特許第6891421号(P6891421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6891421エンジン始動用の蓄電装置、エンジン始動用の蓄電装置の制御方法、車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6891421
(24)【登録日】2021年5月31日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】エンジン始動用の蓄電装置、エンジン始動用の蓄電装置の制御方法、車両
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20210607BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20210607BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20210607BHJP
   H02J 7/02 20160101ALI20210607BHJP
   H02J 7/10 20060101ALI20210607BHJP
   B60R 16/04 20060101ALI20210607BHJP
   F02N 11/08 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   H02J7/00 A
   H01M10/44 P
   H01M10/48 P
   H02J7/02 H
   H02J7/10 B
   B60R16/04 S
   F02N11/08 L
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-154944(P2016-154944)
(22)【出願日】2016年8月5日
(65)【公開番号】特開2018-23258(P2018-23258A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中本 武志
(72)【発明者】
【氏名】小西 大助
【審査官】 坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−131479(JP,A)
【文献】 特開2014−217170(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/008124(WO,A1)
【文献】 特開2011−223755(JP,A)
【文献】 特開2015−058826(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0140139(US,A1)
【文献】 特開2005−318795(JP,A)
【文献】 特開2013−201888(JP,A)
【文献】 特開2016−105667(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/188541(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/025307(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0195078(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0137092(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
B60R 16/04
F02N 11/08
H01M 10/44
H01M 10/48
H02J 7/02
H02J 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン始動用の蓄電装置であって、
蓄電素子と、
前記蓄電装置の外部端子と前記蓄電素子を接続しリアクトルを有さない第1通電経路と、
前記蓄電装置の前記外部端子と前記蓄電素子を接続する第2通電経路と、
記第1通電経路に設けられた第1スイッチと、
記第2通電経路に設けられ、第2スイッチとリアクトルを含む降圧回路と、
制御部と、を含み、
前記外部端子に対してエンジン始動装置と車両発電機とが並列に接続され、
