【実施例】
【0033】
(1)二核化配位子の合成
(1-1)N,N,N-tri(toluene-4-sulfonyl) diethylenetriamine
500 mLナスフラスコに回転子を入れ、200 mL等圧滴下漏斗、三方コック、バルーンを取り付け真空乾燥した。250 mL Et
2Oで溶かしたp-toluenesulfonyl chloride 45.6 g(0.239 mol)を反応容器に加え、diethylenetriamine 8.26 g (0.0801 mol)とNaOH 9.6 g (0.24 mol)を90 mL蒸留水に溶かしたものを等圧滴下漏斗で2時間かけて滴下すると白色の固体が析出した。滴下後2時間攪拌を続けると粘度の大きい白色固体が得られた。これを蒸留水とEt
2Oで洗浄濾過、真空乾燥したのちにMeOHで再結晶させると白色の固体を得た(Yield 29.299 g, 65%)。
【0034】
【化7】
【0035】
(1-2)N,O,O-tri(toluene-4-sulfonyl) diethanolamine
300 mL三口反応容器に回転子を入れ、200 mL等圧滴下漏斗、三方コック、バルーンを取り付け真空乾燥した。反応容器にCH
2Cl
270 mLとp-toluenesulfonyl chloride 57.25 g (0.300 mol)を加えて氷浴に漬けながら攪拌した。次に、diethanolamine10.52 g (0.100 mol)とbenzyl-triethylammonium chloride 9.11 gの混合物にNaOH 12.0 gの75 mL水溶液を加え、これを等圧滴下漏斗に入れてゆっくりと滴下した。滴下後、しばらく攪拌した後に氷浴を外し一時間攪拌を続けた。分液フラスコで有機相を取り、これを蒸留水で3回洗浄した。有機相を取り無水Na
2SO
4で脱水した後、エバポレーターで濃縮しさらに真空乾燥させると油状物質が得られた。これにMeOHを加えてよく混ぜると白色固体が析出したのでこれを濾過して白色固体を得た(Yield 36.571 g, 64%)。
【0036】
【化8】
【0037】
(1-3)1,4,7,10-tetrakis(toluene-4-sulfonyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecane
300 mL三口反応容器に回転子を入れ、200mL等圧滴下漏斗、三方コック、バルーンを取り付け、反応容器をアルミホイルで遮光し氷浴に漬けて真空乾燥した後、窒素置換した反応容器にdry DMF 50 mLをシリンジを用いて窒素フローしながら加えた。さらに、NaH 1.69 g、N,N,N-tri(toluene-4-sulfonyl)diethylenetriamine 12.0 g (0.0212 mol)の順で窒素フローしながらこれらを反応容器に加え、H
2ガスが発生しなくなるまで攪拌した。反応容器を油浴に移し、温度をゆっくりと70℃まで上げ、この温度で1時間攪拌した。その後、油浴の温度を90℃までゆっくりと上げ、この温度で1時間攪拌した。N,O,O-tri(tluene-4- sulfonyl)diethanolamine 12.0 g (0.0211 mol)をdry DMF 50 mLに溶かした溶液を等圧滴下漏斗に入れ、ゆっくりと滴下した後1日攪拌を続けた。DMFを減圧蒸留で除去し、残った固体に蒸留水を加えて冷蔵庫で冷ました。これを蒸留水、Et
2O、EtOHで洗浄濾過し、MeOHで熱時濾過すると白色固体が得られた(Yield 9.2402 g, 55%)。
【0038】
【化9】
【0039】
(1-4)1,4,7,10-tetraazacyclododecane (cyclen)
200 mLナスフラスコに回転子を入れ、cyclen・4Ts 9.24 g (0.01171 mol)とH
2SO
46 mLを加え、三方コックとバルーンを取り付けた還流管を取り付け真空乾燥・窒素置換を行った。反応容器を油浴に漬け、ゆっくりと温度を160℃まで上げ、この温度で30分間攪拌した。その後、油浴を外し常温になるまで冷まし還流管を外して200 mL等圧滴下漏斗を取り付け、EtOH 50 mLをゆっくりと滴下した。次にEt
2O 80 mLをやや早めに滴下すると濃い茶色の固体が析出したのでこれをEtOHとEt
2Oで洗浄濾過した。この固体を蒸留水に溶かしセライト濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮すると濃い茶色の油状物質が得られた。これにHClとEtOHを加えると固体が析出したのでこれをEtOHで洗浄濾過すると目的の塩酸塩の薄茶色の固体が得られた(Yield 1.564 g, 42%)。このcyclen・4HCl 1.500 g (4.777 mmol)をイオン交換カラムにかけ、塩基性を示すフラクションを集めて濃縮すると白色の固体が得られた。これにCHCl
3を加えると不純物が析出したので除去し、再度濃縮すると白色の固体を得た(Yield 0.4649 g, 57%)。
【0040】
【化10】
【0041】
