特許第6891772号(P6891772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6891772マルチディメンジョナルガスクロマトグラフ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6891772
(24)【登録日】2021年5月31日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】マルチディメンジョナルガスクロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/46 20060101AFI20210607BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20210607BHJP
   G01N 30/54 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   G01N30/46 A
   G01N30/26 M
   G01N30/54 F
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-225311(P2017-225311)
(22)【出願日】2017年11月24日
(65)【公開番号】特開2019-95308(P2019-95308A)
(43)【公開日】2019年6月20日
【審査請求日】2020年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】芝本 繁明
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2017/0248558(US,A1)
【文献】 特開2009−121970(JP,A)
【文献】 特開平09−145674(JP,A)
【文献】 特開平10−319002(JP,A)
【文献】 特開2000−187027(JP,A)
【文献】 特開2010−271241(JP,A)
【文献】 米国特許第05492555(US,A)
【文献】 中国特許出願公開第1395098(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を注入するための試料注入部と、
前記試料注入部と連通し、前記試料注入部から注入された試料を分離するための第1分析カラムと、
前記第1分析カラムで分離された試料成分を検出するための検出器と、
前記第1分析カラムとは別に設けられた第2分析カラムと、
前記第1分析カラムの出口側に接続され、前記第1分析カラムを経た試料を前記検出器又は前記第2分析カラムのいずれか一方へ導くように構成されたスイッチングデバイスと、
前記スイッチングデバイスの温度を前記第1分析カラム及び前記第2分析カラムから独立して所定温度に調節するように構成されたスイッチングデバイス温度調節部と、を備え
前記第1分析カラムを内部に収容して前記第1分析カラムの温度を制御するための第1カラムオーブン、及び前記第2分析カラムを内部に収容して前記第2分析カラムの温度を制御するための第2カラムオーブンを備え、
前記スイッチングデバイス温度調節部は、前記第1カラムオーブン内又は前記第2カラムオーブン内に設けられ、断熱材で覆われた空間内に前記スイッチングデバイスを収容して前記空間内の温度を前記第1カラムオーブン内及び前記第2カラムオーブン内の温度から独立して調節するように構成されたものである、マルチディメンジョナルガスクロマトグラフ。
【請求項2】
前記第1カラムオーブン及び前記第2カラムオーブンの外側へ露出した配管の温度を所定温度に調節するための配管温度調節部を備え、
前記スイッチングデバイス温度調節部は前記配管温度調節部と一体的に設けられ、前記配管の温度と前記スイッチングデバイスの温度を共通のヒータを用いて前記所定温度に調節するように構成されている、請求項に記載にマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチディメンジョナルガスクロマトグラフ(以下、マルチディメンジョナルGCと称する。)に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中の成分の定量分析を行なうための装置としてガスクロマトグラフが知られている。ガスクロマトグラフは、試料注入部から注入された試料を気化して分析カラムへ導入し、分析カラムにおいて分離された各成分を検出器によって検出するものである。しかしながら、試料によっては1本の分析カラムで各成分を完全分離することができないような場合もある。そのような場合には、マルチディメンジョナルGCを用いることが非常に有用である。
【0003】
