(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されない。
【0018】
第1実施形態
図1は後述する巻線部4の巻軸中心4αを通過し、巻軸中心4αと平行な断面である。
図1に示すように、本発明の一実施形態におけるインダクタ素子2は、巻線部4と、コア部6と、を有する。巻線部4では、導体5がコイル状に巻回してある。コア部6は、巻線部4の内周側に位置する内周部(中芯部とも言う)6aと、巻線部4の外周側に位置する外周部6bと、を有する。巻線部4を構成する導体5とコア部6の隙間部6cには、コア部6を構成する磁性体粉および樹脂が入り込んでいる。
【0019】
巻線部4は、内周面4β1、外周面4β4、および、巻軸中心4αに沿って相互に反対側に位置する第1端面4β2および第2端面4β3を有する。
【0020】
本実施形態のインダクタ素子2は、コア部6の上面および下面がZ軸に対して略垂直であり、コア部6の側面は、X軸およびY軸を含む平面に対して略垂直となっている。また、巻線部4の巻軸はZ軸に対して略平行となっている。ただし、コア部6の形状は、
図1の形状に限定されず、円柱形、楕円柱などであっても良い。
【0021】
本実施形態のインダクタ素子2のサイズは、特に限定されないが、例えば、リード部5a,5bを除く部分が、(2〜17)mm×(2〜17)mm×(1〜7)mmの直方体または立方体に含まれるサイズである。なお、
図1では、
図2に示す巻線部4のリード部5a,5bの図示が省略してある。巻線部4を構成する導体5の両端に形成してあるリード部5a,5bは、
図1に示すコア部6の外部に取り出されるようになっている。
【0022】
巻線部4を構成する導体(導線)5には、必要に応じて外周を絶縁被覆層で被覆してある。導体5としては、たとえばCu、Al、Fe、Ag、Au、あるいはこれらの金属を含む合金などで構成してある。絶縁被覆層は、たとえばポリウレタン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエステル−イミド、ポリエステル−ナイロンなどで構成してある。導体5の横断面形状は、特に限定されず、円形、平角形状などが例示される。本実施形態では、導体5の横断面形状は円形としている。
【0023】
コア部6は、磁性粉体および樹脂(バインダ)を有する。磁性粉体の材質としては、特に限定されないが、Mn−Zn、Ni−Cu−Znなどのフェライト、Fe−Si(鉄―シリコン)、センダスト(Fe−Si−Al;鉄−シリコン−アルミニウム)、Fe−Si−Cr(鉄−シリコン−クロム)、パーマロイ(Fe−Ni)、などの金属が例示される。好ましくは、Fe−SiまたはFe−Si−Crである。磁性粉体の結晶構造には特に限定はなく、アモルファス、結晶質などが例示される。樹脂の種類としては、特に限定されないが、たとえばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコン樹脂、これらを組み合わせたものなどが例示される。
【0024】
本実施形態では、コア部6が、その内部において所定の密度差を有することに特徴がある。
【0025】
図1に示すように、内周面4β1から巻軸中心4αに向けて100μm以内である領域を巻線内周近傍領域6β1、第1端面4β2から巻軸中心4αと平行な外側方向に向けて100μm以内である領域を第1端面近傍領域6β2、第2端面4β3から巻軸中心4αと平行な外側方向に向けて100μm以内である領域を第2端面近傍領域6β3とする。巻軸中心4αから垂直な外側方向に巻線部4が存在し、巻軸中心4αから当該垂直な外側方向に向けて280μm以内である領域を中芯中央領域6αとする。
【0026】
本実施形態に係るインダクタ素子は、中芯中央領域6α全体に占める磁性粉体の面積割合をSα(%)、巻線内周近傍領域6β1全体に占める磁性粉体の面積割合をSβ1(%)とする場合に、Sα−Sβ1≧5.0%である。すなわち、コア部6の中で、巻線5に近い部分よりも巻軸中心4αに近い部分の方が磁性粉体の密度が高い。また、Sα−Sβ1は、5.4%以上としてもよい。また、Sα−Sβ1には上限はないが、通常は20%以下である。また、Sα−Sβ1は7.5%以下であってもよい。
