特許第6892103号(P6892103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892103
(24)【登録日】2021年5月31日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】二核化配位子又は二核金属錯体
(51)【国際特許分類】
   C07D 257/02 20060101AFI20210607BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210607BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210607BHJP
   A61K 31/395 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   C07D257/02CSP
   A61P43/00 111
   A61P35/00
   A61K31/395
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-31307(P2017-31307)
(22)【出願日】2017年2月22日
(65)【公開番号】特開2018-135304(P2018-135304A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2019年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小寺 政人
(72)【発明者】
【氏名】福井 克樹
(72)【発明者】
【氏名】角谷 優樹
【審査官】 布川 莉奈
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第1528763(CN,A)
【文献】 国際公開第2015/179955(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/006934(WO,A1)
【文献】 Li, Jing 他,Arm effects of mononuclear armed cyclen copper complexes on DNA cleavage,Transition Metal Chemistry (Dordrecht, Netherlands) ,2008年,33(6),759-765
【文献】 Yang, Xin-Bin 他,Synthesis, DNA binding and cleavage activities of the copper (II) complexes of estrogen-macrocyclic polyamine conjugates,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2008年,16(7),3871-3877
【文献】 Wang, Xiao-Yan 他,Synthesis and DNA cleavage activities of mononuclear macrocyclic polyamine zinc(II), copper(II), cobalt(II) complexes which are linked with uracil,Bioorganic & Medicinal Chemistry ,2006年,14(19),6745-6751
【文献】 Chuburu, F. 他,Stoichiometric mono-N-functionalization of cyclen via a boron protected intermediate,Tetrahedron,2001年,57(12),2385-2390
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(II)で示されることを特徴とす二核化配位子。
【化1】
(II)
【請求項2】
請求項に記載の二核化配位子を有することを特徴とする核酸切断剤。
【請求項3】
請求項に記載の二核化配位子を有することを特徴とする抗がん剤。
【請求項4】
下記化学式(III)で示されることを特徴とする二核金属体(下記式において、Mは、Cu、Fe、Zn、Co、Mn又はCeである。)。
【化2】
(III)
【請求項5】
下記化学式(IV)で示されることを特徴とする請求項に記載の二核金属体。
【化3】
(IV)
【請求項6】
請求項又は項に記載の二核金属体を有することを特徴とする核酸切断剤。
【請求項7】
請求項又は項に記載の二核金属体を有することを特徴とする抗がん剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二核化配位子又はその二核化配位子を有する二核金属錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
がんに対する化学療法剤として臨床に用いられている金属錯体にシスプラチンがある。シスプラチンは、直接がん細胞のDNAに結合してDNAの立体構造をゆがませることにより抗がん作用を示す。しかし、シスプラチンは、嘔吐、腎毒性といった副作用を示す場合があり、また近年ではシスプラチン耐性がんも報告されている。そこでシスプラチンに代わる化学療法薬が求められる。
【0003】
例えば亜鉛錯体はDNAのリン酸部分に結合し、水分子を活性化させてDNAのリン酸エステルの加水分解を促進させ、この作用によりDNAをマイルドに切断して抗がん作用を示す(非特許文献1)。しかしながら加水分解速度は遅く、また加水分解されたDNAは修復酵素により容易に再生され、がん細胞のアポトーシスを引き起こさない。
【0004】
また例えばブレオマイシンは、がん細胞の中で鉄と結びついて酸素を活性化させ、それによってDNA鎖を切断してがん細胞の増殖を抑制する(非特許文献2)。ブレオマイシンは、人の皮膚、頭頸部、子宮頸部等の扁平上皮がんや悪性リンパ腫に対する優れた化学療法剤として臨床医学で広く使用されている。しかしながらブレオマイシンは、放線菌Streptomyces verticillusから得られる水溶性の糖ペプチド抗生物質であり、微生物に依存しない簡易な合成法により得られる化学療法薬が求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Anbu, M. Kandaswamy, S. Kamalraj, J. Muthumarry, B. Varghese, “Phosphatase-like activity, DNA binding, DNA hydrolysis, anticancer and lactate dehydrogenase inhibition activity promoting by a new bis-phenanthroline dicopper(II) complex”, Dalton Trans. (2011) 7310-7318.
