(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パーム椰子樹木からパーム油を得るパーム油生産プロセスと、パーム椰子樹木からリサイクル原料を得る分別プロセスと、前記リサイクル原料からバイオマス半炭化物およびバイオエタノールを製造する半炭化プロセスと、前記パーム油生産プロセスで生じた排出物を用いてメタンを生成し、前記バイオエタノールとともに水蒸気改質によって水素を得る水素製造プロセスと、を有し、
前記水素製造プロセスは、前記パーム油生産プロセスで生じた排出物を用いて生成した再生エネルギーを稼働エネルギー源として用いることを特徴とするバイオマス資源を用いた水素の製造方法。
前記水蒸気改質水素生成工程は、前記バイオエタノールガスおよび前記メタンを前記水蒸気と反応させる反応工程、前記反応工程によって生じた水素と一酸化炭素および二酸化炭素とを分離する分離工程、を少なくとも含むことを特徴とする請求項2記載のバイオマス資源を用いた水素の製造方法。
前記半炭化プロセスは、前記バイオマス半炭化物を圧縮成形してペレット化して固形バイオマス燃料を得る圧縮成形工程を更に備えていることを特徴とする請求項2または3記載のバイオマス資源を用いた水素の製造方法。
褐炭を乾燥する褐炭乾燥工程と、乾燥後の前記褐炭を粉砕して粉状褐炭を得る褐炭粉砕工程と、前記粉状褐炭から一酸化炭素を発生させる第2ガス化工程とを含むバイオマス改質炭製造プロセスを更に備え、
前記一酸化炭素を前記水蒸気改質水素生成工程に更に加えることを特徴とする請求項2ないし4いずれか一項記載のバイオマス資源を用いた水素の製造方法。
前記エネルギー生成工程で得られた電力ないし熱エネルギーを、前記水蒸気改質水素生成工程の稼働エネルギー源として用いることを特徴とする請求項2ないし5いずれか一項記載のバイオマス資源を用いた水素の製造方法。
前記水素製造プロセスは、前記エネルギー生成工程で得られた電力を用いて水を電気分解する水電解法によって水素を生成する水電解水素生成工程を更に備えたことを特徴とする請求項2ないし6いずれか一項記載のバイオマス資源を用いた水素の製造方法。
前記パーム枝葉として、パーム葉が生える葉部および該葉部よりも果房側を成す葉柄のうち、葉柄を用いることを特徴とする請求項2ないし7いずれか一項記載のバイオマス資源を用いた水素の製造方法。
前記搾汁工程には、前記パーム枝葉に加えて、更に前記パーム椰子樹木の樹幹が供給されることを特徴とする請求項2ないし8いずれか一項記載のバイオマス資源を用いた水素の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず始めに、本発明の技術的背景について説明する。
再生可能エネルギーの利用法として、Power to Gas(PTG)とは、再生可能エネルギーで得た大量の余剰電力を水素やメタンに変換して貯蔵、輸送する技術の事である。ここで、再生可能エネルギーとは、自然の活動によってエネルギー源が絶えず再生され、半永久的に供給され、継続して利用できるエネルギーであり、有限の資源である化石燃料などに代わる新エネルギー(中小水力・地熱・太陽光・太陽熱・風力・雪氷熱・温度差・バイオマスなど)、大規模水力、波力・海洋温度差熱などのエネルギーを意味している。再生可能エネルギーは、エネルギー変換効率やコスト、需給バランスなどの課題も残されているが、温室効果ガスを排出することなくエネルギーを得られるため、地球温暖化対策の一つとしても重要視されている。
【0024】
再生可能エネルギーの分野において、最も急を要する責務の1つが、太陽や風力のような変動するエネルギー資源から得られた電力の貯蔵に関する課題を解消することである。上述したPTG技術のコンセプトは、非常に前途有望な取り組みとして発展してきた。世界中に多数のプロジェクトがあり、それらのいくつかはパイロット段階を終了し、商業運転へと向かっている。PTG技術の原理は極めて単純であり、再生可能エネルギーからの電力は、電気的に水を水素と酸素に分解するために使用される。
【0025】
そして、得られた水素は、電気に変えることも燃料として直接使用することもできる。電力の水素への転換には、ある程度のエネルギー損失があるが、1つの目的のためには有効である。再生可能エネルギーからの電力をエネルギーの豊富な水素として貯蔵できることであり、必要に応じて炭素によってメタンガスを得ることも可能である。ある程度までの輸送と貯蔵には、既存のガスインフラが利用可能である。
【0026】
例えば、世界で最も大きな6メガワットの最大生産能力を持つメタン化施設は、ドイツ北部のWerlteにおいて2013年中旬から運転に入った。この施設では、ドイツの自動車メーカーのアウディ社が、水ではなく年間11万トンのスラリーと食品廃棄物をメタンに転換することを支援している。メタン化プロセスに必要なエネルギーには、北海の洋上風力発電所で発生する過剰電力が使用される。
【0027】
また、アウディ社は、バイオガス施設によって生成されるガス中成分の二酸化炭素をメタンに変える施設を建設している。このバイオガス施設自体は地域のユーティリティ企業であるEWE社の施設であり、施設稼働のための原材料は半径150km以内から得られるとしている。この施設では、有機物を約3分の2のメタンと3分の1の二酸化炭素から構成されるバイオガスに転換する。それから、多数のプロセスを経て得られたバイオガスから二酸化炭素を吸着する活性炭中を通過させて二酸化炭素が除去される。次の段階では二酸化炭素は低い圧力で脱着されメタン化施設に送られる。そして、CO
2+4H
2→CH
4+2H
2Oのプロセスよって水素からメタンが生成される。
【0028】
他にもPTGの既存技術としては、ガス液化(GTL)、バイオマス液化(BTL)、石炭液化(CTL)、ジメチルエーテル(DME)化、代替天然ガス(SNG)化などが挙げられる。
【0029】
このうち、バイオマス液化(BTL)は「Biomass To Liquid」の略称であり、バイオマス(生物資源)を液化してつくる燃料をさす。木材などの有機物を加熱してガスにし、そこに含まれる水素と一酸化炭素から液体燃料を合成する。木材や紙、廃プラスチック、食品廃棄物、汚泥などほぼすべての有機物を原料にできるのが特徴である。
BTLは食用と競合しないほか、(1)自動車やボイラーの燃料などに幅広く使える、(2)燃やしても硫黄分の発生が少ない、(3)液体のため貯蔵が容易、などの利点を持つ。しかし量産技術が障害となり、一般的な普及には至っていない。
【0030】
従来、バイオ燃料では、サトウキビやトウモロコシを発酵させるバイオエタノールの利用が先行してきた。日本では2007年度に給油所でガソリンに混ぜて販売する実証事業が始まり、政府は東日本大震災前のエネルギー基本計画で2020年までにガソリン需要の3%相当を賄う目標を掲げた。ただ大半はブラジルからの輸入であり、安定確保には課題も多いとされる。
【0031】
バイオエタノールに次に挙げられるのが、菜種やヒマワリの種などからつくるバイオディーゼル燃料である。ディーゼル車の普及率が高い欧州が技術開発でリードしているが、原料植物の生産量に限界があり、バイオディーゼル燃料も安定確保には課題が多いとされている。
【0032】
一方、水素エネルギーは幅広いエネルギー源から生産することが可能であり、燃焼しても水しか生成しないという特性から、持続可能な社会におけるエネルギーシステムに用いられる2次エネルギーとして期待され、様々な技術開発が進められている。
【0033】
1次エネルギーから水素を生産するにあたって、既存の化石燃料や原子力からの水素生産は燃料改質や大規模な水の電気分解を用いて比較的容易に行えるが、再生可能エネルギーである太陽エネルギーや風力エネルギーからの水素生産は、規模が小さいこと、エネルギー出力の変動があることなどのために必ずしも安価かつ効率的な生産ができる状況にはなっていない。
【0034】
これに対してバイオマスは再生可能エネルギーとして安定したエネルギー変換が可能であるため、再生可能エネルギーの中でも比較的安定に水素生産が行える利点がある。現在、日本における1次エネルギー供給量の中で再生可能エネルギーの占める割合は1%に過ぎないが、その大部分はバイオマスによって供給されており、バイオマスからの水素生産は、インパクトの大きな再生可能水素源として期待されている。
【0035】
