。
また、本実施形態の高分子電解質膜は、同一の又は異なる、樹脂(A)及び樹脂(B)を含む層の積層体であってもよい。
本実施形態の高分子電解質膜が積層体である場合、少なくとも一方の表層(好ましくは両表面)は、少なくとも樹脂(A)を含む層であることが好ましく、少なくとも樹脂(A)及び樹脂(B)を含む層であることがより好ましく、樹脂(A)、樹脂(B)、及び相溶化剤(C)を含む層であることがさらに好ましい。
【0140】
本発明者らは、驚くべきことに、本実施形態の高分子電解質膜は、樹脂(A)の層と樹脂(B)の層との積層体に比べて、耐久性が著しく向上し、且つガスバリア性にも一層優れ、セル電圧も一層高いことを見出した。
詳細なメカニズムは不明であるが、本実施形態の高分子電解質膜の樹脂(A)及び樹脂(B)を含む層に含まれる樹脂(B)は、炭化水素樹脂部分がガスバリア性に、酸性基がセル電圧に関与していると考えられる。さらに樹脂(A)及び樹脂(B)を含む層は、樹脂(A)も含むため、プロトン伝導性、耐久性にも優れると考えられる。そして、驚くべきことに、樹脂(A)と樹脂(B)とを層中に含むと、各樹脂成分の効果を組み合わせた効果以上の、顕著な効果が得られる。
【0141】
本実施形態の高分子電解質膜は、プロトンの伝導性に優れる樹脂(A)とガスバリア性に優れる樹脂(B)とを含む層をガスバリア層、プロトンの伝導性に優れる樹脂(A)を含む層を伝導層とすることが好ましい。
【0142】
本実施形態の高分子電解質膜は、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて、各層の含有成分を確認することができる。
本実施形態の高分子電解質膜は、高分子電解質膜の厚さ方向断面を、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて測定した際、上記膜断面の全領域に、1000〜1200cm
-1付近に出現するC−F結合由来のピークが観察され、上記断面の少なくとも樹脂(A)及び樹脂(B)を含む層を含む領域に、1400〜1600cm
-1付近及び2900〜3100cm
-1付近に出現するC−H結合由来のピークが観察され、樹脂(A)及び樹脂(B)を含む層における前記C−H結合由来のピークの強度が、樹脂(A)を含む層(樹脂(B)を含まない層)における上記C−H結合由来のピークの強度よりも高いことが好ましい。
ここで、1000〜1200cm
-1付近に出現するC−F結合由来のピークとしては、例えば、樹脂(A)に由来するピークが挙げられる。1400〜1600cm
-1付近及び2900〜3100cm
-1付近に出現するC−H結合由来のピークとしては、例えば、樹脂(B)に由来するピークが挙げられる。
【0143】
本実施形態の高分子電解質膜は、高分子電解質膜の厚さ方向断面を、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて測定した際、少なくとも樹脂(A)及び樹脂(B)を含む層を含む領域に、1400〜1600cm
-1付近及び2900〜3100cm
-1付近に出現するC−H結合由来のピークと、1010〜1080cm
-1付近及び1100〜1230cm
-1付近に出現する−SO
3H由来のピークとが観察されることが好ましい。
【0144】
本実施形態の高分子電解質膜は、樹脂(A)及び樹脂(B)を含む層の厚さが、樹脂(A)を含む層の厚さ以下であることが好ましい。
【0145】
高分子電解質膜のイオン交換容量としては、特に限定されないが、1g当たり0.50〜4.00ミリ当量/gが好ましく、より好ましくは0.83〜4.00ミリ当量/g、さらに好ましくは1.00〜1.50ミリ当量/gである。イオン交換容量が高いと、高温低加湿条件下においてよりプロトン伝導性が高くなり、燃料電池に用いた場合、運転時により高い出力を得ることができる。
イオン交換容量は、以下の方法で測定することができる。まず、10cm
2程度に切り出した高分子電解質膜を110℃にて真空乾燥して、乾燥重量W(g)を求める。この高分子電解質膜を50mLの25℃飽和NaCl水溶液に浸漬してH
+を遊離させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.01N水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定を行い、中和に要したNaOHの等量M(ミリ等量)を求める。このようにして求めたMをWで割って得られる値がイオン交換容量(ミリ等量/g)である。また、WをMで割って1000倍した値が当量質量EWであり、イオン交換基1当量当りの乾燥質量グラム数である。