【非特許文献2】H. Umezawa, K. Maeda, T. Takeuchi, Y.Okami, J. Antibiot., 19 A, 200 (1966)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、簡易に合成でき的確な抗がん作用を有する、二核化配位子又はその二核化配位子を有する二核金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる二核化配位子は下記化学式(I)で示される。
【0008】
【化1】
【0009】
ここで、(i)R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜6の直鎖若しくは枝鎖のアルキル基であり、(ii)Xは、水素原子、炭素数1〜6の直鎖若しくは枝鎖のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、エステル基、エステルアルキル基、又は、フェニル基、ピリジル基、アミノ基、水酸基、チオール基、フッ素原子、塩素原子である。
【0010】
また、本発明にかかる二核金属体は下記化学式(III)で示される。
【0011】
【化2】
【0012】
ここで、Mは、Cu、Fe、Zn、Co、Mn、又はCeである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、正常細胞に影響が少なく、がん細胞の核酸切断作用を的確に有する二核化配位子又は二核金属錯体を簡易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明にかかる二核化配位子の1H NMRスペクトルを示す図である。
図2】本発明にかかる二核金属錯体のESI-MSを示す図である。
図3】本発明にかかる二核金属錯体の再結晶によって得た単結晶を用いたX線結晶構造解析を示す図である。
図4】本発明にかかる二核金属錯体において、DNA酸化切断の過酸化水素濃度依存性を示す図である。
図5】本発明にかかる二核金属錯体が触媒するDNA酸化切断活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0016】
本発明者は、鋭意研究の結果、下記式にかかる二核化配位子が高い核酸切断作用を有することを新知見として見出し、かかる事実に基づいて本発明を完成させた。
【0017】
【化3】
【0018】
ここで、(i)R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜6の直鎖若しくは枝鎖のアルキル基であり、(ii)Xは、水素原子、炭素数1〜6の直鎖若しくは枝鎖のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、エステル基、エステルアルキル基、又は、フェニル基、ピリジル基、アミノ基、水酸基、チオール基、フッ素原子、塩素原子である。なお、ここでアミノ基はNR77’基と記載でき、R7及びR7’はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアルケニル基、又は、置換若しくは未置換のアリール基を表わす。
【0019】
上記式に示される二核化配位子は、化合物構造中にアミド結合を有している新規構造の化合物である。後述するように、本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体は、化合物と過酸化水素との反応だけで核酸の切断が可能であるが、アミド結合部分は過酸化水素によって酸化分解されないため本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体は安定して核酸の切断が可能である。
【0020】
本発明においては、下記化学式(II)で示される二核化配位子が好ましい。
【0021】
【化4】
【0022】
また、本発明者は、下記式(III)にかかる二核金属錯体が高い核酸切断作用を有することを新知見として見出した。ここでMは、Cu、Fe、Zn、Co、Mn、又はCeである。
【0023】
【化5】
【0024】
本発明においては、下記化学式(IV)で示される二核金属錯体が好ましい。
【0025】
【化6】
【0026】
上述において、切断される核酸は、DNA又はRNAである。
【0027】
