【実施例】
【0019】
≪実施例1≫
第II相POC(proof of concept)臨床試験(試験ID:VP−VLY−686−2101、「アトピー性皮膚炎に伴う治療抵抗性そう痒を有する対象におけるVLY−686のPOC」)を行い、アトピー性皮膚炎を有する患者の慢性そう痒の治療における、単独療法としてのトラジピタントの安全性及び有効性を調べた。
【0020】
痒みに対する100mmユニットのVisual Analog Scale(VAS)での測定において、トラジピタントによって非常に有意で臨床的に意味のあるベースラインからの改善(ベースラインからの40.5mmの改善、p<0.0001)がみられたが、ベースラインからの変化に非常に高いプラセボ効果(ベースラインからの36.5mmの改善、p<0.0001)があったため、プラセボとの統計的有意差はなかった。しかし、続いて本試験の全患者にわたる母集団PKサンプルの解析を行ったところ、そう痒評価時にトラジピタント曝露がより高いレベルである個人で評価した複数の結果にわたって、有意で臨床的に意味のある応答が明らかとなった。
【0021】
第II相POC臨床試験の予め指定した主要評価項目は、痒みに対するVisual Analog Scale(VAS)でのベースラインからの変化であった。高いプラセボ効果のため、この予め指定した評価項目に関してプラセボとの有意差はなかった。しかし、その後の解析において、曝露と応答との関連性が存在することが見出された。さらに、トラジピタントの血漿中レベルがより高い個人で評価した、そう痒に関連するいくつかの結果にわたって、有意で臨床的に意味のある応答が存在することも観察された。試験全体にわたって調べたデータに基づくと、トラジピタントの血漿中レベルがより低い場合、患者の痒み感覚を改善する有効性の閾値よりも低い可能性がある。
【0022】
<方法>
本試験では、試験の参加前の2日間のうち1日においてVisual Analog Scale(VAS)のスコアが70mmよりも大きかった患者を無作為化し、100mgのトラジピタント(N=34)又はプラセボ(N=35)のいずれかを、1日1回、夕方に経口投与した。本試験のトラジピタント群では、トラジピタントを、標準的な賦形剤を含むカプセルで、100mgの量で、夕方に患者に経口投与した。毎日の治療を3週間若しくは4週間行った後、又は3週間後及び4週間後の両方の時点で臨床評価を行った。各評価は、最後の治療を行った翌日の午前、又は最後の治療を行った翌日の午後に行った。トラジピタントは、カプセル中にトラジピタント及び医薬的に許容される賦形剤を含む即放性剤形として投与した。トラジピタントの粒子サイズは、およそD
10:<5μm、D
50:<10μm、及びD
90:<25μmであった。ここで、D
10は、前記粒子の10%が記載される平均粒子サイズであることを意味し、D
50は、前記粒子の50%が記載される平均粒子サイズであることを意味し、D
90は、前記粒子の90%が記載される平均粒子サイズであることを意味している。
【0023】
ベースラインのVASスコアは、トラジピタント群及びプラセボ群に対してそれぞれ、76.1及び77.2であった。有効性の評価は、いくつかの臨床研究手段によって行った。加えて、有効性評価の時点で、トラジピタントの血漿中レベルを特定するために、PK解析のための血液サンプルを採取した。
【0024】
<結果>
トラジピタント治療群のPK−PD(薬物動態−薬物力学)解析から、トラジピタントの血中レベルとベースラインからのVAS変化との間に有意な相関が示された(p<0.05)。有効性評価時点でトラジピタントの循環レベルがより高い個人は、応答の程度がより高かった。そう痒評価時点での別個のPK解析から、試験患者の約半数がそう痒評価のために午前に来診したこと(AM群、投与後約12時間)、また、これらの患者は午後に来診した患者(PM群、投与後約18時間)よりもトラジピタントの血中レベルが高いことが明らかとなった。
【0025】
