特許第6892102号(P6892102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6892102ウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードの判定方法およびその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892102
(24)【登録日】2021年5月31日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】ウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードの判定方法およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20210607BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20210607BHJP
【FI】
   C12N15/09 ZZNA
   C12Q1/6827 Z
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-17882(P2017-17882)
(22)【出願日】2017年2月2日
(65)【公開番号】特開2018-121593(P2018-121593A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2020年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】間 陽子
(72)【発明者】
【氏名】竹嶋 伸之輔
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 慎二
(72)【発明者】
【氏名】杉本 喜憲
【審査官】 西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−246881(JP,A)
【文献】 特表2015−526099(JP,A)
【文献】 特表2011−505872(JP,A)
【文献】 神馬繭子,竹嶋伸之輔,間陽子 ,腫瘍壊死因子(TNF)-αのプロモーター領域の多型とウシ白血病発症との相関解析,動物遺伝育種研究,2007年,第35巻2号,p245
【文献】 竹嶋伸之輔,BLV-CoCoMo-qPCRで何がわかるか? ,革新的技術で牛白血病ウイルス(BLV)から牛を守る 理研シンポジウム 講演要旨集 平成28年,2016年,p.9-32
【文献】 T Miyasaka, S-n Takeshima, M Jimba, Y Matsumoto, N Kobayashi, T Matsuhashi, H Sentsui, Y Aida,Identification of bovine leukocyte antigen class II haplotypes associated with variations in bovine leukemia virus proviral load in Japanese Black cattle,Tissue Antigens,2013年,81(2),p.72-82
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/6827
G16B 20/00−20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(3)の少なくとも一種の領域または該領域に対応する領域に存在する一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいてウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードが高プロウイルスロードであるか、または、高プロウイルスロードとなる可能性があるかを判定する、ウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードの判定方法であって、
(1)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27116737〜27362842番目の塩基領域
(2)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27383176〜27444064番目の塩基領域
(3)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28193501〜28311070番目の塩基領域
上記(1)〜(3)の少なくとも一種の領域または該領域に対応する領域に存在する一塩基多型として、下記の(4)〜(7)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の一塩基多型または該一塩基多型に対応する一塩基多型を検出することを含んでいる、判定方法。
(4)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27280154番目の塩基におけるG/Aの多型
(5)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27421348番目の塩基におけるG/Aの多型
(6)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28223274番目の塩基におけるG/Aの多型
(7)上記(4)〜(6)のいずれかの多型と連鎖不平衡にある多型であって、該連鎖不平衡にある多型は連鎖不平衡係数D’が0.8以上である、多型。
【請求項2】
記一塩基多型において、該多型における塩基がリスクアレルである場合に高プロウイルスロードである、または、高プロウイルスロードとなる可能性があると判定することをさらに含む、請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
記一塩基多型において、リスクアレルのホモ接合体、リスクアレルと非リスクアレルのへテロ接合体、および非リスクアレルのホモ接合体のいずれであるかによって、プロウイルスロードの程度および高プロウイルスロードとなる可能性を判定する、請求項1または2に記載の判定方法。
【請求項4】
以下の(1)〜(3)の少なくとも一種の領域または該領域に対応する領域に存在する一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいてウシ白血病可能性またはウシ白血病発症リスクの判定をする、ウシ白血病の判定方法であって、
(1)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27116737〜27362842番目の塩基領域
(2)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27383176〜27444064番目の塩基領域
(3)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28193501〜28311070番目の塩基領域
上記(1)〜(3)の少なくとも一種の領域または該領域に対応する領域に存在する一塩基多型として、下記の(4)〜(7)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の一塩基多型または該一塩基多型に対応する一塩基多型を検出することを含んでいる、判定方法。
(4)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27280154番目の塩基におけるG/Aの多型
(5)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27421348番目の塩基におけるG/Aの多型
(6)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28223274番目の塩基におけるG/Aの多型
(7)上記(4)〜(6)のいずれかの多型と連鎖不平衡にある多型であって、該連鎖不平衡にある多型は連鎖不平衡係数D’が0.8以上である、多型。
【請求項5】
下記(1)〜(4)の何れかの一塩基多型または該一塩基多型に対応する一塩基多型を含む領域を増幅することのできるプライマーを含む、ウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロード判定用試薬。
(1)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27280154番目の塩基におけるG/Aの多型
(2)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27421348番目の塩基におけるG/Aの多型
(3)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28223274番目の塩基におけるG/Aの多型
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの多型と連鎖不平衡にある多型であって、該連鎖不平衡にある多型は連鎖不平衡係数D’が0.8以上である、多型
【請求項6】
下記(1)〜(4)の何れかの一塩基多型または該一塩基多型に対応する一塩基多型を含む領域の15塩基以上の配列またはその相補配列を有するプローブを含む、ウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロード判定用試薬。
(1)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27280154番目の塩基におけるG/Aの多型
(2)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27421348番目の塩基におけるG/Aの多型
(3)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28223274番目の塩基におけるG/Aの多型
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの多型と連鎖不平衡にある多型であって、該連鎖不平衡にある多型は連鎖不平衡係数D’が0.8以上である、多型
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードの判定方法およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ウシ白血病ウイルス(BLV)は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型および2型(HTLV−1およびHTLV−2)と共に、デルタレトロウイルス属に属するレトロウイルス科ファミリーのメンバーであり(非特許文献1)、世界規模でのウシへの感染が知られている。BLVに感染したウシは次の3つの病態を示す。i)臨床的無症状(未発症)、ii)末梢血リンパ球が著しく増加した状態である持続的リンパ球増多症(Persistent Lymphocytosios:PL)、そして、iii)長い潜伏期(例えば感染から5年から10年)の後の、種々のリンパ節におけるB細胞リンパ腫(非特許文献1)。
【0003】
これまでの研究により、BLVプロウイルスロードとウシ白血病の病態の進行との関連が明らかにされ、低プロウイルスロードのウシでは農場でのBLVの伝播が生じないことが示されている(非特許文献2および3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Aida Y et al.,Front Microbiol 2013, 4:328.
