特許第6892091号(P6892091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6892091許容返済額算出装置、返済額判定装置、金融価値算定システムおよびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892091
(24)【登録日】2021年5月31日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】許容返済額算出装置、返済額判定装置、金融価値算定システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/02 20120101AFI20210607BHJP
【FI】
   G06Q40/02 300
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-190985(P2018-190985)
(22)【出願日】2018年10月9日
(62)【分割の表示】特願2017-185776(P2017-185776)の分割
【原出願日】2017年9月27日
(65)【公開番号】特開2019-61681(P2019-61681A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2020年9月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517340817
【氏名又は名称】大垣 尚司
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大垣 尚司
【審査官】 加舎 理紅子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5955436(JP,B1)
【文献】 特許第4383507(JP,B1)
【文献】 特開2006−085397(JP,A)
【文献】 金財総研・東京カンテイ「将来の担保価値」で融資 ノンリコース リバースモーゲージ 住宅ローンを開発,住宅新報,2013年11月 5日,2013年11月5日号,[online],[平成30年3月6日検索],インターネット<http://www.jutaku-s.com/newsp/id/0000019512>
【文献】 本田伸孝,「物件将来価値を活用した新型住宅ローン共同研究会」の概要,2013年 9月26日,[online],[平成30年8月6日検索],インターネット<http://www.mlit.go.jp/common/001014532.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
住宅融資において許容される月返済額の最大値を算出する許容返済額算出装置と、前記月返済額の最大値を許容した場合のリスクを管理するリスク管理装置とを備える金融価値算定システムであって、
前記許容返済額算出装置は、
融資の返済期間を含む融資条件を取得する条件取得部と、
家賃データベースから現在又は過去の住宅の家賃データを取得して、予め設定される第1係数に基づいて、前記返済期間内の少なくとも一部の期間における住宅の賃貸価値の推定値を算出する賃貸価値算出部と、
売却額データベースから現在又は過去の住宅の売却額データを取得して、予め設定される第2係数に基づいて、将来の予め定められた時点での住宅の処分価値の推定値を算出する処分価値算出部と、
前記賃貸価値の推定値および前記処分価値の推定値に基づいて、前記住宅融資において許容される前記月返済額の最大値を算出する最大返済額算出部と
を有し、
前記リスク管理装置は、
第三者である引受事業者に対して住宅並びに敷地の少なくとも一部の権利を移転して前記住宅融資の返済を引き受けてもらう権利が行使された後の前記住宅の前記賃貸価値および前記処分価値の実績値を記録し、
前記賃貸価値および前記処分価値の前記推定値と前記実績値との差異に基づいて、前記第1係数および前記第2係数を調整する
金融価値算定システム。
【請求項2】
前記リスク管理装置は、前記権利が行使された後において、前記月返済額と、前記賃貸価値の推定値との月毎の差分を積算した差分積算値が、前記処分価値の推定値を上回る直前の月を更に算出する
請求項1に記載の金融価値算定システム。
【請求項3】
前記最大返済額算出部は、前記返済期間内の少なくとも一部の期間における前記賃貸価値の推定値と月返済額との差分が、前記処分価値の推定値に応じた条件を満たす最大の前記月返済額を、前記月返済額の最大値として算出する
請求項1または2に記載の金融価値算定システム。
【請求項4】
前記最大返済額算出部は、第三者である引受事業者に対して住宅並びに敷地の少なくとも一部の権利を移転して前記住宅融資の返済を引き受けてもらう権利を行使するに至る行使確率に更に基づいて、前記月返済額の最大値を算出する
請求項1または2に記載の金融価値算定システム。
【請求項5】
住宅融資において、入力された月返済額が許容されるか否かを判定する返済額判定装置と、前記月返済額の最大値を許容した場合のリスクを管理するリスク管理装置とを備える金融価値算定システムであって、
前記返済額判定装置は、
融資の返済期間を含む融資条件を取得する条件取得部と、
家賃データベースから現在又は過去の住宅の家賃データを取得して、予め設定される第1係数に基づいて、前記返済期間内の少なくとも一部の期間における住宅の賃貸価値の推定値を算出する賃貸価値算出部と、
売却額データベースから現在又は過去の住宅の売却額データを取得して、予め設定される第2係数に基づいて、将来の予め定められた時点での住宅の処分価値の推定値を算出する処分価値算出部と、
前記賃貸価値の推定値および前記処分価値の推定値に基づいて、前記入力された月返済額が許容されるか否かを判定する返済額判定部と
を備え
前記リスク管理装置は、
第三者である引受事業者に対して住宅並びに敷地の少なくとも一部の権利を移転して前記住宅融資の返済を引き受けてもらう権利が行使された後の前記住宅の前記賃貸価値および前記処分価値の実績値を記録し、
前記賃貸価値および前記処分価値の前記推定値と前記実績値との差異に基づいて、前記第1係数および前記第2係数を調整する
金融価値算定システム。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1から5のいずれか一項に記載の金融価値算定システムにおける前記リスク管理装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、許容返済額算出装置、返済額判定装置、金融価値算定システムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
住宅の購入資金を銀行等から借り入れた者が、返済困難またはその他の理由で融資の返済前に住宅の換価を余儀なくされる場合がある。この場合、住宅の換価額が借入残高に満たないと、借入者が残債務を負担することになり、その後の経済生活に支障を来すこととなる。
