特許第6892122号(P6892122)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6892122粉末粒子及びこれを用いたグリーン体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6892122
(24)【登録日】2021年5月31日
(45)【発行日】2021年6月18日
(54)【発明の名称】粉末粒子及びこれを用いたグリーン体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/628 20060101AFI20210607BHJP
   C04B 35/634 20060101ALI20210607BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20210607BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20210607BHJP
   C25D 15/00 20060101ALI20210607BHJP
【FI】
   C04B35/628 920
   C04B35/634 040
   B22F1/02 B
   B22F3/02 M
   C25D15/00 Z
【請求項の数】13
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2017-555179(P2017-555179)
(86)(22)【出願日】2016年12月11日
(86)【国際出願番号】JP2016086828
(87)【国際公開番号】WO2017099250
(87)【国際公開日】20170615
【審査請求日】2019年11月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-242743(P2015-242743)
(32)【優先日】2015年12月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】松田 厚範
(72)【発明者】
【氏名】河村 剛
(72)【発明者】
【氏名】松崎 達也
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−112845(JP,A)
【文献】 特開平08−134504(JP,A)
【文献】 特開平07−157808(JP,A)
【文献】 特開2003−183702(JP,A)
【文献】 特開2004−232079(JP,A)
【文献】 特開2012−101951(JP,A)
【文献】 特開2006−097123(JP,A)
【文献】 特開2006−096584(JP,A)
【文献】 特表2006−521264(JP,A)
【文献】 特開2011−219802(JP,A)
【文献】 特開2013−209693(JP,A)
【文献】 特開2010−064945(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133696(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/011048(WO,A1)
【文献】 米国特許第05102592(US,A)
【文献】 特開2017−140786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
B22F 1/00−9/04
C25D 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最表面に水系の液体中で電離して正に帯電するカチオン性高分子電解質または負に帯電するアニオン性高分子電解質のいずれかが積層されて表面電荷が調整された焼結体の主たる成分となる母粒子と、その母粒子よりも粒径が小さく、且つ、最表面に水系の液体中で電離して正に帯電するカチオン性高分子電解質または負に帯電するアニオン性高分子電解質のいずれかが積層されて表面電荷が調整され、前記母粒子の表面上に担持された熱可塑性樹脂粒子とを備えた粉末粒子であって、前記熱可塑性樹脂粒子は前記母粒子の表面上に点在すると共に、前記母粒子に対し体積比で2%以上5%以下の範囲にあることを特徴とする粉末粒子。
【請求項2】
最表面に水系の液体中で電離して正に帯電するカチオン性高分子電解質または負に帯電するアニオン性高分子電解質のいずれかが積層されて表面電荷が調整された焼結体の主たる成分となる母粒子と、その母粒子よりも粒径が小さく、且つ、最表面に水系の液体中で電離して正に帯電するカチオン性高分子電解質または負に帯電するアニオン性高分子電解質のいずれかが積層されて表面電荷が調整され、前記母粒子の表面上に担持された熱可塑性樹脂粒子とを備えた粉末粒子であって、前記熱可塑性樹脂粒子は前記母粒子に対し予め定めた体積比の範囲で前記母粒子の表面上に点在し、前記母粒子に担持される前記熱可塑性樹脂粒子は、該母粒子の個々の表面上に4個以上120個以下であることを特徴とする粉末粒子。
【請求項3】
前記母粒子に比べて焼結性に優れ、または焼結助剤として機能し、前記母粒子よりも粒径の小さな子粒子が前記母粒子の表面に付着しているものであることを特徴とする請求項1または2に記載の粉末粒子。
【請求項4】
前記子粒子の平均粒径は150nm以下であることを特徴とする請求項3記載の粉末粒子。
【請求項5】
前記母粒子の平均粒径は500nm以上5μm以下であることを特徴とする請求項3または4に記載の粉末粒子。
【請求項6】
前記母粒子の表面は、該母粒子の表面全体に対して40%以上100%以下の被覆率によって前記子粒子により被覆されていることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載の粉末粒子。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂粒子は、その一部または全部が、前記母粒子の表面に付着する前記子粒子を介して前記母粒子上に担持されると共に、前記母粒子の表面上に点在する態様に配置されていることを特徴とする請求項3から6のいずれかに記載の粉末粒子。
【請求項8】
前記母粒子、前記子粒子、前記熱可塑性樹脂粒子は、それぞれその表面に水系の液体中で電離して正に帯電するカチオン性高分子電解質または負に帯電するアニオン性高分子電解質のいずれかである高分子電解質を有しており、その高分子電解質を介して他の粒子と接するものであることを特徴とする請求項3から7のいずれかに記載の粉末粒子。
【請求項9】
前記各粒子が具有する前記高分子電解質の厚みは20nm以下であることを特徴とする請求項8記載の粉末粒子。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の粉末粒子を用いて、グリーン体を造形すると共に当該グリーン体に含まれる熱可塑性樹脂粒子が溶融する温度以上で加熱した後冷却してグリーン体を成形するグリーン体成形工程を備えたことを特徴とするグリーン体の製造方法。
【請求項11】
焼結体の主たる成分となる母粒子の表面電荷を液体中において調整する第1表面電荷調整工程と、
前記母粒子に比べて焼結性に優れ、または焼結助剤として機能し、前記母粒子よりも粒径の小さな子粒子を、前記第1表面電荷調整工程で処理された前記母粒子が有する表面電荷と反対極性となるように、液体中で当該子粒子の表面電荷を調整する子粒子表面電荷調整工程と、
その子粒子表面電荷調整工程にて処理を行った前記子粒子と、前記第1表面電荷調整工程で処理された前記母粒子とを液体中で混合して静電引力によって複合化して母粒子と子粒子との複合粒子を作製する前複合化工程と、
前記第1表面電荷調整工程で処理された前記母粒子に、当該母粒子よりも小さな粒径の熱可塑性樹脂粒子を静電引力の作用で付着させるため、前記前複合化工程で作製される複合粒子の表面電荷と反対極性となるように、液体中で前記熱可塑性樹脂粒子の表面電荷を調整する第2表面電荷調整工程と、
前記前複合化工程によって作製された母粒子と子粒子との複合粒子と、前記第2表面電荷調整工程にて処理を行った前記熱可塑性樹脂粒子とを、液体中で混合し静電引力によって更に複合化する複合化工程と、
その複合化工程によって得られた複合粒子を用いてグリーン体を造形すると共に当該グリーン体に含まれる熱可塑性樹脂粒子が溶融する温度以上で加熱した後冷却してグリーン体を成形するグリーン体成形工程とを備えたことを特徴とするグリーン体の製造方法。
【請求項12】
焼結体の主たる成分となる母粒子の表面電荷を液体中において調整する第1表面電荷調整工程と、
前記母粒子に比べて焼結性に優れ、または焼結助剤として機能し、前記母粒子よりも粒径の小さな子粒子を、前記第1表面電荷調整工程で処理された前記母粒子が有する表面電荷と反対極性となるように、液体中で当該子粒子の表面電荷を調整する子粒子表面電荷調整工程と、
その子粒子表面電荷調整工程にて処理を行った前記子粒子と、前記第1表面電荷調整工程で処理された前記母粒子とを液体中で混合して静電引力によって複合化して母粒子と子粒子との複合粒子を作製する前複合化工程と、
前記前複合化工程により作製された母粒子と子粒子との複合粒子について、該複合粒子の表面電荷を更に調整する表面電荷再調整工程と、
前記第1表面電荷調整工程で処理された前記母粒子に、当該母粒子よりも小さな粒径の熱可塑性樹脂粒子を静電引力の作用で付着させるため、前記表面電荷再調整工程で調整された複合粒子の表面電荷と反対極性となるように、液体中で前記熱可塑性樹脂粒子の表面電荷を調整する第2表面電荷調整工程と、
前記表面電荷再調整工程によって処理された複合粒子と、前記第2表面電荷調整工程にて処理を行った前記熱可塑性樹脂粒子とを、液体中で混合し静電引力によって更に複合化する複合化工程と、
その複合化工程によって得られた複合粒子を用いてグリーン体を造形すると共に当該グリーン体に含まれる熱可塑性樹脂粒子が溶融する温度以上で加熱した後冷却してグリーン体を成形するグリーン体成形工程とを備えたことを特徴とするグリーン体の製造方法。
【請求項13】
前記グリーン体成形工程は、前記複合化工程で得られた前記複合粒子が分散されたスラリーを用いて前記グリーン体の造形を行った後に、乾燥を実施してから、熱可塑性樹脂粒子が溶融する温度以上で加熱することを特徴とする請求項11または12に記載のグリーン体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスや金属などの焼結体の原料となる粉末粒子と焼結体作製に用いるグリーン体の製造方法に関し、特に、十分な強度を有する均質なグリーン体を形成するための粉末粒子と、その粉末粒子を用いたグリーン体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セラミックス材料は構造材として、また耐熱材として様々な分野において用いられており、集積回路の基板やパッケージ、焼成用容器やセッター、電気炉の炉心管などとして広く普及している。このセラミックス材料は、一般に、原料粉末を乾式や湿式の成形法によってグリーン体を成形し、その後にこのグリーン体を焼成、焼結して製造される。
【0003】
セラミックス材料の製造においては、焼成に伴い、通常、グリーン体の収縮が発生する。この収縮が大きいと、焼結体の寸法精度に問題が生じる。セラミックスの焼結体は難加工性であるので、寸法精度に狂いが生じた場合、後加工による補正には多大な労力とコストが必要になる。複雑な形状の製品である場合には、加工不能となることも多く、歩留まりへの影響が大きい。収縮率を低減する方法が提案されているが(特許文献1参照)、かかる技術では、収縮は抑制されるものの得られた成形体は空隙を残したままであり、後焼成によって成形体を緻密化しようとすれば、空隙を消失させるために収縮が発生してしまう。
【0004】
緻密化は、セラミックス材料(焼結体)の特性向上、品質保証において重要な因子の一つである。緻密にすることで、機械的性質や光学特性を向上させることができるからである。この緻密化は、焼結性を改善することで達成することができるため、一般には、微細化した原料粒子を用いてグリーン体を成形することや焼結助剤を添加することで焼結性の改善が図られる。しかしながら、原料粉末の微細化は焼成時の収縮率の増大を招き、また、焼結助剤の添加は異常粒成長の原因となりかねず、焼結体強度を低下させる懸念がある。
【0005】
そこで、本発明者らは、上記従来に係るセラミックスの焼結体の緻密化と収縮率抑制との両立に関する課題克服の可能性を秘めた成形法を着想した(非特許文献1、2参照)。具体的に、本発明者らは、非特許文献1、2に係る技術として、粒径の異なる二種類の粒子を用いて、より大きな粒子の表面に、より小さな粒子を付着させて複合化した複合粒子を作製し、これを出発原料として焼成した場合、粒径の小さい粒子が効果的に焼結することで焼結特性の改善が期待でき、全体的な収縮率を抑制しつつ、より緻密なセラミックス材料を作製することができる現象を見出した。