バイオマスから水素を生産するには、バイオマスをガス化し、生成した可燃性ガスを改質する手法が最も多く用いられる。バイオマスのガス化によって生成するガスは、ガス化の手法によってさまざまではあるが、主に水素、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素のいくつかを主成分とする。メタンの改質による水素の生成は以下の反応による。
(1)CH
4+H
2O→3H
2+CO
(2)CO+H
2O→H
2+CO
2
こうした反応によって、メタンを容易に水素と二酸化炭素に変換することができるため、ガスの形に変換できれば、水素を得ることは難しくない。よって、バイオマスから水素を得るためには、如何に効率よくガス化を行うかが重要となる。生成ガスの改質と比較して、バイオマスのガス化技術そのものには開発課題もあり、多くの研究が進められている。
【0036】
バイオマスの代表的なガス化技術は、熱化学的ガス化と生物化学的ガス化に大別される。前者はバイオマスに熱をかけて熱分解や部分酸化、加水分解などの化学反応を進行させるものであり、迅速かつ比較的完全にガス化が進行する特徴を有する。高温ガス化、超臨界水ガス化が相当する。
後者はバイオマスに微生物を作用させて発酵の作用によってガスへの変換を進めるものであり、生物作用であるために時間がかかり、また完全なガス化は難しいが、比較的穏和な条件で実現できる利点を有する。メタン発酵、水素発酵が該当する。
【0037】
一方、水素生成には石炭を用いることもできる。石炭は他の化石燃料に比べて可採年数が長く、世界各国に幅広く分布する等、供給安定性が高く経済性に優れているという特徴を有している。一方で有限な可採埋蔵量のうち約半分は、ほとんど利用されていない褐炭に代表される低品位炭である。こうした石炭を用いて、高濃度CO条件でのメタネーション技術開発及び代替天然ガス(SNG)の高カロリー化技術が開発されている。これにより、褐炭等の低品位炭をガス化した既存技術よりも効率的に利便性の高いSNG(メタン、エタン、プロパン等)へ変換し、低品位炭の有効利用を図ることができるとされている。
【0038】
水素製造の一例として水蒸気改質法が挙げられる。しかしながら、天然ガスやナフサを用いた水蒸気改質は大きな吸熱反応であるために, 触媒や改質管にとって過酷な900℃以上の高温を必要としている。また、反応温度を維持するために大量の原料炭化水素の燃焼および触媒上への炭素質の析出を防ぐために過剰な水蒸気を使用しており,極めて多量のエネルギーを消費している。更に、反応、燃焼生成物としての二酸化炭素と燃焼時に発生する窒素酸化物が多量に放出される。例えば、天然ガスを原料とした場合、煙道ガスとして排出される二酸化炭素の量は水素1m
3あたり約0.9kgにも達している。最近の環境問題と関連して,クリーンエネルギーとしての水素が脚光を浴びているが,水素製造プロセスがこのような環境汚染プロセスを含むことは大きな課題とされている。
【0039】
現行の水蒸気改質プロセスは,触媒のみならず脱硫技術や改質管材料の格段の進歩によって高圧化と大型化を可能としており,近年ではもはや技術革新はないものと考えられていたが、最近、水素の需要拡大、高品位化、高効率化および環境対策のため、環境調和型の水素製造法に関する研究も行われている。また,最近では、半導体、電子産業や燃料電池などの比較的小規模なプラントでの水素の需要も増加しつつあることから、触媒に要求される本来の定常性能のほかに,頻繁な起動や停止(DSS運転)対応する機械的強度の維持や負荷追従性が良いことが要求されている。
【0040】
炭化水素の水蒸気改質は以下によって行われる。
(1)C
nH
m+nH
2O→nCO+(n+m/2)H
2
(2)CO+H
2O→CO
2+H
2
(3)CO+3H
2→CH
4+H
2O
炭化水素は水蒸気と反応して直ちに一酸化炭素と水素,つまり合成ガスに転化する。そして、引き続き(2)の水性ガスシフト反応が起こり、また一酸化炭素と水素の一部は(3)のメタネーション反応で消費される。
(2)と(3)の反応は熱力学的平衡に達しているので,最終的な生成ガスの組成は原料の炭化水素の種類に依存せず、反応温度(触媒層出口温度)、圧力,および水蒸気モル数と原料の炭素原子数の比(水蒸気/カーボン比)によって決まる。水蒸気改質は(2)の水性ガスシフト反応以外は大きな吸熱反応であるために、触媒にとって過酷な900℃以上の高温を必要とすること、この高温のために物質移動と熱移動の大きな制約を受けていること、用いられる改質管の使用条件が金属学的に限界に近いことが特徴である。現行の天然ガスやナフサを原料とする大型水素製造装置は1960年代に相次いで建設されたICI法やトプソ法を基礎とするものである。原料としての重質ナフサの使用、30kg/cm
2以上の高圧運転、200万Nm
3/日の製造規模を可能としたこれらのプロセスは、優れた触媒の開発だけではなく、反応管に使用する金属材料の進歩や原料炭化水素の脱硫技術の進歩により実現されている。
【0041】
以上のような背景を踏まえて、本発明では、パーム産業由来の未利用バイオマス資源を、再生可能エネルギーによりバイオエタノールやメタンを生成し、これを用いてカーボンニュートラルな水素を製造する。本発明は、以下の目的を含む。
(1)パーム椰子産業における未利用バイオマス資源の有効的な活用。
(2)パーム椰子産業における未利用バイオマス資源由来の液体燃料の製造。
(3)パーム椰子産業における未利用バイオマス資源由来のガス燃料の製造。
(4)パーム椰子産業における未利用バイオマス資源由来のカーボンニュートラルな炭化固形燃料の製造。
(5)パーム椰子産業における未利用バイオマス資源由来のカーボンニュートラルな炭化固形物と低品位炭(褐炭)の混合によるバイオマス改質炭の製造。
(6)持続的生産可能なパーム椰子産業における未利用バイオマス資源利用による環境に悪影響を与えないバイオ燃料の製造。
(7)パーム椰子産業における未利用バイオマス資源由来のOPF・OPT搾汁液を原料とした高糖分食物原料の製造。
(8)パーム椰子産業における未利用バイオマス資源由来エネルギー創生による炭酸ガス低減と地球環境の保全。
(9)化石資源(石炭・石油)代替の為のバイオマスのエネルギー利用最適システムの構築。
(10)パーム椰子産業における、搾油工場と、エネルギー供給工場(会社)の分離が可能となり、搾油工場にとっては、エネルギー製造の手間が無くなり パーム油生産に特化出来、エネルギー供給工場は、安価なバイオマス資源の安定的入手が可能となる。
(11)LPGに類似したDME(ジメチルエーテル)の合成を可能にする。
(12)1つのプラントで、ガス液化(GTL)、バイオマス液化(BTL)、石炭液化(CTL)を可能にする(但し、石炭液化(CTL)は、パーム椰子産業と石炭産出地が同一地域に存在する事が条件)。
(13)本システムは、各技術要素として確立されたものを用いた独自のシステム構築であり、経済性の高いエネルギー生産技術の提供出来る。
(14)パーム椰子産業が存在する国や地域と日本の双方にメリットのある相互補完性の高い、全く新しいエネルギー生産技術の提供。
(15)パーム椰子産業と低品位炭(主に褐炭)産出地が同一地域に存在する国でのパーム椰子産業と石炭産業との融合。
(16)製造したバイオマス燃料、バイオマス改質炭を既存のインフラをそのまま利用して環境特性の優れたクリーンシステムを実現。
【0042】
最近の環境問題の高まりからクリーンエネルギーとしての水素への期待が大きくなっている。しかし、水素の製造方法に関して、減圧残油や石油の部分酸化による水素の製造コストは水蒸気改質に比べてかなり高く、また熱化学法,光化学法,あるいは太陽発電と水の電気分解による水素の製造は、将来見込まれる技術の大幅な進歩を考慮しでも、まだ解決すべき課題が多い。このため、近将来的には炭化水素を原料とする水蒸気改質によって水素を製造せざるを得ないと見込まれることから、より一層の省エネルギー化と放出物質の低減を目指した技術開発が求められている。
【0043】
本発明では、再生可能エネルギーで得た大量の余剰電力やエネルギーを利用してパーム産業由来の未利用バイオマス資源と低品位炭から、バイオエタノールやメタン製造し、これを水素に改質する包括的なプロセスに基づく発明を提供する。
本発明では、原材料としてPOME、搾汁液、褐炭を本発明の製造方法で入手する。 また、製造に必要なエネルギー(電気・蒸気・熱エネルギー)を本発明の製造方法で入手する。 よってエネルギーコストはパーム産業由来のバイオマス資源が主体であり、極めて安価にバイオエタノールやメタン製造し、これを用いて水素を製造できる。