【0146】
本実施形態の高分子電解質膜は、微多孔膜に高分子電解質を含浸させた補強層を設けてもよい。
【0147】
微多孔膜に用いる材料としては、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン等のフッ化オレフィンとエチレン、プロピレン等のオレフィンとのポリテトラフルオロエチレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂:ポリシロキサン等のポリシロキサン類;ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのメタクリレート系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)等のスチレン系樹脂;ポリアミド;ポリイミド(PI);ポリエーテルイミド(PEI);ポリアミドイミド;ポリエステルイミド;ポリカーボネート(PC);ポリアセタール;ポリフェニレンエーテル(PPO)等のポリアリーレンエーテル;ポリフェニレンスルフィド(PPS);ポリアリレート;ポリアリール;ポリスルホン(ポリサルホン);ポリエーテルスルホン(PES)(ポリエーテルサルホン);ポリウレタン類;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)等のポリエーテルケトン類;ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸エチル等のポリアクリル酸エステル類;ポリブトオキシメチレン等のポリビニルエステル類;ポリサルファイド類;ポリフォスファゼン類;ポリトリアジン類;ポリカーボラン類;ポリノルボルネン;エポキシ系樹脂;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリジエン類;ポリイソブチレン等のポリアルケン類;フッ化ビニリデン系樹脂;ヘキサフルオロプロピレン系樹脂;ヘキサフルオロアセトン系樹脂等が挙げられる。
【0148】
本実施形態における高分子電解質膜の膜厚は、1〜50μmが好ましく、3〜25μmがより好ましく、5〜15μmがさらに好ましい。
【0149】
本実施形態の高分子電解質膜は、膜電極接合体、固体高分子型燃料電池の構成部材等として用いることができる。
【0150】
(膜電極接合体)
本実施形態の膜電極接合体は、上記高分子電解質膜と電極触媒層とを含む。
高分子電解質膜の両面にアノード及びカソードの2種類の電極触媒層が接合したユニットは、膜電極接合体(以下、「MEA」と略称することがある。)と呼ばれる。電極触媒層の更に外側に一対のガス拡散層を対向するように接合したものについても、MEAと呼ばれる場合がある。本実施形態に係るMEAは、高分子電解質膜として本実施形態の高分子電解質膜を用いること以外は、公知のMEAと同様の構成としてよい。
【0151】
電極触媒層は、触媒金属の微粒子と、これを担持した導電剤とから構成され、必要に応じて撥水剤が含まれる。
上記触媒金属としては、水素の酸化反応及び酸素の還元反応を促進する金属であればよく、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム、及びこれらの合金からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。中でも、白金が好ましい。
【0152】
MEAの製造方法としては、本実施形態の高分子電解質膜を用いて、公知の製造方法を採用することができ、例えば、以下のような方法が挙げられる。まず、電極用バインダーイオン交換樹脂をアルコールと水との混合溶液に溶解したものに、電極物質となる白金担持カーボンを分散させてペースト状にする。これをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートに一定量塗布して乾燥させる。次に、PTFEシートの塗布面を向かい合わせにして、その間に高分子電解質膜を挟み込み、100℃〜200℃で熱プレスすることにより転写接合してMEAを得ることができる。電極用バインダーとしては、一般にイオン交換樹脂を溶媒(アルコールや水等)に溶解したものが用いられるが、本実施形態の高分子電解質を電極用バインダーとして用いることもでき、耐久性の観点からこの高分子電解質を用いることが好ましい。MEAの作製方法としては、例えば、JOURNAL OF APPLIED ELECTROCHEMISTRY,22(1992)p.1−7等に記載の方法としてもよい。
