特許第6892016号(P6892016)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892016
(24)【登録日】2021年5月31日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】溶融金属用取鍋
(51)【国際特許分類】
   B22D 41/00 20060101AFI20210607BHJP
   B22D 41/02 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   B22D41/00 Z
   B22D41/02 B
   B22D41/02 C
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2020-537084(P2020-537084)
(86)(22)【出願日】2019年8月13日
(86)【国際出願番号】JP2019031852
(87)【国際公開番号】WO2020036179
(87)【国際公開日】20200220
【審査請求日】2020年7月31日
(31)【優先権主張番号】特願2018-152619(P2018-152619)
(32)【優先日】2018年8月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】福村 公基
(72)【発明者】
【氏名】近藤 克巳
(72)【発明者】
【氏名】大坪 浩昭
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−59940(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/070594(WO,A1)
【文献】 特開2010−188405(JP,A)
【文献】 実開昭56−107498(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 41/00 − 41/62
B22D 11/10 − 11/119
C21C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋本体と、この取鍋本体の内側に配設された耐火物層と、を有し、前記取鍋本体の両側にトラニオン軸を備えた溶融金属用取鍋であって、
前記取鍋本体の前記トラニオン軸を含む水平断面が、
前記トラニオン軸を結ぶ軸線上に中心を持ち、曲率半径がR1であり、前記トラニオン軸と直交する部位を含む第1円弧と、
前記軸線に直交する中心軸上に中心を持ち、曲率半径がR2であり、前記中心軸と直交する部位を含む第2円弧と、
前記第1円弧と前記第2円弧とを結ぶ、最小曲率半径がR3MINである曲線部と、
を備えた非円形形状とされており、
前記第1円弧の曲率半径R1、前記第2円弧の曲率半径R2、前記曲線部の最小曲率半径R3MINが下記の(1)式から(3)式を満足することを特徴とする溶融金属用取鍋。
(1)式:0.401×R1<R3MIN<R1
(2)式:0.401×R2<R3MIN<R2
(3)式:R1≦R2
【請求項2】
前記耐火物層は、前記取鍋本体側に配設された第1耐火物層と、この第1耐火物層の内側に配設された第2耐火物層と、を備えており、
前記第1耐火物層は耐火レンガで構成され、前記第2耐火物層は不定形耐火物で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属用取鍋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、製鉄所等において溶銑や溶鋼等の溶融金属を保持する溶融金属用取鍋に関する。
本願は、2018年8月14日に、日本に出願された特願2018−152619号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
例えば、製鐵所等においては、転炉やトーピードカーからの溶銑や溶鋼を、取鍋(溶融金属用取鍋)に保持して搬送している。
この溶融金属用取鍋においては、高温の溶融金属を保持するため、鉄製の取鍋本体と、この取鍋本体の内側に配設された耐火物層と、を備えた構造とされている。また、取鍋本体の幅方向の両側にトラニオン軸が設けられており、このトラニオン軸をクレーン等によって吊り上げられるとともに、トラニオン軸を中心に傾動可能な構成とされている。
従来、上述の溶融金属用取鍋としては、例えば特許文献1に示すように、取鍋本体の水平断面形状を円形状または楕円形状としたものが提案されている。