前記制御部は、
エンジン始動時、前記第1スイッチをオン、第2スイッチをオフし、前記エンジン始動装置に対して前記第1通電経路により放電し、
前記車両発電機の出力電圧が前記蓄電装置の充電電圧の上限である設定電圧より高い場合、前記第1スイッチをオフして前記第2通電経路を選択し、前記第2スイッチをスイッチングすることで前記車両発電機の出力電圧を前記降圧回路により降圧して充電し、
前記車両発電機の出力電圧が前記設定電圧以下の場合、前記第1スイッチをオン、第2スイッチをオフして前記第1通電経路を選択して充電する、エンジン始動用の蓄電装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン始動用の蓄電装置であって、
前記降圧回路は、
前記第2通電経路に配置された前記第2スイッチと、
前記第2通電経路に配置され、前記第2スイッチに一端を接続し、前記蓄電素子の正極側に他端を接続した前記リアクトルと、
前記第2スイッチと前記リアクトルの中間接続点にカソードを接続し、前記蓄電素子の負極側にアノードを接続した還流ダイオードと、を含む、降圧チョッパである、エンジン始動用の蓄電装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジン始動用の蓄電装置であって、
前記車両発電機の出力電圧として、前記外部端子の電圧を検出する検出部を有するエンジン始動用の蓄電装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のエンジン始動用の蓄電装置であって、
前記降圧回路は、前記車両発電機の出力電圧を、前記設定電圧以下の適正値に降圧する、エンジン始動用の蓄電装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のエンジン始動用の蓄電装置であって、
前記蓄電素子を直列に複数備え、
各蓄電素子に対して1つの放電回路がそれぞれ並列に接続され、前記各蓄電素子を放電する複数の放電回路を備え、
前記制御部は、
前記蓄電素子の充電中に、前記放電回路を動作させて前記蓄電素子の電圧を均等化する、エンジン始動用の蓄電装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のエンジン始動用の蓄電装置であって、
前記第1スイッチは、放電方向を順方向とする寄生ダイオードを有する、FETである、エンジン始動用の蓄電装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のエンジン始動用の蓄電装置であって、
前記蓄電素子はリン酸鉄系のリチウムイオン二次電池である、エンジン始動用の蓄電装置。
【請求項8】
エンジン始動用の蓄電装置の制御方法であって、
前記蓄電装置は、
前記蓄電装置の外部端子と蓄電素子を接続しリアクトルを有さない第1通電経路と、
前記蓄電装置の前記外部端子と前記蓄電素子を接続しリアクトルを含む降圧回路を備えた第2通電経路と、を備え、
エンジン始動時は、前記第1通電経路に設けられた第1スイッチをオン、前記降圧回路に設けられた第2スイッチをオフして、前記外部端子に接続されたエンジン始動装置に対して前記第1通電経路で放電し、
前記外部端子に接続された車両発電機の出力電圧が前記蓄電装置の充電電圧の上限である設定電圧より高い場合、前記第1スイッチをオフして第2通電経路を選択し、前記第2スイッチをスイッチングすることで前記車両発電機の出力電圧を前記降圧回路により降圧して充電し、
前記車両発電機の出力電圧が前記設定電圧以下の場合、前記第1スイッチをオン、第2スイッチをオフして前記第1通電経路を選択して充電する、エンジン始動用の蓄電装置の制御方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の蓄電装置と、
前記蓄電装置の外部端子に接続されたエンジン始動装置と、