【0153】
(固体高分子型燃料電池)
本実施形態の固体高分子型燃料電池は、上記膜電極接合体を含む。
上述のようにして得られたMEA、場合によっては更に一対のガス拡散電極が電極触媒層の更に外側に対向した構造を有するMEAは、更にバイポーラプレートやバッキングプレート等の一般的な固体高分子型燃料電池に用いられる構成成分と組み合わされて、固体高分子型燃料電池を構成する。このような固体高分子型燃料電池は、MEAとして上記のMEAを採用すること以外は公知のものと同様の構成を有していればよい。
【0154】
バイポーラプレートとは、その表面に燃料や酸化剤等のガスを流すための溝を形成させたグラファイトと樹脂との複合材料、又は金属製のプレート等を意味する。バイポーラプレートは、電子を外部負荷回路へ伝達する機能の他、燃料や酸化剤を電極触媒近傍に供給する流路としての機能を有している。こうしたバイポーラプレートの間に上記MEAを挿入して複数積み重ねることにより、本実施形態に係る固体高分子型燃料電池が製造される。
【0155】
本実施形態の固体高分子型燃料電池は、例えば、燃料電池自動車、家庭用燃料電池、等に用いることができる。
【実施例】
【0156】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0157】
(1)SEM−EDXによる観測
(1−1)相分離構造の有無
高分子電解質膜の任意の場所から5mm角のサンプルをデザインナイフにて切り出した。高分子電解質膜の片面に対し白金及び/又はオスミウムにより蒸着を行い、SEM装置(日立ハイテク社製、SU−8220)及びEDX装置(ブルカー社製、QUANTAX Flat QUAD)を用いて膜表面の状態を、倍率をまず150倍で、次に1500倍で、観察した。観察点は、切り出した5mm角のサンプルの四隅4点と中央1点とした。観察範囲は、倍率150倍の場合は縦60μm×横80μmの範囲とし、倍率1500倍の場合は倍率150倍の観察画像中心を含む縦600μm×横800μmの範囲とした。エネルギー分解能は、Mn Kα線が126eV、C Kα線が51eV、F Kα線が60eVであった。EDX測定については、CとFのマッピング及び得られた画像全体のピーク強度比(平均値)を測定した。
相分離構造は、5つの全ての観察点で海島相分離構造が確認された場合を、海島相分離構造ありと判定した。
【0158】
(1−2)C/Fピーク強度比の平均値
SEM−EDXで観測された倍率1500倍の膜表面の画像のCとFのピーク強度の比を、C/Fピーク強度比とした。測定箇所は、上記(1−1)と同様の5点とした。得られた5点のC/Fピーク値の平均値を、C/Fピーク強度比の平均値とした。
【0159】
(1−3)C/Fピーク強度比の相対標準偏差の割合
上記(1−2)の方法により、5点のC/Fピーク強度比について、1500倍と150倍の両方の倍率で測定した。
各々の倍率において、5点のC/Fピーク強度比の標準偏差を算出し、該標準偏差をC/Fピーク強度比の平均値((1−2)で算出した平均値)で割った値を相対標準偏差とした。倍率1500倍における相対標準偏差を倍率150倍における相対標準偏差で割り、倍率1500倍におけるC/Fピーク強度比の相対標準偏差と、倍率150倍におけるC/Fピーク強度比の上記相対標準偏差との割合(1500倍の相対標準偏差/150倍の相対標準偏差)を算出した。上記割合が1の時に最も分散性が高いと言える。
【0160】
(2)平均アスペクト比
高分子電解質膜の両面をエポキシ接着剤で包埋した上で、ウルトラミクロトーム(ライカ製、EM UC7)に取り付け、ガラス刃及びダイヤモンド刃を用いて切削した。切削面が膜平面方向に対しなるべく直角になるように、前記刃の切削方向に対し膜平面方向を直角にして高分子電解質膜をセットした。得られた膜断面部に対し白金及び/又はオスミウムにより蒸着を行い、前記SEM−EDXと同じ方法で、SEMで観測した。
前記断面SEMで観測された画像上の任意の20個の島について測定した長軸及び短軸の長さの比(長軸/短軸)の平均を平均アスペクト比として得た。なお、何れの例においても、長軸が膜平面方向、短軸が厚さ方向であった。また、膜断面中の、相分離構造中の島を測定の対象とし、相分離構造を有していない層、補強層等中の粒子は測定の対象としないものとする。
