【実施例】
【0035】
〔検証実験:除去細粒分−塩分濃度−pH値の関係の検証〕
浚渫土砂としては三重県志摩市の汽水域で採取したものを使用した。また、鉄鋼スラグとしては、粒度分布が0.075mm以下10質量%以下、26.5mm超5質量%以下、及び50%粒径が5mm以上15mm以下の製鋼スラグ(0-25mm)を用いた。更に、上記の製鋼スラグを用い、篩分けによりそれぞれ2mm以下、5mm以下、又は10mm以下の細粒分を除去して得られた3種の細粒分除去製鋼スラグ(2-25mm)、(5-25mm)、(10-25mm)を調製した。
【0036】
上記の浚渫土砂中に、細粒分除去製鋼スラグの混合割合が20体積%となるように、上記の3種類の細粒分除去製鋼スラグを均一に混合し、3種の改質土A(浚渫土砂+細粒分除去製鋼スラグ(2-25mm))、改質土B(浚渫土砂+細粒分除去製鋼スラグ(5-25mm))、及び改質土C(浚渫土砂+細粒分除去製鋼スラグ(10-25mm))を調製した。
また、塩分濃度3.2質量%の海水を用い、この海水を純水中に20体積%、50体積%、及び80体積%の割合で混合してそれぞれ塩分濃度が0.64質量%、1.6質量%、及び2.56質量%の3種の模擬汽水を調製し、3つの6リットル(L)タンク中にそれぞれ上記3種の模擬汽水をそれぞれ5Lずつ入れて汽水タンクを準備した。
【0037】
次に、直径約15cm×深さ約20cmの大きさの1リットル(L)ディスポカップ9個を用意し、上記各改質土A〜Cをそれぞれ3個ずつ合計9個のディスポカップ中に1Lずつ入れて、それぞれ1Lの改質土Aが入ったディスポカップ3個(A群)、それぞれ1Lの改質土Bが入ったディスポカップ3個(B群)、及びそれぞれ1Lの改質土Cが入ったディスポカップ3個(C群)を準備した。
【0038】
以上のようにして準備した上記3種の模擬汽水が入った各汽水タンク中に、上記のA群、B群、及びC群の各ディスポカップをそれぞれ1つずつ入れて、各ディスポカップを各汽水タンク中の模擬汽水内に沈設し、そのまま14日間経過した後に、各ディスポカップ内の改質土についてpH値と硬度とを調べた。この際のpH値の測定は、各汽水タンクから各ディスポカップを引き上げ、各ディスポカップについて上澄み液を除去した後、各ディスポカップ中の改質土に直径2cm×深さ3cmの大きさの穴を形成し、この穴内に浸み出してきた間隙水のpHを測定することにより行い、また、固化の現象の有無を確認する硬度の測定は、上澄み液を除去した後の各ディスポカップ中の改質土の3点について山中式硬度計を用いて行った。なお、改質土のpH値及び硬度の測定は3回繰り返して行い、その平均値を求めて測定値とした。
【0039】
この除去細粒分−塩分濃度−pH値の関係を調べた検証実験で得られた結果は
図1に示す通りであった。
この
図1から明らかなように、14日間経過後の各改質土において、塩分の低下に伴ってpHが上昇する傾向が見られた。また、塩分濃度2.56質量%の模擬汽水では改質土A〜Cの全ての検証区分でpHが9未満であり、また、塩分濃度1.6%質量%の模擬汽水では、改質土Aの検証区分でpHが9.3であったのに対して改質土B及び改質土Cの検証区分でpHが9未満であり、更に、塩分濃度0.64質量%の模擬汽水では改質土A〜Cの全ての検証区分でpHが9以上であった。
なお、模擬汽水中14日間沈設経過後の改質土の硬度については、改質土A〜Cの全ての検証区分において、山中式硬度計で計測されるほどの固化は発現していなかった。
【0040】
〔実施例1及び2、並びに比較例1及び2〕
1.汽水域アマモ場造成用の改質土の調製
浚渫土砂については三重県の汽水域で採取したものを使用した。また、鉄鋼スラグとして上記の検証実験で用いた製鋼スラグを用いた。更に、この製鋼スラグについて、バケツに製鋼スラグを入れて、そこに体積比10倍以上となるように水道水を入れて、2mm以下の細粒分を流水中で洗浄して除去し、洗浄製鋼スラグ(2-25mm)を調製した。
【0041】
上記の浚渫土砂中に上記の洗浄製鋼スラグを10体積%及び20体積%の割合で均一に混合し、実施例1の改質土(洗浄製鋼スラグ10)及び実施例2の改質土(洗浄製鋼スラグ20)を調製した。
また、上記の浚渫土砂中に上記の未処理の製鋼スラグを10体積%及び20体積%の割合で均一に混合し、比較例1の改質土(製鋼スラグ10)及び比較例2の改質土(製鋼スラグ20)を調製した。
更に、対照区として、アマモ苗の作成に用いられる培養土60体積%及び牡蠣殻40体積%からなる混合土〔対照区1の改質土(対照区)〕と、上記の浚渫土砂のみ〔対照区2の改質土(底泥区)〕とを用意し、また、参考例として、上記の浚渫土砂中に粒径0〜25mmの天然石を10体積%及び20体積%の割合で均一に混合して得られた参考例1の改質土(天然石10)及び参考例2の改質土(天然石20)を用いた。
以上の対照区、実施例、比較例、及び参考例で調製されたアマモ場造成用の改質土を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