前記蓄電装置前記外部端子に接続された車両発電機と、を備えた車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン始動用の蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン始動用の蓄電装置は、エンジン始動時に瞬間的に大きなクランキング電流を流す必要があることから、瞬間的に大電流が供給できるように、出力の応答性が高いことが必要とされる。また、エンジン始動用の蓄電装置は、車両走行中にオルタネータにより充電される構成となっている。なお、エンジン始動用の蓄電装置に関連する文献としては、例えば、下記文献がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−201888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バッテリが適正な充電電圧よりも高い電圧で充電されると、蓄電装置は過充電となる。蓄電装置の過充電を抑制するには、蓄電装置の内部に降圧回路を設けて、充電電圧を適正値に調整することが考えられる。しかしながら、降圧回路がリアクトルを含んでいる場合、過渡的な電流に対して負荷になることから、電流が流れ難くなり、蓄電装置の出力の応答性が低下する。エンジン始動用の蓄電装置は、瞬間的に大電流が供給できるように、出力の応答性が高いことが必要であることから、エンジン始動時の応答性を確保しつつ、蓄電装置が過電圧になることを抑制することが求められていた。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、エンジン始動時の応答性を確保しつつ、蓄電装置が過電圧になることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書により開示されるエンジン始動用の蓄電装置は、蓄電素子と、前記蓄電素子への第1通電経路に設けられた第1スイッチと、前記蓄電素子への第2通電経路に設けられた降圧回路と、制御部と、を含み、前記制御部は、エンジン始動時、前記第1スイッチをオンして前記第1通電経路により放電し、前記車両発電機の出力電圧が設定電圧より高い場合、前記第1スイッチをオフして前記第2通電経路を選択し、前記車両発電機の出力電圧を前記降圧回路により降圧して充電する。尚、設定電圧は、蓄電装置の適正な充電電圧の上限値である。
【0007】
本明細書により開示されるエンジン始動用の蓄電装置の制御方法は、エンジン始動時は、降圧回路を有する第2通電経路より応答性の高い第1通電経路により放電し、車両発電機の出力電圧が設定電圧より高い場合、前記第2通電経路を選択し、車両発電機の出力電圧を前記降圧回路により降圧して充電する。
【発明の効果】
【0008】
本明細書により開示されるエンジン始動用の蓄電装置によれば、エンジン始動時の応答性を確保しつつ、蓄電装置が過電圧になることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1に適用された車両の側面図
図2】バッテリの斜視図
図3】バッテリの分解斜視図
図4】バッテリの回路図
図5】二次電池のSOC−OCV特性を示すグラフ
図6】放電回路の回路図
図7】充電電圧の切換処理の流れを示すフローチャート図
図8】半導体スイッチQ1、Q2の切り換えパターンをまとめた図表
図9】バッテリの比較例を示す回路図
【発明を実施するための形態】
【0010】
初めに、本実施形態にて開示するエンジン始動用の蓄電装置の概要について説明する。
エンジン始動用の蓄電装置は、蓄電素子と、前記蓄電素子への第1通電経路に設けられた第1スイッチと、前記蓄電素子への第2通電経路に設けられた降圧回路と、制御部と、を含み、前記制御部は、エンジン始動時、前記第1スイッチをオンして前記第1通電経路により放電し、前記車両発電機の出力電圧が設定電圧より高い場合、前記第1スイッチをオフして前記第2通電経路を選択し、前記車両発電機の出力電圧を前記降圧回路により降圧して充電する。この構成では、エンジン始動時は第1通電経路を選択するため、応答性が高く、瞬間的に大電流を放電することができる。また、充電時、車両発電機の出力電圧が設定電圧より高い場合、出力電圧を降圧するため、蓄電装置が過電圧になることを抑制することができる。
【0011】
また、本実施形態にて開示するエンジン始動用の蓄電装置の一実施態様として、前記降圧回路は、前記第2通電経路に配置された第2スイッチと、前記第2通電経路に配置され、前記第2スイッチに一端を接続し、前記蓄電素子の正極側に他端を接続したリアクトルと、前記第2スイッチと前記リアクトルの中間接続点にカソードを接続し、前記蓄電素子の負極側にアノードを接続した還流ダイオードと、を含む、降圧チョッパである。この構成では、第2スイッチのデューティ比を切り換えることにより、降圧回路の出力電圧を多段階で調整することが可能であることから、充電電圧を適正な電圧に調整することができる。