関連する先行技術文献として、下記の文献がある。
特許文献1 特開2010−277138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
米国には、住宅ローンについて責任財産を担保住宅に限定して、担保実行により完全な満足を受けられなかった場合に残債務を免除するいわゆるノンリコースローン型住宅ローンが存在する。しかし残債務を免除する場合、債権者である融資金融機関が残債務を負担することになり、結局、貸付金利の上昇といったかたちで借主に転嫁されることになる。
【0004】
金融機関がノンリコース型住宅ローンを供与する代わりに、借入者が将来返済困難またはその他の理由で融資の返済前に住宅の換価を余儀なくされた場合に、第三者である引受事業者に対して、担保住宅並びに敷地についての権利を取得する代わりに、一定の条件で融資の返済を引き受けてもらうことのできる権利を付与すれば、実質的にノンリコース型住宅ローンと同様の経済効果をもたらすことができる。この場合、引受事業者は、引受に先立ち当該担保住宅に対して許容可能な月返済額を精度よく見積もれることが好ましいが、従来の技術では、許容可能な月返済額を精度よく算出することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、住宅融資において許容される月返済額の最大値を算出する許容返済額算出装置であって、融資の返済期間を含む融資条件を取得する条件取得部と、家賃データベースから現在又は過去の住宅の家賃データを取得して、返済期間内の少なくとも一部の期間における住宅の賃貸価値の推定値を算出する賃貸価値算出部と、売却額データベースから現在又は過去の住宅の売却額データを取得して、将来の予め定められた時点での住宅の処分価値の推定値を算出する処分価値算出部と、賃貸価値の推定値および処分価値の推定値に基づいて、住宅融資において許容される月返済額の最大値を算出する最大返済額算出部とを備える許容返済額算出装置を提供する。
【0006】
最大返済額算出部は、返済期間内の少なくとも一部の期間における賃貸価値の推定値と月返済額との差分が、処分価値の推定値に応じた条件を満たす最大の月返済額を、月返済額の最大値として算出してよい。
【0007】
処分価値算出部は、住宅融資の完済時点での住宅の処分価値の推定値を算出してよい。最大返済額算出部は、第三者である引受事業者に対して住宅並びに敷地の少なくとも一部の権利を移転して前記住宅融資の返済を引き受けてもらう権利を行使するに至る確率(本明細書では、行使確率と称する)に更に基づいて、月返済額の最大値を算出してよい。
【0008】
最大返済額算出部は、返済期間内の各時点に対して、当該時点以降の賃貸価値の推定値と月返済額との差分の積算値に、当該時点における行使確率を乗算した時点毎期待値を算出し、時点毎期待値の総和であるリスク期待値が処分価値の推定値を超えない範囲での最大の月返済額を、月返済額の最大値として算出してよい。
【0009】
条件取得部は、複数の種類の返済期間を取得し、最大返済額算出部は、それぞれの返済期間に対して、月返済額の最大値を算出してよい。
【0010】
家賃データは、賃貸住宅についての、現在又は過去の最低保証家賃、空室期間および入居期間の少なくとも一つのデータを含んでよい。
【0011】
家賃データベースおよび売却額データベースは、地域ごとにデータを分類して記録し、賃貸価値算出部および処分価値算出部は、対応する地域の家賃データおよび売却額データを取得してよい。
【0012】
本発明の第2の態様においては、住宅融資において、入力された月返済額が許容されるか否かを判定する返済額判定装置であって、融資の返済期間を含む融資条件を取得する条件取得部と、家賃データベースから現在又は過去の住宅の家賃データを取得して、返済期間内の少なくとも一部の期間における住宅の賃貸価値の推定値を算出する賃貸価値算出部と、売却額データベースから現在又は過去の住宅の売却額データを取得して、将来の予め定められた時点での住宅の処分価値の推定値を算出する処分価値算出部と、賃貸価値の推定値および処分価値の推定値に基づいて、入力された月返済額が許容されるか否かを判定する返済額判定部とを備える返済額判定装置を提供する。融資条件には適用金利が含まれていてもよい。
【0013】
本発明の第3の態様においては、第1の態様に係る許容返済額算出装置と、第2の態様に係る返済額判定装置との少なくとも一方を備える金融価値算定システムを提供する。
【0014】
本発明の第4の態様においては、コンピュータを、第1の態様に係る許容返済額算出装置として機能させるためのプログラムを提供する。
【0015】
本発明の第5の態様においては、コンピュータを、第2の態様に係る返済額判定装置として機能させるためのプログラムを提供する。
【0016】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一つの実施形態に係る、金融価値算定システム100の構成例を示すブロック図である。
図2】引受事業者システム10の動作の概要を示す図である。
図3】許容返済額算出装置22の概要を示すブロック図である。
図4】住宅の処分価値、賃貸価値、月返済額および差分積算値の関係の一例を示す図である。
図5】最大返済額算出部30の動作例を示す図である。
図6】許容返済額算出装置22の動作例を説明する図である。
図7】本件権利の行使後における、当該住宅の経費CFの算出例を示す図である。
図8】本件権利の行使後における、当該住宅の正味運用CFの算出例を示す図である。
図9】差分積算値計算モジュールにおける処理の一例を示す図である。
図10】リスク期待値計算モジュールにおける処理の一例を示す図である。
図11】最大返済額算出部30の処理例を示す図である。
図12】返済額判定装置42の概要を示すブロック図である。
図13】返済額判定部50の処理例を示す図である。
図14】本件権利の行使時におけるリスク管理装置62の動作例を示す図である。
図15】本件権利行使後のキャッシュフロー発生時におけるリスク管理装置62の動作例を示す図である。
図16】リスク管理装置62によるブレークイーブン月の算出例を示す図である。
図17】リスク管理装置62のリスク管理処理の一例を示す図である。
図18】本発明の複数の態様が全体的又は部分的に具現化されうるコンピュータ1800の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る、金融価値算定システム100の構成例を示すブロック図である。金融価値算定システム100は、引受事業者システム10を備える。引受事業者システム10は、住宅ローン等(本明細書では、住宅融資と称する)を借り入れて住宅および敷地(本明細書では、住宅および敷地を単に住宅と称する場合がある)を購入した借入者が、引受事業者に住宅および敷地にかかる少なくとも一部の権利(所有権もしくはこれに相当する実質的な権利。例えば、住宅および敷地の一部または全部を売却、貸し出しまたはその他の処分を行うことで対価を得ることができる権利)を移転することを条件として、住宅融資の返済を引き受けてもらうことのできる権利(本明細書では、本件権利と称する)を供与する。