(1-5)1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7-carboxylate (tri(Boc)-cyclen)
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、cyclen0.4649 g (2.703 mmol)をCHCl
313.2 mLに溶かしEt
3N 1.16 mmolを加え、氷浴に漬け0℃にした。(Boc)
2O 1.780 g (8.213 mmol)をCHCl
310.1 mLに溶かした溶液を0℃のまま2時間かけて滴下した。滴下後氷浴を外し室温で18時間攪拌した。この後、溶液を分液漏斗でH
2Oで3回洗浄し、有機相をNa
2SO
4で脱水し濃縮すると油状物質が得られ、これを真空乾燥させると白色の固体が得られた。この固体を最少量のCHCl
3に溶かし、オープンカラムクロマトグラフィー(充填剤 : シリカゲル、展開溶媒 : CHCl
3: MeOH = 20 : 1)で精製し目的物が含まれているフラクションを回収し濃縮すると目的の白色固体が得られた(Yield 0.6133 g, 48%)。
【0042】
【化11】
【0043】
(1-6)2,6-diformyl-p-cresol
200 mLナスフラスコに回転子を入れ、ヘキサメチレンテトラミン 3.84 g (27.4 mmol)とp-クレゾール 1.48 mL (13.7 mmol)をTFA 24 mLに溶かしN
2置換したのち130℃で24時間還流した。24時間後、反応溶液を室温に戻し4 M HCl 80 mLを加え好気下で30分撹拌した。その後溶液を分液漏斗に移しCH
2Cl
2 60 mLで3回抽出を行った。抽出した有機相を4 M HCl 80 mLで2回、H
2O 80 mLで1回、飽和食塩水 50 mLで1回ずつ洗浄し、有機相をNa
2SO
4で脱水し濃縮すると目的の黄色の固体を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 : hexane : CHCl
3=1: 1 )にかけ、目的物の入ったフラクションを回収し濃縮すると目的の薄黄色の固体0.953 gを得た(5.81 mmol, Yield 42%)。
【0044】
【化12】
【0045】
(1-7)p-cresol 2,6-dicarboxylic acid
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、H
2O 13.7 mLにNaOH 1.56 gを溶かし、Ag
2O 1.78 g(7.80 mmol)を加え55-60℃に加熱した。そこに2,6-diformyl-p-cresol 0.63 g (3.90 mmol)を加えAg
2OがAgに還元されるまで撹拌を続けた。その後さらに10分間撹拌し、溶液を熱水で濾過し、濾液にHClを加えてpHを1まで下げると薄黄色の固体が析出した。これを濾過で集めて目的の化合物0.56 gを得た(2.86 mmol, 82%)。
【0046】
【化13】
【0047】
(1-8)p-cresol 2,6-dicarboxylic acid dichloride
20 mLナスフラスコに回転子を入れ、SOCl
23 mLを加え、そこにp-cresol 2,6-dicarboxylic acid 0.020 g (0.10 mmolを加えた。温度を50-60℃に上げ、4時間撹拌を続けた。4時間後溶液からSOCl
2を留去すると薄黄色の油状物質0.019 gを得た(0.081 mmol, 82%)。
【0048】
【化14】
【0049】
(1-9)2,6-di(1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1-carboxyamide-1,4,7-triBoc-amide)-4-cresol
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、10 mLのdry CH
2Cl
2にtriboc cyclen 0.088 g (0.187 mmol)を溶かし、K
2CO
30.103 g (0.747 mmol)を加えた。そこに10 mLのdry CH
2Cl
2に溶かしたp-cresol 2,6-dicarboxylic acid dichloride 0.0202 g (0.085 mmol)を徐々に加えていき、容器をN
2置換した後、溶液を一晩攪拌し続けた。反応溶液を濾過し濾液を水で分液し、有機相をNa
2SO
4で脱水した後エバポレーターで濃縮すると白色の固体が得られた。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 : CHCl
3: AcOEt = 1: 1 )にかけ、目的物の入ったフラクションを回収し濃縮すると目的の白色固体0.0702 gを得た(0.0635 mmol, Yield 75%)。
【0050】
【化15】
【0051】
(1-10)2,6-di(1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1-carboxyamide)-4-cresol?8HCl (Hbcamide?8HCl)