マルチディメンジョナルGCは、互いに独立して温度調節がなされる第1分析カラム及び第2分析カラムをもち、第1分析カラムを経た流体の一部を切り取って第2分析カラムに導入することができるように構成されている(特許文献1を参照。)。第1分析カラムと第2分析カラムとで分離媒体や温度条件を変えることにより、第1分析カラムでは完全に分離しきれなかった試料成分を第2分析カラムにおいて完全に分離することができる。
【0004】
このようなマルチディメンジョナルGCでは、第1分析カラムを経た流体を第2分析カラムへ導くか否かをスイッチングデバイスによって制御する。スイッチングデバイスには、ディーンズ方式やマルチディーンズ方式と呼ばれる方式が採用されたデバイスが一般的に用いられている(特許文献2を参照。)。
【0005】
ディーンズ方式やマルチディーンズ方式のスイッチングデバイスは、第1分析カラムの出口が接続された第1空間と第2分析カラムの入口が接続された第2空間に、ガス供給源からのスイッチングガスを分配して供給し、その分配率を調節することによって第1空間と第2空間との間の圧力バランスを変化させ、第1分析カラムの出口からの流出流体を第2分析カラムへ導くか否かを切り替えるように構成されたものである。
【0006】
第1分析カラムから流出した試料成分を検出するための検出器は第1空間に接続されており、第2空間側の圧力が第1空間側の圧力よりも高いときは、第1分析カラムの出口から流出したガスが第2空間側へ流れることなく検出器側へ流れる。逆に、第1空間側の圧力が第2空間側の圧力よりも高いときは、第1分析カラムの出口から流出したガスが検出器側へ流れずに第2空間側へ流れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−271241号公報
【特許文献2】特開2006−064646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マルチディメンジョナルGCでは、スイッチングデバイスによって切り取られるべき溶出成分ピークの回収率(以下、スイッチング回収率と称する。)を高めることは、分析精度の向上を図る上で重要である。第2分析カラムへ導入すべき第1分析カラムからの溶出成分ピークの一部が検出器へ流れてスイッチング回収率が低くなると、第2分析カラムで分離された試料成分のピーク面積が本来のものよりも小さくなり、ピーク成分の定量を正確に行なうことができなくなる。
【0009】
従来のマルチディメンジョナルGCでは、スイッチングデバイスにおける第1空間と第2空間との間の圧力バランスが何らかの要因によって変動し、スイッチング回収率が低下するという問題があった。第1分析カラムからの溶出成分ピークを第2分析カラムへ導く際の第1空間と第2空間との間の圧力差を大きくすれば、第1分析カラムからの溶出成分ピークを確実に第2分析カラム側へ導くことができ、スイッチング回収率を高くすることができる。そのため、スイッチングガス圧力を高くして第1空間と第2空間との間の圧力差を大きくすることが考えられる。
【0010】
しかし、スイッチングガス圧力を高くすると、高いスイッチング回収率が得られる一方で、第2分析カラムの入口圧が高くなって第2分析カラム内におけるキャリアガス線速度が高くなり、最適な分離能を示す条件から大きく乖離した条件で第2分析カラムにおける分離を行なわざるを得なくなるという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、第2分析カラムにおける分離能を低下させることなくスイッチング回収率の低下を抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、スイッチングデバイスの温度変動によるスイッチングデバイス内の圧力バランスの変化に着目した。従来のマルチディメンジョナルGCでは、第1分析カラムを収容する第1カラムオーブン内にスイッチングデバイスが収容されていることが多い。この場合、第1分析カラムの温調プログラムにしたがってスイッチングデバイスの温度も時間変化する。スイッチングデバイスの温度が変化すると、スイッチングデバイス内の流体抵抗のバランスも変化し、設計通りの圧力バランスが得られなくなって分析中にスイッチング回収率が変化するということがわかった。さらに、スイッチングデバイスの温度が低いほどスイッチング回収率が悪く、昇温分析の初期温度でスイッチング回収率が最も低くなるということがわかった。しかし、分析カラムの初期温度等の温調プログラムは分離に対する影響が分析条件の中で最も大きいため、スイッチング回収率の向上のために温調プログラムを変更することは困難である。本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【0013】