【0012】
また、本実施形態にて開示するエンジン始動用の蓄電装置の一実施態様として、前記車両発電機の出力電圧を検出する検出部を備える。この構成では、バッテリ側で車両発電機の出力電圧が検出できる。そのため、例えば、バッテリと通信できない仕様の車両にバッテリが搭載されている場合でも、バッテリ単独で充電電圧を適正な電圧に調整することができる。
【0013】
また、本実施形態にて開示するエンジン始動用の蓄電装置の一実施態様として、前記車両発電機が接続される外部端子を有し、前記検出部は、前記車両発電機の出力電圧として、前記外部端子の電圧を検出する。この構成によると、簡易な構成で車両発電機の出力電圧を検出できる。
【0014】
また、本実施形態にて開示するエンジン始動用の蓄電装置の一実施態様として、前記降圧回路は、前記車両発電機の出力電圧を、前記設定電圧以下の適正値に降圧する。この構成によると、車両発電機の出力電圧が設定電圧より高くても、蓄電素子を設定電圧以下の適正値で充電することが可能である。
【0015】
また、本実施形態にて開示するエンジン始動用の蓄電装置の一実施態様として、前記蓄電素子を直列に複数備え、前記複数の蓄電素子と並列に接続され、前記蓄電素子を放電する複数の放電回路を備え、前記制御部は、前記蓄電素子の充電中に、前記放電回路を動作させて前記蓄電素子の電圧を均等化する。この構成では、蓄電素子の電圧を均等化出来る。そのため、電圧のばらつきにより、特定の蓄電素子が過電圧になることを抑制できる。
【0016】
また、本実施形態にて開示するエンジン始動用の蓄電装置の一実施態様として、前記第1スイッチは、放電方向を順方向とする寄生ダイオードを有する、FETである。この構成では、FETをオフすることで、充電のみ遮断し、放電は継続することが出来る。
【0017】
また、前記蓄電素子はリン酸鉄系のリチウムイオン二次電池である。リン酸鉄系のリチウムイオン二次電池は充電末期に電圧が上昇し易く、過電圧になり易い。本技術を適用することにより、リチウムイオン二次電池が過充電になることを抑制することができ、電池の安全性を確保できる。
【0018】
<一実施形態>
本発明の一実施形態を図1図9によって説明する。
1.バッテリの説明
図1は車両の側面図、図2はバッテリの斜視図、図3はバッテリの分解斜視図である。
車両1は、図1に示すように、エンジン始動装置10、オルタネータ15、バッテリ20を備えている。尚、バッテリ20が本発明の「蓄電装置」に相当し、オルタネータが本発明の「車両発電機」に相当する。
【0019】
バッテリ20は、図2に示すように、ブロック状の電池ケース21を有しており、電池ケース21内には、複数の二次電池31からなる組電池30や回路基板28が収容されている。尚、以下の説明において、図2および図3を参照する場合、電池ケース21が設置面に対して傾きなく水平に置かれた時の電池ケース21の上下方向をY方向とし、電池ケース21の長辺方向に沿う方向をX方向とし、電池ケース21の奥行き方向をZ方向をとして説明する。
【0020】
電池ケース21は、図3に示すように、上方に開口する箱型のケース本体23と、複数の二次電池31を位置決めする位置決め部材24と、ケース本体23の上部に装着される中蓋25と、中蓋25の上部に装着される上蓋26とを備えて構成されている。ケース本体23内には、図3に示すように、各二次電池31が個別に収容される複数のセル室23AがX方向に並んで設けられている。
【0021】
位置決め部材24は、図3に示すように、複数のバスバー27が上面に配置されており、位置決め部材24がケース本体23内に配置された複数の二次電池31の上部に配置されることで、複数の二次電池31が、位置決めされると共に複数のバスバー27によって直列に接続されるようになっている。
【0022】
中蓋25は、図2に示すように、平面視略矩形状をなし、Y方向に高低差を付けた形状とされている。中蓋25のX方向両端部には、図示しないハーネス端子が接続される一対の端子22P、22Nが設けられている。一対の端子22P、22Nは、例えば、鉛合金等の金属からなり、22Pが正極端子、22Nが負極端子である。尚、正極端子22P、負極端子22Nが本発明の「外部端子」の一例である。