【非特許文献2】Juliarena MA et. al.,J Dairy Sci 2016,99(6):4586-4589.
【非特許文献3】Miyasaka T al., Tissue Antigens 2013, 81:72-82.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、ウシにおけるBLVプロウイルスロードを正確かつ容易に調べられる方法は、迅速かつ容易にBLV感染牛か否かの判別をするための手段として非常に有効であると考えられる。そのためにはBLVプロウイルスロードの増加と関連する主要な因子の決定が望まれる。本発明は、上記の課題を鑑み、新規なBLVプロウイルスロードの判定方法およびその利用を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行い、ウシゲノムの第22染色体特定領域または第23染色体の特定領域に存在する一塩基多型(single nucleotide polymorphism(以下、SNPとも記載する))がBLVプロウイルスロードと関連することを同定した。そして、これらの多型を調べることにより、プロウイルスロードが高プロウイルスロードであるか、または、高プロウイルスロードとなる可能性があるかの判定をし、さらにはウシ白血病またはウシ白血病発症リスクの判定を実施できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
<1> 以下の(1)〜(3)の少なくとも一種の領域または該領域に対応する領域に存在する一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいてウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードが高プロウイルスロードであるか、または、高プロウイルスロードとなる可能性があるかを判定する、ウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードの判定方法。
(1)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27116737〜27362842番目の塩基領域
(2)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27383176〜27444064番目の塩基領域
(3)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28193501〜28311070番目の塩基領域
<2> 上記検出した一塩基多型において、該多型における塩基がリスクアレルである場合に高プロウイルスロードである、または、高プロウイルスロードとなる可能性があると判定することをさらに含む、<1>に記載の判定方法。
<3> 上記検出した一塩基多型において、リスクアレルのホモ接合体、リスクアレルと非リスクアレルのへテロ接合体、および非リスクアレルのホモ接合体のいずれであるかによって、プロウイルスロードの程度および高プロウイルスロードとなる可能性を判定する、<1>または<2>に記載の判定方法。
<4> 上記(1)〜(3)の少なくとも一種の領域または該領域に対応する領域に存在する一塩基多型として、下記の(4)〜(7)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の一塩基多型または該一塩基多型に対応する一塩基多型を検出することを含む、<1>〜<3>の何れかに記載の判定方法。
(4)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27280154番目の塩基におけるG/Aの多型
(5)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27421348番目の塩基におけるG/Aの多型
(6)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28223274番目の塩基におけるG/Aの多型
(7)上記(4)〜(6)のいずれかの多型と連鎖不平衡にある多型。
<5> 以下の(1)〜(3)の少なくとも一種の領域または該領域に対応する領域に存在する一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいてウシ白血病可能性またはウシ白血病発症リスクの判定をする、ウシ白血病の判定方法。
(1)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27116737〜27362842番目の塩基領域
(2)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27383176〜27444064番目の塩基領域
(3)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28193501〜28311070番目の塩基領域
<6> 下記(1)〜(4)の何れかの一塩基多型または該一塩基多型に対応する一塩基多型を含む領域を増幅することのできるプライマーを含む、ウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロード判定用試薬。
(1)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27280154番目の塩基におけるG/Aの多型
(2)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27421348番目の塩基におけるG/Aの多型
(3)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28223274番目の塩基におけるG/Aの多型
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの多型と連鎖不平衡にある多型。
<7> 下記(1)〜(4)の何れかの一塩基多型または該一塩基多型に対応する一塩基多型を含む領域の15塩基以上の配列またはその相補配列を有するプローブを含む、ウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロード判定用試薬。
(1)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27280154番目の塩基におけるG/Aの多型
(2)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27421348番目の塩基におけるG/Aの多型
(3)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28223274番目の塩基におけるG/Aの多型