【0003】
上述の溶融金属用取鍋は、高温の溶融金属を保持するため、取鍋本体の内側に配設された耐火物層が熱劣化して亀裂等が生じる。このため、一定の使用回数に応じて耐火物層を定期的に補修する必要がある。
ここで、溶融金属用取鍋の鍋容積を大きくすることにより、耐火物層の補修作業までに取り扱う溶融金属量を増加させることができ、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0004】
溶融金属用取鍋の鍋容積を大きくするためには、取鍋本体の外形を大きくすることが考えられる。しかしながら、溶融金属用取鍋の外形を大きくした場合には、クレーン等の他の設備を溶融金属用取鍋の外形に対応させるために設備全体の大幅な改造が必要となるため、現実的ではない。
そこで、例えば、特許文献2においては、溶融金属用取鍋の外形を大きく変更することなく、鍋容積を拡大した溶融金属用取鍋が提案されている。この特許文献2に記載された溶融金属用取鍋においては、取鍋本体の水平断面形状を矩形形状に近似させることによって、鍋容積の拡大を図っている。また、水平断面を円弧で構成することで、角部における応力集中を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開2000−256728号公報
【特許文献2】日本国特開2016−059940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近では、さらなる製造コストの低減のため、溶融金属用取鍋においては、さらなる耐火物層の補修回数の低減が求められている。
ここで、特許文献2に記載された溶融金属用取鍋においては、水平断面を円弧で構成して角部の応力集中を抑制しているが、耐火物層への応力を十分に低減できておらず、耐火物層の補修回数が増加してしまうおそれがあった。また、最近では、溶融金属用取鍋の使用寿命の延長が求められており、取鍋本体への熱応力を低減して、取鍋本体の変形等を抑制する必要がある。
【0007】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、溶融金属用取鍋の鍋容積を拡大することができるとともに、溶融金属用取鍋に作用する熱応力を抑えて補修回数を低減することが可能な溶融金属用取鍋を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る溶融金属用取鍋は、取鍋本体と、この取鍋本体の内側に配設された耐火物層と、を有し、前記取鍋本体の両側にトラニオン軸を備えた溶融金属用取鍋であって、前記取鍋本体の前記トラニオン軸を含む水平断面が、前記トラニオン軸を結ぶ軸線上に中心を持ち、曲率半径がR1であり、前記トラニオン軸と直交する部位を含む第1円弧と、前記軸線に直交する中心軸上に中心を持ち、曲率半径がR2であり、前記中心軸と直交する部位を含む第2円弧と、前記第1円弧と前記第2円弧とを結ぶ、最小曲率半径がR3MINである曲線部と、を備えた非円形形状とされており、前記第1円弧の曲率半径R1、前記第2円弧の曲率半径R2、前記曲線部の最小曲率半径R3MINが下記の(1)式から(3)式を満足することを特徴とする。
(1)式:0.401×R1<R3MIN<R1
(2)式:0.401×R2<R3MIN<R2
(3)式:R1≦R2
【0009】
この構成の溶融金属用取鍋によれば、前記取鍋本体の前記トラニオン軸を含む水平断面が、前記トラニオン軸を結ぶ軸線上に中心を持ち、曲率半径がR1であり、前記トラニオン軸と直交する部位を含む第1円弧と、前記軸線に直交する中心軸上に中心を持ち、曲率半径がR2であり、前記中心軸と直交する部位を含む第2円弧と、前記第1円弧と前記第2円弧とを結ぶ、最小曲率半径がR3MINである曲線部と、を備えた非円形形状とされており、前記曲線部の最小曲率半径R3MINが、R3MIN<R1、R3MIN<R2とされているので、大きな曲率半径の第1円弧と第2円弧とが、曲率半径が小さな曲線部によって結ばれた形状となって水平断面が矩形状に近似し、水平断面が円形状をなす取鍋本体に対して、鍋容積を拡大することが可能となる。
【0010】
また、前記曲線部の最小曲率半径R3MINが、0.401×R1<R3MIN、0.401×R2<R3MINを満足しているので、前記曲線部の最小曲率半径R3MINが前記第1円弧と前記第2円弧の曲率半径に対して小さくなりすぎず、第1円弧と曲線部、第2円弧と曲線部の接続部における応力集中を抑制でき、取鍋本体の変形や耐火物層の劣化を抑制することができる。これにより、溶融金属用取鍋の耐火物補修回数を低減することが可能となる。