本発明の最適な環境としては、インドネシアとマレーシアが挙げられる。特にインドネシアでは、低品位炭(主に褐炭)とパーム産業由来の未利用バイオマス資源の両方が世界で唯一、大量に存在している。独立したエネルギー会社と、既存パーム搾油工場・パーム農園、既存石炭産業とが共生する事を可能にする。
【0044】
再生可能なエネルギー、即ち自然の活動によってエネルギー源が絶えず再生され、半永久的に供給され、継続して利用できるエネルギーは、パーム椰子産業中に半永久的に大量に存在する。石炭が同一地域で入手できる環境があれば、低品位炭(主に褐炭)に関しても環境負荷の少ないバイオマス改質炭・液体燃料等が同時に安定的に製造可能となる。
【0045】
基本的技術は製造エネルギーコストを考慮しなければ殆ど確立されており、この製造エネルギーコスト低減が、本発明のプロセスにおいて解決可能となる。また、パーム産業由来の未利用バイオマス資源を利用したプロセスであり、カーボンニュートラルが達成可能で、電力、水蒸気、熱エネルギー、バイオエタノール、水素、バイオマス半炭化ペレットなどを製造できる。
【0046】
標準的なバームオイル搾油工場と農場から発生する、製品以外のバイオマスエネルギー総量は7MW程度であり、バームオイル搾油工場で使用するエネルギーは約1MW、即ち6MWが新エネルギー工場のインプットとなり得る。更に、近隣50km圏内のバームオイル搾油工場(約20)とパーム椰子農園(約20工場分)から、POMEを除く、EFB、PKS、OPT、OPFを入手すると、大よそ4MW×20倍=80MWがエネルギー会社の入手可能なエネルギーとなる。
【0047】
本発明は、世界のパームオイル産業約85%を占める、マレーシア、インドネシアの2国において、
(a)安価で安定的な、未利用バイオマス資源の存在、
(b)安価で安定的で再生可能エネルギーである、バイオマス燃料の存在、
(c)確立した既存技術の存在(エネルギーコストに課題がある安定的な技術を含む)(d)広大な用地確保がしかも低価格で使用可能な事、
(e)恒温で、雨量が多い地域で水の確保が容易なこと、
(f)既存パーム産業で確立された産業ユーティリティ、例えば 輸送用道路、港湾設備等の存在、
(g)特にインドネシアでは豊富な埋蔵量の低品位炭(主に褐炭)の存在、
などの好適な諸条件が満たされている。
【0048】
[1]化石燃料改質、低品位炭(主に褐炭)からの水素化
低品位炭(主に褐炭)を乾燥、粉砕した状態、即ち、水分が減少し、かつ揮発分比率が高くなった原料炭は、既存製造技術での水素製造プロセスでの原料としての問題は無く、また、必要エネルギー源として、パーム産業由来の未利用バイオマス資源を使用する事により、水素製造が極めて経済的により優位となる。
(1−1)石炭の持つ水素量:
一般的には石炭は、有機質部分と無機質部分から構成されている。各種の化石燃料中には水素が含まれているが、石炭の水素含有量(重量ベース)は石油の約1/3、天然ガスの約1/5となっている。概略値として、化石燃料の賦存量の値を基に燃料種別の水素賦存量を計算すると、かなりの量の水素が石炭として地球に賦存されていることになる。
(1−2)石炭から水素製造プロセス:
石炭から水素を製造するプロセスとしては、石炭をガス化し、精製後に天然ガスからの水素製造と同様な工程で水素系燃料を得る間接ガス化プロセスが挙げられる。なお、石炭を乾留した場合でも、石炭中の揮発分がガスとして得られ水素源とすることができるが、石炭中の未反応炭素分が多く残る。
(1−3)石炭のガス化プロセス:
石炭から水素を生成させる方法としては、工業的に行われているのは、ガス化である。ガス化炉では、高温により石炭の熱分解(大きな石炭分子が小さな分子に転換する事)が行われ、炭素に酸素、水蒸気が反応してガス化される基本反応は、以下の通りである。
(a)石炭の熱分解→CH
4+C
(b)C+O
2→CO
2 +97.0(kcal/mol)
(c)C+1/2O
2→CO +29.4(kcal/mol)
(d)C+CO
2→2CO +38.2(kcal/mol)
(e)C+H
2O→CO+H
2 −31.4(kcal/mol)
(f)C+2H
2O→CO
2+2H
2 −18.2(kcal/mol)
(g)CO+H
2O→CO
2+H
2 +10.0(kcal/mol)
一般的にガス化の温度が低い場合(800〜900℃以下)の場合には、タール分の発生が多くなるが、高温ガス化(千数百℃以上)でガス化する場合には、最終的な可燃成分として、CO、H
2と若干のCH
4が生成される。
石炭ガス化炉では、上述の反応によりCO、H
2が主成分のガスが生成され、石炭中の灰分は固形物として除去される。また、プロセスにより一部の未燃炭素は、系外へ抜き出される。
【0049】
[2]バイオマス資源POMEの水素化:
既存パームオイル搾油工場排水であるパーム椰子排水(POME)からメタンガスを得る事は、例えば、マレーシア、インドネシアでは10例以上が稼働中である。しかし、そのメタンガスは、ガス発電、若しくは単純焼却され、POMEから水素製造の事例は知られていない。既に確立された水素製造方法である水蒸気改質法は 現段階では製造コストが高く、故にPOME発生地では発生するメタンガスを、現地消費する方法が経済的な選択となっている。
【0050】
マレーシア、インドネシア以外のほとんどの国では、パーム油製造産業が無い為、POMEの発生がほとんどなく、他の未利用バイオマス資源も安易に入手できる環境に無い為、バイオマス資源から水素を製造することは経済的ではない。 POMEからのメタンガスを原料とし、水素改質に必要なエネルギーは、パーム産業由来の未利用バイオマス資源を使用する事により、水蒸気改質法による水素製造が経済的に有利となる。 こうして得られた水素は世界市場に向けて供給可能となる。水素は利用時にCO
2を発生しないという優位性がある事に加え、製造工程もCO
2フリーとなる。水素及びバイオエタノール、メタンガスを燃料とした輸送手段が加われば、全くのCO
2フリーの水素エネルギーとなる。
【0051】
また、メタンガスよりメタノールを製造することも確立された技術が存在するが、同様に現地では製造コストの課題があり、実機ベースでは無いと思われる。これも必要エネルギーをパーム産業由来の未利用バイオマス資源を使用する事により、メタン製造が経済的に有利となる。
【0052】
前述のように石炭から合成する水素系燃料は、石炭のガス化、ガス精製プロセスが必要なため、所要エネルギー及び所要設備が多くなる。一般的に、石炭からの年産100万トン規模のガス液化(GTL)製造と天然ガスからのガス液化(GTL)を比較すると、エネルギー効率、経済性ともに現状では天然ガスからのGTLに対して劣る事となる。
【0053】
しかしながら、将来的な原料価格の変動、技術革新による設備費の低減等を考慮すると、石炭からのGTL製造が経済性ベースで実現する可能性もある。資源量の観点から、石炭には他の化石燃料と比較しでも遜色無い水素エネルギーが含まれている。 また、石炭のガス化、精製を行うことにより、燃料電池等に使用可能な実用燃料への転換も技術的には可能と考えられる。 しかし、現時点では、天然ガス等からの水素系燃料と比較すると、ガス化、ガス精製での設備点数が多いため、エネルギー効率及び経済性の面で必ずしも優位にあるとはいえない。よって、石炭からの水素製造は、今後の転換プロセスの技術開発及びエネルギー価格動向により位置づけが定まると考えられる。
【0054】
以上を纏めると以下のとおりである。
[条件]
(1)パーム産業由来の未利用バイオマス資源(POME、OPF、OPT、EFB、PKS)が存在している。
(2)既存パーム産業と高付価値バイオマス混合燃料製造との複合生産システムが可能な状況がある。
(3)POME:未利用排水,現状無価値物、OPF・OPT:未利用バイオマス,現状無価値、EFB:未利用バイオマス,現状無価値、PKS:自家消費は約20%その他は売却。
(4)パーム椰子産業の持つ、広大な敷地(工場用地のコストが極めて低い)がある。
(5)パーム椰子産業の持つ利用可能ロジスティックス(新規開発の必要なし)。
[手段]
(1)既存技術(低品位炭(褐炭)乾燥粉砕物製造、水蒸気改質法による水素製造等)を利用する。
(2)パーム産業の主要国であるインドネシアは、低品位炭の産出国であり、その両条件を備えたところであるからこその、複合生産システムが可能となる。
