(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属と熱可塑性樹脂部とが一体化されてなる複合成形品の該熱可塑性樹脂部の少なくとも前記金属との接触部を成形するための熱可塑性樹脂組成物であって、下記(a)成分と下記(b)成分とを少なくとも含有し、該(a)成分および(b)成分の双方が、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸でグラフト変性されていることを特徴とする複合成形品用熱可塑性樹脂組成物。
(a)成分:芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマー
(b)成分:エチレン・α−オレフィン共重合体
前記(a)成分と(b)成分との合計100質量部中に、(a)成分を50〜90質量部、(b)成分を10〜50質量部含有する請求項1に記載の複合成形品用熱可塑性樹脂組成物。
前記芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマー中のポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有量が1〜80質量%である請求項3に記載の複合成形品用熱可塑性樹脂組成物。
前記(a)成分および(b)成分の合計100質量部に対するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のグラフト量が0.01〜10質量%である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の複合成形品用熱可塑性樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する各構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。
【0025】
〔複合成形品用熱可塑性樹脂組成物〕
本発明の複合成形品用熱可塑性樹脂組成物(以下、「本発明の熱可塑性樹脂組成物」と称す場合がある。)は、金属と熱可塑性樹脂部とが一体化されてなる複合成形品の該熱可塑性樹脂部の少なくとも前記金属との接触部を成形するための熱可塑性樹脂組成物であって、下記(a)成分と下記(b)成分とを少なくとも含有し、該(a)成分および(b)成分のうちの一方又は双方が、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸でグラフト変性されていることを特徴とする。
(a)成分:芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマー
(b)成分:エチレン・α−オレフィン共重合体
なお、本発明において、グラフト変性に用いられるα,β−エチレン性不飽和カルボン酸は、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の無水物であっても良い。
【0026】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれるα,β−エチレン性不飽和カルボン酸によりグラフト変性された(a)成分および/又は(b)成分をまとめて「グラフト変性エラストマー成分」と称す場合がある。
【0027】
[グラフト変性エラストマー成分]
まず、本発明のグラフト変性エラストマー成分について説明する。
【0028】
グラフト変性エラストマー成分におけるグラフト変性された(a)成分又は(b)成分は、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸を、好ましくはラジカル発生剤の存在下に、(a)成分の芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマー、或いは(b)成分のエチレン・α−オレフィン共重合体にグラフト重合させることにより得られる。
【0029】
<(a)成分:芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマー>
(a)成分の芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、飽和芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーであることが好ましく、特にポリアルキレンエーテルグリコールセグメントを含有する飽和芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0030】
芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントとして芳香族ポリエステルを含有し、ソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルグリコールや脂肪族ポリエステルを含有するブロック共重合体が好ましく、特に、ソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルグリコールを使用した芳香族ポリエステルポリエーテルブロック共重合体が好ましい。
【0031】
芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマー中のポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有量は、通常1質量%以上、好ましくは2質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、また、通常80質量%以下、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマー中のポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有量が多過ぎる場合は、得られる成形体に十分な硬度が発現されず、機械強度が劣ることがあり、逆にこの含有量が少な過ぎる場合は、エラストマー性が低下し、柔軟性や耐衝撃性が不十分となることがある。芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマー中のポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有量は核磁気共鳴スペクトル法(NMR)を使用し、その水素原子の化学シフトとその含有量に基づいて算出するか、或いは赤外分光光度計を用いたIR法にて算出することができる。
【0032】