【0027】
本実施形態に係るインダクタ素子は、コア部6の中で、巻軸中心4αに近い部分における磁性粉体の密度を、巻線5の内側であって、巻線5に近い部分における磁性粉体の密度よりも高くすることにより、クラックの発生を抑制することができる。さらに、インダクタンスおよび直流重畳特性を向上させることができる。
【0028】
本実施形態に係るインダクタ素子は、第1端面近傍領域6β2全体に占める磁性粉体の面積割合をSβ2(%)、第2端面近傍領域6β3全体に占める磁性粉体の面積割合をSβ3(%)、Sβ2とSβ3との平均をSβ4(%)とする場合に、Sα−Sβ4≧−2.0%であることが好ましい。より好ましくはSα−Sβ4≧0%であり、さらに好ましくはSα−Sβ4≧5.0%である。すなわち、本実施形態に係るインダクタ素子は、巻軸中心4αに近い部分における磁性粉体の密度が、巻線5のZ軸方向上側および下側であって、巻線5に近い部分における磁性粉体の密度と同等以上であることが好ましい。上記の構成とすることにより、クラックの発生を抑制しやすくなり、さらに、インダクタンスおよび直流重畳特性を向上させやすくすることができる。
【0029】
また、本実施形態に係るインダクタ素子は、Sα≧65%であることが好ましい。さらに、Sβ1≧60%であることが好ましく、Sβ4≧60%であることが好ましい。すなわち、磁性粉体の密度が所定量以上であることが好ましい。磁性粉体の密度を高密度とすることで、クラックの発生を抑制しやすくなり、さらに、インダクタンスおよび直流重畳特性を向上させやすくすることができる。
【0030】
磁性粉体の面積割合の測定方法には特に制限はない。例えば、インダクタ素子断面のSEM画像から目視にて面積割合を算出することができる。SEM画像の観察にはSU820(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いた。また、画像解析ソフトとしてはNanoHunter NS2K−Pro(ナノシステム株式会社製)を用いた。SEM画像から面積割合を算出する場合には、SEM画像の倍率および大きさには特に制限はない。例えば100〜180倍で480μm×560μmとすることができる。
【0031】
また、通常は、磁性粉体の面積割合は各領域内で均一であるとみなすことができる。誤差を小さくする観点から、通常は各領域内で概ね均等な配置になるように複数の測定箇所を適宜設定し、各測定箇所での磁性粉体の面積割合の測定結果を平均した結果を用いる。測定箇所の設定数は各領域の大きさや形状等によって適宜設定する。例えば、中芯中央領域および巻線内周近傍領域では、好ましくは3か所以上、さらに好ましくは5か所以上の測定箇所を各測定領域内で概ね均等な配置になるように適宜設定する。そして、各測定箇所での測定結果を平均して領域全体の測定結果とみなす。第1端面近傍領域および第2端面近傍領域では、通常は1つの測定箇所における測定結果を領域全体の測定結果とみなしてよい。
【0032】
次に、
図1に示すインダクタ素子2の製造方法について
図2および
図3を用いて説明する。
【0033】
本発明の一実施形態におけるインダクタ素子の製造方法により製造されるインダクタ素子2は、2つの予備成形体60a,60bと、空芯コイルなどで構成される巻線部4を有するインサート部材と、を一体化することにより製造される。巻線部4を構成する導体5の両端は、リード部5a,5bとして、巻線部4の外側に引き出されている。端子(図示せず)はリード部5a,5bと本圧縮後に接続してもよいし、本圧縮前に予め接続しておいてもよい。
【0034】
各予備成形体60a,60bには、それぞれ接合予定面70a,70bが形成してあり、それらが相互に突き合わされて接合される。それぞれの接合予定面70a,70bには、それぞれ巻回部4の上半部および下半分を収容するための収容凹部90a,90bが形成してある。収容凹部90a,90bの大きさは、インサート部材としての巻線部4が、その内外周および巻軸方向端部が接触して入り込める程度の大きさである。また、収容凹部90a,90bが大きくなるほど、Sβ1,Sβ2および/またはSβ3が小さくなる傾向にある。これにより、Sα−Sβ1,Sα−Sβ2および/またはSα−Sβ3を大きくしやすくなる。