(3)既存パームオイル搾油工場、新規の高付加価値バイオマス燃料製造工場、および近くにある低品位炭(褐炭)の産炭地での利用技術、パーム由来未利用バイオマス資源からの必要エネルギー製造の要素を組合せる事によって初めて可能になる経済的な水素製造の複合的生産技術となる。
【0055】
[3]パーム産業由来の未利用バイオマス資源であるOPF、OPT樹液の水素化:
パーム古木(OPT)・パーム枝葉(OPF)を搾汁した搾汁液は糖分が多く含まれるため、発酵によりバイオエタノール・メタンガス製造が可能な事はJIRCAS(国立研究開発法人 国際農林水産研究センター)等で実証済みである。 世界のパーム椰子産業の主要国であるマレーシア、インドネシアでは パーム古木(OPT)の利用(外皮利用を除く)は、入荷の安定性と製作コストが経済的でないため大きくは進んでいない。パーム枝葉(OPT)は、事業規模での実施例は無く、また、マレーシア、インドネシア以外の国では、パーム椰子産業は大規模化されておらず、バイオマス資源利用によるエネルギー変換、特に水素生成は経済的ではなかった。
【0056】
パーム古木(OPT)・パーム枝葉(OPF)の搾汁液からのメタン発酵で得られるメタンガスを原料とし、ガス改質に必要なエネルギーは、パーム産業由来の未利用バイオマス資源を使用する事により、水素製造の一般的な方法である、水蒸気改質法による水素製造が経済的に有利となる。生産された水素は世界市場に供給可能。また、メタンガスよりメタノール製造も確立された既存技術が存在するが、製造コストの課題があり、実機ベースでは経済的な課題が大きいと推測される。本発明では、必要エネルギーをパーム産業由来の未利用バイオマス資源を使用する事により、メタノール製造が経済的に有利となる。
水素は利用時にCO
2を発生しないという優位性がある事に加え、製造工程もCO
2フリーとなる。水素及びバイオエタノール、メタンガスを燃料とした輸送手段が加われば、全くのCO
2フリーの水素エネルギーとなる。
【0057】
以上を纏めると以下のとおりである。
[条件]
(1)パーム産業由来の未利用バイオマス資源(POME、OPF、OPT、EFB、PKS)が存在している。
(2)既存パーム産業との複合生産システムが可能な状況が存在する。
(3)POME:未利用排水,現状無価値物、OPT・OPF:未利用バイオマス,現状無価値、EFB:未利用バイオマス,現状無価値、PKS:自家消費は約20%その他は売却。
(4)パーム産業の持つ、広大な敷地(工場用地のコストが極めて低い)が存在する。
(5)パーム産業の持つ利用可能ロジスティックス(新規開発の必要なし)が存在する。
[手段]
(1)既存技術(OPT・OPF搾汁液からのバイオエタノール製造、水蒸気改質法による水素製造等)が利用可能。
(2)既存のパームオイル搾油工場があり、且つ、パーム産業由来の未利用バイオマス資源と再生可能エネルギーを利用した、水素製造する複合的生産技術で可能になる。
【0058】
本発明のパーム産業由来の未利用バイオマス資源を用いた水素の製造方法によって、以下のようなことを実現する。
(1)POMEからのメタンガス発生を有効利用出来して、地球温暖化ガスの発生を抑制する。
(2)POMEから得られたメタンガスを用いて水素を製造する、エネルギーコスト、輸送コスト、設備建設コスト等が抑えられるため、今までに成し得なかった低コストでの水素製造を可能にする。
(3)パーム産業由来の未利用バイオマス資源の腐敗によって大気中に放出されていたメタンガス等を有効利用する事で、地球温暖化ガスの発生を抑制する。
(4)パーム産業由来の未利用バイオマス資源と再生可能エネルギーを利用しての水素製造によってCO
2削減効果を得る。
(5)OPT・OPF搾汁液からの水素製造も上述したCO
2削減効果に置き換えられる。
(6)低品位炭(主に褐炭)の利用用途を拡大する。
(7)そのままでは輸出が困難である低品位炭(主に褐炭)を水素に変換するため現状と異なるエネルギーの移動が可能となる。バイオエタノールもまた同様である。
(8)低品位炭(主に褐炭)からの水素製造コストを本発明の枠組みにより大きく低減する。
(9)低品位炭(主に褐炭)から水素を製造するエネルギーが全てバイオマス由来の再生可能エネルギーでまかなえる事よりCO
2排出を、化石燃料を利用したエネルギーで、水蒸気改質法による水素製造と比較して大きく低減する。
(10)膨大な量の新再生可能エネルギーが極めて安定的且つ安価に工場生産で可能となる。
(11)パーム産業由来の未利用バイオマス資源は季節変動が少なく、安定的に発生し大きな外乱も無い事より、将来に亘り安定したエネルギー供給を行う。
(12)エネルギー供給会社の分離が可能となり、既存パーム椰子産業の効率的運用が促進されると共に、パーム椰子産業の環境負荷(大気・水質)を低減し、またコスト削減を可能となる。
(13)パーム椰子産業の立地地域でのエネルギー確保に貢献し、現地の雇用拡大、収益拡大、低品位炭(褐炭)のエネルギー変換による有効利用を図れる。
【0059】
以下、図面を参照して、上述した背景や課題を解決するための本発明の一実施形態のバイオマス資源を用いた水素の製造方法について説明する。以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0060】
まず最初に
図1を参照して、本発明のバイオマス資源を用いた水素の製造方法の概要を説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるバイオマス資源を用いた水素の製造方法の概要を示したブロック図である。
本発明のバイオマス資源を用いた水素の製造方法10は、パーム椰子樹木からパーム油を得るパーム油生産プロセス13と、パーム椰子樹木からリサイクル原料を得る収穫、分別プロセス11と、リサイクル原料からバイオマス半炭化物およびバイオエタノールを製造するを半炭化プロセス12と、パーム油生産プロセス13で生じた排出物(例えば分離水)を用いてメタンを生成し、半炭化プロセス12で得たバイオエタノールとともに水蒸気改質によって水素を得る水素製造プロセス14と、を有する。
【0061】
収穫、分別プロセス11では、パーム農園で栽培されたパーム椰子の生鮮果房(FFB)を収穫する。また、パーム椰子の生鮮果房(FFB)を収穫する際に、パーム枝葉(OPF:リサイクル原料)が得られる。
【0062】
パーム油生産プロセス13では、収穫した生鮮果房(FFB)からパーム油やパーム核油を搾油する。こうしたパーム油生産プロセス13では、パーム油を生成する際に行う油水分離による排出物である分離水や、生鮮果房(FFB)の脱果後の空果房(排出物)や、パーム油の搾油後に排出されるパーム椰子殻(排出物)やパーム繊維(排出物)が排出される。
【0063】
半炭化プロセス12では、生鮮果房(FFB)を収穫時に得られたリサイクル原料であるパーム枝葉(OPF)を搾汁した後、搾汁残渣を半炭化させバイオマス半炭化物を得る。また、この半炭化プロセス12では、パーム枝葉(OPF)の搾汁によって生じた搾汁液を発酵させて、副産物であるバイオエタノールを生成する。
【0064】
水素製造プロセス14では、パーム油生産プロセス13の排出物である分離水を用いて、発酵によってメタンを生成する。そして、このメタンや、半炭化プロセス12の副産物であるバイオエタノールを用いて、水蒸気改質によって水素ガスを生成する。
【0065】
この水素製造プロセス14では、パーム油生産プロセス13の排出物である空果房、パーム椰子殻、パーム繊維などを用いて、燃焼などによって熱エネルギーや電力などの再生エネルギーを生成する。そして、この再生エネルギーを稼働エネルギー源として水蒸気改質を行う。
【0066】
本発明のバイオマス資源を用いた水素の製造方法10によれば、例えば700℃〜1000℃といった高温環境にするために大きなエネルギーを必要とする水蒸気改質工程の稼働エネルギー源として、パーム油生産プロセス13の排出物を用いた再生エネルギーを利用する。これによって、パーム油生産プロセス13の排出物である空果房、パーム椰子殻、パーム繊維などを有効に利用することができ、外部から電力や熱エネルギーなどを調達しなくても、水蒸気改質法により水素ガスを低コストに製造することができる。また、パーム油生産プロセス13に伴い排出される空果房、パーム椰子殻、パーム繊維などの排出物を、コストを掛けずに処理することができ、排出物を低減して環境保全を図ることが可能になる。
【0067】
図2は、
図1に示すバイオマス資源を用いた水素の製造方法をより詳細に示した概略説明図である。また、