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの多型と連鎖不平衡にある多型。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、これまで予測が困難であったBLVのプロウイルスロードの検査が可能になる。さらには、ウシ白血病を正確かつ簡便に検査することができる。したがって、本発明はウシ白血病の予防や早期治療に貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】BLVプロウイルス感染している444個体の黒毛和種と、日本の22都道府県から採取した858個体の黒毛和種のSNPタイピングに基づいて推定されたプロウイルスロードの分散を示す図である。図1の(A)は、BLVプロウイルスを有する444個体の黒毛和種のSNPタイピングに基づいて推定された分散を示している。図1の(B)は、日本の22都道府県から採取した858個体の黒毛和種のSNPタイピングに基づいて推定されたプロウイルスロードの分散を示している。
図2】BLVプロウイルス感染している444個体の黒毛和種をプロウイルス量で4群に分け、最もプロウイルス量が少ない群と、プロウイルス量の多い上位2群、計359頭を選択し、相関解析を行った結果を示す図である。図2の(A)は、分位数−分位数(quantile-quantile(Q−Q))プロットを示している。図2の(B)は、359個体の黒毛和種におけるBLVプロウイルスロードと33,006個のSNP(BovineSNP BeadChip)の相関のマンハッタンプロットを示す。
図3】第23番染色体領域に位置するSNPとBLVプロウイルスロードとの相関を示すマンハッタンプロット。有意差のあるSNP周辺の遺伝子のリストを下段に示している。
図4】第22染色体領域に位置するSNPとBLVプロウイルスロードとの相関を示すマンハッタンプロット。有意差のあるSNP周辺の遺伝子のリストを下段に示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0011】
〔1.ウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードの判定方法〕
本発明のウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードの判定方法は、以下の(1)〜(3)の少なくとも一種の領域または該領域に対応する領域に存在する一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいてウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードが高プロウイルスロードであるか、または、高プロウイルスロードとなる可能性があるかを判定することを含む。
【0012】
(1)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27116737〜27362842番目の塩基領域
(2)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27383176〜27444064番目の塩基領域
(3)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28193501〜28311070番目の塩基領域
【0013】
ここでBos_taurus_UMD_3.1は、データベース(Bovine GenomeDatabase (http://bovinegenome.org/ )またはhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/等)に登録されているウシゲノムデータのアッセンブリ番号を示す。
BLVに感染すると、感染した細胞の染色体に1コピーのプロウイルスDNAが組み込まれる。感染細胞数が多ければ多いほどプロウイルスのDNAコピー数は増加するので、プロウイルスDNAのコピー数は感染細胞数に対応する。本明細書において、「プロウイルスロード」とは、所定の細胞数あたりのプロウイルスコピー数を示すものであり、生体中のプロウイルス感染細胞数の指標である。高プロウイルスロードとは、無作為に収集したBLV感染牛のプロウイルス量をK−means法によって4つのクラスターに分類したときに、一番高いプロウイルス量を示すクラスターと2番目に高いプロウイルス量を示すクラスターとの範囲のプロウイルス量として定義したものである。また、3番目に高いプロウイルス量を持つクラスターを「中程度」、最も低いプロウイルス量を持つ集団を「低プロウイルス量」として定義する。
例えば、プロウイルスロードは、末梢血リンパ球10細胞当たりのプロウイルスのコピー数として表される。ここで、一実施形態では、プロウイルスロードは、数値の大きさによって、高プロウイルスロード、中程度プロウイルスロード、低プロウイルスロードとして定義することができる。
高プロウイルスロードの一例としては、末梢血リンパ球10細胞当たり、プロウイルスロードが42605コピー/10細胞より大きい場合とすることができる。「高」の中でも76397コピー/10細胞より大きいものを「非常に高」として分類することもできる。
また、「低プロウイルスロード」を13819コピー/10細胞以下、「中程度プロウイルスロード」を14237コピー/10細胞より高く40698コピー/10細胞以下の範囲として分類することもできる。
【0014】
また、本明細書では、上記の(1)〜(3)の各染色体領域を、それぞれ、単に第22染色体の対象領域または第23染色体の対象領域とも記載する。
【0015】
以下、判定方法について詳細に記載する。
【0016】
(対象の一塩基多型(SNP))
Bos_taurus_UMD_3.1における第22番染色体27116737〜27362842番目の塩基領域に存在する具体的なSNPとしては、rs110616206を挙げることができる。ここで、rs番号はNational Center for BiotechnologyInformationのdbSNPデータベース(http//www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/)の登録番号を示す。SNPは、この27116737〜27362842番目の塩基領域のContactin-3(CNTN3)遺伝子が含まれる連鎖不平衡ブロックに位置するものであり得る。
【0017】
