特許第6891754号(P6891754)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6891754
(24)【登録日】2021年5月31日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】層状シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20210607BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20210607BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20210607BHJP
【FI】
   H01M4/139
   H01G11/86
   H01G11/50
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-188515(P2017-188515)
(22)【出願日】2017年9月28日
(65)【公開番号】特開2019-67504(P2019-67504A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年6月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】濱口 陽平
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐良
(72)【発明者】
【氏名】塩野 憲太朗
(72)【発明者】
【氏名】衣川 達哉
(72)【発明者】
【氏名】河端 栄克
【審査官】 井原 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−103503(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104993094(CN,A)
【文献】 特開2016−146232(JP,A)
【文献】 特開2006−134785(JP,A)
【文献】 特開平10−289708(JP,A)
【文献】 特表平01−503661(JP,A)
【文献】 特表平01−503660(JP,A)
【文献】 米国特許第05100746(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01G 11/50
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のベースフィルムと、前記ベースフィルムの片面に存在するリチウム箔とを有する層状シートの製造方法であって、
前記ベースフィルムとなり得る第1フィルムに、前記リチウム箔となり得るリチウム箔前駆体を重ねて配置する第1配置工程と、
前記リチウム箔前駆体の一縁部における前記第1フィルムとの対向面の少なくとも一部を前記第1フィルムに固定する固定工程と、
前記一縁部における対向面の少なくとも一部を除いた前記リチウム箔前駆体の両面に潤滑液を存在させる潤滑液配置工程と、
前記リチウム箔前駆体に、前記ベースフィルムとなり得る第2フィルムを重ねて、前記第1フィルム及び前記第2フィルムの間にリチウム箔前駆体を挟んだ状態とする第2配置工程と、
前記リチウム箔前駆体の箔面に沿い、かつ前記一縁部が延びる方向と直交する方向のうち、前記一縁部から他縁部に向かう方向を圧延方向としたとき、一対の加圧ロールによって、前記リチウム箔前駆体を前記一縁部から前記圧延方向に圧延してリチウム箔とする圧延工程と、
前記第2フィルムにおける前記一縁部側の一端部を他端部側に折り返した状態で前記圧延方向に移動させ、前記第2フィルムを前記リチウム箔及び前記第1フィルムから剥離する剥離工程と、
を含むことを特徴とする層状シートの製造方法。
【請求項2】
前記固定工程において、前記リチウム箔前駆体の一縁部の対向面は、前記一縁部が延びる方向の全体が前記第1フィルムに固定される請求項1に記載の層状シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状のベースフィルムと、ベースフィルムの片面に存在するリチウム箔とを有する層状シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シート状のベースフィルムと、ベースフィルムの片面に存在するリチウム箔とを有する層状シートが知られている。このような層状シートは、例えば、蓄電装置としての二次電池に使用される電極に用いられる。電極は、金属箔と、金属箔の両面に存在する活物質層と、活物質層の表面に存在するドープ層とを有する。