【0023】
また、中蓋25は、図3に示すように、回路基板28が内部に収容可能とされており、中蓋25がケース本体23に装着されることで、二次電池31と回路基板28とが接続されるようになっている。
【0024】
2.バッテリ20の電気的構成
バッテリ20はエンジン始動用であり、図4に示すように、外部端子である正極端子22P、負極端子22Nを介して、エンジン始動装置10、オルタネータ15が電気的に接続されている。バッテリ20は、図4に示すように、組電池30と、半導体スイッチQ1と、降圧回路35と、管理装置50とを有する。また、バッテリ20は、正極端子22Pと組電池30の正極を接続する通電経路として、第1通電経路L1と第2通電経路L2を有している。
【0025】
半導体スイッチQ1は第1通電経路L1上に設けられている。半導体スイッチQ1は、NチャンネルのFET(電界効果トランジスタ)である。半導体スイッチQ1は、ドレンを正極端子22Pに接続し、ソースを組電池30の正極に接続している。半導体スイッチQ1のゲートには、ドライバ47が接続されている。ドライバ47には、制御部70からの制御信号が入力される構成になっており、半導体スイッチQ1は、制御部70からの指令(制御信号)に応答して、第1通電経路L1を開閉する機能を果たす。
【0026】
また、半導体スイッチQ1は寄生ダイオード37を有している。寄生ダイオード37は、組電池30の放電方向が順方向となっており、半導体スイッチQ1を、オフを保持する状態に制御した場合でも、寄生ダイオード37を通じて放電できるようになっている。尚、半導体スイッチQ1が本発明の「第1スイッチ」の一例である。
【0027】
降圧回路35は、第2通電経路L2上に設けられている。降圧回路35は、降圧チョッパであり、半導体スイッチQ2と、リアクトルReと、還流ダイオードDを備えている。半導体スイッチQ2は、NチャンネルのFET(電界効果トランジスタ)である。半導体スイッチQ2は、第2通電経路L2上に配置されており、ドレンを正極端子22Pに接続し、ソースをリアクトルReに接続している。半導体スイッチQ2のゲートには、ドライバ48が接続されている。ドライバ48には、制御部70からの制御信号が入力される構成になっており、半導体スイッチQ2は、制御部70からの指令(制御信号)に応答して、第2通電経路L2を開閉する機能を果たす。尚、半導体スイッチQ2が本発明の「第2スイッチ」の一例である。
【0028】
リアクトルReは、第2通電経路L2上に配置されており、一端を半導体スイッチQ2のソースに接続し、他端を組電池30の正極に接続している。還流ダイオードDは、半導体スイッチQ2とリアクトルReの中間接続点にカソードを接続し、アノードをグランドラインL3に接続している。
【0029】
降圧回路35は、半導体スイッチQ2を所定周期でスイッチングすることで、オルタネータ15の出力電圧(充電電圧)を降圧する機能を果たす。具体的には、半導体スイッチQ2をオンすると、第2通電経路L2でリアクトルReに電流が流れ、リアクトルReは磁気エネルギーを蓄える。そして、半導体スイッチQ2がオフに切り換わると、リアクトルReは、還流ダイオードDを経由して、蓄えた磁気エネルギーを放出する。このような動作を周期的に繰り返すことにより、電圧を降圧するものである。
【0030】
また、半導体スイッチQ2のデューティ比Dyを切り換えることで、降圧回路35の出力電圧(降圧量)を調整することができる。
【0031】
組電池30は、直列接続された複数(本例では4つ)のリチウムイオン二次電池(本発明の「蓄電素子」の一例)31から構成されている。二次電池31は、例えば、正極活物質にリン酸鉄リチウム(LiFePO4)、負極活物質にカーボン(グラファイト)を用いたリン酸鉄系のリチウムイオン二次電池とされる。
【0032】
尚、「リン酸鉄系」のリチウムイオン二次電池とは、正極活物質にリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を用いたリチウムイオン二次電池であり、負極活物質はカーボン以外に、例えば、チタン酸リチウムやシリコンでもよい。図5にリン酸鉄系のリチウムイオン二次電池31のSOC−OCV相関特性を示す。
【0033】