【0006】
一方、セラミックスの造形物作製の1つの手法においては、所望の三次元形状を有する鋳型にスラリーを流し込み成型してグリーン体を作製する鋳込み成型法(スリップキャスト)が用いられる。これにより複雑形状を有するグリーン体が得られ、これを焼成炉で焼結することで製品を得ることができる。グリーン体に十分な強度が無い場合は、焼成に至る前に破壊や欠損が生じてしまうことから、一般には、有機バインダーを多量に使用してグリーン体は作製される。その結果、脱脂工程で大量にガスが発生するため、その対策が必要となる。その上、脱脂には多大な時間とエネルギーが費やされるため、製造コストを増大させるという問題点があった。更には、有機バインダーの体積に応じた収縮が生じることとなる。また、多量にバインダーを用いた場合でも複雑な幾何形状のグリーン体を作製しようとすれば、十分な強度は得られない。
【0007】
バインダー量を抑制しつつ、グリーン体の強度を向上させるための技術としては、熱可塑性のバインダー粉末を焼結性粉末に一定量混合、または、熱硬化性のバインダー粉末を焼結性粉末に一定量混合若しくはコーティングした後、バインダー粉末が溶融する温度に加熱して、強度を有するグリーン体を得る手法が提案されている(特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2006−521264号公報
【特許文献2】特開平7−157808号公報
【特許文献3】特開平8−134504号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】飯盛 仁、加藤 知嗣、河村 剛、松田 厚範、武藤 浩行,第50回東海若手セラミスト懇話会2015年夏期セミナー予稿集,P14−(C)
【非特許文献2】小田 進也、加藤 知嗣、河村 剛、松田 厚範、武藤 浩行,日本セラミックス協会第28回秋季シンポジウム、講演予稿集3A04、p31、富山(2015年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2,3に記載の技術は、グリーン体の強度向上のため、焼結性粉末に、熱可塑性バインダー粉末または熱硬化性バインダー粉末を混合するものであるが、焼結性粉末とバインダー粉末とでは比重に大きな差があるため、均一に混合することが難しいという問題点があった。バインダー粉末と焼結性粉末との良好な混合状態(分散状態)を得るためには、剪断力を大きくして十分な混錬が行うことが考えられるが、その結果、往々にして熱が発生する。熱の発生はバインダー粉末の軟化を引き起こし、一部の焼結性粉末と結着して塊状化(だま)を誘発し易いなど、均質な混合物を得ることが困難になりがちである。
【0011】
バインダー粉末を用いて焼結性粉末をコーティングすることも提案されてはいるが、これを行うには、バインダー粉末を溶剤に溶かすか、融点以上の温度で溶融させて液状化する必要がある。バインダー溶液またはバインダー融液には粘性があることが多いため、実用的に使用する量の焼結性粉末を処理するには、その制御が高度で大掛かりになり、作業性が低下してしまう。また、バインダーの粘着力によって一部の焼結性粒子が結着し易く塊状化が生じ易い。このため、原料粉末全体においてバインダーの偏在が生じやすいという問題点があった。
【0012】
グリーン体の焼結時の収縮や脱脂の煩雑さを考慮すれば、バインダー量を低減することが望ましいが、バインダーを混合、コーティングする上記の手法では、バインダー量を低減すればグリーン体中の樹脂の分散が疎らになって不均質なグリーン体になり易い上、十分な強度を得ることが難しくなってしまう。このため、均質で十分な強度のあるグリーン体の提供は実現されないままとなっており、特に、セラミックス粉末を用いた付加製造技術(3Dプリント)が益々発展するに伴い、より複雑形状の製品が求められる中、比較的大きな複雑造形物であっても、その形状を保持できる程度に満足な強度を備えたグリーン体の提供が待たれている。
【0013】
また、非特許文献1,2に記載された手法を用いて、焼成工程において収縮率を抑制しつつ緻密なセラミックス材料を製造するにも、まず、グリーン体の作製を経なければならい。
【0014】
ここで、非特許文献1,2に示された複合粒子を原料粉末に用いる場合に、特許文献2,3に記載の技術をそのまま適用すると、混錬の剪断力によって、粒径の大きな粒子表面に付着する粒径の小さい粒子が脱落して複合粒子の構造を維持できなくなってしまいかねないという問題点があった。つまり、このような複合粒子を原料粉末に用いようとした場合には、より大きな剪断力での混錬が伴うバインダー量の低減は難しくなってしまうという問題点があった。結果として、バインダーを低減しても十分な強度を有する均質なグリーン体を形成し得、更に、全体的な収縮率を抑制しつつも緻密なセラミックス材料を形成できるグリーン体は提供できないままとなっていた。
【0015】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、十分な強度を有する均質なグリーン体を形成するための粉末粒子と、その粉末粒子を用いたグリーン体の製造方法とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的を達成するために、粉末粒子に係る第1の発明は、焼結体の主たる成分となる母粒子と、その母粒子よりも粒径が小さく、且つ、前記母粒子の表面上に担持された熱可塑性樹脂粒子とを備えた粉末粒子であって、前記熱可塑性樹脂粒子は前記母粒子に対し予め定めた体積比の範囲で前記母粒子の表面上に点在し、且つ、前記熱可塑性樹脂粒子が溶融した場合に隣接する母粒子間の接点周縁領域に樹脂溜まり部が形成されるような態様で前記母粒子に担持されている。
【0017】
尚、ここで、粒子とは、固形状で何らかの外形形状を有することを意味するものであり、球状や粒状に限られるものでなく、例えば、円筒状、円盤状、楕円状、塊状、多角形状、扁平状、板状、繊維状、異形状、矩形状などの各種の形状を含む概念である。また、当然に顆粒状であってもよい。
【0018】
また、「母粒子の表面上」とは、母粒子の表面に直に接する位置のみならず、何らかの物質を介在させて間接的に母粒子の表面に接する配置状態も包含される概念である。
【0019】
粉末粒子に係る第2の発明は、前記第1の発明において、前記熱可塑性樹脂粒子は、前記母粒子に対し体積比で2%以上5%以下の範囲にある。
【0020】
粉末粒子に係る第3の発明は、前記第1の発明において、前記母粒子に担持される前記熱可塑性樹脂粒子は、該母粒子の個々の表面上に4個以上120個以下である。
【0021】
粉末粒子に係る第4の発明は、前記第1から第3の発明のいずれかにおいて、易焼結性または焼結助剤の機能を有し前記母粒子よりも粒径の小さな子粒子が前記母粒子の表面に付着しているものである。
【0022】
粉末粒子に係る第5の発明は、前記第4の発明において、前記子粒子の平均粒径は150nm以下である。
【0023】
粉末粒子に係る第6の発明は、前記第4または第5の発明において、前記母粒子の平均粒径は500nm以上5μm以下である。
【0024】
粉末粒子に係る第7の発明は、前記第4から第6の発明のいずれかにおいて、前記母粒子の表面は、該母粒子の表面全体に対して40%以上100%以下の被覆率によって前記子粒子により被覆されている。
【0025】
粉末粒子に係る第8の発明は、前記第4から第7の発明のいずれかにおいて、前記熱可塑性樹脂粒子は、その一部または全部が、前記母粒子の表面に付着する前記子粒子を介して前記母粒子の表面上に点在する形態で担持されているものである。
【0026】
粉末粒子に係る第9の発明は、前記第4から第8の発明のいずれかにおいて、前記母粒子、前記子粒子、前記熱可塑性樹脂粒子は、それぞれその表面に高分子電解質を有しており、その高分子電解質を介して他の粒子と付着するものである。
【0027】
粉末粒子に係る第10の発明は、前記第9の発明において、前記各粒子に付着した前記高分子電解質の厚みは20nm以下である。
【0028】
グリーン体の製造方法に係る第1の発明は、前記粉末粒子に係る第1から第10の発明に記載の粉末粒子を用いて、グリーン体を造形すると共に当該グリーン体に含まれる熱可塑性樹脂粒子が溶融する温度以上で加熱した後冷却してグリーン体を成形するグリーン体成形工程を備えたものである。
【0029】
グリーン体の製造方法に係る第2の発明は、焼結体の主たる成分となる母粒子の表面電荷を液体中において調整する第1表面電荷調整工程と、その第1表面電荷調整工程で処理された前記母粒子に、当該母粒子よりも小さな粒径の熱可塑性樹脂粒子を静電引力の作用で付着させるため、液体中で前記熱可塑性樹脂粒子の表面電荷を調整する第2表面電荷調整工程と、前記第1表面電荷調整工程での処理を経た前記母粒子と、前記第2表面電荷調整工程で処理された前記熱可塑性樹脂粒子とを、液体中で混合し静電引力によって複合化して複合粒子を作製する複合化工程と、その複合化工程によって得られた前記複合粒子を用いてグリーン体を造形すると共に当該グリーン体に含まれる熱可塑性樹脂粒子が溶融する温度以上で加熱した後冷却してグリーン体を成形するグリーン体成形工程とを備えたものである。
【0030】
グリーン体の製造方法に係る第3の発明は、グリーン体の製造方法に係る前記第2の発明において、易焼結性または焼結助剤の機能を有し前記母粒子よりも粒径の小さな子粒子を、前記第1表面電荷調整工程で処理された前記母粒子が有する表面電荷と反対極性となるように、液体中で当該子粒子の表面電荷を調整する子粒子表面電荷調整工程と、その子粒子表面電荷調整工程にて処理を行った前記子粒子と、前記第1表面電荷調整工程で処理された前記母粒子とを液体中で混合して静電引力によって複合化して母粒子と子粒子との複合粒子を作製する前複合化工程とを備え、前記第2表面電荷調整工程は、前記前複合化工程で作製される複合粒子の表面電荷と反対極性となるように、液体中で前記熱可塑性樹脂粒子の表面電荷を調整するものであり、前記複合化工程は、前記前複合化工程によって作製された母粒子と子粒子との複合粒子と、前記第2表面電荷調整工程にて処理を行った前記熱可塑性樹脂粒子とを更に複合化するものである。
【0031】
グリーン体の製造方法に係る第4の発明は、グリーン体の製造方法に係る第2の発明において、易焼結性または焼結助剤の機能を有し前記母粒子よりも粒径の小さな子粒子を、前記第1表面電荷調整工程で処理された前記母粒子が有する表面電荷と反対極性となるように、液体中で当該子粒子の表面電荷を調整する子粒子表面電荷調整工程と、その子粒子表面電荷調整工程にて処理を行った前記子粒子と、前記第1表面電荷調整工程で処理された前記母粒子とを液体中で混合して静電引力によって複合化して母粒子と子粒子との複合粒子を作製する前複合化工程と、前記前複合化工程により作製された母粒子と子粒子との複合粒子について、該複合粒子の表面電荷を更に調整する表面電荷再調整工程を備え、前記第2表面電荷調整工程は、前記表面電荷再調整工程で調整された複合粒子の表面電荷と反対極性となるように、液体中で前記熱可塑性樹脂粒子の表面電荷を調整するものであり、前記複合化工程は、前記表面電荷再調整工程によって処理された複合粒子と、前記第2表面電荷調整工程にて処理を行った前記熱可塑性樹脂粒子とを更に複合化するものである。
【0032】
グリーン体の製造方法に係る第5の発明は、グリーン体の製造方法に係る第2から第4の発明のいずれかにおいて、前記グリーン体成形工程は、前記複合化工程で得られた前記複合粒子が分散されたスラリーを用いて前記グリーン体の造形を行った後に、乾燥を実施してから、熱可塑性樹脂粒子が溶融する温度以上で加熱するものである。
【発明の効果】
【0033】
粉末粒子に係る第1の発明によれば、母粒子の表面上に担持された熱可塑性樹脂粒子を備えており、その熱可塑性樹脂粒子は母粒子に対し予め定めた体積比の範囲で母粒子の表面上に点在している。母粒子の表面全体が熱可塑性樹脂粒子で被覆されたものではないため、かかる粉末粒子を用いてグリーン体を成形すれば、各粉末粒子のそれぞれに熱可塑性樹脂粒子が少量付着した状態でパッキングされたグリーン体を形成することができる。即ち、構造全体に均質に熱可塑性樹脂粒子が配されたグリーン体が形成されることとなる。また、本粉末粒子を集積した状態で熱可塑性樹脂粒子を溶融させた場合、隣接する母粒子間の接点周縁領域に樹脂溜まり部が形成され、かかる領域に樹脂が局在する。このため、熱可塑性樹脂粒子が溶融する条件下にグリーン体を設置すれば、熱可塑性樹脂が溶け、隣り合う粉末粒子の接点(近接点)近傍に樹脂を集中させ得る。すなわち、樹脂溜まり部が形成されることから、粉末粒子同士の接点部分を重点的に固着することができ、極少量の熱可塑性樹脂にて粉末粒子間の結着力を効果的に向上させることができる。更には、かかる作用はグリーン体全体に生じるため、強度にムラのない強固なグリーン体を得ることができるという効果がある。