例えば、特許文献1では、ドープ層は、活物質層の表面に層状シートのリチウム箔を転写することで形成される。また、特許文献1には、層状シートの製造方法が開示されている。ベースフィルムとなり得る2枚のフィルムでリチウム箔を挟み、これを一対の加圧ロールによって加圧してリチウム箔を所望の厚みに圧延する。その後、2枚のフィルムのうち、一方のフィルムを他方のフィルムから剥離する。これにより、層状シートが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−289708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような層状シートの製造方法では、剥離される一方のフィルムとともにリチウム箔が他方のフィルムから剥離される場合と、一方のフィルムがリチウム箔及び他方のフィルムから剥離される場合とがある。前者の場合、層状シートは、剥離された一方のフィルムとリチウム箔とで構成され、後者の場合、層状シートは、他方のフィルムとリチウム箔とで構成される。層状シートの構成がどちらになるかは、フィルムを剥離するまで分からない。また、リチウム箔において、一方のフィルムとともに他方のフィルムから剥離される部分と他方のフィルムに残留しようとする部分とが混在する場合には、フィルムを剥離するとリチウム箔が部分的に薄くなったり孔が空いたりしてしまい、好ましくない。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、2枚のフィルムのうち所望する一方のフィルムのみにリチウム箔を存在させることができる層状シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するための層状シートの製造方法は、シート状のベースフィルムと、前記ベースフィルムの片面に存在するリチウム箔とを有する層状シートの製造方法であって、前記ベースフィルムとなり得る第1フィルムに、前記リチウム箔となり得るリチウム箔前駆体を重ねて配置する第1配置工程と、前記リチウム箔前駆体の一縁部における前記第1フィルムとの対向面の少なくとも一部を前記第1フィルムに固定する固定工程と、前記一縁部における対向面の少なくとも一部を除いた前記リチウム箔前駆体の両面に潤滑液を存在させる潤滑液配置工程と、前記リチウム箔前駆体に、前記ベースフィルムとなり得る第2フィルムを重ねて、前記第1フィルム及び前記第2フィルムの間にリチウム箔前駆体を挟んだ状態とする第2配置工程と、前記リチウム箔前駆体の箔面に沿い、かつ前記一縁部が延びる方向と直交する方向のうち、前記一縁部から他縁部に向かう方向を圧延方向としたとき、一対の加圧ロールによって、前記リチウム箔前駆体を前記一縁部から前記圧延方向に圧延してリチウム箔とする圧延工程と、前記第2フィルムにおける前記一縁部側の一端部を他端部側に折り返した状態で前記圧延方向に移動させ、前記第2フィルムを前記リチウム箔及び前記第1フィルムから剥離する剥離工程と、を含むことを要旨とする。
【0007】
これによれば、固定工程において、リチウム箔前駆体の一縁部における第1フィルムとの対向面を第1フィルムに固定している。リチウム箔前駆体と第2フィルムとの間では、リチウム箔前駆体の全面に亘って潤滑液が介在するが、リチウム箔前駆体と第1フィルムとの間では、一縁部の少なくとも一部で潤滑液が介在しない。潤滑液が介在しない部分は、潤滑液が介在する他の部分に比べて、リチウム箔が剥がれにくい。このため、リチウム箔は、潤滑液が介在しない一縁部を含む第1フィルムよりも、潤滑液が全面に介在する第2フィルムから剥がれやすい状態にある。よって、第2フィルムを剥離する際に、リチウム箔が第2フィルムとともに第1フィルムから剥離されることが抑制される。また、第2フィルムを剥離する際に、リチウム箔の一縁部側の一端部から剥離を開始することで、リチウム箔が第1フィルムから剥離されることが抑制される。よって、リチウム箔は、第2フィルムから剥離されるが、第1フィルムからは剥離されず、第1フィルムの一縁部の対向面に固定されたままとすることができる。その結果、リチウム箔を間に挟む2枚のフィルム(第1フィルム及び第2フィルム)のうち、所望する一方のフィルム(第1フィルム)のみにリチウム箔を存在させることができる。
【0008】
また、リチウム箔前駆体の圧延を一縁部と逆側の縁部側から開始する場合、第1フィルムに固定された一縁部が圧延方向の先に存在することによってリチウム箔前駆体の圧延が妨げられることがある。これに対し、リチウム箔前駆体の圧延を一縁部側から開始することで、圧延が妨げられない。よって、リチウム箔前駆体の厚みを均一に薄くすることができる。
【0009】
