(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6891981
(24)【登録日】2021年5月31日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】冷却温調用バイアルホルダ及びその冷却温調用バイアルホルダを用いる試料温度調節装置
(51)【国際特許分類】
B01L 9/06 20060101AFI20210607BHJP
B01L 7/00 20060101ALI20210607BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
B01L9/06
B01L7/00
G01N35/00 B
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2019-568560(P2019-568560)
(86)(22)【出願日】2018年8月22日
(86)【国際出願番号】JP2018031001
(87)【国際公開番号】WO2019150625
(87)【国際公開日】20190808
【審査請求日】2020年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2018-14587(P2018-14587)
(32)【優先日】2018年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆志
【審査官】
池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】
実開平04−007364(JP,U)
【文献】
特開平10−192719(JP,A)
【文献】
特表平10−502733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 1/00−99/00
G01N 35/00−37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液を収容した複数のバイアルをそれぞれ底面側から挿入して上部まで収容するために上方が開口した複数の収容穴を有し、試料温度調節装置の伝熱面上に載置されるバイアルホルダであって、
当該バイアルホルダの下部を構成し、それぞれが前記収容穴の下部を構成して前記収容穴に収容されたバイアルの下部を保持する複数の凹部を有し、前記バイアルの下部と前記伝熱面との間で熱交換を行なわせるための熱伝導性材料からなる熱伝導性ホルダと、
当該バイアルホルダの上部を構成し、前記熱伝導性ホルダの上面と接して当該上面を覆うように配置され、前記収容穴の上部をそれぞれ構成して前記収容穴に収容されたバイアルの上部を保持する複数の貫通孔を有する非熱伝導性材料からなる非熱伝導性ホルダと、を備え、
前記熱伝導性ホルダの側面が断熱性シートによって覆われており、前記熱伝導性ホルダの上面が前記非熱伝導性ホルダによって覆われていることで前記熱伝導性ホルダにおける結露の発生を防止することを特徴とする、冷却温調用のバイアルホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載のバイアルホルダを載置させ、載置されたバイアルホルダの熱伝導性ホルダと接して該熱伝導性ホルダに熱を伝える伝熱面を有する伝熱部材と、
前記伝熱部材を冷却する冷却素子と、を備えた試料温度調節装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液を収容したバイアルを冷却しながら一定温度に調節するための試料温度調節装置及びその試料温度調節装置に使用される冷却温調用バイアルホルダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ(LC)における自動分析は、試料を封入したバイアルをバイアルホルダに保持させ、このバイアルホルダをオートサンプラに設置し、オートサンプラがこのバイアルホルダ上のバイアルから所定のプログラムに従って逐次試料を吸入し、液体クロマトグラフに注入することにより実行される。
【0003】
バイアルホルダは、一般的に、例えば100本程度のバイアルを保持するようになっている。液体クロマトグラフでは、一般的に、1試料に対して数分の分析時間を要するため、バイアルホルダ上の試料によっては少なくとも数時間の分析待ちとなるものがある。分析待ち状態にあるバイアルホルダ上の試料は、多くの場合は室温で保持されるが、試料によっては変質を防ぐために低温に保ったり室温以上の温度(例えば人の体温と同じ37℃)に保ったりすることが必要な場合もある。また、試料溶液を長時間所定の温度に保つことで、試料溶液の変化の有無を確認する場合もあり、その場合には数十時間一定の温度に保つことが必要である。そのため、オートサンプラには、バイアルホルダに保持されたバイアル内の試料の温度を調節するための試料温度調節装置が設けられていることが一般的である(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6170267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高速液体クロマトグラフ(HPLC)では、試料温度調節装置において試料を冷却しながら温度調節を行なう冷却温調がよくなされる。その場合、ペルチェ素子などの冷却素子によって冷却される金属製の伝熱部材上にバイアルホルダを載置し、バイアルホルダを介してバイアルを冷却することが多い。
【0006】
バイアルホルダは、一般的には、ポリプロピレン(PP)などの樹脂によって構成されている。PPなどの樹脂は断熱性効果が高いため、バイアルホルダを試料温度調節装置の伝熱部材上に載置してもバイアルを十分に冷却できない場合がある。
【0007】
一方で、熱伝導性の良好な金属製のバイアルホルダを用いることも考えられる。しかし、金属製のバイアルホルダを試料温度調節装置に設置して冷却すると、結露水がバイアルホルダの上面に溜まり、バイアルホルダを移動させる際などに結露水がこぼれて装置内が濡れてしまうという問題もある。
【0008】