AM及びPMに評価を行った患者全体におけるトラジピタントの平均血漿中濃度は、約125ng/mL〜225ng/mLであった。午後に評価を行った患者(PM)(平均=最終投与の約20時間後)は、午前に評価を行った患者(AM)(平均=最終投与の約15時間後)よりもトラジピタントの血漿中濃度が低い傾向にあった。PM群の平均血漿中濃度は、約125ng/mLであり、AM群の平均血漿中濃度は、約225ng/mLであった。この差異は、主として投与後の時間の長さに起因する。より重要なことには、これらの結果は、血漿中濃度と有効性との間の相関を示しており、血漿中濃度が100ng/mLより高い(例えば、約125ng/mL以上、約150ng/mL以上、約175ng/mL以上、約200ng/mL以上、又は約225ng/mL以上)患者は、より血漿中濃度の低い患者よりも高い有効性を示す傾向にあることがわかった。
【0026】
AM群のさらなる解析から、プラセボと比較して有意で臨床的に意味のあるトラジピタントの効果が明らかとなった。これを表1に示す。本試験において、トラジピタントの濃度がより高いと、慢性そう痒の治療における有効性がより高かった。PM群での同様の解析では、トラジピタントとプラセボの間で有意差は示されなかった。
【0027】
【表1】
【0028】
表1の略語:Visual Analog Scale(VAS)、Verbal Rating Scale(VRS)、Dermatology Life Quality Index(DLQI)、Clinical Global Impression of Change(CGI−C)、Patient Benefit Index(PBI)、SCORing Atopic Dermatitis Index(SCORAD)
【0029】
このデータは、NK−1Rアンタゴニストであるトラジピタントがそう痒を有する患者の症状を緩和し得るという仮定と一致している(VAS、VRS、主観的SCORAD)。本試験では、根底にある疾患に対応する評価項目も収集した(SKINDEX、客観的SCORAD、EASI、及びDLQI)。これらの結果は、プラセボとの有意差を示さなかったが、このことは、短期間の4週間の試験で痒みの症状をターゲットとする薬物であることからは予測されるものであった。重要なことに、アトピー性皮膚炎に伴う難治性の痒みであるそう痒は患者の主要な訴えであることから、CGI−Cスケール及びPBIスケールでも見られた前記効果は、臨床医及び患者の両方の観点から、認識可能な、全体的な臨床的に意味のある効果であることを示唆している。
【0030】
<結論>
これらのデータは、アトピー性皮膚炎に伴うそう痒等の、そう痒に罹患している患者において、トラジピタント、例えばIV型又はV型(又はそれらの医薬的に許容される塩)を例とするトラジピタントを、少なくとも約100ng/mL、例えば、125ng/mL以上、150ng/mL以上、175ng/mL以上、200ng/mL以上、又は225ng/mL以上の血漿中濃度を達成するのに要する量及び投与頻度で経口投与することによって、患者を治療することができるという仮定を裏付けるものである。そのような血漿中濃度レベルは、例えば、トラジピタントを、より高い用量で1日1回、即放性固体剤形で、又はバイオアベイラビリティが改善された即放性剤形で、又は放出制御剤形で、経口投与することによって達成することができる。または、トラジピタントを、より低い用量で、1日に複数回、例えば1日2回以上、即放性剤形又は放出制御剤形で経口投与することによって達成できる。試験データによると、即放性カプセルの固体剤形であるトラジピタント100mg/日で治療した後、約12〜18時間、例えば約15時間の時点で有効血漿中濃度を達成することができることがわかるが、異なる用量及び/又は製剤(放出制御製剤を含むが、これに限定されない)を用いて有効血漿中濃度を達成できる可能性があることは理解されるだろう。
【0031】
結論として、本試験では、主にプラセボ効果が大きかったことから、この試験で予め規定した用量のトラジピタントによる全体としての効果を示すことはできなかったが、本試験により、PKと応答の関係、及び、トラジピタントの血中濃度がより高い時点で評価した患者群において有意な有益性があることが示された。本試験において、1日1回、100mgのトラジピタントは、耐容性が良好であり、有害事象プロファイルはプラセボと同様に軽度であった。
【0032】
患者の治療は、患者のそう痒の症状が改善又は除去されるまで、例えば、前記患者が、起きている時間帯は概ね正常に活動することができ、睡眠時間帯は概ね正常に眠ることができるように改善されるまで、継続してよい。