【0034】
粉末粒子に係る第2の発明によれば、前記第1の発明が奏する効果に加え、熱可塑性樹脂粒子が母粒子に対し体積比で2%以上5%以下の範囲にあるため、僅少の熱可塑性樹脂をもってバインダーとして機能させることにより、強度のムラを一層低減させることができる。
【0035】
粉末粒子に係る第3の発明によれば、前記第1の発明が奏する効果に加え、母粒子に担持される熱可塑性樹脂粒子が、母粒子の個々の表面に4個以上120個以下であるため、熱可塑性樹脂粒子の大きさに応じて適切な数で、所望の体積に相当する量の熱可塑性樹脂粒子を母粒子表面に点在させることができる。なお、母粒子のそれぞれについてほぼ均等な状態で熱可塑性樹脂粒子を担持させるために、僅少でないことが好ましく、そのためには、熱可塑性樹脂粒子の個数を4個以上としている。他方において、母粒子が大きく且つ熱可塑性樹脂粒子が極めて小さい場合には、所望分量の熱可塑性樹脂粒子を母粒子表面に担持させるため、多くの熱可塑性樹脂粒子を担持させる必要があるものの、多すぎる場合には、隣り合う粉末粒子の接点(近接点)近傍に樹脂を集中させることが容易でないため、120個を上限としている。
【0036】
粉末粒子に係る第4の発明によれば、前記第1から第3の発明のいずれかが奏する効果に加え、易焼結性または焼結助剤の機能を有し母粒子よりも粒径の小さな子粒子が、母粒子の表面に付着しているので、母粒子に比べて反応性に富んだ子粒子を、母粒子との界面に存在させることができる。このため、十分量の子粒子を母粒子表面に付着させておけば、母粒子との間で形成される界面領域の大部分に確実に子粒子を配置することができ、これを用いて成形したグリーン体の焼結性を向上することができるという効果がある。逆に言えば、焼結体の主成分となる母粒子は、相対的に大きな粒子となり、本粉末粒子を用いてグリーン体を成形すれば、得られる焼結体に占める母粒子の体積割合を増大させることができる。大きな母粒子は焼結による収縮を抑制できるため、本粉末粒子を用いることで、得られる焼結体の焼結性を向上させて緻密化を促進できると共に、収縮を抑制することができる。
【0037】
粉末粒子に係る第5の発明によれば、前記第4の発明が奏する効果に加え、子粒子の平均粒径は150μm以下であるので、より一層、焼結性の向上を図ることができるという効果がある。
【0038】
粉末粒子に係る第6の発明によれば、前記第4または第5の発明が奏する効果に加え、前記母粒子の平均粒径は500nm以上5μm以下であるので、焼結時の収縮を、より一層抑制することができるという効果がある。
【0039】
粉末粒子に係る第7の発明によれば、前記第4から第6の発明のいずれかが奏する効果に加え、母粒子の表面は、当該母粒子の表面全体に対して40%以上100以下の被覆率によって子粒子が1個分の単層により被覆されているので、母粒子の表面は、その全部または相当程度の範囲が子粒子によって被覆されることとなる。このため、子粒子を介して母粒子表面に熱可塑性樹脂粒子を点在させることができる一方、母粒子との間で形成される界面領域の適度な範囲に子粒子を配置することができる。
【0040】
粉末粒子に係る第8の発明によれば、前記第4から第7の発明のいずれかが奏する効果に加え、熱可塑性樹脂粒子は、その一部または全部が、前記母粒子の表面に付着する前記子粒子を介して前記母粒子の表面上に点在する形態で担持されているものである。このため、母粒子の表面に付着する子粒子よりも外方となるようにして母粒子に樹脂粒子を担持させることができる一方で、子粒子と母粒子との間に樹脂粒子が介在することはない。その結果、熱可塑性樹脂粒子が溶融しても液体状態となった樹脂分だけが流動し、母粒子表面に付着した子粒子はその状態を維持することができる。故に、樹脂分の流動に伴って子粒子の偏在が生じることを抑制して、全体的に良好な焼結性を保持できるという効果がある。
【0041】
粉末粒子に係る第9の発明によれば、前記第4から第8の発明のいずれかが奏する効果に加え、母粒子、子粒子、熱可塑性樹脂粒子は、それぞれその表面に高分子電解質を有しており、その高分子電解質を介して他の粒子と付着するものであるので、本粉末粒子を製造する際に、水系の液体中で、高分子電解質の電離作用を利用し静電引力によって簡便に粒子間の複合化を行うことができるという効果がある。故に、その作製において、母材粒子に担持させる粒子の量を制御することができ、子粒子、熱可塑性樹脂粒子が所定の範囲で付着し均質性に優れた粉末粒子を実現することができる。
【0042】
粉末粒子に係る第10の発明によれば、前記第9の発明が奏する効果に加え、各粒子に付着した高分子電解質の厚みは20nm以下であるので、含まれる高分子電解質の量を極微量にでき、本粉末粒子を用いて焼結体を作製する場合、高分子電解質が含まれることによる脱脂工程での影響や、その残留による影響を極めて軽微にすることができるという効果がある。
【0043】
グリーン体の製造方法に係る第1の発明によれば、グリーン体成形工程により、粉末粒子に係る第1から第10のいずれかの発明に記載の粉末粒子が用いられてグリーン体が造形されると共に、当該グリーン体に含まれる熱可塑性樹脂粒子が溶融する温度以上で加熱した後冷却されて、グリーン体が成形される。
【0044】
ここで、本製造方法によって製造されたグリーン体は、粉末粒子に係る第1から第10のいずれかの発明に記載の粉末粒子が用いられているので、各粉末粒子のそれぞれは、熱可塑性樹脂粒子の少量(必要量)が母粒子に複合化された複合粒子である。このため、本製造方法にてグリーン体を成形すれば、各粉末粒子は、極少量の熱可塑性樹脂粒子をそれぞれ担持した状態で充填されるため、熱可塑性樹脂粒子が偏在することなくグリーン体全体に良好に分散した態様のグリーン体が成形される。また、加熱によって、熱可塑性樹脂を溶融させることで粉末粒子間の結着力を効果的に向上させることができ、更には、かかる作用はグリーン体全体に生じるため、強度にムラのない強固なグリーン体を得ることができるという効果がある。
【0045】
グリーン体の製造方法に係る第2の発明によれば、第1表面電荷調整工程により、液体中において母粒子の表面電荷が調整され、その第1表面電荷調整工程で処理された母粒子に、当該母粒子よりも小さな粒径の熱可塑性樹脂粒子を静電引力の作用で付着させるため、液体中でこの熱可塑性樹脂粒子の表面電荷が第2表面電荷調整工程によって調整される。そして、複合化工程により、第1表面電荷調整工程での処理を経た母粒子と、第2表面電荷調整工程で処理された熱可塑性樹脂粒子とが、液体中で混合され、両者は静電引力によって複合化して複合粒子が作製される。次いで、得られた複合粒子を用いてグリーン体成形工程により、グリーン体を造形すると共に当該グリーン体に含まれる熱可塑性樹脂粒子が溶融する温度以上で加熱した後、冷却されてグリーン体が成形される。
【0046】
ここで、本製造方法では、複合化工程において、液中に分散された母粒子に樹脂粒子が静電引力によって付着するので、添加量を調整することで、母粒子に担持させる熱可塑性樹脂粒子の量を適正に制御することができる。その結果、少量(必要量)の熱可塑性樹脂粒子を的確に母粒子に担持させることができ、得られる複合粒子のそれぞれは、熱可塑性樹脂粒子の担持量のばらつきが抑制されたものとできる。これにより、各複合粒子は、極少量の熱可塑性樹脂粒子をそれぞれ担持した状態で充填されることとなり、熱可塑性樹脂粒子が偏在することなくグリーン体全体に良好に分散した態様のグリーン体が成形される。また、加熱によって、熱可塑性樹脂を溶融させることで粉末粒子間の結着力を効果的に向上させることができ、更には、かかる作用はグリーン体全体に生じるため、強度にムラのない強固なグリーン体を得ることができるという効果がある。
【0047】
グリーン体の製造方法に係る第3の発明によれば、グリーン体の製造方法に係る第2の発明が奏する効果に加え、第1表面電荷調整工程で処理された母粒子が有する表面電荷と反対極性となるように、子粒子表面電荷調整工程にて、易焼結性または焼結助剤の機能を有し前記母粒子よりも粒径の小さな子粒子の表面電荷が調整される。そして、前複合化工程にて、子粒子表面電荷調整工程にて処理を行った子粒子と、第1表面電荷調整工程で処理された母粒子とを液体中で混合し、静電引力によって複合化して母粒子と子粒子との複合粒子が作製される。ここで、第2表面電荷調整工程においては、前複合化工程で作製される複合粒子の表面電荷と反対極性となるように、液体中で熱可塑性樹脂粒子の表面電荷が調整され、複合化工程では、前複合化工程によって作製された母粒子と子粒子との複合粒子と、第2表面電荷調整工程にて処理を行った熱可塑性樹脂粒子とが更に複合化される。
【0048】
ここで、母粒子と子粒子とも静電引力にて複合化を行うため、子粒子には、母粒子と反対の表面電荷を有するように処理が行われる。そして、例えば、十分な量の子粒子が母粒子に複合化された複合粒子においては、子粒子と反対極性の表面電荷に調整された熱可塑性樹脂粒子を、静電引力により、子粒子に選択的に付着させること、言い換えれば、母粒子の表面上に子粒子を配し、更に、その上に熱可塑性樹脂粒子を配した構造を有する複合粒子を精度良く簡便かつ確実に製造することができるという効果がある。
【0049】
更に、例えば、母粒子と子粒子との複合粒子の表面電荷を調整した後、その表面電荷とは反対極性に調整した熱可塑性樹脂粒子を複合化させれば、その一部の熱可塑性樹脂粒子を、子粒子を介して母粒子に担持させると共に、母粒子表面に直接的に(子粒子を介在させず)、残りの樹脂粒子を担持させることができる。このように、本製造方法によれば、母粒子の表面上における熱可塑性樹脂粒子の配置を、簡便な操作で制御し、構造の異なる3元系の複合粒子を作り分けることができる。
【0050】
また、熱可塑性樹脂粒子を液中に分散させるだけで、的確に母粒子に担持させることができるので、従来のように、バインダーと粉末粒子とを強力な剪断力の働く条件下で混合するといった厳しい条件にさらすことなく、複合粒子に、バインダーとなる熱可塑性樹脂粒子を担持させることができる。よって、複合粒子の構造を維持したまま、少量のバインダーで優れた強度のグリーン体を形成することができるという効果を奏する。
【0051】
グリーン体の製造方法に係る第4の発明によれば、グリーン体の製造方法に係る第2の発明が奏する効果に加え、第1表面電荷調整工程で処理された母粒子が有する表面電荷と反対極性となるように、子粒子表面電荷調整工程にて、易焼結性または焼結助剤の機能を有し前記母粒子よりも粒径の小さな子粒子の表面電荷が調整され、前複合化工程にて、子粒子表面電荷調整工程後の子粒子と、第1表面電荷調整工程後の母粒子とを液体中で混合し、静電引力によって複合化して母粒子と子粒子との複合粒子が作製される。そして、表面電荷再調整工程にて、前複合化工程によって作製された母粒子と子粒子との複合粒子について、当該複合粒子全体の表面電荷が更に調整され、複合化工程にて、表面電荷再調整工程によって処理された複合粒子と、第2表面電荷調整工程にて処理を行った熱可塑性樹脂粒子とが更に複合化される。
【0052】
ここで、表面電荷再調整工程は、前複合化工程により作製された複合粒子(母粒子−子粒子)の表面全体に対して、電荷を調整するものである。これにより、母粒子に子粒子を付着させた状態において、子粒子による母粒子の被覆率によっては、作製された複合粒子(母粒子−子粒子)の見かけ上の表面電荷が弱くなる場合があっても、表面電荷再調整工程により複合粒子(母粒子−子粒子)の表面電荷を適度な強度による所定の極性に調整することができる。そして、第2表面電荷調整工程は、前記複合粒子(母粒子−子粒子)の表面電荷と反対極性となるように、液体中で熱可塑性樹脂粒子の表面電荷を調整するものであるため、複合化工程において、第2表面電荷調整工程にて調整された熱可塑性樹脂粒子は、前複合化工程および表面電荷再調整工程にて電荷が調整された複合粒子(母粒子−子粒子)との間で、好適な静電引力により複合化され、構造の異なる3元系の複合粒子を得ることができる。
【0053】
グリーン体の製造方法に係る第5の発明によれば、グリーン体の製造方法に係る第2から第4のいずれかの発明が奏する効果に加えて、グリーン体成形工程は、複合化工程で得られた複合粒子が分散されたスラリーを用いてグリーン体の造形を行った後に、乾燥を実施してから、熱可塑性樹脂粒子が溶融する温度以上で加熱を行うので、加熱の際には、スラリーの分散媒は残存せず、その蒸発によって受ける影響を回避することができる。