2.汽水条件下でのアマモの発芽・生育試験
上記各対照区、実施例、比較例、及び参考例で調製された各改質土を用いて、以下のアマモの発芽・生育試験を実施した。なお、アマモの発芽・生育試験に用いたアマモの種子については、浚渫土砂の採取場所の近隣にある天然のアマモ場から採取した。
【0044】
約4Lの各改質土を長さ272mm×幅188mm×深さ79mmの大きさのプラスチック製籠の中に充填し、その表層から深さ2cmの位置に互いに等間隔になるように、アマモの種子を30粒ずつ播種した。
このようにして準備された籠を400LのFRP製水槽の底に並べ、この水槽中には、神奈川県葉山地先で採取した海水を希釈して塩分濃度2.2質量%から開始して徐々に低くし、塩分濃度1.5質量%まで低下させることにより、汽水条件を創出すると共に、水温10〜12℃、光量50〜100μmol/m
2/s、及び12時間明暗周期の条件で培養を開始し、開始日から6〜14日毎に118日目の終了日まで、各改質土の硬度をクラスト硬度計(大起理化工業製DIK−5561)で計測し、また、各改質土の間隙水を採取してpHを測定し、更に、アマモの発芽率、及び発芽後の成長(草体長)を測定した。
【0045】
各改質土の硬度については、実験終了時において、比較例2の改質土(未処理製鋼スラグ20体積%混合)で約14kPaとなり、若干の固化が認められたが、それ以外の改質土においては検出限界以下となり、ほとんど固化しないことが示された。
また、各改質土のpH値について、測定された結果を
図2に示す。この
図2から明らかなように、比較例1及び2においては、改質土のpHが9以上で推移したのに対し、それ以外の実施例1及び2、対照区1及び2、並びに参考例1及び2においては、水槽中のpHとほぼ同程度の8前後で推移していた。
【0046】
そして、実験期間中における各改質土でのアマモの発芽率(子葉出現率)を
図3に示し、また、アマモの発芽後の成長(平均子葉長)の変化を
図4に示す。
播種30日後から発芽が起こり、その後子葉が観察されるようなった。35日目には、対照区2、実施例1及び2、並びに参考例1及び2においては、発芽率が90%以上となったが、未処理製鋼スラグ10体積%の比較例1では57%であり、また、未処理製鋼スラグ20体積%の比較例2では17%に過ぎず、明らかに低下しており、改質土中のpHが影響していることが判明した。対照区1は、土中のpHが9未満であったにもかかわらず、発芽率が60%であったことについては、土中の栄養塩濃度(窒素、リン)が低かったことが、実験終了後の分析によって推察された。
【0047】
また、発芽後の成長に関しては、
図3の発芽率と同様に、対照区2、実施例1及び2、並びに参考例1及び2においてはいずれも順調に推移したが、未処理製鋼スラグ10体積%の比較例1、及び未処理製鋼スラグ20体積%の比較例2では顕著に成長が停滞した。対照区1の停滞については、発芽率の低下と同様の理由が考えられる。
なお、本試験は、流水環境での実験ではないので、浚渫土砂のみを用いた対照区2の場合と洗浄製鋼スラグ10体積%の実施例1及び洗浄製鋼スラグ20体積%の実施例2の場合とが同程度の発芽率及び成長(草体長)を示したが、波浪がある実環境では、浚渫土砂のみで形成されるアマモ場の不安定さから、対照区2の出芽率及び成長(草体長)は実施例1及び2の結果を下回るものと思われる。
【0048】
以上の結果から、実施例1及び2の改質土によれば、浚渫土砂中に混合される製鋼スラグの粒径が適度に改善され、これによって汽水域において改質土の間隙水のpH値が9未満のアルカリ域に維持され、アマモの発芽、成長に適した安定したアマモ場を造成できることが判明した。
【0049】
〔実施例3:実汽水域での試験〕
三重県志摩市の汽水域で採取した浚渫土に製鋼スラグ(0-25mm)を40質量%の割合で混合し、盛り土用材を調製した。この盛り土用材を三重県志摩市の汽水域の内湾に水深5mとなるように敷設した(面積3m×3m)。この盛り土の上に、表1に示した各試験土壌(対照区2、実施例1、比較例1)を用い、厚さ5cmになるように覆土した(各試験土壌につき面積0.5m×0.5m)。それぞれの試験土壌には50粒/m
2となるように予めアマモ種子を混合した。
【0050】
施工から3ヵ月後に、対照区2、及び実施例1においては播種した種子の8割に当たる10株の発芽が確認された。これに対し、比較例1では1株(0.8割)しか確認できなかった。
潜水調査時に覆土(各試験土壌)の一部を持ち帰り、実験室内で覆土中のpHを測定した結果、対照区2では7.6で、実施例1では8.3で、また、比較例1では9.8であった。対照区2、及び実施例1では、盛り土からのpHの影響はなく、9未満に維持されていた。一方、比較例1では、9以上となり、混合した製鋼スラグによるアルカリ影響が確認された。
盛り土周辺の水中pHは、7.8で盛り土中の製鋼スラグによるアルカリ影響が確認されなかった。また、盛り土は十分に固化しており、波浪等による損壊等は見られなかった。