また、Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27383176〜27444064番目の塩基領域または第23染色体28193501〜28311070番目の塩基領域に存在する具体的なSNPとしては、rs29026690およびrs17872126を挙げることができる。これらSNPのうちrs29026690は、第23染色体27383176〜27444064番目の塩基領域のMSH5、CLIC1、DDAH2、C23H6orf25、LY6G6C、LY6G6E、LY6G6F、およびABHD16A遺伝子が含まれる連鎖不平衡ブロックに位置するものであり得る。さらに、rs17872126は、第23染色体28193501〜28311070番目の塩基の番目の塩基領域のABCF1、BTA-mir-2378、BTA-mir-877、PRR3、GNL1、TRIM39-RPP21、LOC615278、LOC104975665、BoLA class I遺伝子が含まれる連鎖不平衡ブロックに位置するものであり得る。このように、当該連鎖不平衡ブロックに存在するSNPを解析することによってプロウイルスロードを判定することができる。
【0018】
上記第22染色体領域または第23染色体領域の主要組織適合遺伝子複合体領域(Major histocompatibity complex region:MHC)は、MHC抗原をコードする領域であり、免疫応答に関与する。上述のSNPは、これらの染色体領域の主要組織適合遺伝子複合体領域(MHC region)に位置する。よって、特に、MHC領域に存在するSNPを解析することによってBLVプロウイルスロードを推定することができる。MHCは、ウシではBoLA(Bovine Leukocyte Antigen)と呼称され、BLVとの関連性が明らかにされつつある。
【0019】
本発明においては、上記第22染色体の対象領域および第23染色体の対象領域の少なくとも一種の領域または該領域に対応する領域における、上記塩基および一塩基多型に対応する(相当する)塩基および一塩基多型を解析する。ここで、「対応する(相当する)」とは、第22染色体対象領域または第23染色体対象領域上の上記塩基領域中の該当塩基を意味し、仮にウシの種類の違いなどによって上記配列がSNP以外の位置で若干変化したとしても、上記領域における該当塩基を解析することが含まれる。なお、「対応する領域」の範疇には、該領域のセンス鎖およびアンチセンス鎖のいずれの配列をも包含する。
【0020】
上記SNPの塩基の種類によって、プロウイルスロードを判定することができる。検査するSNPの数は、1種類でもよいし、複数(ハプロタイプ解析)でもよい。なお、上記染色体領域の配列はセンス鎖を解析してもよいし、アンチセンス鎖を解析してもよい。
【0021】
rs110616206はBos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27280154番目の塩基におけるグアニン(G)/アデニン(A)の多型を意味し、この塩基がアデニン(A)(リスクアレル)である場合は高プロウイルスロードであるか、または、高プロウイルスロードとなる可能性がある。また、遺伝子型を考慮して解析した場合は、AA>AG>GGの順で高プロウイルスロードであるか、または、高プロウイルスロードとなる可能性がある。
【0022】
rs29026690はBos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27421348番目の塩基におけるG/Aの多型を意味し、この塩基がA(リスクアレル)である場合は高プロウイルスロードであるか、または、高プロウイルスロードとなる可能性がある。また、遺伝子型を考慮して解析した場合は、AA>AG>GGの順で高プロウイルスロードであるか、または、高プロウイルスロードとなる可能性がある。
【0023】
rs17872126はBos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28223274番目の塩基におけるG/Aの多型を意味し、この塩基がA(リスクアレル)である場合は高プロウイルスロードであるか、または、高プロウイルスロードとなる可能性がある。また、遺伝子型を考慮して解析した場合は、AA>AG>GGの順で高プロウイルスロードであるか、または、高プロウイルスロードとなる可能性がある。
なお、上記3つのSNPのうち、rs110616206およびrs29026690の場合、A(リスクアレル)はマイナーアレルである。rs17872126の場合のA(リスクアレル)は、メジャーアリルである。ここで、上記したrs110616206、rs29026690およびrs17872126におけるグアニン(G)/アデニン(A)の多型は、ゲノムのアンチセンス方向の配列における塩基で示しているが、その相補配列において解析する場合は、これらの塩基の相補塩基であるシトシン(C)/チミン(T)が該多型に対応する多型である。
【0024】
なお、rs110616206、rs29026690およびrs17872126について、SNP塩基およびその前後60bpの領域を含む合計121bpの長さの配列を、それぞれ配列番号1、2および3に示した。それぞれ61番目の塩基が多型を有する。
【0025】
また、本発明において解析する塩基は上記のものに限定されず、上記(1)〜(3)に記載の多型と連鎖不平衡にある多型を用いることもできる。連鎖不平衡とは、2つの対立遺伝子がそれぞれ独立に遺伝する場合よりも大きな頻度で互いに連鎖して遺伝することをいう。このような連鎖不平衡を示す一群の対立遺伝子のことをハプロタイプと称する。上述の領域内において複数のSNPがある場合、その多型の組み合わせは個体によって異なる。この組み合わせがいわゆるハプロタイプマーカーとなる。このようなハプロタイプマーカーを利用して被験個体の遺伝情報とプロウイルスロードおよび後述するウシ白血病の有無とを関連付けることができる。本発明では、連鎖不平衡係数D’が好ましくは0.8以上、より好ましくは0.95以上、さらに好ましくは0.99以上、最も好ましくは1である多型を用いることができる。
【0026】
複数のウシから採取したDNAをシークエンサーにて配列解析し、連鎖不平衡にあるSNPを探索することにより同定することもできる。上記の塩基と連鎖不平衡にある塩基は、遺伝子型を考慮して解析した場合は、リスクアレルのホモ接合体>リスクアレルと非リスクアレルのへテロ接合体>非リスクアレルのホモ接合体の順で高プロウイルスロードとなるか、または、高プロウイルスロードとなる可能性がある。
【0027】
すなわち、さらなる実施形態において、BLVプロウイルスロードの判定方法は、上記検出した一塩基多型において、該多型における塩基がリスクアレルである場合に高プロウイルスロードである、または、高プロウイルスロードとなる可能性があると判定することをさらに含む。さらに該多型における塩基が非リスクアレルである場合には中程度か低プロウイルスロードであるか、中程度か低プロウイルスロードとなる可能性があると判定することを含み得る。
【0028】
また、さらなる別の実施形態において、BLVプロウイルスロードの判定方法は、上記検出した一塩基多型において、リスクアレルのホモ接合体、リスクアレルと非リスクアレルのへテロ接合体、および非リスクアレルのホモ接合体のいずれであるかによって、プロウイルスロードの程度および高プロウイルスロードとなる可能性を判定することをさらに含む。
【0029】