【0035】
さらに、収容凹部90a,90bには、深さaの溝部および深さbの溝部が
図3に示す位置に形成されていてもよい。溝部自体は圧着により消滅するが、収容凹部90a,90bに溝部を形成することで、巻回部4の近傍が低密度化する効果がある。さらに具体的には、aが大きいほどSβ1が小さくなる傾向にあり、bが大きいほどSβ2およびSβ3が小さくなる傾向にある。
【0036】
また、いずれか一方または双方の接合予定面70a,70bには、リード部5a,5bをコア部6の外側に引き出すための引出溝80が形成してある。なお、
図2には一対のリード部5a,5bを記載しているが、
図3では一対のリード部5a,5bを省略している。
【0037】
まず、予備成形体60a,60bの原料となる顆粒を製造する。顆粒の製造方法には特に制限はない。たとえば磁性粉体に樹脂を添加し撹拌した後に乾燥させることで製造することができる。
【0038】
磁性粉体の粒径に特に制限はないが、例えば平均粒径が0.5〜50μmの磁性粉体を用いることができる。樹脂としては、特に限定されないが、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコン樹脂、これらを組み合わせたものなどが例示される。また、磁性粉体と樹脂とを混合する前に、磁性粉体表面に絶縁被膜を形成してもよい。例えば、ゾルゲル法によりSiO
2膜である絶縁被膜を形成することができる。
【0039】
また、磁性粉体に樹脂を添加し撹拌した後にメッシュを通過させることで粗大な顆粒を取り除いてもよい。また、樹脂は磁性粉体に添加する際に溶媒で希釈してもよい。溶媒としては、例えばケトン類等が用いられる。
【0040】
樹脂の含有量には特に制限はないが、磁性粉体100wt%に対して1.0〜6.0wt%含有することが好ましい。樹脂の含有量を適量とすることにより、後述する本圧縮時に接合予定面70a,70bを接合しやすくなる。また、樹脂の含有量が多いほど磁性粉体の密度が小さくなり、Sα,Sβ1,Sβ2およびSβ3が小さくなる傾向にある。
【0041】
予備成形体60a,60bは、前記磁性粉体および前記樹脂を含む顆粒を金型のキャビティ内に充填し、予備圧縮成形して製造される。予備圧縮成形時の圧力には特に制限はないが、2.5×10
2 〜1×10
3 MPa(2.5〜10t/cm
2 )とすることが好ましい。また、予備成形体60a,60bの密度には特に制限はない。たとえば、4.0〜6.5 g/cm
3であることが好ましい。
【0042】
予備圧縮成形時の圧力を2.5×10
2 〜1×10
3 MPaとすることで、後述する本圧縮後に生じる巻線部4の位置の歪みおよび/または巻線の形状の歪みを防止し、耐電圧、インダクタンスおよび直流重畳特性が全て優れたインダクタ素子を製造しやすくなる。また、予備成形体60a,60bの密度を上記の範囲内、特に4.0g/cm
3以上とすることで、上記Sα,Sβ1,Sβ2,Sβ3を高くしやすくなる。また、6.5g/cm
3以下とすることで製品の防錆効果を維持しやすくなる。これは、高密度な予備成形体が得られるように高圧で成形してしまうと前記絶縁皮膜が剥離しやすくなるためである。
【0043】
次に、得られた予備成形体60a,60bおよびインサート部材を
図2および
図3に示す態様で、予備成形体製造時とは別の金型のキャビティ内に配置し、本圧縮(圧着)を行うことでインダクタ素子2を得ることができる。本圧縮時の圧力には特に制限はないが、たとえば1×10
2〜8×10
2MPa(1〜8t/cm
2)とすることが好ましい。また、本圧縮時の圧力は予備圧縮成形時の圧力(100%)に比較して、好ましくは、40〜80%程度に低く、さらに好ましくは50〜60%程度に低い。本圧縮時の圧力を予備圧縮成形時の圧力よりも低くすることで、本圧縮後に生じる巻線部4の位置の歪みおよび/または巻線の形状の歪みを防止しやすくなり、予備圧縮成形時の圧力が本圧縮時の圧力と比べて大きいほど耐電圧特性が向上しやすい傾向にある。
【0044】
また、本圧縮後に金型から取り出したインダクタ素子2に対して加熱を行うことで樹脂を完全硬化させることが好ましい。具体的には、金型から取り出したインダクタ素子2に対して、樹脂が硬化開始する温度よりも高い温度で加熱することにより、樹脂を完全硬化させることが好ましい。