また、上記層状シートの製造方法は、前記固定工程において、前記リチウム箔前駆体の一縁部の対向面は、前記一縁部が延びる方向の全体が前記第1フィルムに固定されるのが好ましい。
【0010】
これによれば、第1フィルムに対するリチウム箔前駆体の固定状態は、一縁部が延びる方向の一部が第1フィルムに固定されている場合よりも強固になる。よって、リチウム箔が第1フィルムから剥離されることをより抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、2枚のフィルムのうち所望する一方のフィルムのみにリチウム箔を存在させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態の電極の斜視図。
図2】層状シートの平面図。
図3】(a)は層状シートの製造工程図、(b)はドープ層の形成工程図。
図4】第1配置工程を示す斜視図。
図5】(a),(b)は固定工程を示す斜視図。
図6】潤滑液配置工程を示す斜視図。
図7】第2配置工程を示す斜視図。
図8】圧延工程を示す側面図。
図9】剥離工程を示す側面図。
図10】(a)は電極材料配置工程を示す平面図、(b)は電極材料配置工程を示す側面図。
図11】転写工程を示す側面図。
図12】層状シート剥離工程を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、層状シートの製造方法を具体化した一実施形態を図1図12にしたがって説明する。
本実施形態の製造方法によって製造される層状シートは、蓄電装置としての二次電池が備える電極の製造に使用される。二次電池は、図示しないが、外観が角型をなす角型電池であり、リチウムイオン二次電池である。この二次電池は、ケース内に電極組立体を備える。電極組立体は、複数の正極電極と複数の負極電極とを備える。電極組立体は、正極電極と負極電極とが両者の間をセパレータで絶縁した状態で交互に積層されて構成されている。本実施形態では、層状シートは負極電極の製造に使用されるものとする。
【0014】
図1に示すように、負極電極10は、矩形シート状の金属箔11と、金属箔11の両面に存在する負極活物質層12と、負極活物質層12の表面全体を覆うドープ層15とを備える。負極電極10は、その一辺に沿って負極活物質層12が存在せず、金属箔11が露出した未塗工部13を有する。そして、負極電極10において、未塗工部13の一部には、負極タブ14が突出する状態に存在する。負極活物質層12は、活物質、導電材、及びバインダを含む。ドープ層15は、後述のリチウム箔22によって構成される。
【0015】
次に、負極電極10の製造方法について説明する。負極電極10の製造方法は、長尺帯状の金属箔11の両面に負極活物質層12を形成する工程と、負極活物質層12が形成された金属箔11を負極電極10の形状に切断し、図10(a)及び図10(b)に示す電極材料16を形成する工程とを備える。また、負極電極10の製造方法は、電極材料16の負極活物質層12の表面にドープ層15を形成する工程を備える。層状シートは、ドープ層15を形成する工程に用いられる。
【0016】
図2に示すように、層状シート20は、矩形シート状のベースフィルム21と、ベースフィルム21の片面に存在する矩形シート状のリチウム箔22とを備える。本実施形態のリチウム箔22の厚みは5μmであり、負極活物質層12の表面に転写されるリチウム箔22の厚みとして要求される1〜20μmを満たす。図10(a)に示すように、リチウム箔22の長手方向の寸法は、電極材料16の長手方向の寸法よりも大きく、ベースフィルム21の長手方向の寸法よりも小さい。また、リチウム箔22の短手方向の寸法は、電極材料16の短手方向の寸法よりも大きく、ベースフィルム21の短手方向の寸法よりも小さい。
【0017】
次に、層状シート20の製造方法について説明する。
図3(a)に示すように、層状シート20の製造方法は、第1配置工程、固定工程、潤滑液配置工程、第2配置工程、圧延工程、及び剥離工程を有する。
【0018】
図4に示すように、第1配置工程は、後にベースフィルム21となり得る矩形シート状の第1フィルム31に、後にリチウム箔22となり得る矩形シート状のリチウム箔前駆体22aを重ねて配置する工程である。第1フィルム31は、図示しない作業台に載置されている。第1フィルム31は、例えばポリエチレンテレフタラート(PET)からなる。第1フィルム31において、作業台と対向する面の逆側の面であり、リチウム箔前駆体22aと対向するコート面31aにはシリコンコートが施されている。本実施形態のリチウム箔前駆体22aの厚みは20μmである。リチウム箔前駆体22aの長手方向及び短手方向はそれぞれ、第1フィルム31の長手方向及び短手方向と一致する。リチウム箔前駆体22aにおいて、長手方向に対をなす一対の短縁部のうち一方の短縁部を一縁部としての第1縁部23とし、他方の短縁部を他縁部としての第2縁部24とする。つまり、第1縁部23及び第2縁部24の延びる方向は、リチウム箔前駆体22aの短手方向と一致する。また、第1縁部23において、第1フィルム31と対向する面を対向面23aとする。リチウム箔前駆体22aにおいて、第1フィルム31と対向する面を第1面22bとし、厚さ方向において第1面22bと反対側の面を第2面22cとする。対向面23aは、第1面22bの一部である。