【0033】
上述のように、データは、アトピー性皮膚炎に伴うそう痒等の、そう痒に罹患している患者において、トラジピタントを経口投与することによって患者を治療することができることを示している。さらなる試験により、様々な投与計画の安全性及び有効性も示された。
【0034】
≪実施例2≫
ある試験において、健康な対象参加者に、85mgのトラジピタントを試験の第3日に経口投与し、その後試験の第4日〜第16日に、12時間間隔で85mgのトラジピタントを経口投与した。トラジピタントの血漿中濃度レベルを、第3日、第7日、及び第11日の各々に測定した。
【0035】
この試験では、85mgのトラジピタントの1日1回の投与(第3日)により、0〜12時間における平均血漿中濃度が、実施例1のPM群で見られた血漿中濃度の約50%であることがわかった。第7日及び第11日では、85mgのトラジピタントの1日2回(具体的には、12時間間隔)の投与後0〜12時間における平均血漿中濃度は、実施例1のPM群で見られた血漿中濃度の約150%であった。各点の0〜12時間における平均血漿中濃度は、0〜12時間におけるAUC((時間)×(ng/mL))を12時間で割ることによって決定した。
【0036】
これらの結果は、アトピー性皮膚炎に伴うそう痒等の、そう痒に罹患している患者において、トラジピタント、例えばIV型又はV型(又はそれらの医薬的に許容される塩)を、実施例1のPM群で観察された125ng/mLより高い血漿中濃度を達成するために、1回量85mg、1日2回の量(例えば12時間間隔で85mg)で経口投与することによって、患者を治療できることを示している。
【0037】
実施形態
他の例示的実施形態に加えて、本発明は、以下の例示的実施形態の1又は複数も含むものと理解することができる。
【0038】
1.治療計画の継続期間にわたって、少なくとも約100ng/mL、例えば約125ng/mL以上、約150ng/mL以上、約175ng/mL以上、約200ng/mL以上、又は約225ng/mL以上の血漿中濃度を達成し、維持するのに十分である量及び投与頻度で患者にトラジピタントを内部投与することを含む、トラジピタントの投与を必要とする患者にトラジピタントを投与する方法。
【0039】
2.治療計画の継続期間にわたって、即放性剤形のトラジピタント100mgの経口投与後12〜18時間の患者の試験集団における血漿中濃度以上の血漿中濃度を達成し、維持するのに十分である量及び投与頻度で患者にトラジピタントを内部投与することを含む、トラジピタントの投与を必要とする患者にトラジピタントを投与する方法。
【0040】
3.前記トラジピタントが、トラジピタント及び1又は複数の医薬的に許容される賦形剤を含む、カプセル又は錠剤等の固体即放性剤形で経口投与される、実施形態1又は2に記載の方法。
【0041】
4.前記トラジピタントが、トラジピタント及び1又は複数の医薬的に許容される賦形剤を含む、カプセル又は錠剤等の固体放出制御剤形で経口投与される、実施形態1又は2に記載の方法。
【0042】
5.トラジピタント及び1又は複数の医薬的に許容される賦形剤を含む、カプセル又は錠剤等の固体即放性剤形で、100〜400mg/日、100〜300mg/日、又は100〜200mg/日のトラジピタントの量で1日2回、患者にトラジピタントを経口投与することを含む、トラジピタントの投与を必要とする患者にトラジピタント({2−[1−(3,5−ビス−トリフルオロメチルベンジル)−5−ピリジン−4−イル−1H−[1,2,3]トリアゾール−4−イル]−ピリジン−3−イル}−(2−クロロフェニル)−メタノン)を投与する方法。
【0043】
6.トラジピタント及び1又は複数の医薬的に許容される賦形剤を含む、カプセル又は錠剤等の固体即放性剤形で、150〜400mg/日、150〜300mg/日、又は150〜200mg/日のトラジピタントの量で1日1回、患者にトラジピタントを経口投与することを含む、トラジピタントの投与を必要とする患者にトラジピタント({2−[1−(3,5−ビス−トリフルオロメチルベンジル)−5−ピリジン−4−イル−1H−[1,2,3]トリアゾール−4−イル]−ピリジン−3−イル}−(2−クロロフェニル)−メタノン)を投与する方法。
【0044】