そこで、本発明は、冷却温調用バイアルホルダの上面に結露水が溜まりにくくするとともに、バイアルホルダに保持されたバイアルを十分に冷却できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る冷却温調用のバイアルホルダは、液を収容した複数のバイアルをそれぞれ底面側から挿入するために上方が開口した複数の収容穴を有し、試料温度調節装置の伝熱面上に載置されるものである。当該バイアルホルダは、下部に位置する熱伝導性ホルダと上部に位置する非熱伝導性ホルダを備えている。前記熱伝導性ホルダは熱伝導性材料からなり、前記収容穴に収容されたバイアルの少なくとも底面を支持して前記バイアルの底面と前記伝熱面との間で熱交換を行なわせるためのものである。前記非熱伝導性ホルダは非熱伝導性材料からなり、前記熱伝導性ホルダの上面と接して当該上面を覆うように配置され、前記収容穴の少なくとも一部をそれぞれ構成する複数の貫通孔を有するものである。
【0010】
本発明のバイアルホルダにおいて、前記熱伝導性ホルダの側面が断熱性のシートで覆われていることが好ましい。そうすれば、熱伝導性ホルダの側面で結露が発生することを防止できる。
【0011】
本発明に係る試料温度調節装置は、上記バイアルホルダを載置させ、載置されたバイアルホルダの熱伝導性ホルダと接して該熱伝導性ホルダに熱を伝える伝熱面を有する伝熱部材と、前記伝熱部材を冷却する冷却素子と、を備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバイアルホルダは、下部が熱伝導性材料からなる熱伝導性ホルダによって構成されているので、試料温度調節装置の伝熱部材上に当該バイアルホルダを載置したときに、バイアルと伝熱部材との間で十分に熱交換が行われ、バイアルを十分に冷却することができる。さらに、バイアルホルダの上部は非熱伝導性ホルダで構成されているので、バイアルホルダの上面、すなわち非熱伝導性ホルダの上面が低温にまで冷却されにくく、バイアルホルダの上面に結露水が溜まりにくくなる。熱伝導性ホルダの上面は非熱伝導性ホルダによって覆われているので、熱伝導性ホルダの上面に結露においても結露が発生しにくい。したがって、結露水によって試料温度調節装置内が濡れにくくなる。
【0013】
本発明の試料温度調節装置は、上記冷却温調用バイアルホルダを用いてバイアルの冷却を行なうものであるので、バイアルを十分に冷却しながら、バイアルホルダの上面の結露水によって装置内が濡れることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】バイアルホルダの一実施例を試料温度調節装置とともに示す断面図である。
【
図2】バイアルホルダの他の実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
バイアルホルダ及び試料温度調節装置の一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1に示されているように、バイアルホルダ2は、サンプルラック18に搭載された状態で試料温度調節装置1の伝熱板14(伝熱部材)上に載置される。試料温調装置1は、少なくとも冷却素子としてのペルチェ素子12を備えており、放熱フィン16を介して伝熱板14の熱を放熱することで、伝熱板14を冷却するようになっている。
【0017】
サンプルラック18の底板のうち、少なくともバイアルホルダ2を搭載する部分が、例えばアルミニウムなどの熱伝導性材料で構成されており、伝熱板14とバイアルホルダ2との間で熱交換がなされるように構成されている。なお、ここでは示されていないが、伝熱板14には温度センサが取り付けられており、その温度センサの出力に基づいてペルチェ素子12の動作制御がなされるようになっている。
【0018】
また、この実施例では示していないが、伝熱板14にヒータが取り付けられ、ペルチェ素子12とヒータによって伝熱板14の温度を所望の温度に調節できるように構成されていてもよい。
【0019】
バイアルホルダ2は、下部を構成する熱伝導性ホルダ4と上部を構成する非熱伝導性ホルダ6からなる。熱伝導性ホルダ4は、アルミニウムなどの熱伝導性材料で構成されている。非熱伝導性ホルダ6は、PPなどの断熱性効果の高い樹脂材料で構成されている。非熱伝導性ホルダ6は、下面が熱伝導性ホルダ4の上面と接している。すなわち、熱伝導性ホルダ4の上面は非熱伝導性ホルダ6によって覆われて表出しないように構成されている。
【0020】
熱伝導性ホルダ4は、上面に複数の凹部4aを備え、非熱伝導性ホルダ6は、熱伝導性ホルダ4の凹部4aのそれぞれに対応する位置に凹部4aと略同一の内径をもつ貫通孔6aを備えている。熱伝導性ホルダ4の凹部4aと非熱伝導性ホルダ6の貫通孔6aは、バイアル10を収容するために上方が開口した収容穴8を構成する。
【0021】
バイアルホルダ2の収容穴8に収容されたバイアル10は、少なくとも底面が熱伝導性ホルダ4と接することにより支持される。熱伝導性ホルダ4の下面はサンプルラック18の熱伝導性の底板と直接的に接する。熱伝導性ホルダ4が熱伝導率の良好な材質で構成されているため、熱伝導性ホルダ4と伝熱板14との間の熱交換が良好に行なわれ、熱伝導性ホルダ4が効果的に冷却される。これにより、少なくとも底面が熱伝導性ホルダ4と接するバイアル10内の液が効果的に冷却される。
【0022】
一方で、バイアルホルダ2の上部を構成する非熱伝導性ホルダ6は断熱性効果の高い樹脂材料で構成されているため、熱伝導性ホルダ4と非熱伝導性ホルダ6との間ではほとんど熱交換が行われない。このため、非熱伝導性ホルダ6の上面温度は、冷却板14の温度の影響をほとんど受けず、結露が発生するような低温にまで低下しない。したがって、バイアルホルダ2の上面では結露が発生しにくい。
【0023】
バイアルホルダ2の下部を構成する熱伝導性ホルダ4は冷却板14との間の熱交換によって結露の発生し得る低温にまで冷却されるが、熱伝導性ホルダ4の上面が非熱伝導性ホルダ6によって覆われているため、熱伝導性ホルダ4の上面においても結露が発生しにくい。
【0024】
ところで、
図1の実施例では、熱伝導性ホルダ4の側面で結露が発生し得る。そこで、
図2に示されているように、熱伝導性ホルダ4の側面を、例えばポリエチレンからなる断熱性シート20で覆うことにより、熱伝導性ホルダ4の側面での結露の発生も防止することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 試料温度調節装置
2 バイアルホルダ
4 熱伝導性ホルダ
4a 凹部
6 非熱伝導性ホルダ
6a 貫通孔
8 収容穴
10 バイアル
12 ペルチェ素子(冷却素子)
14 伝熱板(伝熱部材)
16 放熱フィン
18 サンプルラック
20 断熱シート