本発明に係るマルチディメンジョナルGCは、試料を注入するための試料注入部と、前記試料注入部と連通し、前記試料注入部から注入された試料を分離するための第1分析カラムと、前記第1分析カラムで分離された試料成分を検出するための検出器と、前記第1分析カラムとは別に設けられた第2分析カラムと、前記第1分析カラムの出口側に接続され、前記第1分析カラムを経た試料を前記検出器又は前記第2分析カラムのいずれか一方へ導くように構成されたスイッチングデバイスと、前記スイッチングデバイスの温度を前記第1分析カラム及び前記第2分析カラムから独立して所定温度に調節するように構成されたスイッチングデバイス温度調節部と、を備えたものである。
【0014】
すなわち、本発明に係るマルチディメンジョナルGCでは、スイッチングデバイスの温度が、第1分析カラムに対する温調プログラムや第2分析カラムに対する温調プログラムの影響を受けることなく、所定温度で一定に維持される。これにより、スイッチングデバイス内における流体抵抗バランス及び圧力バランスが安定するので、スイッチング回収率の低下が抑制される。
【0015】
マルチディメンジョナルGCは、一般的に、前記第1分析カラムを内部に収容して前記第1分析カラムの温度を制御するための第1カラムオーブン、及び前記第2分析カラムを内部に収容して前記第2分析カラムの温度を制御するための第2カラムオーブンを備えているが、そのような場合には、前記スイッチングデバイス温度調節部は前記第1カラムオーブン及び前記第2カラムオーブンの外側に設けられていてもよい。
【0016】
また、マルチディメンジョナルGCとしては、前記試料注入部と前記第1分析カラムとの間、前記第1分析カラムと前記スイッチングデバイスとの間、前記スイッチングデバイスと前記検出器との間、及び前記スイッチングデバイスと前記第2分析カラムとの間をそれぞれ接続する配管の温度を所定温度に調節するためのインターフェイスオーブンを備えたものも存在する。そのような場合には、前記インターフェイスオーブン内に前記スイッチングデバイスを収容し、前記スイッチングデバイス温度調節部を前記インターフェイスオーブンによって実現してもよい。
【0017】
また、前記スイッチングデバイス温度調節部は、前記第1カラムオーブン内又は前記第2カラムオーブン内に設けられ、断熱材で覆われた空間内に前記スイッチングデバイスを収容して前記空間内の温度を前記第1カラムオーブン内及び前記第2カラムオーブン内の温度から独立して調節するように構成されたものであってもよい。
【0018】
また、マルチディメンジョナルGCには、前記第1カラムオーブン及び前記第2カラムオーブンの外側へ露出した配管の温度を所定温度に調節するための配管温度調節部を備えたものも存在する。そのような場合には、前記スイッチングデバイス温度調節部を前記配管温度調節部と一体的に設け、前記配管の温度と前記スイッチングデバイスの温度を共通のヒータを用いて前記所定温度に調節することができる。スイッチングデバイスの温度調節を行なうための専用のヒータを設ける必要がないので、コストの低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るマルチディメンジョナルGCでは、スイッチングデバイスの温度が、第1分析カラムに対する温調プログラムや第2分析カラムに対する温調プログラムの影響を受けることなく所定温度で一定に維持されるので、スイッチングデバイス内における流体抵抗バランス及び圧力バランスが安定し、スイッチング回収率の低下が抑制される。スイッチングデバイスのスイッチングガスの流量を必要以上に高くする必要がないので、第2分析カラムにおいて良好な分離能が得られる条件で試料成分の分離を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】マルチディメンジョナルGCの一実施例を示す概略構成図である。
図2】マルチディメンジョナルGCの他の実施例を示す概略構成図である。
図3図1の実施例において、インターフェイスオーブンの設定温度を60℃にした場合と150℃にした場合の第1検出器及び第2検出器の信号波形の比較データである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に、マルチディメンジョナルGCの一実施例の概略構成を示す
【0022】
この実施例のマルチディメンジョナルGC1は、主として、第1カラムオーブン2、第2カラムオーブン4、試料注入部6(INJ)、第1検出器8(DET1)、第2検出器10(DET2)、スイッチングデバイス12、制御部14、及びインターフェイスオーブン36を備えている。
【0023】
第1カラムオーブン2及び第2カラムオーブン4はカートリッジ型であり、それぞれの内部にチップ型の第1分析カラム16及び第2分析カラム20が収容されている。第1分析カラム16及び第2分析カラム20は、例えば平板上の基板内に形成された流路に分離媒体が塗布されて構成されたものである。