本発明に好適な芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、
(i)炭素原子数2〜12の脂肪族及び/又は脂環族ジオールよりなるジオール成分と、
(ii)芳香族ジカルボン酸及びこれらのアルキルエステルから選ばれる芳香族ジカルボン酸成分と、
(iii)ポリアルキレンエーテルグリコールと
を原料とし、エステル化反応又はエステル交換反応により得られたオリゴマーを重縮合させたものが挙げられる。
【0033】
(i)の炭素原子数2〜12の脂肪族及び/又は脂環族ジオールとしては、ポリエステルの原料、特に芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーの原料として一般に用いられるものが使用できる。その具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらの中では、1,4−ブタンジオール又はエチレングリコールが好ましく、特に1,4−ブタンジオールが好ましい。
【0034】
これらのジオール成分は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0035】
(ii)の芳香族ジカルボン酸としては、ポリエステルの原料、特に芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーの原料として一般的に用いられているものが使用できる。その具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。これらの中では、テレフタル酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸が好ましい。
【0036】
芳香族ジカルボン酸のアルキルエステルとしては、上記の芳香族ジカルボン酸のジメチルエステルやジエチルエステル等のアルキルエステルが使用される。中でも、ジメチルテレフタレート及び2,6−ジメチルナフタレンジカルボキシレートが好ましい。
【0037】
これらの芳香族ジカルボン酸成分は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0038】
(iii)のポリアルキレンエーテルグリコールとしては、数平均分子量が、通常400以上、好ましくは500以上、更に好ましくは600以上で、通常6,000以下、好ましくは4,000以下、更に好ましくは3,000以下のものが使用される。ポリアルキレンエーテルグリコールの数平均分子量が小さ過ぎる場合は、十分な接着性を発現できない場合があり、大き過ぎる場合は、系内での相分離が起き易く、得られるポリマーの物性が低下する傾向がある。なお、ここで、数平均分子量とはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されたものを言う。GPCのキャリブレーションには、英国POLYMER LABORATORIES社のPOLYTETRAHYDROFURANキャリブレーションキットを使用すればよい。
【0039】
(iii)のポリアルキレンエーテルグリコールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2−プロピレンエーテル)グリコール、ポリ(1,3−プロピレンエーテル)グリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンエーテル)グリコール等が挙げられる。
【0040】
これらのポリアルキレンエーテルグリコールは、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0041】
なお、芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーには、上記(i)〜(iii)の成分以外に3官能以上のアルコールやトリカルボン酸及び/又はそのエステルの1種又は2種以上を少量共重合させてもよく、更に、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸やそのジアルキルエステルをも共重合成分として導入しても良い。
【0042】
(a)成分の芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、材料強度、伸びの観点から、曲げ弾性率(株式会社島津製作所製 オートグラフAG−1000Aによる)が100〜1000MPaで、密度(株式会社東洋精機製作所 自動比重計D−H100による)が0.990〜1.450g/cm
3で、示差走査熱量計による融解ピーク温度が185〜275℃、JIS−D硬度(デュロメータ タイプDによる)が40〜90であるものが好ましい。
【0043】
本発明に好適な芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては市販品を用いることもでき、例えば、LGchem社「KEYFLEX」、三菱化学株式会社製「プリマロイ」等が挙げられる。
【0044】
(a)成分の芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0045】
<(b)成分:エチレン・α−オレフィン共重合体>
(b)成分のエチレン・α−オレフィン共重合体としては特に限定されないが、エチレンに基づく単量体単位の含有量が60〜90質量%、α−オレフィンに基づく単量体単位の含有量が10〜40質量%(但し、エチレンに基づく単量体単位の含有量とα−オレフィンに基づく単量体単位の含有量との合計を100質量%とする。)のものが好ましい。エチレンに基づく単量体単位の含有量が上記下限以上でα−オレフィンに基づく単量体単位の含有量が上記上限以下であると樹脂組成物の微分散性が向上でき、好ましい。また、α−オレフィンに基づく単量体単位の含有量が上記下限以上で、エチレンに基づく単量体単位の含有量が上記上限以下であると材料強度低下が抑制でき、好ましい。
【0046】
エチレン・α−オレフィン共重合体を構成するα−オレフィンとしては炭素数3〜10のα−オレフィン、例えばプロピレン、1−ブテン、2−メチルプロピレン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等を例示することができる。エチレン・α−オレフィン共重合体は、これらのα−オレフィンの1種のみに基づく単量体単位を含むものであってもよく、2種以上に基づく単量体単位を含むものであってもよい。
【0047】
エチレン・α−オレフィン共重合体を構成するα−オレフィンとしては、上記のα−オレフィンのうち、1−オクテン、1−ブテンが機械物性の観点から好ましく、特に1−オクテンが弾性の観点から好ましい。