【0020】
引受事業者システム10は、事前査定サブシステム20、証明書発行サブシステム40およびリスク管理サブシステム60のうちの少なくとも一つのサブシステムを備える。図1の例における引受事業者システム10は、3つのサブシステムを全て備えている。それぞれのサブシステムは、一つ以上のコンピュータを有してよい。引受事業者システム10は、サーバー70、内部ネットワーク71およびデータベース74のうちの少なくとも一つを更に備えてもよい。
【0021】
事前査定サブシステム20は、本件権利を付与する場合に許容される住宅融資の月返済額の最大値を算出する。事前査定サブシステム20は、許容返済額算出装置22を備える。許容返済額算出装置22は、住宅の将来の賃貸価値と、将来の住宅の処分価値とに基づいて、許容される月返済額の最大値を算出する。
【0022】
住宅の賃貸価値とは、住宅を貸し出した場合に想定される家賃収入に基づいて算出される価値である。住宅の処分価値とは、住宅を売却した場合に想定される売却額に基づいて算出される価値である。許容返済額算出装置22は、データベース74に記録された他の住宅の現在又は過去の家賃データ、および、他の住宅の現在又は過去の売却額データ等に基づいて、住宅の賃貸価値および処分価値を算出してよい。
【0023】
本件権利が行使された場合、引受事業者は住宅を貸し出すことで家賃収入を得ることができる一方、住宅融資の月返済額を支払うことになる。月返済額が家賃収入より大きい場合、引受事業者の毎月の収支はマイナスとなる。
【0024】
本例の許容返済額算出装置22は、住宅融資の月返済額と、将来の賃貸価値との差分を、融資の返済期間に渡って積算した積算値が、住宅の将来の処分価値を上回らないことを条件として、許容される月返済額の最大値を算出する。住宅の処分価値は、住宅融資の完済時点における推定値を用いてよい。
【0025】
事前査定サブシステム20は、算出した月返済額の最大値を、顧客端末78に提供してよい。顧客端末78は、例えば金融機関、住宅販売業者または住宅の購入を検討している一般顧客等が管理するコンピュータである。事前査定サブシステム20は、インターネット等の外部ネットワーク76、サーバー70および内部ネットワーク71を介して、顧客端末78と接続されてよい。事前査定サブシステム20は、顧客端末78から、住宅の所在地、床面積、間取り、駅からの距離、取得予定価格、敷地の路線価や実勢価格等の情報を受け取ってよい。
【0026】
また、金融価値算定システム100は、提携事業者サブシステム80を更に備えてもよい。提携事業者サブシステム80は、引受事業者と提携している金融機関、住宅販売業者等が管理するシステムである。提携事業者サブシステム80は、事前査定サブシステム20と同様の許容返済額算出装置22を備えてよい。提携事業者サブシステム80の許容返済額算出装置22には、引受事業者システム10におけるデータベース74のデータが提供される。提携事業者サブシステム80の許容返済額算出装置22は、内部ネットワーク71に接続可能であってよい。これにより、提携事業者サブシステム80の許容返済額算出装置22も、住宅の将来の賃貸価値および処分価値を精度よく算出できる。
【0027】
本例の証明書発行サブシステム40は、住宅に関する情報および所望の月返済額が入力され、当該条件において本件権利を付与できるか否かを判定する。証明書発行サブシステム40は、返済額判定装置42を備える。返済額判定装置42は、住宅融資の月返済額と、将来の賃貸価値との差分を積算した積算値が、住宅の将来の処分価値を上回らないことを条件として、本件権利を付与できると判定してよい。返済額判定装置42には、顧客端末78または提携事業者サブシステム80から、住宅に関する情報および月返済額が入力されてよい。
【0028】
本例の証明書発行サブシステム40は、返済額判定装置42が当該月返済額で本件権利を付与できると判定した場合に、本件権利の証明書を発行する。証明書は、本件権利の内容を示す書類であってよく、電子データであってもよい。
【0029】
リスク管理サブシステム60は、本件権利を付与することによる引受事業者のリスクを管理する。リスク管理サブシステム60は、リスク管理装置62を備える。一例としてリスク管理装置62は、本件権利の付与時において算出した住宅の賃貸価値および処分価値の推定値と、本件権利の行使後における住宅の賃貸価値および処分価値の実績値とを記録する。リスク管理装置62は、推定値と実績値との差異に基づいて、許容返済額算出装置22および返済額判定装置42における計算に用いる係数または設定値を調整してよい。例えばリスク管理装置62は、賃貸価値および処分価値の推定値に対して実績値が小さくなる傾向がある場合、賃貸価値および処分価値の推定値をより小さく計算するように、許容返済額算出装置22および返済額判定装置42における係数または設定値を調整する。
【0030】
図2は、引受事業者システム10の動作の概要を示す図である。図2における横軸は時間を示している。一例として、一般顧客が住宅購入を検討し、資金計画を作成するタイミングで、許容返済額算出装置22は、許容される月返済額の最大値を算出して参考情報として提示する(S200)。許容返済額算出装置22は、顧客端末78等からの要求に応じて月返済額の最大値を提供してよい。
【0031】
また、一般顧客が住宅購入を決め、住宅融資を借り入れるタイミングで、返済額判定装置42は、入力される月返済額の条件で、本件権利を付与できるか否かを判定する(S202)。月返済額は、顧客端末78または提携事業者サブシステム80から入力されてよい。返済額判定装置42が本件権利を付与できると判定した場合、証明書発行サブシステム40は本件権利の証明書を発行する。
【0032】
本件権利が行使された場合、リスク管理装置62は、住宅の賃貸価値の実績値を記録する。リスク管理装置62は、住宅を売却する時点まで、住宅の賃貸価値の実績値を記録する。住宅は、融資完済後に売却されてよい。リスク管理装置62は、住宅の処分価値の実績値を記録する。リスク管理装置62は、記録した実績値に基づいて、許容返済額算出装置22および返済額判定装置42における計算に用いる係数等を調整してよい。
【0033】
このように、住宅の賃貸価値および処分価値を用いることで、住宅の本来の金融価値に基づく月返済額の最大値を提示できる。また、本件権利を融資設定時に付与することで、実質的にノンリコースな住宅融資を提供できる。このため、融資設定時における借入者の不安を低減できる。また、住宅取得を検討している一般顧客に対して、検討時点において住宅の金融価値を提示でき、適切な月返済額を提示できる。月返済額の提示および判定を精度よく行うべく、データベース74には十分な地域範囲および期間に渡ってデータが蓄積されており、且つ、随時更新されることが好ましい。データベース74に蓄積可能な家賃データおよび売却額データを他の事業者が提供したことを条件として、当該事業者を提携事業者として認定して、データベース74からのデータ提供を許容してよい。