図3は、本発明の一実施形態であるバイオマス改質炭の製造方法を段階的に示したフローチャートである。なお、
図3において、点線で囲まれた領域は、当該領域に向けて延びる矢印で示されるエネルギーや各物質が、当該領域に含まれる任意の工程に供給されることを示している。また、
図3において、一点鎖線で囲まれた領域は、ある工程が複数の工程(下位工程)からなることを示している。
また、以下の説明において、褐炭と言った場合、石炭化度の低い(例えば、炭素含有量70wt%以下)の低品位炭を指し、これよりも石炭化度の高い亜瀝青炭、瀝青炭、無煙炭を除いた石炭を全て含む。
【0068】
パーム産業由来の未利用バイオマス資源と褐炭(低品質炭)とを原料とし、再生可能エネルギーを利用した、水素の製造方法10は、大別して、パーム椰子の収穫、分別プロセス11と、半炭化プロセス12と、パーム油生産プロセス13と、バイオマス改質炭製造プロセス14と、水蒸気改質水素生成プロセス15および水電解水素生成プロセス16を含む水素製造プロセス17とを備えている。なお、これら各プロセスを行う施設は、物理的に近接ないし一体の施設とすることが輸送効率上好ましい。また、バイオマス改質炭製造プロセス14は、必須の構成ではなく、低品位炭である褐炭がパーム椰子農園の近傍で入手可能な場合において、好ましく行うことができる工程である。
【0069】
パーム椰子は、赤道を中心に北緯17度〜南緯20度の範囲、年間雨量1500〜2000mm、最低気温22〜24℃、最高気温29〜30℃、日照時間5時間/日以上の高温多湿な気候が栽培に好ましい環境であり、東南アジアやアフリカ、中南米が栽培適地とされている。
【0070】
プランテーションで栽培されるアブラヤシは、種子から発芽したのち、1年〜1年半程度、鉢で育てられた後、整地された土地に約140〜150本/ha程度の密度で植え付けられる。植え付け後、3年で葉の付け根に最初の花房が現れ、やがて全ての葉の付け根に花房がついていく。花房には、雄花房と雌花房があり、雄花は黄色で小さく、現れてから3〜4日で花粉をつくる。雌花も黄色い花で、10〜12個でひとつの花序をつくり、この花序が集まって花房になっている。花粉の飛ぶ距離はあまり長くないため、虫を媒介とした受粉などが行われる。
【0071】
受粉後、約150日で果実が成熟する。収穫は、発芽から3年〜4年半から始まり、8〜15年の木がもっともよく収穫できる。1本のパーム椰子からは年間で約11個の生鮮果房(FFB)が収穫可能であり、この収穫の際に2本のパーム枝葉(OPF:リサイクル原料)が伐採される。そして、約18年を過ぎると収穫量が減りはじめるため、通常は20〜25年ほどで伐採され、植え替えが行われる。
【0072】
図4は、パーム椰子の各構成部位を示す模式図である。
図4に示すように、パーム椰子1は、地面から立ち上がる樹幹2と、この樹幹2から枝分かれして延びるパーム枝葉(OPF:リサイクル原料)3と、パーム枝葉(OPF)3の付け根部分に生じる、多数の果実4を実らせた果房(生鮮果房)5とを有している。
【0073】
図5は、パーム椰子のパーム枝葉(OPF)を示す模式図である。
パーム枝葉(OPF)3は、パーム葉が生える葉部(Rachis)6およびこの葉部6よりも果房5側を成す葉柄(Petiole)7とからなる。
【0074】
図6はパーム椰子の果実の断面を示す模式図である。
果実4は、外果皮4Aと、パーム油を含む果肉(中果皮)4Bと、内果皮に包まれ、パーム核油を含むパーム椰子核4Cとからなる。
【0075】
収穫、分別プロセス(収穫工程S1)11では、パーム農園で栽培されたパーム椰子の生鮮果房(FFB)を収穫する。また、パーム椰子の生鮮果房(FFB)を収穫する際には、生鮮果房(FFB)の周囲に生えているパーム枝葉(OPF)を伐採する必要がある。なお、1つの生鮮果房(FFB)を収穫する際には、2本のパーム枝葉(OPF)が伐採されることになる。
【0076】
収穫、分別プロセス11で得られたパーム枝葉(OPF)は、更に、パーム葉が生える葉部(Rachis)およびこの葉部よりも生鮮果房(FFB)側を成す葉柄(Petiole)に切り分けられる。そして、以下の半炭化プロセス12では、パーム枝葉(OPF)として、葉柄(Petiole)が用いられる。もちろん、葉部も含めて半炭化プロセス12に用いることも可能である。なお、パーム枝葉(OPF)3において、葉柄7と葉部6との重量比はおよそ50:50である。こうしたパーム枝葉(OPF)3の葉柄7は、樹幹2に繋がる付け根(基部)から中央部分にかけて、澱粉含量がとりわけ高いのが特徴となっている。
【0077】
一方、切り分けられた葉部(Rachis)6は、パーム椰子農園の育成中のパーム椰子の周辺に敷設される。こうした多数の葉が付いた葉部(Rachis)をパーム椰子の周辺に置くことによって、パーム椰子の果房を狙う野ネズミを捕食する蛇類の棲み処を確保し、パーム椰子の鼠害を防止する。
【0078】
以上の収穫、分別プロセス(収穫工程S1)11によって、生鮮果房(FFB)、およびパーム枝葉(OPF)の葉柄7が得られる。また、例えば、20年以上経過したパーム椰子1も伐採され、パーム古木(OPT)および残ったパーム枝葉(OPF)として回収される。
【0079】
パーム古木(OPT)の樹幹は、大量の樹液を含んでおり、その樹液の含量は中心部分ほど高い傾向があるが、平均して約65%〜85%程度である。このパーム古木(OPT)は、グルコース、フラクトース、スクロースが非常に多い優良な糖液である。パーム古木(OPT)の樹齢などによって若干の差異はあるが、伐採直後の全糖量はおおよそ7〜10%程度である。同一樹幹でみればその上下における糖含量の分布では、最下部では2割程度低いが、中間部から最上部までほぼ同程度である。
【0080】
なお、パーム古木(OPT)は、伐採後に一定期間貯蔵することによって、糖含量が大きく増加するという、熟成現象ともいえる変化があることも知られている。例えば、伐採直後の樹液含量は65%〜85%で貯蔵期間中ほとんど変化しないが、一方で糖含量は最大15%近くまで上昇することが知られている。一例としてサトウキビの搾汁液の糖含量が約16%であることを考慮すると、適当な熟成期間を経ることによって、パーム古木(OPT:リサイクル原料)がサトウキビに相当する糖含量を持つ原料になる可能性がある。このため、伐採後のパーム古木(OPT)を一定期間貯蔵して糖含量を増加させることも好ましい。
【0081】
収穫、分別プロセス(収穫工程S1)11を経た生鮮果房(FFB)はパーム油生産プロセス13に、またパーム枝葉(OPF:リサイクル原料)は半炭化プロセス12にそれぞれ送られる。
【0082】
まず、半炭化プロセス12について説明する。半炭化プロセス12では、パーム枝葉(OPF)の葉柄7を洗浄する。洗浄には水を用いる。なお、こうした葉柄7の洗浄に用いた洗浄排水は、沈殿などの工程を行って再生水として循環利用することが好ましい。
【0083】
次に、洗浄した葉柄7を脱水ないし乾燥させる。葉柄7の乾燥は、例えば、天日干しによって行うことが好ましい。また、温風等による乾燥機を用いて乾燥することもできる。また、脱水機を用いて脱水することもできる。
【0084】
収穫工程S1でのハンドリング上、0.5〜1m程度におおまかに切断されたパーム枝葉(OPF)の葉柄7は、そのまま、後述する搾汁工程S3に送られるが、葉柄7とともに、収穫、分別プロセス(収穫工程S1)11で回収されたパーム古木(OPT:リサイクル原料)も破砕する事(第1破砕工程S2)により用いることができる。こうしたパーム古木(OPT)も葉柄7と共に用いることで、樹木としては強度不足で活用することが困難であったパーム古木(OPT)を有効に活用できる。
【0085】
次に、第1破砕工程S2で破砕されたパーム古木(OPT)および葉柄7から搾汁し、得られた搾汁液と第1固形残渣(葉柄7およびパーム古木(OPT)の破砕物(例えば、50mm以下程度の塊状物)から樹液を搾り取ったもの)とを分離する(搾汁工程S3)。葉柄7やパーム古木(OPT)の破砕物を搾汁する際には、例えば、サトウキビの搾汁などに用いるローラープレス式の搾汁機を用いることができる。
【0086】
搾汁液と第1固形残渣との分離は、遠心分離や濾過分離などの分離方法によって行うことができる。分離された搾汁液は、例えば黄濁色の液体を成し、多量の糖成分を含有している。こうした搾汁液を用いて、バイオ燃料であるバイオエタノールや食品原料を製造する(バイオエタノール製造工程S4)。また、このバイオエタノール製造工程S4において、搾汁液の糖成分を用いて食品原料を製造することもできる。