【0054】
また、例えば、グリーン体の部分的な造形を行い、その部分的な造形毎に、乾燥と加熱とを行えば、グリーン体の形状維持を容易に行うことができるので、複雑な造形物を精度良く製造することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】本発明の粉末粒子の一例を示したモデル図である。
図2】本発明の粉末粒子を用いたグリーン体形成時の樹脂粒子の作用として推定されるモデルを概略的に説明する図である。
図3】本発明の第1実施形態のグリーン体製造方法の工程を示した図である。
図4】本発明の第2実施形態のグリーン体製造方法の工程を示した図である。
図5】実施例1で得られた粉末粒子およびグリーン体の電子顕微鏡写真を示した図である。
図6】実施例2で得られた粉末粒子の電子顕微鏡写真を示した図である。
図7】複合粒子による試料の作製において得られた複合粒子の電子顕微鏡写真を示した図である。
図8】複合粒子による試料および比較試料にかかる圧入荷重−圧入深さの関係を測定した結果のグラフである。
図9】複合粒子による試料および比較試料にかかる圧入荷重−圧入深さの関係を測定した結果のグラフである。
図10】参照試料にかかる圧入荷重−圧入深さの関係を測定した結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。まず、本発明に係る粉末粒子について説明する。
【0057】
本発明に係る粉末粒子は、焼結体を製造するための原料粉末に用いられるものであり、本粉末粒子によってグリーン体を成形した場合に、バインダー樹脂分を低減しつつ良好な強度を有するグリーン体を実現できるものである。
【0058】
図1は、本発明にかかる粉末粒子の一例をモデルとして示した図である。図1に示すように、本発明の粉末粒子は、相対的に大きな形状の母粒子1と、この母粒子1よりも小さな粒子2,3とが複合化された複合粒子10,20の構造を備える。
【0059】
図1(a)は、母粒子1に樹脂粒子2が複合化された複合粒子10である。母粒子1は、複合粒子10にて焼結体を製造した場合に主成分となるものであって、焼結性の粉末である。
【0060】
一般に、粉末の融点以下で、固相拡散が生じる温度に粉末が加熱されると、拡散によって互いに接触している粉末粒子間で物質の移動が起こり、粒子間の接触面積が拡大する一方、粒子間距離が短くなる焼結が生じる。これにより、粉末粒子間に強固な結合が生じて緻密な物体(焼結体)が生成する。複合粒子10では、母粒子1が焼結することにより焼結体が得られるように構成されたものである。このため、複合粒子10において、母粒子1は、一次粒子であっても良く、一次粒子が凝集した二次粒子であっても、更にはこれらが造粒された造粒粒子であってもよい。母粒子1または樹脂粒子2として使用される粒子は、固形状で何らかの外形形状を有するものであれば良く、球状や粒状または顆粒状であって良い。
【0061】
このため、母粒子1は焼結性を備えることが必要であり、その一次粒径(一次粒子の粒径)は、平均粒径で、0.2μm〜5μmのものが望ましく、好適には、0.2μm〜3μmのものが用いられ、より好適には、0.2μm〜1μmのものが用いられる。また、母粒子1が顆粒状である場合、二次粒子である場合、または造粒粒子である場合には、前記の一次粒子よりも大きい粒径のものを用いることができる、例えば、母粒子1が顆粒状である場合には、その一次粒径は、平均粒径で1μm以上のものを用いることができ、好適には800μm〜1200μmのものが用いられ、より好適には900μm〜1100μmのものが用いられる。
【0062】
樹脂粒子2は熱可塑性樹脂であって、母粒子1にてグリーン体に成形する際に、母粒子1を相互に結着するバインダーとしての役割を担うものである。樹脂粒子2は、母粒子1よりも小さく、常温で固体であって母粒子1の表面上に点在する態様で担持されている。即ち、樹脂粒子2は、母粒子1の表面を被覆(コーティング)するものではなく、外形の稜線が閉じた固形物としての形状を有したまま、母粒子1の表面上に配置されている。また、各樹脂粒子2は、母粒子1の表面上に大きく偏在することなく、母粒子1の表面全体に疎密に点在している。更には、各複合粒子10は、いずれも、同程度の量の樹脂粒子2を担持しており、各複合粒子10毎に、担持量が大きく変化することはない。
【0063】
更に、樹脂粒子2の担持量は、母粒子1に対して、体積比で1%〜5%の範囲であり、好適には、2%〜5%、より好適には2%〜3%の範囲である。樹脂粒子が1%以上担持されていれば、形成するグリーン体の強度を比較的良好なものとすることができ、2%以上担持されていれば十分な強度のグリーン体を形成できる。一方、樹脂粒子の担時量が5%以下であれば、脱脂時におけるガス発生や収縮による悪影響を抑制でき、3%以下とすることでこれらを良好に改善できる。
【0064】
ここで、体積比は、母粒子の体積に対する樹脂粒子の体積の比を意味しており、例えば、体積比で1%〜5%であれば、母粒子体積を100とした場合に、母粒子に付着する樹脂粒子の総体積が、母粒子体積の1/100〜5/100となる。このため、各々の樹脂粒子の体積(大きさ)は、母粒子に複合化される粒子の個数に応じて変化する。尚、母粒子や子粒子が塊状、異形状、不定形状などの場合、更にはその大きさに分布がある場合には、母粒子を球形や円板に近似し、また、それらの平均粒径から算出される母粒子体積に対する比率を用いることができる。
【0065】
母粒子1に対して付着する(複合化される)樹脂粒子2の個数は、少なすぎると、母粒子同士の接触点の数に対して、対応する樹脂粒子2の数が少なくなりすぎて好ましくない。また、多すぎると、樹脂粒子2の各々の体積が小さくなりすぎ、場合によっては、溶融した場合に母粒子表面を流動するための駆動力が不十分になって好ましくない。上記のように母粒子1に付着する全樹脂粒子2の量は、体積比にて規定されているため、その範囲内において、各樹脂粒子2の個数と大きさ(母粒子に対する粒径比)とが制御される。
【0066】
母粒子1上に付着する樹脂粒子2の数は、母粒子形状によって異なるが、好適には、4個〜120個程度、好適には10個〜100個程度、より好適には、12個〜30個程度である。母粒子1に付着する樹脂粒子2の数は、両者の粒径比等によって適宜調整することができるが、1個の母粒子1に対してほぼ均等な数の樹脂粒子2を担持させるためには、著しく少ない個数とすることは好ましくない。すなわち、樹脂粒子2の数が少なくなる程、個々の母粒子1の表面に大凡均等に分散した状態で樹脂粒子2を担持させることは容易でないからである。また、樹脂粒子2をバインダーとして機能させ、複合粒子10によってグリーン体を形成する場合には、当該グリーン体の強度を保持する観点より適度な個数が必要となる。そこで、樹脂粒子2の個数は、4個を下限としている。例えば、母粒子1の平均粒径が3μmであり、樹脂粒子2の平均粒径が0.4μmである場合、4個〜21個の範囲で調整することにより、その体積比は、前記の1%〜5%程度の範囲内とすることができる。なお、これらの個数や体積比による樹脂粒子2の担持量の範囲は、後述するように、隣接する複数の母粒子1が直接または当該樹脂粒子2を介在して間接的に接する状態において、当該樹脂粒子2が溶融した場合に、母粒子1の接点およびその周縁の好適な範囲に樹脂溜まり部を形成させるためである。
【0067】
図1(b)は、図1(a)の複合粒子10の破線丸印で示した部分の部分拡大図である。母粒子1の表面にも樹脂粒子2の表面にも高分子電解質の薄層3が形成されている。具体的には、母粒子1の表面には、高分子電解質の薄層3aが形成されており、樹脂粒子2の表面には、高分子電解質の薄層3bが形成されている。母粒子1と樹脂粒子2とは、かかる高分子電解質層3a,3bを介して接触し、母粒子1の表面上において樹脂粒子2が担持された態様になっている。この高分子電解質層の薄層3の厚みは数nm以上20nm以下であり、概略で、高分子電解質が1分子から数分子積層された厚みに相当する。
【0068】
複合粒子10においては、母粒子1の表面(薄層3aの最表面)には、カチオン性高分子またはアニオン性高分子の内の一方が積層されており、樹脂粒子2の表面(薄層3bの最表面)には、カチオン性高分子またはアニオン性高分子の内の他方が積層されている。詳細は後述するが、かかる構成により、少量の樹脂粒子2を母粒子1に的確に担時させることができる。このため、得られる各複合粒子10は、それぞれ同様の構成となり、均質性に優れた原料粉末粒子となる。
【0069】
図1(c)は、母粒子1に子粒子4と樹脂粒子2とが複合化された複合粒子20である。ここで、複合粒子20では、樹脂粒子2が、子粒子4を介して、子粒子4よりも外側となるように母粒子1に担持されている。即ち、母粒子1の表面上から、子粒子4、樹脂粒子2の順で重なるように配置される。
【0070】
複合粒子20において、子粒子4は、母粒子1よりも小さな粒径を有する粒子であり、易焼結性の粉末粒子または焼結助剤として機能するものである。易焼結性とは、母粒子1に比べて焼結性に優れるものを意味する。即ち、子粒子4は、焼結を促進する役割を担う成分である。上述したように、粉末の焼結は、粒界(界面)での物資拡散により互いに接触している粉末粒子間に結合が生じて緻密な物体となる現象とされる。小さな子粒子4は、母粒子1に比べて拡散速度が速いため、母粒子のみで焼結する場合に比べて、同じ素材であっても焼結性が向上し、その結果、得られる焼結体の緻密性を向上させることや、より少ないエネルギーで、より低温で焼結ができるという効果がある。
【0071】
尚、拡散速度が母粒子に比べて速いとは、その焼成温度において、溶融、固相拡散などの物理的、化学的変化の速度が、母粒子よりも早いことを意味するものである。
【0072】
この子粒子4は、母粒子1の表面上に、全体に略均一で大きく偏在することなく付着している。焼結体の強度、緻密性を確保するためには、子粒子4が十分な量、母粒子間の界面に存在する必要がある。一方で、子粒子4は、焼結によって収縮するので、母粒子間に多量の子粒子4が存在すると焼結に伴う収縮率を増大させてしまう。このため、複合粒子20では、母粒子1表面に子粒子4の1個分の単層が形成された態様となっており、この子粒子4による母粒子の被覆率が40%〜100%、好適には、母粒子1表面の45%〜95%、更に好適には、50%〜90%となるように設計されている。尚、母粒子1表面の被覆率としては、子粒子4が細密充填された態様で母粒子1表面に一様に付着し、子粒子4の1層で母粒子を覆った状態を、被覆率100%としている。
【0073】
例えば、母粒子1のそれぞれに100%の被覆率で子粒子が付着していると、隣り合う2つの母粒子の間には2個の子粒子が介在することになる。これにより、隣り合う母粒子の間には、必ず子粒子が存在するので、十分に焼結反応を進行させることができる。一方で、100%の被覆率で子粒子4が担持されても、母粒子間に2個以上の余剰の子粒子4が大量に存在することはない。焼結の進行(子粒子4の焼結)により、通常は焼結収縮が生じるため、余剰の子粒子4の存在は収縮率を増大させる。しかし、複合粒子20のように構造を規定すれば、母粒子間に大量の子粒子4が存在することを回避でき、十分な焼結性と、収縮率の抑制との両者を実現できる。尚、母粒子間には、1の子粒子4が介在すれば焼結反応を進行させることができ、また、母粒子上の子粒子間に多少の間隔があっても、焼結反応は進行させることができるので、子粒子の被覆率としては40%程度あれば足り、その上限は100%となるのである。
【0074】
また、子粒子4の粒径は小さい程、易焼結性であり、焼結性の点からは150nm以下のものが好適である。一方、子粒子4の粒径が小さくなるほど取扱い性が低下するため、好適には、50nm〜150nmの粒径のものが用いられ、更に好適には80nm〜120μmの粒径のものが用いられ、より一層好適には、95nm〜110nmの粒径のものが用いられる。尚、子粒子4は造粒紛であっても良く、その場合にも、好適な粒径は上記と同じ範囲である。また、子粒子4として使用される粒子は、固形状で何らかの外形形状を有するものであれば良く、球状や粒状または顆粒状であっても良い。
【0075】
ここで、複合粒子20は、焼結性の改善による緻密性の向上に加えて、焼結時の収縮を抑制するべく、好適には、母粒子1には、通常設定される焼結温度においては焼結しない(子粒子4の焼結温度では焼結しない)粒径の大きな一次粒子が採用される。かかる場合には、子粒子4のみが焼結する。その際、焼結温度や化学組成によって焼結性は異なるため、母粒子1の粒径は、焼成条件等に応じて適宜選択すれば良いが、例えば、母粒子1の粒径は、1μm〜5μmである。
【0076】