【0034】
図3は、許容返済額算出装置22の概要を示すブロック図である。許容返済額算出装置22は、条件取得部24、処分価値算出部26、賃貸価値算出部28および最大返済額算出部30を備える。コンピュータにおけるCPUおよびメモリ等が、処分価値算出部26、賃貸価値算出部28および最大返済額算出部30として機能してよい。コンピュータにおけるインターフェース等が、条件取得部24として機能してよい。
【0035】
条件取得部24は、住宅融資の返済期間を含む融資条件を取得する。融資条件は、住宅の所在地に関する情報(例えば郵便番号、駅からの距離等)、住宅の広さに関する情報(例えば敷地面積、床面積、部屋数等)、および、住宅の耐用年数に関する情報を含んでよい。条件取得部24は、許容返済額算出装置22の管理者が入力する融資条件を取得してよく、顧客端末78等の外部装置から入力される融資条件を取得してよく、許容返済額算出装置22に予め登録されている融資条件を取得してもよい。
【0036】
賃貸価値算出部28は、家賃データベースから現在又は過去の住宅の家賃データを取得して、返済期間内の少なくとも一部の期間における住宅の賃貸価値の推定値を算出する。賃貸価値算出部28は、融資条件に対応する現在又は過去の住宅の家賃データを、家賃データベースから抽出してよい。賃貸価値算出部28は、住宅の所在地に関する情報、住宅の広さに関する情報、および、住宅の耐用年数に関する情報の少なくとも一つに基づいて、家賃データベースから対応する住宅の家賃データを抽出してよい。
【0037】
本例では図1に示したデータベース74が、家賃データベースとして機能する。賃貸価値算出部28は、返済期間内の全期間における住宅の賃貸価値の推定値を算出してよい。本例の賃貸価値算出部28は、返済期間内の全期間にわたって、月毎の住宅の賃貸価値の推定値を算出する。月毎の賃貸価値の推定値は、返済期間内において一定値であってよく、変動する値であってもよい。
【0038】
処分価値算出部26は、売却額データベースから現在又は過去の住宅の売却額データを取得して、将来の予め定められた時点での住宅の処分価値の推定値を算出する。処分価値算出部26は、住宅融資の完済時点での住宅の処分価値の推定値を算出してよい。処分価値算出部26は、融資条件に対応する現在又は過去の住宅の売却額データを、売却額データベースから抽出してよい。処分価値算出部26は、住宅の所在地に関する情報、住宅の広さに関する情報および住宅の耐用年数に関する情報の少なくとも一つに基づいて、売却額データベースから対応する住宅の売却額データを抽出してよい。
【0039】
家賃データベースおよび売却額データベースは、地域ごとに家賃データおよび売却額データを分類して記録する。家賃データベースおよび売却額データベースは、住宅の広さ等の住宅の各種特性で家賃データベースおよび売却額データベースを分類してもよい。
【0040】
最大返済額算出部30は、賃貸価値算出部28が算出した賃貸価値の推定値および処分価値算出部26が算出した処分価値の推定値に基づいて、住宅融資において許容される月返済額の最大値を算出する。最大返済額算出部30は、返済期間内の少なくとも一部の期間における賃貸価値の推定値と月返済額との差分が、処分価値の推定値に応じた条件を満たす最大の月返済額を、月返済額の最大値として算出する。上述したように、最大返済額算出部30は、賃貸価値の推定値と月返済額との差分の所定の期間の累計が、処分価値の推定値を上回らないことを条件として、月返済額の最大値を算出する。最大返済額算出部30は、返済期間内の各月において権利行使が発生する確率に基づいて、月返済額の最大値を算出してよい。
【0041】
図4は、住宅の処分価値、賃貸価値、月返済額および差分積算値の関係の一例を示す図である。図4における横軸は時間を示し、縦軸は金額を示している。処分価値算出部26は、現在又は過去の売却額データの平均値等に対して、管理者等により設定される係数を乗じて処分価値を算出してよい。処分価値は、リスク管理装置62により調整されてよい。処分価値算出部26は、住宅および敷地のそれぞれの処分価値の推定値を算出してよい。敷地の処分価値は、住宅融資設定時における敷地の所在地の路線価に基づいて算出できる。処分価値算出部26は、敷地の処分価値の推定値を、返済期間の全体に渡って一定値としてよい。住宅の処分価値の推定値は、期間経過に伴って変化(主に減少)してよい。住宅の処分価値の初期値は、住宅および敷地の販売価格から、路線価に基づいて算出される敷地の処分価値を減じることで算出できる。住宅の処分価値の経年変化は、現在又は過去の住宅の売却額データから算出できる。
【0042】
賃貸価値算出部28は、返済期間の全体に渡って一定の賃貸価値を算出してよく、月毎に変動する賃貸価値を算出してもよい。賃貸価値の経年変化は、家賃データベースの現在又は過去の家賃データから算出できる。図4の例では月返済額を一定値としているが、最大返済額算出部30は、月毎に変動する月返済額を設定してもよい。図4では、月返済額と賃貸価値との差分を斜線で示している。
【0043】
最大返済額算出部30は、月返済額と賃貸価値との月毎の差分を積算した差分積算値を算出してよい。差分積算値は、月返済額を高く設定するほど高くなる。最大返済額算出部30は、住宅融資の完済時点における住宅の処分価値を、差分積算値が上回らない範囲で、月返済額の最大値を算出する。最大返済額算出部30は、返済期間における所定の期間において差分積算値を算出してよい。
【0044】
最大返済額算出部30は、それぞれの月毎において行使確率に更に基づいて、月返済額の最大値を算出することが好ましい。これにより、より精度よく月返済額の最大値を算出できる。
【0045】
図5は、最大返済額算出部30の動作例を示す図である。設定される範囲内の複数の月返済額X1、、・・・に対して同様の処理を行う。本例では、Xが月返済額の最小の設定値とする。図5においては、住宅融資の返済期間内の各月の番号を1からnの整数で示している。本例では、各月における月返済額は一定にしている。最大返済額算出部30は、各月における住宅の賃貸価値の推定値Yを、賃貸価値算出部28から受け取る。
【0046】
最大返済額算出部30は、返済期間内の各月に対して、当該月において本件権利が行使された場合の、当該月以降における月返済額Xと賃貸価値Yとの差分の積算値を算出する。例えば、月返済額Xに対するk番目の月における差分積算値σは、下式で与えられる。
【数1】
【0047】
最大返済額算出部30は、行使確率データベースが記録したデータに基づいて、返済期間内の各月において融資の返済が不履行となる等の要因により、本件権利の行使が発生する行使確率αを算出する。本例では図1に示したデータベース74が、行使確率データベースとして機能する。
【0048】