また、本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体は高い核酸切断作用を有するため、例えば遺伝子構造の解析ツールとして使用できる。また、本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体は、がん細胞の核酸を切断できるため、抗がん剤として使用できる。正常細胞では例えばカタラーゼのような消去酵素を持っているため、過酸化水素を水と酸素に分解できるが、がん細胞ではカタラーゼ等の酵素をほとんど有しないため正常細胞のように過酸化水素を分解できず、そのためがん細胞内では正常細胞と比較して過酸化水素濃度が高い。本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体は、化合物と過酸化水素との反応だけで核酸の切断が可能で有り、がん細胞の核酸を特異的に切断可能である。そのため、本発明によれば、正常細胞に対する影響が少ない。また本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体は、2つの金属イオン(例えば2つの銅イオン)で過酸化水素を結合するので、過酸化水素親和性が高い。そのため生体内で用いられた場合でも微量の過酸化水素と反応して高い核酸切断活性を示す。
【0028】
上述の化学式(I)で示される二核化配位子において、Xはがん細胞表面に誘引される官能基であることが好ましい。がん細胞表面は正常細胞と比べてシアル酸やヘパラン硫酸等のアニオン性化合物が多く存在し負電荷を帯びている。そのため、例えば、Xはがん細胞表面の負電荷に誘引される官能基であることが可能である。
【0029】
本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体は、種々のがんに対して使用可能で有り、特に限定されるものではないが、例えば、大腸がん、胃がん、食道がん、結腸がん、肝臓がん、膵臓がん、乳がん、肺がん、胆嚢がん、胆管がん、胆道がん、直腸がん、卵巣がん、子宮がん、腎がん、膀胱がん、前立腺がん、骨肉腫、脳腫瘍、白血病、筋肉腫、皮膚がん、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、舌がん、骨髄腫、甲状腺がん、皮膚転移がん、皮膚黒色腫等の治療に用いることができる。
【0030】
本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体を有する抗がん剤の投与形態は、特に限定されるものではなく、経口又は非経口のいずれの投与形態でもよい。また、投与形態に応じて適当な剤形とすることができ、例えば注射剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤等の経口剤、直腸投与剤、油脂性坐剤、水性坐剤等の各種製剤に調製することができる。
【0031】
各種製剤は、薬理的に許容される添加剤、例えば賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、界面活性剤、流動性促進剤等を適宜添加して調製できる。賦形剤として、乳糖、果糖、ブドウ糖、コーンスターチ、ソルビット等、結合剤として、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等、滑沢剤として、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール等、崩壊剤として、澱粉、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウム等、界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80等、流動性促進剤として、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等を使用可能である。
【0032】
本発明にかかる二核化配位子及び二核金属錯体を有する抗がん剤の投与量は、用法、患者の年齢、性別、症状の程度等を考慮して適宜決定されるが、例えば、成人1日当り10〜800mg好ましくは100〜200mgで、これを1日1回又は数回に分けて投与できる。
【実施例】
【0033】
(1)二核化配位子の合成
(1-1)N,N,N-tri(toluene-4-sulfonyl) diethylenetriamine
500 mLナスフラスコに回転子を入れ、200 mL等圧滴下漏斗、三方コック、バルーンを取り付け真空乾燥した。250 mL Et2Oで溶かしたp-toluenesulfonyl chloride 45.6 g(0.239 mol)を反応容器に加え、diethylenetriamine 8.26 g (0.0801 mol)とNaOH 9.6 g (0.24 mol)を90 mL蒸留水に溶かしたものを等圧滴下漏斗で2時間かけて滴下すると白色の固体が析出した。滴下後2時間攪拌を続けると粘度の大きい白色固体が得られた。これを蒸留水とEt2Oで洗浄濾過、真空乾燥したのちにMeOHで再結晶させると白色の固体を得た(Yield 29.299 g, 65%)。
【0034】
【化7】
【0035】
(1-2)N,O,O-tri(toluene-4-sulfonyl) diethanolamine