【0045】
上記の製造方法で得られるインダクタ素子2は、巻線部4の位置の歪みおよび/または巻線の形状の歪みが小さく、コア部6、特に中芯中央領域6αを高密度に形成することができる。したがって、インダクタンスおよび直流重畳特性を向上させながら耐電圧も向上させることができる。
【0046】
本実施形態では、最終的に得られるインダクタ素子2のコア部6について、均一かつ高密度で作製できる。その結果、従来のインダクタ素子よりもインダクタンスおよび直流重畳特性を向上させることができる。
【0047】
本実施形態に係るインダクタ素子2を製造する方法としては、
図2および
図3に示す方法の他、例えば、
図6に示すように、板形状の予備成形体60a1およびポット形状の予備成形体60b1を準備する方法がある。なお、予備成形体には
図2および
図3に示す方法と同様に深さaの溝部および深さbの溝部を形成してもよい。また、
図7に示すように、3個の予備成形体60e2,60h,60iを準備する方法がある。また、予備成形体の形状は
図6および
図7に示す形状でなくてもよく、最終的に得られるインダクタ素子2が
図1に示す形状となればよい。なお、予備成形体には
図2および
図3に示す方法と同様に深さaの溝部および深さbの溝部を形成してもよい。また、予備成形体の個数が多いほど直流重畳特性が向上する傾向にある。
【0048】
第2実施形態
以下、第2実施形態について
図4および
図5を用いて説明するが、第1実施形態と共通する点については説明を省略する。
【0049】
図4に示す第2実施形態のインダクタ素子2Aは、前記中芯中央領域6αおよび巻線内周近傍領域6β1を含む中芯部6a1における磁性粉体の密度が第1実施形態よりもさらに高い。この場合には、中芯中央領域6αにおける磁性粉体の面積割合Sαおよび巻線内周近傍領域6β1における磁性粉体の面積割合Sβ1が高くなる傾向にあり、第1実施形態と比較して直流重畳特性がさらに向上する傾向にある。
【0050】
第2実施形態のインダクタ素子2Aを製造する方法としては特に制限はないが、たとえば、
図5に示すように、中芯部6a1αの高さが外周部6b1αの高さよりもz1だけ高い予備成形体60a1を準備する方法がある。また、同様にして中芯部6a1βの高さが外周部6b1βの高さよりもz2だけ高い予備成形体60b1を準備する。
【0051】
そして、
図5に示すような予備成形体60a1,60b1を用いて、第1実施形態と同様な本圧縮成形を行うことで、中芯部6a1における磁性粉体の量が外周部6b1における磁性粉体の量より多くなり、中芯部6a1(中芯中央領域6αおよび巻線内周近傍領域6β1における磁性粉体の密度が第1端面近傍領域6β2および第2端面近傍領域6β3を含む外周部6b1における磁性粉体の密度より高くなる。
【0052】
なお、z1とz2との大小関係には特に制限はない。すなわち、z1>z2であってもよく、z1<z2であってもよい。さらに、z1またはz2が0でもよい。
【0053】
また、
図5に示すように、内周部6a1α,6a1βでは、Z軸方向の長さが、外周部6b1α,6b1βよりも長いため、
図4に示す中芯部6a1では、外周部6b1よりも圧縮力が強く作用して密度が高くなる。
【0054】
また、
図7に示す形状の予備成形体を用いる場合においても、本圧縮成形後に中芯部となる予備成形体における磁性粉体の密度を高くする場合には、最終的に得られるインダクタ素子は中芯部の密度が高くなり上記と同様の効果が得られる。
【0055】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0057】
実施例1
実施例1では、
図2および
図3に示す形状の予備成形体を予備圧縮成形にて作製し、その後、本圧縮を行い
図1に示す形状のインダクタ素子を得た。なお、a=0.20mm、b=0.40mmとした。
【0058】
まず、金型のキャビティ内に充填する顆粒を準備した。磁性粉末としてFe−Si合金(平均粒径25μm)を用意し、磁性粉末表面にゾルゲル法を用いたSiO