樹脂粒子2は、子粒子4よりも大きなものが用いられるが、複合粒子10と同様、母粒子1よりも小さく、母粒子1の表面上に点在する態様で担持されている。即ち、樹脂粒子2は、母粒子1の表面を被覆(コーティング)するものではなく、外形の稜線が閉じた固形物としての形状を有したまま、母粒子1上に(子粒子4を介して)配置された構造となっている。また、母粒子1に対する体積比も付着個数も、複合粒子10と同様である。尚、本発明にかかる粉末粒子において、「母粒子の表面上に担持される」とは、母粒子1の表面に直接的、間接的に付着して存在する状態を意味するものであって、母粒子の真の表面のみに直接的に接触した状態のみに限定されるものではなく、母粒子1の真の表面との間に何らかの物質を介在させて付着することを含む概念である。
【0077】
なお、樹脂粒子2は、その全部が、子粒子4を介して母粒子1に担持されても良く、その一部が子粒子4を介して母粒子1に担持されても良い。一部の子粒子4が母粒子1に担字される場合には、他の子粒子4は、母粒子1の表面上において、子粒子と同じ面に担持される。更には、全ての樹脂粒子2が母粒子1の表面上において、子粒子と同じ面に担持されても良い。
【0078】
かかる複合粒子20も、図示を省略しているが、それぞれ、母粒子1の表面、樹脂粒子2の表面、子粒子4の表面には、高分子電解質の薄層が形成されており、各粒子は、高分子電解質層を介して接触し、母粒子1の表面上において、子粒子4、樹脂粒子2が担持された態様になっている。尚、子粒子4が、特にナノサイズの粒子である場合には、高分子電解質層は不要とされても良い。
【0079】
また、各樹脂粒子2は、母粒子1の表面上に大きく偏在することなく、母粒子1の表面全体に疎密に点在している。更には、各複合粒子20は、いずれも、同程度の樹脂粒子2を担持しており、各複合粒子20毎に、担持量が大きく変化することはない。
【0080】
更には、各複合粒子20は、いずれも、同程度の樹脂粒子2、子粒子4を担持しており、各複合粒子20毎に、それぞれの担持量が大きく変化することはない。このため、複合粒子20を用いてグリーン体を成形すれば、子粒子4によって焼結性の向上を図りつつ、収縮が抑制され、緻密で寸法精度に優れた焼結体を得ることができる。
【0081】
本発明に係る粉末粒子における母粒子は、図1においては、母粒子1をモデルとして球状で示しており、また、便宜上、粒子と称しているが、母粒子の幾何形状に制限はなく、球状、針状、塊状、柱状、扁平状、板状等々が適用可能である。
【0082】
また、本発明にかかる粉末粒子の母粒子は、焼結体に用いられる粉末であり、セラミックス、金属、合金、サーメット等の無機物である。尚、本発明では、焼結温度において母粒子そのものが焼結して焼結体が形成される場合と、子粒子によって焼結し実質的に母粒子を焼結させずに焼結体が形成される場合のいずれであっても良いが、得られる焼結体の主成分は母粒子となるように構成されるものである。尚、焼結体の主たる成分とは、焼結体の体積割合で5割を超える成分であることを意味している。
【0083】
セラミック粉末としては、各種の酸化物、窒化物、炭化物が挙げられる。尚、酸化物は、単一酸化物であっても複合酸化物であっても良い。かかるセラミック粉末には、例えば、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、マグネシア、カルシア、チタニア、酸化バナジウム、スピネル、フェライトなどが例示でき、これらは単独で用いられても混合物で用いられても良い。更には、これらの固溶体であっても良い。
【0084】
更に、金属粉末としては、鉄系、銅系、アルミニウム系、ニッケル系、モリブデン系、チタン系、タングステン系の各粉末などが例示されるがこれに限られるものではない。また、これらは単独で用いられても混合物で用いられても良く、合金であっても良い。
【0085】
合金としては、各種のものを用いることができるが、例えば、鉄合金、合金鋼、銅合金、ニッケル合金、アルミ合金、超鋼合金などが例示される。また、サーメットとしては、TiC−Niサーメットや、Al−Crサーメット、Al−Feサーメットが例示されるが、これに限られるものではない。
【0086】
本発明に係る粉末粒子における樹脂粒子は、図1においては、樹脂粒子2をモデルとして球状で示しており、また、便宜上、粒子と称しているが、樹脂粒子の幾何形状に制限はなく、球状、針状、塊状、柱状、扁平状、板状、繊維状等々が適用可能である。
【0087】
本発明に係る粉末粒子における樹脂粒子は、常温にて固体状態にある熱可塑性樹脂である。かかる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、環状ポリオレフィンなどのオレフィン系樹脂やその変性物、ポリスチレン、スチレンアクリルニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレンアクリルニトリルブタジエン共重合体(ABS樹脂)などのスチレン系樹脂、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステルなどのアクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体などのビニル系樹脂、ポリビニルアルコールなどのビニルアルコール系樹脂、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ナイロン6、ナイロン12などのアミド系樹脂、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネートなどが例示でき、更に温度面での条件が整えば、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトンなども例示できる。
【0088】
かかる熱可塑性樹脂として、200℃以下の融点を有するものが、特に好適に用いられる。このような樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂、又はスチレン系樹脂等を用いることができ、より好適には、アクリル系樹脂とビニルアルコール系樹脂が用いられる。これらを単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
【0089】
これらの熱可塑性樹脂は、1種類のものを用いても良く、複数種類のものを混合して用いても良い。更には、ホモポリマーであっても良く、共重合体であってもよく、更には各種の変性を行っても良く、ポリマーアロイなどの手法によって、複数種類の樹脂が予めアロイ化されたものであってもよい。例えば、単体の樹脂では、溶融時の粘性が高い場合など、他の樹脂とアロイ化することで流動性を向上させることができ、本発明の熱可塑性樹脂として用いるのに好適である。
【0090】
また、熱可塑性樹脂として、更に好ましくは、水系液体に非溶解性であって、水系液体中で分散できるものである。なお、分散性が不良である場合には、熱可塑性樹脂に対し、常法に従って親水化処理を行い、濡れ性を向上させてもよい。
【0091】
本発明に係る粉末粒子の子粒子は、焼結性を向上させ得る限りにおいて、母粒子と同じ材料であって良く、また、母粒子と異なる材料であっても良い。具体的には、母粒子と同種または異種のセラミックス、ガラス、金属、合金、サーメットや、各種の焼結助剤などを用いることができる。
【0092】
子粒子が、セラミックス、金属、合金、サーメットである場合には、上記した母粒子と同様のものを用いることができる。また、ガラスとしては、例えば、SiO、B、P、GeO、BeF、As、SiSe、GeSのいずれか1以上を骨格とし、TiO、TeO、Al、Bi、V、Sb、PbO、CuO、ZrF、AlF、InF、ZnCl、ZnBrなどを含んで形成されるガラスなどが例示できる。また、焼結助剤としては、例えば、SiO、MgO、CaO、TiO、V、CuO、Bi、B、Y、La、Sm、Er等が例示できるがこれに限定されるものではない。
【0093】
また、本発明にかかる粉末粒子が備える高分子電解質は、後述するように、水中で電離して帯電する高分子であり、正に帯電するカチオン性高分子と、負に帯電するアニオン性高分子とを挙げることができる。
【0094】
カチオン性高分子としては、例えば、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)(PDDA)を用いることができる。また、本発明において用いることのできる他のカチオン性高分子としては、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアミン(PVAm)、ポリ(ビニルピロリドン・N,N−ジメチルアミノエチルアクリル酸)共重合体などが上げられる。但し、これらは、カチオン性高分子としての一例であり、これに限るものではない。このカチオン性高分子は、例えば、水、塩化ナトリウム水溶液、アルコール系有機溶媒やこれらの混合液を溶媒として用いることができる。
【0095】
アニオン性高分子としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)を用いることができる。本発明において用いることのできる他のアニオン性高分子としては、ポリビニル硫酸(PVS)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)や、これらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが上げられる。但し、これらは、アニオン性高分子としての一例であり、これに限るものではない。また、このアニオン性高分子は、例えば、水、塩化ナトリウム水溶液、アルコール系有機溶媒やこれらの混合液を溶媒とすることができる。
【0096】
なお、本発明においては、母粒子、子粒子、樹脂粒子を複合化できればよいため、高分子電解質に代えて、各種のイオン性界面活性剤を用いても良い。また、例えば、子粒子などの粒径の小さな所謂ナノサイズの粒子であって、母粒子と異なる材料である場合には、母粒子と子粒子とが水中で異なる極性の表面電荷を有するようにpHを調整すれば母粒子と子粒子とを複合化させ得るので、かかる場合には、上記の高分子電解質、界面活性剤を不要とすることができる。
【0097】
本発明にかかる粉末粒子は、焼結体の原料粉末として用いられるものである。焼結体の製造では、焼結体の原型となるグリーン体(未焼成の成形体)を成形し、このグリーン体を焼結して焼結体を得ることが一般的な工程である。グリーン体の成形には、射出成形、押出し成形に加え、原料粉末をバインダー樹脂と混合した後にプレス成型する手法や、原料粉末に溶媒と樹脂とを混合して泥漿とし、鋳込み成形やシート成形する手法が用いられる。また、近年においては、3Dプリンタを用いた積層造形によってもグリーン体成形が試みられている。いずれの手法によっても、原料粉末は集積(充填)されてグリーン体が構成される。本発明にかかる粉末粒子は、特に、プレス成形、鋳込み成形、積層造形に好適である。
【0098】
図2は、本発明の粉末粒子を用いたグリーン体形成時に生じると推定される樹脂粒子の作用を概略的に説明する図である。尚、図2においては、複合粒子10をモデルとして用いて説明を行う。
【0099】
図2(a)は、複合粒子10を一定の形状に集積(充填)した状態を模式的に示している。1の複合粒子10と隣り合う他の複合粒子10とは、直接または樹脂粒子2を介在して間接的に接している。また、通常、粒子が充填された場合には、空隙5も形成される。このときの複合粒子10が隣り合う他の複合粒子との間で直接または間接的に接する部分が接点(最も粒子同士が近接する点を含む)であり、その接点からこれに近接する僅かな周縁までの範囲が接点周縁領域である。
【0100】
図2(b)は、図2(a)の状態で、樹脂粒子2が溶融する温度に加温した状態を示している。これにより、樹脂粒子2は液状化し、母粒子1の表面を流動して、隣り合う母粒子1との間に形成される狭い間隙に毛細管現象によって(図2(b)にて破線矢印で示す方向へ移動)、引き込まれる(これによって形成されるのが樹脂溜まり部である)。更に、その際、母粒子1を互いに引き寄せる方向(図2(b)において実線の矢印で示す方向)に、自己集積化に基づく力が生じるため、母粒子1間の粒子間距離が短くなり、母粒子1は密に充填されることとなる。
【0101】
ここで、空隙5は、比較的大きな孔であるため、毛細管力は小さく、液状化した樹脂粒子2は、隣り合う母粒子間に形成される狭い間隙(接点周縁領域)に収納されていく。母粒子間の狭い間隙に収納される量を超える樹脂粒子2が存在する場合には、空隙5にも溶融した樹脂が流れ込むと考えられる。しかし、複合粒子10は、樹脂粒子2を母粒子1の表面上に疎密に分布する程度の樹脂粒子2(体積比において母粒子1に対し1%〜20%、好適には1%〜5%)を有するものである。つまり、複合粒子10にてグリーン体を成形した場合、空隙5が埋まる程の多量の樹脂(バインダー)は含まれない。そして、上述のような所望の体積比となるように樹脂粒子2の量を調整することにより、接点周縁領域に樹脂溜まり部が形成され、それ以外の領域においては、溶融した樹脂が著しく余剰しないような状態とすることができるのである。