300 mL三口反応容器に回転子を入れ、200 mL等圧滴下漏斗、三方コック、バルーンを取り付け真空乾燥した。反応容器にCH2Cl270 mLとp-toluenesulfonyl chloride 57.25 g (0.300 mol)を加えて氷浴に漬けながら攪拌した。次に、diethanolamine10.52 g (0.100 mol)とbenzyl-triethylammonium chloride 9.11 gの混合物にNaOH 12.0 gの75 mL水溶液を加え、これを等圧滴下漏斗に入れてゆっくりと滴下した。滴下後、しばらく攪拌した後に氷浴を外し一時間攪拌を続けた。分液フラスコで有機相を取り、これを蒸留水で3回洗浄した。有機相を取り無水Na2SO4で脱水した後、エバポレーターで濃縮しさらに真空乾燥させると油状物質が得られた。これにMeOHを加えてよく混ぜると白色固体が析出したのでこれを濾過して白色固体を得た(Yield 36.571 g, 64%)。
【0036】
【化8】
【0037】
(1-3)1,4,7,10-tetrakis(toluene-4-sulfonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecane
300 mL三口反応容器に回転子を入れ、200mL等圧滴下漏斗、三方コック、バルーンを取り付け、反応容器をアルミホイルで遮光し氷浴に漬けて真空乾燥した後、窒素置換した反応容器にdry DMF 50 mLをシリンジを用いて窒素フローしながら加えた。さらに、NaH 1.69 g、N,N,N-tri(toluene-4-sulfonyl)diethylenetriamine 12.0 g (0.0212 mol)の順で窒素フローしながらこれらを反応容器に加え、H2ガスが発生しなくなるまで攪拌した。反応容器を油浴に移し、温度をゆっくりと70℃まで上げ、この温度で1時間攪拌した。その後、油浴の温度を90℃までゆっくりと上げ、この温度で1時間攪拌した。N,O,O-tri(tluene-4- sulfonyl)diethanolamine 12.0 g (0.0211 mol)をdry DMF 50 mLに溶かした溶液を等圧滴下漏斗に入れ、ゆっくりと滴下した後1日攪拌を続けた。DMFを減圧蒸留で除去し、残った固体に蒸留水を加えて冷蔵庫で冷ました。これを蒸留水、Et2O、EtOHで洗浄濾過し、MeOHで熱時濾過すると白色固体が得られた(Yield 9.2402 g, 55%)。
【0038】
【化9】
【0039】
(1-4)1,4,7,10-tetraazacyclododecane (cyclen)
200 mLナスフラスコに回転子を入れ、cyclen・4Ts 9.24 g (0.01171 mol)とH2SO46 mLを加え、三方コックとバルーンを取り付けた還流管を取り付け真空乾燥・窒素置換を行った。反応容器を油浴に漬け、ゆっくりと温度を160℃まで上げ、この温度で30分間攪拌した。その後、油浴を外し常温になるまで冷まし還流管を外して200 mL等圧滴下漏斗を取り付け、EtOH 50 mLをゆっくりと滴下した。次にEt2O 80 mLをやや早めに滴下すると濃い茶色の固体が析出したのでこれをEtOHとEt2Oで洗浄濾過した。この固体を蒸留水に溶かしセライト濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮すると濃い茶色の油状物質が得られた。これにHClとEtOHを加えると固体が析出したのでこれをEtOHで洗浄濾過すると目的の塩酸塩の薄茶色の固体が得られた(Yield 1.564 g, 42%)。このcyclen・4HCl 1.500 g (4.777 mmol)をイオン交換カラムにかけ、塩基性を示すフラクションを集めて濃縮すると白色の固体が得られた。これにCHCl3を加えると不純物が析出したので除去し、再度濃縮すると白色の固体を得た(Yield 0.4649 g, 57%)。
【0040】
【化10】
【0041】
(1-5)1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7-carboxylate (tri(Boc)-cyclen)
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、cyclen0.4649 g (2.703 mmol)をCHCl313.2 mLに溶かしEt3N 1.16 mmolを加え、氷浴に漬け0℃にした。(Boc)2O 1.780 g (8.213 mmol)をCHCl310.1 mLに溶かした溶液を0℃のまま2時間かけて滴下した。滴下後氷浴を外し室温で18時間攪拌した。この後、溶液を分液漏斗でH2Oで3回洗浄し、有機相をNa2SO4で脱水し濃縮すると油状物質が得られ、これを真空乾燥させると白色の固体が得られた。この固体を最少量のCHCl3に溶かし、オープンカラムクロマトグラフィー(充填剤 : シリカゲル、展開溶媒 : CHCl3: MeOH = 20 : 1)で精製し目的物が含まれているフラクションを回収し濃縮すると目的の白色固体が得られた(Yield 0.6133 g, 48%)。