【0024】
第1分析カラム16及び第2分析カラム20のそれぞれにヒータ18及び22が直接的に又は間接的に接している。第1分析カラム16、第2分析カラム20の温度はそれぞれヒータ18、22によって独自に調節されるように構成されている。図示されていないが、第1カラムオーブン2及び第2カラムオーブン4は、第1分析カラム16及び第2分析カラム20の温度を検出するための温度センサを備えており、温度センサの出力信号が制御部14に取り込まれる。
【0025】
制御部14は、第1カラムオーブン2及び第2カラムオーブン4の各温度センサの出力に基づいて、第1分析カラム16及び第2分析カラム20の温度がそれぞれ予め設定された温調プログラムに沿った温度になるように、ヒータ18、22の出力を制御するように構成されている。
【0026】
第1分析カラム16の入口は配管26を介して試料注入部6と接続されており、第1分析カラム16の出口は配管28を介してスイッチングデバイス12と接続されている。スイッチングデバイス12には、配管30を介して第1検出器8が接続されているとともに、配管32を介して第2分析カラム20の入口が接続されている。第2分析カラム20の出口は配管34を介して第2検出器10と接続されている。
【0027】
スイッチングデバイス12はディーンズ方式又はマルチディーンズ方式のスイッチング構造が採用されたものである。スイッチングデバイス12にはガス供給源24(APC)からスイッチングガスが供給され、スイッチングガスの供給経路を切り替えることによって、第1分析カラム16の出口からのガスを、第1検出器8側へ導くか、又は第2分析カラム20の入口側へ導くかが切り替えられる。スイッチングデバイス12の動作は制御部14によって制御される。
【0028】
スイッチングデバイス12は、配管26、28、30、32、34などの配管とともにインターフェイスオーブン36内に収容されている。図示は省略されているが、インターフェイスオーブン36内にはヒータ、ファン、温度センサが設けられている。インターフェイスオーブン36内の温度は温度センサによって検出され、温度センサの出力信号が制御部14に取り込まれる。制御部14は、インターフェイスオーブン36内の温度が予め設定された温度で一定に維持されるように、インターフェイスオーブン36内のヒータ出力やファンの回転数を制御するように構成されている。この実施例では、インターフェイスオーブン36が、スイッチングデバイス12の温度を第1分析カラム16及び第2分析カラム20から独立して所定温度に調節するためのスイッチングデバイス温度調節部を構成している。
【0029】
ここで、制御部14は、専用のコンピュータ又は汎用のパーソナルコンピュータにおいてプログラムが演算素子によって実行されることで実現される機能である。
【0030】
この実施例のマルチディメンジョナルGC1の動作について説明する。
【0031】
分析対象の試料は試料注入部6を通じて注入される。試料注入部6は内部に試料を気化させる試料気化部をもち、試料気化部で気化した試料が試料注入部6に供給されるキャリアガスとともに配管26を通じて第1分析カラム16に導入される。第1分析カラム16で分離された試料成分は配管28、スイッチングデバイス12を経て第1検出器8に導入され、検出される。第1検出器8は、例えば水素炎イオン化検出器(FID)である。
【0032】
第1分析カラム16で完全分離されない成分が存在する場合、ユーザがそのピーク部分を予め指定しておくことで、第1分析カラム16からの流出ガスのうち指定されたピーク部分を切り取って第2分析カラム20へ導入するように、制御部14がスイッチングデバイス12の動作を制御する。第2分析カラム20へ導かれた溶出成分は第2分析カラム20において分離し、第2検出器10に導入されて検出される。第2検出器10は、例えばFIDである。
【0033】
このように、マルチディメンジョナルGC1は、スイッチングデバイス12を切り替えることによって第1分析カラム16からの流出ガスの一部を切り取って第2分析カラム20へ導いて分離するものであるが、第1分析カラム16からの流出ガスの一部を切り取る際の切り取られるべきピーク成分の回収率(スイッチング回収率)が問題となる。スイッチングデバイス12内の圧力バランスが変動すると、スイッチングデバイス12において第2分析カラム20側へ導くべき溶出成分の一部が第1検出器8側へ流れてしまい、スイッチング回収率が悪化する。
【0034】
この実施例では、スイッチングデバイス12が設けられているインターフェイスオーブン36内の温度は、第1カラムオーブン2及び第2カラムオーブン4から独立して所定温度に調節され、第1カラムオーブン2及び第2カラムオーブン4の温調プログラムの影響を受けないようになっている。このため、スイッチングデバイス12の温度が一定に維持され、スイッチングデバイス12内の圧力バランスが安定する。