2膜である絶縁被膜を形成した。上記磁性粉末にアセトンに希釈したエポキシ樹脂を、磁性粉末全体を100重量%として3重量%加え攪拌した。撹拌した後に、250ミクロンの目開きのメッシュをパスさせ、室温で24時間乾燥させ、金型のキャビティ内に充填する顆粒を得た。
【0059】
金型のキャビティ内に前記顆粒を充填し、予備圧縮成形を行い、
図2および
図3に示す形状の予備成形体を作製した。予備圧縮成形時の圧力は400MPaとした。
【0060】
次に、作製した予備成形体およびインサート部材を、予備圧縮成形に用いた金型とは別の金型のキャビティ内に配置した。キャビティ内部に、
図2および
図3に示す2個の予備成形体と、内径4mm、高さ3mmの巻線部を有するインサート部材と、を
図2および
図3に示す態様で配置した。
【0061】
次に、
図3のZ軸方向の上下から加圧して本圧縮した。本圧縮時の成形圧力は100MPaとした。
【0062】
その後に、金型から成形体を取り出し、前記エポキシ樹脂が硬化開始する温度(110℃)よりも高い180℃で1時間の加熱処理を行い、前記エポキシ樹脂を硬化させ、表1に示す各実施例のインダクタ素子のサンプル(試料番号1〜3)を得た。得られたコア部の寸法は、縦7mm×横7mm×高さ5.4mmであった。
【0063】
このようにして得られたインダクタ素子のサンプルについて、Sα、Sβ1、Sβ2およびSβ3を測定した。具体的には、インダクタ素子断面の各測定箇所について480μm×560μmのSEM画像を観察してSα、Sβ1、Sβ2およびSβ3を算出した。Sαについては、中芯中央領域を巻軸中心と平行な方向に沿って6等分し、各部分について、1か所ずつ、合計6か所の測定箇所を設定した。Sβ1については、巻線内周近傍領域を巻軸中心と平行な方向に沿って6等分し、各部分について1か所ずつ、合計6か所の測定箇所を設定した。Sβ2およびSβ3については各近傍領域について1か所ずつ、測定箇所を設定した。そして、各測定箇所における磁性粉体の面積割合を算出して、平均することにより、Sα、Sβ1、Sβ2およびSβ3を算出し、さらにSβ2とSβ3とを平均してSβ4を算出した。Sα、Sβ1、Sβ2、Sβ3、Sα−Sβ1およびSα−Sβ4を、各測定箇所における磁性粉体の面積割合と合せて表1に示す。
【0064】
さらに、各インダクタ素子のサンプルのクラック発生について評価を行った。さらに、インダクタンスL
0および直流重畳特性を測定した。結果を表2に示す。
【0065】
インダクタンスL
0の測定は、測定周波数100KHz、測定電圧0.5mVで、LCRメータ(ヒューレットパッカード(株)製)を用いて行った。インダクタンスL
0は37.6〜56.4μHを良好とした。
【0066】
直流重畳特性の測定は、各インダクタ素子のサンプルに直流電流を0から印加していき、電流0の時のインダクタンス(μH)に対して、70%に低下する時に流れる電流の値(アンペア)をIsat(A)とし、Isatの数値で評価した。Isatが3.6A以上の場合に直流重畳特性が良好であり、5.0A以上の場合にさらに良好であるとした。
【0067】
クラック発生の評価については、各インダクタ素子のサンプルを85℃、85%RHの高温高湿下に500時間放置した後に、直流電流を0から印加していき、クラックが発生した時に流れる電流の値をIcr(A)とした。
【0068】
そして、Icr−Isat>0Aの場合にクラック抑制効果が良好であるとし、Icr−Isat>1.0Aの場合にクラック抑制効果がさらに良好であるとした。表2のクラック評価欄では、Icr−Isat>1.0Aの場合を○、0A<Icr−Isat≦1.0Aの場合を△、Icr−Isat≦0Aの場合を×とした。
【0069】
さらに、実施例1のインダクタ素子のサンプルについて、断面写真を撮影した。結果を
図9に示す。さらに、実施例1の中芯中央領域のSEM画像を
図12に示す。
【0070】
比較例1
比較例1では、実施例1と同様に顆粒を作製したのちに、本圧縮用の金型のキャビティにインサート部材を配置し、顆粒を充填させ、予備圧縮成形なしで本圧縮を行った。予備圧縮成形なしで本圧縮を行った点以外は実施例1と同様にしてインダクタ素子を作製した。結果を表1および表2に示す。ただし、比較例1では、予備圧縮成形を行わなかったために空芯コイルが変形した結果、実施例1とは異なり巻線内部近傍領域における密度を6ヶ所測定できなかった。そのため、巻線内部近傍領域における密度の測定箇所を5か所とした。さらに、比較例1の中芯中央領域のSEM画像を