【0102】
図2(c)は、図2(b)での加熱後に、冷却を行った状態を示している。溶融により、隣り合う母粒子1との間に形成される狭い間隙に収納された樹脂は、その状態で固化する。つまり、母粒子1が他の母粒子1と近接または接触する部分にて樹脂のネック6が形成される。グリーン体は、何らかの三次元形状に成形されたものであり、形状維持のためには、充填された原料粉末同士が結着していることが必要である。ここで、隣り合う粉末同士の結着には、両者の接点部分(又は近接点部分)を十分に固定することが最も効果的であると考えられる。言い換えれば、ネック6によって母粒子1の接点(又は近接点)近傍を結着すれば足り、空隙5に樹脂が充填されても、母粒子1の結着力に大きく寄与することはないと推定される。
【0103】
一般に、グリーン体において、樹脂は、母粒子を結着するためのバインダーとして用いられるものであるので、母粒子の結着に寄与しない樹脂は余剰である。脱脂時の影響を考慮すれば、かかる余剰の樹脂は可能な限り少ないことが求められる。しかし、従来のグリーン体では、原料粉末同士の接点部分(又は近接点部分)に選択的に樹脂を配することはできない。このため、少量の樹脂配合量では十分な結着力を実現できない。
【0104】
このように、本発明に係る粉末粒子を用いれば、図2(c)に示したように、母粒子の結着に効果的な位置に樹脂(バインダー)を配することができ、必要最小量となるバインダー量で強固なグリーン体を得ることができることとなる。
【0105】
次に、図3を参照して、上述したように構成される本発明に係る粉末粒子を用いたグリーン体の製造方法について説明する。図3は、第一実施形態のグリーン体の製造方法について、その工程の概要を示した工程図である。第一実施形態は、母粒子に熱可塑性の樹脂粒子が複合化された上記の複合粒子10を、原料の粉末粒子としてグリーン体を製造する製造方法である。
【0106】
図3に示すように、グリーン体製造工程は、粉末粒子の構成材料となる粒子の表面電荷を調整する電荷調整工程(S1)、樹脂粒子との複合粒子を生成する樹脂粒子複合化工程(S3)、成形工程(S5)、熱処理工程(S7)を備えており、各工程を経てグリーン体が製造される。
【0107】
第1電荷調整工程(S1)は、複合化する粒子のそれぞれについて表面電荷を調整する工程である。本実施形態では、母粒子と、母粒子より小さな樹脂粒子とを複合化した複合粒子が作製されるため、表面電荷の調整は、母粒子と樹脂粒子とのそれぞれに対して実施される。このため、第1電荷調整工程(S1)は、母粒子の表面電荷を調整する母粒子調整工程(S10)と、樹脂粒子の表面電荷を調整する樹脂粒子調整工程(S20)とを備えている。表面電荷の調整には、高分子電解質であるカチオン性高分子およびアニオン性高分子を用いることが望ましい。
【0108】
尚、母粒子、樹脂粒子それぞれの表面電荷は、材料によって異なるが、例えば、本来、正の表面電荷を有していれば、アニオン性高分子を吸着させることで、表面電荷を負に反転させることができる。反対に、負の表面電荷を有する場合は、カチオン性高分子を吸着させることで正の表面電荷に反転させることができる。尚、ここで、表面電荷とは、粒子が有する見かけ上の電位であり、粒子表面に極性を有する層が積層されている場合には、最も外側の層の電荷が表面電荷となる。
【0109】
この電荷調整工程(S1)においては、電荷密度を一定とし、またその強度を向上させるためにも、カチオン性高分子、アニオン性高分子を交互に用いて、複数回の処理を行って、少なくとも2層の高分子電解質層が各粒子の表面上に形成されるようにカチオン性高分子、アニオン性高分子を積層させることがより好ましい。
【0110】
更には、高分子電解質の吸着に起因する橋架け凝集などにより粒子の分散性が阻害される場合、高分子電解質に代えてイオン性界面活性剤を用いても良い。このイオン性界面活性剤を用いても、その吸着により粒子表面に電荷を付与することができる。また、複数回の処理を行う場合には、高分子電解質とイオン性界面活性剤とを組み合わせて用いても良い。
【0111】
母粒子電荷調整工程(S10)においては、まず、母粒子高分子電解質吸着工程により、母粒子が有する表面電荷とは反対の極性を有する高分子電解質(カチオン性高分子およびアニオン性高分子のいずれか一方)にて母粒子表面が被覆される。具体的には、例えば、高分子電解質を液体(水、水系液体、または、アルコール系有機溶媒など)に溶解した溶液中に母粒子を投入、撹拌、分散させることで、母粒子表面に高分子電解質を吸着させる(S11)。用いる液体は、高分子電解質を電離させると共に、粒子の分散媒としての役割を担うものである。
【0112】
ここで、高分子電解質の十分量が母粒子に吸着されるように、母粒子の投入量に比べて過剰量の高分子電解質が溶液中には含まれている。その後、洗浄・回収工程により、洗浄操作によって余剰の高分子電解質を除去してから、液体と母材粒子とを分離する操作、即ち沈殿、遠心分離、ろ過などの作業を適宜行って母材粒子を回収する作業を行う(S12)。そして、所望の表面電荷が得られたかを確認し(S13)、得られていれば(S13:Yes)母粒子に対する電荷調整処理を終了する。一方、所望の表面電荷が得られていなければ(S13:No)、母粒子高分子電解質吸着工程(S11)に戻って、所望の表面電荷が得られるまで、繰り返して作業を行う。尚、再度の母粒子高分子電解質吸着工程(S11)では、前回と母粒子の表面電荷の極性が反転しているので、高分子電解質も前回吸着させたものとは反対極性のものが用いられる。本工程(S10)による電荷調整を終了した母粒子は、後述の樹脂粒子複合化工程(S3)に供するため、粉末またはサスペンジョンの状態でストックされる。
【0113】
ここで、母粒子表面の電荷密度を一定とし、またその強度を向上させることで、この後の樹脂粒子との複合化を良好に行うことができる。このため、所望の強度が得られたかが判断されるが、所望の表面電荷が得られたかは、回収した母粒子のゼータ電位を測定することで判断できる。また、カチオン性高分子、アニオン性高分子を交互に用いて、複数層の高分子電解質層を形成すれば、十分な表面電荷が得られることから、予め設定した回数上述の作業を行うこととし、S13での判断は、予め設定した回数に達したかを判断するものとしても良い。これにより、後の複合化において、樹脂粒子を確実に静電吸着するために十分な電荷を母粒子に与えることができることができる。
【0114】
樹脂粒子電荷調整工程(S20)は、高分子電解質で樹脂粒子表面を被覆する工程である。つまり、処理対象の粒子を樹脂粒子として、粒子の表面電荷の調整が実施される。このため、母粒子電荷調整工程(S10)と同様に、樹脂粒子に高分子電解質を吸着させる樹脂粒子高分子電解質吸着工程(S21)、洗浄と樹脂粒子の回収とを行う洗浄・回収工程(S22)、所望の表面電荷が付与されたかの判断(S23)の工程を経て、樹脂粒子に対する表面電荷の調整が実行される。尚、最終的に回収される樹脂粒子の最表面の極性が、先に行われた母粒子電荷調整工程(S10)において処理を終了した母粒子の最表面の極性と反対の極性になるように、高分子電解質や繰り返しの処理回数が選択され、複合化に適した表面電荷(所望の表面電荷)を有する樹脂粒子が得られる。本工程(S20)による電荷調整を終了した樹脂粒子は、後述の樹脂粒子複合化工程(S3)に供するため、粉末またはサスペンジョンの状態でストックされる。
【0115】
尚、母粒子電荷調整工程(S10)および樹脂粒子電荷調整工程(S20)のそれぞれにおける最終処理において、高分子電解質を過不足なく添加し余剰の高分子電解質を発生させないことで洗浄不要とした場合には、液体中から母粒子または樹脂粒子の回収作業を省略して、母粒子または樹脂粒子が分散した液体をそのまま、次の樹脂粒子複合化工程(S3)で用いても良い。
【0116】
樹脂粒子複合化工程(S3)は、母粒子電荷調整工程(S10)および樹脂粒子電荷調整工程(S20)を経て得た母粒子と樹脂粒子とを液体(水、水系液体、または、アルコール系有機溶媒で粒子の分散媒となるもの)中で混合して、両者を静電的引力によって結合させ、複合化する工程である。具体的には、例えば、第1電荷調整工程(S1)で回収した母粒子および樹脂粒子をそれぞれ分散させた分散溶液を調製し、かかる分散溶液を混合撹拌することで複合粒子を生成させ、その後、洗浄、沈殿、遠心分離、ろ過などの作業を適宜行って複合粒子を回収する。また、そのままスラリーとして成形工程(S5)で使用する場合には、複合粒子の回収作業を不要としても良い。
【0117】
このようにして得られる複合粒子は、樹脂粒子複合化工程(S3)において、母粒子に対する樹脂粒子の添加量、濃度を調整することで、母粒子に対して適正量(母粒子表面に疎密に配置される量)を付着させることができる。更に、液中での静電引力による複合化反応は比較的均一に生じるため、各母粒子のそれぞれに、樹脂粒子を同程度の量で担持させることができる。
【0118】
成形工程(S5)は、樹脂粒子複合化工程(S3)を経て得られた複合粒子を、原料の粉末粒子として、焼成前に所望の形態に成形する工程である。例えば、型に投入しプレスして成形するプレス成形、複合粒子を含むスラリーを用いた鋳込み成形や、ドクターブレードによるテープ成形や、3Dプリンタによる積層造形などが例示される。スラリーを用いた場合には乾燥が行われ、焼結体の原型形状を有するグリーン体が造形される。
【0119】
熱処理工程(S7)は、成形工程(S5)によって造形されたグリーン体を、熱可塑性樹脂である樹脂粒子が溶融する温度以上で加熱した後、冷却してグリーン体の強度を向上させる工程である。この熱処理工程(S5)を経ることで、上記したように樹脂粒子が溶融し、溶融した樹脂は、隣り合う母粒子間に形成される狭い間隙に引き込まれる。その後、冷却によって樹脂は固化するため、1の母粒子が他の母粒子と近接または接触する部分にて樹脂が集中し、母粒子間を効果的に結着する。このため、強固なグリーン体を形成することができる。
【0120】
なお、加熱温度は、樹脂の溶融温度と、溶融粘度とを指標に設定することができ、加熱時間は、グリーン体の構造、大きさ、厚みなどによって適宜調整される。また、加熱方法は、公知の方法を用いることができ、例えば、電気炉、レーザー、赤外線ヒーター、ドライヤーなどによる間接的な加熱法や、ホットプレス、アイロンなどによる接触による加熱法を、適宜用いることができる。尚、ホットプレスは、ダイスに原料の粉末粒子を充填して加熱成形を行うものであるため、成形工程(S5)と熱処理工程(S7)とは、一体で実施されることとなる。
【0121】
次に、図4を参照して、本発明に係る粉末粒子を用いたグリーン体の製造方法の第二実施形態について説明する。図4は、第二実施形態のグリーン体の製造方法について、その工程の概要を示した工程図である。第二実施形態は、母粒子に子粒子が複合化され、更に熱可塑性の樹脂粒子が複合化された三元系の複合粒子20を原料の粉末粒子として、グリーン体を製造する製造方法である。尚、上述した第一実施形態と同一の部分には、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0122】
図4に示すように、グリーン体製造工程は、粉末粒子の構成材料となる粒子の表面電荷を調整する第1電荷調整工程(S1)、子粒子と母粒子とを複合化する子粒子複合化工程(S2)、樹脂粒子との複合化を行う樹脂粒子複合化工程(S3)、成形工程(S5)、熱処理工程(S7)を備えており、各工程を経てグリーン体が製造される。
【0123】
第二実施形態においては、複合粒子は、母粒子、子粒子、樹脂粒子の3つの粒子が複合化されるので、第1電荷調整工程(S1)では、母粒子と樹脂粒子とに加え、子粒子についても表面電荷の調整が実施される。このため、第1電荷調整工程(S1)は、母粒子の表面電荷を調整する母粒子調整工程(S10)と、樹脂粒子の表面電荷を調整する樹脂粒子調整工程(S20)とに加え、子粒子の表面電荷を調整する子粒子表面電荷調整工程(S30)が設けられている。尚、第二実施形態で得られる複合粒子の粉末粒子は、子粒子が焼結する温度で実質的に焼結が生じない粒径(1〜5μm)の母粒子と、易焼結性であるナノサイズ(50nm〜150nm)の微小な子粒子と、樹脂粒子が組み合わされた複合粒子が原料の粉末粒子として作製される。
【0124】
