(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔発明の概念〕
最初に、
図1〜
図3D及び
図5〜
図9を参照することにより、本発明の基礎となる概念について説明する。
図1A〜
図1Dは、本発明に係る腐食センサが用いる分極抵抗法の概念についての説明図である。
【0013】
図1Aに記載のように、貯水タンク51に貯留された貯留水に、腐食センサの2本の電極52A及び52Bを浸漬して、両者の電極間に、電源53を用いて、交流/直流双方の電圧をかけ、その際に流れる電流を電流計54で、その際にかかる電圧を電圧計55で測定する。
【0014】
このとき、模式的に、
図1Bに記載の回路が生成される。すなわち、電極表面における、電極との電子のやり取りのしにくさである腐食反応抵抗61(抵抗値をR
CTとする)と、電極表面に形成されるコンデンサの成分である電気二重層62(容量をC
dlとする)とが並列に配置され、これらの腐食反応抵抗61と電気二重層62との組に対して直列に、貯留水の電気伝導度の逆数である溶液抵抗63(抵抗値をR
Sとする)が配置される回路が生成される。
【0015】
電極間に直流の電圧をかけた場合には、
図1Cに記載のように、電流は電気二重層62に流れず、溶液抵抗63と腐食反応抵抗61のみに流れる。そのため、電極52A及び52B間に直流の電圧をかけた場合の電流値と電圧値とから、溶液抵抗値R
Sと腐食反応抵抗値R
CTの合計値R
S+R
CTが算出される。
一方で、電極52A及び52B間に交流の電圧をかけた場合には、
図1Dに記載のように、電流は腐食反応抵抗61に流れず、溶液抵抗63と電気二重層62のみに流れる。そのため、電極52A及び52B間に交流の電圧をかけた場合の電流値と電圧値とから、溶液抵抗値R
Sの値が求まる。
【0016】
したがって、溶液抵抗値R
Sと腐食反応抵抗値R
CTの合計値R
S+R
CTから溶液抵抗値R
Sを減算することにより、腐食反応抵抗値R
CTが算出される。
腐食しやすい貯留水では、この腐食反応抵抗値R
CTが小さくなり、腐食しにくい貯留水では、この腐食反応抵抗値R
CTが大きくなる。また、腐食反応抵抗値R
CTが大きいほど、腐食速度は小さくなり、腐食反応抵抗値R
CTが小さいほど、腐食速度は大きくなるため、腐食反応抵抗値R
CTを用いて、腐食速度を算出することが可能である。
【0017】
ここで、従来技術においては、
図5に示すように、腐食センサ78は、腐食センサ基板75と、冷却塔76に貯留された貯留水に浸漬された炭素鋼の電極77とを備える。そして、腐食センサ基板75は、電源として、外部電源72からの交流電力を直流電力に変換するスイッチング電源71と当該スイッチング電源71により変換された直流電力を電源とする直流電源73との組を利用できると共に、内部の充電電池74も利用できる。この腐食センサ78を用いて、当該貯留水の腐食度を計測した場合、
図6に示すように、外部電源72を用いた場合の方が、充電電池74を用いた場合に比較して、腐食速度は低く算出される。
【0018】
図7は、
図6の日単位の測定結果の差異を、時間単位で詳細に計測した結果である。
図4中の(a)は腐食速度の経時的変化を、(b)は腐食反応抵抗値R
CTの経時的変化を、(c)は直流測定による溶液抵抗値R
Sと腐食反応抵抗値R
CTの合計値の経時的変化を、(d)は交流測定による溶液抵抗値R
Sの経時的変化を示す。なお、(d)においては、これに加えて、市販の電気伝導度計(EC計)で貯留水の電気伝導度を測定し、測定結果から温度補償なしの電気伝導度を計算し、更に、その計算結果から算出したR
Sの値を参考例として示す。
【0019】
図7の(a)及び(b)に見られるように、外部電源72がある場合の方が、外部電源72が無い場合に比べて、腐食速度が低く、腐食反応抵抗値R
CTが高く算出される。また、直流測定の結果と交流測定の結果とを比較すると、直流測定による溶液抵抗値R
Sと腐食反応抵抗値R
CTの合計値の経時的変化に関しては、外部電源がある場合とない場合とで大きな差はないが、交流測定による溶液抵抗値R
Sの経時的変化に関しては、外部電源72がある場合は、外部電源72がない場合に比べて、R
Sが小さな値となっている。また、外部電源72を切断した後は、外部電源72がある場合とない場合とで、R
Sの値に差はない。
【0020】
したがって、同一の貯留水の溶液抵抗値R
Sを計測しながら、交流の外部電源72がある場合は、交流の外部電源72がない場合に比べて、溶液抵抗値R
Sが小さくなっている原因として、交流の外部電源72がある場合の方が、電流の値が実際よりも大きく計測されていることが推定される。
【0021】
そこで、腐食センサ基板75の内部で計測している信号を確認するため、
図8の(a1)及び(b1)に示すように、電源として交流の外部電源を直流に変換するスイッチング電源を用いた場合と、電源として充電電池を用いた場合の双方において、腐食センサにオシロスコープを接続して、出力波形を観察する。