以上のことから、BLVプロウイルスロードの判定方法の一例では上記(1)〜(3)の少なくとも一種の領域または該領域に対応する領域に存在する一塩基多型として、下記の(4)〜(7)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の一塩基多型または該一塩基多型に対応する一塩基多型を検出することを含む。
【0030】
(4)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27280154番目の塩基におけるG/Aの多型
(5)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27421348番目の塩基におけるG/Aの多型
(6)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28223274番目の塩基におけるG/Aの多型
(7)上記(4)〜(6)のいずれかの多型と連鎖不平衡にある多型。
【0031】
(被験対象動物)
検査対象の試料の由来となる被験対象動物は、ウシであり、ウシ(Bos taurus)、コブウシ(Bos indicus)およびスイギュウ(Bubalus bubalis)等が挙げられる。ウシとしては、乳用種、肉用種、乳肉兼用種、役用種、役肉兼用種等が挙げられる。具体的には、例えば、黒毛和種、日本短角種等の和牛、ホルスタイン、ジャージーおよび各国の在来種等の品種が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
(検査試料)
一塩基多型の検出の対象となる検査試料は、ゲノムDNAを含む試料であれば特に制限されない。例えば、任意の生物学的試料、例えば血液、骨髄液、尿等の体液、口腔粘膜、肝臓等の組織細胞、体毛等が挙げられる。SNPの解析にはこれらの試料を直接使用することもできるが、これらの試料からゲノムDNAを常法により単離し、これを用いて解析することが好ましい。ゲノムDNA等は、これらの試料より常法に従い抽出、精製し、調製することができる。なお、場合によっては、cDNA、またはmRNAを使用することもできる。
【0033】
(増幅方法)
検査試料から一塩基多型を検出するにあたっては、好ましくは、まず一塩基多型を含む部分を増幅する。増幅は、例えばPCR法によって行われるが、他の公知の増幅方法、例えばNASBA法、LCR法、SDA法、LAMP法等で行ってもよい。PCRに用いる具体的プライマーについて以下の〔2.ウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロード判定用プライマー〕にて説明する。
【0034】
(検出方法)
一塩基多型の検出は、シークエンス解析、インベーダーアッセイ、ハイブリダイゼーション等で行うことができる。例えば、変性勾配ゲル電気泳動法(DGGE denaturing gradient gel electrophoresis)、一本鎖コンフォメーション多型解析(SSCP:singlestrandconformation polymorphism)、対立遺伝子特異的PCR(allele-specific PCR)、ASO(allele-specificoligonucleotide)によるハイブリダイーゼーション法、ミスマッチ部位の化学的切断(CCM:chemicalcleavage of mismatches)、HET(hetero duplex method)法、PEX(primer extension)法、RCA(rolling circleamplification)法等を用いて行ってもよい。
【0035】
以上のように、本発明のウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードの判定方法であれば、プロウイルスロードの検査および高プロウイルスロードか否か、または、高プロウイルスロードとなる可能性があるか否か、およびプロウイルスロードの程度を正確かつ容易に、最低限のコストで調べることができる。さらには、プロウイルスロードの判定方法によって得られた判定結果に基づいて、高プロウイルスロードのウシまたは将来的に仮に感染した場合に高プロウイルスロードになりうるウシ(ウシ白血病発症リスクを有するウシ)を選択する、ウシの選抜方法にも適用可能である。
【0036】
〔2.ウシ白血病の判定方法〕
本発明は、さらに、以下の(1)〜(3)の少なくとも一種の領域または該領域に対応する領域に存在する一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいてウシ白血病可能性またはウシ白血病発症リスクの判定をする、ウシ白血病の判定方法も提供する。
【0037】
(1)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27116737〜27362842番目の塩基領域
(2)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27383176〜27444064番目の塩基領域
(3)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28193501〜28311070番目の塩基領域
一例では上記の(1)〜(3)の少なくとも一種の領域または該領域に対応する領域に存在する一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいてプロウイルスロードの判定をし、該プロウイルスロードの判定結果に基づいてウシ白血病の判定をする。
すなわち、本発明において、「ウシ白血病の判定」とはウシ白血病の発症リスクの有無およびウシ白血病の発症の有無の判定を含む。本発明の判定方法は、上記染色体領域のSNPの分析を行い、SNPの分析結果から、高プロウイルスロードであるか否か、または、高プロウイルスロードとなる可能性があるか否か、および/またはプロウイルスロードの程度を、ウシ白血病の発症リスクおよび/または発症の有無と関連付けるものである。上記の(1)〜(3)の少なくとも一種の領域に存在する一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいてプロウイルスロードを判定する工程は、上述のウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードの判定方法に記載の方法の項目に記載の方法を適用することができる。
【0038】
プロウイルスロードの判定の結果、高プロウイルスロードである、または、高プロウイルスロードとなる可能性がある場合に、ウシ白血病可能性またはウシ白血病発症リスクが高いと判定する。
【0039】
なお、必要に応じて、本発明のウシ白血病の判定方法は他の公知のBLV感染検査(抗体検査等)と組み合わせても実施してもよい。
【0040】
〔3.ウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロード判定用プライマー〕