行使確率データベースは、過去の他の住宅融資において返済不履行が発生した確率、過去の他の住宅融資において返済の延滞が発生した確率、その他本件権利が行使されるに至る要因が発生する確率等を記録してよい。行使確率データベースは、月返済額、融資総額、または、返済期間等に対応付けて返済不履行が発生した事例、発生しなかった事例を記録してよい。最大返済額算出部30は、本件融資に対応する事例に基づいて、行使確率を算出してよい。行使確率データベースは、借入者の属性毎にデータを記録してもよい。最大返済額算出部30は、本件の借入者の属性に対応するデータに基づいて、本件権利の行使確率を算出してもよい。
【0049】
最大返済額算出部30は、各月の差分積算値σと、行使確率αとを乗算した月毎リスク期待値(時点毎期待値に対応する)α・σを月毎に算出する。最大返済額算出部30は、月毎リスク期待値α・σの返済期間内の総和であるリスク期待値Pを算出する。月返済額に対するリスク期待値Pは下式で与えられる。
【数2】
【0050】
最大返済額算出部30は、月返済額Xに対するリスク期待値Pが、住宅融資の完済時点における住宅の処分価値の推定値より大きいか否かを判定する。リスク期待値Pが、処分価値の推定値以下の場合、次に大きい月返済額Xについてリスク期待値Pを算出してよい。最大返済額算出部30は、このような処理を、リスク期待値Pが処分価値の推定値を上回るまで繰り返し、許容される月返済額の最大値を算出する。条件取得部24は、複数の種類の返済期間を取得してよい。この場合、最大返済額算出部30は、それぞれの返済期間に対して、月返済額の最大値を算出してよい。最大返済額算出部30は、最も大きい月返済額Xから処理を開始して、リスク期待値Pが処分価値の推定値以下となる月返済額を検出してもよい。
【0051】
図6から図11は、許容返済額算出装置22の動作例をより詳細に説明する図である。図6に示すように、賃貸価値算出部28は、家賃データベースから家賃データを取得して、想定家賃を算出する(S602)。上述したように、賃貸価値算出部28は、対応する地域等における現在又は過去の家賃データを取得する。想定家賃は、対応する家賃データの平均値等から算出してよい。
【0052】
賃貸価値算出部28には、想定家賃倍率、家賃上限、家賃下限、家賃減少設定値の少なくとも一つが設定されてよい。想定家賃倍率は、使用する家賃データに乗算する係数である。例えば家賃データが実績値である場合、想定家賃倍率は1未満の係数であり、家賃データが最低保証家賃額のデータである場合、想定家賃倍率は1以上の係数である。家賃データベースは、賃貸住宅についての現在又は過去の最低保証家賃のデータを記録してよい。これらの係数は、管理者等により予め設定された値を用いてよい。これらの係数は、リスク管理装置62により適宜調整されてもよい。
【0053】
家賃上限、家賃下限は、管理者等により予め定められた値を用いてよい。賃貸価値算出部28が算出する想定家賃が、設定された家賃上限および家賃下限の範囲内にない場合、賃貸価値算出部28は、設定された家賃上限または家賃下限を想定家賃としてよい。
【0054】
家賃減少設定値は、返済期間内における家賃の経年減少の設定値である。家賃減少設定値は、管理者等により設定されてよく、家賃データベースに記録された現在又は過去のデータに基づいて、賃貸価値算出部28が算出してもよい。
【0055】
賃貸価値算出部28は、算出した想定家賃に基づいて、家賃キャッシュフロー(本明細書では、家賃CFと称する)を算出する(S604)。家賃CFは、当該住宅を賃貸市場に出した場合に想定される、一月当たりの家賃収入の期待値を示している。賃貸価値算出部28は、当初募集期間、再募集期間および入居期間の少なくとも一つに基づいて、家賃CFを算出する。家賃データベースは、賃貸住宅についての、当初募集期間および再募集期間(すなわち空室期間)と、入居期間とを記録してよい。
【0056】
当初募集期間は、当該住宅を最初に賃貸市場に出してから、入居者が入居するまでの期間の推定値である。再募集期間は、当該住宅の入居者が退去してから、次の入居者が入居するまでの期間の推定値である。入居期間は、当該住宅に入居者が入居してから退去するまでの期間の推定値である。これらの推定値は、家賃データベースの現在又は過去データに基づいて、賃貸価値算出部28が算出してよい。これらの期間には加算値が設定されてよい。当該加算値は、管理者等が設定してよく、リスク管理装置62が調整してもよい。加算値が設定されている場合、賃貸価値算出部28は、推定値に加算値を加算した期間を用いる。
【0057】
賃貸価値算出部28は、これらの期間に基づいて、当該住宅から家賃収入が得られる期間と、家賃収入が得られない期間との割合を算出する。賃貸価値算出部28は、当該割合に想定家賃を乗算することで、家賃CFを算出してよい。
【0058】
図7は、本件権利の行使後における、当該住宅の経費キャッシュフロー(本明細書では、経費CFと称する)の算出例を示す図である。経費CFは、本件権利の行使から本件住宅の売却までの期間で、住宅の維持に要する経費の一月あたりの期待値を示す。賃貸価値算出部28が、経費CFを算出してよい。
【0059】
賃貸価値算出部28には、経費率が設定されてよい。賃貸価値算出部28は、S602において算出した想定家賃に経費率を乗算することで、管理費等の経費を算出する。経費率は、管理者等が設定してよく、リスク管理装置62が調整してもよい。
【0060】
賃貸価値算出部28には、住宅、敷地その他の償却資産に課される固定資産税を算出するためのデータが設定されてよい。当該データは、土地および建物の課税評価額、固定資産税率、償却資産の評価額等の設定値、固定資産税の軽減率、軽減期間等の設定値を含む。これらのデータは、管理者等が設定してよく、当該住宅の情報に基づいて顧客等の端末から入力されてもよい。賃貸価値算出部28は、これらのデータに基づいて、経費CFを算出する(S702)。
【0061】
図8は、本件権利の行使後における、当該住宅の正味運用キャッシュフロー(本明細書では、正味運用CFと称する)の算出例を示す図である。正味運用CFは、本件権利の行使から本件住宅の売却までの期間で、住宅の家賃収入の期待値から、経費の期待値を減じた一月あたりの利益の期待値を示す。本例の賃貸価値算出部28は、家賃CF(A1)から、経費CF(A2)を減じることで、正味運用CFを算出する(S802)。賃貸価値算出部28は、正味運用CFを、住宅の賃貸価値の推定値として最大返済額算出部30に入力してよい。
【0062】
図9は、差分積算値計算モジュールにおける処理の一例を示す図である。差分積算値計算モジュールは、最大返済額算出部30における処理モジュールの一部である。差分積算値計算モジュールは、住宅の賃貸価値の推定値A3(すなわち正味運用CF)に基づいて、当月の差分積算値を算出する。当月の差分積算値は、図5に示した各月の差分積算値に対応する。
【0063】
本例の差分積算値計算モジュールは、計算の開始月および月返済額を含む設定値を取得する。開始月は、返済期間内において順次選択される月である。開始月は、図5に示した時点または番号に対応する。月返済額の設定値は、月返済額の設定範囲内から選択された設定値であってよい。また、差分積算値計算モジュールは、計算金利データを取得してもよい。