【0048】
なお、(b)成分のエチレン・α−オレフィン共重合体は、本発明の効果を損なうことのない範囲でエチレンに基づく単量体単位とα−オレフィンに基づく単量体単位に加えて、非共役ジエンに基づく単量体単位等の他の単量体に基づく単量体単位を有していてもよい。該非共役ジエンとしては、1,4−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンのような鎖状非共役ジエン;シクロへキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5−ビニルノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、6−クロロメチル−5−イソプロペニル−2−ノルボルネンのような環状非共役ジエン等が挙げられるが、これらの中でも好ましくは、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエンである。
【0049】
(b)成分のエチレン・α−オレフィン共重合体が非共役ジエン等の他の単量体に基づく単位を有する場合、その含有量は(b)成分全体に対して、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。
【0050】
なお、エチレン・α−オレフィン共重合体中のエチレンに基づく単量体単位やα−オレフィンに基づく単量体単位、その他の単位の含有量は、赤外分光法により求めることができる。
【0051】
また、材料強度と金属との接着力の観点から、(b)成分のエチレン・α−オレフィン共重合体の密度(株式会社東洋精機製作所 自動比重計D−H100による)は0.850〜0.930g/cm
3で引張強度(ASTM D−412による)は1〜100MPaで、JIS−D硬度(デュロメータ タイプDによる)は10〜70の範囲であることが好ましい。
【0052】
(b)成分のエチレン・α−オレフィン共重合体は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0053】
<(a)成分と(b)成分の含有割合>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記(a)成分と(b)成分との合計100質量部に対して、好ましくは(a)成分を50〜90質量部、(b)成分を10〜50質量部含む。(a)成分の含有量が上記下限以上で(b)成分の含有量が上記上限以下であると柔軟性の観点で有利であり、好ましい。一方、(a)成分の含有量が上記上限以下で(b)成分の含有量が上記下限以上であると材料強度の観点で有利であり、好ましい。これらの観点から、各成分の含有量は(a)成分と(b)成分との合計100質量部に対して、より好ましくは(a)成分を55〜85質量部、(b)成分を15〜45質量部、特に好ましくは(a)成分を60〜80質量部、(b)成分を20〜40質量部である。
【0054】
なお、ここで、各成分の含有量は、これらが後述のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸によりグラフト変性される前の芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーおよびエチレン・α−オレフィン共重合体としての含有量である。
【0055】
<α,β−エチレン性不飽和カルボン酸>
(a)成分および/又は(b)成分のグラフト変性に用いるα,β−エチレン性不飽和カルボン酸及びその無水物としては、例えば、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;コハク酸2−オクテン−1−イル無水物、コハク酸2−ドデセン−1−イル無水物、コハク酸2−オクタデセン−1−イル無水物、マレイン酸無水物、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、ブロモマレイン酸無水物、ジクロロマレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、1−ブテン−3,4−ジカルボン酸無水物、1−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸無水物、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物、exo−3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、endo−ビシクロ[2.2.2]オクト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸無水物等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の無水物が挙げられる。
【0056】
これらのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸は、変性すべき(a)成分および/又は(b)成分や変性条件に応じて適宜選択することができ、1種を単独で用いる場合に限らず、2種以上を併用しても良い。
【0057】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸は有機溶剤などに溶解して使用することもできる。
【0058】
<ラジカル発生剤>
(a)成分および/又は(b)成分のグラフト変性に使用するラジカル発生剤としては、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルへキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルオキシ)ヘキサン、3,5,5−トリメチルへキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジブチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、過酸化カリウム、過酸化水素などの有機及び無機の過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(イソブチルアミド)ジハライド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、アゾジ−t−ブタン等のアゾ化合物;ジクミル等の炭素ラジカル発生剤などが挙げられる。
【0059】