本発明は、ウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロード判定用プライマーも提供する。本発明のプライマーは本発明のウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードの判定方法に用いることができる。本発明のプライマーは、下記(1)〜(4)の何れかの一塩基多型または該一塩基多型に対応する一塩基多型を含む領域を増幅することのできる、ウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードの判定用プライマーである。
【0041】
(1)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27280154番目の塩基におけるG/Aの多型
(2)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27421348番目の塩基におけるG/Aの多型
(3)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28223274番目の塩基におけるG/Aの多型
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの多型と連鎖不平衡にある多型。
【0042】
また、本発明のBLVプロウイルスロードの判定方法およびウシ白血病の判定方法に用いられるプライマーとしては、上記SNP部位を増幅するためのPCRに用いることのできるプライマー、または上記SNP部位を配列解析(シークエンシング)するために用いることのできるプライマーが挙げられる。具体的には、上記のSNP部位の塩基を含む領域を増幅したりシークエンシングしたりすることのできるプライマーや、当該塩基と連鎖不平衡の関係にある塩基を含む領域を増幅、またはシークエンシングしたりすることのできるプライマーが挙げられる。このようなプライマーの長さは10〜50塩基が好ましく、15〜35塩基がより好ましく、20〜35塩基がさらに好ましい。一例としては、rs110616206、rs29026690およびrs17872126におけるSNP塩基を増幅するための、配列番号4および配列番号5に示されるプライマーが挙げられる。
【0043】
上記SNP部位をシークエンシングするためのプライマーとしては、上記塩基の5’側領域、好ましくは30〜100塩基上流の配列を有するプライマーや、上記塩基の3’側領域、好ましくは30〜100塩基下流の領域に相補的な配列を有するプライマーが例示される。PCRによる増幅の有無で多型を判定するために用いるプライマーとしては、上記塩基を含む配列を有し、上記塩基を3’側に含むプライマーや、上記塩基を含む配列の相補配列を有し、上記塩基の相補塩基を3’側に含むプライマーなどが例示される。
【0044】
プライマーの選択は、例えば、上述の(1)〜(3)の塩基配列における、前記の一塩基多型部位を含む連続する少なくとも10塩基以上、好ましくは10〜100塩基、より好ましくは10〜50塩基の配列、および/またはその相補配列を増幅するように行う。
プライマーは、前記の一塩基多型部位を含む所定塩基数の配列を増幅するためのプライマーとして機能し得る限り、その配列において1またはそれ以上の置換、欠失、付加を含んでいてもよい。
【0045】
増幅のために用いるプライマーは、試料が一の対立遺伝子型の場合にのみ増幅されるようにフォワードプライマーまたはリバースプライマーの一方が一塩基多型部位にハイブリダイズするように選択してもよい。プライマーは必要に応じて蛍光物質、放射性物質等により標識することができる。
【0046】
〔4.ウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードの判定用プローブ〕
一塩基多型の検出は、一の対立遺伝子型に特異的なプローブとのハイブリダイゼーショ
ンによっても行うことができる。一例のウシ白血病ウイルス(BLV)プロウイルスロードの判定用プローブは、下記(1)〜(4)の何れかの一塩基多型または該一塩基多型に対応する一塩基多型を含む領域の15塩基以上の配列またはその相補配列を有する。
【0047】
(1)Bos_taurus_UMD_3.1の第22染色体27280154番目の塩基におけるG/Aの多型
(2)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体27421348番目の塩基におけるG/Aの多型
(3)Bos_taurus_UMD_3.1の第23染色体28223274番目の塩基におけるG/Aの多型
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの多型と連鎖不平衡にある多型。
【0048】
プローブは、必要に応じて、蛍光物質や放射性物質等の適当な手段により標識してもよい。プローブは、前記の一塩基多型部位を含み、被検試料とハイブリダイズし、採用する検出条件下にて検出可能な程度の特異性を与えるものである限り特に限定はない。プローブとしては、例えばrs110616206、rs29026690およびrs17872126における、前記の一塩基多型部位を含む連続する少なくとも15塩基以上、好ましくは10〜100塩基の配列、より好ましくは10〜50塩基の配列、またはそれらの相補配列にハイブリダイズすることのできるオリゴヌクレオチドを用いることができる。また、一塩基多型部位がプローブのほぼ中心部に存在するようにオリゴヌクレオチドを選択するのが好ましい。該オリゴヌクレオチドは、プローブとして機能し得る限り、即ち、目的の対立遺伝子型の配列とハイブリダイズするが、他の対立遺伝子型の配列とはハイブリダイズしない条件下でハイブリダイズする限り、その配列において1またはそれ以上の置換、欠失、付加を含んでいてもよい。また、プローブには、RCA(rolling circle amplification)法による増幅に用いられる一本鎖プローブ(パドロックプローブ)のように、ゲノムDNAとアニールし、環状になることによって上記のブロープの条件を満たすプローブが含まれる。具体的には、配列番号1〜3から選ばれる塩基配列の61番目の塩基を含む配列、もしくはその相補配列を有する15塩基以上の長さのプローブ、または当該塩基と連鎖不平衡の関係にある塩基を含む配列、又はその相補配列を有する15塩基以上の長さのプローブが挙げられる。
【0049】
本発明に用いるハイブリダイゼーション条件は、対立遺伝子型を区別するのに十分な条件である。例えば、試料が一の対立遺伝子型の場合にはハイブリダイズするが、他の対立遺伝子型の場合にはハイブリダイズしないような条件、例えばストリンジェントな条件である。また、プローブは、一端を基板に固定してDNAチップとして用いることもできる。この場合、DNAチップには、一の対立遺伝子型に対応するプローブのみが固定されていても、両方の対立遺伝子型に対応するプローブが固定されていてもよい。
【0050】
〔5.ウシ白血病ウイルス(BLV)のプロウイルスロード判定用試薬〕