子粒子電荷調整工程(S30)は、子粒子の表面電荷を調整する工程である。本実施形態においては、子粒子電荷調整工程(S30)は、母粒子電荷調整工程(S10)、樹脂粒子電荷調整工程(S20)と同様に、高分子電解質を用いて子粒子表面を被覆する処理を実行する。このため、母粒子電荷調整工程(S10)等と同様に、子粒子に高分子電解質を吸着させる子粒子高分子電解質吸着工程(S31)、洗浄と樹脂粒子の回収とを行う洗浄・回収工程(S32)、所望の表面電荷が付与されたかの判断(S33)の工程を経て、子粒子の表面電荷は調整される。
【0125】
尚、最終的に回収される子粒子の表面電荷の極性が、先に行われた母粒子電荷調整工程(S10)において処理を終了した母粒子の表面電荷の極性と反対の極性になるように、高分子電解質や繰り返しの処理回数が選択され、複合化に適した表面電荷(所望の表面電荷)を有する子粒子が得られる。本工程(S30)による電荷調整を終了した子粒子は、後述の子粒子複合化工程(S2)に供するため、粉末またはサスペンジョンの状態でストックされる。
【0126】
第一実施形態は、母粒子と樹脂粒子との複合化であったため、樹脂粒子電荷調整工程(S20)は、母粒子と反対の極性を有するように樹脂粒子の表面電荷が調整されたが、第二実施形態では、樹脂粒子は子粒子を付着させた後に母粒子に付着させるので、樹脂粒子電荷調整工程(S20)では、樹脂粒子の表面電荷が、後述の子粒子複合化工程(S2)で生成する母粒子―子粒子の複合粒子の表面電荷と反対の極性となるように調整される。
【0127】
なお、子粒子が母粒子と異なる材料である場合には、pHを調整することで、水中で、母粒子と子粒子とに異なる表面電荷を付与し得る。かかる場合には、上記の高分子電解質、界面活性剤を不要として、pH調整のみで、母粒子に子粒子を複合化しても良い。子粒子はナノサイズの粒子であるので、pH調整のみで母粒子に複合化しても、十分な付着力で母粒子に付着する。
【0128】
その後、子粒子複合化工程(S2)において、母粒子電荷調整工程(S10)を経て得た母粒子と子粒子電荷調整工程(S30)を経て得た子粒子とを、液体(水、水系液体、または、アルコール系有機溶媒)中で混合して、両者を静電的引力によって結合させ、複合化する。具体的手法については、上述した第1実施形態の樹脂粒子複合化工程(S3)と同様の手法が適用可能である。尚、子粒子は、過飽和吸着によって、母粒子表面の電荷を中和する以上の量を、母粒子に付着させることができ、被覆率で90%を超える子粒子を母粒子に付着させることができる。また、添加する子粒子の濃度(子粒子のサスペンジョンの濃度)や添加量を調整することで、母粒子表面の子粒子付着量を数%〜100%に達する範囲で調整できる。
【0129】
この子粒子複合化工程(S2)では、焼結性を考慮し、母粒子表面を被覆率で40%〜100%、好適には、母粒子1表面の50%〜95%、更に好適には、60%〜90%を子粒子が占めるように調整される。
【0130】
また、母粒子の表面電荷の中和点を超えて、母粒子に子粒子が複合化された複合粒子を作製すれば(被覆率60%以上)、かかる複合粒子の見かけの表面電荷は、子粒子の極性となる。
【0131】
続いて、樹脂粒子複合化工程(S3)により、樹脂粒子の複合化を行う。尚、第一実施形態においては、母粒子に対して樹脂粒子の複合化を行ったが、第二実施形態においては、母粒子に代えて、母粒子と子粒子との複合粒子を用い、これに対して樹脂粒子の複合化を行う。
【0132】
また、上記したように、子粒子複合化工程(S2)によって、複合粒子の表面電荷を母粒子と反対極性(子粒子の極性)とした場合、樹脂粒子電荷調整工程(S20)では、子粒子と反対極性の表面電荷となるように樹脂粒子の表面電荷が調整される。その結果、樹脂粒子複合化工程(S3)において、母粒子―子粒子の複合粒子に、樹脂粒子が更に付着した複合粒子が生成する。ここで、樹脂粒子は、母粒子と同じ極性の表面電荷に調整されているので、子粒子の付着していない母粒子表面が露出していても、かかる母粒子表面に直接的に樹脂粒子が付着することはなく、子粒子に選択的に付着する。これにより、樹脂粒子が子粒子を介して母粒子に担持された三元系の複合粒子を得ることができる。
【0133】
なお、子粒子複合化工程(S2)において、例えば、中和点をわずかに超える程度、子粒子を母粒子に付着させた場合など、子粒子による母粒子の被覆率によっては、母粒子―子粒子の複合粒子の見かけ上の表面電荷が弱くなる場合がある。かかる場合には、複合粒子と樹脂粒子との間の静電引力も弱くなって、複合化に不備が生じかねない。この場合には、樹脂粒子複合化工程(S3)において、子粒子複合化工程(S2)で得た複合粒子に対し、電荷調整手段(S1)と同様の手法により、複合粒子全体を高分子電解質で被覆する前処理を行う(これが表面電荷再調整工程である)。
【0134】
この前処理工程(表面電荷再調整工程)では、高分子電解質を複数層積層し、最外層の極性(複合粒子の表面電荷)が、子粒子高分子電解質吸着工程(S31)で子粒子に付与された表面電荷と同極性となるように処理を実施する。その結果、子粒子に被覆されていない母粒子表面(露出面)も、母粒子に付着した子粒子表面も同じ極性となっている。その後、子粒子と反対極性の表面電荷に調整された樹脂粒子との複合化を行うこととなる。これにより、母粒子、子粒子、樹脂粒子が複合化された三元系の複合粒子を得ることができる。
【0135】
そして、得られた複合粒子は、樹脂粒子の一部または全部が子粒子を介して母粒子に担持された態様となる。ここで、樹脂粒子がどのように配置されるかは、子粒子による母粒子表面の被覆率によって変化する。例えば、被覆率が高くなるほど、子粒子間の間隙は小さくなるので、樹脂粒子の粒径にも左右されるが、母粒子の表面電荷と樹脂粒子の表面電荷とが反対極性であっても、多くの樹脂粒子は、子粒子間に入り込むことはできず、子粒子の上に付着することとなる。逆に、被覆率が低くなるにつれて、子粒子間の間隙は広くなるので、より多くの樹脂粒子が、母粒子の表面(露出面)に付着することとなる。
【0136】
この樹脂粒子複合化工程(S3)によって得た複合粒子、あるいは当該複合粒子が含まれるスラリーを用いて、第一実施形態と同様に、成形工程(S5)、熱処理工程(S7)を経て、グリーン体が製造される。そして得られるグリーン体を強固で強度ムラのないものとすることができる。
【0137】
以上、実施形態に基づき、本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものである。
【0138】
例えば、上記したグリーン体の製造方法の各実施形態では、成形工程(S5)の後に熱処理工程(S7)を実施したが、例えば、3Dプリンタを用いた積層造形にてグリーン体を成形する場合には、例えば、1〜数層積層するごとに熱処理を行うようにして、成形工程(S5)と熱処理工程(S7)とが一体で実施されても良い。かかる場合の成形工程(S5)においては、スラリーを用いて造形を行っても良く、その場合には、熱処理工程(S7)の前に乾燥を行う処理が実施される。
【0139】
また、電荷調整工程(S1)や子粒子複合化工程(S2)における前処理工程などの高分子電解質を用いて粒子表面の電荷を調整する処理においては、高分子電解質を粒子に対して過不足なく添加し、余剰の高分子電解質を発生させない技術(国際公開番号WO2012/133696)を用いて、繰り返しの洗浄や粒子回収作業を不要とするようにしても良い。
【0140】
更には、第2実施形態のグリーン体の製造方法では、母粒子に子粒子を付着(複合化)させてから、樹脂粒子の複合化を行うものとしたが、これに代えて、子粒子、樹脂粒子共に母粒子とは反対極性の表面電荷となるように調整し、子粒子と樹脂粒子とを一度の工程で、母粒子に対して複合化するように構成しても良い。これによれば、子粒子と樹脂粒子は、共に母子粒子の同じ面上に配置される。分散媒中における子粒子と樹脂粒子との混合比率を適宜変更することで、それぞれの粒子を所望の比率で母粒子に担持させることができる。加えて、子粒子による被覆率を小さくして、子粒子―母粒子の複合粒子の表面電荷が母粒子の極性のままとなるようにしても良く、その場合には、適宜、子粒子―母粒子の複合粒子の表面電荷、樹脂粒子の表面電荷を調整することで、上記の実施形態と同様に、樹脂粒子の配置を制御し、任意の三元系複合粒子を作製しても良い。
【実施例】
【0141】
本発明について、次に実施例を示し更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0142】
(実施例1)
母粒子として平均粒径3μmのアルミナ粒子(AA−3、住友化学社製)、添加粒子として平均粒径0.4μmの非架橋アクリル粒子(MP2701、綜研化学社製)を用いた複合粒子を作製した。具体的には、ポリアニオン(高分子電解質;アニオン性高分子)であるポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)を溶解させた水溶液を、pH7.0に調整した後、アルミナ粒子を分散させ、10分間攪拌することでアルミナ表面にPSSを吸着させた。その後、アルミナ粒子を沈殿させ、上澄み液を除去した後に脱イオン水にて洗浄し、未吸着のPSSを取り除いた。次いで、得られたPSS被覆アルミナ粒子を、ポリカチオン(高分子電解質;カチオン性高分子)であるポリジアチルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)を溶解した水溶液中に投入し10分間攪拌することでアルミナ粒子の最表面にPDDAを吸着させた。その後、上記と同様、洗浄、分別操作によってPDDA被覆アルミナ粒子を回収した。PSSおよびPDDAを被覆する操作は複数回繰り返して行い、PSSと、PDDAを交互に積層させ、最外層をPSSとすることで表面電荷を負とした。
【0143】
一方、アクリル粒子については、界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウム(SDC)を加えた水溶液中に分散させた後、10分間攪拌することでアクリル粒子表面にSDCを吸着させた。その後、アクリル粒子を水溶液中から回収し、脱イオン水にて洗浄して未吸着のSDCを取り除いた。次いで、得られたSDC被覆アクリル粒子を、PDDAを溶解した水溶液中に投入し10分間攪拌することでアクリル粒子の最表面にPDDAを吸着させ最外層をPDDAとすることで表面電荷を正とした。その後、上記と同様、洗浄、分別操作によってPDDA被覆アクリル粒子を回収した。
【0144】
それぞれの処理を行った粒子の懸濁液を作製、混合し、アルミナ表面にアクリル粒子が吸着した複合粒子を作製した。その後、複合粒子が含まれる懸濁液を、凍結乾燥機(EYRA社製、FDU−1200)により混凍結乾燥させて粉末粒子を得た。
【0145】
得られた粉末粒子について走査型電子顕微鏡(SEM、日立製作所製、S−4800)による観察を行った(図5(a)参照)。
【0146】
更に、上記で得た粉末粒子を、ダイスに充填して、200℃、30MPa、30分間ホットプレス(アズワン社製、AH2003)を行い、成形体(グリーン体)を作製すると共に加熱によるグリーン体の強化を行った。得られた成形体のSEM観察結果を図5(b)に示す。また、得られた成形体の成形性(強度)をインデンテーションによる硬度を測定することで評価した。結果を表1に示す。
【0147】
図5は、実施例1で得られた粉末粒子およびこれを用いた成形体(グリーンボディ)のSEM観察画像である。図5(a)は、粉末粒子のSEM観察画像であり、これにより、母粒子となるアルミナ粒子表面へ樹脂粒子であるアクリル粒子が点在する態様で付着して複合粒子となっている様子が確認できた。また、どの粉末粒子も同様の態様にあることが確認できた。
【0148】
図5(b)は、実施例1で得られた成形体のSEM観察画像であり、アルミナ粒子が熱溶融したアクリル樹脂で結着され、更には、アルミナ粒子同士が接触または近接する点(接点または近接点)の近傍にアクリル樹脂が集中してネックが形成されており、且つ、空隙には、樹脂が殆ど充填されていない状態が確認できた。つまり、アルミナ粒子の結着に有効に寄与する部分に樹脂を特異的に配置できており、バインダー樹脂を大幅に低減できることが確認できた。
【0149】
(実施例2)
母粒子として平均粒径3μmのアルミナ粒子(AA−3、住友化学社製)、子粒子して平均粒径0.1μmのアルミナ粒子(大明化学社製、タイミクロンTM−DAR)、添加粒子として平均粒径0.4μmの非架橋アクリル粒子(MP2701、綜研化学社製)とを用いた複合粒子を作製した。
【0150】