上記のラジカル発生剤は、変性反応に供する(a)成分および/又は(b)成分の種類、変性剤としてのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の種類及び変性条件に応じて適宜選択することができ、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0060】
ラジカル発生剤は有機溶剤などに溶解して使用することもできる。
【0061】
<グラフト変性反応>
本発明におけるグラフト変性エラストマー成分を得るための変性反応としては、溶融混練反応法、溶液反応法、懸濁分散反応法など公知の種々の反応方法を使用することができるが、通常は溶融混練反応法が好ましい。
【0062】
溶融混練反応法よる場合は、前記の各成分を所定の配合比にて均一に混合した後に溶融混練すれば良い。混合には、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等が使用され、溶融混練には、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、一軸又は二軸などの多軸混練押出機などが使用される。
【0063】
溶融混練は、(a)成分および/又は(b)成分が熱劣化しないように、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上で、通常300℃以下、好ましくは280℃以下、更に好ましくは270℃以下の範囲で行う。
【0064】
変性剤としてのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の使用量は、変性に供する(a)成分および/又は(b)成分100質量部に対し、通常0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上、更に好ましくは0.1質量部以上で、通常30質量部以下、好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、最も好ましくは1質量部以下である。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の使用量が少な過ぎる場合は、十分な変性が行えず、多過ぎる場合は、使用量に応じた変性率が得られず不経済である。
【0065】
また、ラジカル発生剤の使用量は、変性に供する(a)成分および/又は(b)成分100質量部に対し、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、更に好ましくは0.01質量部以上で、通常3質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、更に好ましくは0.3質量部以下、特に好ましくは0.2質量部以下である。ラジカル発生剤の使用量が少な過ぎる場合は、変性が十分に起こらず、多過ぎる場合は、変性時の低分子量化(粘度低下)が大きく、材料強度が著しく低下してしまう。即ち、この変性反応においては、(a)成分および/又は(b)成分にα,β−エチレン性不飽和カルボン酸が付加するグラフト重合(グラフト変性)反応が主として起こるが、分解反応も起こり、分解により、得られる変性物は、分子量が低下して溶融粘度が低くなる。ラジカル発生剤の使用量が多過ぎると、グラフト重合反応も起こり易いが、同時にこのような溶融粘度低下につながる分解反応も起こり易くなるため、好ましくない。
【0066】
グラフト変性反応は(a)成分にα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とラジカル発生剤を添加して(a)成分に対してのみ行ってもよく、(b)成分にα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とラジカル発生剤を添加して(b)成分に対してのみ行ってもよい。また、グラフト変性反応は(a)成分と(b)成分との混合物にα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とラジカル発生剤を添加して(a)成分および(b)成分に対して行ってもよい。
即ち、本発明におけるグラフト変性エラストマー成分は、グラフト変性された(a)成分とグラフト変性された(b)成分の混合物であってもよく、未変性の(a)成分とグラフト変性された(b)成分との混合物であってもよく、グラフト変性された(a)成分と未変性の(b)成分との混合物であってもよい。また、これらの混合物に更に(a)成分および/又は(b)成分を混合したものであってもよい。
【0067】
<反応生成物>
上述の如く、ラジカル発生剤存在下でのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸による(a)成分および/又は(b)成分の変性処理では、(a)成分および/又は(b)成分にα,β−エチレン性不飽和カルボン酸が付加するグラフト重合反応の他、分解反応や、その他の反応として、エステル交換反応なども起こるものと考えられる。このため、得られる反応生成物は、一般的には、グラフト変性物と共に未反応原料や反応副生物をも含む熱可塑性樹脂組成物である。反応生成物中のグラフト変性物の含有率は、通常10質量%以上、好ましくは30質量%以上であるが、反応生成物はグラフト変性物単独であっても良い。
【0068】
(a)成分および(b)成分の混合物にα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とラジカル発生剤を添加してグラフト変性反応を行って得られた反応生成物は、本発明の複合成形品用熱可塑性樹脂組成物として、そのまま成形に供することができる。
【0069】
本発明の複合成形品用熱可塑性樹脂組成物における変性率(グラフト量)は、(a)成分と(b)成分との合計100質量%に対するグラフト変性で導入されたα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の割合で、下限が通常0.01質量%、好ましくは0.015質量%、更に好ましくは0.02質量%で、上限が通常10質量%、好ましくは7質量%、更に好ましくは5質量%である。グラフト量が少な過ぎる場合は、官能基が少なすぎるために対金属接着性の向上が期待できず、多過ぎる場合は、変性の過程における分子劣化のため材料強度が低下してしまう。
【0070】
ここで、グラフト量とは、(a)成分および/又は(b)成分にグラフト重合したα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の(a)成分及び(b)成分の合計100質量%に対する割合であるが、グラフト量は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0071】