よって、溶融金属用取鍋の鍋容積を拡大することができるとともに、溶融金属用取鍋に作用する熱応力を抑えて補修回数を低減することができる。
【0011】
ここで、本発明の溶融金属用取鍋においては、前記耐火物層は、前記取鍋本体側に配設された第1耐火物層と、この第1耐火物層の内側に配設された第2耐火物層と、を備えており、前記第1耐火物層は耐火レンガで構成され、前記第2耐火物層は不定形耐火物で構成されていてもよい。
この場合、耐火物層に応力が作用して亀裂が生じても、耐火レンガで構成された第1耐火物にまで亀裂が伝播することを抑制でき、第1耐火物層のさらに内側に配設された第2耐火物層を補修すればよい。第2耐火物層は不定形耐火物で構成されているので、比較的容易に補修することができる。また、第2耐火物層に作用する熱応力を抑えることで補修コストをさらに削減することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
上述のように、本発明によれば、溶融金属用取鍋の鍋容積を拡大することができるとともに、溶融金属用取鍋に作用する熱応力を抑えて補修回数を低減することが可能な溶融金属用取鍋を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態である溶融金属用取鍋の一例を示す側面説明図である。
図2】本発明の実施形態である溶融金属用取鍋の一例を示す上面説明図である。
図3】本発明の実施形態である溶融金属用取鍋の取鍋本体の水平断面形状を示す説明図である。
図4】本発明の実施形態である溶融金属用取鍋における耐火物層の構造を示す説明図である。
図5】実施例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本実施形態である溶融金属用取鍋1は、取鍋本体10と、耐火物層20と、を備えている。
取鍋本体10は、その幅方向の両側にトラニオン軸18,18が設けられており、このトラニオン軸18,18を用いてクレーン等で搬送し、さらにトラニオン軸18,18を中心に傾動可能に構成されている。
【0016】
そして、本実施形態においては、取鍋本体10は、トラニオン軸18を含む水平断面が、図3に示すように、非円形形状とされている。
具体的には、トラニオン軸18,18を結ぶ軸線S1上に中心を持ち、曲率半径がR1であり、トラニオン軸18と直交する部位を含む第1円弧11と、軸線S1に直交する中心軸S2上に中心を持ち、曲率半径がR2であり、中心軸S2と直交する部位を含む第2円弧12と、第1円弧11と第2円弧12とを結ぶ、最小曲率半径がR3MINである曲線部13と、を備えた形状とされている。
なお、本実施形態においては、取鍋本体10の水平断面の曲率半径R1,R2,R3MINは、取鍋本体10の内壁面で測定したものとされている。
【0017】
第1円弧11は、トラニオン軸18,18を結ぶ軸線S1上に中心を有していることから、トラニオン軸18,18が配設された面が、上述の第1円弧11となる。
また、第2円弧12は、トラニオン軸18,18を結ぶ軸線S1に直交する中心軸S2上に中心を有していることから、第1円弧11に対して直交する向きに形成されることになる。
そして、曲線部13は、これら第1円弧11と第2円弧12とが交差する角部に配置される。
【0018】
ここで、第1円弧11の曲率半径R1、第2円弧12の曲率半径R2、曲線部13の最小曲率半径R3MINが、下記の(1)式から(3)式を満足している。
(1)式:0.401×R1<R3MIN<R1
(2)式:0.401×R2<R3MIN<R2
(3)式:R1≦R2
【0019】
上述のように、曲線部13の最小曲率半径R3MINが、第1円弧11の曲率半径R1、第2円弧12の曲率半径R2に対して、R3MIN<R1、及び、R3MIN<R2とされていることから、第1円弧11と第2円弧12との交差部(角部)が外方に突出し、矩形状に近似した形状となり、水平断面が円形状の取鍋本体に対して、外形を変化させることなく、容積を拡大させることが可能となる。
なお、容積を確保するためには、曲線部13の最小曲率半径R3MINの上限を、0.9×R1及び0.9×R2とすることが好ましい。
【0020】
また、曲線部13の最小曲率半径R3MINが、第1円弧11の曲率半径R1、第2円弧12の曲率半径R2に対して、0.401×R1<R3MIN、及び、0.401×R2<R3MINとされている。すなわち、曲線部13の最小曲率半径R3MINの下限が規定されている。