図8の(a2)及び(b2)各々のグラフは、それぞれ、回路が(a1)及び(b1)の場合の結果としての出力波形である。
【0022】
図8(b2)のグラフから分かるように、充電電池を用いた場合には、5msec周期で印加している電圧に起因する信号が確認できる。一方で、
図8(a2)のグラフに示されるように、スイッチング電源を用いた場合には、信号にノイズが混入している。
【0023】
スイッチング電源においては、
図9(a)に示されるような正負の領域を往復するパルス状の電圧に対応して、
図9(b)のような電流が本来出力される所、
図8(a1)のグラフに示されるようなノイズの存在に起因して、
図9(c)のように、電流の波形にもノイズが混入する。このため、電流計によって読み取られる電流値も本来の電流値より大きくなる。電流値が本来よりも大きく読み取られると、溶液抵抗値R
Sの値は小さく算出され、腐食反応抵抗値R
CTの値は大きく算出される。したがって、腐食速度は実際よりも小さく算出されることとなる。
【0024】
すなわち、腐食速度が実際よりも小さく算出される原因は、外部電源の信号に混入するノイズにあると言えるが、このノイズは、
図5の点線に示されるように、交流の外部電源72、スイッチング電源71、腐食センサ基板75、冷却塔76、及びグラウンドを経由する電気的なループに起因して発生する。
【0025】
図2A〜
図2Hは、実際の冷却塔76と腐食センサ78の電極77との位置関係と、腐食センサ78からの出力波形のグラフを示す。
図2Aに示すように、冷却塔76の貯留水に直接電極77を浸漬した場合には、ノイズの混入により、
図2Bに示すように、出力量は−3000(mV)〜3000(mV)の幅で変動する。一方で、
図2Cに示すように、冷却塔76の貯留水の水面よりも上方に鉄板79を設け、鉄板79上に、貯留水を汲み取ったビーカ80を置き、このビーカ80内の貯留水に電極77を浸漬した場合には、ノイズが減少し、
図2Dに示すように、出力量は−200(mV)〜200(mV)の幅で変動する。
図2Eに示すように、冷却塔76の貯留水の水面よりも上方に設けられた鉄板79に台座81を設置してから、この台座81上に貯留水を汲み取ったビーカ80を置き、このビーカ80内の貯留水に電極77を浸漬した場合には、
図2Fに示すように、ノイズの量は更に減少する。また、
図7Gに示すように、冷却塔76外に貯留水を汲み取ったビーカ80を置き、このビーカ80内の貯留水に電極77を浸漬した場合も、
図2Hに示すように、
図2Cの場合と同程度にノイズは減少する。
すなわち、上記の電気的なループの形成度が低いほど、外部電源の信号に混入するノイズの量は小さいと言える。
【0026】
図3A〜
図3Dは、
図2A〜
図2Hで示された、実際の冷却塔の貯留水に腐食センサの電極を浸漬したケースを、実験室で再現した結果を示す。
図3Aに示すように、100Vの交流電源である外部電源72の電圧が、外部のスイッチング電源71により直流に変換される。また、腐食センサ基板75は、内部電源として充電電池74を備える。腐食センサ78で使用する電源として、外部電源72と充電電池74とを切り替えることが可能である。内部の直流電源73は、スイッチング電源71で作り出した直流電圧、もしくは、充電電池74の電圧を、回路の内部で使いやすい値の直流電圧に変換し、変換した電圧を腐食センサ基板75に供給する。腐食センサ基板75に接続される電極77は、ステンレス製のビーカ82に汲み取られた貯留水に浸漬される。
【0027】
図3Bは、外部電源72を用いると共に、上記の電気的なループが存在する場合の出力を示す。
図3Bに示されるように、ノイズの混入により、出力量は−150(mV)〜150(mV)の幅で変動する。
一方で、
図3Cに示されるように、充電電池74を用いることにより、電気的なループが切断されている場合には、5msec周期で印加している電圧に起因する信号が確認できる。
図3Dに示されるような、外部電源72を用いながら、電気的なループが切断されている場合も同様である。
【0028】
すなわち、例えば、交流の外部電源72、スイッチング電源71、腐食センサ基板75、冷却塔76、及びグラウンドを経由する電気的なループを切断し、外部電源72の信号へのノイズの混入を防ぐことにより、腐食速度を精度良く測定することが、本発明の基本となる概念である。
【0029】
〔発明の構成〕
図4は、本発明に係る腐食測定システム100の全体構成を示す。
【0030】
腐食測定システム100は、腐食センサ1と、絶縁容器3と、スイッチング電源6と、ポンプ8とを備える。
【0031】
絶縁容器3は、貯水タンク7内に貯留された水を、貯水タンク7から電気的に分離して収容する。
なお、
図4において、絶縁容器3は、貯水タンク7内に設置されているが、本実施形態はこれには限定されず、貯水タンク7内に貯留された水を、貯水タンク7から電気的に分離して収容する限りは、絶縁容器3は、任意の位置に設置することが可能である。