【0035】
また、スイッチング回収率は、スイッチングデバイス12の温度が高いほど良好であることが経験的にわかっているので、インターフェイスオーブン36内の温度を高い温度(例えば、150℃)に設定しておくことで、高いスイッチング回収率が得ることができる。
【0036】
図3は、インターフェイスオーブン36の設定温度を60℃にした場合と150℃にした場合の第1検出器8及び第2検出器10の信号波形の比較データである。図3の上段は、インターフェイスオーブン36の設定温度を60℃にしたときの第1検出器8(左側)と第2検出器10(右側)の信号波形であり、下段はインターフェイスオーブン36の設定温度を150℃にしたときの第1検出器8(左側)と第2検出器10(右側)の信号波形である。第1検出器8の波形において破線で囲まれた部分は、スイッチングデバイス12によって切り取られたピーク部分であり、第2検出器10はスイッチングデバイス12によって切り取られたピーク部分の検出信号波形である。図3の上段と下段のインターフェイスオーブン36の温度以外の分析条件は同じである。
【0037】
図3の上段左側の波形からわかるように、インターフェイスオーブン36の設定温度が60℃のときは、第2検出器10側へ導くべき溶出成分の一部が第1検出器8側へ流れており、それが破線で囲われた切取り部分の小さなピークとして現れている。これに対し、インターフェイスオーブン36の設定温度が150℃のときは、破線で囲われた切取り部分にピークが現れず、切り取られるべき溶出成分のすべてが第2検出器10側へ導かれていることがわかる。
【0038】
このように、スイッチングデバイス12の温度を第1分析カラム2及び第2分析カラム4から独立して高い温度で維持させることで、高いスイッチング回収率を得ることができる。これにより、必要以上にスイッチングガス圧力を高める必要もなく、最適な分離条件で第2分析カラム4での分離を行なうことができる。
【0039】
なお、上記の実施例では、スイッチングデバイス12をインターフェイスオーブン36内に収容することでスイッチングデバイス12の温度の安定を図っているが、本発明はこれに限定されるものではなく、スイッチングデバイス12の温度を第1分析カラム2及び第2分析カラム4から独立して調節することができる構成であれば、いなかる構成であってもよい。
【0040】
次に、図1の実施例とは別の構造をもつマルチディメンジョナルGCの一実施例について、図2を用いて説明する。
【0041】
この実施例のマルチディメンジョナルGC100は、主として、第1カラムオーブン102、第2カラムオーブン104、試料注入部106(INJ)、第1検出器108(DET1)、第2検出器110(DET2)、スイッチングデバイス112、及び制御部114を備えている。
【0042】
第1カラムオーブン102内に第1分析カラム116が収容されており、第2カラムオーブン104内に第2分析カラム120が収容されている。図示は省略されているが、第1カラムオーブン102及び第2カラムオーブン104のそれぞれはの内部にヒータ、ファン、温度センサが設けられており、第1カラムオーブン102内の温度と第2カラムオーブン104内の温度は互いに独立して調節されるように構成されている。
【0043】
第1カラムオーブン102及び第2カラムオーブン104のそれぞれに設けられている温度センサの出力信号は制御部114に取り込まれる。制御部114はそれらの温度センサの出力に基づいて、第1カラムオーブン102内の温度、及び第2カラムオーブン104内の温度がそれぞれ予め設定された温調プログラムに沿った温度になるように、第1カラムオーブン102及び第2カラムオーブン104のそれぞれのヒータの出力やファンの回転数を制御するように構成されている。
【0044】
第1分析カラム116の入口は配管126を介して試料注入部106と接続されており、第1分析カラム116の出口は配管128を介してスイッチングデバイス112と接続されている。スイッチングデバイス112には、配管130を介して第1検出器108が接続されているとともに、配管132及び133を介して第2分析カラム120の入口が接続されている。第2分析カラム120の出口は配管134を介して第2検出器110と接続されている。
【0045】
配管133は第1カラムオーブン102と第2カラムオーブン104との間を連結するものであり、外気の温度変動の影響を受けないように配管温度調節部140内に収容されている。配管温度調節部140は、内部にヒータ142が埋設された熱伝導性の金属ブロックからなる。配管温度調節部140には温度センサ144が取り付けられており、温度センサ144の出力信号が制御部114に取り込まれるようになっている。制御部114は温度センサ144の出力信号に基づいて、配管133の温度が所定温度で一定に維持されるようにヒータ142の出力を制御するように構成されている。