【0064】
差分積算値計算モジュールは、図9に示すS902からS910までの処理を、設定された開始月から、融資期間の終了月までの全ての月に対して順次行う。差分積算値計算モジュールは、設定された開始月から、融資期間の終了月までの各月を順次選択する(S902)。差分積算値計算モジュールは、正味キャッシュフロー(正味CF)を算出する(S904)。正味CFは、S902において選択した月における住宅の運用利益の期待値である。本例の差分積算値計算モジュールは、正味運用CFから月返済額を減じて正味CFを算出する。
【0065】
差分積算値計算モジュールは、正味キャッシュフロー将来価値(正味CF将来価値)を算出する(S906)。正味CF将来価値は、S902において選択した月における正味CFに、設定される金利を融資完済まで複利で乗じた値である。
【0066】
差分積算値計算モジュールは、正味CF将来価値の前月までの累計値に、S906で新たに算出した正味CF将来価値を加算する(S908)。差分積算値計算モジュールは、開始月から終了月までの全月に対して処理が終了するまで、S902からの処理を繰り返す(S910)。
【0067】
差分積算値計算モジュールは、開始月から終了月までの全月に対してS902からS910までの処理を繰り返した結果、S908において得られた累計値を当月(すなわち設定された開始月)の差分積算値として出力する(S912)。図9に示した処理において、開始月の設定を、融資期間の各月に順次設定することで、融資期間内の各月における差分積算値を算出できる。
【0068】
図10は、リスク期待値計算モジュールにおける処理の一例を示す図である。リスク期待値計算モジュールは、最大返済額算出部30における処理モジュールの一部である。リスク期待値計算モジュールは、S1002からS1010までの処理を、融資期間の開始月から終了月までの全ての月に対して順次行う。
【0069】
リスク期待値計算モジュールは、融資期間の開始月から終了月までの各月を順次選択する(S1002)。図10の例では、S1002で選択した月を当月と称する。リスク期待値計算モジュールは、当月に対して図9において説明した差分積算値計算モジュールが算出した差分積算値を取得する(S1004)。リスク期待値計算モジュールは、当月リスク期待値を算出する(S1006)。本例において当月リスク期待値は、当月の差分積算値に、当月における本件権利の行使確率を乗じた値である。当月リスク期待値は、図5に示した月毎期待値に対応する。
【0070】
リスク期待値計算モジュールは、前月までの当月リスク期待値の積算値に、当月リスク期待値を加算して、リスク期待値を算出する(S1008)。リスク期待値計算モジュールは、融資期間の開始月から終了月までの全月に対して処理が終了するまで、S1002からの処理を繰り返す(SS1010)。
【0071】
リスク期待値計算モジュールは、融資期間の開始月から終了月までの全月に対してS1002からS1010までの処理を繰り返した結果、S1008において得られた積算値を、リスク期待値Pとして出力する(S1012)。図9および図10に示した処理において、月返済額の設定を順次変更することで、それぞれの月返済額に対するリスク期待値を算出できる。
【0072】
図11は、最大返済額算出部30の処理例を示す図である。最大返済額算出部30は、賃貸価値算出部28から賃貸価値の推定値が入力され、処分価値算出部26から処分価値の推定値が入力される。また、本例の最大返済額算出部30には、月返済額の初期値、減少値、最小値が入力される。
【0073】
最大返済額算出部30は、S1104からS1110までの処理を、月返済額の初期値から最小値までの各々の月返済額に対して順次行う。最大返済額算出部30は、月返済額の初期値から最小値までの範囲で、所定の減少値だけ順次減少させた月返済額を順次設定する(S1104)。
【0074】
最大返済額算出部30は、S1104において選択した月返済額に対して、リスク期待値計算モジュールによりリスク期待値Pを算出する(S1106)。最大返済額算出部30は、リスク期待値が、住宅の処分価値を上回ったか否かを判定する(S1108)。リスク期待値が、住宅の処分価値を上回っている場合、S1104からの処理を繰り返す(S1110)。
【0075】
S1108において、リスク期待値が住宅の処分価値以下になった場合、最大返済額算出部30は、当該ループで設定されていた月返済額を、許容される月返済額の最大値とする(S1114)。つまり、最大返済額算出部30は、リスク期待値Pが住宅の処分価値を上回らない条件での月返済額の最大値を選択する。
【0076】
S1108においてリスク期待値が住宅の処分価値を上回ったまま、月返済額の最小値までS1104からS1110までの処理が終了した場合、最大返済額算出部30は、当該月返済額の範囲内では、本件権利は引受不能と判定する(S1112)。最大返済額算出部30は、S1112およびS1114の結果を、査定テーブル32に記録してよい。査定テーブル32は、データベース74に記録されてよく、事前査定サブシステム20の内部メモリに記録されてもよい。査定テーブル32は、許容される月返済額、住宅の所在地に関するデータ、関連する家賃データ、関連する売却額データ、住宅取得予定価格、敷地価格等を対応付けて記録してよい。
【0077】
図12は、返済額判定装置42の概要を示すブロック図である。返済額判定装置42は、住宅融資において、入力された所望の月返済額で、本件権利付与が許容されるか否かを判定する。返済額判定装置42は、条件取得部44、処分価値算出部26、賃貸価値算出部28および返済額判定部50を備える。コンピュータにおけるCPUおよびメモリ等が、処分価値算出部26、賃貸価値算出部28および返済額判定部50として機能してよい。コンピュータにおけるインターフェース等が、条件取得部44として機能してよい。
【0078】
条件取得部44は、住宅融資の返済期間を含む融資条件と、所望の月返済額を取得する。月返済額は、顧客端末78または提携事業者サブシステム80から入力されてよく、返済額判定装置42の管理者等により返済額判定装置42に直接入力されてもよい。条件取得部44が取得する融資条件は、図3において説明した条件取得部24が取得する融資条件と同様である。処分価値算出部26および賃貸価値算出部28は、図3において説明した処分価値算出部26および賃貸価値算出部28と同様の機能を有する。
【0079】
返済額判定部50は、賃貸価値算出部28が算出した賃貸価値の推定値、および、処分価値算出部26が算出した処分価値の推定値に基づいて、入力された月返済額が許容されるか否かを判定する。返済額判定部50は、返済期間内の少なくとも一部の期間における賃貸価値の推定値と月返済額との差分が、処分価値の推定値に応じた条件を満たすか否かに基づいて、当該月返済額が許容されるか否かを判定する。
【0080】