【0087】
バイオエタノール製造工程S4は、例えば、濃縮工程S4A,発酵工程S4B,および精製工程S4Cを備えている。濃縮工程S4Aでは、搾汁液を効率的に発酵可能な程度まで濃縮を行う。濃縮工程S4Aは、例えば、搾汁液の遠心分離や、加熱による水分の減少などによって行うことができる。
【0088】
発酵工程S4Bでは、発酵によって搾汁液に含まれる糖成分をメタンガスやバイオエタノールにする。例えば、アルコール発酵(Ethanol Fermentation)によって、糖成分(グルコース、フラクトース、ショ糖)を分解して、エタノール(バイオエタノール)および二酸化炭素を生成させる。
【0089】
精製工程S4Cでは、バイオエタノールや糖成分を精製して不純物を除去し、より純度の高いバイオエタノールを得る。また、発酵によって生じた糖成分を食品原料とすることもできる。このようなバイオエタノール製造工程S4で得られたバイオエタノールは、後述する水蒸気改質水素生成プロセス15において、水素生成原料の1つとして用いられる。
【0090】
前工程である搾汁工程S3で生じる搾汁液は比較的多量であり、そのまま排出すれば水質汚染等の懸念があるが、搾汁液の発酵、精製によってバイオエタノールや糖成分(食品原料)を製造することによって、搾汁液の有効利用を図るとともに、搾汁液による水質汚染を防止することができる。現状、パーム古木(OPT)は農地に於いて破砕若しくは切倒されたまま腐敗し、パーム枝葉(OPF)もFFB収穫時に2本切落され、その場に放置されるため、腐敗し、環境汚染源となっている。
【0091】
一方、前述した搾汁工程S3で得られた、第1固形残渣である圧搾された圧搾ケーキは、破砕によってパーム枝葉破砕物が形成される(第2破砕工程S5)。第1固形残渣の圧搾ケーキは、例えば、ロータリー刃を備えた破砕機によって破砕されればよい。これによって得られるパーム枝葉破砕物は、例えば本実施形態においては、寸法が例えば50mm程度以下の破砕物である。搾汁工程の前段に破砕工程を設ける事も搾汁方式により選択する。
【0092】
なお、第2破砕工程S5において、後述するパーム油生産プロセス13における果実を脱果させた後の破砕した空果房(EFB)、および果実を搾油後のパーム椰子殻(PKS)を、パーム枝葉破砕物に加えることができる。なお、以下の説明では、こうした空果房粉状物やパーム椰子殻粉状物を加えたものも含めてパーム枝葉粉状物と述べる。
【0093】
後述する、乾燥工程S6A、半炭化工程S6Bによる半炭化の利点の1つとして、破砕動力の低減が挙げられる。パーム枝葉(OPF)、パーム古木(OPT)組織が脆弱な為、半炭化工程S6B前のある程度の破砕は動力負荷が少ないが、空果房(EFB)の破砕動力負荷に関しては 半炭化工程S6B前の破砕動力負荷が大きい。このため、空果房(EFB)に関しては、半炭化工程S6B前の第2破砕工程S5で例えば50mm〜150mm程度に破砕後、水分調整のための乾燥工程S6A、半炭化工程S6Bを行ってから15mm以下程度に粉砕することで動力負荷が低減し、経済的には好ましい。
【0094】
次に、第2破砕工程S5で得られたパーム枝葉破砕物を用いて、後述するバイオマス改質炭の原料となるバイオマス半炭化物やこれを用いた燃料用ペレットを製造する(燃料用ペレット製造工程S6)。燃料用ペレット製造工程S6は、乾燥工程S6A、半炭化工程S6B、粉砕工程S6C、圧縮成形工程S6Dとを含む。半炭化工程S6Bでは、第2破砕工程S5で得られたパーム枝葉破砕物を半炭化炉によって半炭化処理(トレファイド)を施す。パーム枝葉破砕後の水分調整した乾燥物を例えば300℃以下、酸素10%未満の雰囲気で半炭化処理することで、発熱量を2〜3割向上させるとともに、耐水性を高めることができる。
【0095】
第2破砕工程S5での産物は、パーム枝葉(OPF)、パーム古木(OPT)の場合は、含水率は40%前後、空果房(EFB)の場合は50%前後と多い。このため、乾燥工程S6Aから半炭化工程S6Bまでを1回で行うか、これらの工程を2段階にするかは、設備によって異なるが、乾燥工程S6A後において通常、含水率は10〜13%程度、その後の半炭化工程S6Bにおいて含水率12%以下、好ましくは5%前後(その後、吸湿によって8〜10%)とする。
【0096】
水分調整のための乾燥設備は、例えばベルト乾燥機、あるいは回転式の熱処理炉がある。次工程である半炭化工程投入材料の水分量を一定にする事は、次工程である半炭化処理に重要な点で、出口含水率を13%程度以下で安定した含水率にする事が求められる。
【0097】
半炭化処理を行うための半炭化処理装置は、例えば、回転式の熱処理炉であればよい。こうした回転式の熱処理炉を用いて、パーム枝葉粉状物を例えば200℃〜350℃程度に加熱し、5分〜90分間保持することによって、含水率を0%〜12%程度にする。
【0098】
半炭化処理(トレファイド)に用いる熱処理炉の稼働に必要な稼働エネルギー源としては、パーム椰子殻(PKS:排出物)やパーム繊維(Fiber:排出物)を用いた後述するエネルギー生成工程S16によって得られた電力、蒸気及び熱エネルギーなどを用いることができる。
【0099】
以上のような半炭化工程S6Bによって、第1固形残渣から半炭化処理(トレファイド)されたバイオマス半炭化物が得られる。このバイオマス半炭化物は、後述するバイオマス改質炭の製造原料として用いられる。また、このバイオマス半炭化物は、次に述べる燃料用ペレットの原料としても用いることができる。
【0100】
バイオマス半炭化物を燃料用ペレットの製造に用いる場合、半炭化処理されたパーム枝葉破砕物であるバイオマス半炭化物に対して、パーム由来のリグニンを添加した後、圧縮成形してペレット化する(圧縮成形工程S6D)。圧縮成形工程S6Dでは、例えば、ダイス押出式のペレット成形装置を用いることができる。こうした圧縮成形工程S6Dにおいても、例えばペレット成形装置の駆動源として、空果房(EFB)やパーム椰子殻(PKS)やパーム繊維(Fiber)などを用いた後述するエネルギー生成工程S16によって得られた再生可能エネルギーである、電力、蒸気及び熱エネルギーなどを用いることができる。
【0101】
なお、圧縮成形工程S6Dにおいて、投入材料中のリグニン量がペレットの成形度合に関係するが、リグニン量を調整する場合、パーム由来のリグニンが利用できる。また、ペレット成形前の材料寸法は、成形するペレット径により、粉砕による寸法調整が必要となる。また、上述した実施形態では、燃料用ペレット製造工程S6において、半炭化工程S6Bの後、圧縮成形工程S6Dを行っているが、圧縮成形工程S6Dを行ってから、半炭化工程S6Bを行うこともできる。この場合、圧縮成形工程S6Dへの投入原料寸法は、成形するペレット径により決まる。
【0102】
通常、木質の場合 ペレット成形機投入物の前処理粉砕所要エネルギーは、半炭化による脆化の為、半炭化度合いが進むほど粉砕エネルギーは低減する。このため、半炭化工程S6Bの後、圧縮成形工程S6Dを行うことが好ましい。
【0103】
一方、パーム枝葉(OPF)、あるいはパーム古木(OPT)は、組織が脆弱な為、粉砕所要エネルギーは少ない。このため、圧縮成形工程S6Dを行ってから、半炭化工程S6Bを行うことも好ましい。また、空果房(EFB)組織が非脆弱であり、半炭化工程S6Bの後、粉砕工程S6Cを経過し、圧縮成形工程S6Dを行うことが好ましい。
【0104】
以上のような工程を経て固形バイオマス燃料である燃料用ペレットが得られる。
なお、本実施形態においては、半炭化工程S6Bを行った後に圧縮成形工程S6Dを実施しているが、こうした工程は、逆の順番で行うこともできる。即ち、第2破砕工程S5で得られたパーム枝葉破砕物を圧縮成形工程S6Dによってペレット化した後、このペレットを熱処理炉等を用いた半炭化工程S6Bによって半炭化しバイオマス半炭化物を得る。そして、このバイオマス半炭化物を用いて、燃料用ペレットを製造することもできる。
【0105】
燃料用ペレットは、半炭化処理を行ったパーム枝葉粉状物をペレット化したものである。燃料用ペレットは、例えば概略円柱形状をなしており、直径が4mm〜20mm、長さが5mm〜100mmの範囲内とされている。また、その嵩比重が0.65以上0.85以下の範囲内とされている。
【0106】