このように、曲線部13の最小曲率半径R3MINの下限が規定されていることにより、第1円弧11と曲線部13、第2円弧12と曲線部13の接続部における応力集中を抑制することが可能となる。これにより、取鍋本体10の変形や、耐火物層20の劣化等を抑制することが可能となる。
【0021】
なお、第1円弧11と曲線部13、第2円弧12と曲線部13の接続部における応力集中をさらに抑制するためには、曲線部13の最小曲率半径R3MINの下限を、0.41×R1及び0.41×R2とすることが好ましく、0.42×R1及び0.42×R2とすることがさらに好ましく、0.45×R1及び0.45×R2とすることがより好ましい。
【0022】
また、本実施形態においては、耐火物層20は、図4に示すように、取鍋本体10側に配設された第1耐火物層21と、この第1耐火物層21の内側に配設された第2耐火物層22と、を備えている。
ここで、本実施形態においては、第1耐火物層21は、耐火レンガを積み上げて形成されている。また、第2耐火物層22は、不定形耐火物で形成されている。なお、溶融金属の湯面が位置する領域には、溶損を抑制するために耐火レンガによって第2耐火物層22を形成してもよい。
第1耐火物層21の厚さt1と第2耐火物層22の厚さt2の比t2/t1は1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。
【0023】
そして、本実施形態である溶融金属用取鍋1においては、転炉やトーピードカーからの溶銑又は溶鋼を受け、天井クレーンのフックがトラニオン軸18,18に係止されて搬送され、トラニオン軸18,18を中心に傾動させることで、溶銑又は溶鋼を次工程の容器へと移送する。
このように、溶融金属用取鍋1は、高温の溶銑又は溶鋼が注入、排出されることで、過酷な熱応力が繰り返し作用することになる。
そして、取鍋本体10の内側に配設された耐火物層20に亀裂等が生じた場合には、耐火物層20を補修して再度使用することになる。
【0024】
以上のような構成とされた本実施形態である溶融金属用取鍋1によれば、取鍋本体10のトラニオン軸18を含む水平断面が、トラニオン軸18,18を結ぶ軸線S1上に中心を持ち、曲率半径がR1であり、トラニオン軸18と直交する部位を含む第1円弧11と、軸線S1に直交する中心軸S2上に中心を持ち、曲率半径がR2であり、中心軸S2と直交する部位を含む第2円弧12と、第1円弧11と第2円弧12とを結ぶ、最小曲率半径がR3MINである曲線部13と、を備えた非円形形状とされており、曲線部13の最小曲率半径R3MINが、R3MIN<R1、R3MIN<R2とされているので、水平断面が矩形状に近似した形状となり、水平断面が円形状をなす取鍋本体に対して、鍋容積を拡大することが可能となる。
【0025】
また、曲線部13の最小曲率半径R3MINが、0.401×R1<R3MIN、0.401×R2<R3MINとされているので、曲線部13の最小曲率半径R3MINが小さくなりすぎず、第1円弧11と曲線部13、第2円弧12と曲線部13の接続部における応力集中を抑制でき、取鍋本体10の変形や耐火物層20の劣化を抑制することができる。これにより、溶融金属用取鍋1の補修回数を低減することが可能となる。
【0026】
さらに、本実施形態においては、耐火物層20は、取鍋本体10側に配設された第1耐火物層21と、この第1耐火物層21の内側に配設された第2耐火物層22と、を備えており、第1耐火物層21は耐火レンガで構成され、第2耐火物層22は不定形耐火物で構成されている場合には、取鍋本体10側に配設された第1耐火物層21への応力集中を抑制することができ、第1耐火物層21のさらなる寿命延長を図ることができる。また、耐火物層20に応力が作用して亀裂が生じても耐火レンガで構成された第1耐火物層21にまで亀裂が伝播することを抑制でき、第1耐火物層21のさらに内側に配設された第2耐火物層22を補修すればよい。第2耐火物層は不定形耐火物で構成されているので、比較的容易に補修することができ、補修コストをさらに削減することが可能となる。
【0027】
以上、本発明の実施形態である溶融金属用取鍋について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、図1に示す構造のトラニオン軸を有する溶融金属用取鍋を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、他の構造のトラニオン軸を有するものであってもよい。