【0019】
図5(a)及び図5(b)に示すように、固定工程は、リチウム箔前駆体22aの第1縁部23を第1フィルム31に固定する工程である。固定工程は、第1加圧装置51によって行われる。第1加圧装置51は、リチウム箔前駆体22aの第1縁部23の上側に配置される。リチウム箔前駆体22aの第1縁部23、及び第1フィルム31における第1縁部23が重ねられた部分は、第1加圧装置51と作業台との間に位置する。第1加圧装置51は、下降して、リチウム箔前駆体22aの第1縁部23を加圧する。リチウム箔前駆体22aの第1縁部23は、第1フィルム31に向けて押圧される。これにより、リチウム箔前駆体22aの第1縁部23の対向面23aは、第1フィルム31に圧着されて固定される。本実施形態では、第1縁部23の対向面23aは、リチウム箔前駆体22aの短手方向全体が第1フィルム31に固定される。図2、及び図5(b)以降の図では、第1縁部23が第1フィルム31に固定された状態をドットで表している。なお、リチウム箔前駆体22aにおいて第1縁部23を除く他の部分は、第1フィルム31に固定されていない。第1加圧装置51がリチウム箔前駆体22aに与える荷重は、リチウム箔前駆体22aの第1縁部23を第1フィルム31に固定可能な大きさ(例えば、10kN)に設定されている。
【0020】
図6に示すように、潤滑液配置工程は、リチウム箔前駆体22aの両面のうち、対向面23aを除いた全面に潤滑液Lを存在させる工程である。潤滑液Lには、例えば、ヘキサンが用いられる。潤滑液Lは、リチウム箔前駆体22aが第1フィルム31や後述の第2フィルム32に貼り付いて剥がれなくなることを抑制する。潤滑液Lは、第1縁部23を含むリチウム箔前駆体22aの第2面22cの全体に塗布されるとともに、第2面22cに塗布された潤滑液Lは、リチウム箔前駆体22aの厚みを構成する側面を伝って、第2面22cと反対側の第1面22bまで到達する。このとき、リチウム箔前駆体22aの第1縁部23における対向面23aは、第1フィルム31に固定されて密着しているため、第1フィルム31のコート面31aとリチウム箔前駆体22aの第1縁部23との間には潤滑液Lは侵入しない。これにより、第1フィルム31のコート面31aと、第1縁部23の対向面23aを除いたリチウム箔前駆体22aの第1面22bとの間に潤滑液Lが介在する(図示は省略している)。
【0021】
図7に示すように、第2配置工程は、リチウム箔前駆体22aの第2面22cに、ベースフィルム21になり得る第2フィルム32を重ねて、第1フィルム31及び第2フィルム32の間にリチウム箔前駆体22aを挟んだ状態とする工程である。第2フィルム32は、第1フィルム31と同一のフィルムである。すなわち、第2フィルム32は、ポリエチレンテレフタラートからなり、リチウム箔前駆体22aと対向する一方のコート面32aにはシリコンコートが施されている。また、第2フィルム32の長手方向及び短手方向の寸法はそれぞれ、第1フィルム31の長手方向及び短手方向の寸法と同じである。第2フィルム32の長手方向及び短手方向はそれぞれ、第1フィルム31及びリチウム箔前駆体22aの長手方向及び短手方向と一致する。第2フィルム32のコート面32aとリチウム箔前駆体22aの第2面22cとの間には、潤滑液配置工程によりリチウム箔前駆体22aの第1縁部23を含む第2面22cの全面に亘って存在する潤滑液Lが介在することとなる(図示は省略している)。第1フィルム31、第1フィルム31に重ねられたリチウム箔前駆体22a、及びリチウム箔前駆体22aに重ねられた第2フィルム32をまとめて被加圧部材W1とする。
【0022】