本発明はウシ白血病ウイルス(BLV)のプロウイルスロード判定用試薬も提供する。このような判定用試薬は、上述した本発明のプライマーおよびプローブの少なくとも1つを含む。一実施形態のBLVプロウイルスロード判定用試薬は、上述した本発明のプライマーを含んでおり、別の実施形態のBLVプロウイルスロード判定用試薬は、上述した本発明のプローブを含んでいる。さらに別の実施形態のBLVプロウイルスロード判定用試薬は、本発明のプライマーおよびプローブの両方を含んでいる。また、上述のプライマーおよびプローブの少なくとも1つの他に、必要に応じて、一塩基多型解析に使用される、1)各種試薬および器具(ポリメラーゼ、バッファー、各dNTP、ピペット等)、2)試料を調製するための各種試薬および器具(試験管、バッファー等)、3)DNA増幅断片を解析するための各種試薬および器具(電気泳動ゲル材料、ピペット等)、4)検出キットの使用説明書、等の少なくとも1つを備えていてもよい。
【0051】
一実施形態では本発明のBLVプロウイルスロード判定用試薬は、上述した本発明のBLVプロウイルスロードの判定方法またはウシ白血病の判定方法を実施するために用いられる。
【0052】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例
に限定されない。
【0054】
本研究では、日本において最高品質の食肉生産のために飼育される黒毛和種を用いて全ゲノム関連研究を行った。BLV感染した黒毛和種の血液から精製した676個体のDNAを用いた。黒毛和種から得たゲノムDNAを、BLV-CoCoMo-qPCR-2法を用いて、BLVプロウイルスロードの計算に用い、BLVプロウイルスを444個体のサンプルから検出した。これらのサンプルを用いてデータの解析を行い、プロウイルス関連性のSNPの決定を行った。
【0055】
(DNA抽出)
4歳より高い年齢の444個体の黒毛和種からEDTA-2Naを用いて血液を採取した。続いて、QIAsymphony kit(QIAGEN K.K., Japan)を用いて全血からゲノムDNAを抽出した。
(ジェノタイピング)
被験ウシをBovineSNP50 DNA Analysis BeadChip(illuminaInc., San Diego, CA)を用いてジェノタイピングを行った。
【0056】
(PCRによるBoLA-DRB3のジェノタイピング方法)
BoLA-DRB3アレルはTakeshima et al., J Dairy Sci,92(6):2965-2970, 2009によって報告されたタイピング方法に基づいたPCRによってジェノタイピングされた。概略的には、PCRはDRB3FRWおよびDRB3REVのプライマーペアを用いて行った。PCR断片はExoSAP-IT PCR product purification kit(USBCorp., Cleveland, OH)を用いて精製し、BigDye Terminator CycleSequencing Kit(ThrmoFisher Scientific, Waltham, MA)を用いて配列決定した。配列データは、Assign 400ATF ver. 1.0.2.41 software(ConexioGenomics, Fremantle, Australia)を用いて解析した。
【0057】
(BLVプロウイルスロードの測定)
BLVのプロウイルスロードは、BLV-CoCoMo-qPCR-2法(理研ジェネシス、神奈川、日本)を用いて676個体のウシにおける1つのタイムポイントにおいて測定した。概略的には、BLVのlong terminal repeat regionをCoCoMo-FRW(配列番号6の配列と配列番号7の配列の1:10の混合)およびCoCoMo-REV(配列番号8)、およびFAM-BLVプローブ(5’-FAM-CTCAGCTCTCGGTCC-NFQ-MGB-3’(配列番号9))を用いて増幅した。内部コントロールとして、DRA-F(配列番号10)およびDRA-R(配列番号11)およびFAM-DRプローブ(5’-FAM-TGTGTGCCCTGGGC-NFQ-MGB-3’(配列番号12))を用いてBoLA-DRA遺伝子を増幅した(Takeshima et al., ArchVirol 160(5):1325-1332, 2015.)。
【0058】
676個体の黒毛和種由来のDNAサンプルを用いて66のゲノムワイドワイド関連解析(GWAS)を行った。BLVプロウイルスロードは444個体のサンプルで検出された。プロウイルスロードは、1コピー/10細胞〜132,230コピー/10細胞の範囲であり、中央値は、5,498コピー/10細胞であった。日本国内で飼育されているBLV感染した黒毛和種から無作為に得たランダムなプロウイルスロードを有するサンプル中のプロウイルスロードの分布を比較した。結果を図1に示す。図1は、BLVプロウイルスを有する444個体の黒毛和種と、日本の22都道府県から採取した858個体の黒毛和種のSNPタイピングに基づいて推定されたプロウイルスロードの分散を示している。図1の(A)は、BLVプロウイルスを有する444個体の黒毛和種のSNPタイピングに基づいて推定された分散を示している。図1の(B)は、日本の22都道府県から採取した858個体の黒毛和種のSNPタイピングに基づいて推定されたプロウイルスロードの分散を示している。F試験を行い、P値はp=0.4244であった。このことは、444個体のサンプルのプロウイルスロードの分布と、黒毛和種におけるプロウイルスロードの分布に有意差が見られないことを示している。このように、研究に使用した444個体のウシは、ランダムに選択した黒毛和種のプロウイルスロードの分布と顕著な相違はみられないことが分かった。いずれのサンプルも、10,000コピー/10細胞以下のプロウイルスロードの頻度が最も多くみられた。100,000コピー/10細胞のプロウイルスロードまで、プロウイルスロードが高くなるにつれてその頻度は低下した。100,000コピー/10細胞のプロウイルスロード頻度を超えるサンプルはごくわずかであった。
【0059】
続いて、プロウイルスロード関連性のSNPのアレル頻度を確認するために、分類型関連研究(categorized association study)も行った。まず、プロウイルスロードによってBLV感染した444個体のウシを4つの群(「低」(0<プロウイルスロード≦13,819)、「中程度」(14,237<プロウイルスロード≦40,698)、「高い」(42,605<プロウイルスロード≦73,145)および「非常に高い」(76,397<プロウイルスロード≦132,230))に分類し、「低」プロウイルスロード群(266コントロール(control))と、「高」プロウイルスロード+「非常に高い」プロウイルスロード群(93ケース(case))とを比較した。
【0060】