図13は、返済額判定部50の処理例を示す図である。返済額判定部50は、賃貸価値の推定値、処分価値の推定値および月返済額をリスク期待値計算モジュールに入力して、当該月返済額に対するリスク期待値Pを算出する(S1302)。リスク期待値計算モジュールは、図10において説明したリスク期待値計算モジュールと同様である。許容返済額算出装置22および返済額判定装置42は、リスク期待値計算モジュールを共有してよい。許容返済額算出装置22および返済額判定装置42は、同一のコンピュータであってもよい。
【0081】
返済額判定部50は、リスク期待値Pが住宅の処分価値の推定値を上回っているか否かを判定する(S1304)。リスク期待値Pが住宅の処分価値を上回っている場合、返済額判定部50は、当該月返済額では本件権利を付与できないと判定する(S1306)。すなわち、融資返済の引き受けを拒否する。
【0082】
リスク期待値Pが住宅の処分価値以下の場合、返済額判定部50は、当該月返済額で本件権利を付与できると判定する(S1308)。すなわち、融資返済の引き受けを許容する。
【0083】
融資返済の引き受けを許容する場合、返済額判定部50は、権利テーブル52にその旨を登録する。権利テーブル52は、データベース74に記録されてよく、証明書発行サブシステム40の内部メモリに記録されてもよい。権利テーブル52は、設定された月返済額、住宅の所在地に関するデータ、関連する家賃データ、関連する売却額データ、住宅取得予定価格、敷地価格等を対応付けて記録してよい。返済額判定部50が本件権利の付与を許容した場合、証明書発行サブシステム40は、本件権利の内容を示す証明書等を出力するS1310)。
【0084】
図14は、本件権利の行使時におけるリスク管理装置62の動作例を示す図である。リスク管理装置62は、本件権利の権利者(すなわち、本件権利の付与を受けた、住宅融資の借入者)を識別する権利者ID、権利者が本件権利を行使した権利行使日、および、本件権利を識別する権利ID等の情報を取得する。当該情報は、本件権利の権利者が顧客端末78等を介して入力してよく、リスク管理装置62の管理者等がリスク管理装置62に直接入力してもよい。
【0085】
リスク管理装置62は、権利テーブル52から、対応する本件権利の内容を取得する。リスク管理装置62は、権利者IDまたは権利ID等から、対応する本件権利の内容を抽出してよい。
【0086】
リスク管理装置62は、リスク管理テーブル72に新たなレコードを作成する。当該レコードは、権利テーブル52から取得した情報、権利者ID、権利行使日等の情報を含んでよい。リスク管理装置62は、図8において説明した正味運用CF計算モジュールを用いて、権利行使時点から、融資完済時点までの正味運用CFを算出する(S1402)。
【0087】
リスク管理装置62は、算出した正味運用CFをキャッシュフローテーブル75に記録する。リスク管理装置62は、正味運用CFに対応付けて、権利者ID、正味運用CFの予想値か実績値かの区分(本例の区分は予想値)、収支の受取および支払予定日、収支の種類(例えば、家賃、管理費、税金等の種類)、収支の予定額等をキャッシュフローテーブル75に記録する。キャッシュフローテーブル75のレコードは、リスク管理テーブル72のレコードと対応付けられている。
【0088】
図15は、本件権利行使後のキャッシュフロー発生時におけるリスク管理装置62の動作例を示す図である。つまり、本件住宅に関して引受事業者に収入または支払が生じた場合のリスク管理装置62の動作例を示す。
【0089】
リスク管理装置62は、権利者ID等に基づいて、リスク管理テーブル72から、本件権利に対応するレコードを読み出し、当該レコードに対応するレコードをキャッシュフローテーブル75から読み出す。リスク管理装置62は、発生したキャッシュフローに関する情報を、キャッシュフローテーブル75の対応レコードに記録する。キャッシュフローに関する情報は、当該キャッシュフローが予想値か実績値かの区分(本例の区分は実績値)、収支の受取日および支払日、収支の種類、収支の実績額等を含む。リスク管理装置62は、キャッシュフローの予想値と、実績値との差分に基づいて、処分価値算出部26および賃貸価値算出部28における各係数または設定値を調整してよい。
【0090】
図16は、リスク管理装置62によるブレークイーブン月の算出例を示す図である。ブレークイーブン月とは、本件権利行使後において、差分積算値σが住宅の処分価値の推定値を上回る直前の月を指す。
【0091】
リスク管理装置62は、権利者ID等に基づいて、リスク管理テーブル72およびキャッシュフローテーブル75から対応するレコードを読み出す。リスク管理装置62は、家賃収入等の収支が実際に発生した最終実績月の翌月から、融資返済の最終月までの各月を順番に選択する(S1602)。
【0092】
リスク管理装置62は、S1602において選択した月以降の正味運用CFを算出する(S1604)。リスク管理装置62は、図8において説明した正味運用CF計算モジュールを有してよい。次にリスク管理装置62は、S1602において選択した月を開始月として、差分積算値を算出する(S1606)。リスク管理装置62は、図9において説明した差分積算値計算モジュールを有してよい。
【0093】
リスク管理装置62は、S1602において選択した月における住宅の処分価値の推定値を算出する(S1608)。リスク管理装置62は、処分価値算出部26を有してよい。
【0094】
リスク管理装置62は、差分積算値が初めて処分価値以上になったか否かを判定する(S1610)。差分積算値が初めて処分価値以上になった場合、S1602で選択した月の前月を、ブレークイーブン月として設定する(S1612)。他の場合、ブレークイーブン月を設定しない。リスク管理装置62は、返済最終月に対する処理が完了するまで、S1602からの処理を繰り返す(S1614)。
【0095】
リスク管理装置62は、ブレークイーブン月をリスク管理テーブル72に記録してよい。また、リスク管理装置62は、リスク管理装置62の管理者等に対して、ブレークイーブン月を提示してよい。管理者等は、ブレークイーブン月に基づいて、住宅の売却時期を検討できる。リスク管理装置62は、各月に対して算出した正味運用CF、差分積算値、各月の処分価値等の情報をキャッシュフローテーブル75に記録してもよい。
【0096】
図17は、リスク管理装置62のリスク管理処理の一例を示す図である。リスク管理装置62は、権利者ID等に基づいて、リスク管理の対象となる本件権利を特定する。リスク管理装置62は、本件権利に対応するレコードを、リスク管理テーブル72およびキャッシュフローテーブル75から抽出する。リスク管理装置62は、抽出したレコードに含まれる一部または全部の情報を、リスク情報として管理者に提示してよい。
【0097】
図18は、本発明の複数の態様が全体的又は部分的に具現化されうるコンピュータ1800の例を示す。コンピュータ1800にインストールされたプログラムは、コンピュータ1800を、本発明の実施形態に係る装置の1又は複数の「部」若しくはモジュールとして機能させ、又は、コンピュータ1800に、本発明の実施形態に係る各処理または計算を実行させることができる。このようなプログラムは、コンピュータ1800に、本明細書に記載のフローチャート及びブロック図のブロックのうちのいくつか又はすべてに関連付けられた特定の処理を実行させるべく、CPU1812によって実行されてよい。