図13に示す。
【0071】
さらに、比較例1のインダクタ素子のサンプルについて、断面写真を撮影した。結果を
図9に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
表1、
図12,
図13より、本願実施例1は、中芯中央領域の密度が巻線内部中央領域の密度より高い。さらに、第1端面近傍領域の密度および第2端面近傍領域の密度の平均密度と比較しても、中芯中心部の密度が高い。これに対し、本願比較例1は、巻線内部中央領域の密度および中芯中央領域の密度が同等程度である。さらに、第1端面近傍領域の密度および第2端面近傍領域の密度の平均密度と比較する場合に、中芯中央領域の密度が低い。さらに、
図8および
図9を比較すれば、本願実施例1のインダクタ素子は本願比較例1のインダクタ素子と比較して歪みが小さい。
【0075】
また、表1および表2より、本願実施例1のインダクタ素子は、特に巻線内周近傍領域における磁性粉末の面積割合のバラツキが小さいことが分かる。すなわち、本願実施例1のインダクタ素子は、巻線内周近傍領域における磁性粉末の密度のバラツキが小さくなり、特性のバラツキが小さくなる。
【0076】
さらに、表1および表2より、Sα−Sβ1が5.0%以上である本願実施例1は、Sα−Sβ1が5.0%未満である本願比較例1と比較してクラック抑制効果が大きい。また、Sα−Sβ4が5.0%以上である本願実施例1は、Sα−Sβ4が−2.0%未満である本願比較例と比較して、例えば、150℃の高温放置試験前後のインダクタンス変化率が小さく優れている。本願実施例1はコイル周辺の密度が低く、コイルの歪曲が小さいためにインダクタンス変化率が小さくなると考えられる。さらにSαが65%以上である本願実施例1は、Sαが65%未満である本願比較例1と比較してIsatが高く、直流重畳特性が優れている。
【0077】
実施例2〜5
実施例2〜5では、実施例1からaおよびbを変化させ、材料充填率を制御することにより、Sα−Sβ1が5.0%以上となる範囲でSα,Sβ1,Sβ2,Sβ3およびSβ4を変化させた実施例である。
【0078】
具体的には、実施例2および実施例3では、aおよびbを実施例1より小さくした。実施例4および実施例5では、aおよびbを実施例1より小さくし、さらに、顆粒の充填率を低下させた。結果を表2に示す。実施例2〜5はいずれもSα−Sβ1が5.0%以上であり、クラック抑制効果が大きかった。
【0079】
また、Sα−Sβ4≧−2.0%である実施例1〜3および5はSα−Sβ4<−2.0%である実施例4と比較してクラック抑制効果が大きかった。さらに、Sα−Sβ4≧0%である実施例1,2および5はSα−Sβ4<0%である実施例3と比較してさらにクラック抑制効果が大きかった。
【0080】
実施例11および比較例11
磁性粉末としてFe−Si−Cr合金(平均粒径25μm)を用意した点以外は実施例1と同条件で実施例11を、比較例1と同条件で比較例11を、それぞれ作成した。結果を表2に示す。また、実施例11のインダクタ素子のサンプルについて、断面写真を撮影した。結果を
図10に示す。比較例11のインダクタ素子のサンプルについて、断面写真を撮影した。結果を
図11に示す。さらに、実施例11の中芯中央領域のSEM画像を
図14に、比較例11の中芯中央領域のSEM画像を
図15に示す。
【0081】
実施例11および比較例11より、磁性粉末の種類がFe−Si−Cr合金である場合においても、磁性粉末の種類がFe−Si合金の場合と同様の傾向を示した。
【0082】
実施例21
実施例21では、予備成形体の形状を
図5に示す形状に変更した点以外は実施例1と同条件でインダクタ素子を作成した。なお、z1=z2=800μmとした。結果を表2に示す。
【0083】
表2より、予備成形体の形状を
図5に示す形状とした実施例21は、実施例1と比較してSαおよびSβ1がさらに大きくなり、Sα−Sβ4もさらに大きくなった。その結果、直流重畳特性がさらに向上した。