半炭化工程S6Bを経たバイオマス半炭化物は、ペレット形状のみならず、石炭コークス代替燃料のバイオコークスブリケット、例えば直径が50〜150mm、長さが(直径)×1〜5の範囲内の製品にも成形可能である。
【0107】
そして、燃料用ペレットは、脱水処理や半炭化処理によって水分及び揮発成分も低減はするが、燃料用ペレットにおける含水率は12%以下の範囲内に調整されており、熱量が20kJ/kg以上24kJ/kg以下の範囲内とされている。
【0108】
さらに、燃料用ペレット20においては、JIS M 8801で規定されているハードグローブ粉砕性指数(HGI)が22以上50以下の範囲内とされている。なお、参考例として、微粉炭ボイラにおける運用下限値は、HGI=40以上とされている。
また、燃料用ペレットは、半炭化処理によって表面が疎水性を有しており、耐水性が向上されており、水に浸漬しても、容易に崩壊せずに形状が維持されることになる。
【0109】
一方、上述した搾汁工程S3、および燃料用ペレット製造工程S6でそれぞれ生じたパーム椰子由来の搾汁液(OPT・OPF−Juice)を集約して、バイオエタノール製造工程S4に用いて濃縮し、発酵、精製を行うことができる。
【0110】
半炭化プロセス12を構成する各工程で生じた、椰子由来の糖成分を含んでいる搾汁液を集めてバイオエタノール製造工程S4に用いることにより、農園に廃棄し、腐敗し、メタンガス放出していたパーム枝葉(OPF)、パーム古木(OPT)が バイオマス資源として有効利用が出来る。
【0111】
エネルギー生成工程S16は、脱果工程S11で生じた脱果後の空果房(EFB:排出物)やパーム繊維(Fiber:排出物)、および椰子核分離工程S14で分離されたパーム椰子殻(PKS:排出物)を燃焼等によって熱エネルギーを生成し、この熱エネルギーを用いて水を加熱して水蒸気(高温蒸気)や電力など生成する。こうしたエネルギー生成工程S16で得られた熱エネルギーや水蒸気(高温蒸気)は、後述する水蒸気改質水素生成プロセス15に、また、電力は水蒸気改質水素生成プロセス15や水電解水素生成プロセス16に用いることができる。
【0112】
また、エネルギー生成工程S16で得られた熱エネルギーや電力は、後述するバイオマス改質炭製造プロセス14である各工程(褐炭乾燥工程S21、褐炭粉砕工程S22、混合工程S23、圧縮成型工程S24)の稼働エネルギー源として使用することもできる。
【0113】
次に、パーム油生産プロセス13について説明する。
パーム油生産プロセス13では、生鮮果房(FFB)を洗浄した後、生鮮果房(FFB)を蒸煮して、果実と空果房(EFB)に分離する(脱果工程S11)。パーム椰子は、果実の中に油分を分解するリパーゼ酵素を含んでいるため、収穫した瞬間から、このリパーゼ酵素が活性化される。このため、生鮮果房(FFB)の収穫後は24時間以内に熱を加え、リパーゼ酵素を不活性化させる必要がある。
【0114】
こうした生鮮果房(FFB)を蒸煮の目的は、油を分解する酵素を不活性化(失活)させることである。こうした不活性化のためには例えば、回転式の蒸煮プロセスでは、75分から90分にわたって、最高温度140℃(圧力+2気圧)をピークに2,3回圧力をスイングする操作がなされる。また、蒸煮することで、果房から果実が離脱しやすくなり、また果実を柔軟にして、パーム油生産プロセス13での搾油を容易にする。果房から果実を離脱させるには、例えば、脱果機などを用いて果房を叩き、果房の茎と果実に分離する。
この後、分離した果実から効率よく搾油するため、果実を蒸気で95℃から100℃に加熱しながら約30分程度攪拌し、スラリー状にする(消化)。
【0115】
こうした脱果工程S11において、前述したエネルギー生成工程S16で得られた蒸気を用いて、生鮮果房(FFB)を蒸煮することができる。脱果工程S11は、パーム油生産プロセス13の中でもっとも蒸気使用量が大きい。
【0116】
また、この脱果工程S11で生じた脱果後の空果房(EFB)は、ある程度の脱水後、前述した半炭化プロセス12における第2破砕工程S5に導入し、パーム枝葉粉状物の一部として燃料用ペレットの製造原料に用いることで、木質廃棄物の削減、有効利用を図ることができる。また、脱果後の空果房(EFB)は、パーム古木の第1破砕工程S2を使用して破砕することも可能である。
【0117】
次に、脱果工程S11においてスラリー状にした果実を搾油する(第1搾油工程S12)。例えば、第1搾油工程S12では、スクリュー式の搾油機を用いて、圧力によって粗パーム油およびパーム椰子核を含む繊維質である第2固形残渣に分離する。
【0118】
次に、第1搾油工程S12で得られた粗パーム油に対して加水し、例えば約85℃程度に加熱して静置した後、比重差による油水分離を行ってパーム油と第2パーム椰子排水(POME)とを得る(油水分離工程S13)。なお、加水後に更に遠心分離器によって繊維や水分などを取り除くことで、迅速に油水分離を行うこともできる。
【0119】
こうした油水分離工程S13で分離された分離水(POME:排出物)は、油水分離によっても水層に溶存している椰子由来の油脂を完全には分離除去できず、椰子由来の油脂を一定量含んでいる。この分離水(POME)を後述するメタン製造工程(発酵工程)S17の原料として用いる。
【0120】
メタン製造工程(発酵工程)S17は、油水分離工程S13で分離された分離水(POME:排出物)に残留している油分、糖成分を、例えばメタン細菌などによって発酵させメタンにする。こうしてメタン製造工程(発酵工程)S17で得られたメタンは、後述する水蒸気改質水素生成プロセス15において、水素生成原料の1つとして用いられる。
【0121】
このように、パーム油生産プロセス13を構成する油水分離工程S13で生じた、椰子由来の油脂を含む分離水(POME)を用いて、メタン製造工程(発酵工程)S17によってメタンを生成することによって、従来、問題となっていたパーム椰子由来の排水(POME)の外部への排出による水質汚染を防止するとともに、こうした排水(POME)を有効に再利用することが可能になる。
【0122】
なお、未利用バイオマス資源である分離水(POME)からメタン製造工程(発酵工程)S17によって生成されたメタンは、後述する水蒸気改質水素生成プロセス15以外にも、メタンガスによるバイオマス発電および燃焼エネルギーが得られ、自家消費エネルギーとして使用する事も、有価物として売却する事も出来る。
【0123】
第1搾油工程S12で生じた、椰子由来の油脂を含んでいる分離水(POME)処理場ラグーンから発生していた膨大な温暖化ガスであるメタンを回収することで、自家消費エネルギーに加え、メタンガス利用による温暖化防止と、POME処理排水による、水質汚染を防止することが可能になる。更に河川放流水の浄化、未利用バイオマス固形炭化物により、放流水の色素、フミン酸を吸着する事等々、大気及び水質の環境保全に適合したパーム椰子農園の持続的な運営が出来る。
【0124】
一方、第2固形残渣には、パーム椰子核が含まれており、第2固形残渣を乾燥、粉砕後、パーム椰子核とパーム椰子殻(PKS)とを分離する(椰子核分離工程S14)。こうした分離は、例えば、空気流によって行うことができる。そして、分離されたパーム椰子核を搾油してパーム核油を得る(第2搾油工程S15)。
【0125】
一方、椰子核分離工程S14で分離されたパーム椰子殻(PKS)の一部は、そのままで市場性を有した有価物燃料として売却されるが、含水率が一定ではなく乾燥する事例もある。但し、その後の吸湿、並びに乾燥コストが増加する等の問題がある。本実施形態では、パーム枝葉(OPF)由来の燃料用ペレット製造工程S6にパーム椰子殻(PKS)を添加若しくは、単独で製造すればよく、製造コストは現状の乾燥製品に比べても安価で、尚且つ疎水性のある極めて石炭に近いパーム椰子殻(PKS)由来の半炭化物であるバイオマス半炭化物にすることができる。
【0126】
また、エネルギー生成工程S16で得られた蒸気は、脱果工程S11で生鮮果房(FFB)を蒸すための飽和蒸気として用いることができる。また、電力は、燃料用ペレット製造工程S6における半炭化工程S6Bでの熱処理炉の駆動力として用いたり、圧縮成形工程S6Dでのペレット成形装置の稼働エネルギー源、および後述するバイオマス改質炭製造プロセス14である各工程(褐炭乾燥工程S21、褐炭粉砕工程S22、混合工程S23、圧縮成型工程S24)の稼働エネルギー源として用いることができる。
【0127】