【0028】
また、本実施形態では、溶銑及び溶鋼を保持して移送するものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の溶融金属を取り扱うものとしてもよい。
さらに、本実施形態では、耐火物層を、第1耐火物層と第2耐火物層を有するものとして説明したが、これに限定されることはなく、1層の耐火物層を有するものであってもよし、3層以上の耐火物層を有するものであってもよい。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
【0030】
<実施例1>
本発明例として、上述の実施形態に記載された溶融金属用取鍋を準備した。なお、第1円弧の曲率半径R1を4170mm、第2円弧の曲率半径R2を4170mm、曲線部の最小曲率半径R3MINを1700mmとした。すなわち、0.401×R1<R3MIN<R1,0.401×R2<R3MIN<R2,R1≦R2を満足するものとした。
比較例として、第1円弧の曲率半径R1を4170mm、第2円弧の曲率半径R2を4170mm、曲線部の最小曲率半径R3MINを1150mmとした。すなわち、R3MIN<0.401×R1,R3MIN<0.401×R2の関係を有するものとした。
【0031】
本発明例と比較例の溶融金属用取鍋を使用し、使用後の耐火物層の残厚の最小値を測定した。図5に、本発明例と比較例の当初厚みを「1」とし、耐火物層の残厚の最小値との関係、および本発明の耐火物寿命をむかえる使用回数を1とした場合に、比較例において耐火物寿命をむかえる使用回数を相対値で示す。
図5に示すように、本発明例の溶融金属用取鍋は、比較例の溶融金属用取鍋に対して、使用後の耐火物層の残厚が厚く、使用寿命を延長可能であることが確認された。
また、本発明例の溶融金属用取鍋においては、水平断面が円形状の溶融金属用取鍋に比べて鍋容積を拡大することができた。
【0032】
<実施例2>
試験No.A〜Hとして、トラニオン軸18を含む水平断面において、トラニオン軸を結ぶ軸線上に中心を持ち、曲率半径がR1であり、前記トラニオン軸と直交する部位を含む第1円弧と、前記軸線に直交する中心軸上に中心を持ち、曲率半径がR2であり、前記中心軸と直交する部位を含む第2円弧と、前記第1円弧と前記第2円弧とを結ぶ、最小曲率半径がR3MINである曲線部と、を備えた形状の溶融金属用取鍋を準備した。R1、R2、R3MINの関係を表1に示す。また、第1耐火物層(耐火レンガ)の厚さt1と第2耐火物層(不定形耐火物)の厚さt2の比t2/t1を表1に示す。
【0033】
上述の溶融金属用取鍋を用いて溶鋼の移送を実施した。このときの取鍋の有効容積、使用回数、耐火物層の残厚の最小値、曲線部における耐火物層の亀裂の有無、を評価した。なお、各種評価は、試験Aを基準(=1)として、相対評価とした。評価結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
R3MIN=0.3×R1、R3MIN=0.3×R2とした試験No.G、及び、R3MIN=0.25×R1、R3MIN=0.25×R2とした試験No.Hにおいては、曲線部において耐火物層に亀裂が生じた。
【0036】
0.401×R1<R3MIN<R1、0.401×R2<R3MIN<R2を満足する試験No.B〜Fにおいては、水平断面が円形状をなす試験No.Aに比べて有効容積が大きくなった。また、曲線部における耐火物層への亀裂の発生を抑制できた。
なお、R3MIN=0.401×R1及びR3MIN=0.401×R2としたNoEとNo.Fとを比較すると、第1耐火物層(耐火レンガ)の厚さt1と第2耐火物層(不定形耐火物)の厚さt2の比t2/t1を1としたNo.Eは、t2/t1を0.5としたNo.Fよりも、耐火物層の残厚が40mmに達するまでの耐火物の使用回数が多くなり、耐火物層の寿命延長を図ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、溶融金属用取鍋の鍋容積を拡大することができるとともに、溶融金属用取鍋に作用する熱応力を抑えて補修回数を低減することが可能な溶融金属用取鍋を提供することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 溶融金属用取鍋
10 取鍋本体
11 第1円弧
12 第2円弧
13 曲線部
18 トラニオン軸
20 耐火物層
21 第1耐火物層
22 第2耐火物層
図1
図2
図3
図4
図5