リン酸鉄系のリチウムイオン二次電池31は、図5に示すように、SOCの変化量に対するOCVの変化量が相対的に低い低変化領域と、相対的に高い高変化領域とを有している。具体的には、SOCが10%未満である充電初期(放電末期)は、SOCの変化量に対してOCVが急激に変化する高変化領域である。また、SOCが90%以上である充電末期(図5に示す立ち上がり領域F)も、SOCの変化量に対してOCVが急激に変化する高変化領域である。また、SOCが10%以上、90%未満である充電中期(放電中期)には、SOCに対してOCVが略一定である平坦領域(プラトー領域)である。尚、SOC(State of charge)は充電状態を意味し、OCV(Open Circuit Voltage)は開放電圧を意味する。
【0034】
また、バッテリ20は、図4に示すように、電流検出抵抗41と、温度センサ43と、放電回路45を有している。
【0035】
電流検出抵抗41は、組電池30の負極側に設けられており、二次電池31に流れる電流を検出する機能を果たす。また、温度センサ43は接触式あるいは非接触式で、二次電池31の温度[℃]を測定する機能を果たす。
【0036】
電流検出抵抗41と温度センサ43は、信号線によって、管理装置50に電気的に接続されており、電流検出抵抗41や温度センサ43の検出値は、管理装置50に取り込まれる構成になっている。
【0037】
放電回路45は、各二次電池31に設けられている。放電回路45は、図6に示すように、放電抵抗Rと放電スイッチSWとを備え、二次電池31に対して並列に接続されている。制御部70から指令を与えて、放電スイッチSWをオンすることで二次電池31を個別に放電することが出来る。
【0038】
管理装置50は、バッテリ20を管理する装置であり、第1電圧検出部61と、第2電圧検出部65と、制御部70とを備えている。第1電圧検出部61は、検出ラインを介して、各二次電池31の両端にそれぞれ接続され、各二次電池31の電圧及び組電池30の総電圧を測定する機能を果たす。
【0039】
第2電圧検出部65は、検出ラインを介して正極端子22Pと負極端子22Nに接続されており、端子間電圧Vsを測定することにより、オルタネータ15の出力電圧Vsを検出する機能を果たす。尚、第2電圧検出部65が本発明の「検出部」の一例である。
【0040】
制御部70は、中央処理装置であるCPU71と、メモリ73とを含む。CPU71は、電流検出抵抗41、第1電圧検出部61、温度センサ43の出力から、二次電池31の電流、電圧、温度を監視するとともに、第2電圧検出部65の出力からオルタネータ15の出力電圧を監視する。メモリ73には、バッテリ20を監視するための情報や、後述する充電電圧の切換制御や二次電池の均等化処理を行うためのデータなどが記憶されている。
【0041】
管理装置50、半導体スイッチQ1、降圧回路35は、放電回路45、電流検出抵抗41は、回路基板28に搭載されており、バッテリ20の内部に設けられている。また、温度センサ43も、バッテリ20の内部に設けられている。
【0042】
3.充電電圧の切換制御
本実施形態では、組電池30の総電圧の充電目標電圧は14.4Vであり、組電池30はオルタネータ15により、充電目標電圧に充電される。しかし、例えば、オルタネータ15の異常等の要因により、バッテリ20を充電する際の充電電圧の適正値の上限である設定電圧Vt(一例として、15.5V)よりも高い電圧で充電が行われると、バッテリ20が過電圧になる恐れがある。そのため、制御部70は充電開始後、以下に説明する、充電電圧の切換制御(図7)を実行する。
【0043】
制御部70は、電流検出抵抗41が検出する電流値の極性から、バッテリ20が充電状態か、放電状態かを判断することができる。そして、バッテリ20が充電状態であることを検出すると、制御部70は、第2電圧検出部65により端子間電圧Vsを計測して、オルタネータ15の出力電圧Vsを検出する(S10)。次に、制御部70は、オルタネータ15の出力電圧Vsを、予め定められた設定電圧Vtと比較する処理を行う(S20)。
【0044】
そして、オルタネータ15の出力電圧Vsが設定電圧Vt以下の場合、制御部70は、図8に示す通常モードを選択し、半導体スイッチQ1はオンを保持した状態(デューティ比100%を保持)、降圧回路35の半導体スイッチQ2はオフを保持した状態(デューティ比0%を保持)に制御する。これにより、第1通電経路L1側のみ通電可能になることから、バッテリ20はオルタネータ15の出力電圧Vsで充電される。