【0161】
(3)水素透過係数
高分子電解質膜の水素バリア性の判断基準として水素透過係数を以下のように測定した。フロー式ガス透過率測定装置(GTRテック製、GTR−30XFAFC)を用い、供給ガス流量はTESTガス(水素)10cc/min、キャリアーガス(アルゴン)10cc/minとし、圧力は常圧かつ等圧とし、温度湿度は80℃30%RHとした。
TESTガス側からキャリアーガス側に高分子電解質膜を透過してきた水素を、ガスクロマトグラフ(ヤナコ製、G2700TF)に導入して、ガス透過量を定量化した。
ガス透過量をX(cc)、補正係数をk(=1.0)、高分子電解質膜の膜厚をT(cm)、透過面積をA(cm
2)、計量管通過時間をD(s)、酸素分圧をp(cmHg)とした時の水素透過係数P(cc・cm/(cm
2・s・cmHg))を下記式から計算した。
P=(X×k×T/(A×D×p))
算出した水素透過係数の値が低いほど水素バリア性に優れる。
【0162】
(4)動的光散乱による散乱径のピークトップ
高分子電解質膜の製造に用いた、樹脂(A)を含む溶液と樹脂(B)を含む溶液の動的光散乱による散乱径のピークトップを以下のように測定した。樹脂(A)を含む溶液は、固形分濃度2.5質量%、水97.5質量%の液組成に濃縮あるいは希釈により揃えて測定した。樹脂(B)を含む溶液は、固形分濃度2.5質量%、エタノール97.5質量%の液組成に濃縮あるいは希釈により揃えて測定した。動的光散乱測定は、大塚電子社製粒径測定システムELS−Z2plusを用いて行った。具体的には、ディスポーザブルセルにセットした測定サンプルに対して、30mW、658nmの半導体レーザーを照射し、160°散乱光の強度をフォトン/秒として、積算200回で測定し、測定サンプル中の散乱径のピークトップ(μm)を求めた。樹脂(A)を含む溶液及び樹脂(B)を含む溶液の散乱径のピークトップが、共に10〜200μmの範囲に収まっていれば「○」(良好)、何れか一方の溶液の散乱径のピークトップが10〜200μmの範囲に収まっていなければ「×」(不良)と評価した。
【0163】
(5)UV測定による透過率
溶液の微分散化を判断するために、樹脂(A)を含む溶液、樹脂(B)を含む溶液、及び相溶化剤(C)を含む溶液を実施例に記載の割合で混合したキャスト液を、濃縮して、固形分濃度を10質量%に調整し、波長800nmにおいてUV測定し、前記波長における透過率(%T)を測定した。UVは、ジャスコ社製V−550を用いて行った。
【0164】
(6)破断伸度
高分子電解質膜の機械強度の1つの指標である破断伸度について、以下のように測定した。引張試験機テンシロン(A&D製)を用い、試料長50mm、引張速度300mm/minの条件で歪−応力曲線を雰囲気温度23℃、50%RH条件下で測定し、破断点での伸びから引張伸度(%)を求めた。なお値は4回の測定の平均値を使用した。
【0165】
(7)化学耐久性
高分子電解質膜の化学耐久性を加速的に評価するため、以下のような手順でOCVによる加速試験を実施した。なお、「OCV」とは、開回路電圧(Open Circuit Voltage)を意味する。
(7−1)電極触媒インクの調製
20質量%のパーフルオロスルホン酸ポリマー溶液(「SS700C/20」、旭化成イーマテリアルズ社製、当量質量(EW):740)、電極触媒(「TEC10E40E」、田中貴金属販売社製、白金担持量36.7wt%)を、白金/パーフルオロスルホン酸ポリマーが1/1.15(質量)となるように配合した。次いで、固形分(電極触媒とパーフルオロスルホン酸ポリマーの質量の和)が、11質量%となるようにエタノールを加え、ホモジナイザー(アズワン社製)により、回転数3,000rpmで10分間撹拌することで電極触媒インクを得た。
(7−2)MEAの作製
自動スクリーン印刷機(「LS−150」、ニューロング精密工業株式会社製)を用いて、高分子電解質膜の両面に前記電極触媒インクを、白金量がアノード側0.2mg/cm
2、カソード側0.3mg/cm
2となるように塗布し、140℃、5分の条件で乾燥・固化させることでMEAを得た。
(7−3)燃料電池単セルの作製
前記MEAの両極にガス拡散層(「GDL35BC」、MFCテクノロジー社製)を重ね、次いでガスケット、バイポーラプレート、バッキングプレートを重ねることで燃料電池単セルを得た。