【0046】
スイッチングデバイス112は、図1のマルチディメンジョナルGC1のスイッチングデバイス12と同様のディーンズ方式又はマルチディーンズ方式のスイッチング構造が採用されたものである。スイッチングデバイス112にはガス供給源124(APC)からスイッチングガスが供給され、スイッチングガスの供給経路を切り替えることによって、第1分析カラム116の出口からのガスを、第1検出器108側へ導くか、又は第2分析カラム120の入口側へ導くかが切り替えられる。スイッチングデバイス112の動作は制御部114によって制御される。
【0047】
スイッチングデバイス112は、スイッチングデバイス温度調節部136内に収容された状態で第1カラムオーブン102内に設けられている。スイッチングデバイス温度調節部136は断熱材138で囲われた空間を内部に有し、その空間内にスイッチングデバイス112を収容している。この実施例では、スイッチングデバイス温度調節部136は配管温度調節部140と一体的に設けられており、配管温度調節部140の熱によってスイッチングデバイス112の温度を所定温度で一定に維持するように構成されている。スイッチングデバイス112の周囲が断熱材138で覆われているため、スイッチングデバイス112の温度が第1カラムオーブン102内の温度から独立して所定温度に調節される。
【0048】
ここで、制御部114は、専用のコンピュータ又は汎用のパーソナルコンピュータにおいてプログラムが演算素子によって実行されることで実現される機能である。
【0049】
この実施例のマルチディメンジョナルGC100は、図1のマルチディメンジョナルGC1と同様の動作を行なう。すなわち、試料注入部106を通じて注入された試料は、気化した状態でキャリアガスとともに配管126を通じて第1分析カラム116に導入され、第1分析カラム116で分離された試料成分が配管128、スイッチングデバイス112を経て第1検出器108に導入され、検出される。第1検出器108は、例えばFIDである。
【0050】
第1分析カラム116で完全分離されない成分が存在する場合には、ユーザがそのピーク部分を予め指定しておくことで、第1分析カラム116からの流出ガスのうち指定されたピーク部分を切り取って第2分析カラム120へ導入するように、制御部114がスイッチングデバイス112の動作を制御する。第2分析カラム120へ導かれた溶出成分は第2分析カラム120において分離し、第2検出器110に導入されて検出される。第2検出器110は、例えば質量分析計(MS)である。
【0051】
このようなマルチディメンジョナルGC100においても、スイッチングデバイス112の温度が第1カラムオーブン102及び第2カラムオーブン104から独立して所定温度に調節され、第1カラムオーブン102及び第2カラムオーブン104の温調プログラムの影響を受けないようになっている。このため、スイッチングデバイス112の温度が一定に維持され、スイッチングデバイス112内の圧力バランスが安定する。
【0052】
なお、この実施例では、スイッチングデバイス温度調節部136を配管温度制御部140と一体的に構成することにより、ヒータ142の熱を利用してスイッチングデバイス112の温度の安定を図っているが、本発明はこれに限定されるものではなく、スイッチングデバイス温度調節部136が独自にヒータや温度センサを備えていてもよい。また、この実施例では、スイッチングデバイス温度調節部136が第1カラムオーブン102内に設けられているが、スイッチングデバイス温度調節部136は第2カラムオーブン104内に設けられていてもよいし、第1カラムオーブン102及び第2カラムオーブン104の外側に設けられていてもよい。要は、スイッチングデバイス112の温度が第1分析カラム116及び第2分析カラム120から独立して所定温度に調節されるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0053】
1,100 マルチディメンジョナルGC
2,102 第1カラムオーブン
4,104 第2カラムオーブン
6,106 試料注入部
8,108 第1検出器
10,110 第2検出器
12,112 スイッチングデバイス
14,114 制御部
16,116 第1分析カラム
18,22,142 ヒータ
20,120 第2分析カラム
24,124 ガス供給源
26,28,30,32,34,126,128,130,132,134 配管
36 インターフェイスオーブン
136 スイッチングデバイス温度調節部
138 断熱材
140 配管温度調節部
144 温度センサ
図1
図2
図3