<グラフト変性エラストマー成分の物性>
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれるグラフト変性エラストマー成分のJIS−D硬度(デュロメータ タイプDによる)は、通常10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは20以上で、通常100以下、好ましくは95以下、更に好ましくは90以下である。JIS−D硬度が低過ぎる場合は、このグラフト変性エラストマー成分を含む熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる成形品の機械強度が劣る傾向となり、高過ぎる場合は、柔軟性、耐衝撃性が劣ることがある。
【0072】
また、グラフト変性エラストマー成分のメルトフローレート(MFR:230℃、荷重2.16kg)は、通常1g/10分以上、好ましくは3g/10分以上、更に好ましくは5g/10分以上、通常60g/10分以下、好ましくは55g/10分以下、更に好ましくは50g/10分以下である。MFRが低過ぎる場合は製造コスト悪化につながり、一方高過ぎる場合は成形性、ハンドリングの面で不具合が生じる。
【0073】
なお、JIS−D硬度、MFRは、後述の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0074】
[その他の成分]
熱可塑性樹脂部と金属との接触部を構成する本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、上記のグラフト変性エラストマー成分以外の樹脂成分やゴム成分、或いはフィラーや各種の添加剤等の他の成分が含有されていても良い。例えば、(a)成分や(b)成分以外のその他のポリオレフィン系エラストマー等を配合しても良い。また、天然ゴム、合成ゴム(例えばポリイソプレンゴム)などのゴム成分やプロセスオイル等の軟化剤を配合しても良い。軟化剤はゴム成分の可塑化促進や得られる組成物の流動性を向上させる等の目的で添加される。これらはパラフィン系、ナフテン系、芳香族系のいずれであってもかまわない。
【0075】
フィラーとしては炭酸カルシウム、タルク、シリカ、カオリン、クレー、ケイソウ土、珪酸カルシウム、雲母、アスベスト、アルミナ、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭素繊維、ガラス繊維、ガラス球、硫化モリブデン、グラファイト、シラスバルーン等を挙げることができる。
【0076】
また、添加剤としては耐熱安定剤、耐候安定剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、核剤、滑剤、スリップ剤、ブロッキング防止剤等が挙げられる。耐熱安定剤としてはフェノール系、リン系、硫黄系等の公知のものが使用可能である。また、耐候安定剤としてはヒンダードアミン系、トリアゾール系等の公知のものが使用可能である。着色剤としてはカーボンブラック、チタンホワイト、亜鉛華、べんがら、アゾ化合物、ニトロソ化合物、フタロシアニン化合物等が挙げられる。帯電防止剤、難燃剤、核剤、滑剤、スリップ剤、ブロッキング防止剤、加水分解抑制剤等についてもいずれも公知のものが使用可能である。
【0077】
本発明の熱可塑性樹脂組成物がグラフト変性エラストマー成分以外のその他の成分を含む場合、前述のグラフト変性エラストマー成分による対金属接着性の効果を十分に得る上で、本発明の熱可塑性樹脂組成物中のその他の成分の含有量は20質量%以下であることが好ましい。
【0078】
〔金属基材〕
次に、本発明の複合成形品の金属部を構成する金属基材について説明する。
【0079】
本発明において、金属部を構成する金属基材としては、クロム、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、錫、銅、鉄、ニッケルなどの金属から選ばれた少なくとも1種の金属又はこれらの2種以上の合金で構成されるものが挙げられ、具体的には、熱圧延鋼板、冷延鋼板、ブリキ板、チンフリースチール板、ステンレス鋼板、アルミニウム鋼板などの各種の鋼板(シート)、或いは、亜鉛メッキ鋼板、ニッケルメッキ鋼板などの各種のメッキ鋼板(シート)などが挙げられる。
【0080】
前記金属基材として、より具体的には、鋼板(冷間圧延軟鋼板/ブライト仕上げ/SPCC−S8)、純アルミニウム板(A1050P)、耐食アルミニウム板(ビール/ジュース缶用、A5052P)、ステンレス鋼板(Fe/Cr/Ni合金、SUS304)、純銅板(C1100P)、トタン板(亜鉛メッキ鋼板、SGCC)、ブリキ板(錫メッキ鋼板/0.5mm厚、SPTE)、クロムメッキ板(SPCC−S8にクロムメッキしたもの)、ニッケルメッキ板(SPCC−S8にニッケルメッキしたもの)などを例示することができる。
【0081】
本発明において、前記金属基材は、通常表面を脱脂、洗浄処理した後熱可塑性樹脂との複合化に供されるが、更にその表面をシランカップリング剤で表面処理したものを使用してもよい。前記シランカップリング処理に適用されるシランカップリング剤としては、特に限定されるものではなく、通常のシランカップリング剤を使用することができる。例えば、この種のシランカップリング剤として、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0082】
また、本発明において、前記シランカップリング剤として、前記したシランカップリング剤とアルキルアルコキシシランとの部分縮合物、或いは重合性シランカップリング剤であるγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランと他の(メタ)アクリレートモノマーとの重合体なども使用することができる。
【0083】
シランカップリング処理は、前記した各種のシランカップリング剤の1種又は2種以上を、有機溶剤、水混合溶剤などの溶液とし、これを各種金属基材に塗布、乾燥することにより行われる。
【0084】
なお、本発明に係る金属基材の形状には特に制限はなく、板状(シート状を含む)、立方体、直方体、容器形状、その他、曲線形状等の異形形状であっても良い。
【0085】
〔複合成形品〕
金属と熱可塑性樹脂部とが一体化されてなる本発明の複合成形品は、通常熱可塑性樹脂部に設ける本発明の熱可塑性樹脂組成物を熱溶融状態で上述の金属基材に接触させて熱融着させる方法で、効率的かつ経済的に製造される。