(7−4)OCV試験
前記燃料電池単セルを評価装置(東陽テクニカ製燃料電池評価システム890CL)にセットして、OCVによる耐久性試験を実施した。
OCV試験条件は、セル温度95℃、加湿ボトル50℃(25%RH)とし、アノード側に水素ガス、カソード側に空気ガスを、各々50cc/minとなるよう供給する条件とした。また、アノード側とカソード側の両方を無加圧(大気圧)とした。
(7−5)劣化判定
試験開始から約20時間毎に水素のリーク量を、マイクロガスクロマトグラフ(VARIAN製、CP−4900)を用いて測定した。水素のリーク量が1000ppm以上となった時点で破膜と判断し試験を中止し、試験開始から中止するまでの時間(hr)を化学耐久性とした。
上記OCV試験で、破膜までの時間が長いものほど化学耐久性に優れる。
【0166】
(8)物理耐久性
高分子電解質膜の物理耐久性を加速的に評価するため、以下のような手順でDry/Wetによる加速試験を実施した。尚、Dryとは加湿しない乾燥ガスを、Wetとは加湿したガスを流すことを意味する。
まず、上記(7−1)〜(7−3)と同様にして燃料電池単セルを作製した。
(8−4)Dry/Wet試験
前記燃料電池単セルを評価装置(東陽テクニカ製燃料電池評価システム890CL)にセットして、Dry/Wetによる耐久性試験を実施した。
Dry/Wet試験条件は、セル温度80℃において、加湿なし(0%RH)と加湿ボトル80℃(100%RH)の条件を交互に、各々5分と1分、500cc/minでガスを供給した。Dry開始から該Dryに続くWet終了までを1サイクルとした。アノード側に水素ガス、カソード側に窒素ガスを供給した。また、アノード側とカソード側の両方を無加圧(大気圧)とした。
(8−5)劣化判定
試験開始から約1700サイクル毎に水素のリーク電流を、ソラートロン製SI1280Bを用いて測定した。水素のリーク電流が10mA/cm
2以上となった時点で破膜と判断し試験を中止し、試験開始から中止までのサイクル数を物理耐久性とした。但し、上記1700サイクルに到達する前にモニタリングしている電圧が急激に下がった場合は、その時点で水素のリーク電流を測定した。
上記Dry/Wet試験で、破膜までのDry/Wetサイクル数が多いものほど物理耐久性に優れる。
【0167】
(実施例1)
(1)キャスト液の調製
WO2015−002073の実施例5に記載のパーフルオロスルホン酸樹脂溶液AS14を、本実施例における前段階溶液A−1とした。
下記一般式(18)に記載のスルホン化ベンゾイル基を有するポリフェニレンエーテル(SBzPPE)は、下記の通り合成した。
【化19】
アルゴン置換した5Lの4つ口フラスコに、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)90g、ジクロロメタン2250mLを加え、撹拌した。上記で作製したポリフェニレンエーテル溶液に、塩化アルミニウム109gと塩化ベンゾイル104gのジクロロメタン溶液750mLを、45分かけて室温下で滴下した。滴下終了後、反応溶液をマントルヒーターで昇温し、40℃で6時間反応させ、その後反応溶液を室温まで放冷した。反応溶液を、少量サンプリング後、メタノール18Lに加えて、ポリマーを析出させ、粗生成物をろ過により回収した。さらに、回収した粗成生物をクロロホルム1.4Lに溶解させ、溶液をメタノール10L中に加えて、沈殿精製を行った。沈殿物を減圧濾過して、変性ポリフェニレンエーテル(アシル化ポリフェニレンエーテル)を生成物として回収した。変性ポリフェニレンエーテルの構造同定は、
1H−NMRにより行った。
1H−NMR(THF−d
8) δ 7.84(s,2.0H),7.48(m,3.0H),6.24(s,1.0H),1.86(m,6.4H)
原料の(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)のシグナルは観測されなかった。この結果から、下記一般式(19)で示される構成成分からなるポリマーが生成されていることが判明した。
【化20】
【0168】
アルゴン置換した3Lの4つ口フラスコに、発煙硫酸1.3kgを加え、メカニカルスターラーを用いて撹拌翼で撹拌を行った。上記アシル化ポリフェニレンエーテル130gを反応容器中にゆっくり添加した。室温で10時間撹拌後、反応液を氷水8L中へゆっくり投じて、反応を停止させた。析出した固体を減圧濾過で回収し、イオン交換水5L中で洗浄した。この洗浄操作での洗浄分離水のpHが5以上になるまで、同様の洗浄操作を9回繰り返した。洗浄後の固体を50℃で60時間減圧乾燥した。得られたポリマーの構造同定は、