図8に示すように、圧延工程は、被加圧部材W1を加圧し、リチウム箔前駆体22aを圧延する工程である。圧延工程には、被加圧部材W1を加圧する第2加圧装置52と、被加圧部材W1を搬送する搬送装置61とが用いられる。第2加圧装置52は、一対の加圧ロール52a,52bを備える。一対の加圧ロール52a,52bは、図示しないモータによって回転する。一対の加圧ロール52a,52bは、上下方向に対をなす。一方の加圧ロール52aは、他方の加圧ロール52bよりも上側に配置される。一方の加圧ロール52aの回転方向は、他方の加圧ロール52bの回転方向と逆方向である。一対の加圧ロール52a,52bによって挟まれた領域を加圧領域P1とする。搬送装置61は、第2加圧装置52よりも搬送方向の上流に配置された第1搬送部61aと、第2加圧装置52よりも搬送方向の下流に配置された第2搬送部61bとを備える。第1搬送部61a及び第2搬送部61bは、例えば、ベルトコンベアである。被加圧部材W1の長手方向は、搬送方向に沿っている。また、被加圧部材W1は、リチウム箔前駆体22aの第2縁部24が第1縁部23よりも搬送方向の上流側に位置するように搬送される。
【0023】
被加圧部材W1は、第1搬送部61aによって加圧領域P1まで搬送され、一対の加圧ロール52a,52b間を通過する。このとき、リチウム箔前駆体22aは、一対の加圧ロール52a,52bによって厚さ方向に押圧される。これにより、リチウム箔前駆体22aは、圧延されて5μmの厚みまで薄くなり、リチウム箔22となる。リチウム箔前駆体22aの圧延が行われる方向(圧延方向)は、リチウム箔前駆体22aの箔面に沿い、かつ第1縁部23が延びる方向と直交する方向のうち、第1縁部23から第2縁部24に向かう方向である。つまり、リチウム箔前駆体22aの圧延は、第1縁部23から第2縁部24に向かって行われる。圧延方向は、被加圧部材W1の長手方向に沿っている。また、圧延方向は、搬送方向と逆方向である。第2加圧装置52が被加圧部材W1に与える荷重は、リチウム箔前駆体22aを所望の厚み(本実施形態では5μm)まで薄くできる大きさ(例えば、30kN)に設定されている。被加圧部材W1は、第2搬送部61bによって後工程(剥離工程)に搬送される。
【0024】
図9に示すように、剥離工程は、リチウム箔22及び第1フィルム31から、第2フィルム32を剥離する工程である。第2フィルム32の長手方向の両端部のうち、リチウム箔22の第1縁部23に近い方の一端部32bを把持し、第2フィルム32を他端部32c側に折り返した状態で圧延方向に移動させる。つまり、第2フィルム32の一端部32bを、リチウム箔22の第2縁部24側に向けて移動させる。このとき、第2フィルム32においてリチウム箔22から剥離された部分と剥離される前の部分とが平行になるように、第2フィルム32を180度折り返すのが好ましい。これにより、第2フィルム32が第1フィルム31及びリチウム箔22から剥離される。そして、図2図10(a)に示すように、第1フィルム31がベースフィルム21になることで、ベースフィルム21と、ベースフィルム21の片面に存在するリチウム箔22とを有する層状シート20が完成する。
【0025】
次に、層状シート20を用いて、電極材料16の負極活物質層12の表面にドープ層15を形成する工程について説明する。図3(b)に示すように、ドープ層15を形成する工程は、電極材料配置工程、転写工程、及び層状シート剥離工程を含む。
【0026】
図10(b)に示すように、電極材料配置工程は、2枚の層状シート20を用意し、各層状シート20のリチウム箔22の間に電極材料16を配置する工程である。このとき、図10(a)に示すように、電極材料16がリチウム箔22の第1縁部23と重ならず、かつ電極材料16の負極活物質層12の全面がリチウム箔22と対向するように配置する。また、電極材料16の長手方向及び短手方向は、層状シート20の長手方向及び短手方向と一致する。なお、図10(a)では、一方の層状シート20のみを図示している。以下、一方の層状シート20、一方の層状シート20に重ねられた電極材料16、及び電極材料16に重ねられた他方の層状シート20をまとめて転写部材W2とする。
【0027】
図11に示すように、転写工程は、電極材料16の負極活物質層12の表面に、層状シート20のリチウム箔22を転写する工程である。転写工程には、転写部材W2を加圧する第3加圧装置53と、転写部材W2を搬送する搬送装置62とが用いられる。第3加圧装置53は、一対の加圧ロール53a,53bを備える。一対の加圧ロール53a,53bは、図示しないモータによって回転する。一対の加圧ロール53a,53bは、上下方向に対をなす。一方の加圧ロール53aは、他方の加圧ロール53bよりも上側に配置される。一方の加圧ロール53aの回転方向は、他方の加圧ロール53bの回転方向と逆方向である。一対の加圧ロール53a,53bによって挟まれた領域を転写領域P2とする。搬送装置62は、第3加圧装置53よりも搬送方向の上流に配置された第1搬送部62aと、第3加圧装置53よりも搬送方向の下流に配置された第2搬送部62bとを備える。第1搬送部62a及び第2搬送部62bは、例えば、ベルトコンベアである。転写部材W2の長手方向は、搬送方向に沿っている。また、転写部材W2は、リチウム箔22の第1縁部23が第2縁部24よりも搬送方向の上流側に位置するように搬送される。