【0086】
本発明の複合成形品の製造には、一般的な合成樹脂の成形法、より具体的には、Tダイラミネート成形法、インサート射出成形法、コアバック射出成形法、サンドイッチ射出成形法、インジェクションプレス成形法などの合成樹脂の成形法を採用することができる。
【0087】
熱融着に際しては、予め本発明の熱可塑性樹脂組成物をシート状等に成形し、成形シートを金属基材に積層して熱プレスする方法等を採用しても良く、また、成形工程で金属基材への熱融着をも行っても良い。例えば、前述の本発明の熱可塑性樹脂組成物を含む成形原料を押出し機から溶融押出し、予熱(例えば160℃に加熱)され走行している金属シートへ押し付けて熱融着被覆層を形成する方法が挙げられる。
また、所望の形状に成形された金属基材を金型内に装着し、これにスクリュータイプの射出成形機により前述の本発明の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形原料を溶融射出し、複合射出成形体とする方法も採用し得る。
【0088】
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物部と金属基材とを熱融着する際の温度は、熱融着の時間や圧力などによっても異なるが、グラフト変性エラストマー成分の融点−10℃以上(融点より10℃低い温度以上)であることが好ましく、グラフト変性エラストマー成分の融点よりも高いことがより好ましく、特に、グラフト変性エラストマー成分の融点+5℃以上(融点より5℃高い温度以上)であることが好ましい。即ち、熱融着温度がグラフト変性エラストマー成分の融点よりも高く、熱融着時にグラフト変性エラストマー成分が溶融して、グラフト変性エラストマー成分の官能基の挙動が活発になることにより、金属基材との界面で強固に接着するようになる。ただし、熱融着温度は過度に高いとグラフト変性エラストマー成分が劣化する傾向にあるため、グラフト変性エラストマー成分の融点+100℃以下(グラフト変性エラストマー成分の融点より100℃高い温度以下)とすることが好ましい。また、熱融着圧力は高い程好ましいが、生産効率や用いる機械の性能等の面から通常0.05〜50MPa程度である。また、熱融着時間も長い程好ましいが、生産効率の面から、通常1秒〜5分程度である。
【0089】
本発明の複合成形品が、板状等の各種形状の金属基材に対して、本発明の熱可塑性樹脂組成物成形部よりなる被覆層を形成したものである場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物成形部よりなる被覆層の厚さは、その保護効果等の面において、1μm以上、特に5〜2000μm程度であることが好ましい。
【0090】
ただし、本発明の複合成形品は、金属基材に対して、本発明の熱可塑性樹脂組成物よりなる被覆層が形成されたものに何ら限定されず、本発明の熱可塑性樹脂組成物成形部と金属部とが一体化されているものであれば、各部の形状及び全体形状に何ら制限はない。従って、板状以外の形状の金属基材に対して、層状以外の形状の本発明の熱可塑性樹脂組成物部が一体化されているものであっても良い。また、この本発明の熱可塑性樹脂組成物部の表面(金属基材と反対側の面)に、外観や意匠性、表面の物理的特性の改善のために、塗装による塗膜層が形成されたものであっても良く、この場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、塗膜層との密着性にも優れるという利点を有する。
【0091】
この場合、塗装に使用される塗料としては、一般に広く用いられる塗料、例えば、アクリル系塗料、エポキシ系塗料、ポリエステル系塗料、ウレタン系塗料、アルキッド系塗料、メラミン系塗料などを挙げることが出来る。これらの中では、アクリル系塗料、ポリエステル系塗料、ウレタン系塗料、特にウレタン系塗料がグラフト変性エラストマー成分の官能基との親和性が高く、密着性がさらに良いため好適である。これらの塗料は2液型、1液型のいずれでも良い。
【0092】
本発明の熱可塑性樹脂組成物成形部にこのような塗料を塗布する方法としては一般に行われている方法が採用可能であり、例えばスプレーガンを用いて塗布する方法、刷毛塗りによる方法、ロールコーター等を用いる方法がある。
【0093】
塗膜の厚さは複合成形品の使用目的に応じて変化させることが可能であり特に制限はないが、通常乾燥後において1〜500μmの範囲である。
【0094】
なお、上記塗料で形成した塗膜の上に、さらに塗料を塗布しても良い。この上塗り塗料としては例えば、アクリル系塗料、フッ素系塗料、シリコン系塗料、アルキド系塗料等が挙げられる。
【0095】
塗装に当たり、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、塗料に対して優れた密着性を有するため、プライマー処理やコロナ放電処理等の前処理を行うことなく、優れた塗膜密着性を得ることができる。従って、塗装を行う際に、これらの前処理を省いて塗装工程の削減や作業環境の改善を図ることができるが、本発明において、プライマー処理、コロナ放電処理等の前処理を排除するものではなく、これらの前処理を行うことにより、より一層優れた塗膜密着性を得ることができる。
【0096】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物成形部の金属基材と反対側の面には、本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂層が積層されていても良い。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、金属のみならず、熱可塑性樹脂に対しても良好な接着性を有し、一体性に優れた積層複合成形品が得られる。この場合、積層される熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、グラフト変性前の前述の芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマー、芳香族ビニル炭化水素−共役ジエン共重合体等の1種又は2種以上の熱可塑性樹脂が挙げられ、本発明の熱可塑性樹脂組成物と熱可塑性樹脂との積層体は、二層成形等による一体成形で、また、別々に成形されたものを接着又は融着により接合することにより形成することができる。
【0097】
このような積層構造とされる場合、前述の被覆層と同様な理由から、金属基材と熱可塑性樹脂の積層部との間に介在する本発明の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形部の厚さは5μm以上であることが好ましい。