1H−NMRにより行った。
1H−NMR(THF−d
8) δ 8.17−7.45(m,3.5H),6.24(s,1.0H),1.86(s,5.7H)
この結果から、前記一般式(18)のSBzPPEが生成されていることがわかった。
1H−NMRの結果において、アシル化ポリフェニレンエーテルの主鎖芳香環由来のシグナル(δ 6.24ppm)を基準として、未反応のアシル化ポリフェニレンエーテルユニットの芳香環に由来するシグナルの面積のスルホン化前後での減少分を、スルホン化されたアシル化ポリフェニレンエーテルユニットの芳香環の位置の分として計算することによって、スルホン化率(%)を求めた。SBzPPEのスルホン化率は31.5%であった。EWは、719g/当量であった。
前記SBzPPEにエタノールを添加し、SBzPPE/エタノール=10/90(質量%)の組成のSBzPPE溶液を得た。そこにパーフルオロスルホン酸系樹脂とSBzPPEの質量比が50:50になるように前段階溶液A−1を配合し、前段階溶液B−1とした。尚、前記SBzPPE溶液と前段階溶液A−1の動的光散乱測定での散乱径のピークトップが、共に10〜200μmの範囲に収まっているか否かは、表1に示す通りである。
次いで、相溶化剤として用いる酸化セリウム(IV)を水で分散させ、酸化セリウム(IV)/水=0.065/99.935(質量%)の組成の相溶化剤の分散液を得た
さらに、上記前段階溶液B−1に、相溶化剤の分散液を、酸化セリウムが全固形分量に対して0.1質量%となるように配合し、マグネチックスターラーを用いて均一になるまで撹拌し、固形分濃度3質量%のキャスト液−1を得た。キャスト液−1のUV測定における波長800nmの透過率は表1に示す通りである。
(2)高分子電解質膜−1の作製
前記で得られたキャスト液−1を、塗工機(東洋精機社製)を用いて基材(製品名:カプトン200H、東レデュポン(株)製)上に、乾燥厚さが5μmとなるように塗工し、特開2015−128061号公報に開示されているような、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体からなる2軸延伸微多孔膜(膜厚5μm、気孔率75%)を張り合わせることでキャスト液−1に含まれる固形分を含浸させた。その後、80℃で15分の条件で乾燥させた。乾燥させた後、基材とは反対側の面上に、乾燥厚さが5μmとなるようにキャスト液−1を塗工し、80℃で30分、次いで120℃で30分の条件で乾燥させた。得られた膜を170℃で20分の条件でさらに乾燥させることで高分子電解質膜−1を得た。
得られた高分子電解質膜−1の海島相分離構造の有無、平均アスペクト比(長軸/短軸)、相対標準偏差の割合(1500倍/150倍)、C/Fピーク強度比の平均値、水素透過係数、破断伸度、化学耐久性、及び物理耐久性を測定した。結果を表1に示す。
【0169】
(実施例2)
重量平均分子量が27000である相溶化しうるポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾール](シグマアルドリッチジャパン(株)社製、以下PBIと標記)を、ジメチルアセトアミド(DMAC)と共にオートクレーブ中に入れて密閉し、200℃まで昇温して5時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、PBI/DMAC=10/90(質量%)の組成のPBI溶液を得た。このPBI溶液をジメチルアセトアミドで希釈して、PBI/DMAC=0.065/99.935(質量%)のその他の成分(D)の溶液を作製した。
実施例1のキャスト液−1を作製する段階にて、その他の成分(D)の溶液を、PBIが全固形分量に対して3質量%となるように配合したこと以外は、実施例1と同様にして高分子電解質膜−2を作製した。
得られた高分子電解質膜−2の海島相分離構造の有無、平均アスペクト比(長軸/短軸)、相対標準偏差の割合比(1500倍/150倍)、C/Fピーク強度比の平均値、水素透過係数、破断伸度、化学耐久性、及び物理耐久性を測定した。結果を表1に示す。
【0170】
(実施例3)