【0045】
一方、オルタネータ15の出力電圧Vsが設定電圧Vtより高い場合、制御部70は、図8に示す降圧モードを選択し、半導体スイッチQ1を、オンを保持した状態からオフを保持する状態に切り換える。
【0046】
これにより、第1通電経路L1は遮断される。また、制御部70は、降圧回路35の半導体スイッチQ2を、オフを保持した状態から、所定周期でオンオフを繰り返すスイッチング制御に切り換える(S40)。これにより、第2通電経路L2側が通電可能となり、オルタネータ15の出力電圧Vsを、降圧回路35で降圧して、バッテリ20を充電することができる。
【0047】
このようにすることで、バッテリ20の充電電圧を下げることができ、バッテリ20が過電圧になることを抑制することができる。
【0048】
尚、本例では、半導体スイッチQ2のスイッチング周波数は100Hz〜数kHzであり、オンを保持するとは、半導体スイッチQ2のスイッチング周期よりも長い時間(例えば、少なくとも数周期以上)、半導体スイッチQ1、Q2をデューティ比100%の状態に保持していることを意味する。また、「オフを保持」も同様に、スイッチング周期より長い時間(例えば、少なくとも数周期以上)、デューティ比Dyが0%の状態に保持されていることを意味する。
【0049】
また、降圧回路35の出力電圧Voは、オルタネータ15の出力電圧Vsと、半導体スイッチQ2のデューティ比Dyにより定まる。そのため、降圧後の出力電圧Voが設定電圧Vt以下の適正値(充電に適正な電圧であり、一例として15V)になるように、制御部71にて半導体スイッチQ1のデューティ比Dyを決定することが好ましい。
【0050】
Dy=Ton/(Ton+Toff)・・・・(1)式
Tonは、半導体スイッチQ2のオン時間、Toffは半導体スイッチQ2のオフ時間である。
【0051】
また、制御部70は充電中、電流検出抵抗41の検出値から、電流がほぼ流れていない状態が所定時間継続すると、充電終了と判断し、半導体スイッチQ1、Q2の制御パターンを、図8に示す通常モードに戻す処理を行う。
【0052】
4.エンジン始動時の応答性
制御部71は、放電時は通常モードを維持し、バッテリ20は第1通電経路L1で放電する。第1通電経路L1上には、半導体スイッチQ1しか設けられておらず、過渡的な電流に対して大きな負荷となるリアクトル等の素子が配置されていない。そのため、瞬間的に大電流を供給することが可能であり、第2通電経路L2に比べて、出力の応答性が格段に高い。従って、エンジン始動時に、短時間で必要な大きさのクランキング電流を供給することが可能であり、エンジン始動不良が発生することを抑制できる。
【0053】
図9は、バッテリ20の比較例を示す回路図である。図9に示すバッテリ120は、半導体スイッチQ3をオンに保持した状態で、半導体スイッチQ4をスイッチング制御することにより、オルタネータ15の出力電圧Vsを降圧することができる。しかしながら、通電経路L4を1ラインしか持たず、その経路L4上にリアクトルReを設けている。リアクトルReは過渡的な電流に対して大きな負荷となるので、図9に示す回路構成では、瞬間的な大電流を供給することは困難であり、エンジン始動用としては不向きである。
【0054】
また、バッテリ20の第2電流経路L2も同様に、リアクトルReが設けられていることから、第1電流経路L1に比べて出力の応答性が低く、瞬間的な大電流を供給するには不向きである。
【0055】
5.放電回路45による電圧均等化処理
また、制御部70は充電開始後、第1電圧検出部61により計測される各二次電池31の電圧を、閾値(一例として3.5V)と比較する。そして、閾値を上回る二次電池31に対応する放電回路45はすべて動作させ、閾値を上回る二次電池31を抵抗放電させる。
【0056】
これにより、電圧の高い二次電池31は電圧が下がることから、各二次電池31の電圧を均等化することができる。従って、充電中、電圧のばらつきにより、特定の二次電池31の電圧が上昇して過電圧になることを抑制することができる。
【0057】
尚、本実施形態では、組電池30の充電目標電圧は「14.4V」であり、それをセル数で割った電圧は「3.6V」である。また、均等化処理が実行される閾値は「3.5V」である。