これらの359個体のウシを54,001個のSNPに対するプローブを含むSNP50 Beadchipを用いてジェノタイピングを行った。続いて、GEMMAsoftwareを用いて、解析を行った。この解析は、対象サンプルの表現型間のモデル相関関係に対し、SNPジェノタイピングで推定された遺伝的相関行列に基づく線形混合モデル法を用いている。このうち、所定の品質基準(call rate >99%、マイナーアレル頻度>0.01、ハーディーワインバーグ平衡p>0.001)を満たしていたのは、全33,006個の常染色体SNPであった。本解析のゲノムインフレーション因子(ラムダGC)は1,021であり、このことは、これらのサンプルがゲノム関連研究材料として適切であることを示していた。
【0061】
図2は、BLVプロウイルス感染している444個体の黒毛和種をプロウイルス量で4群に分け、最もプロウイルス量が少ない群と、プロウイルス量の多い上位2群との、計359頭を選択し、相関解析を行った結果を示す図である。図2の(A)は、分位数−分位数(quantile-quantile(Q−Q))プロットを示している。Q−Qプロットは、33,006個のSNP間での相関試験統計値(x軸)の予測された分布と実際に観察された値との比較を示している。Q−Qプロットは、X=Yの直線上(帰無仮説)から有意に逸脱していた(図2の(A))。図2の(B)は、359個体の黒毛和種におけるBLVプロウイルスロードと33,006個のSNP(BovineSNP BeadChip)の相関のマンハッタンプロットを示す。染色体は色の違いで示している(青(奇数)オレンジ(偶数))。染色体番号はX軸に示している。直線はゲノムワイドの有意差に対するボンフェロニの補正閾値である(-log10(p)=5.82)。
【0062】
まず、量的特性としてのプロウイルスロードを用いてこれらのデータを解析した。その結果、BTA22における1個のSNPおよびBTA23における2個のSNPは、ゲノムワイドの有意差(p<1.5×10−6)に対してボンフェロニの補正閾値に達していた(図2の(B))。なお、ウシ第23染色体(BTA23)上のHapmap57616-rs29026690(rs29026690)およびARS-BFGL-NGS-113235(rs17872126)(p=1.91×10−7)と第22染色体上のHapmap33580-BTA-136506(rs110616206)(p=5.37×10−7)(図2の(B)、表1)。BTA23における2個のSNPは、27,421,348〜28,223,274番目の塩基における800kbの領域内に存在しており、これらの2つのSNPは連鎖不平衡を示していなかった(r=0.117)。このことはBTA23が2つの独立したQTLに座乗していることを示している。
【0063】
これらの領域内および領域近辺に存在している遺伝子をUMD3.1 genome assembly toolを用いて解析した。Hapmap57616-rs29026690(rs29026690)(BTA23中の27,421,348bp)はENSBTAG00000000580 およびABHD16A(ENSBTAG00000000578)の間に位置していた。(表1、表2)、ARS-BFGL-NGS-113235(BTA23中の28,223,274番目の塩基)は4番目と5番目のエキソン(ENSBTAG00000006914)中に位置していた。これらのSNPは、BoLAクラスIIIおよびクラスI領域にそれぞれ位置していた(図2の(A)および表1、表2)。よって遺伝子密度は他のゲノム領域よりも高く、プロウイルスロードの推定に用いられる多数の候補遺伝子が検出されたSNPの周辺に存在していた。Hapmap33580-BTA-136506(rs110616206)は、Contactin3(CNTN3)から6.5kbの距離でBTA22のセントロメア側に位置していた(表1、表2、図3および図4)。
【0064】
図3は、第23番染色体領域に位置するSNPとBLVプロウイルスロードとの相関を示すマンハッタンプロットである。また、図4は第22染色体領域に位置するSNPとBLVプロウイルスロードとの相関を示すマンハッタンプロット。それぞれ、有意差のあるSNP周辺の遺伝子のリストを下段に示している。BLVプロウイルスロードに関連するSNPは矢印で示している。直線はゲノムワイドの有意差に対するボンフェロニの補正閾値である(-log10(p)=5.82)。示している位置は、ウシゲノムのUMD3.1assemblyに基づいている。図3の結果から、rs29026690およびrs17872126である2個のSNPをプロウイルスロード関連性のSNPとして決定した(図3、表1)。また、図4の結果から、rs110616206である1個のSNPをプロウイルスロード関連性のSNPとして決定した(図4、表1)。
【0065】
表1に、検出されたSNP周辺の領域にマッピングされている遺伝子をリスト化している。
【表1】
rs110616206はContactin-3(CNTN3)遺伝子中に位置している。一方、rs29026690およびrs17872126は、ウシの主要な組織適合複合体クラスIIIおよびクラスIの領域に位置している。したがって、遺伝子密度がゲノムの他の領域より非常に高く、候補遺伝子の数は検出されたSNPの周辺に存在していた。
【0066】
以上のように、rs110616206、rs29026690およびrs17872126の同一の3つのSNPがプロウイルスロード関連性SNPとして検出された。アレル頻度を表2に示す。rs110616206について、A/Aホモ接合体の個体は存在せず、マイナーアレル“A”の頻度は、非常に低かった。rs29026690もまた、マイナーアレル“A”の頻度は低かった。一方でrs17872126は、他の2つのSNPよりも高いマイナーアレル“A”の頻度を有していた(表2)。
【表2】
【0067】
以上の結果は、ウシゲノムでゲノムワイドの関連研究を用いたプロウイルスロード関連性のSNPを検出した最初の報告である。本研究では、主要な組織適合複合体領域(BoLA)における2個のSNPを見出した。興味深いことに、これらの2つのSNPはクラスIIIおよびクラスIの領域に位置していた。この発見は、これまでの報告では主にクラスII遺伝子の注目していた事実とは異なるものであった。BoLA領域のゲノム参照配列は、多数のギャップを有しており、とりわけクラスI遺伝子はジェノタイピングが困難であった。それゆえクラスI関連性は決定困難であった。しかし、上記の結果によりクラスIIおよびクラスI対立遺伝子の両方のMHC遺伝子型解析によりプロウイルスロードが増加しないウシを検出できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
BLVのプロウイルスロードと関連する領域に存在するSNPはウシ白血病の検査に有用であり、ウシ白血病の予防および/または治療に貢献するものである。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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