具体的には、実施例1と同様に母粒子の処理を行いその表面電荷を負とした。次いで、PSSを溶解させた水溶液を、pH7.0に調整した後、子粒子のアルミナを分散させ、10分間攪拌することでアルミナ表面にPSSを吸着させた。その後、アルミナ粒子を遠心分離にて沈殿させ、上澄み液を除去した後に脱イオン水にて洗浄し、未吸着のPSSを取り除いた。次いで、得られたPSS被覆アルミナ粒子を、PDDAを溶解した水溶液中に投入し10分間攪拌することでアルミナ粒子の最表面にPDDAを吸着させた。その後、上記と同様、洗浄、分別操作によってPDDA被覆アルミナ粒子を回収した。PSSおよびPDDAを被覆する操作は複数回繰り返して行い、PSSと、PDDAを交互に積層させ、最外層をPDDAとすることで子粒子アルミナの表面電荷を正とした。
【0151】
一方、アクリル粒子については、界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウム(SDC)を加えた水溶液中に分散させた後、10分間攪拌することでアクリル粒子表面にSDCを吸着させた。その後、アクリル粒子を水溶液中から回収し、脱イオン水にて洗浄して未吸着のSDCを取り除いた。次いで、得られたSDC被覆アクリル粒子を、PDDAを溶解した水溶液中に投入し10分間攪拌することでアクリル粒子の最表面にPDDAを吸着させた。その後、上記と同様、洗浄、分別操作によってPDDA被覆アクリル粒子を回収した。そして、更にPSSを積層させ、最外層をPSSとすることでアクリル粒子の表面電荷を負とした。
【0152】
上記処理の後、母粒子アルミナ、子粒子アルミナのそれぞれについて懸濁液を作製し、両者を混合し、母粒子アルミナ表面に子粒子アルミナが吸着した複合粒子を作製した。また、上記処理を経たアクリル粒子についても懸濁液を作製し、母粒子アルミナと子粒子アルミナの複合粒子が分散する懸濁液と混合した。これにより、母粒子アルミナと子粒子アルミナの複合粒子に更にアクリル粒子が吸着した複合粒子を作製した。その後、複合粒子が含まれる懸濁液を、凍結乾燥機(EYELA社製、FDU−1200)により混凍結乾燥させて粉末粒子を得た。
【0153】
得られた粉末粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM、日立製作所製、S−4800)による観察を行った(図6参照)。
【0154】
図6は、実施例2で得られた粉末粒子のSEM観察画像である。図6(a)は、粉末粒子全体のSEM観察画像であり、図6(b)は、1の粉末粒子の拡大図である。これにより、アルミナ粒子表面の大部分に子粒子が付着し、更に、その上にアクリル粒子が点在する態様で付着して複合粒子となっている様子が確認できた。
【0155】
更に、上記で得た粉末粒子を、実施例1と同様に、ダイスに充填して、200℃、30MPa、30分間ホットプレス(アズワン社製、AH2003)を行い、成形体(グリーン体)を作製すると共に加熱によるグリーン体の強化を行った。また、得られた成形体の成形性(強度)をインデンテーションによる硬度を測定することで評価した。結果を表1に示す。
【0156】
(比較例1)
平均粒径3μmのアルミナ粒子(AA−3、住友化学社製)の重量に対し、市販のバインダー(ポリビニルアルコール系、セレナWF−804、中京油脂株式会社製)が3wt%となる配合比で、アルミナ粒子とバインダーとをそれぞれ蒸留水に混合して懸濁液を作製した。その後、作製した懸濁液を、凍結乾燥機(EYELA社製、FDU−1200)により混凍結乾燥させて粉末粒子を得た。比較例1で用いたバインダーは液状であり、これにより、得られた粉末粒子は、アルミナ粒子がバインダーでコーティングされたものとなっている。
【0157】
更に、上記で得た粉末粒子を、実施例1と同様に、ダイスに充填して、200℃、30MPa、30分間ホットプレス(アズワン社製、AH2003)を行い、成形体(グリーン体)を作製すると共に加熱によるグリーン体の強化を行った。また、得られた成形体の成形性(強度)をインデンテーションによる硬度を測定することで評価した。結果を表1に示す。
【0158】
(評価方法)
各実施例1、2および比較例1で得られた粉末粒子を用いたグリーン体について、インデンテーション法を用いて硬度を測定することで、強度の比較を行った。インデンテーション試験は、ビッカース硬度計(AVK−A、明石製作所製)を用い、最大圧入荷重1.5Nとし、最大荷重で形成した圧痕寸法から算出されるビッカース硬度を算出した。
【0159】
【表1】
【0160】
表1に示すように、比較例1のグリーン体の硬度に比して、実施例1,2で得られたグリーン体は、2倍以上の硬度を有していることが示された。一般に、硬度と強度は相関があるとされており、これにより、実施例1,2で得られたグリーン体は、優れた強度を有することが示された。
【0161】
<実験例>
母粒子の表面に樹脂粒子を担持させて複合化した粉末粒子を使用し、これによりグリーン体を形成したときの強度ムラについて実験を行った。その結果を以下に説明する。
(複合粒子による試料の作製)
実施例1と同様の方法により、樹脂粒子の添加量が異なる二種類の試料を作成した。母粒子としては平均粒径3μmのアルミナ粒子(AA−3、住友化学社製)を、添加粒子としては平均粒径0.4μmの非架橋アクリル粒子(MP2701、綜研化学社製)を用いて、母粒子に対する添加粒子の割合を1W%および3W%として、それぞれ複合粒子を作製した。
【0162】
具体的には、ポリアニオン(高分子電解質;アニオン性高分子)であるポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)を溶解させた水溶液を、pH7.0に調整した後、アルミナ粒子を分散させ、10分間攪拌することでアルミナ表面にPSSを吸着させた。その後、アルミナ粒子を沈殿させ、上澄み液を除去した後に脱イオン水にて洗浄し、未吸着のPSSを取り除いた。次いで、得られたPSS被覆アルミナ粒子を、ポリカチオン(高分子電解質;カチオン性高分子)であるポリジアチルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)を溶解した水溶液中に投入し10分間攪拌することでアルミナ粒子の最表面にPDDAを吸着させた。その後、上記と同様、洗浄、分別操作によってPDDA被覆アルミナ粒子を回収した。PSSおよびPDDAを被覆する操作は複数回繰り返して行い、PSSと、PDDAを交互に積層させ、最外層をPSSとすることで表面電荷を負とした。
【0163】
一方、アクリル粒子については、界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウム(SDC)を加えた水溶液中に分散させた後、10分間攪拌することでアクリル粒子表面にSDCを吸着させた。その後、アクリル粒子を水溶液中から回収し、脱イオン水にて洗浄して未吸着のSDCを取り除いた。次いで、得られたSDC被覆アクリル粒子を、PDDAを溶解した水溶液中に投入し10分間攪拌することでアクリル粒子の最表面にPDDAを吸着させ最外層をPDDAとすることで表面電荷を正とした。その後、上記と同様、洗浄、分別操作によってPDDA被覆アクリル粒子を回収した。
【0164】
それぞれの処理を行った粒子の懸濁液を作製し、前述のようにPSS被覆アルミナ粒子に対するPDDA被覆アクリル粒子の割合を1W%および3W%となるように、重量調整しつつ混合し、アルミナ表面にアクリル粒子が吸着した二種類の複合粒子を作製した。その後、複合粒子が含まれる懸濁液を、凍結乾燥機(EYRA社製、FDU−1200)により混凍結乾燥させて二種類の粉末粒子を得た。
【0165】
得られた二種類の粉末粒子について走査型電子顕微鏡(SEM、日立製作所製、S−4800)による観察を行った。これを図7に示す。なお、図7(a)は添加粒子の割合を1W%としたものであり、図7(b)は添加粒子の割合を3W%としたものである。この図7を観察することにより、添加粒子を1W%の割合で添加したものは、母粒子の表面に添加粒子が平均して約8個(撮影面(片面)において約4個)付着しており、これを前記粒径に基づいて体積比に換算すれば約2%となる。また、添加粒子を3W%の割合で添加したものについては、母粒子の表面に添加粒子が平均して約20個(片面において約10個)付着しており、これを同様に体積比に換算すれば約5%となる。
【0166】
上記のように作製した二種類の粉末粒子について、それぞれ個別に、ダイスに充填して、200℃、30MPa、30分間ホットプレス(アズワン社製、AH2003)を行い、成形体(グリーン体)を作製すると共に加熱によるグリーン体の強化を行った。
【0167】
(比較試料の作製)
平均粒径3μmのアルミナ粒子(AA−3、住友化学社製)に、市販のバインダー(ポリビニルアルコール系、セレナWF−804、中京油脂株式会社製)を添加して二種類の比較試料を作製した。具体的には、アルミナ粒子の重量に対しバインダーが1W%および3wt%となる配合比で、アルミナ粒子とバインダーとをそれぞれ蒸留水に混合して二種類の懸濁液を作製した。その後、作製した二種類の懸濁液を、凍結乾燥機(EYELA社製、FDU−1200)により混凍結乾燥させて二種類の粉末粒子を得た。比較試料の作製に用いたバインダーは液状であり、これにより、得られた粉末粒子は、アルミナ粒子がバインダーでコーティングされたものとなっている。
【0168】
更に、上記で得た粉末粒子を、複合粒子による試料と同様に、二種類を個別に、ダイスに充填して、200℃、30MPa、30分間ホットプレス(アズワン社製、AH2003)を行い、成形体(グリーン体)を作製すると共に加熱によるグリーン体の強化を行った。
【0169】
(強度ムラ試験)
四つの各試料(複合粒子による試料二種類および比較試料二種類)で得られた粉末粒子を用いたグリーン体について、インデンテーション法を用いて圧入荷重と圧入深さとの関係を各三点で測定した。具体的には、自作の圧入荷重と圧入深さを測定できる計装型インデンテーション装置を用いて、最大圧入荷重1.5Nとし、ビッカース圧子を用いた圧入荷重と圧入深さを測定した。これを異なる三点について行った。各測定結果をプロットし、グラフ化したものを図8および図9に示す。図は横軸が圧入深さ(検査針の圧入深度(μm))であり、縦軸が圧入荷重(荷重(N)の平方根)としている。なお、図8は、母粒子に対する樹脂粒子またはバインダーの割合を1W%としたものに関するグラフであり、図8(a)が複合粒子による試料、図8(b)が比較試料の結果である。また、図9は、母粒子に対する樹脂粒子またはバインダーの割合を3W%としたものに関するグラフであり、図9(a)が複合粒子による試料、図9(b)が比較試料の結果である。
【0170】
なお、これらの試験結果をより明確に把握するため、参照実験として、バインダーを添加しない(添加量0W%)場合についても同様の試験を行った。なお、この参照実験用のグリーン体(参照試料)は、バインダーを添加しないことを除き、比較試料を作製する場合と同様の方法によりグリーン体を作製した。また、インデンテーション法を用いた圧入荷重と圧入深さとの関係に係る測定についても、同様に三点において測定した。その結果を図10に示す。図10は前記の場合と同じように示したグラフである。
【0171】
上記の結果、母粒子に対する樹脂粒子またはバインダーの割合が1W%の場合および3W%の場合のいずれにおいても、比較試料では、三地点における測定結果(三種類の曲線)が異なる状態となっているが、複合粒子による試料では三地点における測定結果(三種類の曲線)に大きく変化がなく、この比較により強度ムラが大きく改善されていることが明確となった。また、参照試料は、三点ともに同様の変化を示しているが、圧入荷重のピークが不明確であり、グリーン体の焼結状態が不安定であることが明白である。この参照試料における実験結果をも参照すれば、複合粒子による試料は、機械的強度が良好であり、その状態が均一な状態であるということができる。
【0172】
なお、本出願は、日本国等の委託研究の成果に係るものであり、平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/革新的設計生産技術ナノ物質の集積複合化技術の確立と戦略的産業利用」委託研究、産業技術強化法(日本法)第19条の適用を受けるものである。
【符号の説明】
【0173】
1 母粒子
2 樹脂粒子(熱可塑性樹脂粒子)
3 高分子電解質
4 子粒子
10,20 複合粒子(複合粒子、粉末粒子)
S2 子粒子複合化工程(前複合化工程)
S3 樹脂粒子複合化工程(複合化工程)
S5 成形工程(グリーン体成形工程の一部)
S7 熱処理工程(グリーン体成形工程の一部)
S10 母粒子電荷調整工程(第1表面電荷調整工程)
S20 樹脂粒子電荷調整工程(第2表面電荷調整工程)
S30 子粒子電荷調整工程(子粒子表面電荷調整工程)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10