7.前記患者がそう痒のためにトラジピタントで治療されている、実施形態1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【0045】
8.前記患者がアトピー性皮膚炎及び/又は慢性そう痒のためにトラジピタントで治療されている、実施形態1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【0046】
9.前記トラジピタントが、IV型結晶又はV型結晶である、実施形態1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【0047】
10.実施形態1〜9のいずれか1つに記載の治療方法に使用するためのトラジピタント。
【0048】
11.実施形態1〜10のいずれか1つに記載の方法に使用するためのトラジピタントを含む医薬組成物。
【0049】
12.実施形態1〜11のいずれか1つに記載の方法に使用するためのトラジピタントを含む医薬組成物の製造に使用するためのトラジピタント。
【0050】
上記から、用量は、投与後約12時間での血漿中濃度が約100ng/mL〜約225ng/mL(例えば、約125ng/mL、約150ng/mL、約175ng/mL、又は約200ng/mL)となる用量であってよいことが明らかである。
【0051】
トラジピタントは、即放性剤形で、1回量50〜100mgを1日1回、例えば、1回量85mgを1日1回、又は1回量100mgを1日1回の用量でそう痒の治療のために投与されてよい。即放性剤形のトラジピタントを、1回量50〜100mgで1日2回(bid)投与することにより、目的とする血漿中濃度を24時間にわたって達成し、維持することが可能となる。したがって、例えば1回量85mg(即放性)で1日2回の投与を行うことで、同じ又はより高用量で1日1回投与(即放性)を行うよりも、高い、及び/又は持続的なそう痒の症状の軽減が得られる。
(付記)
<1> 100ng/mLより高い血漿中濃度を達成し、維持するのに十分である量及び投与頻度で、トラジピタント(tradipitant)の投与を必要とする患者にトラジピタントを内部投与することを含む、トラジピタントの投与を必要とする患者にトラジピタントを投与する方法。
<2> 前記100ng/mLより高い血漿中濃度が、治療計画の継続期間にわたって、125ng/mL以上、150ng/mL以上、175ng/mL以上、200ng/mL以上、及び225ng/mL以上からなる群より選択される、<1>に記載の方法。
<3> 前記内部投与の工程が、経口投与である、<1>に記載の方法。
<4> 85〜170mg/日の量でトラジピタントの投与を必要とする患者にトラジピタントを内部投与することを含む、トラジピタントの投与を必要とする患者にトラジピタントを投与する方法。
<5> 1回量85mgのトラジピタントを1日1回前記患者に内部投与することをさらに含む、<4>に記載の方法。
<6> 1回量85mgのトラジピタントを1日2回前記患者に内部投与することをさらに含む、<4>に記載の方法。
<7> 1回量100mgのトラジピタントを1日1回前記患者に内部投与することをさらに含む、<4>に記載の方法。
<8> 1回量50〜200mgのトラジピタントを1日2回、トラジピタントの投与を必要とする患者に内部投与することを含む、トラジピタントの投与を必要とする患者にトラジピタントを投与する方法。
<9> 1回量50〜150mgのトラジピタントを1日2回、トラジピタントの投与を必要とする患者に内部投与することを含む、トラジピタントの投与を必要とする患者にトラジピタントを投与する方法。
<10> 1回量50〜100mgのトラジピタントを1日2回、トラジピタントの投与を必要とする患者に内部投与することを含む、トラジピタントの投与を必要とする患者にトラジピタントを投与する方法。
<11> 前記トラジピタントが、そう痒を治療するために投与される、<1>〜<10>のいずれか一項に記載の方法。
<12> <1>〜<10>のいずれか一項に記載の方法によりそう痒患者にトラジピタントを内部投与することによって、前記そう痒患者に内部投与を行うことでそう痒を治療するための、トラジピタント。
<13> <1>〜<7>のいずれか一項に記載の方法により患者にトラジピタントを内部投与することによってそう痒を治療するための医薬の製造に使用するトラジピタント。