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、EtOH : HCl = 3 : 1の溶液を調製し、そこにHbcamide(Boc)
6 0.0702 g (0.0635 mmol)を加えて一晩攪拌を続けた。反応後溶液を濾過すると目的の白色固体0.0480 gを得た(0.0603 mmol, Yield 95%)。
1H NMRスペクトルを
図1に示す。
【0052】
【化16】
【0053】
(2)二核金属錯体[Cu
2(μ-OH
2)bcamide](ClO
4)
3 (4)の合成
10 mLナスフラスコに5 mLのMilliQ水にHbcamide・8HCl 0.0480 g (0.0603 mmol)を溶かし、それに1 M NaOH水溶液を加えていきpHが7になるように調整した。そこにCu(ClO
4)
2・6H
2O 0.0589 g (0.159 mmol)を加え溶液を濃縮すると緑色の固体が析出したのでこれをメタノールに溶かし濾過をした後、濾液をEt
2Oとの気液拡散で再結晶させることで目的の緑色の錯体[Cu
2(μ-OH
2)bcamide](ClO
4)
3 (以下、本錯体を錯体4と呼ぶことがある。) 0.034 gを得た(0.0359 mmol, Yield 60%)。ESI-MSを
図2に示す。
【0054】
また、[Cu
2(μ-OH
2)bcamide](ClO
4)
3 (錯体4)の再結晶によって得た単結晶を用いてX線結晶構造解析を行った。
図3は、結晶構造のORTEP(Oak Ridge Thermal Ellipsoid Plot)図である。
(3)二核金属錯体[Cu
2(μ-OH
2)bcamide](ClO
4)
3 (4)の酸化的切断反応の過酸化水素濃度依存性
錯体4については、以下に示す様に過酸化水素によるDNAの酸化切断を行った。過酸化水素濃度依存性の測定のために、[complex] = 50 μM、[pUC19 DNA] = 0.05 mM bp、[buffer (pH 6.0)] = 10 mM(pH 5.5, 6.0 (MES)、[NaCl] = 10 mM, [H
2O
2] = 125, 250, 375, 500 μMとなるように溶液を調製し測定を行った。
【0055】
錯体4の酸化的切断反応の過酸化水素濃度依存性の結果を示す。過酸化水素濃度が500, 375 μMの場合は0, 10, 20, 40, 60分ごとに、また250, 125 μMの場合は0, 30, 60, 90, 120分ごとに、それぞれサンプルを回収し、各時間におけるpUC19 DNA の切断状況をアガロースゲル電気泳動によって測定した。このときのForm IからFormIIへの切断率をプロットした図が
図4に示されている。過酸化水素濃度が500, 375 μMの場合、1時間でFormIIが90%以上となり、飽和曲線を描くことが分かった。過酸化水素の濃度が低下するにつれてFormII生成速度が低下した。過酸化水素濃度が250 μMでは、2時間後にほぼ100%、125 μMでは2時間後には約80%の切断率を示した。
【0056】
錯体4を用いて過酸化水素を存在下でDNA切断活性を調べたところ、非常に高いDNA切断活性を示した。具体的には、50 μMの錯体4を用いて500 μMの過酸化水素(錯体に対して10当量)の条件でpUC19 DNA の切断実験を行った。[H
2O
2] = 500 μM, [4] = 50, 37.5, 25, 12.5 μM, [pUC19 DNA] = 0.05 mMbp, [buffer] = 10 mM(pH 5.5, 6.0 (MES), pH 7.4 (Tris-HCl)), [NaCl] = 10 mM at 37℃。その結果、pH 7.0では1時間でFormIが消失し、5時間後には30%のFormIIがFormIIIに変換された(
図5)。従って、この過酸化水素によるDNAの酸化的切断は錯体4に特異的に加速する反応である。この理由として考えられるのは、錯体4がこの反応条件で安定に存在することが考えられる。即ち、錯体4はp-cresolとcyclenがアミド結合で繋がれているために過酸化水素によって酸化分解されない。
【0057】
錯体4は二核構造をもつので、2つの銅イオンが過酸化水素の2つの酸素原子と結合し、低濃度の過酸化水素でも容易に二核銅ペルオキソ錯体を生成する。このために二核銅錯体は過酸化水素を容易に活性化できると考えられる。ブレオマイシンはDNAの酸化切断を触媒する。ブレオマイシンは高い抗がん活性を示す抗生物質(抗がん性抗生物質)である。これはブレオマイシンががん細胞のDNAを酸化切断して、がん細胞を細胞死させるためである。ここで、ブレオマイシンは鉄錯体であり、鉄(III)状態では過酸化水素と反応して速やかにactive bleomycinと呼ばれる活性型のブレオマイシンを生じる。これは鉄(III)のヒドロペルオキソ錯体と考えられている。さらに、ヒドロペルオキソのO-O結合の開裂により酸化活性種が生じると推定されている。この様に過酸化水素を酸化剤として働くブレオマイシンに代わる新たな抗がん剤として錯体4が有用であると考えられる。