実施例2のパーフルオロスルホン酸系樹脂とSBzPPEとの質量比を80:20としたこと以外は、実施例2と同様にして高分子電解質膜−3を得た。この際用いたキャスト液をキャスト液−2とする。
得られた高分子電解質膜−3の海島相分離構造の有無、平均アスペクト比(長軸/短軸)、相対標準偏差の割合(1500倍/150倍)、C/Fピーク強度比の平均値、水素透過係数、破断伸度、化学耐久性、及び物理耐久性を測定した。結果を表1に示す。
【0171】
(実施例4)
実施例2のパーフルオロスルホン酸系樹脂とSBzPPEとの質量比を90:10としたこと以外は、実施例2と同様にして高分子電解質膜−4を得た。
得られた高分子電解質膜−3の海島相分離構造の有無、平均アスペクト比(長軸/短軸)、相対標準偏差の割合(1500倍/150倍)、C/Fピーク強度比の平均値、水素透過係数、破断伸度、化学耐久性、及び物理耐久性を測定した。結果を表1に示す。
【0172】
(実施例5)
相溶化剤である酸化セリウム(IV)を用いなかったこと、SBzPPEの代わりに、相溶化の手段としての、ペンタフルオロベンゾイル基(FBz)の相溶化セグメントを側鎖に導入した下記一般式(20)で表されるSBz&FBzPPEを用いたこと以外は実施例2と同様にして、高分子電解質膜−5を得た。
【化21】
得られた高分子電解質膜−5の海島相分離構造の有無、平均アスペクト比(長軸/短軸)、相対標準偏差の割合(1500倍/150倍)、C/Fピーク強度比の平均値、水素透過係数、破断伸度、化学耐久性、及び物理耐久性を測定した。結果を表1に示す。
尚、上記一般式(20)に記載のSBz&FBzPPEは、下記の通り合成した。
脱気、Ar置換した200mLの4つ口フラスコへPPE5.0g、ジクロロメタン80mLを加え、撹拌した。グローブボックス内のAr気流下、乳鉢で粉砕した後に量りとった塩化アルミニウム(無水)6.1g、ジクロロメタン40mL、塩化ベンゾイル2.9g、ペンタフルオロ塩化ベンゾイル4.8gを加え、撹拌し、密栓しグローブボックスから取り出した。上記で調製した塩化アルミニウム溶液を上記PPE溶液中へゆっくり滴下し、アルミブロック加熱装置を用いて40℃に昇温し、12時間加熱還流させた。加熱を止めて室温まで放冷し、反応液をメタノール900mL中へ投じた後、黄色固体をろ過で回収した。回収した固体をクロロホルム60mLに溶解させてメタノール500mL中へ投じ、沈殿精製を行った。減圧ろ過で白色固体を回収し、60℃で12時間減圧乾燥し、8.4gのBz&FBzPPEを得た。
1H−NMR測定でのBz基とFBz基に由来したピークの積分値より、Bz基とFBz基の導入率を計算し、各々56%、44%であった。
続いて、脱気、Ar置換した100mLの4つ口フラスコへ発煙硫酸40gを注ぎ、撹拌した。前記Bz&FBzPPE4.0gを反応容器中へゆっくり添加し、60℃で1時間撹拌した。反応液を氷水120g中へゆっくり投じクエンチし、析出した茶色固体を減圧ろ過で回収後、イオン交換水中へ投じ洗浄を行なった。ろ過後のろ液pHが中性になるまで行ない、合計で9回の洗浄を実施した。洗浄後の固体を50℃24時間減圧乾燥し、SBz&FBzPPEを2.6g得た。実施例1と同様にしてスルホン化率を求め、35%であった。
【0173】
(実施例6)
実施例5のパーフルオロスルホン酸系樹脂とSBz&FBzPPEとの質量比を80:20としたこと以外は、実施例5と同様にして高分子電解質膜−6を得た。
得られた高分子電解質膜−6の海島相分離構造の有無、平均アスペクト比(長軸/短軸)、相対標準偏差の割合(1500倍/150倍)、C/Fピーク強度比の平均値、水素透過係数、破断伸度、化学耐久性、及び物理耐久性を測定した。結果を表1に示す。
【0174】
(実施例7)
樹脂(B)として、下記一般式(21)に記載のスルホン酸基を有するポリベンゾイミダゾール(S−PBI)を用いたこと以外は実施例3と同様にして高分子電解質膜−7を得た。
【化22】
得られた高分子電解質膜−7の海島相分離構造の有無、平均アスペクト比(長軸/短軸)、相対標準偏差の割合(1500倍/150倍)、C/Fピーク強度比の平均値、水素透過係数、破断伸度、化学耐久性、及び物理耐久性を測定した。結果を表1に示す。
尚、S−PBIは下記の通り合成した。