【0028】
転写部材W2は、第1搬送部62aによって転写領域P2まで搬送され、一対の加圧ロール53a,53b間を通過する。このとき、層状シート20のリチウム箔22は、一対の加圧ロール53a,53bによって、電極材料16の負極活物質層12に対して押圧される。これにより、リチウム箔22は、負極活物質層12に転写され、負極活物質層12の表面にはドープ層15が形成される。第3加圧装置53が転写部材W2に与える荷重は、リチウム箔22を負極活物質層12に転写可能な大きさ(例えば、5kN)に設定されている。転写部材W2は、第2搬送部62bによって後工程(層状シート剥離工程)に搬送される。
【0029】
図12に示すように、層状シート剥離工程は、ドープ層15が形成された電極材料16から、各層状シート20を剥離する工程である。なお、図12では、一方の層状シート20を図示し、他方の層状シート20の図示を省略している。層状シート20において、ベースフィルム21と、リチウム箔22のうち負極活物質層12と対向せず、負極活物質層12に転写されなかった余剰部分とが剥離されて、負極電極10が完成する。余剰部分は、リチウム箔22の第1縁部23を含む。
【0030】
次に、本実施形態の効果を作用とともに記載する。
(1)固定工程において、リチウム箔前駆体22aの第1縁部23における第1フィルム31との対向面23aを第1フィルム31に固定している。リチウム箔前駆体22aと第2フィルム32との間では、リチウム箔前駆体22aの全面に亘って潤滑液Lが介在するが、リチウム箔前駆体22aと第1フィルム31との間では、第1縁部23で潤滑液Lが介在しない。潤滑液Lが介在しない部分は、潤滑液Lが介在する他の部分に比べて、リチウム箔22が剥がれにくい。このため、リチウム箔22は、潤滑液Lが介在しない第1縁部23を含む第1フィルム31よりも、潤滑液Lが全面に介在する第2フィルム32から剥がれやすい状態にある。よって、第2フィルム32を剥離する際に、リチウム箔22が第2フィルム32とともに第1フィルム31から剥離されることが抑制される。また、第2フィルム32を剥離する際に、リチウム箔22の第1縁部23側の一端部32bから剥離を開始することで、リチウム箔22が第1フィルム31から剥離されることが抑制される。よって、リチウム箔22は、第2フィルム32から剥離されるが、第1フィルム31からは剥離されず、第1フィルム31の第1縁部23の対向面23aに固定されたままとすることができる。したがって、リチウム箔22を間に挟む2枚のフィルム(第1フィルム31及び第2フィルム32)のうち、所望する一方のフィルム(本実施形態では第1フィルム31)のみにリチウム箔22を存在させることができる。
【0031】
また、リチウム箔前駆体22aの圧延を第1縁部23と逆側の第2縁部24側から開始する場合、第1フィルム31に固定された第1縁部23が圧延方向の先に存在することによってリチウム箔前駆体22aの圧延が妨げられることがある。これに対し、リチウム箔前駆体22aの圧延を第1縁部23側から開始することで、圧延が妨げられない。よって、リチウム箔前駆体22aの厚みを均一に薄くすることができる。
【0032】
(2)リチウム箔前駆体22aの対向面23aは、リチウム箔前駆体22aの短手方向の全体が第1フィルム31に固定されている。このため、第1フィルム31に対するリチウム箔前駆体22aの固定状態は、リチウム箔前駆体22aの短手方向の一部が第1フィルム31に固定されている場合よりも強固になる。よって、リチウム箔22が第1フィルム31から剥離されることをより抑制できる。
【0033】
なお、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
○ 負極活物質層12及びドープ層15は、金属箔11の片面に設けられていてもよい。
【0034】
○ 未塗工部13は、負極タブ14のみから構成されていてもよい。
○ 金属箔11の両面又は片面に存在する負極活物質層12の表面にドープ層15を形成した後で、負極電極10の形状に切断してもよい。この場合、長尺帯状の層状シート20を用いる。
【0035】
○ 上記実施形態の層状シート20は、1枚のベースフィルム21と1枚のリチウム箔22とから構成されていたが、1枚のベースフィルム21と複数枚のリチウム箔22とから構成されていてもよい。この場合、ベースフィルム21の片面に全てのリチウム箔22が存在する。
【0036】
○ 第1フィルム31及び第2フィルム32は、互いに同じ材料であり、圧延工程の際にリチウム箔前駆体22aを補強できるものあれば、ポリエチレンテレフタラート(PET)に限定されない。例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等でもよい。