【0098】
本実施形態によるコンピュータ1800は、CPU1812、RAM1814、グラフィックコントローラ1816、及びディスプレイデバイス1818を含み、これらはホストコントローラ1810によって相互に接続される。コンピュータ1800はまた、通信インターフェース1822、ハードディスクドライブ1824、DVD−ROMドライブ1826、及びICカードドライブのような入出力ユニットを含み、これらは入出力コントローラ1820を介してホストコントローラ1810に接続される。コンピュータはまた、ROM1830及びキーボード1842のようなレガシの入出力ユニットを含み、これらは入出力チップ1840を介して入出力コントローラ1820に接続される。
【0099】
CPU1812は、ROM1830及びRAM1814内に格納されたプログラムに従い動作し、これにより各ユニットを制御する。グラフィックコントローラ1816は、RAM1814内に提供されるフレームバッファ等又は当該グラフィックコントローラ1816自体の中に、CPU1812によって生成されるイメージデータを取得し、イメージデータがディスプレイデバイス1818上に表示させる。
【0100】
通信インターフェース1822は、ネットワークを介して他の電子デバイスと通信する。ハードディスクドライブ1824は、コンピュータ1800内のCPU1812によって使用されるプログラム及びデータを格納する。DVD−ROMドライブ1826は、プログラム又はデータをDVD−ROM1801から読み取り、ハードディスクドライブ1824にRAM1814を介してプログラム又はデータを提供する。ICカードドライブは、プログラム及びデータをICカードから読み取り、及び/又はプログラム及びデータをICカードに書き込む。
【0101】
ROM1830は、内部に、アクティブ化時にコンピュータ1800によって実行されるブートプログラム等、及び/又はコンピュータ1800のハードウェアに依存するプログラムを格納する。入出力チップ1840はまた、様々な入出力ユニットをパラレルポート、シリアルポート、キーボードポート、マウスポート等を介して、入出力コントローラ1820に接続してよい。
【0102】
プログラムが、DVD−ROM1801又はICカードのようなコンピュータ可読記憶媒体によって提供される。プログラムは、コンピュータ可読記憶媒体から読み取られ、コンピュータ可読記憶媒体の例でもあるハードディスクドライブ1824、RAM1814、又はROM1830にインストールされ、CPU1812によって実行される。これらのプログラム内に記述される情報処理は、コンピュータ1800に読み取られ、プログラムと、上記様々なタイプのハードウェアリソースとの間の連携をもたらす。装置又は方法が、コンピュータ1800の使用に従い情報のオペレーション又は処理を実現することによって構成されてよい。
【0103】
例えば、通信がコンピュータ1800及び外部デバイス間で実行される場合、CPU1812は、RAM1814にロードされた通信プログラムを実行し、通信プログラムに記述された処理に基づいて、通信インターフェース1822に対し、通信処理を命令してよい。通信インターフェース1822は、CPU1812の制御の下、RAM1814、ハードディスクドライブ1824、DVD−ROM1801、又はICカードのような記録媒体内に提供される送信バッファ領域に格納された送信データを読み取り、読み取られた送信データをネットワークに送信し、又はネットワークから受信した受信データを記録媒体上に提供される受信バッファ領域等に書き込む。
【0104】
また、CPU1812は、ハードディスクドライブ1824、DVD−ROMドライブ1826(DVD−ROM1801)、ICカード等のような外部記録媒体に格納されたファイル又はデータベースの全部又は必要な部分がRAM1814に読み取られるようにし、RAM1814上のデータに対し様々なタイプの処理を実行してよい。CPU1812は次に、処理されたデータを外部記録媒体にライトバックしてよい。
【0105】
様々なタイプのプログラム、データ、テーブル、及びデータベースのような、様々なタイプの情報が、情報処理されるべく、記録媒体に格納されてよい。CPU1812は、RAM1814から読み取られたデータに対し、本開示の随所に記載され、プログラムの命令シーケンスによって指定される様々なタイプのオペレーション、情報処理、条件判断、条件分岐、無条件分岐、情報の検索/置換等を含む、様々なタイプの処理を実行してよく、結果をRAM1814に対しライトバックする。また、CPU1812は、記録媒体内のファイル、データベース等における情報を検索してよい。
【0106】
以上の説明によるプログラム又はソフトウェアモジュールは、コンピュータ1800上又はコンピュータ1800近傍のコンピュータ可読記憶媒体に格納されてよい。また、専用通信ネットワーク又はインターネットに接続されたサーバシステム内に提供されるハードディスク又はRAMのような記録媒体が、コンピュータ可読記憶媒体として使用可能であり、これにより、プログラムをコンピュータ1800にネットワークを介して提供する。
【0107】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0108】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0109】
10・・・引受事業者システム、20・・・事前査定サブシステム、22・・・許容返済額算出装置、24・・・条件取得部、26・・・処分価値算出部、28・・・賃貸価値算出部、30・・・最大返済額算出部、32・・・査定テーブル、40・・・証明書発行サブシステム、42・・・返済額判定装置、44・・・条件取得部、50・・・返済額判定部、52・・・権利テーブル、60・・・リスク管理サブシステム、62・・・リスク管理装置、70・・・サーバー、71・・・内部ネットワーク、72・・・リスク管理テーブル、74・・・データベース、75・・・キャッシュフローテーブル、76・・・外部ネットワーク、78・・・顧客端末、80・・・提携事業者サブシステム、100・・・金融価値算定システム、1800・・・コンピュータ、1801・・・DVD−ROM、1810・・・ホストコントローラ、1812・・・CPU、1814・・・RAM、1816・・・グラフィックコントローラ、1818・・・ディスプレイデバイス、1820・・・入出力コントローラ、1822・・・通信インターフェース、1824・・・ハードディスクドライブ、1826・・・DVD−ROMドライブ、1830・・・ROM、1840・・・入出力チップ、1842・・・キーボード
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