【0042】
【化11】
【0043】
(1-6)2,6-diformyl-p-cresol
200 mLナスフラスコに回転子を入れ、ヘキサメチレンテトラミン 3.84 g (27.4 mmol)とp-クレゾール 1.48 mL (13.7 mmol)をTFA 24 mLに溶かしN2置換したのち130℃で24時間還流した。24時間後、反応溶液を室温に戻し4 M HCl 80 mLを加え好気下で30分撹拌した。その後溶液を分液漏斗に移しCH2Cl2 60 mLで3回抽出を行った。抽出した有機相を4 M HCl 80 mLで2回、H2O 80 mLで1回、飽和食塩水 50 mLで1回ずつ洗浄し、有機相をNa2SO4で脱水し濃縮すると目的の黄色の固体を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 : hexane : CHCl3=1: 1 )にかけ、目的物の入ったフラクションを回収し濃縮すると目的の薄黄色の固体0.953 gを得た(5.81 mmol, Yield 42%)。
【0044】
【化12】
【0045】
(1-7)p-cresol 2,6-dicarboxylic acid
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、H2O 13.7 mLにNaOH 1.56 gを溶かし、Ag2O 1.78 g(7.80 mmol)を加え55-60℃に加熱した。そこに2,6-diformyl-p-cresol 0.63 g (3.90 mmol)を加えAg2OがAgに還元されるまで撹拌を続けた。その後さらに10分間撹拌し、溶液を熱水で濾過し、濾液にHClを加えてpHを1まで下げると薄黄色の固体が析出した。これを濾過で集めて目的の化合物0.56 gを得た(2.86 mmol, 82%)。
【0046】
【化13】
【0047】
(1-8)p-cresol 2,6-dicarboxylic acid dichloride
20 mLナスフラスコに回転子を入れ、SOCl23 mLを加え、そこにp-cresol 2,6-dicarboxylic acid 0.020 g (0.10 mmolを加えた。温度を50-60℃に上げ、4時間撹拌を続けた。4時間後溶液からSOCl2を留去すると薄黄色の油状物質0.019 gを得た(0.081 mmol, 82%)。
【0048】
【化14】
【0049】
(1-9)2,6-di(1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1-carboxyamide-1,4,7-triBoc-amide)-4-cresol
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、10 mLのdry CH2Cl2にtriboc cyclen 0.088 g (0.187 mmol)を溶かし、K2CO30.103 g (0.747 mmol)を加えた。そこに10 mLのdry CH2Cl2に溶かしたp-cresol 2,6-dicarboxylic acid dichloride 0.0202 g (0.085 mmol)を徐々に加えていき、容器をN2置換した後、溶液を一晩攪拌し続けた。反応溶液を濾過し濾液を水で分液し、有機相をNa2SO4で脱水した後エバポレーターで濃縮すると白色の固体が得られた。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 : CHCl3: AcOEt = 1: 1 )にかけ、目的物の入ったフラクションを回収し濃縮すると目的の白色固体0.0702 gを得た(0.0635 mmol, Yield 75%)。
【0050】
【化15】
【0051】
(1-10)2,6-di(1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1-carboxyamide)-4-cresol?8HCl (Hbcamide?8HCl)
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、EtOH : HCl = 3 : 1の溶液を調製し、そこにHbcamide(Boc)6 0.0702 g (0.0635 mmol)を加えて一晩攪拌を続けた。反応後溶液を濾過すると目的の白色固体0.0480 gを得た(0.0603 mmol, Yield 95%)。1H NMRスペクトルを図1に示す。