【0098】
〔用途〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、その金属に対する優れた接着性から、各種金属部材に、表面保護作用、緩衝作用、吸音作用、振動吸収作用、装飾作用等の機能性を有する被覆層を形成して、種々の用途において機能性を改善することができる。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の金属と熱可塑性樹脂との双方に対する優れた接着性を利用して、金属と金属との接着剤、金属と熱可塑性樹脂との接着剤としての応用も可能であり、従って、本発明の複合成形品は、金属/本発明の熱可塑性樹脂組成物/金属、或いは金属/本発明の熱可塑性樹脂組成物/他の熱可塑性樹脂の積層構造を有する複合成形品とすることもできる。
【0099】
このように金属と熱可塑性樹脂とを一体化してなる本発明の複合成形品は、種々の目的に応じて構成することができる。以下、用途に応じて本発明の複合成形品の応用例について説明するが、その応用例は以下の説明に限定されないことはいうまでもないことである。
【0100】
(1)各種のマグネシウム合金製の携帯電子機器分野における複合成形品。
例えば、薄厚のノート型パソコンの筺体は、最近においては軽量化というニーズに答えるために、射出成形機を利用したチクソモールディング法により軽量のマグネシウム合金の射出成形により、或いはダイキャスト法により製造されている。本発明の複合成形品は、前記した筺体や軽量化携帯電子機器へ応用することができる。
【0101】
(2)モータなどから発生する振動を吸収するために、モータなどに適用される金属製固定板として、振動吸収性に優れた本発明の複合成形品を応用することができる。
【0102】
(3)各種の金属製プロテクター(保護カバー)として、その表面の少なくとも一部、例えばコート部に弾性変形能や衝撃の吸収能を持たせるために本発明の複合成形品を応用することができる。
【0103】
(4)消費電力の高いトランシーバーなど熱放射量の大きい各種機器の外装体(本体と蓋体とからなる。)は、プラスチック製にかわって金属製のものが使用されているが、表面に防水能を持たせたり、本体と蓋体との接触による音を消音するために本発明の複合成形品をこの種の外装体に応用することができる。
【0104】
(5)ジョイント部などにおける金属同士の接触による音(騒音)を消音するために、本発明の消音効果に優れた複合成形品を応用することができる。なお、この種の応用面においては、防水性、浸水防止性などが同時に改善される。
【0105】
(6)金属製のペーパーナイフ、スプーン、フォークなどの把持部にソフト感や高級感をもたせるために、本発明の複合成形品を応用することができる。
【0106】
(7)飲料缶、食料缶などの缶類に本発明の複合成形品を応用することができる。即ち、これらの缶の内部又は外部に表面保護層として複合成形品用熱可塑性樹脂組成物層を形成することができる。
【0107】
(8)金属と熱可塑性樹脂、或いは金属と金属とを接着してこれらの一体化物を製造する場合に本発明の複合成形品の一体化構造を採用することができる。
【実施例】
【0108】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下において、使用原料及び各種測定方法は以下の通りである。
【0109】
[使用原料]
<芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマー>
(a−1):ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート、ソフトセグメントが数平均分子量900のポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールであり、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールの含有量が32質量%の芳香族ポリエステルポリエーテルブロック共重合体(曲げ弾性率:196MPa、密度:1.2g/cm
3、示差走査熱量計による融解ピーク温度:214℃、JIS−D硬度:54)
(a−2):ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート、ソフトセグメントが数平均分子量1800のポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールであり、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールの含有量が65質量%の芳香族ポリエステルポリエーテルブロック共重合体(密度:1.09g/cm
3、示差走査熱量計による融解ピーク温度:185℃、JIS−D硬度:31)
(a−3):ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート、ソフトセグメントが数平均分子量1000のポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールであり、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールの含有量が15質量%の芳香族ポリエステルポリエーテルブロック共重合体(曲げ弾性率:430MPa、密度:1.24g/cm
3、示差走査熱量計による融解ピーク温度:216℃、JIS−D硬度:65)
(a−4):ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート、ソフトセグメントが数平均分子量1700のポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールであり、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールの含有量が64質量%の芳香族ポリエステルポリエーテルブロック共重合体(密度:1.09g/cm
3、示差走査熱量計による融解ピーク温度:197℃、JIS−D硬度:33)
【0110】
<エチレン・α−オレフィン共重合体>
エチレンに基づく単量体単位の含有量が80質量%、1−オクテンに基づく単量体単位の含有量が20質量%(但し、エチレンに基づく単量体単位の含有量と1−オクテンに基づく単量体単位の含有量との合計を100質量%とする。)のエチレン・1−オクテン共重合体(密度:0.902g/cm
3、引張強度:24.8MPa、JIS−D硬度:42)
【0111】