【0037】
○ 潤滑液Lは、ヘキサンに限定されない。潤滑液Lは、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ナノン、デカン、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、フルオロエチルメチルカーボネート、ジフルオロエチルメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、アクリロニトリル、ジメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、N,N−ジメチルアセトアミド、イソプロピルイソシアネート、n−プロピルイソシアネート、クロロメチルイソシアネート、ジメチルアセタール、ジエチルエーテル、メチルイソブチルケトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、プロピオン酸メチル、酢酸ビニル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、グリシジルメチルエーテル、エポキシブタン、2−エチルオキシラン、オキサゾール、2−メチルオキサゾール、オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、無水酢酸、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン、フラン、γ−ブチロラクトン、チオフェン、ピリジン、1−メチルピロリジン、N−メチルモルフォリン等でもよい。また、これらの非プロトン性有機溶媒を2種以上組み合わせてもよい。
【0038】
○ 上記実施形態では、2枚の層状シート20から、1枚の負極電極10のドープ層15を形成したが、2枚の層状シート20から2枚以上の負極電極10のドープ層15を形成してもよい。この場合、リチウム箔22の長手方向の寸法は、2枚分の電極材料16の長手方向の寸法よりも大きいものとする。
【0039】
○ 第1フィルム31の長手方向(短手方向)の寸法は、第2フィルム32の長手方向(短手方向)の寸法と異なっていてもよい。ただし、各フィルム31,32の長手方向及び短手方向の寸法はそれぞれ、リチウム箔22の長手方向及び短手方向よりも大きいものとする。
【0040】
○ 固定工程において、リチウム箔前駆体22aの第1縁部23及び第1フィルム31を挟むように配置された一対の加圧部によって、リチウム箔前駆体22aを第1フィルム31に固定してもよい。
【0041】
○ 第1フィルム31に対するリチウム箔前駆体22aの第1縁部23の固定方法は、圧着に限定されず、他の固定方法(例えば溶着)でもよい。
○ 第2フィルム32を剥離する際に、第2フィルム32とともにリチウム箔22が第1フィルム31から剥離されないのであれば、リチウム箔前駆体22aの第1縁部23の一部を第1フィルム31に固定してもよい。例えば、第1フィルム31に対して第1縁部23を点線状に固定してもよい。
【0042】
○ リチウム箔前駆体22aの短手方向に対をなす一対の長縁部のうち、一方の長縁部を第1フィルム31に固定される一縁部とし、他方の長縁部を他縁部としてもよい。この場合、圧延工程における圧延方向は、リチウム箔前駆体22aの短手方向に沿う。また、リチウム箔前駆体22aは、一方の長縁部から他方の長縁部に向けて圧延される。
【0043】
○ 上記実施形態の圧延工程では、第2加圧装置52に対して被加圧部材W1を移動させていたが、被加圧部材W1に対して第2加圧装置52を移動させてもよい。
○ 上記実施形態の転写工程は、転写部材W2の長手方向の第2縁部24側から第1縁部23側に向けて行われていたが、第1縁部23側から第2縁部24側に向けて行われてもよい。
【0044】
○ 二次電池は、リチウムイオン二次電池以外の他の二次電池であってもよい。
○ 層状シート20は、二次電池以外の蓄電装置(例えばキャパシタ)が備える電極の製造に使用されてもよい。
【0045】
○ 層状シート20は、電極の製造以外に使用されてもよい。
【符号の説明】
【0046】
20…層状シート、21…ベースフィルム、22…リチウム箔、22a…リチウム箔前駆体、23…一縁部としての第1縁部、23a…対向面、24…他縁部としての第2縁部、31…第1フィルム、32…第2フィルム、32b…一端部、32c…他端部、52a,52b…加圧ロール、L…潤滑液。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12