【0052】
【化16】
【0053】
(2)二核金属錯体[Cu2(μ-OH2)bcamide](ClO4)3 (4)の合成
10 mLナスフラスコに5 mLのMilliQ水にHbcamide・8HCl 0.0480 g (0.0603 mmol)を溶かし、それに1 M NaOH水溶液を加えていきpHが7になるように調整した。そこにCu(ClO4)2・6H2O 0.0589 g (0.159 mmol)を加え溶液を濃縮すると緑色の固体が析出したのでこれをメタノールに溶かし濾過をした後、濾液をEt2Oとの気液拡散で再結晶させることで目的の緑色の錯体[Cu2(μ-OH2)bcamide](ClO4)3 (以下、本錯体を錯体4と呼ぶことがある。) 0.034 gを得た(0.0359 mmol, Yield 60%)。ESI-MSを図2に示す。
【0054】
また、[Cu2(μ-OH2)bcamide](ClO4)3 (錯体4)の再結晶によって得た単結晶を用いてX線結晶構造解析を行った。図3は、結晶構造のORTEP(Oak Ridge Thermal Ellipsoid Plot)図である。
(3)二核金属錯体[Cu2(μ-OH2)bcamide](ClO4)3 (4)の酸化的切断反応の過酸化水素濃度依存性
錯体4については、以下に示す様に過酸化水素によるDNAの酸化切断を行った。過酸化水素濃度依存性の測定のために、[complex] = 50 μM、[pUC19 DNA] = 0.05 mM bp、[buffer (pH 6.0)] = 10 mM(pH 5.5, 6.0 (MES)、[NaCl] = 10 mM, [H2O2] = 125, 250, 375, 500 μMとなるように溶液を調製し測定を行った。
【0055】
錯体4の酸化的切断反応の過酸化水素濃度依存性の結果を示す。過酸化水素濃度が500, 375 μMの場合は0, 10, 20, 40, 60分ごとに、また250, 125 μMの場合は0, 30, 60, 90, 120分ごとに、それぞれサンプルを回収し、各時間におけるpUC19 DNA の切断状況をアガロースゲル電気泳動によって測定した。このときのForm IからFormIIへの切断率をプロットした図が図4に示されている。過酸化水素濃度が500, 375 μMの場合、1時間でFormIIが90%以上となり、飽和曲線を描くことが分かった。過酸化水素の濃度が低下するにつれてFormII生成速度が低下した。過酸化水素濃度が250 μMでは、2時間後にほぼ100%、125 μMでは2時間後には約80%の切断率を示した。
【0056】
錯体4を用いて過酸化水素を存在下でDNA切断活性を調べたところ、非常に高いDNA切断活性を示した。具体的には、50 μMの錯体4を用いて500 μMの過酸化水素(錯体に対して10当量)の条件でpUC19 DNA の切断実験を行った。[H2O2] = 500 μM, [4] = 50, 37.5, 25, 12.5 μM, [pUC19 DNA] = 0.05 mMbp, [buffer] = 10 mM(pH 5.5, 6.0 (MES), pH 7.4 (Tris-HCl)), [NaCl] = 10 mM at 37℃。その結果、pH 7.0では1時間でFormIが消失し、5時間後には30%のFormIIがFormIIIに変換された(図5)。従って、この過酸化水素によるDNAの酸化的切断は錯体4に特異的に加速する反応である。この理由として考えられるのは、錯体4がこの反応条件で安定に存在することが考えられる。即ち、錯体4はp-cresolとcyclenがアミド結合で繋がれているために過酸化水素によって酸化分解されない。
【0057】
錯体4は二核構造をもつので、2つの銅イオンが過酸化水素の2つの酸素原子と結合し、低濃度の過酸化水素でも容易に二核銅ペルオキソ錯体を生成する。このために二核銅錯体は過酸化水素を容易に活性化できると考えられる。ブレオマイシンはDNAの酸化切断を触媒する。ブレオマイシンは高い抗がん活性を示す抗生物質(抗がん性抗生物質)である。これはブレオマイシンががん細胞のDNAを酸化切断して、がん細胞を細胞死させるためである。ここで、ブレオマイシンは鉄錯体であり、鉄(III)状態では過酸化水素と反応して速やかにactive bleomycinと呼ばれる活性型のブレオマイシンを生じる。これは鉄(III)のヒドロペルオキソ錯体と考えられている。さらに、ヒドロペルオキソのO-O結合の開裂により酸化活性種が生じると推定されている。この様に過酸化水素を酸化剤として働くブレオマイシンに代わる新たな抗がん剤として錯体4が有用であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
抗がん剤として利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5