まず、グローブボックス内で下記仕込みを実施した。1Lの4つ口フラスコへPBI40g、脱水ジメチルアセトアミド(DMAc)400mLを加え、室温下12時間撹拌を行い、PBIを溶解させた。水素化ナトリウム17.6gをゆっくり添加後、反応容器を密閉してグローブボックスから取り出し、Ar流通下撹拌した。内温35℃となる様にアルミブロック加熱装置で加熱を行ない、35℃で16時間撹拌した。1,3−プロパンスルトン157.6gを脱水DMAc100mLに溶解させた。この溶液を上記フラスコへゆっくり滴下した。内温80℃で24時間撹拌後、室温まで放冷した。アセトン250gを反応液中へ加えて、しばらく撹拌した後に減圧ろ過で固体を回収した。得られた肌色固体をアセトン1Lで3回洗浄し、80℃12時間減圧乾燥し、S−PBIを150.5g得た。
【0175】
(実施例8)
実施例3で用いたキャスト液−2を、塗工機(東洋精機社製)を用いて基材(製品名
:カプトン200H、東レデュポン(株)製)上に、乾燥厚さが3μmとなるように
塗工した。80℃で15分の条件で乾燥させた。乾燥させた後、基材面とは逆側の層(A)の表面上に、乾燥厚さが7μmとなるように、実施例1の前段階溶液A−1を塗工し、80℃で30分、次いで120℃で30分の条件で乾燥させ、層(B)を積層させた。得られた膜を170℃で20分の条件でさらに乾燥させることで高分子電解質膜−8を得た。
得られた高分子電解質膜−8を、ウルトラミクロトーム(「EM UC7」、ライカ社製)を用いて切削して切片を作製し、その断面について赤外顕微鏡(「IRT−5200」、日本分光社製)による測定を行ったところ、断面の全領域に1000〜1200cm
-1付近に出現するC−F結合に起因するピークが観察された。また、樹脂(A)及び樹脂(B)を含む層(A)には、1400〜1600cm
-1付近及び2900〜3100cm
-1付近に出現する芳香族環のC−H結合に起因するピークが観察されたが、樹脂(A)を含む層(B)には観察されなかった。
得られた高分子電解質膜−8の海島相分離構造の有無、平均アスペクト比(長軸/短軸)、相対標準偏差の割合(1500倍/150倍)、C/Fピーク強度比の平均値、水素透過係数、破断伸度、化学耐久性、及び物理耐久性を測定した。結果を表1に示す。
【0176】
(実施例9)
実施例1のSBzPPEを用いずに、酸化グラフェンを、パーフルオロスルホン酸系樹脂と酸化グラフェンの質量比97:3の割合で配合したものを用いたこと、及び相溶化剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして高分子電解質−9を得た。
得られた高分子電解質膜−9の海島相分離構造の有無、平均アスペクト比(長軸/短軸)、相対標準偏差の割合(1500倍/150倍)、C/Fピーク強度比の平均値、水素透過係数、破断伸度、化学耐久性、及び物理耐久性を測定した。結果を表1に示す。
【0177】
(比較例1)
実施例1で用いた相溶化剤である酸化セリウム(IV)を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして高分子電解質膜−10を得た。
得られた高分子電解質膜−10の海島相分離構造の有無、平均アスペクト比(長軸/短軸)、相対標準偏差の割合(1500倍/150倍)、C/Fピーク強度比の平均値、水素透過係数、破断伸度、化学耐久性、及び物理耐久性を測定した。結果を表1に示す。尚、Cが島、Fが海の海島相分離構造が確認されたが、粗大な島から微細な島までサイズ分布が広く存在し、かつ島の形状も曲がりくねったり延びたりと歪んだものが多かった。
【0178】
(比較例2)
比較例1のパーフルオロスルホン酸系樹脂とSBzPPEの重量比を80:20としたこと、及びSBzPPEの混合方法を、特開2014−232663の実施例5のSPPEの混合方法と同じとしたこと以外は、比較例1と同様にして高分子電解質膜−11を得た。
得られた高分子電解質膜−11の海島相分離構造の有無、平均アスペクト比(長軸/短軸)、相対標準偏差の割合(1500倍/150倍)、C/Fピーク強度比の平均値、水素透過係数、破断伸度、化学耐久性、及び物理耐久性を測定した。結果を表1に示す。
【0179】
(比較例3)
比較例1のパーフルオロスルホン酸系樹脂とSBzPPEの重量比を95:5としたこと以外は、比較例1と同様にして高分子電解質膜−12を得た。
得られた高分子電解質膜−12の海島相分離構造の有無、平均アスペクト比(長軸/短軸)、相対標準偏差の割合(1500倍/150倍)、C/Fピーク強度比の平均値、水素透過係数、破断伸度、化学耐久性、及び物理耐久性を測定した。結果を表1に示す。
【0180】
【表1】