【0058】
そのため、組電池30の電圧が目標充電電圧に近くなる充電末期では、放電回路45による電圧均等化処理が実行される。従って、充電末期において、組電池30を構成する各二次電池31の電圧ばらつき抑えつつ、特定の二次電池31が電圧上昇することができる。
充電末期は、電圧のばらつきが大きくなり易いが、その領域内で電圧均等化処理を行うことにより、二次電池31の電圧ばらつき抑えることができることから、特定の二次電池31が電圧上昇して、過電圧になることを抑制できる。
【0059】
6.効果説明
本実施形態では、エンジン始動時は第1通電経路L1で放電するため、瞬間的に大電流を放電することができる。また、オルタネータ15の出力電圧Vsが予め定めされた設定電圧Vtより高い場合、第2通電経路L2に切り換えて降圧回路35で出力電圧Vsを降圧して充電を行う。そのため、エンジン始動時の応答性を確保しつつ、バッテリ20が過電圧になることを抑制することができる。
【0060】
また、バッテリ20は、降圧回路35を内蔵し、オルタネータ15の出力電圧Vsを自ら検出する。従って、バッテリ20との通信機能を持たない車両に、バッテリ20が搭載されても、オルタネータ15の出力電圧Vsが設定電圧Vtよりも高い場合には、バッテリ単独で出力電圧Vsを降圧することができ、バッテリ20が過電圧になることを抑制できる。
【0061】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0062】
(1)上記実施形態では、バッテリ20を自動車に搭載したが、これ以外にも、例えば、自動二輪に搭載してもよい。すなわち、エンジンで駆動する車両であれば、本技術の適用が可能である。
【0063】
(2)上記実施形態では、第1スイッチの一例として、半導体スイッチQ1を用いた例を示したが、半導体スイッチQ1に変えてリレーを用いてもよい。また、半導体スイッチを用いる場合でも、パワートランジスタなど、FET以外の素子を用いるようにしてもよい。また、第2スイッチも同様である。
【0064】
(3)上記実施形態では、蓄電素子の一例として、リン酸鉄のリチウムイオン二次電池31を例示したが、例えば、3元系のリチウムイオン二次電池に対しても適用することが出来る。尚、3元系のリチウムイオン二次電池は、正極活物質にCo,Mn、Niの元素を含有したリチウム含有金属酸化物を用い、負極活物質はグラファイトやカーボン等を用いた電池である。また、蓄電素子は、鉛蓄電池など他の二次電池や、キャパシタであってもよい。
【0065】
(4)上記実施形態では、放電回路45を設けた例を示したが、放電回路45を設けない回路構成とすることができる。また、蓄電素子を複数直列に接続した例を示したが、蓄電素子は1つでもよい。
【0066】
(5)上記実施形態では、降圧モードから通常モードへの切り換えを、充電終了を検出して行ったが、少なくとも、エンジン始動時に通常モードが選択されていればよく、例えば、イグニッションスイッチのオン動作を検出して、モードの切り換えを行うことも可能である。
【0067】
(6)上記実施形態では、オルタネータ15の出力電圧Vsを、バッテリ20に内蔵した第2電圧検出部65により検出した例を示したが、バッテリと車両間で通信ができる場合、オルタネータ15の出力電圧Vsの情報を車両から通信で得るようにしてもよい。また、その場合、第2電圧検出部65は廃止することができる。
【符号の説明】
【0068】
1...車両
10...エンジン始動装置
15...オルタネータ(本発明の「車両発電機」の一例)
20...バッテリ
22P、22N...正極端子、負極端子(本発明の「外部端子」の一例)
30...組電池(本発明の「蓄電装置」の一例)
31...二次電池(本発明の「蓄電素子」の一例)
35...降圧回路
41...電流検出抵抗
45...放電回路
50...管理装置
61...第1電圧検出部
65...第2電圧検出部(本発明の「検出部」の一例)
70...制御部
L1...第1通電経路
L2...第2通電経路
Q1...半導体スイッチ(本発明の「第1スイッチ」の一例)
Q2...半導体スイッチ(本発明の「第2スイッチ」の一例)
Re...リアクトル
D...還流ダイオード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9