<α,β−エチレン性不飽和カルボン酸成分>
和光純薬工業株式会社製「無水マレイン酸試薬特級」
【0112】
<ラジカル発生剤>
m−トルオイルパーオキサイド/ベンゾイルパーオキサイド混合物(日本油脂株式会社製「ナイパーBMT−K40」)
【0113】
<酸化防止剤>
SONGWON社製「SONGNOX1010」
【0114】
[測定方法]
(1)無水マレイン酸のグラフト量
圧縮成形法にて試験片を作成して、赤外分光光度計を用いたIR法で無水マレイン酸グラフト量を定量した。
【0115】
(2)JIS−D硬度
JIS−K6253に従って、デュロメータ タイプDにより測定した。
【0116】
(3)MFR
JIS−K7210−1に従って、温度230℃、荷重2.16kgで測定した。
【0117】
(4)密着性
複合成形品の熱可塑性樹脂組成物層に、幅10mm×長さ100mmの短冊状の切れ目を入れ、熱可塑性樹脂組成物層を金属板に対して90°方向に引張速度50mm/分で引張試験を行ない、熱可塑性樹脂組成物層と金属板の融着界面の剥離強度を測定した。
この試験で剥離できないものが、最も密着性に優れる。
【0118】
[実施例1]
(a)成分:使用原料(a−1)の芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマー70質量部、(b)成分:エチレン・α−オレフィン共重合体30質量部に対し、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸成分0.5質量部、ラジカル発生剤0.13質量部、酸化防止剤0.1質量部を混合し、これを株式会社JSW製「TEX25α3型混練機」(径25mm、温度180〜230℃)中で溶融混練した後、ペレタイザーを通してペレット化することにより熱可塑性樹脂組成物を製造した。この熱可塑性樹脂組成物のグラフト量は0.09質量%であった。また、得られた熱可塑性樹脂組成物のJIS−D硬度は48であり、MFR(230℃、荷重2.16kg)は16.7g/10分であった。
【0119】
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを、下記の手順でプレス成形して70mm×150mm×0.5mmのシート状に成形し、得られたシートと溶融亜鉛メッキ鋼板(SGCC 70mm×150mm×1.0mm)を重ね合わせ、下記の手順でプレス接着を行った。
【0120】
[プレス成形手順]
(1) 230mm×230mm×0.5mmのスペーサ(金型)に75gのペレットをのせる。
(2) 上記(1)を240℃に加温したプレス成形機の間に挿入し成形機を閉じる。
(3) 加圧せず、240℃で5分保持して加温する。
(4) その後、10MPaの圧力をかけ、3分間保持する。
(5) 圧力を開放し冷却プレス(10〜30℃、水温)に置き換え、10MPaの圧力をかけ、2分以上冷却した後、取り出し、所定の形状に整える。
【0121】
[プレス接着手順]
(1) 1.2mm厚さのスペーサの中で、溶融亜鉛メッキ鋼板の上に先に成形した樹脂シートをのせる。
(2) 上記(1)を所定のプレス接着温度(上側250℃、下側260℃)に加温したプレス成形機の間に挿入し成形機を閉じる。
(3) 圧力をかけずに5分間保持した後、1MPaの圧力を3分間かける。
(4) その後、取り出し、冷却プレスに置き換えて1MPaの圧力をかけて2分以上冷却した後取り出す。
【0122】
このようにして得られた複合成形品について密着性の評価を行い、結果を表1に示した。
【0123】
[比較例1]
使用原料(a−1)の芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーを100質量部用い、エチレン・α−オレフィン共重合体を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、同様に密着性の評価を行って、結果を表1に示した。この時、得られた熱可塑性樹脂組成物のグラフト量は0.05質量%であった。また、得られた熱可塑性樹脂組成物のJIS−D硬度は50で、MFR(230℃、荷重2.16kg)は32.8g/10分であった。
【0124】
[比較例2]
使用原料(a−2)の芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーを50質量部、使用原料(a−3)の芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーを50質量部を用い、エチレン・α−オレフィン共重合体を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、同様に密着性の評価を行って、結果を表1に示した。この時、得られた熱可塑性樹脂組成物のグラフト量は0.08質量%であった。また、得られた熱可塑性樹脂組成物のJIS−D硬度は42で、MFR(230℃、2.16kg荷重)は25.4g/10分であった。
【0125】
[実施例2]
実施例1において、使用原料(a−1)の代わりに、使用原料(a−4)の芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマー70質量部を用いた以外は全て同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、同様に密着性の評価を行って、結果を表1に示した。この時、得られた熱可塑性樹脂組成物のグラフト量は0.15質量%であった。また、得られた熱可塑性樹脂組成物のJIS−D硬度は35で、MFR(230℃、2.16kg荷重)は5g/10分であった。
【0126】
[比較例3]
使用原料(a−4)の芳香族ポリエステル系熱可塑性エラストマーを100質量部用い、エチレン・α−オレフィン共重合体を用いなかったこと以外は実施例2と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、同様に密着性の評価を行って、結果を表1に示した。この時、得られた熱可塑性樹脂組成物のグラフト量は0.12質量%であった。また、得られた熱可塑性樹脂組成物のJIS−D硬度は32で、MFR(230℃、2.16kg荷重)は7g/10分であった。
【0127】
【表1】
【0128】
上記実施例1と比較例1,2との対比並びに実施例2と比較例3との対比より、(a)成分に更に(b)成分を配合してグラフト変性することにより、グラフト変性により導入されたカルボキシル基(−COOH)による金属との優れた親和性と、(b)成分による金属との密着性の向上効果で、対金属接着性が著しく向上し、剥離試験において優れた結果が得られることが明らかである。