また、絶縁容器3には排水口31が備わり、後述のようにポンプ8を用いて絶縁容器3に汲み上げられる水を、オーバーフローすることが可能である。なお、このオーバーフローは、水滴がつながらないように実施されることにより、上記の電気的なループが切断された状態が維持される。
【0032】
腐食センサ1は、腐食センサ基板10と電極20とを備える。
電極20は、絶縁容器3に収容される水に浸漬される。腐食センサ基板10は、この電極20を用いて測定した溶液抵抗値と腐食反応抵抗値とから、腐食速度を算出する。
【0033】
スイッチング電源6は接地されており、外部電源5からの交流電力を直流電力に変換して、該直流電力を腐食センサ基板10に供給する。
【0034】
ポンプ8は、貯水タンク7から、絶縁容器3に水を汲み上げる。なお、水の汲み上げは、水滴がつながらないように実施されることにより、上記の電気的なループが切断された状態が維持される。
【0035】
腐食測定システム100が上記の構成を有することにより、当該腐食測定システム100を用いた腐食速度の測定時において、交流の外部電源5、スイッチング電源6、腐食センサ基板10、貯水タンク7、及びグラウンドを経由する電気的なループが切断され、腐食速度を精度良く測定することが可能となる。
【0036】
〔実施形態の効果〕
上述した腐食測定システム100によれば、例えば、以下のような効果が奏される。
本発明の腐食測定システム100は、絶縁容器3と、腐食センサ1と、スイッチング電源6とを備え、絶縁容器3は、貯水タンク7の水を、貯水タンク7の水から電気的に分離して収容し、腐食センサ1は、絶縁容器3に収容される水に浸漬される電極20と、電極20を用いて測定した溶液抵抗値と腐食反応抵抗値とから、腐食速度を算出する腐食センサ基板10とを備える。
【0037】
そのため、腐食センサによる腐食速度の測定時に、電極20を浸漬した絶縁容器3内の水と、貯水タンク7の水との間の接続を切断することにより、電極20、腐食センサ基板10、グラウンドに渡る、電気的なループを遮断して、外部電源からのノイズの影響を除去し、腐食速度を精度良く測定することができる。
【0038】
また、腐食測定システム100は、貯水タンク7から、絶縁容器3に水を汲み上げるポンプ8を更に備える。
【0039】
そのため、絶縁容器3に水を汲み上げる際、ポンプ8を用いることにより、汲み上げ作業を自動化することができる。
【0040】
また、本発明の腐食測定方法は、絶縁容器3が、貯水タンク7の水を、貯水タンク7の水から分離して収容するステップと、接地されたスイッチング電源6が、外部電源5からの交流電力を直流電力に変換して、該直流電力を、腐食センサ1の腐食センサ基板10に供給するステップと、腐食センサ1において、腐食センサ基板10が、絶縁容器3に収容される水に浸漬される電極20を用いて測定した溶液抵抗値と腐食反応抵抗値とから、腐食速度を算出するステップと、を有する。
【0041】
そのため、腐食センサによる腐食速度の測定時に、電極20を浸漬した絶縁容器3内の水と、貯水タンク7の水との間の接続を切断することにより、電極20、腐食センサ基板10、グラウンドに渡る、電気的なループを遮断して、外部電源からのノイズの影響を除去し、腐食速度を精度良く測定することができる。
【0042】
〔変形例〕
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、種々の形態で実施することができる。
【0043】
例えば、上記の実施形態においては、絶縁容器3が、貯水タンク7の水を、貯水タンク7から分離して収容し、腐食センサ基板10が、絶縁容器3に収容される水に浸漬される電極20を用いて測定した溶液抵抗値と腐食反応抵抗値とから、接地された貯水タンクに収容される水の腐食速度を算出するが、これには限られない。例えば、絶縁容器3は、貯水タンク7の水の代わりに、或いは、貯水タンク7の水に加えて、配管の水を、配管の水から分離して収容し、腐食センサ基板10が、この絶縁容器に収容される水に浸漬される電極を用いて測定した溶液抵抗値と腐食反応抵抗値とから、配管を流通する水の腐食速度を算出してもよい。
【0044】
また、例えば、腐食測定システム100を用いて、分極抵抗法により、検査対象水の溶液抵抗値と腐食反応抵抗値とから腐食速度を算出し、この溶液抵抗値が閾値を超えた場合には、公知のクーロスタット法により計測した腐食反応抵抗値を用いて、腐食速度を算出してもよい。
ここで、クーロスタット法とは、ある決まった電荷を電極間に与えた時の、電気の変化を測定することにより、腐食速度を算出する方法である。すなわち、動的な現象を測定するために、電気回路の応答を遅らせてノイズ対策をするという方法は採用できない。この点、本発明の方法を用いたノイズ対策を実施した上で、クーロスタット法により腐食速度を算出することにより、精度良く腐食速度を算出することが可能となる。