また、この椰子核分離工程S14で分離されたパーム椰子殻(PKS)の他の一部は、前述した半炭化プロセス12における第2破砕工程S5に導入し、パーム枝葉破砕物の一部として半炭化工程S6Bを経てバイオマス半炭化物にして、後述するバイオマス改質炭製造プロセス14である混合工程S23に送られ、バイオマス改質炭の製造に用いることができる。これにより、木質廃棄物の削減、有効利用を図ることができる。これらはパーム繊維(Fiber)、空果房(EFB)もまた同様である。
【0128】
次に、バイオマス改質炭製造プロセス14について説明する。
バイオマス改質炭製造プロセス14では、原料として褐炭を用いる。こうした褐炭は、前述した技術的背景でも説明したように、例えば、インドネシアなどにおいて多く産出する石炭化度の低い(例えば、炭素含有量70wt%以下)の低品位炭である。以下のバイオマス改質炭製造プロセス14は、前述した半炭化プロセス12やパーム油生産プロセス13などを実施するパーム椰子産業の近傍に存在する炭鉱から得られる褐炭を用いることが好ましい。これにより、褐炭の輸送コストや褐炭の乾燥に伴う発火性の官能基による自然発火を抑制できる。
低品位炭の改質技術は脱水改質技術の開発を中心に、発熱量の改善や自然発火性への対策が進められ、既に実用化段階にあり、商業化の計画も進めれれているが、多くの技術が経済的理由から商業化に至っていない。
【0129】
褐炭は通常暗褐色から帯褐色を呈する。より高品位な瀝青炭に比べ暗炭が多く、水分、腐植酸、酸素に富む。灰分の(ミネラル)の割合は産炭地によって様々である。水分が重量の半分以上(多い場合は66%)を占めるのが特徴である。これは褐炭の細孔容積が大きい(隙間が多い)ため、水分が浸み込みやすいからである。まず、こうした水分を効率的かつ安全に蒸発させることで褐炭を乾燥させる(褐炭乾燥工程S21)。なお、採掘された褐炭が大きな塊状である場合、褐炭破砕工程によって、所定の大きさになるまで褐炭を予め破砕しておくことが好ましい。
【0130】
褐炭乾燥工程S21では、褐炭に含まれる発火性の官能基が水分の蒸発によって自然発火することを防止しつつ、褐炭の水分量を低減させる。具体的には、褐炭の乾燥に間接加熱方式を用いる。熱源としては飽和スチームを用いる。こうした褐炭乾燥工程S21消費する熱量を減らすため、乾燥機からの復水に熱回収ユニットで排熱をさらに回収し、スチーム発生ユニットに戻す構成が好ましい。例えば、空気、または窒素ガスを乾燥機に送り込み、水分蒸発速度を調整する。乾燥機の出口ガスはスチーム、空気(または窒素)、褐炭の微粉を含んでおり、大気に放出する前にバグフィルタを使用し褐炭の微粉を除去する。
【0131】
次に、褐炭乾燥工程S21で乾燥させた褐炭を粉砕して、所定サイズの微粉末状の粉状褐炭を製造する(褐炭粉砕工程S22)。粉砕によって得られる粉状褐炭の粒子径分布と水分は、後工程で得られるバイオマス改質炭の品質に大きく影響するため、制御には細心の注意を払って行う。燃焼性ガスやイナートガスを循環させ、粉砕雰囲気の酸素濃度を制御することによって粉砕、乾燥による発火を抑制し、安全性を向上させる。
【0132】
この褐炭乾燥工程S21で得られた粉状褐炭は、一部がバイオマス改質炭の製造に用いられ、また残りの一部は後述する水蒸気改質水素生成プロセス15による水素製造に用いられる。
【0133】
次に、褐炭粉砕工程S22を経て得られた粉状褐炭と、半炭化プロセス12の半炭化工程S6Bにおいてパーム枝葉(OPF)やパーム古木(OPT)を原料として得られたバイオマス半炭化物とを混合して混合体を得る(混合工程S23)。
【0134】
この混合工程S23では、粉体用の混合装置(ミキサー)を用いて、粉状褐炭と粉砕したバイオマス半炭化物とを、所定の混合比率で混合する。本実施形態では、粉状褐炭とバイオマス半炭化物とを、重量比で50:50で混合した混合体を形成している。
【0135】
次に、混合工程S23で得られた粉状褐炭とバイオマス半炭化物との混合体を圧縮成形し、ブリケット状のバイオマス改質炭を得る(圧縮成型工程S24)。圧縮成型工程S24では、例えばブリケットマシンを使用して圧縮成形する。ブリケットの形状・サイズ、ロール回転数、ロール支持圧力を最適設定することにより、バインダーを使用せず、高強度、高密度のブリケット状のバイオマス改質炭が製造でき、同時に電力消費を抑えることができる。
【0136】
これら一連のバイオマス改質炭製造プロセス14では、搾汁工程S3で得られた搾汁液から生成した第1稼働用エネルギー、空果房(EFB)や、パーム椰子殻(PKS)やパーム繊維(Fiber)から得られた第2稼働用エネルギー、および分離水(POME)から得られた第3稼働用エネルギーを、各工程(褐炭乾燥工程S21、褐炭粉砕工程S22、混合工程S23、圧縮成型工程S24)の稼働エネルギー源として用いることができる。これによって、外部から新たなエネルギー(電力、蒸気等)を追加することなく、低コストにバイオマス改質炭を製造することができる。
【0137】
次に、水蒸気改質水素生成プロセス15について説明する。
水蒸気改質水素生成プロセス15は、バイオエタノール製造工程S4で得られたバイオエタノールをガス化させる第1ガス化工程S31と、褐炭粉砕工程S22を経て得られた粉状褐炭から炭化水素ガスを発生させる第2ガス化工程S32と、水蒸気改質工程S33とを備えている。
【0138】
第1ガス化工程S31は、パーム古木(OPT)・パーム枝葉(OPF)の搾汁液を発酵させたバイオエタノール製造工程S4で得られたバイオエタノールを、例えば気化器などを通してエタノールガスにする。
第2ガス化工程S32は、褐炭粉砕工程S22で得られた粉状褐炭を加熱器によってするなどして一酸化炭素や二酸化炭素を得る。
【0139】
水蒸気改質工程S33では、エネルギー生成工程S16で得られた水蒸気(高温蒸気)と、油水分離工程S13の分離水(POME)を用いてメタン製造工程(発酵工程)S17で生成させたメタン、第1ガス化工程S31で得られたエタノールガス、第2ガス化工程S32で得られた一酸化炭素などを水蒸気改質法によって改質し、水素を発生させる。これに水蒸気と、炭化水素(エタノール、メタノール)ガス、一酸化炭素から水素を生成する反応は以下のようなものである。
(1)C
nH
m+nH
2O→nCO+(n+m/2)H
2
(2)CO+H
2O→CO
2+H
2
【0140】
こうした水蒸気改質工程S33では、反応のための熱エネルギーとして、エネルギー生成工程S16で得られる再生可能な熱エネルギーを用いることができる。以上のような工程を経て、パーム産業由来の未利用バイオマス資源や、パーム椰子農園の近傍から産出する褐炭を用いて、効率的に、かつ極めて低コストに水素を生産することができる。こうして得られた水素は輸送が容易な液化状態にして、幅広い産業の熱エネルギー源や原料ガスとして用いることができる。
【0141】
次に、水電解水素生成プロセス16について説明する。
水電解水素生成プロセス16では、エネルギー生成工程S16で得られた熱エネルギーを用いて発電した電力によって、水を電気分解する電解工程S34を備えている。この電解工程S34では、パーム産業由来の未利用バイオマス資源を原料として製造した再生可能エネルギーである電力を用いて水を電気分解することによって、極めて低コストに水素を生産することができる。こうして得られた水素は輸送が容易な液化状態にして、幅広い産業の熱エネルギー源や原料ガスとして用いることができる。
【0142】
以上、説明したように、本発明のバイオマス資源を用いた水素の製造方法によれば、従来は有効利用されていなかったパーム枝葉(OPF)、あるいはパーム古木(OPT)、空果房(EFB)、単純焼却していたパーム椰子殻(PKS)、パーム繊維(Fiber)、パーム椰子排水(POME)を用いてメタンやバイオエタノールを製造し、また、余剰エネルギーを利用して水蒸気を生成し、これらから水蒸気改質法によって水素を生成するので、新規に外部から原料やエネルギー供給することなく、極めて低コストに水素を得ることが可能になる。また、従来は有効利用されていなかったパーム産業由来の未利用バイオマス資源を用いた再生可能エネルギーである電力によって水を電気分解して水素を生成するので、新規に外部から原料やエネルギー供給することなく、極めて低コストに水素を得ることが可能になる。
【0143】
そして、パーム椰子産業で生じる未利用バイオマス資源が廃棄物として排出されることなく再利用されることにより、排水の浄化・温暖化ガスの発生抑制が可能なため、環境保全に適合したパーム椰子農園の持続的な運営に寄与する。